特許第5806959号(P5806959)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5806959
(24)【登録日】2015年9月11日
(45)【発行日】2015年11月10日
(54)【発明の名称】トーショナルダンパ
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/126 20060101AFI20151021BHJP
【FI】
   F16F15/126 B
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-64873(P2012-64873)
(22)【出願日】2012年3月22日
(65)【公開番号】特開2013-194875(P2013-194875A)
(43)【公開日】2013年9月30日
【審査請求日】2014年12月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【弁理士】
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【弁理士】
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】八幡 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】関 一成
(72)【発明者】
【氏名】橋本 卓美
【審査官】 岩田 健一
(56)【参考文献】
【文献】 実開平02−069158(JP,U)
【文献】 特開2010−151217(JP,A)
【文献】 特開2004−125108(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/126
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円板形状のハブに対して環状のマス部材が外挿されると共に、それらハブとマス部材の間には環状連結ゴムが圧入されて、それらハブとマス部材が該環状連結ゴムによって弾性連結されているトーショナルダンパにおいて、
圧入前の前記環状連結ゴムの軸方向端面の内周端部が外方に向かって凸の内周円弧状面で構成されていると共に、該環状連結ゴムの軸方向端面の外周端部が外方に向かって凸の外周円弧状面で構成されて、それら内周円弧状面と外周円弧状面の間には外方に向かって凸の中間円弧状面が設けられており、
該環状連結ゴムの軸方向端面における該内周円弧状面と該中間円弧状面の間には、平面乃至は外方に凸の湾曲面とされてそれら内周円弧状面と中間円弧状面とをなだらかに繋ぐ内周中間面が設けられていると共に、該環状連結ゴムの軸方向端面における該外周円弧状面と該中間円弧状面の間には、平面乃至は外方に凸の湾曲面とされてそれら外周円弧状面と中間円弧状面とをなだらかに繋ぐ外周中間面が設けられている一方、
該内周円弧状面と該外周円弧状面と該中間円弧状面のそれぞれの曲率半径が、該内周中間面と該外周中間面のそれぞれの曲率半径よりも小さくされていると共に、
該中間円弧状面の軸方向外端が該内周円弧状面の軸方向外端および該外周円弧状面の軸方向外端の何れよりも軸方向外方に位置していることを特徴とするトーショナルダンパ。
【請求項2】
圧入された前記環状連結ゴムの軸方向外端が、前記ハブの外周端部および前記マス部材の内周端部における軸方向端面に対して、同一平面上乃至は軸方向内側に位置している請求項1に記載のトーショナルダンパ。
【請求項3】
前記ハブの外周面と前記マス部材の内周面における前記環状連結ゴムの圧入面が、何れも軸方向両端部分において軸方向に延びる円筒形状とされている請求項1又は2に記載のトーショナルダンパ。
【請求項4】
圧入前の前記環状連結ゴムにおける前記中間円弧状面の軸方向外端が、前記内周円弧状面の軸方向外端および該外周円弧状面の軸方向外端に対して、軸方向外側に0.5mm以上の大きさで突出している請求項1〜3の何れか1項に記載のトーショナルダンパ。
【請求項5】
前記環状連結ゴムの硬さがJIS K 6253に準拠したタイプAデュロメータ硬さ試験でA60以上とされている請求項1〜4の何れか1項に記載のトーショナルダンパ。
【請求項6】
