特許第5807612号(P5807612)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5807612-2サイクルエンジン 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5807612
(24)【登録日】2015年9月18日
(45)【発行日】2015年11月10日
(54)【発明の名称】2サイクルエンジン
(51)【国際特許分類】
   F02D 41/02 20060101AFI20151021BHJP
   F02B 25/04 20060101ALI20151021BHJP
【FI】
   F02D41/02 385
   F02B25/04
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-115945(P2012-115945)
(22)【出願日】2012年5月21日
(62)【分割の表示】特願2011-196035(P2011-196035)の分割
【原出願日】2011年9月8日
(65)【公開番号】特開2012-180839(P2012-180839A)
(43)【公開日】2012年9月20日
【審査請求日】2014年7月23日
(31)【優先権主張番号】特願2010-201041(P2010-201041)
(32)【優先日】2010年9月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 久典
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 孝行
(72)【発明者】
【氏名】山田 剛
(72)【発明者】
【氏名】足利 泰宜
(72)【発明者】
【氏名】山田 敬之
(72)【発明者】
【氏名】久下 喬弘
【審査官】 立花 啓
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭64−024113(JP,A)
【文献】 特開2005−090369(JP,A)
【文献】 特開平11−141371(JP,A)
【文献】 特開平09−291839(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 41/00−45/00
F02B 25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダの内部において往復移動するピストンと、前記シリンダの長さ方向一端部において開閉する排気ポートと、前記シリンダの長さ方向他端部において開閉する掃気ポートと、前記排気ポートと前記掃気ポートとの間において前記シリンダの内部に燃料を噴射する燃料噴射ポートとを有する2サイクルエンジンにおいて、
前記排気ポートから前記シリンダの内部の排気ガスの排気が完了する前であって、前記排気ポート及び前記掃気ポートの両方が開放された状態で、前記燃料噴射ポートを開放状態とさせる燃料噴射制御装置と、
前記燃料噴射ポートが開放状態となった後において、前記掃気ポートが閉塞状態となった後に、前記排気ポートを排気弁によって閉塞状態として前記排気ガスの排気を完了させる排気弁駆動装置と、を有し、
前記燃料噴射制御装置は、前記掃気ポート及び前記排気ポートの両方が閉塞された後も継続して前記燃料噴射ポートを開放状態とさせ、その後、少なくとも、前記ピストンが前記燃料噴射ポートの燃料噴射位置に達する前には、前記燃料噴射ポートを閉塞状態とさせることを特徴とする2サイクルエンジン。
【請求項2】
前記燃料噴射制御装置は、前記排気ポートから前記シリンダの内部の排気ガスの排気が完了する前であって、前記掃気ポートから前記シリンダの内部に吸入された吸入新気層が前記燃料噴射ポートの燃料噴射位置に達した後に、前記燃料噴射ポートを開放状態とさせることを特徴とする請求項1に記載の2サイクルエンジン。
【請求項3】
前記燃料噴射制御装置は、前記掃気ポートから前記シリンダの内部に吸入された吸入新気層が前記燃料噴射ポートの燃料噴射位置に達した後で、且つ、排気ガス層と前記燃料噴射位置との間に前記吸入新気層を形成させるための遅れ時間が経過した後に、前記燃料噴射ポートを開放状態とさせることを特徴とする請求項2に記載の2サイクルエンジン。
【請求項4】
前記燃料噴射制御装置は、前記排気ポート及び前記掃気ポートの少なくともいずれか一方の開放度に基づいて、前記燃料噴射ポートを開閉させることを特徴とする請求項2または3に記載の2サイクルエンジン。
