(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について、具体的に説明する。
本発明の脱硫剤は、
炭化水素油中の硫黄分を除去するための脱硫工程で用いる脱硫剤であって、ニッケル、亜鉛及び硫黄分を含み、
脱硫剤総質量中、前記脱硫剤中に含まれる金属硫化物以外の硫黄分が0.2質量%以上、かつ前記脱硫剤に含まれる硫黄分中の金属硫化物の割合が25%以下であることを特徴とする。
【0013】
[脱硫剤]
本発明の脱硫剤はニッケル、亜鉛及び金属硫化物以外の硫黄分を含むものであり、例えば、共沈法によって亜鉛やニッケルなどの金属成分を沈殿させてろ過、洗浄し、成形、焼成等の工程を経ることによって得ることができる。
【0014】
脱硫剤総質量に対するニッケル含有量は、好ましくは1〜50質量%、より好ましくは1〜30質量%、さらに好ましくは3〜24質量%、特に好ましくは14〜24重量%である。また、脱硫剤総質量に対する亜鉛含有量は、好ましくは20〜80質量%であり、より好ましくは30〜80質量%、特に好ましくは40〜75質量%である。ニッケル含有量が50質量%を超えたり、亜鉛含有量が20質量%未満の場合、脱硫剤の寿命が短くなるため好ましくない。一方、ニッケル含有量が30質量%以下、亜鉛含有量が30質量%以上の場合、脱硫剤の寿命が長く、また、ニッケル含有量が24質量%以下、亜鉛含有量が40質量%以上の場合、脱硫剤の寿命が特に長くなる。なお、ニッケル及び亜鉛の総含有量は、脱硫剤の総質量に対して35〜85質量%、特には50〜85質量%の範囲が好ましい。
【0015】
本発明の脱硫剤は上記ニッケル及び亜鉛を酸化物として含有するのが望ましく、ニッケル、亜鉛及び酸素の総含有量は、脱硫剤の総質量に対して好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、更に好ましくは97質量%以上、特に好ましくは99質量%以上である。
【0016】
また、脱硫剤中のニッケル原子に対する亜鉛原子の質量比(Zn/Ni)は1〜15の範囲が好ましく、3〜12の範囲が更に好ましく、3〜8の範囲が特に好ましい。ニッケル原子に対する亜鉛原子の質量比(Zn/Ni)が1未満であると、脱硫剤の寿命が著しく短くなり好ましくなく、15を超えても脱硫剤の寿命が短くなり好ましくない。
【0017】
本発明の脱硫剤は、ニッケル及び亜鉛を酸化物として含有する場合、ニッケル酸化物の結晶子径が4.5nm以下、好ましくは4.0nm以下であり、また、亜鉛酸化物の結晶子径が12nm以下、好ましくは10nm以下である。ニッケル酸化物の結晶子径が4.5nmを超えると、ニッケルと炭化水素油との接触効率が低下して硫黄を取り込む能力が低下するため好ましくなく、一方、亜鉛酸化物の結晶子径が12nmを超えると、酸化亜鉛が硫黄を固定化する効率が低下するため好ましくない。また、ニッケル酸化物の結晶子径が4.0nm以下であれば、ニッケルと炭化水素油との接触効率が高いため硫黄を取り込む能力が特に高く、一方、亜鉛酸化物の結晶子径が10nm以下であれば、酸化亜鉛が硫黄を固定化する効率が特に高い。
【0018】
なお、亜鉛酸化物の結晶子径とニッケル酸化物の結晶子径との比は、2以上であることが好ましく、2.5以上であることがより好ましい。亜鉛酸化物の結晶子径とニッケル酸化物の結晶子径の比が2未満であると、ニッケルと炭化水素油との接触効率が低下して炭化水素油中の硫黄化合物を脱硫剤中に取り込む能力が低下すると同時に、亜鉛が硫黄を固定化する効率が低下するため好ましくない。
【0019】
