(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
[実施例1]
実施例1の電磁弁は、ブレーキ装置20内のゲートイン弁1(電磁弁)として用いられるものである。まずブレーキ装置20の液圧回路構成について説明する。
〔ブレーキ液圧回路の構成〕
図1は、ブレーキ装置20の液圧回路図である。このブレーキ装置20においては、P系統とS系統との2系統からなるX配管と呼ばれる配管構造となっている。P系統には、左前輪のホイルシリンダW/C(FL)、右後輪のホイルシリンダW/C(RR)が接続されており、S系統には、右前輪のホイルシリンダW/C(FR)、左後輪のホイルシリンダW/C(RL)が接続されている。また、P系統、S系統それぞれに、ポンプPPとポンプPSとが設けられており、このポンプPPとポンプPSは、1つのモータMによって駆動される。また、S系統にはマスタシリンダ圧を検出するマスタシリンダ圧センサS1が設けられている。
マスタシリンダM/CとポンプPP,PSの吸入側とは、液路10P,10Sによって接続されている。この各液路10上には、ノーマルクローズのオン/オフ弁であるゲートイン弁1P,1Sが設けられている。また液路10上であって、ゲートイン弁1とポンプPとの間にはチェックバルブ5P,5Sが設けられており、この各チェックバルブ5は、ゲートイン弁1からポンプPへ向かう方向へのブレーキ液の流れを許容し、反対方向の流れを禁止する。
【0009】
各ポンプPの吐出側と各ホイルシリンダW/Cとは、液路11P,11Sによって接続されている。この各液路11上には、各ホイルシリンダW/Cに対応するノーマルオープン型の比例弁である増圧バルブ3FL,3RR,3FR,3RLが設けられている。また各液路11上であって、各増圧バルブ3とポンプPとの間にはチェックバルブ6P,6Sが設けられており、この各チェックバルブ6は、ポンプPから増圧バルブ3へ向かう方向へのブレーキ液の流れを許容し、反対方向の流れを禁止する。
更に各液路11には、各増圧バルブ3を迂回する液路16FL,16RR,16FR,16RLが設けられており、この液路16には、チェックバルブ9FL,9RR,9FR,9RLが設けられている。この各チェックバルブ9は、ホイルシリンダW/CからポンプPへ向かう方向へのブレーキ液の流れを許容し、反対方向の流れを禁止する。
【0010】
マスタシリンダM/Cと液路11とは液路12P,12Sによって接続されており、液路11と液路12とはポンプPと増圧バルブ3との間において合流している。この各液路12上には、ノーマルオープン型の比例弁であるゲートアウト弁2P,2Sが設けられている。また各液路12には、各ゲートアウト弁2を迂回する液路17P,17Sが設けられており、この液路17には、チェックバルブ8P,8Sが設けられる。この各チェックバルブ8は、マスタシリンダM/C側からホイルシリンダW/Cへ向かう方向へのブレーキ液の流れを許容し、反対方向の流れを禁止する。
【0011】
ポンプPの吸入側にはリザーバ15P,15Sが設けられており、このリザーバ15とポンプPとは液路14P,14Sによって接続されている。リザーバ15とポンプPとの間にはチェックバルブ7P,7Sが設けられており、この各チェックバルブ7は、リザーバ15からポンプPへ向かう方向へのブレーキ液の流れを許容し、反対方向の流れを禁止する。
ホイルシリンダW/Cと液路14とは液路13P,13Sによって接続されており、液路13と液路14とはチェックバルブ7とリザーバ15との間において合流している。この各液路13にそれぞれ、ノーマルクローズ型のオン/オフ弁である減圧バルブ4FL,4RR,4FR,4RLが設けられている。
【0012】
マスタシリンダ圧に関わらず車両挙動制御側から所望のホイルシリンダW/Cに対して増圧要求(以下、ポンプアップ要求と記載する。)が出力されると、ゲートアウト弁2を閉じ、ゲートイン弁1を開いてポンプPを駆動することで、マスタシリンダM/Cからブレーキ液を吸いこみ、ポンプアップによりホイルシリンダ側にブレーキ液を吐出することで所望のホイルシリンダ圧を供給する。尚、ブレーキペダル操作によりマスタシリンダ圧が発生している状態で、更にポンプアップ要求が出力された場合は、例えばゲートアウト弁2をつり合い制御とし、マスタシリンダ圧とホイルシリンダ圧との差圧を確保してポンプアップを行う。
