特許第5806273号(P5806273)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5806273インバータの直流リンクコンデンサの容量推定装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5806273
(24)【登録日】2015年9月11日
(45)【発行日】2015年11月10日
(54)【発明の名称】インバータの直流リンクコンデンサの容量推定装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/00 20060101AFI20151021BHJP
   H02M 7/49 20070101ALI20151021BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20151021BHJP
【FI】
   G01R31/00
   H02M7/49
   H02M7/48 M
【請求項の数】7
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-213632(P2013-213632)
(22)【出願日】2013年10月11日
(65)【公開番号】特開2014-89184(P2014-89184A)
(43)【公開日】2014年5月15日
【審査請求日】2013年10月11日
(31)【優先権主張番号】10-2012-0120603
(32)【優先日】2012年10月29日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】593121379
【氏名又は名称】エルエス産電株式会社
【氏名又は名称原語表記】LSIS CO.,LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100165191
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 章
(74)【代理人】
【識別番号】100151459
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 健一
(72)【発明者】
【氏名】チェ スン チョル
(72)【発明者】
【氏名】ユ アンノ
【審査官】 川瀬 正巳
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−160001(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/00
H02M 7/48
H02M 7/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直列接続された複数の単位電力セルが1つの相電圧を電動機に出力する高圧インバータシステムにおいて、前記単位電力セルの直流リンクコンデンサの容量を推定する装置であって、
前記複数の単位電力セルに対する第1電圧指令を生成し、前記複数の単位電力セルから前記直流リンクコンデンサの容量推定に用いられる第1単位電力セルを選択するための選択信号を生成する制御部と、
前記選択信号に従い、負荷電流角を用いて前記第1電圧指令を修正して、前記第1単位電力セルの直流リンクコンデンサの容量を推定し、前記直流リンクコンデンサに接続されるインバータ部のスイッチング状態を制御するためのゲート信号を供給する駆動部と、
を含
前記ゲート信号は、前記選択信号と前記第1電圧指令の計算された値との組合せに基づき決定される、容量推定装置。
【請求項2】
前記駆動部は、
負荷電流から出力電流の角に対応する第1及び第2三角関数を生成する第1生成部と、
前記第1電圧指令を修正して、容量推定のための第3電圧指令と第2単位電力セルのそれぞれに出力する第2電圧指令を生成する修正部と、
前記第3電圧指令を用いて前記第1単位電力セルの直流リンクコンデンサの容量を推定する推定部と、
を含む、請求項1に記載の容量推定装置。
【請求項3】
前記駆動部は、前記直流リンクコンデンサに接続される前記インバータ部のスイッチング状態を制御するためのゲート信号を生成する第2生成部をさらに含
前記ゲート信号は、前記選択信号と前記第1電圧指令の計算された値との組合せに基づき決定される、請求項2に記載の容量推定装置。
【請求項4】
前記第1生成部は、
