【文献】
A.K.VAN HELDEN et al. Preparation and Characterization of Spherical Monodisperse Silica Dispersions in Nonaqueous Solvents,Journal of Colloid and Interface Science,1981年,Vol.81,No.2,page.354−368
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0003】
コロイダルシリカは、シリカ微粒子を水等の媒体に分散させたものであり、紙、繊維、鉄鋼等の分野で物性改良剤、塗料用ビヒクル、無機質バインダーとして使用されている他、半導体ウエハ等の電子材料の研磨剤としても使用されている。特に研磨剤として使用する場合には、シリカ粒子の高純度と緻密性が要求される。
【0004】
上記要求に応え得るコロイダルシリカの製造方法として、例えば、ケイ酸アルキル加水分解液をアルカリ熱水中に連続添加する粒子成長法が知られている。この粒子成長法では、アルカリ性条件で活性ケイ酸水溶液を添加するため、球状で単分散であり、且つ緻密なシリカ粒子が生成する傾向が高い。
【0005】
近年、球状単分散のシリカ形状を異形化(即ち、複雑な形状の二次粒子とする)して、研磨剤として使用する際の被研磨面の接触抵抗を調整し、研磨速度を更に改善することが検討されている。
【0006】
特許文献1には、ケイ酸アルカリ水溶液を原料とするコロイダルシリカの製造方法において、粒子形成のいずれかの時点でpHを5〜6に低下させることで、2粒子会合体、3粒子会合体及び更に大きな粒子会合体が生じ得ることが記載されている。しかしながら、この場合には、ケイ酸アルカリを原料とするため、アルカリ金属の残留による純度低下は免れられない。また、分岐構造や屈曲構造を持つシリカ粒子を多く含むコロイダルシリカが得られるとの記載はない。
【0007】
シリカ粒子を異形化する方法としては、特許文献2に記載されているように、アルカリ添加量の調整によるpH調整、塩の添加、温度調整、陰イオン濃度、粒子濃度等を調整することが知られている。特に塩の添加について、特許文献3には、カルシウム塩、マグネシウム塩を加えることにより、細長い形状を有するコロイダルシリカを得る方法が記載されている。しかしながら、塩の添加による形状制御の場合、金属不純物の混入により、高純度が求められている半導体製造プロセスへの利用には不向きである。
【0008】
一方、アルコキシシランを用いるStoeber法では、こぶ状(nodular)型の粒子が得られ易く、特許文献4に記載されているように、アルコキシシラン添加速度、アンモニウムイオン含有量、水配合量、反応温度の4つのファクターを変化させることで、繭型コロイダルシリカが得られることが記載されている。しかしながら、この方法で得られるコロイダルシリカは、粒子成長法のようにゆっくり粒子成長させる方法でないため、粒子の緻密性、シラノール基の残留の点で問題がある。また、Stoeber法では、反応温度、水分、アンモニア濃度、添加速度等の粒子形成条件を厳密に制御する必要があり一定の品質を保持し難い。
【0009】
特許文献5には、塩酸水溶液にテトラエトキシシランを加えて加水分解し、得られたケイ酸モノマー溶液をpH11.1のエチレンジアミン水溶液に2.5時間かけて添加し、粒子成長させるコロイダルシリカの製造方法が開示されている。この方法でも、上記Stoeber法と同様に、亜球状の粒子が生成するだけである。しかも、塩素イオンが混入し、陰イオン汚染が問題となる。
【0010】
特許文献6にも同様に、エチルシリケートを酸で加水分解して得られる活性ケイ酸水溶液から細長い形状を有するコロイダルシリカを製造する方法が記載されている。この場合にも酸の添加による陰イオン汚染がある。また、粒子形状も繭型、こぶ状等の球状粒子をゆがめた構造のもの、また細長い形状のものであり、分岐構造や屈曲構造を有するシリカ粒子を多く含むコロイダルシリカは得られていない。
【0011】
特許文献7には、ケイ酸アルカリ水溶液を陽イオン交換樹脂で処理して得られるケイ酸液を、KOH、NaOH、水溶性アミン等のアルカリ、塩酸、硫酸、蟻酸のような無機酸、有機酸を用いてpH1.0〜7.0に調整し、加温下熟成させることで、ケイ酸を高重合させ、その後、水溶性アミンを加えてpH9〜12.5にすることで異形化したシード液を調製後、これをビルドアップ(粒子成長)させる技術が開示されている。この方法でも、陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂でイオン除去をしているが、ppmオーダーの金属イオン、陰イオンが残留するため、半導体プロセスで使用しうる高純度のコロイダルシリカは得られない。工程的にも、煩雑なイオン交換操作を何度も行う必要があり問題がある。
【0012】
以上のように、従来開示されている異形コロイダルシリカ製造技術では、緻密で、金属陽イオン、酸に由来する陰イオンの含量が共に低く高純度で、かつ、分岐構造や屈曲構造を持つ高度に異形化したコロイダルシリカは得られていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
