特許第5807079号(P5807079)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5807079
(24)【登録日】2015年9月11日
(45)【発行日】2015年11月10日
(54)【発明の名称】熱交換器用アルミニウム合金フィン材
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/00 20060101AFI20151021BHJP
   C22F 1/04 20060101ALI20151021BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20151021BHJP
【FI】
   C22C21/00 J
   C22F1/04 L
   !C22F1/00 604
   !C22F1/00 613
   !C22F1/00 623
   !C22F1/00 630A
   !C22F1/00 630K
   !C22F1/00 651A
   !C22F1/00 682
   !C22F1/00 683
   !C22F1/00 685Z
   !C22F1/00 686A
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
   !C22F1/00 694A
   !C22F1/00 694B
【請求項の数】6
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-23319(P2014-23319)
(22)【出願日】2014年2月10日
(62)【分割の表示】特願2011-80855(P2011-80855)の分割
【原出願日】2011年3月31日
(65)【公開番号】特開2014-88627(P2014-88627A)
(43)【公開日】2014年5月15日
【審査請求日】2014年2月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100064414
【弁理士】
【氏名又は名称】磯野 道造
(72)【発明者】
【氏名】金田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】梅田 秀俊
【審査官】 相澤 啓祐
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−104488(JP,A)
【文献】 特開平08−313191(JP,A)
【文献】 特開2009−250510(JP,A)
【文献】 特開2005−264289(JP,A)
【文献】 特開平03−002343(JP,A)
【文献】 特開平09−137242(JP,A)
【文献】 特開平04−371541(JP,A)
【文献】 特開平09−176805(JP,A)
【文献】 特開平05−230579(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/029594(WO,A1)
【文献】 特開平11−080869(JP,A)
【文献】 特開昭57−155340(JP,A)
【文献】 特開昭58−224156(JP,A)
【文献】 特開昭59−190346(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/00−21/18
C22F 1/04− 1/057
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe:0.010〜0.2質量%を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなり、Al純度が99.30質量%以上のアルミニウム合金からなる熱交換器用アルミニウム合金フィン材であって、
前記熱交換器用アルミニウム合金フィン材の厚みが0.115mm未満であり、亜結晶粒の平均粒径が1.2μm以下、および、最大長さが3μmを超える金属間化合物が1210個/mm以下であることを特徴とする熱交換器用アルミニウム合金フィン材。
【請求項2】
前記アルミニウム合金の化学成分について、さらに、Cu:0.005〜0.05質量%を含有し、Si:0.15質量%以下、Mn:0.015質量%未満、Cr:0.015質量%以下に抑制することを特徴とする請求項1に記載の熱交換器用アルミニウム合金フィン材。
【請求項3】
前記アルミニウム合金の化学成分について、さらに、Ti:0.01〜0.05質量%を含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の熱交換器用アルミニウム合金フィン材。
【請求項4】