本発明の脱硫剤は、更に硫黄分を含み、該脱硫剤に含まれる金属硫化物以外の硫黄分は、脱硫剤総質量100質量%中、0.2質量%以上、好ましくは0.3〜1.8質量%、より好ましくは0.4〜1.6質量%、さらに好ましくは0.4〜1.0質量%である。また該硫黄分は硫化ニッケルや硫化亜鉛等の金属硫化物以外のものであり、脱硫工程を経る前から本発明の脱硫剤に含まれている。すなわち、通常、ニッケルや亜鉛を含む脱硫剤を用いて脱硫工程を経ると、炭化水素油中の硫黄化合物が吸着・固定化されることによって、脱硫剤中に硫化ニッケルや硫化亜鉛の形態で含まれることとなるが、本発明の脱硫剤に含まれる硫黄分は、脱硫工程を経る前に含有されているもので、硫化ニッケル、硫化亜鉛とは相違する、金属硫化物以外の硫黄分である。該硫黄分を含むことにより、得られる脱硫剤の比表面積を飛躍的に高めることができ、脱硫剤の長寿命化を達成することが可能となる。上記脱硫剤に含まれる硫黄分が、脱硫剤総質量に対して0.2質量%未満であると、充分な比表面積を確保することができないおそれがあるため好ましくない。一方、脱硫剤に含まれる金属硫化物以外の硫黄分が必要以上に多くなりすぎると、ニッケルや亜鉛の含有量が必要以上に低下し、これらに起因する脱硫性能が阻害されるおそれがあるため、脱硫剤中の金属硫化物以外の硫黄分は好ましくは1.8質量%以下であり、より好ましくは1.6質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下である。
なお、ここでいう脱硫剤に含まれる金属硫化物以外の硫黄分については、以下の方法で求めることができる。まず、脱硫剤中に含まれる硫黄含有量(硫黄分)を酸素気流中燃焼−赤外線吸収法で測定し、次に脱硫剤に含まれる硫黄分中の金属硫化物の割合をXPS(光電子分光法)により後述する方法で求めた。そして、脱硫剤に含まれる金属硫化物以外の硫黄分を、(脱硫剤に含まれる金属硫化物以外の硫黄分)=(脱硫剤中に含まれる硫黄分)×(1−脱硫剤に含まれる硫黄分中の金属硫化物の割合(%)/100)として求めた。
【0020】
本発明の脱硫剤は、脱硫剤に含まれる硫黄分中の金属硫化物の割合が25%以下であり、好ましくは15%以下、より好ましくは5%以下、さらに好ましくは1%以下である。脱硫剤に含まれる硫黄分中の金属硫化物の割合が25%を超えると、脱硫剤に取り込むことができる硫黄分の量が減少し、脱硫剤の寿命が低下し好ましくない。
なお、脱硫剤に含まれる硫黄分中の金属硫化物の割合は、XPS(光電子分光法)を用いて後述する方法で求めたものである。
【0021】
なお、上記脱硫剤はニッケル、亜鉛、酸素及び硫黄以外の元素を更に含んでもよいが、脱硫剤の寿命の観点からは、ニッケル、亜鉛、酸素及び硫黄以外の元素の含有量は少ない方が好ましい。
【0022】
本発明の脱硫剤は、好適には酸性溶液としてニッケル及び亜鉛の硫酸塩を用いた共沈法により得られるが、この場合、上記硫黄分は主としてこれらの硫酸根(SO
42-)に起因するものと推定される。そして、こうした硫黄分が、沈殿、ろ過、洗浄、成形、焼成等の工程を経た後もなお特定の量の硫黄を含みつつ脱硫剤に残存することにより、脱硫剤の比表面積を高めるのに大きく寄与するものと考えられる。
【0023】
本発明の脱硫剤は、比表面積が100m
2/g以上であり、好ましくは110〜200、より好ましくは110〜150m
2/gである。このように増大された比表面積は、主として特定の量の硫黄を含む硫黄分が関与することに起因するものと推定されるが、比表面積が100m
2/g未満であると、脱硫剤の寿命が充分な長さではなく、一方、200m
2/gを超えると、脱硫剤の嵩密度が小さくなって一定容量の反応器に充填できる質量が少なくなり、長寿命化を充分に図ることができないため好ましくない。
【0024】
本発明の脱硫剤は、水素雰囲気下200〜350℃、特には250〜300℃で処理して用いられることが好ましい。水素雰囲気下での処理温度が200℃未満であると、ニッケルが還元されないため好ましくない。また、該処理温度が350℃を超えると、ニッケルがシンタリングしてしまって活性が低くなるため好ましくない。
【0025】