コロイダルシリカを研磨剤として使用するに当たり、緻密且つ高純度で更に分岐構造や屈曲構造を持つシリカ二次粒子を含有するコロイダルシリカが望まれている。
【0015】
従って、本発明の主な目的は、緻密且つ高純度で更に屈曲構造や分岐構造を持つシリカ二次粒子を含有するコロイダルシリカ及びその製造方法を提供することにある。
【0016】
また、近年、地球温暖化防止、環境汚染の観点から、VOC(揮発性有機化合物)規制が導入され、塗料の水性化が求められ、皮膜性に優れた水性の塗料用無機ビヒクルの開発が求められている。アスペクト比の大きな分岐構造や屈曲構造を持つシリカ二次粒子を含有するコロイダルシリカは優れた皮膜性を有することから、水性塗料用ビヒクルとしても有用である。本発明は、ビヒクルとしても有用なコロイダルシリカを提供することも目的とする。なお、アスペクト比とは、粒子の長径と短径の比を言う。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の製造方法により得られるコロイダルシリカが上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0018】
即ち、本発明は、下記のコロイダルシリカ及びその製造方法に関する。尚、本発明では、粒子形成の出発となる、最初の張込み液(アルカリ触媒及び水を含む液)を母液と称する。
1.ケイ酸アルキルを原料として得られるコロイダルシリカであって、
屈曲構造及び/又は分岐構造を持つシリカ二次粒子を含有し、
固体29Si−CP/MAS−NMRスペクトルを測定し、コロイダルシリカ由来ピークの合計強度を100とした場合のSi(OH)0のピーク強度比が40以上であり、
屈曲構造及び/又は分岐構造を持つシリカ二次粒子の含有量は、走査型電子顕微鏡で観察した20万倍での任意の視野内の粒子個数中の30%以上であり、
固体29Si−CP/MAS−NMRスペクトルによりOH基を近傍に持つ29Siを検出して、内部標準ピーク面積値で規格化した3ピークの合計面積であるピーク面積値が15以下であり、
1)ナトリウム、2)カルシウム及びマグネシウムからなる群から選ばれるアルカリ土類金属並びに3)鉄、チタン、ニッケル、クロム、銅、亜鉛、鉛、銀、マンガン及びコバルトからなる群から選ばれる重金属類の含有量がそれぞれ1重量ppm以下である、
ことを特徴とするコロイダルシリカ。
2.前記ケイ酸アルキルは、テトラメチルオルトシリケートである、上記項1に記載のコロイダルシリカ。
3.上記項1又は2に記載のコロイダルシリカを含む研磨剤。
4.1)アルカリ触媒及び水を含むpH9〜12の母液を調製する工程及び
2)ケイ酸アルキルを加水分解して得られる加水分解液を前記母液に添加する工程
を含むコロイダルシリカの製造方法であって、
前記加水分解液を前記母液に添加する工程は、
A)混合液のpHが7未満となるまで前記加水分解液を添加する工程1
B)混合液のpHが7以上となるまでアルカリ水溶液を添加する工程2及び
C)混合液のpHを7以上に維持しながら前記加水分解液を添加する工程3
を順に有
し、
前記母液に予め種粒子を添加することなく工程1〜3が実施され、
前記コロイダルシリカは、ケイ酸アルキルを原料として得られ、屈曲構造及び/又は分岐構造を持つシリカ二次粒子を含有し、
固体29Si−CP/MAS−NMRスペクトルを測定し、コロイダルシリカ由来ピークの合計強度を100とした場合のSi(OH)0のピーク強度比が40以上であり、
屈曲構造及び/又は分岐構造を持つシリカ二次粒子の含有量は、走査型電子顕微鏡で観察した20万倍での任意の視野内の粒子個数中の30%以上であり、
固体29Si−CP/MAS−NMRスペクトルによりOH基を近傍に持つ29Siを検出して、内部標準ピーク面積値で規格化した3ピークの合計面積であるピーク面積値が15以下であり、
1)ナトリウム、2)カルシウム及びマグネシウムからなる群から選ばれるアルカリ土類金属並びに3)鉄、チタン、ニッケル、クロム、銅、亜鉛、鉛、銀、マンガン及びコバルトからなる群から選ばれる重金属類の含有量がそれぞれ1重量ppm以下である、
ことを特徴とする製造方法。
5.前記ケイ酸アルキルは、テトラメチルオルトシリケートである、上記項4に記載の製造方法。
6.前記加水分解を無触媒下で行う、上記項4又は5に記載の製造方法。
7.工程1において、混合液のpHが6以上7未満となるまで前記加水分解液を添加する、上記項4〜6のいずれかに記載の製造方法。
8.工程1及び工程3において、前記加水分解液を前記母液に添加する添加速度が41gシリカ/時/kg母液以下である、上記項4〜7のいずれかに記載の製造方法。
9.混合液のpHが7未満である時間が0.5〜5時間となるように工程1及び工程2を実施する、上記項8に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明のコロイダルシリカは、屈曲構造及び/又は分岐構造を持つシリカ二次粒子を含有する。従来にない複雑な二次粒子の構造を持つため、コロイダルシリカを研磨剤として用いる場合に、被研磨面との接触抵抗を調整して研磨速度を改善することができる。
【0020】
また、大きなアスペクト比を持つ屈曲構造及び/又は分岐構造を持つシリカ二次粒子は、粒子同士の重なり合い、絡み合いによって良好な皮膜性を有し、水性塗料用ビヒクルとして、皮膜性を改善し得る。
