(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0048】
発明の詳細な説明
本発明は、一般的に、非細菌由来の高度不飽和脂肪酸(PUFA)ポリケチドシンターゼ(PKS)系、遺伝的に改変された非細菌のPUFA PKS系を含む生物、生物活性分子を含む対象となる産物の生成のためのそのような系を作製および使用する方法、ならびにそのようなPUFA PKS系を有する新規の真核生物の微生物を同定するための新規の方法に関する。本明細書で用いられる場合、PUFA PKS系は、一般的に以下の同定する性質をもつ:(1)系の天然産物としてPUFAを生成する;ならびに(2)選択されたサイクルにおけるトランス-シス異性化およびエノイル還元反応を含む、脂肪酸鎖の反復性処理と非反復性処理との両方を行う複合体へと会合した数個の多機能性タンパク質を含む(例えば、
図1を参照)。
【0049】
より具体的に言うと、第一に、本発明の基礎を形成しているPUFA PKS系は、産物として高度不飽和脂肪酸(PUFA)を生成する(すなわち、そのようなPKS系を内因的に(自然に)含む生物がこの系を用いてPUFAを生成する)。本明細書で言及されるPUFAは、好ましくは少なくとも16個の炭素、好ましくは少なくとも18個の炭素、より好ましくは少なくとも20個の炭素、およびさらにより好ましくは22個またはそれ以上の炭素の炭素鎖長で、少なくとも3個またはそれ以上の二重結合、好ましくは4個またはそれ以上、より好ましくは5個またはそれ以上、およびさらにより好ましくは6個またはそれ以上の二重結合を有し、すべての二重結合がシス配置である高度不飽和脂肪酸である。望ましい鎖長の望ましい二重結合数をもつ高度不飽和脂肪酸を生成する最終産物、PKS系の遺伝子操作または操作を発見または作製することが本発明の目的である。PUFAの例は、限定されるものではないが、DHA(ドコサヘキサエン酸(C22:6, ω-3))、DPA(ドコサペンタエン酸(C22:5, ω-6))、およびEPA(エイコサペンタエン酸(C20:5, ω-3))を含む。
【0050】
第二に、本明細書に記載されるPUFA PKS系は、反復性および非反復性の反応の両方を組み入れており、その系を以前に記載されたPKS系(例えば、I型、II型またはモジュラー)と区別している。より詳しくは、本明細書に記載されるPUFA PKS系は、各サイクル間に機能すると思われるドメイン、加えてそのサイクルのいくつかのみの間に機能すると思われるドメインを含む。これの鍵となる局面は、細菌のFab A酵素と相同性を示すドメインに関連している可能性がある。例えば、大腸菌のFab A酵素は、2つの酵素活性をもつことが示された。それは、水分子(H
2O)がヒドロキシ基を含む炭素鎖から除去され、その炭素鎖にトランス二重結合を残す脱水活性をもつ。さらに、それは、そのトランス二重結合がシス配置へ転換されるイソメラーゼ活性をもつ。この異性化は、その二重結合位置の隣接する炭素への移動と組み合わせて完成される。PKS(およびFAS)系において、主炭素鎖は、2個炭素増加で伸長される。それゆえ、これらのPKS系のPUFA産物を生成するために必要とされる伸長反応の数を予測することができる。例えば、DHA(C22:6、すべてシス)を生成することは10個の伸長反応を必要とする。最終産物において6個のみの二重結合があることから、ある反応サイクルの間では、二重結合が維持され(シス異性体として)、かつ他においてはその二重結合が次の伸長の前に還元される。
【0051】
海洋細菌におけるPUFA PKS系の発見(米国特許第6,140,486号を参照)の前では、PKS系が反復性および選択性の酵素反応におけるこの組み合わせをもつことを知られておらず、それらは、シス配置で炭素-炭素二重結合を形成することができるものとはみなされなかった。しかしながら、本発明により記載されるPUFA PKS系は、シス二重結合を導入する能力、およびサイクルにおいて反応配列を変える能力を有している。
【0052】
それゆえ、本発明は、PUFA PKS系のこれらの性質を用いて以前に記載された(II型、I型およびモジュラー)PKS系により生成されえなかった生物活性分子の範囲を提供することを提案する。これらの生物活性分子は、限定されるものではないが、高度不飽和脂肪酸(PUFA)、抗生物質または他の生物活性化合物を含み、それらの多くを下記で考察する。例えば、本明細書で記載されるPUFA PKS遺伝子構造の知識を用いて、多数の方法のいずれかを、そのPUFA PKS遺伝子を改変する、または他のPKS系を含む他の合成系とこれらの遺伝子の部分を結合して、新規の産物が産生されるように用いる。反復性および選択性の両方の反応を行う特にこの型の系の固有な能力は、この系が類似した方法が他の型のPKS系に適用された場合には見出されなかったであろう産物を生じることを可能にすると考えられる。
【0053】
一つの態様において、本発明によるPUFA PKS系は、少なくとも以下の生物活性ドメインを含む:(a)少なくとも2つのエノイルACP-レダクターゼ(ER)ドメイン;(b)少なくとも6つのアシルキャリヤータンパク質(ACP)ドメイン;(c)少なくとも2つのβ-ケトアシル-ACPシンターゼ(KS)ドメイン;(d)少なくとも1つのアシルトランスフェラーゼ(AT)ドメイン;(e)少なくとも1つのケトレダクターゼ(KR)ドメイン;(f)少なくとも2つのFabA様β-ヒドロキシアシル-ACPデヒドラーゼ(DH)ドメイン;(g)少なくとも1つの鎖伸長因子(CLF)ドメイン;および(h)少なくとも1つのマロニル-CoA:ACPアシルトランスフェラーゼ(MAT)ドメイン。これらのドメインの機能は、一般的に、個々に、当技術分野において知られており、本発明のPUFA PKS系に関連して下で詳細に記載する。
【0054】
もう一つの態様において、PUFA PKS系は、少なくとも以下の生物活性ドメインを含む:(a)少なくとも1つのエノイルACP-レダクターゼ(ER)ドメイン;(b)複数のアシルキャリヤータンパク質(ACP)ドメイン(少なくとも4つ、好ましくは少なくとも5つ、より好ましくは少なくとも6つ、さらにより好ましくは7つ、8つ、9つまたはそれ以上);(c)少なくとも2つのβ-ケトアシル-ACPシンターゼ(KS)ドメイン;(d)少なくとも1つのアシルトランスフェラーゼ(AT)ドメイン;(e)少なくとも1つのケトレダクターゼ(KR)ドメイン;(f)少なくとも2つのFabA様β-ヒドロキシアシル-ACPデヒドラーゼ(DH)ドメイン;(g)少なくとも1つの鎖伸長因子(CLF)ドメイン;および(h)少なくとも1つのマロニル-CoA:ACPアシルトランスフェラーゼ(MAT)ドメイン。好ましくは、そのようなPUFA PKS系は非細菌のPUFA-PKS系である。
【0055】
一つの態様において、本発明のPUFA PKS系は、非細菌のPUFA PKS系である。換言すれば、一つの態様において、本発明のPUFA PKS系は、真核生物もしくは古細菌のような、細菌ではない生物から単離される、または細菌ではない生物からのPUFA PKS系の相同体であるもしくは派生している。真核生物は、その細胞の分化の程度に基づいて原核生物から区別される。より多く分化している高等群は真核生物と呼ばれる。あまり分化していない細胞をもつ下等群は原核生物と呼ばれる。一般的に、原核生物は核膜をもたず、細胞分裂の間有糸分裂を示さず、ただ1つの染色体を有し、それらの細胞質は70Sリボソームを含み、それらはミトコンドリア、小胞体、葉緑体、リソソームまたはゴルジ体を有さず、それらの鞭毛(存在する場合)は、単一の原線維からなっている。対照的に、真核生物は、核膜をもつ、それらは細胞分裂の間、有糸分裂を示す、それらは多くの染色体を有する、それらの細胞質は80Sリボソームを含む、それらはミトコンドリア、小胞体、葉緑体(藻類において)、リソソームおよびゴルジ体をもっている、およびそれらの鞭毛(存在する場合)は、多くの原線維からなる。一般的に、細菌は原核生物であり、一方、藻類、真菌類、原生生物、原生動物および高等植物は真核生物である。海洋細菌(例えば、シュワネラおよびビブリオ・マリナス)のPUFA PKS系は、本発明の基礎ではないが、本発明は、本発明の非細菌のPUFA PKS系由来のドメインと共のこれらの細菌のPUFA PKS系由来のドメインの使用を企図している。例えば、本発明に従って、非細菌のPUFA PKS機能性ドメインを細菌のPUFA PKS機能性ドメインと、加えて他のPKS系(I型、II型、モジュラー)もしくはFAS系由来のPKS機能性ドメインまたはタンパク質とも組み入れている遺伝的に改変された生物が作製されうる。
【0056】
シゾキトリウムは、DHAおよびドコサペンタエン酸(DPA; 22:5 ω-6)の豊富な大量のトリアシルグリセロールを蓄積するスラウストキトリド海洋微生物である;例えば、乾燥重量で30% DHA + DPA(Barclayら、J. Appl. Phycol. 6, 123(1994))。伸長/脱飽和経路により20-炭素および22-炭素PUFAを合成する真核生物において、18-炭素、20-炭素および22-炭素中間体のプールは比較的大きいため、[
14C]-酢酸塩を使用するインビボでの標識化実験により、予想された中間体についての前駆体-生成物動力学が明らかにされる(Gellemanら、Biochim. Biophys. Acta 573:23(1979))。さらになお、そのような生物へ外因的に供給された放射標識化中間体は、最終PUFA産物へ変換される。本発明により、[1-
14C]-酢酸塩がシゾキトリウム細胞により急速に取り込まれて脂肪酸へと組み入れられたが、最短の標識化時間(1分)で、DHAは脂肪酸において回収された標識の31%を含んでおり、この割合(%)は、[
14C]-酢酸塩取り込みの10分〜15分およびその後の培養増殖の24時間の間、本質的に変化しないままであったことが示された(実施例3を参照)。同様に、DPAは、実験中ずっと標識の10%を示した。16-炭素または18-炭素脂肪酸とその22-炭素高度不飽和脂肪酸との間の前駆体-生成物の関係についての証拠はない。これらの結果は、中間体のきわめて少ない(おそらく、酵素結合型の)プールを伴う[
14C]-酢酸塩からのDHAの急速な合成と矛盾しない。シゾキトリウム培養物から得られた細胞を含まないホモジネートは、[1-
14C]-マロニル-CoAをDHA、DPAおよび飽和脂肪酸へ取り込んだ。同じ生合成活性は、100,000xg上清画分により保持されたが、膜ペレットにおいては存在しなかった。このように、シゾキトリウムにおけるDHAおよびDPA合成は、他の真核生物について記載されているもののような(Parker-Barnesら、2000、前記;Shanklinら、1998、前記)膜結合型のデサチュラーゼまたは脂肪酸伸長酵素を必要としない。これらの分画データは、シュワネラ酵素から得られたもの(Metzら、2001、前記を参照)とよい対照をなし、シゾキトリウム酵素による、CoAのような異なる(可溶性)アシルアクセプター分子の使用を示している可能性がある。
【0057】
同時係属中の米国特許出願第09/231,899号において、シゾキトリウム由来のcDNAライブラリーが構築され、約8,000個のランダムクローン(EST)がシーケンシングされた。このデータセット内で、中程度に発現されているただ1つの遺伝子(全配列の0.3%)が脂肪酸デサチュラーゼとして同定されたが、第二の推定のデサチュラーゼは単一のクローンにより示された(0.01%)。対比してみると、
図2に示されているシュワネラPKS遺伝子の11個のドメインのうちの8個と相同性を示した配列は、すべて、0.2%〜0.5%の頻度で同定された。米国特許出願第09/231,899号において、シュワネラPKS遺伝子と相同性を示す数個のcDNAクローンがシーケンシングされ、様々なクローンが、2つの部分的オープンリーディングフレームおよび1つの完全オープンリーディングフレームを表す核酸配列へと集合させられた。米国特許出願第09/231,899号において記載されている(そこでは配列番号:69として表示されている)第一の部分的オープンリーディングフレームを含むcDNA配列のヌクレオチド390位〜4443位は、本明細書にOrfA(配列番号:1)として表示されている配列のヌクレオチド4677位〜8730位(停止コドンを加えて)に整合している。米国特許出願09/231,899号において記載されている(そこでは配列番号:71として表示されている)第二の部分的オープンリーディングフレームを含むcDNA配列のヌクレオチド1位〜4876位は、本明細書にOrfB(配列番号:3)として表示されている配列のヌクレオチド1311位〜6177位(停止コドンを加えて)に整合している。米国特許出願09/231,899号において記載されている(そこでは配列番号:76として表示されており、部分的オープンリーディングフレームと間違えて呼ばれている)完全オープンリーディングフレームを含むcDNA配列のヌクレオチド145位〜4653位は、本明細書にOrfC(配列番号:5)として表示されている配列の全配列(停止コドンを加えて)に整合している。
【0058】
さらに、本発明者らによるcDNAおよびゲノムクローンのシーケンシングにより、OrfA、OrfBおよびOrfCのそれぞれの完全長ゲノム配列の同定ならびにシュワネラにおけるそれらと相同性をもつドメインの完全な同定が可能になった(
図2参照)。本発明者らの知っているかぎりでは、シゾキトリウムにおいて、その生物ゲノムおけるイントロンの欠如のため、ゲノムDNAとcDNAは同一であることを留意されたい。それゆえ、シゾキトリウム由来のヌクレオチド配列の関連は、ゲノムDNAまたはcDNAにあてはまりうる。シゾキトリウムPKSドメインのシュワネラとの比較に基づいて、明らかに、シゾキトリウムゲノムは、EPA合成を触媒する能力があるシュワネラにおけるタンパク質に高度に類似しているタンパク質をコードしている。シゾキトリウムにおけるそのタンパク質は、DHAおよびDPA合成を触媒するPUFA PKS系を構築する。本明細書に詳細に考察されているように、シュワネラについて同定された反応スキームの簡単な改変がシゾキトリウムにおけるDHA合成を可能にするものと思われる。原核生物シュワネラと真核生物シゾキトリウムの遺伝子の間での相同性は、PUFA PKSが外側の遺伝子移入を受けたことを示唆している。
【0059】
図1は、シゾキトリウムPUFA PKS系由来の3つのオープンリーディングフレームの図式表示であり、このPUFA PKS系のドメイン構造を含む。下の実施例1に記載されているように、各オープンリーディングフレームのドメイン構造は以下の通りである。
【0060】
オープンリーディングフレームA(OrfA):
OrfAについての完全ヌクレオチド配列は、本明細書に配列番号:1として表されている。配列番号:1のヌクレオチド4677位〜8730位は、米国特許出願第09/231,899号における配列番号:69として表示されている配列のヌクレオチド390位〜4443位に対応している。それゆえに、配列番号:1のヌクレオチド1位〜4676位は、米国特許出願第09/231,899号において開示されなかった追加的な配列を表している。配列番号:1のこの新規な領域は、OrfAにおける以下のドメインをコードしている:(1)ORFA-KSドメイン;(2)ORFA-MATドメイン;および(3)少なくともACPドメイン領域の部分(例えば、少なくともACPドメイン1〜4)。米国特許出願第09/231,899号における配列番号:69のヌクレオチド1位〜389位は、本明細書に開示されている配列番号:1における4677位の上流である389個のヌクレオチドとは整合していないことを留意されたい。それゆえ、米国特許出願第09/231,899号における配列番号:69のヌクレオチド1位〜389位は、その配列のヌクレオチド390位〜4443位の隣に間違って配置されているように思われる。これらの最初の389個のヌクレオチド(約60位〜約389位)のほとんどは、本発明のOrfA(配列番号:1)の上流部分との適合であり、それゆえ、米国特許出願第09/231,899号におけるcDNA構築物のコンティグを調製する試みの中で誤りが生じたものと考えられる。米国特許出願第09/231,899号においてアラインメントエラーが生じた領域は、高度な反復配列の領域(すなわち、下記で考察されているACP領域)内にあり、おそらく、様々なcDNAクローンからのその配列の組み立てにおいていくらかの混乱を生じたのであろう。
【0061】
OrfAは、本明細書に配列番号:2として表されている2910個のアミノ酸配列をコードする8730個のヌクレオチド配列(停止コドンを含まず)である。OrfA内には、12個のドメインがある:(a)1個のβ-ケトアシル-ACPシンターゼ(KS)ドメイン;(b)1個のマロニル-CoA:ACPアシルトランスフェラーゼ(MAT)ドメイン;(c)9個のアシルキャリヤータンパク質(ACP)ドメイン;および(d)1個のケトレダクターゼ(KR)ドメイン。
【0062】
OrfAについてのヌクレオチド配列は、アクセッション番号AF378327(アミノ酸配列アクセッション番号AAK728879)としてGenBankに寄託されている。OrfAは、標準BLAST検索(標準デフォルトパラメーターで、アミノ酸検索についてはblastp、核酸検索についてはblastn、ならびに全6個のオープンリーディングフレームにおける核酸検索および翻訳されたアミノ酸配列の検索についてはblastXを用いるBLAST2.0ベーシック(Basic)BLAST相同性検索であり、クエリー配列はデフォルトにより低複雑度領域についてフィルタリングされる(Altschul, S.F., Madden, T.L., Schaaffer, A.A., Zhang, J., Zhang, Z., Miller, W. & Lipman, D.J. (1997)「Gapped BLAST and PSI-BLAST:a new generation of protein database search programs」Nucleic Acids Res. 25:3389-3402に記載されており、参照として完全に本明細書に組み入れられている)において既知の配列と比較された。核酸レベルにおいて、OrfAはいずれの既知のヌクレオチド配列とも有意な相同性をもたない。アミノ酸レベルにおいては、ORFAと最高度の相同性をもつ配列は以下のとおりであった:ノストク種(Nostoc sp.)7120異質細胞糖脂質シンターゼ(アクセッション番号NC_003272)、1001個のアミノ酸残基に関してORFAと42%同一であった;およびモリテラ・マリナ(ビブリオ・マリナス)ORF8(アクセッション番号AB025342)、993個のアミノ酸残基に関して40%同一であった。
【0063】
OrfAにおける第一のドメインはKSドメインであり、本明細書ではORFA-KSとも呼ばれる。このドメインは、配列番号:1(OrfA)の約1位から約40位の間の起点から、配列番号:1の約1428位から約1500位の間の終点まで及ぶヌクレオチド配列内に含まれている。ORFA-KSドメインをコードする配列を含むヌクレオチド配列は、本明細書に配列番号:7(配列番号:1の1位〜1500位)として表されている。KSドメインを含むアミノ酸配列は、配列番号:2の約1位から約14位の間の起点から、配列番号:2の約476位から約500位の間の終点まで及ぶ。ORFA-KSドメインを含むアミノ酸配列は、本明細書に配列番号:8(配列番号:2の1位〜500位)として表されている。ORFA-KSドメインが、活性部位モチーフ:DXAC*(*アシル結合部位C
215)を含むことは注目される。
【0064】
本発明により、3-ケトアシル-ACPシンターゼ(KS)生物活性(機能)を有するドメインまたはタンパク質は、FAS(およびPKS)伸長反応サイクルの初期段階を行う酵素として特徴付けられる。伸長のために予定されているアシル基は、チオエステル結合によりその酵素の活性部位でのシステイン残基に連結されている。多段階反応において、アシル-酵素は、マロニル-ACPとの縮合を受けて、-ケトアシル-ACP、CO
2および遊離の酵素を形成する。KSは、伸長サイクルにおいて鍵となる役割を果たし、多くの系において、反応サイクルの他の酵素より強い基質特異性をもっていることが示された。例えば、大腸菌は3つの別個のKS酵素を有する。それぞれ、その生物の生理機能においてそれ自身特定の役割をもつ(Magnusonら、Microbiol. Rev. 57, 522(1993))。PUFA-PKS系の2つのKSドメインは、PUFA生合成反応配列において別個の役割をもちえた。
【0065】
酵素の種類として、KS類は十分に特徴付けされてきた。多くの実証されたKS遺伝子の配列は知られており、その活性部位モチーフは同定され、いくつかの結晶構造が決定された。タンパク質(またはタンパク質のドメイン)は、既知のKS配列との相同性により酵素のKSファミリーに属するとして容易に同定されうる。
【0066】
OrfAにおける第二のドメインは、MATドメインであり、本明細書ではORFA-MATとも呼ばれる。このドメインは、配列番号:1(OrfA)の約1723位から約1798位の間の起点から、配列番号:1の約2805位から約3000位の間の終点まで及ぶヌクレオチド配列内に含まれている。ORFA-MATドメインをコードする配列を含むヌクレオチド配列は、本明細書に配列番号:9(配列番号:1の1723位〜3000位)として表されている。MATドメインを含むアミノ酸配列は、配列番号:2(ORFA)の約575位から約600位の間の起点から、配列番号:2の約935位から約1000位の間の終点まで及ぶ。ORFA-MATドメインを含むアミノ酸配列は、本明細書に配列番号:10(配列番号:2の575位〜1000位)として表されている。ORFA-MATドメインが、活性部位モチーフ:GHS*XG(*アシル結合部位S
706)を含むことは注目され、本明細書に配列番号:11として表されている。
【0067】
本発明により、マロニル-CoA:ACPアシルトランスフェラーゼ(MAT)生物活性(機能)をもつドメインまたはタンパク質は、マロニル部分をマロニル-CoAからACPへ転移するものとして特徴付けられる。活性部位モチーフ(GxSxG)に加えて、これらの酵素は、それらをMAT酵素と同定する(シゾキトリウムOrfBのATドメインと対比して)拡張モチーフ(extended motif)(登録商標)および鍵となる位置でのQアミノ酸を有する。いくつかのPKS系(しかし、PUFA PKSドメインではない)において、MATドメインは、優先的に、メチル-マロネートまたはエチル-マロネートをACP群へと(対応するCoAエステルから)載せ、それにより、直鎖状炭素鎖へ分枝を導入する。MATドメインは、既知のMAT配列とのそれらの相同性およびそれらの拡張モチーフ構造により認識されうる。
【0068】
OrfAのドメイン3〜11は、9個の直列型ACPドメインであり、本明細書ではORFA-ACP(その配列の第一ドメインはORFA-ACP1、第二ドメインはORFA-ACP2、第三ドメインはORFA-ACP3など)とも呼ばれる。第一ACPドメイン、ORFA-ACP1は、配列番号:1(OrfA)の約3343位から約3600位まで及ぶヌクレオチド配列内に含まれる。ORFA-ACP1ドメインをコードする配列を含むヌクレオチド配列は、本明細書に配列番号:12(配列番号:1の3343位〜3600位)として表されている。第一ACPドメインを含むアミノ酸配列は、配列番号:2の約1115位から約1200位まで及ぶ。ORFA-ACP1ドメインを含むアミノ酸配列は、本明細書に配列番号:13(配列番号:2の1115位〜1200位)として表されている。ORFA-ACP1ドメインが活性部位モチーフ:LGIDS*(*パンテテイン結合モチーフS
1157)を含むことは注目され、本明細書に配列番号:14により表されている。
【0069】
すべての9個のACPドメインのヌクレオチドおよびアミノ酸配列は、高度に保存されており、それゆえ、各ドメインについての配列は、本明細書には個々の配列識別名により表されていない。しかしながら、本明細書に開示されている情報に基づいて、当業者は、他の8個のACPドメインのそれぞれを含む配列を容易に決定することができる(下記の考察を参照)。
【0070】
すべての9個のACPドメインは合わせて、配列番号:1の約3283位から約6288位までのOrfAの領域に及び、配列番号:2の約1095位から約2096位までのアミノ酸に対応している。すべての9個のドメインを含む全ACP領域についてのヌクレオチド配列は、本明細書に配列番号:16として表されている。配列番号:16により表されている領域は、個々のACPドメイン間のリンカーセグメントを含む。その9個のドメインについての繰り返し間隔は、配列番号:16のおよそ330個のヌクレオチドごとである(隣接した活性部位セリン間を測定されたアミノ酸の実際の数は104個から116個までのアミノ酸の範囲である)。9個のACPドメインのそれぞれは、パンテテイン結合モチーフLGIDS*(本明細書に配列番号:14により表されている)を含み、S*はパンテテイン結合部位セリン(S)である。パンテテイン結合部位セリン(S)は、各ACPドメイン配列の中央近くに位置する。ACPドメイン領域の各末端および各ACPドメイン間では、プロリン(P)およびアラニン(A)に高度に富んだ領域であり、リンカー領域であると考えられる。例えば、ACPドメイン1と2の間は、配列:
であり、本明細書に配列番号:15として表されている。配列番号:2のアミノ酸配列に関して、9個のACPドメインのそれぞれについての活性部位セリン残基(すなわち、パンテテイン結合部位)の位置は以下の通りである:ACP1 = S
1157; ACP2 = S
1266; ACP3 = S
1377; ACP4 = S
1488; ACP5 = S
1604; ACP6 = S
1715; ACP7 = S
1819; ACP8 = S
1930; およびACP9 = S
2034。ACPドメインの平均サイズが、リンカーを除いて約85個のアミノ酸、リンカーを含めて約110個のアミノ酸であり、活性部位セリンがほぼドメインの中央にあるとすれば、当業者は、OrfAにおける9個のACPドメインのそれぞれの位置を容易に決定することができる。
【0071】
本発明により、アシルキャリヤータンパク質(ACP)生物活性(機能)をもつドメインまたはタンパク質は、そのタンパク質の共有結合的に結合している補因子へのチオエステル結合を介して脂肪アシル鎖を伸ばすための担体として機能する、低分子ポリペプチド(典型的には、80個〜100個のアミノ酸長)として特徴付けられる。それらは、単独のユニットとして、またはより大きなタンパク質内のドメインとして生じる。ACPは、ACPの高度に保存されたセリン残基へのCoAのホスホパンテテイニル部分の転移により、不活性のアポ型から機能するホロ型へと変換される。アシル基は、そのホスホパンテテイニル部分の遊離末端でチオエステル結合によりACPに付着される。ACPは、放射性パンテテインでの標識化および既知のACPとの配列相同性により同定されうる。上記で言及されたモチーフ(LGIDS*)の変異の存在もまた、ACPのシグナチャーである。
【0072】
OrfAにおけるドメイン12はKRドメインであり、本明細書ではORFA-KRとも呼ばれる。このドメインは、配列番号:1の約6598位の起点から、配列番号:1の約8730位の終点まで及ぶヌクレオチド配列内に含まれている。ORFA-KRドメインをコードする配列を含むヌクレオチド配列は、本明細書に配列番号:17(配列番号:1の6598位〜8730位)として表されている。KRドメインを含むアミノ酸配列は、配列番号:2(ORFA)の約2200位の起点から、配列番号:2の約2910位の終点まで及ぶ。ORFA-KRドメインを含むアミノ酸配列は、本明細書に配列番号:18(配列番号:2の2200位〜2910位)として表されている。KRドメイン内には、短鎖アルデヒドデヒドロゲナーゼ(KRはこのファミリーのメンバーである)と相同性のあるコア領域がある。このコア領域は、配列番号:1の約7198位から約7500位まで及び、配列番号:2のアミノ酸2400位〜2500位に対応している。
【0073】