本発明の脱硫剤は、共沈法により調製されることが好ましい。共沈法による調製方法は、アルミナのような多孔質担体に亜鉛やニッケルなどの金属成分を含浸、担持して焼成する製造方法に比べて、脱硫に有効なニッケルと亜鉛を脱硫剤中に多く含ませることができるため脱硫剤の長寿命化を達成できるとともに、有効な硫黄分を脱硫剤中に含有させやすいために比表面積を充分に高めることができる。また、酸化亜鉛担体にニッケルを含浸する方法は、酸化亜鉛担体の細孔の閉塞により比表面積及び細孔容積が減少し、脱硫活性が低くなるとともに、有効な硫黄分を脱硫剤中に含有させにくいため好ましくない。
【0026】
本発明の脱硫剤は、共沈法において、ニッケル原料として硫酸ニッケルを用い、亜鉛原料として硫酸亜鉛を用いて調製されることが好ましい。ニッケル原料として硫酸ニッケルを用い、亜鉛原料として硫酸亜鉛を用いて脱硫剤を調製することで、特定の量の硫黄を確実に脱硫剤に含有させることができるため、脱硫剤の比表面積を効果的に増大させ、更に、ニッケル酸化物の結晶子径及び亜鉛酸化物の結晶子径を小さくすることが容易となる。なお、上記硫酸ニッケル及び硫酸亜鉛は、水和物でも無水物でもよい。また、ニッケル原料として硝酸ニッケルや酢酸ニッケルを用いた場合、或いは亜鉛原料として硝酸亜鉛や酢酸亜鉛を用いた場合、硫酸等を添加することで、硫酸根(SO
42-)に起因する硫黄を含む上記硫黄分を確実に脱硫剤に含有させてもよい。
【0027】
共沈法において、ニッケル及び亜鉛を含む酸性溶液中のニッケル及び亜鉛の総濃度は、0.3〜3.0mol/Lの範囲が好ましく、0.3〜1.0mol/Lの範囲が更に好ましい。酸性溶液中のニッケル及び亜鉛の総濃度を3.0mol/L以下とすることで、ニッケル酸化物の結晶子径及び亜鉛酸化物の結晶子径を充分に小さくすることができる。一方、酸性溶液中のニッケル及び亜鉛の総濃度が0.3mol/L未満であると、脱硫剤の生産性が低下する。なお、酸性溶液の滴下量は、水1Lに対して0.3〜4.0Lの範囲が好ましく、1.0〜3.5Lの範囲が更に好ましい。
【0028】
共沈法におけるアルカリ溶液としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属を含むものが望ましい。共沈法は中和反応によって沈殿を生成させるが、酸溶液中のニッケルや亜鉛等の金属成分を確実に沈殿させるために、通常、アルカリ溶液過剰の条件下にて沈殿生成を行う。一方、本発明においては、酸とアルカリをほぼ等モルの条件下にて共沈法を行うことにより、増大した比表面積を有する脱硫剤を得ることを見出している。
【0029】
具体的には、価数を考慮して、前記アルカリ溶液に含まれるアルカリ金属の量と、前記酸性溶液に含まれるニッケル及び亜鉛の総量との割合が、モル比で2.4以下が好ましく、1.6〜2.2が更に好ましく、1.8〜2.2が特に好ましい。上記モル比の範囲内となるようにアルカリ溶液及び酸性溶液を用いることで、好適な量のニッケル、亜鉛及び硫黄分を含みつつ、増大した比表面積を有する脱硫剤を効率的に得ることができる。
【0030】
該アルカリ金属を含むアルカリ溶液としては、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等を用いることができるが、なかでも炭酸ナトリウムを用いることが好ましい。該アルカリ溶液のpHは、11〜13が好ましい。
【0031】
上記アルカリ溶液中の陽イオン(アルカリ金属イオン)濃度は、0.3〜4.0mol/Lの範囲が好ましく、0.6〜1.5mol/Lの範囲が更に好ましい。ここで、アルカリ溶液中の陽イオン(アルカリ金属イオン)としては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン等が挙げられる。なお、アルカリ溶液中の陽イオン濃度を4.0mol/L以下とすることで、ニッケル酸化物の結晶子径及び亜鉛酸化物の結晶子径を充分に小さくすることができる。一方、アルカリ溶液中の陽イオン濃度が0.3mol/L未満であると、脱硫剤の生産性が低下する。なお、アルカリ溶液の滴下量は、水1Lに対して0.3〜4.0Lの範囲が好ましく、1.0〜3.5Lの範囲が更に好ましい。