【請求項5】
前記燃料噴射制御装置は、前記排気ポート及び前記掃気ポートのうち、開きタイミングの遅い方の開放度に基づいて、前記燃料噴射ポートを開閉させることを特徴とする請求項4に記載の2サイクルエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2サイクルエンジンに関し、特にシリンダの内部に燃料を直接噴射(直噴)する2サイクルエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
2サイクルエンジン(2ストロークエンジンとも称される)は、シリンダの内部でピストンが1往復するごとに、吸気、圧縮、燃焼、排気が1サイクルするレシプロエンジンである。一般に、2サイクルエンジンは、シリンダの内部にインジェクタ等の燃料噴射ポートを備え、掃気ポート及び排気ポートが閉塞された状態で、燃焼室内に燃料噴射することで、燃料の吹き抜けを防ぐ構成となっている。
【0003】
この2サイクルエンジンとして、例えば、下記特許文献1に記載の2サイクル改質ガスエンジンが知られている。この2サイクルエンジンは、シリンダの上部に排気ポートを備え、シリンダの下部に掃気ポートを備えるユニフロー型2サイクルエンジンである。この2サイクルエンジンにおいても、排気完了後、ピストンが掃気ポートより上方に位置して燃焼室が閉鎖された圧縮行程中に、改質ガスを燃焼室内に噴射する構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−291769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来技術においては、排気完了後の燃焼室内に排気ガスが殆ど存在しない圧縮行程中に、燃料を燃焼室内へ噴射する構成となっている。しかしながら、圧縮行程中、燃焼室内は高圧になっており、燃料を燃焼室内に噴射するためには、より高い圧力で燃料を噴射するための高出力の昇圧装置が必要となる。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、高い圧力をかけずにシリンダの内部に燃料を直噴できる2サイクルエンジンの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明は、シリンダの長さ方向一端部において開閉する排気ポートと、上記シリンダの長さ方向他端部において開閉する掃気ポートと、上記排気ポートと上記掃気ポートとの間において上記シリンダの内部に燃料を噴射する燃料噴射ポートとを有する2サイクルエンジンにおいて、上記排気ポートから上記シリンダの内部の排気ガスの排気が完了する前であって、上記排気ポート及び上記掃気ポートの両方が開放された状態で、上記燃料噴射ポートを開放状態とさせる燃料噴射制御装置と、上記燃料噴射ポートが開放状態となった後において、上記掃気ポートが閉塞状態となった後に、上記排気ポートを排気弁によって閉塞状態として上記排気ガスの排気を完了させる排気弁駆動装置と、を有するという構成を採用する。
この構成を採用することによって、本発明は、シリンダの内部における排気ガスの排気が完了する前、すなわち、排気ポート及び掃気ポートの両方が開放された低圧状態で、燃料の噴射を開始させる。これにより、従来よりも低圧で、燃料を燃焼室内に噴射することができる。
【0008】
また、本発明においては、上記燃料噴射制御装置は、上記排気ポートから上記シリンダの内部の排気ガスの排気が完了する前であって、上記掃気ポートから上記シリンダの内部に吸入された吸入新気層が上記燃料噴射ポートの燃料噴射位置に達した後に、上記燃料噴射ポートを開放状態とさせるという構成を採用する。
この構成を採用することによって、本発明は、燃料噴射開始時を、掃気ポートからシリンダの内部に吸入された吸入新気層が燃料噴射ポートの燃料噴射位置に達した後となるように制御する。これにより、噴射された燃料が、シリンダの内部に一部残存している高温の排気ガスに接触することを回避できるので、過早着火を予防し、エンジン駆動の安定化を図ることができる。
【0009】
また、本発明においては、上記燃料噴射制御装置は、上記掃気ポートから上記シリンダの内部に吸入された吸入新気層が上記燃料噴射ポートの燃料噴射位置に達した後で、且つ、排気ガス層と上記燃料噴射位置との間に上記吸入新気層を形成させるための遅れ時間が経過した後に、上記燃料噴射ポートを開放状態とさせるという構成を採用する。
