(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5806475
(24)【登録日】2015年9月11日
(45)【発行日】2015年11月10日
(54)【発明の名称】油入電気機器の異常診断装置および異常診断方法
(51)【国際特許分類】
H01F 27/00 20060101AFI20151021BHJP
H01F 41/00 20060101ALI20151021BHJP
【FI】
H01F27/00 B
H01F41/00 F
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2011-27962(P2011-27962)
(22)【出願日】2011年2月11日
(65)【公開番号】特開2012-169381(P2012-169381A)
(43)【公開日】2012年9月6日
【審査請求日】2014年2月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000116666
【氏名又は名称】愛知電機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】宮島 極
(72)【発明者】
【氏名】澤津 貴弘
【審査官】
小林 大介
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−043026(JP,A)
【文献】
特開昭64−046908(JP,A)
【文献】
特開2002−373813(JP,A)
【文献】
実開昭58−027915(JP,U)
【文献】
特開昭58−014513(JP,A)
【文献】
特開平06−112049(JP,A)
【文献】
特開昭63−289803(JP,A)
【文献】
特開平04−123408(JP,A)
【文献】
特開平01−259718(JP,A)
【文献】
実開平02−088214(JP,U)
【文献】
実開昭63−100813(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 27/00 − 27/06
H01F 30/00 − 30/04
H01F 30/08
H01F 30/12 − 30/14
H01F 36/00 − 37/00
H01F 38/02
H01F 38/08 − 38/12
H01F 38/16
H01F 41/00 − 41/04
H01F 41/08 − 41/10
G01N 33/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機器本体を絶縁油とともにタンク中に収容してなる油入電気機器において、当該油入電気機器の吸湿呼吸器を取り付ける呼吸経路上に、分解ガス中の水素を吸蔵する合金と、これを収容するケースからなる異常診断手段を具備して構成したことを特徴とする油入電気機器の異常診断装置。
【請求項2】
油入電気機器の吸湿呼吸器を取り付ける呼吸経路上に、絶縁材料の分解ガスを吸蔵する合金を配置し、当該合金に吸蔵した水素を吐出させ、その水素量を測定することにより、油入電気機器の異常を診断する油入電気機器の異常診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁油によって絶縁を施した油入電気機器の異常診断装置および異常診断方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、油入電気機器の外部診断技術としては油中ガス分析が広く利用されている。油入電気機器の内部異常現象は、絶縁破壊や局部過熱等、発熱を伴うものであり、発熱源に接触した絶縁油や絶縁紙、或いは、プレスボードやベークライト等の絶縁材料は化学分解反応を起こし、一酸化炭素(CO)や二酸化炭素(CO
2)、水素(H
2)やメタン(CH
4)、エチレン(C
2H
4)、アセチレン(C
2H
2)等の炭化水素ガスを発生する。
【0003】
発生する炭化水素ガスは絶縁油に対する溶解度が大きいものが多く、その大部分が絶縁油中に溶解するので、油入電気機器から採取した絶縁油中のガスを抽出・分析して、そのガス量とガスの組成を測定することによって、油入電気機器内部の異常の有無と、異常の程度を判定することが可能となる。