前記環状連結ゴムが前記ハブと前記マス部材の間で径方向に30%以上の圧縮率で圧縮されている請求項1〜5の何れか1項に記載のトーショナルダンパ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のダンパプーリとして採用されるトーショナルダンパに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車のダンパプーリに適用されるトーショナルダンパが知られている。トーショナルダンパは、円板形状のハブと、ハブに外挿される円環状のマス部材とが、それらハブとマス部材の径方向間に介装される環状連結ゴムによって弾性連結された構造を有している。例えば、特開2004−125108号公報(特許文献1)に記載されているのが、それである。
【0003】
ところで、このようなトーショナルダンパは、一般的に、ハブとマス部材の径方向間に設けられた隙間に対して環状連結ゴムが圧入されることで形成される。そして、環状連結ゴムは、ハブとマス部材の径方向間に対して、径方向に圧縮された状態で配設されており、脱落が防止されている。
【0004】
ところが、このように環状連結ゴムをハブとマス部材の径方向間の隙間に圧入して組み付けると、環状連結ゴムの内周面がハブに押し当てられると共に、環状連結ゴムの外周面がマス部材に押し当てられる。これにより、環状連結ゴムの内周端部および外周端部の圧入が、径方向中間部分の圧入に対して、摩擦抵抗によって遅れを生じて、圧入後の環状連結ゴムにおける端面の径方向中間部分にシワが生じるおそれがあり、耐久性や信頼性に不具合を生じるおそれがあった。
【0005】
特に、環状連結ゴムの耐久性の向上等を目的として、環状連結ゴムの径方向での厚さ寸法を大きくすると、端面の径方向中間部分にシワが生じ易くなって、耐久性の低下が問題となり易かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−125108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題は、環状連結ゴムの圧入時に径方向中間部分にシワが生じるのを防いで、耐久性の向上を実現することができる、新規な構造のトーショナルダンパを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明の第1の態様は、円板形状のハブに対して環状のマス部材が外挿されると共に、それらハブとマス部材の間には環状連結ゴムが圧入されて、それらハブとマス部材が該環状連結ゴムによって弾性連結されているトーショナルダンパにおいて、圧入前の前記環状連結ゴムの軸方向端面の内周端部が外方に向かって凸の内周円弧状面で構成されていると共に、該環状連結ゴムの軸方向端面の外周端部が外方に向かって凸の外周円弧状面で構成されて、それら内周円弧状面と外周円弧状面の間には外方に向かって凸の中間円弧状面が設けられており、該環状連結ゴムの軸方向端面における該内周円弧状面と該中間円弧状面の間には、平面乃至は外方に凸の湾曲面とされてそれら内周円弧状面と中間円弧状面とをなだらかに繋ぐ内周中間面が設けられていると共に、該環状連結ゴムの軸方向端面における該外周円弧状面と該中間円弧状面の間には、平面乃至は外方に凸の湾曲面とされてそれら外周円弧状面と中間円弧状面とをなだらかに繋ぐ外周中間面が設けられている一方、該内周円弧状面と該外周円弧状面と該中間円弧状面のそれぞれの曲率半径が、該内周中間面と該外周中間面のそれぞれの曲率半径よりも小さくされていると共に、該中間円弧状面の軸方向外端が該内周円弧状面の軸方向外端および該外周円弧状面の軸方向外端の何れよりも軸方向外方に位置していることを、特徴とする。
【0009】
このような第1の態様に記載されたトーショナルダンパによれば、ハブとマス部材の間に環状連結ゴムを圧入する際に、環状連結ゴムの内周端部および外周端部がハブやマス部材との間で作用する摩擦抵抗によって中間部分よりも遅れて圧入されることに起因して、環状連結ゴムの軸方向端面にシワ状の変形が生じるのを、防ぐことができる。蓋し、摩擦抵抗に基づいて環状連結ゴムに及ぼされる応力が、内周円弧状面および外周円弧状面から内周中間面および外周中間面を介して、軸方向外方に位置した中間円弧状面を軸方向外側に押し出すように伝達されるからである。その結果、例えば環状連結ゴムの幅寸法を大きくした場合等にも、シワの形成による応力の集中が回避されて、環状連結ゴムの耐久性の向上が実現される。
【0010】
しかも、内周中間面および外周中間面が各円弧状面よりも大きな曲率半径で形成されており、中間円弧状面と内周円弧状面および外周円弧状面が、内周中間面および外周中間面を介して、凹部(外方に凹の折れ点や折れ線等)をもつことなく、なだらかに連続して形成されている。それ故、環状連結ゴムの軸方向端面において局所的な応力の集中が回避されて、シワの形成が抑えられることにより耐久性の向上が実現される。
