【文献】
Virchows Archiv. B, Cell Pathology including Molecular Pathology,1990年,Vol.59,No.3,p173−178
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
EREGアンタゴニストおよびTGFαアンタゴニストを有効成分として含む医薬組成物であって、当該医薬組成物が細胞増殖抑制剤または抗癌剤であり、ここで、該EREGアンタゴニストは抗EREG抗体であり、さらにここで、抗EREG抗体が以下の(a)〜(x)のいずれかに記載の抗体であり、さらにここで、TGFαアンタゴニストが抗TGFα抗体である、医薬組成物;
(a)配列番号:61に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:62に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:63に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む重鎖を含む抗体、
(b)配列番号:64に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:65に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:66に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む軽鎖を含む抗体、
(c)(a)の重鎖と(b)の軽鎖を含む抗体、
(d)(c)の抗体が認識するエピトープと同じエピトープを認識する抗体、
(e)配列番号:67に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:68に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:69に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む重鎖を含む抗体、
(f)配列番号:70に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:71に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:72に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む軽鎖を含む抗体、
(g)(e)の重鎖と(f)の軽鎖を含む抗体、
(h)(g)の抗体が認識するエピトープと同じエピトープを認識する抗体、
(i)配列番号:73に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:74に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:75に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む重鎖を含む抗体、
(j)配列番号:76に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:77に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:78に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む軽鎖を含む抗体、
(k)(i)の重鎖と(j)の軽鎖を含む抗体、
(l)(k)の抗体が認識するエピトープと同じエピトープを認識する抗体、
(m)配列番号:79に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:80に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:81に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む重鎖を含む抗体、
(n)配列番号:82に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:83に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:84に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む軽鎖を含む抗体、
(o)(m)の重鎖と(n)の軽鎖を含む抗体、
(p)(o)の抗体が認識するエピトープと同じエピトープを認識する抗体、
(q)配列番号:85に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:86に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:87に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む重鎖を含む抗体、
(r)配列番号:88に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:89に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:90に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む軽鎖を含む抗体、
(s)(q)の重鎖と(r)の軽鎖を含む抗体、
(t)(s)の抗体が認識するエピトープと同じエピトープを認識する抗体、
(u)配列番号:91に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:92に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:93に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む重鎖を含む抗体、
(v)配列番号:94に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:95に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:96に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む軽鎖を含む抗体、
(w)(u)の重鎖と(v)の軽鎖を含む抗体、
(x)(w)の抗体が認識するエピトープと同じエピトープを認識する抗体。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明はEREGアンタゴニストおよびTGFαアンタゴニストを有効成分として含む医薬組成物を提供する。
【0021】
本発明においてEREGアンタゴニストとは、EREGに結合することにより、EREGとEGFRとの結合を阻害し、EREGのEGFRを介したシグナル伝達を阻害する物質又はEREGの発現量を低下させる物質のことをいう。
【0022】
EREGアンタゴニストは特に限定されず、上述の活性を有する物質であれば如何なる物質でもよい。EREGに結合することによりEREGとEGFRとの結合を阻害し、EREGのEGFRを介したシグナル伝達を阻害する物質の例としては、例えば、EREGに対するアンタゴニスト活性を有する抗体を挙げることができる。又、EREGの発現量を低下させる物質の例としては、例えば、EREG遺伝子に対するsiRNAやアンチセンスオリゴヌクレオチド等を挙げることができる。
【0023】
特に限定されないが、EREGアンタゴニストはヒトEREGに対するアンタゴニストであることが好ましい。ヒトEREGの配列は既に公知である(GenBank Accession No:NM_001432、など)。
【0024】
EREGアンタゴニストは可溶型EREGをターゲットとするものでもよいし、膜貫通型EREGをターゲットとするものでもよい。さらに、両方をターゲットとするものでもよい。
【0025】
EREGアンタゴニストは如何なる物質でもよく、例えば、WO2008/047723に記載のアンタゴニストや市販の抗ヒトEREG抗体(R&D Systems, AF1195)等を用いることが可能である。
【0026】
WO2008/047723に記載のアンタゴニストの例としては、下記のいずれかに記載された抗体を好適な一態様として挙げることができる;
(a)配列番号:61に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:62に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:63に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む重鎖を含む抗体、
(b)配列番号:64に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:65に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:66に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む軽鎖を含む抗体、
(c)(a)の重鎖と(b)の軽鎖を含む抗体、
(d)(c)の抗体が認識するエピトープと同じエピトープを認識する抗体、
(e)配列番号:67に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:68に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:69に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む重鎖を含む抗体、
(f)配列番号:70に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:71に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:72に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む軽鎖を含む抗体、
(g)(e)の重鎖と(f)の軽鎖を含む抗体、
(h)(g)の抗体が認識するエピトープと同じエピトープを認識する抗体、
(i)配列番号:73に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:74に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:75に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む重鎖を含む抗体、
(j)配列番号:76に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:77に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:78に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む軽鎖を含む抗体、
(k)(i)の重鎖と(j)の軽鎖を含む抗体、
(l)(k)の抗体が認識するエピトープと同じエピトープを認識する抗体、
(m)配列番号:79に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:80に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:81に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む重鎖を含む抗体、
(n)配列番号:82に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:83に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:84に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む軽鎖を含む抗体、
(o)(m)の重鎖と(n)の軽鎖を含む抗体、
(p)(o)の抗体が認識するエピトープと同じエピトープを認識する抗体、
(q)配列番号:85に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:86に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:87に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む重鎖を含む抗体、
(r)配列番号:88に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:89に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:90に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む軽鎖を含む抗体、
(s)(q)の重鎖と(r)の軽鎖を含む抗体、
(t)(s)の抗体が認識するエピトープと同じエピトープを認識する抗体、
(u)配列番号:91に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:92に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:93に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む重鎖を含む抗体、
(v)配列番号:94に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:95に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:96に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む軽鎖を含む抗体、
(w)(u)の重鎖と(v)の軽鎖を含む抗体、
(x)(w)の抗体が認識するエピトープと同じエピトープを認識する抗体。
【0027】
本発明においてTGFαアンタゴニストとは、TGFαに結合することにより、TGFαとEGFRとの結合を阻害し、TGFαのEGFRを介したシグナル伝達を阻害する物質又はTGFαの発現量を低下させる物質のことをいう。
【0028】
TGFαアンタゴニストは特に限定されず、上述の活性を有する物質であれば如何なる物質でもよい。TGFαに結合することによりTGFαとEGFRとの結合を阻害し、TGFαのEGFRを介したシグナル伝達を阻害する物質の例としては、例えば、TGFαに対するアンタゴニスト活性を有する抗体を挙げることができる。又、TGFαの発現量を低下させる物質の例としては、例えば、TGFα遺伝子に対するsiRNAやアンチセンスオリゴヌクレオチド等を挙げることができる。
【0029】
特に限定されないが、TGFαアンタゴニストはヒトTGFαに対するアンタゴニストであることが好ましい。ヒトTGFαの配列は既に公知である(GenBank Accession No:NM_003236、M31172、など)。
【0030】
TGFαアンタゴニストは可溶型TGFαをターゲットとするものでもよいし、膜貫通型TGFαをターゲットとするものでもよい。さらに、両方をターゲットとするものでもよい。
【0031】
TGFαアンタゴニストは如何なる物質でもよく、例えば、WO2004/076622に記載のアンタゴニストや市販の抗TGFα抗体(GeneTex, GTX16811; R&D Systems, AB-239-NA)などを用いることができる。
【0032】
抗TGFα抗体の例としては、下記のいずれかに記載された抗体を好適な一態様として挙げることができる;
(a)配列番号:47に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:48に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:49に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む重鎖を含む抗体、
(b)配列番号:50に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:51に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:52に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む軽鎖を含む抗体、
