(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5806405
(24)【登録日】2015年9月11日
(45)【発行日】2015年11月10日
(54)【発明の名称】高硬度・高靭性・耐磨耗鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20151021BHJP
C22C 38/32 20060101ALI20151021BHJP
C21D 8/02 20060101ALI20151021BHJP
【FI】
C22C38/00 301H
C22C38/32
C21D8/02 B
【請求項の数】15
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-527490(P2014-527490)
(86)(22)【出願日】2013年1月31日
(65)【公表番号】特表2014-529355(P2014-529355A)
(43)【公表日】2014年11月6日
(86)【国際出願番号】CN2013071188
(87)【国際公開番号】WO2014019354
(87)【国際公開日】20140206
【審査請求日】2013年9月27日
(31)【優先権主張番号】201210270193.3
(32)【優先日】2012年7月31日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】302022474
【氏名又は名称】宝山鋼鉄股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(74)【代理人】
【識別番号】100156085
【弁理士】
【氏名又は名称】新免 勝利
(72)【発明者】
【氏名】李 紅斌
(72)【発明者】
【氏名】姚 連登
(72)【発明者】
【氏名】苗 雨川
【審査官】
守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開平04−116137(JP,A)
【文献】
特開2000−256784(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/061812(WO,A1)
【文献】
特開平11−071631(JP,A)
【文献】
中国特許出願公開第102747282(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00−38/60
C21D 8/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成が重量百分率で、C:0.36〜0.45%、Si:0.10〜0.30%、Mn:0.40〜1.00%、P≦0.015%、S≦0.010%、Nb:0.010〜0.040%、Al:0.010〜0.080%、B:0.0010〜0.0020%、Ti:0.005〜0.050%、Ca:0.0010〜0.0080%、V≦0.080%、Cr≦1.00%、RE≦0.10%、N≦0.0080%、O≦0.0060%、H≦0.0004%であって、且つ0.025%≦Nb+Ti≦0.080%、0.030%≦Al+Ti≦0.12%を満たし、残部はFeおよび不可避な不純物であって、
ブリネル硬さが570〜630HBWで、−40°CにおけるVノッチシャルピー衝撃吸収エネルギーが40〜60Jであることを特徴とする耐磨耗鋼板。
【請求項2】
C:0.37〜0.44%であることを特徴とする、請求項1に記載の耐磨耗鋼板。
【請求項3】
Si:0.10〜0.28%であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の耐磨耗鋼板。
【請求項4】
Mn:0.40〜0.90%であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の耐磨耗鋼板。
【請求項5】
P≦0.010%であり、S≦0.005%であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の耐磨耗鋼板。
【請求項6】
