(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
銅含有酸性廃液を、当該銅含有酸性廃液に対して中和当量以上のアルカリ性溶液中に注加、混合して、酸化銅および水酸化銅を主成分とする固形物を含有する懸濁液を生成させ、当該懸濁液中から当該固形物を分離する銅含有酸性廃液の中和および銅の回収法であって、
(1)反応開始時から、アルカリ性溶液に対する銅含有酸性廃液の全注加量の70ない
し90%までは、アルカリ性溶液への銅含有酸性廃液の注加、混合を少なくとも5
0℃以上の温度で行い、
(2)銅含有酸性廃液の全注加量が上記量を越えた後は、アルカリ性溶液への銅含有酸
性廃液の注加、混合を少なくとも40℃以下の温度で行う
ことを特徴とする銅含有酸性廃液の中和および銅の回収法。
銅含有酸性廃液の注加、混合に当たり、反応系内において、一時的にでもまた部分的にでもpHが中和点より酸性側にならないよう管理する請求項1または2記載の銅含有酸性廃液の中和および銅の回収法。
アルカリ性水溶液の供給手段、銅含有酸性廃液の注加手段、加熱手段、冷却手段および混合手段を有し、アルカリ性水溶液と銅含有酸性廃液を反応させ、アルカリ性懸濁液を生成する混合反応槽と;
当該銅含有酸性廃液の積算注加量を計量する手段と;
当該銅含有酸性廃液の積算注加量に対応し、前記混合反応槽の加熱手段および/または冷却手段を制御する制御機構と
を含有する銅含有酸性廃液の中和、回収処理装置。
アルカリ性水溶液の供給手段、銅含有酸性廃液の注加手段、加熱手段、冷却手段および混合手段を有し、アルカリ性水溶液と銅含有酸性廃液が反応してアルカリ性懸濁液を生成する第一の混合反応槽と;
第一の混合反応槽と連通し、第一の混合反応槽から送液されたアルカリ性懸濁液の温度を下げる放冷ないし冷却手段と;
銅含有酸性廃液の注加手段および混合手段を有すると共に、放冷ないし冷却手段と連通し、放冷ないし冷却手段からのアルカリ性懸濁液を収容し、このアルカリ性懸濁液に銅含有酸性廃液を注加して反応させる第二の混合反応槽と
を備えた銅含有酸性廃液の中和、回収処理装置。
【背景技術】
【0002】
銅イオンを高濃度で含有する酸性の廃液(以下、「銅含有酸性廃液」という)としては、銅プリント基板を塩化第二銅エッチング液でエッチングする際に生じるエッチング廃液や、電解銅箔製造におけるメッキ浴液の更新廃液、多層プリント基板生産の積層工程において基板表面の粗化処理で発生するエッチング廃液などが知られている。これらの廃液は、銅濃度が5〜20質量%(以下、単に「%」で示す)程度と高い一方で、共存する塩素イオンや硫酸イオンの濃度も通常5〜30%と高い。
【0003】
このような銅含有酸性廃液を対象にした銅の回収処理方法としては、イオン化傾向の差を利用し、例えば鉄スクラップと反応させて金属銅を析出させて回収する方法が一部で行われているが、この方法では廃液からの銅回収率が低いという問題がある。また、銅イオンとの反応により溶出した鉄イオンと残留した銅イオンが含まれる廃液が残るため、この廃液の処理が別途必要になり効率的な処理方法とは言いがたい。
【0004】
ところで、本発明者らは先に、銅含有酸性廃液と酸化剤を混合した後、アルカリ溶液に添加することで、酸化銅を効率よく回収できる方法を見出し、特許出願した(特許文献1)。この方法によれば、銅含有酸性廃液と酸化剤の混合液をアルカリ溶液中に滴下することで、酸化銅を主成分とする固形物が得られる。これは、銅含有酸性廃液を酸化剤と共に、少量ずつアルカリ剤に混合することで、適切な希釈効果を得ながら銅含有酸性廃液を中和し、銅含有酸性廃液に含まれる銅イオンを酸化し、酸化銅とすることができるためである。
【0005】
ここで、特許文献1の方式は、回収した酸化銅の再利用に重点を置いた方式であり、高純度の酸化銅を回収できる特長がある。しかし、この方式では、生成した固形成分の沈降分離性にやや難があり、固液分離のための沈殿槽を大きくしなければならないものであった。また、固液分離の際に、上澄液側に生成した固形成分の一部が残留し、処理水水質の悪化が起こりうる場合があった。高純度の酸化銅の回収が求められる場合の廃液処理設備として運用する場合には、これに対応した設備はやむを得ないが、余り高純度の酸化銅の回収まで求めない場合には、設備が過大になるという問題がある。
