(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
金属支持基板と、前記金属支持基板上に形成された第一絶縁層と、前記第一絶縁層上に形成された第一導体層と、前記第一導体層上に形成された第二絶縁層と、前記第二絶縁層上に形成された第二導体層と、前記第二導体層上に形成された第三絶縁層とを有する回路基板であって、
前記第一絶縁層の線熱膨張係数が、前記金属支持基板の線熱膨張係数よりも大きく、
前記第二絶縁層および前記第三絶縁層の線熱膨張係数の両方が、前記金属支持基板の線熱膨張係数よりも小さい、回路基板。
前記金属支持基板、前記第一導体層および前記第二導体層の材料の線熱膨張係数が10ppm/℃〜30ppm/℃の範囲内であり、前記第二絶縁層および前記第三絶縁層の材料がポリイミド樹脂である、請求項1に記載の回路基板。
前記金属支持基板の材料がSUS304であり、前記第一導体層および前記第二導体層の材料がCuであり、前記第一絶縁層、前記第二絶縁層および前記第三絶縁層の材料がポリイミド樹脂である、請求項1または請求項2に記載の回路基板。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の回路基板、サスペンション用基板、サスペンション、素子付サスペンションおよびハードディスクドライブについて詳細に説明する。
【0033】
A.回路基板
まず、本発明の回路基板について説明する。本発明の回路基板は、金属支持基板と、上記金属支持基板上に形成された第一絶縁層と、上記第一絶縁層上に形成された第一導体層と、上記第一導体層上に形成された第二絶縁層と、上記第二絶縁層上に形成された第二導体層と、上記第二導体層上に形成された第三絶縁層とを有する回路基板であって、上記第一絶縁層の線熱膨張係数が、上記金属支持基板の線熱膨張係数よりも大きく、上記第二絶縁層および上記第三絶縁層の線熱膨張係数の少なくとも一方が、上記金属支持基板の線熱膨張係数よりも小さいことを特徴とするものである。
【0034】
図1は、本発明の回路基板の一例を示す概略平面図である。より具体的には、サスペンション用基板の一例を示す概略平面図である。なお、便宜上、第三絶縁層(カバー層)の記載は省略している。
図1に示される回路基板20は、ヘッド部側に形成され、素子を実装する素子実装領域11と、テール部側に形成され、外部回路基板との接続を行う外部回路基板接続領域12と、素子実装領域11および外部回路基板接続領域12の間を電気的に接続する配線層13とを有する。
【0035】
図2は、
図1のA−A断面図である。
図2における回路基板は、金属支持基板1と、金属支持基板1上に形成された第一絶縁層2と、第一絶縁層2上に形成された第一導体層3と、第一導体層3を覆うように形成された第二絶縁層4と、第二絶縁層4上に形成された第二導体層5と、第二導体層5を覆うように形成された第三絶縁層6とを有する。さらに、本発明の回路基板は、第一絶縁層2の線熱膨張係数が金属支持基板1の線熱膨張係数よりも大きく、第二絶縁層4および第三絶縁層6の線熱膨張係数の少なくとも一方が金属支持基板1の線熱膨張係数よりも小さいことを大きな特徴とする。さらに、本発明においては、第二絶縁層4および第三絶縁層6の線熱膨張係数の両方が、金属支持基板1の線熱膨張係数よりも小さいことが好ましい。
【0036】
本発明によれば、第一絶縁層の線熱膨張係数が金属支持基板の線熱膨張係数よりも大きく、反りが生じやすい状態であっても、第二絶縁層および第三絶縁層の線熱膨張係数の少なくとも一方を金属支持基板の線熱膨張係数よりも小さくすることにより、第一絶縁層の線熱膨張係数の影響を緩和することができ、結果として反りの小さい回路基板とすることができる。従来、市販の三層材(金属支持基板/第一絶縁層/第一導体層からなる積層部材)は、第一絶縁層の線熱膨張係数が金属支持基板の線熱膨張係数よりも大きい場合がある。このような三層材を用いて回路基板を作製すると、後に形成する第二絶縁層および第三絶縁層のどちらか、あるいは両方の線熱膨張係数の影響により、反りが顕著に生じやすい。これに対して、本発明においては、第一絶縁層の線熱膨張係数の影響を緩和するという観点から、第二絶縁層および第三絶縁層の線熱膨張係数の少なくとも一方を金属支持基板の線熱膨張係数よりも小さくし、これにより反りを小さくすることができる。
【0037】
以下、本発明の回路基板について、構成毎に説明する。
【0038】
1.第一絶縁層
まず、本発明における第一絶縁層について説明する。本発明における第一絶縁層は、金属支持基板上に形成され、金属支持基板および第一導体層を絶縁する層である。
【0039】
第一絶縁層の材料は、特に限定されるものではないが、例えばポリイミド樹脂、ポリベンゾオキサゾール樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、アクリル樹脂、ポリエーテルニトリル樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂およびポリ塩化ビニル樹脂を挙げることができ、中でもポリイミド樹脂が好ましい。絶縁性、耐熱性および耐薬品性に優れているからである。また、第一絶縁層の材料は、感光性材料であっても良く、非感光性材料であっても良い。
【0040】
また、本発明においては、第一絶縁層の線熱膨張係数が、金属支持基板の線熱膨張係数よりも大きいことを一つの特徴とする。本発明における「線熱膨張係数」とは、温度の変化に対する、材料の長さの変化率をいう。さらに、「材料の長さ」とは、材料が各温度となった際の材料の長さをいい、「材料の長さの変化率」とは、各材料の温度が変化した際の、長さの変化(変化後の材料の長さから変化前の材料の長さの差)を、基準の温度における材料の全長で除した値をいう。一般に基準の温度は23℃である。
【0041】
ここで、第一絶縁層の線熱膨張係数と、金属支持基板の線熱膨張係数との差は、0ppm/℃であることが好ましいが、材料選定において線熱膨張係数がずれたものを使用せざるを得ない場合がある。そこで、本発明においては、第一絶縁層の線熱膨張係数が金属支持基板の線熱膨張係数よりも大きい場合を想定している。第一絶縁層の線熱膨張係数と、金属支持基板の線熱膨張係数との差は、13ppm/℃以下であることが好ましく、8ppm/℃の範囲内であることがより好ましく、5ppm/℃の範囲内であることがさらに好ましい。上記の差が大きすぎると、第一絶縁層の線熱膨張係数の影響を、第二絶縁層および第三絶縁層が緩和することが困難になる可能性があるからである。また、両者の差は、通常0ppm/℃よりも大きく、後述する実施例に記載するように、両者の差が3ppm/℃以上であっても、反りを十分に小さくすることが可能である。
【0042】
また、第一絶縁層の線熱膨張係数の具体的な値は、金属支持基板の線熱膨張係数との差により規定されるものである。例えば、金属支持基板の材料がSUS304(線熱膨張係数:17.3ppm/℃)である場合、第一絶縁層の線熱膨張係数は、17.3ppm/℃よりも大きければ特に限定されるものではないが、例えば30.3ppm/℃以下であることが好ましく、25.3ppm/℃以下であることがより好ましく、22.3ppm/℃以下であることがさらに好ましい。
【0043】
また、第一絶縁層の線湿度膨張係数は、より小さいことが好ましい。湿度変化による反りを小さくすることができるからである。第一絶縁層の線湿度膨張係数は、例えば20ppm/%RH以下であることが好ましく、12ppm/%RH以下であることがより好ましい。
【0044】
ここで、線湿度膨張係数の測定方法について下記に記載する。
【0045】
まず、温度を25℃に固定し、湿度を15%RH、20%RH、50%RHと変化させる。その後、湿度20%RHと50%RHの伸び量から湿度1%あたりの伸びを計算し、線湿度膨張係数(CHE)とする。なお、計算式は次式の通りである。
【0046】
線湿度膨張係数=湿度1%あたりの伸び/初期長×10
6[ppm/%Rh]
=湿度20%RH〜50%RHの伸び量/30/初期長×10
6[ppm/%Rh]
1)サンプル形態
サンプルサイズ 幅5mm×長さ15mm(掴み+5mm)
厚み 7〜8μm程度
初期状態 十分に乾燥した状態
2)測定条件
装置 RIGAKU製 S−TMA(湿度発生装置付きTMA)
加重 5g
温度 25℃
3)測定方法
1.サンプルの環境が湿度15%RHで安定し、サンプル長が一定となり変化しなく
なってから、0.5h以上保持
2.次にサンプルの環境が湿度20%RHで安定し、サンプル長が一定となり変化し
なくなってから、0.5h以上保持(サンプル長を測定)
3.引き続いてサンプルの環境が湿度50%RHで安定し、サンプル長が一定となり
変化しなくなってから、0.5h以上保持(サンプル長を測定)
4.湿度20%時と湿度50%時の値の差を計算し、1/30して湿度1%あたりの
伸び量を出す
5.湿度1%あたりの伸び量を初期長(15mm)で割り、変化率とする
第一絶縁層の厚さは、金属支持基板および第一導体層の間に所望の絶縁性を発揮できる程度の厚さであれば特に限定されるものではないが、例えば5μm〜30μmの範囲内であることが好ましく、5μm〜18μmの範囲内であることがより好ましく、5μm〜12μmの範囲内であることがさらに好ましい。