Nb:0.010〜0.035%であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の耐磨耗鋼板。
【請求項7】
Al:0.020〜0.060%であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の耐磨耗鋼板。
【請求項8】
B:0.0010〜0.0018%であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の耐磨耗鋼板。
【請求項9】
Ti:0.010〜0.045%であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の耐磨耗鋼板。
【請求項10】
Ca:0.001〜0.006%であることを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の耐磨耗鋼板。
【請求項11】
V≦0.060%であり、Cr≦0.80%であり、RE≦0.08%であり、N≦0.0050%であり、O≦0.0040%であり、H≦0.0003%であることを特徴とする、請求項1〜10のいずれかに記載の耐磨耗鋼板。
【請求項12】
0.035%≦Nb+Ti≦0.070%、0.040%≦Al+Ti≦0.11%であることを特徴とする、請求項1〜11のいずれかに記載の耐磨耗鋼板。
【請求項13】
ブリネル硬さが600〜630HBWであることを特徴とする、請求項1〜12のいずれかに記載の耐磨耗鋼板。
【請求項14】
製錬、鋳造、加熱、圧延および圧延後直接冷却の工程を順に含む、請求項1〜13のいずれかに記載の耐磨耗鋼板の製造方法であって、
前記加熱工程において、加熱温度を1000〜1250°Cとし、保温時間を1〜2時間とし、
前記圧延工程において、圧延開始温度を950〜1200°Cとし、圧延終了温度を800〜950°Cとし、
前記圧延後直接冷却工程において、水冷を適用し、冷却停止温度を室温〜300°Cとし、
前記耐摩耗鋼板のブリネル硬さが570〜630HBWで、−40°CにおけるVノッチシャルピー衝撃吸収エネルギーが40〜60Jであることを特徴とする方法。
【請求項15】
加熱工程において、スラブ加熱温度を1000〜1200°Cとし、圧延開始温度を950〜1150°Cとし、圧延終了温度を800〜900°Cとし、冷却停止温度を室温〜280°Cとし、保温時間を1〜2時間又は2時間とすることを特徴とする、請求項14に記載の耐磨耗鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐磨耗鋼に関し、特に高硬度・高靭性・耐磨耗鋼板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
耐磨耗鋼板は、作業条件が非常に厳しくて、高強度・高耐磨耗性能が要請される産業、鉱業、農業、セメント生産、港口、電力および冶金などの機械的製品に広く用いられる。例えば、ブルドーザー、ローダー、掘削機、ダンプカーやグラップルバケット、リクレーマ、仕込み湾曲構造などがある。
【0003】
最近の数十年間、耐磨耗鋼の開発と応用の発展は早く、通常は、炭素含有量を増加させ、且つ適量のクロム、モリブデン、ニッケル、バナジウム、タングステン、コバルト、ホウ素とチタンなどの微量元素を添加することにより、析出強化、細粒強化、相変化強化と転位強化などの異なる強化方式を充分に利用して、耐磨耗鋼の力学的性能を向上させるように、耐磨耗鋼の多くは中炭素鋼、中・高炭素鋼や高炭素鋼であって、合金含有量の増加はコストの向上と溶接性能の低下を招き、これらの欠点は、耐磨耗鋼の更なる発展の制限になっている。
【0004】
材料の耐摩耗性は主にその硬度によるが、靭性も材料の耐摩耗性に非常に重要な影響を与える。材料の硬度を向上させるだけでは、材料が複雑な作業環境において良い耐摩耗性と長い使用寿命を持つことを保証できない。異なる磨耗作業環境の要求を満たすように、成分と熱処理プロセスを調整し、低合金・耐磨耗鋼の硬度と靭性の合理的な兼ね合わせを制御することで、優れた総合機械的性能を得る。
【0005】
CN1140205Aには、中炭素・中合金・耐磨耗鋼が開示されたが、それにおける炭素および合金元素(Cr、Mo等)の含有量はいずれも本発明よりも高いため、必然的に、溶接性能と機械的加工性能の劣化を招いてしまう。