前記熱交換器用アルミニウム合金フィン材の厚みが90μm以下であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の熱交換器用アルミニウム合金フィン材。
【請求項5】
前記熱交換器用アルミニウム合金フィン材の厚みが80μm以下であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の熱交換器用アルミニウム合金フィン材。
【請求項6】
フィン材表面に表面処理皮膜を備えることを特徴とする請求項1から請求項のいずれか一項に記載の熱交換器用アルミニウム合金フィン材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱交換器に用いられる熱交換器用アルミニウム合金フィン材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、空調器等の熱交換器に用いる熱交換器用アルミニウム合金フィン材(以下、適宜、フィン材という)においても、フロン規制に沿った新冷媒への切り替えや、空調器自身のコンパクト化や軽量化あるいは高性能化等により、益々薄肉化が図られ、板厚が0.15mm以下、最近では0.09mm程度にまで薄肉化されている。
【0003】
ここで、フィン材の成形法には、ドロー方式、ドローレス方式およびドロー・ドローレス複合方式(コンビネーション方式)がある。ドロー方式は、張出し工程、絞り工程、打ち抜き(ピアス)および穴広げ工程(バーリング)、リフレア工程からなり、ドローレス方式は、打ち抜きおよび穴広げ工程、しごき(アイアニング)工程、リフレア工程からなり、コンビネーション方式は、主に、張出し工程、絞り工程、打ち抜きおよび穴広げ工程、しごき工程、リフレア工程からなる。
【0004】
これら何れの成形法においても、銅管における管用穴カラーを成形するためのピアス&バーリング成形とリフレア成形は、フィン材にとって必要不可欠な成形工程である。ただし、これらの成形は、板厚が0.15mm以下にまで薄肉化されたフィン材にとって、過酷な成形となる。そのため、このような薄肉化に対応して、加工性を向上させたフィン材が開発されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、板厚が0.15mm以下であり、金属間化合物の粒径、大傾角粒の最大の長さ、大傾角粒内の亜結晶粒の平均粒径等を所定に規定した、成形加工性に優れたアルミニウム合金フィン材が開示されている。また、特許文献2には、板厚が0.11mm未満であり、Fe、Tiを所定量含有し、Si、Cuを所定量以下に規制するとともに、伸び率を所定に規定した、耐アベック性、スタック性に優れた熱交換器用アルミニウム合金フィン材が開示されている。特許文献3には、板厚が0.11mm未満であり、所定元素の含有量を所定に規定した、耐アベック性に優れた熱交換器用アルミニウム合金フィン材が開示されている。また、特許文献4には、冷間圧延後の板厚が0.115mmであり、所定元素を所定に規定した、ドローレスフィン用高強度アルミニウム合金薄板とその製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−104488号公報
【特許文献2】特許第4275560号公報
【特許文献3】特開2005−126799号公報
【特許文献4】特開昭64−8240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来のフィン材においては、以下のような問題がある。
前記した従来の技術では、加工性の向上が図られてはいるものの、近年においては、熱交換器のさらなるコンパクト化や軽量化、高性能化に加え、より加工のし易いフィン材の供給が期待されていることから、さらなる加工性の向上が求められている。
【0008】
また、成形中には、しばしばカラー割れと言われる割れが生じることがある。すなわち、ピアス&バーリング工程時に加工端面に微細な亀裂が生じ、これによって最終リフレア成形時にカラー割れとなる。このようなカラー割れが生じた場合、フィン成形された成形品のカラー穴に銅管を通してその銅管を拡管する際に、積層したフィンの間隔が極端に狭くなってしまうという、所謂アベック現象が生じ易くなる。そして、このアベック現象により、熱交換器の通風抵抗が増大するという問題がある。すなわち、カラー割れは、フィンの外観を損ねるだけではなく、熱交換器としての性能低下等の不具合が生じ、製品としての価値を低下させてしまうという問題がある。したがって、このようなカラー割れの発生をより抑制することができるフィン材の開発が求められている。
ここで、特許文献1に記載のフィン材は、耐カラー割れ性の改善を図っている。しかし、Mnの含有量および製造条件によっては、粗大な金属間化合物、あるいは、固溶Mnにより加工硬化しやすくなるという問題がある。そのため、耐カラー割れの改善には余地がある。