【0047】
2.第二絶縁層
次に、本発明における第二絶縁層について説明する。本発明における第二絶縁層は、第一導体層上に形成される層である。通常は、第一導体層を覆うように第二絶縁層が形成される。
【0048】
第二絶縁層の材料は、特に限定されるものではないが、例えばポリイミド樹脂、ポリベンゾオキサゾール樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、アクリル樹脂、ポリエーテルニトリル樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂およびポリ塩化ビニル樹脂を挙げることができ、中でもポリイミド樹脂が好ましい。絶縁性、耐熱性および耐薬品性に優れているからである。また、第二絶縁層の材料は、感光性材料であっても良く、非感光性材料であっても良い。
【0049】
本発明においては、第二絶縁層の線熱膨張係数が金属支持基板の線熱膨張係数よりも小さいことが好ましい。この場合、第二絶縁層の線熱膨張係数と、金属支持基板の線熱膨張係数との差は、13ppm/℃以下であることが好ましく、8ppm/℃以下であることがより好ましく、5ppm/℃以下であることがさらに好ましい。線熱膨張係数の差を上記の上限値以下とすることにより、第一絶縁層の線熱膨張係数の影響を緩和しつつ、逆方向の反りの発生を抑制するため好ましい。また、両者の差は、通常0ppm/℃よりも大きい。
【0050】
また、第二絶縁層の線熱膨張係数の具体的な値は、金属支持基板の線熱膨張係数との差により規定されるものである。例えば、金属支持基板の材料がSUS304(線熱膨張係数:17.3ppm/℃)である場合、第二絶縁層の線熱膨張係数は、例えば4.3ppm/℃以上、17.3ppm/℃未満であることが好ましく、9.3ppm/℃以上、17.3ppm/℃未満であることがより好ましく、12.3ppm/℃以上、17.3ppm/℃未満であることがさらに好ましい。
【0051】
本発明に用いられるポリイミド樹脂(単に、ポリイミドと称する場合がある)は、下記の式(1)の構造を含有するものであることが好ましい。
【0053】
(R
1は4価の有機基、R
2は2価の有機基、R
1およびR
2は、単一構造でも良く、2種以上の組み合わせでも良い。nは1以上の自然数)
式(1)において、一般に、R
1は、テトラカルボン酸二無水物由来の構造であり、R
2はジアミン由来の構造である。
【0054】
本発明に用いられるポリイミドに適用可能な酸二無水物としては、例えば、エチレンテトラカルボン酸二無水物、ブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,6,6’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、1,3−ビス〔(3,4−ジカルボキシ)ベンゾイル〕ベンゼン二無水物、1,4−ビス〔(3,4−ジカルボキシ)ベンゾイル〕ベンゼン二無水物、2,2−ビス{4−〔4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}プロパン二無水物、
2,2−ビス{4−〔3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}プロパン二無水物、ビス{4−〔4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}ケトン二無水物、ビス{4−〔3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}ケトン二無水物、4,4’−ビス〔4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕ビフェニル二無水物、4,4’−ビス〔3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕ビフェニル二無水物、ビス{4−〔4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}ケトン二無水物、ビス{4−〔3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}ケトン二無水物、ビス{4−〔4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}スルホン二無水物、ビス{4−〔3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}スルホン二無水物、ビス{4−〔4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}スルフィド二無水物、ビス{4−〔3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}スルフィド二無水物、2,2−ビス{4−〔4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルプロパン二無水物、2,2−ビス{4−〔3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}−1,1,1,3,3,3−プロパン二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10−ぺリレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,7,8−フェナントレンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
【0055】
これらは単独あるいは2種以上混合して用いられる。
【0056】
本発明に用いられるポリイミドの耐熱性、線熱膨張係数などの観点から好ましく用いられるテトラカルボン酸二無水物は、芳香族テトラカルボン酸二無水物であることが好ましく、特に好ましく用いられるテトラカルボン酸二無水物としてピロメリット酸二無水物、メロファン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,2’,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,6,6’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物が挙げられる。
【0057】
なかでも、ポリイミドの線熱膨張係数を金属支持基板や導体層と同等程度にする観点からは、ピロメリット酸二無水物、メロファン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,2’,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物などの剛直な酸二無水物を用いると、最終的に得られるポリイミドの線熱膨張係数が小さくなるので好ましい。なかでも、線熱膨張係数と入手の容易性やコストとのバランスの観点から、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物が特に好ましい。また、吸湿膨張を低減させる観点から、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,2’,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物が特に好ましい。つまり、線熱膨張係数と線湿度膨張係数とのバランスの観点から、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物が特に好ましい。
【0058】
併用する酸二無水物としてフッ素が導入された酸二無水物を用いると、ポリイミドの線湿度膨張係数が低下する。しかし、フッ素を含んだ骨格を有するポリイミドの前駆体は、塩基性水溶液に溶解しにくく、アルコール等の有機溶媒と塩基性水溶液との混合溶液によって現像を行う必要がある。
【0059】
酸二無水物として脂環骨格を有する場合、線吸湿膨張係数が小さくなり、紫外線や可視光領域の光に対する透明性が向上するというメリットがある。このことから、高感度の感光性樹脂組成物となる。一方で、ポリイミドとした後の耐熱性や絶縁性が芳香族ポリイミドと比較して劣る傾向にある。
【0060】
芳香族のテトラカルボン酸二無水物を用いた場合、耐熱性に優れ、低線熱膨張係数を示すポリイミドとなるというメリットがある。従って、上記ポリイミドにおいて、上記式(1)中のR
1のうち33モル%以上が、下記式(2−1)〜(2−5)で表わされる構造のいずれかであることが好ましい。
【0062】
上記のような構造を有するポリイミドは、高耐熱、低線熱膨張係数を示すポリイミドである。その為、上記式(2−1)〜(2−5)で表わされる構造の含有量は上記式(1)中のR
1のうち100モル%に近ければ近いほど好ましいが、本発明においては33モル%以上含有すれば良く、50モル%以上含有することが好ましく、70モル%以上含有することがより好ましい。
