特許第5808013号(P5808013)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5808013
(24)【登録日】2015年9月18日
(45)【発行日】2015年11月10日
(54)【発明の名称】患者移乗用具
(51)【国際特許分類】
   A61G 1/00 20060101AFI20151021BHJP
   A61G 7/10 20060101ALI20151021BHJP
【FI】
   A61G1/00 502
   A61G7/10
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-30962(P2012-30962)
(22)【出願日】2012年2月15日
(65)【公開番号】特開2013-165838(P2013-165838A)
(43)【公開日】2013年8月29日
【審査請求日】2014年7月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】593202678
【氏名又は名称】黒味 直人
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【復代理人】
【識別番号】100093997
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀佳
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100094101
【弁理士】
【氏名又は名称】舘 泰光
(72)【発明者】
【氏名】黒味 直人
【審査官】 山口 賢一
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第07506387(US,B1)
【文献】 登録実用新案第3069591(JP,U)
【文献】 特開2005−279184(JP,A)
【文献】 特開2008−113773(JP,A)
【文献】 米国特許第04092748(US,A)
【文献】 実開昭60−049817(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61G 1/00
A61G 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
折りたたみ可能な細長い形状を有し患者の身長方向に展開可能なシートと、シート長手方向の中央部及び両端部に各々配設された引き紐とを備え、
各引き紐は、少なくとも前記シートの幅に相当する長さを有し、シートの各側縁部に各一端が固着され、中間部分は前記シートの患者側とは反対側であるシート下側にあって位置が固定されていない
ことを特徴とする患者移乗用具。
【請求項2】
シート端部に配設された引き紐は、シートの各側縁部に各一端が固着されたもの以外に、車椅子上の患者の下側に敷かれた状態のシートを取り出すための車椅子用引き紐を備え、該車椅子用引き紐は、一端部がシートの一側方における車椅子上の患者の膝部付近の隅部に脱着自在に係止され、他端側が前記シートの患者側とは反対側であるシート下側を通ってシートの他側方におけるシート長手方向中央部に達する長さを有し且つ固定されていないことを特徴とする請求項1に記載の患者移乗用具。
【請求項3】
前記シートは、両側縁部に患者搬送用の取っ手が設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の患者移乗用具。
【請求項4】
前記シートには、シートを患者の下側に挿入する際に引き紐を患者近傍位置へ至らせるための操作孔が、シートの幅方向における中央部に設けられ、当該操作孔は、少なくともシート長手方向における中央部に一つ設けられていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の患者移乗用具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可撓性シートを用いた患者移乗用具に関する。
【背景技術】
【0002】
患者をベッド間で移動したり、車椅子等ベッド以外の場所とベッドとの間で移動したりするには、複数の介助者が患者を持ち上げて行うのが一般的である。しかしこの方法では、患者の体重が介助者に大きな負荷となり、また持ち上げ時に局部的に掛かる力が患者に痛みを与えることもある。
【0003】
これに対処するために、患者をベッド等に乗せ替えるための種々の提案がなされている。例えば、特許文献1に記載の移乗用具は、可撓性シートと引寄せ用ロッドとからなっており、患者の下側に挿入した可撓性シートの一端縁を引寄せ用ロッドに巻付け、そのロッドを手動により引寄せることによって患者を移動させるというようにして使用される。