【0032】
上記の工程で生成した沈殿物は、ろ過後に乾燥する必要があるが、乾燥温度は100〜200℃が好ましい。また、その後の焼成における温度は300〜400℃が好ましく、300〜350℃が更に好ましい。焼成温度が300℃未満であると、ニッケル及び亜鉛成分が沈殿した際の塩が完全に分解しないため好ましくない。一方、焼成温度が400℃を超えると、塩が分解してできるニッケルと亜鉛の酸化物等の結晶化が進み、ニッケルの亜鉛に対する分散度が低くなるため好ましくない。
【0033】
なお、本発明において、脱硫剤とは、硫黄収着機能を持った脱硫剤をいう。ここでいう硫黄収着機能を持った脱硫剤とは、有機硫黄化合物中の硫黄原子を脱硫剤に固定化するとともに、有機硫黄化合物中の硫黄原子以外の炭化水素残基については有機硫黄化合物中の炭素−硫黄結合が開裂することによって脱硫剤から脱離させる機能をもった脱硫剤をいう。この有機硫黄化合物中の炭化水素残基が脱離する際には、硫黄との結合が開裂した炭素に、系内に存在する水素が付加する。したがって、有機硫黄化合物から硫黄原子が除かれた炭化水素化合物が生成物として得られることになる。ただし、硫黄原子が除かれた炭化水素化合物が、更に水素化、異性化、分解等の反応を受け、別の化合物になっても構わない。一方、硫黄は脱硫剤に固定化されるため、水素化精製処理とは異なり、生成物として硫化水素などの硫黄化合物を発生しない。同様に、脱硫剤に含まれる硫黄分中の硫黄も、既に脱硫工程を経る前に脱硫剤に堅固に固定されてるため、脱硫工程中、或いは脱硫工程を経た後にも硫黄化合物を発生することはない。そのため、硫化水素を除去する設備が不要となり、経済的に有利である。
【0034】
[炭化水素油]
本発明の脱硫剤を用いた脱硫の対象となる原料の炭化水素油は、硫黄分を含む炭化水素油であれば特に限定されないが、硫黄分を2質量ppm以上含むものが好ましく、より好ましくは2〜1,000質量ppm、より一層好ましくは2〜100質量ppm、特に好ましくは2〜40質量ppm含むものである。硫黄分が1,000質量ppmを超えると、脱硫剤の寿命が短くなり好ましくない。
【0035】
原料の炭化水素油として、具体的には、製油所などで一般的に生産されるLPG留分、ガソリン留分、ナフサ留分、灯油留分、軽油留分などに相当する基材が挙げられる。LPG留分は、プロパン、プロピレン、ブタン、ブチレンなどを主成分とする燃料ガス及び工業用原料ガスである。該LPG留分は、通常は、LPG(液化石油ガス)と称されるように、加圧下の球状タンクに液相の状態で貯蔵されるか、大気圧近傍の低温下にて、液相の状態で貯蔵される。上記ガソリン留分は、一般に炭素数4〜11の炭化水素を主体とし、密度(15℃)が0.783g/cm
3以下、10%留出温度が24℃以上、90%留出温度が180℃以下である。上記ナフサ留分は、ガソリン留分の構成成分(ホールナフサ、軽質ナフサ、重質ナフサ、又はそれらの水素化脱硫ナフサ)あるいはガソリン基材を製造する接触改質の原料(脱硫重質ナフサ)となる成分などの総称であり、沸点範囲がガソリン留分と殆ど同じ範囲か、ガソリン留分の沸点範囲に包含されるものである。したがって、ガソリン留分と同じ意味で用いられることも多い。上記灯油留分は、一般に沸点範囲150〜280℃の炭化水素混合物である。上記軽油留分は、一般に沸点範囲190〜350℃の炭化水素混合物である。
【0036】
また、原料の炭化水素油は、製油所などで生産されるものには限らず、硫黄分を2〜1,000質量ppm含有し、石油化学から生産される石油(炭化水素)ガスや前記と同様な沸点範囲を有する留分でも構わない。好ましく使用できる炭化水素油としては、重質油を熱分解又は接触分解して得られた炭化水素を更に分留したものが挙げられる。
【0037】