【0011】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載されたトーショナルダンパにおいて、圧入された前記環状連結ゴムの軸方向外端が、前記ハブの外周端部および前記マス部材の内周端部における軸方向端面に対して、同一平面上乃至は軸方向内側に位置しているものである。
【0012】
第2の態様によれば、環状連結ゴムの軸方向寸法が小さく設定されて、環状連結ゴムの軸方向外端がハブやマス部材の軸方向端面と同じ平面上かそれよりも軸方向内側に位置してハブやマス部材によって拘束されていても、環状連結ゴムの軸方向端面の形状によってシワの発生を抑えることができる。
【0013】
本発明の第3の態様は、第1又は第2の態様に記載されたトーショナルダンパにおいて、前記ハブの外周面と前記マス部材の内周面における前記環状連結ゴムの圧入面が、何れも軸方向両端部分において軸方向に延びる円筒形状とされているものである。
【0014】
第3の態様によれば、環状連結ゴムにおいてハブとマス部材によって径方向で圧縮される領域が、優れたスペース効率で確保されることから、環状連結ゴムに加えてハブやマス部材も軸方向での小型化が図られる。しかも、環状連結ゴムの軸方向端面の形状が工夫されていることによって、環状連結ゴムの軸方向端部が円筒形状とされたハブの外周面およびマス部材の内周面で拘束されていても、シワの発生が防止されて耐久性が確保される。
【0015】
本発明の第4の態様は、第1〜第3の何れか1つの態様に記載されたトーショナルダンパにおいて、圧入前の前記環状連結ゴムにおける前記中間円弧状面の軸方向外端が、前記内周円弧状面の軸方向外端および該外周円弧状面の軸方向外端に対して、軸方向外側に0.5mm以上の大きさで突出しているものである。
【0016】
第4の態様によれば、環状連結ゴムの圧入時に内周円弧状面および外周円弧状面から中間円弧状面に伝達される応力が、中間円弧状面を軸方向外方に押し出す方向で有効に作用する。それ故、環状連結ゴムの軸方向端面に凹状のシワが形成されるのを有利に防ぐことができて、優れた耐久性が実現される。
【0017】
本発明の第5の態様は、第1〜第4の何れか1つの態様に記載されたトーショナルダンパにおいて、前記環状連結ゴムの硬さが、JIS K 6253に準拠したタイプAデュロメータ硬さ試験でA60以上とされているものである。
【0018】
第5の態様によれば、環状連結ゴムが比較的に硬質のゴム材料で形成されていることから、目的とする防振特性を維持しつつ、厚肉の環状連結ゴムを採用して環状連結ゴムの耐久性を確保することが可能となる。しかも、環状連結ゴムの硬さを大きくすることで問題になり易い圧入時のシワは、環状連結ゴムの軸方向端面の形状を工夫することによって、有効に防止される。
【0019】
本発明の第6の態様は、第1〜第5の何れか1つの態様に記載されたトーショナルダンパにおいて、前記環状連結ゴムが前記ハブと前記マス部材の間で径方向に30%以上の圧縮率で圧縮されているものである。
【0020】
第6の態様によれば、環状連結ゴムの径方向での圧縮率を大きく設定することによって、環状連結ゴムの軸方向への抜けが防止される。特に、耐久性を向上させるために厚肉の環状連結ゴムを採用した場合にも、充分な抜けに対する抗力を確保することが可能となる。しかも、環状連結ゴムの軸方向端面の形状によって、環状連結ゴムが大きく圧縮される場合にも、環状連結ゴムの軸方向端面に対するシワの形成が防止されて、環状連結ゴムの耐久性が確保される。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、環状連結ゴムの軸方向端面が、内周円弧状面および外周円弧状面が中間円弧状面に対して、より大きな曲率半径で形成された内周中間面および外周中間面で連続的に繋がれている。更に、中間円弧状面の外端が内周円弧状面の外端および外周円弧状面の外端よりも軸方向外方に位置することで、環状連結ゴムの軸方向端面が全体として外方に凸の形状となっている。それ故、環状連結ゴムがハブとマス部材の間に圧入される際に、摩擦抵抗に起因した環状連結ゴムの弾性変形によって環状連結ゴムの軸方向端面にシワが生じるのを防ぐことができて、環状連結ゴムの耐久性の向上が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の1実施形態としてのダンパプーリを示す背面図。
図2図1のII−II断面図。
図3図1に示されたダンパプーリを構成する環状連結ゴムを単体で示す断面図。