【0063】
一方、本発明に用いられるポリイミドに適用可能なジアミン成分も、1種類のジアミン単独で、または2種類以上のジアミンを併用して用いることができる。用いられるジアミン成分は限定されるわけではないが、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、o−フェニレンジアミン、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,2−ジ(3−アミノフェニル)プロパン、2,2−ジ(4−アミノフェニル)プロパン、2−(3−アミノフェニル)−2−(4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ジ(3−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ジ(4−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2−(3−アミノフェニル)−2−(4−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、1,1−ジ(3−アミノフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ジ(4−アミノフェニル)−1−フェニルエタン、1−(3−アミノフェニル)−1−(4−アミノフェニル)−1−フェニルエタン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノ−α,α−ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノ−α,α−ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノ−α,α−ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノ−α,α−ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、2,6−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゾニトリル、2,6−ビス(3−アミノフェノキシ)ピリジン、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、
ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[3−(3−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、1,3−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,4−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,4−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,4−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,4−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、4,4’−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4’−ビス[4−(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンゾフェノン、4,4’−ビス[4−(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)フェノキシ]ジフェニルスルホン、4,4’−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェノキシ]ジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジフェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジビフェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4−フェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4−ビフェノキシベンゾフェノン、6,6’−ビス(3−アミノフェノキシ)−3,3,3’,3’−テトラメチル−1,1’−スピロビインダン、6,6’−ビス(4−アミノフェノキシ)−3,3,3’,3’−テトラメチル−1,1’−スピロビインダン、1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン、1,3−ビス(4−アミノブチル)テトラメチルジシロキサン、α,ω−ビス(3−アミノプロピル)ポリジメチルシロキサン、α,ω−ビス(3−アミノブチル)ポリジメチルシロキサン、ビス(アミノメチル)エーテル、ビス(2−アミノエチル)エーテル、ビス(3−アミノプロピル)エーテル、ビス(2−アミノメトキシ)エチル]エーテル、ビス[2−(2−アミノエトキシ)エチル]エーテル、ビス[2−(3−アミノプロトキシ)エチル]エーテル、
1,2−ビス(アミノメトキシ)エタン、1,2−ビス(2−アミノエトキシ)エタン、1,2−ビス[2−(アミノメトキシ)エトキシ]エタン、1,2−ビス[2−(2−アミノエトキシ)エトキシ]エタン、エチレングリコールビス(3−アミノプロピル)エーテル、ジエチレングリコールビス(3−アミノプロピル)エーテル、トリエチレングリコールビス(3−アミノプロピル)エーテル、エチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,5−ジアミノペンタン、1,6−ジアミノヘキサン、1,7−ジアミノヘプタン、1,8−ジアミノオクタン、1,9−ジアミノノナン、1,10−ジアミノデカン、1,11−ジアミノウンデカン、1,12−ジアミノドデカン、1,2−ジアミノシクロヘキサン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,2−ジ(2−アミノエチル)シクロヘキサン、1,3−ジ(2−アミノエチル)シクロヘキサン、1,4−ジ(2−アミノエチル)シクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロへキシル)メタン、2,6−ビス(アミノメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,5−ビス(アミノメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、また、上記ジアミンの芳香環上水素原子の一部若しくは全てをフルオロ基、メチル基、メトキシ基、トリフルオロメチル基、又はトリフルオロメトキシ基から選ばれた置換基で置換したジアミンも使用することができる。
【0064】
さらに目的に応じ、架橋点となるエチニル基、ベンゾシクロブテン−4’−イル基、ビニル基、アリル基、シアノ基、イソシアネート基、及びイソプロペニル基のいずれか1種又は2種以上を、上記ジアミンの芳香環上水素原子の一部若しくは全てに置換基として導入しても使用することができる。
【0065】
ジアミンは、目的の物性によって選択することができ、p−フェニレンジアミンなどの剛直なジアミンを用いれば、最終的に得られるポリイミドは線熱膨張係数が小さくなる。剛直なジアミンとしては、同一の芳香環に2つアミノ基が結合しているジアミンとして、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、1,4−ジアミノナフタレン、1,5−ジアミノナフタレン、2、6−ジアミノナフタレン、2,7−ジアミノナフタレン、1,4−ジアミノアントラセンなどが挙げられる。
【0066】
さらに、2つ以上の芳香族環が単結合により結合し、2つ以上のアミノ基がそれぞれ別々の芳香族環上に直接又は置換基の一部として結合しているジアミンが挙げられ、例えば、下記式(3)により表されるものがある。具体例としては、ベンジジン等が挙げられる。
【0068】
(aは0または1以上の自然数、アミノ基はベンゼン環同士の結合に対して、メタ位または、パラ位に結合する。)
さらに、上記式(3)において、他のベンゼン環との結合に関与せず、ベンゼン環上のアミノ基が置換していない位置に置換基を有するジアミンも用いることができる。これら置換基は、1価の有機基であるがそれらは互いに結合していてもよい。
【0069】
具体例としては、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ジトリフルオロメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル等が挙げられる。
【0070】