【0004】
また、特許文献2に記載の移乗用具は、袋状のアウターシート内にベースシートを納めて移乗用シートを構成し、アウターシートから突出するようにベースシート先端部に引出手段及び手鉤部を取り付け、移乗用シートを巻き取りローラに巻き付けたものである。使用の際は、移送用ベッドに巻き取りローラを取り付け、ベッド側方に横付けさせた状態で、巻き取りローラから移乗用シートを繰り出して患者の下側に挿入し、その後、巻き取りローラを回転させて移乗用シートを移送用ベッド側へ巻き取ることにより患者を移動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開WO97/38659号公報
【特許文献2】特開平6−269477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これら特許文献に記載の器具はいずれも、シートを患者の下側に敷くことを必要とするが、その操作への配慮がなされていないため、2〜数名で患者を持ち上げた状態でベッド面との間にシートを挿入するか、患者を左右に転動させながら持ち上がった側ごとにシートを拡げる操作が必要である。したがって、患者の体重が介助者に負荷を与えたり、操作が面倒であるという問題を依然として解決できなかった。特に、運転手が介助人を兼ねる介護タクシーの普及や、介助すべき家族の高齢化、病院・介護施設での人手不足等の結果、一人の介助者によって患者を移動させる必要性が高まってきた近時において、これらの問題は大きくなっている。
【0007】
そこで本発明は、介助者への負担が小さく、一人の介助者でも容易に患者をベッド等に乗せ替えることができる患者移乗用具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記目的を達成するため、折りたたみ可能な細長い形状を有し患者の身長方向に展開可能なシートと、シート長手方向の中央部及び両端部に各々配設された引き紐とを備え、各引き紐は、少なくとも前記シートの幅に相当する長さを有し、シートの各側縁部に各一端が固着され、中間部分は前記シートの患者側とは反対側であるシート下側にあって位置が固定されていないことを特徴とする患者移乗用具を提供するものである。
【作用】
【0009】
本発明に係る患者移乗用具は、折りたたみ可能な細長い形状を有し患者(被移乗者)の身長方向に展開可能なシートと、シート長手方向の中央部及び両端部に各々配設された引き紐とを備えた構成となっているので、器具自体が軽くて扱いやすい。
【0010】
これらの引き紐は、少なくとも前記シートの幅に相当する長さを有し、シートの各側縁部に各一端が固着され、中間部分は位置が固定されていない。
【0011】
したがって、この患者移乗用具は、患者をベッド等に移乗する際に、次のようにして用いることができる。先ず、ベッド等に横たわっている患者の一側方で、患者の身長方向にシートを展開する。そして、シートの側縁部を患者の下側に挿入するようにしてシートを患者の他側方に途中まで拡げる。このとき、引き紐が下側になるようにしてシートと共に引き紐の中間部分を患者の下側へ導く。その後は、引き紐をシートの他側方から引くことにより、その部分のシートを全幅に拡げる。引き紐は、少なくともシートの幅に相当する長さを有し、シートの各側縁部に各一端が固着され、中間部分は位置が固定されていないので、その中間部分を引張ればよい。
【0012】
この操作は、患者の一側方から患者の下側への導入までを、シート長手方向の一端側、他端側及び中央部(例えば、患者の頭側部分、足側部分、胴部)について、順次行い、さらにこれら各部について、患者の他側方まで引く操作を行うことにより、シート全体を患者の下側に拡げることができる。各操作は、患者の体重の一部を負荷として受けるだけであるので、小さい力で容易に行うことができる。特に、患者の下側へ挿入するのはシートの一部でよく、その後は引き紐を展開側へ引張ればよいので、患者をベッド等から持ち上げる操作をなくすかごく僅かとすることができる。
【0013】
この展開状態で、シート全体を引き動かせば、隣接させたベッド等に患者を容易に移乗させることができる。
【0014】
移乗を終えた後に患者移乗用具を患者の下側から取り出すには、ベッド等の一側方から引き紐の手前側を引張ることにより引き紐の他端をシートと共に患者の下側に導き、さらに他端までシートと共に患者の一側方へ取り出すことができる。この操作も、シートの各部分に位置する引き紐について、順次行えばよいので、各操作は小さい負荷の下で容易に行うことができる。
【0015】