図4図3の要部(A部)を拡大して示す要部拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0024】
図1図2には、本発明に従う構造とされたトーショナルダンパの1実施形態として、自動車用のダンパプーリ10が示されている。ダンパプーリ10は、略円板形状のハブ12に略円環形状のマス部材14が外挿されていると共に、それらハブ12とマス部材14の径方向間に環状連結ゴム16が圧入されて、それらハブ12とマス部材14が環状連結ゴム16によって弾性連結された構造を有している。なお、以下の説明において、軸方向とは原則として図2の左右方向を言う。
【0025】
より詳細には、ハブ12は、鉄やアルミニウム合金等の金属材料で形成された高剛性の部材であって、略円板形状を有している。また、ハブ12の中央部分には、軸方向に貫通する円形孔18が形成されており、図示しない内燃機関のクランクシャフトが挿通されるようになっている。また、ハブ12の外周端部には、軸方向で背面側に突出する筒状の狭圧部20が一体形成されており、その外周面の軸方向一方の端部が軸方向に延びる円筒形状とされていると共に、軸方向他方の端部が軸方向外側に向かって縮径するテーパ形状とされている。一方、狭圧部20の軸方向中央部分には、外周面に開口する溝状凹部22が形成されている。また、狭圧部20の外周面における溝状凹部22の軸方向両側には、軸方向に延びる略円筒形状の圧入面が設けられている。なお、ハブ12の径方向中間部分には、軸方向に貫通する4つの肉抜孔24が形成されており、ハブ12の軽量化が図られている。
【0026】
ハブ12には、マス部材14が外挿されている。マス部材14は、ハブ12と同様の金属材料で形成された高剛性の部材であって、略円環形状を有している。また、マス部材14の外周端部には4条のV溝26が形成されてそれぞれ外周面に開口しており、Vベルトが巻き掛けられるようになっている。また、マス部材14の内周面の軸方向一方の端部が軸方向に延びる円筒形状とされていると共に、軸方向他方の端部が軸方向外側に向かって拡径するテーパ形状とされている。一方、マス部材14の軸方向中央部分には、溝状凹部22と対応する形状で内周側に突出する凸条部28が一体形成されている。また、マス部材14の内周面における凸条部28の軸方向両側には、軸方向に延びる略円筒形状の圧入面が設けられている。
【0027】
そして、ハブ12とマス部材14は、径方向に所定の隙間を隔てて内外挿状態で配設されており、それらハブ12とマス部材14の間に形成された隙間に対して環状連結ゴム16が圧入配置されている。
【0028】
環状連結ゴム16は、図3に示されているように、略一定の断面形状で周方向環状に連続して延びるゴム弾性体であって、内周面および外周面が略円筒面とされている。また、環状連結ゴム16は、その断面の軸直角方向での幅寸法:Dがハブ12とマス部材14の間に形成された隙間の幅寸法:dよりも幅広とされており、ハブ12の狭圧部20とマス部材14との間に圧入されることで径方向に圧縮されるようになっている。なお、本実施形態では、ハブ12とマス部材14の径方向での離隔距離:dが従来のダンパプーリに比して大きく確保されており、環状連結ゴム16のゴムボリュームの増大による耐久性の向上が図られている。
【0029】
さらに、環状連結ゴム16は、その硬さがJIS K 6253に準拠したタイプAデュロメータ硬さ試験においてA60以上、より好適にはA65以上とされている。これにより、環状連結ゴム16の断面における幅寸法:Dを大きく確保しながら、目的とする防振特性(マス部材14をマス、環状連結ゴム16をばねとするマス−バネ系の共振周波数)を実現することが可能とされている。
【0030】
また、環状連結ゴム16の軸方向端面は、圧入前の単体状態において、軸方向外方に向かって凸の湾曲凸面30とされている。より詳細には、湾曲凸面30は、内周円弧状面32と外周円弧状面34を含んで構成されている。
【0031】
内周円弧状面32および外周円弧状面34は、図4に示された断面において外方に向かって凸で互いに略同じ曲率半径を有する円弧状の湾曲面であって、内周円弧状面32が環状連結ゴム16の軸方向端面の内周端部に設けられていると共に、外周円弧状面34が環状連結ゴム16の軸方向端面の外周端部に設けられている。
【0032】
さらに、内周円弧状面32と外周円弧状面34の間には、中間円弧状面36が設けられている。中間円弧状面36は、図4に示された断面において軸方向外方に向かって凸の円弧状湾曲面とされており、本実施形態では環状連結ゴム16の幅方向中央部分に設けられている。なお、本実施形態では中間円弧状面36の曲率半径が内周円弧状面32および外周円弧状面34の曲率半径よりも大きくされているが、特に限定されるものではなく、中間円弧状面36の曲率半径が内周円弧状面32の曲率半径および外周円弧状面34の曲率半径に比して同じか小さくされていても良い。