【0006】
従って、高純度の回収酸化銅の必要がない場合の銅含有酸性廃液の廃液処理においては、銅含有酸性廃液を中和処理すると同時に、良好な水質の処理水と取り扱いやすい銅含有汚泥を得ることができる簡易な銅含有酸性廃液の処理方法の提供が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、塩化銅含有エッチング廃液や電解銅箔メッキ浴の更新廃液、多層プリント基板表面の粗化処理でのエッチング廃液などの銅含有酸性廃液を、過大、複雑な設備を要することなく処理し、同時に良好な水質の処理水が得られる処理方法及び装置を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、銅含有酸性廃液の処理方法に関し検討したところ、処理対象液である銅イオンを高濃度で含有する酸性廃液を、ある程度以上の温度に加熱したアルカリ溶液に注加、混合すると、アルカリ溶液に注加された酸性廃液中の銅イオンは、水酸化銅を経て酸化銅まで自己酸化されることを知った。しかし、この方法では微細な酸化銅が生成するため、反応終了後の酸化銅を含むスラリーの沈降性が悪いなど、取扱に問題が残った。
【0010】
そこで、更に発明者らは研究を進め、銅含有酸性廃液をアルカリ溶液に注加する操作の途中で、アルカリ溶液の温度を低下させ、水酸化銅生成させると、析出した粒子が粗大化し、スラリーの上澄液中の浮遊物質濃度や銅イオン濃度が低下することを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち本発明は、銅含有酸性廃液を、当該銅含有酸性廃液に対して中和当量以上のアルカリ性溶液中に注加、混合して、酸化銅および水酸化銅を主成分とする固形物を含有する懸濁液を生成させ、当該懸濁液中から当該固形物を分離する銅含有酸性廃液の中和および銅の回収法であって、
(1)反応開始時から、アルカリ性溶液に対する銅含有酸性廃液の全注加量の70ない
し90%までは、アルカリ性溶液への銅含有酸性廃液の注加、混合を少なくとも50
℃以上の温度で行い、
(2)銅含有酸性廃液の全注加量が上記量を越えた後は、アルカリ性溶液への銅含有酸性
廃液の注加、混合を少なくとも40℃以下の温度で行う
ことを特徴とする銅含有酸性廃液の中和および銅の回収法である。
【0012】
また本発明は、アルカリ性水溶液の供給手段、銅含有酸性廃液の注加手段、加熱手段、冷却手段および混合手段を有し、アルカリ性水溶液と銅含有酸性廃液を反応させ、アルカリ性懸濁液を生成する混合反応槽と;
当該銅含有酸性廃液の積算注加量を計量する手段と;
および当該銅含有酸性廃液の積算注加量に対応し、前記混合反応槽の加熱手段および/または冷却手段を制御する制御機構と
を含有する銅含有酸性廃液の中和、回収処理装置である。
【0013】
更に本発明は、アルカリ性水溶液の供給手段、銅含有酸性廃液の注加手段、加熱手段、冷却手段および混合手段を有し、アルカリ性水溶液と銅含有酸性廃液が反応してアルカリ性懸濁液を生成する第一の混合反応槽と;
第一の混合反応槽と連通し、第一の混合反応槽から送液されたアルカリ性懸濁液の温度を下げる放冷ないし冷却手段と;
銅含有酸性廃液の注加手段および混合手段を有すると共に、放冷ないし冷却手段と連通し、放冷ないし冷却手段からのアルカリ性懸濁液剤を収容し、注加された銅含有酸性廃液と該アルカリ性懸濁液を反応させる第二の混合反応槽と
を備えた銅含有酸性廃液の中和、回収処理装置である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、これまでの処理技術では複塩の生成などにより処理が困難であった、銅イオンの含有濃度が5〜20%という高濃度の銅含有酸性廃液を希釈することなく直接処理することができ、粒径が大きく、沈降性の良好な生成物を回収できる。また、浮遊物質や銅イオンの少ない良好な処理水を得ることができる。さらに、水酸化銅の自己酸化作用を利用するため、処理に必要な薬品はアルカリ剤のみであり経済性が高いという特長を持つ。