本発明により、3-ケトアシル-ACPレダクターゼ(KR)生物活性(機能)とも呼ばれる、ケトレダクターゼ活性をもつドメインまたはタンパク質は、ACPの3-ケトアシル型のピリジン-ヌクレオチド-依存性還元を触媒するものとして特徴付けられる。それは、新規な脂肪酸生合成伸長サイクルおよびポリケチド生合成においてしばしば行われる反応における最初の還元段階である。有意な配列類似性は、エノイルACPレダクターゼ(ER)の1ファミリー、FASの他のレダクターゼ(しかし、PUFA PKS系に存在するERファミリーではない)、および短鎖アルコールデヒドロゲナーゼファミリーで観察される。上記で示されているPUFA PKS領域のPfam分析は、そのコア領域における短鎖アルコールデヒドロゲナーゼファミリーとの相同性を明らかにする。同じ領域のBlast分析は、既知のKR酵素とのコア域における整合、および他の特徴付けられたPUFA PKS系由来のドメインと相同性の拡張された領域を明らかにする。
【0074】
オープンリーディングフレームB(OrfB):
OrfBについての完全なヌクレオチド配列は、本明細書に配列番号:3として表されている。配列番号:3のヌクレオチド1311位〜6177位は、米国特許出願第09/231,899号において配列番号:71として表示されている配列のヌクレオチド1位〜4867位に対応する(米国特許出願第09/231,899号におけるcDNA配列は、ポリAテールを含めて、停止コドンを越えた約345個の付加的なヌクレオチドを含む)。それゆえ、配列番号:1のヌクレオチド1位〜1310位は、米国特許出願第09/231,899号に開示されなかった追加の配列を表している。配列番号:3のこの新規な領域は、OrfBによりコードされるKSドメインの大部分を含む。
【0075】
OrfBは、2059個のアミノ酸配列をコードする6177個のヌクレオチド配列(停止コドンを含まず)であり、本明細書に配列番号:4として表されている。OrfB内には、4個のドメイン:(a)1個のβ-ケトアシル-ACPシンターゼ(KS)ドメイン;(b)1個の鎖伸長因子(CLF)ドメイン;(c)1個のアシルトランスフェラーゼ(AT)ドメイン;および(d)1個のエノイルACP-レダクターゼ(ER)ドメインがある。
【0076】
OrfBについてのヌクレオチド配列は、アクセッション番号AF378328(アミノ酸配列アクセッション番号AAK728880)としてGenBankに寄託されている。OrfBは、上で記載されているように、標準BLAST検索において既知の配列と比較された。核酸レベルにおいて、OrfBはいずれの既知のヌクレオチド配列とも有意な相同性をもっていない。アミノ酸レベルにおいて、ORFBと最高度の相同性をもつ配列は、以下の通りである:シュワネラ種仮説上のタンパク質(アクセッション番号U73935)、458個のアミノ酸残基に関してORFBと53%同一であった;モリテラ・マリナ(ビブリオ・マリナス)ORF11(アクセッション番号AB025342)、460個のアミノ酸残基に関してORFBと53%同一であった;フォトバクテリウム・プロファンダム オメガ-3高度不飽和脂肪酸シンターゼPfaD(アクセッション番号AF409100)、457個のアミノ酸残基に関してORFBと52%同一であった;およびノストク種7120仮説上のタンパク質(アクセッション番号NC_003272)、430個のアミノ酸残基に関してORFBと53%同一であった。
【0077】
OrfBにおける第一ドメインはKSドメインであり、本明細書ではORFB-KSとも呼ばれる。このドメインは、配列番号:3(OrfB)の約1位から約43位の間の起点から、配列番号:3の約1332位から約1350位の間の終点まで及ぶヌクレオチド配列内に含まれている。ORFB-KSドメインをコードする配列を含むヌクレオチド配列は、本明細書に配列番号:19(配列番号:3の1位〜1350位)として表されている。KSドメインを含むアミノ酸配列は、配列番号:4(ORFB)の約1位から約15位の間の起点から、配列番号:4の約444位から約450位の間の終点まで及ぶ。ORFB-KSドメインを含むアミノ酸配列は、本明細書に配列番号:20(配列番号:4の1位〜450位)として表されている。ORFB-KSドメインが、活性部位モチーフ:DXAC*(*アシル結合部位C
196)を含むことは注目される。KS生物活性およびそのような活性をもつタンパク質またはドメインを同定する方法は、上に記載されている。
【0078】
OrfBにおける第二ドメインはCLFドメインであり、本明細書ではORFB-CLFとも呼ばれる。このドメインは、配列番号:3(OrfB)の約1378位から約1402位の間の起点から、配列番号:3の約2682位から約2700位の間の終点まで及ぶヌクレオチド配列内に含まれている。ORFB-CLFドメインをコードする配列を含むヌクレオチド配列は、本明細書に配列番号:21(配列番号:3の1378位〜2700位)として表されている。CLFドメインを含むアミノ酸配列は、配列番号:4(ORFB)の約460位から約468位の間の起点から、配列番号:4の約894位から約900位の間の終点まで及ぶ。ORFB-CLFドメインを含むアミノ酸配列は、本明細書に配列番号:22(配列番号:4の460位〜900位)として表されている。ORFB-CLFドメインがアシル結合システインを含まないKS活性部位モチーフを含むことは注目される。
【0079】
本発明により、以下の原理に基づくドメインまたはタンパク質は、鎖伸長因子(CLF)と呼ばれる。CLFは、当初は、II型(解離した酵素)PKS系の特性として記載され、伸長サイクルの数を決定する、ゆえに最終生成物の鎖長を決定するにおいて役割を果たしているものと仮定された。CLFアミノ酸配列は、KSドメインと相同性を示すが(かつ、KSタンパク質とヘテロ二量体を形成すると考えられた)、それらは活性部位システインを欠如している。PKS系におけるCLFの役割は、目下、議論の余地がある。新たな証拠(C. Bisangら、Nature 401, 502(1999))より、PKS系をプライミングする(伸長させるための最初のアシル基を供給する)における役割が示唆されている。この役割において、CLFドメインは、マロネート(マロニル-ACPのような)からカルボキシル基を除去し、このようにKS活性部位へ転移されうる酢酸基を形成すると考えられる。それゆえ、この酢酸基は、最初の伸長(縮合)反応を受けうる「プライミング(priming)」分子として作用する。II型CLFの相同体は、いくつかのモジュラーPKS系において「ローディング(loading)」ドメインとして同定された。CLFの配列特徴をもつドメインは、現在同定されているPUFA PKS系のすべてにおいて見出され、各場合においては、多領域タンパク質の一部として見出される。
【0080】
OrfBにおける第三ドメインはATドメインであり、本明細書ではORFB-ATとも呼ばれる。このドメインは、配列番号:3(OrfB)の約2701位から約3598位の間の起点から、配列番号:3の約3975位から約4200位の間の終点まで及ぶヌクレオチド配列内に含まれている。ORFB-ATドメインをコードする配列を含むヌクレオチド配列は、本明細書に配列番号:23(配列番号:3の2701位〜4200位)として表されている。ATドメインを含むアミノ酸配列は、配列番号:4(ORFB)の約901位から約1200位の間の起点から、配列番号:4の約1325位から約1400位の間の終点まで及ぶ。ORFB-ATドメインを含むアミノ酸配列は、本明細書に配列番号:24(配列番号:4の901位〜1400位)として表されている。ORFB-ATドメインが、アシルトランスフェラーゼ(AT)タンパク質の特性を示すGxS*xG(*アシル結合部位S
1140)の活性部位モチーフを含むことは注目される。
【0081】
「アシルトランスフェラーゼ」または「AT」は、多数の別個のアシル転移反応を行うことができる酵素の一般的クラスを指す。シゾキトリウムドメインは、現在調べられた他のPUFA PKS系のすべてに存在するドメインと十分な相同性を示し、その特定の機能が同定されたいくつかのアシルトランスフェラーゼ(例えば、マロニル-CoA:ACPアシルトランスフェラーゼ、MAT)と非常に弱い相同性を示す。MATとその弱い相同性があるにもかかわらず、このATドメインは、それがそのような酵素に特有な拡張モチーフ構造をもたないことから、MATとして機能することが考えられない(上記のMATドメインの記載を参照)。この開示を目的として、PUFA PKS系におけるATドメインの機能は、限定されるものではないが、以下のものを含む:ORFA ACPドメインから水への脂肪アシル基の転移(すなわち、チオエステラーゼ - 脂肪アシル基を遊離脂肪酸として放出すること)、CoAのようなアクセプターへの脂肪アシル基の転移、様々なACPドメイン中のアシル基の転移、または脂肪親和性アクセプター分子(例えば、リゾホスファチジン酸)への脂肪アシル基の転移。
【0082】
OrfBにおける第四ドメインはERドメインであり、本明細書ではORFB-ERとも呼ばれる。このドメインは、配列番号:3(OrfB)の約4648位の起点から、配列番号:3の約6177位の終点まで及ぶヌクレオチド配列内に含まれている。ORFB-ERドメインをコードする配列を含むヌクレオチド配列は、本明細書に配列番号:25(配列番号:3の4648位〜6177位)として表されている。ERドメインを含むアミノ酸配列は、配列番号:4(ORFB)の約1550位の起点から、配列番号:4の約2059位の終点まで及ぶ。ORFB-ERドメインを含むアミノ酸配列は、本明細書に配列番号:26(配列番号:4の1550位〜2059位)として表されている。
【0083】
本発明により、このドメインはエノイルレダクターゼ(ER)生物活性を有する。そのER酵素は、脂肪アシル-ACPにおけるトランス二重結合(DH活性により導入された)を還元し、結果として、それらの炭素を完全に飽和することになる。PUFA-PKS系におけるそのERドメインは、ER酵素の新しく特徴付けられたファミリーと相同性を示す(Heathら、Nature 406, 145(2000))。ヒース(Heath)およびロック(Rock)は、ER酵素のこの新しいクラスを、ストレプトコッカスニューモニエ(Streptococcus pneumoniae)から対象となる遺伝子をクローニングし、その遺伝子から発現されたタンパク質を精製し、かつインビトロのアッセイにおいてそれがER活性をもっていることを示すことにより、同定した。OrfBのシゾキトリウムERドメインの配列は、S. ニューモニエ(S. pneumoniae)ERタンパク質と相同性を示す。現在調べられたPUFA PKS系のすべては、シゾキトリウムERドメインと非常に高い配列相同性をもつ少なくとも1個のドメインを含む。シゾキトリウムPUFA PKS系は、2個のERドメインを含む(1個はOrfB上に、1個はOrfC上)。
【0084】
オープンリーディングフレームC(OrfC):
OrfCについての完全なヌクレオチド配列は、本明細書に配列番号:5として表されている。配列番号:5のヌクレオチド1位〜4509位(すなわち、停止コドンを含まない、全オープンリーディングフレーム配列)は、米国特許出願第09/231,899号において配列番号:76として表示されている配列のヌクレオチド145位〜4653位に対応している(米国特許出願第09/231,899号におけるcDNA配列は、OrfCについての開始コドンの上流約144個のヌクレオチド、およびポリAテールを含む停止コドンを越えた約110個のヌクレオチドを含む)。OrfCは、1503個のアミノ酸配列をコードする4509個のヌクレオチド配列(停止コドンを含まず)であり、本明細書に配列番号:6として表されている。OrfC内には、3個のドメイン:(a)2個のFabA様β-ヒドロキシアシル-ACPデヒドラーゼ(DH)ドメイン;および(b)1個のエノイルACP-レダクターゼ(ER)ドメインがある。
【0085】
OrfCについてのヌクレオチド配列は、アクセッション番号AF378329(アミノ酸配列アクセッション番号AAK728881)としてGenBankに寄託されている。OrfCは、上で記載されているように、標準BLAST検索において既知の配列と比較された。核酸レベルにおいて、OrfCはいずれの既知のヌクレオチド配列とも有意な相同性をもっていない。アミノ酸レベルにおいて(Blastp)、ORFCと最高度の相同性をもつ配列は、以下の通りである:モリテラ・マリナ(ビブリオ・マリナス)ORF11(アクセッション番号AB025342)、514個のアミノ酸残基に関してORFCと45%同一である;シュワネラ種仮説上のタンパク質8(アクセッション番号U73935)、447個のアミノ酸残基に関してORFCと49%同一である;ノストク種仮説上のタンパク質(アクセッション番号NC_003272)、430個のアミノ酸残基に関してORFCと49%同一である;およびシュワネラ種仮説上のタンパク質7(アクセッション番号U73935)、930個のアミノ酸残基に関してORFCと37%同一である。
【0086】
OrfCにおける第一ドメインはDHドメインであり、本明細書ではORFC-DH1とも呼ばれる。これは、OrfCにおける2個のDHドメインのうちの1個であり、それゆえ、DH1と名付けられる。このドメインは、配列番号:5(OrfC)の約1位から約778位の間の起点から、配列番号:5の約1233位から約1350位の間の終点まで及ぶヌクレオチド配列内に含まれている。ORFC-DH1ドメインをコードする配列を含むヌクレオチド配列は、本明細書に配列番号:27(配列番号:5の1位〜1350位)として表されている。DH1ドメインを含むアミノ酸配列は、配列番号:6(ORFC)の約1位から約260位の間の起点から、配列番号:6の約411位から約450位の間の終点まで及ぶ。ORFC-DH1ドメインを含むアミノ酸配列は、本明細書に配列番号:28(配列番号:6の1位〜450位)として表されている。
【0087】
PUFA PKS系における両方のDHドメイン(DH2については下記参照)の特性は、前述の節において記載されている。このクラスの酵素は、β-ケトアシル-ACPからHOHを除去し、その炭素鎖にトランス二重結合を残す。PUFA PKS系のDHドメインは、(他のPKS系のDHドメインとよりもむしろ)FAS系に関連する細菌のDH酵素と相同性を示す。細菌のDH、FabA様DHのサブセットは、シス-トランスイソメラーゼ活性をもつ(Heathら、J. Biol. Chem., 271, 27795(1996))。それは、DHドメインの1つまたは両方がPUFA PKS生成物におけるシス二重結合の挿入の原因であることを示す、FabA様DHとの類似性である。
【0088】
OrfCにおける第二ドメインはDHドメインであり、本明細書ではORFC-DH2とも呼ばれる。これは、OrfCにおける2個のDHドメインのうちの二番目であり、それゆえ、DH2と名付けられる。このドメインは、配列番号:5(OrfC)の約1351位から約2437位の間の起点から、配列番号:5の約2607位から約2850位の間の終点まで及ぶヌクレオチド配列内に含まれている。ORFC-DH2ドメインをコードする配列を含むヌクレオチド配列は、本明細書に配列番号:29(配列番号:5の1351位〜2850位)として表されている。DH2ドメインを含むアミノ酸配列は、配列番号:6(ORFC)の約451位から約813位の間の起点から、配列番号:6の約869位から約950位の間の終点まで及ぶ。ORFC-DH2ドメインを含むアミノ酸配列は、本明細書に配列番号:30(配列番号:6の451位〜950位)として表されている。DH生物活性は上に記載されている。
【0089】
OrfCにおける第三ドメインはERドメインであり、本明細書ではORFC-ERとも呼ばれる。このドメインは、配列番号:5(OrfC)の約2998位の起点から、配列番号:5の約4509位の終点まで及ぶヌクレオチド配列内に含まれている。ORFC-ERドメインをコードする配列を含むヌクレオチド配列は、本明細書に配列番号:31(配列番号:5の2998位〜4509位)として表されている。ERドメインを含むアミノ酸配列は、配列番号:6(ORFC)の約1000位の起点から、配列番号:6の約1502位の終点まで及ぶ。ORFC-ERドメインを含むアミノ酸配列は、本明細書に配列番号:32(配列番号:6の1000位〜1502位)として表されている。ER生物活性は上に記載されている。
【0090】
本発明の一つの態様は、非細菌のPUFA PKS系由来の核酸配列、その相同体、その断片、および/またはそのような核酸配列のいずれかと相補的である核酸配列を含む単離された核酸分子に関する。一つの局面において、本発明は、以下のものからなる群より選択された核酸配列を含む単離された核酸分子に関する:(a)配列番号:2、配列番号:4、配列番号:6、およびそれらの生物活性断片からなる群より選択されたアミノ酸配列をコードする核酸配列;(b)配列番号:8、配列番号:10、配列番号:13、配列番号:18、配列番号:20、配列番号:22、配列番号:24、配列番号:26、配列番号:28、配列番号:30、配列番号:32、およびそれらの生物活性断片からなる群より選択されたアミノ酸配列をコードする核酸配列;(c)アミノ酸配列が高度不飽和脂肪酸(PUFA)ポリケチドシンターゼ(PKS)系の少なくとも1つのドメインの生物活性を有する、(a)のアミノ酸配列の少なくとも500個の連続したアミノ酸と少なくとも約60%同一であるアミノ酸配列をコードする核酸配列;(d)アミノ酸配列が高度不飽和脂肪酸(PUFA)ポリケチドシンターゼ(PKS)系の少なくとも1つのドメインの生物活性を有する、(b)のアミノ酸配列と少なくとも約60%同一であるアミノ酸配列をコードする核酸配列;または(e)(a)、(b)、(c)、または(d)の核酸配列と完全に相補的である核酸配列。さらなる態様において、PUFA PKSドメインのいくつかについての上記の活性部位ドメインまたは他の機能性モチーフをコードする配列を含む核酸配列は、本発明に含まれる。
【0091】
本発明により、PUFA PKS系の少なくとも1つのドメインの生物活性を有するアミノ酸配列は、シゾキトリウムPUFA PKS系により例示されるように、本明細書に詳細に記載されているPUFA PKS系の少なくとも1つのドメインの生物活性を有するアミノ酸配列である。シゾキトリウムPUFA PKS系内の様々なドメインの生物活性は、上で詳細に記載されている。それゆえ、本発明の単離された核酸分子は、任意のPUFA PKSオープンリーディングフレーム、PUFA PKSドメイン、それらの生物活性断片、または生物活性を有する天然に存在するPUFA PKSオープンリーディングフレームもしくはドメインの任意の相同体の翻訳産物をコードすることができる。所与のタンパク質またはドメインの相同体は、1個または数個に限定されないが、少なくとも1個または数個のアミノ酸が欠失(例えば、ペプチドまたは断片のような、そのタンパク質の切断バージョン)、挿入、反転、置換および/または誘導体化(例えば、グリコシル化、リン酸化、アセチル化、ミリストイル化、プレニル化、パルミト化、アミド化および/またはグリコシルホスファチジルイノシトールの付加による)されている点において天然に存在する参照アミノ酸配列(すなわち、参照タンパク質またはドメインの)と異なるアミノ酸配列を有するタンパク質またはポリペプチドである。PUFA PKSタンパク質またはドメインの好ましい相同体は、下で詳細に記載される。相同体は、合成的に作製された相同体、所与のタンパク質もしくはドメインの天然に存在する対立遺伝子変異体、またはその参照配列が由来する生物以外の生物からの相同的配列を含みうることを留意されたい。
【0092】
一般的に、タンパク質またはドメインの生物活性または生物作用とは、インビボ(すなわち、そのタンパク質の自然生理的環境において)もしくはインビトロ(すなわち、実験室条件下)で測定または観察される、そのタンパク質またはドメインの天然に存在する型に帰するそのタンパク質またはドメインにより示されるまたは行われる任意の機能を指す。PUFA PKS系およびPUFA PKS系を構成している個々のタンパク質/ドメインの生物活性は、本明細書の他の所で詳細に記載されている。相同体または模倣体(下記で考察される)においてのようなタンパク質またはドメインの改変は、結果として、その天然に存在するタンパク質もしくはドメインと同じ生物活性を有するタンパク質もしくはドメイン、またはその天然に存在するタンパク質もしくはドメインと比較して減少したもしくは増加した生物活性を有するタンパク質もしくはドメインを生じうる。そのタンパク質もしくはドメインの発現における減少または活性における減少を生じる改変は、タンパク質もしくはドメインの不活化(完全または部分的)、下方制御、または低下した作用として言及されうる。同様に、そのタンパク質もしくはドメインの発現における増加または活性における増加を生じる改変は、タンパク質もしくはドメインの増幅、過剰産生、活性化、増強、上方制御または増大した作用として言及されうる。PUFA PKS系の機能性ドメインは、生物機能を行う能力がある(すなわち、生物活性を有する)ドメイン(すなわち、ドメインはタンパク質の部分でありうる)である。
【0093】
本発明に従い、単離された核酸分子はその自然環境から取り出された(すなわち、人の操作にかけられた)核酸分子であり、その自然環境はその核酸分子が本来見出されるゲノムまたは染色体である。それとして、「単離された」とは、必ずしも、その核酸分子が精製されたという程度までを反映しているとは限らず、その核酸分子が本来見出されるゲノム全体または染色体全体をその分子が含んでいないことを示す。単離された核酸分子は遺伝子を含みうる。遺伝子を含む単離された核酸分子は、そのような遺伝子を含む染色体の断片ではなく、むしろ、その遺伝子に関連するコード領域および制御領域を含み、同じ染色体上に天然に見出される付加的な遺伝子を含まない。単離された核酸分子はまた、通常ではその特定の核酸配列に本来隣接していない追加的な核酸(すなわち、異種性配列)に隣接されている(すなわち、その配列の5'末端および/または3'末端で)特定の核酸配列を含む。単離された核酸分子は、DNA、RNA(例えば、mRNA)、またはDNAもしくはRNAのいずれかの誘導体(例えば、cDNA)を含みうる。「核酸分子」という用語は本来、物質的な核酸分子を指し、かつ「核酸配列」という用語は本来、その核酸分子についてのヌクレオチドの配列を指すが、その2つの用語は交換可能に用いることができ、特に、タンパク質もしくはタンパク質のドメインをコードする能力がある核酸分子、または核酸配列に関してはそうである。
【0094】
好ましくは、本発明の単離された核酸分子は、組換えDNA技術(例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅、クローニング)または化学的合成を用いて作製される。単離された核酸分子は、限定されるものではないが、天然の対立遺伝子の変異体およびそのような改変が本明細書に記載されるようなPUFA PKS系生物活性に望ましい効果を与えるような様式においてヌクレオチドが挿入、欠失、置換、および/または反転された改変核酸分子を含む、天然の核酸分子ならびにそれらの相同体を含む。タンパク質相同体(例えば、核酸相同体によりコードされたタンパク質)が上で詳細に考察されている。
【0095】
核酸分子相同体は、当業者に公知の多数の方法を用いて作製されうる(例えば、Sambrookら、「分子クローニング:実験マニュアル(Molecular Cloning: A Laboratory Manual)」, Cold Spring Harbor Labs Press, 1989を参照)。例えば、核酸分子は、限定されるものではないが、古典的な突然変異誘発技術、および部位特異的突然変異誘発、突然変異を誘発するための核酸分子の化学的処理、核酸断片の制限酵素切断、核酸断片のライゲーション、核酸配列の選択された領域のPCR増幅および/または突然変異誘発、オリゴヌクレオチド混合物の合成および核酸分子の混合物を構築するための混合群のライゲーション、ならびにそれらの組み合わせのような組換えDNA技術を含む様々な技術を用いて改変されうる。核酸分子相同体は、その核酸によりコードされたタンパク質の機能についてスクリーニングすることおよび/または野生型遺伝子とのハイブリダイゼーションにより、改変された核酸の混合物から選択されうる。
【0096】
本発明の核酸分子の最小限サイズは、本発明において有用な、または本発明によるPUFA PKS系の少なくとも1つのドメインの生物活性を有するアミノ酸配列をコードするのに十分なサイズの核酸分子相補的配列と安定的なハイブリッドを形成する(例えば、中程度、高度なまたは超高度なストリンジェント条件下において)能力があるプローブもしくはオリゴヌクレオチドプライマーを形成するのに十分なサイズである。それとして、そのようなタンパク質をコードする核酸分子のサイズは、核酸組成およびその核酸分子と相補的配列間の相同性%または同一性%に加えてそれ自体でのハイブリダイゼーション条件(例えば、温度、塩濃度およびホルムアミド濃度)に依存しうる。オリゴヌクレオチドプライマーまたはプローブとして使用される核酸分子の最小サイズは、典型的には、その核酸分子がGCリッチな場合には少なくとも約12ヌクレオチド長〜約15ヌクレオチド長であり、それらがATリッチな場合には少なくとも約15塩基長〜約18塩基長である。核酸分子がPUFA PKS系のドメインの生物活性を有する断片、PUFA PKS系の全ドメイン、PUFA PKS系のオープンリーディングフレーム(Orf)内の数個のドメイン、PUFA PKS系の全Orf、またはPUFA PKS系の1つより多いOrfをコードするのに十分な配列を含みうるにおいて、本発明の核酸分子の最大サイズについて、実際的な制限以外に、制限はない。
【0097】
本発明の一つの態様において、単離された核酸分子は、配列番号:2、配列番号:4、配列番号:6、配列番号:8、配列番号:10、配列番号:13、配列番号:18、配列番号:20、配列番号:22、配列番号:24、配列番号:26、配列番号:28、配列番号:30、配列番号:32、またはそれらの生物活性断片の群より選択される核酸配列から本質的になる、または含む。一つの局面において、核酸配列は、配列番号:1、配列番号:3、配列番号:5、配列番号:7、配列番号:9、配列番号:12、配列番号:17、配列番号:19、配列番号:21、配列番号:23、配列番号:25、配列番号:27、配列番号:29および配列番号:31の群から選択される。本発明の一つの態様において、上記のPUFA PKSアミノ酸配列、およびそのような配列の相同体のいずれも、その所与のアミノ酸配列の各C末端および/またはN末端に隣接する、少なくとも1個から、約20個に達するまでの追加的な異種性アミノ酸をもって作製されうる。その結果生じたタンパク質またはポリペプチドを、所与のアミノ酸配列「から本質的になる」と呼ぶことができる。本発明により、異種性アミノ酸は、その所与のアミノ酸配列に隣接することを本来見出されない(すなわち、インビボで天然において見出されない)、またはその所与のアミノ酸配列が由来する生物のための標準的なコドン用法を用いて本来存在する配列におけるそのようなヌクレオチドが翻訳されたならば、その遺伝子に存在している場合のその所与のアミノ酸配列をコードする本来存在する核酸配列に隣接しているヌクレオチドによりコードされないであろうアミノ酸の配列である。同様に、「から本質的になる」という用語は、本明細書で核酸配列に関連して用いられる場合、その所与のアミノ酸配列をコードする核酸配列の各5'末端および/または3'末端における少なくとも1個から、約60個に達するまでの付加的な異種性ヌクレオチドにより隣接されることができる所与のアミノ酸配列をコードする核酸配列を指す。異種性ヌクレオチドは、その本来の遺伝子に存在している場合のその所与のアミノ酸配列をコードする核酸配列に隣接していることが本来見出されない(すなわち、インビボで天然において見出されない)。
【0098】
本発明はまた、PUFA PKS系の少なくとも1つのドメインの生物活性を有するアミノ酸配列をコードする核酸配列を含んでいる単離された核酸分子を含む。一つの局面において、そのような核酸配列は、配列番号:2、配列番号:4、配列番号:6、配列番号:8、配列番号:10、配列番号:13、配列番号:18、配列番号:20、配列番号:22、配列番号:24、配列番号:26、配列番号:28、配列番号:30、または配列番号:32を含む、シゾキトリウムPUFA PKS ORFまたはドメインのいずれかの相同体をコードし、その相同体は、本明細書で前に記載されているようなPUFA PKS系の少なくとも1つのドメインの生物活性を有する。
【0099】
