特許第5806988号(P5806988)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5806988
(24)【登録日】2015年9月11日
(45)【発行日】2015年11月10日
(54)【発明の名称】分離方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 11/04 20060101AFI20151021BHJP
   B01J 19/00 20060101ALI20151021BHJP
【FI】
   B01D11/04 A
   B01J19/00 321
【請求項の数】3
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-187631(P2012-187631)
(22)【出願日】2012年8月28日
(65)【公開番号】特開2014-42890(P2014-42890A)
(43)【公開日】2014年3月13日
【審査請求日】2014年9月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100109058
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 敏郎
(72)【発明者】
【氏名】松岡 亮
(72)【発明者】
【氏名】野一色 公二
【審査官】 團野 克也
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−143855(JP,A)
【文献】 特開平6−246104(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC B0D11/00−12/00
DB Thomson Innovation
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象流体から特定成分を溶出するための溶出部と、その溶出部に繋がるセトラーとを有する分離段が3段以上繋がるように構成された分離装置を用いて、前記対象流体から前記特定成分を分離する分離方法であって、
3段以上繋がった前記分離段のうちの1段目の分離段において、前記溶出部で前記対象流体に溶剤を接触させてその対象流体から溶剤へ前記特定成分を溶出させた後、その溶出部から導出した流体を前記特定成分が溶けた前記溶剤である溶出流体と前記特定成分の濃度が低下した前記対象流体である溶残流体とに前記セトラーで分離し、2段目以降の前記各分離段の前記溶出部において、1つ前の前記分離段の前記セトラーで分離された溶残流体に溶剤を接触させてその溶残流体から溶剤へ前記特定成分を溶出させ、当該溶出部から導出した流体をその分離段の前記セトラーで溶出流体と溶残流体とに分離し、
3段以上繋がった前記分離段のうち前記溶残流体の流れ方向における最後の分離段の前記溶出部に、1つ前の前記分離段から供給される溶残流体中の前記特定成分の濃度を目標値まで低下させるのに必要な溶剤の理論量よりも多量の溶剤を供給し、
前記最後の分離段の前記セトラーで分離した溶出流体を当該最後の分離段の前段である複数の前記分離段から選択した2つ以上の分離段に分配し、その溶出流体を分配した各分離段の前記溶出部において、その分配した溶出流体を溶剤として用いる、分離方法。
【請求項2】
前記溶出部として流体を連続的に流す流路を用い、前記1段目の分離段では、その分離段の前記溶出部を構成する流路に前記対象流体と溶剤とを接触させた状態で流しながらその対象流体から溶剤へ前記特定成分を溶出させ、前記2段目以降の各分離段では、その分離段の前記溶出部を構成する流路に1つ前の分離段の前記セトラーで分離した溶残流体と溶剤とを流しながらその溶残流体から溶剤へ前記特定成分を溶出させる、請求項1に記載の分離方法。
【請求項3】
前記各分離段の前記溶出部を構成する前記流路として、マイクロチャネルを用いる、請求項2に記載の分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定成分を含む対象流体から溶剤へ前記特定成分を溶かすことによって特定成分を対象流体から分離する分離方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、対象流体から特定成分を分離するための種々の分離方法が知られており、その分離方法の一例が下記非特許文献1に示されている。
【0003】
具体的には、下記非特許文献1では、分離方法の一例として、対象流体である原液から溶剤によって目的成分を抽出する抽出方法が開示されている。この非特許文献1に開示されている抽出方法は、ミキサー(攪拌槽)とセトラーを有する複数の抽出段が順番に繋げられた抽出装置を用いて抽出操作を繰り返し行う多段抽出である。詳しくは、この抽出方法では、1段目の抽出段のミキサーにおいて原液と溶剤を攪拌混合して抽出を行い、その原液と溶剤との混合液を当該1段目の抽出段のセトラーに導入してそのセトラー内で目的成分が溶けた溶剤からなる抽出液と目的成分の濃度が低下した残りの液体である抽残液とに比重差によって分離させる。次に、1段目のセトラーで分離させた抽残液を、2段目の抽出段のミキサーに導入するとともに、そのミキサーに新たな溶剤を導入して攪拌混合し、再度抽出を行う。この2段目のミキサーで混合した混合液を、2段目の分離段のセトラーに導入して1段目と同様に抽出液と抽残液に分離させる。このようなミキサーによる攪拌混合と、セトラーによる分離とを最後の分離段に至るまで繰り返し行う。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「そこが知りたい化学の話「分離技術」」 日刊工業新聞社 2008年6月28日 初版1刷発行 103ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記方法では、原液の供給流量が増加したり、前段の抽出段において何らかの要因により前記特定成分の抽出率が低下したりした場合には、溶剤量の著しい増加を避けながら、最後の抽出段での抽残液における前記特定成分の濃度を確実に目標値以下に低下させることは困難である。