【0021】
本発明のコロイダルシリカの製造方法は、種粒子を用いることなく、上記構造を有するコロイダルシリカを高純度且つ簡便に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
1.コロイダルシリカ
本発明のコロイダルシリカは、ケイ酸アルキルを原料として得られ、屈曲構造及び/又は分岐構造を持つシリカ二次粒子を含有することを特徴とする。原料のケイ酸アルキルとしては、テトラメチルオルトシリケート(TMOS)が好ましい。
【0024】
屈曲構造及び/又は分岐構造を持つシリカ二次粒子の含有量は、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した20万倍での任意の視野内の粒子個数中の30%以上が好ましい。また、同視野内の粒子のアスペクト比の平均値(平均アスペクト比)は、好ましくは1.5以上5未満である。平均アスペクト比が5を超えると、粘度上昇等により取扱いにくくなり、ゲル化する可能性がある。
【0025】
上記二次粒子を構成する一次粒子の平均粒子径は限定されないが、通常は5〜200nm程度、特に10〜100nmが望ましい。尚、平均粒子径は、2727/比表面積値によって換算される一次粒子径を表す。また、別に、動的光散乱法(大塚電子株式会社製「ELS8000」)で測定した平均粒子径を二次粒子径として示す。
【0026】
本発明では、二次粒子は
図10に示されるような屈曲構造や分岐構造を有している。動的光散乱法での測定用サンプルとしては、30nm以上の粒子の場合には、コロイダルシリカ200μLを0.05重量%デシル硫酸ナトリウム(SDS)水溶液10mLに加えて均一化したものを用いる。30nm未満の粒子の場合には、コロイダルシリカ4mLを0.3重量%クエン酸水溶液50mLに加えて均一化したものを用いる。
【0027】
また、コロイダルシリカを研磨剤として使用する場合は、緻密な構造を有するシリカ粒子を調製することが必要となる。より具体的には、シロキサン結合がより完全に形成された粒子を調製することが求められる。逆に言えば、残存するシラノール基が少ない粒子を調製することが好ましい。本発明者等は、固体
29Si−CP/MAS−NMRスペクトルがOH基を近傍に持つ
29Siを検出することができ、内部標準ピーク面積で規格化した3ピークの合計面積、即ちピーク面積値が、シリカ粒子の緻密さを評価する指標として有効であることを見出した。従来の水ガラス法により得られるコロイダルシリカとStoeber法により得られるコロイダルシリカのスペクトルを比較すると表1の通りであり、ピーク面積値に大きな差があることが分かる。また、真比重の比較でもStoeber法は、公知のシリカの真比重2.2(化学大辞典)よりも小さいことが分かる。
【0029】
〔表1中、Si(OH)
2は Si(OH)
2(OSi)
2を示す。 Si(OH)
1は Si(OH)(OSi)
3を示す。 Si(OH)
0はSi(OSi)
4を示す。ピーク面積値は、内部標準ピーク面積で規格化した3ピークの合計面積を示す。真比重は、150℃のホットプレート上で乾固後、300℃炉内で1時間保持した後、液相置換法で測定した値を示す。〕
【0030】
本発明のコロイダルシリカは、前記ピーク面積値が20以下であり、特に15以下であることが望ましい。下限値は限定されないが5程度である。
【0031】
前記ピーク面積値は、コロイダルシリカにおける残存シラノール基の多さを示す(例えば、「第43回 熱硬化性樹脂講演討論会講演要旨集」,p45(1993)参照))。即ち、Si(OH)
2、Si(OH)
1は、Siに直接OH基が結合したSi原子をカウントし、Si(OH)
0は、直接には結合したOHはないものの、近傍にOHが存在するSi原子をカウントしている。上記面積値が小さいほど残存シラノール基の絶対数が少ないことを示し、本発明のコロイダルシリカとして望ましい。
【0032】
図20、
図23、
図24、
図25には本発明のコロイダルシリカの乾固物における固体
29Si−CP/MAS−NMRスペクトルを示す。
図21、
図22、
図26には比較例のコロイダルシリカの乾固物における固体
29Si−CP/MAS−NMRスペクトルを示す。
図20〜
図26において、A−Aの高低差がポリジメチルシランピーク面積を示し、B−Bの高低差がコロイダルシリカピーク面積を示す。この場合、ポリジメチルシランピーク面積を「1」とした規格化値がピーク面積値となり、それがNMRチャートに該当ピークの右上付近に表示される。
【0033】
両者を対比すると、
図20ではピーク面積値が11.307であり、本発明のコロイダルシリカが絶対数として残存シラノール基が極めて少ないことを示している。なお、上記ピーク面積値は、公知のNMRスペクトル分析装置に備えられているデータ処理回路により作成される積分曲線の高さの比から算出できる。
【0034】
また、本発明のコロイダルシリカは、固体
29Si−CP/MAS−NMRスペクトルを測定した場合において、コロイダルシリカ由来ピークの合計強度(面積値)を100とした場合のSi(OH)