余弦信号である負荷電流の位相を遅延させて正弦信号を生成する第1遅延部と、
前記負荷電流の大きさを求める第3生成部と、
前記余弦信号及び前記正弦信号を前記負荷電流の大きさにそれぞれ正規化し、前記第1及び第2三角関数をそれぞれ生成する正規化部と、
を含む、請求項2に記載の容量推定装置。
【請求項5】
前記修正部は、
前記第1電圧指令に前記複数の単位電力セルの数(N)をかけて、1相の第4電圧指令を生成する第4生成部と、
前記第4電圧指令から、負荷電流と1/4周期の位相差を有する前記第3電圧指令を生成する第5生成部と、
を含む、請求項2に記載の容量推定装置。
【請求項6】
前記修正部は、
前記第4電圧指令から前記第3電圧指令を引いた電圧を前記複数の単位電力セルの数から1を引いた数(N−1)で割って前記第2電圧指令を生成する第6生成部をさらに含む、請求項5に記載の容量推定装置。
【請求項7】
前記推定部は、
前記第3電圧指令及び前記負荷電流の大きさから電力を演算する第1演算部と、
直流リンク電圧の変化量を演算する第2演算部と、
直流リンク電圧の平均を演算する第3演算部と、
前記電力、変化量及び平均から、前記直流リンクコンデンサの容量を推定する容量推定部と、
を含む、請求項5に記載の容量推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容量推定装置に関し、特に、インバータの直流リンクコンデンサの容量推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
マルチレベル高圧インバータ(multi-level high-voltage inverter)は、入力される線間電圧の実効値(RMS値)が600V以上のインバータであって、出力相電圧が多段階(マルチレベル)に調整されて出力される。高圧インバータは、数百kW〜数十MWの容量を有する大容量の電動機を駆動するのに用いられ、主にファン、ポンプ、圧縮機、牽引(トラクション)、昇降(ホイスト)、コンベアなどの分野において用いられている。
【0003】
マルチレベル高圧インバータとしては、モジュール化構造であるため拡張が容易なカスケードHブリッジインバータが主に用いられている。このようなカスケードHブリッジインバータは、単位電力セル(power cell)毎に大容量の直流リンクコンデンサを含むが、直流リンクコンデンサは電力変換回路の構成のうち最も故障(フォールト)状態になりやすいという問題があった。
【0004】
図11は従来のカスケードHブリッジ高圧インバータの一例を示す構成図である。
【0005】
同図に示すように、従来のカスケードHブリッジ高圧インバータ100は、入力電源200から線間電圧の実効値が600V以上の電圧を受け取り、それを3相電圧に変換して電動機300に出力する。電動機300は高圧の3相電動機である。
【0006】
このような高圧インバータ100は、移相変圧器110及び複数の単位電力セル120a〜120fから構成される。
【0007】
移相変圧器110は、入力電源200と高圧インバータ100を電気的に絶縁し、入力端の高調波を低減し、また、各単位電力セル120a〜120fに入力3相電源を供給する。
【0008】
単位電力セル120a〜120fは、移相変圧器110から電源の供給を受け、電動機300の相電圧を出力する。各単位電力セル120a〜120fは3つのグループからなる。同図において、A1電力セル120a及びA2電力セル120bは直列接続されて電動機300のa相電圧を合成し、B1電力セル120c及びB2電力セル120dは電動機300のb相電圧を合成し、C1電力セル120e及びC2電力セル120fは電動機300のc相電圧を合成する。合成されたb相電圧とa相電圧とは120度の位相差を有し、合成されたc相電圧とb相電圧も120度の位相差を有する。
【0009】
図12図11の単位電力セルの詳細構成図である。
【0010】
同図に示すように、従来の高圧インバータにおける単位電力セル120は、整流部121、直流リンクコンデンサ122、インバータ部123、電圧センサ124、電流センサ125、駆動部126及び制御部127から構成される。
【0011】
整流部121は、移相変圧器110から電気的に絶縁された交流電圧を受け取って直流電圧に変換する。一般に、整流部121は、複数のダイオードで構成され、整流後の電圧は、整流部121の入力電力と出力電力の差と直流リンクコンデンサ122の容量の関係から決定される。