【0006】
具体的には、原液の供給流量の増加や、前段の抽出段での前記特定成分の抽出率の低下にかかわらず、最後の抽出段での抽残液における前記特定成分の濃度を目標値以下にする手段として、最後の抽出段のミキサーに供給する新たな溶剤の量を増やすことが考えられる。しかしながら、上記方法では、最後の分離段よりも前段の各分離段のミキサーにそれぞれ新たな溶剤を供給しているため、全体としての溶剤の使用量が比較的多く、その上、さらに最後の抽出段のミキサーに供給する溶剤量を増やすと、全体での溶剤の使用量が多くなりすぎ、コスト面で不利になる。従って、上記方法では、最後の抽出段での抽残液における前記特定成分の濃度を確実に目標値以下にすることと、全体での溶剤の使用量を削減することとを両立することは困難である。
【0007】
この発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、対象流体中の分離対象の特定成分の最終的な濃度を確実に目標値以下に低下させつつ、全体での溶剤の使用量を削減することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、この発明による分離方法は、対象流体から特定成分を溶出するための溶出部と、その溶出部に繋がるセトラーとを有する分離段が3段以上繋がるように構成された分離装置を用いて、前記対象流体から前記特定成分を分離する分離方法であって、3段以上繋がった前記分離段のうちの1段目の分離段において、前記溶出部で前記対象流体に溶剤を接触させてその対象流体から溶剤へ前記特定成分を溶出させた後、その溶出部から導出した流体を前記特定成分が溶けた前記溶剤である溶出流体と前記特定成分の濃度が低下した前記対象流体である溶残流体とに前記セトラーで分離し、2段目以降の前記各分離段の前記溶出部において、1つ前の前記分離段の前記セトラーで分離された溶残流体に溶剤を接触させてその溶残流体から溶剤へ前記特定成分を溶出させ、当該溶出部から導出した流体をその分離段の前記セトラーで溶出流体と溶残流体とに分離し、3段以上繋がった前記分離段のうち前記溶残流体の流れ方向における最後の分離段の前記溶出部に、1つ前の前記分離段から供給される溶残流体中の前記特定成分の濃度を目標値まで低下させるのに必要な溶剤の理論量よりも多量の溶剤を供給し、前記最後の分離段の前記セトラーで分離した溶出流体を当該最後の分離段の前段である複数の前記分離段から選択した2つ以上の分離段に分配し、その溶出流体を分配した各分離段の前記溶出部において、その分配した溶出流体を溶剤として用いる。
【0009】
この分離方法では、前記最後の分離段の溶出部に1つ前の分離段から供給される溶残流体中の特定成分の濃度を目標値まで低下させるのに必要な溶剤の理論量よりも多量の溶剤を供給するため、この最後の分離段で生じる溶出流体に占める溶媒の割合が多くなり、当該溶出流体中の前記特定成分の濃度は低くなる。また、最後の分離段には、それよりも前の各分離段で段階的に前記特定成分が溶出されて当該特定成分の濃度がかなり低くなった溶残流体が供給されるため、当該最後の分離段の溶出部においてその溶残流体から溶剤へ溶出する特定成分の量は元々少ない。これらの理由から、最後の分離段で生じる溶出流体中の前記特定成分の濃度は、非常に低くなる。このため、この最後の分離段で生じる溶出流体は、前記特定成分の濃度が比較的高い前段で対象流体又は溶残流体から前記特定成分を溶出させるのに必要十分な溶出能力を有しており、当該分離方法では、その最後の分離段で生じる溶出流体を前段の複数の分離段から選択された2つ以上の分離段に分配して、それらの各分離段の溶出部で分配された溶出流体を溶剤として用いている。これにより、最後の分離段で生じる溶出流体を分配する前段の各分離段で対象流体又は溶残流体の特定成分の濃度を必要十分な値まで低下させつつ、最後の分離段で生じる溶出流体を前段で溶剤として再利用して全体での溶剤の使用量を削減することができる。しかも、この分離方法では、上記のように最後の分離段の溶出部に1つ前の分離段から供給される溶残流体中の特定成分の濃度を目標値まで低下させるのに必要な溶剤の理論量よりも多量の溶剤を供給するため、対象流体の供給流量が増加して最後の分離段の溶出部で溶出処理する流体の処理量が増加した場合でも、その流体を前記多量の溶剤で十分に溶出処理して最終的な対象流体(溶残流体)中の前記特定成分の濃度を目標値以下に低下させることができ、また、前段の分離段での前記特定成分の溶出率が低下して最後の分離段の溶出部に供給される溶残流体中の特定成分の濃度が増加した場合でも、その溶残流体を前記多量の溶剤で溶出処理して最終的な対象流体(溶残流体)中の前記特定成分の濃度を目標値以下に低下させることができる。従って、この分離方法では、対象流体中の前記特定成分の最終的な濃度を確実に目標値以下に低下させつつ、全体での溶剤の使用量を削減することができる。