本発明の一つの局面において、本発明に含まれるシゾキトリウムPUFA PKSタンパク質またはドメインの相同体は、配列番号:2、配列番号:4、および配列番号:6から選択されるアミノ酸配列のうちの少なくとも500個の連続したアミノ酸と少なくとも約60%同一であるアミノ酸配列を含み、該アミノ酸配列はPUFA PKS系の少なくとも1つのドメインの生物活性を有する。さらなる局面において、その相同体のアミノ酸配列は、配列番号:2、配列番号:4および配列番号:6のいずれかの少なくとも約600個の連続したアミノ酸、より好ましくは少なくとも約700個の連続したアミノ酸、より好ましくは少なくとも約800個の連続したアミノ酸、より好ましくは少なくとも約900個の連続したアミノ酸、より好ましくは少なくとも約1000個の連続したアミノ酸、より好ましくは少なくとも約1100個の連続したアミノ酸、より好ましくは少なくとも約1200個の連続したアミノ酸、より好ましくは少なくとも約1300個の連続したアミノ酸、より好ましくは少なくとも約1400個の連続したアミノ酸、ならびにより好ましくは少なくとも約1500個の連続したアミノ酸と、または配列番号:6の完全長と、少なくとも約60%同一である。さらなる局面において、その相同体のアミノ酸配列は、配列番号:2もしくは配列番号:4のいずれかの少なくとも約1600個の連続したアミノ酸、より好ましくは少なくとも約1700個の連続したアミノ酸、より好ましくは少なくとも約1800個の連続したアミノ酸、より好ましくは少なくとも約1900個の連続したアミノ酸、およびより好ましくは少なくとも約2000個の連続したアミノ酸と、または配列番号:4の完全長と、少なくとも約60%同一である。さらなる局面において、その相同体のアミノ酸配列は、配列番号:2の少なくとも約2100個の連続したアミノ酸、より好ましくは少なくとも約2200個の連続したアミノ酸、より好ましくは少なくとも約2300個の連続したアミノ酸、より好ましくは少なくとも約2400個の連続したアミノ酸、より好ましくは少なくとも約2500個の連続したアミノ酸、より好ましくは少なくとも約2600個の連続したアミノ酸、より好ましくは少なくとも約2700個の連続したアミノ酸、より好ましくは少なくとも約2800個の連続したアミノ酸、およびさらにより好ましくは完全長と少なくとも約60%同一である。
【0100】
もう一つの局面において、本発明に含まれるシゾキトリウムPUFA PKSタンパク質またはドメインの相同体は、上の段落において記載されている連続したアミノ酸長のいずれかに関して、配列番号:2、配列番号:4、または配列番号:6から選択されるアミノ酸配列と少なくとも約65%同一、より好ましくは少なくとも約70%同一、より好ましくは少なくとも約75%同一、より好ましくは少なくとも約80%同一、より好ましくは少なくとも約85%同一、より好ましくは少なくとも約90%同一、より好ましくは少なくとも約95%同一、より好ましくは少なくとも約96%同一、より好ましくは少なくとも約97%同一、より好ましくは少なくとも約98%同一、およびより好ましくは少なくとも約99%同一であるアミノ酸配列を含み、このアミノ酸配列はPUFA PKS系の少なくとも1つのドメインの生物活性を有する。
【0101】
本発明の一つの局面において、本発明に含まれるシゾキトリウムPUFA PKSタンパク質またはドメインの相同体は、配列番号:8、配列番号:10、配列番号:13、配列番号:18、配列番号:20、配列番号:22、配列番号:24、配列番号:26、配列番号:28、配列番号:30、または配列番号:32から選択されるアミノ酸配列と少なくとも約60%同一であるアミノ酸配列を含み、このアミノ酸配列はPUFA PKS系の少なくとも1つのドメインの生物活性を有する。さらなる局面において、その相同体のアミノ酸配列は、配列番号:8、配列番号:10、配列番号:13、配列番号:18、配列番号:20、配列番号:22、配列番号:24、配列番号:26、配列番号:28、配列番号:30、配列番号:32から選択されるアミノ酸配列と少なくとも約65%同一、より好ましくは少なくとも約70%同一、より好ましくは少なくとも約75%同一、より好ましくは少なくとも約80%同一、より好ましくは少なくとも約85%同一、より好ましくは少なくとも約90%同一、より好ましくは少なくとも約95%同一、より好ましくは少なくとも約96%同一、より好ましくは少なくとも約97%同一、より好ましくは少なくとも約98%同一、およびより好ましくは少なくとも約99%同一であり、そのアミノ酸配列はPUFA PKS系の少なくとも1つのドメインの生物活性を有する。
【0102】
本発明により、「近接する」または「連続した」という用語は、本明細書に記載される核酸またはアミノ酸配列に関しては、間断のない配列として連結されていることを意味する。例えば、第一配列が第二配列の30個の近接した(または連続した)アミノ酸を含むとは、その第一配列が第二配列における30個のアミノ酸残基の間断のない配列と100%同一である30個のアミノ酸残基の間断のない配列を含むことを意味する。同様に、第一配列が第二配列と「100%の同一性」をもつとは、その第一配列がヌクレオチドまたはアミノ酸間にギャップを含まずにその第二配列と正確に整合していることを意味する。
【0103】
本明細書で用いられる場合、別に明記されない限り、同一性パーセント(%)の言及は、以下のものを用いて行われる相同性の評価を指す:(1)アミノ酸検索についてはblastp、核酸検索についてはblastn、ならびにすべての6個のオープンリーディングフレームにおける核酸検索および翻訳されたアミノ酸の検索についてはblastXをすべて標準デフォルトパラメーターで用いるBLAST2.0ベーシック(Basic)BLAST相同性検索、クエリー配列はデフォルトにより低複雑度領域についてフィルタリングされる(Altschul, S. F., Madden, T. L., Schaaffer, A. A., Zhang, J., Zhang, Z., Miller, W. & Lipman, D. J. (1997)「Gapped BLAST and PSI-BLAST: a new generation of protein database search programs」Nucleic Acids Res. 25:3389-3402に記載されており、参照として本明細書に完全に組み入れられている);(2)BLAST2アラインメント(下記のパラメーターを用いる);および/または(3)標準デフォルトパラメーターでのPSI-BLAST(位置特異的反復BLAST)。BLAST2.0ベーシック(Basic)BLASTとBLAST2間の標準パラメーターにおけるいくらかの相違のせいで、2つの特定の配列がBLAST2プログラムを用いて有意な相同性をもつとして認識されえたとしても、クエリー配列としてその配列のうちの1つを用いるBLAST2.0ベーシック(Basic)BLASTにおいて行われた検索では二番目の配列をトップ整合において同定しない場合があることを留意されたい。さらに、PSI-BLASTは、「特性」検索の自動化した使いやすいバージョンを提供しており、配列相同体を捜すための感度の高い方法である。そのプログラムは、まず、ギャップド(gapped)BLASTデータベース検索を行う。PSI-BLASTプログラムは、位置特異的スコア行列を構成するために戻されたいずれの有意なアラインメントからの情報も使用し、データベース検索の次のラウンドのためにそのクエリー配列を取り替える。それゆえ、これらのプログラムのいずれか1つを使用することにより同一性パーセントが決定されうることは理解されるべきである。
【0104】
2つの特定の配列は、参照として完全に本明細書に組み入れられるTatusovaおよびMadden, (1999), 「Blast 2 sequences-a new tool for comparing protein and nucleotide sequences」, FEMS Microbiol Lett. 174:247-250に記載されているように、BLAST2を用いて互いに整列しうる。BLAST2配列アラインメントは、その結果生じるアラインメントにギャップの導入(欠失および挿入)を許してその2つの配列間でギャップドBLAST検索(BLAST2.0)を行うBLAST2.0アルゴリズムを用いるblastpまたはblastnにおいて行われる。本明細書での明瞭さを目的として、BLAST2配列アラインメントは、以下の標準デフォルトパラメーターを用いて行われる。
【0105】
0 BLOSUM62行列を用いる、blastnについて:
一致についての報酬 = 1
不一致についてのペナルティ = -2
オープンギャップ(5)および伸長ギャップ(2)ペナルティ
ギャップx_ドロップオフ(50)期待(10)ワードサイズ(11)フィルター(オン)
0 BLOSUM62行列を用いる、blastpについて:
オープンギャップ(11)および伸長ギャップ(1)ペナルティ
ギャップx_ドロップオフ(50)期待(10)ワードサイズ(3)フィルター(オン)。
【0106】
本発明のもう一つの態様において、本発明のPUFA PKS系の少なくとも1つのドメインの生物活性を有するアミノ酸配列は、アミノ酸配列をコードする核酸配列が天然に存在するPUFA PKSタンパク質またはポリペプチドをコードする核酸分子(すなわち、天然に存在するPUFA PKSタンパク質またはポリペプチドをコードする核酸鎖の相補体)へ(すなわち、と共に)中程度、高度または超高度なストリンジェント条件(下に記載されている)下でハイブリダイズする能力があるように天然に存在するPUFA PKSタンパク質またはポリペプチドと十分に類似しているアミノ酸配列を含む。好ましくは、本発明のPUFA PKS系の少なくとも1つのドメインの生物活性を有するアミノ酸配列は、配列番号:2、配列番号:4、配列番号:6、配列番号:8、配列番号:10、配列番号:13、配列番号:18、配列番号:20、配列番号:22、配列番号:24、配列番号:26、配列番号:28、配列番号:30、または配列番号:32のいずれかにより表されるアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする核酸配列の相補体へ中程度、高度または超高度なストリンジェント条件下でハイブリダイズする核酸配列によりコードされる。相補的配列を推定するための方法は、当業者に知られている。アミノ酸シーケンシングおよび核酸シーケンシングの技術は完全に誤り無しではないため、本明細書に提出される配列は、せいぜい、本発明のPUFA PKSドメインおよびタンパク質の見かけの配列を表していることを留意するべきである。
【0107】
本明細書に用いられる場合、ハイブリダイゼーション条件は、核酸分子が類似した核酸分子を同定するために用いられる標準ハイブリダイゼーション条件を指す。そのような標準条件は、例えば、Sambrookら、「Molecular Cloning: A Laboratory Manual」, Cold Spring Harbor Labs Press, 1989に開示されている。Sambrookら(同上)、は、参照として本明細書に完全に組み入れられている(特に、ページ9.31-9.62を参照)。さらに、ヌクレオチドのミスマッチの程度を変えることを可能にするハイブリダイゼーションを達成するための適切なハイブリダイゼーションおよび洗浄条件を計算する式が、例えば、Meinkothら、1984, Anal. Biochem. 138, 267-284に開示されている;Neinkothら(同上)は、参照として本明細書に完全に組み入れられている。
【0108】
より詳しくは、中程度のストリンジェントハイブリダイゼーションおよび洗浄条件は、本明細書で言及される場合、そのハイブリダイゼーション反応において探索するために使用される核酸分子と少なくとも約70%核酸配列同一性をもつ核酸分子の単離を可能にする条件(すなわち、ヌクレオチドの約30%またはそれ未満のミスマッチを許容する条件)を指す。高ストリンジェントハイブリダイゼーションおよび洗浄条件は、本明細書で言及される場合、そのハイブリダイゼーション反応において探索するために使用される核酸分子と少なくとも約80%核酸配列同一性をもつ核酸分子の単離を可能にする条件(すなわち、ヌクレオチドの約20%またはそれ未満のミスマッチを許容する条件)を指す。超高ストリンジェントハイブリダイゼーションおよび洗浄条件は、本明細書で言及される場合、そのハイブリダイゼーション反応において探索するために使用される核酸分子と少なくとも約90%核酸配列同一性をもつ核酸分子の単離を可能にする条件(すなわち、ヌクレオチドの約10%またはそれ未満のミスマッチを許容する条件)を指す。上記で考察されているように、当業者は、これらのヌクレオチドミスマッチの特定のレベルを達成するための適切なハイブリダイゼーションおよび洗浄条件を計算するためのMeinkothら(同上)における式を使用することができる。そのような条件は、DNA:RNAまたはDNA:DNAのハイブリッドのいずれが形成されることになっているのかに依存して、異なるものである。DNA:DNAハイブリッドについての計算された融解温度は、DNA:RNAハイブリッドについてよりも10℃低い。個々の態様において、DNA:DNAハイブリッドについてのストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、約20℃〜約35℃の間の温度(低度のストリンジェント)、より好ましくは約28℃〜約45℃の間の温度(よりストリンジェント)、およびさらにより好ましくは約35℃〜約45℃の間の温度(さらによりストリンジェント)で、6X SSC(0.9 M Na
+)のイオン強度でのハイブリダイゼーションを適切な洗浄条件とともに含む。個々の態様において、DNA:RNAハイブリッドについてのストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、約30℃〜約45℃の間の温度、より好ましくは約38℃〜約50℃の間の温度、およびさらにより好ましくは約45℃〜約55℃の間の温度(さらによりストリンジェント)で、6X SSC(0.9 M Na
+)のイオン強度でのハイブリダイゼーションを同様にストリンジェントな洗浄条件とともに含む。これらの値は、約100ヌクレオチドより大きい分子、0%ホルムアミドおよび約40%のG+C含有量についての融解温度の計算に基づいている。または、T
mは、Sambrookら、前記、ページ9.31〜9.62に示されているように、経験的に計算されうる。一般的に、洗浄条件は、可能な限りストリンジェントであるべきであり、その選択されたハイブリダイゼーション条件に対して適切であるべきである。例えば、ハイブリダイゼーション条件は、特定のハイブリッドの計算されたT
mより約20℃〜約25℃低い、塩および温度条件の組み合わせを含んでもよく、かつ洗浄条件は、典型的には、その特定のハイブリッドの計算されたT
mより約12℃〜約20℃低い、塩および温度条件の組み合わせを含む。DNA:DNAハイブリッドでの使用に適するハイブリダイゼーション条件の一つの例は、約42℃で6X SSC(50%ホルムアミド)中での2時間〜24時間のハイブリダイゼーション、続いて、室温で約2X SSC中での1回またはそれ以上の洗浄を含む洗浄段階、続いて、より高い温度およびより低いイオン強度での追加の洗浄(例えば、約37℃で約0.1X〜0.5X SSC中での少なくとも1回の洗浄、続いて、約68℃で約0.1X〜0.5X SSC中での少なくとも1回の洗浄)を含む。
【0109】
本発明のもう一つの態様は、本明細書に記載されているPUFA PKS系の少なくとも1つのドメインの生物活性を有するアミノ酸配列をコードする核酸配列を含む核酸分子および組換えベクターを含む組換え核酸分子を含む。そのような核酸配列は上で詳細に記載されている。本発明により、組換えベクターは、選択の核酸配列を操作することおよびそのような核酸配列を宿主細胞へ導入することのための道具として使用される操作された(すなわち、人工的に作製された)核酸分子である。それゆえに、その組換えベクターは、組換え細胞を形成するために選択の核酸配列を宿主細胞へ発現するおよび/または送達することによるような、選択の核酸配列をクローニング、シーケンシング、および/または別なふうに操作することに使用するのに適する。そのようなベクターは、典型的には、本来、クローニングまたは送達される核酸配列に隣接して見出されない核酸配列である、異種性核酸配列を含むが、そのベクターはまた、本来本発明の核酸分子に隣接して見出される、または本発明のその核酸分子の発現のために有用である制御核酸配列(例えば、プロモーター、非翻訳領域)を含みうる(下記で詳細に考察されている)。ベクターは、RNAまたはDNAのいずれか、原核生物または真核生物のいずれかであってもよく、および典型的にはプラスミドである。ベクターは染色体外要素(例えば、プラスミド)として維持されうる、またはそれは組換え生物(例えば、微生物または植物)の染色体へと組み込まれうる。ベクター全体が宿主細胞内のしかるべき所へとどまりうる、またはある特定の条件下で、そのプラスミドDNAが除去されて、本発明の核酸分子をあとに残しうる。その組み込まれた核酸分子は、染色体のプロモーター制御下、本来のもしくはプラスミドのプロモーター制御下、またはいくつかのプロモーターの組み合わせの制御下でありうる。核酸分子の1個または複数個のコピーが染色体へ組み込まれうる。本発明の組換えベクターは少なくとも1つの選択マーカーを含みうる。
【0110】
一つの態様において、本発明の組換え核酸分子において使用される組換えベクターは発現ベクターである。本明細書で用いられる場合、「発現ベクター」という用語は、コード化された産物(例えば、対象となるタンパク質)の産生のために適しているベクターを指すために用いられる。この態様において、産生される産物(例えば、PUFA PKSドメイン)をコードする核酸配列は、組換え核酸分子を産生するために組換えベクターへ挿入される。産生されるタンパク質をコードする核酸配列は、その核酸配列を組換え宿主細胞内でその核酸配列の転写および翻訳を可能にするベクター中の制御配列へ機能的に連結する様式でベクターへ挿入される。
【0111】
もう一つの態様において、本発明の組換え核酸分子において使用される組換えベクターは、ターゲティングベクターである。本明細書で用いられる場合、「ターゲティングベクター」という用語は、特定の核酸分子を組換え宿主細胞へ送達するために使用されるベクターを指すために用いられ、その核酸分子は、その宿主細胞または微生物内で内因性遺伝子を除去するまたは不活化するために用いられる(すなわち、標的化された遺伝子の破壊またはノックアウト技術のために用いられる)。そのようなベクターはまた、「ノックアウト」ベクターとして当技術分野において知られている場合がある。この態様の一つの局面において、ベクターの部分、しかしより典型的には、ベクターに挿入された核酸分子(すなわち、挿入断片)は、宿主細胞における標的遺伝子(すなわち、標的化されて除去されるまたは不活化される遺伝子)の核酸配列と相同性がある核酸配列を有する。ベクター挿入断片の核酸配列は、標的遺伝子に結合して、標的遺伝子および挿入断片が相同組換えを受けるように設計され、それにより、内因性標的遺伝子は除去される、不活化されるまたは減弱される(すなわち、内因性標的遺伝子の少なくとも部分が変異されるまたは除去されることにより)。
【0112】
典型的には、組換え核酸分子は、1つまたは複数の転写制御配列へ機能的に連結された本発明の少なくとも1つの核酸分子を含む。本明細書で用いられる場合、「組換え分子」または「組換え核酸分子」という用語は、本来、転写制御配列へ機能的に連結された核酸分子または核酸配列を指すが、そのような核酸分子が本明細書で考察されるような組換え分子である場合、「核酸分子」という用語と交換可能に用いることができる。本発明により、「機能的に連結された」という用語は、分子が宿主細胞へトランスフェクションされる(すなわち、形質転換される、形質導入される、トランスフェクションされる、結合される、または導かれる)場合発現されることができるような様式において核酸分子を転写制御配列へ連結することを指す。転写制御配列は、転写の開始、伸長、または終結を制御する配列である。特に重要な転写制御配列は、プロモーター、エンハンサー、オペレーター、およびリプレッサー配列のような転写開始を制御するものである。適する転写制御配列は、その組換え核酸分子が導入されることになっている宿主細胞または生物において機能することができるいずれの転写制御配列も含む。
【0113】
本発明の組換え核酸分子はまた、翻訳制御配列、複製開始点のような追加の制御配列、およびその組換え細胞に適合性のある他の制御配列も含みうる。一つの態様において、本発明の組換え分子は、宿主細胞染色体へ組み込まれるものも含めて、発現されるタンパク質がそのタンパク質を産生する細胞から分泌されることを可能にする分泌シグナル(すなわち、シグナルセグメント核酸配列)もまた含む。適するシグナルセグメントは、発現されるそのタンパク質と本来関連しているシグナルセグメント、または本発明によるそのタンパク質の分泌を方向づける能力があるいずれの異種性シグナルセグメントをも含む。もう一つの態様において、本発明の組換え分子は、発現されるタンパク質が宿主細胞の膜へ送達されかつ挿入されることを可能にするリーダー配列を含む。適するリーダー配列は、そのタンパク質と本来関連しているリーダー配列、またはそのタンパク質の細胞の膜への送達および挿入を方向づける能力があるいずれの異種性リーダー配列も含む。
【0114】
本発明者らは、シゾキトリウムPUFA PKS OrfAおよびOrfBがゲノムにおいて接近して連結されていることを見出し、そのOrf間の領域がシーケンシングされた。そのOrfは反対の方向へ指向され、4244塩基対がその開始(ATG)コドンを分離している(すなわち、それらは次のように配置されている:3'OrfA5'−4244bp−5'OrfB3')。4244 bpの遺伝子間の領域の調査により、いずれの明らかなOrfも示されなかった(BlastX検索において有意な整合は見出されなかった)。OrfAおよびOrfBの両方は、少なくとも油生成の時の間、シゾキトリウムにおいて高レベルで発現されており、この遺伝子間領域に活性のあるプロモーターエレメントが埋め込まれていることを暗示している。これらの遺伝子エレメントは、遺伝子組換え適用のための二方向性のプロモーター配列として有用性をもつと考えられている。例えば、好ましい態様において、この領域をクローニングし、各末端に対象となる任意の遺伝子を置き、そしてその構築物をシゾキトリウム(またはそのプロモーターが機能することが示されうる何かの他の宿主)へ導入することができるかもしれない。その制御エレメントは、適当な条件下で、その2つの導入された遺伝子の協調された高レベルの発現を提供するであろうと予想される。シゾキトリウムPUFA PKS制御エレメント(例えば、プロモーター)を含む制御領域についての完全なヌクレオチド配列は、配列番号:36として本明細書に表されている。
【0115】
同様の様式において、OrfCは油生成の時の間、シゾキトリウムにおいて高レベルで発現されており、制御エレメントがその開始コドンの上流の領域に存在することが予想される。OrfCの上流のゲノムDNAの領域がクローニングかつシーケンシングされ、本明細書に配列番号:37として表されている。この配列は、OrfC開始コドンのすぐ上流に3886 ntを含む。この領域の調査により、いずれの明らかなOrfも示されなかった(すなわち、BlastX検索において有意な整合は見出されなかった)。この領域に含まれる制御エレメントは、適当な条件下で、それらの後に配置された遺伝子の高レベルの発現を提供するだろうと考えられる。さらに、適当な条件下で、発現のレベルは、A-B遺伝子間領域(配列番号:36)の制御下の遺伝子と共に協調されうる。
【0116】
それゆえに、一つの態様において、本発明において有用な組換え核酸分子は、本明細書に開示されているように、配列番号:36および/または配列番号:37内に含まれるPUFA PKS制御領域を含みうる。そのような制御領域は、少なくとも基礎的なPUFA PKS転写活性をもつ配列番号:36および/または配列番号:37のいずれの部分(断片)をも含みうる。
【0117】
本発明の1つまたは複数の組換え分子は、本発明のコード化された産物(例えば、PUFA PKSドメイン、タンパク質、または系)を産生するために使用されうる。一つの態様において、コード化された産物は、そのタンパク質を産生するために効果的な条件下で本明細書に記載されるような核酸分子を発現することにより産生される。コード化されたタンパク質を産生するための好ましい方法は、組換え細胞を形成するために1つまたは複数の組換え分子で宿主細胞をトランスフェクションすることによる。トランスフェクションする適する宿主細胞は、限定されるものではないが、トランスフェクションされうるいずれの細菌、真菌(例えば、酵母)、昆虫、植物または動物の細胞も含む。宿主細胞は、非トランスフェクション化細胞またはすでに少なくとも1つの他の組換え核酸分子でトランスフェクションされている細胞のいずれでもありうる。
【0118】
本発明により、「トランスフェクション」という用語は、外因性核酸分子(すなわち、組換え核酸分子)が細胞へ挿入されうる任意の方法を指すために用いられる。「形質転換」という用語が藻類、細菌および酵母のような微生物細胞への核酸分子の導入を指すために用いられる場合、「トランスフェクション」という用語と交換可能に用いることができる。微生物系において、「形質転換」という用語は、その微生物の外因性核酸の獲得による遺伝する変化を記載するために用いられ、「トランスフェクション」という用語と本質的に同義である。しかしながら、動物細胞において、形質転換は、例えば、癌になった後の細胞の増殖特性における変化を指しうるという第二の意味を有している。それゆえ、混乱を避けるために、「トランスフェクション」という用語は、好ましくは、動物細胞への外因性核酸の導入に関して用いられ、かつ「トランスフェクション」という用語は、一般的に、その用語が細胞への外因性核酸の導入に関係する範囲まで、動物細胞、植物細胞のトランスフェクションおよび微生物細胞の形質転換を含むように本明細書で用いられるものとする。それゆえ、トランスフェクション技術は、限定されるものではないが、形質転換、パーティクルボンバードメント、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、リポフェクション、吸着、感染、およびプロトプラスト融合を含む。
【0119】
組換えDNA技術の使用は、例えば、宿主細胞内の核酸分子のコピー数、それらの核酸分子が転写される効率、その結果として生じる転写物が翻訳される効率、および翻訳後の改変の効率を操作することにより、トランスフェクションされた核酸分子の発現の制御を向上することができることは、当業者に認識されているものと思われる。さらに、プロモーター配列は、天然のプロモーターと比較して発現レベルを向上させるために遺伝子操作されることも可能であろう。核酸分子の発現を制御するために有用な組換え技術は、限定されるものではないが、1つまたは複数の宿主細胞染色体への核酸分子の組み込み、プラスミドへのベクター安定性配列の付加、転写制御シグナル(例えば、プロモーター、オペレーター、エンハンサー)の置換または改変、翻訳制御シグナル(例えば、リボソーム結合部位、シャイン-ダルガノ配列)の置換または改変、宿主細胞のコドン使用に対応するための核酸分子の改変、および転写物を不安定化させる配列の除去を含む。
【0120】
組換え核酸分子および宿主細胞のトランスフェクションに関しての上記の一般的な考察は、PUFA PKSからの少なくとも1つのドメインの生物活性を有する任意のアミノ酸配列をコードするもの、他のPKS系からのアミノ酸配列をコードするもの、および他のタンパク質またはドメインをコードするものを含む、本明細書で考察されているいずれの組換え核酸分子にも適用されるものとする。
【0121】