【0009】
本発明は、前記問題点に鑑みてなされたものであり、成形加工時におけるカラー割れの発生を抑制することができる耐カラー割れ性に優れた熱交換器用アルミニウム合金フィン材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明に係る熱交換器用アルミニウム合金フィン材は、Fe:0.010〜0.2質量%を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなり、Al純度が99.30質量%以上のアルミニウム合金からなる熱交換器用アルミニウム合金フィン材であって、前記熱交換器用アルミニウム合金フィン材の厚みが0.115mm未満であり、亜結晶粒の平均粒径が1.2μm以下、および、最大長さが3μmを超える金属間化合物が1210個/mm以下であることを特徴とする。
【0011】
このような構成によれば、Feを所定量添加することで、Al−Fe系金属間化合物が形成され、あるいは、アルミニウムマトリクス中に固溶して、プレス成形時における亜結晶粒が微細化されて加工硬化が抑制される。またAl純度を規定することで、金属間化合物の増加が抑制される。そして、亜結晶粒の平均粒径を1.2μm以下とすることで、0.115mm未満の厚みのフィン材での伸びが増加する。また、最大長さが3μmを超える金属間化合物を1210個/mm以下とすることで、粗大な金属間化合物が起点となることによるカラー割れの発生が防止される。
【0012】
本発明に係る熱交換器用アルミニウム合金フィン材は、前記アルミニウム合金の化学成分について、さらに、Cu:0.005〜0.05質量%を含有し、Si:0.15質量%以下、Mn:0.015質量%未満、Cr:0.015質量%以下に抑制することを特徴とする。
【0013】
このような構成によれば、Cuを所定量添加することで、薄肉化した時の剛性が確保され、また、Si、Mn、Crを所定量以下または所定量未満に抑制することで、晶出物(すなわち金属間化合物)の粗大化が抑制される。
【0014】
本発明に係る熱交換器用アルミニウム合金フィン材は、前記アルミニウム合金の化学成分について、さらに、Ti:0.01〜0.05質量%を含有することを特徴とする。
このような構成によれば、Tiを所定量添加することで、鋳塊組織が微細化される。
【0015】
本発明に係る熱交換器用アルミニウム合金フィン材は、フィン材表面に表面処理皮膜を備えたものであってもよい。表面処理皮膜としては、耐食性皮膜や親水性皮膜、潤滑性皮膜等が挙げられる。
このような構成によれば、耐食性や親水性、成形性等、使用環境や用途等に応じた特性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る熱交換器用アルミニウム合金フィン材は、成形加工したときのカラー割れを抑制することができる。そのため、フィンの外観を損ねることや、熱交換器としての性能低下等の不具合を防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る熱交換器用アルミニウム合金フィン材(以下、適宜、フィン材という)およびフィン材の製造方法を実現するための形態について説明する。
【0021】
<フィン材>
本発明に係るフィン材は、Feを所定量含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなり、Al純度が99.30質量%以上のアルミニウム合金からなるものである。そして、このフィン材の厚みが0.115mm未満であり、亜結晶粒の平均粒径を2.5μm以下、および、3μmを超える金属間化合物を2000個/mm以下に規定したものである。また、アルミニウム合金の化学成分について、必要に応じてCuを所定量含有し、アルミニウム合金に含まれる不可避的不純物のうち、Si、Mn、Crを所定量以下または所定量未満に抑制することが好ましい。さらに、必要に応じてTiを所定量含有してもよい。
以下、各構成について、まず、化学成分について説明した後、その他の構成について説明する。
【0022】
(Fe:0.010〜0.4質量%)
Feは、Al−Fe系金属間化合物を形成(あるいは、アルミニウムマトリクス中に固溶)して、プレス成形時における亜結晶粒を微細にすることができるために、加工硬化抑制に寄与する元素であり、カラー割れ不良を減少させる効果がある。また、アルミニウム合金板の亜結晶粒の大きさに寄与する効果や、強度を向上させる効果も有する。Fe含有量が0.010質量%未満では、前記の効果が得られずに、プレス成形でカラー割れ性に劣る。一方、0.4質量%を超えると、粗大な金属間化合物が形成され、耐カラー割れ性が劣る。したがって、Fe含有量は、0.010〜0.4質量%とする。