【0010】
上記分離方法において、前記溶出部として流体を連続的に流す流路を用い、前記1段目の分離段では、その分離段の前記溶出部を構成する流路に前記対象流体と溶剤とを接触させた状態で流しながらその対象流体から溶剤へ前記特定成分を溶出させ、前記2段目以降の各分離段では、その分離段の前記溶出部を構成する流路に1つ前の分離段の前記セトラーで分離した溶残流体と溶剤とを流しながらその溶残流体から溶剤へ前記特定成分を溶出させることが好ましい。
【0011】
この構成によれば、対象流体の連続処理が可能になるので、対象流体の処理効率を向上することができる。
【0012】
この場合において、前記各分離段の前記溶出部を構成する前記流路として、マイクロチャネルを用いることが好ましい。
【0013】
この構成によれば、各分離段の溶出部を構成するマイクロチャネル内で対象流体と溶剤の単位体積当たりにおける接触面積又は溶残流体と溶剤の単位体積当たりにおける接触面積を増やしながら対象流体と溶剤との合流流体又は溶残流体と溶剤との合流流体を流すことができるので、前記特定成分の良好な溶出効率(分離効率)を得ることができる。また、マイクロチャネルでは、対象流体(溶残流体)と溶剤とをスラグ流又は二層流の状態で流すことができるため、対象流体と溶剤とが積極的に混合されることがなく、両者の合流流体はエマルション化しない。このため、例えばミキサーにおいて対象流体(溶残流体)と溶剤とを積極的に攪拌混合する場合に比べて、マイクロチャネルから出た後の合流流体をセトラーで溶出流体と溶残流体とに分離させやすい。このため、セトラーでの分離のために必要な流体の滞留時間を短縮することができ、対象流体の連続処理の効率をより向上することができる。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明によれば、対象流体中の分離対象の特定成分の最終的な濃度を確実に目標値以下に低下させつつ、全体での溶剤の使用量を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態による抽出方法に用いる抽出装置の構成を示す模式図である。
図2】本発明の一実施形態の比較例による抽出方法に用いる抽出装置の構成を示す模式図である。
図3】溶剤比と抽出率との相関関係の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
【0017】
本発明による分離方法には、様々な形態のものが含まれるが、本実施形態では、その分離方法の一例として、対象流体から溶剤へ特定成分を溶出させることによってその特定成分を対象流体から抽出する抽出方法について説明する。
【0018】
本実施形態による抽出方法では、図1に示すような構成の抽出装置を用いて抽出を行う。この抽出装置は、本発明の「分離装置」の概念に含まれるものである。この抽出装置は、順番に繋がる第1抽出段1、第2抽出段2及び第3抽出段3を備えている。なお、これらの抽出段1,2,3は、本発明の「分離段」の概念に含まれるものである。
【0019】
第1抽出段1は、第1マイクロチャネル6と、第1セトラー8とを有している。
【0020】
第1マイクロチャネル6は、数mm以下の相当直径を有する微細流路であり、特定成分を含む対象流体として原液と溶剤とを互いに接触させながら下流側へ流し、その状態で原液から溶剤へ特定成分を溶出させるものである。この第1マイクロチャネル6は、供給された原液と溶剤をその内部で合流させるように構成されている。なお、この第1マイクロチャネル6では、溶剤として、後述するように第3抽出段3で生じる抽出液を用いるようになっている。第1マイクロチャネル6の入口側には、第1供給ポンプ2が配管を介して接続されている。第1供給ポンプ2と第1マイクロチャネル6とを繋ぐ配管には、第1流量計4が設けられている。第1流量計4は、第1供給ポンプ2から第1マイクロチャネル6へ供給(吐出)される原液の流量を検出するものである。
【0021】
第1セトラー8は、第1マイクロチャネル6の下流側(出口側)に繋がっており、第1マイクロチャネル6から導出された流体を比重差により抽出液と抽残液とに分離するための分離槽である。なお、抽出液は、原液(対象流体)から溶出した前記特定成分が溶けた溶剤であり、本発明の「溶出流体」の概念に含まれる。また、抽残液は、特定成分が溶出されてその特定成分の濃度が低下した原液(対象流体)であり、本発明の「溶残流体」の概念に含まれる。
【0022】
第1セトラー8には、第1上側導出路10と第1下側導出路11とが接続されている。第1上側導出路10は、第1セトラー8の上部に接続されており、第1下側導出路11は、第1セトラー8に対する第1上側導出路10の接続部よりも下側の位置で第1セトラー8に接続されている。第1セトラー8では、抽出液と抽残液とのうち比重が小さい方の流体である軽質流体が上側に浮かび、比重が大きい方の流体である重質流体が下側に沈む。このため、第1上側導出路10には、第1セトラー8から軽質流体が導出され、第1下側導出路11には、第1セトラー8から重質流体が導出されるようになっている。本実施形態では、抽残液が軽質流体となり、抽出液が重質流体となることを前提として装置が構成されている。第1上側導出路10には、第1セトラー8から当該第1上側導出路10に導出される抽残液の流量を制御するための第1上側バルブ12が設けられている。