【0012】
直流リンクコンデンサ122は、整流部121とインバータ部123との電力差を補償し、電圧センサ124は、直流リンクコンデンサ122の電圧を測定する。
【0013】
インバータ部123は、単相フルブリッジインバータ(single phase full bridge inverter)であって、電力スイッチにより、直流リンク電圧から電動機300に出力する電圧を合成する。
【0014】
電流センサ125は、インバータ部123の出力電流を測定する。
【0015】
駆動部126は、単位電力セル120毎に独立して駆動信号を送り、単位電力セル120の状態を制御部127に提供し、制御部127から電圧指令を受けてインバータ部123のスイッチング状態を決定するゲート信号を生成する。
【0016】
制御部127は、各単位電力セル120に対する電圧指令Vrefを出力し、システム全体のシーケンスを決定する。制御部127は、使用者の命令及び設定に応じて、各単位電力セル120に対する電圧指令を決定する。
【0017】
制御部127の電圧指令により、駆動部126は、直流リンク電圧Vdcに基づいて当該電圧指令に対するゲート信号を決定する。また、駆動部126は、出力電流Iout及び直流リンク電圧Vdcに基づいて故障であると判断した場合、ゲート信号の生成を中止する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
このようなシステムにおいて、直流リンク電圧を平滑するために用いられる直流リンクコンデンサは、他の素子に比べて相対的に寿命が短く、故障発生頻度が最も高く、インバータの信頼性に与える影響が最も大きい。従来、このような直流リンクコンデンサの故障状態を判別するためには別途の装置が求められたり、当該装置が電源分離状態などの特定の運転状態で用いられるため、直流リンクコンデンサの状態をリアルタイムで測定することができなかった。
【0019】
本発明が解決しようとする技術的課題は、カスケードHブリッジ高圧インバータの単位電力セルに対する電圧指令から交流電力を発生する電圧指令を分離して各単位電力セルに異なる電圧指令を出力し、直流リンクコンデンサの電力に関する式を用いて直流リンクコンデンサの容量を推定する、インバータの直流リンクコンデンサの容量推定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記技術的課題を解決するために、直列接続された複数の単位電力セルが1つの相電圧を電動機に出力する高圧インバータシステムにおいて、前記単位電力セルの直流リンクコンデンサの容量を推定する本発明の装置は、前記複数の単位電力セルに対する電圧指令(第1電圧指令)を生成し、前記複数の単位電力セルから前記直流リンクコンデンサの容量推定に用いられる単位電力セル(第1単位電力セル)を選択する選択信号を生成する制御部と、前記選択信号により、負荷電流角を用いて電圧指令を修正して、前記第1単位電力セルの直流リンクコンデンサの容量を推定し、直流リンク電圧に基づいて修正された電圧指令(第2電圧指令)を生成するためのゲート信号を生成して、前記複数の単位電力セルのうち前記第1単位電力セル以外の単位電力セル(第2単位電力セル)のそれぞれに前記ゲート信号を供給する駆動部とを含んでもよい。
【0021】
本発明の一実施形態において、前記駆動部は、負荷電流から出力電流の角に対応する第1及び第2三角関数を生成する第1生成部と、前記第1電圧指令を修正して、容量推定のための電圧指令(第3電圧指令)と前記第2単位電力セルのそれぞれに出力する前記第2電圧指令を生成する修正部と、前記第3電圧指令を用いて前記第1単位電力セルの直流リンクコンデンサの容量を推定する推定部とを含んでもよい。
【0022】
本発明の一実施形態において、前記駆動部は、前記第2電圧指令を生成するためのゲート信号を生成して前記第2単位電力セルのそれぞれに供給する第2生成部をさらに含んでもよい。
【0023】
本発明の一実施形態において、前記第1生成部は、余弦信号(cosine signal)である負荷電流の位相を遅延させて正弦信号(sine signal)を生成する第1遅延部と、前記負荷電流の大きさを求める第3生成部と、前記余弦信号及び前記正弦信号を前記負荷電流の大きさにそれぞれ正規化し、前記第1及び第2三角関数をそれぞれ生成する正規化部とを含んでもよい。
【0024】