【0015】
そして、本発明方法で得られる回収物は、単純な水酸化物沈殿方式と比較して含水率が低いため、汚泥排出量を低減することが可能となる。また、回収物は酸化銅を主体とする化合物のため、脱水後は、回収物を銅精錬の原料として利用することも可能である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の銅含有酸性廃液からの銅の回収方法(以下、「本発明方法」という)による処理プロセスでは、処理銅含有酸性廃液の中和当量に対して過剰量のアルカリ性溶液が供給された混合反応槽中に、銅含有酸性廃液を、最初からの大部分は高温で、最後の一部は低温で、それぞれ徐々に注加するというものである。
【0018】
より詳しくは、銅含有酸性廃液を、最初からの大部分は加熱されたアルカリ性溶液中に注加、混合することで酸化銅を主成分とする固形物を含有する懸濁液を生成させる。そして、所定量の銅含有酸性廃液の注加が終了した後は、反応液であるアルカリ性懸濁液の温度を放冷ないし冷却させた後に、残量の銅含有酸性廃液の注加、混合を行い、酸化銅と水酸化銅を主成分とする固形物を析出させる。
【0019】
本発明方法においては、基本的に銅含有酸性廃液とアルカリ性溶液の中和を、中和点よりアルカリ側で実施することが重要である。従って、本発明方法を実施するには、アルカリ性溶液が過剰の状態、例えば、中和量に対して1.2倍程度過剰な状態で中和を行うことが必要であり、アルカリ性水溶液中に、銅含有酸性廃液(および酸化剤)を徐々に、十分に撹拌しつつ加えていく必要がある。また、反応中は常にアルカリ性溶液が中和当量より過剰にあることが必要である。
【0020】
また、本発明において重要なことは、銅含有酸性廃液の注加を、
(1)50℃以上でのアルカリ性溶液と混合、
(2)40℃以下でのアルカリ性溶液との混合
をこの順序で組み合わせて行うことである。
【0021】
すなわち、処理すべき銅含有酸性廃液の積算注入量が、全注入量の70ないし90%となるまで(以下、この時点を「切替時点」ということがある)は、50℃以上でアルカリ性溶液と注加、混合し、この量を超えた時点からは、40℃以下でアルカリ性溶液と注加、混合することが好ましい。
【0022】
この切替時点より早く、40℃以下でのアルカリ性溶液との混合を行うと、固形物中の酸化銅の割合が低く、水酸化銅の割合が増加し、スラッジの沈降性の悪化やスラッジの含水率が増加する。逆に、切替時点より銅含有酸性廃液だけの注入が遅い場合は、スラッジの沈降性は良いものの、固形物を除去した処理水中の懸濁物や、懸濁質の銅含有成分濃度が増えたりする問題が生じることがある。
【0023】
従って、本発明方法を実施するに当たっては、処理する銅含有酸性廃液や、使用するアルカリ性溶液について予め実験を行い、反応系の温度を切り替える適切なタイミング(切替時点)を調べておくことが好ましい。
【0024】
本発明方法で処理対象となる銅含有酸性廃液としては、銅をイオン状態で含有する酸性廃液であり、銅含有酸性廃液中の銅イオン濃度や、陰イオン濃度は特に制約されない。本発明方法で特に好適に処理できる銅含有酸性廃液の具体例として、銅プリント基板を塩化第二銅エッチング液でエッチングする際に生じるエッチング廃液や、電解銅箔製造におけるメッキ浴液の更新廃液、多層プリント基板生産の積層工程において基板表面の粗化処理で発生するエッチング廃液など、銅イオン濃度及び塩素イオン濃度、硫酸イオン濃度等陰イオン濃度の高い廃液が挙げられる。
【0025】
また、本発明方法でのアルカリ性溶液の調製に利用されるアルカリ剤としては、種々のアルカリ剤を使用することができ、その形態としては、固体状でも液体状でもよい。しかし、具体的なアルカリ剤の選定は、銅含有酸性廃液中に共存する可能性がある陰イオンと沈降性の塩を形成しないアルカリ金属の水酸化物が適当である。一方、使用するアルカリ剤量は、処理する銅含有酸性廃液の銅イオン濃度、陰イオン濃度および液量によって決定される。従って、予め小スケールの実験で、処理すべき銅含有酸性廃液を中和するのに必要なアルカリ剤量を予め求め、実際の処理では、この量を元に必要なアルカリ剤量を決めると良い。