【0004】
具体的には、下記非特許文献1の第5−1−1図や第5−1−2図に示すように、横軸にガス成分を順に並べ、縦軸に各ガス成分の中で、最大を1とした場合の比をプロットしてパターンを描き、その形状から内部不具合の様相、例えば、加熱や放電等の有無を診断するのである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】電気協同研究 第65巻 第1号 49頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
然るに、油入電気機器に低温異常過熱が発生した場合、絶縁油の化学分解反応により発生する前述した炭化水素ガスの量は少なく、また、油入電気機器は正常運転している場合においても該炭化水素ガスを発生するので、油入電気機器が正常運転状態にあるのか異常運転状態にあるのかの判別が困難であった。このことから、密封形の油入電気機器であれば、発生したガスが長期間に渡って絶縁油中に残留・蓄積するので、油中ガス分析によって低温異常過熱の発見が可能であったとしても、短期間で発見することは非常に難しかった。
【0007】
また、開放型の油入電気機器にあっては、発生したガスが吸湿呼吸器の呼吸作用によって吸湿呼吸器を介して外気に散逸するため、絶縁油中のガス溶存量が減少し、結果、低温異常過熱を発見することが、油中ガス分析によっても、事実上、不可能であった。
【0008】
そこで、本発明は、炭化水素ガスの発生量が少ない低温異常加熱においても、異常を確実に発見することのできる油入電気機器の異常診断装置および異常診断方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載の発明は、機器本体を絶縁油とともにタンク中に収容してなる油入電気機器において、当該油入電気機器の吸湿呼吸器を取り付ける呼吸経路上に、
分解ガス中の水素を吸蔵する合金と、これを収容するケースからなる異常診断手段を具備して構成したことを特徴とする。
【0015】
請求項
2記載の発明は、油入電気機器の吸湿呼吸器を取り付ける呼吸経路上に、絶縁材料の分解ガスを吸蔵する合金を配置し、当該合金に吸蔵した水素を吐出させ、その水素量を測定することにより、油入電気機器の異常を診断することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1記載の発明によれば、
取り扱いが容易な水素吸蔵合金を異常診断手段として利用できるとともに、合金から水素を吐出させれば、再度、異常診断手段として繰り返し使用できる利点を有する。
【0022】
請求項
2記載の発明は、油入電気機器の呼吸経路上に分解ガスを吸蔵する合金を配置することによって、
合金に吸蔵された水素を吐出させてガスクロマトグラフで分析することによって、合金に吸蔵されていた水素量を確認することができ、変圧器の低温異常過熱の有無と程度を診断することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の一実施例を示す油入電気機器の正面図である。
【
図2】本発明に係る油入電気機器の運転年数と分解ガスの発生量との関係を示すグラフである。
【
図3】本発明に係る異常診断手段による異常診断方法を説明する状態推移図である。
【
図4】本発明の一実施例を示す異常診断手段の正面図である。
【
図5】本発明の他の実施例を示す油入電気機器の正面図である。
【
図6】本発明の他の実施例を示す異常診断手段の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について
図1乃至
図4を用いて説明する。
図1は本発明に係る異常診断方法を採用した油入電気機器(油入変圧器A)の正面図であり、
図1において、1は油入変圧器Aのタンクであり、2はタンク1内に収容・固定される、鉄心やコイル等からなる変圧器本体である。
【0025】
3は変圧器タンク1内に充填されて、変圧器本体2を冷却および絶縁する絶縁油であり、4は変圧器タンク1の上部に取り付けられたコンサーベーターを示している。
【0026】