本発明の一実施形態において、前記修正部は、前記第1電圧指令に前記単位電力セルの数(N)をかけて1相の電圧指令(第4電圧指令)を生成する第4生成部と、前記第4電圧指令から、負荷電流と1/4周期の位相差を有する前記第3電圧指令を生成する第5生成部とを含んでもよい。
【0025】
本発明の一実施形態において、前記修正部は、前記第4電圧指令から前記第3電圧指令を引いた電圧を前記単位電力セルの数から1を引いた数(N−1)で割って前記第2電圧指令を生成する第6生成部をさらに含んでもよい。
【0026】
本発明の一実施形態において、前記推定部は、前記第3電圧指令及び前記負荷電流の大きさから電力を演算する第1演算部と、直流リンク電圧の変化量を演算する第2演算部と、直流リンク電圧の平均を演算する第3演算部と、前記電力、変化量及び平均から、前記直流リンクコンデンサの容量を推定する容量推定部とを含んでもよい。
【発明の効果】
【0027】
このような本発明においては、推定する単位電力セルの出力電力が脈動電力のみで構成されるように出力電圧を再構成し、単位電力セルの入力電力を考慮しないコンデンサ電力を用いて、直流リンクコンデンサの容量を推定することができ、装置の追加を要することなく、運転中にも単位電力セルの直流リンクコンデンサの容量を周期的に推定して直流リンクコンデンサの状態を判断し、それにより高圧インバータの安定性及び信頼性を向上させる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明による高圧インバータシステムの概略動作を説明するための構成図である。
図2図1の単位電力セルの詳細構成図である。
図3図2の制御部及び駆動部の詳細構成図である。
図4図3の負荷電流角演算部の詳細構成図である。
図5図3の電圧指令修正部の詳細構成図である。
図6図5の電圧指令修正部の動作の一例を説明するための図である。
図7図3の推定部の詳細構成図である。
図8図7の電力演算部の詳細構成図である。
図9図7の変化量演算部及び平均演算部の詳細構成図である。
図10図7の容量推定部の詳細構成図である。
図11】従来のカスケードHブリッジ高圧インバータの一例を示す構成図である。
図12図11の単位電力セルの詳細構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は、様々な変更が可能であり、様々な実施形態を有するが、特定の実施形態を図面に示して詳細に説明する。しかし、これは本発明を特定の実施形態に限定するものではなく、本発明の思想及び技術範囲に含まれる全ての変更、均等物乃至代替物を含むものと理解されるべきである。
【0030】
以下、添付図面を参照して本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。
【0031】
図1は本発明による高圧インバータシステムの概略動作を説明するための構成図である。同図においては、便宜上単位電力セルが2段で構成されている場合を示すが、これは例示的なものであり、必要に応じて単位電力セルの数を変更できることは本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者にとって自明である。
【0032】
同図に示すように、本発明による高圧インバータシステムの高圧インバータ1は、入力電源2から線間電圧の実効値が600V以上の電圧を受け取り、それを3相電圧に変換して電動機3に出力する。電動機3は、高圧の3相電動機であって、例えば誘導電動機又は同期電動機であってもよい。
【0033】
本発明の高圧インバータ1は制御部30を含み、制御部30は選択信号生成部32を含み、選択信号生成部32により決定された選択信号に応じて、各相の電力セルのいずれか1つが選択される。選択された電力セルは、該当相の他のセルとは異なり、コンデンサの容量推定のために修正された電圧指令を用いて容量を推定する。
【0034】
すなわち、本発明の制御部30の選択信号生成部32により1相当たり1つの電力セルが選択され、選択された電力セルは本発明の容量推定のために用いられ、その他の電力セルは一般的なインバータ動作のために用いられる。
【0035】
図2図1の単位電力セルの詳細構成図であり、図3図2の制御部及び駆動部の詳細構成図であり、図1の複数の単位電力セル20a〜20fはその構成が同一であるのでまとめて説明する。
【0036】