【0023】
(Cu:0.005〜0.05質量%)
薄肉化した時の剛性を確保するためには、さらにCuを添加することが望ましい。その効果は、0.005質量%以上の添加により得られる。一方で、Cu含有量が0.05質量%を超えると、加工硬化を招き、耐アベック性を低下させる他、耐カラー割れ性および耐食性の低下を招く。したがって、剛性を確保させるためにCuを添加する場合には、Cu含有量は、0.005〜0.05質量%とする。さらに好ましくは、0.01〜0.05質量%である。
【0024】
(Si:0.15質量%以下(0質量%を含む))
Siは、不可避的不純物として混入する元素であるが、Si含有量が0.15質量%を超えると、晶出物(金属間化合物)が粗大化し、これが成形加工時の応力集中点となり、割れの起点となる。したがって、Siを含有する場合には、Si含有量は、0.15質量%以下とする。なお、0質量%まで抑制してもよい。
【0025】
(Mn:0.015質量%未満(0質量%を含む))
Mnは、不可避的不純物として混入する元素であるが、Mn含有量が0.015質量%以上になると、晶出物(金属間化合物)が粗大化し、これが成形加工時の応力集中点となり、割れの起点となる。したがって、Mnを含有する場合には、Mn含有量は、0.015質量%未満に抑制する。さらには、0.005質量%未満に抑制することが好ましい。なお、0質量%まで抑制してもよい。
【0026】
(Cr:0.015質量%以下(0質量%を含む))
Crは、不可避的不純物として混入する元素であるが、Cr含有量が0.015質量%を超えると、晶出物(金属間化合物)が粗大化し、これが成形加工時の応力集中点となり、割れの起点となる。したがって、Crを含有する場合には、Cr含有量は、0.015質量%以下に抑制する。なお、0質量%まで抑制してもよい。
【0027】
(Ti:0.01〜0.05質量%)
Tiは、鋳塊組織の微細化のために、Al−Ti−B中間合金として添加しても良い。すなわち、Ti:B=5:1あるいは5:0.2の割合としたAl−Ti−B鋳塊微細化剤を、ワッフルあるいはロッドの形態で溶湯(スラブ凝固前における、溶解炉、介在物フィルター、脱ガス装置、溶湯流量制御装置へ投入された、いずれかの段階での溶湯)へ添加してもよく、Ti量で、0.05質量%までの含有は許容される。Ti含有量が0.01質量%未満では、鋳塊組織微細化の効果が得られない。一方、0.05質量%を超えると、晶出物(金属間化合物)が粗大化し、これが成形加工時の応力集中点となり、割れの起点となる。したがって、Tiを添加する場合には、Ti含有量は、0.01〜0.05質量%とする。
【0028】
(残部:Alおよび不可避的不純物)
フィン材の成分は前記の他、残部がAlおよび不可避的不純物からなるものである。なお、不可避的不純物として、前記したSi、Mn、Crの他、例えば、地金や中間合金に含まれている、通常知られている範囲内のMg、Zn、Zr、Ce、Ga、V、Ni等は、Al純度が、99.30質量%未満とならない範囲で、それぞれ0.05質量%までの含有は許容される。
【0029】
(Al純度:99.30質量%以上)
Al純度が、99.30質量%未満では、金属間化合物の増加に伴い、カラー割れが増加し、耐食性が低下する。したがって、Al純度は、99.30質量%以上とする。
【0030】
(厚み:0.115mm未満)
本発明は、近年における熱交換器のコンパクト化や軽量化、高性能化等の要請により、フィン材の薄肉化を図る観点から、0.115mm未満の厚みのフィン材を対象とする。したがって、フィン材の厚みは、0.115mm未満とする。
【0031】
(亜結晶粒の平均粒径:2.5μm以下)
0.115mm未満の厚みのフィン材での伸びの増加のためには、合金中の亜結晶粒の平均粒径を2.5μm以下とすることが必要である。亜結晶粒の平均粒径が2.5μmを超えると、フィン材の伸びが十分に得られない。したがって、亜結晶粒の平均粒径は、2.5μm以下とする。なお、下限値は特に規定しないが、0μmであってもよい(すなわち、亜結晶粒を含まなくてもよい)。この様な範囲にすることにより、固溶Mnや固溶Cu等により加工硬化するような場合であっても、カラー割れの発生を抑制することができる。
【0032】
(最大長さが3μmを超える金属間化合物:2000個/mm以下)
粗大な金属間化合物は、カラー割れの起点となり、また、亀裂が伝播する過程でマイクロクラック(微小な亀裂)の発生により亀裂伝播を助長する。したがって、サイズが3μmを超える金属間化合物は2000個/mm以下とする。なお、化合物のサイズとは化合物の輪郭線上任意の2点間距離の最大値を言う。また、サイズの上限については、定めはなく、個数については、0であってもよい。
【0033】
次に、亜結晶粒の平均粒径および金属間化合物の個数の測定方法について説明する。
