(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記リンク機構は、少なくとも1つのリンク連結部がガイドバーからの反力を吸収する方向に移動自在に設けられるとともに、該リンク連結部がスプリングにより前記ガイドバーからの反力とは反対方向に付勢されていることを特徴とする請求項1記載のチェーンソー。
【背景技術】
【0002】
樹木の幹や枝などの被切断物を切断するために、動力鋸とも呼ばれるチェーンソーが用いられている。チェーンソーは、その工具として無端状のソーチェーンを備えており、このソーチェーンを2サイクルガソリンエンジンや電動モータ等の駆動源により回転駆動して切断作業が行われる。
【0003】
このようなチェーンソーは駆動源を収容するハウジングを備えており、ハウジングの側面には駆動源により回転駆動されるスプロケットが配置され、スプロケットを覆うサイドケースがボルトとナットとによりハウジングに固定される。ハウジングとサイドケースとの間にはガイドバーの基端部が挟み込まれ、これによりガイドバーがハウジングに固定されている。ソーチェーンはガイドバーとスプロケットとに掛け渡され、スプロケットを介して駆動源の回転が伝達されてガイドバーの外周縁に沿って回転する。
【0004】
スプロケットとガイドバーとに掛け渡されるソーチェーンを適切な張り具合とするために、チェーンソーには張力調整機構が設けられる。例えば、ソーチェーンの交換時や、結合ピンの摩耗によりソーチェーンの周長が延びたときなどに、ソーチェーンの張り具合が調整される。
【0005】
ソーチェーンの張り具合の調整は、サイドケースをハウジングに固定するボルトとナットの締結を緩め、この状態で張力調整機構によりガイドバーをスプロケットに対して接近・離反する方向に移動させることにより行われる。
【0006】
例えば、特許文献1には、ガイドバーをハウジングに固定するボルトと同軸にカムを設け、このカムをガイドバーの側面に設けた凸部に係合させ、ガイドバーの固定を緩めた状態でカムを回転操作することにより、ガイドバーをカムで押してスプロケットから離れる方向に移動させて、ソーチェーンの張力を調整するようにした張力調整機構が記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0017】
図1に示すチェーンソー11は動力鋸とも呼ばれるものであり、樹木の幹や枝などの被切断物を切断するために使用される。
【0018】
チェーンソー11は樹脂製のベース12を備え、このベース12にはエンジンケースとも呼ばれるハウジング13が搭載されている。ハウジング13はベース12との間にゴムダンパ(不図示)が設けられ、ベース12に対してフローティング構造とされている。
【0019】
ハウジング13の内部には駆動源であるエンジン14が収容されている。エンジン14は2サイクルのガソリンエンジンであり、ハウジング13の内部に縦置きに配置され、そのクランク軸14aの先端がハウジング13の側面から突出している。
図2に示すように、クランク軸14aの先端には遠心クラッチ(不図示)を介してスプロケット15が取り付けられ、エンジン14が作動してクランク軸14aの回転数が所定回転数以上となると遠心クラッチが動力伝達状態に切り替わり、エンジン14によりスプロケット15が回転駆動されるようになっている。
【0020】
ベース12には後ハンドル16が一体に設けられるとともにねじ部材により前ハンドル17が取り付けられており、作業者はこれらのハンドル16,17を把持して作業を行なうことができる。前ハンドル17の前方にはハンドガード18が設けられ、前ハンドル17を握る作業者の手の保護が図られている。後ハンドル16にはスロットルレバー21が設けられ、スロットルレバー21を操作することによりエンジン14の回転数を制御することができる。符号22は後ハンドル16に設けられたロックレバーであり、ロックレバー22がオンされた状態でのみエンジン14を作動することができ、ロックレバー22がオフされるとエンジン14が自動的に停止されるようになっている。
【0021】
ハウジング13の側面にはサイドケース31が固定され、このサイドケース31によりハウジング13の側面に配置されたスプロケット15が覆われている。
図3、
図4に示すように、ハウジング13の側面にはクランク軸14aの軸方向に垂直な平面に形成された挟持面13aが設けられている。挟持面13aには植え込み式のボルト(スタッド)32が軸方向をクランク軸14aと平行な方向に向けて固定されており、このボルト32の先端部は挟持面13aから垂直に突出している。
【0022】
サイドケース31にはハウジング13の挟持面13aに対向する取付面31aが設けられている。取付面31aは平面に形成され、この取付面31aに開口する貫通孔31bがサイドケース31に設けられている。サイドケース31の貫通孔31bにはボルト32が挿通され、このボルト32の先端に設けられた雄ねじ部32aにナット33がねじ込まれている。ナット33はワッシャ34を介してサイドケース31の座面31cに着座し、ナット33をボルト32に締め付けることにより、サイドケース31はハウジング13の側面に固定される。