【0006】
CN1865481Aには、ベイナイト耐磨耗鋼が開示されたが、それは本発明に比べて、合金元素(Si、Mn、Cr、Mo等)の含有量は高く、力学的性能は低い。
【発明の概要】
【0007】
本発明の目的は、微量合金元素が添加される上で、高硬度と高靭性の兼ね合わせが達成し、しかも良好な機械的加工性能を有し、産業上の広範な応用に寄与する高硬度・高靭性・耐磨耗鋼板を提供することにある。
【0008】
前記目的を達成するために、本発明にかかる高硬度・高靭性・耐磨耗鋼板は、化学成分の含有量が重量百分率で、C:0.36〜0.45%、Si:0.10〜0.30%、Mn:0.40〜1.00%、P≦0.015%、S≦0.010%、Nb:0.010〜0.040%、Al:0.010〜0.080%、B:0.0010〜0.0020%、Ti:0.005〜0.050%、Ca:0.0010〜0.0080%、V≦0.080%、Cr≦1.00%、R
E≦0.10%、N≦0.0080%、O≦0.0060%、H≦0.0004%であって、且つ0.025%≦Nb+Ti≦0.080%、0.030%≦Al+Ti≦0.12%を満たし、残部はFeおよび不可避な不純物である。
【0009】
本発明に係る耐磨耗鋼のミクロ組織は主にマルテンサイトおよび残部のオーステナイトであり、それにおける残部のオーステナイトの体積分率≦5%である。
【0010】
本発明のもう1つの目的は、製錬、鋳造、加熱、圧延および冷却などの工程を順に含む、該高硬度・高靭性・耐磨耗鋼板の製造方法を提供することにある。ただし、加熱工程では、温度が1000〜1250°Cになるまで加熱し、圧延工程では、圧延開始温度:950〜1200°Cとし、圧延終了温度:800〜950°Cとし、圧延後直接冷却工程では、水冷を適用し、冷却停止温度:室温〜300°Cとする。
【0011】
本発明においては、炭素および合金元素の含有量は科学的に設定されているので、微量合金元素による細粒強化作用および圧延制御や冷却過程制御による細粒強化作用によって、鋼板に優れた力学的性能(強度、硬度、伸び率、衝撃性能など)と耐磨耗性能を与える。
【0012】
本発明においては、化学成分(C、Si、Mn、Nbなどの元素の含有量および配合)を合理的に設定することにより、炭素と微量合金元素の含有量が厳しく制御されている。MoやNiなどの元素を含まないので、耐磨耗鋼の生産コストを大幅に低減させることができる。
【0013】
本発明にかかる耐磨耗鋼板は、高い硬度および優れた衝撃靭性などを有し、切り出し、折り曲げなどの機械的加工を容易にし、優れた適用性を有するものである。
【0014】
本発明で生産される高硬度・高靭性・耐磨耗鋼板:ブリネル硬さが570〜630HBWで、その−40°CにおけるVノッチシャルピー衝撃吸収エネルギーが40〜60Jである。ブリネル硬さが600〜630HBWであることが好ましい。優れた力学的性能を有し、優れた適用性を有するものである。
【0015】
本発明と従来技術の鋼の相違点は主に以下の通りである。
【0016】
化学成分の面において、本発明に係る耐磨耗鋼は化学成分として、C、Si、Mnなどの元素のほか、Nbなどの元素も少量に添加されており、成分が簡単で、コストが低いなどの特徴を有するものである。
【0017】
生産プロセスの面において、本発明に係る耐磨耗鋼板はTMCPプロセスで生産され、オフライン焼入や焼戻などの熱処理工程が必要ではなく、生産フローが短く、生産効率が高く、省エネルギーで、生産コストが低いなどの特徴を有するものである。
【0018】
製品性能の面において、本発明特許に係る耐磨耗鋼板は高強度、高低温靭性を有するものである。
【0019】
ミクロ組織の面において、本発明特許に係る耐磨耗鋼は、ミクロ組織が主に細かいマルテンサイトおよび残部のオーステナイトであり、それにおける残部のオーステナイトの体積分率≦5%であり、耐磨耗鋼板の強度・硬度と靭性の良好な兼ね合わせに寄与する。
【0020】
