(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記2部材のうちのいずれかに、前記磁性流体が磁気吸着されている部位の軸方向外側にラビリンスシール構造を形成する環状のラビリンスシール形成部材が設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の磁性流体シール。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0019】
(実施例1)
図1〜
図3を参照して、本発明の実施例1に係る磁性流体シールについて説明する。なお、本実施例に係る磁性流体シール1は、攪拌機,VOC対策ガスシール,半導体製造のための真空装置などの各種産業機器や、釣り用のリールや、自転車など各種装置における軸部において、液漏れ防止用シールやダストシールとして適用可能である。
【0020】
<磁性流体シールの全体構成>
特に、
図1を参照して、本発明の実施例1に係る磁性流体シールの全体構成について説明する。
図1は静止時(2部材である軸500とハウジング600が静止している時)の状態を示している。
【0021】
磁性流体シール1は、相対的に回転(いずれか一方が回転し、他方が静止する場合の他、両者が回転する場合も含む)する軸500とハウジング600との間の環状隙間を封止するために設けられる。そして、磁性流体シール1は、ハウジング600の軸孔内周面に取り付けられる磁気回路形成部材100と、軸500に取り付けられる環状部材200と、磁性流体300とから構成される。
【0022】
また、本実施例に係る磁気回路形成部材100は、ハウジング600の軸孔内周面に嵌着される環状の永久磁石110と、この永久磁石110の両端(N極側端部とS極側端部)にそれぞれ設けられる、孔の空いた円板状の一対の磁極部材(ポールピース)120と備えている。また、一対の磁極部材120には、これらの対向面側、かつ孔の周囲に沿って設けられる磁極先端部材130がそれぞれ設けられている。なお、磁極部材120と磁極先端部材130はいずれも磁性材料により構成されている。
【0023】
以上の構成により、永久磁石110と、一対の磁極部材120と、一対の磁極先端部材130と、一対の磁極先端部材130間の隙間とを通る磁気回路Mが形成される。
【0024】
環状部材200は、孔の空いた円板状の部材であり、その内周面が軸500の外周面に固定される。この環状部材200は、外周面側が軸方向に搖動できるように柔軟性を有する材料で構成されている。当該材料の一例としては、ポーラスシリコン、ゴム、樹脂、フェルトなどの布、紙などを挙げることができる。
【0025】
また、この環状部材200は、少なくとも磁性流体300が接触する部位付近においては、磁性流体300を吸い込んで保持可能な構造となっている。すなわち、環状部材200の材料として、上述したポーラスシリコン,布,紙などを採用すれば、材料自体の性質によって、磁性流体300を吸い込んで保持させることができる。また、ゴムや樹脂など、材料自体の性質では磁性流体300を吸い込んで保持することができないものであっても、磁性流体300が接触する付近を発泡性の構造にすることで、毛細管現象によって、環状部材200に磁性流体300を吸い込んで保持させることが可能となる。
【0026】
そして、環状部材200は、その外周側において、磁気回路形成部材100における磁極先端部材130と、軸方向に対向するように構成されている。この環状部材200と磁極先端部材130との対向面間の付近に磁性流体300を供給することによって、その一部が環状部材200に吸い込まれて保持されつつ、磁気吸着力によって当該対向面間に磁性流体300は保持される。ここで、環状部材200の素材が磁性材料でない場合であっても、上記の通り、少なくとも磁性流体300が接触する部位付近には磁性流体300が保持されているため、磁性材料と同等の機能を発揮する。これにより、安定した磁気回路が形成され、磁性流体300は安定的に保持される。
【0027】
以上の構成により、磁気回路形成部材100と、環状部材200と、磁性流体300とによって、軸500とハウジング600との間の環状隙間が封止される。
【0028】