また、芳香環の置換基としてフッ素を導入すると線湿度膨張係数を低減させることができる。しかし、フッ素を含むポリイミド前駆体、特にポリアミック酸は、塩基性水溶液に溶解しにくく、アルコールなどの有機溶媒との混合溶液で現像する必要がある場合がある。
【0071】
一方、ジアミンとして、1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサンなどのシロキサン骨格を有するジアミンを用いると、基板との密着性を改善したり最終的に得られるポリイミドの弾性率が低下し、ガラス転移温度を低下させることができる。
【0072】
ここで、選択されるジアミンは耐熱性の観点より芳香族ジアミンが好ましいが、目的の物性に応じてジアミンの全体の60モル%、好ましくは40モル%を超えない範囲で、脂肪族ジアミンやシロキサン系ジアミン等の芳香族以外のジアミンを用いても良い。
【0073】
また、上記ポリイミドにおいては、上記式(1)中のR
2のうち33モル%以上が下記式(4−1)〜(4−6)で表わされる構造のいずれかであることが好ましい。
【0075】
(R
3は2価の有機基、酸素原子、硫黄原子、又はスルホン基であり、R
4及びR
5は1価の有機基、又はハロゲン原子である。)
上記のような構造を有する場合、最終的に得られるポリイミドの耐熱性が向上し、線熱膨張係数が小さくなる。その為、上記式(4−1)〜(4−6)で表わされる構造の含有量は上記式(1)中のR
2のうち100モル%に近ければ近いほど好ましいが、本発明においては33%以上含有すれば良く、50モル%以上含有することが好ましく、70モル%以上含有することがより好ましい。
【0076】
上記のポリイミドに加えて必要に応じて適宜、接着性のポリイミドなどと組み合わせて、本発明における第二絶縁層および第三絶縁層として用いてもよい。
【0077】
また、上記のポリイミドを感光性ポリイミドとして利用する際には、公知の手法を用いることができる。たとえば、ポリアミック酸のカルボキシル基にエステル結合やイオン結合でエチレン性二重結合を導入し得られるポリイミド前駆体に、光ラジカル開始剤を混合し、溶剤現像ネガ型感光性ポリイミドとするもの、ポリアミック酸やその部分エステル化物にナフトキノンジアジド化合物を添加し、アルカリ現像ポジ型感光性ポリイミドとするもの、ポリアミック酸にニフェジピン系化合物を添加しアルカリ現像ネガ型感光性ポリイミドとするものなどが挙げられるが、これに限定されない。
【0078】
これらの感光性ポリイミドはポリイミドの重量に対して15%〜35%の感光性付与成分が添加されている。その為、パターン形成後に300℃〜400℃で加熱したとしても、感光性付与成分由来の残差がポリイミド中に残存する。その為、本発明においては、非感光性ポリイミドを用いることが好ましい。
【0079】
特に、本発明においては、第二絶縁層を構成するポリイミド樹脂が、下記式(A−1)または(A−2)で表される構造のいずれかを含有することが、線熱膨張係数が小さいポリイミド樹脂とする観点から好ましい。反りの小さい回路基板を得ることができるからである。
【0081】
(上記式(A−1)および(A−2)中、R
1は、2価の有機基である。)
さらに、本発明においては、第二絶縁層を構成するポリイミド樹脂が、上記式(A−1)で表される構造を含有することが好ましい。線熱膨張係数が小さいポリイミド樹脂とするだけでなく、低湿度膨張を示すポリイミドとすることができ、より反りの小さい回路基板を得ることができるからである。
【0082】
本発明においては、さらに、ポリイミド樹脂の高分子末端の少なくとも一部が、末端封止剤により封止されていてもよい。
【0083】
特に本発明において末端封止剤は下記式(C)で表される構造のいずれかを含有することがポリイミド前駆体の現像性向上の観点から好ましい。
【0085】
(上記式中R3は2価の有機基を示す。)
末端封止剤としては、ポリイミド樹脂の末端基を封止できる酸無水物であれば特に限定されないが、酸無水物基を有する化合物であることがポリイミド前駆体の現像性向上の観点から好ましく、例えば、フタル酸無水物、アルキル基含有フタル酸無水物(4−メチルフタル酸無水物、3−メチルフタル酸無水物、4−tert−ブチルフタル酸無水物等)、ハロゲン化フタル酸無水物(4−クロロフタル酸無水物、4,5−ジクロロフタル酸無水物、テトラクロロフタル酸無水物、4−ブロモフタル酸無水物、テトラブロモフタル酸無水物、4−フルオロフタル酸無水物、3−フルオロフタル酸無水物、テトラフルオロフタル酸無水物等)、カルボキシ含有フタル酸無水物(4−カルボキシフタル酸無水物等)、3,4,5,6−テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸無水物、4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸無水物、ビニル基含有フタル酸無水物(4−ビニルフタル酸無水物、3−ビニルフタル酸無水物等)、エチニル基含有フタル酸無水物(4−エチニルフタル酸無水物、3−エチニルフタル酸無水物、4−フェニルエチニルフタル酸無水物、3−フェニルエチニルフタル酸無水物、4−ナフチルエチニルフタル酸無水物、3−ナフチルエチニルフタル酸無水物、4−アントラセニルエチニルフタル酸無水物、3−アントラセニルエチニルフタル酸無水物等)等のフタル酸化合物の無水物;3−ナフタレンジカルボン酸無水物、エチニルナフタレンジカルボン酸無水物、フェニルエチニルナフタレンジカルボン酸無水物、アントラセニルエチニルナフタレンジカルボン酸無水物等のナフタレンジカルボン酸化合物の無水物;1,2−ナフタル酸無水物;2,3−アントラセンジカルボン酸無水物、エチニルアントラセンジカルボン酸無水物、フェニルエチニルアントラセンジカルボン酸無水物、アントラセニルエチニルアントラセンジカルボン酸無水物等のアントラセンジカルボン酸化合物の無水物;無水トリメリット酸クロリド;無水コハク酸;ビシクロ[2,2,1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸無水物;メチルビシクロ[2,2,1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸無水物;マレイン酸無水物;cis−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物;ナジック酸無水物等が挙げられる。これらの酸無水物が芳香環を有する場合、芳香族環上の水素原子は、炭素数1〜6のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシル基、ハロゲン原子で置換されていてもよい。これらの末端封止剤は単独又は2種類以上組み合わせても使用してもよい。
【0086】
ポリアミド酸の高分子末端を酸無水物によって封止する方法は特に限定されないが下記のような方法が例示される。
【0087】
1)アミノ基が末端となるようなポリアミド酸を重合し、高分子となった状態に対して、酸無水物を反応させるもの
2)予め想定される分子量に対応した量だけ、2つのアミノ基のうち片方のアミノ基だけ酸無水物と反応させたジアミンを原料の1部として用いる方法、
1)の方法は、予め所定の粘度になるように分子量が調整されたポリアミド酸を用いることができるので、末端封止をされたポリアミド酸溶液の粘度の制御が行いやすいというメリットがある。
一方2)の方法は、予め酸無水物と反応したジアミンを原料の一部として使うため、重合後に高分子末端に酸無水物残基が相対的に高い割合で導入されるというメリットがある。
【0088】
これらの末端封止剤を添加することにより導入される、末端封止剤由来の末端基の導入量(単に末端封止基導入量と示すこともある)は特に限定されないが、末端封止剤添加前のポリイミドの末端基量に対して30〜100mol%が好ましく50〜100mol%が好ましく、67〜100mol%がより好ましい。
末端基の導入率が30%未満の場合、塩基性水溶液に対する溶解性向上や、吸湿膨張率の低減といった効果が低くなる。本発明においてはこれらの特性のうち、吸湿膨張率低減については、末端基の導入率が高いほど効果が高く、塩基性水溶液に対する溶解性については導入率が50%までは、導入率が高いほど、溶解性が良好となり、50%を超えるとほぼ一定となる。
これは、以下の2つのメカニズムが影響していると考えられる。
1)末端基由来のカルボキシル基の効果 : 高分子末端のアミノ基が、酸無水物基とアミノ基の反応から生じた末端アミド酸残基となったことにより、塩基性水溶液に対する溶解性が向上したこと
2)分子鎖中のアミド酸のカルボキシル基と分子末端のアミノ基は、分子鎖間でイオン的に相互作用しており、ポリアミド酸は、擬似的な架橋構造を形成している。このような擬似架橋体を形成していると、塩基性水溶液に触れても、ゲル状になり、塩基性溶液への溶解速度が遅くなる。そこで、末端基を導入するとカルボキシル基と塩形成しにくいアミド酸構造となるため、擬似的な架橋体を形成せず、塩基性水溶液に対する溶解速度が向上する。
【0089】