図2に示すように、本発明の単位電力セル20は、整流部21、直流リンクコンデンサ22、インバータ部23、電圧センサ24、電流センサ25、駆動部40及び制御部30を含む。整流部21、直流リンクコンデンサ22、インバータ部23、電圧センサ24及び電流センサ25の動作については、図12を参照して説明した通りであるので、その詳細な説明は省略する。
【0037】
図3に示すように、図2の制御部30は、電圧指令生成部31及び選択信号生成部32を含み、駆動部40は、負荷電流角演算部41、電圧指令修正部42、推定部43及びゲート信号生成部44を含む。本発明においては、駆動部40及び制御部30が別々の構成要素として提供される場合を説明するが、1つの構成要素でまとめて提供することもできることは自明である。
【0038】
本発明の制御部30は、各単位電力セルに対する電圧指令Vrefを出力し、直流リンクコンデンサ22の容量推定を行う単位電力セルを選択する信号select_signalを生成し、また、システム全体の動作及び管理を担当する。
【0039】
具体的には、電圧指令生成部31は、使用者の命令及び設定に応じて、各単位電力セルに対する電圧指令を決定する。
【0040】
選択信号生成部32は、複数の単位電力セル20のうち容量推定を行う直流リンクコンデンサを含む単位電力セルを選択し、選択信号を生成する。当該選択信号は、駆動部40の電圧指令修正部42に供給され、電圧指令修正部42が生成する電圧指令を選択することができる。これについては後述する。
【0041】
すなわち、制御部30は、従来の制御部127と同様に電圧指令を生成して駆動部40に出力することに加え、選択信号を生成し、直流リンクコンデンサの容量推定を行う単位電力セルを選択する。容量推定を行う単位電力セルは、1相当たり1つであってもよく、各相において独立して選択可能である。
【0042】
駆動部40は、複数の単位電力セル20毎に独立してゲート信号を生成するものであって、制御部30の指令によりゲート信号を生成し、それに基づいてインバータ部23が出力電圧を合成する。
【0043】
具体的には、負荷電流角演算部41は、電流センサ25から負荷電流情報Ioutを受け、出力電流の角に対応する三角関数sinθ,cosθを生成する。
【0044】
電圧指令修正部42は、制御部30から出力される電圧指令を、負荷電流角を用いて修正する。また、選択信号に応じて電圧指令を決定する。
【0045】
推定部43は、電圧指令修正部42から受信した出力電圧指令の大きさVqe_ref_mag、負荷電流角演算部41から受信した電流の大きさIout_mag、及び直流リンク電圧Vdcを用いて、直流リンクコンデンサの容量Cestimationを推定する。
【0046】
ゲート信号生成部44は、直流リンク電圧に基づいて電圧指令を生成するためのゲート信号を決定し、複数の単位電力セル20に供給する。また、出力電流及び直流リンク電圧に基づいて故障であると判断した場合、ゲート信号の生成を中止する。
【0047】
以下、本発明による高圧インバータシステムにおける容量推定装置の動作を説明する。ここで、dcの大きさは、直流の正及び負のピーク値を持つmod_refを収容する。ゲート信号生成部44は、直流リンクコンデンサ22により生成された三角波を受信する。この三角波の周波数は、インバータ部23のスイッチング周波数になる。正及び負の直流値(±Vmod_ref)を持つmod_refは、駆動部40が±Vmod_refと三角波とを比較するように、三角波と結合される。この比較が行われると、ゲート信号生成部44は、複数のインバータ(23a、23b、23c、23d)に対するゲート信号を決定する。
【0048】
図4図3の負荷電流角演算部の詳細構成図である。
【0049】
同図に示すように、本発明の負荷電流角演算部41は、遅延部61、絶対値演算部62及び正規化部63、64を含む。
【0050】
遅延部61は、余弦信号(Icosθ)である負荷電流の位相を90゜遅延させ、負荷電流から90゜位相遅延した正弦信号(Isinθ)を生成する。遅延部61の遅延関数は、2次のオールパスフィルタの伝達関数で表すと次の通りである。
【数1】
ここで、
【数2】
であり、ωNは90゜の位相差が生じる基準角周波数である。
【0051】
絶対値演算部62は、負荷電流の大きさIout_magを求め、正規化部63、64の割算演算により負荷電流角を三角関数(sinθ,cosθ)で表すことができる。
【0052】
