(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の電極の導電性は、充分とは言えない。特に、伸張時における電気抵抗の増加が大きい。薄膜状の電極は、通常、エラストマー成分が溶解したポリマー溶液に、導電材を分散させた導電塗料から形成される。例えば、導電材として、ストラクチャーを有する導電性カーボンブラックを用いる場合、導電性カーボンブラックをポリマー溶液中に均一に分散させるには、ガラスビーズ等のメディアを用いる湿式分散機、ジェットミル、超音波分散機等を用いる必要がある。しかし、これらを用いると、一次粒子が破壊されて結晶性が低下したり、アスペクト比が小さくなる。このため、形成される電極の導電性が低下してしまう。
【0006】
一方、カーボンナノチューブとしては、直径が異なる様々な構造のものが知られている。例えば、直径が150nm程度の大径のカーボンナノチューブは、三本ロール等を用いて、ポリマー溶液に簡単に分散させることができる。また、大径のカーボンナノチューブを用いた場合、導電塗料を調製する際に、粘度が上昇しにくい。しかし、エラストマーに大径のカーボンナノチューブのみを配合した場合、カーボンナノチューブ同士の接触点が少ないという問題がある。このため、伸張されると、カーボンナノチューブ同士の絡み合いを維持することができず、電気抵抗が増加してしまう。一方、直径が30nm未満の小径のカーボンナノチューブを用いると、表面積が大きくなる分、ポリマー溶液に分散させた際の粘度上昇が大きい。このため、小径のカーボンナノチューブを用いた場合、導電塗料を調製することは難しい。
【0007】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、導電性が高く、塗料化が容易な導電性組成物を提供することを課題とする。また、導電性が高く、伸張時にも電気抵抗が増加しにくい導電膜を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記課題を解決するため、本発明の導電性組成物は、エラストマー成分と、黒鉛構造を有し繊維径が30nm以上の繊維状炭素材料と、ストラクチャーを有する導電性カーボンブラックと、を含むことを特徴とする。
【0009】
上述したように、エラストマーに、導電材として大径の繊維状炭素材料を配合した場合、導電材同士の接触点が少ないため、伸張時の導電性を確保することが難しい。この点、本発明の導電性組成物によると、繊維径が30nm以上の比較的大径の繊維状炭素材料に加えて、ストラクチャーを有する導電性カーボンブラックを配合する。これにより、導電膜を形成した場合に、繊維状炭素材料の間に導電性カーボンブラックが充填される。繊維状炭素材料の間を、導電性カーボンブラックが橋渡しすることにより、伸張時における電気抵抗の増加を抑制することができる。以下、模式図を用いて、本発明の効果を説明する。
【0010】
図1に、伸びに対する各導電材料の体積抵抗率の変化を模式的に示す。
図1に示すように、エラストマーに導電性カーボンブラックのみを配合した場合(CB単独)、伸張による体積抵抗率の変化は小さいが、元々の体積抵抗率が比較的大きい。つまり、エラストマーに導電性カーボンブラックのみを配合した導電材料においては、導電性が低い。一方、エラストマーに大径の繊維状炭素材料のみを配合した場合、導電性カーボンブラックを配合した場合と比較して、自然状態(伸張前)の体積抵抗率は小さくなる。しかし、伸張されるに従って、急激に体積抵抗率が上昇してしまう。これに対して、本発明の導電性組成物から形成される導電膜によると、自然状態において、大径の繊維状炭素材料による高い導電性を発現すると共に、伸張時には、導電性カーボンブラックの橋渡し効果により、体積抵抗率の増加が緩和される。ちなみに、エラストマーに小径の繊維状炭素材料のみを配合した場合、自然状態の体積抵抗率は小さく、伸張による体積抵抗率の変化も小さい。しかし、小径の繊維状炭素材料の場合、ポリマー溶液に分散させると粘度上昇が大きいため、塗料化することが難しい。このため、例えば、スクリーン印刷法により、薄膜状の導電膜を形成することはできない。
【0011】
