特許第5807105号(P5807105)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友理工株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5807105-高分子スピーカ 図000008
  • 特許5807105-高分子スピーカ 図000009
  • 特許5807105-高分子スピーカ 図000010
  • 特許5807105-高分子スピーカ 図000011
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5807105
(24)【登録日】2015年9月11日
(45)【発行日】2015年11月10日
(54)【発明の名称】高分子スピーカ
(51)【国際特許分類】
   H04R 23/00 20060101AFI20151021BHJP
【FI】
   H04R23/00 310
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-207995(P2014-207995)
(22)【出願日】2014年10月9日
(62)【分割の表示】特願2013-547159(P2013-547159)の分割
【原出願日】2012年11月27日
(65)【公開番号】特開2015-6011(P2015-6011A)
(43)【公開日】2015年1月8日
【審査請求日】2014年11月5日
(31)【優先権主張番号】特願2011-259892(P2011-259892)
(32)【優先日】2011年11月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115657
【弁理士】
【氏名又は名称】進藤 素子
(74)【代理人】
【識別番号】100115646
【弁理士】
【氏名又は名称】東口 倫昭
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 貴雅
(72)【発明者】
【氏名】吉川 均
(72)【発明者】
【氏名】近藤 光由
(72)【発明者】
【氏名】中野 克彦
【審査官】 ▲吉▼澤 雅博
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エラストマーまたは樹脂製の誘電層と、該誘電層の表裏両面に配置される複数の電極層と、を有する電歪素子を備える高分子スピーカであって、
該電極層は、高分子バインダーおよび導電材を含み弾性率が100MPa以下の導電材料からなり、該電極層の体積抵抗率は200Ω・cm以下であり、
該誘電層のばね定数と該電極層のばね定数との和である該電歪素子のばね定数は、3000N/m以下であることを特徴とする高分子スピーカ。
【請求項2】
前記導電材料の前記高分子バインダーは、エラストマーである請求項1に記載の高分子スピーカ。
【請求項3】
前記誘電層は、弾性率が20MPa以下のエラストマー製である請求項1または請求項2に記載の高分子スピーカ。
【請求項4】
前記導電材料の弾性率は、10MPa以下である請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の高分子スピーカ。
【請求項5】
前記電極層の体積抵抗率は、2Ω・cm以下である請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の高分子スピーカ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動部に電歪素子を使用した高分子スピーカに関する。
【背景技術】
【0002】
電気信号を音に変換するスピーカとして、ダイナミック型スピーカユニットが知られている。ダイナミック型スピーカユニットは、永久磁石、ボイスコイル、振動板等から構成される。ダイナミック型スピーカユニットによると、振動板の前方と後方とにおいて、音の位相が逆になる。このため、後方から出た音が前方へ回り込むと、前方の音と後方の音とが互いに打ち消し合って、小さな音になってしまう。したがって、後方から出た音の前方への回り込みを遮断するため、ダイナミック型スピーカユニットは、エンクロージャーに組み込まれた状態で使用される。この場合、エンクロージャー内の空気により、振動板の動きが阻害されないようにする必要がある。よって、エンクロージャーが大型化しやすい。
【0003】