本発明はまた、構造、ドメイン構成、および/または機能においてシゾキトリウムPUFA PKS系と相同性があるPUFA PKS系を有する微生物を同定するための新規方法の使用に関する。一つの態様において、その微生物は非細菌の微生物であり、および好ましくは、この方法により同定される微生物は真核生物の微生物である。さらに、本発明は、そのような方法により同定される微生物、ならびに本発明によるPUFA PKS系についての様々な適用(例えば、生物活性分子を産生する遺伝子操作された生物および方法)におけるこれらの微生物およびこれらの微生物由来のPUFA PKS系の使用に関する。本明細書に記載かつ実証されている特有なスクリーニング方法は、本発明のシゾキトリウムPUFA PKS系と相同的なPUFA PKS系を含む新規の微生物株の迅速な同定を可能にする。本出願人らは、この方法を用いて、スラウストキトリウム微生物がシゾキトリウムで見出されるものと相同性があるPUFA PKS系を含んでいることを発見し、本明細書に開示した。この発見は、下の実施例2において詳細に記載されている。
【0122】
本発明者らにより発見され、実施例2に記載されているスラウストキトリウム微生物のような、シゾキトリウムに見出されるものと類似したPUFA PKS系をもつ微生物は、以下の方法を別々にまたはこれらの方法の任意の組み合わせにおいて使用することにより容易に同定/単離/スクリーニングされうる。
【0123】
一般的に、高度不飽和脂肪酸(PUFA)ポリケチドシンターゼ(PKS)系を有する非細菌の微生物を同定するための方法は、(a)少なくとも1つのPUFAを産生する微生物を選択することの第一段階;および(b)発酵培地において、5%の飽和度より大きい、より好ましくは10%の飽和度より大きい、より好ましくは15%の飽和度より大きい、およびより好ましくは20%の飽和度より大きい溶存酸素条件下でのその微生物によるPUFAの産生と比較して、発酵培地において約5%の飽和度未満の溶存酸素条件下で増加したPUFAを産生する能力をもつ(a)由来の微生物を同定することの第二段階を含む。少なくとも1つのPUFAを産生し、かつ約5%の飽和度未満の溶存酸素条件下で増加したPUFAを産生する能力をもつ微生物は、PUFA PKS系を含むことについての候補として同定される。PUFA PKS系を含むことについての有力な候補である微生物を同定した後、方法は、段階(b)で同定された生物がPUFA PKS系を含むかどうかを検出することの追加の段階(c)を含みうる。
【0124】
本発明の一つの態様において、段階(b)は、低酸素/無酸素条件および好気的条件においてそのスクリーニング工程として選択される微生物を培養することにより行われ、その生物においてPUFA含有量を測定することに加えて、脂肪量と同様に、脂肪酸プロファイルが測定される。低酸素/無酸素条件下での結果を好気的条件下での結果と比較することにより、方法は、その試験微生物が本発明のPUFA PKS系を含むかどうかの有力な指標を提供する。この好ましい態様は下で詳細に記載されている。
【0125】
初めに、PUFA PKS系の存在について調べられる微生物株は、多数の細胞(微生物バイオマス)の産生を誘導するために好気的条件下で培養される。同定工程の一つの要素として、これらの細胞は、その後、低酸素または無酸素の培養条件(例えば、培養培地において、溶存酸素約5%の飽和度未満、より好ましくは約2%未満、さらにより好ましくは約1%未満、および最も好ましくは約0%の飽和度の溶存酸素)下に置かれ、さらに約24時間〜72時間増殖させておく。この工程において、微生物は、約15℃より高い、好ましくは約20℃より高い、より好ましくは約25℃より高い、およびさらにより好ましくは30℃より高い温度で培養されるべきである。低または無酸素の培養環境は、チャンバー内において(およびそれに伴い培養物において)この型の大気環境を誘導することができる培養チャンバーにおいて、または培養フラスコ/容器自身において直接的に低酸素環境を誘導する様式で細胞を培養することにより、容易に維持されうる。
【0126】
好ましい培養方法において、振盪機台上で振盪する際に培地を通気させておくために標準的に少量の培養培地(全容量の約50%未満および通常では全容量の約25%未満)を含むことにしないで、その代わりとして、それらの容量の約50%より多く、より好ましくは約60%より多く、および最も好ましくはそれらの容量の約75%より多くまで、培養培地で満たされる振盪フラスコ中で微生物が培養されうる。培養培地での振盪フラスコの高負荷により、それが振盪機台に置かれる場合、フラスコ中でそれが十分に混合されることが妨げられ、その培養物への酸素拡散が防がれる。それゆえ、微生物が増殖するにつれて、それらは培地に現存する酸素を使い果たし、振盪フラスコ中に低または無酸素環境を自然に形成する。
【0127】
培養期間後、細胞は収集され、対象となる生物活性化合物(例えば、脂質)の含有量についてであるが、最も詳しくは、2つまたはそれ以上の不飽和結合、より好ましくは3つまたはそれ以上の二重結合、およびさらにより好ましくは4つまたはそれ以上の二重結合を含む化合物について分析される。脂質について、そのような化合物をその微生物の乾燥重量の約5%より多く、好ましくは約10%より多く、より好ましくは約15%より多く、およびさらにより好ましくは約20%より多くにおいて有するそれらの株が、予想通り上記の型の新規PKS系を含むとして同定される。抗生物質またはより少量で合成される化合物のような他の生物活性化合物について、そのような化合物をその微生物の乾燥重量の約0.5%より多く、より好ましくは約0.1%より多く、より好ましくは約0.25%より多く、より好ましくは約0.5%より多く、より好ましくは約0.75%より多く、より好ましくは約1%より多く、より好ましくは約2.5%より多く、およびより好ましくは約5%より多くにおいて有するそれらの株は、予想通り上記の型の新規PKS系を含むとして同定される。
【0128】
または、もしくはこの方法と共に、本明細書に記載されているような新規PUFA PKS系を含むと予想される微生物株は、その株の脂肪酸プロファイル(その生物を培養することにより得られる、または発表されたもしくは他の容易に入手可能な情報源を通して)を調べることにより同定されうる。その微生物が、その全脂肪酸の約30%より多く、好ましくは約40%より多く、より好ましくは約45%より多く、およびさらにより好ましくは約50%より多く、C14:0、C16:0および/またはC16:1として含み、一方、3つまたはそれ以上の不飽和結合、より好ましくは4つまたはそれ以上の二重結合、より好ましくは5つまたはそれ以上の二重結合、およびさらにより好ましくは6つまたはそれ以上の二重結合をもつ少なくとも1つの長鎖脂肪酸を産生しているならば、この微生物株は本発明に記載される型の新規PUFA PKS系を所有する可能性の高い候補として同定される。上記の低酸素条件下でのこの生物のスクリーニング、および2つまたはそれ以上の不飽和結合を含む生物活性分子の生成を確認することにより、その生物における新規PUFA PKS系の存在が示唆されるものであり、その微生物のゲノムの分析によりさらに確証されうるものと思われる。
【0129】
この方法の成功は、C17:0および/またはC17:1脂肪酸を含むこと(上記のC14:0、C16:0およびC16:1脂肪酸の大きなパーセンテージと共に)が知られている真核生物系統をスクリーニングすることによっても高めることができる。なぜなら、C17:0およびC17:1脂肪酸は、細菌(原核生物)に基づくまたは影響される脂肪酸生成系についての可能性のあるマーカーであるからである。新規PUFA PKS系を含む系統を同定するためのもう一つのマーカーは、その生物による単純な脂肪酸プロファイルの生成である。本発明により、「単純な脂肪酸プロファイル」は、全脂肪酸の10%より多いレベルにおいてその系統により生成される8個またはそれ以下の脂肪酸として定義される。
【0130】
これらの方法またはマーカーのいずれかの使用(単独にまたは好ましくは組み合わせて)により、本発明に記載される型の新規PUFA PKS系を含むことが高度に予想される微生物株を当業者が容易に同定することが可能になるものと思われる。
【0131】
上記の多くの方法およびマーカーを結合する好ましい態様において、PUFA生成PKS系を含む微生物を検出するために新規生物原理的スクリーニング(振盪フラスコ培養を用いる)が開発された。このスクリーニング系は以下のように行われる。
【0132】
試験される株/微生物の培養物の一部を50 mL培養培地を含む250 mLバッフル化振盪フラスコに入れ(好気的処理)、同じ株の培養物の別の一部を200 mL培養培地を含む250 mL非バッフル化振盪フラスコに入れる(無酸素/低酸素処理)。評価される微生物のタイプおよび株に依存して、様々な培養培地が使用されうる。両方のフラスコを200 rpmでの振盪機台に置く。培養時間の48時間〜72時間後、その培養物を遠心分離により収集し、その細胞を各培養物について以下のデータを測定するためにガスクロマトグラフィーにより脂肪酸メチルエステル含有量について分析する:(1)脂肪酸プロファイル;(2)PUFA含有量;および(3)脂肪含有量(全脂肪酸量/細胞乾燥重量として近似される)。
【0133】
これらのデータは、その後、以下の5つの質問を問うことで分析される(はい/いいえ):
低O2/無酸素フラスコからのデータの好気性フラスコからのデータとの比較
(1)DHA(または他のPUFA含有量)(%FAME(脂肪酸メチルエステル)として)は、低酸素培養において、好気性培養と比較して、同じくらいにまたは好ましくは増加してとどまっていたか?
(2)無酸素培養において、C14:0 + C16:0 + C16:1は、約40%TFAより大きいか?
(3)無酸素培養において、通常の酸素依存性エロンガーゼ/デサチュラーゼ経路への前駆体(C18:3n-3 + C18:2n-6 + C18:3n-6)がほとんどない(FAMEとして< 1%)または全くないか?
(4)脂肪含有量(全脂肪酸量/細胞乾燥重量として)は、低酸素培養において、好気性培養と比較して増加したか?
(5)DHA(または他のPUFA含有量)は、低酸素培養において、好気性培養と比較して、%細胞乾燥重量として増加したか?
【0134】
最初の3つの質問が「はい」と回答される場合には、これは、その株が長鎖PUFAを生成するためのPKS遺伝子系を含んでいることの良い徴候である。「はい」と回答される質問が多いほど(好ましくは、最初の3つの質問が「はい」と回答されなければならない)、その株がそのようなPKS遺伝子系を含んでいる徴候は強くなる。すべての5つの質問が「はい」と回答されるならば、その株が長鎖PUFAを生成するためのPKS遺伝子系を含んでいるという非常に強い徴候がある。18:3n-3/18:2n-6/18:3n-6の欠如は、低酸素条件がPUFA合成のための通常の経路を遮断したまたは阻害したであろうことを示しているものと思われる。高14:0/16:0/16:1脂肪は、細菌に影響される脂肪酸合成プロファイル(C17:0およびC17:1の存在もまたあり、これの指標である)および単純な脂肪酸プロファイルの予備的指標である。低酸素条件下での増加したPUFA合成およびPUFA含有脂肪合成は、直接的にPUFA PKS系を示している、なぜなら、この系は高度に不飽和化した脂肪酸を生成するために酸素を必要としないからである。
【0135】
最後に、本発明の同定方法において、有力な候補が同定されたならば、その微生物は、好ましくは、その微生物がPUFA PKS系を含んでいるかどうかを検出するためにスクリーニングされる。例えば、その微生物のゲノムは、本明細書に記載されるようなPUFA PKS系のドメインをコードする1つまたは複数の核酸配列の存在を検出するためにスクリーニングされうる。好ましくは、この検出段階は、対象となる微生物における1つまたは複数の核酸配列のハイブリダイゼーション、増幅および/またはシーケンシングのような適する核酸検出方法を含む。検出方法に使用されるプローブおよび/またはプライマーは、米国特許第6,140,486号に記載される海洋細菌PUFA PKS系、または米国特許出願第09/231,899号および本明細書に記載されるスラウストキトリドPUFA PKS系を含む、いずれの公知のPUFA PKS系にも由来しうる。新規PUFA PKS系が同定されたならば、これらの系からの遺伝子材料はまた、追加の新規PUFA PKS系を検出するために使用されうる。配列の同定および検出を目的とする核酸のハイブリダイゼーション、増幅およびシーケンシングの方法は、当技術分野においてよく知られている。これらの検出方法を用いて、配列相同性およびドメイン構造(例えば、様々なPUFA PKS機能性ドメインの存在、数および/または配置)が、評価され、本明細書に記載される既知のPUFA PKS系と比較されうる。
【0136】
いくつかの態様において、PUFA PKS系は、生物アッセイ法を用いて同定されうる。例えば、米国特許出願第09/231,899号、実施例7において、いくつかの型の脂肪酸合成系の周知の阻害剤、すなわち、チオラクトマイシン(thiolactomycin)を用いる鍵となる実験の結果が記載されている。その発明者らは、シゾキトリウムの全細胞におけるPUFAの合成が短鎖飽和脂肪酸の合成を遮断することなく特異的に遮断されうることを示した。この結果の意義は以下の通りである:発明者らは、シゾキトリウム由来のcDNA配列の分析から、I型脂肪酸シンターゼ系がシゾキトリウムに存在していることを知った。チオラクトマイシンがI型FAS系を阻害しないことは知られていたが、これはその発明者らのデータと一致している。すなわち、飽和脂肪酸(シゾキトリウムにおいては主としてC14:0およびC16:0)の生成はチオラクトマイシン処理により阻害されなかった。チオラクトマイシンがC14:0もしくはC16:0脂肪酸の伸長またはそれらの不飽和化(すなわち、古典的な経路による短鎖飽和脂肪酸のPUFAへの変換)にいくらかの阻害効果をもっているという指摘は、その文献またはその発明者自身のデータにおいてはない。それゆえ、シゾキトリウムにおけるPUFA生成がチオラクトマイシンにより遮断されたという事実は、古典的なPUFA合成経路がシゾキトリウムにおいてPUFAを生成しないというより、むしろ合成の異なる経路が関与していることを強く示している。さらに、シュワネラPUFA PKS系がチオラクトマイシンにより阻害される(本発明のPUFA PKS系はI型およびII型の両方の系のエレメントを有することに留意)ことが以前に測定されており、かつチオラクトマイシンはII型FAS系(大腸菌において見出されるもののような)の阻害剤であることが知られていた。それゆえ、この実験より、シゾキトリウムはI型FASを含まない経路の結果としてPUFAを生成することが示された。同様の原理および検出段階は、本明細書に開示される新規のスクリーニング方法を用いて同定される微生物におけるPUFA PKS系を検出するために使用されうる。
【0137】
さらに、実施例3は、シゾキトリウムにおけるPUFAは古典的経路により生成されない(すなわち、C16:0とDHA間の前駆体生成物の動態が全細胞において観察されず、かつインビトロでのPUFA合成は膜画分から分離されうる;その系列の第一の二重結合を挿入するデルタ9デサチュラーゼを除いて、その古典的PUFA合成経路の脂肪酸デサチュラーゼのすべては細胞膜に結合している)という証拠を提供する追加的な生化学的データを示している。この型の生化学データは、上記の新規のスクリーニング方法により同定される微生物におけるPUFA PKS活性を検出するために使用されうるものと思われる。
【0138】
本発明のスクリーニング/同定方法を用いてスクリーニングする好ましい微生物株は、細菌、藻類、真菌、原生動物または原生生物からなる群より選択されるが、最も好ましくは、藻類、真菌、原生動物および原生生物からなる真核生物の微生物から選択される。これらの微生物は、好ましくは、約15℃より高い、より好ましくは約20℃より高い、さらにより好ましくは約25℃より高い、および最も好ましくは約30℃より高い温度で、増殖および2つまたはそれ以上の不飽和結合を含む生物活性化合物の産生の能力がある。
【0139】
本発明のこの方法のいくつかの態様において、約20℃を超える、好ましくは約25℃を超える、およびさらにより好ましくは約30℃を超える温度でPUFAを生成する新規の細菌のPUFA PKS系が細菌において同定されうる。本明細書で前に記載されているように、米国特許第6,140,486号に記載される海洋細菌、シュワネラおよびビブリオ・マリナスは、高い方の温度ではPUFAを産生せず、これらの細菌由来のPUFA PKS系の実用性を、特に野外条件下での植物の適用において、制限する。それゆえ、一つの態様において、本発明のスクリーニング方法は、高い方の温度(例えば、約20℃、25℃または30℃より上)で増殖およびPUFA生成の能力があるPUFA PKS系を有する細菌を同定するために使用されうる。この態様において、ナイスタチン(抗真菌性)またはシクロヘキシミド(真核生物のタンパク質合成の阻害剤)のような真核生物増殖の阻害剤が、下に記載されるタイプの生息地/ニッチから収集される水試料/土壌試料から最初の株を培養/選択するために使用される寒天プレートに添加されうる。この工程は、真核生物株の混入なしの(または最小限の)細菌株の濃縮のための選択を助けるものである。この選択工程は、高められた温度(例えば、30℃)でプレートを培養し、その後少なくとも1つのPUFAを産生する株を選択することと組み合わせて、高められた温度で効力のあるPUFA PKS系を有する候補の細菌株(約20℃未満およびより好ましくは約5℃未満の温度においてのみPUFA生成を示す先行文献におけるそれらの細菌株とは対照的に)を最初に同定するものである。
【0140】
本発明によるPUFA PKS系のためのスクリーニングについて好ましいタイプの微生物の収集場所は、以下のいずれかを含む:微生物または微生物含有食品を消費する(濾過摂食生物の型を含む)無脊椎動物を含む動物の消化管中を含む低酸素環境(またはこれらのタイプの低酸素環境近くの場所)、低または無酸素含有の水中生息地(淡水、塩水および海を含む)、および特に海洋における低酸素環境(領域)地点または近く。微生物株は、好ましくは、偏性嫌気性菌ではなく、好気性および低または無酸素の環境の両方において生きることに適合している方がよい。好気的および低酸素または無酸素の環境の両方を含む土壌環境もまた、これらの生物を見出すすばらしい環境であると思われ、特に、水中生息地または一時的水中生息地におけるこれらのタイプの土壌においてそうであると思われる。
【0141】
特に好ましい微生物株は、その生活環の一部の間、食作用、食作用栄養生物もしくはエンドサイトーシスの能力のような機構により細菌細胞全体を消費する能力がある(細菌食性)および/またはそれがアメーバ状期もしくは裸のプロトプラストとして存在するその生活環の時期をもつ株(藻類、真菌(酵母を含む)、原生動物または原生生物からなる群より選択される)であると考えられる。この栄養物摂取の方法は、間違いが起こり、その細菌細胞(またはそのDNA)は消化されず、その代わりとして、真核細胞へと機能的に組み入れられている場合での細菌のPKS系の真核細胞への移行についての可能性を大いに強めているものと思われる。
【0142】
細菌食性(特に、食作用またはエンドサイトーシスによる)の能力がある微生物(スラウストキトリドのメンバー以外)の株は、以下の微生物綱に見出されうる(例示の属を含むがこれらに限定されない)。
【0143】
藻類および藻類様微生物(ストラメノパイル(stramenopiles)を含む)において:ユーグレナ藻綱(Euglenophyceae)(例として、属ユーグレナ(Euglena)およびペラネマ(Peranema))、緑藻綱(Chrysophyceae)(例として、属オクロモナス(Ochromonas))、サヤツナギ綱(Dinobryaceae)(例として、属サヤツナギ(Dinobryon)、プラチクリシス(Platychrysis)およびクリソクロムリナ(Chrysochromulina))、渦鞭毛藻綱(Dinophyceae)(属クリプセコディニウム(Crypthecodinium)、ギムノジニウム(Gymnodinium)、ペリジリウム(Peridinium)、セラチウム(Ceratium)、ギロジニウム(Gyrodinium)およびオキシルリス(Oxyrrhis))、クリプト藻綱(Cryptophyceae)(例として、属クリプトモナス(Cryptomonas)およびロドモナス(Rhodomonas))、黄緑藻綱(Xanthophyceae)(例として、オリストディスカス属(Olisthodiscus))(かつ、鞭毛虫リゾクロリス類(Rhizochloridaceae)ならびにアファノカエテパシェリ(Aphanochaete pascheri)、ブミレリアスティゲオクロニウム(Bumilleria stigeoclonium)およびバウケリアゲミナタ(Vaucheria geminata)の遊走子/配偶子においてのようなアメーバ状期を生じる藻類の品種を含む)、真正眼点藻綱(Eustigmatophyceae)およびプリムネシウム藻綱(Prymnesiopyceae)(属プリムネシウム(Prymnesium)およびディアクロネマ(Diacronema)を含む)。
【0144】
ストラメノパイルにおいて:プロテロモナス類(Proteromonads)、オパリナ類(Opalines)、デベロッパイエラ(Developayella)、ディプロフォリス(Diplophorys)、ラビリンチュラ類(Labyrinthulids)、スラウストキトリド(Thraustochytrids)、ビコセシド(Bicosecids)、卵菌類(Oomycetes)、サカゲツボカビ類(Hypochytridiomycetes)、コマチオン(Commation)、レチキュロスファエラ(Reticulosphaera)、ペラゴモナス(Pelagomonas)、ペラポコッカス(Pelapococcus)、オリコラ(Ollicola)、オーレオコッカス(Aureococcus)、パルマ類(Parmales)、ラフィド藻類(Raphidiophytes)、シヌリド(Synurids)、リゾクロムリナーレス(Rhizochromulinaales)、ペディネルラ類(Pedinellales)、ディクチオカ類(Dictyochales)、クリソメリダレス(Chrysomeridales)、サルキノクリシス類(Sarcinochrysidales)、ヒドルラレス(Hydrurales)、ヒベルディアレス(Hibberdiales)、およびクロムリナレス(Chromulinales)を含む。
【0145】
菌類界において:変形菌綱(Myxomycetes)(品種粘液アメーバ)--粘液カビ(slime mold)、アクラシ目(Acrasiceae)(例として、属サッピニア(Sappinia))を含むアクラシ綱(Acrasieae)、グッツリナ綱(Guttulinaceae)(例として、属グッツリノプシス(Guttulinopsis)およびグッツリナ(Guttulina))、ディクチオステリウム綱(Dictysteliaceae)(例として、属アクラシス(Acrasis)、ディクチオステリウム(Dictyostelium)、ポリスフォンジリウム(Polysphondylium)およびコエノニア(Coenonia))、ならびに目ツボカビ(Chytridiales)、アンシリスタレス(Ancylistales)、コウマクノウキン(Blastocladiales)、サヤミドロモドキ(Monoblepharidales)、ミズカビ(Saprolegniales)、ツユカビ(Peronosporales)、ケカビ(Mucorales)、およびハエカビ(Entomophthorales)を含む藻菌類。
【0146】
原生動物界において:細菌食性(食作用によるものを含む)の可能な生活期をもつ原生動物系統は、繊毛虫、鞭毛虫またはアメーバとして分類される型から選択されうる。原生動物界の繊毛虫は、以下の群を含む:漏斗類(Chonotrichs)、コルポダ類(Colpodids)、キルトス類(Cyrtophores)、ハプトリド(Haptorids)、原始大核類(Karyorelicts)、貧膜口類(Oligohymenophora)、ポリメノフォル類(Polyhymenophora)(スピロトリカ類(spirotrichs))、原口類(Prostomes)および吸管虫類(Suctoria)。原生動物界の鞭毛虫は、ビオソエシド(Biosoecids)、ボドニド(Bodonids)、セルコモナド(Cercomonads)、黄金色植物(Chrysophytes)(例として、属アンソファイサ(Anthophysa)、クリスアメーバ(Chrysamoemba)、クリソスファエレラ(Chrysosphaerella)、デンドロモナス(Dendromonas)、ディノブリヨン(Dinobryon)、マロモナス(Mallomonas)、オクロモナス(Ochromonas)、パラフィソモナス(Paraphysomonas)、ポテリオクロモナス(Poteriochromonas)、スプメラ(Spumella)、シンクリプタ(Syncrypta)、シヌラ(Synura)、およびウログレナ(Uroglena))、襟鞭毛虫類(Collar flagellates)、クリプト植物類(Cryptophytes)(例として、属フカミゾヒゲム(Chilomonas)、カゲヒゲムシ(Cryptomonas)、シアノモナス(Cyanomonas)、およびゴニオモナス(Goniomonas))、渦鞭毛虫類(Dinoflagellates)、ヒゲハラムシ類(Diplomonads)、ユーグレナ類(Euglenoids)、異形葉状根足虫類(Heterolobosea)、ペディネリド(Pedinellids)、ペロビオニト類(Pelobionts)、ファランステリイド(Phalansteriids)、シュードデンドロモナド(Pseudodendromonads)、スポンゴモナド(Spongomonads)およびオオヒゲマワリ類(Volvocales)(ならびにアルトディスカス(Artodiscus)、クラウトリアビア(Clautriavia)、ヘルケシマスティックス(Helkesimastix)、カタブレファリス(Kathablepharis)およびマルチシリア(Multicilia)の割り当てられていない鞭毛虫属を含む他の鞭毛虫類)を含む。アメーバ様原生動物は以下の群を含む:タイヨウチュウ類(Actinophryids)、カラタイヨウチュウ類(Cenrtohelids)、カゴメタイヨウチュウ類(Desmothoricids)、ディプロフィリド(Diplophyrids)、ユームアメーバ(Eumamoebae)、異形葉状根足虫類(Heterolobosea)、レプトミキシド(Leptomyxids)、ヌクレアリイド糸状アメーバ(Nucleariid filose amoebae)、ペレビオント(Pelebionts)、テステートアメーバ(Testate amoebae)およびバムピレリド(Vampyrellids)(ならびに割り当てられていないアメーバ属のギムノフィリス(Gymnophrys)、バイオミキサ(Biomyxa)、マイクロコメテス(Microcometes)、レチキュロミキサ(Reticulomyxa)、ベロノシスティス(Belonocystis)、エラエオルハニス(Elaeorhanis)、アレロゴロミア(Allelogromia)、グロミア(Gromia)またはリーベルクーニア(Lieberkuhnia)を含む)。原生動物目は以下のものを含む:ペルコロモナド目(Percolomonadeae)、異形葉状根足虫目(Heterolobosea)、リロモナド目(Lyromonadea)、シュードシリアタ(Pseudociliata)、トリコモナド目(Trichomonadea)、ケカムリ類(Hypermastigea)、ヘテロミテア(Heteromiteae)、テロネメア(Telonemea)、シアトボドネア(Cyathobodonea)、エブリデア(Ebridea)、ピイトミキシア(Pyytomyxea)、オパリネア(Opalinea)、キネトモナド目(Kinetomonadea)、ヘミマスティゲア(Hemimastigea)、プロトステレア(Protostelea)、ミキサガストレア(Myxagastrea)、ディクチョステレア(Dictyostelea)、コアノモナド目(Choanomonadea)、アピコモナド目(Apicomonadea)、エオグレガリネア(Eogregarinea)、ネオグレガリネア(Neogregarinea)、コエロトロルフェア(Coelotrolphea)、ユーコシデア(Eucoccidea)、ハエモスポレア(Haemosporea)、ピロプラスメア(Piroplasmea)、スピロトリケア(Spirotrichea)、プロストマテア(Prostomatea)、リトストマテア(Litostomatea)、フィロファリンゲア(Phyllopharyngea)、ナッソフォレア(Nassophorea)、貧膜口類(Oligohymenophorea)、コルポデア(Colpodea)、原始大核類(Karyorelicta)、ヌクレオヘレア(Nucleohelea)、カラタイヨウチュウ目(Centrohelea)、アカンタレア(Acantharea)、スティコロンケア(Stincholonchea)、ポリシスティネア(Polycystinea)、ファエオダレア(Phaeodarea)、葉状根足虫類(Lobosea)、糸状根足虫類(Filosea)、アタラメア(Athalamea)、モノタラメア(Monothalamea)、ポリタラメア(Polythalamea)、クセノフィオフォラ類(Xenophyophorea)、シゾクラデア(Schizocladea)、ホロセア(Holosea)、エントアメーバ目(Entamoebea)、ミキソスポレア(Myxosporea)、アクチノミキシア(Actinomyxea)、ハロスポレア(Halosporea)、パラミキシア(Paramyxea)、ロームボゾア(Rhomobozoa)、およびオルトネクテア(Orthonectea)。