この点、本発明の導電性組成物は、繊維径が30nm以上の比較的大径の繊維状炭素材料を用いる。比較的大径の繊維状炭素材料は、三本ロール等を用いて、ポリマー溶液に簡単に分散させることができる。そして、粘度上昇も小さい。また、三本ロールを用いた分散によると、導電性カーボンブラックに対して、過度の剪断力や衝撃が加わらないため、ストラクチャーが破壊されにくく、結晶性の低下も抑制される。このように、本発明の導電性組成物は、塗料化が容易であると共に、導電性に優れた導電膜を実現することができる。
【0012】
塗料の塗布方法としては、スクリーン印刷、インクジェット印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、パッド印刷、メタルマスク印刷、リソグラフィー等の印刷法の他、ディップ法、スプレー法、バーコート法等が挙げられる。塗料化した本発明の導電性組成物の粘度は、比較的小さい。このため、印刷法に好適である。印刷法によると、薄膜や大面積の導電膜を、容易に形成することができる。また、塗布する部分と塗布しない部分との塗り分けも、容易である。このため、細線や複雑な形状の導電膜であっても、容易に形成することができる。
【0013】
(2)本発明の導電膜は、上記本発明の導電性組成物から形成される。すなわち、本発明の導電膜は、エラストマーと、黒鉛構造を有し繊維径が30nm以上の繊維状炭素材料と、ストラクチャーを有する導電性カーボンブラックと、を含む。上述したように、本発明の導電膜においては、繊維状炭素材料の間を、導電性カーボンブラックが橋渡しする。したがって、本発明の導電膜は、高い導電性を有し、伸張時にも電気抵抗が増加しにくい。
【0014】
(3)本発明の電磁波シールドは、上記(2)の構成の本発明の導電膜からなる。
【0015】
本発明の電磁波シールドは、柔軟で、高い導電性を有し、伸張時にも電気抵抗が増加しにくい。したがって、伸縮性を有する部材に使用しても、シールド性能が低下しにくい。よって、本発明の電磁波シールドは、耐久性に優れる。
【0016】
(4)本発明のトランスデューサは、ポリマー製の誘電層と、該誘電層を介して配置される複数の電極と、複数の該電極と各々接続される配線と、を備え、該電極および該配線の少なくとも一方は、上記(2)の構成の本発明の導電膜からなる。
【0017】
トランスデューサは、ある種類のエネルギーを他の種類のエネルギーに変換する装置である。トランスデューサには、機械エネルギーと電気エネルギーとの変換を行うアクチュエータ、センサ、発電素子等、あるいは音響エネルギーと電気エネルギーとの変換を行うスピーカ、マイクロフォン等が含まれる。本発明の導電膜から形成される電極、配線は、柔軟で、高い導電性を有し、伸張時にも電気抵抗が増加しにくい。このため、本発明のトランスデューサによると、誘電層の動きが、電極や配線により規制されにくい。また、伸縮を繰り返しても、電気抵抗が増加しにくい。したがって、本発明のトランスデューサにおいては、電極や配線に起因した性能の低下が生じにくい。よって、本発明のトランスデューサは、耐久性に優れる。
【0018】
(5)本発明のフレキシブル配線板は、基材と、該基材の表面に配置されている配線と、を備え、配線の少なくとも一部は、上記(2)の構成の本発明の導電膜からなる。
【0019】
本発明の導電膜から形成される配線は、柔軟で、高い導電性を有し、伸張時にも電気抵抗が増加しにくい。したがって、本発明のフレキシブル配線板によると、基材が伸縮しても性能が低下しにくい。よって、本発明のフレキシブル配線板は、耐久性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<導電性組成物>
本発明の導電性組成物は、エラストマー成分と、黒鉛構造を有し繊維径が30nm以上の繊維状炭素材料と、ストラクチャーを有する導電性カーボンブラックと、を含む。本明細書において、エラストマーは、架橋ゴムおよび熱可塑性エラストマーを含む。したがって、本発明の導電性組成物を構成するエラストマー成分としては、架橋前のゴムポリマーおよび熱可塑性エラストマーが挙げられる。
【0023】
エラストマーとしては、常温でゴム状弾性を有するという観点から、ガラス転移温度(Tg)が室温以下のものを用いることが望ましい。Tgが低くなると、結晶性が低下する。このため、エラストマーが、より伸縮しやすくなる。例えば、Tgが−20℃以下、さらには−35℃以下のものが、より柔軟で好適である。エラストマーとしては、一種を単独で、あるいは二種以上を混合して用いることができる。