【0023】
ハウジング13の側面にはガイドバー35が固定されている。ガイドバー35は鋼材等の金属により長尺の板状に形成されており、
図5に示すように、その基端部には幅方向中央部に位置して長手方向に沿って延びる調節孔35aが設けられ、また、調節孔35aの幅方向両側には一対の係止孔35bが設けられている。ガイドバー35の基端部はハウジング13の挟持面13aとサイドケース31の取付面31aとの間に配置され、調節孔35aにはボルト32が挿通される。ナット33がボルト32に締め付けられる前の状態つまりガイドバー35のハウジング13への固定が緩められた仮止め状態では、挟持面13aと取付面31aとの間に配置されたガイドバー35は調節孔35aに沿ってボルト32が相対移動できる範囲で長手方向つまりスプロケット15に接近・離反する方向に移動自在とされる。一方、ナット33がボルト32に締め付けられてサイドケース31がハウジング13に固定されると、ガイドバー35は、その基端部がハウジング13の挟持面13aとサイドケース31の取付面31aとの間に挟み込まれてハウジング13の側面に固定される。
【0024】
ハウジング13の挟持面13aとサイドケース31の取付面31aには、それぞれ鋼板等の金属板36a,36bが貼り付けられており、挟持面13aと取付面31aの剛性の向上と偏摩耗の抑制が図られている。
【0025】
ガイドバー35のレール形状となった外周縁とスプロケット15にはソーチェーン41が掛け渡されている。エンジン14が作動してスプロケット15が回転すると、ソーチェーン41はスプロケット15により駆動されてガイドバー35の外周縁に沿って回転する。ソーチェーン41はチェーンの外側部に刃を設けた構造の工具であり、ガイドバー35の外周縁に沿って回転するソーチェーン41を樹木の幹や枝等の被切断物に押し付けることにより切断作業を行うことができる。
【0026】
ソーチェーン41の交換により新たなソーチェーン41をガイドバー35とスプロケット15とに掛け渡したときや、ガイドバー35とスプロケット15とに掛け渡されたソーチェーン41の周長が結合ピンの摩耗により延びたときなどには、ソーチェーン41の張り具合の調整が必要となる。本発明のチェーンソー11では、
図6に示すように、サイドケース31に張力調整機構51を設け、この張力調整機構51によりソーチェーン41の張り具合つまり張力を調整するようにしている。
【0027】
ソーチェーン41の張り具合の調整は、ボルト32に対するナット33の締結、つまりハウジング13に対するガイドバー35の固定を緩めてガイドバー35をハウジング13とサイドケース31との間で長手方向に移動自在とし、この状態で、ガイドバー35をスプロケット15に対して接近・離反する方向に駆動することにより行われる。本発明では、緩められたナット33をボルト32にねじ込む操作により張力調整機構51を作動させ、ハウジング13にガイドバー35やサイドケース31を固定する作業により、ソーチェーン41の張り具合も張力調整機構51により自動的に調整されるようにしている。
【0028】
図6〜
図8に示すように、張力調整機構51は入力部材としてのプレート部材52、出力部材としてのテンショナーピン53およびリンク機構54を備えている。
【0029】
プレート部材52は鋼板により形成されており、平板状の本体部52aと、本体部52aの両側部を垂直に折り曲げて形成された一対のフランジ部52bとを備えている。本体部52aには切り欠き52cが設けられ、この切り欠き52cにボルト32が挿通されており、ボルト32にナット33がねじ結合されると、ナット33は軸方向から本体部52aにワッシャ34を介して当接するようになっている。
【0030】
サイドケース31の座面31cはボルト32の軸方向から見てU字形状に形成されており、この座面31cの内側は座面31cに対して取付面31aの側に凹んだ凹部31dとなっている。凹部31dの底壁部分には軸受板材55により取付面31aと平行、且つ、ガイドバー35の長手方向に沿って延びるガイド溝56が設けられている。ガイド溝56にはピン部材57が配置されており、このピン部材57のガイド溝56から突出する両端部にテンショナーピン53が回動自在に連結されている。テンショナーピン53は、ピン部材57がガイド溝56に沿って移動する範囲でスプロケット15に接近・離反する方向つまりガイドバー35の長手方向に沿って移動することができる。テンショナーピン53の先端部は取付面31aから垂直に突出しており、ハウジング13とサイドケース31との間にガイドバー35が挟み込まれると、テンショナーピン53はガイドバー35の基端部に設けられた係止孔35bに係合する。なお、テンショナーピン53は鋼材等の金属製となっている。
【0031】