【0023】
第2抽出段2は、第2マイクロチャネル16と、第2セトラー18とを有している。
【0024】
第2マイクロチャネル16の入口側には、第1上側導出路10の下流側の端部が接続されている。第2マイクロチャネル16には、前記第1セトラー8で分離された抽残液が第1上側導出路10を通じて導入されるようになっている。第2マイクロチャネル16のこれ以外の構成は、第1マイクロチャネル6の構成と同様である。また、第2セトラー18の構成は、第1セトラー8の構成と同様である。第2セトラー18には、第2上側導出路20と第2下側導出路21とが接続されており、第2上側導出路20には、第2上側バルブ22が設けられている。第2上側導出路20、第2下側導出路21及び第2上側バルブ22に係る構成は、上記第1上側導出路10、第1下側導出路11及び第1上側バルブ12に係る上記構成と同様である。
【0025】
第3抽出段3は、第3マイクロチャネル26と、第3セトラー28とを有している。
【0026】
第3マイクロチャネル26の入口側には、第2上側導出路20の下流側の端部が接続されているとともに、第2供給ポンプ24が配管を介して接続されている。第3マイクロチャネル26には、第2セトラー18で分離された抽残液が第2上側導出路20を通じて導入されるようになっている。また、第2供給ポンプ24は、第3マイクロチャネル26に溶剤(抽剤)を供給するためのものであり、この第2供給ポンプ24と第3マイクロチャネル26とを繋ぐ配管には、第2供給ポンプ24から第3マイクロチャネル26へ供給される溶剤の流量を検出するための第2流量計25が設けられている。本実施形態では、対象流体の流れ方向において最後の抽出段である当該第3抽出段3の第3マイクロチャネル26にのみ、新規な溶剤が供給されるようになっている。第3マイクロチャネル26の上記以外の構成は、上記第2マイクロチャネル16に係る構成と同様である。また、第3セトラー28の構成は、第2セトラー18の構成と同様である。第3セトラー28には、上記第2上側導出路20と同様の第3上側導出路30が接続されており、その第3上側導出路30には、上記第2上側バルブ22と同様の第3上側バルブ32が設けられている。
【0027】
また、第3セトラー28には、第3下側導出路31が第3セトラー28に対する第3上側導出路30の接続部よりも下側の位置で接続されている。第3下側導出路31は、第3セトラー28に接続されている上流側接続路31aと、その上流側接続路31aの下流側の端部に繋がって分岐した第1分岐路31b及び第2分岐路31cとによって構成されている。第1分岐路31bは、第1抽出段1の第1マイクロチャネル6の入口側に接続されており、第2分岐路31cは、第2抽出段2の第2マイクロチャネル16の入口側に接続されている。上流側接続路31aには、戻し用ポンプ34が設けられており、第1分岐路31bには、第3流量計36が設けられ、第2分岐路31cには、第4流量計38及び分配流量制御バルブ40が設けられている。
【0028】
戻し用ポンプ34は、第3セトラー28から上流側接続路31aに導出される抽出液を第1分岐路31b及び第2分岐路31cを通じて第1マイクロチャネル6及び第2マイクロチャネル16へ送出するものである。第3流量計36は、第1分岐路31bを通じて第1マイクロチャネル6へ供給される抽出液の流量を検出するものである。第4流量計38は、第2分岐路31cを通じて第2マイクロチャネル16へ供給される抽出液の流量を検出するものである。分配流量制御バルブ40は、第2分岐路31cを通じて第2マイクロチャネル16に導入される第3セトラー28からの抽出液の流量を制御し、それによって、第3セトラー28からの抽出液のうち第2マイクロチャネル16への分配量と第1マイクロチャネル6への分配量を制御するものである。
【0029】
第3下側導出路31が上記のように構成されていることによって、第3セトラー28で分離された溶出流体は、第1抽出段1の第1マイクロチャネル6と第2抽出段2の第2マイクロチャネル16とに分配されるようになっている。
【0030】
次に、以上のような抽出装置を用いた本実施形態による抽出方法について、以下、具体的に説明する。
【0031】
本実施形態による抽出方法では、まず、第1供給ポンプ2が第1マイクロチャネル6に抽出対象の特定成分を含む原液(対象流体)を供給し、第2供給ポンプ24が第3マイクロチャネル26に溶剤(抽剤)を供給する。原液としては、例えば、抽出対象の特定成分としてのフェノールを含むドデカン等の有機溶媒等を用い、溶剤としては、例えば、水等を用いる。
【0032】
第1マイクロチャネル6に供給された原液は、そのまま第1マイクロチャネル6を下流側に流れて第1セトラー8に導入され、その第1セトラー8から第1上側導出路10、第2マイクロチャネル16、第2セトラー18及び第2上側導出路20を通って第3マイクロチャネル26に導入される。そして、第3マイクロチャネル26に導入された原液と第2供給ポンプ24から第3マイクロチャネル26に供給された溶剤とが、第3マイクロチャネル26内で合流され、その合流した原液と溶剤が当該第3マイクロチャネル26内をスラグ流又は二層流の状態で互いに接触しながら下流側へ流れる。原液と溶剤がスラグ流又は二層流の状態で第3マイクロチャネル26内を下流側へ流れる過程において、原液と溶剤との間の界面を介して原液から溶剤へ抽出対象の特定成分が溶出し、その特定成分の抽出が行われる。これにより、原液中の前記特定成分の濃度は、溶剤にその特定成分が抽出された分だけ低下する。