【0024】
また、変形を繰り返した場合の復元性に優れるという理由から、エラストマーは、架橋ゴムであることが望ましい。また、熱可塑性エラストマーのように、ハードセグメントとソフトセグメントとのミクロ相分離構造を有し、疑似架橋しているものでもよい。例えば、架橋性官能基を有するものとして、ウレタンゴム、アクリルゴム、シリコーンゴム、ブチルゴム、ブタジエンゴム、エチレンオキシド−エピクロロヒドリン共重合体、ニトリルゴム、クロロプレンゴム、天然ゴム、イソプレンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体(EPDM)、シリコーンゴム、ポリエステルゴム等が挙げられる。なかでも、アクリルゴムは、結晶性が低く分子間力が弱いため、他のゴムと比較してTgが低い。よって、柔軟で伸びがよく、アクチュエータやセンサの電極等に好適である。
【0025】
繊維状炭素材料としては、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ等が挙げられる。これらのうち、黒鉛構造を有し、繊維径が30nm以上のものを用いればよい。なかでも、結晶性が高く、導電性が高いという観点から、ラマンスペクトルの1580cm
−1付近に現れるピーク(Gバンド)と1330cm
−1付近に現れるピーク(Dバンド)との強度比(G/D比)が1.8以上のカーボンナノチューブが好適である。カーボンナノチューブとしては、底の空いたカップ状の炭素網が積層した構造を有するカップ積層型カーボンナノチューブ等、節状の構造を有するものでもよい。また、繊維径が大きいと、ポリマー溶液に分散させやすい。このため、繊維径が50nm以上、さらには80nm以上のものが好適である。一方、繊維径が大きくなると、導電膜を形成した場合に、単位質量当たりの繊維状炭素材料の個数が、少なくなる。これにより、導電経路が形成されにくくなる。したがって、繊維径は、1000nm以下であることが望ましい。繊維状炭素材料としては、一種を単独で用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。
【0026】
導電性カーボンブラックは、分散した繊維状炭素材料の間に介在し、繊維状炭素材料同士を繋いで導電性を維持する役割を果たす。また、繊維状炭素材料をポリマー溶液に分散させた場合、繊維状炭素材料間の隙間が小さいと、粘度が上昇しやすい。このため、導電性カーボンブラックは、繊維状炭素材料間に介在することにより、繊維状炭素材料間の隙間を大きくして、粘度の上昇を抑制する役割も果たす。例えば、導電性カーボンブラックの一次粒子径は、50nm以下であることが望ましい。また、ストラクチャーが大きいものが好適である。
【0027】
本発明の導電性組成物は、有機溶剤、および架橋剤、架橋促進剤、架橋助剤、分散剤、可塑剤、加工助剤、老化防止剤、軟化剤、着色剤等の添加剤を含んでいてもよい。架橋反応に寄与する架橋剤、架橋促進剤、架橋助剤等については、エラストマーの種類等に応じて、適宜選択すればよい。
【0028】
分散剤を添加すると、導電性カーボンブラックの過度の凝集を抑制することができる。これにより、導電性カーボンブラックの凝集による粘度上昇、擬塑性の増大を抑制することができる。分散剤としては、繊維状炭素材料および導電性カーボンブラックに対する親和性が高い化合物を用いればよい。例えば、アミノ基、カルボキシル基等の置換基や、フェニル基、ピレン、ポルフィリンの誘導体等のπ共役系を含む置換基を有する高分子化合物、あるいは、リン酸塩、アミン塩、ポリエーテル、ポリエステル、ポリウレタン等が好適である。また、エラストマーに対する親和性が高い高分子化合物を用いてもよい。例えば、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、アクリルアミド等の重合体が挙げられる。また、繊維状炭素材料、導電性カーボンブラック、およびエラストマーの全てに対する親和性が高い高分子化合物として、ポリウレタン、ポリアミン、これらの共重合体、ポリアミド等が挙げられる。
【0029】