(c)(a)の重鎖と(b)の軽鎖を含む抗体、
(d)(c)の抗体が認識するエピトープと同じエピトープを認識する抗体。
【0033】
本発明のEREGアンタゴニストおよびTGFαアンタゴニストを有効成分として含む医薬組成物に含まれるEREGアンタゴニストとTGFαアンタゴニストは同一の物質であってもよいし、異なる物質であってもよい。つまり、EREGアンタゴニスト活性とTGFαアンタゴニスト活性の両方の活性を有する物質を有効成分としてもよいし、EREGアンタゴニスト活性のみを有する物質とTGFαアンタゴニスト活性のみを有する物質を有効成分としてもよい。
さらに、EREGアンタゴニスト活性とTGFαアンタゴニスト活性の両方の活性を有する物質とEREGアンタゴニスト活性のみを有する物質、又はEREGアンタゴニスト活性とTGFαアンタゴニスト活性の両方の活性を有する物質とTGFαアンタゴニスト活性のみを有する物質を有効成分としてもよい。
【0034】
さらに、本発明はEREGおよびTGFαに結合する抗体を提供する。好ましくは、EREGおよびTGFαに結合する抗体は、ヒトEREGおよびヒトTGFαに結合する抗体である。ヒトEREGおよびヒトTGFαについては上述の通りである。
EREGへの結合は、例えば、可溶型EREGへの結合、膜貫通型EREGへの結合、可溶型EREGおよび膜貫通型EREGへの結合、等を挙げることができる。
TGFαへの結合は、例えば、可溶型TGFαへの結合、膜貫通型TGFαへの結合、可溶型TGFαおよび膜貫通型TGFαへの結合、等を挙げることができる。
【0035】
本発明のEREGおよびTGFαに結合する抗体は特に限定されないが、好ましくはEREG又はTGFαに対してアンタゴニスト活性を有するアンタゴニスト抗体であり、より好ましくはEREGおよびTGFαに対してアンタゴニスト活性を有するアンタゴニスト抗体である。
【0036】
ヒトEREGおよびTGFαに結合する抗体は特に限定されないが、EREGおよびTGFαにおいて相同性が高い共通の領域を認識することが好ましい。そのような領域の例として、ヒトEREGにおいては配列番号:4(human EREG)に記載のアミノ酸配列の56番目のGlnから102番目のLeuまでの領域、ヒトTGFαにおいては配列番号:26(human TGFα)に記載のアミノ酸配列の41番目のValから87番目のLeuまでの領域を挙げることができる。従って、本発明のEREGおよびTGFαを認識する抗体の好ましい例としては、配列番号:4(human EREG)に記載のアミノ酸配列の56番目のGlnから102番目のLeuまでの領域又は配列番号:26(human TGFα)に記載のアミノ酸配列の41番目のValから87番目のLeuまでの領域を認識する抗体を挙げることができ、より好ましい例としては配列番号:4(human EREG)に記載のアミノ酸配列の56番目のGlnから102番目のLeuまでの領域および配列番号:26(human TGFα)に記載のアミノ酸配列の41番目のValから87番目のLeuまでの領域を認識する抗体を挙げることができる。なお、human EREGの塩基配列を配列番号:3に、human TGFαの塩基配列を配列番号:25に示す。
【0037】
又、本発明のEREGおよびTGFαに結合する抗体の好ましい他の態様としては、以下の(a)〜(d)いずれかに記載の抗体を挙げることができる。
(a)配列番号:10に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:12に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:14に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む重鎖を含む抗体、
(b)配列番号:16に記載のアミノ酸配列を有するCDR1、配列番号:18に記載のアミノ酸配列を有するCDR2、配列番号:20に記載のアミノ酸配列を有するCDR3を含む軽鎖を含む抗体、
(c)(a)の重鎖と(b)の軽鎖を含む抗体、
(d)(c)の抗体が認識するエピトープと同じエピトープを認識する抗体。
【0038】
なお重鎖CDR1の塩基配列を配列番号:9、CDR2の塩基配列を配列番号:11、CDR3の塩基配列を配列番号:13に示す。また軽鎖CDR1の塩基配列を配列番号:15、CDR2の塩基配列を配列番号:17、CDR3の塩基配列を配列番号:19に示す。
【0039】
ある抗体が認識するエピトープと同一のエピトープを認識する抗体は、例えば、以下の方法により得ることができる。
【0040】
被験抗体が、ある抗体とエピトープを共有することは、両者の同じエピトープに対する競合によって確認することができる。抗体間の競合は、交叉ブロッキングアッセイなどによって検出される。例えば競合ELISAアッセイは、好ましい交叉ブロッキングアッセイである。
【0041】
具体的には、交叉ブロッキングアッセイにおいては、マイクロタイタープレートのウェル上にコートしたEREGタンパク質を、候補の競合抗体の存在下、または非存在下でプレインキュベートした後に、本発明の抗EREG抗体が添加される。ウェル中のEREGタンパク質に結合した本発明の抗EREG抗体の量は、同じエピトープへの結合に対して競合する候補競合抗体(被験抗体)の結合能に間接的に相関している。すなわち同一エピトープに対する被験抗体の親和性が大きくなればなる程、上述の抗体のEREGタンパク質をコートしたウェルへの結合量および/またはTGFαタンパク質をコートしたウェルへの結合量は低下する。あるいは逆に、同一エピトープに対する被験抗体の親和性が大きくなればなる程、被験抗体のEREGタンパク質をコートしたウェルへの結合量および/またはTGFαタンパク質をコートしたウェルへの結合量は増加する。
【0042】
ウェルに結合した抗体量は、予め抗体を標識しておくことによって、容易に測定することができる。たとえば、ビオチン標識された抗体は、アビジンペルオキシダーゼコンジュゲートと適切な基質を使用することにより測定できる。ペルオキシダーゼなどの酵素標識を利用した交叉ブロッキングアッセイを、特に競合ELISAアッセイと言う。抗体は、検出あるいは測定が可能な他の標識物質で標識することができる。具体的には、放射標識あるいは蛍光標識などが公知である。
【0043】
更に被験抗体が上述の抗体と異なる種に由来する定常領域を有する場合には、ウェルに結合したいずれかの抗体を、いずれかの定常領域を認識する標識抗体によって測定することもできる。あるいは同種由来の抗体であっても、クラスが相違する場合には、各クラスを識別する抗体によって、ウェルに結合した抗体を測定することができる。
【0044】
候補の競合抗体非存在下で実施されるコントロール試験において得られる結合活性と比較して、候補抗体が、少なくとも20%、好ましくは少なくとも20−50%、さらに好ましくは少なくとも50%、上述の抗体の結合をブロックできるならば、該候補競合抗体は上述の抗体と実質的に同じエピトープに結合するか、又は同じエピトープへの結合に対して競合する抗体である。
【0045】
本発明の、(c)の抗体が認識するエピトープと同じエピトープを認識する抗体は、(c)の抗体が認識するEREG中のエピトープを認識する抗体であってもよいし、(c)の抗体が認識するTGFα中のエピトープを認識する抗体であってもよい。好ましくは、(c)の抗体が認識するEREG中のエピトープとTGFα中のエピトープの両方を認識する抗体である。
【0046】
従って、(c)の抗体が認識するエピトープと同じエピトープを認識する抗体は、好ましくは上述の交叉ブロッキングアッセイにおいて、EREGタンパク質をコートしたウェルへの結合で(c)の抗体と競合する抗体又はTGFαタンパク質をコートしたウェルへの結合で(c)の抗体と競合する抗体であり、より好ましくはEREGタンパク質をコートしたウェルへの結合で(c)の抗体と競合し、かつTGFαタンパク質をコートしたウェルへの結合で(c)の抗体と競合する抗体である。
【0047】
本発明で用いられる抗体は目的のタンパク質に結合すればよく、その由来、種類および形状は問われない。具体的には、非ヒト動物の抗体(例えば、マウス抗体、ラット抗体、ラクダ抗体)、ヒト抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体などの公知の抗体が使用できる。本発明においては、モノクローナル、あるいはポリクローナルな抗体として利用することができる。好ましい抗体は、モノクローナル抗体である。又、本発明で用いられる抗体は好ましくは目的のタンパク質に特異的に結合する抗体である。
【0048】
本発明で使用される抗体は、公知の手段を用いてポリクローナルまたはモノクローナル抗体として取得できる。本発明で使用される抗体として、特に哺乳動物由来のモノクローナル抗体が好ましい。哺乳動物由来のモノクローナル抗体は、ハイブリドーマにより産生されるもの、および遺伝子工学的手法により抗体遺伝子を含む発現ベクターで形質転換した宿主により産生されるもの等を含む。
【0049】
モノクローナル抗体産生ハイブリドーマが、基本的には公知技術を使用し、以下のようにして作製できる。まず、EREGタンパク質又はTGFαを感作抗原として使用して、これを通常の免疫方法にしたがって免疫する。免疫動物から得られる免疫細胞を通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させてハイブリドーマを得る。更にこのハイブリドーマから、通常のスクリーニング法により、目的とする抗体を産生する細胞をスクリーニングすることによって抗体を産生するハイブリドーマが選択できる。
【0050】
具体的には、モノクローナル抗体の作製は例えば以下に示すように行われる。まず、EREG遺伝子又はTGFα遺伝子を発現することによって、抗体取得の感作抗原として使用されるEREGタンパク質又はTGFαタンパク質が取得できる。すなわち、EREG又はTGFαをコードする遺伝子配列を公知の発現ベクターに挿入して適当な宿主細胞を形質転換させた後、その宿主細胞中または培養上清中から目的のヒトEREGタンパク質又はヒトTGFαタンパク質が公知の方法で精製できる。また、精製した天然のEREGタンパク質又はTGFαタンパク質もまた同様に使用できる。また、本発明で用いられるように、EREGタンパク質又はTGFαタンパク質の所望の部分ポリペプチドを異なるポリペプチドと融合した融合タンパク質を免疫原として利用することもできる。免疫原とする融合タンパク質を製造するために、例えば、抗体のFc断片やペプチドタグなどを利用することができる。融合タンパク質を発現するベクターは、所望の二種類又はそれ以上のポリペプチド断片をコードする遺伝子をインフレームで融合させ、当該融合遺伝子を前記のように発現ベクターに挿入することにより作製することができる。融合タンパク質の作製方法はMolecular Cloning 2nd ed. (Sambrook,J et al., Molecular Cloning 2nd ed., 9.47-9.58, Cold Spring Harbor Lab. press, 1989)に記載されている。
【0051】
このようにして精製されたEREGタンパク質又はTGFαタンパク質を、哺乳動物に対する免疫に使用する感作抗原として使用できる。EREG又はTGFαの部分ペプチドもまた感作抗原として使用できる。たとえば、次のようなペプチドを感作抗原とすることができる。
ヒトEREG又はTGFαタンパク質のアミノ酸配列より化学合成によって取得されたペプチド
EREG遺伝子又はTGFα遺伝子の一部を発現ベクターに組込んで発現させることによっても取得されたペプチド
EREGタンパク質又はTGFαタンパク質をタンパク質分解酵素により分解することによって取得されたペプチド
部分ペプチドとして用いるEREG又はTGFαの領域および大きさは限定されない。
【0052】
EREGおよびTGFαに結合する抗体を取得する際の好ましい免疫原としては、配列番号:4(human EREG)に記載のアミノ酸配列の56番目のGlnから102番目のLeuまでの領域または配列番号:26(human TGFα)に記載のアミノ酸配列の41番目のValから87番目のLeuまでの領域を含むポリペプチドを挙げることができる。
【0053】
該感作抗原で免疫される哺乳動物は、特に限定されない。モノクローナル抗体を細胞融合法によって得るためには、細胞融合に使用する親細胞との適合性を考慮して免疫動物を選択するのが好ましい。一般的には、げっ歯類の動物が免疫動物として好ましい。具体的には、マウス、ラット、ハムスター、あるいはウサギを免疫動物とすることができる。その他、サル等を免疫動物とすることもできる。
【0054】
公知の方法にしたがって上記の動物が感作抗原により免疫できる。例えば、一般的方法として、感作抗原を腹腔内または皮下に注射することにより哺乳動物を免疫することができる。具体的には、該感作抗原が哺乳動物に4から21日毎に数回投与される。感作抗原は、PBS(Phosphate-Buffered Saline)や生理食塩水等で適当な希釈倍率で希釈して免疫に使用される。更に、感作抗原をアジュバントとともに投与することができる。例えばフロイント完全アジュバントと混合し、乳化して、感作抗原とすることができる。また、感作抗原の免疫時には適当な担体が使用できる。特に分子量の小さい部分ペプチドが感作抗原として用いられる場合には、該感作抗原ペプチドをアルブミン、キーホールリンペットヘモシアニン等の担体タンパク質と結合させて免疫することが望ましい。
【0055】
このように哺乳動物が免疫され、血清中における所望の抗体量の上昇が確認された後に、哺乳動物から免疫細胞が採取され、細胞融合に付される。好ましい免疫細胞としては、特に脾細胞が使用できる。
【0056】
前記免疫細胞と融合される細胞として、哺乳動物のミエローマ細胞が用いられる。ミエローマ細胞は、スクリーニングのための適当な選択マーカーを備えていることが好ましい。選択マーカーとは、特定の培養条件の下で生存できる(あるいはできない)形質を指す。選択マーカーには、ヒポキサンチン−グアニン−ホスホリボシルトランスフェラーゼ欠損(以下HGPRT欠損と省略する)、あるいはチミジンキナーゼ欠損(以下TK欠損と省略する)などが公知である。HGPRTやTKの欠損を有する細胞は、ヒポキサンチン−アミノプテリン−チミジン感受性(以下HAT感受性と省略する)を有する。HAT感受性の細胞はHAT選択培地中でDNA合成を行うことができず死滅するが、正常な細胞と融合すると正常細胞のサルベージ回路を利用してDNAの合成を継続することができるためHAT選択培地中でも増殖するようになる。
【0057】
HGPRT欠損やTK欠損の細胞は、それぞれ6チオグアニン、8アザグアニン(以下8AGと省略する)、あるいは5'ブロモデオキシウリジンを含む培地で選択することができる。正常な細胞はこれらのピリミジンアナログをDNA中に取り込んでしまうので死滅するが、これらの酵素を欠損した細胞は、これらのピリミジンアナログを取り込めないので選択培地の中で生存することができる。この他G418耐性と呼ばれる選択マーカーは、ネオマイシン耐性遺伝子によって2-デオキシストレプタミン系抗生物質(ゲンタマイシン類似体)に対する耐性を与える。細胞融合に好適な種々のミエローマ細胞が公知である。例えば、以下のようなミエローマ細胞を、本発明におけるモノクローナル抗体の製造に利用することができる。
P3(P3x63Ag8.653)(J. Immunol.(1979)123, 1548-1550)
P3x63Ag8U.1(Current Topics in Microbiology and Immunology(1978)81, 1-7)
NS-1(Kohler. G. and Milstein, C. Eur. J. Immunol.(1976)6, 511-519)
MPC-11(Margulies. D.H. et al., Cell(1976)8, 405-415)
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R210(Galfre, G. et al., Nature(1979)277, 131-133)等
【0058】
基本的には公知の方法、たとえば、ケーラーとミルステインらの方法(Kohler. G. and Milstein, C.、Methods Enzymol.(1981)73, 3-46)等に準じて、前記免疫細胞とミエローマ細胞との細胞融合が行われる。
【0059】