【0026】
なお、アルカリ剤として固体状のアルカリを使用する場合は、廃液量の増加を抑制できる利点がある。固体状のアルカリ剤を用いる場合、固体状のアルカリ剤を水等で予め溶解させてから混合反応槽に供給しても良く、混合反応槽内に固体状のまま供給して混合反応槽で溶解させても良い。更に、固体状のアルカリ剤を溶解させる水としては後記する固液分離により固形物から分離された分離液、分離された固形物の洗浄処理で生じた洗浄処理排水等を用いることもできる。一方、アルカリ剤としてアルカリ性溶液を用いる場合は、使用するアルカリ剤量の制御が容易である点や、薬剤の補充が容易、溶解操作が不要であるなどの取り扱い面での利点がある。
【0027】
本発明方法では、アルカリ剤として比較的安価で入手が容易なことから水酸化ナトリウムが好ましい。水酸化ナトリウムを用いる場合は、フレーク状、粒状等固体や溶液を利用できる。水酸化ナトリウム溶液を用いる場合は、濃度は特に限定されないが、例えば、25%程度の濃度の水酸化ナトリウム溶液が利用できる。
【0028】
以上まとめた形態を踏まえ、プリント基板製造工程から排出される酸性の銅エッチング廃液とアルカリ性溶液として水酸化ナトリウム溶液を用いる場合を例にとり、銅含有酸性廃液の処理を以下に説明する。
【0029】
本発明方法による処理プロセスにおいては、まず、処理すべき銅エッチング廃液の中和当量を超える量の水酸化ナトリウム水溶液を準備し、混合反応槽に入れ、その温度を少なくとも50℃以上、好ましくは、60から80℃に加熱、維持する。次いで、銅含有酸性廃液を、混合反応槽中に少量ずつ注加して行く。この注加は、連続的でも間欠的もかまわないが、好ましくは間欠的に行う。
【0030】
次いで、銅エッチング廃液の積算の注加量が、全エッチング液量の、70ないし90%に達した時点(切替時点)で、銅エッチング廃液の注加を停止し、混合反応槽中のアルカリ性懸濁液の温度を少なくとも40℃以下まで低下させる。この温度を低下させる手段としては、単に放冷しても良いし、また混合反応槽中に冷却装置を設置し、これを作動させても良い。あるいは、最初に用いた混合反応槽とは別の混合反応槽を準備し、この間に必要に応じて冷却装置を設置し、アルカリ性懸濁液を移送することで温度を下げても良い。
【0031】
そして、温度が40℃以下、好ましくは、30℃に低下したアルカリ性懸濁液中に、再度、残量の酸エッチング廃液を徐々に注加し、混合し、反応を終了する。なお、切替時点以後のアルカリ性懸濁液の温度の下限は、特に制約されないが、冷却のコスト等経済面を考えれば、周囲の温度(環境温度)程度までとすることが好ましい。
【0032】
本発明方法において、最初の高温度条件での水酸化ナトリウム水溶液と酸エッチング液の混合では、銅エッチング廃液中の銅イオンは、最初に水酸化銅に変化するが、次いで自己酸化により、速やかに酸化銅へ変化する。すなわち、酸化剤を用いることなく、加熱により酸化銅を主成分とする微粒子が懸濁するアルカリ性懸濁液(以下、「アルカリ性懸濁液」と略称する)が生成するのである。
【0033】
また、切替時点後の低温度条件での、アルカリ性懸濁液中への酸エッチングの混合では、銅エッチング廃液中の銅イオンは、アルカリの作用により、水酸化銅に変化する。しかし、温度が低いため、酸化銅にまで完全には酸化されない。すなわち、この反応でアルカリ性懸濁液中に、酸化銅と少量の水酸化銅が存在することになる。
【0034】
そして大量に存在すると水で膨潤し、取り扱いにくい汚泥となる水酸化銅であるが、本発明のように、他の微粒子が存在する懸濁液中に少量存在すると、これが微細な浮遊物質を取り込む凝集剤の役割を果たし、懸濁液中の粒径が増し、生成物の沈降性や固液分離後の処理水の性状を改善するのである。
【0035】
なお、何れの反応でも反応中に、銅エッチング廃液の注加量が、混合反応槽内の水酸化ナトリウム溶液の中和当量を超えると、混合反応槽内の懸濁液のpHが7未満となり、銅がCu