まず、走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscopy-Electron)組織をEBSD(Electron Back Scattered Diffraction Pattern)法により方位解析する。EBSD法は、試料に電子線を照射し、その際に生じる反射電子菊池線回折を利用して結晶方位を特定するものである。また、結晶方位解析には、例えば、TSL社製OIM(Orientation Imaging Microscopy. TM)を用いることができる。
そして、亜結晶粒の平均粒径は、このSEM/EBSD測定データにより結晶粒の数を算出し、フィン材の全面積を結晶粒の数で除し、各結晶粒の面積を円と近似した場合の直径を亜結晶粒の平均粒径と定義する。金属間化合物の個数は、観察倍率500倍で、面積1.0mmの試料表面を撮影した走査電子顕微鏡(SEM)組織を画像解析することにより算出する。
【0034】
なお、亜結晶粒の平均粒径および金属間化合物の個数は、成分組成と、後記する製造条件により制御することができる。具体的には、亜結晶粒の平均粒径は、各成分の含有量、均質化熱処理条件(温度と時間)、熱間仕上げ圧延終了温度、冷間加工率、調質焼鈍条件(温度と時間)、金属間化合物の個数は、各成分の含有量、均質化熱処理条件(温度と時間)等により制御する。
【0035】
本発明に係るフィン材は、フィン材表面に表面処理皮膜を備えたものであってもよい。なお、フィン材表面とは、フィン材の片面もしくは両面を意味する。
(表面処理皮膜)
表面処理皮膜としては、使用環境や用途に応じ、化成皮膜や樹脂皮膜、無機皮膜が挙げられ、これらを組み合わせ(化成皮膜上に樹脂皮膜、無機皮膜を設け)てもよい。また、樹脂皮膜、無機皮膜としては、耐食性樹脂皮膜、親水性樹脂皮膜、親水性無機皮膜、潤滑性樹脂皮膜等が挙げられ、これらを適宜組み合わせてもよい。
【0036】
化成皮膜としては、例えばリン酸クロメートが挙げられる。耐食性樹脂皮膜としては、エポキシ系、ウレタン系、アクリル系、ポリエステル系等の樹脂が挙げられ、その膜厚は、0.5〜5μmが好ましい。親水性皮膜としては、水ガラス系の無機物、ポリアクリル酸またはポリアクリル酸塩を含有するような樹脂、スルホン酸基またはスルホン酸基誘導体を含有するような樹脂等が挙げられ、その膜厚は、0.05〜10μmが好ましい。潤滑性樹脂皮膜としてはポリエーテルポリオールを含有する樹脂などが挙げられ、その膜厚は、0.1〜10μmが好ましい。
【0037】
耐食性樹脂皮膜、親水性樹脂皮膜、親水性無機皮膜、潤滑性樹脂皮膜のうち2種以上を組み合わせる場合には、耐食性樹脂皮膜の表面側に親水性樹脂皮膜が設けられ、親水性樹脂皮膜、親水性無機皮膜の表面側に潤滑性樹脂皮膜が設けられることが好ましい。
【0038】
<フィン材の製造方法>
本発明に係るフィン材の製造方法は、前記したフィン材の製造方法であって、熱処理工程と、熱間圧延工程と、冷間加工工程と、調質焼鈍工程と、を行うものである。さらに必要に応じて、鋳塊作製工程や表面処理工程を含んでもよい。
このような製造方法によれば、熱処理工程により鋳塊の組織が均質化され、熱間圧延工程により、熱延板で再結晶組織となることなく圧延される。そして、冷間加工工程により、調質焼鈍後に亜結晶粒の粗大化を生じさせることなく、0.115mm未満の厚みとされ、調質焼鈍工程により充分に組織が回復するとともに亜結晶粒の微細化が促進される。
そして、耐カラー割れ性に優れた熱交換器用アルミニウム合金フィン材を製造することができる。
以下、各工程について説明する。
【0039】
(鋳塊作製工程)
鋳塊作製工程は、アルミニウム合金を溶解、鋳造してアルミニウム合金鋳塊を作製する工程である。
鋳塊作製工程では、前記した化学成分を有するアルミニウム合金を溶解した溶湯から、所定形状の鋳塊を作製する。アルミニウム合金を溶解、鋳造する方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いればよい。例えば、真空誘導炉を用いて溶解し、連続鋳造法や、半連続鋳造法を用いて鋳造することができる。
【0040】
(熱処理工程)
熱処理工程は、前記アルミニウム合金の化学成分を有するアルミニウム合金鋳塊に、450〜500℃の温度で1時間以上の熱処理(均質化熱処理)を施す工程である。
熱処理温度が450℃未満では、鋳塊の組織の均質化が不十分となる。また、熱間加工性の低下を招く。さらに亜結晶粒径が大きくなる。一方、500℃を超えると、加熱中で微細化する微細金属間化合物が粗大化し、亜結晶粒が粗大化して伸びが低下する。また、固溶量の増加を招く。したがって、熱処理温度は、450〜500℃とする。また、熱処理は保持時間1時間以上であれば前記効果を得られるため、特に上限を規定する必要はない。一方で、10時間を超えると効果が飽和することから、経済的には、熱処理時間は24時間以内が好ましい。