【0013】
〔ゲートイン弁の構成〕
図2は実施例1のゲートイン弁断面図である。ゲートイン弁1は、ハウジング26内の液路10の途中に形成されたバルブ装着孔32に装着されている。ゲートイン弁1は通電により電磁力を発生するソレノイド21と、磁性体の固定鉄心27と、電磁力により駆動するアーマチュア24と、固定鉄心27とアーマチュア24との間において両者を離間する方向に付勢する第1スプリング28と、アーマチュア24のシリンダとなる中空のバルブボディ23と、アーマチュア24の先端に形成したプランジャ24aによって有効断面積A1の第1オリフィス25bが開閉されると共に軸方向貫通穴25aを有する第1部材25と、第1部材25の係合面25cと対向する被係合面30kとの間の開閉により第2オリフィス30aを形成する第2部材30と、第1部材25と第2部材30との間において両者を離間する方向に付勢する第2スプリング29と、第1部材25を収装すると共に第2部材30が圧入固定された円筒状のバルブハウジング40とを有する。
【0014】
ソレノイド21はコイルが巻かれており、コントロールユニットケース31に装着されている。固定鉄心27は略円筒状に形成された鉄製の磁性体である。バルブボディ23は中空の略円筒状に形成された非磁性体である。アーマチュア24の一端側にはスプリング挿入孔24cが形成されており、他端側には球状のプランジャ24aが設けられている。
第1オリフィス25bの周辺には第1オリフィス25bに向かって凹む方向に傾斜した第1係合面25dが形成されている。
バルブハウジング40には円筒の内外を連通する吸入窓30gが形成されている。この吸入窓30gにはフィルタが設けられ、マスタシリンダM/Cから供給されるブレーキ液が流れ込むように接続されている。第2部材30の第1部材25側先端には、第2部材30の内外を連通する第2オリフィス30aが形成されている。第2オリフィス30aは、前述の第1オリフィス25bよりも大径に形成されている。第2オリフィス30aは、第2部材30の底部まで貫通しており、底部の開口部は排出口30iを構成している。この排出口30iは液路10sと接続され、ポンプ吸入側と接続されている。バルブハウジング40の先端とバルブ装着孔32の底部との間にシール部材41が装着され、吸入窓30g側と排出口30i側とを液密に画成している。
【0015】
〔ゲートイン弁の動作〕
マスタシリンダM/Cから供給される高圧のブレーキ液は、第2部材30に形成された吸入窓30gからバルブハウジング40内部に供給される。ソレノイド21が非通電時には、第1部材25の第1係合面25dと、プランジャ24aの球面とが当接し、第1オリフィス25bを閉鎖している。また非通電時には、第1部材25の係合面25cと、第2部材30の被係合面30kとが当接し、第2オリフィス30aを封鎖している。ソレノイド21が通電されると、アーマチュア24が固定鉄心27側に吸引され、プランジャ24aが第1部材25の第1オリフィス25bを開放する。ほぼ同時に第1部材25も固定鉄心27側に移動して第2部材30の第2オリフィス30aを開放する。これにより、液路10が開放されてマスタシリンダM/Cのブレーキ液がポンプPに供給される。
【0016】
図3は実施例1の電磁弁駆動回路を表す回路図である。ゲートイン弁1は、ECUA1により駆動される。ECUA1には、マイコン部B1と、電気回路(アンプ60,抵抗61及びダイオード62)で構成されている。マイコン部B1には、ブレーキペダル操作量であるマスタシリンダ圧と、横加速度センサにより検出された横加速度と、車輪速センサにより検出された車速と、に基づいて車両挙動制御の制御内容を判断する車両挙動制御判断部50を有する。車両挙動制御としては、緊急回避的にブレーキ液圧を供給する制御である衝突回避や過度のオーバーステア状態やアンダーステア状態を抑制する車両挙動制御の他、先行車との車間距離を維持するために低い減速度で減速するような車間距離制御や先行車追従制御もしくは車線逸脱防止制御等が含まれる。また、車両挙動制御の内容及びマスタシリンダ圧に基づいてゲートイン弁1の制御方法を変更するゲートイン弁制御方法判断部51と、ソレノイド21に通電している電流値を検出する電流センサ60と、検出された電流値に基づくフィードバック制御によりマイコン部B1からの信号によりゲートイン弁1のPWM駆動デューティを変化させるゲートイン弁駆動部52と、FET(スイッチング素子)53とを有する。ソレノイド21に通電する電流値を制御する際は、PWM駆動デューティを制御し、FET53をスイッチング制御することで所望の電流値となるように電流フィードバック制御が行われる。