なお、本発明の脱硫剤を用いた脱硫の対象となる原料の炭化水素油として特に好ましいのは、接触分解ガソリンや軽油留分である。接触分解ガソリンはオレフィンを多く含むため、一般的に行われる水素化脱硫触媒による水素化精製ではオレフィン分が水素化されてオクタン価が大きく低下してしまうが、本発明の脱硫方法ではオレフィン分はほとんど水素化されない。また、軽油留分には芳香族分が多く含まれるため、一般的に行われる水素化脱硫触媒による水素化精製では芳香族分が水素化されるため水素の消費量が多いが、本発明の脱硫方法では芳香族分はほとんど水素化されない。ただし、軽油留分の場合、通常硫黄分が10,000質量ppm程度含まれるため、水素化脱硫触媒による水素化精製で硫黄分をある程度低減、具体的には5〜50質量ppm程度まで低減したのち、本発明の脱硫方法を適用することが好ましい。硫黄分が多いと、脱硫剤の寿命が大きく低下してしまう。
【0038】
[脱硫反応条件]
炭化水素油を脱硫剤と接触させる条件としては、反応温度が好ましくは50〜300℃であり、より好ましくは100〜300℃である。反応温度が50℃未満であると、脱硫速度が低下し、効率的に脱硫ができず好ましくない。また、反応温度が300℃を超えると、脱硫剤がシンタリングし、脱硫速度、脱硫容量とも低下し好ましくない。なお、反応温度が100℃以上であれば、脱硫速度が充分に高く、効率的に脱硫を行うことができる。
【0039】
また、反応圧力は、ゲージ圧で好ましくは0.2〜5.0MPa、より好ましくは0.2〜3.0MPa、特に好ましくは0.2〜2.0MPaである。反応圧力が0.2MPa未満だと、脱硫速度が低下し、効率的に脱硫ができず好ましくない。また、反応圧力が5.0MPaを超えると、炭化水素油中に含まれるオレフィン分や芳香族分の水素化等の副反応が進行し好ましくない。なお、反応圧力が3.0MPa以下であれば、オレフィン分や芳香族分の水素化等の副反応を充分に抑制でき、2.0MPa以下であれば、これら副反応を確実に防止できる。
【0040】
更に、液空間速度(LHSV)は、好ましくは2.0h
-1を超え、より好ましくは2.1h
-1以上である。また、LHSVは、好ましくは50.0h
-1以下、より好ましくは20.0h
-1以下、より一層好ましくは10.0h
-1以下である。LHSVが2.0h
-1以下であると、通油量が制限されたり、脱硫リアクターが大きくなり過ぎたりするため、経済的に脱硫できず好ましくない。また、LHSVが50.0h
-1を超えると、脱硫するのに充分な接触時間が得られず、脱硫率が低下するため好ましくない。なお、LHSVが2.1h
-1以上であれば、充分経済的に脱硫を行うことができ、LHSVが20.0h
-1以下であれば、接触時間が充分に長いため、脱硫率が向上し、10.0h
-1以下であれば、脱硫率が特に高くなる。
【0041】
水素/油比は特に限定されないが、接触分解ガソリンのようにオレフィンを多く含む留分の場合、0.01〜200NL/Lが好ましく、0.01〜100NL/Lが更に好ましく、0.1〜100NL/Lが特に好ましい。水素/油比が0.01NL/L未満であると、充分に脱硫が進行せず好ましくない。また、水素/油比が200NL/Lを超えると、オレフィンの水素化などの副反応が起こる割合が多くなり好ましくない。
【0042】
また、軽油留分のように多環芳香族を含む留分の場合、水素/油比は1〜1000NL/Lが好ましく、10〜500NL/Lが更に好ましく、50〜400NL/Lが特に好ましい。水素/油比が1NL/L未満であると、充分に脱硫が進行せず好ましくない。また、水素/油比が1000NL/Lであると、水素流量が多くなりすぎて、水素コンプレッサーが大きくなり好ましくない。
【0043】
脱硫の際に使用する水素は、メタン等の不純物を含んでいてもよいが、水素コンプレッサーが大きくなり過ぎないよう、水素純度は50容量%以上が好ましく、さらには80容量%以上、特には95%以上が好ましい。なお、水素中に硫化水素などの硫黄化合物が含まれると脱硫剤の寿命が短くなるので、水素中の硫黄分は、1,000容量ppm以下が好ましく、さらには100容量ppm以下、特には10容量ppm以下が好ましい。