【0041】
(熱間圧延工程)
熱間圧延工程は、前記熱処理後に、熱間仕上げ圧延の終了温度が250℃以上300℃未満となる条件で熱間圧延を施す工程である。
熱間仕上げ圧延の終了温度が250℃未満では、材料の圧延性が低下し、圧延自体が困難となったり、板厚制御が難しくなったりして、生産性が低下する。一方、300℃以上では、熱延板で再結晶組織となるために、調質焼鈍後に繊維状の同一結晶方位群が生成し、ピアス&バーリング工程時にくびれを生じる。また、亜結晶粒径が大きくなる。したがって、熱間仕上げ圧延の終了温度は、250℃以上300℃未満とする。より好ましくは、260〜290℃である。
【0042】
(冷間加工工程)
冷間加工工程は、前記熱間圧延後に、冷間加工率96%以上の冷間加工(冷間圧延)を施す工程である。
熱間圧延終了後、冷間加工を1回、あるいは複数回行なって、フィン材を所望の最終板厚とする。ただし、冷間加工率が96%未満では、調質焼鈍後に亜結晶粒が粗大化する。したがって、冷間加工における冷間加工率は、96%以上とする。ここで、冷間加工の途中で中間焼鈍を行なった場合、冷間加工率は中間焼鈍後から最終板厚までの加工率である。よって、中間焼鈍を行なうと、96%以上の冷間加工率とすることが困難となることから、中間焼鈍は行なわない。なお、冷間加工率は高いほど好ましいため、上限は特に設けない。
【0043】
(調質焼鈍工程)
調質焼鈍工程は、前記冷間加工後に、160〜260℃の温度で1〜6時間保持する調質焼鈍(仕上げ焼鈍)を施す工程である。
調質焼鈍の温度が160℃未満では、充分な組織の回復効果が得られない。一方、260℃を超えると、焼鈍後に再結晶粒を生じ、これを起点に割れが生じる。また、亜結晶粒の微細化が促進されない。したがって、調質焼鈍の温度は、160〜260℃とする。
【0044】
ここで、フィン材をドローレス成形に用いる場合には、調質焼鈍の温度の上限は、230℃とすることが好ましい。ドローレス成形の場合には、調質焼鈍の温度が230℃を超えると、コンビネーション成形の場合に比べ、成形性がやや低下する傾向にあるが、230℃以下であれば、230℃を超えた場合よりも成形性がより向上するためである。したがって、ドローレス成形用の場合には、160〜230℃とすることが好ましい。
なお、調質焼鈍は1時間以上行うことが通常であり、6時間を超えると効果が飽和することから、保持時間は1〜6時間とする。
【0045】
(表面処理工程)
表面処理工程は、調質焼鈍後のフィン材に表面処理を施す工程である。
表面処理工程において、化成皮膜を形成する場合には、通常の塗布型または反応型の薬剤を用いた化成処理によって行うことができる。耐食性樹脂皮膜、親水性樹脂皮膜、潤滑性樹脂皮膜等の樹脂皮膜を形成する場合には、ロールコーターを用いた塗布、乾燥によって行うことができる。
【0046】
なお、本発明を行うにあたり、前記各工程に悪影響を与えない範囲において、前記各工程の間あるいは前後に、他の工程を含めてもよい。例えば、ごみ等の異物を除去する異物除去工程や、鋳塊に面削を施す面削工程や、調質焼鈍工程や表面処理工程の後に、フィン材として必要な、機械加工を適宜施す機械加工工程等を含めてもよい。
【0047】
そして、このようにして製造されたフィン材は、各成形法に応じて成形加工されるが、本発明のフィン材は、特にドローレス成形またはコンビネーション成形に好適である。
ドローレス成形は、第1工程で打ち抜きおよび穴広げ加工(ピアス&バーリング成形)、第2、第3工程でしごき加工、第4工程でリフレア加工を施すものである。また、コンビネーション成形は、第1工程で張出し、第2工程で絞り成形、第3工程で打ち抜きおよび穴広げ加工(ピアス&バーリング成形)、第4工程でしごき加工、第5工程でリフレア加工を施すものである。そして、本発明のフィン材は、耐カラー割れ性に優れるため、これら成形加工時のカラー割れの発生を抑制することができる。
【実施例】
【0048】
以上、本発明を実施するための形態について述べてきたが、以下に、本発明の効果を確認した実施例を、本発明の要件を満たさない比較例と対比して具体的に説明する。なお、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0049】
〔供試材作製〕
(実施例または参考例No.1〜10、比較例No.11〜21)
表1に示す組成のアルミニウム合金を、溶解、鋳造して鋳塊とし、この鋳塊に面削を施した後に、480℃にて4時間の均質化熱処理を施した。この均質化した鋳塊に、熱間仕上げ圧延の終了温度を270℃となるように制御して熱間圧延を施し、板厚3.0mmの熱間圧延板とした。さらに、それぞれ97.0%または97.3%程度の冷間加工率で冷