【0017】
図4は実施例1のゲートイン弁の制御処理を表すフローチャートである。
ステップ101では、車両の横加速度G及び車速Vを読み込む。
ステップ102では、車速Vが所定車速Voより小さいか否かを判断し、小さいときは騒音が気になりやすい走行状態であると判断してステップ103に進み、それ以外のときは騒音が気にならない走行状態であると判断して本制御フローを終了する。
ステップ103では、横加速度Gが所定の横加速度Gmより小さいか否かを判断し、小さいときは騒音が気になりやすい走行状態であると判断してステップ104に進み、それ以外のときは騒音が気にならない走行状態であると判断して本制御フローを終了する。
ステップ104では、横加速度Gが所定範囲内(0より大きく、かつ、Goより小さい)か否かを判断し、所定範囲外である場合には緊急回避の機能が要求される可能性が高いと判断してステップ108に進み、所定範囲内である場合には緊急回避の要求はなく、静音性が求められると判断してステップ105に進む。
ステップ105では、マスタシリンダ圧Pを読み込む。
ステップ106では、マスタシリンダ圧が所定圧Poより小さいか否かを判断し、小さいときは緊急回避の機能が要求されないと判断してステップ107に進んで静音性を重視したゲートイン弁制御Aを実行し、それ以外のときはステップ108に進んで応答性を重視したゲートイン弁制御Bを実行する。
【0018】
ここで、ゲートイン弁制御A及びゲートイン弁制御Bについて説明する。
(ゲートイン弁制御A)
図5は実施例1のゲートイン弁制御Aの処理内容を表すタイムチャートである。ゲートイン弁制御Aでは、ゲートイン弁1を駆動する時間Tonを、指令電流I1を通電する時間T1と、指令電流I2を通電する時間T2に配分する。
・マスタシリンダ圧が発生していない場合
アーマチュア24とプランジャ25とが閉弁する方向にスプリング28とスプリング29の荷重差(以下、スプリング荷重差と記載する。)が働いている。よって、指令電流I1の設定は、スプリング荷重差に打ち勝つ最低限の力の吸引力を発生する電流値をI1として設定する。
次に、アーマチュア24が摺動し、固定鉄心27とアーマチュア24との隙間であるGAPが小さくなると、吸引力は大きくなる。この吸引力とスプリング荷重差の差分はゲートイン弁の駆動開始時(閉弁時から開弁への移行時)よりも大きくなるため、開弁状態を維持する保持時の電流値は駆動開始時の電流値よりも小さくて済む。このように開弁状態を維持できる最低限の吸引力を発生する指令電流値をI2として設定する。
このように、指令電流値をI1,I2として設定すると、
図5に示すように、コイル等の影響により実電流値は指令電流値に対して遅れて立ち上がる。このとき、まずは大きな指令電流値I1を設定することで、初期の応答性を確保することができる。
【0019】
・マスタシリンダ圧が発生している場合
次に、ブレーキペダルが踏み込まれ、マスタシリンダ圧が発生している場合には、マスタシリンダ圧がアーマチュア24をプランジャ25に押し付ける方向に力(P×A1)が作用する。ただし、Pはマスタシリンダ圧、A1は第1オリフィス25aの有効断面積である。つまり、スプリング28のスプリング力を助成する方向に力を発生することとなり、アーマチュア24を開弁するには、マスタシリンダ圧が発生しない場合に比べて大きな吸引力を必要とする。このため、ソレノイド21に通電する電流I1をマスタシリンダ圧に応じて高める必要がある。
【0020】
図6は実施例1のマスタシリンダ圧力と指令電流値I1,I2との関係を表す特性図である。
図6に示すように、マスタシリンダ圧の上昇に応じて電流I1を大きくすることで、マスタシリンダ圧による押し付け力に抗して開弁させる。尚、電流I1を印加し、アーマチュア24とプランジャ25が開弁状態となると、マスタシリンダ圧が流れる吸入窓30gとポンプ側に排出する排出口30iとの差圧が小さくなり、スプリング28のスプリング力を助成する力が小さくなる。よって、電流I2は電流I1ほどマスタシリンダ圧力に対して電流値を増加させる必要はない。