より具体的には、例えば細胞融合促進剤の存在下で通常の栄養培養液中で、前記細胞融合が実施できる。融合促進剤としては、例えばポリエチレングリコール(PEG)、センダイウイルス(HVJ)等を使用することができる。更に融合効率を高めるために所望によりジメチルスルホキシド等の補助剤を加えることもできる。
【0060】
免疫細胞とミエローマ細胞との使用割合は任意に設定できる。例えば、ミエローマ細胞に対して免疫細胞を1から10倍とするのが好ましい。前記細胞融合に用いる培養液としては、例えば、前記ミエローマ細胞株の増殖に好適なRPMI1640培養液、MEM培養液、その他、この種の細胞培養に用いられる通常の培養液を利用することができる。さらに、牛胎児血清(FCS)等の血清補液を培養液に添加することができる。
【0061】
細胞融合は、前記免疫細胞とミエローマ細胞との所定量を前記培養液中でよく混合し、予め37℃程度に加温したPEG溶液を混合することによって目的とする融合細胞(ハイブリドーマ)が形成される。細胞融合法においては、例えば平均分子量1000から6000程度のPEGを、通常30から60%(w/v)の濃度で添加することができる。続いて、上記に挙げた適当な培養液を逐次添加し、遠心して上清を除去する操作を繰り返すことによりハイブリドーマの生育に好ましくない細胞融合剤等が除去される。
【0062】
このようにして得られたハイブリドーマは、細胞融合に用いられたミエローマが有する選択マーカーに応じた選択培養液を利用することによって選択することができる。例えばHGPRTやTKの欠損を有する細胞は、HAT培養液(ヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジンを含む培養液)で培養することにより選択できる。すなわち、HAT感受性のミエローマ細胞を細胞融合に用いた場合、HAT培養液中で、正常細胞との細胞融合に成功した細胞が選択的に増殖させることができる。目的とするハイブリドーマ以外の細胞(非融合細胞)が死滅するのに十分な時間、上記HAT培養液を用いた培養が継続される。具体的には、一般に、数日から数週間の培養によって、目的とするハイブリドーマを選択することができる。ついで、通常の限界希釈法を実施することによって、目的とする抗体を産生するハイブリドーマのスクリーニングおよび単一クローニングが実施できる。あるいは、EREGおよび/またはTGFαを認識する抗体を国際公開WO03/104453に記載された方法によって作製することもできる。
【0063】
目的とする抗体のスクリーニングおよび単一クローニングが、公知の抗原抗体反応に基づくスクリーニング方法によって好適に実施できる。例えば、ポリスチレン等でできたビーズや市販の96ウェルのマイクロタイタープレート等の担体に抗原を結合させ、ハイブリドーマの培養上清と反応させる。次いで担体を洗浄した後に酵素で標識した二次抗体等を反応させる。もしも培養上清中に感作抗原と反応する目的とする抗体が含まれる場合、二次抗体はこの抗体を介して担体に結合する。最終的に担体に結合する二次抗体を検出することによって、目的とする抗体が培養上清中に存在しているかどうかが決定できる。抗原に対する結合能を有する所望の抗体を産生するハイブリドーマを限界希釈法等によりクローニングすることが可能となる。この際、抗原としては免疫に用いたものを始め、実施的に同質なEREGタンパク質および/またはTGFαが好適に使用できる。
【0064】
また、ヒト以外の動物に抗原を免疫することによって上記ハイブリドーマを得る方法以外に、ヒトリンパ球を抗原感作して目的とする抗体を得ることもできる。具体的には、まずin vitroにおいてヒトリンパ球をEREGタンパク質またはTGFαタンパク質で感作する。次いで免疫感作されたリンパ球を適当な融合パートナーと融合させる。融合パートナーには、たとえばヒト由来であって永久分裂能を有するミエローマ細胞を利用することができる(特公平1-59878号公報参照)。この方法によって得られる抗体は、目的のタンパク質への結合活性を有するヒト抗体である。
【0065】
さらに、ヒト抗体遺伝子の全てのレパートリーを有するトランスジェニック動物に対して抗原となるEREGタンパク質またはTGFαタンパク質を投与することによって、目的の抗体を得ることもできる。免疫動物の抗体産生細胞は、適当な融合パートナーとの細胞融合やエプスタインバーウイルスの感染などの処理によって不死化させることができる。このようにして得られた不死化細胞から目的のタンパク質に対するヒト抗体を単離することによってもできる(国際公開WO 94/25585、WO93/12227、WO 92/03918、WO 94/02602参照)。更に不死化された細胞をクローニングすることにより、目的の反応特異性を有する抗体を産生する細胞をクローニングすることもできる。トランスジェニック動物を免疫動物とするときには、当該動物の免疫システムは、ヒトEREGまたはヒトTGFαを異物と認識する。したがって、目的のヒト抗体を容易に得ることができる。
【0066】
このようにして作製されるモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは通常の培養液中で継代培養することができる。また、該ハイブリドーマを液体窒素中で長期にわたって保存することもできる。
【0067】
当該ハイブリドーマを通常の方法に従い培養し、その培養上清から目的とするモノクローナル抗体を得ることができる。あるいはハイブリドーマをこれと適合性がある哺乳動物に投与して増殖させ、その腹水としてモノクローナル抗体を得ることもできる。前者の方法は、高純度の抗体を得るのに適している。
【0068】
本発明においては、抗体産生細胞からクローニングされた抗体遺伝子によってコードされる抗体を利用することもできる。クローニングした抗体遺伝子は、適当なベクターに組み込んで宿主に導入することによって抗体として発現させることができる。抗体遺伝子の単離と、ベクターへの導入、そして宿主細胞の形質転換のための方法は既に確立されている(例えば、Vandamme, A. M. et al., Eur.J. Biochem.(1990)192, 767-775参照)。
【0069】
たとえば、目的の抗体を産生するハイブリドーマ細胞から、目的の抗体の可変領域(V領域)をコードするcDNAを得ることができる。そのためには、通常、まずハイブリドーマから全RNAが抽出される。細胞からmRNAを抽出するための方法として、たとえば次のような方法を利用することができる。
グアニジン超遠心法(Chirgwin, J. M. et al., Biochemistry(1979)18, 5294-5299)
AGPC法(Chomczynski, P.et al., Anal. Biochem.(1987)162, 156-159)
【0070】
抽出されたmRNAは、mRNA Purification Kit (GEヘルスケアバイオサイエンス製)等を使用して精製することができる。あるいは、QuickPrep mRNA Purification Kit(GEヘルスケアバイオサイエンス製)などのように、細胞から直接mRNAを抽出するためのキットも市販されている。このようなキットを用いて、ハイブリドーマから全mRNAを得ることもできる。得られたmRNAから逆転写酵素を用いて抗体V領域をコードするcDNAを合成することができる。cDNAは、AMV Reverse Transcriptase First-strand cDNA Synthesis Kit(生化学工業社製)等によって合成することができる。また、cDNAの合成および増幅のために、SMART RACE cDNA 増幅キット(Clontech製)およびPCRを用いた5'-RACE法(Frohman, M. A. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA(1988)85, 8998-9002、Belyavsky, A.et al., Nucleic Acids Res.(1989)17, 2919-2932)を利用することができる。更にこうしたcDNAの合成の過程においてcDNAの両末端に後述する適切な制限酵素サイトが導入できる。
【0071】
得られたPCR産物から目的とするcDNA断片が精製され、次いでベクターDNAと連結される。このように組換えベクターが作製され、大腸菌等に導入されコロニーが選択された後に、該コロニーを形成した大腸菌から所望の組換えベクターが調製できる。そして、該組換えベクターが目的とするcDNAの塩基配列を有しているか否かについて、公知の方法、例えば、ジデオキシヌクレオチドチェインターミネーション法等により確認できる。
【0072】
可変領域をコードする遺伝子を得るためには、可変領域遺伝子増幅用のプライマーを使った5’-RACE法を利用するのがもっとも簡便である。まずハイブリドーマ細胞より抽出されたRNAを鋳型としてcDNAを合成し、5’-RACE cDNAライブラリーを得る。5’-RACE cDNAライブラリーの合成にはSMART RACE cDNA 増幅キットなど市販のキットを用いるのが便利である。
【0073】
得られた5’-RACE cDNAライブラリーを鋳型として、PCR法によって抗体遺伝子が増幅される。公知の抗体遺伝子配列をもとにマウス抗体遺伝子増幅用のプライマーをデザインすることができる。これらのプライマーは、イムノグロブリンのサブクラスごとに異なる塩基配列となる。したがって、サブクラスは予めIso Stripマウスモノクローナル抗体アイソタイピングキット(ロシュ・ダイアグノスティックス)などの市販キットを用いて決定しておくことが望ましい。
【0074】
具体的には、たとえばマウスIgGをコードする遺伝子の取得を目的とするときには、重鎖としてγ1、γ2a、γ2b、γ3軽鎖としてκ鎖とλ鎖をコードする遺伝子の増幅が可能なプライマーを利用することができる。IgGの可変領域遺伝子を増幅するためには、一般に3'側のプライマーには可変領域に近い定常領域に相当する部分にアニールするプライマーが利用される。一方5'側のプライマーには、5’-RACE cDNAライブラリ作製キットに付属するプライマーが利用できる。
【0075】
こうして増幅されたPCR産物を利用して、重鎖と軽鎖の組み合せからなるイムノグロブリンを再構成することができる。再構成されたイムノグロブリンの、EREGおよび/またはTGFαに対する結合活性を指標として、目的とする抗体をスクリーニングすることができる。
【0076】
たとえばEREGに対する抗体の取得を目的とするとき、抗体のEREGへの結合は特異的であることがさらに好ましい。EREGに結合する抗体は、例えば次のようにしてスクリーニングすることができる。
(1)ハイブリドーマから得られたcDNAによってコードされるV領域を含む抗体をEREGに接触させる工程、
(2)EREGと抗体との結合を検出する工程、および
(3)EREGに結合する抗体を選択する工程
【0077】
抗体とEREGとの結合を検出する方法は公知である。具体的には、担体に固定したEREGに対して被験抗体を反応させ、次に抗体を認識する標識抗体を反応させる。洗浄後に担体上の標識抗体が検出されたときには、当該被験抗体のEREGへの結合を証明できる。標識には、ペルオキシダーゼやβ−ガラクトシダーゼ等の酵素活性蛋白質、あるいはFITC等の蛍光物質を利用することができる。抗体の結合活性を評価するためにEREGを発現する細胞の固定標本を利用することもできる。
【0078】
又、TGFαに対する抗体の取得を目的とするとき、抗体のTGFαへの結合は特異的であることがさらに好ましい。TGFαに結合する抗体は、例えば上述のEREGと同様の方法で行うことが可能である。
【0079】
又、EREGおよびTGFαに結合する抗体の取得を目的とするとき、抗体のEREGおよびTGFαへの結合はこれら2つのタンパク質に特異的であってもよいし、他のEGFRリガンド等、これら2つ以外のタンパク質に結合してもよい。EREGおよびTGFαに結合する抗体は、例えば上述のEREGとTGFαの方法を組み合わせることにより取得することが可能である。
【0080】
結合活性を指標とする抗体のスクリーニング方法として、ファージベクターを利用したパニング法を用いることもできる。ポリクローナルな抗体発現細胞群より抗体遺伝子を重鎖と軽鎖のサブクラスのライブラリーとして取得した場合には、ファージベクターを利用したスクリーニング方法が有利である。重鎖と軽鎖の可変領域をコードする遺伝子は、適当なリンカー配列で連結することによってシングルチェインFv(scFv)とすることができる。scFvをコードする遺伝子をファージベクターに挿入すれば、scFvを表面に発現するファージを得ることができる。このファージを目的とする抗原と接触させて、抗原に結合したファージを回収すれば、目的の結合活性を有するscFvをコードするDNAを回収することができる。この操作を必要に応じて繰り返すことにより、目的とする結合活性を有するscFvを濃縮することができる。
【0081】
本発明において抗体をコードするポリヌクレオチドは、抗体の全長をコードしていてもよいし、あるいは抗体の一部をコードしていてもよい。抗体の一部とは、抗体分子の任意の部分を言う。以下、抗体の一部を示す用語として、抗体断片を用いる場合がある。本発明における好ましい抗体断片は、抗体の相補鎖決定領域(complementarity determination region;CDR)を含む。更に好ましくは、本発明の抗体断片は、可変領域を構成する3つのCDRの全てを含む。
【0082】
目的とする抗EREG抗体のV領域をコードするcDNAが得られた後に、該cDNAの両末端に挿入した制限酵素サイトを認識する制限酵素によって該cDNAが消化される。好ましい制限酵素は、抗体遺伝子を構成する塩基配列に出現する可能性が低い塩基配列を認識して消化する。更に1コピーの消化断片をベクターに正しい方向で挿入するためには、付着末端を与える制限酵素が好ましい。上記のように消化された抗EREG抗体のV領域をコードするcDNAを適当な発現ベクターに挿入することによって、抗体発現ベクターを得ることができる。このとき、抗体定常領域(C領域)をコードする遺伝子と、前記V領域をコードする遺伝子とをインフレームで融合させることによって、キメラ抗体を得ることができる。ここで、キメラ抗体とは、定常領域と可変領域の由来が異なることを言う。したがって、マウス−ヒトなどの異種キメラ抗体に加え、ヒト−ヒト同種キメラ抗体も、本発明におけるキメラ抗体に含まれる。予め定常領域を有する発現ベクターに、前記V領域遺伝子を挿入して、キメラ抗体発現ベクターを構築することもできる。
【0083】
具体的には、たとえば、所望の抗体定常領域(C領域)をコードするDNAを保持した発現ベクターの5'側に、前記V領域遺伝子を消化する制限酵素の制限酵素認識配列を配置しておくことができる。両者を同じ組み合わせの制限酵素で消化し、インフレームで融合させることによって、キメラ抗体発現ベクターが構築される。
【0084】
本発明で使用される抗EREG抗体を製造するために、抗体遺伝子を発現制御領域による制御の下で発現するように発現ベクターに組み込むことができる。抗体を発現するための発現制御領域とは、例えば、エンハンサーやプロモーターを含む。次いで、この発現ベクターで適当な宿主細胞を形質転換することによって、目的の抗体を発現する組換え細胞を得ることができる。
【0085】
抗体遺伝子の発現にあたり、抗体重鎖(H鎖)および軽鎖(L鎖)をコードするDNAは、それぞれ別の発現ベクターに組み込むことができる。H鎖とL鎖が組み込まれたベクターを、同じ宿主細胞に同時に形質転換(co-transfect)することによって、H鎖とL鎖を備えた抗体分子を発現させることができる。あるいはH鎖およびL鎖をコードするDNAを単一の発現ベクターに組み込んで宿主細胞を形質転換させてもよい(国際公開WO 94/11523参照)。
【0086】
抗体遺伝子を一旦単離し、適当な宿主に導入して抗体を作製するための宿主と発現ベクターの多くの組み合わせが公知である。これらの発現系は、いずれも本発明に応用することができる。真核細胞を宿主として使用する場合、動物細胞、植物細胞、あるいは真菌細胞が使用できる。具体的には、本発明に利用することができる動物細胞としては、次のような細胞を例示することができる。
(1)哺乳類細胞、:CHO、COS、ミエローマ、BHK(baby hamster kidney)、Hela、Veroなど
(2)両生類細胞:アフリカツメガエル卵母細胞など
(3)昆虫細胞:sf9、sf21、Tn5など
【0087】
あるいは植物細胞としては、ニコティアナ・タバカム(Nicotiana tabacum)などのニコティアナ(Nicotiana)属由来の細胞による抗体遺伝子の発現系が公知である。植物細胞の形質転換には、カルス培養した細胞を利用することができる。
【0088】
更に真菌細胞としては、次のような細胞を利用することができる。