この構成を採用することによって、本発明は、吸入新気層が燃料噴射位置に達し、さらに、遅れ時間が経過した後に、燃料の噴射を開始させる。この遅れ時間によって、排気ガス層と燃料噴射位置との間に吸入新気層が形成される。そうすると、この吸入新気層が、燃料と排気ガス層との間に介在して、両者の接触を防止する。したがって、本発明によれば、より確実に過早着火を予防することができる。
【0010】
また、本発明においては、上記燃料噴射制御装置は、上記排気ポート及び上記掃気ポートの少なくともいずれか一方の開放度に基づいて、上記燃料噴射ポートを開閉させるという構成を採用する。
この構成を採用することによって、本発明は、排気ポート及び掃気ポートの少なくともいずれか一方の開放度に基づいて、燃料噴射ポートの開閉制御を行う。上記開放度からは、シリンダの内部において吸入新気層が、排気ガス層を押し出しつつどの位置まで達したかを推定できる。
【0011】
また、本発明においては、上記燃料噴射制御装置は、上記排気ポート及び上記掃気ポートのうち、開きタイミングの遅い方の開放度に基づいて、上記燃料噴射ポートを開閉させるという構成を採用する。
この構成を採用することによって、本発明は、排気ポート及び掃気ポートのうち、開きタイミングの遅い方の開放度に基づいて、燃料噴射ポートの開閉制御を行う。シリンダの内部において吸入新気層が、排気ガス層を押し出しつつどの位置まで達したかは、開きタイミングの遅い方の開放度に依存する度合いが高い。したがって、本発明によれば、より正確に、吸入新気層が達した位置を推定できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、シリンダの長さ方向一端部において開閉する排気ポートと、上記シリンダの長さ方向他端部において開閉する掃気ポートと、上記排気ポートと上記掃気ポートとの間において上記シリンダの内部に燃料を噴射する燃料噴射ポートとを有する2サイクルエンジンにおいて、上記排気ポートから上記シリンダの内部の排気ガスの排気が完了する前であって、上記排気ポート及び上記掃気ポートの両方が開放された状態で、上記燃料噴射ポートを開放状態とさせる燃料噴射制御装置と、上記燃料噴射ポートが開放状態となった後において、上記掃気ポートが閉塞状態となった後に、上記排気ポートを排気弁によって閉塞状態として上記排気ガスの排気を完了させる排気弁駆動装置と、を有するという構成を採用することによって、従来よりも低圧で、燃料を燃焼室内に噴射することができる。
また、本発明によれば、上記燃料噴射制御装置は、上記排気ポートから上記シリンダの内部の排気ガスの排気が完了する前であって、上記掃気ポートから上記シリンダの内部に吸入された吸入新気層が上記燃料噴射ポートの燃料噴射位置に達した後に、上記燃料噴射ポートを開放状態とさせることによって、燃料が、シリンダの内部に一部残存している高温の排気ガスに接触することを回避できるので、過早着火を予防し、エンジン駆動の安定化を図ることができる。
したがって、本発明では、過早着火を予防しつつ、高い圧力をかけずにシリンダの内部に燃料を直噴できる2サイクルエンジンが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態における2サイクルエンジンを示す全体構成図である。
図2】本発明の実施形態における2サイクルエンジンの燃料噴射動作を説明するための図である。
図3】本発明の実施形態における2サイクルエンジンのクランク角度と各ポートの開放度との対応関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施形態における2サイクルエンジンを示す全体構成図である。
本実施形態の2サイクルエンジンは、例えば船舶等に設けられる大型のユニフロー型2サイクルガスエンジンであり、LNG(液化天然ガス)を燃料とする。同図における符号1は、エンジン本体であり、シリンダ2の内部において、不図示のクランク機構に連結されたピストン3が往復移動する構成となっている。なお、ピストン3としては、ストロークが長いクロスヘッド型ピストンを採用している。
【0015】