一方、電圧指令修正部42は、制御部30から電圧指令Vrefを受け、負荷電流角演算部41が演算した三角関数により単位電力セル20の出力電圧指令を再構成する。図5図3の電圧指令修正部42の詳細構成図である。
【0053】
同図に示すように、本発明の電圧指令修正部42は、計算部71、遅延部72、乗算部73、74、77、制限部75、計算部76、78及び選択部79を含む。
【0054】
計算部71は、制御部30から出力された電圧指令Vrefに、高圧インバータ1の1相を構成する単位電力セルの数(N)をかけ、高圧インバータ1の1相の電圧指令Vds_refを計算する。図6図5の電圧指令修正部42の動作の一例を説明するための図であり、計算部71により計算された電圧指令Vds_refを電流角基準座標系の固定座標系(stationary reference frame)のd軸を基準として余弦関数などの正弦波として考慮したものを示す。このような場合、電圧指令は図6のVds_refのように表され、下記数式4により90゜位相遅延した電圧指令は図6のVqs_refのように表される。
【0055】
遅延部72及び乗算部73、74は、このように計算された電流角基準座標系の固定座標系のd軸及びq軸指令電圧と、負荷電流角演算部41により計算された三角関数を用いて、電流角基準座標系の同期座標系(synchronously rotating reference frame)のq軸指令電圧Vqe_refを下記数式2のように計算することができる。すなわち、図5の遅延部72及び乗算部73、74は、電流角基準座標系の同期座標系のq軸指令電圧Vqe_refを決定することができる。
【数3】
【0056】
上記数式2により計算された電圧は、直流成分であり、単位電力セルの出力電力の交流成分を発生する電圧の大きさを意味する。
【0057】
制限部75は、上記数式2の出力電圧の大きさを、単位電力セルの最大出力電圧の大きさ又は許容可能な直流リンクの脈動電圧の大きさに基づいて制限する(Vqe_ref_mag)。その制限された電圧Vqe_ref_magは、固定座標系のd軸を基準として−sinθ(=cos(θ+π/2))の関係を有するので、負荷電流と90゜の位相差を有する。このような関係から、計算部76及び乗算部77によりVselected_refが決定され、選択部79は、制御部30から選択信号を受信して容量推定を行う単位電力セルを決定する。Vselected_refを用いた単位電力セルの出力電圧と電流は90゜の位相差(1/4周期)を有するので、次のように表される。
【数4】
【数5】
【0058】
上記数式3及び数式4から、容量推定を行う単位電力セルの出力電力は次のように決定される。
【数6】
【0059】
一般に交流の出力電圧及び出力電流により決定される電力が直流成分及び交流成分を共に含むのとは異なり、上記数式5によれば、本発明の容量推定のために用いられる電力は交流成分のみを有することが分かる。
【0060】
一方、選択信号により選択されない単位電力セルは、選択部79によりVunselected_refの電圧指令を用いる。Vunselected_refは、高圧インバータ1の1相の電圧指令Vphase_refと単位電力セルの交流電力を発生する電圧指令Vselected_refの差を計算部78により1/(N−1)倍して求め、下記数式6のように決定することができる。
【数7】
【0061】
このように、再構成された電圧指令Vunselected_ref,Vunselected_refの和が各相の電圧指令Vds_refであるので、制御部30の制御に影響を及ぼすことなく、各単位電力セルが再構成された電圧指令により動作することができる。
【0062】
図7図3の推定部43の詳細構成図であり、推定部43は、選択された単位電力セルの直流リンクコンデンサの容量を推定する。
【0063】
直流リンクコンデンサ22の容量は、下記数式7のように近似したコンデンサ電力に関する式により計算することができる。
【数8】
ここで、Pin(t)は単位電力セルの入力電力、Cdcは直流リンクコンデンサの容量、vdcは直流リンク電圧であり、vdc0は直流リンク電圧の動作点であって、直流リンク電圧の平均に該当する。
【0064】
本発明においては、容量推定を行う単位電力セルの出力電力が上記数式5のように交流電力で構成されるため、直流リンク電圧の平均は単位電力セルの入力電圧に影響される。直流リンク電圧が平均に達すると、単位電力セルの入力電力にほとんど影響されない。従って、直流リンク電圧が平均に達した正常状態での直流リンクコンデンサ22の電力は次の通りである。