【実施例】
【0044】
以下、本発明について、実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0045】
なお、脱硫前における脱硫剤に含まれる硫黄分中の金属硫化物の割合(「金属硫化物の割合」と略することもある。)は、XPS(光電子分光法、アルバック・ファイ株式会社製5600MC)を用いて求めた。具体的には以下の通りである。硫黄化合物を含む試料のXPS測定を行うと、硫黄2p領域(結合エネルギー160〜180eV)にピークが検出される。硫黄化合物の種類によってピークトップの場所が異なり、金属硫化物は160〜164eV、硫酸根は168〜171eVである。本発明においては、159〜165eVのピーク面積(A)を金属硫化物、165〜172eVのピーク面積(B)を硫酸根とし、脱硫剤に含まれる硫黄分中の金属硫化物の割合(C)を、C(%)=A/(A+B)×100として求めた。また、脱硫前における脱硫剤中に含まれる硫黄の含有量は酸素気流中燃焼-赤外線吸収法で測定し、ニッケル及び亜鉛の含有量はアルカリ融解ICP法で測定した。さらに、NiO結晶子径はX線回折のNiO(200)面のピーク半値幅から、ZnO結晶子径はX線回折のZnO(100)面のピーク半値幅から、それぞれシェラーの式により求めた。脱硫剤に含まれる金属硫化物以外の硫黄分は、(脱硫剤に含まれる金属硫化物以外の硫黄分)=(脱硫剤中に含まれる硫黄分)×(1−C(%)/100)として求めた。脱硫剤の比表面積は窒素吸脱着法によるBJH法で測定した。これらの結果、及び以下の通油試験の結果を表1に示す。
【0046】
[実施例1]
炭酸ナトリウム76.3gを水に溶解した溶液800mLを調製した。また、硫酸亜鉛7水和物172.5g及び硫酸ニッケル6水和物52.6gを水に溶解した溶液1,600mLを60℃に加温し、これに前記調製した炭酸ナトリウム溶液全量を10分間で滴下し、その後1時間継続して撹拌した。得られた沈殿物をろ過した後、水で4回洗浄した。その後、120℃で16時間乾燥後、350℃で3時間焼成して脱硫剤(I)を得た。
【0047】
リアクターに脱硫剤(I)を充填し、水素気流中250℃で16時間還元処理を行った後、炭化水素油の通油試験を実施した。炭化水素油としては、硫黄分が13質量ppmの重質接触分解ガソリンを用いた。反応温度150℃、反応圧力0.3MPa、水素/油比=10NL/L、LHSV=3.0h
-1の条件下、リアクターの入口から炭化水素油の通油を開始した。その結果、脱硫率50%以上を維持する時間(サイクルレングス)は1,995時間であった。
【0048】
[実施例2]
炭酸ナトリウム88.2gを水に溶解した溶液850mLを調製した。また、硫酸亜鉛7水和物172.5g及び硫酸ニッケル6水和物52.6gを水に溶解した溶液1,600mLを60℃に加温し、これに前記調製した炭酸ナトリウム溶液全量を10分間で滴下し、その後1時間継続して撹拌した。得られた沈殿物をろ過した後、水で4回洗浄した。その後、120℃で16時間乾燥後、350℃で3時間焼成して脱硫剤(II)を得た。
【0049】
次いで、得られた脱硫剤(II)を用い、実施例1と同様にして炭化水素油の通油試験を実施した。その結果、脱硫率50%以上を維持する時間(サイクルレングス)は2,020時間であった。
【0050】
[実施例3]
蒸留水600mLを温度60℃に加温撹拌しながら、硫酸亜鉛7水和物172.5g及び硫酸ニッケル6水和物52.6gを水に溶解した溶液300mLと炭酸ナトリウム93.3gを水に溶解した溶液300mLを滴下した。酸性溶液Aとアルカリ溶液Bは、ほぼ同時に滴下を開始し、60分で滴下を終了した。その後、1時間継続して撹拌した。得られた沈殿物をろ過した後、水で4回洗浄した。その後、120℃で16時間乾燥後、350℃で3時間焼成して脱硫剤(III)を得た。
【0051】
