特許第5806455号(P5806455)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5806455-精製カテキン類含有茶抽出物の製造方法 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5806455
(24)【登録日】2015年9月11日
(45)【発行日】2015年11月10日
(54)【発明の名称】精製カテキン類含有茶抽出物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23F 3/16 20060101AFI20151021BHJP
【FI】
   A23F3/16
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2010-203357(P2010-203357)
(22)【出願日】2010年9月10日
(65)【公開番号】特開2012-55264(P2012-55264A)
(43)【公開日】2012年3月22日
【審査請求日】2013年6月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100068700
【弁理士】
【氏名又は名称】有賀 三幸
(74)【代理人】
【識別番号】100077562
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 登志雄
(74)【代理人】
【識別番号】100096736
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117156
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100111028
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 博人
(72)【発明者】
【氏名】四方 健一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 仁
【審査官】 長谷川 茜
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−171328(JP,A)
【文献】 特開2008−193983(JP,A)
【文献】 特開2004−147508(JP,A)
【文献】 特開平03−164136(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/116538(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23F 3/16
C07C 37/72
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カテキン類含有茶抽出物と、エタノールと、水と、クエン酸塩及び酒石酸塩から選ばれる1種又は2種の多塩基有機酸塩とを下記式(I)の関係を満たす量比で混合する第1の工程と、
エタノールに富む相と、水に富む相とに液液分離し、エタノールに富む相からカテキン類を回収する第2の工程と
を含む、精製カテキン類含有茶抽出物の製造方法。
0.43≦〔(a)+(b)〕/〔(a)+(b)+(c)+(d)〕≦0.54・・・(I)
〔式(I)中、(a)はエタノールの質量分率、(b)は多塩基有機酸塩の質量分率、(c)はカテキン類含有茶抽出物の質量分率、(d)は水の質量分率、をそれぞれ示す。〕
【請求項2】
カテキン類含有茶抽出物と、エタノールと、水と、多塩基有機酸塩とを混合する際の量比が下記式(II);
0.005≦(c)/〔(a)+(b)+(c)+(d)〕≦0.06・・・(II)
〔式(II)中、(a)はエタノールの質量分率、(b)は多塩基有機酸塩の質量分率、(c)はカテキン類含有茶抽出物の質量分率、(d)は水の質量分率、をそれぞれ示す。〕
の関係を満たす、請求項1記載の精製カテキン類含有茶抽出物の製造方法。
【請求項3】
カテキン類含有茶抽出物がタンナーゼ処理されたものである、請求項1又は2記載の精製カテキン類含有茶抽出物の製造方法。
【請求項4】
カテキン類含有茶抽出物が緑茶抽出物である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の精製カテキン類含有茶抽出物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精製カテキン類含有茶抽出物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
消費者の嗜好の多様化、健康指向の高揚により多種多様の飲料が上市されているが、中でも茶飲料が注目されている。この茶飲料は、例えば、茶抽出物等を利用してカテキン類を飲料に溶解状態で配合して製造することができる。