【0033】
その後、特定成分を抽出した溶剤からなる抽出液と、その特定成分の濃度が低下した原液からなる抽残液とが、第3マイクロチャネル26の出口から排出されて第3セトラー28に導入される。第3セトラー28に導入された液体は、比重差によって、軽質流体である抽残液と重質流体である抽出液とに分離され、この第3セトラー28内で抽残液が上側へ浮き、抽出液が下側へ沈む。
【0034】
次に、第3セトラー28から抽残液が第3上側導出路30に導出されるとともに抽出液が第3下側導出路31の上流側接続路31aに導出される。この上流側接続路31aに導出された抽出液は、戻し用ポンプ34によって送出されて第1分岐路31bと第2分岐路31cを通じて第1マイクロチャネル6と第2マイクロチャネル16とに分配される。この際、分配流量制御バルブ40により第1マイクロチャネル6と第2マイクロチャネル16とに所定の流量比で抽出液が分配されるようにする。
【0035】
第1マイクロチャネル6には、第1供給ポンプ2によって原液が供給されているので、その原液に前記分配された抽出液が合流され、その抽出液を溶剤として当該第1マイクロチャネル6内で原液から前記特定成分が溶出される。ここでの溶出は、上記第3マイクロチャネル26での溶出と同様に行われる。
【0036】
その後、特定成分の濃度が低下した原液からなる抽残液と、特定成分が溶けて特定成分の濃度が増加した抽出液とが第1マイクロチャネル6の出口から排出されて第1セトラー8に導入される。第1セトラー8に導入された抽出液と抽残液との合流流体は、上記第3セトラー28での分離と同様にして、抽残液と抽出液とに分離される。この分離された抽残液は、第1上側導出路10を通じて第2マイクロチャネル16に導入され、抽出液は、第1下側導出路11を通じて排出される。
【0037】
第2マイクロチャネル16では、始めは、第1マイクロチャネル6の場合と同様に、原液と第2分岐路31cから導入された抽出液とが合流され、その抽出液を溶剤として原液から前記特定成分が溶出されるが、第1抽出段1で原液からの特定成分の溶出(抽出)が行われてその第1抽出段1から第2マイクロチャネル16に導入される液体が抽残液になると、その抽残液から当該第2マイクロチャネル16に導入される抽出液への溶出が行われる。そして、第2マイクロチャネル16からさらに特定成分の濃度が低下した抽残液と特定成分の濃度が増加した抽出液とが排出されて第2セトラー18に導入され、第1セトラー8の場合と同様に抽残液と抽出液に分離される。第2セトラー18から、抽残液は、第2上側導出路20を通じて第3マイクロチャネル26に導入され、抽出液は、第2下側導出路21を通じて排出される。
【0038】
第3マイクロチャネル26では、第2上側導出路20を通じて導入された抽残液と第2供給ポンプ24から供給される溶剤とが合流されて第1マイクロチャネル6及び第2マイクロチャネル16の場合と同様に溶出が行われる。ここで、第2供給ポンプ24から第3マイクロチャネル26には、当該第3マイクロチャネル26に導入される抽残液中の特定成分の濃度を目標値まで低下させるのに必要な溶剤の理論量よりも多量の溶剤を供給する。
【0039】
具体的には、図3に示すような、対象流体に対する溶剤の体積比である溶剤比とその溶剤によって対象流体からの特定成分の抽出を行った場合に得られる抽出率との相関関係を予め求めておく。なお、図3は、溶剤比と抽出率との相関関係の一例である。そして、対象流体中の特定成分の濃度を目標値まで低下させるのに必要な抽出率を算出し、その算出した抽出率を得るのに必要な溶剤比を図3の相関関係から算出し、その算出した溶剤比から上記溶剤の理論量を算出する。対象流体中の特定成分の濃度が図3に示す各濃度(0.01wt%、0.1wt%、0.5wt%)間の値である場合には、溶剤比を求める際に前記各濃度に対応する相関曲線から内挿法により溶剤比を算出する。そして、第2供給ポンプ24から第3マイクロチャネル26へは、このようにして算出した溶剤の理論量よりも多量の溶剤を単位時間当たりに供給させる。
【0040】
以上のような第3マイクロチャネル26での溶出により抽残液中の特定成分の濃度は、目標値よりも低下し、その抽残液と抽出液との合流流体が第3セトラー28に導入される。第3セトラー28では、抽残液と抽出液との分離が行われ、その分離された抽残液は第3上側導出路30を通じて最終の抽残液として排出され、分離された抽出液は第3下側導出路31を通じて第1抽出段1の第1マイクロチャネル6と第2抽出段2の第2マイクロチャネル16とに所定の流量比で分配される。
【0041】
以上のようにして、本実施形態による抽出方法が行われる。
【0042】