<使用状態>
特に、
図2を参照して、本発明の実施例1に係る磁性流体シール1の使用時の状態について説明する。
【0029】
本実施例においては、軸500とハウジング600の相対的な回転時において、軸500とハウジング600が偏心し得る。
図2においては、偏心によって、軸500に対して、ハウジング600が図中矢印X方向に相対的に移動している場合を示している。すなわち、軸500とハウジング600が相対的に軸方向に移動し、かつ図示の断面部分においては、軸500とハウジング600との間の隙間が大きくなった場合を示している。
【0030】
このように、軸500とハウジング600が相対的に移動した場合には、環状部材200は、その外周側付近が、磁気吸着力によって、磁気回路形成部材100における磁極先端部材130の動きに追随するように搖動する。これにより、磁性流体300を保持した状態を維持する。
【0031】
<本実施例に係る磁性流体シールの優れた点>
本実施例に係る磁性流体シール1によれば、軸500とハウジング600とが偏心等によって相対的に移動しても、磁性流体300が安定的に保持される。この点について、より詳細に説明する。
【0032】
本実施例に係る磁性流体シール1においては、磁気回路形成部材100における磁極先端部材130と環状部材200との間の軸方向に対向する対向面間に磁性流体300が磁気吸着されるように構成されている。そのため、軸500とハウジング600との間の隙間の間隔が変化しても、環状部材200における磁性流体300が接触する位置が変化するだけで、環状部材200と磁極先端部材130との対向面間の距離は変化しない。
【0033】
また、本実施例に係る磁性流体シール1においては、環状部材200は、磁極先端部材130に対向する部位が、該磁極先端部材130に追随して搖動するように構成されている。そのため、軸500とハウジング600が軸方向に相対的に移動しても、環状部材200と磁極先端部材130との対向面間の距離は殆ど変化しない。
【0034】
このように、軸500とハウジング600との間の隙間の間隔が変化しても、軸500とハウジング600が軸方向に相対的に移動しても、環状部材200と磁極先端部材130との対向面間の距離は殆ど変化しない。従って、磁性流体300は、環状部材200と磁極先端部材130との対向面間の領域に安定的に保持(磁気吸着)される。
【0035】
また、本実施例においては、環状部材200のうち少なくとも磁性流体300が接触する部位は、磁性流体300を吸い込んで保持可能な構造となっている。従って、磁性流体300をより確実に保持することができる。また、飛散等によって磁性流体300の量が減ってしまっても、環状部材200と磁極先端部材130との対向面間の領域に、環状部材200に保持していた磁性流体300を供給することができる。このことから、環状部材200に多めに磁性流体300を保持させておくことで、長期にわたって磁性流体300を供給することができ、寿命を延ばすことができる。また、環状部材200の材料自体が非磁性材料であっても、磁性流体300を保持した部位は磁性材料と同等の機能を発揮するため、安定的に磁気回路Mを形成させることができる。
【0036】
また、本実施例においては、環状部材200の先端付近及び磁気回路形成部材100の位置において磁気回路が形成され、当該磁気回路によって磁性流体300を保持できる。従って、軸500の材料は、磁性材料であっても非磁性材料であってもよい。また、軸500とハウジング600との間の環状隙間の間隔が広い場合であっても、従来のように磁気回路を形成させるために磁性材料で構成されたスリーブを設けるなどの必要もない。なお、本実施例においては、一対の磁極部材120(磁極先端部材130)のうちの一方と、環状部材200との間の微小な隙間に磁性流体300を磁気吸着させればよいので、磁性流体300の量を多くする必要もない。また、一対の磁極部材120(磁極先端部材130)間の距離についても、磁気回路Mが形成される距離であれば、広くしても狭くしてもよく、設計自由度が大きい。
【0037】
また、環状部材200と磁極先端部材130との間には、磁性流体300が存在するため、自己潤滑作用によって、摩擦抵抗を極めて低くすることができる。なお、環状部材200の表面に摩擦抵抗を低減させるための表面処理を施すことで、より一層摩擦抵抗を低減できる。