2+の形態で再溶解し、処理水中の銅濃度が上昇する。そして、銅エッチング廃液(銅含有酸性廃液)からの銅の除去・回収である本発明の目的から、このような現象は好ましいことでなく、銅含有酸性廃液の注加、混合に当たり、反応系内において、一時的にでもまた部分的にでもpHが中和点より酸性側にならないよう管理することも重要である。具体的には、反応中、混合反応槽のpHを測定し、反応中の液のpHを7以上、好ましくは8以上を維持するよう管理することで、銅がCu
2+の形態で再溶解することを抑制することが望ましい。
【0036】
本発明方法を実施するための中和、回収処理装置(以下、「装置」と略称する)としては、アルカリ性水溶液の供給手段、銅含有酸性廃液の注加手段、加熱手段、冷却手段および混合手段を有し、アルカリ性水溶液と銅含有酸性廃液を反応させ、アルカリ性懸濁液を生成する混合反応槽と;
当該銅含有酸性廃液の積算注加量を計量する手段と;
および当該銅含有酸性廃液の積算注加量に対応し、前記混合反応槽の加熱手段および/または冷却手段を制御する制御機構と
を含有する装置が挙げられる。
【0037】
この装置の一態様を
図2に模式的に示す。
図2において、1は銅含有酸性廃液、2はアルカリ性溶液、3はアルカリ性懸濁液、4は酸化銅ケーキ、12は混合反応槽、13は脱水装置、14は制御装置、15は加熱手段をそれぞれ示す。
【0038】
図2に示す装置では、銅含有酸性廃液1は、あらかじめ50℃以上に加温されたアルカリ性溶液2が供給された混合反応槽12に少量ずつ注加される。注加の際、銅含有酸性廃液1の注加量は、制御装置14にて積算される。制御装置14では、銅含有酸性廃液1の注加量が、反応開始時からアルカリ性溶液2に対する銅含有酸性廃液の全注加量の70ない90%までは、混合反応槽12内のアルカリ性溶液2の温度を少なくとも50℃以上に保つ制御を行う。また、制御装置14では、銅含有酸性廃液1の全注加量が上記量を越えた後は、一旦、注加操作を中断し、混合反応槽12内のアルカリ性懸濁液3を40℃以下に冷却後、残りの銅含有酸性廃液1を注加する制御を行う。反応終了後、アルカリ性懸濁液3は脱水装置13に移送され、固液分離後、酸化銅ケーキ4が回収される。
【0039】
上記の装置は、1つの混合反応槽のみを使用し、その槽内において温度を変更するものであるため、機構的に単純であり、設備費は低廉であるが、同一反応槽中で、加熱と冷却を行うため、エネルギー的には不利である。
【0040】
また別の装置としては、アルカリ性水溶液の供給手段、銅含有酸性廃液の注加手段、加熱手段、冷却手段および混合手段を有し、アルカリ性水溶液と銅含有酸性廃液が反応してアルカリ性懸濁液を生成する第一の混合反応槽と;
第一の混合反応槽と連通し、第一の混合反応槽から送液されたアルカリ性懸濁液の温度を下げる放冷ないし冷却手段と;
銅含有酸性廃液の注加手段および混合手段を有すると共に、放冷ないし冷却手段と連通し、放冷ないし冷却手段からのアルカリ性懸濁液を収容し、注加された銅含有酸性廃液と該アルカリ性懸濁液を反応させる第二の混合反応槽と
を備えた装置が挙げられる。
【0041】
この装置の別の一態様を、
図3に模式的に示す。
図3において、18は液移送ポンプ、19は放冷・冷却手段、20は第二混合反応槽を示し、それ以外は
図2とほぼ同じである。
【0042】
図3に示す装置では、銅含有酸性廃液1は、あらかじめ50℃以上に加温されたアルカリ性水溶液2が供給された第一混合反応槽12に少量ずつ注加される。注加の際、銅含有酸性廃液1の注加量は、制御装置14にて積算される。制御装置14は、銅含有酸性廃液1の注加量が、反応開始時からアルカリ性溶液に対する銅含有酸性廃液の全注加量の70ない90%までは、少なくとも50℃以上に保たれた状態で銅含有酸性廃液1が第一混合反応槽12に注加されるように制御する。
【0043】