可塑剤、軟化剤を添加すると、エラストマーの加工性が向上すると共に、柔軟性をより向上させることができる。可塑剤は、エラストマーとの相溶性に優れるものであればよい。例えば、公知のフタル酸ジエステル等の有機酸誘導体、リン酸トリクレジル等のリン酸誘導体、アジピン酸ジエステル、塩素化パラフィン、ポリエーテルエステル等を使用することができる。軟化剤としては、植物系軟化剤や、鉱物系軟化剤を使用すればよい。植物系軟化剤としては、ステアリン酸、ラウリン酸、リシノール酸、パルミチン酸、綿実油、大豆油、ひまし油、パーム油、パインタール油、トール油、ファクチス等が挙げられる。鉱物系軟化剤としては、パラフィン系、ナフテン系、アロマ系のオイルが挙げられる。
【0030】
本発明の導電性組成物は、例えば、エラストマー成分と、繊維状炭素材料と、導電性カーボンブラックと、必要に応じて配合される添加剤と、を混合した混合物を、ニーダー、バンバリーミキサー等の加圧式混練機、二本ロール等により混練して、調製することができる。あるいは、エラストマー成分を有機溶剤に溶解したポリマー溶液に、繊維状炭素材料と、導電性カーボンブラックと、必要に応じて配合される添加剤と、を添加して、三本ロール等により混合して、調製することができる(導電塗料)。後者において、粘度の測定を、固形分濃度が20質量%以上で、B型粘度計H7ロータにより、温度25℃、回転速度20rpmの条件で行った場合、本発明の導電性組成物の粘度は、200Pa・s以下であることが望ましい。こうすることにより、本発明の導電性組成物から、印刷法により、導電膜を容易に形成することができる。
【0031】
印刷法のなかでも、スクリーン印刷またはメタルマスク印刷が好適である。スクリーン印刷やメタルマスク印刷によると、安価に製版でき、様々な形状、大面積の導電膜を、容易に形成することができる。例えば、印刷パターン一枚あたりの面積が0.2m
2以上の大面積であっても、導電膜の形成が可能である。また、膜厚制御が容易であるため、例えば50μm以上の厚膜であっても、導電膜を容易に形成することができる。導電膜の厚さが大きいと、電気抵抗が小さくなるため、素子の性能を向上させることができる。
【0032】
<導電膜>
本発明の導電膜は、上記本発明の導電性組成物から形成される。例えば、混練により調製された導電性組成物を、プレス成形することにより導電膜を形成することができる。あるいは、塗料状に調製された導電性組成物(導電塗料)を、基材に塗布し、加熱により乾燥させて、導電膜を形成することができる。塗布の方法は、既に公知の種々の方法を採用することができる。なかでも、上述したように、スクリーン印刷法が好適である。
【0033】
本発明の導電膜の厚さは、用途に応じて適宜決定すればよい。例えば、本発明の導電膜を、アクチュエータ、センサ等の電極や配線として用いる場合には、1μm以上500μm以下の厚さにするとよい。本発明の導電膜においては、伸張時にも電気抵抗が増加しにくい。例えば、柔軟なトランスデューサの電極や配線等、伸縮を繰り返す部位に用いることを考慮すると、本発明の導電膜を一軸方向に50%伸張した場合の体積抵抗率は、0.5Ω・cm以下であることが望ましい。
【0034】
本発明の導電膜は、用途に応じて、誘電層を含む種々の基材の表面に形成される。基材としては、例えば、ポリイミド、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等からなる屈曲性を有する樹脂シート、伸縮性を有するエラストマーシート等が挙げられる。エラストマーとしては、アクリルゴム、EPDM、ニトリルゴム、ウレタンゴム、ブチルゴム、シリコーンゴム、クロロプレンゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体、熱可塑性エラストマー(オレフィン系、スチレン系、ポリエステル系、アクリル系、ウレタン系、塩ビ系)等が挙げられる。本発明の導電膜を、伸縮可能な基材の表面に形成した場合には、柔軟性が高く、伸張時にも電気抵抗が増加しにくいという効果を、より発揮させることができる。例えば、JIS K6251:2010に準じて測定される切断時伸びが、5%以上の基材が好適である。
【0035】