シリンダ2の上部(長さ方向一端部)には、パイロット噴射弁5及び排気ポート6が設けられている。排気ポート6は、ピストン3の上死点近傍であって、シリンダヘッド4aの頂部において開口している。排気ポート6は、排気弁7を有する。排気弁7は、排気弁駆動装置8によって所定のタイミングで上下動し、排気ポート6を開閉させる構成となっている。排気ポート6を介して排気された排気ガスは、例えば、不図示の過給機のタービン側に供給された後、外部に排気される構成となっている。
【0016】
シリンダ2の下部(長さ方向他端部)には、掃気ポート9が設けられている。掃気ポート9は、ピストン3の往復移動によって所定のタイミングで開閉する構成となっている。掃気ポート9は、ピストン3の下死点近傍であって、シリンダライナ4bの側部において開口している。掃気ポート9は、筐体10によって形成された空間11に囲まれている。筐体10には、掃気チャンバ12が接続されている。掃気チャンバ12は、例えば、不図示の過給機のコンプレッサ側から、加圧された空気が供給されてくる構成となっている。
【0017】
シリンダ2の中腹部(中間部)には、燃料噴射ポート13が設けられている。燃料噴射ポート13は、排気ポート6と掃気ポート9との間においてシリンダ2の内部(燃焼室)に、LNGをガス化した燃料ガスを噴射する構成となっている。燃料噴射ポート13は、シリンダライナ4bの周方向に間隔をあけて複数設けられ、それぞれが燃料噴射弁14を有する。燃料噴射弁14は、燃料噴射制御装置15からの指令を受け、燃料噴射ポート13を開閉し、燃料ガスの噴射、噴射停止を行う構成となっている。
【0018】
燃料噴射制御装置15は、ガバナー(調速機)16から燃料噴射量に関する指令が入力される構成となっている。ガバナー16は、入力されたエンジン出力指令値と、不図示のクランク機構に設けられたロータリエンコーダ17からのエンジン回転数信号とに基づいて、燃料噴射量を出力する構成となっている。また、ロータリエンコーダ17において検出されたクランク角度信号は、燃料噴射制御装置15及びエンジン制御装置18に入力される。
【0019】
エンジン制御装置18は、クランク角度信号に基づいて、排気弁駆動装置8に排気弁操作信号を出力する構成となっている。また、エンジン制御装置18と燃料噴射制御装置15との相互間においては、排気弁開閉タイミング信号を含む所定の情報のやりとりが行われる。そして、燃料噴射制御装置15は、上記入力に基づき、所定の燃料噴射量を、所定のタイミングで、シリンダ2内に、燃料ガスを噴射させる構成となっている。
【0020】
具体的に、燃料噴射制御装置15は、クランク角度信号、排気弁開閉タイミング信号に基づき、排気ポート6の開放度、掃気ポート9の開放度を把握して、燃料噴射弁14に燃料噴射弁操作信号を出力し、燃料噴射ポート13の開閉制御を行う構成となっている。燃料噴射ポート13を開放状態とさせる燃料ガスの燃料噴射タイミングは、排気ポート6からシリンダ2内部の排気ガスの排気が完了する前であって、掃気ポート9からシリンダ2の内部に吸入された吸入新気層が燃料噴射ポート13の燃料噴射位置に達した後に、設定されている。また、本実施形態の燃料噴射タイミングは、さらに、排気ガス層と燃料噴射位置との間に吸入新気層を形成させるための遅れ時間が経過した後に、設定されている。
【0021】
以下、図2及び図3を参照して、燃料噴射制御装置15の制御の下に行われる特徴的な燃料噴射動作について説明する。
図2は、本発明の実施形態における2サイクルエンジンの燃料噴射動作を説明するための図である。図3は、本発明の実施形態における2サイクルエンジンのクランク角度と各ポートの開放度(リフト量、開口面積等)との対応関係を示すグラフである。なお、図2中、符号Aは、排気ガス層を示し、符号Bは、吸入新気層を示し、符号Cは、燃料ガスと空気が混合した予混合気層を示す。
【0022】
図2(a)は、燃焼後の膨張行程を示す。この時、排気ポート6及び掃気ポート9は閉塞状態にあり、シリンダ2の内部が排気ガス層Aで満たされている。
図2(a)から、さらにピストン3が下がり、クランク角度が所定角度に達すると、エンジン制御装置18によって排気弁駆動装置8が駆動し、排気弁7が下がり、排気ポート6が開放される(ステップS1:図2(b)及び図3参照)。
【0023】
図2(b)から、またさらにピストン3が下がり、クランク角度が所定角度に達すると、ピストン3により閉塞状態とされていた掃気ポート9が開放される(ステップS2:図2(c)及び図3参照)。そして、ピストン3が下死点に達するときには、完全に掃気ポート9が開放される(図2(d)参照)。