【0033】
また、中間円弧状面36と内周円弧状面32の間に内周中間面38が設けられていると共に、中間円弧状面36と外周円弧状面34の間に外周中間面40が設けられている。これら内周中間面38と外周中間面40は、何れも平面とされており、図4に示された環状連結ゴム16の断面において幅方向中央側に向かって軸方向外側に傾斜している。換言すれば、内周中間面38および外周中間面40の曲率半径が無限大とされており、それら内周中間面38および外周中間面40の曲率半径が、内周円弧状面32および外周円弧状面34の曲率半径と中間円弧状面36の曲率半径との何れよりも大きくされている。
【0034】
そして、中間円弧状面36と内周円弧状面32が内周中間面38によってなだらかに連続するように繋がれていると共に、中間円弧状面36と外周円弧状面34が外周中間面40によってなだらかに連続するように繋がれている。そこにおいて、単体の環状連結ゴム16において、内周中間面38および外周中間面40が中間円弧状面36との境界側に向かって軸方向外側に傾斜する平面で構成されて、中間円弧状面36の軸方向外端が内周円弧状面32の軸方向外端および外周円弧状面34の軸方向外端よりも軸方向で外方に位置している。図4に示された圧入前の環状連結ゴム16において、中間円弧状面36の外端は、内周円弧状面32および外周円弧状面34の外端に対して、0.5mm以上の大きさで軸方向外方に突出していることが望ましく、本実施形態では中間円弧状面36の外端と内周円弧状面32および外周円弧状面34の外端との距離:hが0.5mmとされている。
【0035】
このような軸方向端面(湾曲凸面30)を有する環状連結ゴム16は、図1図2に示されているように、ハブ12とマス部材14の径方向間に圧入されている。これにより、環状連結ゴム16が径方向で圧縮されており、環状連結ゴム16が軸方向に抜けることなく保持されると共に、ハブ12とマス部材14が環状連結ゴム16によって弾性連結されている。
【0036】
さらに、環状連結ゴム16の軸方向外端(中間円弧状面36の軸方向外端)は、ハブ12とマス部材14の径方向間に圧入された状態で、ハブ12の外周端部およびマス部材14の内周端部における軸方向端面に対して、軸方向外方に突出することなく、同一平面上乃至は軸方向内方に位置している。本実施形態では、環状連結ゴム16の軸方向外端が、ハブ12の外周端部の軸方向端面とマス部材14の内周端部の軸方向端面とに対して、略同一平面上に位置している。
【0037】
また、環状連結ゴム16は、圧入後の幅寸法:dが単体での幅寸法:Dに対する比(d/D)が70%未満とされており、圧縮率((D−d)/D)が30%以上、より好適には40%以上に設定されている。これにより、環状連結ゴム16がハブ12とマス部材14の径方向間で安定的に保持されて、それらハブ12とマス部材14の環状連結ゴム16による弾性連結が維持される。
【0038】
さらに、環状連結ゴム16は、ハブ12の外周面に開口する溝状凹部22と、マス部材14の内周面に突出形成された凸条部28との対向部分において、内周側に凸になるように屈曲変形している。これにより、環状連結ゴム16の屈曲部分が溝状凹部22および凸条部28に対して軸方向で当接して、環状連結ゴム16の軸方向での抜けが防止されている。
【0039】
本実施形態の環状連結ゴム16は、狭幅とされたハブ12とマス部材14の隙間に圧入される際に、圧入方向と反対側の軸方向端面にシワ状の変形が生じるのを防止されている。
【0040】
すなわち、従来では、環状連結ゴムがハブ12とマス部材14の間に圧入される際に、環状連結ゴムの幅方向の両端部がハブ12又はマス部材14との間で作用する摩擦抵抗によって中間部分よりも遅れて圧入される。これにより、環状連結ゴムの圧入方向と反対側の軸方向端面には、幅方向の中間部分にシワが生じてしまう場合があった。
【0041】
そこにおいて、本実施形態の環状連結ゴム16では、中間円弧状面36が内周円弧状面32および外周円弧状面34よりも軸方向外方に位置していると共に、中間円弧状面36と内周円弧状面32又は外周円弧状面34が、内周中間面38と外周中間面40を介して、凹部を有することなくなだらかに連続するように設けられている。これにより、圧入時の摩擦抵抗によって環状連結ゴム16の幅方向両端部が中間部分に対して遅れて圧入されても、幅方向両端部分が中間部分に比して圧入方向と反対側に持ち上がることによって生じるシワが低減されて、環状連結ゴム16の耐久性の向上が図られる。蓋し、摩擦抵抗によって環状連結ゴム16の幅方向両端部に作用する応力が、内周円弧状面32および外周円弧状面34から内周中間面38および外周中間面40を介して中間円弧状面36を軸方向外方に押し上げるように伝達されることにより、環状連結ゴム16の軸方向端面の凹状変形が防止されるからである。