基材に対する導電膜の接着性が充分でない場合、伸縮を繰り返すうちに、導電膜が基材から剥離するおそれがある。また、導電膜と基材との間にボイドが入るなどして、絶縁破壊を招くおそれがある。したがって、導電膜は、基材に確実に接着されていることが望ましい。例えば、導電膜を形成する導電性組成物のエラストマー成分として、架橋性官能基を有するポリマーを用い、基材として、官能基を有するポリマーを用いる。そして、エラストマー成分の架橋時に基材の官能基と反応させることにより、導電膜と基材とを化学結合により接着させることができる。これにより、導電膜と基材との接着性を向上させることができる。例えば、基材に表面処理を施して、官能基を付与することができる。表面処理は、コロナ放電、プラズマ、レーザー、紫外線等の照射、プライマーの塗布等により行えばよい。
【0036】
<電磁波シールド>
本発明の電磁波シールドは、本発明の導電膜からなる。電磁波シールドは、電子機器の内部で発生した電磁波が外部に漏れるのを抑制したり、外部からの電磁波を内部へ侵入させにくくする役割を果たす。例えば、電子機器の筐体の内周面に、電磁波シールドを配置する場合には、液状に調製した本発明の導電性組成物を、電子機器の筐体の内周面に塗布し、乾燥させればよい。
【0037】
<トランスデューサ>
本発明のトランスデューサは、ポリマー製の誘電層と、該誘電層を介して配置される複数の電極と、複数の該電極と各々接続される配線と、を備える。本発明のトランスデューサは、誘電層と電極とを交互に積層させた積層構造を有していてもよい。
【0038】
誘電層は、ポリマー、すなわち、樹脂またはエラストマーから形成される。エラストマーは、伸縮性を有するため好適である。なかでも、変位量および発生力を大きくするという観点から、比誘電率の高いエラストマーを用いることが望ましい。具体的には、常温における比誘電率(100Hz)が2以上、さらには5以上のエラストマーが望ましい。例えば、エステル基、カルボキシル基、水酸基、ハロゲン基、アミド基、スルホン基、ウレタン基、ニトリル基等の極性官能基を有するエラストマー、あるいは、これらの極性官能基を有する極性低分子量化合物を添加したエラストマーを採用するとよい。好適なエラストマーとしては、シリコーンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、水素添加アクリロニトリル−ブタジエンゴム(H−NBR)、EPDM、アクリルゴム、ウレタンゴム、エピクロロヒドリンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、塩素化ポリエチレン等が挙げられる。なお、「ポリマー製」とは、誘電層のベース材料が、樹脂またはエラストマーであることを意味する。よって、エラストマーまたは樹脂成分の他に、添加剤等の他の成分を含んでいても構わない。
【0039】
誘電層の厚さは、トランスデューサの用途等に応じて適宜決定すればよい。例えば、アクチュエータの場合、小型化、低電位駆動化、および変位量を大きくする等の観点から、誘電層の厚さは薄い方が望ましい。この場合、絶縁破壊性等をも考慮して、誘電層の厚さを、1μm以上1000μm(1mm)以下とすることが望ましい。5μm以上200μm以下とすると、より好適である。
【0040】
電極および配線の少なくとも一方は、本発明の導電膜からなる。本発明の導電膜の構成、および製造方法については、上述した通りである。よって、ここでは説明を割愛する。また、本発明のトランスデューサの電極、配線においても、本発明の導電膜の好適な態様を採用することが望ましい。以下、本発明のトランスデューサの一例として、アクチュエータの実施形態を説明する。
【0041】
図3に、本実施形態のアクチュエータの断面模式図を示す。(a)は電圧オフ状態、(b)は電圧オン状態を各々示す。
【0042】
図3に示すように、アクチュエータ1は、誘電層10と、電極11a、11bと、配線12a、12bと、を備えている。誘電層10は、シリコーンゴム製である。電極11aは、誘電層10の上面の略全体を覆うように、配置されている。同様に、電極11bは、誘電層10の下面の略全体を覆うように、配置されている。電極11a、11bは、各々、配線12a、12bを介して電源13に接続されている。電極11a、11bは、本発明の導電性組成物をスクリーン印刷して形成した導電膜からなる。
【0043】
オフ状態からオン状態に切り替える際は、一対の電極11a、11b間に電圧を印加する。電圧の印加により、誘電層10の厚さは薄くなり、その分だけ、