酵母:サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces serevisiae)などのサッカロミセス(Saccharomyces)属、メタノール資化酵母(Pichia pastoris)などのPichia属
糸状菌:アスペスギルス・ニガー(Aspergillus niger)などのアスペルギルス(Aspergillus)属
【0089】
あるいは原核細胞を利用した抗体遺伝子の発現系も公知である。たとえば、細菌細胞を用いる場合、大腸菌(E. coli)、枯草菌などの細菌細胞を本発明に利用することができる。
【0090】
これらの細胞中に、目的とする抗体遺伝子を含む発現ベクターを形質転換により導入する。形質転換された細胞をin vitroで培養することにより、該形質転換細胞の培養物から所望の抗体を取得できる。
【0091】
また、組換え抗体の産生には、上記宿主細胞に加えて、トランスジェニック動物を利用することもできる。すなわち目的とする抗体をコードする遺伝子を導入された動物から、当該抗体を得ることができる。例えば、抗体遺伝子は、乳汁中に固有に産生されるタンパク質をコードする遺伝子の内部にインフレームで挿入することによって融合遺伝子として構築できる。乳汁中に分泌されるタンパク質として、たとえば、ヤギβカゼインなどを利用することができる。抗体遺伝子が挿入された融合遺伝子を含むDNA断片はヤギの胚へ注入され、該注入胚が雌のヤギへ導入される。胚を受容したヤギから生まれるトランスジェニックヤギ(またはその子孫)が産生する乳汁からは、所望の抗体を乳汁タンパク質との融合タンパク質として取得できる。また、トランスジェニックヤギから産生される所望の抗体を含む乳汁量を増加させるために、ホルモンがトランスジェニックヤギに適宜使用できる(Ebert, K.M. et al., Bio/Technology(1994)12, 699-702)。
【0092】
本発明の組換え抗体のC領域として、動物抗体由来のC領域を使用できる。例えばマウス抗体のH鎖C領域としては、Cγ1、Cγ2a、Cγ2b、Cγ3、Cμ、Cδ、Cα1、Cα2、Cεが、L鎖C領域としてはCκ、Cλが使用できる。また、マウス抗体以外の動物抗体としてラット、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、ラクダ、サル等の動物抗体が使用できる。これらの配列は公知である。また、抗体またはその産生の安定性を改善するために、C領域を修飾することができる。
【0093】
本発明において、抗体がヒトに投与される場合、ヒトに対する異種抗原性を低下させること等を目的として人為的に改変した遺伝子組換え型抗体とすることができる。遺伝子組換え型抗体とは、例えば、キメラ(Chimeric)抗体、ヒト化(Humanized)抗体などを含む。これらの改変抗体は、公知の方法を用いて製造することができる。
【0094】
キメラ抗体とは、互いに由来の異なる可変領域と定常領域を連結した抗体を言う。例えば、マウス抗体の重鎖、軽鎖の可変領域と、ヒト抗体の重鎖、軽鎖の定常領域からなる抗体は、マウス−ヒト−異種キメラ抗体である。マウス抗体の可変領域をコードするDNAをヒト抗体の定常領域をコードするDNAと連結させ、これを発現ベクターに組み込むことによって、キメラ抗体をを発現する組換えベクターが作製できる。該ベクターにより形質転換された組換え細胞を培養し、組み込まれたDNAを発現させることによって、培養中に生産される該キメラ抗体を取得できる。キメラ抗体およびヒト化抗体のC領域には、ヒト抗体のものが使用される。
【0095】
例えばH鎖においては、Cγ1、Cγ2、Cγ3、Cγ4、Cμ、Cδ、Cα1、Cα2、およびCεをC領域として利用することができる。またL鎖においてはCκ、およびCλをC領域として使用できる。これらのC領域のアミノ酸配列、ならびにそれをコードする塩基配列は公知である。また、抗体そのもの、あるいは抗体の産生の安定性を改善するために、ヒト抗体C領域を修飾することができる。
【0096】
一般にキメラ抗体は、ヒト以外の動物由来抗体のV領域とヒト抗体由来のC領域とから構成される。これに対してヒト化抗体は、ヒト以外の動物由来抗体の相補性決定領域(CDR;complementarity determining region)と、ヒト抗体由来のフレームワーク領域(FR;framework region)およびヒト抗体由来のC領域とから構成される。ヒト化抗体はヒト体内における抗原性が低下しているため、本発明の治療剤の有効成分として有用である。
【0097】
抗体の可変領域は、通常、4つのフレーム(FR)にはさまれた3つの相補性決定領域(complementarity-determining region ; CDR)で構成されている。CDRは、実質的に、抗体の結合特異性を決定している領域である。CDRのアミノ酸配列は多様性に富む。一方FRを構成するアミノ酸配列は、異なる結合特異性を有する抗体の間でも、高い相同性を示すことが多い。そのため、一般に、CDRの移植によって、ある抗体の結合特異性を、他の抗体に移植することができるとされている。
【0098】
ヒト化抗体は、再構成(reshaped)ヒト抗体とも称される。具体的には、ヒト以外の動物、たとえばマウス抗体のCDRをヒト抗体に移植したヒト化抗体などが公知である。ヒト化抗体を得るための一般的な遺伝子組換え手法も知られている。
【0099】
具体的には、マウスの抗体のCDRをヒトのFRに移植するための方法として、たとえばOverlap Extension PCRが公知である。Overlap Extension PCRにおいては、ヒト抗体のFRを合成するためのプライマーに、移植すべきマウス抗体のCDRをコードする塩基配列が付加される。プライマーは4つのFRのそれぞれについて用意される。一般に、マウスCDRのヒトFRへの移植においては、マウスのFRと相同性の高いヒトFRを選択するのが、CDRの機能の維持において有利であるとされている。すなわち、一般に、移植すべきマウスCDRに隣接しているFRのアミノ酸配列と相同性の高いアミノ酸配列からなるヒトFRを利用するのが好ましい。
【0100】
また連結される塩基配列は、互いにインフレームで接続されるようにデザインされる。それぞれのプライマーによってヒトFRが個別に合成される。その結果、各FRにマウスCDRをコードするDNAが付加された産物が得られる。各産物のマウスCDRをコードする塩基配列は、互いにオーバーラップするようにデザインされている。続いて、ヒト抗体遺伝子を鋳型として合成された産物のオーバーラップしたCDR部分を互いにアニールさせて相補鎖合成反応が行われる。この反応によって、ヒトFRがマウスCDRの配列を介して連結される。
【0101】
最終的に3つのCDRと4つのFRが連結されたV領域遺伝子は、その5'末端と3'末端にアニールし適当な制限酵素認識配列を付加されたプライマーによってその全長が増幅される。上記のように得られたDNAとヒト抗体C領域をコードするDNAとをインフレームで融合するように発現ベクター中に挿入することによって、ヒト型抗体発現用ベクターが作成できる。該組込みベクターを宿主に導入して組換え細胞を樹立した後に、該組換え細胞を培養し、該ヒト化抗体をコードするDNAを発現させることによって、該ヒト化抗体が該培養細胞の培養物中に産生される(欧州特許公開EP 239400 、国際公開WO 96/02576参照)。
【0102】
上記のように作製されたヒト化抗体の抗原への結合活性を定性的又は定量的に測定し、評価することによって、CDRを介して連結されたときに該CDRが良好な抗原結合部位を形成するようなヒト抗体のFRが好適に選択できる。必要に応じ、再構成ヒト抗体のCDRが適切な抗原結合部位を形成するようにFRのアミノ酸残基を置換することもできる。たとえば、マウスCDRのヒトFRへの移植に用いたPCR法を応用して、FRにアミノ酸配列の変異を導入することができる。具体的には、FRにアニーリングするプライマーに部分的な塩基配列の変異を導入することができる。このようなプライマーによって合成されたFRには、塩基配列の変異が導入される。アミノ酸を置換した変異型抗体の抗原への結合活性を上記の方法で測定し評価することによって所望の性質を有する変異FR配列が選択できる(Sato, K.et al., Cancer Res, 1993, 53, 851-856)。
【0103】
また、上述のようにヒト抗体の取得方法も知られている。例えば、ヒトリンパ球をin vitroで所望の抗原または所望の抗原を発現する細胞で感作する。次いで、感作リンパ球をヒトミエローマ細胞融合させることによって、抗原への結合活性を有する所望のヒト抗体が取得できる(特公平1-59878参照)。融合パートナーであるヒトミエローマ細胞には、例えばU266などを利用することができる。
【0104】
また、ヒト抗体遺伝子の全てのレパートリーを有するトランスジェニック動物を所望の抗原で免疫することにより所望のヒト抗体が取得できる(国際公開WO 93/12227, WO 92/03918,WO 94/02602, WO 94/25585,WO 96/34096, WO 96/33735参照)。さらに、ヒト抗体ライブラリーを用いて、パンニングによりヒト抗体を取得する技術も知られている。例えば、ヒト抗体のV領域を一本鎖抗体(scFv)としてファージディスプレイ法によりファージの表面に発現させ、抗原に結合するファージを選択することができる。選択されたファージの遺伝子を解析することにより、抗原に結合するヒト抗体のV領域をコードするDNA配列が決定できる。抗原に結合するscFvのDNA配列を決定した後、当該V領域配列を所望のヒト抗体C領域の配列とインフレームで融合させた後に適当な発現ベクターに挿入することによって発現ベクターが作製できる。該発現ベクターを上記に挙げたような好適な発現細胞中に導入し、該ヒト抗体をコードする遺伝子を発現させることにより該ヒト抗体が取得できる。これらの方法は既に公知である(国際公開WO 92/01047, WO 92/20791, WO 93/06213, WO 93/11236, WO 93/19172, WO 95/01438, WO 95/15388)。
【0105】
本発明で使用される抗体には、目的のタンパク質に結合する限り、IgGに代表される二価抗体だけでなく、一価抗体、若しくはIgMに代表される多価抗体も含まれる。本発明の多価抗体には、全て同じ抗原結合部位を有する多価抗体、または、一部もしくは全て異なる抗原結合部位を有する多価抗体が含まれる。本発明で使用される抗体は、抗体の全長分子に限られず、目的のタンパク質に結合する限り、低分子化抗体またはその修飾物であってもよい。
【0106】
低分子化抗体は、全長抗体(whole antibody、例えばwhole IgG等)の一部分が欠損している抗体断片を含む。目的の抗原への結合能を有する限り、抗体分子の部分的な欠損は許容される。本発明における抗体断片は、重鎖可変領域(VH)および軽鎖可変領域(VL)のいずれか、または両方を含んでいることが好ましい。VHまたはVLのアミノ酸配列は、置換、欠失、付加及び/又は挿入を含むことができる。さらに目的の抗原への結合能を有する限り、VHおよびVLのいずれか、または両方の一部を欠損させることもできる。又、可変領域はキメラ化やヒト化されていてもよい。抗体断片の具体例としては、例えば、Fab、Fab'、F(ab')2、Fvなどを挙げることができる。また、低分子化抗体の具体例としては、例えば、Fab、Fab'、F(ab')2、Fv、scFv(single chain Fv)、Diabody、sc(Fv)2(single chain (Fv)2)などを挙げることができる。これら抗体の多量体(例えば、ダイマー、トリマー、テトラマー、ポリマー)も、本発明の低分子化抗体に含まれる。
【0107】
抗体の断片は、抗体を酵素で処理して抗体断片を生成させることによって得ることができる。抗体断片を生成する酵素として、例えばパパイン、ペプシン、あるいはプラスミンなどが公知である。あるいは、これら抗体断片をコードする遺伝子を構築し、これを発現ベクターに導入した後、適当な宿主細胞で発現させることができる(例えば、Co, M.S. et al., J. Immunol.(1994)152, 2968-2976、Better, M. and Horwitz, A. H. Methods in Enzymology(1989)178, 476-496、Plueckthun, A. and Skerra, A. Methods in Enzymology(1989)178, 476-496、Lamoyi, E., Methods in Enzymology(1989)121, 652-663、Rousseaux, J. et al., Methods in Enzymology(1989)121, 663-669、Bird, R. E. et al., TIBTECH(1991)9, 132-137参照)。
【0108】
消化酵素は、抗体を特定の位置で切断し、次のような特定の構造の抗体断片を与える。
パパイン消化:F(ab)2またはFab
ペプシン消化:F(ab')2またはFab'
プラスミン消化:Facb
上記のような酵素的に得られた抗体断片に対して、遺伝子工学的手法を利用する方法では抗体の任意の部分を欠失させることができる。
【0109】
したがって、本発明における低分子化抗体は、目的のタンパク質に対する結合親和性を有する限り、任意の領域を欠失した抗体断片であることができる。
【0110】
更に、特に、本発明による癌などの細胞増殖性疾患の治療においては、抗体は、そのエフェクター活性を維持していてもよい。すなわち、本発明の低分子化抗体は、目的のタンパク質に対する結合親和とエフェクター機能の両方を有する抗体であってもよい。抗体のエフェクター機能には、ADCC活性およびCDC活性が含まれる。本発明における治療用の抗体は、ADCC活性およびCDC活性のいずれか、または両方をエフェクター機能として備えていてもよい。
【0111】
Diabodyは、遺伝子融合により構築された二価(bivalent)の低分子化抗体を指す(Holliger P et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90: 6444-6448 (1993)、EP404,097号、WO 93/11161号等)。Diabodyは、2本のポリペプチド鎖から構成されるダイマーである。通常、ダイマーを構成するポリペプチド鎖は、各々、同じ鎖中でVL及びVHがリンカーにより結合されている。Diabodyにおける当該ポリペプチド鎖を連結するリンカーは、一般に、VLとVHが互いに結合できない位に短い。具体的には、リンカーを構成するアミノ酸残基は、2〜12残基が好ましく、さらに3〜10残基が好ましく、特には5残基程度である。そのため、同一ポリペプチド鎖上にコードされるVLとVHとは、単鎖可変領域フラグメントを形成できず、別の単鎖可変領域フラグメントと二量体を形成する。その結果、Diabodyは2つの抗原結合部位を有することとなる。
【0112】
scFvは、抗体のH鎖V領域とL鎖V領域とを連結することにより得られる。scFvにおいて、H鎖V領域とL鎖V領域は、リンカー、好ましくはペプチドリンカーを介して連結される(Huston, J. S. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A, 1988, 85, 5879-5883.)。scFvにおけるH鎖V領域およびL鎖V領域は、本明細書に抗体として記載されたもののいずれの抗体由来であってもよい。V領域を連結するペプチドリンカーには、特に制限はない。例えば3から25残基程度からなる任意の一本鎖ペプチドをリンカーとして用いることができる。具体的には、たとえば後述のペプチドリンカー等を用いることができる。
【0113】
V領域は、たとえば上記のようなPCR法によって連結することができる。PCR法によるV領域の連結のために、まず次のDNAのうち、全部あるいは所望の部分アミノ酸配列をコードするDNAが鋳型として利用される。
前記抗体のH鎖またはH鎖V領域をコードするDNA配列、および
前記抗体のL鎖またはL鎖V領域をコードするDNA配列
【0114】
増幅すべきDNAの両端の配列に対応する配列を有するプライマーの一対を用いたPCR法によってH鎖とL鎖のV領域をコードするDNAがそれぞれ増幅される。次いで、ペプチドリンカー部分をコードするDNAを用意する。ペプチドリンカーをコードするDNAもPCRを利用して合成することができる。このとき利用するプライマーの5'側に、別に合成された各V領域の増幅産物と連結できる塩基配列を付加しておく。次いで、[H鎖V領域DNA]−[ペプチドリンカーDNA]−[L鎖V領域DNA]の各DNAと、アセンブリーPCR用のプライマーを利用してPCR反応を行う。