吸気は、排気ポート6及び掃気ポート9が開いたステップS2から開始される。そして、掃気ポート9からシリンダ2の内部に吸入された吸入新気層Bは、排気ガス層Aを押し上げつつ、シリンダ2の内部を下方から上方に向けて満たして行く。
【0024】
吸入新気層Bが、燃料噴射ポート13が設けられた燃料噴射位置に達した後、燃料噴射制御装置15によって燃料噴射弁14が駆動し、燃料噴射ポート13からの、燃料ガスの噴射が開始される(図2(e)及び図3参照)。
この時、排気ポート6及び掃気ポート9が開放状態の排気中であるため、シリンダ2の内部は、低圧である。したがって、燃料噴射ポート13からは、圧縮中における圧力よりも低圧で、燃料ガスをシリンダ2の内部に噴射することができる。このため、高出力の昇圧装置を設けずとも、燃料ガスを燃焼室内に噴射することが可能となる。
【0025】
但し、この時、燃焼室内には、高温の排気ガスが一部残存している状態にある。仮に、高温の排気ガス層A中に、燃料ガスが噴き付けられ、両者が接触すると、過早着火が生じてしまう場合がある。このため、本実施形態では、燃料噴射タイミングを、掃気ポート9からシリンダ2の内部に吸入された吸入新気層Bが燃料噴射ポート13の燃料噴射位置に達した後となるように制御している。吸入新気層Bが燃料噴射ポート13の燃料噴射位置に達した後であれば、ユニフロー(単流)であることも相俟って吸入新気層Bが排気ガス層Aを押し出すので、噴射された燃料ガスが、シリンダ2の内部に一部残存している高温の排気ガスに接触してしまうことを回避できる。このため、過早着火を予防し、エンジン駆動の安定化を図ることができる。
【0026】
さらに、本実施形態では、燃料噴射タイミングを、吸入新気層Bが燃料噴射位置に達した後で、且つ、排気ガス層Aと燃料噴射位置との間に吸入新気層Bを形成させるための遅れ時間が経過した後に、設定している。この遅れ時間によって排気ガス層Aと燃料噴射位置との間に形成された吸入新気層Bは、排気ガス層Aと予混合気層Cとの間に介在し、両者の接触を防止する(図2(e)参照)。具体的な作用としては、燃料噴射ポート13から燃料ガスが所定幅で噴射・拡散しても、介在する吸入新気層Bによって、排気ガス層Aとの接触を阻止することができる。さらに、両者間に吸入新気層Bを介在させることによって、排気ガス層Aの界面の揺らぎによる燃料噴射位置への侵入に伴う予期せぬ過早着火を予防することができる。したがって、この遅れ時間によって、排気ガス層Aと予混合気層Cとの間に吸入新気層Bを介在させることによって、より確実に過早着火を予防することができる。
【0027】
なお、シリンダ2の内部において吸入新気層Bが、排気ガス層Aを押し出しつつどの位置まで達したかは、排気ポート6の開放度(リフト量)及び掃気ポート9の開放度(開口面積)の少なくともいずれか一方に基づいて推定できる。本実施形態では、掃気ポート9の開放度は、ピストン3の位置、すなわち、クランク角度により一に定まるので、排気ポート6の開放タイミングに基づいて、燃料噴射タイミングを設定している(図3参照)。排気ポート6の開放タイミングは排気弁駆動装置8により可変であり、エンジンの負荷に応じて、掃気ポート9の開放タイミングと前後する場合がある。この理由からも、本実施形態では、排気ポート6の開放タイミングに基づいて、燃料噴射タイミングを設定している。
【0028】
ピストン3が下死点を過ぎて上昇し始めると、掃気ポート9が閉塞され始める(図2(f)参照)。この時、燃料噴射は、継続されており、排気ガス層Aとの間に吸入新気層Bが介在した状態で、予混合気層Cがシリンダ2の内部を満たして行く。
図2(f)から、さらにピストン3が上がり、クランク角度が所定角度に達すると、開放状態とされていた掃気ポート9がピストン3により閉塞される(ステップS3:図2(g)及び図3参照)。この時、排気ポート6は、未だ閉塞されていないので、低圧での燃料噴射は継続される。
【0029】
図2(g)から、またさらにピストン3が上がり、クランク角度が所定角度に達すると、排気弁7が上がりきり、排気ポート6が閉塞され、排気が完了する(ステップS4:図2(h)及び図3参照)。この時、排気ガス層Aの殆どすべてが排気されることとなるが、本実施形態では、排気ガス層Aと予混合気層Cとの間に吸入新気層Bを介在させているので余裕が生まれ、介在した吸入新気層Bの一部が吹き抜けた状態での排気ポート6の閉塞が可能となる。これにより、排気ガス層Aの殆どすべてを排気しつつ、予混合気層Cの吹き抜けを防ぐことができる。
【0030】