0のピーク強度比が40以上であることが好ましく、45以上がより好ましく、50以上が最も好ましい。これは、コロイダルシリカを研磨用として用いる際、直接被研磨面と接する表面近傍の緻密性が高いことを意味する。
【0035】
後記の表2中の実施例1ではSi(OH)
0の強度比が55であるのに対し、後記の表4中の比較例2では45である。即ち、表2では、特にシリカ粒子表層部において、残存シラノール基の割合がより少ないことを示している。なお、上記強度比は、公知のNMRスペクトル分析装置に備えられている波形分離処理の結果得られるコロイダルシリカ由来ピークのSi(OH)
2、Si(OH)
1、Si(OH)
0の各ピークの強度比を百分率として算出した値である。
【0036】
本発明における乾固物とは、本発明のコロイダルシリカのシリカ分を10重量%に調整したもの10gを50ml磁性るつぼに入れ、150℃にセットされたホットプレート上で、10時間熱処理することにより得られたものを言う。
【0037】
なお、本発明で使用するポリジメチルシランは、重量平均分子量が2000のものを使用する。また、NMRスペクトル分析装置としては、日本電子株式会社製EX−270を使用した。
【0038】
また、本発明のコロイダルシリカは、1)ナトリウム、2)カルシウム及びマグネシウムからなる群から選ばれるアルカリ土類金属並びに3)鉄、チタン、ニッケル、クロム、銅、亜鉛、鉛、銀、マンガン及びコバルトからなる群から選ばれる重金属類の含有量がそれぞれ1重量ppm以下であることが好ましい。特に、電子材料を研磨する研磨剤として使用する場合、電子材料に悪影響を及ぼすナトリウムの含有量が少ないか又は含まれていないことが好ましい。より好ましくは、ナトリウム、アルカリ土類金属及び重金属類の含有量がそれぞれ1重量ppm以下であることが好ましい。なお、本発明において、重金属類は、密度が4g/cm
3以上の金属元素を示す。アルカリ土類金属及び重金属類の含有量は、金属元素ごとの含有量を意味する。
【0039】
本発明は、本発明コロイダルシリカを含む研磨剤も包含する。特に、電子材料を研磨する電子材料研磨材として好適に用いることができる。例えば、シリコンウエハ研磨、LSI製造プロセスに於ける化学的機械的研磨(CMP)、フォトマスクブランクス研磨、ハードディスク研磨等が挙げられる。
【0040】
研磨剤の使用に際しては、公知の研磨剤と同様に使用すればよい。例えば、シリコンウエハを研磨する際は、用途等に応じて濃度を調整した上、研磨機の常盤にセットされた研磨パッド上に滴下すればよい。
【0041】
2.コロイダルシリカの製造方法
本発明のコロイダルシリカは、蒸留精製により高純度に精製可能なケイ酸アルキルをシリカ原料として製造する。好ましくは、シリカ原料として、高純度に精製可能で、かつ反応性が高く、常温で無触媒でも容易に加水分解されるテトラメチルオルトシリケート(TMOS)が望ましい。
【0042】
具体的には、次の製造方法が好適な態様として挙げられる。
【0043】
1)アルカリ触媒及び水を含むアルカリ性の母液を調製する工程及び
2)ケイ酸アルキルを加水分解して得られる加水分解液を前記母液に添加する工程
を含むコロイダルシリカの製造方法であって、
前記加水分解液を前記母液に添加する工程は、
A)混合液のpHが7未満となるまで前記加水分解液を添加する工程1
B)混合液のpHが7以上となるまでアルカリ水溶液を添加する工程2及び
C)混合液のpHを7以上に維持しながら前記加水分解液を添加する工程3
を順に有することを特徴とする製造方法。
【0044】
以下、上記本発明製造方法について説明する。
【0045】
母液調製工程
母液調製工程では、アルカリ触媒及び水を含む母液を調製する。例えば、水にアルカリ触媒を添加することにより母液を調製すれば良い。
【0046】
アルカリ触媒は、公知のアルカリ触媒を用いることができるが、特に金属不純物の混入を回避するという点で金属成分を含まない有機系塩基触媒が好適である。このような有機系塩基触媒としては、例えばエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラアミン、アンモニア、尿素、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)、テトラメチルグアニジン等の含窒素有機系塩基触媒が挙げられる。好ましくは、添加工程の温度範囲(加熱)で揮散しない、揮発性の低い有機系塩基触媒が好ましい。揮散する塩基の場合、連続的に添加して系内pHを維持してもよい。これらは1種又は2種以上で用いることができる。例外的に、研磨剤用途では、KOHを成分として配合することがあり、このような配合組成の研磨剤向けには、KOHをアルカリ触媒として用いることもできる。
【0047】
アルカリ触媒の添加量は、母液のpHが通常7〜14の範囲内になるように適宜設定すれば良い。より好ましいpHは9〜12、更に好ましくは、9〜11である。
【0048】
添加するアルカリ触媒量が少ないと、酸性移行時に生成している粒子が小さく、酸性状態で凝集させても、十分な異形化が図れない。すなわち、粒径が小さすぎる場合、粒子成長過程で異形状態が緩和されてしまう。また、アルカリ触媒量が多いと、酸性移行時に生成している粒径が大きくなり、酸性状態で凝集が起こりにくくなり、十分な異形粒子が得られなくなる。