本実施形態では、最後の抽出段である第3抽出段3の第3マイクロチャネル26にその1つ前の第2抽出段2から供給される抽残液中の特定成分の濃度を目標値まで低下させるのに必要な溶剤の理論量よりも多量の溶剤を供給するため、この最後の第3抽出段3で生じる抽出液に占める溶媒の割合が多くなり、当該抽出液中の前記特定成分の濃度は低くなる。また、最後の第3抽出段3の第3マイクロチャネル26には、それよりも前の第1抽出段1と第2抽出段2で段階的に前記特定成分が溶出されて当該特定成分の濃度がかなり低くなった抽残液が供給されるため、当該最後の第3抽出段3の第3マイクロチャネル26において、供給される抽残液から溶剤へ溶出する特定成分の量は元々少ない。これらの理由から、最後の第3抽出段3で生じる抽出液中の前記特定成分の濃度は、非常に低くなる。このため、最後の第3抽出段3で生じる抽出液は、前記特定成分の濃度が比較的高い第1抽出段1における原液及び第2抽出段2における第1抽出段1からの抽残液から前記特定成分を溶出させるのに必要十分な溶出能力を有している。そして、本実施形態では、最後の第3抽出段3で生じる抽出液を前段の第1抽出段1と第2抽出段2とに分配して、それらの各抽出段1,2のマイクロチャネル6,16で分配された抽出液を溶剤として用いている。これにより、最後の第3抽出段3で生じる抽出液を分配する第1抽出段1及び第2抽出段2で原液又は抽残液の特定成分の濃度を必要十分な値まで低下させつつ、最後の第3抽出段3で生じる抽出液を第1抽出段1及び第2抽出段2で溶剤として再利用して全体での溶剤の使用量を削減することができる。
【0043】
一般的には、多段抽出方法として、図2に示すような構成の抽出装置を用いて、第1〜第3抽出段1〜3の各マイクロチャネル6,16,26にそれぞれ新規な溶剤を供給してその各マイクロチャネル6,16,26で新規な溶剤により特定成分の溶出を行うような抽出方法も考えられる。具体的には、この抽出装置では、溶剤供給用の第2供給ポンプ24に接続された配管50が分岐して第1〜第3マイクロチャネル1〜3にそれぞれ接続されている。第1マイクロチャネル6に接続された配管50の分岐路50aには、第2流量計52が設けられ、第2マイクロチャネル16に接続された配管50の分岐路50bには、第3流量計53及び第1流量制御バルブ55が設けられ、第3マイクロチャネル26に接続された配管50の分岐路50cには、第4流量計54及び第2流量制御バルブ56が設けられている。この抽出方法では、第1流量制御バルブ55により第2マイクロチャネル16に供給する溶剤の流量を制御するとともに第2流量制御バルブ56により第3マイクロチャネル26に供給する溶剤の流量を制御し、それらの流量制御によって第1マイクロチャネル6に供給する残りの溶剤の流量を制御する。この抽出方法では、各抽出段1〜3のマイクロチャネル6にそれぞれ新規な溶剤を供給するため、全体での溶剤の使用量が増大する。
【0044】
これに対して、本実施形態では、第3抽出段3の第3マイクロチャネル26にのみ新規な溶剤を供給し、その第3マイクロチャネル26で生じる抽出液を上記のように第1抽出段1の第1マイクロチャネル6及び第2抽出段2の第2マイクロチャネル16で溶剤として再利用するため、図2に示した抽出装置を用いた抽出方法に比べて全体としての溶剤の使用量を削減することが可能である。
【0045】
また、本実施形態では、上記のように最後の抽出段である第3抽出段3の第3マイクロチャネル26にその1つ前の第2抽出段2から供給される抽残液中の特定成分の濃度を目標値まで低下させるのに必要な溶剤の理論量よりも多量の溶剤を供給するため、原液の供給流量が増加して第3抽出段3の第3マイクロチャネル26で溶出処理する液体の処理量が増加した場合でも、その液体を前記多量の溶剤で十分に溶出処理して最終的な抽残液中の前記特定成分の濃度を目標値以下に低下させることができ、また、第1抽出段1及び/又は第2抽出段2での前記特定成分の抽出率(溶出率)が低下して第3抽出段3の第3マイクロチャネル26に供給される抽残液中の特定成分の濃度が増加した場合でも、その抽残液を前記多量の溶剤で溶出処理して最終的な抽残液中の前記特定成分の濃度を目標値以下に低下させることができる。従って、本実施形態では、最終的な抽残液中の前記特定成分の濃度を確実に目標値以下に低下させつつ、全体での溶剤の使用量を削減することができる。
【0046】
また、本実施形態では、各抽出段1,2,3で溶出(抽出)をおこなう溶出部として、流体を連続的に流しながら溶出(抽出)を行うマイクロチャネル6,16,26を用いているので、対象流体の連続処理が可能になり、対象流体の処理効率を向上することができる。
【0047】
また、本実施形態では、第1抽出段1の第1マイクロチャネル6に原液と溶剤としての第3抽出段3からの抽出液とを互いに接触させた状態で流し、第2抽出段2の第2マイクロチャネル16に第1抽出段1からの抽残液と溶剤としての第3抽出段3からの抽出液とを互いに接触させた状態で流し、第3抽出段3の第3マイクロチャネル26に第3抽出段2からの抽残液と新規な溶剤とを互いに接触させた状態で流すため、各抽出段1,2,3の微細な流路径を有するマイクロチャネル6,16,26内で対象流体と溶剤の単位体積当たりにおける接触面積を増やすことができる。このため、前記特定成分の良好な抽出効率(分離効率)を得ることができる。また、マイクロチャネル6,16,26では、対象流体と溶剤とをスラグ流又は二層流の状態で流すことができるため、対象流体と溶剤とが積極的に混合されることがなく、両者の合流流体はエマルション化しない。このため、例えばミキサーにおいて対象流体と溶剤とを積極的に攪拌混合する場合に比べて、マイクロチャネル6,16,26から出た後の合流流体をセトラー8,18,28で抽出液と抽残液とに分離させやすい。このため、セトラー8,18,28での分離のために必要な流体の滞留時間を短縮することができ、対象流体の連続処理の効率をより向上することができる。