間圧延を施して板厚を90μmおよび80μmとした後、表1に示す温度および保持時間の調質焼鈍を施してフィン材とした。
【0050】
(参考例(出願当初の実施例)No.22〜27、比較例No.28〜34)
表2に示すアルミニウム合金(表1に対応する合金A,B,C)を、溶解、鋳造して鋳塊とし、この鋳塊に面削を施した後に、均質化熱処理、熱間圧延を施し、板厚3.0mmの熱間圧延板とした。さらに、No.34以外は、それぞれ97.0%または97.3%
程度の冷間加工率で冷間圧延を施して板厚を90μmおよび80μmとした後、調質焼鈍を施してフィン材とした。No.34は、板厚3.0mmの熱間圧延板に50%の冷間加工率で冷間圧延を施した後、バッチ炉を用いて360℃×3hの中間焼鈍を実施した。その後さらに、それぞれ94.0%または94.7%程度の冷間加工率で冷間圧延を施して
板厚を90μmおよび80μmとした後、調質焼鈍を施してフィン材とした。均質化熱処理、熱間仕上げ圧延の終了温度、調質焼鈍の条件は、表2に示すとおりである。なお、No.30はフィン材を製造できなかったものである。
【0051】
(参考例(出願当初の実施例)No.35〜38、比較例No.39〜42)
表2のNo.22と同様のフィン材であるNo.35、36、表2のNo.27と同様のフィン材であるNo.37、38、表2のNo.29と同様のフィン材であるNo.39、40、表2のNo.32と同様のフィン材であるNo.41、42に対して以下の表面処理(No.1〜4)を行った。
【0052】
No.1:特開2010−223520号公報の比較例1と同じ条件の表面処理(化成皮膜、親水性皮膜、潤滑性皮膜をこの順に備える)
No.2:特許第3383914号公報の実施例1と同じ条件の表面処理(化成皮膜、親水性皮膜、潤滑性樹脂皮膜をこの順に備える)
No.3:特開2008−224204号公報の実施例1と同じ条件の表面処理(化成皮膜、耐食性樹脂皮膜、親水性皮膜をこの順に備える)
No.4:特開2010−223514号公報の比較例21と同じ条件の表面処理(化成皮膜、耐食性樹脂皮膜をこの順に備える)
【0053】
成分組成を表1に、製造条件を表2、3に示す。なお、表中、本発明の範囲を満たさないものは、数値に下線を引いて示し、成分を含有しないものは、「−」で示す。なお、No.30はフィン材を製造できなかったものであるため、調質焼鈍の欄に「−」と記す。また、No.16は、特許文献1の記載に基づくアルミニウム合金フィン材に基づくものであり(表2の発明例1(但し、熱延終了温度および熱間圧延後の板厚(3.5mm)が異なる)、No.13は、特許文献2の記載に基づくアルミニウム合金フィン材に基づくものである(表1の発明例4(但し、加工方式(ドロー加工)が異なる))。また、No.17は、特許文献3の記載に基づくアルミニウム合金フィン材に基づくものであり(表1の発明例3)、No.33は、特許文献4の記載に基づくアルミニウム合金フィン材に基づくものである(表2の発明例11(但し、冷間圧延後の板厚(0.115mm厚)が
異なる))。
【0054】
次に、フィン材の組織形態として、亜結晶粒の平均粒径および3μm以上の金属間化合物の個数を以下の方法により測定した。さらに、強度および伸びを以下の方法により測定した。
【0055】
〔亜結晶粒の平均粒径〕
亜結晶粒の平均粒径は、観察倍率1,000倍で試料表面を撮影した走査電子顕微鏡(SEM)組織を、測定間隔0.10μmにてEBSD法により方位解析したデータを基に、TSL社製OIM(Orientation Imaging Microscopy. TM)ソフト上で自動計算することにより算出した。すなわち、フィン材の全面積をSEM/EBSD測定データによりカウントされた結晶粒の数で除し、各結晶粒の面積を円と近似した場合の直径を亜結晶粒の平均粒径と定義した。なお、結晶粒の数は、隣接結晶粒間の方位差が2°以上の粒界に囲まれた粒を亜結晶粒としてカウントした。
【0056】
〔3μmを超える金属間化合物の個数〕
サイズが3μmを超える化合物数は、観察倍率500倍で、面積1.0mmの試料表面を撮影した走査電子顕微鏡(SEM)組織を画像解析することにより算出した。なお、化合物のサイズとは個々の化合物の最大の長さを言う。
【0057】
〔強度および伸び〕
フィン材から、引張方向が圧延方向と平行になるようにJIS5号による引張試験片を切り出した。この試験片で、JISZ2241による引張試験を実施し、引張強さ、0.2%耐力、および、伸びを測定した。なお、本実施例、参考例、および比較例の評価における引張速度は5mm/minで行った。
【0058】
〔評価〕
作製したフィン材にドローレス成形およびコンビネーション成形によりプレス成形を実施し、耐カラー割れ性を評価した。
耐カラー割れ性評価は、プレス成形品400穴に対して、カラー部に生じた割れを目視にてカウントすることで評価した。