【0003】
しかしながら、茶飲料に配合される茶抽出物によっては、カテキン類に含まれるガレート体に起因する苦味や、茶由来の没食子酸、シュウ酸、キナ酸等に起因する酸味により、茶本来の風味が損なわれることがあった。
【0004】
このような苦味を低減する手段として、例えば、茶から得られた茶抽出物をタンナーゼ処理する方法が提案されている(特許文献1)。この方法は、カテキン類のガレート体をカテキン類と没食子酸に分解して苦味成分の割合を低下させる方法であるが、遊離した没食子酸由来の酸味が感じられることがあった。
【0005】
そこで、遊離した没食子酸を除去する技術として、例えば、合成吸着剤を充填したカラムに茶抽出物を通液し、次いで合成吸着剤に吸着されたカテキン類をエタノール水溶液により溶出させる方法が提案されている(特許文献2)。
【0006】
一方、低純度カテキン類含有茶抽出物を、酢酸エチル等の水と混和しない疎水性有機溶媒を用いてカテキン類を含有する有機相と水相とに液液分離し、カテキン類を含有する有機相から高純度のカテキン類を回収する方法が知られている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−130809号公報
【特許文献2】特開2006−160656号公報
【特許文献3】特開平04−182480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1〜2に記載の方法においては、苦味と酸味の双方を低減するには、これらの方法を組み合わせて行う必要があり、大量の溶剤を要し、また操作が煩雑となるため、より簡便に風味の良好な精製茶抽出物を製造できる方法が望まれている。
また、特許文献3に記載の方法においては、回収されたカテキン類に疎水性有機溶媒が残留するため、風味を損ねるという傾向があった。
したがって、本発明の課題は、没食子酸を除去しつつ、風味の良好な精製カテキン類含有茶抽出物を簡便に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
カテキン類含有茶抽出物と、水と、エタノール等の親水性有機溶媒とを混合すると、相分離することなく均一な溶液を形成する。またこれらに塩化ナトリウムや塩化カルシウム等の通常使用されている塩を加えたとしても、2液相を形成することはない。本発明者らは、カテキン類含有茶抽出物を、特定物質の存在下で親水性有機溶媒と混合すると、驚くべきことに、相分離が起きて親水性有機溶媒に富む相と、水に富む相からなる2液相を形成するとの知見を得た。そして、カテキン類は水に富む層よりも親水性有機溶媒に富む相に多く分配することを見出した。さらに親水性有機溶媒に富む相から、風味を損なうことなく、没食子酸を除去しつつカテキン類を効率よく回収できることを本発明者らは見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、カテキン類含有茶抽出物と、親水性有機溶媒と、水と、有機酸塩とを2相を形成する量比で混合する第1の工程と、
親水性有機溶媒に富む相と、水に富む相とに液液分離し、親水性有機溶媒に富む相からカテキン類を回収する第2の工程
とを含む、精製カテキン類含有茶抽出物の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、没食子酸を除去しつつ、風味の良好な精製カテキン類含有茶抽出物を簡便な操作で製造することができる。したがって、本発明の製造方法は、没食子酸が多量に遊離しているタンナーゼ処理後のカテキン類含有茶抽出物の精製手段として特に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】(a)親水性有機溶媒(エタノール)の質量分率と、(b)有機酸塩の質量分率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の精製カテキン類含有茶抽出物の製造方法について説明する。
本発明の精製カテキン類含有茶抽出物の製造方法は、上記のとおり、第1の工程と、第2の工程とを含むものである。以下、各工程について詳細に説明する。
(第1の工程)
本発明に係る第1の工程は、カテキン類含有茶抽出物と、親水性有機溶媒と、水と、有機酸塩とを2相を形成する量比で混合する工程である。
【0014】
本発明で使用する茶抽出物としてはカテキン類を含有すれば特に限定されず、例えば、茶葉から得られた茶抽出物が挙げられる。ここで、本明細書において「カテキン類」とは、カテキン、ガロカテキン、カテキンガレート及びガロカテキンガレート等の非エピ体カテキン類と、エピカテキン、エピガロカテキン、エピカテキンガレート及びエピガロカテキンガレート等のエピ体カテキン類を併せての総称である。カテキン類濃度は、上記8種の合計量に基づいて定義される。