図3(b)中白抜き矢印で示すように、電極11a、11b面に対して平行方向に伸張する。これにより、アクチュエータ1は、図中上下方向および左右方向の駆動力を出力する。
【0044】
本実施形態によると、電極11a、11bは、柔軟で伸縮性を有する。このため、誘電層10の動きが、電極11a、11bにより規制されにくい。よって、アクチュエータ1によると、大きな力および変位量を得ることができる。また、電極11a、11bは、高い導電性を有する。加えて、伸縮を繰り返しても、電気抵抗が増加しにくい。したがって、アクチュエータ1においては、電極11a、11bに起因した性能の低下が生じにくい。よって、アクチュエータ1は、耐久性に優れる。
【0045】
<フレキシブル配線板>
本発明のフレキシブル配線板は、基材と、該基材の表面に配置されている配線と、を備える。基材の材質は、特に限定されない。本発明の導電膜を形成する基材の好適例として挙げられた、屈曲性を有する樹脂シート、伸縮性を有するエラストマーシート等を用いればよい。
【0046】
配線の少なくとも一部は、本発明の導電膜からなる。本発明の導電膜の構成、および製造方法については、上述した通りである。よって、ここでは説明を割愛する。また、本発明のフレキシブル配線板においても、本発明の導電膜の好適な態様を採用することが望ましい。以下、本発明のフレキシブル配線板の一実施形態を説明する。
【0047】
まず、本実施形態のフレキシブル配線板の構成について説明する。
図4に、本実施形態のフレキシブル配線板の上面透過図を示す。なお、
図4中、裏側の電極、配線については細線で示す。
図4に示すように、フレキシブル配線板5は、基材50と、表側電極01X〜16Xと、裏側電極01Y〜16Yと、表側配線01x〜16xと、裏側配線01y〜16yと、表側配線用コネクタ51と、裏側配線用コネクタ52と、を備えている。
【0048】
基材50は、ウレタンゴム製であって、シート状を呈している。表側電極01X〜16Xは、基材50の上面に、合計16本配置されている。表側電極01X〜16Xは、各々、帯状を呈している。表側電極01X〜16Xは、各々、X方向(左右方向)に延在している。表側電極01X〜16Xは、Y方向(前後方向)に、所定間隔ごとに離間して、互いに略平行になるように、配置されている。同様に、裏側電極01Y〜16Yは、基材50の下面に、合計16本配置されている。裏側電極01Y〜16Yは、各々、帯状を呈している。裏側電極01Y〜16Yは、各々、Y方向に延在している。裏側電極01Y〜16Yは、X方向に、所定間隔ごとに離間して、互いに略平行になるように、配置されている。
図4にハッチングで示すように、基材50を挟んで、表側電極01X〜16Xと裏側電極01Y〜16Yとが交差する部分(重複する部分)により、荷重等を検出する検出部が形成されている。
【0049】
表側配線01x〜16xは、基材50の上面に、合計16本配置されている。表側配線01x〜16xは、各々、線状を呈している。表側配線01x〜16xは、本発明の導電性組成物をスクリーン印刷して形成した導電膜からなる。表側配線用コネクタ51は、基材50の左後隅に配置されている。表側配線01x〜16xは、各々、表側電極01X〜16Xの左端と、表側配線用コネクタ51と、を接続している。また、基材50の上面、表側電極01X〜16X、表側配線01x〜16xは、上方から、表側カバーフィルム(図略)により覆われている。
【0050】
裏側配線01y〜16yは、基材50の下面に、合計16本配置されている。裏側配線01y〜16yは、各々、線状を呈している。裏側配線01y〜16yは、本発明の導電性組成物をスクリーン印刷して形成した導電膜からなる。裏側配線用コネクタ52は、基材50の左前隅に配置されている。裏側配線01y〜16yは、各々、裏側電極01Y〜16Yの前端と、裏側配線用コネクタ52と、を接続している。また、基材50の下面、裏側電極01Y〜16Y、裏側配線01y〜16yは、下方から、裏側カバーフィルム(図略)により覆われている。
【0051】
表側配線用コネクタ51、裏側配線用コネクタ52には、各々、演算部(図略)が電気的に接続されている。演算部には、表側配線01x〜16xおよび裏側配線01y〜16yから、検出部におけるインピーダンスが入力される。これに基づいて、面圧分布が測定される。
【0052】