「割れ数/400×100(%)」を発生率とし、発生率が3%未満を(◎)、3%以上5%未満を(○)、5%以上10%未満を(△)、10%以上を(×)とした。そして、ドローレス成形の90μmおよび80μm、コンビネーション成形の90μmおよび80μmのすべてにおいて(◎)、(○)、(△)のいずれかであったものを合格とした。
【0059】
測定結果および評価結果を表1〜3に示す。なお、表中、本発明の範囲を満たさないものは、数値に下線を引いて示し、フィン材の製造ができないために、測定および評価ができなかったものは、「−」で示す。
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】
【表3】
【0063】
(成分による評価)
表1に示すように、実施例または参考例であるNo.1〜10は、本発明の範囲を満たすため、または参考例のため、耐カラー割れ性に優れていた。
【0064】
一方、比較例であるNo.11〜21は、本発明の範囲を満たさないため、以下の結果となった。
No.11は、Si含有量が上限値を超えるため、粗大な金属間化合物が増加し、耐カラー割れ性に劣った。
【0065】
No.12は、Fe含有量が下限値未満のため、亜結晶粒径が大きくなり、耐カラー割れ性に劣った。No.13は、Fe含有量が上限値を超えるため、また、Al純度が下限値未満のため、粗大な金属間化合物が増加し、耐カラー割れ性に劣った。 No.14は、Al純度が下限値未満のため、粗大な金属間化合物が増加し、耐カラー割れ性に劣った。
【0066】
No.15は、Cu含有量が上限値を超えるため、加工硬化を招き、耐カラー割れ性に劣った。No.16は、Mn含有量が上限値を超えるため、粗大な金属間化合物が増加し、耐カラー割れ性に劣った。No.17は、Mn含有量が上限値を超えるため、また、調質焼鈍の温度が上限値を超えるため、粗大な金属間化合物が増加し、また、亜結晶粒径が大きくなり、耐カラー割れ性に劣った。
【0067】
No.18は、Cr含有量が上限値を超えるため、粗大な金属間化合物が増加し、耐カラー割れ性に劣った。No.19は、Ti含有量が上限値を超えるため、粗大な金属間化合物が増加し、耐カラー割れ性に劣った。No.20は、Ti含有量が上限値を超えるため、粗大な金属間化合物が増加し、耐カラー割れ性に劣った。No.21は、Fe含有量が上限値を超えるため、粗大な金属間化合物が増加し、耐カラー割れ性に劣った。
【0068】
(製造方法による評価)
表2に示すように、参考例であるNo.22〜27は、耐カラー割れ性に優れていた。
【0069】
一方、比較例であるNo.28〜34は、本発明の範囲を満たさないため、以下の結果となった。
No.28は、均質化熱処理の温度が下限値未満のため、亜結晶粒径が大きくなり、耐カラー割れ性に劣った。No.29は、均質化熱処理の温度が上限値を超えるため、粗大な金属間化合物が増加し、また、亜結晶粒径が大きくなり、耐カラー割れ性に劣った。
【0070】
No.30は、熱間仕上げ圧延の終了温度が下限値未満のため、圧延自体が困難であり、フィン材の製造ができなかった。No.31は、熱間仕上げ圧延の終了温度が上限値を超えるため、亜結晶粒径が大きくなり、耐カラー割れ性に劣った。No.32は、調質焼鈍の温度が上限値を超えるため、亜結晶粒径が大きくなり、耐カラー割れ性に劣った。No.33は、均質化熱処理の温度が上限値を超えるため、粗大な金属間化合物が増加し、また、亜結晶粒径が大きくなり、耐カラー割れ性に劣った。No.34は、中間焼鈍を行なったため、冷間加工率が下限値未満となったものである。そのため、亜結晶粒の平均粒径が上限値を超え、耐カラー割れ性に劣った。
【0071】
(表面処理を施した場合の評価)
No.35〜42における表面処理を施したフィン材の耐カラー割れ性は、表面処理を実施していないフィン材と同様の結果となった。
【0072】
なお、No.16、13、17、33のフィン材は、それぞれ特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4に記載された従来のアルミニウム合金フィン材を想定したものである。本実施例で示すように、これら従来のアルミニウム合金フィン材は、前記の評価において一定の水準を満たさないものである。従って、本実施例によって、本発明に係る熱交換器用アルミニウム合金フィン材が従来のアルミニウム合金フィン材と比較して、優れていることが客観的に明らかとなった。
【0073】
以上、本発明に係るフィン材およびその製造方法について実施の形態および実施例を示して詳細に説明したが、本発明の趣旨は前記した内容に限定されるものではない。なお、本発明の内容は、前記した記載に基づいて広く改変・変更等することができることはいうまでもない。