特許第5807384号(P5807384)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5807384
(24)【登録日】2015年9月18日
(45)【発行日】2015年11月10日
(54)【発明の名称】円すいころ軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/66 20060101AFI20151021BHJP
   F16C 19/36 20060101ALI20151021BHJP
   F16C 33/46 20060101ALI20151021BHJP
【FI】
   F16C33/66 Z
   F16C19/36
   F16C33/46
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2011-115605(P2011-115605)
(22)【出願日】2011年5月24日
(65)【公開番号】特開2012-241873(P2012-241873A)
(43)【公開日】2012年12月10日
【審査請求日】2014年4月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 章之
(72)【発明者】
【氏名】城 宏
【審査官】 久島 弘太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−045711(JP,A)
【文献】 特開2009−168064(JP,A)
【文献】 米国特許第04541738(US,A)
【文献】 特開2004−084799(JP,A)
【文献】 米国特許第04425011(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/66
F16C 19/36
F16C 33/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪と、前記外輪の内周側に配置される内輪と、前記外輪および前記内輪間に配置され円周上等間隔に複数のポケットを有する保持器と、前記ポケットに配置される複数の円すいころとからなり、前記外輪の内周および前記内輪の外周に前記円すいころが転動する軌道面を形成し、前記内輪に前記軌道面の軸方向両側の一方に小径側鍔部を、他方に大径側鍔部を形成し、この大径側鍔部に前記円すいころが滑り接触する大径側内側端面を形成し、前記外輪および前記内輪間にできる空間が、前記内輪の小径側鍔部から大径側鍔部へ潤滑油が流れる油流路とされている円すいころ軸受において、前記保持器は、前記大径側内側端面と対応する位置まで半径方向に肉厚を有するとともに、前記大径側内側端面と向かい合わせで対向する大径側外側端面を有し、さらにこの大径側外側端面と反対側に小径側外側端面を有し、一方が前記小径側外側端面に開口し、他方が大径側外側端面に開口する油導入通路を前記保持器に設け、前記油導入通路は、複数のポケット間で、前記ポケットに開口しない位置に設けたことを特徴とする円すいころ軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外輪および内輪間に複数の円すいころと保持器を配置した円すいころ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
図4および図5(特許文献1)に示すように、円すいころ軸受100は、外輪110、内輪120、円すいころ140、保持器130とからなり、内輪120の大径側鍔部121の大径側内側端面122と、円すいころ140の大径側端面141とが滑り接触し、この箇所の焼付き防止のために、矢印150、151で示すように、内輪120の小径側鍔部123側から大径側鍔部121へ、潤滑油を積極的に流している。また、前記保持器130には、円すいころ140を転動可能に保持するポケット131が円周方向に等間隔に形成され、さらに各ポケット130の円周方向の両側に油対流用切欠き132が形成されているが、この油対流用切欠き132は、矢印150に示す、外輪110側、内輪120側、外輪110側の順に流れる流れと、矢印151に示す、内輪120側、外輪110側の順に流れる流れを引き起こすために設けたものであって、内輪120の大径側鍔部121の大径側内側端面122へ供給される潤滑油を増やすために設けたものでない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−32858号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このため、自動車の発進時等で車速が低いときは、内輪120の小径側鍔部123側から大径側鍔部121へ流れる潤滑油の全体流量が少なく、内輪120の大径側鍔部121の大径側内側端面122と、円すいころ140の大径側端面141とが滑り接触する箇所に焼き付きが発生しやすい。本発明は上述した問題点を解決するためになされたもので、その目的は、内輪120の大径側鍔部121の大径側内側端面122と、円すいころ140の大径側端面141とが滑り接触する箇所の焼き付きを防止する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の発明は、外輪と、前記外輪の内周側に配置される内輪と、前記外輪および前記内輪間に配置され円周上等間隔に複数のポケットを有する保持器と、前記ポケットに配置される複数の円すいころとからなり、前記外輪の内周および前記内輪の外周に前記円すいころが転動する軌道面を形成し、前記内輪に前記軌道面の軸方向両側の一方に小径側鍔部を、他方に大径側鍔部を形成し、この大径側鍔部に前記円すいころが滑り接触する大径側内側端面を形成し、前記外輪および前記内輪間にできる空間が、前記内輪の小径側鍔部から大径側鍔部へ潤滑油が流れる油流路とされている円すいころ軸受において、前記保持器は、前記大径側内側端面と対応する位置まで半径方向に肉厚を有するとともに、前記大径側内側端面と向かい合わせで対向する大径側外側端面を有し、さらにこの大径側外側端面と反対側に小径側外側端面を有し、一方が前記小径側外側端面に開口し、他方が大径側外側端面に開口する油導入通路を前記保持器に設け、前記油導入通路を、複数のポケット間で、前記ポケットに開口しない位置に設けたものである。