一方、薄型のスピーカとして、ジルコン酸チタン酸鉛やポリフッ化ビニリデン樹脂等の圧電体を利用した圧電スピーカが開発されている(例えば、特許文献2、3参照)。しかし、圧電体は高剛性であるため、低周波領域の音が出にくいという問題がある。これに対して、特許文献4、5には、エラストマー製の誘電層の表裏両面に、一対の電極を配置して構成されるトランスデューサが開示されている。この種のトランスデューサにおいては、電極間への印加電圧を大きくすると、電極間の静電引力が大きくなり、電極間に挟まれた誘電層は厚さ方向から圧縮される。これにより、誘電層の厚さは薄くなる。誘電層が薄くなると、その分、誘電層は面方向に伸びる。一方、電極間への印加電圧を小さくすると、電極間の静電引力が小さくなるため、誘電層に対する圧縮力が小さくなる。このため、誘電層は厚くなる。誘電層が厚くなると、その分、誘電層は面方向に収縮する。電圧に対する誘電層の厚さの変化を利用して、当該トランスデューサをスピーカとして用いることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−312094号公報
【特許文献2】特開2006−5800号公報
【特許文献3】特開2007−74502号公報
【特許文献4】特表2001−524278号公報
【特許文献5】特開2011−72112号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記トランスデューサをスピーカとして用いる場合、誘電層にバイアス電圧を印加した状態で、音の電気信号としての交流電圧を重畳させる。この際、電極間の静電引力に応じて、誘電層は伸縮を繰り返す。しかし、電極が硬いと、電極により誘電層の動きが阻害され、充分な音圧が得られない。また、誘電層が伸張された際、電極にクラックが生じるおそれがある。この場合、導電性が低下して、電極としての役割を果たせなくなる。また、以下に説明するように、電極が硬いほど、低周波数領域の音圧が出にくくなる。
【0006】
図1に、任意のスピーカの音圧周波数特性の模式図を示す。図1に示すように、低周波数領域においては、周波数に比例して音圧は大きくなる。ここで、音圧が最大になる周波数を、一次共振周波数(f)という。一次共振周波数は、次式(1)により導出される。
【数1】
式(1)に示すように、一次共振周波数は、スピーカの振動部のばね定数(k)に比例する。ばね定数は、振動部の弾性率に比例する。したがって、振動部の弾性率が大きいと、換言すれば、振動部に硬い材料を用いると、一次共振周波数は大きくなる。すなわち、図1において、一次共振周波数(f)が右方向(高周波数側)にシフトする。こうなると、低周波数領域の音圧は小さくなる。したがって、スピーカの振動部として、電極間に誘電層を介装した電歪素子を用いる場合、電極のばね定数が大きいと、低周波数領域の音が出にくくなる。
【0007】
上記特許文献5に記載されているように、スピーカの電極は、例えば、高分子バインダーに導電材を配合した導電材料から形成することができる。この場合、導電材の配合量を少なくすれば、導電材料の弾性率は小さくなるため、柔軟な電極を形成することができる。しかし、導電材の配合量が少ないと、電極の電気抵抗は大きくなる。電極の電気抵抗が大きいと、以下に説明するように、高周波数領域の音が出にくくなる。
【0008】
電極間に誘電層を介装した電歪素子を用いたスピーカにおいて、電極層と誘電層とは、疑似的に、電気抵抗とコンデンサとが直列接続された、ローパスフィルタを構成している。よって、出力される音圧が3db低下する遮断周波数(f)は、次式(2)により導出される。
【数2】
式(2)に示すように、遮断周波数は、電極の電気抵抗(R)および誘電層の静電容量(C)に反比例する。したがって、電極の電気抵抗が大きいと、遮断周波数が小さくなる。すなわち、図1において、遮断周波数(f)が左方向(低周波数側)にシフトする。こうなると、高周波数領域の音圧は小さくなる。
【0009】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、軽量かつ薄型化が可能であり、低周波数から高周波数までの広い周波数領域において実用的な音圧を得ることができる高分子スピーカを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明の高分子スピーカは、エラストマーまたは樹脂製の誘電層と、該誘電層の表裏両面に配置される複数の電極層と、を有する電歪素子を備える高分子スピーカであって、該電極層は、高分子バインダーおよび導電材を含み弾性率が100MPa以下の導電材料からなり、該電極層の体積抵抗率は200Ω・cm以下であり、該誘電層のばね定数と該電極層のばね定数との和である該電歪素子のばね定数は、3000N/m以下であることを特徴とする。
【0011】