抽出に使用する茶葉としては、より具体的には、Camellia属、例えばC.var.sinensis(やぶきた種を含む)、C.var.assamica及びそれらの雑種から選択される茶葉から製茶された茶葉が挙げられる。製茶された茶葉には、煎茶、番茶、玉露、てん茶、釜炒り茶等の緑茶、烏龍茶に代表される半発酵茶、紅茶に代表される発酵茶がある。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。本発明で用いるカテキン類含有茶抽出物としては、カテキン類含量の点から、緑茶抽出物が好ましい。
抽出方法としては、攪拌抽出、ドリップ抽出等の公知の方法を採用することができる。また、抽出時の水にあらかじめアスコルビン酸又はそのナトリウム塩等の有機酸又はその塩を添加してもよい。更に、煮沸脱気や窒素ガス等の不活性ガスを通気して溶存酸素を除去しつつ、いわゆる非酸化的雰囲気下で抽出する方法を併用してもよい。このようにして得られたカテキン類含有茶抽出物は、そのままでも、乾燥、濃縮しても本発明に使用できる。カテキン類含有茶抽出物の形態としては、例えば、液体、スラリー、半固体、固体が例示される。
【0015】
また、カテキン類含有茶抽出物として、市販品を使用してもよく、例えば、三井農林(株)の「ポリフェノン」、伊藤園(株)の「テアフラン」、太陽化学(株)の「サンフェノン」等が例示される。なお、市販のカテキン類含有茶抽出物を使用する場合、該茶抽出物を水又は親水性有機溶媒に溶解又は希釈して用いることができる。
【0016】
また、本発明においては、カテキン類含有茶抽出物として、タンナーゼ処理したものを使用してもよい。これにより、カテキン類中のガレート体率を低下して苦味がより一層低減されたカテキン類含有茶抽出物を得ることができる。ここで、本明細書において「カテキン類のガレート体」とは、カテキンガレート、ガロカテキンガレート、エピカテキンガレート、エピガロカテキンガレート等を併せての総称であり、「カテキン類中のガレート体率」は、カテキン類の総量に対する上記ガレート体4種の質量比率である。また、「タンナーゼ処理」とは、カテキン類含有茶抽出物を、タンナーゼ活性を有する酵素と接触させることをいう。
タンナーゼ活性を有する酵素としては、例えば、アスペルギルス属、ペニシリウム属、リゾプス属のタンナーゼ生産菌を培養して得られるタンナーゼが例示される。中でも、アスペルギルス オリゼー由来のものが好ましい。
なお、タンナーゼ処理における具体的な操作方法は公知の方法を採用することが可能であり、例えば、特開2004−321105号公報に記載の方法が挙げられる。
【0017】
本発明で使用する親水性有機溶媒としては、水と混和可能な有機溶媒であれば特に限定されず、例えば、アセトン等のケトン、メタノール、エタノール等のアルコールが挙げられる。中でも、飲食品への使用の観点から、アルコール、特にエタノールが好ましい。
【0018】
また、有機酸塩としては、多塩基有機酸の塩が好ましく、このような多塩基有機酸としては、酒石酸、リンゴ酸、クエン酸、フマル酸、コハク酸が挙げられる。中でも、相分離の観点から、酒石酸、クエン酸が好ましい。また、塩としては、アルカリ金属塩が好ましく、ナトリウム塩、カリウム塩が特に好ましい。
多塩基有機酸塩としては、具体的には、酒石酸ナトリウムカリウム、酒石酸二ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、クエン酸三カリウム等が挙げられる。中でも、相分離の観点から、酒石酸ナトリウムカリウム、クエン酸三ナトリウムが好ましい。なお、有機酸塩は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0019】
水としては、水道水、蒸留水、イオン交換水等を適宜選択して使用することができるが、中でも、味の面から、イオン交換水が好ましい。
【0020】
本発明の製造方法においては、カテキン類含有茶抽出物と、親水性有機溶媒と、水と、有機酸塩とを混合するが、各成分の混合順序は特に限定されるものではない。例えば、各成分を任意の順序で投入して混合しても、全ての成分を同時に投入して混合してもよいが、次の(1)〜(3)の方法で混合することが好ましく、特に(1)の方法で混合することが好ましい。
(1)カテキン類含有茶抽出物を含む親水性有機溶媒水溶液に、有機酸塩を含む水溶液を加える方法。
(2)カテキン類含有茶抽出物と有機酸塩を含む水溶液に、親水性有機溶媒水溶液を加える方法。
(3)有機酸塩を含む水溶液と有機溶媒水溶液との混合液に、カテキン類含有茶抽出物を加える方法。
【0021】
カテキン類含有茶抽出物と、親水性有機溶媒と、水と、有機酸塩との量比は、2相を形成できれば特に限定されない。