本発明に係る耐磨耗鋼板のほうが著しい優位を有する。炭素および合金元素の含有量が制御され、開発コストが低く、力学的性能に優れ、生産プロセスが簡単な耐磨耗鋼は、社会経済と鋼鉄産業の必然的な発展方向である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、実施例5の鋼板のミクロ組織は細かいマルテンサイトおよび少量の残部のオーステナイトであることを示すものであり、これで鋼板が良い力学的性能を持つことを保証する。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明にかかる高硬度・高靭性・耐磨耗鋼板の化学成分の作用について詳細に説明する。
【0023】
本発明において、特に断りがない限り、含有量はすべて重量百分率含有量である。
【0024】
本発明にかかる鋼種は、元素種類および含有量の科学的な設定により、微量合金元素が添加される上で、超高強度、超高硬度と高靭性の兼ね合わせが達成し、且つ良い溶接性能を有する。
【0025】
炭素:炭素は耐磨耗鋼における最も基本的で、最も重要な元素であって、鋼の強度と硬度を向上させ、そして鋼の耐摩耗性を向上させることができるが、鋼の靭性と溶接性能に対して不利となるため、鋼における炭素含有量を合理的に、0.36〜0.45%、好ましくは0.37〜0.44%に制御しなければならない。
【0026】
ケイ素:ケイ素は、フェライトとオーステナイトの中に溶体化することで、それらの硬度と強度を向上させるが、ケイ素の含有量が高すぎることは、鋼の靭性の急激な低下を招いてしまう。それとともに、ケイ素は、酸素との親和力が鉄より強く、溶接の時に低融点のケイ酸塩が発生しやすく、溶融スラグや溶融金属の流動性を向上させ、ウエルドの質量に影響を与えてしまうことを考えると、ケイ素の含有量を厳しく制御する必要があり、本発明において、ケイ素の含有量は0.10〜0.30%、好ましくは0.10〜0.28%に制御される。
【0027】
マンガン:マンガンは、鋼の焼入性を強烈に向上させ、耐磨耗鋼の遷移温度および鋼の臨界冷却速度を低下させるものである。しかし、マンガンの含有量が高い場合は、結晶粒を粗大化させる傾向があり、且つ鋼の焼戻脆化感受性を向上させ、しかも鋳造ビレットにおける偏析や割れの発生を招きやすく、鋼板の性能を低下させてしまうため、本発明において、マンガンの含有量は0.40〜1.00%、好ましくはMn:0.40〜0.90%に制御される。
【0028】
ニオブ:Nbは、それによる結晶粒微細化および析出強化作用が材料の靭性向上に極めて著しく寄与するものであって、強烈なC、N化物の形成元素であり、オーステナイトの粒成長を強烈に抑制するものである。Nbは、結晶粒微細化とともに鋼の強度と靭性を向上させるもので、Nbは主に、析出強化と相変化強化により鋼の性能の改善と向上を図り、Nbは既に、HSLA鋼における最も有効な強化剤の1つとされ、本発明において、ニオブは0.010〜0.040%、好ましくはNb:0.010〜0.035%に制御される。
【0029】
アルミニウム:アルミニウムは、鋼における窒素と微細で難溶性のAlN粒子を形成し、鋼の結晶粒を微細化することができる。アルミニウムは、鋼の結晶粒を微細化し、鋼における窒素と酸素を固定化させ、鋼の切欠き感受性を低減させ、鋼の時効現象を低減または消滅し、且つ鋼の靭性を向上させることができ、本発明において、Alの含有量は0.010〜0.080%、好ましくは0.020〜0.060%に制御される。
【0030】
ホウ素:ホウ素は、鋼の焼入性を向上させるが、含有量が高すぎると、焼戻脆化現象を招いてしまい、鋼の熱加工性能に影響を与えるため、本発明において、ホウ素の含有量は0.0010〜0.0020%、好ましくは0.0010〜0.0018%に制御される。
【0031】
チタン:チタンは、強炭化物形成元素の1つであり、炭素とともに微細なTiC粒子を形成するものである。TiC粒子は微細で、結晶粒界に分布し、結晶粒を微細化する役割を果たすものであり、硬いTiC粒子は鋼の耐摩耗性を向上させ、本発明において、チタンは0.005〜0.050%、好ましくは0.010〜0.045%に制御される。
【0032】