本発明の高分子スピーカにおいて、音の電気信号としての交流電圧が電極層間に印加されると、電極層間の静電引力に応じて誘電層の厚さが変化することにより、誘電層が振動する。これにより、電歪素子の表裏両側から音が発生する。発生する音の位相は、電歪素子の表側と裏側とにおいて、同じである。このため、従来のダイナミック型スピーカユニットとは異なり、裏側から出た音が表側へ回り込んでも、打ち消し合うことはない。したがって、エンクロージャーは必要ない。また、電歪素子は、エラストマーまたは樹脂製の誘電層と電極層とからなる。このため、本発明の高分子スピーカは、永久磁石やボイスコイルを有する従来のダイナミック型スピーカユニットと比較して、薄く軽量である。また、比較的低コストで製造することができる。このように、本発明の高分子スピーカは、軽量で薄型化が可能であり、比較的安価である。なお、「エラストマーまたは樹脂製」とは、誘電層のベース材料が、エラストマーまたは樹脂であることを意味する。よって、エラストマーまたは樹脂成分の他に、添加剤等の他の成分を含んでいても構わない。エラストマーには、ゴムおよび熱可塑性エラストマーが含まれる。
【0012】
本発明の高分子スピーカの電極層は、高分子バインダーおよび導電材を含む導電材料から形成される。当該導電材料の弾性率は100MPa以下である。本明細書においては、電極層および誘電層の弾性率を、幅(w)10mm、長さ(l)25mmの短冊状の試料により測定し、電極層および誘電層の面方向のばね定数を、次式(3)により算出した。
【数3】
【0013】
電極層は、柔軟である。したがって、電極層は、誘電層の伸縮を阻害しにくく、伸張されてもクラックを生じにくい。また、電極層の面方向のばね定数が小さく、電歪素子の面方向のばね定数が3000N/m以下であるため、電歪素子における一次共振周波数が小さくなる。すなわち、図2に点線で示すように、一次共振周波数(f)が左方向(低周波数側)にシフトする。このため、本発明の高分子スピーカによると、より低周波数側の音を出力することができると共に、低周波数領域における音圧が大きくなる。なお、「面方向」は、表裏方向に対して直交する方向である。
【0014】
また、本発明の高分子スピーカの電極層の体積抵抗率は、200Ω・cm以下である。電極層の電気抵抗が小さいため、遮断周波数が大きくなる。すなわち、図2に一点鎖線で示すように、遮断周波数(f)が右方向(高周波数側)にシフトする。このため、本発明の高分子スピーカによると、より高周波数側の音を出力することができると共に、高周波数領域における音圧が大きくなる。このように、本発明の高分子スピーカによると、一次共振周波数と遮断周波数との間隔を広げることにより、再生可能な周波数領域を広げることができる。すなわち、低周波数から高周波数までの広い周波数領域において、大きな音圧を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】任意のスピーカの音圧周波数特性を示す模式図である。
図2】本発明の高分子スピーカの音圧周波数特性を示す模式図である。
図3】実施形態の高分子スピーカの斜視図である。
図4図3のIV−IV断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の高分子スピーカの実施の形態について説明する。
【0017】
<高分子スピーカ>
[構成]
まず、本発明の一実施形態である高分子スピーカの構成を説明する。図3に、本実施形態の高分子スピーカの斜視図を示す。図4に、図3のIV−IV断面図を示す。図3図4に示すように、高分子スピーカ1は、電歪素子10と、表側フレーム20aと、裏側フレーム20bと、を備えている。
【0018】
表側フレーム20aおよび裏側フレーム20bは、各々、樹脂製であり、リング状を呈している。表側フレーム20aおよび裏側フレーム20bは、電歪素子10の周縁部を挟んで対向して配置されている。表側フレーム20aと裏側フレーム20bとは、八つのボルト21、八つのナット22により、固定されている。「ボルト21−ナット22」のセットは、高分子スピーカ1の周方向に所定間隔ずつ離間して配置されている。ボルト21は、表側フレーム20a前面から裏側フレーム20b後面までを貫通している。ナット22は、ボルト21の貫通端に螺着されている。
【0019】
電歪素子10は、表側フレーム20aと裏側フレーム20bとの間に、介装されている。電歪素子10は、誘電層11と、一対の電極層12a、12bと、からなる。誘電層11は、弾性率3.5MPaの水素化ニトリルゴム(H−NBR)製であり、円形の薄膜状を呈している。誘電層11の面方向のばね定数は、75.6N/mである。
【0020】