この操作は、患者の一側方から患者の下側への導入までを、シート長手方向の一端側、他端側及び中央部(例えば、患者の頭側部分、足側部分、胴部)について、順次行い、さらにこれら各部について、患者の他側方まで引く操作を行うことにより、シート全体を患者の下側から取り出すことができる。各操作は、患者の体重の一部を負荷として受けるだけであるので、小さい力で容易に行うことができる。特に、患者の下側へ導くのはシートの一部でよく、その後は引き紐を取り出し側へ引張ればよいので、患者をベッド等から持ち上げる操作をなくすかごく僅かとすることができる。
【0016】
特に、シートの端部(例えば、患者の頭側部分)に設けられた引き紐を最初に引張るようにすると、体重による負荷が小さいのでシートの引き出しを軽く行え、これによりシートを端部から中央部付近に至る範囲に亘って引き出すことができる。この後、シートの他端部(例えば、患者の足側部分)の引き紐を引いて、同様にシートを端部から中央部付近に至る範囲に亘って引き出す。その結果、シート中央部の引き紐を引く際には、患者の下にくぐらせるべきシートの面積が減少しており、体重の多くが掛かる胴部の下を容易に通過させることができる。こうして、患者移乗用具全体を患者の下から容易に取り出すことができる。
【0017】
なお、背もたれを水平方向にベッド上に展開することができるリクライニング型車椅子の場合に関し、患者をベッド等から車椅子に移乗する際には、前述のようにして、ベッド等の上で患者をシート上に乗せ、患者移乗用具と共に患者を車椅子上に移動し、その後は、前述と同様に引き紐を順次引張ってシートを患者の下から取り出せばよい。
【0018】
また、腰掛け型の車椅子からベッド等に患者を移乗する際には、予め患者移乗用具を車椅子上に敷いた状態で患者を車椅子に乗せ、患者移乗用具と共に患者を車椅子からベッド等に移した後、前述と同様に引き紐を順次引張ってシートを患者の下から取り出せばよい。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明に係る患者移乗用具によれば、介助者への負担が小さく、一人の介助者でも容易に患者をベッド等に乗せ替えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の第一実施形態に係る患者移乗用具を患者及びベッドと共に示す上面図である。
図2図1に示した患者移乗用具の下面図である。
図3A図1に示した患者移乗用具に患者を乗せる方法の一例を示す説明図である。
図3B図3Aに続く使用方法の例を示す説明図である。
図4図3Bに続く使用方法の例を示す説明図である。
図5A】本発明の他の実施形態に係る患者移乗用具に患者を乗せる方法の一例を示す説明図である。
図5B図5Aに続く使用方法の例を示す説明図である。
図6A図1に示した患者移乗用具に乗せた患者の下側から患者移乗用具を取り出す方法の一例を示す説明図である。
図6B図6Aに続く使用方法の例を示す説明図である。
図7】車椅子に適した本発明の実施形態に係る患者移乗用具の背面図である。
図8図7に示した患者移乗用具を車椅子に適用した例を示す斜視図である。
図9図7に示した患者移乗用具を車椅子と患者との間から取り出す状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照しつつ説明する。図面中の同一又は同種の部分については、同じ番号を付して説明を一部省略する。また、図には構造の明示に必要な部分または患者の移乗操作に関係する部分を示し、他の部分を省略することがある。
【0022】
図1は本発明の第一実施形態に係る患者移乗用具、患者及びベッドを上から見た上面図であり、図2は、図1に示した患者移乗用具の下面図である。図示の患者移乗用具1は、折りたたみ可能な細長い形状を有し患者の身長方向に展開可能なシート10と、該シートの各側縁部に各一端が固着された複数の引き紐20とを備えている。
【0023】
シート10は、折りたたみ可能な可撓性と、患者を持ち上げて搬送する際の荷重に耐える強度とを備えた単層または複層の織物、編み物、不織布等の布、フィルム、またはこれらの2以上の組み合わせからなる種々の材質のものとすることができる。シート10は、患者を乗せ得るように、一般的な大人の身長及び肩幅より大きいサイズとされるが、後述する車椅子用などの場合には、より短いサイズとすることもできる。シート10の上面は、患者の滑りを防止し得るように適度の摩擦を有しているのが望ましい。一方、シート10の下面は、後述するようにベッド面に対し、不用意なずれを生じず且つ移動を容易にし得るように摩擦が低くされるのが望ましい。
【0024】
引き紐20は、シート長手方向の中央部及び両端部に設けられており、各々シートの各側縁部に各一端が固着されている。その固着は、縫着、鋲の加締めなどにより行うことができる。引き紐20は、少なくともシートの幅に相当する長さを有しており、シート幅の1.1〜1.5倍とすることができる。