【0049】
本発明では、後記のケイ酸アルキルの加水分解液を添加する際に、母液を加熱しておくことが好ましい。特に、母液を加熱することにより水リフラックス(水還流)状態とすることが望ましい。リフラックスは、公知の装置を用いて実施することができる。反応温度は、より高温であるほど緻密粒子が得られる。従って、添加工程は、より高温度でリフラックスできるよう加圧状態で実施しても良い。この場合には、例えばオートクレーブ等の公知の装置を使用することができる。
【0050】
添加工程
添加工程では、ケイ酸アルキル(好ましくはテトラメチルオルトシリケート)の加水分解液(以下単に「加水分解液」ともいう。)を前記母液に添加する。
【0051】
加水分解液は、ケイ酸アルキルを純水で加水分解して調製する。具体的には、ケイ酸アルキルとしてテトラメチルオルトシリケートを用いる場合には、メトキシ基に対し1倍当量以上の水を加えて、下記反応を行わせて活性ケイ酸アルキル溶液を調製する。
【0052】
Si(OMe)
4+4H
2O → Si(OH)
4+4MeOH
(但し、Meは、メチル基を示す。)
【0053】
ケイ酸アルキルの加水分解液は、公知の方法によって調製することができる。例えば、水にケイ酸アルキルを加え、攪拌すれば良い。このようにして得られた反応液では、1〜2時間程度で加水分解が進行し、所定の加水分解液を得ることができる。
【0054】
ケイ酸アルキルは、加水分解することで不揮発性のケイ酸オリゴマーとなるため、より高温での粒子成長反応が可能となり、より緻密な粒子を調製する点で有利である。
【0055】
ケイ酸アルキルの水への添加量は、最終的に得られる加水分解液のシリカ濃度が通常1〜20重量%、好ましくは1〜10重量%、より好ましくは1〜6重量%となるように設定する。これにより、ケイ酸アルキル加水分解液のゲル化を防止しつつ、効率的にシリカ粒子を成長させることが可能となる。
【0056】
また、本発明では、必要に応じてケイ酸アルキルと水を相溶させるために、反応液中に相溶化溶媒として一部の水に代えて水溶性有機溶媒を含有させることもできる。水溶性有機溶媒の一例としては、アルコール類が挙げられる。具体的には、メタノール、エタノール、イソプロパノール等の低級アルコール(特に炭素数1〜3のアルコール)を例示することができる。水溶性有機溶剤の含有量は特に限定的ではないが、通常は反応液中0〜90重量%、好ましくは0〜50重量%程度とすれば良い。
【0057】
ケイ酸アルキル加水分解液は保存性が低いので、固形分濃度に応じて2〜10時間毎に調製するか又は連続調製しながら加水分解液の供給を継続すれば良い。保存性は、前記の相溶化溶媒の添加で改善されるので、この面も考慮して相溶化溶媒の添加量を決定する。また、加水分解液は、保存温度が低いほど安定性が増すので、加水分解液調製後、凍結しない範囲で、冷却することも有効である。
【0058】
本発明では、加水分解は、触媒の存在下であっても良いし、無触媒下で実施しても良い。触媒を使用する場合は、酸触媒として硫酸、塩酸、硝酸、酢酸等の無機酸又は有機酸、強酸性陽イオン交換樹脂等の固体酸を使用すれば良い。特に、本発明では、Cl
−、NO
3−、SO
42−等の陰イオン不純物の混入を回避するという見地より、無触媒下で加水分解することが望ましい。特にテトラメチルオルトシリケート(TMOS)は、常温/無触媒でも加水分解され易く、これらの腐食性陰イオン不純物を1ppm未満とすることができる。
【0059】
本発明では、ケイ酸アルキルの加水分解液を母液に添加する工程は、具体的には、
A)混合液のpHが7未満となるまで前記加水分解液を添加する工程1
B)混合液のpHが7以上となるまでアルカリ水溶液を添加する工程2及び
C)混合液のpHを7以上に維持しながら前記加水分解液を添加する工程3
を順に有することを特徴とする。つまり、アルカリ性の母液に加水分解液を添加して一旦混合液のpHを7未満(酸性領域)とした後、アルカリ水溶液を添加して混合液のpHを7以上に戻し、その後はpHを7以上に維持しながら(即ちアルカリ水溶液を添加しながら)加水分解液の添加を継続することを特徴とする。なお、アルカリ水溶液を添加して混合液のpHを7以上に戻す工程(工程2)では加水分解液の添加を中止するか又は添加を少量とすることが好ましい。以下、工程毎に説明する。
【0060】
工程1は、混合液のpHが7未満となるまで前記加水分解液を添加する。pHの下限値は限定的ではないが、混合液の過度のゲル化を抑制する点では、pHは6以上とすることが好ましい。つまり、工程1では混合液のpHを6以上7未満に調整することが好ましい。より好ましくは、6.3以上7未満である。pHを低下させ過ぎると、異形の度合は大きくなるが、濾過性の低下や粘度上昇、ゲル化が起こり不都合である。
【0061】