電極層12a、12bは、いずれも、アクリルゴムとケッチェンブラックとを含む導電材料からなる。当該導電材料の弾性率は、1.5MPaである。電極層12a、12bの面方向のばね定数は3N/mであり、体積抵抗率は14Ω・cmである。電歪素子10の面方向のばね定数は、81.6(=75.6+3+3)N/mである。電極層12a、12bは、各々、誘電層11よりも小径の、円形の薄膜状を呈している。電極層12a、12bは、各々、誘電層11と略同心円状に配置されている。電極層12a、12bは、各々、端子部120a、120bを有する。端子部120a、120bは、各々、電極層12a、12bの上方の外周縁から拡径方向に突出している。端子部120a、120bは、各々、短冊状を呈している。端子部120a、120bには、配線を介して、直流バイアス電源30および交流電源31が接続されている。
【0021】
[製造方法]
次に、本実施形態の高分子スピーカの製造方法について説明する。まず、離型性フィルムを二枚準備して、一方のフィルムの表面に導電材料を含む塗料を印刷して、電極層12aを形成する。同様に、他方のフィルムの表面に、電極層12bを形成する。次に、誘電層11の表面に一方のフィルムを貼り合わせ、当該フィルムに形成された電極層12aを、誘電層11の表面に転写する。また、誘電層11の裏面に他方のフィルムを貼り合わせ、当該フィルムに形成された電極層12bを、誘電層11の裏面に転写する。それから、二枚の離型性フィルムを、誘電層11から剥離する。このようにして、誘電層11の表裏両面に電極層12a、12bを形成し、電歪素子10を作製する。次に、電歪素子10の周縁部を、表側フレーム20aと裏側フレーム20bとにより、挟持する。この状態で、表側フレーム20aと裏側フレーム20bとを、八つのボルト21、八つのナット22により、固定する。このようにして、高分子スピーカ1を製造する。
【0022】
[動き]
次に、本実施形態の高分子スピーカの動きについて説明する。初期状態において、電極層12a、12bには、直流バイアス電源30から所定のバイアス電圧が印加されている。この状態で、交流電源31から、再生対象となる音声に基づく交流電圧を、電極層12a、12bに印加する。すると、誘電層11の膜厚の変化により、図4に白抜き矢印で示すように、電歪素子10が前後方向に振動する。これにより、空気が振動し、音声が発生する。
【0023】
[作用効果]
次に、本実施形態の高分子スピーカの作用効果について説明する。本実施形態の高分子スピーカ1において、電歪素子10は、エラストマー製の誘電層11と、その表裏両面に形成された電極層12a、12bと、からなる。このため、高分子スピーカ1は、永久磁石やボイスコイルを有する従来のダイナミック型スピーカユニットと比較して、薄く軽量である。また、比較的低コストで製造することができる。さらに、高分子スピーカ1は、エンクロージャーを必要としない。したがって、高分子スピーカ1は、軽量かつ薄型であり、比較的安価である。
【0024】
誘電層11は、弾性率が20MPa以下のH−NBR製である。このため、誘電層11は、柔軟で伸縮性に優れる。また、電極層12a、12bは、高分子バインダーとしてアクリルゴムを含み、弾性率が10MPa以下の導電材料からなる。電極層12a、12bの面方向のばね定数は3N/mである。このため、電極層12a、12bも柔軟で、誘電層11と一体となって伸縮可能である。すなわち、電極層12a、12bは、誘電層11の動きを阻害しにくく、伸張されてもクラックを生じにくい。また、電極層12a、12bの面方向のばね定数は小さく、電歪素子10の面方向のばね定数も3000N/m以下である。このため、電歪素子10における一次共振周波数が小さくなる。したがって、高分子スピーカ1において、より低周波数側の音を出力することができると共に、低周波数領域における音圧が大きくなる。
【0025】
また、電極層12a、12bの体積抵抗率は、200Ω・cm以下である。電極層12a、12bの電気抵抗が小さいため、遮断周波数が大きくなる。したがって、高分子スピーカ1において、より高周波数側の音を出力することができると共に、高周波数領域における音圧が大きくなる。このように、高分子スピーカ1によると、低周波数から高周波数までの広い周波数領域において、大きな音圧を得ることができる。
【0026】
以上、本発明の高分子スピーカの一実施形態について説明した。しかしながら、本発明の高分子スピーカの実施の形態は、上記形態に限定されるものではない。以下、本発明の高分子スピーカの電歪素子について、詳しく説明する。
【0027】
<電歪素子>
本発明の高分子スピーカにおける電歪素子は、エラストマーまたは樹脂製の誘電層と、該誘電層の表裏両面に配置される複数の電極層と、を有する。
【0028】