親水性有機溶媒と水は、本来2相に分離することなく均一相を形成するものである。ところが、有機酸塩は水には溶解しやすいが有機溶媒には溶解しにくい。このため、系内に高濃度の有機酸塩が存在する場合、有機酸塩を高濃度に含有する水に富む相と、有機酸塩を含まないか低濃度に含有する親水性有機溶媒に富む相とに分離する。
かかる理由により、2相を形成するための条件としては、系内の有機酸塩の濃度が高いこと、及び/又は系内の親水性有機溶媒濃度が高いことが挙げられる。
【0022】
2相分離の条件としては、親水性有機溶媒としてエタノールを用い、有機酸塩として多塩基有機酸の塩を用いる場合、下記式(I)の関係を満たすことが好ましい。この条件は、親水性有機溶媒と有機酸塩の合計の系全体に対する割合が、相対的に高く、特定の範囲内であることが好ましいことを示している。
【0023】
0.43≦[(a)+(b)]/[(a)+(b)+(c)+(d)]≦0.54・・・(I)
【0024】
〔式中、(a)は親水性有機溶媒の質量分率、(b)は有機酸塩の質量分率、(c)はカテキン類含有茶抽出物の質量分率、(d)は水の質量分率、をそれぞれ示す。〕
【0025】
上記式(I)において、より安定な相分離の達成、及びカテキン類の収率の観点から、下限値は0.43、更に0.45、特に0.47であることが好ましく、他方上限値は0.54、更に0.52、特に0.50であることが好ましい。
【0026】
さらに、親水性有機溶媒と有機酸塩は、より安定な相分離の達成のために、それぞれ系内に高濃度で存在することが好ましい。すなわち、(a)親水性有機溶媒の質量分率及び(b)有機酸塩の質量分率は、下記式(III)、式(IV)を満たす範囲が好ましい。
【0027】
(a)≧−0.05×[(b)−1] ・・・(III)
(b)≧−0.05×[(a)−1] ・・・(IV)
【0028】
式(I)、(III)及び(IV)を満たす範囲として、上記(a)、(b)、(c)及び(d)の合計に対する(a)親水性有機溶媒の質量分率は、下限値が0.25、更に0.27、特に0.3であることが好ましく、他方上限値は0.4、更に0.38、特に0.36であることが好ましい。
また、上記(a)、(b)、(c)及び(d)の合計に対する(b)有機酸塩の質量分率は、カテキン類の収率の観点から、下限値が0.07、更に0.09、特に0.12であることが好ましく、他方上限値は0.2、更に0.18、特に0.16であることが好ましい。
更に、上記(a)、(b)、(c)及び(d)の合計に対する(d)水の質量分率は、カテキン類の収率の観点から、下限値が0.38、更に0.4、特に0.42であることが好ましく、他方上限値は0.58、更に0.53、特に0.48であることが好ましい。
【0029】
また、上記(a)、(b)、(c)及び(d)の合計に対する(c)カテキン類含有茶抽出物の質量分率は、下記式(II)の関係を満たすことが好ましい。
【0030】
0.005≦(c)/[(a)+(b)+(c)+(d)]≦0.06・・・(II)
【0031】
上記式(II)において、(c)カテキン類含有茶抽出物の質量分率が0.005以上であることによりカテキン類の精製がより効率的となり、0.06以下であることにより2相の分離がより安定する点で好ましい。カテキン類の収率及び没食子酸の除去効率、並びにより安定な相分離の達成の観点から、下限値は0.01、更に0.015、特に0.02であることが好ましく、他方上限値は0.58、更に0.55、特に0.53であることが好ましい。
【0032】
カテキン類含有茶抽出物と、親水性有機溶媒と、水と、有機酸塩との混合は、攪拌やスタティックキミサーにより行うことができる。攪拌による混合は、攪拌翼を有する攪拌機等を用いて、また、スタティックミキサーによる混合はラインキミサー等を用いて行うことが可能である。
【0033】
(第2の工程)
本発明に係る第2の工程は、親水性有機溶媒に富む相と、水に富む相とに液液分離し、親水性有機溶媒に富む相からカテキン類を回収する工程である。ここで、本明細書において「液液分離」とは、界面を形成して上下に親水性有機溶媒に富む相と水に富む相からなる2液相を形成させる操作をいう。なお、2液相を形成させるには、第1工程後に懸濁液を静置すればよい。
上相と下相との分離は、遠心分離機、静置分離機、等の公知の抽出分離手段を採用することが可能である。
カテキン類は没食子酸等に比べて疎水性が高く、親水性有機溶媒との親和性が高いため、上相を構成する親水性有機溶媒に富む相には没食子酸等よりもカテキン類が高濃度に分配する。
【0034】
カテキン類の回収は、分離された親水性有機溶媒に富む相から親水性有機溶媒を除去することで行うことができる。除去方法としては、例えば、減圧蒸留、常圧蒸留、加熱濃縮、通風濃縮、又はこれらの組み合わせが挙げられる。また、精製カテキン類含有茶抽出物の製品形態として固体が望ましい場合には、例えば、噴霧乾燥、凍結乾燥、減圧乾燥、真空乾燥、風乾燥等により粉体化することができる。
【0035】