これらの末端封止剤の添加量は、特に限定されないが、末端基導入量が上記範囲となるような量が好ましい。例えば、末端封止剤添加前のポリイミドの末端基量に対して30〜100mol%、65〜100mol%添加するのが好ましく、83〜100mol%添加するのがより好ましい。
【0090】
これらの末端封止剤を用いることによって、現像性を高めることができるため非常に有用である。より具体的には、上記末端封止剤を用いることにより、より短い時間で、現像処理を行うことができる。従って、同様の現像条件を採用した場合、末端封止剤を用いた実施形態は膜の溶解がより充分に行われているため、乾燥後の発埃がより抑えられるため好ましい。これは(式C−1)に示すように末端封止基に含まれるカルボキシル基によりアルカリ性水溶液(現像液)に対する溶解性が向上したものと考えられる。また、加熱後末端基は(式C−2)にように主鎖と同様のイミド基となり、吸湿性の高い置換基であるカルボキシル基が消失する、このため、現像時は塩基性水溶液に対して溶解性が高く、一方で、イミド化後は吸水性を抑制することができ湿度膨張係数が小さくなる。
【0092】
また、これらの末端封止剤のうち、二重結合又は三重結合を有するものが加熱によって分子間で付加反応するため好ましい。加熱温度領域は100〜400℃が望ましく、140〜370℃がより望ましく、180〜350℃がさらにより望ましい。このような二重結合又は三重結合を有する末端封止剤としては、例えば、4−ビニルフタル酸無水物、3−ビニルフタル酸無水物、4−エチニルフタル酸無水物、3−エチニルフタル酸無水物、4−フェニルエチニルフタル酸無水物、3−フェニルエチニルフタル酸無水物、エチニルナフタレンジカルボン酸無水物、フェニルエチニルナフタレンジカルボン酸無水物、エチニルアントラセンジカルボン酸無水物、フェニルエチニルアントラセンジカルボン酸無水物、4−ナフチルエチニルフタル酸無水物、3−ナフチルエチニルフタル酸無水物、4−アントラセニルエチニルフタル酸無水物、3−アントラセニルエチニルフタル酸無水物、アントラセニルエチニルナフタレンジカルボン酸無水物、アントラセニルエチニルアントラセンジカルボン酸無水物(これらの芳香族環上の水素原子は、炭素数1〜6のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシル基、ハロゲン原子で置換されていてもよい)、マレイン酸無水物、cis−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、ナジック酸無水物等が挙げられる。
【0093】
末端封止剤として、二重結合又は三重結合を有するものを用いることにより、ポリイミドの分子鎖が加熱により分子間で付加反応し架橋される。その結果、現像性が高いだけでなく、ポリイミド膜の湿度膨張率を低減することができるため好ましい。ポリイミドの分子鎖が互いに化学結合によって、連結されることにより、水分子のポリイミド膜内部へ浸透が抑制されているためではないかと推測される。本発明のサスペンション用基板は、素子とディスクとを非常に近接させ、かつ接触しない状態で保持させる必要があるため非常に高い形体安定性が所望される。従って、湿度膨張による変形が抑えられた当該実施形態は好ましい。これは先に述べた末端封止により加熱後末端基はイミド基となり低吸水性、低湿度膨張が期待される。さらに、反応性が高くより密な架橋構造を形成できる非芳香族系の二重結合や三重結合を有するものがより好ましく、なかでも三重結合を有するものがより密な架橋構造を形成するので特に好ましい。
【0094】
さらに、本発明においては、上記2価の有機基が、下記式(B−1)〜(B−8)で表される構造のいずれかであることが好ましい。
【0096】
(上記式(B−3)中、R
2およびR
3は、水素または1価の有機基であり、それぞれ同一でも、異なっていても良い。)
また、本発明においては、上記2価の有機基が、下記式(B−1)〜(B−3)、(B−6)−(B−8)で表される構造のいずれかであることが好ましい。
【0098】
(上記式(B−3)中、R
2およびR
3は、水素、メチル基またはトリフルオロメチル基であり、それぞれ同一でも、異なっていても良い。)
本発明に用いるポリイミド前駆体の数平均分子量は溶解性や末端封止の効果、膜の脆弱性の観点から10000から500000が望ましく、12000〜300000がより望ましく、15000〜100000がもっとも望ましい。
【0099】
また、第二絶縁層の線湿度膨張係数は、より小さいことが好ましい。湿度変化による反りを小さくすることができるからである。第二絶縁層の線湿度膨張係数は、例えば20ppm/%RH以下であることが好ましく、12ppm/%RH以下であることがより好ましい。
【0100】
第二絶縁層の厚さは、第一導体層および第二導体層の間に所望の絶縁性を発揮できる程度の厚さであれば特に限定されるものではない。第一導体層の頂面から第二導体層の底面までの第二絶縁層の厚さは、例えば3μm〜20μmの範囲内であることが好ましく、5μm〜18μmの範囲内であることがより好ましく、7μm〜15μmの範囲内であることがさらに好ましい。
【0101】
3.第三絶縁層
次に、本発明における第三絶縁層について説明する。本発明における第三絶縁層は、第二導体層上に形成される層である。通常は、第二導体層を覆うように第三絶縁層が形成される。
【0102】
第三絶縁層の材料は、特に限定されるものではなく、上述した「2.第二絶縁層」に列記した材料と同様のものを用いることができる。また、本発明においては、第三絶縁層の材料と第二絶縁層の材料とが、同じであっても良く、異なっていても良い。特に、両者の材料が異なっていれば、反りを小さくするための調整が容易であるという利点を有する。
【0103】
本発明においては、第三絶縁層の線熱膨張係数が金属支持基板の線熱膨張係数よりも小さいことが好ましい。第三絶縁層の線熱膨張係数に関する記載、および、その他の事項については、上記「2.第二絶縁層」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。
【0104】
第三絶縁層の厚さは、第二導体層の劣化(腐食)を防止できる程度の厚さであることが好ましく、例えば2μm〜30μmの範囲内であることが好ましく、2μm〜15μmの範囲内であることがより好ましく、2μm〜10μmの範囲内であることがさらに好ましい。
【0105】
4.第一導体層および第二導体層
次に、本発明における第一導体層および第二導体層について説明する。本発明における第一導体層は第一絶縁層上に形成される層であり、本発明における第二導体層は第二絶縁層上に形成される層である。
【0106】
第一導体層および第二導体層の材料としては、導電性を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば銅(Cu:圧延銅、電解銅)等を挙げることができる。なお、銅の線熱膨張係数は、通常、16.7ppm/℃である。第一導体層および第二導体層の厚さは、特に限定されるものではないが、それぞれ、例えば1μm〜18μmの範囲内であることが好ましく、3μm〜12μmの範囲内であることがより好ましい。また、第一導体層および第二導体層の線幅は、特に限定されるものではないが、それぞれ、例えば10μm〜100μmの範囲内であることが好ましく、15μm〜50μmの範囲内であることがより好ましい。
【0107】
さらに、第一導体層および第二導体層の表面は、Niめっき、Auめっき等により保護めっき層が形成されていても良い。劣化(腐食等)を効果的に防止できるからである。保護めっき層の厚さは、5μm以下であることが好ましく、1μm〜2μmの範囲内であることがより好ましい。
【0108】
第一導体層および第二導体層の機能は、特に限定されるものではない。上記機能の具体例としては、信号伝送配線としての機能、グランド配線としての機能、電源配線等を挙げることができる。特に、本発明の回路基板がサスペンション用基板である場合、上記の機能の具体例としては、ライト配線またはリード配線としての機能、フライトハイトコントロール用配線としての機能、グランド配線としての機能、電源配線としての機能、センサー用配線としての機能、アクチュエータ用配線としての機能、熱アシスト用配線としての機能、マイクロ波アシスト用配線としての機能等を挙げることができる。また、本発明においては、第一導体層および第二導体層が、それぞれ複数形成されていても良い。
【0109】
5.金属支持基板
次に、本発明における金属支持基板について説明する。本発明における金属支持基板は、回路基板の支持体として機能するものである。また、本発明の回路基板がサスペンション用基板である場合は、金属支持基板が所定のばね性を有することが好ましい。
【0110】
金属支持基板の材料としては、特に限定されるものではないが、例えばステンレス鋼を挙げることができ、中でもSUS304(線熱膨張係数:17.3ppm/℃)、SUS410(線熱膨張係数:10.4ppm/℃)、SUS430(線熱膨張係数:10.4ppm/℃)、SUS630(線熱膨張係数:11.6ppm/℃)等を挙げることができ、特に、SUS304が好ましい。特に本発明においては、金属支持基板、第一導体層および第二導体層の材料の線熱膨張係数が10ppm/℃〜30ppm/℃の範囲内であることが好ましい。