【数9】
【0065】
上記数式8を用いて容量を計算するためには、コンデンサの電力Pcap、直流リンク電圧の平均vdc0、及び直流リンク電圧の変化量
【数10】
が必要である。そこで、本発明の推定部43は、同図に示すように、電力演算部91、変化量演算部92、平均演算部93及び容量推定部94を含む。
【0066】
図8図7の電力演算部91の詳細構成図である。
【0067】
同図に示すように、電力演算部91は、負荷電流角演算部41から負荷電流の大きさIout_magを受け取り、電圧指令修正部42から単位電力セル20の出力電圧の大きさVqe_ref_magを受け取り、単位電力セル20の出力電力を次のように出力する。
【数11】
ここで、V0_peakはVqe_magを意味し、I0_peakはIout_magを意味し、Po_peakはPout_magを意味する。
【0068】
図9図7の変化量演算部92及び平均演算部93の詳細構成図であり、変化量演算部92は、直流リンク電圧の変化量を計算し、平均演算部93は、直流リンク電圧の平均を計算する。図2の電圧センサ24から直流リンク電圧Vdcを受け取ると、直流リンク電圧には上記数式8の出力電力により運転周波数の第2高調波が存在するが、バンドパスフィルタ111を用いて主要高調波成分のみを通過させ、絶対値演算部112により下記数式12のように直流リンク交流成分の大きさを求めることができる。直流リンク平均電圧は下記数式11のように平均演算により求めることができる。
【0069】
バンドパスフィルタ111の伝達関数は次の通りである。
【数12】
【0070】
下記数式11により求められる直流リンク平均電圧は、ローパスフィルタの特性と同じである。
【数13】
【0071】
絶対値演算部112は、下記数式12のような関数により絶対値を演算し、それにより交流成分の大きさを求める。ただし、ローパスフィルタの遮断周波数は、運転周波数の第2高調波より低く設定する。
【数14】
【0072】
図7の容量推定部94は、上記数式8から下記数式13を導いて直流リンクコンデンサ22の容量を推定する。
【数15】
【0073】
図10図7の容量推定部94の詳細構成図である。
【0074】
同図に示すように、直流リンク電圧の第2高調波成分Vdc_2x_magは直流リンク電圧の変化量dvdcとして用い、平均Vdc_avgは動作点として用いると、上記数式13により直流リンクコンデンサ22の容量を推定することができる。
【0075】
以上のように、本発明の容量推定装置は、推定する単位電力セルの出力電力が脈動電力のみで構成されるように出力電圧を再構成し、単位電力セルの入力電力を考慮しないコンデンサ電力を用いて、直流リンクコンデンサの容量を推定することができる。
【0076】
以上、本発明の実施形態を説明したが、これは例示的なものにすぎず、当該技術分野における通常の知識を有する者であればこれから様々な変形及び均等な実施形態が可能であることを理解するであろう。よって、本発明の権利範囲は、添付の特許請求の範囲により定められるべきである。
【0077】
このような本発明においては、推定する単位電力セルの出力電力が脈動電力のみで構成されるように出力電圧を再構成し、単位電力セルの入力電力を考慮しないコンデンサ電力を用いて、直流リンクコンデンサの容量を推定することができ、装置の追加を要することなく、運転中にも単位電力セルの直流リンクコンデンサの容量を周期的に推定して直流リンクコンデンサの状態を判断し、それにより高圧インバータの安定性及び信頼性を向上させる。
【符号の説明】
【0078】
1 高圧インバータ
20(20a〜20f) 単位電力セル
21 整流部
22 直流リンクコンデンサ
30 制御部
31 電圧指令生成部
32 選択信号生成部
40 駆動部
41 負荷電流角演算部
42 電圧指令修正部
43 推定部
44 ゲート信号生成部
61 遅延部
62 絶対値演算部
63、64 正規化部
71、76、78 計算部
72 遅延部
73、74、77 乗算部
75 制限部
79 選択部
91 電力演算部
92 変化量演算部
93 平均演算部
94 容量推定部
図1
図2
図3
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図5
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図12