5は変圧器タンク1の下部に設けられて、変圧器タンク1内に充填した絶縁油3を抜き取る排油コックを示している。当該排油コック5には、注射器を接続してピストンを引く操作によって、ほぼ大気に晒すことなく変圧器タンク1内から絶縁油3を抜き取ることができる。
【0027】
6はコンサーベーター4の上部に一端を連結した呼吸管7の他端に接続される吸湿呼吸器であり、その内部にはシリカゲル等の吸湿剤(図示せず)が収容され、呼吸管7を介して変圧器タンク1内に湿った空気が流入することを防止している。
【0028】
8は本発明に係る異常診断装置を構成する異常診断手段を示している。異常診断手段8は、前記呼吸管7および吸湿呼吸器6と連結する中空筒状のケース8aと、ケース8a内に充填される薬剤8bによって概略構成されている。
【0029】
薬剤8bとしては、水素と反応して変色するパラジウム塩や、水蒸気と反応して変色する過塩素酸が使用される。ケース8aは、薬剤8bが太陽光によって変色することを防止するために、太陽光を透過させない不透明な素材、例えば、金属で形成する。また、硝子等の透明な素材を利用する場合は、ケース8aの表面に、紫外線の透過を防止するコーティング剤を塗布したり、或いは、紫外線の透過を防止するフィルムを貼付する。
【0030】
以上のごとく構成される油入変圧器Aは、正常運転時においても、前述した化学分解反応によって炭化水素ガスが発生するが、ガス中の例えば水素の量と、油入電気機器Aの運転年数の関係は一般的に
図2に示す比例関係となる。
【0031】
つづいて、前述した異常診断手段8によって油入変圧器Aの低温異常過熱を診断する方法について説明する。油入変圧器Aの内部に低温異常過熱が発生した場合、発熱源に接触した絶縁油3や絶縁紙等の絶縁材料は化学分解反応を起こす。
【0032】
この化学分解反応によって、水素等の炭化水素ガスが発生し絶縁油3中に溶解する。炭化水素ガスのうち例えば、水素の発生量は、
図2に示すように、正常運転時と比較して増加し、正常運転時の比例関係から逸脱する。
【0033】
発生量が増加した水素は、
図1に示す油入変圧器Aのコンサーベーター4中の絶縁油3の油面から呼吸管7内へ流入する。呼吸管7には、前述のごとく異常診断手段8が接続されているので、呼吸管7内へ流入した水素は異常診断手段8へと送られる。
【0034】
異常診断手段8へ送られた水素は、中空筒状のケース8a内に充填された薬剤8bと接触し、これと反応する。ここで、薬剤8bは前述したように、水素と反応して変色するパラジウム塩や、水素が呼吸管7内の酸素と反応して発生する水蒸気の反応により変色する過塩素酸よりなるので、ケース8a内の薬剤8bは変色を開始する。
【0035】
薬剤8bの変色は、油入変圧器Aの低温異常過熱の継続により、炭化水素ガスが発生し続ける限り、経年とともに、変色量が
図3に示すように、その上端側から徐々に増加していき、終には全量が変色することとなる。
【0036】
そして、薬剤8bのこの性質を利用して、本発明の異常診断方法を実行するに当たっては、まず最初に、油入変圧器Aの正常運転時における薬剤8bの変色する早さの度合い(程度)を予め測定しておく。
【0037】
つまり、油入変圧器Aに低温異常過熱が発生した場合、絶縁材料が化学分解反応を起こして、水素等の炭化水素ガスが発生するのであるが、油入変圧器Aは正常運転時においても炭化水素ガスが発生するため、正常時と低温異常過熱時のガス発生量の相違を判別する必要がある。そこで、低温異常過熱の発生時において、異常診断手段8の薬剤8bの変色速度が正常運転時よりも早いことに着目し、点検者が正常運転時における薬剤8bの変色の早さを予め測定しておくことにより、測定した正常時における異常診断手段8の薬剤8bの変色速度と、点検した際の薬剤の変色速度とを比較することにより、正常時より薬剤8bの変色速度が速いことをもって油入変圧器Aに異常が発生していると診断するのである。
【0038】
正常運転時における薬剤8bの変色速度の測定方法としては、例えば、薬剤8bをケース8aに充填した異常診断手段8のサンプルを使用し、
図2に示す経年の水素量を薬剤8bに供給して、薬剤8bの変色速度を実際に測定したり、或いは、
図2に示す経年の水素量の所定倍の水素量を薬剤8bに供給することによって、加速度的に薬剤8bを変色させて、通常時の水素量による変色速度を推定してもよい。