【0111】
金属支持基板の厚さは、特に限定されるものではないが、例えば3μm〜30μmの範囲内であることが好ましく、10μm〜25μmの範囲内であることがより好ましい。金属支持基板の厚さが薄すぎると、機械的強度が低下する可能性があり、金属支持基板の厚さが厚すぎると、剛性が高くなり過ぎる可能性があるからである。また、金属支持基板の厚さが薄いほど、より各絶縁層の線熱膨張係数のコントロールを精密に行う必要がある。
【0112】
回路基板における金属支持基板の残存割合は、特に限定されるものではないが、例えば30%以上であることが好ましく、30%〜60%の範囲内であることがより好ましい。なお、金属支持基板の残存割合とは、回路基板の平面視面積に占める、金属支持基板の平面視面積の割合をいう。また、回路基板の平面視面積とは、回路基板の外径線によって囲まれる面積であり、内部に貫通孔が形成されている場合は、その貫通孔の平面視面積をも含むものである。
【0113】
6.回路基板
本発明の回路基板は、上述した、金属支持基板、第一絶縁層、第一導体層、第二絶縁層、第二導体層および第三絶縁層を有するものである。中でも、本発明の回路基板は、金属支持基板の材料がSUS304であり、第一導体層および第二導体層の材料がCuであり、第一絶縁層、第二絶縁層および第三絶縁層の材料がポリイミド樹脂であり、さらに、第二絶縁層および第三絶縁層を構成するポリイミド樹脂が同じ材料であり、さらに、金属支持基板の厚さが16μm〜20μの範囲内であり、第一絶縁層の厚さが8μm〜12μmの範囲内であり、第一導体層の厚さが4μm〜6μmの範囲内であり、第一導体層上に形成された第二絶縁層の厚さが8μm〜12μmの範囲内であり、第二導体層の厚さが4μm〜6μmの範囲内であり、第二導体層上に形成された第三絶縁層の厚さが4μm〜6μmの範囲内であることが好ましい。
【0114】
また、本発明の回路基板の用途は、特に限定されるものではないが、サスペンション用基板、デジタルスチルカメラ用基板、デジタルビデオカメラ用基板、携帯電話用基板、携帯用パーソナルコンピューター用基板、液晶テレビ用基板、液晶表示素子用ドライバ基板、カセットデッキ用基板、CDプレーヤー用基板、DVDプレーヤー用基板、ブルーレイプレーヤー用基板、コピー機用基板、ファックス用基板、人工衛星用基板、ミサイル用基板、ジェット戦闘機用基板等を挙げることができる。
【0115】
また、本発明の回路基板を製造する方法は、上述した回路基板を得ることができる方法であれば特に限定されるものではない。回路基板の製造方法の一例について
図3を用いて説明する。なお、
図3は、
図2と同様に回路基板の概略断面図である。
【0116】
図3においては、まず、金属支持基板1X、第一絶縁層2Xおよび第一導体層3Xがこの順に積層した積層部材を準備する(
図3(a))。次に、積層部材の両面にドライフィルムレジスト(DFR)を配置し、露光現像を行うことにより、所定のレジストパターンを形成する。次に、レジストパターンから露出する部分をウェットエッチングし、金属支持基板1および第一導体層3を形成する(
図3(b))。その後、第一導体層3を覆うように、第二絶縁層4を形成する(
図3(c))。第二絶縁層4の材料が感光性材料である場合は、露光現像により所定のパターンを形成することができる。一方、第二絶縁層4の材料が非感光性材料である場合は、DFRを用いて所定のレジストパターンを形成し、レジストパターンから露出する部分をウェットエッチングすることにより、所定のパターンを形成することができる。次に、第二絶縁層4の上にシード層を形成し、シード層の上に、DFRを用いて所定のレジストパターンを形成する。次に、電解めっき法により、第二導体層5を形成する(
図3(d))。次に、第二導体層5を覆うように第三絶縁層6を形成し、その後、第一絶縁層2Xをウェットエッチングし、第一絶縁層2を形成する(
図3(e))。これにより、回路基板を得ることができる。本発明において、導体層、金属支持基板、完全にイミド化した絶縁(ポリイミド)層をパターン形成のために溶解することをエッチングとし、ポリイミド前駆体をパターン形成のために溶解させることを現像と表現する。
ポリアミド酸に代表されるポリイミド前駆体は、有機溶媒や、2.38重量%の水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液などの低濃度の塩基性水溶液に対して易溶である。これはポリアミド酸の場合、分子骨格中に有しているカルボキシル基の作用に依存する部分が大きい。
一方、イミド化し、ポリイミドとなったものについては、有機溶媒に難溶であり、2.38重量%の水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液などの低濃度の塩基性水溶液には溶解しない。そのため、イミド化された後のポリイミドを選択的に除去するには、アルカリーアミン系などの高濃度の塩基性(水)溶液をもちいて、ポリイミド自体を分解しながら除去する必要がある。
つまり、選択的に除去する場合でも、その溶解メカニズムが異なるため、本発明においては区別して表記する。
【0117】
7.その他の実施態様
また、本発明においては、金属支持基板と、上記金属支持基板上に形成された第一絶縁層と、上記第一絶縁層上に形成された第一導体層と、上記第一導体層上に形成された第二絶縁層と、上記第二絶縁層上に形成された第二導体層と、上記第二導体層上に形成された第三絶縁層とを有する回路基板であって、上記金属支持基板、上記第一導体層および上記第二導体層の線熱膨張係数の平均をCTE
M(ppm/℃)とした場合に、上記第一絶縁層、上記第二絶縁層および上記第三絶縁層の線熱膨張係数が、いずれも、CTE
M±13(ppm/℃)の範囲内にあることを特徴とする回路基板を提供することができる。
【0118】
本発明によれば、回路基板を構成する各部材の線熱膨張係数を、できるだけ近づけることにより、反りの小さい回路基板とすることができる。なお、回路基板を構成する各部材の詳細やその他の事項については、上述した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。
【0119】
B.サスペンション用基板
次に、本発明のサスペンション用基板について説明する。本発明のサスペンション用基板は、上述した回路基板であることを特徴とするものである。
【0120】
上述した
図1および
図2は、本発明のサスペンション用基板を説明する模式図である。本発明においては、
図1および
図2に示すように、第一導体層3および第二導体層5が、素子実装領域11および外部回路基板接続領域12の間を電気的に接続する配線層であることが好ましい。低インピーダンス化が容易だからである。なお、第一導体層3および第二導体層5は、
図2に示すように、平面視上、少なくとも両者が重複するように配置されていることが好ましく、完全に重複していることがより好ましい。また、第一導体層3および第二導体層5から構成される配線対は、ライト配線であっても良く、リード配線であっても良いが、ライト配線であることが好ましい。ライト配線では、特に低インピーダンス化が求められているからである。さらに、本発明においては、
図2に示すように、金属支持基板1が、平面視上、第一導体層3および第二導体層5から構成される配線対の下に開口領域を有していても良い。これにより、電気信号(特に高周波信号)が導電性の低い金属支持基板を伝送することで伝送ロスが大きくなることを防止できる。
【0121】
本発明によれば、上述した回路基板を用いることで、反りの小さいサスペンション用基板とすることができる。なお、回路基板については、上記「A.回路基板」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。
【0122】
C.サスペンション
次に、本発明のサスペンションについて説明する。本発明のサスペンションは、上述したサスペンション用基板を含むことを特徴とするものである。
【0123】
本発明によれば、上述したサスペンション用基板を用いることで、反りの小さいサスペンションとすることができる。
【0124】
図4は、本発明のサスペンションの一例を示す概略平面図である。
図4に示されるサスペンション40は、上述したサスペンション用基板20と、素子実装領域11が形成されている表面とは反対側のサスペンション用基板20の表面に備え付けられたロードビーム30とを有するものである。
【0125】
本発明のサスペンションは、少なくともサスペンション用基板を有し、通常は、さらにロードビームを有する。サスペンション用基板については、上記「B.サスペンション用基板」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。また、ロードビームは、一般的なサスペンションに用いられるロードビームと同様のものを用いることができる。
【0126】
D.素子付サスペンション
次に、本発明の素子付サスペンションについて説明する。本発明の素子付サスペンションは、上述したサスペンションと、上記サスペンションの素子実装領域に実装された素子と、を有することを特徴とするものである。