本発明の製造方法では、水とアルカリ触媒からなる母液中で、種粒子が先ず形成され、その後粒子成長が開始すると考えられる。種粒子の形成個数は、初期に添加されるケイ酸アルキルの加水分解液の量(濃度)によって決定されることから、工程1における母液仕込み重量とケイ酸アルキルの加水分解液の添加速度の比がパラメーターとなる。加水分解液の添加速度は、加水分解液の濃度、所望のコロイド粒子の粒径等によって異なるが、緻密なシリカ粒子が形成されるのに十分な速度とすれば良い。好ましくは、0.7〜41gシリカ/時/kg母液である。ここで、「gシリカ」はシリカの重量を示し、「kg母液」は母液の重量を示す。添加速度が速い場合は、生成する種粒子数が増加し、より小さい粒径で酸性化する。従って、異形化度合は大きくなるが、一方、pHの制御が難しくなる。粒径が小さすぎる場合、前記したように、粒子成長過程で異形状態が緩和されてしまう。逆に、添加速度が遅いと、生成する種粒子数が減少し、より大きい粒子で酸性化する。従って、異形化度合は低くなるが、一方pH制御は容易となる。工程1での添加速度は、これらを勘案して決定すれば良い。
【0062】
工程2は、混合液のpHが7以上となるまでアルカリ水溶液を添加する。アルカリ水溶液としては、例えば、アルカリ金属水酸化物、水の沸点で容易に揮発しない有機アミン等が使用できる。なお、汚染の原因となるNaOH、LiOH等は避けることが望ましく、具体的にはTMAHが好ましい。工程1、2において、混合液のpHが7未満である時間が0.5〜5時間となるように実施することが好ましい。工程2において、加水分解液の添加は行っても行わなくても良い。すなわち、工程1で、加水分解液を添加し、所定のpHまで低下させ、添加を中止して、所定の時間酸性状態のpHを維持させ、種粒子を凝集させる。次に、アルカリ水溶液を添加して、再度アルカリ側とする。アルカリ水溶液の添加は、徐々に行っても、また、一括して添加してもよい。
【0063】
工程3は、混合液のpHを7以上に維持しながら前記加水分解液を添加する。ここでは、好ましくはアルカリ水溶液を添加しながら加水分解液の添加を再開する。加水分解液の添加速度は、好ましくは、0.7〜41gシリカ/時/kg母液である。ケイ酸アルキルの加水分解液の母液への添加は、所望の粒径のコロイド粒子に成長するまで継続する。粒子成長により、本発明の屈曲構造及び/又は分岐構造を持つシリカ二次粒子を含有するコロイダルシリカが得られる。添加速度が速すぎる場合は、シラノール基が残存し、粒子が緻密にならない状態で粒子が成長してしまい、残存シラノール基数が増加する為、
29SiCP/MASNMRピーク面積値が増大する。また、粒子表面への析出が間に合わず、新しく微粒子が形成され粒度分布が広くなり、下記式(1)によって計算されるCV値が増加するか、全体がゲル化することが考えられる。
【0064】
CV=(SD/D)×100 …(1)
(但し、SDは標準偏差、Dは平均粒子径を示す。)
【0065】
従って、濾過性等他の物性が悪化する弊害もある。一方、遅い場合は、より緻密な粒子となるが、生産性が低下し、不経済である。また、工程3での添加速度は、変化させてもよい。終了近くで、速度を低下させることで、特に表面部分の低シラノール化、緻密化を図ったり、粒径の精密な制御を図ったりすることができる。
【0066】
所定の粒径をもつコロイド粒子が生成すれば、加水分解液の添加を中止する。必要に応じて、反応液内に残存するアルコールを蒸留等により除去しても良い。この場合、連続的に水溶性有機溶媒(アルコール等)を除去することにより、反応温度の低下を回避することができる。また、添加工程における多量の水溶性有機溶媒(アルコール等)の存在は、ケイ酸アルキルを溶解させる等、シリカの析出を妨げる現象が観察されるため、余分な水溶性有機溶媒(アルコール等)は速やかに系外に留去することが好ましい。系外に留去することで、後述する濃縮を同時に進行させることもできる。反応終了時点で、固形分濃度を25%以上に濃縮することが可能である。
【0067】
次いで、必要に応じて、反応液を濃縮する。濃縮に先立って、必要に応じて、系内に残存する微量の水溶性有機溶媒(アルコール等)を予め除去することもできる。
【0068】
反応液を濃縮する場合は、温度(系内温度)が100℃に達し、蒸気温度も100℃に達し、水溶性有機溶媒の除去終了を確認したら、そのまま所定の固形分濃度になるまで濃縮する。濃縮方法としては、例えば蒸留濃縮法、膜濃縮法等の公知の濃縮方法を採用することができる。濃縮物は、所定のフィルターでろ過し、粗大粒子、異物等を除去した後、そのまま各種の用途に使用することができる。
【実施例】
【0069】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
【0070】
実施例1
三角フラスコ(容量3L)にテトラメチルオルトシリケート(TMOS)228gを計り取り、純水2772gを常温で攪拌しながら加えた。当初は不透明であった反応液が5分後には加水分解の進行により透明な均一溶液となった。そのまま反応を1時間継続し、シリカ分3重量%のTMOS加水分解液を調製した。加水分解液は、加水分解によって生成したシラノール基の示す酸性のため、そのpHは約4.4であった。
【0071】
温度計及び環留ヘッドを備えた充填カラム(5mmガラスラシヒリング充填、充填高さ30cm)、フィード管、攪拌機を取り付けた4つ口フラスコ(5リットル)に純水2000g、1N-TMAH(テトラメチルアンモニウムヒドロキシド)2gを加え、母液とした。母液のpHは、10.70であった。これを加熱し、リフラックス状態となったところでTMOS加水分解液のフィードを開始した。添加速度は16mL/分(14.2gシリカ/時/kg母液)とした。
【0072】