誘電層に好適なエラストマーとしては、水素化ニトリルゴム(H−NBR)、ニトリルゴム(NBR)、シリコーンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、アクリルゴム、ウレタンゴム、エピクロロヒドリンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、塩素化ポリエチレン等が挙げられる。また、エポキシ化天然ゴム、カルボキシル基変性水素化ニトリルゴム(XH−NBR)等のように、官能基を導入するなどして変性したエラストマーを用いてもよい。あるいは、極性官能基を有する極性低分子量化合物を添加したエラストマーを用いてもよい。
【0029】
誘電層に好適な樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリスチレン(架橋発泡ポリスチレンを含む)、ポリ塩化ビニル、塩化ビニリデン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。
【0030】
また、誘電層を柔軟にして、音圧の大きい領域を低周波数側に拡大するという観点から、誘電層には、弾性率が20MPa以下のエラストマー材料を用いるとよい。また、誘電層の厚さを薄くすると、より多くの電荷を蓄えることができるため、出力される音圧を大きくすることができる。加えて、誘電層の面方向のばね定数を、小さくすることができる。
【0031】
誘電層は、エラストマーまたは樹脂成分の他に、添加剤等の他の成分を含んでいても構わない。例えば、誘電層の耐絶縁破壊性を高くするという観点から、絶縁性の無機フィラーを配合することができる。無機フィラーとしては、例えば、シリカ、酸化チタン、チタン酸バリウム、炭酸カルシウム、クレー、焼成クレー、タルク等が挙げられる。
【0032】
電極層は、高分子バインダーおよび導電材を含む導電材料からなる。高分子バインダーとしては、エラストマー、オイル等を用いることができる。伸縮性を有する電極層を形成するという観点から、エラストマーが好適である。エラストマーとしては、シリコーンゴム、NBR、EPDM、天然ゴム、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、アクリルゴム、ウレタンゴム、エピクロロヒドリンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、塩素化ポリエチレン等の架橋ゴム、およびスチレン系、オレフィン系、塩ビ系、ポリエステル系、ポリウレタン系、ポリアミド系等の熱可塑性エラストマーが挙げられる。また、エポキシ基変性アクリルゴム、カルボキシル基変性水素化ニトリルゴム等のように、官能基を導入するなどして変性したエラストマーを用いてもよい。
【0033】
導電材の種類は、特に限定されない。カーボンブラック、カーボンナノチューブ、グラファイト等の炭素材料、銀、金、銅、ニッケル、ロジウム、パラジウム、クロム、チタン、白金、鉄、およびこれらの合金等の金属粉末等から、適宜選択すればよい。また、金属以外の粒子の表面を金属で被覆した被覆粒子を使用してもよい。この場合、金属だけで構成する場合と比較して、導電材の比重を小さくすることができる。よって、塗料化した場合に、導電材の沈降が抑制されて、分散性が向上する。また、粒子を加工することにより、様々な形状の導電材を容易に製造することができる。また、導電材のコストを低減することができる。被覆する金属としては、先に列挙した銀等の金属材料を用いればよい。また、金属以外の粒子としては、カーボンブラック等の炭素材料、炭酸カルシウム、二酸化チタン、酸化アルミニウム、チタン酸バリウム等の金属酸化物、シリカ等の無機物、アクリルやウレタン等の樹脂等を用いればよい。導電材は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。
【0034】
導電材料の弾性率は、100MPa以下である。より柔軟な電極層を形成するためには、導電材料の弾性率を、10MPa以下とすることが望ましい。一方、導電材料(電極層)の体積抵抗率は、200Ω・cm以下である。電極層の電気抵抗を小さくして、高周波数領域の音圧を大きくするためには、電極層の体積抵抗率を、2Ω・cm以下とすることが望ましい。導電材料の弾性率と導電性とを両立できるように、導電材の種類、粒子径、形状、配合量等を決定すればよい。
【0035】
導電材料は、高分子バインダーおよび導電材に加えて、必要に応じて分散剤、補強剤、可塑剤、老化防止剤、着色剤等の添加剤を含んでいてもよい。例えば、高分子バインダーとしてエラストマーを用いる場合、当該エラストマー分のポリマーを溶剤に溶解したポリマー溶液に、導電材、必要に応じて添加剤を添加して、攪拌、混合することにより、塗料を調製することができる。調製した塗料を、誘電層の表裏両面に直接塗布することにより、電極層を形成すればよい。あるいは、離型性フィルムに塗料を塗布して電極層を形成し、形成した電極層を誘電層の表裏両面に転写してもよい。