【0115】
アセンブリーPCR用のプライマーは、[H鎖V領域DNA]の5'側にアニールするプライマーと、[L鎖V領域DNA]の3'側にアニールするプライマーとの組み合わせからなる。すなわちアセンブリーPCR用プライマーとは、合成すべきscFvの全長配列をコードするDNAを増幅することができるプライマーセットである。一方[ペプチドリンカーDNA]には各V領域DNAと連結できる塩基配列が付加されている。その結果、これらのDNAが連結され、さらにアセンブリーPCR用のプライマーによって、最終的にscFvの全長が増幅産物として生成される。一旦scFvをコードするDNAが作製されると、それらを含有する発現ベクター、および該発現ベクターにより形質転換された組換え細胞が常法に従って取得できる。また、その結果得られる組換え細胞を培養して該scFvをコードするDNAを発現させることにより、該scFvが取得できる。
【0116】
sc(Fv)2は、2つのVH及び2つのVLをリンカー等で結合して一本鎖にした低分子化抗体である(Hudson et al、J Immunol. Methods 1999;231:177-189)。sc(Fv)2は、例えば、scFvをリンカーで結ぶことによって作製できる。
【0117】
また2つのVH及び2つのVLが、一本鎖ポリペプチドのN末端側を基点としてVH、VL、VH、VL([VH]リンカー[VL]リンカー[VH]リンカー[VL])の順に並んでいることを特徴とする抗体が好ましい。
【0118】
2つのVHと2つのVLの順序は特に上記配置に限定されず、どのような順序で並べられていてもよい。例えば以下のような配置も挙げることができる。
[VL]リンカー[VH]リンカー[VH]リンカー[VL]
[VH]リンカー[VL]リンカー[VL]リンカー[VH]
[VH]リンカー[VH]リンカー[VL]リンカー[VL]
[VL]リンカー[VL]リンカー[VH]リンカー[VH]
[VL]リンカー[VH]リンカー[VL]リンカー[VH]
【0119】
抗体の可変領域を結合するリンカーとしては、遺伝子工学により導入し得る任意のペプチドリンカー、または合成化合物リンカー(例えば、Protein Engineering, 9(3), 299-305, 1996参照)に開示されるリンカー等を用いることができる。本発明においてはペプチドリンカーが好ましい。ペプチドリンカーの長さは特に限定されず、目的に応じて当業者が適宜選択することができる。通常、ペプチドリンカーを構成するアミノ酸残基は、1から100アミノ酸、好ましくは3から50アミノ酸、更に好ましくは5から30アミノ酸、特に好ましくは12から18アミノ酸(例えば、15アミノ酸)である。
【0120】
ペプチドリンカーを構成するアミノ酸配列は、scFvの結合作用を阻害しない限り、任意の配列とすることができる。例えば、ペプチドリンカーの場合次のようなアミノ酸配列を利用することができる。
Ser
Gly・Ser
Gly・Gly・Ser
Ser・Gly・Gly
Gly・Gly・Gly・Ser(配列番号:27)
Ser・Gly・Gly・Gly(配列番号:28)
Gly・Gly・Gly・Gly・Ser(配列番号:29)
Ser・Gly・Gly・Gly・Gly(配列番号:30)
Gly・Gly・Gly・Gly・Gly・Ser(配列番号:31)
Ser・Gly・Gly・Gly・Gly・Gly(配列番号:32)
Gly・Gly・Gly・Gly・Gly・Gly・Ser(配列番号:33)
Ser・Gly・Gly・Gly・Gly・Gly・Gly(配列番号:34)
(Gly・Gly・Gly・Gly・Ser(配列番号:29))n
(Ser・Gly・Gly・Gly・Gly(配列番号:30))n
[nは1以上の整数である]
【0121】
ペプチドリンカーのアミノ酸配列は、目的に応じて当業者が適宜選択することができる。たとえば前記ペプチドリンカーの長さを決定するnは、通常1〜5、好ましくは1〜3、より好ましくは1または2である。
【0122】
よって本発明において特に好ましいsc(Fv)2の態様としては、例えば、以下のsc(Fv)2を挙げることができる。
[VH]ペプチドリンカー(15アミノ酸)[VL]ペプチドリンカー(15アミノ酸)[VH]ペプチドリンカー(15アミノ酸)[VL]
【0123】
あるいは、合成化学物リンカー(化学架橋剤)を利用してV領域を連結することもできる。ペプチド化合物などの架橋に通常用いられている架橋剤を本発明に利用することができる。例えば次のような化学架橋剤が公知である。これらの架橋剤は市販されている。
N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、
ジスクシンイミジルスベレート(DSS)、
ビス(スルホスクシンイミジル)スベレート(BS3)、
ジチオビス(スクシンイミジルプロピオネート)(DSP)、
ジチオビス(スルホスクシンイミジルプロピオネート)(DTSSP)、
エチレングリコールビス(スクシンイミジルスクシネート)(EGS)、
エチレングリコールビス(スルホスクシンイミジルスクシネート)(スルホ−EGS)、
ジスクシンイミジル酒石酸塩(DST)、ジスルホスクシンイミジル酒石酸塩(スルホ−DST)、
ビス[2-(スクシンイミドオキシカルボニルオキシ)エチル]スルホン(BSOCOES)、および
ビス[2-(スルホスクシンイミドオキシカルボニルオキシ)エチル]スルホン(スルホ-BSOCOES)など
【0124】
4つの抗体可変領域を結合する場合には、通常、3つのリンカーが必要となる。複数のリンカーは、同じでもよいし、異なるリンカーを用いることもできる。本発明において好ましい低分子化抗体はDiabody又はsc(Fv)2である。このような低分子化抗体を得るには、抗体を酵素、例えば、パパイン、ペプシンなどで処理し、抗体断片を生成させるか、又はこれら抗体断片をコードするDNAを構築し、これを発現ベクターに導入した後、適当な宿主細胞で発現させればよい(例えば、Co, M. S. et al., J. Immunol. (1994) 152, 2968-2976 ; Better, M. and Horwitz, A. H., Methods Enzymol. (1989) 178, 476-496 ; Pluckthun, A. and Skerra, A., Methods Enzymol. (1989) 178, 497-515 ; Lamoyi, E., Methods Enzymol. (1986) 121, 652-663 ; Rousseaux, J. et al., Methods Enzymol. (1986) 121, 663-669 ; Bird, R. E. and Walker, B. W., Trends Biotechnol. (1991) 9, 132-137参照)。
【0125】
抗体の修飾物として、ポリエチレングリコール(PEG)等の各種分子と結合した抗体を使用することもできる。又、抗体に化学療法剤、毒性ペプチド或いは放射性化学物質などを結合することも可能である。このような抗体修飾物(以下、抗体コンジュゲートと称する。)は、得られた抗体に化学的な修飾を施すことによって得ることができる。尚、抗体の修飾方法はこの分野においてすでに確立されている。また後に述べるように、目的のタンパク質のみならず、化学療法剤、毒性ペプチド或いは放射性化学物質などを認識するように遺伝子組換え技術を用いて設計した二重特異性抗体(bispecific antibody)のような分子型として取得することもできる。本発明における「抗体」にはこれらの抗体も包含される。
【0126】
本発明の抗体に結合させて細胞傷害活性を機能させる化学療法剤としては、たとえば次のような化学療法剤が例示できる。
azaribine、anastrozole、azacytidine、bleomycin、bortezomib、bryostatin-1、busulfan、camptothecin、10-hydroxycamptothecin、carmustine、celebrex、chlorambucil、cisplatin、irinotecan、carboplatin、cladribine、cyclophosphamide、cytarabine、dacarbazine、docetaxel、dactinomycin、daunomycin glucuronide、daunorubicin、dexamethasone、diethylstilbestrol、doxorubicin、doxorubicin glucuronide、epirubicin、ethinyl estradiol、estramustine、etoposide、etoposide glucuronide、floxuridine、fludarabine、flutamide、fluorouracil、fluoxymesterone、gemcitabine、hydroxyprogesterone caproate、hydroxyurea、idarubicin、ifosfamide、leucovorin、lomustine、mechlorethamine、medroxyprogesterone acetate、megestrol acetate、melphalan、mercaptopurine、methotrexate、mitoxantrone、mithramycin、mitomycin、mitotane、phenylbutyrate、prednisone、procarbazine、paclitaxel、pentostatin、semustine streptozocin、tamoxifen、taxanes、taxol、testosterone propionate、thalidomide、thioguanine、thiotepa, teniposide、topotecan、uracil mustard、vinblastine、vinorelbine、vincristine
【0127】
本発明において、好ましい化学療法剤は、低分子の化学療法剤である。低分子の化学療法剤は、抗体への結合の後も、抗体の機能に干渉する可能性が低い。本発明において、低分子の化学療法剤は、通常100〜2000、好ましくは200〜1000の分子量を有する。ここに例示した化学療法剤は、いずれも低分子の化学療法剤である。これらの本発明における化学療法剤は、生体内で活性な化学療法剤に変換されるプロドラッグを含む。プロドラッグの活性化は酵素的な変換であっても、非酵素的な変換であっても良い。
【0128】
また、ricin、abrin、ribonuclease、onconase、DNase I、Staphylococcal enterotoxin-A、pokeweed antiviral protein、gelonin、diphtheria toxin、Pseudomonas exotoxin、Pseudomonas endotoxin、L-asparaginase、PEG L-Asparaginaseなどの毒性ペプチドで抗体を修飾することもできる。また別の態様では、一または二以上の低分子化学療法剤と毒性ペプチドをそれぞれ組み合わせて抗体の修飾に使用できる。抗EREG抗体と上記の低分子化学療法剤との結合は共有結合または非共有結合が利用できる。これら化学療法剤を結合した抗体の作製方法は公知である。
【0129】
更に、タンパク質性の薬剤や毒素は、遺伝子工学的な手法によって抗体と結合することができる。具体的には、たとえば上記毒性ペプチドをコードするDNAと抗EREG抗体をコードするDNAをインフレームで融合させて発現ベクター中に組み込んだ組換えベクターが構築できる。該ベクターを適切な宿主細胞に導入することにより得られる形質転換細胞を培養し、組み込んだDNAを発現させて、毒性ペプチドを結合した抗EREG抗体を融合タンパク質として得ることができる。抗体との融合タンパク質を得る場合、一般に、抗体のC末端側にタンパク質性の薬剤や毒素を配置される。抗体と、タンパク質性の薬剤や毒素の間には、ペプチドリンカーを介在させることもできる。
【0130】
さらに、本発明で使用される抗体は二重特異性抗体(bispecific antibody)であってもよい。二重特異性抗体とは、異なるエピトープを認識する可変領域を同一の抗体分子内に有する抗体を言う。
【0131】
本発明の二重特異性抗体の好ましい例としては、一方の抗原結合部位がEREGを認識し、他方の抗原結合部位がTGFαを認識する二重特異性抗体を挙げることができる。
【0132】
二重特異性抗体を製造するための方法は公知である。たとえば、認識抗原が異なる2種類の抗体を結合させて、二重特異性抗体を作製することができる。結合させる抗体は、それぞれがH鎖とL鎖を有する1/2分子であっても良いし、H鎖のみからなる1/4分子であっても良い。あるいは、異なるモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを融合させて、二重特異性抗体産生融合細胞を作製することもできる。さらに、遺伝子工学的手法により二重特異性抗体が作製できる。
【0133】
本発明の抗体は後述のように当業者に公知の方法で産生することが可能である。
例えば、哺乳類細胞の場合、常用される有用なプロモーター、発現させる抗体遺伝子、その3’側下流にポリAシグナルを機能的に結合させて発現させることができる。例えばプロモーター/エンハンサーとしては、ヒトサイトメガロウイルス前期プロモーター/エンハンサー(human cytomegalovirus immediate early promoter/enhancer)を挙げることができる。
【0134】
また、その他に、ウイルスプロモーター/エンハンサー、あるいはヒトエロンゲーションファクター1α(HEF1α)などの哺乳類細胞由来のプロモーター/エンハンサー等を、抗体発現のために使用することができる。プロモーター/エンハンサーを利用することができるウイルスとして、具体的には、レトロウイルス、ポリオーマウイルス、アデノウイルス、シミアンウイルス40(SV40)等を示すことができる。
【0135】
SV40プロモーター/エンハンサーを使用する場合はMulliganらの方法(Nature(1979)277, 108)を利用することができる。また、HEF1αプロモーター/エンハンサーはMizushimaらの方法(Nucleic Acids Res.(1990)18, 5322)により、容易に目的とする遺伝子発現に利用することができる。
【0136】
大腸菌の場合、常用される有用なプロモーター、抗体分泌のためのシグナル配列および発現させる抗体遺伝子を機能的に結合させて当該遺伝子が発現できる。プロモーターとしては、例えばlacZプロモーター、araBプロモーターを挙げることができる。lacZプロモーターを使用する場合はWardらの方法(Nature(1989)341, 544-546 ; FASEBJ.(1992)6, 2422-2427)を利用することができる。あるいはaraBプロモーターはBetterらの方法(Science(1988)240, 1041-1043)により、目的とする遺伝子の発現に利用することができる。
【0137】
抗体分泌のためのシグナル配列としては、大腸菌のペリプラズムに産生させる場合、pelBシグナル配列(Lei, S. P. et al., J. Bacteriol.(1987)169, 4379)を使用すればよい。また必要に応じて、尿素のグアニジン塩酸塩の様なタンパク質変性剤を使用することによって所望の結合活性を有するように、抗体の構造が組み直される(refolded)。
【0138】
発現ベクターに挿入される複製起源としては、SV40、ポリオーマウイルス、アデノウイルス、ウシパピローマウイルス(BPV)等の由来のものを用いることができる。さらに、宿主細胞系で遺伝子コピー数増幅のため、発現ベクター中に、選択マーカー挿入することができる。具体的には、次のような選択マーカーを利用することができる。
アミノグリコシドトランスフェラーゼ(APH)遺伝子、
チミジンキナーゼ(TK)遺伝子、
大腸菌キサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Ecogpt)遺伝子、
ジヒドロ葉酸還元酵素(dhfr)遺伝子等
【0139】
本発明で使用される抗体の製造のために、任意の発現系、例えば真核細胞または原核細胞系が使用できる。真核細胞としては、例えば樹立された哺乳類細胞系、昆虫細胞系、真糸状菌細胞および酵母細胞などの動物細胞等が挙げられる。原核細胞としては、例えば大腸菌細胞等の細菌細胞が挙げられる。好ましくは、本発明で使用される抗体は、哺乳類細胞を用いて発現される。哺乳類細胞としては、例えばCHO、COS、ミエローマ、BHK、Vero、Hela細胞などを利用することができる。
【0140】