【0025】
この実施形態では、シート10の幅方向における中央部に操作孔11が設けられている。操作孔11は、シートを患者の一側方から下側に挿入する際に、引き紐を他側方から引き易い位置へ至らせるためのものであり、引き紐20の取付位置に対応して、シート10の長手方向における中央部及び両端部に設けられている。
【0026】
シート10の両側縁部には、患者搬送時に把持される複数の取っ手30が設けられている。この例では、取っ手30は、シート本体における長手方向の中央部及び両端部に設けられ、各々紐状部材で構成されてU字状をなし、U字の脚部に相当する端部は引き紐20端部の両側の位置でシートの各側縁部に縫着、鋲の加締めなどにより固着されている。
【0027】
この実施形態ではさらに、患者移乗時の負荷に対する補強のために、中央部の引き紐20を挟む位置に補強テープ12が全長に亘って縫着、接着などにより固定されている。補強テープ12は、図示のように、取っ手30の両端部がシート10に固着されている箇所に端部を固定するのが望ましい。これにより、取っ手30からシート10に掛かる負荷を効果的に受けることができる。
【0028】
この患者移乗用具は、例えば次のようにして使用することができる。図3A図3Bは、ベッドB上に仰臥する患者Kの下に患者移乗用具を挿入する過程の一例を順を追って示している。先ず、図3A(a)に示すように、ベッドBの一側方b1において、患者Kのすぐ側方の位置に患者移乗用具1を置く。このとき、患者移乗用具1は、表側の面(引き紐20のない側の面)が上になるようにして上下2〜3層程度に縦長に折りたたんでおく。
【0029】
次に、図3A(b)示すように、折りたたんだシートの間に側方b1から手を挿入し、シート10の折りたたまれた縁部を患者の幅方向の半分程度まで下側に挿入する。これは、操作孔11に通した手先でシート下側の引き紐20を把持した状態で、シート10を側方b2側へ押しやるようにして行う。この操作は、人差し指から小指のいずれかで引き紐20を把持して操作孔11から突き出し、親指でシート10の操作孔11縁部を押しながら患者Kの下側へ挿入すると容易である。操作孔11は、このように手の一部を通す形状及び大きさとするのが望ましい。この観点から各操作孔11は、例えば長径が8〜13cm、短径が3〜5cmの長方形などの多角形や長円形とすることができる。
【0030】
そして、図3A(c)に示すように、引き紐20を側方b2側へ引くことにより、シート10の一部を患者の他側方b2に拡げることができる。このとき、シート10の縁部を引いてもよく、取っ手30を他側方b2へ引くと拡げ易い。こうして側方b2側へシート10を引き、図3B(d)の上部に示す状態とする。これらの操作は、患者Kの頭部の重量を主として受けるだけであるので、軽く行うことができる。
【0031】
引き紐20は、長手方向中央を境にして2色に色分けされている。この例では図2に示すように裏面側(下側)から見て左側が赤色、右側が白色となっている。したがって図3A(b)に示すように、操作孔11から押し出された引き紐20を引張るときには、白色側(上側から見て左側)を引けばよく、これにより誤操作を防止することができる。この色分けは、使用者が区別できる色であれば種々設定することができる。
【0032】
次に、図3B(d)の下部に示すように、患者Kの足側で同様の操作をする。すなわち、足の下側で、折りたたんだシートの間から手先を操作孔11に通して引き紐20を側方b2側へ押しやり、引き紐20を側方b2側へ引く。こうして付近のシート10を拡げて、図3B(e)の下部に示す状態とする。この操作は、患者Kの足部の重量を主として受けるだけであるので、軽く行うことができる。
【0033】
次に図3B(e)の中央部に示すように、患者Kの腰部付近で同様の操作をする。すなわち、腰部の下側で、折りたたんだシートの間から手先を操作孔11に通し、引き紐20を側方b2側へ押しやり、引き紐20を側方b2側へ引き、付近のシート10を拡げる。この操作に関しては、患者の下にくぐらせるべきシートの面積が減少しており、体重の多くが掛かる胴部の下を容易に通過させることができる。さらに、シート10全体を整えれば、図3B(f)に示す状態となる。こうして、患者移乗用具1全体を患者の下側に挿入して拡げることができる。
【0034】
図4は、図3B(f)の状態から搬送用ベッドBaに患者Kを移動する状態の例を順を追って示している。
【0035】