【0048】
[実施例]
本実施形態による抽出方法の効果を調べるために行った実験結果に基づくシミュレーションの結果について以下説明する。なお、以下に説明する結果は、あくまで、設定した実験系及び条件下での結果であり、実験系及び/又は条件が変われば、それに応じて結果も変化するものである。
【0049】
まず、特定成分としてのフェノールを含むドデカンを対象流体(原液)とし、その対象流体から溶剤としての水によりフェノールを抽出するという実験系を対象にシミュレーションを行った。このシミュレーションの条件として、原液の処理流量が単位時間当たり0.5mであり、その原液中のフェノールの初期濃度が0.5wt%(重量パーセント)であり、最終的な抽残液中のフェノールの濃度が目標値0.0026wt%以下になるように対象流体からフェノールを抽出するという条件を設定した。そして、このような実験系及び条件下において、上記図2の抽出装置を用いた抽出方法を行った場合(ケース1)と、本実施形態による上記図1の抽出装置を用いた抽出方法を行った場合(ケース3及びケース4)とについてシミュレーションを行った。また、上記図2の抽出装置を用いた抽出方法としてケース1から溶剤の使用量を減らした場合(ケース2)についても同様のシミュレーションを行った。なお、ケース3とケース4では、最後の抽出段である第3抽出段3の第3マイクロチャネル26に供給する溶剤の量をそれぞれ異なる量に設定した。これらのシミュレーションの結果が以下の表1に示されている。なお、この表1では、溶剤の供給量及び全体での溶剤の使用量(全抽出段での合計の使用量)として、単位時間当たりの量を示している。
【0050】
【表1】
【0051】
(ケース1)
このケース1では、上記図2の抽出装置を用いた抽出方法において、各抽出段1〜3のマイクロチャネル6,16,26に、対象流体(原液又は前段の抽残液)に対する溶剤比が0.5になるように単位時間当たり0.25mの流量で新規な溶剤をそれぞれ供給するように設定した。この場合には、最終の抽残液中のフェノールの濃度は、目標値である0.0026wt%まで低下し、全体での溶剤の使用量は、単位時間当たり0.75mになる。
【0052】
(ケース2)
このケース2では、上記図2の抽出装置を用いた抽出方法において、各抽出段1〜3のマイクロチャネル6,16,26に、対象流体(原液又は前段の抽残液)に対する溶剤比が0.3になるように単位時間当たり0.15mの流量で新規な溶剤をそれぞれ供給するように設定した。すなわち、このケース2では、ケース1に比べて各抽出段1〜3のマイクロチャネル6,16,26に供給する溶剤の量を減らしている。この場合には、全体での溶剤の使用量は、単位時間当たり0.45mになり、ケース1に比べて削減できるものの、最終の抽残液中のフェノールの濃度は、0.0075wt%になり、目標値(0.0026wt%)よりも高くなる。
【0053】
(ケース3)
このケース3では、本実施形態による上記図1の抽出装置を用いた抽出方法において、最後の抽出段である第3抽出段3の第3マイクロチャネル26に、対象流体(前段の抽残液)に対する溶剤比が0.66になるように単位時間当たり0.33mの流量で新規な溶剤を供給し、その第3抽出段3で生じる抽出液を第1抽出段1の第1マイクロチャネル6と第2抽出段2の第2マイクロチャネル16とにそれぞれ単位時間当たり0.17mの流量で分配している。このケース3では、最終の抽残液中のフェノールの濃度は、0.0026wt%になり、上記ケース1の場合と同様に目標値まで低下させることができるとともに、全体での溶剤の使用量は、単位時間当たり0.33mになり、ケース1に比べて格段に少ない使用量となる。このケース3における第3抽出段3の第3マイクロチャネル26への溶剤の供給量が、第3マイクロチャネル26に供給される対象流体中のフェノール(特定成分)の濃度を目標値まで低下させるのに必要な理論量の一例である。
【0054】
(ケース4)
このケース4では、本実施形態による上記図1の抽出装置を用いた抽出方法において、第3抽出段3の第3マイクロチャネル26に、対象流体(前段の抽残液)に対する溶剤比が0.8になるように単位時間当たり0.40mの流量で新規な溶剤を供給し、その第3抽出段3で生じる抽出液を第1抽出段1の第1マイクロチャネル6と第2抽出段2の第2マイクロチャネル16とにそれぞれ単位時間当たり0.20mの流量で分配している。このケース4は、本実施形態による抽出方法の一例であり、第3マイクロチャネル26への溶剤の供給量は、前記理論量よりも多量となっている。当該ケース4では、最終の抽残液中のフェノールの濃度が0.0015wt%になり、目標値の0.0026wt%よりも低下させることができる。また、このケース4では、全体での溶剤の使用量が単位時間当たり0.40mになる。すなわち、このケース4では、全体での溶剤の使用量がケース3に比べて僅かに多くなるものの、ケース1に比べて全体での溶剤の使用量を格段に削減することができ、なおかつ、最終の抽残液中のフェノールの濃度を目標値よりも大きく低下させることができる。
【0055】