次に、形質転換された宿主細胞をin vitroまたはin vivoで培養して目的とする抗体を産生させる。宿主細胞の培養は公知の方法に従い行う。例えば、培養液として、DMEM、MEM、RPMI1640、IMDMを使用することができ、牛胎児血清(FCS)等の血清補液を併用することもできる。
【0141】
前記のように発現、産生された抗体は、通常のタンパク質の精製で使用されている公知の方法を単独で使用することによって又は適宜組み合わせることによって精製できる。例えば、プロテインAカラムなどのアフィニティーカラム、イオン、ゲルろ過などのクロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、透析等を適宜選択、組み合わせることにより、抗体を分離、精製することができる(Antibodies A Laboratory Manual. Ed Harlow, David Lane, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988)。
【0142】
抗体の抗原結合活性(Antibodies A Laboratory Manual. Ed Harlow, David Lane, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988)の測定には公知の手段を使用することができる。例えば、ELISA(酵素結合免疫吸着検定法)、EIA(酵素免疫測定法)、RIA(放射免疫測定法)あるいは蛍光免疫法などを用いることができる。
【0143】
本発明で使用される抗体は糖鎖が改変された抗体であってもよい。抗体の糖鎖を改変することにより抗体の細胞傷害活性を増強できることが知られている。糖鎖が改変された抗体としては、例えば、次のような抗体が公知である。
グリコシル化が修飾された抗体(WO99/54342など)、
糖鎖に付加するフコースが欠損した抗体(WO00/61739、WO02/31140など)、
バイセクティングGlcNAcを有する糖鎖を有する抗体(WO02/79255など)など
【0144】
本発明で使用される抗体は、細胞傷害活性を有していてもよい。
本発明における細胞傷害活性としては、例えば抗体依存性細胞介在性細胞傷害(antibody-dependent cell-mediated cytotoxicity:ADCC)活性、補体依存性細胞傷害(complement-dependent cytotoxicity:CDC)活性などを挙げることができる。本発明において、CDC活性とは補体系による細胞傷害活性を意味する。一方ADCC活性とは標的細胞の細胞表面抗原に特異的抗体が付着した際、そのFc部分にFcγ受容体保有細胞(免疫細胞等)がFcγ受容体を介して結合し、標的細胞に傷害を与える活性を意味する。
【0145】
抗EREG抗体がADCC活性を有するか否か、又はCDC活性を有するか否かは公知の方法により測定することができる(例えば、Current protocols in Immunology, Chapter7. Immunologic studies in humans, Editor, John E, Coligan et al., John Wiley & Sons, Inc.,(1993)等)。
【0146】
具体的には、まず、エフェクター細胞、補体溶液、標的細胞の調製が実施される。
(1)エフェクター細胞の調製
CBA/Nマウスなどから脾臓を摘出し、RPMI1640培地(Invitrogen社製)中で脾臓細胞が分離される。10%ウシ胎児血清(FBS、HyClone社製)を含む同培地で洗浄後、細胞濃度を5×10
6/mlに調製することによって、エフェクター細胞が調製できる。
【0147】
(2)補体溶液の調製
Baby Rabbit Complement(CEDARLANE社製)を10% FBS含有培地(Invitrogen社製)にて10倍希釈し、補体溶液が調製できる。
【0148】
(3)標的細胞の調製
目的のタンパク質を発現する細胞を0.2 mCiの
51Cr-クロム酸ナトリウム(GEヘルスケアジャパン社製)とともに、10% FBS含有DMEM培地中で37℃にて1時間培養することにより該標的細胞を放射性標識できる。目的のタンパク質を発現する細胞としては、目的のタンパク質をコードする遺伝子で形質転換された細胞、原発性大腸癌、転移性大腸癌、肺腺癌、膵癌、胃癌、腎癌細胞、大腸癌細胞、食道癌細胞、胃癌細胞、膵癌細胞等を利用することができる。放射性標識後、細胞を10% FBS含有RPMI1640培地にて3回洗浄し、細胞濃度を2×10
5/mlに調製することによって、該標的細胞が調製できる。
【0149】
ADCC活性、又はCDC活性は下記に述べる方法により測定できる。ADCC活性の測定の場合は、96ウェルU底プレート(Becton Dickinson社製)に、標的細胞と、抗EREG抗体を50μlずつ加え、氷上にて15分間反応させる。その後、エフェクター細胞100μlを加え、炭酸ガスインキュベーター内で4時間培養する。抗体の終濃度は0または10μg/mlとする。培養後、100μlの上清を回収し、ガンマカウンター(COBRAII AUTO-GAMMA、MODEL D5005、Packard Instrument Company社製)で放射活性を測定する。細胞傷害活性(%)は得られた値を使用して(A-C) / (B-C) x 100の計算式に基づいて計算できる。Aは各試料における放射活性(cpm)、Bは1% NP-40(nacalai tesque社製)を加えた試料における放射活性(cpm)、Cは標的細胞のみを含む試料の放射活性(cpm)を示す。
【0150】
一方、CDC活性の測定の場合は、96ウェル平底プレート(Becton Dickinson社製)に、標的細胞と、目的のタンパク質に対する抗体を50μlずつ加え、氷上にて15分間反応させる。その後、補体溶液100μlを加え、炭酸ガスインキュベーター内で4時間培養する。抗体の終濃度は0または3μg/mlとする。培養後、100μlの上清を回収し、ガンマカウンターで放射活性を測定する。細胞傷害活性はADCC活性の測定と同様にして計算できる。
【0151】
一方、抗体コンジュゲートによる細胞傷害活性の測定の場合は、96ウェル平底プレート(Becton Dickinson社製)に、標的細胞と、目的のタンパク質に対する抗体コンジュゲートを50μlずつ加え、氷上にて15分間反応させる。炭酸ガスインキュベーター内で1から4時間培養する。抗体の終濃度は0または3μg/mlとする。培養後、100μlの上清を回収し、ガンマカウンターで放射活性を測定する。細胞傷害活性はADCC活性の測定と同様にして計算できる。
【0152】
本発明においてEREGに対するアンタゴニスト活性および/またはTGFαに対するアンタゴニスト活性は、当業者に公知の方法で測定することが可能である。
【0153】
本発明に係るEREGまたはTGFαの主要な受容体として考えられているEGFレセプターの場合、リガンドの結合により二量体を形成し、細胞内に存在する自らのドメインであるチロシンキナーゼを活性化する。活性化されたチロシンキナーゼは自己リン酸化によりリン酸化チロシンを含むペプチドを形成し、それらに様々なシグナル伝達のアクセサリー分子を会合させる。それらは主にPLCγ(ホスフォリパーゼCγ)、Shc、Grb2などである。これらのアクセサリー分子のうち、前二者は更にEGFレセプターのチロシンキナーゼによりリン酸化を受ける。EGFレセプターからのシグナル伝達における主要な経路はShc、Grb2、Sos、Ras、Raf/MAPKキナーゼ/MAPキナーゼの順にリン酸化が伝達される経路である。更に副経路であるPLCγからPKCへの経路が存在すると考えられている。
【0154】
こうした細胞内のシグナルカスケードは細胞種毎に異なるため、目的とする標的細胞毎に適宜標的分子を設定することができ、上記の因子に限定されるものではない。生体内シグナルの活性化の測定キットは市販のものを適宜使用することができる(例えば、プロテインキナーゼC活性測定システム(GEヘルスケアジャパン株式会社)等)。
【0155】
また、生体内シグナルカスケードの下流に存在する標的遺伝子に対する転写誘導作用を指標として、生体内シグナルの活性化を検出することもできる。転写活性の変化は、レポーターアッセイの原理によって検出することができる。具体的には、標的遺伝子の転写因子又はプロモーター領域の下流にGFP(Green Fluorescence Protein)やルシフェラーゼなどのレポーター遺伝子を配し、そのレポーター活性を測定することにより、転写活性の変化をレポーター活性として測定することができる。
【0156】
更に、EGFレセプターは通常は細胞増殖を促進する方向に働くため、標的とする細胞の増殖活性を測定することによって、生体内シグナル伝達の活性化を評価することができる。本発明においては後者の細胞増殖活性を評価することによって被検物質のアンタゴニスト活性を評価するが、本方法に限定されるものではなく、選択した標的細胞毎に前記に挙げた方法を好適に採用し評価することができる。
【0157】
即ち、例えば以下のような細胞増殖活性を測定することにより、被検物質のアンタゴニスト活性を評価又は測定することができる。例えば、培地中に添加した[
3H]ラベルしたチミジンの生細胞による取り込みをDNA複製能力の指標として測定する方法が用いられる。
【0158】
より簡便な方法としてトリパンブルー等の色素を細胞外に排除する能力を顕微鏡下で計測する色素排除法や、MTT法が用いられる。後者は、生細胞がテトラゾリウム塩であるMTT(3-(4,5-dimethylthiazol-2-yl)-2,5-diphenyl tetrazolium bromide)を青色のホルマザン産物へ転換する能力を有することを利用している。より具体的には、被検細胞の培養液に被験抗体を添加して一定時間を経過した後に、MTT溶液を培養液に加えて一定時間静置することによりMTTを細胞に取り込ませる。その結果、黄色の化合物であるMTTが細胞内のミトコンドリア内のコハク酸脱水素酵素により青色の化合物に変換される。この青色生成物を溶解し呈色させた後にその吸光度を測定することにより生細胞数の指標とするものである。
【0159】
MTT以外に、MTS、XTT、WST-1、WST-8等の試薬も市販されており(nacalai tesqueなど)好適に使用することができる。更に、細胞のATPや細胞培養物のインピーダンスを指標として細胞増殖活性を評価する方法も公知である。活性の測定に際しては、例えば被検物質が抗体の場合には、対照抗体として目的の抗体と同一のアイソタイプを有する抗体で当該アンタゴニスト活性を有しない抗体(例えば、目的の抗原を発現する細胞に結合しない抗体、目的の抗原に結合しない抗体、等)を、目的の抗体と同様に使用して、目的の抗体が対照抗体よりも強いアンタゴニスト活性を示すことにより活性を判定することができる。
【0160】
アンタゴニストが増殖を抑制する細胞は、EREGタンパク質、TGFαタンパク質、および/またはEGFRが発現している細胞であれば特に限定されない。好ましい細胞は、たとえば癌細胞である。具体的には、大腸癌、肺腺癌、膵癌、胃癌、腎癌に由来する細胞は、本発明における細胞として好適である。本発明によれば、これらの癌の、原発病巣、および転移病巣のいずれに対しても有効な細胞増殖の抑制効果を得ることができる。さらに好ましい癌細胞は、原発性大腸癌、転移性大腸癌、肺腺癌、膵癌、胃癌、腎癌である。従って、本発明の抗体は、細胞増殖に起因する疾患、例えば、大腸癌、肺腺癌、膵癌、胃癌、腎癌などの治療、予防を目的として使用できる。これらの癌は、原発巣、転移巣にかかわらず、治療あるいは予防の対象とすることができる。より好ましくは原発性大腸癌、転移性大腸癌、膵癌の治療および/または予防を目的として本発明の抗体を用いることができる。更に、これらの癌の中で、EREGおよび/またはTGFα依存的に増殖する癌は、本発明における治療および/または予防の対象として好ましい。
【0161】
また本発明は、本発明の抗体をコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ本発明の抗体と同等の活性を有する抗体をコードするポリヌクレオチドを提供する。また、本発明は、これらポリヌクレオチドを含むベクター、該ベクターを含む形質転換体(形質転換細胞を含む)を提供する。
【0162】
本発明のポリヌクレオチドは、本発明の抗体をコードする限り、特に限定されず、複数のデオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)等の塩基または塩基対からなる重合体である。本発明のポリヌクレオチドは、天然以外の塩基を含んでいてよい。
【0163】
本発明のポリヌクレオチドは、抗体を遺伝子工学的な手法により発現させる際に使用することができる。また本発明の抗体と同等な機能を有する抗体をスクリーニングする際に、プローブとして用いることもできる。即ち本発明の抗体をコードするポリヌクレオチド、またはその一部をプローブとして用い、ハイブリダイゼーション、遺伝子増幅技術(例えばPCR)等の技術により、該ポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ本発明の抗体と同等の活性を有する抗体をコードするDNAを得ることができる。このようなDNAも本発明のポリヌクレオチドに含まれる。ハイブリダイゼーション技術(Sambrook,J et al., Molecular Cloning 2nd ed., 9.47-9.58, Cold Spring Harbor Lab. press, 1989)は当業者によく知られた技術である。
【0164】
ハイブリダイゼーションの条件としては、例えば、低ストリンジェントな洗浄条件が挙げられる。低ストリンジェントな条件とは、ハイブリダイゼーション後の洗浄において、例えば室温、2×SSC、0.1%SDSの条件であり、好ましくは42℃、0.1×SSC、0.1%SDSの条件である。より好ましいハイブリダイゼーションの条件としては、高ストリンジェントな洗浄条件が挙げられる。高ストリンジェントな条件とは、例えば65℃、0.5×SSC及び0.1%SDSの条件である。これらの条件において、温度を上げる程に高い相同性を有するポリヌクレオチドが効率的に得られることが期待できる。但し、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響する要素としては温度や塩濃度など複数の要素が考えられ、当業者であればこれら要素を適宜選択することで同様のストリンジェンシーを実現することが可能である。
【0165】
これらハイブリダイゼーション技術や遺伝子増幅技術により得られるポリヌクレオチドがコードする、本発明の抗体と機能的に同等な抗体は、通常、これら抗体とアミノ酸配列において高い相同性を有する。本発明の抗体には、本発明の抗体と機能的に同等であり、かつ該抗体のアミノ酸配列と高い相同性を有する抗体も含まれる。高い相同性とは、アミノ酸レベルにおいて、通常、少なくとも50%以上の同一性、好ましくは75%以上の同一性、さらに好ましくは85%以上の同一性、さらに好ましくは95%以上の同一性を指す。ポリペプチドの相同性を決定するには、文献(Wilbur, W. J. and Lipman, D. J. Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1983) 80, 726-730)に記載のアルゴリズムにしたがえばよい。
【0166】
EREG又はTGFαの発現量を低下させる物質は当業者に公知の方法で取得することが可能である。
【0167】
siRNAは標的遺伝子の転写産物と相補的なRNAおよび該RNAに相補的なRNAが結合した二重鎖RNAである。siRNAの長さは特に限定されないが、細胞内で毒性を示さない短鎖であることが好ましい。siRNAの長さは通常、15〜50塩基対であり、好ましくは15〜30塩基対である。siRNAの二重鎖部分は完全に対合しているものに限らず、ミスマッチ(対応する塩基が相補的でない)、バルジ(一方の鎖に対応する塩基がない)などにより不対合部分が含まれていてもよい。siRNAの末端構造は、平滑末端あるいは粘着(突出)末端のいずれでもよい。
【0168】
アンチセンスオリゴヌクレオチドにはアンチセンスRNAおよびアンチセンスDNAが含まれる。アンチセンスオリゴヌクレオチドは標的遺伝子の転写産物に相補的なRNA又はDNAであり、通常、一本鎖である。アンチセンスオリゴヌクレオチドの長さは特に限定されないが、通常5〜50塩基、好ましくは9〜30塩基である。アンチセンスオリゴヌクレオチドは標的遺伝子の転写産物と完全に相補的である必要はなく、ミスマッチやバルジ等により不対合部分が含まれていてもよい。アンチセンスRNAの一態様として、microRNA(miR)を挙げることができる。microRNAは標的遺伝子の転写産物と相補的な一本鎖RNAである。一般的にmicroRNAは小さなnon-coding RNAで、mRNAに作用して遺伝子サイレンシングを引き起こす。microRNAの長さは特に限定されないが、通常、10〜30塩基、好ましくは14〜21塩基である。