圧縮は、排気ポート6及び掃気ポート9が閉じたステップS4から開始される。燃料噴射は、燃焼室の圧力が高くなる前の圧縮行程前半まで継続する。もっとも、昇圧装置の性能限界の圧力に達する前には、燃料噴射を終了させる。少なくとも、ピストン3が、燃料噴射位置に達する前、すなわち、シリンダ2の中腹部に達する前には、燃料噴射制御装置15によって燃料噴射弁14が閉じられて、燃料噴射が終了する(図2(i)参照)。
その後、ピストン3が上死点まで達し、予混合気層Cが圧縮されると、着火が行われ、燃焼により生じた排気ガスが、ピストン3を押し下げて、図2(a)の状態に戻る。
以上により、エンジンの1サイクルにおける燃料噴射動作が終了する。
【0031】
したがって、上述の本実施形態によれば、シリンダ2の上部において開閉する排気ポート6と、シリンダ2の下部において開閉する掃気ポート9と、排気ポート6と掃気ポート9との間においてシリンダ2の内部に燃料ガスを噴射する燃料噴射ポート13とを有するユニフロー型2サイクルガスエンジンにおいて、排気ポート6からシリンダ2の内部の排気ガスの排気が完了する前であって、掃気ポート9からシリンダ2の内部に吸入された吸入新気層Bが燃料噴射ポート13の燃料噴射位置に達した後に、燃料噴射ポート13を開放状態とさせる燃料噴射制御装置15を有するという構成を採用することによって、シリンダ2の内部における排気ガスの排気が完了する前、すなわち、排気ポート6及び掃気ポート9の両方が開放された低圧状態で、燃料噴射を開始させる。これにより、従来よりも低圧で、燃料を燃焼室内に噴射することができる。また、本実施形態は、燃料噴射開始時を、掃気ポート9からシリンダ2の内部に吸入された吸入新気層Bが燃料噴射ポート13の燃料噴射位置に達した後となるように制御する。これにより、噴射された燃料が、シリンダ2の内部に一部残存している高温の排気ガスに接触することを回避できるので、過早着火を予防し、エンジン駆動の安定化を図ることができる。
したがって、本実施形態では、過早着火を予防しつつ、高い圧力をかけずにシリンダ2の内部に燃料を直噴できるユニフロー型2サイクルガスエンジンが得られる。
【0032】
以上、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0033】
例えば、上記実施形態では、燃料噴射制御装置15が、排気ポート6の開放度に基づいて、燃料噴射ポート13の開閉制御を行う構成について説明したが、本発明はこの構成に限定されるものではない。
例えば、燃料噴射制御装置15が、掃気ポート9の開放度に基づいて、燃料噴射ポート13の開閉制御を行う構成であっても良いし、また、排気ポート6及び掃気ポート9の開放度に基づいて、燃料噴射ポート13の開閉制御を行う構成であっても良い。
【0034】
また、吸入新気層Bが、排気ガス層Aを押し出しつつどの位置まで達したかは、開きタイミングの遅い方の開放度に依存する度合いが高いので、燃料噴射制御装置15が、排気ポート6及び掃気ポート9のうち、開きタイミングの遅い方の開放度に基づいて、燃料噴射ポート13の開閉制御を行う構成であっても良い。
また、排気ポート6及び掃気ポート9の開放度は、クランク角度に依存するので、燃料噴射制御装置15が、クランク角度に基づいて燃料噴射ポート13の開閉制御を行う構成であっても良い。
【0035】
また、上記実施形態のように、船舶用の2サイクルエンジンにおいては、エンジン出力を一定に保ちつつ駆動する形態であるので、掃気チャンバ12内の圧力はほぼ一定であるが、エンジン出力を頻繁に可変する2サイクルエンジンの場合は、吸気側の圧力が変化する場合がある。この場合は、例えば、掃気ポート9側に圧力計を設け、該計測結果を加味して、燃料噴射制御装置15が、燃料噴射ポート13の開閉制御を行う構成であっても良い。
【0036】
また、例えば、上記実施形態では、ガス燃料を噴射する形態について説明したが、本発明は液体燃料を噴射する形態についても適用することができる。また、燃料についても、LNGを用いる形態でなく、例えば、LPG(液化石油ガス)、軽油、重油等を用いる形態についても本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0037】
2…シリンダ、6…排気ポート、7…排気弁、8…排気弁駆動装置、9…掃気ポート、13…燃料噴射ポート、15…燃料噴射制御装置、A…排気ガス層、B…吸入新気層、C…予混合気層
図1
図2
図3