ニオブとチタンの併用添加によれば、より優れた結晶粒微細化効果が得られ、旧オーステナイト結晶粒度が低減され、焼入後のマルテンサイト条の微細化に有利となり、強度と耐磨耗性、TiNなどの高温下における未溶解性が向上され、熱影響部の結晶粒の粗大化が阻止され、熱影響部の靭性が向上することにより、鋼の溶接性を改善することができるため、ニオブとチタンの含有量範囲を、0.025%≦Nb+Ti≦0.080%、好ましくは0.035%≦Nb+Ti≦0.070%にする。
【0033】
チタンは微細な粒子を形成して、そして結晶粒を微細化することができ、アルミニウムは微細なチタン粒子の形成を保証して、チタンの結晶粒微細化作用を十分発揮させることができるため、アルミニウムとチタンの含有量範囲を、0.030%≦Al+Ti≦0.12%、好ましくは0.040%≦Al+Ti≦0.11%にする。
【0034】
カルシウム:カルシウムは、鋳鋼中における介在物の変質に顕著な作用を有し、鋳鋼中に適量のカルシウムを加えることで、鋳鋼中における長尺状の硫化物系介在物を球状のCaS或いは(Ca、Mn)S介在物に転換することができ、カルシウムで形成される酸化物および硫化物の介在密度が小さく、浮上して取り除きやすい。さらに、カルシウムは硫黄が結晶粒界に偏在することを顕著に低下させ、それらはいずれも鋳鋼の質量の向上に有利となり、ひいては鋼の性能を向上させることができる。カルシウムは、介在物が多い場合、添加による効果が明らかになり、鋼の力学的性能、特に靭性の保証に有利になる。本発明において、カルシウムは0.0010〜0.0080%、好ましくは0.0010〜0.0060%に制御される。
【0035】
バナジウム:バナジウムは主に、鋼ビレットにおけるオーステナイト結晶粒を加熱段階において粗大すぎることなく成長させることで、後の多パス圧延の過程において鋼の結晶粒をさらに微細化し、鋼の強度と靭性を向上させることができるように、結晶粒を微細化するという目的で添加されるものであり、本発明において、バナジウムの含有量は≦0.080%、好ましくは≦0.035%〜0.080%、さらに好ましくは≦0.060%に制御される。
【0036】
クロム:クロムは臨界冷却速度を低下させ、鋼の焼入性を向上させることができる。クロムは、鋼の中において(Fe、Cr)
3C、(Fe、Cr)
7C
3や(Fe、Cr)
23C
7などの多種の炭化物を形成し、強度と硬度を向上させることができる。クロムは、焼戻に際して炭化物の析出と凝集を阻止又は緩和することができ、鋼の焼戻安定性を向上させることができ、本発明において、クロムの含有量は≦1.0%、好ましくは≦0.35〜0.10%、さらに好ましくは≦0.80%に制御される。
【0037】
希土:鋼に希土を添加することで、硫黄、リンなどの元素の偏析を低減し、非金属介在物の形状、大きさおよび分布を改善するとともに、結晶粒を微細化し、硬度を向上させることができる。また、希土は降伏比を向上させることができ、低合金・高強度鋼の靭性の改善に有利である。希土の含有量が多すぎると、ひどい偏析が発生し、鋳造ビレットの品質と力学的性能を低下させてしまい、本発明において、希土の含有量は≦0.1%、好ましくは0.05〜0.10%、さらに好ましくは≦0.08%に制御される。
【0038】
リンと硫黄:耐磨耗鋼において、硫黄とリンはいずれも有害元素であり、それらの含有量を厳しく制御する必要があり、本発明にかかる鋼種において、リンの含有量は<0.015%、好ましくは≦0.010%に、硫黄の含有量は<0.010%、好ましくは≦0.005%に制御される。
【0039】
窒素、酸素と水素:鋼における過剰の酸素と窒素は鋼の性能、特に溶接性と靭性に非常に不利となるが、その制限が厳しすぎると、生産コストが大幅に増加してしまうため、本発明にかかる鋼種において、窒素の含有量は≦0.0080%、好ましくは≦0.0050%に、酸素の含有量は≦0.0060%、好ましくは≦0.0040%に、水素の含有量は≦0.0004%、好ましくは≦0.0003%に制御される。
【0040】
本発明の前記高硬度・高靭性・耐磨耗鋼板の製造方法は、製錬、鋳造、加熱、圧延および圧延後直接冷却などの工程を順に含むものである。ただし、加熱工程では、温度が1000〜1250°Cになるまで加熱し、圧延工程では、圧延開始温度:950〜1200°Cとし、圧延終了温度:800〜950°Cとし、冷却工程では、水冷を適用し、冷却停止温度:室温−〜300°Cとする。