次に、本実施形態のフレキシブル配線板5の作用効果について説明する。本実施形態によると、表側配線01x〜16xおよび裏側配線01y〜16yは、各々、柔軟で伸縮性を有する。このため、基材50の変形に追従して変形することができる。また、表側配線01x〜16xおよび裏側配線01y〜16yは、各々、高い導電性を有し、伸張時にも電気抵抗が増加しにくい。したがって、フレキシブル配線板5においては、基材50が伸縮しても性能が低下しにくい。よって、フレキシブル配線板5は、耐久性に優れる。このように、フレキシブル配線板5は、伸縮可能な素子を電気回路に接続するのに好適である。
【実施例】
【0053】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0054】
<導電性組成物の調製および導電膜の製造>
[実施例1]
まず、アクリルゴムポリマー(日本ゼオン(株)製「Nipol(登録商標)AR42W」)100質量部と、架橋剤のイソホロンジアミン0.25質量部と、をロール練り機にて混合し、混合物を調製した。次に、混合物を、溶剤のエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートに溶解して、ポリマー溶液を調製した。続いて、調製したポリマー溶液に、カーボンナノチューブ(昭和電工(株)製「VGCF(登録商標)」、繊維径150nm、長さ10μm、G/D比=5)35質量部と、導電性カーボンブラック(ケッチェンブラックインターナショナル社製「ケッチェンブラックEC300J」)18質量部と、分散剤としてアミノ基を含む高分子化合物(ビックケミー・ジャパン(株)製「BYK−185」)20質量部と、を添加して、三本ロールにて混練りして、導電性組成物(以下適宜、「導電塗料」と称す)を調製した。
【0055】
導電塗料の粘度を、B型粘度計H7ロータにより、温度25℃、回転速度20rpmの条件で測定した。その結果、導電塗料の粘度は、175Pa・sであった。後の塗膜乾燥時の不揮発分の質量を測定して、導電塗料の固形分濃度を算出した。その結果、導電塗料の固形分濃度は、25質量%であった。
【0056】
次に、導電塗料を、PET製の基材表面にバーコート法により塗布した。その後、150℃下で1時間加熱して、塗膜を乾燥させると共に、架橋反応を進行させた。このようにして、厚さ30μmの導電膜を製造した。
【0057】
製造した導電膜の凍結割断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した。
図2に、実施例1の導電膜の凍結割断面のSEM写真を示す。
図2に示すように、導電膜中には、繊維状のカーボンナノチューブが、分散している。また、分散したカーボンナノチューブの隙間を埋めるように、ストラクチャー状の導電性カーボンブラックが充填されている。
【0058】
[実施例2]
カーボンナノチューブの種類を変更して、導電塗料を調製した。すなわち、実施例1において調製したポリマー溶液に、カーボンナノチューブ(昭和電工(株)製「VGCF−S」、繊維径80nm、長さ8μm、G/D比=5)15質量部と、導電性カーボンブラック(同上)11質量部と、分散剤(同上)20質量部と、を添加して、三本ロールにて混練りして、導電塗料を調製した。そして、実施例1と同様にして、導電膜を製造した。実施例1と同様に、導電塗料の固形分濃度を算出し、導電塗料の粘度を測定したところ、固形分濃度は22質量%であり、粘度は168Pa・sであった。
【0059】
[実施例3]
エラストマーの種類を変更して、導電塗料を調製した。まず、シリコーンゴムポリマー(信越化学工業(株)製「X40−3291−1」)100質量部を、溶剤のキシレンに溶解して、ポリマー溶液を調製した。次に、調製したポリマー溶液に、実施例1と同じカーボンナノチューブ20質量部と、導電性カーボンブラック(同上)11質量部と、分散剤(同上)10質量部と、を添加して、三本ロールにて混練りして、導電塗料を調製した。そして、実施例1と同様にして、導電膜を製造した。実施例1と同様に、導電塗料の固形分濃度を算出し、導電塗料の粘度を測定したところ、固形分濃度は28質量%であり、粘度は88Pa・sであった。
【0060】
[実施例4]