そして、制御装置14は、銅含有酸性廃液の全注加量が上記量を越えた後、一旦、注加操作を中断し、液移送ポンプ18を運転し、混合反応槽12内のアルカリ性懸濁液3を第二混合反応槽20に移送する制御を行う。この時、移送の途中で放冷・冷却手段19によって、アルカリ性懸濁液3は40℃以下まで冷却される。上記放冷・冷却手段として熱交換器を使用すれば、上述のようにアルカリ性懸濁液3の冷却で回収された熱を、次回の反応時に混合反応槽12に供給するアルカリ性水溶液2の加温に用いることができ、エネルギー消費量が減るため好ましい。冷却されたアルカリ性懸濁液3は、第二混合反応槽20に供給され、残りの銅含有酸性廃液1が注加され、反応が完結する。反応終了後、アルカリ性懸濁液3は脱水装置13に移送され、固液分離後、酸化銅ケーキ4が回収される。
【0044】
上記の装置は、2つの混合反応槽を使用し、一方の反応槽で常に加熱を行うものであって連続処理に対応した、エネルギー的に無駄が少ないものである。しかも、中間の放冷、冷却手段15として熱交換機を使用し、第一の混合反応槽12に注加する水、例えばアルカリ性水溶液2を、この手段において第一の混合反応槽12からのアルカリ性懸濁液3と熱交換すれば、更に熱効率が上がり、有利である。
【0045】
また、第一の混合槽12と第二の混合槽20の容量を、
第一の混合反応槽を相対的に小さく、第二の混合反応槽を相対的に大きなものとし、第一の混合
反応槽で生成したアルカリ性懸濁液を連続的に第二の混合
反応槽に送り込むようにすれば、銅含有酸性廃液1を連続処理することも可能となる。
【0046】
以上説明した本発明方法では、銅含有酸性廃液の注加操作において、反応温度を変化させることで、酸化銅を主成分とする生成物と、水酸化銅をも含む生成物を得ることが重要である。このためには、反応開始時点では反応温度を少なくとも50℃以上、好ましくは60ないしは80℃程度に設定することが必要であり、反応の後半で、アルカリ性懸濁液の温度を少なくとも40℃以下の温度、好ましくは30℃以下にまで下げることが必要となる。例えば、銅含有酸性廃液の積算の注加量が少ない時点で、アルカリ性懸濁液の温度を低下させると、膨潤しやすい水酸化銅の生成量が多くなり、結果として、回収物の取扱が困難になる。従って、アルカリ性懸濁液の放冷ないし冷却は、注加操作の後半、具体的には前記の切替時点以降とすることで、微細な浮遊物を取り込むのに十分な量の水酸化銅が生成するよう管理することが望ましい。
【0047】
以上のような反応終了後、酸化銅を主成分とする固形物を含有するアルカリ性懸濁液を引き抜き、これを固形物(主に酸化銅)と、分離液(上澄液)に固液分離する。固液分離には、公知の手段、例えば、ろ過分離、遠心分離、沈降分離等が適用可能である。こうすることにより、資源として再利用可能な酸化銅を主成分とする固形物と、懸濁物や懸濁性の銅含有成分の含量の少ない分離液を得ることができる。
【0048】
一般に、水酸化銅は高濃度で存在すると、含水率が高く、難脱水性のスラッジとなることが知られている。しかしながら、本発明のように既に固形物(酸化銅粒子)が多く含まれる懸濁液中において、これが少量存在すればその凝集作用によって、この固形物を凝集させて酸化銅粒子を粗大化させ、固液分離性を改善する。
【0049】
本発明は、このような原理と、反応温度によって銅イオンの反応が異なることを利用し、銅含有酸性廃液とアルカリ性溶液の中和反応中において意識的に反応温度を制御することで、少量の水酸化銅を生成させ、効率の良い銅の回収と、処理性の高い上澄液を得ることを可能としたのである。
【実施例】
【0050】
次に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に何ら制約されるものではない。
【0051】
実 施 例 1
実施例1では、処理終了(反応終了)時点の混合反応槽pHを7以上とするため、使用した25%水酸化ナトリウムをpH7に中和するのに必要な銅エッチング廃液量に対し、銅エッチング廃液の積算の注加量が0.95当量となる量を混合反応槽に供給することとした。また、水酸化ナトリウム溶液を中和するために必要な銅エッチング廃液量の0.9当量までの注加操作では、混合反応槽内のアルカリ性懸濁液の温度を80℃以上に維持し、9回に分けて銅エッチング廃液を注加した。さらに、0.95当量の注加操作(注加10回目)は、アルカリ性懸濁液の温度を26℃まで冷却してから、実施し、反応を終了した。