リンク機構54は一対の回動アーム61と一対の調整アーム62とを備えている。回動アーム61の一端は、それぞれプレート部材52の対応するフランジ部52bにピン部材63により回動自在に連結されており、他端はサイドケース31の凹部31dの底壁部分にピン部材64により回動自在に連結されている。フランジ部52bにはスプロケット15に接近・離反する方向に向けて延びる長孔52dが設けられ、調整アーム62の一端が長孔52dに挿通されたピン部材65によりフランジ部52bに回動自在に連結されている。フランジ部52bの長手方向の他端側には係止ピン66が固定され、係止ピン66と調整アーム62に連結されるピン部材65とにスプリング67が掛け渡されている。スプリング67は引っ張りコイルばねとなっており、このスプリング67のばね力により、ピン部材65は長孔52dの内部でガイドバー35の先端方向つまりスプロケット15から離れる方向に付勢されている。調整アーム62の他端はテンショナーピン53に連結されたピン部材57に回動自在に連結されており、テンショナーピン53とともにガイドバー35の長手方向に沿って移動可能となっている。
【0032】
プレート部材52は、このようなリンク機構54により支持され、本体部52aの上面が座面31cよりも取付面31aから離れる位置と、凹部31dの内部に位置して本体部52aの上面が座面31cと同一面となる位置との間で、ボルト32の軸方向に移動自在となっている。また、プレート部材52の本体部52aにはワッシャ34を介してナット33が配置されるので、ナット33をボルト32にねじ込むことにより、ナット33によりプレート部材52を押してボルト32の軸方向に沿って取付面31aに向けて移動させることができる。
【0033】
次に、ソーチェーン41の張力を調整する手順について説明する。
【0034】
図9(a)に示すように、ボルト32にナット33がねじ結合される前の状態では、ガイドバー35はハウジング13とサイドケース31との間でスプロケット15に接近・離反する方向に移動自在となっており、ガイドバー35とスプロケット15とに掛け渡されたソーチェーン41には緩みが生じている。また、張力調整機構51のプレート部材52は本体部52aの上面が座面31cよりも取付面31aから離れて位置し、テンショナーピン53はガイドバー35の係止孔35bに係合している。
【0035】
この状態から、ハウジング13にサイドケース31やガイドバー35を固定するため、ボルト32にナット33がねじ込まれると、ナット33がボルト32に沿って座面31cに向けて回転しながら軸方向に移動する。ナット33がワッシャ34を介してプレート部材52の本体部52aに当接した後、さらにナット33をボルト32にねじ込むと、ナット33に押されてプレート部材52がボルト32の軸方向に沿って取付面31aに近づく方向に移動する。
【0036】
ここで、リンク機構54を構成する回動アーム61はサイドケース31との連結部よりもプレート部材52との連結部がスプロケット15から離れて位置するように傾斜しており、また、調整アーム62は回動アーム61とは逆向きに傾斜している。これにより、プレート部材52がナット33により押されてボルト32の軸方向に沿って取付面31aに近づく方向に移動すると、回動アーム61がピン部材64を中心として回動し、プレート部材52はボルト32の軸方向に沿って取付面31aに近づく方向に移動しつつスプロケット15から離れる方向にも移動する。また、調整アーム62はプレート部材52とともにスプロケット15から離れる方向に移動しつつピン部材65を中心として回動し、テンショナーピン53をスプロケット15から離れる方向に移動させる。このように、ボルト32にナット33がねじ込まれてプレート部材52がボルト32の軸方向に沿って取付面31aに近づく方向に向けて移動すると、リンク機構54によりプレート部材52の軸方向の動きがガイドバー35の長手方向の動きに変換されてテンショナーピン53に伝達される。テンショナーピン53がガイドバーの長手方向に向けてスプロケット15から離れる方向に移動すると、テンショナーピン53に係合するガイドバー35がテンショナーピン53によりスプロケット15から離れる方向に駆動され、ソーチェーン41の張力が高められていく。
【0037】
リンク機構54はトグル機構として機能し、プレート部材52の移動量が、リンク機構54により増幅されてテンショナーピン53に伝達される。これにより、プレート部材52の軸方向への移動量が小さくても、その移動量がリンク機構54により増幅され、ソーチェーン41を適切な張力に設定するために必要な十分な移動ストロークをガイドバー35に与えることができる。また、ナット33をボルト32にねじ込む力がリンク機構54により増幅されてテンショナーピン53に伝達されることになるのでナット33の締結作業に必要なトルクを小さくして、ナット33の締結作業を容易にすることができる。また、その反対に、ガイドバー35を介してナット33やボルト32に加えられるソーチェーン41の反力も小さくなる。このように、リンク機構54を用いてプレート部材52の動きをテンショナーピン53に伝達するようにしたので、プレート部材52やテンショナーピン53からなる張力調整機構51を小型化しても、ガイドバー35に十分なストロークを与える構成とすることができるので、張力調整機構51を小型化が可能となる。