【0038】
<その他>
上記の説明においては、
図1及び
図2に示すように、磁気回路形成部材100が、環状の永久磁石110と、一対の磁極部材120と、断面矩形状の一対の磁極先端部材130とから構成される場合を示したが、本発明に適用可能な磁気回路形成部材はそのような構成に限定されることはない。本発明に適用可能な磁気回路形成部材の他の例を、
図3を参照して説明する。
図3は磁気回路形成部材の各種変形例を示す模式的断面図であり、主要部の断面のみを示している。なお、
図3(c)〜(g)においては、磁気回路形成部材のうち永久磁石については省略し、かつ一対の磁極部材のうちの一方のみを示している。
【0039】
図3(a)には、磁気回路形成部材が磁石のみで構成される場合の一例を示している。すなわち、孔の空いた円板状の一対の永久磁石111をハウジング600の軸孔の内周面に設けている。この一対の永久磁石111のうち、一方は内周側がN極、外周側がS極とし、他方は内周側がS極、外周側がN極とすることで、図示のような磁気回路Mが形成され、永久磁石111の先端に磁性流体300を磁気吸着させることができる。
【0040】
また、
図3(b)には、
図3(a)に示す構成において、一対の永久磁石111における対向面側、かつ孔の周囲に沿って環状の磁極先端部材130が設けられる場合を示している。これにより、磁性流体300を環状部材200(
図3では不図示)との対向面側にのみ集中させることが可能となる。
【0041】
図3(c)には、上記
図1及び
図2に示す構成において、磁極先端部材130が設けられない場合を示している。この場合には、磁極部材120の先端に磁気吸着される磁性流体300が環状部材200(
図3では不図示)との対向面側だけでなく、その反対側にも回り込んでしまうが、磁性流体300の保持機能については、それほど影響はない。
【0042】
図3(d)には、磁極先端部材131の断面形状が三角形の場合を示している。また、
図3(e)には、磁極先端部材132の断面形状が半楕円形状の場合を示している。これらの構成を採用した場合には、磁性流体300を保持する位置をより小さな領域に集中させることができる。
【0043】
図3(f)には、断面形状が三角形の磁極先端部材133を2か所に隣接して設ける場合を示し、
図3(g)には、磁極部材121の先端付近における環状部材200(
図3では不図示)との対向面側に複数の断面三角形の溝121aを形成する場合を示している。これらの構成を採用した場合には、磁極先端部材133または磁極部材121に対して磁性流体300が保持される位置の移動を抑制でき、磁性流体300をより安定的に保持することができる。
【0044】
また、上記の説明においては、
図1及び
図2に示すように、環状部材200の断面形状は矩形の場合を示したが、本発明において適用可能な環状部材の形状は、これに限られるものではない。例えば、断面形状が、三角形のものや先端が円弧状のものや楕円形に近い形状のものなど、適宜のものを採用できる。更に、上記の各種例では、磁極部材と磁極先端部材が別部材の場合を示したが、これらを一体とする部材を採用することもできる。
【0045】
(実施例2)
図4には、本発明の実施例2が示されている。本実施例においては、上記実施例1に示す構成に加えて、磁性流体の飛散を防止する環状の飛散防止部材を備えた場合の構成について説明する。実施例1と同一の構成部分については同一の符号を付して、その説明は適宜省略する。なお、
図4は、磁性流体シールの模式的断面図を示しており、主要部について切断した切断面のみを示している。
【0046】
本実施例においては、磁性流体300が磁気吸着されている部位よりも遠心方向側に、磁性流体300の飛散を防止する環状の飛散防止部材が設けられている場合を示す。
【0047】
図4(a)に示す例は、磁極部材120に、環状の飛散防止部材410が設けられている。この飛散防止部材410は、その一端が磁極部材120に固定され、他端(自由端)側が環状部材200の先端に向かって伸びるように構成されている。これにより、磁性流体300が磁気吸着されている部位よりも遠心方向側が飛散防止部材410によって覆われた構造となっている。