カーボンナノチューブの種類を変更して、導電塗料を調製した。すなわち、実施例1において調製したポリマー溶液に、カップ積層型カーボンナノチューブ((株)GSIクレオス製「カルベール(登録商標)24HHT」、繊維径(外径)80nm、長さ5μm、G/D比=5)15質量部と、導電性カーボンブラック(同上)11質量部と、分散剤(同上)20質量部と、を添加して、三本ロールにて混練りして、導電塗料を調製した。そして、実施例1と同様にして、導電膜を製造した。実施例1と同様に、導電塗料の固形分濃度を算出し、導電塗料の粘度を測定したところ、固形分濃度は20質量%であり、粘度は190Pa・sであった。
【0061】
[実施例5]
カーボンナノチューブの種類を変更して、導電塗料を調製した。すなわち、実施例1において調製したポリマー溶液に、カーボンナノチューブ(保土谷化学工業(株)製「MWNT−7」、繊維径70nm、長さ10μm、G/D比=5)15質量部と、導電性カーボンブラック(同上)11質量部と、分散剤(同上)20質量部と、を添加して、三本ロールにて混練りして、導電塗料を調製した。そして、実施例1と同様にして、導電膜を製造した。実施例1と同様に、導電塗料の固形分濃度を算出し、導電塗料の粘度を測定したところ、固形分濃度は20質量%であり、粘度は157Pa・sであった。
【0062】
[比較例1]
カーボンナノチューブの種類を変更して、導電塗料を調製した。すなわち、実施例1において調製したポリマー溶液に、カーボンナノチューブ(昭和電工(株)製「VGCF−X」、繊維径15nm、長さ3μm、G/D比=1)25質量部と、導電性カーボンブラック(同上)10質量部と、分散剤(同上)20質量部と、を添加して、三本ロールにて混練りして、導電塗料を調製した。そして、実施例1と同様にして、導電膜を製造した。実施例1と同様に、導電塗料の固形分濃度を算出し、導電塗料の粘度を測定したところ、固形分濃度は16質量%であり、粘度は618Pa・sであった。
【0063】
[比較例2]
カーボンナノチューブの種類を変更して、導電塗料を調製した。すなわち、実施例1において調製したポリマー溶液に、実施例1と同じカーボンナノチューブ7質量部と、比較例1と同じカーボンナノチューブ20質量部と、導電性カーボンブラック(同上)12質量部と、分散剤(同上)20質量部と、を添加して、三本ロールにて混練りして、導電塗料を調製した。そして、実施例1と同様にして、導電膜を製造した。実施例1と同様に、導電塗料の固形分濃度を算出し、導電塗料の粘度を測定したところ、固形分濃度は16質量%であり、粘度は441Pa・sであった。
【0064】
表1に、使用した原料の種類、配合量、導電塗料の固形分濃度および粘度を示す。表1中、原料の配合量は、導電膜の質量(固形分)を100質量%とした場合の質量割合である。
【表1】
【0065】
<導電性組成物および導電膜の評価>
製造した導電膜の導電性を、次のようにして評価した。まず、自然状態(伸張前)における導電膜の体積抵抗率を、測定した。体積抵抗率の測定は、JIS K6271(2008)の平行端子電極法に準じて行った。体積抵抗率の測定において、導電膜(試験片)を支持する絶縁樹脂製支持具には、市販のゴムシート(住友スリーエム(株)製「VHB(登録商標)4910」)を用いた。次に、導電膜を一軸方向に伸張率50%で伸張させて、体積抵抗率を測定した。伸張率は、次式(1)により算出した値である。
伸張率(%)=(ΔL
0/L
0)×100・・・(1)
[L
0:試験片の標線間距離、ΔL
0:試験片の標線間距離の伸張による増加分]
体積抵抗率の測定結果を、上記表1にまとめて示す。表1に示すように、実施例1〜5の導電膜は、いずれも高い導電性を有し、伸張時における体積抵抗率の増加が小さいことが確認された。具体的には、実施例1〜5の導電膜を一軸方向に50%伸張した場合の体積抵抗率は、いずれも0.5Ω・cm以下であった。
【0066】
また、実施例1〜5の導電塗料については、固形分濃度が20質量%以上であるにも関わらず、粘度が200Pa・s以下であった。導電塗料の粘度が小さいため、実施例1〜5の導電塗料によると、スクリーン印刷等の印刷法により、導電膜を容易に形成することができる。一方、繊維径が30nm未満の小径のカーボンナノチューブを配合した比較例1、2の導電塗料については、固形分濃度が20質量%未満であるにも関わらず、粘度が200Pa・sを大きく超えていた。したがって、導電膜を形成するために、スクリーン印刷法を用いることはできない。