本発明の精製カテキン類含有茶抽出物は、没食子酸由来の酸味が抑制され、風味が良好であるため、幅広い用途展開が可能である。例えば、本発明の精製カテキン類含有茶抽出物をそのまま、濃縮又は加水して飲食品の原料として使用することが可能であるが、カテキン類含有飲食品の原料として特に有用である。
【0036】
飲料としては、茶飲料でも、非茶系飲料であってもよい。茶飲料としては、例えば、緑茶飲料、烏龍茶飲料、紅茶飲料が例示される。また、非茶系飲料としては、例えば、果汁ジュース、野菜ジュース、スポーツ飲料、アイソトニック飲料、エンハンスドウォーター、ボトルドウォーター、ニアウォーター、コーヒー飲料、栄養ドリンク剤、美容ドリンク剤等の非アルコール飲料、ビール、ワイン、清酒、梅酒、発泡酒、ウィスキー、ブランデー、焼酎、ラム、ジン、リキュール類等のアルコール飲料が例示される。
飲料のpH(25℃)は、風味及びカテキン類の安定性の点から、2〜7、特に3〜6とすることが好ましい。
食品としては、例えば、菓子類(例えば、パン、ケーキ、クッキー、ビスケット等の焼菓子、チューインガム、チョコレート、キャンデー)、デザート類(例えば、ゼリー、ヨーグルト、アイスクリーム)、レトルト食品、調味料(例えば、ソース、スープ、ドレッシング、マヨネーズ、クリーム)が例示される。
なお、飲食品の形態は特に限定されず、摂取しやすい形態であれば、固形、粉末、液体、ゲル状、スラリー状等のいずれであってもよい。
【0037】
これら飲食品には、酸化防止剤、各種エステル類、無機塩類、色素類、乳化剤、保存料、調味料、甘味料、酸味料、ガム、乳化剤、油、ビタミン、アミノ酸、野菜エキス類、花蜜エキス類、pH調整剤、品質安定剤等の添加剤を単独で又は2種以上組み合わせて配合してもよい。
【0038】
また、飲料は、ポリエチレンテレフタレートを主成分とする成形容器(いわゆるPETボトル)、金属缶、金属箔やプラスチックフィルムと複合された紙容器、瓶等の通常の包装容器に充填して提供することができる。
更に、容器詰飲料は、例えば、金属缶のような容器に充填後、加熱殺菌できる場合にあっては適用されるべき法規(日本にあっては食品衛生法)に定められた殺菌条件で製造できる。PETボトル、紙容器のようにレトルト殺菌できないものについては、あらかじめ上記と同等の殺菌条件、例えばプレート式熱交換器などで高温短時間殺菌後、一定の温度迄冷却して容器に充填する等の方法が採用できる。また無菌下で、充填された容器に別の成分を配合して充填してもよい。
【実施例】
【0039】
(1)カテキン類及び没食子の測定
試料をフィルター(0.45μm)で濾過し、高速液体クロマトグラフ(型式SCL−10AVP、島津製作所製)を用い、オクタデシル基導入液体クロマトグラフ用パックドカラム(L−カラムTM ODS、4.6mmφ×250mm:財団法人 化学物質評価研究機構製)を装着し、カラム温度35℃でグラジエント法により行った。カテキン類の標準品としては、三井農林製のものを使用し、検量線法で定量した。移動相A液は酢酸を0.1mol/L含有する蒸留水溶液、B液は酢酸を0.1mol/L含有するアセトニトリル溶液とし、試料注入量は20μL、UV検出器波長は280nmの条件で行った
【0040】
(2)官能評価
各精製カテキン類含有茶抽出物を、カテキン類濃度が175mg/100mLとなるようにイオン交換水で希釈して風味評価を行った。風味評価はパネラー5名により行い、協議によりスコアを決定した。風味評価は下記の5段階で行い、5段階評価は数値が大きいほど、風味が良好であることを意味する。
【0041】
(評価基準)
評点5:風味において非常に優れる
評点4:風味においてやや優れる
評点3:風味において優れる
評点2:風味においてやや劣る
評点1:風味において劣る
【0042】
実施例1
精製カテキン類含有茶抽出物の製造
(第1の工程)
あらかじめタンナーゼ処理されている茶抽出物(カテキン類30質量%、ガレート体率32質量%、没食子酸3.7質量%)200gと酸性白土(ミズカエース600、水澤化学)100gを95質量%エタノール水溶液800gに十分に混合し、ろ紙にて濾過を行い、茶抽出物1(カテキン類6.04質量%、没食子酸0.71質量%、エタノール81.7質量%)を得た。この茶抽出物1を4mL(3.5g)とクエン酸三ナトリウム水溶液(クエン酸三ナトリウム濃度25質量%)4mL(4.7g)を混合した。
(第2の工程)
第1の工程後に静置することで、親水性有機溶媒に富む相と、水に富む相とに相分離することが確認された。
相分離した親水性有機溶媒に富む相5.7mL(5.2g)(カテキン類3.08質量%、没食子酸0.32質量%)と、水に富む相2.3mL(3.0g)(カテキン類0.37質量%、没食子酸0.19質量%)を回収した。回収した親水性有機溶媒に富む相を更に減圧下で脱溶剤し、精製カテキン類含有茶抽出物1を得た。
【0043】