【0048】
以上の構成により、軸500とハウジング600との相対的な回転に伴って、磁性流体300に遠心力が作用して、その一部が磁気吸着力に抗して磁気吸着部から遠心方向に離れてしまっても、飛散防止部材410によって、磁性流体の磁性流体シール1の外部への飛散を抑制することができる。なお、磁気吸着部から離れた磁性流体は、遠心力が作用している間は、飛散防止部材410の辺りに付着した状態となるが、遠心力が作用しなくなると、磁気吸着力によって、再び元の位置に戻させることができる。
【0049】
また、
図4(b)に示す例は、永久磁石110に、環状の飛散防止部材420を設けた場合を示しており、
図4(c)に示す例は、環状部材200に環状の飛散防止部材430を設けた場合を示している。これらの場合でも、上記の場合を同様の作用効果を得ることができる。
【0050】
なお、
図4(a)〜(c)中の矢印は、遠心力によって磁性流体の一部が磁気吸着部から離れていく方向を示している。
【0051】
上述した飛散防止部材410,420,430は、これらに付着した磁性流体が磁気的に吸着されてしまわないように、非磁性材料により構成するのが望ましい。
【0052】
更に、上述した飛散防止部材410,420,430を設ける構成を採用する場合には、これら飛散防止部材410,420,430と環状部材や磁極部材等によって形成される空間領域内に磁性流体300を満たしておく構成を採用することもできる。このような構成を採用すれば、蓄えられる磁性流体300の量が増えるため、磁性流体シール1の寿命を延ばすことができる。なお、
図4(d)には、
図4(a)に示す例において、上記空間領域内に磁性流体を満たした場合を示している。
【0053】
(実施例3)
図5には、本発明の実施例3が示されている。上記実施例1においては、一つの環状部材により、1か所で磁性流体を保持する場合の構成を示したが、本実施例においては、2つの環状部材により、2か所で磁性流体を保持する場合の構成を示す。実施例1と同一の構成部分については同一の符号を付して、その説明は適宜省略する。なお、
図5は、磁性流体シールの模式的断面図を示しており、主要部について切断した切断面のみを示している。
【0054】
図5に示すように、磁気回路形成部材100の構成は、実施例1と同一である。そして、本実施例においては、軸500に対して、2つの環状部材200を設けている。環状部材200自体の構成に関しては、上記実施例1の場合と同一である。
【0055】
そして、これら一対の環状部材200のうちの一方と、一対の磁極先端部材130のうちの一方との間と、一対の環状部材200のうちの他方と、一対の磁極先端部材130のうちの他方との間で、それぞれ磁性流体300を磁気吸着させる構成を採用している。
【0056】
本実施例によれば、軸500とハウジング600との間の環状隙間を2か所にて封止することができる。
【0057】
(実施例4)
図6には、本発明の実施例4が示されている。上記実施例1においては、環状部材が軸に直接固定される場合を示したが、本実施例においては、軸に嵌合するスリーブに環状部材を設ける場合の構成を示す。実施例1と同一の構成部分については同一の符号を付して、その説明は適宜省略する。なお、
図6は、磁性流体シールの模式的断面図を示しており、主要部について切断した切断面のみを示している。
【0058】
本実施例においては、軸500に嵌合するスリーブ210が設けられている。そして、このスリーブ210に環状部材200が固定されている。その他の構成については、上記実施例1と同一である。
【0059】
技術的理由やその他の事情によって、軸500に対して環状部材200を固定できない場合や、環状部材200が消耗品で適時交換が必要となる場合には、本実施例のように、スリーブ210に環状部材200を設けると有効である。つまり、本実施例の場合には、スリーブ210に環状部材200が設けられたものを1部品として取り扱うことができる。
【0060】
(実施例5)
図7には、本発明の実施例5が示されている。本実施例においては、上記実施例1に示す構成に加えて、ラビリンスシール構造を形成する場合の構成について説明する。実施例1と同一の構成部分については同一の符号を付して、その説明は適宜省略する。なお、