【0169】
医薬組成物
別の観点においては、本発明は、本発明の抗体を有効成分として含有する医薬組成物を提供する。又、本発明は本発明の抗体を有効成分として含有する細胞増殖抑制剤、特に抗癌剤に関する。
【0170】
別の観点においては、本発明は、EREGアンタゴニストおよびTGFαアンタゴニストを有効成分として含有する医薬組成物を提供する。又、本発明はEREGアンタゴニストおよびTGFαアンタゴニストを有効成分として含有する細胞増殖抑制剤、特に抗癌剤に関する。
【0171】
本発明の細胞増殖抑制剤および抗癌剤は、癌を罹患している対象または罹患している可能性がある対象に投与されることが好ましい。本発明の抗癌剤が対象とする癌種は特に限定されない。例えば、大腸癌、肺腺癌、膵癌、胃癌、腎癌などの癌に本発明の抗癌剤を使用することが可能である。又、原発病巣および転移病巣のいずれに対しても本発明の抗癌剤を使用することが可能である。
【0172】
本発明において、「ある物質を有効成分として含有する」とは、当該物質を主要な活性成分として含むという意味であり、当該物質の含有率を制限するものではない。
【0173】
本発明の医薬組成物は、経口、非経口投与のいずれかによって患者に投与することができる。好ましくは非経口投与である。係る投与方法としては具体的には、注射投与、経鼻投与、経肺投与、経皮投与などが挙げられる。注射投与の例としては、例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射などによって本発明の医薬組成物が全身または局部的に投与できる。また、患者の年齢、症状により適宜投与方法を選択することができる。投与量としては、例えば、一回の投与につき体重1 kgあたり0.0001 mgから1000 mgの範囲で投与量が選択できる。あるいは、例えば、患者あたり0.001から100000 mg/bodyの範囲で投与量が選択できる。しかしながら、本発明の医薬組成物はこれらの投与量に制限されるものではない。
【0174】
本発明の医薬組成物を対象(例えば、ヒト等の哺乳動物)へ投与する工程を含む、細胞増殖の抑制方法もしくは癌の治療方法もまた、本発明に含まれる。
【0175】
EREGアンタゴニストとTGFαアンタゴニストは同時に投与されてもよいし、異なるタイミングで投与されてもよい。又、EREGアンタゴニストとTGFαアンタゴニストは一つの製剤としてもよいし、異なる製剤としてもよい。
【0176】
本発明の医薬組成物は、常法に従って製剤化することができ(例えば、Remington's Pharmaceutical Science, latest edition, Mark Publishing Company, Easton, U.S.A)、医薬的に許容される担体や添加物を共に含むものであってもよい。例えば界面活性剤、賦形剤、着色料、着香料、保存料、安定剤、緩衝剤、懸濁剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤等が挙げられる。更にこれらに制限されず、その他常用の担体が適宜使用できる。具体的には、軽質無水ケイ酸、乳糖、結晶セルロース、マンニトール、デンプン、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、白糖、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等を担体として挙げることができる。
【0177】
スクリーニング方法
本発明は、次の工程を含む、癌の治療剤の候補化合物のスクリーニング方法を提供する。
(1)被検物質のEREGアンタゴニスト活性を測定する工程、
(2)被検物質のTGFαアンタゴニスト活性を測定する工程、および
(3)EREGアンタゴニスト活性およびTGFαアンタゴニスト活性を有する物質を選択する工程。
【0178】
EREGアンタゴニスト活性およびTGFαアンタゴニスト活性は上述のように当業者に公知の方法で測定することが可能である。
【0179】
本発明のスクリーニング方法によって選択された候補化合物は、EREGおよびTGFαの作用の抑制を作用機序とする抗癌剤の治療薬の候補化合物として有用である。
【0180】
本発明のスクリーニング方法によって選択された候補化合物は、更に、必要に応じて、他の癌細胞株、あるいは初代培養細胞に対する作用、更に正常細胞に対する毒性などの影響が評価される。これらの評価を通じて、癌の治療薬として有用な化合物を選択することができる。一連の、癌の治療薬としての評価方法は、既に確立されている。本発明のスクリーニング方法においては、天然の、あるいは人為的に合成されたあらゆる化合物を被験化合物として利用することができる。たとえば、蛋白質ライブラリーや抗体ライブラリーは、本発明における被験化合物のライブラリーとして好ましい。あるいは、蛋白質や抗体を提示したファージライブラリーを被験化合物とすることもできる。更に、コンビナトリアルライブラリーなどの、人為的に合成された化合物のライブラリーを被験化合物として用いることもできる。
【0181】
EREGアンタゴニスト活性およびTGFαアンタゴニスト活性は上述の方法や本願実施例の方法等の当業者に公知の方法で測定することが可能である。
【0182】
さらに、本発明は以下の工程を含む、癌の治療剤の製造方法を提供する。
(1)EREGアンタゴニスト活性を有する物質を選択する工程、
(2)TGFαアンタゴニスト活性を有する物質を選択する工程、
(3)(1)で選択された物質と(2)で選択する物質を組み合わせて抗癌剤とする工程。
【0183】
EREGアンタゴニスト活性を有する物質は特に限定されず、EREGアンタゴニスト活性を有することが既に知られている公知の物資を用いてもよいし、上述のアンタゴニスト活性の測定等を指標にして新たに取得された物質であってもよい。
【0184】
TGFαアンタゴニスト活性を有する物質は特に限定されず、TGFαアンタゴニスト活性を有することが既に知られている公知の物質を用いてもよいし、上述のアンタゴニスト活性の測定等を指標にして新たに取得された物質であってもよい。
【0185】
EREGアンタゴニスト活性を有する物質とTGFαアンタゴニスト活性を有する物質を組み合わせて抗癌剤とする場合、EREGアンタゴニスト活性を有する物質とTGFαアンタゴニスト活性を有する物質が同一の対象に投与される限り、その態様は限定されない。例えば、EREGアンタゴニスト活性を有する物質とTGFαアンタゴニスト活性は一つの薬剤として投与されてもよいし、異なる薬剤として投与されてもよい。異なる薬剤として投与される場合、EREGアンタゴニスト活性を有する物質とTGFαアンタゴニスト活性を有する物質が同時に投与されてもよいし、異なる時間に投与されてもよい。
【0186】
なお本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
【実施例】
【0187】
以下本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【0188】
〔実施例1〕EGFR-GCSFRキメラレセプターを発現するBa/F3細胞株はEpiregulinに依存して増殖する
ヒトEGFR(GenBank: NM_005228)およびマウスGCSFR(GenBank: NM_007782)cDNAをPCR増幅することで単離した。EGFR細胞外ドメインとGCSFR細胞内ドメインからなるキメラ受容体遺伝子を作製した。キメラ受容体塩基配列を配列番号:1、アミノ酸配列を配列番号:2に示した。キメラ受容体の哺乳動物発現ベクターを構築した。発現ベクターにおいて、キメラ受容体はヒトEF1αプロモーター下で転写されるよう設計されている。キメラ受容体発現ベクターはジェネティシン耐性遺伝子を持っている。
【0189】
直鎖化したキメラ受容体発現ベクターで、Ba/F3細胞を形質転換した。ベクターが導入された細胞をジェネティシン存在下で選抜した。選抜された細胞は、培地中にIL3を添加せず、代わりにEGFを添加し維持した。目的は、キメラ受容体シグナルに依存し増殖する細胞の性質を保持するためである。
【0190】
キメラ受容体発現細胞にルシフェラーゼ発現ベクターを導入した。目的は細胞増殖をルシフェラーゼ活性として検出できるようにするためである。ゼオシン耐性マーカーを有する哺乳動物細胞発現ベクターにルシフェラーゼ遺伝子(pGL3-Control Vector, Promega)を組み込んだ。発現ベクターにおいて、ルシフェラーゼはマウスCMVプロモーター下で転写されるよう設計されている。直鎖化したルシフェラーゼ発現ベクターで細胞を形質転換した。細胞をゼオシン、ジェネティシン存在下で選抜したのち、ルシフェラーゼ活性の高い細胞を選抜した。以下、キメラ受容体、ルシフェラーゼを発現するBa/F3細胞をEGF(R)と記載する。EGF(R)は10%牛胎児血清とEGF、ジェネティシンとゼオシンを含むRPMI1640培地で維持した。
【0191】
EGF(R)がヒトEpiregulin(EREG)添加に依存して細胞増殖することを観察した。EGF(R)を遠心し、RPMI1640+10% FBS培地に再懸濁した。細胞は1×10
4/wellとなるよう96穴プレートにまき込んだ。目的終濃度となるようヒトEREG(R&D Systems)を培養液中に添加し、37℃、5 % CO
2下で4日間インキュベーションした。インキュベーション後の細胞数を以下の二つの酵素活性に基づき測定した。脱水素酵素活性測定にはWST-8試薬Cell Count Reagent SF(ナカライテスク社)を用いた。方法は製造者の指示するプロトコルに従った。吸光度はプレートリーダーBenchmark Plus(BIO-RAD)により測定された。ルシフェラーゼ活性をSteady-Glo Luciferase Assay System(Promega)を用いて測定した。方法は製造者の指示するプロトコルに従った。化学発光はマルチラベルカウンターWallac 1420 Arvo SX (Perkin-Elmer)により測定された。
図1は、WST-8を用いた測定とルシフェラーゼ活性による測定で同様の増殖曲線が得られたことを示す。EGF(R)はEREG濃度増大とともに顕著に増殖した。以上の結果は顕微鏡下での細胞数の観察と無矛盾であった。
【0192】
〔実施例2〕EREGを発現する細胞は細胞表面上のEGFRキメラ受容体を活性化する
配列番号:3で示されるEREG cDNA(NM_001432)を哺乳動物発現ベクターpMCNにクローニングした。pMCNは、マウスCMVプロモーター(GenBank: U68299)下で外来遺伝子を発現させることが可能である。pMCNベクターはジェネティシン耐性遺伝子をもっている。EREG発現ベクターでCHO細胞DG44株(Invitrogen)を形質転換した。ジェネティシン存在下で薬剤耐性細胞を選抜した。EREG蛋白質を安定発現する細胞株EREG/DGを単離した。
【0193】
EREGを発現する細胞がEGF(R)の増殖を活性化できるかテストした。EREG/DGとEGF(R)を共培養し、EGF(R)の細胞数をルシフェラーゼ活性に基づき検出した。EGF(R)増殖活性化がEREGによって引き起こされたものかどうかを並行して試験した。EREG/DGとEGF(R)を共培養する際、抗EREG中和抗体(EP20,EP27; WO2008047723)および抗EGFR中和抗体cetuximab(Merck KGaA)を添加した。
【0194】
EREG/DG細胞を10% FBSを含むαMEM培地(Invitrogen)に懸濁し、1 x 10
4/wellとなるよう96穴プレートに伝播した。細胞は37℃、5 % CO
2下で終夜インキュベートされ、プレートに接着した。培養液を除去した後、10%FBSを含むRPMI1640で懸濁したEGF(R)細胞(1 x 10
4)を抗体とともに添加した。3日間のインキュベーションを行った。
【0195】
図2は、それぞれの条件下におけるルシフェラーゼ活性すなわちEGF(R)細胞数を示す。EREG/DGを共培養することによるEGF(R)増殖促進がおこり、また抗体添加により促進が無効化されることを示す。EREG/DG44細胞なしの培養条件(EGF(R)のみ)に比べ、EREG/DG44細胞の共存(コントロール)により、EGF(R)細胞の増殖は著しく促進された。EREG/DG44細胞共存により促進された細胞増殖は、抗EREGもしくは抗EGFR抗体添加で抑制された。上記の結果より、EREG発現細胞は近傍のEGFR発現細胞のシグナル活性化を惹起することが明らかになった。抗EREG抗体による無効化は、シグナル活性化にEREGが関与していることを示す。
【0196】
〔実施例3〕EGF(R)の増殖は大腸癌株DLD-1細胞の共存により促進される。この増殖促進は抗EREG中和抗体と抗TGF-α中和抗体添加により無効化される。
癌細胞のEGFR活性化には複数のEGFリガンドが関与しているかもしれない。複数のリガンドが受容体活性化に関与する場合、ひとつのリガンドを抑制するだけでは、受容体活性化を完全に抑制するには十分でない。DLD-1では、EREGに加え、AREG、TGFαのmRNA発現が亢進している。DLD-1に発現するEGFリガンドのなかでEGFR受容体活性化に係る分子はどれかを解析した。中和抗体存在下でEGF(R)とDLD-1を共培養し、EGF(R)の増殖をモニターすることでEGF(R)活性化に関与するリガンドを同定した。
【0197】
DLD-1細胞は10% FBSを含むRPMI1640培地で懸濁され、2 x 10
3/wellとなるよう96穴プレートに伝播された。37℃、5 % CO
2下で終夜インキュベートされたのち、培養液上清は除去された。10% FBSを含むRPMI1640で懸濁されたEGF(R)細胞(1 x 10
4)は中和活性を有する抗体とともに添加された。3日間のインキュベーションの後、ルシフェラーゼ活性を測定することで細胞数を定量化した。
【0198】
EGF(R)の増殖はDLD-1細胞と共培養することで促進された(
図3;コントロール 対 EGF(R)のみ)。抗EGFR抗体cetuximab添加により、DLD-1によるEGF(R)増殖の促進がほぼ完全に無効化された。DLD-1細胞によるEGF(R)増殖促進はEGFR刺激を介したものであることが証拠づけられた。
【0199】
抗TGFα抗体(R&D Systems, AB-239-NA)はDLD1共培養により促進されたEGF(R)の増殖を部分的に抑制した。抗EREG抗体EP20は部分的に細胞の増殖を抑制した。抗AREG抗体(R&D Systems, MAB262)は全く増殖を抑制しなかった。
【0200】
抗EREG抗体と抗AREG抗体を同時に添加して得られる効果は、抗EREG抗体単独と同程度であった。抗TGFα抗体と抗AREG抗体を同時添加した場合には、EGF(R)の増殖は抗TGFα抗体単独以上には抑制されなかった。
【0201】
一方、抗EREG抗体と抗TGFα抗体を同時添加することで、DLD-1によるEGF(R)増殖の促進がほぼ完全に無効化された。二抗体による抑制の効果は、抗EGFR抗体と同等であった。
【0202】
以上の結果は、EGFR活性化に寄与している分子はDLD-1が発現するEGFリガンドのうち、EREGとTGFαであることを示した。
【0203】
図8はDLD-1細胞上AREG蛋白質、EREG蛋白質に対するフローサイトメトリー解析をしめす。DLD-1は培養ディッシュからPBS/1 mM EDTA処理により剥離された。細胞は遠心され、細胞ペレットは1% FBSを含むPBSに再懸濁された。細胞再懸濁液には、終濃度4μg/mlとなるように抗EREG抗体(EP20)、抗AREG抗体がそれぞれ添加された。氷上にて30分間インキュベートされた。インキュベーション後、未反応の抗体は、遠心、再懸濁を行うことで除去された。洗浄後の細胞懸濁液にはFITCラベル抗マウスIgG抗体(Beckman Coulter, IM0819)が添加され、氷上にて30分間インキュベートされた。遠心、再懸濁後、細胞はフローサイトメーターFACSCaliburで解析された。結果はAREG蛋白質、EREG蛋白質がDLD1上に発現することを示した。
【0204】
〔実施例4〕抗EGREG抗体と抗TGFα抗体はDLD1の増殖を抑制する
DLD-1自身の増殖はEGFRシグナルを遮断することで抑制されるかどうか、を解析した。DLD-1は10% FBSを含むRPMI1640に懸濁され、2 x 10