【0038】
ナット33の締め付けが進み、ソーチェーン41の張力が所定値に達すると、スプリング67のばね力に抗して、リンク連結部である調整アーム62とプレート部材52との連結部が長孔52dに沿ってスプロケット15に近づく方向つまりガイドバー35からの反力を吸収する方向に移動する。これにより、プレート部材52の軸方向への動きがテンショナーピン53に伝達されなくなり、ガイドバー35のそれ以上の移動が阻止されてソーチェーン41の張力が所定の値に維持される。つまり、プレート部材52と調整アーム62との連結部は、スプリング67を用いてガイドバー35からの反力を吸収する構成とされているので、ソーチェーン41の張力はスプリング67により適切な値に自動的に調整される。したがって、ナット33の締め付け量やプレート部材52の移動量に拘わらず、ソーチェーン41の張りすぎや緩みすぎが防止され、ソーチェーン41の耐久性、安全性が高められる。また、ソーチェーン41の張力が自動的に適切な値に調整されることになるので、作業者による調整が不要となり、その作業負担が低減する。
【0039】
図9(b)に示すように、ナット33がワッシャ34を介してサイドケース31の座面31cに当接するまでねじ込まれると、プレート部材52は本体部52aの上面が座面31cと同一面状となる位置に固定され、ガイドバー35はハウジング13とサイドケース31との間に挟み込まれてハウジング13の側面に固定される。これにより、サイドケース31とハウジング13との間にガイドバー35が固定され、ソーチェーン41の張り具合の調整が完了する。
【0040】
このように、本発明のチェーンソー11では、プレート部材52をボルト32の軸方向に向けて移動させることにより、ガイドバー35に係合するテンショナーピン53をスプロケット15から離れる方向に駆動してソーチェーン41の張り具合を調整するようにしたので、プレート部材52の軸方向への移動量が小さくても、ソーチェーン41を適切な張力に設定するために必要な十分な移動ストロークをガイドバー35に与えることができる。したがって、プレート部材52やテンショナーピン53からなる張力調整機構51を小型化することができる。
【0041】
また、本発明のチェーンソー11では、ハウジング13にガイドバー35を固定するためにボルト32にねじ込まれるナット33によりプレート部材52を押して、ガイドバー35をスプロケット15から離れる方向に駆動するようにしたので、ガイドバー35をハウジング13に固定するナット33の締結操作を行うことで、ソーチェーン41の張り具合を自動的に調整することができる。つまり、ハウジング13とサイドケース31との間にガイドバー35を仮止めしてソーチェーン41の張力を調整することを不要とし、ボルト32にナット33をねじ込む1ステップの作業で、ガイドバー35の固定とソーチェーン41の張力の調整とを行うことができる。したがって、ソーチェーン41の張り具合の調整を容易にすることができる。
【0042】
一方、ソーチェーン41をガイドバー35から取り外す際には、ナット33を緩めると、ガイドバー35からの反力とスプリング67のばね力により、プレート部材52がボルト32の軸方向に沿って取付面31aから離れる方向に移動し、これにより、ガイドバー35がスプロケット15に近づく方向に移動されてソーチェーン41の張力が自動的に緩められる。したがって、ソーチェーン41の取り外し作業における作業者の負担を低減することができるとともに、その安全性を高めることができる。
【0043】
また、ソーチェーン41に伸びが生じた場合には、その張り具合の再調整が必要となるが、この場合には、ナット33を一端緩め、再度そのナット33を締め直すことにより、ソーチェーン41の張り具合を自動的に調整し直すことができる。したがって、ソーチェーン41の張力の再調整作業を容易に行うことができる。
【0044】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
【0045】
例えば、前記実施の形態においては、駆動源としてエンジン14を用いているが、これに限らず、駆動源として電動モータを用いるようにしてもよい。また、エンジンとしては、2サイクルのガソリンエンジンに限らず、4サイクルのガソリンエンジンやガソリン以外の他の燃料を用いるエンジンとしてもよい。
【0046】
前記実施の形態においては、張力調整機構51をサイドケース31に設けるようにしているが、これに限らず、張力調整機構51をハウジング13に設けるようにしてもよい。
【0047】
前記実施の形態においては、プレート部材52と調整アーム62との連結部に長孔52dとスプリング67とを設けてガイドバー35からの反力を吸収させるようにしているが、これに限らず、長孔52dとスプリング67を設けてガイドバー35からの反力を吸収させる連結部を、回動アーム61や調整アーム62の他の連結部に設けるようにしてもよい。