実施例2
クエン酸三ナトリウムの濃度を18.2質量%に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作により精製カテキン類含有茶抽出物2を得た。本実施例の製造条件及び分析結果を表1に示す。
【0044】
実施例3
有機酸塩を酒石酸ナトリウムカリウムに変更したこと以外は、実施例1と同様の操作により精製カテキン類含有茶抽出物3を得た。本実施例の製造条件及び分析結果を表1に示す。
【0045】
実施例4
実施例1で得られた茶抽出物1にエタノールを添加し、エタノール濃度85.3質量%に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作により精製カテキン類含有茶抽出物4を得た。本実施例の製造条件及び分析結果を表1に示す。
【0046】
実施例5
実施例1で得られた茶抽出物1にエタノールと水を添加し、エタノール濃度68.0質量%に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作により精製カテキン類含有茶抽出物5を得た。本実施例の製造条件及び分析結果を表1に示す。
【0047】
比較例1
クエン酸三ナトリウムの濃度を37.2質量%に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作により精製カテキン類含有茶抽出物の製造を試みたが、第2工程において2液相に分離しなかった。そのため、相分離不能と判断し、以降の製造を中止した。本比較例の製造条件を表1に示す。
【0048】
比較例2
クエン酸三ナトリウムの濃度を12.6質量%に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作により精製カテキン類含有茶抽出物の製造を試みたが、第2工程において2液相に分離しなかった。そのため、相分離不能と判断し、以降の製造を中止した。本比較例の製造条件を表1に示す。
【0049】
比較例3
エタノール濃度を52.6質量%に変更したこと以外は、実施例4と同様の操作により精製カテキン類含有茶抽出物の製造を試みたが、第2工程において2液相に分離しなかった。そのため、相分離不能と判断し、以降の製造を中止した。本比較例の製造条件を表1に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
実施例1〜5及び比較例1〜3における(a)エタノールの質量分率と、(b)有機酸塩の質量分率との関係を図1に示す。
図1において、2本の斜線は式(I)を満たす範囲を示し、白丸(○)は実施例1〜5の分析結果を示し、三角(▲)は比較例1〜3の分析結果を示す。この結果から、式(I)を満たす範囲内であれば、2液相が形成され、カテキン類含有茶抽出物の精製が効率よく行うことができることが確認された。
【0052】
比較例4
クエン酸三ナトリウムに換えて塩化ナトリウムを使用したこと以外は、実施例1と同様の操作により精製カテキン類含有茶抽出物の製造を試みたが、第2工程において2液相に分離しなかった。そのため、相分離不能と判断し、以降の製造を中止した。本比較例の製造条件を表2に示す。
【0053】
比較例5
クエン酸三ナトリウムに換えてクエン酸Buffer(pH=3.8)を使用したこと以外は、実施例1と同様の操作により精製カテキン類含有茶抽出物の製造を試みたが、第2工程において2液相に分離しなかった。そのため、相分離不能と判断し、以降の製造を中止した。本比較例の製造条件を表2に示す。
【0054】
比較例6
クエン酸三ナトリウムに換えてグルタミン酸ナトリウムを使用したこと以外は、実施例1と同様の操作により精製カテキン類含有茶抽出物の製造を試みたが、第2工程において2液相に分離しなかった。そのため、相分離不能と判断し、以降の製造を中止した。本比較例の製造条件を表2に示す。
【0055】
比較例7
クエン酸三ナトリウムに換えてグルコン酸カリウムを使用したこと以外は、実施例1と同様の操作により精製カテキン類含有茶抽出物の製造を試みたが、第2工程において2液相に分離しなかった。そのため、相分離不能と判断し、以降の製造を中止した。本比較例の製造条件を表2に示す。
【0056】
比較例8
クエン酸三ナトリウムに換えてリン酸2水素カリウムを使用したこと以外は、実施例1と同様の操作により精製カテキン類含有茶抽出物の製造を試みたが、第2工程において2液相に分離しなかった。そのため、相分離不能と判断し、以降の製造を中止した。本比較例の製造条件を表2に示す。
【0057】
【表2】
【0058】
表1及び2から、カテキン類含有茶抽出物を、特定の有機酸塩の存在下に親水性有機溶媒を混合すると、2液相が形成され、これを液液分離することで、親水性有機溶媒に富む相から、風味を損なうことなく、没食子酸を除去しつつカテキン類を効率よく回収できることが確認された。
図1