【0041】
好ましくは、前記加熱過程において、加熱温度を1000〜1200°Cとし、加熱温度を1050〜1200°Cとすることがより好ましく、また、炭素および合金元素の十分拡散を保証し、オーステナイト結晶粒の過剰の成長および鋼ビレット表面の強烈な酸化を防止するために、加熱温度を1050〜1150°Cとすることが最も好ましい。
【0042】
圧延開始温度:950〜1150°Cとし、圧延終了温度:800〜900°Cとすることが好ましく、圧延開始温度:950〜1120°Cとし、圧延終了温度:810〜900°Cとすることがより好ましく、圧延開始温度:980〜1100°Cとし、圧延終了温度:810〜890°Cとすることが最も好ましい。
【0043】
冷却停止温度を室温〜280°Cとすることが好ましく、冷却停止温度を室温〜250°Cとすることがより好ましく、冷却停止温度を室温〜200°Cとすることが最も好ましい。
【0045】
・実施例
本発明の実施例1〜6および比較例1(特許CN1140205A)の鋼板の化学元素質量百分率配合は表1に示す。
製錬原料を製錬→鋳造→加熱→圧延→圧延後直接冷却の工程で製造した。
本発明の実施例1〜6および比較例1における具体的なプロセスパラメータは表2に示す。
【0047】
試験例1:力学的性能試験
GB/T2975のサンプリング方法に従ってサンプリングし、且つGB/T231.1の試験方法に従って本発明の実施例1〜6の高硬度・高靭性・耐磨耗鋼板に硬度を測定し、GB/T229の試験方法に従って衝撃試験を行い、それらの結果は表3に示す。
【0049】
表3から明らかなように、本発明の実施例1〜6にかかる鋼板は、硬度が570〜630HBW、−40°CにおけるVノッチシャルピー衝撃吸収エネルギー:40〜60Jであり、本発明にかかる鋼板は優れた力学的性能を有するものである。本発明にかかる鋼板の硬度は比較例1の鋼板の硬度よりも高く、衝撃靭性は良好である。
【0050】
図1は、実施例5の鋼板のミクロ組織は細かいマルテンサイトおよび少量の残部のオーステナイトであることを示すものであり、これで鋼板が良い力学的性能を持つことを保証する。
【0051】
ほかの実施例でも、類似のミクロ組織が得られた。
【0052】
試験例2:耐磨耗性試験
耐磨耗性試験は、ML−100アブレシブ摩耗試験機で行われた。サンプルを切り出した時、サンプルの軸線を鋼板の表面に対して垂直にし、サンプルの磨耗面は鋼板の圧延面に相当した。サンプルを所望により段差状の円柱体に加工し、受検部のサイズをΦ4mmとし、冶具の挟持部のサイズをΦ5mmとした。試験前、アルコールでサンプルを洗浄し、そして送風機で送風乾燥し、10000分の1の精度の天秤で重量を測定し、測定したサンプルの重量を初期重量とし、その後弾性冶具にセットした。粒度が80メッシュのサンドペーパーで、42Nの荷重で試験を行った。試験後、サンプルとサンドペーパーの間の磨耗により、サンプルにてサンドペーパー上に螺旋線が描かれ、螺旋線の開始半径と終了半径から螺旋線の長さを算出し、計算式は以下の通りであった。
【0053】
r
1は螺旋線の開始半径であり、r
2は螺旋線の終了半径であり、aは螺旋線の送り量である。試験1回あたりに重量を3回測定し、平均値を取り、そして重量減少を算出し、1メートルあたりの重量減少でサンプルの磨耗率(mg/M)を表した。
【0054】
本発明の実施例1〜6の高硬度・高靭性・耐磨耗鋼板に対して耐磨耗性試験を行った。本発明の実施例の鋼種および比較例2の鋼(比較例2の鋼板の硬度は550HBWである)の磨耗試験結果は表4に示す。
【0056】
表4から明らかなように、このような磨耗条件下で、本発明にかかる高硬度・高靭性・耐磨耗鋼板の耐磨耗性能は比較例2の鋼板の耐摩耗性よりも優れた。
【0057】
本発明においては、化学成分(C、Si、Mn、Nbなどの元素の含有量および配合)を合理的に設定することにより、炭素と微量合金元素の含有量が厳しく制御されている。MoやNiなどの元素を含まないので、耐磨耗鋼の生産コストを大幅に低減させることができる。本発明にかかる耐磨耗鋼板は、高い硬度および優れた衝撃靭性などを有し、切り出し、折り曲げなどの機械的加工を容易にし、優れた適用性を有するものである。本発明で生産される高硬度・高靭性・耐磨耗鋼板は、硬度が570〜630HBWで、−40°CにおけるVノッチシャルピー衝撃吸収エネルギー:40〜60Jであり、優れた力学的性能を有し、優れた適用性を有するものである。