【0147】
本発明の好ましい態様は、上記に列挙される好ましい生息地の一つから収集された上記に列挙される微生物の系統を含む。
【0148】
本発明の一つの態様は、上記の新規PUFA PKSスクリーニング方法を用いて同定される任意の微生物、PUFA PKS遺伝子およびそれらによりコードされるタンパク質、ならびに本明細書に記載される方法のいずれかにおけるそのような微生物および/またはPUFA PKS遺伝子およびタンパク質(それらの相同体および断片を含む)の使用に関する。特に、本発明は、本発明のスクリーニング方法により同定され、その後、PUFA PKS系により生物活性分子の生成を制御するように遺伝的に改変された生物を含む。
【0149】
本発明のさらにもう一つの態様は、スラウストキトリド微生物由来の高度不飽和脂肪酸(PUFA)ポリケチドシンターゼ(PKS)系の少なくとも1つの生物活性を有するドメインまたはその生物活性を有する断片をコードする核酸配列を含む単離された核酸分子に関する。上記で考察されているように、本発明者らは、PUFA PKS系を有する非細菌の微生物を同定するための方法を用いて、PUFA PKS系を含んでいるスラウストキトリアレスの追加のメンバーを同定することに成功した。3つのそのような微生物の同定は、実施例2に記載されている。具体的に言うと、本発明者らは、本発明のスクリーニング方法を用いて、PUFA PKS系を含むことが高度に予想されるスラウストキトリウム種(Thraustochytrium sp.)23B(ATCC20892)を同定し、続いて、本明細書に開示されるシゾキトリウムPUFA PKS遺伝子にハイブリダイズするスラウストキトリウム種23Bゲノムにおける配列を検出した。シゾキトリウム・リマシウム(Schizochytrium limacium)(IFO32693)およびウルケニア(Ulkenia)(BP-5601)もまた、PUFA PKS系を含んでいる有力な候補として同定された。これらのデータおよびヤブレツボカビ目のメンバー間の類似性に基づき、多くの他のスラウストキトリアレスPUFA PKS系が、本発明により提供される方法および道具を用いて現在容易に同定されうると考えられる。それゆえ、スラウストキトリアレスPUFA PKS系および部分および/またはそれらの相同体(例えば、タンパク質、ドメインおよびそれらの断片)、そのような系および部分および/またはそれらの相同体を含む遺伝的に改変された生物、ならびにそのような微生物およびPUFA PKS系を用いる方法が本発明に含まれる。
【0150】
開発により、スラウストキトリドの分類が改正された。分類学理論家は、スラウストキトリドを藻類または藻類様原生生物と定める。しかしながら、分類の不確定性のため、本発明に記載される株をスラウストキトリド(目:ヤブレツボカビ(スラウストキトリアレス(Thraustochytriales));科:スラウストキトリアシエ(Thraustochytriaceae);属:スラウストキトリウム(Thraustochytrium)、シゾキトリウム(Schizochytrium)、ラビリンチュロイデス(Labyrinthuloides)またはジャポノチトリウム(Japonochytrium))とみなすことが本発明の目的にとって最善であるものと思われる。本発明にとって、ラブリンチュリド(labrinthulid)のメンバーはスラウストキトリドに含まれるものとみなされる。分類変更は下記に要約されている。本明細書に開示されるある特定の単細胞生物の株は、ヤブレツボカビ目のメンバーである。スラウストキトリドは、進化する分類学的変遷をもつ海洋真核生物である。スラウストキトリドの分類学的配置についての問題は、モス(Moss)(1986)、バーンウェブ(Bahnweb)およびジャックル(Jackle)(1986)ならびにチャンベルライン(Chamberlain)およびモス(Moss)(1988)により概説されている。本発明により、「スラウストキトリド」、「スラウストキトリアレス微生物」および「ヤブレツボカビ目微生物」という用語は、交換可能に用いられうる。
【0151】
便宜上、スラウストキトリドは、最初、分類学者により藻菌類(Phycomycetes)(藻類様真菌)における他の無色遊走子真核生物と定められた。しかし、藻菌類(Phycomycetes)という名前は、結局、分類学的地位から落とされ、スラウストキトリドは、卵菌類(Oomycetes)(二鞭毛遊走子の真菌)に保持された。卵菌類(Oomycetes)は不等毛藻類に関連していると最初に想定され、結局、バール(Barr, 1981, Biosystems 14:359-370)により概説されているが、広範囲の超微細構造および生化学的研究がこの想定を裏付けた。卵菌類(Oomycetes)は、事実上、リーダレ(Leedale)(Leedale, 1974, Taxon 23:261-270)および他の藻類学者により不等毛藻類の群として認められた。しかしながら、卵菌類(Oomycetes)およびスラウストキトリドは、それらの従属栄養の性質に起因する便宜上、藻類学者(藻類を研究する科学者)よりもむしろ、菌学者(真菌を研究する科学者)により、十分に研究されてきた。
【0152】
別の分類学的観点から、進化生物学者は、いかにして真核生物は進化したかについての考えの2つの一般的な学派を発展させてきた。一つの学説は、一連の内部共生を通しての膜結合型細胞小器官の外因性起源を提案している(Margulis, 1970, Origin of Eukaryotic Cells. Yale University Press, New Haven);例えば、ミトコンドリアは細菌の内部共生に由来し、葉緑体は藍色植物に、および鞭毛はスピロヘータに由来した。他方の学説は、自生過程による、原核生物の祖先の非膜結合型系からの膜結合型細胞小器官の漸進的進化を示唆している(Cavalier-Smith, 1975, Nature(lond.) 256:462-468)。しかしながら、進化生物学者の両グループは、卵菌類(Oomycetes)およびスラウストキトリドを真菌から除去し、それらを有色植物界(Chromophyta)(Cavalier-Smith, 1981, BioSystems 14:461-481)(この界は、より最近に、他の原生生物を含むように拡大され、この界のメンバーは現在、ストラメノパイルと呼ばれている)における有色植物藻類かまたはプロトクチスタ(Protoctista)界における全藻類に定めている(MargulisおよびSagen, 1985, Biosystems 18:141-147)。
【0153】
電子顕微鏡の発達で、スラウストキトリドの2つの属、スラウストキトリウムおよびシゾキトリウム(Perkins, 1976, pp.279-312 「Recent Advances in Aquatic Mycology」(E.B.G. Jones編), John Wiley & Sons, New York; Kazama, 1980, Can J. Bot. 58:2434-2446; Barr, 1981, Biosystems 14:359-370)の遊走子の超微細構造についての研究により、スラウストキトリアシエが卵菌類(Oomycetes)にわずかに遠く関連しているのみという有力な証拠が提供された。さらに、5SリボソームRNA配列の一致分析(多変量統計学の型)を表す遺伝子データより、スラウストキトリアレスは明らかに、真菌と完全に区別される、真核生物の独自の群であり、赤色および茶色藻類、ならびに卵菌類(Oomycetes)のメンバーに最も近く関連していることが示されている(Mannellaら、1987, Mol. Evol. 24:228-235)。ほとんどの分類学者は、スラウストキトリドを卵菌類(Oomycetes)から除去することに同意した(Bartnicki-Garcia, 1987, pp. 389-403 「Evolutionary Biology of the Fungi」(Rayner, A.D.M., Brasier, C.M. & Moore, D.編), Cambridge University Press, Cambridge)。
【0154】
要約すれば、カバリエル-スミスの分類体系(Cavalier-Smith, 1981, BioSystems 14:461-481, 1983; Cavalier-Smith, 1993, Microbio Rev. 57:953-994)を用いて、スラウストキトリドは、有色植物界(Chromophyta)(ストラメノパイル)における有色植物藻類に分類されている。この分類学的配置は、より最近に、不等毛門(Heterokonta)の18S rRNAシグナチャーを用いてスラウストキトリドが真菌ではないクロミスト(chromists)であることを実証し、カバリエル-スミス(Cavalier-Smith)らにより再確認された(Cavalier-Smithら、1994, Phil. Tran. Roy. Soc. London Series BioSciences 346:387-397)。これは、それらを、真正真菌界にすべてが配置されている真菌とは完全に異なる界に配置している。スラウストキトリドの分類学的配置は、それにより以下に要約される:
界:有色植物界(Chromophyta)(ストラメノパイル)
門:不等毛門(Heterokonta)
目:ヤブレツボカビ(スラウストキトリアレス)
科:スラウストキトリアシエ
属:スラウストキトリウム、シゾキトリウム、ラビリンチュロイデス、またはジャポノチトリウム
【0155】
ある初期の分類学者らは、属スラウストキトリウム(アメーバ状生活環をもつもの)の数個の最初のメンバーをウルケニアと呼ばれる異なる属へと分離した。しかし、すべてではないにしても、ほとんどのスラウストキトリド(スラウストキトリウムおよびシゾキトリウムを含む)は、アメーバ状期を現すことは現在知られており、それとして、ウルケニアは、ある人たちには妥当な属であるとみなされていない。本明細書に用いられる場合、属スラウストキトリウムは、ウルケニアを含むものとする。
【0156】
門および界の上級分類内での分類学的配置の不確定性にもかかわらず、スラウストキトリドは、メンバーがヤブレツボカビ目内に分類できるままの示差的かつ特徴的な群に残っている。
【0157】
高度不飽和脂肪酸(PUFA)は、高等真核生物における必須の膜成分および多くの脂質由来シグナル伝達分子の前駆体である。本発明のPUFA PKS系は、飽和脂肪酸の伸長および不飽和化を必要としないPUFA合成のための経路を使用する。その経路は、構造および機構の両方において以前に認識されていたPKSとは性質が異なるPUFA PKSにより触媒された。シス二重結合の形成は、位置特異的イソメラーゼを含むことを示唆される;これらの酵素は、新規のファミリーの抗生物質の生成において有用であると考えられる。
【0158】
本発明のPUFA PKS系を用いて様々な生物活性分子の有意的な高収量を産生するために、生物、好ましくは微生物または植物がPUFA PKS系の活性に影響を及ぼすように遺伝的に改変されうる。一つの局面において、そのような生物は、内因的にPUFA PKS系を含みかつ発現でき、遺伝的改変は、その内因性PUFA PKS系の機能性ドメインの1つまたは複数の遺伝的改変であってもよく、それにより、その改変はそのPUFA PKS系の活性にいくらかの効果を及ぼす。もう一つの局面において、そのような生物は、内因的にPUFA PKS系を含み、発現することができ、およびその遺伝的改変は、少なくとも1つの外因性核酸配列(例えば、組換え核酸分子)の導入であってもよく、その外因性核酸配列は、第二のPKS系由来の少なくとも1つの生物活性を有するドメインもしくはタンパク質および/またはPUFA PKS系の活性に影響を及ぼすタンパク質(例えば、下記に考察されている、ホスホパンテテイニルトランスフェラーゼ(PPTase))をコードする。さらにもう一つの局面において、生物は、必ずしも内因的に(自然に)PUFA PKS系を含んでいるとは限らないが、PUFA PKS系の少なくとも1つのドメインの生物活性を有するアミノ酸配列をコードする少なくとも1つの組換え核酸分子を導入するように遺伝的に改変されている。この局面において、PUFA PKS活性は、生物においてPUFA PKS活性を導入することまたは増加させることにより影響を及ぼされる。これらの局面のそれぞれに関連する様々な態様を下でより詳細に考察するつもりである。
【0159】
それゆえに、本発明により、一つの態様は、微生物が高度不飽和脂肪酸(PUFA)ポリケチドシンターゼ(PKS)系の少なくとも1つの生物活性を有するドメインを含むPKS系を発現する、遺伝的に改変された微生物に関する。PUFA PKS系の少なくとも1つのドメインは以下のものから選択される核酸配列によりコードされる:(a)スラウストキトリド微生物由来の高度不飽和脂肪酸(PUFA)ポリケチドシンターゼ(PKS)系の少なくとも1つのドメインをコードする核酸配列;(b)本発明のスクリーニング方法により同定される微生物由来のPUFA PKS系の少なくとも1つのドメインをコードする核酸配列;(c)配列番号:2、配列番号:4、および配列番号:6からなる群より選択されるアミノ酸配列の少なくとも500個の連続したアミノ酸と少なくとも約60%同一であるアミノ酸をコードする核酸配列であり、そのアミノ酸配列がPUFA PKS系の少なくとも1つのドメインの生物活性を有する核酸配列;および(d)配列番号:8、配列番号:10、配列番号:13、配列番号:18、配列番号:20、配列番号:22、配列番号:24、配列番号:26、配列番号:28、配列番号:30、および配列番号:32からなる群より選択されるアミノ酸配列と少なくとも約60%同一であるアミノ酸配列をコードする核酸配列であり、そのアミノ酸配列はPUFA PKS系の少なくとも1つのドメインの生物活性を有する核酸配列。遺伝的改変は、生物におけるPKS系の活性に影響を及ぼす。(b)において参照されるスクリーニング方法は上で詳細に記載されており、以下の段階を含む:(a)少なくとも1つのPUFAを産生する微生物を選択する段階;および(b)発酵培地において、約5%の飽和度より大きい、より好ましくは約10%、より好ましくは約15%、およびより好ましくは約20%の飽和度より大きい溶存酸素条件下でのその微生物によるPUFAの産生と比較して、発酵培地において約5%の飽和度未満の溶存酸素条件下で増加したPUFAを産生する能力をもつ(a)由来の微生物を同定する段階。遺伝的に改変された微生物は、上で詳細に記載されているように、上記の同定された核酸配列のいずれか1つまたは複数、および/またはシゾキトリウムPUFA PKS ORFもしくはドメインのいずれかの他の相同体のいずれかを含みうる。
【0160】
本明細書に用いられる場合、遺伝的に改変された微生物は、遺伝的改変の細菌、原生生物、微小藻類、または他の微生物、および特に、本明細書に記載されるヤブレツボカビ目(例えば、スラウストキトリド)の属のいずれでも(例えば、シゾキトリウム、スラウストキトリウム、ジャポノチトリウム、ラビリンチュロイデス)を含みうる。そのような遺伝的に改変された微生物は、望ましい結果が達せられるように(すなわち、増加したもしくは改変されたPUFA PKS活性および/またはPKS系を用いる所望の産物の生成)、その常態(すなわち、野生型または天然に存在する)から改変されている(すなわち、変異しているまたは変化している)ゲノムを有する。微生物の遺伝的改変は、古典的系統発生および/または分子遺伝学的技術を用いて達成されうる。そのような技術は当技術分野において公知であり、微生物について、例えば、Sambrookら、1989, 「Molecular Cloning: A Laboratory Manual」, Cold Spring Harbor Labs Pressで一般的に開示されている。この文献(Sambrookら、同上)は、参照として完全に本明細書に組み入れられている。遺伝的に改変された微生物は、そのような改変がその微生物内に望ましい効果を与えるような様式において、核酸分子が挿入、欠失または改変された(すなわち、例えば、ヌクレオチドの挿入、欠失、置換および/または反転により変異された)微生物を含みうる。
【0161】
本発明により改変するための好ましい微生物宿主細胞は、限定されるものではないが、任意の細菌、原生生物、微小藻類、真菌、または原生動物も含む。一つの局面において、遺伝的に改変するための好ましい微生物は、限定されるものではないが、ヤブレツボカビ目のいずれの微生物も含む。本発明に使用される特に好ましい宿主細胞は、限定されるものではないが、以下のものを含む属由来の微生物を含みうる:スラウストキトリウム、ラビリンチュロイデス、ジャポノチトリウム、およびシゾキトリウム。これらの属内の好ましい種は、限定されるものではないが、以下のものを含む:シゾキトリウムアグレガツム(Schizochytrium aggregatum)、シゾキトリウムリマシナム(Schizochytrium limacinum)、シゾキトリウムミヌツム(Schizochytrium minutum)を含む任意のシゾキトリウム種;いずれのスラウストキトリウム種(U. visuregensis, U. amoeboida, U. sarkariana, U. profunda, U. radiata, U. minutaおよびウルケニア種BP-5601のような前ウルケニア種を含む)、およびスラウストキトリウムストリアツム(Thraustochytrium striatum)、スラウストキトリウムオーレウム(Thraustochytrium aureum)、スラウストキトリウムローゼウム(Thraustochytrium roseum);ならびに任意のジャポノチトリウム種。スラウストキトリアレスの特に好ましい株は、限定されるものではないが、以下のものを含む:シゾキトリウム種(S31)(ATCC 20888);シゾキトリウム種(S8)(ATCC 20889);シゾキトリウム種(LC-RM)(ATCC 18915);シゾキトリウム種(SR21);シゾキトリウムアグレガツム(GoldsteinおよびBelsky)(ATCC 28209);シゾキトリウムリマシナム(HondaおよびYokochi)(IFO 32693);スラウストキトリウム種(23B)(ATCC 20891);スラウストキトリウムストリアツム(Schneider)(ATCC 24473);スラウストキトリウムオーレウム(Goldstein)(ATCC 34304);スラウストキトリウムローゼウム(Goldstein)(ATCC 28210);およびジャポノチトリウム種(L1)(ATCC 28207)。遺伝的改変のための適する宿主微生物の他の例には、限定されるものではないが、サッカロマイセスセレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロマイセスカールスベルゲンシス(Saccharomyces carlsbergensis)を含む酵母、もしくはカンジダ(Candida)、クルイベロマイセス(Kluyveromyces)のような他の酵母、または他の真菌、例えば、アスペルギルス(Aspergillus)、ノイロスポラ(Neurospora)、ペニシリウム(Penicillium)のような繊維状真菌などを含む。細菌細胞もまた、宿主として用いられうる。これは、発酵過程において有用でありうる大腸菌を含む。またはラクトバチルス(Lactobaillus)種またはバチルス(Bacillus)種のような宿主が宿主として用いられうる。
【0162】
本発明のもう一つの態様は、植物が高度不飽和脂肪酸(PUFA)ポリケチドシンターゼ(PKS)系の少なくとも1つの生物活性ドメインを含むPKS系を組換え的に発現するために遺伝的に改変された遺伝的改変植物に関する。ドメインは、以下のものから選択される核酸配列によりコードされる:(a)スラウストキトリド微生物由来の高度不飽和脂肪酸(PUFA)ポリケチドシンターゼ(PKS)系の少なくとも1つのドメインをコードする核酸配列;(b)本明細書に記載されるスクリーニングおよび選択方法により同定される微生物由来のPUFA PKS系の少なくとも1つのドメインをコードする核酸配列;(c)配列番号:2、配列番号:4、配列番号:6、およびそれらの生物活性断片からなる群より選択されるアミノ酸配列をコードする核酸配列;(d)配列番号:8、配列番号:10、配列番号:13、配列番号:18、配列番号:20、配列番号:22、配列番号:24、配列番号:26、配列番号:28、配列番号:30、配列番号:32、およびそれらの生物活性断片からなる群より選択されるアミノ酸配列をコードする核酸配列;(e)アミノ酸配列がPUFA PKS系の少なくとも1つのドメインの生物活性を有する、配列番号:2、配列番号:4、および配列番号:6からなる群より選択されるアミノ酸配列の少なくとも500個の連続したアミノ酸と少なくとも約60%同一であるアミノ酸配列をコードする核酸配列;および/または(f)アミノ酸配列がPUFA PKS系の少なくとも1つのドメインの生物活性を有する、配列番号:8、配列番号:10、配列番号:13、配列番号:18、配列番号:20、配列番号:22、配列番号:24、配列番号:26、配列番号:28、配列番号:30、および配列番号:32からなる群より選択されるアミノ酸配列と少なくとも約60%同一であるアミノ酸配列をコードする核酸配列。 遺伝的改変植物は、上記の同定された核酸配列、および/または上で詳細に記載された任意のシゾキトリウムPUFA PKS ORFもしくはドメインの任意の他の相同体をいずれか1つまたは複数含みうる。
【0163】
本明細書で用いられる場合、遺伝的改変の植物は、高等植物、特に、任意の消費可能な植物または本発明の望ましい生物活性分子を産生するために有用な植物を含む任意の遺伝的改変植物をも含みうる。そのような遺伝的改変の植物は、望ましい結果が達せられるように(すなわち、増加したもしくは改変されたPUFA PKS活性および/またはPKS系を用いる所望の産物の生成)、その常態(すなわち、野生型または天然に存在する)から改変されている(すなわち、変異しているまたは変化している)ゲノムを有する。植物の遺伝的改変は、古典的系統発生および/または分子遺伝学的技術を用いて達成されうる。所望のアミノ酸配列をコードする組換え核酸分子がその植物のゲノムへと組み入れられているトランスジェニック植物を作製するための方法は、当技術分野において公知である。本発明により遺伝的に改変するために好ましい植物は、好ましくは、ヒトを含む動物による消費のために適した植物である。
【0164】
本発明により遺伝的に改変するために好ましい植物(すなわち、植物宿主細胞)は、限定されるものではないが、いずれの高等植物も、そして特に、作物植物およびとりわけそれらの油を使用される植物を含む消費可能な植物を含む。そのような植物は、例えば、キャノーラ、大豆、菜種、亜麻仁、トウモロコシ、ベニバナ、ヒマワリ、およびタバコを含みうる。他の有用な植物は、薬学的薬品、調味料、栄養剤、機能性食品成分もしくは美容的活性剤として使用される化合物を産生することが知られているそれらの植物、またはこれらの化合物/薬剤を産生するように遺伝的に操作されている植物を含む。
【0165】
本発明により、遺伝的改変の微生物または植物は、組換え技術を用いて改変された微生物または植物を含む。本明細書で用いられる場合、遺伝子発現、その遺伝子の機能、その遺伝子産物(すなわち、その遺伝子によりコードされるタンパク質)の機能において減少が生じる遺伝的改変は、遺伝子の不活化(完全または部分的)、欠失、中断、妨害または下方制御として言及されうる。例えば、そのような遺伝子によりコードされるタンパク質の機能において減少が生じる遺伝子における遺伝的改変は、その遺伝子の完全な欠失の結果(すなわち、その遺伝子が存在しない、それゆえにそのタンパク質が存在しない)、そのタンパク質の不完全な翻訳生じるまたは翻訳を生じない(例えば、そのタンパク質が発現されない)遺伝子における突然変異、またはそのタンパク質の本来の機能を減少させるもしくは消失させる(例えば、減少した酵素活性もしくは作用をもつまたは酵素活性もしくは作用をもたないタンパク質が発現される)遺伝子における突然変異でありうる。遺伝子発現または機能において増加を生じる遺伝的改変は、遺伝子の増幅、過剰産生、過剰発現、活性化、増強、付加、または上方制御として言及されうる。
【0166】
本発明による微生物または植物の遺伝的改変は、好ましくは、PKS系が内因性でありかつ遺伝的に改変されている、その生物への組換え核酸分子の導入を加えた内因性であるか、または組換え技術により完全に供給されているかのいずれかで、その植物により発現されるPKS系の活性に影響を及ぼす。本発明により、「PKS系の活性に影響及ぼす」こととは、遺伝的改変の非存在下と比較して、その生物により発現されるPKS系においていずれの検出可能なまたは測定可能な変化または改変を引き起こすいずれの遺伝的改変も含む。PKS系における検出可能な変化または改変は、限定されるものではないが、以下のものを含みうる:生物へのPKS系活性の導入(その生物は現在測定可能/検出可能なPKS系活性を有している(すなわち、その生物は遺伝的改変の前にはPKS系を含んでいなかった));PKS系活性が改変されるように、生物により内因的に発現されるPKS系とは異なるPKS系由来の機能性ドメインの生物への導入(例えば、細菌のPUFA PKSドメインまたはI型PKSドメインが、非細菌のPUFA PKS系を内因的に発現する生物へ導入される);PKS系により生成される生物活性分子の量における変化(例えば、その系は、その遺伝的改変の非存在下と比較して所定の産物をより多く(増加した量)またはより少なく(減少した量)生成する);PKS系により生成される生物活性分子の型における変化(例えば、その系は、新規もしくは異なる生成物、またはその系により本来生成される生成物の変種を生成する);および/またはそのPKS系により生成される複数の生物活性分子の比率における変化(例えば、その系は、その遺伝的改変の非存在下と比較して、一つのPUFAと別のPUFAの異なる比率を生じる、完全に異なる脂質プロファイルを生じる、またはその天然の配置と比較してトリアシルグリセロールにおいて異なる位置に様々なPUFAを配置する)。そのような遺伝的改変は、遺伝的改変のいずれの型も含み、特に、組換え技術および古典的突然変異誘発により作製される改変を含む。
【0167】
PUFA PKS系における機能性ドメインまたはタンパク質の活性を増加させることの言及は、そのドメインまたはタンパク質系の増加した機能性を生じるそのドメインまたはタンパク質を含む(またはそのドメインもしくはタンパク質が導入されることになっている)生物におけるいずれの遺伝的改変をも指し、そのドメインまたはタンパク質のより高い活性(例えば、特異的活性またはインビボでの酵素活性)、そのドメインまたはタンパク質系の低下した抑制または分解、およびそのドメインまたはタンパク質の過剰発現を含むことができることを留意されたい。例えば、遺伝子コピー数は増加されうる、発現レベルはその天然のプロモーターのレベルより高い発現レベルを与えるプロモーターの使用により増加されうる、または遺伝子は、その遺伝子によりコードされるドメインもしくはタンパク質の活性を増加させるように遺伝子操作もしくは古典的突然変異誘発により変化されうる。