次いで、得られた脱硫剤(III)を用い、実施例1と同様にして炭化水素油の通油試験を実施した。その結果、脱硫率50%以上を維持する時間(サイクルレングス)は2,116時間であった。
【0052】
[実施例4]
炭酸ナトリウム61.7gを水に溶解した溶液850mLを調製した。また、硫酸亜鉛7水和物172.5g及び硫酸ニッケル6水和物52.6gを水に溶解した溶液1,600mLを60℃に加温し、これに前記調製した炭酸ナトリウム溶液全量を10分間で滴下し、その後1時間継続して撹拌した。得られた沈殿物をろ過した後、水で4回洗浄した。その後、120℃で16時間乾燥後、350℃で3時間焼成して脱硫剤(IV)を得た。
【0053】
次いで、得られた脱硫剤(IV)を用い、実施例1と同様にして炭化水素油の通油試験を実施した。その結果、脱硫率50%以上を維持する時間(サイクルレングス)は1,644時間であった。
【0054】
[比較例1]
炭酸ナトリウム103.9gを水に溶解した溶液850mLを調製した。また、硫酸亜鉛7水和物172.5g及び硫酸ニッケル6水和物52.6gを水に溶解した溶液1,600mLを60℃に加温し、これに前記調製した炭酸ナトリウム溶液全量を10分間で滴下し、その後1時間継続して撹拌した。得られた沈殿物をろ過した後、水で4回洗浄した。その後、120℃で16時間乾燥後、350℃で3時間焼成して脱硫剤(V)を得た。
【0055】
次いで、得られた脱硫剤(V)を用い、実施例1と同様にして炭化水素油の通油試験を実施した。その結果、脱硫率50%以上を維持する時間(サイクルレングス)は1,535時間であった。
【0056】
[比較例2]
実施例3にて得られた脱硫剤(III)をリアクターに充填し、水素気流中300℃で16時間還元処理を行った後、硫黄分を含む炭化水素油を通油した。炭化水素油としては、硫黄分が13質量ppmの重質接触分解ガソリンを用いた。反応温度150℃、反応圧力0.3MPa、水素/油比=10NL/L、LHSV=3.0h
-1の条件下、150時間通油した後リアクターから脱硫剤を取り出し、脱硫剤(VI)を得た。
【0057】
次いで、得られた脱硫剤(VI)を用い、実施例1と同様にして炭化水素油の通油試験を実施した。その結果、脱硫率50%以上を維持する時間(サイクルレングス)は1,304時間であった。
【0058】
[比較例3]
蒸留水600mLを温度60℃に加温撹拌しながら、硝酸亜鉛6水和物178.5g及び硝酸ニッケル6水和物58.2gを水に溶解した溶液300mLと炭酸ナトリウム104.0gを水に溶解した溶液300mLを滴下した。酸性溶液Aとアルカリ溶液Bは、ほぼ同時に滴下を開始し、60分で滴下を終了した。その後、1時間継続して撹拌した。得られた沈殿物をろ過した後、水で4回洗浄した。その後、120℃で16時間乾燥後、350℃で3時間焼成して脱硫剤(VII-1)を得た。
【0059】
脱硫剤(VII-1)をリアクターに充填し、水素気流中300℃で16時間還元処理を行った後、硫黄分を含む炭化水素油を通油した。炭化水素油としては、硫黄分が13質量ppmの重質接触分解ガソリンを用いた。反応温度150℃、反応圧力0.3MPa、水素/油比=10NL/L、LHSV=3.0h
-1の条件下、600時間通油した後リアクターから脱硫剤を取り出し、脱硫剤(VII)を得た。
【0060】
次いで、得られた脱硫剤(VII)を用い、実施例1と同様にして炭化水素油の通油試験を実施した。その結果、脱硫率50%以上を維持する時間(サイクルレングス)は1,001時間であった。
【0061】
【表1】
【0062】
表1に示すとおり、ニッケル及び亜鉛を含みつつ、かつ金属硫化物以外の硫黄分を特定量含み、金属硫化物の割合が特定の範囲である実施例1〜4は、脱硫剤中に含まれる硫黄の量が少ない比較例1、並びに硫化ニッケル及び硫化亜鉛を含み金属硫化物の割合が高い比較例2〜3に比べ、比表面積が非常に高く、サイクルレングスを充分に長くできることがわかる。