先ず、図4の(a)に示すように、上記状態にあるベッドBの側方に搬送用ベッドBaを配置し、両ベッドの高さを揃える。次に、(b)に示すようにシート10を引張って患者Kと共に搬送用ベッドBa側に移動する。この移動をシート10全体に亘って行えば、患者Kを搬送用ベッドBa上に移動することができる。この操作も、シート10の一部ずつについて順次行えば負荷が小さく容易に行うことができる。
【0036】
図5A図5Bは、本発明の第二実施形態に係る患者移乗用具について示しており、患者の下側に敷く過程の一例を順を追って示している。この患者移乗用具1aは、既に説明した患者移乗用具1に対して、操作孔11を備えない点においてのみ異なっている。したがって、図3A,3Bに示した過程とほぼ同様にして用いることができる。ここでは、相違する点を中心に説明する。
【0037】
図5A(a)に示すように、ベッドBの一側方b1において、表側の面(引き紐20のない側の面)が上になるようにして上下2〜3層程度に縦長に折りたたんだ状態で、患者移乗用具1aを置く。
【0038】
次に、図5A(b)に示すように、折りたたんだシートの間に側方b1から手を挿入し、シート10の折りたたまれた縁部を患者の幅方向の半分程度まで下側に挿入する。これは、シート10を介してその下側の引き紐20を把持した状態で行い、引き紐20をシート10より側方b2側へ押しやる。
【0039】
そして、図5A(c)に示すように、引き紐20を側方b2側へ引くことにより、シート10の一部を患者の他側方に拡げる。この操作は、患者Kの頭部の重量を主として受けるだけであるので、軽く行うことができる。この後は、シート縁部または取っ手30を引いてその付近のシート10を拡げ、図5B(d)の上部に示す状態とする。
【0040】
次に、図5B(d)の下部に示すように、患者Kの足の下側で、引き紐20を側方b2側へ引いて、付近のシート10を拡げる。これにより、図5B(e)の下部に示す状態とする。この操作も、患者Kの足部の重量を主として受けるだけであるので、軽く行うことができる。
【0041】
次に図5B(e)の中央部に示すように、患者Kの腰部の下側で、引き紐20を側方b2側へ引き、付近のシート10を拡げる。この操作に関しては、患者の下にくぐらせるべきシートの面積が減少しており、体重の多くが掛かる胴部の下を容易に通過させることができる。さらに、シート10全体を整えれば、図5B(f)に示す状態となる。こうして、患者移乗用具1a全体を患者の下側に挿入して拡げることができる。
【0042】
図6A図6Bは、患者Kの下側に敷かれた患者移乗用具1を取り出す過程の一例を順を追って示している。図6A(a)は、ベッドB上の患者Kの下側に患者移乗用具1が敷かれた状態を示している。この状態から、図6A(b)に示すように、患者Kの頭部に位置する引き紐20をベッドの一側方b1側へ取り出して引張る。こうして図6A(c)の上部に示すように、シート10の一部を頭部下側から半分程度取り出して、図6A(c)の上部に示す状態とする。
【0043】
次に、図6A(c)の下部に示すように、患者Kの足部に位置する引き紐20をベッドの一側方b1側へ取り出して、シート10の一部と共に一側方b1へ引く。さらに引き紐20を引き、シート10を足部下側から取り出して、図6B(d)の下部に示す状態とする。
【0044】
次に、図6B(d)の中央部に示すように、患者Kの腰部に位置する引き紐20をベッドの一側方b1側へ取り出して、シート10の一部と共に一側方b1へ引く。
【0045】
さらに引き紐20を引き、図6B(e)に示すように、シート10の中央部を腰部下側から半分程度取り出した状態とする。
【0046】
そして、シート10を患者Kの下側から完全に抜き出せば、図6B(f)に示す状態となる。
【0047】
患者移乗用具取り出しのためのこれらの操作において、患者の幅方向の半分程度まで取り出す操作は、引き紐20及びシート10を引くだけで患者Kを持ち上げなくても行うことができる。また、シート10の各部分に位置する引き紐について順次行えばよいので、各操作は小さい負荷の下で容易に行うことができる。そして、半分程度取り出した患者移乗用具をさらに取り出す際には、シート上に掛かる患者の体重は軽減されているので、容易に行うことができる。したがって、この患者移乗用具によれば、介助者への負担が小さく、一人の介助者でも容易に患者をベッド等に乗せ替えることができる。
【0048】
この実施形態のように、シート10の側縁は、取っ手30をシート幅方向に越えた位置まで延ばすのが望ましい。こうすることにより、図6A(b),(c),図6B(d)に示すように、引き紐20を引いてシート10を取り出す際に、取っ手30はシート10の側端部とその上側のシート部分との間に挟まれるようになり、ベッド面などに対する滑り抵抗を低減することができる。
【0049】