【0039】
なお、異常診断手段8のケース8aを金属等の不透明な素材によって形成する場合、ケース8a内の薬剤8bの変色状態を確認する窓部としては、薬剤8bの全体の変色状況を確認できるように、
図4(a),(b)に示すように、ケース8aの長手方向に透明な素材Mを配置して構成すれば良く、また、窓部Mを開閉する蓋部は、同図(a)に示すように、窓部Mの上部を支点として振り子状に開閉するもの(8c)や、同図(b)に示すように、水平方向にスライド可能な構造(8d)とすれば良い。
【0040】
また、ケース8aを透明なガラスやプラスチック等で形成する場合は、紫外線の透過を防止する塗料を塗布したり、紫外線透過防止用のフィルムを貼付することによって、太陽光によって薬剤が変色することを防止するように構成しても良い。
【0041】
以上のごとく、本発明の異常診断装置および異常診断方法によれば、呼吸経路上に備えた異常診断手段8を利用することにより、油中ガス分析で診断することのできなかった低温異常過熱の発生を、簡単に診断することが可能となる。
【0042】
つづいて、本発明の他の実施例について
図5,
図6を用いて説明する。
図4は本発明の他の実施例における油入変圧器Aの正面図である。
図5に示す油入変圧器Aは、呼吸管7上に取り付けられる異常診断手段9が、第1実施例の異常診断手段8と構成が異なる。
【0043】
図5に示す異常診断手段9は、ケース9a内に分解ガスである水素ガスを吸蔵する合金(例えば、水素吸蔵合金)を収容して構成されている。水素吸蔵合金とは、水素を取り込む性質のある金属を合金化することによって最適化し、水素を吸わせることを目的として開発された合金であり、水素貯蔵合金とも言われる。
【0044】
図5に示す油入変圧器Aに低温異常過熱が発生し、その発熱によって分解ガス(炭化水素ガス)が発生した場合、油入変圧器Aの呼吸作用によって炭化水素ガスがコンサーベーター4中の油面から呼吸管7内へ流入する。
【0045】
呼吸管7内に流入した炭化水素ガスは、呼吸管7上に配置した異常診断手段9のケース9a内に収容された水素吸蔵合金9b(
図6参照)によって吸収させる。そして、当該合金9bに水素を吸収させた後は、水素吸蔵合金9bを異常診断手段9のケース9aから取り出し、ヒーター等を利用して加熱することによって、当該合金9bから吸蔵した水素を吐出させる。そして吐出させた水素を薬剤と反応させることにより、吸蔵されていた水素量を測定し、その結果をもって、油入変圧器Aの低温異常過熱の有無と程度を診断することができる。
【0046】
また、別の方法としては、異常診断手段9から水素吸蔵合金9bを取り出した後、これを加熱することによって吸蔵していた水素を吐出させ、この吐出させた水素をガスクロマトグラフで分析することによって、合金9bに吸蔵されていた水素量を確認することにより、油入変圧器Aの低温異常過熱の有無と程度を診断するようにしても良い。
【0047】
なお、異常診断手段9には、例えば、
図6に示すように、ケース9aの前面の一部(H)を開口するスライド式の扉9cを設けることにより、ケース9a内に収容された水素吸蔵合金9bの出し入れが容易となるように構成すれば良い。
【0048】
以上説明したように、本発明の油入電気機器の異常診断装置および異常診断方法によれば、油中ガス分析で診断することが不可能な低温異常過熱の発生を、呼吸経路上に配置した異常診断手段を用いて迅速かつ簡単に診断することができる。
【0049】
また、上述の何れの実施例においても、異常診断手段の取り扱いは非常に簡単であり、点検作業の負担を軽減することができる。さらに、低廉な診断コストで油入電気機器の内部異常を確実に発見できるので、油入電気機器の予防保全に大いに資する。
【産業上の利用可能性】
【0050】
油入変圧器等の内部異常の診断に利用可能である。
【符号の説明】
【0051】
1 変圧器タンク
2 変圧器本体
3 絶縁油
4 コンサーベーター
5 排油コック
6 吸湿呼吸器
7 呼吸管(呼吸経路)
8,9 異常診断手段
8a,9a ケース
8b 薬剤
8c,8d 蓋部
9b 水素吸蔵合金
9c 扉
A 油入変圧器
H 前面の一部(開口)
M 窓部