【0127】
本発明によれば、上述したサスペンション用基板を用いることで、反りの小さい素子付サスペンションとすることができる。
【0128】
図5は、本発明の素子付サスペンションの一例を示す概略平面図である。
図5に示される素子付サスペンション50は、上述したサスペンション40と、サスペンション40の素子実装領域11に実装された素子41とを有するものである。
【0129】
本発明の素子付サスペンションは、少なくともサスペンションおよび素子を有するものである。サスペンションについては、上記「C.サスペンション」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。また、素子実装領域に実装される素子としては、例えば、磁気ヘッドスライダ、アクチュエータ、半導体等を挙げることができる。また、上記アクチュエータは、磁気ヘッドを有するものであっても良く、磁気ヘッドを有しないものであっても良い。
【0130】
E.ハードディスクドライブ
次に、本発明のハードディスクドライブについて説明する。本発明のハードディスクドライブは、上述した素子付サスペンションを含むことを特徴とするものである。
【0131】
本発明によれば、上述した素子付サスペンションを用いることで、より高機能化されたハードディスクドライブとすることができる。
【0132】
図6は、本発明のハードディスクドライブの一例を示す概略平面図である。
図6に示されるハードディスクドライブ60は、上述した素子付サスペンション50と、素子付サスペンション50がデータの書き込みおよび読み込みを行うディスク51と、ディスク51を回転させるスピンドルモータ52と、素子付サスペンション50の素子を移動させるアーム53およびボイスコイルモータ54と、上記の部材を密閉するケース55とを有するものである。
【0133】
本発明のハードディスクドライブは、少なくとも素子付サスペンションを有し、通常は、さらにディスク、スピンドルモータ、アームおよびボイスコイルモータを有する。素子付サスペンションについては、上記「D.素子付サスペンション」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。また、その他の部材についても、一般的なハードディスクドライブに用いられる部材と同様のものを用いることができる。
【0134】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と、実質的に同一の構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなる場合であっても本発明の技術的範囲に包含される。
【0135】
以下、実施例を用いて、本発明をさらに具体的に説明する。
【実施例】
【0136】
[合成例1]
4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)10.0g(50mmol)と、パラフェニレンジアミン(PPD)5.41g(50mmol)とを500mlのセパラブルフラスコに投入し、203gの脱水されたN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に溶解させ窒素気流下、オイルバスによって液温が50℃になるように熱電対でモニターし加熱しながら撹拌した。それらが完全に溶解したことを確認した後、そこへ、少しずつ30分かけて3,3’、4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸2無水物(BPDA)29.1g(99mmol)を添加し、添加終了後、50℃で5時間撹拌した、その後室温まで冷却し、ポリイミド前駆体溶液1を得た。
[合成例2〜14]
反応温度、および溶液の濃度が17重量%〜19重量%になるようにNMPの量を調整した以外は合成例1に示すのと同様の方法で以下の表1に示す配合比でポリイミド前駆体溶液2〜14を得た。
【0137】
ピロメリット酸2無水物 : PMDA
1,4−Bis(4−aminophenoxy)benzene : 4APB
2,2’−Dimethyl−4,4’−diaminobiphenyl : T
BHG
2,2’−Bis(trifluoromethyl)−4,4’−diamino
biphenyl : TFMB
【0138】
【表1】
【0139】
[合成例15]
ODA50mmolとPPD50mmolとを500mlのセパラブルフラスコに投入し、200gの脱水NMPに溶解させ、窒素気流下、オイルバスによって液温が50℃になるように熱電対でモニターし加熱しながら当該溶液を撹拌した。それらが完全に溶解したことを確認した後、当該溶液に、少しずつ30分かけてBPDA99mmolを添加し、添加終了後、50℃で5時間撹拌した。溶液を1gサンプリングして脱水NMP2gで希釈した。その溶液をアセトン50mlに再沈殿した。沈殿物はろ別し、
1H NMRで減圧乾燥した沈殿物の末端基量を算出した。残りの溶液に、末端封止剤として無水フタル酸(PA)を末端基量に対して100mol%投入し1時間50℃で撹拌した。その後室温まで冷却し、ポリイミド前駆体溶液15を得た。
【0140】
[合成例16〜20]
末端封止剤である無水フタル酸の下記表2に示す量添加する以外は合成例15に示すのと同様の方法で、ポリイミド前駆体溶液16〜20を得た。
【0141】
<末端封止基導入量算出>
ポリイミド前駆体溶液15〜20の末端封止基導入量を以下のようにして算出した:
ポリイミド前駆体溶液15〜20を1gサンプリングしてNMP2gで希釈した。その溶液をアセトン50mlに再沈殿した。沈殿物はろ別し、
1H NMRで減圧乾燥した沈殿物の末端封止基導入量を算出した。
【0142】
【表2】
【0143】
[合成例21]
<架橋性末端封止ポリイミド前駆体>
ODA50mmolと、PPD50mmolとを500mlのセパラブルフラスコに投入し、200gの脱水NMPに溶解させ窒素気流下、オイルバスによって液温が50℃になるように熱電対でモニターし加熱しながら撹拌した。それらが完全に溶解したことを確認した後、そこへ、少しずつ30分かけてBPDA99mmolを添加し、添加終了後、50℃で5時間撹拌した。溶液を1gサンプリングして脱水NMP2gで希釈した。その溶液をアセトン50mlに再沈殿した。沈殿物はろ別し、
1H NMRで減圧乾燥した沈殿物の末端基量を算出した。残りの溶液に架橋性末端封止剤として4−フェニルエチニルフタル(PEPA)酸無水物を末端基量に対して100mol%投入し1時間50℃で撹拌した。その後室温まで冷却し、ポリイミド前駆体溶液21を得た。ポリイミド前駆体溶液21の末端基導入量は、前述の<末端封止基導入量算出>に記載の方法に従い算出した。
【0144】
[合成例22〜25]
架橋性末端封止剤である4−フェニルエチニルフタル酸(PEPA)を下記表3に示す架橋性末端封止剤に変更する以外は合成例21に示すのと同様の方法で、ポリイミド前駆体溶液22〜25を得た。
【0145】
【表3】
【0146】
[合成例26,27]
感光性ポリイミドとするために、ポリイミド前駆体溶液2、およびポリイミド前駆体溶液6にニフェジピン(東京化成)を溶液の固形分の30重量%添加し、感光性ポリイミド前駆体溶液1、2を得た。
[評価1]
ポリイミドフィルムの製造(A)
上記ポリイミド前駆体溶液1〜14を、ガラス上に貼り付けたユーピレックスS 50S(商品名:宇部興産)フィルムに塗布し、80℃のホットプレート上で10分乾燥させた後、乾燥させた後、剥離し、膜厚15〜20μmのフィルムを得た。その後、そのフィルムを金属製の枠に固定し、窒素雰囲気下、350℃1時間、熱処理し(昇温速度 10℃/分、自然放冷)、膜厚9〜15μmポリイミド1〜14のフィルムを得た(以下、ポリイミド1A〜14Aと示す)。
【0147】
感光性ポリイミドフィルムの製造
上記感光性ポリイミド前駆体溶液1、2を、ガラス上に貼り付けたユーピレックスS 50S(商品名:宇部興産)フィルムに塗布し、80℃のホットプレート上で10分乾燥させた後、高圧水銀灯により365nmの波長の照度換算で500mJ/cm
2露光後、ホットプレート上で180℃3分加熱した後、フィルムより剥離し、膜厚17μmのフィルムを得た。その後、そのフィルムを金属製の枠に固定し、窒素雰囲気下、350℃1時間、熱処理し(昇温速度 10℃/分、自然放冷)、膜厚12μm感光性ポリイミド1、2のフィルムを得た(以下、感光性ポリイミド1A及び2Aと示す)。
<線熱膨張係数>
上記の手法により作製したフィルムを幅5mm×長さ20mmに切断し、評価サンプルとして用いた。線熱膨張係数は、熱機械的分析装置Thermo Plus TMA8310(リガク社製)によって測定した。測定条件は、評価サンプルの観測長を15mm、昇温速度を10℃/min、評価サンプルの断面積当たりの加重が同じになるように引張り加重を1g/25000μm
2とし、100℃から200℃の間の平均の線熱膨張係数を線熱膨張係数(C.T.E.)とした。
<線湿度膨張係数>