図7は、磁性流体シールの模式的断面図を示しており、主要部について切断した切断面のみを示している。
【0061】
図7(a)に示すように、本実施例においては、軸500に、磁性流体300が磁気吸着されている部位の軸方向外側にラビリンスシール構造を形成する環状のラビリンスシール形成部材450が設けられている。このラビリンスシール形成部材450は、孔(軸500の外径と同径の孔)を有する円板状の部材であり、その内周面が軸500の外周面に固定される。このラビリンスシール形成部材450と磁極部材120との間は微小な隙間が形成されており、この微小隙間によってラビリンス構造を形成している。これにより、磁性流体の一部が外部に漏れてしまったり、外部から異物(ダストなど)が内部に侵入してしまったりすることを、抑制することができる。また、軸500が回転する場合には、ラビリンスシール形成部材450の内壁面側に、ポンプ効果を発揮する突起や溝を設けるとより効果的である。
図7(b)には、その一例が示されている。図中、450a,450b,450cはポンプ効果を発揮させる突起である。
【0062】
なお、ラビリンスシール形成部材450の回転方向と、突起や溝の形状との組み合わせによって、遠心方向に向かってポンピング作用が生じるようにするのが望ましい。これにより、外部からの異物の侵入防止の強化を図ることができる。なお、この場合でも、上記のラビリンスシールによる効果や、突起や溝が設けられていることによって、磁性流体の一部が外部に漏れてしまうことを十分抑制できる。
【0063】
(実施例6)
図8には、本発明の実施例6が示されている。上記各実施例においては、ハウジング側に磁気回路形成部材を設け、軸側に環状部材を設ける場合の構成を示したが、本実施例においては、軸側に磁気回路形成部材を設け、ハウジング側に環状部材を設ける場合の構成を示す。実施例1と同一の構成部分については同一の符号を付して、その説明は適宜省略する。なお、
図8は、磁性流体シールの模式的断面図を示しており、主要部について切断した切断面のみを示している。
【0064】
本実施例においては、軸500に磁気回路形成部材100が設けられ、ハウジング600に環状部材200が設けられている。磁気回路形成部材100及び環状部材200は、径方向について内周面側と外周面側とで対称的な形状となるだけで、上記実施例1で説明したものと基本的に同一の構成である。本実施例においても、上記実施例1と同様の作用効果を得ることは言うまでもない。
【0065】
<その他>
上記実施例1の
図3で示した磁気回路形成部材の各種構成、実施例2で示した飛散防止部材の各種構成、実施例3で示した環状部材を2つ設ける構成、実施例4で示したスリーブを設ける構成、実施例5で示したラビリンスシール形成部材を設ける構成については、これらの中から自由な組み合わせが可能である。
【0066】
また、実施例6に示した構成においても、実施例1〜5に示した各種構成を自由に応用し得る。ただし、実施例1〜5に示した各種構成について、実施例6に示した構成に応用する場合には、径方向について内周面側と外周面側とで対称的な形状となる。なお、実施例2で示した飛散防止部材を実施例6に示した構成に応用する場合には、飛散防止部材はハウジング600の軸孔内周面に設けるか、環状部材200に設けることとなる。
【0067】
シール対象が液体の場合には、その液体が各種部材の界面に浸入してしまわないように、適宜、表面処理を施せばよい。
【0068】
(実施例7)
図9には、本発明の実施例7が示されている。上記各実施例においては、環状部材における軸方向の両側にそれぞれ磁極部材又は磁石が配置される場合の構成を示したが、本実施例においては、環状部材における軸方向の片側にのみ磁石等が配置される場合の構成を示す。実施例1と同一の構成部分については同一の符号を付して、その説明は適宜省略する。なお、
図9は、磁性流体シールの模式的断面図を示しており、主要部について切断した切断面のみを示している。また、(a)〜(c)には各種変形例を示している。
【0069】