図7は、車椅子に適用した本発明のさらに他の実施形態に係る患者移乗用具を裏面側(引き紐のある側)から見た状態で示している。この患者移乗用具1bは、前述の図1図2の実施形態に示したものに対して、シート10bの長手方向の寸法が小さくされ、長い引き紐25が設けられて、車椅子での使用に、より適したものとなっており、他の仕様は前述の実施形態と同じである。尤も、先の実施形態に係る患者移乗用具も車椅子への適用は可能である。
【0050】
引き紐25は、一端部をシート10bに取り付けた状態で、他端部がシートの長手方向中央部においてシートの対向側の側縁部へ斜めに達するように長くされている。シート10bは、一般的な患者の頭部から太もも部までを覆う程度の長さとされ、車椅子上の患者の膝より下方部分を露出させて、患者下側からの取り出しをより容易にしている。
【0051】
患者移乗用具1bの一つの隅部には、長い引き紐25の一端部が取り付けられている。この取付けは、シート10bの隅部に設けられた支持部材13、及び引き紐25の端部に設けられた係合部材26により、係脱自在となっている。これらの部材は、ばね性を有したフックとこれをばね変形によって係脱させる受け部とを備えたもの、雄ねじ部及び雌ねじ部を備えたもの等、種々の形態とすることができる。
【0052】
この構造により、引き紐25は、以下に説明するように、シート10bに取り付けた状態とすれば、車椅子上の患者の下側に敷かれた患者移乗用具1bを取り出す際に、シート10bを斜めに長手方向中央部側へ引くのに十分な長さとなる。また、ベッド間での移乗等のように車椅子に適用されない場合は、引き紐25をシート10bから取り外すことができ、患者移乗用具1bの移動の際に、長い引き紐25が引っ掛かったり邪魔になったりするのを防止することができる。
【0053】
或いは、引き紐25の一端部をシート10bの隅部に固着し、他端部及び中間部分をシート10bに係脱自在としてもよい。これにより、車椅子上の患者の下側に敷かれた患者移乗用具1bを取り出す際に、引き紐25の他端部及び中間部分をシート10bへの係合を解けば、シート10bを長手方向中央部側へ引くのに十分な長さとなり、車椅子に適用されない場合は、引き紐25をシート10bに係合して、患者移乗用具1bの移動の際に、引っ掛かったり邪魔になったりするのを防止することができる。
【0054】
図8は、この患者移乗用具1bが、車椅子Wの着座面と患者Kとの間に敷かれた状態を示している。この例では、患者移乗用具1bは、車椅子Wの一側方w1(図では患者Kの右脚膝部の側方)の前端部付近において、シート10の係合部材26及び引き紐25一端部の支持部材13が係合状体で位置し、引き紐25は、患者Kの下側を経て、他端部が車椅子Wの他側方w2(図では患者Kの左脚の側方)に位置している。
【0055】
図9は、図8の状態にある車椅子W上の患者Kの下側から、患者移乗用具1bを取り出す過程の一部を示している。これには先ず、車椅子Wの側方w2にある引き紐25を車椅子Wの上後方へ引張る。これにより、引き紐25の側方w1の端部は、車椅子Wの座面の一側方w1前端付近から他側方w2の後端側へ斜め(座面の対角線に沿う方向)に引き寄せられ、これと共にシート10bは患者Kの下側(図では患者Kの脚部及び臀部の下側)から引き出される。これで患者移乗用具1bは、患者の体重からほとんど解放されるので、シート10bを患者Kの背部と車椅子Wの間から引き出し、患者移乗用具1b全体を取り出すことができる。
【0056】
この車椅子Wの場合においても、シート取り出しのための操作は、引き紐25(及び必要に応じて引き紐25、シート10b縁部)を引張るだけで、患者Kを持ち上げなくても行うことができ、操作の負荷が小さく、容易に取り出しを行うことができる。
【0057】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。例えば、シートに設ける取っ手は実施形態に示したもの以外の数及び位置で設けることができ、シート本体の把持等で操作を行う場合は取っ手を省略することもできる。また、引き紐及び操作孔の数及び位置も必要に応じて適宜決めることができる。患者をベッド間、ベッドから車椅子などへ移乗する際に、引き紐取っ手などを操作する順は、実施形態に示したもの以外のものとすることもできる。シートの下面には、ベッド面に対する不用意なずれを生じず且つ移動を容易にし得るように、低摩擦の布、フィルム等を縫着または接着し、或いはコーティング層を設けることができる。
【符号の説明】
【0058】
1,1a,1b 患者移乗用具
10,10b シート
11 操作孔
13 支持部材
20 引き紐
25 引き紐
26 係合部材
30 取っ手
K 患者
B ベッド
W 車椅子
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図7
図8
図9