【0036】
塗料の塗布方法としては、既に公知の種々の方法を採用することができる。例えば、インクジェット印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷、パッド印刷、リソグラフィー等の印刷法の他、ディップ法、スプレー法、バーコート法等が挙げられる。例えば、印刷法を採用すると、塗布する部分と塗布しない部分との塗り分けを、容易に行うことができる。また、大きな面積、細線、複雑な形状の印刷も容易である。印刷法の中でも、高粘度の塗料が使用でき、塗膜厚さの調整が容易であるという理由から、スクリーン印刷法が好適である。
【0037】
電極層の面方向のばね定数を小さくするためには、電極層の厚さを薄くすることが望ましい。また、低周波数領域における音圧を大きくするという観点から、電歪素子のばね定数を3000N/m以下とする。電歪素子のばね定数は、電極層の面方向のばね定数と、誘電層の面方向のばね定数と、の和で算出される。
【0038】
電歪素子を構成する誘電層、電極層の数は、特に限定されない。例えば、上記実施形態のように、一つの誘電層の表裏両面に、電極層を一つずつ配置することができる。あるいは、複数の誘電層を電極層を介して積層してもよい。この場合、印加電圧に対する電歪素子の変形量が大きくなり、出力される音圧を大きくすることができる。また、誘電層を面方向に伸張させた状態で、電歪素子をフレーム等の支持部材に固定してもよい。
【0039】
電極層の大きさや形状は、誘電層に電圧を印加することができれば、特に限定されない。例えば、電極層を、誘電層の全面を覆うように配置してもよい。また、帯状、リング状等の電極層を、誘電層の表裏両面に複数配置してもよい。本発明の高分子スピーカにおいては、誘電層の表面の電極層と、誘電層と、誘電層の裏面の電極層と、の重複部分が、音を出力するスピーカ部として機能する。スピーカ部(重複部分)の面積が大きいほど、静電容量が大きくなる。これにより、遮断周波数が低周波数側にシフトして、低周波領域の音圧が大きくなる。したがって、電極層の配置パターンを調整することにより、一つの高分子スピーカにおいて、異なる周波数領域の音を再生可能な複数のスピーカ部を設定してもよい。
【実施例】
【0040】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0041】
<電極層>
[電極層の製造]
下記表1に示す電極層用ポリマー、導電材等から、種々の電極層を製造した。まず、電極層用ポリマーを、溶剤1000質量部に溶解し、ポリマー溶液を調製した。溶剤としては、実施例1〜11についてはブチルセロソルブアセテート(BCA)を、実施例12についてはトルエンを使用した。次に、調製したポリマー溶液に、導電材を所定の質量割合で添加し、分散させて、塗料を調製した。導電材として銀粉末を添加したものについては、三本ロールにて分散させ、それ以外については、ビーズミルにて分散させた。また、電極層2、4については、導電材と共に、分散剤としてポリエステル酸アマイドアミン塩も添加した。電極層9〜11については、ポリマー溶液に、架橋剤のポリイソシアネートを添加した。それから、調製した塗料を、アクリル樹脂製の基材表面にスクリーン印刷し、150℃で約1時間加熱して、薄膜状の電極層を製造した。電極層7については、比較のため、市販のカーボンペースト(十条ケミカル(株)製「JELCON CH−8」)を、基材表面にスクリーン印刷して、製造した。
【0042】
製造した電極層の厚さは、表1に示す通りである。電極用ポリマーおよび架橋剤としては、次の材料を使用した。
エポキシ基含有アクリルゴム:日本ゼオン(株)製「Nipol(登録商標)AR42W」。
ヒドロキシル基含有アクリルゴムA:n−エチルアクリレート(98質量%)と2−ヒドロキシエチルメタクリレート(2質量%)との共重合体(質量分子量は90万程度)。
ヒドロキシル基含有アクリルゴムB:n−ブチルアクリレート(98質量%)と2−ヒドロキシエチルメタクリレート(2質量%)との共重合体(質量分子量は90万程度)。
ポリウレタン系熱可塑性エラストマー:日本ポリウレタン工業(株)製「ニッポラン(登録商標)5193」。
シリコーンゴム:信越化学工業(株)製「KE−1935」。
架橋剤:日本ポリウレタン工業(株)製「コロネート(登録商標)HL」。
【0043】
[電極層の物性]
(1)ばね定数の算出