【0021】
図7は実施例1の時間T1の設定方法を表すタイムチャートである。時間T1は、実際の電流値が設定した電流値I1に到達する時間、又は、吸引力がスプリング荷重差を上回るまでの時間としてT1を設定する。尚、この時間は予め実験等で求め、マスタシリンダ圧の影響については
図6の特性に応じて設定電流値を補正することで適切なタイミングを維持できる。
【0022】
(ゲートイン弁制御B)
図8は実施例1のゲートイン弁制御Bの処理内容を表すタイムチャートである。ゲートイン弁制御Bでは、ゲートイン弁1を駆動する時間Tonの間、継続して最大電流I3を通電する。すなわち、PWMデューティ100%によって通電することで、開弁応答性が必要な場合に対応する。例えば、衝突防止補助機能などの応答性が重視される場面では、静音性よりも応答性が要求されることから、一気にゲートイン弁1を開弁する。
【0023】
図9は実施例1のマスタシリンダ圧に応じたゲートイン弁への通電状態を表す図である。例えば、ドライバが徐々にブレーキペダルを踏み込み始め、マスタシリンダ圧Pが所定圧Poに到達するまでは、ゲートイン弁制御Aが選択されるため、
図6の特性図に基づいて設定された電流I1が徐々に増大しながら通電される。これにより静音性を確保すると共に、FETの発熱や、ソレノイド21の発熱を小さくでき、ゲートイン弁1の小型化やFET等の小型化や廉価化を図ることができる。そして、マスタシリンダ圧Pが所定圧Poを超えると、ゲートイン弁制御Bが選択され、最大電流I3に設定されることで応答性を確保できる。
【0024】
以上説明したように、実施例1にあっては下記の作用効果を得ることができる。
(1)ドライバのブレーキペダル操作量に応じて液圧を発生するマスタシリンダM/CとホイルシリンダW/Cを接続する液路12(第1ブレーキ回路)と、マスタシリンダM/C内のブレーキ液を吸入し、液路12へ吐出するポンプPと、マスタシリンダM/CとポンプPの吸入側を接続する液路10(吸入回路)と、液路10に設けられたノーマルクローズ型のゲートイン弁1と、ゲートイン弁1に対し指令電流値を演算して開弁量をコントロールするECUA1(コントロールユニット)と、車両挙動に基づいてポンプPによるホイルシリンダ圧力の昇圧応答性を判断するステップ104(昇圧応答性判断部)を有し、ECUA1は判断された昇圧応答性が高応答と判断された時は指令電流値を最大電流値(予め設定された大きな値)とし、高応答より低い応答性と判断された時は指令電流値を予め設定された大きな値より小さな電流値である電流I1に調整するゲートイン弁駆動部52(指令電流値調整部)と、を備えた。
よって、緊急回避に必要な応答性を確保すると共に、通常走行での騒音を低減することができる。
【0025】
(2)ドライバのブレーキペダル操作量に応じて液圧を発生するマスタシリンダM/CとホイルシリンダW/Cを接続する液路12(第1ブレーキ回路)と、マスタシリンダM/C内のブレーキ液を吸入し、液路12へ吐出するポンプPと、マスタシリンダM/CとポンプPの吸入側を接続する液路10(吸入回路)と、液路10に設けられたノーマルクローズ型のゲートイン弁1と、ゲートイン弁1に対し指令電流値を演算して開弁量をコントロールするECUA1(コントロールユニット)と、マスタシリンダ圧を検出するマスタシリンダ圧センサS1と、を備え、ECUA1は、検出されたマスタシリンダ圧Pが予め設定されたマスタシリンダ圧Poより高いときに指令電流値を最大電流値(予め設定された大きな値)とし、予め設定されたマスタシリンダ圧Poより低いときは指令電流値を予め設定された大きな値より小さな値である電流値I1に調整するステップ106(指令電流値調整部)と、を備えた。
よって、ドライバが大きな制動力を要求するような場面に必要な応答性を確保すると共に、通常走行での騒音を低減することができる。
【0026】
(3)ゲートイン弁駆動部52は、電流I1(予め設定された大きな値)に基づきゲートイン弁1を開弁駆動したのちに指令電流値をI2に低減させるゲートイン弁制御A(指令電流値制限手段)を備えた。
よって、電磁弁の消費電流を小さくできるため、FET等の駆動素子の発熱、電磁弁のソレノイド21の発熱を小さくでき、これに伴ってゲートイン弁1や駆動素子を小型化もしくは廉価化を図ることができる。