図9(a)には、磁気回路形成部材100を単一の永久磁石112のみによって構成した場合を示している。すなわち、この例においては、環状の永久磁石112の外周面をハウジング600の軸孔内周面に固定させている。なお、永久磁石112における軸方向の一方の面がN極で、他方の面がS極である。環状部材200については、上記実施例1と同一の構成である。そして、永久磁石112と環状部材200との対向面間に磁性流体300を保持させることによって磁性流体シール1を構成している。
【0070】
以上のように、本実施例においては、実施例1に比して単純な構造であり、部品点数を少なくし、かつ組み立て作業も簡単に行うことが可能となる。
【0071】
図9(b)は
図9(a)に示す磁性流体シール1の変形例である。この例においては、磁気回路形成部材100は、永久磁石112と、この永久磁石112を保持する磁性材料からなる保持部材122とによって構成されている。すなわち、孔の空いた円板状の保持部材122に環状溝122gが設けられており、環状の永久磁石112が、この環状溝122gに嵌合され保持されている。なお、永久磁石112における軸方向の一方の面がN極で、他方の面がS極である。この例によれば、
図9(a)に示す磁性流体シール1に比べて多少構造が複雑になるものの、磁性流体300の保持領域を狭めることができ、磁性流体300の量を低減させることが可能となる。
【0072】
図9(c)は
図9(a)に示す磁性流体シール1の変形例である。この例においては、磁気回路形成部材100は、永久磁石112と、この永久磁石112における軸方向の両端に設けられる一対の磁極部材122a,122bとから構成される。なお、永久磁石112における軸方向の一方の面がN極で、他方の面がS極である。そして、一対の磁極部材122a,122bの内周端部側同士の間に微小隙間が形成されるようにすることで、当該微小隙間に磁性流体300を保持できるようにしている。この例によれば、
図9(a)に示す磁性流体シール1に比べて多少構造が複雑になるものの、磁性流体300の保持領域を狭めることができ、磁性流体300の量を低減させることが可能となる。
【0073】
なお、本実施例においては、磁性流体300を保持する部分に極力磁力が集中するように、永久磁石112や保持部材122や磁極部材122a,122bが固定されるハウジング600は非磁性材料からなるのが望ましい。また、ハウジング600自体が磁性材料からなる場合には、ハウジング600の軸孔内周に非磁性材料からなる環状のスリーブを配置して、スリーブの内周に永久磁石112等を固定してもよい。
【0074】
また、本実施例において、実施例2で示した飛散防止部材の各種構成や実施例5で示したラビリンスシール形成部材を設ける構成についても適宜採用することができる。更に、本実施例においても、実施例6で示したように、軸500に磁気回路形成部材100を設けて、ハウジング600に環状部材200を設ける構成を採用することもできる。この場合には、軸500を非磁性材料からなるようにするのが望ましい。
【0075】
<磁石の各種例>
上記各実施例に用いられる永久磁石としては、軸方向の一方の面がN極で、他方の面がS極で構成される、単一の環状の永久磁石を採用することができるが、各実施例で採用可能な永久磁石はそのような永久磁石に限定されることはない。ここでは、各実施例において採用可能な磁石の一例を、
図10を参照して説明する。
【0076】
図10(a)に示す磁石113は、複数の円板状の永久磁石113aと、これら複数の永久磁石113aを保持する非磁性材料からなる保持部材113bとから構成されている。なお、保持部材113bは孔の空いた円板状の部材であって、永久磁石113aを保持するために複数の円形の孔113b1が設けられている。これら複数の孔113b1にそれぞれ永久磁石113aが嵌合され保持されている。なお、円板状の永久磁石113aは一方の面がN極で、他方の面がS極であり、同極が同一面側に向くように保持部材113bに保持されている。ただし、一方の面側においてN極とS極が交互に並ぶように組み合わせる構成を採用してもよい。
【0077】
図10(b)に示す磁石114は、扇状の永久磁石114aを組み合わせることによって、全体として環状の磁石を構成したものである。扇状の永久磁石114aは一方の面がN極で、他方の面がS極であり、同極が同一面側に向くように組み合わせられている。ただし、一方の面側においてN極とS極が交互に並ぶように組み合わせる構成を採用してもよい。