製造した電極層を、幅(w)10mm、長さ(l)25mmの短冊状に切り出して、試料を作製した。そして、当該試料について、JIS K7127(1999)に準じた引張試験を行い、得られた応力−伸び曲線から、弾性率を算出した。また、算出した弾性率を前出式(3)に代入して、当該試料の面方向のばね定数を算出した。表1に、電極層の弾性率およびばね定数を示す。
【0044】
(2)体積抵抗率の測定
製造した電極層の体積抵抗率を、JIS K6271(2008)の平行端子電極法に準じて測定した。表1に、電極層の体積抵抗率を示す。
【表1】
【0045】
<誘電層>
[誘電層の製造]
下記表2に示す誘電層用ポリマー等から、種々の誘電層を製造した。誘電層1、2については、まず、カルボキシル基含有水素化ニトリルゴムポリマー(ランクセス社製「テルバン(登録商標)XT8889」)を、アセチルアセトンに溶解した。誘電層3については、まず、同ポリマーと、シリカ(東ソー・シリカ(株)製湿式シリカ「Nipsil(登録商標)VN3」、pH5.5〜6.5、比表面積240m/g)と、をロール練り機にて混練りし、ゴム組成物を調製した。そして、調製したゴム組成物を、アセチルアセトンに溶解した。次に、得られたポリマー溶液に、有機金属化合物のテトラキス(2−エチルヘキシルオキシ)チタンを添加して、混合した。それから、混合溶液を、アクリル樹脂製の基材表面にスクリーン印刷し、150℃で約1時間加熱して、薄膜状の誘電層を製造した。製造した誘電層の厚さは、表2に示す通りである。
【0046】
[誘電層の物性]
製造した誘電層を、幅(w)10mm、長さ(l)25mmの短冊状に切り出して、試料を作製した。そして、当該試料について、JIS K7127(1999)に準じた引張試験を行い、得られた応力−伸び曲線から、弾性率を算出した。また、算出した弾性率を前出式(3)に代入して、当該試料の面方向のばね定数を算出した。表2に、誘電層の弾性率およびばね定数を示す。
【表2】
【0047】
<電歪素子の製造>
製造した電極層と誘電層とを適宜組み合わせて、種々の電歪素子を製造した。まず、電極層を、基材ごと直径50mmの円形状に切り出した。次に、基材から剥離した誘電層の表面および裏面に、各々、電極層を基材ごと貼着した。それから、電極層から基材を剥離して、電極層/誘電層/電極層からなる電歪素子を製造した。誘電層の表裏両面には、同じ種類の電極層を貼着した。電歪素子のばね定数を、誘電層のばね定数と、二つの電極層のばね定数と、の和から算出した。また、電歪素子の表面抵抗率を、JIS K6271(2008)の二重リング電極法に準じて測定した。電歪素子のばね定数および表面抵抗率を、下記表3に示す。
【表3】
【0048】
<電歪素子の評価>
製造した電歪素子に、誘電層の厚さに対して30V/μmの直流バイアス電圧を印加した。この状態で、低周波数(200Hz)の交流電圧(3V/μm)を印加して、出力される音圧を測定した。同様に、高周波数(2000Hz)の交流電圧を印加して、出力される音圧を測定した。結果を上記表3にまとめて示す。
【0049】
表3に示すように、実施例1〜13の電歪素子においては、周波数の高低に関わらず、いずれも40dB/m以上の大きな音圧が得られた。これに対して、電極層(導電材料)の弾性率が100MPaを超え、電極層のばね定数が誘電層のばね定数より大きい比較例1、2の電歪素子における音圧は、低周波数でも高周波数でも、40dB/m未満であった。実施例のなかでも、実施例1、2、4、5、10〜12の電歪素子においては、低周波数の音圧が60dB/m以上になった。この結果から、電極層(導電材料)の弾性率が10MPa以下であり、電極層のばね定数が誘電層のばね定数より小さく、電歪素子のばね定数が120N/m以下の場合には、低周波数の音圧がより大きくなることがわかる。また、体積抵抗率が2Ω・cm以下の電極層2〜6を備える実施例2、3、5、7〜9の電歪素子においては、他の実施例の電歪素子よりも、高周波数の音圧が大きくなった。この結果から、電極層の体積抵抗率を小さくすると、高周波数の音圧を大きくするのに有効であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の高分子スピーカは、例えば、自動車のヘッドレストスピーカ、シートスピーカ、天井スピーカ、フロアスピーカ、インストルメントパネルスピーカ、ドアスピーカ等として用いることができる。勿論、車両以外に配置してもよい。また、本発明の高分子スピーカは、音を再現するだけでなく、アクティブノイズキャンセラとして用いてもよい。
【符号の説明】
【0051】
1:高分子スピーカ、10:電歪素子、11:誘電層、12a、12b:電極層、120a、120b:端子部、20a:表側フレーム、20b:裏側フレーム、21:ボルト、22:ナット、30:直流バイアス電源、31:交流電源。
図1
図2
図3
図4