3/wellとなるよう96穴プレートにまき込まれた。足場依存的な増殖能を弱めるため低接着Costar(登録商標)3595プレートが使用された。各種中和抗体(10μg/ml)およびトポイソメラーゼ阻害剤であるCampto(ヤクルト)が添加された後、37℃、5 % CO
2下インキュベートされた。Cetuximabの抗腫瘍効果は、トポイソメラーゼ阻害剤と併用すると増強されると報告されている(Ciardiello et al. Clin Cancer Res 5:909-916, 1999)。3日間インキュベーション後、WST-8アッセイ法により細胞増殖は定量化された。
【0205】
無添加もしくは低濃度Campto存在下で、対照に比較しcetuximabはDLD-1細胞の増殖を抑制した(
図4)。EP20もしくは抗TGFα抗体はそれぞれ単独では増殖を抑制しなかった。両抗体の同時添加はcetuximab同程度にDLD-1の増殖を抑制した。大腸癌細胞において、内在的に発現するEREG、TGFαを同時に抗体添加により中和することで、増殖が抑制されることが明らかとなった。
【0206】
EGFR受容体機能を阻害する薬剤は、関与するリガンドが何かを特定することを必要としない。なぜなら、EGFR阻害剤はあらゆるリガンド刺激をすべて遮断してしまうからである。欠点は副作用である。EGFRは全身に発現している。現在臨床で使用されるEGFR阻害剤には、皮膚障害など治療を中断しなくてはならないほどの重篤な副作用がしばしば起こると報告されている。受容体阻害剤でEGFR活性化の可能性をすべて断ち切るのではなく、癌でEGFR活性化に関与するリガンドのみを抑制するアプローチは、シグナル遮断による最大の抗腫瘍効果を維持しつつ、副作用を低減することにつながるはずである。
【0207】
〔実施例5〕モノクローナル抗体EP19はEREGとTGFα両方に結合する
EREGとTGFαはEGFリガンドファミリーメンバーである。
図5に示すようにEREGとTGFαで保存されているアミノ酸残基はジスルフィド結合形成するCysを除くとわずかである。両者で保存されているアミノ酸の少なさから、通常、EREGとTGFα両方に結合する特異的な抗体は存在し得ないと考えられる。本発明者らはEREG立体構造解析に基づき、EREGとTGFαで保存されているわずかなアミノ残基で、共通する3次元的な構造エピトープが形成されることを見出した(
図5)。EREGに結合する抗体のほんのごく一部は、TGFαにも結合すると考えた。発明者らは出願WO 2008/047723において抗EREG抗体が複数取得されたことを示した。出願WO 2008/047723実施例中で取得した抗体がTGFαに対して結合する否か、解析した。TGFα(R&D Systems, 239-A)を固相化したNuncイムノプレートに、抗EREG抗体を添加し結合を解析した。37個のモノクローナル抗体を解析した中で、ただひとつ、抗体EP19がTGFαに結合した。
【0208】
抗体EP19を産生するハイブリドーマ全RNAより、SMART 5'-RACE cDNAライブラリを作製した。全RNA調製は、RNeasy Miniカラムを用いて行った。cDNAライブラリ作製は製造者の指示に従った。抗体定常領域配列に相補するプライマーを使い、抗体可変領域配列(VH, VL)をPCR増幅した。PCR増幅したフラグメントをpCR2.1TOPOにクローニングし、その塩基配列を決定した。H鎖可変領域塩基配列を配列番号:5に、その翻訳配列(アミノ酸配列)を配列番号:6に示した。L鎖可変領域塩基配列を配列番号:7に、その翻訳配列(アミノ酸配列)を配列番号:8に示した。このVH、VL配列とヒトIgG1定常領域配列からなるキメラ抗体の発現ベクターを構築した。キメラ抗体重鎖の塩基配列を配列番号:21に、そのアミノ酸配列を配列番号:22に、キメラ抗体軽鎖の塩基配列を配列番号:23に、そのアミノ酸配列を配列番号:24に示した。発現ベクターをCOS-7に導入し、一過的にキメラ抗体を発現させた。COS7培養上清中のキメラ抗体がEREG、TGFαに対して結合することを以下の方法で確かめた。培養上清中のキメラ抗体濃度をサンドイッチELISA法で算出した。スタンダードには別のマウス可変領域配列をもつ精製キメラ抗体が用いられた。EREGもしくはTGFαをNuncイムノプレートに固相化し、固相化蛋白質に対するキメラ抗体の結合を解析した。EP19組換えキメラ抗体はEREG、TGFαに容量依存的に結合した(
図6)。EP20組換えキメラ抗体はEREGに結合し、TGFαにはまったく結合しなかった。非常に興味深いことに市販の抗TGFαポリクローナル抗体(R&D System, AB-2390-NA: lot T06)にEREG蛋白質に対する結合は認められなかった。
【0209】
〔実施例6〕EGFR活性化によりEREGは発現誘導される
腎臓癌細胞株Caki1におけるEREG発現制御を解析した。Caki1細胞表面上のEREG蛋白質数が、細胞の培養状態により変化することを偶然見出した。Caki1は10% FBSを含むMEM(Invitrogen)培地で維持された。0.3〜1.5 x 10
4 cells/cm
2となるように細胞をまき込み、2〜3日インキュベートした。インキュベーション後、PBS/EDTAで細胞を剥離した。細胞は遠心され、細胞ペレットは1% FBSを含むPBSに再懸濁された。細胞再懸濁液には、終濃度4μg/mlとなるように抗EREG抗体(EP20)、抗EGFR抗体(cetuximab)がそれぞれ添加された。氷上にて30分間インキュベートされた。インキュベーション後、未反応の抗体は、遠心、再懸濁を行うことで除去された。洗浄後の細胞懸濁液にはFITCラベルした2次抗体が添加され、氷上にて30分間インキュベートされた。細胞を遠心、再懸濁した後、EREG蛋白質およびEGFR蛋白質の発現はフローサイトメーターFACSCaliburで解析された(
図7)。
【0210】
隣接細胞間の接触が起こる程度までに細胞密度が上昇すると、細胞膜上EREG蛋白質数が増加した。また低細胞密度状態で可溶型EREGを添加すると、細胞膜上EREG蛋白質は増加した。EGFを添加した場合にも細胞膜上のEREG蛋白質数は増加した。以上の結果は、EGFRシグナル活性化を通じEREG発現誘導が起ったことを示す。つまり、EGFRシグナル活性化のポジティブフィードバック機構の存在を示唆する。可溶型リガンド添加でEGFR活性化を引き起こした際、細胞膜上のEGFR分子数が低下した。一方、細胞密度を増した際EREG発現上昇が見られる状況下においては、EGFR分子数低下は認められなかった。可溶型リガンド添加により、EGFRは活性化され、同時に細胞内へ取り込まれることが報告されている。膜型リガンドによる刺激でも同様にEGFRシグナルは活性化されるが、膜型リガンドと結合していることで活性化したEGFRが細胞内へ取り込まれないのかもしれない。癌細胞の多くはEGFRとEGFリガンドの両方を発現する。癌組織中密集した状態で恒常的EGFRシグナル活性化を維持する機構に膜型リガンドEREGが関与している可能性が推測された。
【0211】
〔実施例7〕TGFα組換え蛋白質の調製
ヒト大腸癌細胞株DLD-1 cDNAライブラリよりPCRによって増幅されたヒトTGFα cDNAが単離された。ヒトTGFα細胞外領域とマウスIgG2a抗体定常領域配列からなるキメラ蛋白質ヒトTGFα-Fc(配列番号:37)をコードするDNA(配列番号:38)が作製され、哺乳動物発現ベクターpMCNにクローニングされた。pMCNは、マウスCMVプロモータ(GenBank: U68299)下で外来遺伝子を発現させることを可能とするベクターである。pMCNベクターはジェネティシン耐性遺伝子をもっている。直鎖化した発現ベクターでDG44細胞がエレクトロポレーション法にて形質転換された。ベクターが導入された細胞がジェネティシン存在下で選抜された。培養上清中のFc蛋白質量を定量することによって、組換え蛋白質を高産生する細胞が選抜された。
【0212】
Fc融合蛋白質産生株の培養上清より、ProteinGアフィニティカラムクロマトグラフィ、ゲルろ過クロマトグラフィを用いることによって目的蛋白質が精製された。精製蛋白質濃度が、既知濃度のIgGをスタンダートとして用いてDCプロテインアッセイ(バイオラッド)によって決定された。
【0213】
pET32a(Novagen)にTGFα DNAフラグメントを挿入することによって、チオレドキシン-成熟型ヒトTGFα融合蛋白質(配列番号:39、ポリヌクレオチド配列は配列番号:40)の大腸菌発現ベクターが構築された。以下、チオレドキシン-成熟型ヒトTGFα融合蛋白質はTrxTGFAと略称される。発現ベクターによってBL21(DE)が形質転換された。IPTG添加により、融合蛋白質の発現が誘導された。この大腸菌の可溶性画分より、Q Sepharose FF、HisTrap カラム(GEヘルスケア)を用いることによって融合蛋白質が精製された。精製蛋白質の分子量サイズが期待通りであることがSDS-PAGEで確認された。その蛋白質濃度がDCプロテインアッセイで決定された。
【0214】
〔実施例8〕中和能を有する抗TGFα抗体の単離
Balb/cマウス(日本チャールズ・リバー)にTGFα-Fcが免疫された。すなわち、初回免疫時、フロイント完全アジュバント(べクトン・ディッキンソン)を用いて抗原エマルジョンが作製され、0.1 mg ヒトTGFα-Fc/headとなるように皮下に抗原蛋白質が投与された。二週の間隔を置いたのち、週一回合計7回、フロイント不完全アジュバントで作製された抗原エマルジョンが0.05 mg/headの容量で皮下投与された。血清抗体価の上昇が認められたマウス個体に対し0.05 mgの抗原蛋白質が静脈内に投与された。3日後にその脾臓細胞が摘出され、マウスミエローマ細胞P3-X63Ag8U1(ATCC)と細胞数比で約3:1の割合で混合された後に、ポリエチレングリコール(PEG)法にて細胞融合が行われた。遠心操作によりPEGを除去したのち、細胞は1x HAT media supplemet(シグマ)、0.5x BM-Condimed H1 Hybridoma cloning supplement(ロシュダイアグノスティック)、10%牛胎児血清を含むRPMI1640培地に懸濁されて、その細胞濃度が調整された。次に、96ウェルプレートに細胞が播種された。ハイブリドーマによるコロニー形成が確認された後、培養上清中に含まれる抗TGFα抗体の有無をヒトTGFα-Fcをコートしたプレートを用いてELISA解析した。陽性ウェルに含まれるハイブリドーマ細胞が限界希釈法によりクローン化され、抗TGFα抗体を産生するハイブリドーマ株が単離された。モノクローナル抗体のアイソタイプがIsoStrip(ロシュダイアグノスティック)を用いて決定された。樹立したハイブリドーマの培養上清より、ProteinGアフィニティカラムクロマトグラフィ、および脱塩処理によりIgGモノクローナル抗体が精製された。精製抗体濃度はDCプロテインアッセイにより決定された。
【0215】
単離した複数の抗TGFα抗体のうちのひとつ#2-20抗体は成熟型TGFαに結合し、かつ中和活性を有していた。成熟型TGFα(R&D Systems, 239-A)がNuncイムノプレートに固相化された。プレートに固相化されたTGFαに対する#2-20抗体の結合がELISA法で解析された。
図9はマウスハイブリドーマ抗体#2-20が用量依存的に成熟型TGFαに結合したことを示す。
【0216】
EGFR-GCSFRキメラレセプターを発現するBa/F3細胞EGF(R)は、成熟型TGFαの添加濃度に依存して増殖した(
図10左)。10%FBSを含むRPMI1640に懸濁したEGF(R)細胞が5x10
3/wellとなるよう96ウェル培養プレートに播種された。適切な終濃度となるようにTGFαを添加した後、当該プレートが37℃、5% CO
2下で3日間インキュベートされた。細胞増殖がCell Count Reagent SF(ナカライテスク社)を用いて定量化された。
【0217】
TGFαによるEGF(R)細胞の増殖は#2-20抗体添加により中和された。10%FBSを含むRPMI1640に懸濁したEGF(R)細胞が5x10
3/wellとなるように培養プレートに播種された。終濃度がそれぞれ0, 0.1, 1, 10μg/mlとなるように#2-20抗体が細胞懸濁液にはじめに添加され、続いて終濃度5 ng/mlとなるようTGFαが当該培養プレートの各ウエルに添加された。当該培養プレートが37℃、5% CO
2下で3日間インキュベートされた後、細胞増殖が定量化された。#2-20抗体の添加によって、TGFαによる細胞増殖がキャンセルされた(
図10右)。
【0218】
マウスハイブリドーマ#2-20抗体がTGFαのEGFRへの結合を阻害するか、解析された。可溶型EGFR-Fc蛋白質(配列番号:41、ポリヌクレオチド配列は配列番号:42)は国際公開公報WO2008/047914に記載の方法で調製された。TrxTGFAがビオチン蛋白質ラベリングキット(ロシュダイアグノスティック)を用いてビオチン化された。抗ヒト抗体がコートされたnuncイムノプレートにEGFR-Fc蛋白質が1μg/mlの濃度で添加されプレートにキャプチャーされた。当該プレートの洗浄後、適切な濃度になるようにビオチン化TrxTGFAが当該プレートの各ウエルに添加され、当該プレートが一時間インキュベートされた。EGFR蛋白質に結合したTGFα量が、アルカリフォスファターゼ標識したストレプトアビジン(Zymed)、アルカリフォスファターゼ基質Sigma104を添加することにより定量化された。ビオチン化TrxTGFAは用量依存的にEGFR蛋白質に結合した(
図11左)。TGFαとEGFRの結合に対する#2-20抗体の阻害活性がテストされた。EGFR蛋白質をキャプチャーしたプレートに、適切な終濃度になるよう、#2-20抗体、もしくは抗TGFαヤギポリクロナール抗体(R&D Systems, AB-239-NA)が添加された。つづいて、ビオチン化TrxTGFAが終濃度50 ng/mlとなるように添加された。1時間のインキュベーション後、EGFRへ結合したTGFα量が決定された。TGFαのEGFR蛋白質への結合は、マウス#2-20抗体およびヤギポリクローナル抗TGFα抗体の添加により阻害された(
図11右)。
【0219】
抗TGFα抗体#2-20を産生するハイブリドーマ全RNAよりSmart 5'-RACE cDNAライブラリ(Clontech)が作製された。全RNAの調製はRNAeasy Miniカラム(Qiagen)を用いて行われた。cDNAライブラリ作製は製造者の指示に従った。抗体定常領域配列に相補するプライマーを使い、抗体可変領域配列(VH, VL)がPCRによって増幅された。PCR増幅したフラグメントがpCR2.1TOPOにクローニングされ、その塩基配列が決定された。そのH鎖可変領域塩基配列が配列番号:43に、その翻訳配列(アミノ酸配列)が配列番号:44に示されている。そのL鎖可変領域塩基配列が配列番号:45に、その翻訳配列(アミノ酸配列)が配列番号:46に示されている。抗体重鎖のCDR1、CDR2、CDR3の配列が配列番号:47、48、49に示されている。抗体軽鎖のCDR1、CDR2、CDR3の配列が配列番号:50、51、52に示されている。
【0220】
上記のVH、VL配列とヒトIgG1定常領域配列からなるキメラ抗体の発現ベクターが構築された。キメラ抗体重鎖のポリヌクレオチド配列及びアミノ酸配列がそれぞれ配列番号:53及び配列番号:54に、キメラ抗体軽鎖のポリヌクレオチド配列及びアミノ酸配列がそれぞれ配列番号:55及び配列番号:56に示されている。VH、VL配列とマウスIgG2a定常領域配列からなるマウスキメラIgG2a組換え抗体発現ベクターが構築された。マウス組換え抗体重鎖のポリヌクレオチド配列及びアミノ酸配列がそれぞれ配列番号:57及び配列番号:58に、マウス組換え抗体軽鎖のポリヌクレオチド配列及びアミノ酸配列がそれぞれ配列番号:59及び配列番号:60に示されている。軽鎖、重鎖DNAはともに一つの哺乳動物細胞発現ベクターに組み込まれ、両者はマウスCMVプロモータ下で転写される。キメラ抗体発現ベクターがトランスフェクション試薬FuGENE6(ロシュダイアグノスティック)を用いてCOS-7細胞に導入され、一過的に組換え抗体が発現された。COS-7培養上清中のキメラ抗体濃度がサンドイッチELISA法で算出された。この際に、既知濃度のヒトキメラ抗体、マウスIgG2aが濃度算出のスタンダートとして利用された。
【0221】
組換え抗体のTGFαに対する結合能、TGFαとEGFR間の結合阻害活性が上述の方法によって評価された。組換えヒトキメラ抗体、マウスIgG2a抗体は成熟型TGFαに結合した(
図12左)。組換えマウスキメラIgG2a抗体は、ビオチン化TrxTGFAのEGFR蛋白質への結合を阻害した(
図12右)。