pHが6.35まで低下したら、1N-TMAHを徐々に加え、pH8程度に調整し、以後これを保持するよう1N-TMAH水溶液を適宜添加しながら、加水分解液の添加を継続する。加水分解液は、3時間毎に合計20回調製した。pH変化の状況を
図1に示した。
【0073】
粒子成長終了後、90μmのメッシュフィルターで粗ろ過し、水置換後、加熱濃縮を行い、固形分20%まで濃縮した。濃縮後、混合セルロース3μmメンブランフィルター(東洋濾紙株式会社製)でろ過した。ろ過性は、約1760g/90φ3μmメンブレンフィルターと良好であった。物性を表2に示す。得られたコロイダルシリカのNMRスペクトルを
図20に示す。
【0074】
【表2】
【0075】
*1会合比は、二次粒子径/一次粒子径により得られる値を示す。
*2平均アスペクト比は、SEM写真の計測可能な粒子の長径/短径比を測定し、平均したもの。測定個数を合わせて表示した。
【0076】
比較例1
5L四つ口フラスコをマントルヒーターにセットし、攪拌機、還留ヘッド付30cmラシヒリングカラム、フィードポンプ、温度計を取り付けた。これに、純水1L、1N-TMAH水溶液2gを仕込み、加熱してリフラックス状態にした。
【0077】
この中に、TMOS57gに純水693gを加えて常温で1時間攪拌し調製した加水分解液を4ml/分の速度で滴下した。活性ケイ酸溶液は、3時間毎に調製し、合計21回分(シリカ分:467g)を調整し、チューブポンプを使用し8ml/分(内径2mmφタイゴンチューブ1本使用し、目盛り8)の速度で滴下した。滴下所要時間は、約60時間であった(滴下速度:7.78gシリカ/時/kg母液)。滴下中は、連続的にメタノール−水混合液を留去し、反応温度の維持と濃縮水置換を実施した。滴下終了後のシリカ濃度は、10wt%前後であった。また、滴下終了後は、熟成のため、30分加熱留去を継続した。
【0078】
pHは、酸性に移行させることなく、前半9.0付近を維持するように、2g単位で1N-TMAH水溶液を1時間毎に添加した。後半は、TMAHの添加を行わず、pHを7.5程度に低下させた。pH変化の状況を
図2に示す。
【0079】
粒子成長終了後、90μmのメッシュフィルターで粗ろ過し、分子量10万の限外ろ過膜を使用して、固形分20%まで濃縮した。濃縮後、混合セルロース3μmメンブランフィルターでろ過した。ろ過性は、約1800g/90φ3μmメンブレンフィルターと良好であった。物性を表3に示す。得られたコロイダルシリカのNMRスペクトルを
図21に示す。
【0080】
【表3】
【0081】
比較例2
PL−2H2666.8g(シリカ分:533g)、同量の純水に1N-TMAH30.44gを攪拌機、還留ヘッド付30cmラシヒリングカラム、温度計、フィード管を付けた10Lフラスコに仕込み、攪拌下にマントルヒーターでリフラックス状態まで加熱した。
【0082】
この中に、TMOS228gに純水2772gを加えて常温で1時間攪拌して調製した加水分解液を、チューブポンプを使用し16ml/分(内径2mmφタイゴンチューブ2本使用し、目盛り8)の速度で滴下した。加水分解液は、3時間毎に調製し、合計12回分(シリカ分:1067g)を調製し、滴下した。種粒子と添加活性ケイ酸シリカの比は、1:2とした。滴下所要時間は、約40時間であった。滴下中は、連続的にメタノール−水混合液を留去し、反応温度の維持と濃縮水置換を実施する。滴下終了時のシリカ濃度は、18wt%前後であった。
【0083】
pHは、加水分解液の3分の2添加までpH8.0付近を維持するよう1N-TMAH溶液を2g/時で添加し、以降は添加を行わず、pH7.5程度まで低下させた。pH変化の状況を
図2に示す。
【0084】
なお、滴下終了後は、熟成のため、30分加熱留去を継続した。濃縮は、150℃乾燥残分から計算し、追加留去量を決定し、蒸留法で行った。物性を表4に示す。得られたコロイダルシリカのNMRスペクトルを
図22に示す。また、使用した種粒子のNMRスペクトルを
図26に示す。
【0085】
【表4】
【0086】
尚、比較例2のコロイダルシリカのピーク面積値が15.7と大きめになっているが、これは種粒子として、OHを多量に含むStoeber法コロイダルシリカ(ピーク面積値:28.5)であるPL−2Hを使用したためである。計算値は、16.8である。
【0087】
実施例2
三角フラスコ(容量3L)にテトラメチルオルトシリケート(TMOS)228gを計り取り、純水2772gを常温で攪拌しながら加えた。当初は不透明であった反応液が5分後には加水分解の進行により透明な均一溶液となった。そのまま反応を1時間継続し、シリカ分3重量%のTMOS加水分解液を調製した。加水分解液は、加水分解によって生成したシラノール基の示す酸性のため、そのpHは約4.4であった。
【0088】
温度計及び環留ヘッドを備えた充填カラム(5mmガラスラシヒリング充填、充填高さ30cm)、フィード管、攪拌機を取り付けた4つ口フラスコ(5リットル)に純水2000g、1N-TMAH2gを加え、母液とした。母液のpHは、10.65であった。これを加熱し、リフラックス状態となったところでTMOS加水分解液のフィードを開始した。添加速度は16mL/分(14.2gシリカ/時/kg母液)とした。
【0089】