上記の手法により作製したフィルムを幅5mm×長さ20mmに切断し、評価サンプルとして用いた。線湿度膨張係数は、湿度可変機械的分析装置Thermo Plus TMA8310改(リガク社製)によって測定した。温度を25℃で一定とし、まず、湿度を15%RHの環境下でサンプルが安定となった状態とし、概ね30分〜2時間その状態を保持した後、測定部位の湿度を20%RHとし、さらにサンプルが安定になるまで30分〜2時間その状態を保持した。その後、湿度を50%Rhに変化させ、それが安定となった際のサンプル長と20%RHで安定となった状態でのサンプル長との違いを、湿度の変化(この場合50−20の30)で割り、その値を、サンプル長で割った値を湿度膨張係数(C.H.E.)とした。評価サンプルの断面積当たりの加重が同じになるように引張り加重を1g/25000μm
2とした。
【0148】
これらの評価結果は後述する表4に示す。
[製造例1]
まず、厚さ18μmのSUS304(金属支持基板、線熱膨張係数17.3ppm/℃)、厚さ10μmのポリイミド樹脂層(第一絶縁層、線熱膨張係数21.0ppm/℃)、厚さ5μmの電解銅層(第一導体層、線熱膨張係数16.7ppm/℃)を有する積層部材を準備した。
【0149】
次に、SUS側で位置精度が重要な治具孔と、電解銅側で目的とする第一導体層とを形成できるように、ドライフィルムを用いて同時にパターニングし、パターン状のレジストを形成した。その後、塩化第二鉄液を用いてエッチングし、エッチング後レジスト剥膜を行った。ここでは、ドライフィルムを同時にパターニングすることで、SUS側および第一導体層側の両面の位置精度を向上させることができる。
【0150】
次に、パターニングされた第一導体層上に、上述した合成例1で得たポリイミド前駆体溶液1をダイコーターでコーティングし、乾燥後、レジスト製版しと同時にポリイミド前駆体膜を現像し、その後、窒素雰囲気下、加熱することにより硬化(イミド化)させ、ポリイミド1からなる第二絶縁層を形成した。第二絶縁層は第一導体層を覆うように形成され、第一導体層上に形成された第二絶縁層の厚さは10μmであった。
【0151】
次に、第二絶縁層上にスパッタリング法によりシード層を形成し、シード層の上にDFRを用いてレジストパターンを形成した。その後、レジストパターンから露出するシード層上に、電解めっき法により、厚さ5μmの電解銅層(第二導体層、線熱膨張係数16.7ppm/℃)を形成した。
【0152】
次に、第二導体層上に、上述した合成例1で得たポリイミド前駆体溶液1を用いて、第二絶縁層を形成したときと同様の手法で第三絶縁層を形成した。第三絶縁層は第二導体層を覆うように形成され、第二導体層上に形成された第三絶縁層の厚さは5μmであった。その後、第一絶縁層および金属支持基板のエッチングを行い、回路基板(サスペンション用基板)を得た。なお、得られた回路基板の寸法を
図7に示す。
[製造例2〜14]
第二絶縁層および第三絶縁層を形成するため、合成例1で得たポリイミド前駆体溶液1の代わりに、合成例2〜14で得たポリイミド前駆体2〜14を用いたこと以外は、製造例1と同様にして、回路基板を得た。
[製造例15]
第二絶縁層および第三絶縁層を形成するため、合成例1で得たポリイミド前駆体溶液1の代わりに、合成例15で得た感光性ポリイミド前駆体溶液1を用いた。第二絶縁層を形成する際、パターニングされた第一導体層上に、感光性ポリイミド前駆体1を塗布、乾燥後、マスクを介して所望のパターン形状に高圧水銀灯を光源に用い露光を行い、アルカリ性水溶液で現像し、ネガ型のパターン像を形成した。その後、窒素雰囲気下で加熱を行い、感光性ポリイミド1からなる第二絶縁層を形成した。また、同様の手法により、第三絶縁層を形成した。このようにして絶縁層を形成したこと以外は、製造例1と同様にして、回路基板を得た。
[製造例16]
第二絶縁層および第三絶縁層を形成するため、合成例15で得た感光性ポリイミド前駆体溶液1の代わりに、合成例16で得た感光性ポリイミド前駆体溶液2を用いたこと以外は、製造例15と同様にして、回路基板を得た。
[評価2]
製造例1〜16で得られた回路基板の平均反り量を測定した。反りの測定は、加工シートから長さ20mmの回路基板を1ピース切断し、銅配線面を上面にして定盤上に置き、定盤表面から垂直方向に回路基板の先端までの距離を高精度定規で測定することにより行った。なお、測定は、温度25℃、湿度50%RHの条件で行った。また、測定サンプル数はそれぞれn=9とし、平均反り量が0〜2mmのものを○、2〜5mmのものを△、5mm以上のものを×とした。その結果を表4に示す。
【0153】
【表4】
【0154】
表4の結果から、第二絶縁層および第三絶縁層を構成するポリイミド樹脂の線熱膨張係数が、金属支持基板(SUS)の線熱膨張係数(21.0ppm/℃)よりも低い場合は、効果的に反りを低減できることが確認できた。特に、ポリイミド樹脂の線熱膨張係数が4.6ppm/℃〜17.2ppm/℃の範囲内であり、かつ、ポリイミド樹脂の線湿度膨張係数が20ppm/%RH以下の場合に、平均反り量が2mm以下となり、非常に良好な結果を示した。また、ポリイミド1A、2A、13A、14Aを比較すると、ジアミンの比率を変更することにより、線熱膨張係数を調整できることが確認できた。
【0155】
[製造例17〜23]
ポリイミド前駆体溶液15〜25をクロムガラス基板上にスピン塗布にて塗工し、80℃60分間乾燥させた。膜厚20±1μmのポリイミド前駆体膜を得た。
【0156】
[評価3]
<現像溶解時間>
上記製造例17〜23で得られたポリイミド前駆体膜のそれぞれについて、以下のようにして現像溶解時間を測定した。ポリイミド前駆体膜を現像液(水酸化テトラメチルアンモニウム1%水溶液)に液温25℃に調整し、浸漬させた。その後、純水で30秒間リンス後、窒素ガスを噴き付け乾燥させた。現像溶解時間はすべての膜が溶解した現像液での浸漬時間とした。
【0157】
<線熱膨張係数>
ポリイミドフィルムの製造(B)
上記ポリイミド前駆体溶液15〜25を、ガラス基板上に塗布し、80℃のホットプレート上で10分乾燥させた。その後、塗工されたガラス基板を窒素雰囲気下350℃1時間、熱処理し(昇温速度 10℃/分、自然放冷)した。得られた塗工基板を純水に浸漬し、ポリイミドフィルムを基板から剥離した。膜厚9〜15μmポリイミド15〜25のフィルムを得た(以下、ポリイミド15B〜25Bと示す)。
【0158】
ポリイミドフィルム15B〜20Bについて、前述の方法により、線熱膨張係数を測定した。結果を
図10に示す。より具体的には、
図10には、末端基導入量に対する現像溶解時間と線熱膨張係数の結果を示す。ポリイミド前駆体15〜20のポリイミド膜の線熱膨張係数は末端封止基導入量が68.2%から80.2mol%では線熱膨張係数は18.4から18.7ppm/℃で一定で導入量が65mol%以下では低下した。これらのように、末端基導入量を変化させることにより10ppm〜30ppm/℃の範囲で調整することができる。そして、同様に現像液溶解時間は末端封止基導入量が50mol%以上100mol%以下では4分間であった。後述の[評価4]に示すように、末端封止基導入量が0の場合、現像液溶解時間は15分間であることから、末端封止基を導入することにより、所望の線熱膨張係数を得つつ現像性をより高めることができることが分かる。
【0159】
[評価4]
前駆体溶液2、前駆体溶液16及び前駆体溶液21をそれぞれ用い、前述の[評価3]と同様にして現像溶解時間を測定した。
【0160】
次に、前駆体溶液2を用いる以外、上記ポリイミドフィルムの製造(B)の方法を用いて、ポリイミドフィルムを得た(以下、ポリイミド2Bと示す)。
【0161】
そして、線湿度膨張係数については、ポリイミド2B、16B及び21B〜25Bを用いて評価を行った。線湿度膨張係数を測定方法は、[評価1]<線湿度膨張係数>に記載の方法により行った。下記表5及び6に、各前駆体溶液についての現像溶解時間、及び各ポリイミドフィルムの湿度膨張係数を示す。
【0162】
【表5】
【0163】
【表6】
【0164】
上記表5から明らかなように、末端基が封止されていないアミン末端のポリイミド前駆体2は現像溶解時間が15分で有るのに対し、末端基、架橋性末端基を導入した前駆体溶液16、21〜25を用いた場合、それぞれ4分と、現像溶解時間が短縮することができた。
【0165】
ポリイミド膜の湿度膨張率が低い前駆体溶液から得られる回路基板は湿度に対する反りが低いことを示す。前駆体溶液16及び21は、末端基、架橋性末端基の導入量は同程度であるが、湿度膨張係数は、前駆体溶液16を用いた場合9.7ppm/%RHであるのに対し、前駆体溶液21を用いた場合8.2ppm/%RHとなった。これらのことから、架橋性末端基を導入することにより、湿度膨張係数を低減することができることが分かる。尚、本発明が属するハードディスクドライブに用いるサスペンション用基板は、サスペンションの先端にある素子とディスクとの間隔を非常に近接させつつ接触しないように保持させるために、非常に高い形体安定性を必要とされる。従って湿度膨張係数を約1.5ppm/%RH低減させたことは非常に有用である。