【0006】
この構成によって、内輪の小径側鍔部側にある潤滑油の一部が、油導入通路を経て内輪の大径側鍔部の大径側内側端面に供給され、この大径側端面へ供給される潤滑油が増えるので、内輪の大径側鍔部の大径側端面と、円すいころの大径側端面とが滑り接触する箇所の焼き付きを防止できる。さらに、油導入通路が、保持器の外径側あるいは内径側の円すいころが移動する空間に設けられていないので、油導入通路に潤滑油を流しても、攪拌抵抗が大幅に増えることがない。しかも、油導入通路を流れる潤滑油は、円すいころの外周に触れることないため、円すいころの回転抵抗が大幅に増えることがない。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、内輪の小径側鍔部側にある潤滑油の一部が、油導入通路を経て内輪の大径側鍔部の大径側内側端面に供給され、この大径側端面へ供給される潤滑油が増えるので、内輪の大径側鍔部の大径側端面と、円すいころの大径側端面とが滑り接触する箇所の焼き付きを防止できる。さらに、油導入通路が、保持器の外径側あるいは内径側の円すいころが移動する空間に設けられていないので、油導入通路に潤滑油を流しても、攪拌抵抗が大幅に増えることがない。しかも、油導入通路を流れる潤滑油は、円すいころの外周に触れることないため、円すいころの回転抵抗が大幅に増えることがない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態における円すいころ軸受の縦断面図である。
図2】本発明の実施形態における図1のA矢視図である。
図3】本発明の実施形態における図1のB方向から見た保持器の展開図である。
図4】本発明の実施形態における図1のC−C線断面図である。
図5】従来における円すいころ軸受の縦断面図である。
図6】従来における保持器の外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態について、図1乃至図4を参酌しつつ説明する。図1は、円すいころ軸受の縦断面図であり、図2は、図1のA矢視図であり、図3は、図1のB方向から見た保持器の展開図であり、図4は、図1のC−C線断面図である。
【0013】
図1乃至図2に示すように、円すいころ軸受10は、リング状の外輪11と、外輪11の内周側に配置されるリング状の内輪20と、外輪11と内輪20間に配置されるリング状の保持器30と、保持器30に保持される複数の円すいころ40とからなっている。外輪11、内輪20、円すいころ40は、いずれも金属製の材料で構成され、特に鉄系の材料がよく使われる。保持器30は、樹脂製の材料で構成され、特にナイロンがよく使われる。
【0014】
前記外輪11の内周には、外輪11の軸線に対して傾斜した外輪側軌道面12が形成されている。前記内輪20の外周には、内輪20の軸線に対して傾斜した内輪側軌道面22が形成されている。内輪側軌道面22の軸方向両側の一方に外径方向へ突出した小径側鍔部23が形成され、他方に外径方向へ突出した大径側鍔部24が形成されている。小径側鍔部23の円すいころ40側の端面には、円すいころ40の後述する小径側端面42に滑り接触する小径側内側端面23aが形成されている。大径側鍔部24の円すいころ40側の端面には、円すいころ40の後述する大径側端面43に滑り接触する大径側内側端面24aが形成されている。
【0015】
図1および図3に示すように、前記保持器30には、円周方向に等間隔にポケット31が形成され、各ポケット31の円周方向両側に油導入通路32が形成されている。また保持器30は、外径側は外輪側軌道面12の近傍まで、内径側は内輪側軌道面22の近傍まで径方向に肉厚を有し、言い換えれば、大径側内側端面24aと対応する位置まで肉厚を有する。
【0016】
保持器30の外輪側軌道面12側には、第1の案内面33、小径側外側端面34、第2の案内面35、第3の案内面36が、小径側から大径側へ向かって順に形成されている。第1の案内面33は、外輪側軌道面12と平行に傾斜しており、小径側外側端面34は、保持器30の軸線に対し直角に近い角度で持って傾斜しており、第2の案内面35は、外輪側軌道面12に対して緩やかな傾斜を有し、第3の案内面36は、保持器30の軸線と平行な方向に延びている。
【0017】
第1の案内面33は、外輪側軌道面12に対し内径方向に離れた位置にあるので、外輪側軌道面12、第1の案内面33、小径側外側端面34で囲まれた油導入空間38が形成されている。第2の案内面35は、外輪側軌道面12に最も接近し、しかも外輪側軌道面12に対し緩やかな傾斜を有するので、小径側外側端面34側の外側軌道面12および外輪側軌道面12間に絞り37が形成されている。油導入空間38を設けることにより、潤滑油を捕捉しやすくなり、絞り37を設けることにより、油導入通路32を流れる潤滑油が増える。
【0018】