pHが6.36まで低下したら、直ちに1N-TMAH10gを加え、pH8程度に調整し、以後これを保持するよう1N-TMAH水溶液を適宜添加しながら、加水分解液の添加を継続する。加水分解液は、3時間毎に合計6回調製した。pH変化の状況を
図3に示す。物性を表5に示す。得られたコロイダルシリカのNMRスペクトルを
図23に示す。
【0090】
【表5】
【0091】
ろ過性は、約1300g/90φ3μmメンブレンフィルターと良好であった。
図13に示すように、比較例2よりもアスペクト比の大きな粒子が多く含有されていることが確認出来る。これにより、皮膜性、バインダー性に優れた効果が期待できる。
【0092】
実施例3
三角フラスコ(容量3L)にテトラメチルオルトシリケート(TMOS)228gを計り取り、純水2772gを常温で攪拌しながら加えた。当初は不透明であった反応液が5分後には加水分解の進行により透明な均一溶液となった。そのまま反応を1時間継続し、シリカ分3重量%のTMOS加水分解液を調製した。加水分解液は、加水分解によって生成したシラノール基の示す酸性のため、そのpHは約4.4であった。
【0093】
温度計及び環留ヘッドを備えた充填カラム(5mmガラスラシヒリング充填、充填高さ30cm)、フィード管、攪拌機を取り付けた4つ口フラスコ(5リットル)に純水2000g、1N-TMAH2gを加え、母液とした。これを加熱し、リフラックス状態となったところでTMOS加水分解液のフィードを開始した。添加速度は16mL/分(14.2gシリカ/時/kg母液)とした。
【0094】
pHが6.36まで低下したら、添加を中断し、30分間酸性状態を保持した後、1N-TMAH10gを加え、pH8程度に調整し、以後これを保持するよう1N-TMAH水溶液を適宜添加しながら、加水分解液の添加を継続した。加水分解液は、3時間毎に合計6回調製した。pH変化の状況を
図4に示した。物性を表6に示す。得られたコロイダルシリカのNMRスペクトルを
図24に示す。
【0095】
【表6】
【0096】
図14に示すように、実施例2よりも更にアスペクト比の大きな粒子が多く含有されていることが確認出来る。これにより、皮膜性、バインダー性に優れた効果が期待できる。
【0097】
実施例4
実施例2において、1N-TMAHを1N-TEA(トリエタノールアミン)に変えて実施した。母液のpHは、9.28であった。
【0098】
pHが6.33に低下した時点で、1N-TEA30gを添加し、pHを8程度に上昇させた。以後これを保持するよう1N-TEA水溶液を適宜添加しながら、加水分解液の添加を継続した。pH変化の状況を
図5に示す。物性を表7に示す。得られたコロイダルシリカのNMRスペクトルを
図25に示す。
【0099】
【表7】
【0100】
アルカリとして、弱塩基のTEAを用いた場合、酸性領域でのpH低下が遅く、pH6.33まで低下させるために、実施例2の場合に対し、約1.8倍量の加水分解液の添加を要した。結果として、会合比が1.8から3.6と2倍に増加した。これに伴い、動粘度は、310.1と大きく上昇したが、ろ過性は、約400g/90φ3μmメンブレンフィルターと極端な低下は起こらなかった。
【0101】
比較例3−1、3−2
母液に1N-TMAHを添加せず、加水分解液調製回数を表8の通りとした以外、実施例2と同様の条件で実施した。
【0102】
pHが5.77まで低下した時点で、1N-TMAH2gを加えた場合(比較例3−1)と4.89まで低下した時点で1N-TMAH10gを加えた場合(比較例3−2)の2条件で検討した。pH変化の状況を
図6、7にそれぞれ示す。反応時pH値及び物性は、表8に示す。
【0103】
【表8】
【0104】
母液にアルカリを添加することなく加水分解液をフィードしても、目的とする屈曲構造及び/又は分岐構造を持つシリカ二次粒子は得られなかった。これは、母液にアルカリを加えておくことで、酸性に移行する前に、種粒子が形成されていることが必要であることを示していると考えられる。
【0109】
比較例5
母液に含まれる1N-TMAH量を1gとし、加水分解液の代わりにTMOS自体を使用し、反応温度を80℃、加水分解液調製回数を5回とした以外、実施例2と同じ条件で反応を行った。母液初期pHは、10.76であった。フィード速度は1.23ml/分(14.2gシリカ/時/kg母液)とし、シリカのフィード速度を実施例2と一致させた。
【0110】
pHが6.03に低下した時点で、1N-TMAH8gを添加し、pHを8程度に上昇させた。以後これを保持するよう1N- TMAH水溶液を適宜添加しながら、加水分解液の添加を継続する。pH変化の状況を
図9に示す。物性は、表10に示す。
【0111】
【表10】
【0112】
加水分解液でなく、TMOSを直接フィードする方法では、pHは同様に低下するが異形化は起こらない。TMOSを事前に加水分解し、加水分解液とすることが必須である事が分かる。
【0113】
本比較例では、反応温度を80℃としたが、これは、100℃の沸騰状態ではTMOSが揮発し、気層部にシリカが付着し、ろ過性が著しく低下する現象が見られたからである。事前に揮発性のない加水分解液とすることで、このような揮発による不都合を回避でき、かつ、より高温度でより緻密な粒子を形成できる。