【0058】
なお、本発明は以下の態様を含む。態様1: 組成が重量百分率で、C:0.36〜0.45%、Si:0.10〜0.30%、Mn:0.40〜1.00%、P≦0.015%、S≦0.010%、Nb:0.010〜0.040%、Al:0.010〜0.080%、B:0.0010〜0.0020%、Ti:0.005〜0.050%、Ca:0.0010〜0.0080%、V≦0.080%、Cr≦1.00%、RE≦0.10%、N≦0.0080%、O≦0.0060%、H≦0.0004%であって、且つ0.025%≦Nb+Ti≦0.080%、0.030%≦Al+Ti≦0.12%を満たし、残部はFeおよび不可避な不純物である、耐磨耗鋼板。態様2: C:0.37〜0.44%であることを特徴とする、態様1に記載の耐磨耗鋼板。態様3: Si:0.10〜0.28%であることを特徴とする、態様1又は2に記載の耐磨耗鋼板。態様4: Mn:0.40〜0.90%であることを特徴とする、態様1〜3のいずれかに記載の耐磨耗鋼板。態様5: P≦0.010%であることを特徴とする、態様1〜4のいずれかに記載の耐磨耗鋼板。態様6: S≦0.005%であることを特徴とする、態様1〜5のいずれかに記載の耐磨耗鋼板。態様7: Nb:0.010〜0.035%であることを特徴とする、態様1〜6のいずれかに記載の耐磨耗鋼板。態様8: Al:0.020〜0.060%であることを特徴とする、態様1〜7のいずれかに記載の耐磨耗鋼板。態様9: B:0.0010〜0.0018%であることを特徴とする、態様1〜8のいずれかに記載の耐磨耗鋼板。態様10: Ti:0.010〜0.045%であることを特徴とする、態様1〜9のいずれかに記載の耐磨耗鋼板。態様11: Ca:0.001〜0.006%であることを特徴とする、態様1〜10のいずれかに記載の耐磨耗鋼板。態様12: V≦0.060%であることを特徴とする、態様1〜11のいずれかに記載の耐磨耗鋼板。態様13: Cr≦0.80%であることを特徴とする、態様1〜12のいずれかに記載の耐磨耗鋼板。態様14: RE≦0.08%であることを特徴とする、態様1〜13のいずれかに記載の耐磨耗鋼板。態様15: N≦0.0050%であることを特徴とする、態様1〜14のいずれかに記載の耐磨耗鋼板。態様16: O≦0.0040%であることを特徴とする、態様1〜15のいずれかに記載の耐磨耗鋼板。態様17: H≦0.0003%であることを特徴とする、態様1〜16のいずれかに記載の耐磨耗鋼板。態様18: 0.035%≦Nb+Ti≦0.070%、0.040%≦Al+Ti≦0.11%であることを特徴とする、態様1〜17のいずれかに記載の耐磨耗鋼板。態様19: ブリネル硬さが570〜630HBWで、−40°CにおけるVノッチシャルピー衝撃吸収エネルギーが40〜60Jであることを特徴とする、態様1〜18のいずれかに記載の耐磨耗鋼板。態様20: ブリネル硬さが600〜630HBWであることを特徴とする、態様19に記載の耐磨耗鋼板。態様21: 製錬、鋳造、加熱、圧延および圧延後直接冷却の工程を順に含む、態様1〜20のいずれかに記載の耐磨耗鋼板の製造方法。加熱工程において、加熱温度を1000〜1250°Cとし、保温時間を1〜2時間とする。圧延工程において、圧延開始温度を950〜1200°Cとし、圧延終了温度を800〜950°Cとする。圧延後直接冷却工程において、水冷を適用し、冷却停止温度を室温〜300°Cとする。態様22: 加熱工程において、スラブ加熱温度を1000〜1200°Cとすることを特徴とする、態様21に記載の耐磨耗鋼板の製造方法。態様23: 圧延開始温度を950〜1150°Cとし、圧延終了温度を800〜900°Cとすることを特徴とする、態様21又は22に記載の耐磨耗鋼板の製造方法。態様24: 冷却停止温度を室温〜280°Cとすることを特徴とする、態様21〜23のいずれかに記載の耐磨耗鋼板の製造方法。態様25: 保温時間を2時間とすることを特徴とする、態様21〜24のいずれかに記載の耐磨耗鋼板の製造方法。