保持器30の内輪側軌道面22側には、第4の案内面60、第5の案内面61、大径側外側端面62、第6の案内面63が、小径側から大径側へ向かって順に形成されている。第4の案内面60は、保持器30の軸線とほぼ平行な方向に延びており、第5の案内面61は、内輪側軌道面22と平行な方向に延びており、大径側外側端面62は、大径側内側端面24aと向かい合わせで対向しかつ大径側内側端面24aと平行な面を有し、第6の案内面63は、保持器30の軸線と平行な方向に延びている。
【0019】
外輪11および内輪20間の空間が、小径側鍔部23から大径側鍔部24へ潤滑油が流れる油流路となっている。つまり、外輪11および保持器30間の空間も油流路の一つであり、保持器30および内輪20間の空間も油流路の一つである。油導入通路32は、一方が小径側外側端面34に開口し、他方が大径側外側端面62に開口している。また油導入通路32は、図4に示すように、断面略四角形状の溝であり、ポケット31に開口する側は、円すいころ40で塞がれている。図1および図3に示すように、油導入通路32は、円すいころ40に沿って形成されており、図1で見る限り、油導入通路32は、保持器30の軸線とほぼ平行に形成されているように見えるが、油導入通路32は、円すいころ40の外輪11側から円すいころ40の内輪20側に渡って形成されているので、図3に示すように、油導入通路32は、円弧状に形成されている。
【0020】
図3および図4に示すように、ポケット31は、円すいころ40に沿って断面円弧状に形成されている。ポケット31の外輪11側の入口は、円すいころ40の最大外形よりも小さいので、内輪20に保持器30を遊嵌した状態で、ポケット31の入口を変形させて保持器30の外周側よりポケット31に円すいころ40が挿入される。保持器30は、射出成形等により製作される。
【0021】
前記円すいころ40は、円すい形状から頂部を除去した形状を有するもので、前記外輪側軌道面12と前記内輪側軌道面22上を転動する転動面41と、小径側の端面に形成された小径側端面42と、大径側の端面に形成された大径側端面43を有する。
【0022】
続いて上述した構成にもとづいて、作用について説明する。
【0023】
外輪11に対して内輪20が回転すると、円すいころ40は外輪側軌道面12上と内輪側軌道面22上を転動しながら内輪20の回転方向と同方向に移動する。円すいころ40の転動によって保持器30が内輪20と同方向に回転する。
【0024】
内輪20に軸方向のスラスト力が作用すると、円すいころ40の大径側端面43が大径側内側端面24aに接触し、さらに円すいころ40を介して外輪11に前記スラスト力が作用する。円すいころ40の大径側端面43および大径側内側端面24a間は滑り接触しながら、前記スラスト力の一部を受け止めるため、焼付きが発生しやすい。
【0025】
これに対し、外輪11および内輪20間の油流路へ潤滑油が供給され、小径側鍔部23から大径側鍔部24へ潤滑油が流れる。このとき、矢印50に示すように、保持器30および内輪20間の油流路を流れる流れと、矢印51に示すように、油導入空間38、油導入通路32の順に流れ、さらに保持器30および内輪20間の油流路を流れる流れの2つがあり、いずれの流れも、円すいころ40の大径側端面43および大径側内側端面24a間の滑り接触する箇所へ供給されるので、焼付きを防止できる。油導入空間38、油導入通路32、絞り37によって、円すいころ40の大径側端面43および大径側内側端面24a間へ供給される潤滑油の流量が増え、自動車の発進時等の車速が低い状態で全体の潤滑油の供給量が少なくても、円すいころ40の大径側端面43および大径側内側端面24a間の焼き付きを防止できる。油導入通路32が、保持器30の外径側あるいは内径側の円すいころ40が移動する空間に設けられていないので、油導入通路32に潤滑油を流しても、攪拌抵抗が増えることがない。
【0026】
本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【0027】
上述した実施形態は、ポケット31の円周方向両側で、ポケット31に開口する位置に油導入通路32を設けた。他の実施形態として、図3および図4の一点鎖線で示すように、複数のポケット31間で、ポケット31に開口しない位置に油導入通路70を設けても良い。この油導入通路70は、断面円形で、一方が小径側外側端面34に開口し、他方が大径側外側端面62に開口している。油導入通路70が、保持器30の外径側あるいは内径側の円すいころ40が移動する空間に設けられていないので、油導入通路70に矢印71に示すように潤滑油を流しても、攪拌抵抗が増えることがない。油導入通路70を流れる潤滑油は、円すいころ40の外周に触れることないため、円すいころ40の回転抵抗が大幅に増えることがない。
【0028】
上述した実施形態は、第1の案内面33を外輪側軌道面12に対し内径方向に離れた位置に設けることによって、外輪側軌道面12、第3の案内面36、小径側外側端面34で囲まれた油導入空間38を形成したが、第1の案内面33を第2の案内面35と同一の面にしても良い。この場合、小径側外側端面34は、図1の位置よりも小径側鍔部23側に位置し、保持器30の端面と同一の面となる。
【符号の説明】
【0029】
11:外輪、12:外輪側軌道面(軌道面)、20:内輪、22:内輪側軌道面(軌道面)、23:小径側鍔部、24:大径側鍔部、24a:大径側内側端面、30:保持器、31:ポケット、32:油導入通路、34:小径側外側端面、37:絞り、38:油導入空間、40:円すいころ、62:大径側外側端面
図1
図2
図3
図4
図5
図6