【0168】
同様に、PUFA PKS系における機能性ドメインまたはタンパク質の活性を減少させることの言及は、そのドメインまたはタンパク質の減少した機能性を生じるそのようなドメインまたはタンパク質を含む(またはそのドメインもしくはタンパク質が導入されることになっている)生物におけるいずれの遺伝的改変をも指し、そのドメインまたはタンパク質の減少した活性、そのドメインまたはタンパク質の増加した抑制または分解、およびそのドメインまたはタンパク質の発現の低下もしくは消失を含む。例えば、本発明のドメインまたはタンパク質の作用は、そのドメインもしくはタンパク質の生成を遮断することもしくは低下させること、そのドメインもしくはタンパク質をコードする遺伝子もしくはその部分を「ノックアウトすること」、ドメインもしくはタンパク質活性を低下させること、またはそのドメインもしくはタンパク質の活性を阻害することにより減少されうる。ドメインまたはタンパク質の生成を遮断することまたは低下させることは、増殖培地において誘導化合物の存在を必要とするプロモーターの制御下にそのドメインまたはタンパク質をコードする遺伝子を配置することを含みうる。その誘導物質が培地から涸渇してしまうような条件を確立することにより、そのドメインまたはタンパク質をコードする遺伝子の発現(およびそれゆえに、タンパク質合成の発現)を止めることができる。ドメインまたはタンパク質の活性を遮断することまたは低下させることはまた、参照として本明細書に組み入れられる、米国特許第4,743,546号に記載される方法と類似した切除技術方法を用いることを含みうる。この方法を用いるために、対象となるそのタンパク質をコードする遺伝子は、そのゲノムからのその遺伝子の特定の制御された切除が可能となる特定の遺伝子配列の間にクローニングされる。切除は、例えば、米国特許第4,743,546号のように、培養の培養温度における転換により、またはいくらかの他の物質的もしくは栄養的シグナルにより促進することができる。
【0169】
本発明の一つの態様において、遺伝的改変は、本明細書に記載されるような非細菌のPUFA PKS系の少なくとも1つのドメインの生物活性を有するアミノ酸配列をコードする核酸配列の改変を含む。そのような改変は、内因的に(自然に)発現されている非細菌のPUFA PKS系内のアミノ酸配列に対するものであってもよく、それにより、本来、そのような系を含む微生物が、例えば、古典的突然変異誘発および選択技術および/または遺伝子工学技術を含む分子遺伝学的技術により遺伝的に改変される。遺伝子工学技術は、例えば、内因性遺伝子の部分を除去するために、または内因性遺伝子の部分を異種性配列で置換するために、ターゲッティング組換えベクターを用いることを含みうる。宿主ゲノムへと導入されうる異種性配列の例は、異なる非細菌のPUFA PKS系、細菌のPUFA PKS系、I型PKS系、II型PKS系、またはモジュラーPKS系のような別のPKS系由来の少なくとも1つの機能性ドメインをコードする配列を含む。宿主のゲノムへ導入するための他の異種性配列は、PKS系のドメインではないが、その内因性PKS系の活性に影響を及ぼすであろうタンパク質または機能性ドメインをコードする配列を含む。例えば、ホスホパンテテイニルトランスフェラーゼをコードする核酸分子を宿主ゲノムへ導入することができるものと思われる(下記で考察されている)。内因性PUFA PKS系に対して行われうる特異的改変は、下記で詳細に考察されている。
【0170】
本発明のこの態様のもう一つの局面において、遺伝的改変は、(1)非細菌のPUFA PKS系の少なくとも1つのドメインの生物活性を有するアミノ酸配列をコードする組換え核酸分子の導入;および/または(2)宿主へのPUFA PKS系の活性に影響を及ぼすタンパク質または機能性ドメインをコードする組換え核酸分子の導入を含む。宿主は、以下のものを含みうる:(1)いずれのPKS系も発現しない宿主細胞であり、PKS系のすべての機能性ドメインがその宿主細胞へと導入され、かつ少なくとも1つの機能性ドメインが非細菌のPUFA PKS系由来である宿主細胞;(2)非細菌のPUFA PKS系の少なくとも1つの機能性ドメインを有するPKS系を発現する宿主細胞であり、その導入される組換え核酸分子は、少なくとも1つの追加的非細菌のPUFA PKSドメイン機能またはその宿主PKS系の活性に影響を及ぼす別のタンパク質もしくはドメインをコードしうる宿主細胞;および(3)必ずしも非細菌のPUFA PKS由来のドメイン機能を含むとは限らないPKS系(内因性のまたは組換え型の)を発現する宿主細胞であり、その導入される組換え核酸分子は、非細菌のPUFA PKS系の少なくとも1つの機能性ドメインをコードする核酸配列を含む宿主細胞。換言すれば、本発明は、いずれの遺伝的改変の生物(例えば、微生物または植物)をも含むことを意図し、その生物は少なくとも1つの非細菌のPUFA PKSドメイン機能を含み(内因的にまたは組換え改変により)、その遺伝的改変は、その生物が機能性PKS系を含む場合、非細菌のPUFA PKSドメイン機能またはPKS系に測定可能な効果を生じる。
【0171】
それゆえ、本発明の非細菌のPUFA PKS系を使用、例えば、スラウストキトリドPUFA PKS系由来の遺伝子を使用して、遺伝子混合は、EPA、DHA、ARA、GLA、SDA他を含むPUFA産物の範囲を拡大するために、加えて、抗生物質、他の薬学的化合物、および他の所望の産物を含む幅広く様々な生物活性分子を産生するために使用されうる。これらの生物活性分子を得るための方法は、様々な生物由来の遺伝子の混合だけではなく、本明細書に開示される非細菌のPUFA PKS遺伝子を遺伝的に改変する様々な方法を含む。本発明の非細菌のPUFA PKS系の遺伝子基盤およびドメイン構造の知識により、様々な生物活性分子を産生する新規な遺伝的改変の生物を設計するための基礎が提供される。いくつかのPKSドメインおよび関連した遺伝子の混合ならびに改変が本発明者らにより、例として企図されているが、PUFA PKS系の様々の可能な操作が遺伝的改変および生物活性分子産生に関して下記で考察されている。
【0172】
例えば、一つの態様において、スラウストキトリドにより産生されるような非細菌のPUFA-PKS系は、CLF(鎖伸長因子)ドメインを改変することにより変更される。このドメインは、II型(分離した酵素)PKS系の特性を示している。そのアミノ酸配列は、KS(ケトシンターゼ対)ドメインと相同性を示すが、活性部位システインを欠損している。CLFは伸長サイクルの数、およびこのゆえに最終生成物の鎖長を決定することに機能しうる。本発明のこの態様において、FASおよびPKS合成の最新状態の知識を用いて、非細菌のPUFA-PKS系の定方向改変によるARAの産生のための合理的ストラテジーが提供される。PKS系におけるCLFの機能に関して論文で論議があり(C. Bisangら、Nature 401, 502(1999))、最終生成物の鎖長の決定に他のドメインが関与している可能性があると理解されている。しかしながら、シゾキトリウムがDHA(C22:6、ω-3)およびDPA(C22:5、ω-6)の両方を産生することは意義深い。PUFA-PKS系において、シス二重結合が伸びる炭素鎖の合成の間に導入される。ω-3およびω-6二重結合の配置は分子の合成における初期に起きるため、それらがその後の最終生成物鎖長決定に影響を及ぼすだろうことは誰も予想しなかったであろう。このように、理論に結び付けられてはいないが、本発明者らは、C20ユニット(C22ユニットよりも)の合成を誘導する因子(例えば、CLF)のシゾキトリウムPUFA-PKS系への導入が結果としてEPA(C20:5、ω-3)およびARA(C20:4、ω-6)の生成を生じると考えている。例えば、異種性系において、EPA生成系由来のCLF(フォトバクテリウム由来のもののような)をシゾキトリウム遺伝子セットへ直接的に置換することによりそのCLFを活用することができるものと思われる。その結果生じる形質転換体の脂肪酸を、その後、EPAおよび/またはARAを産生する形質転換体を同定するためにプロファイルにおける変化について分析することができる。
【0173】
異種性系(植物へ導入されうるような組換え系)の開発によることに加えて、CLF概念はシゾキトリウムにおいて活用されうる(すなわち、シゾキトリウムゲノムの改変により)。形質転換および相同組換えがシゾキトリウムにおいて実証された。OrfBのCLFがC20 PUFA-PKS由来のCLFに置換されているクローンを構築することによりこれを活用することができる。マーカー遺伝子はそのコード領域の下流に挿入される。その後、その野生型細胞を形質転換し、そのマーカー表現型について選択し、その新規のCLFを組み入れたものについてスクリーニングすることができる。再び、EPAおよび/またはARAを産生する形質転換体を同定するために脂肪酸プロファイルにおけるいずれの効果についてもこれらを分析することになる。CLFに関連するもの以外のいくらかの因子が最終生成物の鎖長に影響を及ぼすことを見出される場合には、同様のストラテジーがそれらの因子を変えるために使用されうる。
【0174】
PUFA-PKS生成物の変化を含むもう一つの好ましい態様は、β-ヒドロキシアシル-ACPデヒドラーゼ/ケトシンターゼ対の改変または置換を含む。大腸菌におけるシス-バクセン酸(C18:1、Δ11)合成の間、シス二重結合の形成は、FabA遺伝子の産物である、特定のDH酵素、β-ヒドロキシアシル-ACPデヒドラーゼに依存していると考えられている。この酵素は、β-ヒドロキシアシル-ACPからHOHを除去し、その炭素鎖においてトランス二重結合を残す。FabA様のDHのサブセットは、シス-トランスイソメラーゼ活性をもつ(Heathら、1996、前記)。細菌および非細菌のPUFA-PKS系の新規な局面は、2つのFabA様DHドメインの存在である。理論に結び付けられてはいないが、本発明者らは、これらのDHドメインの1つまたは両方がシス-トランスイソメラーゼ活性をもつだろうと考えている(そのDHドメインの操作は、下記でより詳細に考察されている)。
【0175】
大腸菌における不飽和脂肪酸合成のもう一つの局面において、FabB遺伝子の産物である、特定のKS酵素、β-ケトアシル-ACPシンターゼが必要とされる。これは、マロニル-ACPと活性部位でのシステイン残基に連結されて、脂肪酸の縮合を行う酵素である。その多段階反応において、CO
2が放出され、その線状鎖が2炭素単位で伸長される。このKSのみが二重結合を含む炭素鎖を伸長できると考えられている。この伸長は、その二重結合がシス配置である場合のみ生じる;それがトランス配置である場合には、その二重結合は伸長の前にエノイル-ACPレダクターゼ(ER)により還元される(Heathら、1996、前記)。これまでに特徴付けられたすべてのPUFA-PKS系は、2つのKSドメインを有し、そのうちの1つは、他方より、大腸菌のFabB様KSと高い相同性を示す。再び、理論に結び付けられてはいないが、本発明者らは、PUFA-PKS系において、そのDH(FabA様)およびKS(FabB様)の酵素のドメインの特異性ならびに相互作用が、最終生成物におけるシス二重結合の数および配置を決定すると考えている。2炭素伸長反応の数がPUFA-PKS最終生成物において存在する二重結合の数より多いことから、いくつかの伸長サイクルにおいて、完全な還元が起きることが決定されうる。このように、そのDHおよびKSドメインは、他の長鎖脂肪酸のDHA/DPA割合の変化のための標的として使用されうる。これらは、他の系由来の相同性ドメインの導入により、またはこれらの遺伝子断片の突然変異誘発により、改変および/または評価されうる。
【0176】
もう一つの態様において、ER(エノイル-ACPレダクターゼ − 結果として完全な飽和化炭素を生じる脂肪アシル-ACPにおけるトランス-二重結合を還元する酵素)ドメインは、PKS系により生成される生成物の型を変化させるために改変または置換されうる。例えば、本発明者らは、シゾキトリウムPUFA-PKS系が、(1つよりもむしろ)2つのERドメインを有する点において、以前に記載されている細菌の系とは異なっていることをわかっている。理論に結び付けられてはいないが、本発明者らは、これらのERドメインがその結果生じるPKS産生生成物に強く影響を及ぼすことができると考えている。その結果生じる生成物は、その個々のドメインを別々にノックアウトすることにより、またはそれらのヌクレオチド配列を改変することにより、または他の生物由来のERドメインの置換により変化させうると思われる。
【0177】
もう一つの態様において、PKS系の部分ではないが、PKS系に影響を及ぼすタンパク質またはドメインをコードする核酸分子が生物へと導入されうる。例えば、上記のすべてのPUFA PKS系は、複数の直列型ACPドメインを含む。ACP(別々のタンパク質としてまたはより大きいタンパク質のドメインとして)は、活性のあるホロ-ACPを生成するためにホスホパンテテイン補因子の付着を必要とする。アポ-ACPへのホスホパンテテインの付着は、酵素(ホスホパンテテイニルトランスフェラーゼ(PPTase))のスーパーファミリーのメンバーにより行われる(Lambalot R.H.ら、Chemistry and Biology, 3, 923(1996))。
【0178】
他のPKSおよびFAS系との類似性により、本発明者らは、シゾキトリウムORFAタンパク質に存在する複数のACPドメインの活性化が特定の内因性PPTaseにより行われると推定している。この推定されたPPTaseをコードする遺伝子は、シゾキトリウムにおいてまだ同定されていない。そのような遺伝子がシゾキトリウムに存在する場合には、それを同定かつクローニングするための試みに用いられうるいくつかの方法を構想することができる。これらは以下のものを含みうると思われる(限定されるものではない):活発に増殖しているシゾキトリウム細胞から調製されたcDNAライブラリーの形成および部分的シーケンシング(注:現在入手可能なシゾキトリウムcDNAライブラリーセットにおいてPPTaseとの相同性を示す1つの配列が同定された;しかしながら、それは、マルチドメインのFASタンパク質の部分であると思われ、所望のOrfA特異的PPTaseをコードしていない可能性がある);PCR反応において、多くのPPTaseに存在するアミノ酸モチーフを用いて設計される変性したオリゴヌクレオチドプライマーの使用(ゲノムまたはcDNAライブラリーをスクリーニングするための核酸プローブ分子を得るために);ORFA-ACPドメインが「標的」(すなわち、PPTase)を見つけるための「ベイト(bait)」として用いられるであろう、タンパク質-タンパク質相互作用に基づく遺伝学的方法(例えば、酵母2ハイブリッド系);ならびに、ゲノムまたはcDNAライブラリーのスクリーニングのための核酸プローブを作製するための手段としてその酵素自身の精製および部分的シーケンシング。
【0179】
異種性PPTaseがシゾキトリウムORFA ACPドメインを活性化できる可能性があることもまた考えられる。いくつかのPPTase、例えば、バチルスサブチリス(Bacillus subtilis)のsfp酵素(Lambalotら、前記)およびストレプトマイセスベルチシルス(Streptomyces verticillus)のsvp酵素(Sanchezら、2001, Chemistry & Biology 8:725-738)が広い基質許容度をもつことが示された。これらの酵素は、それらがシゾキトリウムACPドメインを活性化するかどうかを見るために試験されうる。また、最近の刊行物によりタバコにおける真菌のPKSタンパク質の発現が記載された(Yalpaniら、2001, The Plant Cell 13:1401-1409)。その対応する真菌のPPTaseがそれらの植物に存在していなかったにもかかわらず、導入されたPKS系(ペニシリウムパツルム(Penicillium patulum)の6-メチルサリチル酸シンターゼ遺伝子によりコードされる)の生成物がそのトランスジェニック植物において検出された。これは、内因性植物PPTaseがその真菌のPKS ACPドメインを認識かつ活性化することを示唆した。この観察との関連性として、本発明者らは、シロイヌナズナ(Arabidopsis)の全ゲノムデータベースにおいて、PPTaseをコードしている可能性が高い2つの配列(遺伝子)を同定した。これらの配列(GenBankアクセッション番号;AAG51443およびAAC05345)は、現在、「未知のタンパク質」をコードするとして位置づけられている。それらは、G(I/V)DおよびWxxKE(A/S)xxK(配列番号:33)、(Lambalotら、1996においてすべてのPPTaseの特性としてみなされている)を含むいくつかのシグナチャーモチーフの翻訳されたタンパク質配列における存在に基づき、推定PPTaseとして同定されうる。さらに、これらの2つの推定タンパク質は、PKS系および非リボソームのペプチド合成系と典型的に関連しているPPTaseに典型的に見出される2つの追加のモチーフを含む;すなわち、FN(I/L/V)SHS(配列番号:34)および(I/V/L)G(I/L/V)D(I/L/V)(配列番号:35)。なおさらに、これらのモチーフは、そのタンパク質配列における予想される関連性のある位置に見出される。シロイヌナズナ遺伝子の相同体がタバコのような他の植物において存在している可能性が高い。再び、これらの遺伝子は、それらがコードする酵素がシゾキトリウムORFA ACPドメインを活性化することができるかどうかを見るためにクローニングかつ発現することができ、または代替的に、OrfAがトランスジェニック植物において直接的に発現されうるものと思われる(色素体または細胞質のいずれかに標的化される)。
【0180】
基質としてORFA ACPドメインを認識しうるもう一つの異種性PPTaseは、ノストク種PCC 7120(以前はアナバエナ種(Anabaena sp.)PCC 7120と呼ばれた)のHet Iタンパク質である。米国特許第6,140,486号において記述されているように、シュワネラのPUFA-PKS遺伝子のいくつかは、ノストクに見出されるPKS群に存在するタンパク質ドメインと高度な相同性を示した(上記特許の
図2)。このノストクPKS系は、糖部分とエステル化されて異質細胞の細胞壁の部分を形成する長鎖(C26およびC28)ヒドロキシ脂肪酸の合成に関連している。これらのノストクPKSドメインはまた、シゾキトリウムPKSタンパク質のOrfBおよびOrfCに見出されるドメインと高度に相同性がある(すなわち、シュワネラPKSタンパク質に見出されるものに対応している同じもの)。つい最近まで、GenBankデータベースにおいて存在するいずれのノストクPKSドメインも、シゾキトリウムOrfA(または相同性シュワネラOrf5タンパク質)のいずれのドメインにも高い相同性を示さなかった。しかしながら、ノストクの完全なゲノムが最近、シーケンシングされ、結果として、PKS遺伝子群のすぐ上流の領域の配列が、現在入手可能である。この領域において、OrfAのドメイン(KS、MAT、ACPおよびKR)と相同性を示す3つのOrfがある(
図3参照)。このセットには、2つのACPドメインが含まれ、両方ともORFA ACPドメインと高い相同性を示す。ノストクPKS群の末端には、Het I PPTaseをコードする遺伝子がある。以前は、そのHet I酵素の基質が何でありうるか明らかではなかったが、その群の新しく同定されたOrf(Hgl E)における直列型ACPドメインの存在は、本発明者らに、それがそれらのACPであることを強く示唆するものである。シゾキトリウムおよびノストクのACPドメインの相同性、加えて両タンパク質におけるそのドメインの直列型配置により、Het IがシゾキトリウムORFA ACPの異種性活性化のための候補になる可能性が高い。本発明者らがノストクHet I PPTaseについてのこの使用を認識かつ企図する最初の者であると思われる。
【0181】
Metzら、2001、前記において指摘されているように、PUFA PKS系の1つの新規の特徴は、2つのデヒドラターゼのドメインの存在であり、その両方とも大腸菌のFabAタンパク質と相同性を示す。上で述べられている新規のノストクPKS遺伝子配列が入手可能であることから、現在では誰でもがその2つの系およびそれらの生成物を比較することができる。本発明者らが同定したノストクの群(HglEからHet Iまで)におけるドメインの配列は以下の通りである(
図3参照):
KS-MAT-2xACP, KR, KS, CLF-AT, ER(HetM, HetN)HetI
シゾキトリウムPUFA-PKS OrfA、OrfBおよびOrfCにおける配列(OrfA−B−C)は以下の通りである:
KS-MAT-9xACP-KR KS-CLF-AT-ER DH-DH-ER
そのドメイン配列の一致がわかる(高いアミノ酸配列の相同性もある)。ノストクPKS系の生成物は、二重結合(シスもトランスも)を含まない長鎖ヒドロキシ脂肪酸(1つもしくは2つのヒドロキシ基をもつC26またはC28)である。シゾキトリウムPKS系の生成物は、長鎖高度不飽和脂肪酸(5つまたは6つの二重結合(すべてシス)をもつC22)である。その2つのドメインセット間の明らかな違いは、シゾキトリウムタンパク質における2つのDHドメインの存在である(まさに、DHAおよびDPAのシス二重結合の形成に関係しているドメイン(恐らく、ノストク系におけるHetMおよびHetNは、ヒドロキシル基の包含に関与しており、また、起源がPUFAにおいて見出されるそれらとは異なるDHドメインを含む))。また、シゾキトリウムOrfBおよびOrfCにおける重複したERドメインの役割は知られていない(第二のERドメインは、他の特徴付けられたPUFA PKS系において存在しない)。その2つのドメインのセット間のアミノ酸配列相同性は、進化の関連を暗示する。PUFA PKS遺伝子セットがそのDH(FabA様)ドメインの取り込みにより先祖のノストク様PKS遺伝子セットから派生している(進化的意味において)と想像できる。DHドメインの追加が、結果として、新規のPKS最終生成物構造におけるシス二重結合の導入を生じたと思われる。
【0182】
シゾキトリウムとノストクのPKSドメイン構造の比較、およびシゾキトリウムとシュワネラのPUFA-PKSタンパク質間のドメイン構成の比較は、ドメイン順序を変え、および新規のドメインを取り込んで新規の最終産物を作製する自然の能力を実証している。さらに、現在、遺伝子を実験室で操作して、新規の産物を作製することができる。これらの観察からの含意は、その系を定方向またはランダムな方法のいずれかで操作し続けて、その最終産物に影響を及ぼすことが可能になるであろうということである。例えば、好ましい態様において、異性化活性をもたないDHドメインからPUFA-PKS系のDH(FabA様)ドメインの1つを置換することを構想することができ、シスとトランスの二重結合の混合した分子が作製されるかもしれない。シゾキトリウムPUFA PKS系の現行の生成物は、DHAおよびDPA(C22:5 ω6)である。C20脂肪酸を生成する系を操作した場合、生成物がEPAおよびARA(C20:4 ω6)であることが期待されると思われる。これによりARAについての新規の供給源が提供されうる。異なるDHAとDPAの比を生じている関連のPUFA-PKS系由来のドメインを置換することもできると思われる(例えば、スラウストキトリウム23B(そのPUFA PKS系は本明細書で初めて同定されている)由来の遺伝子を用いることによる)。
【0183】
さらに、最終生成物プロファイルへの効果を測定するために、シゾキトリウムPUFA PKS系(今まで記載されている他のPUFA PKS系は2つのERドメインをもたない)においてERドメインの1つを特異的に変化させること(例えば、除去すること、または不活化すること)を構想することができる。同様のストラテジーは、より精巧度の高いまたはより精巧度の低い方法を用いてそのPUFA-PKSタンパク質の別個のドメインのそれぞれについて定方向様式で試みられる。もちろん、単一のドメインの操作に限定されることはない。最後に、全範囲の新規の最終生成物を作製するために、そのPUFA-PKS系および他のPKSまたはFAS系(例えば、I型、II型、モジュラー)由来のドメインを混合することによりその方法を拡大することができる。例えば、常態では最終生成物へシス二重結合を組み入れない系へそのPUFA-PKS DHドメインを導入することができる。
【0184】
従って、本発明に含まれるのは、本発明による非細菌のPUFA PKS系の少なくとも1つの機能性ドメインの生物活性を有するアミノ酸配列をコードする生物において少なくとも1つの核酸配列を遺伝的に改変すること、および/またはそのようなアミノ酸配列をコードする核酸配列を含む少なくとも1つの組換え核酸分子を発現することにより、微生物または植物の細胞を遺伝的に改変するための方法である。そのような配列の様々な態様、生物を遺伝的に改変するための方法、および特異的改変は、上で詳細に記載されている。典型的には、その方法は、特定の生物活性分子を産生する特定の遺伝的に改変された生物を作製するために用いられる。
【0185】
本発明の一つの態様は、高度不飽和脂肪酸(PUFA)ポリケチドシンターゼ(PKS)系を発現するために改変された組換え宿主細胞に関し、そのPKSは、反復および非反復の酵素反応の両方を触媒し、そのPUFA PKS系は以下のものを含む:(a)少なくとも2つのエノイルACP-レダクターゼ(ER)ドメイン;(b)少なくとも6つのアシルキャリヤータンパク質(ACP)ドメイン;(c)少なくとも2つのβ-ケトアシル-ACPシンターゼ(KS)ドメイン;(d)少なくとも1つのアシルトランスフェラーゼ(AT)ドメイン;(e)少なくとも1つのケトレダクターゼ(KR)ドメイン;(f)少なくとも2つのFabA様β-ヒドロキシアシル-ACPデヒドラーゼ(DH)ドメイン;(g)少なくとも1つの鎖伸長因子(CLF)ドメイン;および(h)少なくとも1つのマロニル-CoA:ACPアシルトランスフェラーゼ(MAT)ドメイン。一つの態様において、PUFA PKS系は、真核生物のPUFA PKS系である。好ましい態様において、PUFA PKS系は、藻類のPUFA PKS系である。より好ましい態様において、PUFA PKS系は、スラウストキトリアレスPUFA PKS系である。そのようなPUFA PKS系は、限定されるものではないが、シゾキトリウムPUFA PKS系、およびスラウストキトリウムPUFA PKS系を含みうる。一つの態様において、PUFA PKS系は、原核生物の宿主細胞において発現されうる。もう一つの態様において、PUFA PKS系は、真核生物の宿主細胞において発現されうる。
【0186】
本発明のもう一つの態様は、非細菌のPUFA PKS系を発現するために改変された組換え宿主細胞に関し、そのPKS系は反復および非反復の酵素反応の両方を触媒し、その非細菌のPUFA PKS系は、少なくとも以下の生物活性ドメインを含む:(a)少なくとも1つのエノイルACP-レダクターゼ(ER)ドメイン;(b)複数のアシルキャリヤータンパク質(ACP)ドメイン(少なくとも4つ);(c)少なくとも2つのβ-ケトアシル-ACPシンターゼ(KS)ドメイン;(d)少なくとも1つのアシルトランスフェラーゼ(AT)ドメイン;(e)少なくとも1つのケトレダクターゼ(KR)ドメイン;(f)少なくとも2つのFabA様β-ヒドロキシアシル-ACPデヒドラーゼ(DH)ドメイン;(g)少なくとも1つの鎖伸長因子(CLF)ドメイン;および(h)少なくとも1つのマロニル-CoA:ACPアシルトランスフェラーゼ(MAT)ドメイン。
【0187】
本発明のこの態様の一つの局面は、上記の組換え宿主細胞のいずれかを含む植物を生長させることを含む、少なくとも1つのPUFAを含む産物を産生するための方法に関し、その組換え宿主細胞はその産物を産生するのに有効な条件下の植物細胞である。本発明のこの態様のもう一つの局面は、上記の組換え宿主細胞のいずれかを含む培養物を培養することを含む、少なくとも1つのPUFAを含む産物を産生するための方法に関し、その宿主細胞は、その産物を産生するのに有効な条件下での微生物細胞である。好ましい態様において、宿主細胞におけるPKS系は、トリグリセリドの直接的生成を触媒する。
【0188】