【0078】
図10(c)に示す磁石115は、一方の面がN極で、他方の面がS極で構成された環状の永久磁石115aを、同心状に、かつ一方の面側においてN極とS極が交互に並ぶように複数組み合わせたものである。
【0079】
図10(d)に示す磁石116は、一方の面がN極で、他方の面がS極で構成された略棒状の永久磁石116aを、一方の面側においてN極とS極が交互に並ぶように複数組み合わせることによって、全体として環状の磁石を構成したものである。
【0080】
図10(e)は
図10(c)に示す磁石115の断面図であり、磁性流体300が保持された状態を示している。
【0081】
図10(f)に示す磁石118は、
図10(c)(e)に示す磁石118の変形例であり、一部について2層構造とした例である。すなわち、一部のみ2層構造として、当該部分に磁性流体300を保持させることで、磁性流体300を保持させる部位を狭めることが可能となる。
【0082】
<環状部材の各種例>
上記各実施例に用いられる環状部材としては、孔の空いた円板状の部材であって、軸方向に搖動できるように柔軟性を有するものであればよい。従って、例えば、単一の非磁性材料からなる1層構造のものを採用することもできるが、各実施例で採用可能な環状部材はそのような環状部材に限定されることはない。ここでは、各実施例において採用可能な環状部材の一例を、
図11〜
図13を参照して説明する。
【0083】
環状部材については、磁気回路の一部を構成することから磁性材料で構成されるのが望ましいが、上記の通り、環状部材には柔軟性が必要であり、磁性と柔軟性を兼ね備えた単一材料は見当たらない。そこで、磁性と柔軟性を兼ね備えさせるために、ポーラスシリコン、ゴム、樹脂、フェルトなどの布、紙などの柔軟性を有する材料に、フィラーやワイヤーなどの磁性体を含ませる構成を採用することができる。
図11には、そのような一例を示している。
【0084】
なお、
図11には、孔の空いた円板状の部材を基材として、基材の内部に磁性体が配置された環状部材の各種例を示している。なお、当該基材は、柔軟性を有する非磁性材料から構成されたものである。
図11(a)には、基材の内部に棒状の磁性体Nを周方向に沿うように複数配置した環状部材211を示している。
図11(b)には、基材の内部に円板状の磁性体Nを周方向に沿うように複数配置した環状部材212を示している。
図11(c)には、基材の内部に棒状の磁性体Nを放射状に複数配置した環状部材213を示している。
図11(d)には、基材の内部に環状の磁性体Nを同心的に複数配置した環状部材214を示している。
図11(e)には、基材内部において、磁性体Nが配置される部位と配置されない部位が格子状に配列されるように構成された環状部材215を示している。
図11(f)は
図11(c)中のXX断面を示した図である。これら
図11(a)〜(f)に示す環状部材において、基材の内部に磁性体Nを配置させる手法については特に限定されるものではない。例えば、基材が布の場合には、磁性体Nを織り込むことによって、基材内部に磁性体Nを配置させることができる。
図11(g)には、基材材料に粉状の磁性体Nを練り込むことによって、基材内部に粉状の磁性体Nが分散した状態で配置された環状部材216を示している。
【0085】
以上のように、これらの環状部材によれば、磁性と柔軟性を兼ね備える。環状部材が磁性を備えることにより、磁気特性が向上し、磁性流体の保持力を高めることができ、シール性を高めることが可能となる。なお、磁性体の量や配置を調整することによって、磁性と柔軟性のバランスを調整することができる。磁性体Nの大きさについては特に限定されるものではないが、磁性流体300中の磁性粒子よりも大きなものが望ましい。
【0086】
次に、
図12を参照して、保持可能な磁性流体の量を増やすことを可能とする環状部材について説明する。
図12(a)に示す環状部材217は、毛細管現象を生じさせる毛細管部217aと、毛細管部217aに繋がる中空部217bとを備えている。なお、環状部材217は、磁性流体300を吸い込んで保持することのできない材料(ゴムや樹脂)により構成されている。このように構成された環状部材217によれば、中空部217bに磁性流体300を貯めておくことで、長期にわたって磁性流体300を、環状部材217と磁極部材等との間に供給することができ、寿命を延ばすことができる。