次に、本実施形態による図1の抽出装置を用いた抽出方法において、最後の抽出段である第3抽出段3で生じた抽出液を第1抽出段1の第1マイクロチャネル6と第2抽出段2の第2マイクロチャネル16とに分配する比率を変えてシミュレーションを行った結果について説明する。このシミュレーションでは、実験系及び条件は上記のシミュレーションと同様であり、第3抽出段3の第3マイクロチャネル26に供給する新規な溶剤の供給量は、上記ケース4と同様の供給量(単位時間当たり0.40m)である。そして、このシミュレーションでは、第1マイクロチャネル6と第2マイクロチャネル16への抽出液の分配比率のみを第1例〜第5例でそれぞれ異なる比率に設定した。このシミュレーションの結果は、以下の表2に示されている。
【0056】
【表2】
【0057】
このシミュレーションの結果によれば、今回設定した実験系及び条件下においては、第3抽出段3で生じる抽出液を第1抽出段1の第1マイクロチャネル6に単位時間当たり0.27mの流量で分配するとともに第2抽出段2の第2マイクロチャネル16に単位時間当たり0.13mの流量で分配する第4例で、最終の抽残液中のフェノールの濃度が最も低い値(0.0014wt%)になり、この抽出液の分配比率で最も抽出効果を向上できることが判った。
【0058】
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0059】
例えば、上記実施形態では、対象流体及び溶剤が共に液体であるが、対象流体と溶剤の一方が、気体であってもよい。
【0060】
また、セトラーで分離される軽質流体が抽出液で重質流体が抽残液であってもよい。この場合には、前段のセトラーに繋がる下側導出路を後段のマイクロチャネルに接続して、前段のセトラーから下側導出路に導出された抽残液を後段のマイクロチャネルに導入するようにすればよく、最後の段のセトラーに繋がる上側導出路を分岐させて複数の前段のマイクロチャネルに接続し、最後の段のセトラーから上側導出路に導出される抽出液(軽質流体)を複数の前段の各マイクロチャネルに分配するようにすればよい。
【0061】
また、上記実施形態では、分離方法の一例としての抽出方法について説明したが、本発明はこのような抽出方法に限定されるものではない。分離方法の他の形態としては、例えば、対象流体から特定成分を溶剤に溶かして吸収する吸収方法が挙げられ、このような吸収方法にも本発明を適用することができ、上記実施形態の抽出装置と同様の構成の吸収装置を用いて当該吸収方法を実施することができる。この場合には、前記各抽出段がそれぞれ対象流体からの特定成分の吸収を行う吸収段となる。この吸収方法では、例えば、特定成分としてのCOを含む気体を対象流体として、その対象流体からCOを溶剤としての水に吸収させる。この場合には、特定成分(CO)を吸収した溶剤(水)が、重質流体となり、本発明の「溶出流体」の概念に含まれるものとなる。また、特定成分(CO)が吸収された後の対象流体としての気体が、軽質流体となり、本発明の「溶残流体」の概念に含まれるものとなる。
【0062】
また、本発明における溶出部は、マイクロチャネルに限定されない。すなわち、対象流体と溶剤とを接触させて対象流体から溶剤へ特定成分を溶出させ得るものであれば、本発明の溶出部として適用可能である。例えば、ミキサー等の攪拌層や、対象流体及び溶剤を連続的に流すマイクロチャネル以外の各種流路を本発明の溶出部として用いることが可能である。なお、このマイクロチャネル以外の流路としては、各種チューブ等によって形成される管路や、分離装置内に形成され、マイクロチャネルよりも大きな相当直径を有する流路等を用いることができるが、対象流体と溶剤とを分離性の良い状態で合流させた合流流体として流せるものを用いることが好ましい。
【0063】
また、分離段は、3段に限定されるものではなく、4段以上の分離段が順番に繋がるように構成された装置を用いて本発明による分離方法を行うことも可能である。上記実施形態では、最後の第3抽出段3の前段の第2抽出段2及び第3抽出段3が、本発明の「最後の分離段の前段である複数の分離段から選択した2つ以上の分離段」に相当するが、4段以上の分離段が設けられている場合には、最後の分離段の前段である1〜3段目の分離段の必ずしも全てに最後の分離段で生じる溶出流体を分配しなくてもよい。すなわち、それら前段の複数の分離段のうち最後の分離段で生じる溶出流体を分配しない分離段が存在してもよい。一例として、4段の分離段が設けられている場合には、1段目と2段目の分離段のみに最後の分離段(4段目の分離段)で生じる溶出流体を分配し、3段目の分離段にはその溶出流体を分配しない形態や、2段目と3段目の分離段のみに最後の分離段で生じる溶出流体を分配し、1段目の分離段にはその溶出流体を分配しない形態や、1段目と3段目の分離段のみに最後の分離段で生じる溶出流体を分配し、2段目の分離段にはその溶出流体を分配しない形態などを実施してもよい。なお、最後の分離段で生じる溶出流体を分配しない分離段には、新規な溶剤を供給したり、その分離段の次段で生じる溶出流体を供給したりしてもよい。
【0064】
また、最後の分離段から排出される溶出流体を前段の2つ以上の分離段へ分配供給するのに加えて、最後の分離段の1つ前の分離段から排出される溶出流体をさらに前段の分離段へ供給するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0065】
1 第1抽出段(分離段)
2 第2抽出段(分離段
3 第3抽出段(分離段)
6 第1マイクロチャネル(溶出部、流路)
8 第1セトラー
16 第2マイクロチャネル(溶出部、流路)
18 第2セトラー
26 第3マイクロチャネル(溶出部、流路)
28 第3セトラー
図1
図2
図3