【0042】
また、内周中間面38と外周中間面40は、中間円弧状面36、内周円弧状面32、外周円弧状面34の何れよりも大きな曲率半径で形成されている。これによって、中間円弧状面36と内周円弧状面32および外周円弧状面34が内周中間面38と外周中間面40を介してなだらかに繋がれて、湾曲凸面30が凹部を有することなく全体として外方に凸の湾曲面とされる。それ故、湾曲凸面30において応力の作用によるシワの形成が防止されて、環状連結ゴム16の耐久性が確保される。
【0043】
さらに、中間円弧状面36の軸方向外端が、内周円弧状面32の軸方向外端および外周円弧状面34の軸方向内端に対して、軸方向外側に0.5mm以上の大きさで外れて位置している。これにより、内周中間面38および外周中間面40の軸直角方向に対する傾斜角度が充分に大きくなって、圧入時に内周中間面38および外周中間面40におけるシワの発生が回避される。
【0044】
また、湾曲凸面30の形状によってシワが生じ難くされていることによって、シワが生じ易くなる硬質のゴム材料によって環状連結ゴム16を形成することが可能とされて、ゴムボリュームの確保による耐久性の向上を実現しつつ、マス−バネ系の共振周波数の変化を防ぐことが可能とされる。
【0045】
さらに、環状連結ゴム16がハブ12とマス部材14の径方向間で30%以上という大きな圧縮率で圧縮変形されていても、湾曲凸面30の形状によってシワが生じ難くなっており、環状連結ゴム16のゴムボリュームを確保して耐久性の向上を図りながら、環状連結ゴム16の抜けを防止することができる。
【0046】
また、環状連結ゴム16(中間円弧状面36)の軸方向外端が、ハブ12の外周端部の軸方向端面およびマス部材14の内周端部の軸方向端面の何れに対しても、同一平面上乃至はそれよりも軸方向内側に位置しており、環状連結ゴム16の軸方向寸法が小さくされている。特に、環状連結ゴム16の軸方向端面が湾曲凸面30とされることでシワを生じ難くなっていることによって、環状連結ゴム16の全体がハブ12とマス部材14の間に配置されて、環状連結ゴム16の軸方向端部付近まで径方向の圧縮が及ぼされていても、シワの発生が防止されて耐久性が確保される。
【0047】
さらに、環状連結ゴム16を軸方向端部付近までハブ12とマス部材14の間で圧縮してもシワの発生が問題になり難いことから、軸方向端部を軸方向外側に向かって拡開する形状とする等して環状連結ゴム16の軸方向端部の圧縮量を低減させる必要はない。それ故、ハブ12の外周面とマス部材14の内周面における環状連結ゴム16の圧入面の軸方向端部を軸方向に広がる円筒形状として、環状連結ゴム16におけるハブ12とマス部材14の間で圧縮される領域を効率的に得ることができる。これにより、環状連結ゴム16におけるハブ12とマス部材14を連結する部分の実質的な軸方向長さを、大きく確保することができる。
【0048】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、環状連結ゴム16の湾曲凸面30を構成する内周中間面と外周中間面は、何れも平面に限定されるものではなく、外方に向かって凸の湾曲面であっても良い。内周中間面や外周中間面が湾曲面で構成されている場合にも、それら内周中間面や外周中間面の曲率半径が中間円弧状面36、内周円弧状面32、外周円弧状面34の各曲率半径よりも大きくされる。
【0049】
また、中間円弧状面36は、必ずしも幅方向の中央に設けられていなくても良く、幅方向の何れか一方(内周側又は外周側)に偏って設けられていても良い。その場合には、内周中間面と外周中間面が互いに異なる形状とされる。
【0050】
また、前記実施形態では、本発明をVベルトが巻き掛けられるダンパプーリに適用した例が示されているが、本発明は、例えば、平ベルトが巻き掛けられるダンパプーリに対しても、好適に適用され得る。
【符号の説明】
【0051】
10:ダンパプーリ(トーショナルダンパ)、12:ハブ、14:マス部材、16:環状連結ゴム、30:湾曲凸面(環状連結ゴムの軸方向端面)、32:内周円弧状面、34:外周円弧状面、36:中間円弧状面、38:内周中間面、40:外周中間面
図1
図2
図3
図4