本発明のもう一つの態様は、非細菌の高度不飽和脂肪酸(PUFA)ポリケチドシンターゼ(PKS)系を含む微生物に関し、そのPKSは、反復および非反復の酵素反応の両方を触媒し、そのPUFA PKS系は以下のものを含む:(a)少なくとも2つのエノイルACP-レダクターゼ(ER)ドメイン;(b)少なくとも6つのアシルキャリヤータンパク質(ACP)ドメイン;(c)少なくとも2つのβ-ケトアシル-ACPシンターゼ(KS)ドメイン;(d)少なくとも1つのアシルトランスフェラーゼ(AT)ドメイン;(e)少なくとも1つのケトレダクターゼ(KR)ドメイン;(f)少なくとも2つのFabA様β-ヒドロキシアシル-ACPデヒドラーゼ(DH)ドメイン;(g)少なくとも1つの鎖伸長因子(CLF)ドメイン;および(h)少なくとも1つのマロニル-CoA:ACPアシルトランスフェラーゼ(MAT)ドメイン。好ましくは、その微生物は非細菌の微生物、およびより好ましくは真核生物の微生物である。
【0189】
本発明のさらにもう一つの態様は、非細菌の高度不飽和脂肪酸(PUFA)ポリケチドシンターゼ(PKS)系を含む微生物に関し、そのPKSは、反復および非反復の酵素反応の両方を触媒し、そのPUFA PKS系は以下のものを含む:(a)少なくとも1つのエノイルACP-レダクターゼ(ER)ドメイン;(b)複数のアシルキャリヤータンパク質(ACP)ドメイン(少なくとも4つ);(c)少なくとも2つのβ-ケトアシル-ACPシンターゼ(KS)ドメイン;(d)少なくとも1つのアシルトランスフェラーゼ(AT)ドメイン;(e)少なくとも1つのケトレダクターゼ(KR)ドメイン;(f)少なくとも2つのFabA様β-ヒドロキシアシル-ACPデヒドラーゼ(DH)ドメイン;(g)少なくとも1つの鎖伸長因子(CLF)ドメイン;および(h)少なくとも1つのマロニル-CoA:ACPアシルトランスフェラーゼ(MAT)ドメイン。
【0190】
本発明の一つの態様において、突然変異誘発プログラムが対象となる生物活性分子を得るための選択的スクリーニング工程と結合されうることが企図される。これは、生物活性化合物の範囲を探索するための方法を含む。この探索は、シス二重結合をもつそれらの分子の生成に制限されるものではない。突然変異誘発方法は、限定されるものではないが、以下のものを含みうる:化学的突然変異誘発、遺伝子混合、特定の酵素のドメインをコードする遺伝子の領域を交換すること、またはそれらの遺伝子の特定の領域に制限された突然変異誘発、および他の方法。
【0191】
例えば、ハイスループットな突然変異誘発方法は、所望の生物活性分子の産生に影響を及ぼすまたは最適化するために使用されうる。効果的なモデル系が開発されたならば、ハイスループットな形式でこれらの遺伝子を改変することができると思われる。これらの技術の利用は、2つのレベルで構想されうる。第一に、対象となる産物(例えば、ARA)の産生についての十分な選択的スクリーニングが工夫されうるならば、それはこの産物を産生するためにその系を変化させることを試みるために用いられうる(例えば、上で考察されているもののような他のストラテジーの代わり、または組み合わせて)。さらに、上で概略を述べたストラテジーが、結果として、対象となる産物を産生する遺伝子のセットを生じたならば、そのハイスループット技術は、その後、その系を最適化するために用いられると考えられる。例えば、導入されたドメインが比較的低い温度でのみ機能するならば、選択方法を、その制限を除去することを可能にするように工夫することができる。本発明の一つの態様において、スクリーニング方法は、本明細書に記載されているような(上記参照)シゾキトリウムのPUFA PKS系と類似した新規PKS系を有する追加の非細菌の生物を同定するために使用される。そのような生物において同定された相同体PKS系を、本明細書に記載されているものと同様の方法において、シゾキトリウムに対して、および様々な化合物を産生するためのその微生物、別の微生物、または高等植物における発現のためにそれら由来のPKS系を作製する、さらに改変するおよび/または変異するための遺伝子材料の追加の供給源に対して、使用することができる。
【0192】
未変性の(内因性の、自然の)PKS系へ導入しうる、ランダムまたは定方向のいずれかでの多くの遺伝的改変が結果として、酵素的機能の不活化を生じるものであることは認識されている。本発明の好ましい態様は、産物を産生するPKS系の能力を遮断しないそれらの改変のみを選択するための系を含む。例えば、大腸菌のFabB-株は、不飽和脂肪酸を合成することができず、増殖のために、その正常な不飽和脂肪酸の代わりに用いることができる脂肪酸での培地の補充を必要とする(Metzら、2001、前記を参照)。しかしながら、その株が機能しうるPUFA-PKS系(すなわち、その大腸菌宿主においてPUFA生成物を生成するもの(Metzら、2001、前記、
図2A参照))で形質転換される場合、この必要性(培地の補充について)は取り除かれうる。その形質転換FabB-株は、補充なしの増殖のために機能性のPUFA-PKS系(その不飽和脂肪酸を生成するための)を必要としている。この例において鍵となる要素は、幅広い不飽和脂肪酸範囲の生成で十分であることである(分枝鎖脂肪酸のような不飽和脂肪酸置換体でさえも)。それゆえに、本発明のもう一つの好ましい態様において、本明細書に開示されているPUFA PKS遺伝子の1つまたは複数において多数の突然変異を作製し、その後、適切に改変されたFabB-株を形質転換する(例えば、ERドメインを含む発現構築物において突然変異を作製し、単独のプラスミド上に、または染色体へと組み込まれた他の必須ドメインを有するFabB-株を形質転換する)、および培地の補充なしに増殖する(すなわち、FabB-の欠陥を相補しうる分子を生成する能力をまだ所有している)それらの形質転換体についてのみ選択する。PKS系のこの選択のサブセットにおいて生成されることになっている特定の化合物を探索するために(例えば、脂肪酸についてGCの使用)、さらなるスクリーニング法を開発することができる。対象となる生物活性分子についての多数の同様の選択的スクリーニング法を構想することができる。
【0193】
上記のように、本発明の一つの態様において、遺伝的改変の微生物または植物は、所望の生物活性分子(生成物)を合成する増強された能力をもつ、もしくは特定の生成物を合成する(例えば、特定の抗生物質を合成する)新しく導入された能力をもつ微生物または植物を含む。本発明により、生成物を「合成する増強された能力」とは、微生物または植物が、同じ条件下で培養されたもしくは生長した野生型の微生物または植物と比較して増加した量の生成物を生成するような(以前にはなかった生成物の生成のいずれも含む)、その生成物の合成に関連する経路における任意の増強、または上方制御を指す。そのように遺伝的改変の生物を作製するための方法は、上で詳細に記載されている。
【0194】
本発明の一つの態様は、本発明の遺伝的に改変された微生物もしくは植物(上で詳細に記載)を生長させるまたは培養することにより、所望の生物活性分子(生成物または化合物とも呼ばれる)を生成するための方法である。そのような方法は、本明細書で前に記載されているように、および本発明に従っての遺伝的改変を有する微生物もしくは植物をそれぞれ、発酵培地で培養する段階、または土壌のような適した環境において生長させる段階を含む。好ましい態様において、本発明の生物活性分子を生成するための方法は、高度不飽和脂肪酸(PUFA)ポリケチドシンターゼ(PKS)系の少なくとも1つの生物活性を有するドメイン含むPKS系を発現する遺伝的改変の生物をその生物活性分子を生成するのに有効な条件下で培養する段階を含む。この好ましい局面において、PUFA PKS系の少なくとも1つのドメインは、以下のものからなる群より選択される核酸配列によりコードされる:(a)スラウストキトリド微生物由来の高度不飽和脂肪酸(PUFA)ポリケチドシンターゼ(PKS)系の少なくとも1つのドメインをコードする核酸配列;(b)本発明の新規のスクリーニング方法(上で詳細に記載されている)により同定される微生物由来のPUFA PKS系の少なくとも1つのドメインをコードする核酸配列;(c)配列番号:2、配列番号:4、配列番号:6、およびそれらの生物活性断片からなる群より選択されるアミノ酸配列をコードする核酸配列;(d)配列番号:8、配列番号:10、配列番号:13、配列番号:18、配列番号:20、配列番号:22、配列番号:24、配列番号:26、配列番号:28、配列番号:30、配列番号:32、およびそれらの生物活性断片からなる群より選択されるアミノ酸配列をコードする核酸配列;(e)アミノ酸配列がPUFA PKS系の少なくとも1つのドメインの生物活性を有する、配列番号:2、配列番号:4、および配列番号:6からなる群より選択されるアミノ酸配列の少なくとも500個の連続したアミノ酸と少なくとも約60%同一であるアミノ酸配列をコードする核酸配列;および、(f)アミノ酸配列がPUFA PKS系の少なくとも1つのドメインの生物活性を有する、配列番号:8、配列番号:10、配列番号:13、配列番号:18、配列番号:20、配列番号:22、配列番号:24、配列番号:26、配列番号:28、配列番号:30、および配列番号:32からなる群より選択されるアミノ酸配列と少なくとも約60%同一であるアミノ酸配列をコードする核酸配列。本方法のこの好ましい局面において、生物は、そのPKS系の活性に影響を及ぼすように遺伝的に改変されている(上で詳細に記載されている)。本発明のPUFA PKS系に関連する遺伝的改変のために好ましい宿主細胞は、上に記載されている。
【0195】
本発明の所望の生物活性化合物の産生の方法において、遺伝的に改変された微生物は、その生物活性化合物を生成するのに有効な条件下で、適する培地において培養または増殖される。適切なまたは有効な培地とは、本発明の遺伝的改変の微生物が、培養される場合、その所望の生成物を生成することができる任意の培地を指す。そのような培地は、典型的には、同化できる炭素、窒素およびリン酸源を含む水性培地である。そのような培地はまた、適切な塩、ミネラル、金属および他の栄養素を含みうる。本発明の微生物は、通常の発酵バイオリアクターにおいて培養されうる。微生物は、限定されるものではないが、バッチ、流加培養、細胞再利用、および連続発酵を含むいずれの発酵方法によっても培養されうる。本発明による可能性のある宿主微生物のための好ましい増殖条件は、当技術分野においてよく知られている。遺伝的改変の微生物により産生された所望の生物活性分子は、通常の分離および精製技術を用いて発酵培地から回収されうる。例えば、発酵培地は、微生物、細胞片および他の粒子物を除去するために濾過または遠心分離してもよく、その生成物は、例えば、イオン交換、クロマトグラフィー、抽出、溶剤抽出、膜分離、電気透析法、逆浸透法、蒸留、化学的誘導体化、および結晶化のような通常の方法により、細胞を含まない上清から回収されうる。または、その所望の化合物を産生する微生物、もしくはそれらの抽出物および様々な画分を、その産物から微生物成分の除去なしに用いることができる。
【0196】
本発明の所望の生物活性化合物の産生のための方法において、遺伝的に改変された植物は、発酵培地で培養されるか、または土壌のような適した培地において生長する。適切なまたは有効な発酵培地は、上で詳細に考察している。高等植物のための適する生長培地は、限定されるものではないが、土壌、砂、他のいずれもの根の成長を支える粒状培地(例えば、バーミキュライト、パーライトなど)、または水耕栽培、ならびに、適する光、水および高等植物の生長を最適化する栄養補給剤を含む植物のためのいずれの生長培地も含む。本発明の遺伝的に改変された植物は、本発明に従って遺伝的に改変されたPKS系の活性を通してその所望の産物の有意な量を産生するように操作される。その化合物は、その植物からその化合物を抽出する精製工程を通して回収されうる。好ましい態様において、その化合物はその植物を収穫することにより回収される。この態様において、その植物は、その自然の状態で消費されうる、または消費可能な製品へとさらに加工処理されうる。
【0197】
上記のように、本発明において有用な遺伝的に改変された微生物は、一つの局面において、PUFA PKS系を内因的に含みかつ発現し、その遺伝的改変は、その内因性PUFA PKS系の機能性ドメインの1つまたは複数の遺伝的改変であってもよく、その改変がそのPUFA PKS系の活性にいくらかの影響を及ぼす。もう一つの局面において、そのような生物は、PUFA PKS系を内因的に含みかつ発現することができ、その遺伝的改変は、少なくとも1つの外因性核酸配列(例えば、組換え核酸分子)の導入であってもよく、その外因性核酸配列が、第二のPKS系由来の少なくとも1つの生物活性を有するドメインもしくはタンパク質および/またはPUFA PKS系の活性に影響を及ぼすタンパク質(例えば、ホスホパンテテイニルトランスフェラーゼ(PPTase)、下記で考察されている)をコードしている。さらにもう一つの局面において、生物は、必ずしも内因的に(自然に)PUFA PKS系を含むとは限らないが、PUFA PKS系の少なくとも1つのドメインの生物活性を有するアミノ酸配列をコードする少なくとも1つの組換え核酸分子を導入するように遺伝的に改変されている。この局面において、PUFA PKS活性は、その生物にPUFA PKS活性を導入するまたは増加させることにより影響を受ける。これらの局面のそれぞれに関連する様々な態様は、下記で詳細に考察されている。
【0198】
生物活性化合物を産生するための方法の一つの態様において、遺伝的改変は、野生型生物と比較して、その内因性PKS系により生成される少なくとも1つの生成物を変化させる。
【0199】
もう一つの態様において、生物は、そのPUFA PKS系の少なくとも1つの生物活性を有するドメインを含むPKS系を内因的に発現し、遺伝的改変は、第二のPKS系由来の少なくとも1つの生物活性を有するドメインをコードする組換え核酸分子およびそのPUFA PKS系の活性に影響を及ぼすタンパク質をコードする組換え核酸分子からなる群より選択される組換え核酸分子でのその生物のトランスフェクションを含む。この態様において、遺伝的改変は、好ましくは、野生型生物と比較して、その内因性PKS系により生成される少なくとも1つの生成物を変化させる。第二のPKS系は、別のPUFA PKS系(細菌のまたは非細菌の)、I型PKS系、II型PKS系、および/またはモジュラーPKS系を含みうる。PKS系の活性に影響を及ぼすタンパク質の例は、上に記載されている(例えば、PPTase)。
【0200】
もう一つの態様において、生物は、その高度不飽和脂肪酸(PUFA)ポリケチドシンターゼ(PKS)系の少なくとも1つのドメインをコードする組換え核酸分子でのトランスフェクションにより遺伝的に改変されている。そのような組換え核酸分子は、本明細書で前に詳細に記載されている。
【0201】
もう一つの態様において、生物は、非細菌のPUFA PKS系を内因的に発現し、その遺伝的改変は、その非細菌のPUFA PKS系の少なくとも1つのドメインをコードする核酸配列から異なるPKS系由来のドメインへの置換を含む。もう一つの態様において、生物は、PUFA PKS系により生成される脂肪酸の鎖長を調節するタンパク質をコードする組換え核酸分子でその生物をトランスフェクションすることにより改変された非細菌のPUFA PKS系を内因的に発現する。一つの局面において、脂肪酸の鎖長を調節するタンパク質をコードする組換え核酸分子は、その非細菌PUFA PKS系における鎖伸長因子をコードする核酸配列に置き換わる。もう一つの局面において、そのPUFA PKS系により生成される脂肪酸の鎖長を調節するタンパク質は、鎖伸長因子である。もう一つの局面において、そのPUFA PKS系により生成される脂肪酸の鎖長を調節するタンパク質は、C20ユニットの合成を誘導する鎖伸長因子である。
【0202】
もう一つの態様において、生物は、β-ヒドロキシアシル-ACPデヒドラーゼ(DH)をコードするドメインおよびβ-ケトアシル-ACPシンターゼ(KS)をコードするドメインからなる群より選択されるドメインに遺伝的改変を含む非細菌のPUFA PKS系を発現し、その改変は、その改変の非存在下と比較して、そのPUFA PKS系により生成される長鎖脂肪酸の比率を変化させる。この態様の一つの局面において、改変は、そのドメインのすべてまたは部分の欠失、そのドメインから異なる生物由来の相同性ドメインの置換、およびそのドメインの突然変異からなる群より選択される。
【0203】
もう一つの態様において、生物は、エノイル-ACPレダクターゼ(ER)ドメインに改変を含む非細菌のPUFA PKS系を発現し、その改変が、結果として、その改変の非存在下と比較して異なる化合物の生成を生じる。この態様の一つの局面において、改変は、そのERドメインのすべてまたは部分の欠失、そのERドメインの代わりに異なる生物由来のERドメインの置換、およびそのERドメインの突然変異からなる群より選択される。
【0204】
生物活性分子を産生するための方法の一つの態様において、生物は、遺伝的改変を含まない天然に存在する生物とは異なる高度不飽和脂肪酸(PUFA)プロファイルを生成する。
【0205】
生物活性分子を産生するために有用な多くの他の遺伝的改変は、本開示を考慮すれば、当業者にとって明らかであると思われ、様々な他の改変が本明細書で前に考察されている。本発明は、所望の生物活性分子の産生を生じる本明細書に記載されるようなPUFA PKS系に関連するいずれの遺伝的改変も意図している。
【0206】
本発明による生物活性分子は、生物活性を有し、かつ本明細書に記載される非細菌のPUFA PKS系の少なくとも1つの機能性ドメインの生物活性を有する少なくとも1つのアミノ酸配列を含むPKS系により産生可能な任意の分子(化合物、生成物など)を含む。そのような生物活性分子は、限定されるものではないが、高度不飽和脂肪酸(PUFA)、抗炎症製剤、化学療法剤、活性のある賦形剤、骨粗鬆症治療薬、抗鬱薬、抗痙攣薬、抗ヘリコバクター・ピロリ薬、神経変性疾患の治療用薬物、変性肝疾患の治療用薬物、抗生物質、およびコレステロール低下製剤を含みうる。本発明の非細菌のPUFA PKS系の一つの利点は、シス配置に炭素-炭素二重結合を導入し、分子が3炭素ごとに二重結合を含んでいるそのような系の能力である。この能力は様々な化合物を産生するために利用されうる。
【0207】
好ましくは、対象となる生物活性化合物は、その微生物の乾燥重量の約0.05%より多い、好ましくは約0.1%より多い、より好ましくは約0.25%より多い、より好ましくは約0.5%より多い、より好ましくは約0.75%より多い、より好ましくは約1%より多い、より好ましくは約2.5%より多い、より好ましくは約5%より多い、より好ましくは約10%より多い、より好ましくは約15%より多い、およびさらにより好ましくは約20%より多い量で、その遺伝的改変の微生物より産生される。脂質化合物については、好ましくは、そのような化合物は、その微生物の乾燥重量の約5%より多い量で産生される。抗生物質またはより少量で合成される化合物のような他の生物活性化合物については、そのような化合物をその微生物の乾燥重量ので所有するそれらの株は、上記の型の新規PKS系を予想通り含むとして同定される。いくつかの態様において、特定の生物活性分子(化合物)は、蓄積するというよりむしろ、微生物により分泌される。それゆえ、そのような生物活性分子は、一般的にその培地から回収され、生成された分子の濃度は、その微生物およびその培養物のサイズに依存して異なる。
【0208】
本発明の一つの態様は、少なくとも1つの脂肪酸を含む最終産物を改変するための方法に関し、PUFA PKS系の少なくとも1つの生物活性ドメインをコードする核酸配列を含む少なくとも1つの組換え核酸分子を発現する組換え宿主細胞により産生される油を該最終産物に加えることを含む。そのPUFA PKS系は、任意の非細菌のPUFA PKS系であり、および好ましくは、以下の群より選択される:(a)スラウストキトリド微生物由来の高度不飽和脂肪酸(PUFA)ポリケチドシンターゼ(PKS)系の少なくとも1つのドメインをコードする核酸配列;(b)本明細書に開示される新規のスクリーニング方法により同定される微生物由来のPUFA PKS系の少なくとも1つのドメインをコードする核酸配列;(c)配列番号:2、配列番号:4、配列番号:6、およびそれらの生物活性断片からなる群より選択されるアミノ酸配列をコードする核酸配列;(d)配列番号:8、配列番号:10、配列番号:13、配列番号:18、配列番号:20、配列番号:22、配列番号:24、配列番号:26、配列番号:28、配列番号:30、配列番号:32、およびそれらの生物活性断片からなる群より選択されるアミノ酸配列をコードする核酸配列;(e)アミノ酸配列がPUFA PKS系の少なくとも1つのドメインの生物活性を有する、配列番号:2、配列番号:4、および配列番号:6からなる群より選択されるアミノ酸配列の少なくとも500個の連続したアミノ酸と少なくとも約60%同一であるアミノ酸配列をコードする核酸配列;および、(f)アミノ酸配列がPUFA PKS系の少なくとも1つのドメインの生物活性を有する、配列番号:8、配列番号:10、配列番号:13、配列番号:18、配列番号:20、配列番号:22、配列番号:24、配列番号:26、配列番号:28、配列番号:30、および配列番号:32からなる群より選択されるアミノ酸配列と少なくとも約60%同一であるアミノ酸配列をコードする核酸配列。これらの核酸配列の変異型は上で詳細に記載されている。
【0209】
好ましくは、最終製品は、食品、栄養補助食品、医薬製剤、母乳化した動物乳、および乳幼児用調合乳からなる群より選択される。適する医薬製剤は、限定されるものではないが、抗炎症製剤、化学療法剤、活性賦形剤、骨粗鬆症治療薬、抗鬱薬、抗痙攣薬、抗ヘリコバクター・ピロリ薬、神経変性疾患の治療用薬物、変性肝疾患の治療用薬物、抗生物質、およびコレステロール低下製剤を含む。一つの態様において、最終製品は、慢性炎症、急性炎症、胃腸障害、癌、悪液質、心臓再狭窄、神経変性疾患、肝臓の変性疾患、血中脂質疾患、骨粗鬆症、骨関節炎、自己免疫疾患、子癇前症、早産、年齢に関連した黄斑症、肺疾患、およびペルオキシソーム疾患からなる群より選択される状態を治療するために使用される。
【0210】
適する食品は、これらに限定されるものではないが、洗練されたベーカリー製品、パンおよびロールパン、朝食用シリアル、加工および非加工チーズ、香辛料(ケチャップ、マヨネーズなど)、乳製品(ミルク、ヨーグルト)、プリンおよびゼラチンデザート、炭酸飲料、茶、粉末飲料ミックス、加工魚製品、果物飲料、チューインガム、固形型菓子類、冷凍乳製品、加工肉製品、ナッツおよびナッツのスプレッド、パスタ、加工家禽肉製品、肉汁およびソース、ポテトチップスおよび他のチップスまたはクリスプ、チョコレートおよび他の菓子類、スープおよびスープミックス、大豆製品(ミルク、飲料、クリーム、漂白剤)、植物油主材料のスプレッド、および野菜飲料を含む。
【0211】
本発明のさらにもう一つの態様は、母乳化した動物乳を産生するための方法に関する。この方法は、PUFA PKS系の少なくとも1つの生物活性ドメインをコードする核酸配列を含む少なくとも1つの組換え核酸分子でミルク産生動物のミルク産生細胞を遺伝的に改変する段階を含む。そのPUFA PKS系は、非細菌のPUFA PKS系であり、および好ましくは、そのPUFA PKS系の少なくとも1つのドメインは、以下のものからなる群より選択される核酸配列によりコードされる:(a)スラウストキトリド微生物由来の高度不飽和脂肪酸(PUFA)ポリケチドシンターゼ(PKS)系の少なくとも1つのドメインをコードする核酸配列;(b)本明細書で前に記載されている新規のスクリーニング方法により同定される微生物由来のPUFA PKS系の少なくとも1つのドメインをコードする核酸配列;(c)配列番号:2、配列番号:4、配列番号:6、およびそれらの生物活性断片からなる群より選択されるアミノ酸配列をコードする核酸配列;(d)配列番号:8、配列番号:10、配列番号:13、配列番号:18、配列番号:20、配列番号:22、配列番号:24、配列番号:26、配列番号:28、配列番号:30、配列番号:32、およびそれらの生物活性断片からなる群より選択されるアミノ酸配列をコードする核酸配列;(e)アミノ酸配列がPUFA PKS系の少なくとも1つのドメインの生物活性を有する、配列番号:2、配列番号:4、および配列番号:6からなる群より選択されるアミノ酸配列の少なくとも500個の連続したアミノ酸と少なくとも約60%同一であるアミノ酸配列をコードする核酸配列;および/または(f)アミノ酸配列がPUFA PKS系の少なくとも1つのドメインの生物活性を有する、配列番号:8、配列番号:10、配列番号:13、配列番号:18、配列番号:20、配列番号:22、配列番号:24、配列番号:26、配列番号:28、配列番号:30、および配列番号:32からなる群より選択されるアミノ酸配列と少なくとも約60%同一であるアミノ酸配列をコードする核酸配列。
【0212】
宿主細胞を遺伝的に改変する、および遺伝的改変の非ヒトのミルク産生動物を作製するための方法は、当技術分野において公知である。改変するための宿主動物の例には、導入遺伝子発現個体群の迅速な拡大のために遺伝子操作およびクローニングを受け入れられる、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ヤクなどを含む。動物について、PKS様導入遺伝子は、その遺伝子の制御領域の改変を通して、標的の細胞小器官、組織および体液における発現に適応しうる。特に関心対象となるのは、宿主動物の乳房ミルクにおけるPUFAの産生である。
【0213】
以下の実施例は、例証の目的のために提供され、本発明の範囲を限定することを意図しない。
【実施例】
【0214】
実施例1
下記実施例は、シゾキトリウム由来のPKS関連配列の更なる分析を説明している。
【0215】
本発明者らは、国際公開公報第0042195号および米国特許出願第09/231,899号からの、実施例8および9において概説された一般的方法を使用し、シゾキトリウムPUFA PKS系において、3個のオープンリーディングフレーム(Orf)の全長を全て含む、ゲノムDNAを配列決定した。シゾキトリウムPKSタンパク質の生物活性ドメインは、
図1に図示した。シゾキトリウムのPUFA PKS系のドメイン構造は、以下により詳細に説明する。
【0216】
オープンリーディングフレームA(OrfA):
OrfAの完全なヌクレオチド配列は、本明細書において配列番号:1として示される。OrfAは、8730個のヌクレオチド配列(停止コドンを含まず)であり、これは本明細書においては配列番号:2として示されている2910個のアミノ酸配列をコードしている。OrfAは、下記の12個のドメインがある:
(a)1個のβ-ケトアシル-ACPシンターゼ(KS)ドメイン;
(b)1個のマロニル-CoA:ACPアシルトランスフェラーゼ(MAT)ドメイン;
(c)9個のアシルキャリヤータンパク質(ACP)ドメイン;
(d)1個のケトレダクターゼ(KR)ドメイン。
【0217】
OrfA内に含まれたこれらのドメインは、下記を基に決定される:
(1)Pfamプログラムによる解析の結果(Pfamは、タンパク質ドメインまたは保存されたタンパク質領域の複数のアラインメントのデータベースである。これらのアラインメントは、タンパク質機能について意味を持ついくつかの進化の上で保存された構造を表わしている。Pfamアラインメントから構成されたプロファイル隠れマルコフモデル(プロファイルHMM)は、新規タンパク質が、例え相同性が弱くとも、既存のタンパク質ファミリーに属することを自動的に認識するのに非常に有用でありうる。標準のペアワイズアラインメント法(例えば、BLAST、FASTA)とは異なり、Pfam HMMは、マルチドメインタンパク質を実用本位に(sensibly)取扱う。Pfamバージョンのために提供される参考文献は以下である:Bateman A、Birney E、Cerruti L、Durbin R、Etwiller L、Eddy SR、Griffiths-Jones S、Howe KL、Marshall M、Sonnhammer EL、Nucleic Acids Research、30(1):276-280(2002));および/または