【0087】
図12(b)に示す環状部材218は、毛細管現象を生じさせる毛細管部を備える第1層218aと、材料自体の性質により磁性流体を吸い込んで保持可能な第2層218bと、第3層218cとからなる多層構造で構成されている。なお、第1層218aと第3層218cは、磁性流体300を吸い込んで保持することのできない材料により構成されている。このように構成された環状部材218によれば、第2層218bに磁性流体300を保持させておくことで、長期にわたって磁性流体300を、環状部材218と磁極部材等との間に供給することができ、寿命を延ばすことができる。
【0088】
図12(c)に示す環状部材219は、毛細管現象を生じさせる毛細管部を備える第1層219aと、材料自体の性質により磁性流体を吸い込んで保持可能な第2層219bと、中空部を備えた第3層219cとからなる多層構造で構成されている。なお、第1層219aと第3層219cは、磁性流体300を吸い込んで保持することのできない材料により構成されている。このように構成された環状部材219によれば、第2層218bに磁性流体300を保持させておくと共に第3層219cの中空部に磁性流体300を貯めておくことで、長期にわたって磁性流体300を、環状部材219と磁極部材等との間に供給することができ、寿命を延ばすことができる。
【0089】
なお、これらの環状部材217,218,219において毛細管部を設ける位置は、図では全体に亘って設ける場合を示しているが、磁極部材等との間で磁性流体300を保持させる位置のみで構わない。また、中空部の配置位置や大きさを調整したり、積層構造を採用した場合における各層の厚みを調整したりすることで、環状部材の柔軟性を調整することが可能となる。
【0090】
次に、
図13を参照して、軸500とハウジング600とが軸方向に相対的に大きく移動する環境下でも磁性流体300を安定的に保持させることを可能とする環状部材について説明する。
図13(a)に示す磁性流体シール1においては、上記実施例1に示した構成において、環状部材220の構成のみを変更した例を示している。すなわち、上記実施例1における環状部材200は、孔の空いた円板状(平板状)の部材であったのに対して、この変形例における環状部材220は、平板状ではなく蛇腹状に構成されている点が、上記実施例1における環状部材200とは異なっている。
【0091】
環状部材200が平板状の場合、ハウジング600に対する軸500の軸方向への移動により、環状部材200の固定部が、磁極部材120における磁性流体300を保持する面とは反対の面側に移動してしまうと、環状部材200の外周端部が磁極部材120から離れる方向に移動する虞がある(
図13(b)参照)。そのため、磁性流体300を安定的に保持することが困難となる。
【0092】
一方、環状部材220が蛇腹状の場合、内周側に対し外周側は軸方向に柔軟に変形可能なため、上記のように環状部材220の固定部が移動しても、磁極部材120(磁極先端部材130)に対する環状部材220の外周側端部の位置関係はそれほど変化しない(
図13(c)参照)。従って、磁性流体を安定的に保持することが可能となる。また、環状部材220を蛇腹状に構成すれば、径方向に対しても伸縮し易いため、大きな偏心に対しても磁性流体を安定的に保持することができる。なお、この場合、環状部材220の外周端部が永久磁石110の内周面に突き当たっても縮むように変形するので磁性流体300を安定的に保持することができる。また、環状部材220を蛇腹状にすることによって、複数の箇所で磁性流体を保持することもでき、より一層シール性能を高めることができる。
【0093】
また、環状部材については、蛇腹状ではなく、例えば、
図13(d)に示すように、断面で見た場合に階段状となるように構成された環状部材220aを採用しても同様の作用効果を得ることができる。この場合、初期状態において、環状部材220aの内周側を磁極部材120等の外側に固定してもよいし、内側に固定してもよい。