(2)標準のデフォルトのパラメータでのアミノ酸検索のためにblastpを使用する、BLAST 2.0 Basic BLAST相同性検索を用いる、細菌のPUFA-PKS系(例えば、シュワネラ)との相同性比較、ここでクエリー配列は、デフォルトにより低い完全性領域についてフィルターをかけられる(Altschul, S.F.、Madden, T.L.、Schaaffer, A.A.、Zhang, J.、Zhang, Z.、Miller, W.およびLipman, D.J.、「ギャップ付きBLASTおよびPSI-BLAST:新世代のタンパク質データベース検索プログラム(Gapped BLAST and PSI-BLAST: a new generation of protein database programs)」、Nucleic Acids Res.、25:3389-3402(1997)、これはその全体が本明細書に参照として組入れられている)。
【0218】
個々のドメインについて提供された配列は、機能的ドメインをコードしている完全長配列を含むと考えられ、Orf内の追加的隣接配列を含み得る。
【0219】
ORFA-KS
OrfAの第一のドメインは、KSドメインであり、本明細書においてはORFA-KSとも称される。このドメインは、配列番号:1(OrfA)の約1位〜約40位の間の開始点から、配列番号:1の約1428位〜約1500位の間の終点まで広がるヌクレオチド配列内に含まれる。ORFA-KSドメインをコードしている配列を含むヌクレオチド配列は、本明細書において配列番号:7(配列番号:1の1位〜1500位)で表わされる。KSドメインを含むアミノ酸配列は、配列番号:2(ORFA)の約1位〜約14位の間の開始点から、配列番号:2の約476位〜約500位の間の終点まで広がる。ORFA-KSドメインを含むアミノ酸配列は、本明細書において配列番号:8(配列番号:2の1位〜500位)で表わされる。ORFA-KSドメインは、活性部位モチーフ:DXAC* (*アシル結合部位C
215)を含むことが注目される。
【0220】
ORFA-MAT
OrfAの第二のドメインは、MATドメインであり、本明細書においてはORFA-MATとも称される。このドメインは、配列番号:1(OrfA)の約1723位〜約1798位の間の開始点から、配列番号:1の約2805位〜約3000位の間の終点まで広がるヌクレオチド配列内に含まれる。ORFA-MATドメインをコードしている配列を含むヌクレオチド配列は、本明細書において配列番号:9(配列番号:1の1723位〜3000位)として表わされる。MATドメインを含むアミノ酸配列は、配列番号:2(ORFA)の約575位〜約600位の間の開始点から、配列番号:2の約935位〜約1000位の間の終点まで広がる。ORFA-MATドメインを含むこのアミノ酸配列は、本明細書において配列番号:10(配列番号:2の575位〜1000位)で表わされる。ORFA-MATドメインは、活性部位モチーフ:GHS*XG(*アシル結合部位S
706)を含むことが注目され、これは本明細書においては配列番号:11として表わされている。
【0221】
ORFA-ACP#1-9
OrfAの3〜11のドメインは、9個の縦列ACPドメインであり、本明細書においてはORFA-ACPとも称される(この配列の第一のドメインはORFA-ACP1であり、第二のドメインはORFA-ACP2であり、第三のドメインはORFA-ACP3などである)。第一のドメインORFA-ACP1は、配列番号:1(OrfA)の約3343位〜約3600位に広がるヌクレオチド配列内に含まれる。ORFA-ACP1ドメインをコードしている配列を含むヌクレオチド配列は、本明細書において配列番号:12(配列番号:1の3343位〜3600位)として表わされる。第一のACPドメインを含むアミノ酸配列は、配列番号:2の約1115位から約1200位まで広がる。ORFA-ACP1ドメインを含むこのアミノ酸配列は、本明細書において配列番号:13(配列番号:2の1115位〜1200位)で表わされる。ORFA-ACP1ドメインは、活性部位モチーフ:LGIDS*(*パンテテイン結合モチーフS
1157)を含むことが注目され、これは本明細書において配列番号:14として表わされている。9個のACPドメイン全てのヌクレオチドおよびアミノ酸配列は、高度に保存され、従って、各ドメインの配列は、本明細書においては個々の配列の識別により説明されてはいない。しかしこの情報を基に、当業者は、他の8個のACPドメインの各々の配列を容易に決定することができる。9個のドメインの反復間隔は、配列番号:1の約110〜約330のヌクレオチドである。
【0222】
9個のACPドメイン全てが一緒に、配列番号:1の約3283位から約6288位までのOrfAの領域に広がり、これは配列番号:2のアミノ酸の約1095位〜約2096位に相当している。この領域は、個々のACPドメイン間のリンカーセグメントを含む。9個のACPドメインの各々は、パンテテイン結合モチーフ:LGIDS*(本明細書では配列番号:14により表わされる)を含み、ここで*は、パンテテイン結合部位Sである。ACPドメイン領域の各末端および各ACPドメインの間は、プロリン(P)およびアラニン(A)が非常に多い領域であり、これはリンカー領域と考えられる。例えば、ACPドメイン1と2の間には、配列:
があり、これは配列番号:15として表わされる。
【0223】
ORFA-KR
OrfAのドメイン12は、KRドメインであり、本明細書においてはORFA-KRとも称さ
れる。このドメインは、配列番号:1の約6598位の開始点から、配列番号:1の約8730位の終点まで広がるヌクレオチド配列内に含まれる。ORFA-KRドメインをコードしている配列を含むヌクレオチド配列は、本明細書において配列番号:17(配列番号:1の6598位〜8730位)で表わされる。KRドメインを含むアミノ酸配列は、配列番号:2(ORFA)の約2200位の開始点から、配列番号:2の約2910位の終点まで広がる。ORFA-KRドメインを含むアミノ酸配列は、本明細書において配列番号:18(配列番号:2の2200位〜2910位)で表わされる。KRドメイン内に、アルデヒド-デヒドロゲナーゼ(KRはこのファミリーのメンバーである)の短い鎖と相同なコア領域がある。このコア領域は、配列番号:1の約7198位から約7500位まで広がり、これは配列番号:2のアミノ酸の2400位〜2500位に相当している。
【0224】
オープンリーディングフレームB(OrfB)
OrfBの完全なヌクレオチド配列は、本明細書において配列番号:3として示される。OrfBは、6177個のヌクレオチド配列(停止コドンを含まず)であり、これは本明細書においては配列番号:4として示されている2059個のアミノ酸配列をコードしている。OrfBは、下記の4個のドメインがある:
(a)β-ケトアシル-ACPシンターゼ(KS)ドメイン;
(b)1個の鎖伸長因子(CLF)ドメイン;
(c)1個のアシルトランスフェラーゼ(AT)ドメイン;
(d)1個のエノイルACP-レダクターゼ(ER)ドメイン。
【0225】
ORFB内に含まれたこれらのドメインは、下記を基に決定される:
(1)前述の、Pfamプログラムによる解析の結果;および/または、(2)同じく前述の、BLAST 2.0 Basic BLAST相同性検索を用いる、細菌のPUFA-PKS系(例えば、シュワネラ)との相同性比較。個々のドメインについて提供された配列は、機能的ドメインをコードしている完全長配列を含むと考えられ、Orf内の追加的隣接配列を含み得る。
【0226】
ORFB-KS
OrfBの第一のドメインは、KSドメインであり、本明細書においてはORFB-KSとも称される。このドメインは、配列番号:3(OrfB)の約1位〜約43位の間の開始点から、配列番号:3の約1332位〜約1350位の間の終点まで広がるヌクレオチド配列内に含まれる。ORFB-KSドメインをコードしている配列を含むこのヌクレオチド配列は、本明細書において配列番号:19(配列番号:3の1位〜1350位)で表わされる。KSドメインを含むアミノ酸配列は、配列番号:4(ORFB)の約1位〜約15位の間の開始点から、配列番号:4の約444位〜約450位の間の終点まで広がる。ORFB-KSドメインを含むアミノ酸配列は、本明細書において配列番号:20(配列番号:4の1位〜450位)で表わされる。ORFB-KSドメインは、活性部位モチーフ:DXAC*(*アシル結合部位C
196)を含むことが注目される。
【0227】
ORFB-CLF
OrfBの第二のドメインは、CLFドメインであり、本明細書においてはORFB-CLFとも称される。このドメインは、配列番号:3(OrfB)の約1378位〜約1402位の間の開始点から、配列番号:3の約2682位〜約2700位の間の終点まで広がるヌクレオチド配列内に含まれる。ORFB-CLFドメインをコードしている配列を含むヌクレオチド配列は、本明細書において配列番号:21(配列番号:3の1378位〜2700位)として表わされる。CLFドメインを含むアミノ酸配列は、配列番号:4(ORFB)の約460位〜約468位の間の開始点から、配列番号:4の約894位〜約900位の間の終点まで広がる。ORFB-CLFドメインを含むアミノ酸配列は、本明細書において配列番号:22(配列番号:4の460位〜900位)で表わされる。ORFB-CLFドメインは、アシル結合システインを伴わないKS活性部位モチーフを含むことが注目される。
【0228】
ORFB-AT
OrfBの第三のドメインは、ATドメインであり、本明細書においてはORFB-ATとも称される。このドメインは、配列番号:3(OrfB)の約2701位〜約3598位の間の開始点から、配列番号:3の約3975位〜約4200位の間の終点まで広がるヌクレオチド配列内に含まれる。ORFB-ATドメインをコードしている配列を含むヌクレオチド配列は、本明細書において配列番号:23(配列番号:3の2701位〜4200位)として表わされる。ATドメインを含むアミノ酸配列は、配列番号:4(ORFB)の約901位〜約1200位の間の開始点から、配列番号:4の約1325位〜約1400位の間の終点まで広がる。ORFB-ATドメインを含むアミノ酸配列は、本明細書において配列番号:24(配列番号:4の901位〜1400位)で表わされる。ORFB-ATドメインは、AT活性部位モチーフ:GxS*xG(*アシル結合部位C
1140)を含むことが注目される。
【0229】
ORFB-ER
OrfBの第四のドメインは、ERドメインであり、本明細書においてはORFB-ERとも称される。このドメインは、配列番号:3(OrfB)の約4648位の開始点から、配列番号:3の約6177位の終点まで広がるヌクレオチド配列内に含まれる。ORFB-ERドメインをコードしている配列を含むヌクレオチド配列は、本明細書において配列番号:25(配列番号:3の4648位〜6177位)として表わされる。ERドメインを含むアミノ酸配列は、配列番号:4(ORFB)の約1550位の開始点から、配列番号:4の約2059位の終点まで広がる。ORFB-ERドメインを含むこのアミノ酸配列は、本明細書において配列番号:26(配列番号:4の1550位〜2059位)で表わされる。
【0230】
オープンリーディングフレームC(OrfC)
OrfCの完全なヌクレオチド配列は、本明細書において配列番号:5として示される。OrfCは、4509個のヌクレオチド配列(停止コドンを含まず)であり、これは本明細書においては配列番号:6として示されている1503個のアミノ酸配列をコードしている。OrfCは、下記の3個のドメインがある:
(a)2個のFabA様β-ヒドロキシアシル-ACPデヒドラーゼ(DH)ドメイン;
(b)1個のエノイルACP-レダクターゼ(ER)ドメイン。
【0231】
ORFC内に含まれたこれらのドメインは、下記を基に決定される:
(1)前述の、Pfamプログラムによる解析の結果;および/または、(2)同じく前述の、BLAST 2.0 Basic BLAST相同性検索を用いる、細菌のPUFA-PKS系(例えば、シュワネラ)との相同性比較。個々のドメインについて提供された配列は、機能的ドメインをコードしている完全長配列を含むと考えられ、Orf内の追加的隣接配列を含み得る。
【0232】
ORFC-DH1
OrfCの第一のドメインは、DHドメインであり、本明細書においてはORFC-DH1とも称される。これは、OrfCの2個のDHドメインのひとつであり、従ってDH1と称される。このドメインは、配列番号:5(OrfC)の約1位〜約778位の間の開始点から、配列番号:5の約1233位〜約1350位の間の終点まで広がるヌクレオチド配列内に含まれる。ORFC-DH1ドメインをコードしている配列を含むヌクレオチド配列は、本明細書において配列番号:27(配列番号:5の1位〜1350位)で表わされる。DH1ドメインを含むアミノ酸配列は、配列番号:6(ORFC)の約1位〜約260位の間の開始点から、配列番号:6の約411位〜約450位の間の終点まで広がる。ORFC-DH1ドメインを含むこのアミノ酸配列は、本明細書において配列番号:28(配列番号:6の1位〜450位)で表わされる。
【0233】
ORFC-DH2
OrfCの第二のドメインは、DHドメインであり、本明細書においてはORFC-DH2とも称される。これは、OrfCの2個のDHドメインの二番目であり、従ってDH2と称される。このドメインは、配列番号:5(OrfC)の約1351位〜約2437位の間の開始点から、配列番号:5の約2607位〜約2850位の間の終点まで広がるヌクレオチド配列内に含まれる。ORFC-DH2ドメインをコードしている配列を含むヌクレオチド配列は、本明細書において配列番号:29(配列番号:5の1351位〜2850位)で表わされる。DH2ドメインを含むアミノ酸配列は、配列番号:6(ORFC)の約451位〜約813位の間の開始点から、配列番号:6の約869位〜約950位の間の終点まで広がる。ORFC-DH2ドメインを含むこのアミノ酸配列は、本明細書において配列番号:30(配列番号:6の451位〜950位)で表わされる。
【0234】
ORFC-ER
OrfCの第三のドメインは、ERドメインであり、本明細書においてはORFC-ERとも称される。このドメインは、配列番号:5(OrfC)の約2998位の開始点から、配列番号:5の約4509位の終点まで広がるヌクレオチド配列内に含まれる。ORFC-ERドメインをコードしている配列を含むこのヌクレオチド配列は、本明細書において配列番号:31(配列番号:5の2998位〜4509位)で表わされる。ERドメインを含むアミノ酸配列は、配列番号:6(ORFC)の約1000位の開始点から、配列番号:6の約1502位の終点まで広がる。ORFC-ERドメインを含むこのアミノ酸配列は、本明細書において配列番号:32(配列番号:6の1000位〜1502位)で表わされる。
【0235】
実施例2
下記実施例は、本発明のPUFA PKS系を含む3種の他の非細菌の生物を同定するための、本発明のスクリーニング法の使用を説明している。
【0236】
スラウストキトリウム種23B(ATCC 20892)は、米国特許仮出願第60/298,796号に開示されており、本明細書において詳細に説明するスクリーニング法により、培養された。
【0237】
PUFA生成PKS系を含む微生物を検出するために開発された生物学的に合理性のあるスクリーニング(振盪フラスコ培養を用いる)を、下記に説明する:
試験される菌株/微生物の2mLの培養物を、培養培地50mLと共に、250mLのバッフル付き振盪フラスコに入れ(好気的処理)、別の同じ菌株の培養物2mLを、培養培地200mLと共に、250mLのバッフル無し振盪フラスコに入れた(嫌気的条件)。両方のフラスコを、200rpmの振盪台上に配置する。培養時間48〜72時間後、これらの培養物を、遠心により収集し、かつ細胞を、ガスクロマトグラフィーにより、脂肪酸メチルエステルについて分析し、各培養物について下記のデータを測定した:(1)脂肪酸プロファイル;(2)PUFA含量;(3)脂肪含量(総脂肪酸量として算出(TEA))。
【0238】
次にこれらのデータを、下記の5つの質問について分析する:
選択基準:低O2/嫌気性フラスコ、対、好気性フラスコ(はい/いいえ)
(1)DHA(または他のPUFA含量)(%FAMEとして)は、低酸素培養において、好気性培養と比べ、ほぼ同じであるか、または好ましくは増加したか?
(2)嫌気性培養において、C14:0+C16:0+C16:1は、約40%TFAより大きいかどうか?
(3)嫌気性培養において、通常の酸素依存型エロンガーゼ/デサチュラーゼ経路への前駆体(C18:3n-3+C18:2n-6+C18:3n-6)は、非常にわずかに(FAMEとして>1%)存在するか、または存在しないか?
(4)脂肪含量(総脂肪酸量/細胞乾燥質量として)は、低酸素培養において、好気性培養と比べ、増加したか?
(5)DHA(または他のPUFA含量)は細胞乾燥質量%として、低酸素培養において、好気性培養と比べ、増加したか?
【0239】
最初の3つの質問の答えが「はい」であるならば、その菌株が、長鎖PUFAの生成のためのPKS遺伝子系を含むことの良好な指標が存在する。答えが「はい」である質問が多いほうが(好ましくは最初の3個の質問の答えは「はい」でなければならない)、その菌株がこのようなPKS遺伝子系を含む指標はより強力である。5つの質問全ての答えが「はい」である場合は、その菌株が、長鎖PUFAの生成ためのPKS遺伝子系を含む非常に強力な指標が存在する。
【0240】
先に概説した方法に従い、凍結したウイルスであるスラウストキトリウム種23B(ATCC 20892)を用い、RCA培地50mLを含む250mLの振盪フラスコに播種した。この培養物を、振盪台(200rpm)で、72時間、25℃で振盪した。RCA培地は下記を含有する。
【0241】
RCA培地
脱イオン水 1000mL、
Reef Crystals(登録商標)海水塩 40g/l
グルコース 20g/l、
グルタミン酸一ナトリウム(MSG) 20g/l、
酵母抽出物 1g/l、
PII金属* 5ml/l、
ビタミン混合物* 1ml/l、
pH 7.0
*PII金属混合物およびビタミン混合物は、米国特許第5,130,742号に開示したものと同じであり、これはその全体が本明細書に参照として組入れられている。
【0242】
その後72時間の古培養物25mLを用い、別の低窒素RCA培地(MSGを、20g/Lの代わりに10g/L)が50mL入った250mLの振盪フラスコに播種し、残りの培養物25mLを、低窒素RCA培地175mLが入った250mLの振盪フラスコに播種した。これらのふたつのフラスコを次に、振盪台(200rpm)に25℃で72時間放置した。次に細胞を遠心により収集し、凍結乾燥により乾燥した。乾燥した細胞を、標準のガスクロマトグラフィー手法(例えば米国特許第5,130,742号に開示されたものなど)を用い、脂肪含量並びに脂肪酸プロファイルおよび含量について分析した。
【0243】
スラウストキトリウム23Bに関するスクリーニング結果は下記のようであった:
%FAMEとしてのDHAは増大したか? はい(38->44%)
C14:0+C16:0+C16:1は、約40%TFAよりも大きいか? はい(44%)
C18:3(n-3)またはC18:3(n-6)は存在しないか? はい(0%)
脂肪含量は増加したか? はい(2倍増加)
DHA(または他のHUFA含量)は増加したか? はい(2.3倍増加)
【0244】
これらの結果、特に低酸素条件下でのDHA含量(%FAMEとしての)の有意な増加は、このスラウストキトリウム株におけるPUFA生成PKS系の存在を強力に示している。
【0245】
PUFA PKS系の存在を確認する追加のデータを提供するために、スラウストキトリウム23Bのサザンブロットを、PUFA生成PKS系(すなわち、前記配列番号:1〜32)を有することが既に決定されているシゾキトリウム株20888由来のPKSプローブを用いて行った。PKS PUFA合成遺伝子からのハイブリダイゼーションプローブと相同であるスラウストキトリウム23BゲノムDNAの断片は、サザンブロット技術を用いて検出した。スラウストキトリウム23BゲノムDNAは、ClaIまたはKpnI制限エンドヌクレアーゼのいずれかにより消化し、アガロースゲル電気泳動(0.7%アガロース、標準のTris-酢酸-EDTA緩衝液中)により分離し、Schicicher & Schuell Nytran Supercharge膜に、キャピラリートランスファーによりブロティングした。2種のジゴキシゲンインで標識したハイブリダイゼーションプローブを用いた。即ち、ひとつはシゾキトリウムPKS OrfBのエノイルレダクターゼ(ER)領域(OrfBのヌクレオチド5012〜5511;配列番号:3)に特異的であり、他方はシゾキトリウムPKS OrfCの始まりの保存領域(OrfCのヌクレオチド76〜549;配列番号:5)に特異的である。
【0246】
OrfB-ERプローブは、スラウストキトリウム23BゲノムDNAにおける約13kb ClaI断片および約3.6kb KpnI断片を検出した。OrfCプローブは、スラウストキトリウム23BゲノムDNAにおける約7.5kb ClaI断片および約4.6kb KpnI断片を検出した。
【0247】
最後に、ベクターλFIX II(Stratagene社)に挿入されたスラウストキトリウム23BゲノムDNAのDNA断片からなる組換えゲノムライブラリーを、下記のシゾキトリウム20888 PUFA-PKS遺伝子のセグメントに相当するジゴキシゲニン標識プローブを用いて、スクリーニングした:OrfAのヌクレオチド7385〜7879(配列番号:1)、OrfBのヌクレオチド5012〜5511(配列番号:3)、およびOrfCのヌクレオチド76〜549(配列番号:5)。これらの各プローブは、スラウストキトリウム23Bライブラリーから陽性プラークを検出し、これはシゾキトリウム PUFA-PKS遺伝子と、スラウストキトリウム23Bの遺伝子の間の強度の相同性を示している。
【0248】
まとめると、これらの結果は、スラウストキトリウム23BゲノムDNAは、シゾキトリウム20888由来のPKS遺伝子と相同である配列を含むことを示している。
【0249】
このスラウストキトリド微生物は、前述の態様における使用のためのこれらの遺伝子の追加の供給源として本明細書に包含されている。
【0250】
スラウストキトリウム23B(ATCC 20892)は、シゾキトリウム種(ATCC 20888)とは、その脂肪酸プロファイルにおいて顕著に異なる。DHA:DPA(n-6)比は、シゾキトリウム(ATCC 20888)がわずかに2-3:1であるのに対し、スラウストキトリウム23Bは14:1と高い比を有する。スラウストキトリウム23Bは、より高いレベルのC20:5(n-3)も有する。公知のシゾキトリウムPUFA PKS系と比べ、スラウストキトリウム23BのPUFA PKS系のこれらのドメインの分析は、本発明者らに、これらの系を用いて生成されたPUFAの比および型に影響するために、いかにしてこれらのドメインを改変するかに関する重要な情報を提供するはずである。
【0251】
前述のスクリーニング法は、PUFA PKS系を含む他の可能性のある候補菌株の同定に使用される。本発明者らによりPUFA PKS系を有することが同定された2種の追加の菌株は、シゾキトリウム・リマシウム(SR21) Honda & Yokochi (IFO32693)およびウルケニア(BP-5601)である。両方とも、前述のようにスクリーニングされているが、これはN2培地においてであった(グルコース:60g/L;KH
2PO
4:4.0g/L;酵母抽出物:1.0g/L;コーン浸漬リカー:1ml/L;NH
4NO
3:1.0g/L;人工海水塩(Reef Crystals):20g/L;前記濃度は全て脱イオン水に混合した)。シゾキトリウム株およびウルケニア株の両方について、スラウストキトリウム23Bに関し先に考察した最初の3個のスクリーニング質問の回答は、「はい」(シゾキトリウム-DHA(%FAME) 32->41% 好気性対嫌気性、58% 14:0/16:0/16:1、0% 前駆体)および(ウルケニア-DHA(%FAME) 28->44% 好気性対嫌気性、63% 14:0/16:0/16:1、0% 前駆体)であり、これは、これらの株はPUFA PKS系を含むことの良好な候補であることを示している。各菌株について、「いいえ」の回答は、最後のふたつの質問で得られた:S.リマシウムにおいて、脂肪は61乾燥質量%から22乾燥質量%へ減少し、DHAは21〜9乾燥質量%であり、ウルケニアにおいて、脂肪は59から21乾燥質量%へ減少し、DHAは16〜9乾燥質量%であった。これらのスラウストキトリド微生物も、前記態様における使用のための遺伝子の追加供給源として、本明細書において主張されている。
【0252】
実施例3
下記実施例は、シゾキトリウムにおけるDHAおよびDPA合成が、他の真核生物において説明されたもののような膜-結合したデサチュラーゼまたは脂肪酸伸長酵素には関連していないことを示している(Parker-Barnesら、2000、前掲;Shanklinら、1998、前掲)。
【0253】
シゾキトリウムは、DHAおよびデコサペンタエン酸(DPA;22:5ω6)においてトリグリセリドを大量に蓄積する;例えば、30%DHA+DPA乾燥質量。伸長/不飽和の経路により20-および22-炭素PUFAを合成する真核生物において、18-、20-および22-炭素中間体のプールは、比較的大きく、その結果[
14C]-酢酸塩を使用するインビボ標識実験は、予想される中間体に関する明白な前駆体−生成物の反応速度論を明らかにしている。更にこのような微生物に内因性に提供される放射標識した中間体は、最終PUFA生成物へ転換される。
【0254】
[1-
14C]-酢酸塩を、ゼロ時で1回パルスした2日間培養物に供給した。その後細胞試料を遠心により収集し、脂質を抽出した。加えて、これらの細胞による[1-
14C]-酢酸塩取込みを、遠心前後の試料の放射能の測定により概算した。総細胞脂質由来の脂肪酸メチルエステルは、AgNO
3-TLC(溶媒、ヘキサン:ジエチルエーテル:酢酸、容量比70:30:2)により分離した。脂肪酸バンドの同一性は、ガスクロマトグラフィーにより証明し、それらの放射能は、シンチレーションカウンターにより測定した。結果は、[1-
14C]-酢酸塩は、シゾキトリウム細胞により迅速に取込まれ、脂肪酸に組込まれたが、最短標識時間(1分)で、DHAは脂肪酸から回収された標識の31%を含み、かつこの割合は[1-
14C]-酢酸塩取込みにおいて10〜15分間およびその後の24時間培養増殖において(データは示さず)本質的に変化しなかった。同様にDPAは、実験を通じて標識の10%を示した。16-または18-炭素脂肪酸および22-炭素高度不飽和脂肪酸の間に、前駆体−生成物の関係を示す証拠はない。これらの結果は、中間体(可能性のある酵素結合した)のプールの関与がごくわずかである、[
14C]-酢酸塩からのDHAの迅速な合成と一致している。
【0255】
次に細胞を、2mM DTT、2mM EDTA、および10%グリセロールを含有する、100mMリン酸緩衝液(pH7.2)において、ガラスビーズと共にボルテックスすることにより、破壊した。細胞非含有ホモジネートを、100,000gで1時間遠心した。総ホモジネート、ペレット(H-Sペレット)、および上清(H-S上清)画分の同量のアリコートを、20μMアセチル-CoA、100μM[1-
14C]-マロニル-CoA(0.9Gbq/mol)、2mM NADH、および2mM NADPHを添加したホモジネート緩衝液中で、25℃で60分間インキュベーションした。アッセイは抽出し、脂肪酸メチルエステルを調製し、前述のように分離し、その後、インスタントイメージャー(Instantimager)(Packard Instruments社、メリデン、CT)により放射能を測定した。結果は、シゾキトリウム培養物由来の細胞非含有ホモジネートは、[1-
14C]-マロニル-CoAを、DHA、DPA、および飽和脂肪酸に組込んだことを示した(データは示さず)。同じ生合成活性が、100,000xg上清画分において維持されたが、膜ペレットでは存在しなかった。これらのデータは、これらの細菌の酵素のアッセイ時に得られたものとは対照的であり(Metzら、2001、前掲参照)、異なる(可溶性)アシルアクセプター分子の使用を示唆することができる。従って、シゾキトリウムにおけるDHAおよびDPA合成は、他の真核生物において説明されているような、膜結合したデサチュラーゼまたは脂肪酸伸長酵素には関与していない。
【0256】
様々な本発明の態様を詳細に説明しているが、当業者には、これらの態様の改変および適合を行うことは明らかである。しかし、このような改変および適合は、特許請求の範囲に示されたような本発明の範囲内にあることは、説明的に理解されるべきである。