【0052】
<予備試験>
処理の前に、処理予定の銅エッチング廃液量に対する必要最低限の25%水酸化ナトリウム溶液量を求めるため、小スケールで中和処理を行った。25%水酸化ナトリウム溶液に銅エッチング廃液を少量ずつ添加し、銅エッチング廃液の添加量に対するpHを測定したところ、
図1のような中和曲線が得られた。
図1より1mLの25%水酸化ナトリウム溶液を中和してpH7とするための銅エッチング廃液量を求めると(
図1中の太線)約1.15mLであった。この結果より、本実施例で使用する銅エッチング廃液と25%水酸化ナトリウム溶液量を混合してpH7とするための混合比率は、容積比で1.15:1であるとした。
【0053】
<処理操作>
2リットルのビーカーに25%水酸化ナトリウム溶液を500mL添加し、マグネティックスターラーで撹拌しながら、加熱した。水酸化ナトリウム溶液の温度が80℃に達した後、銅エッチング廃液58mLを2リットルビーカー内を撹拌しながら、3分かけて水酸化ナトリウム溶液に添加した。銅エッチング廃液の注加終了後は、2リットルビーカーを撹拌しながら3分間放置した。その後、再び、銅エッチング廃液を58mLを2リットルビーカーに注加し、3分間放置する操作を計9回繰り返した。この9回の注加操作中、2リットルビーカーは常時撹拌し、ビーカー中の反応液の温度は、80〜90℃に維持した。
【0054】
9回目の注加操作が終了した後、撹拌を継続しながらアルカリ性懸濁液の温度が26℃になるまで冷却した。その後、10回目の注加操作では、撹拌を継続しながら銅エッチング廃液29mLを、2リットルビーカーに注加し、注加操作を終了した。その後、注加終了後に30分撹拌を継続し、反応を終了した。以上の操作より、やや灰色を帯びた黒色の固形物を含む懸濁液が生成した。
【0055】
実 施 例 2
<処理操作>
2リットルのビーカーに25%水酸化ナトリウム溶液を500mL添加し、マグネティックスターラーで撹拌しながら、加熱した。水酸化ナトリウム溶液の温度が50℃に達した後、銅エッチング廃液58mLを3分かけて水酸化ナトリウム溶液に添加した。銅エッチング廃液の注加終了後は、2リットルビーカーの撹拌を3分間継続した。撹拌終了後、再び、銅エッチング廃液を58mLを2リットルビーカーに注加する操作を計9回繰り返した。
【0056】
9回目の注加操作が終了した後、アルカリ性懸濁液の温度が26℃になるまで冷却した。その後、10回目の注加操作では、銅エッチング廃液29mLを、2リットルビーカーに注加し、注加操作を終了した。その後、注加終了後に30分撹拌を継続し、反応を終了した。以上の操作より、やや灰色を帯びた黒色の固形物を含む懸濁液が生成した。
【0057】
なお、本発明の作用機序は、混合の最終段階で、温度の低い状態で銅エッチング廃液を水酸化ナトリウム溶液中に注加することで、酸化銅以外に水酸化銅を生成させ、この水酸化銅がそれ以前に生成した酸化銅が主成分の生成物の沈澱剤として作用するというものである。従って、注加操作7回目以降(注加全量の70%以降)で銅エッチング廃液とアルカリ性懸濁液に混合すれば、生成する量は別として水酸化銅を含む生成物が生成し、実施例と同じ効果が得られことは明らかである。
【0058】
比 較 例 1
<処理操作>
2リットルのビーカーに25%水酸化ナトリウム溶液を500mL添加し、マグネティックスターラーで撹拌しながら加熱した。水酸化ナトリウム溶液の液温が80℃に達した後、銅エッチング廃液58mLを3分かけて添加した。その後、3分間撹拌を継続し、再び銅エッチング廃液58mLを注加した。この注加操作を9回繰り返した後、10回目には、銅エッチング廃液29mLを注加し、30分撹拌後反応を終了した。以上の操作より、やや灰色を帯びた黒色の固形物を含む懸濁液が生成した。
【0059】
比 較 例 2
<処理操作>
2リットルのビーカーに25%水酸化ナトリウム溶液を500mL添加し、マグネティックスターラーで撹拌した。この時の水酸化ナトリウムの水温は26℃であった。次に、水酸化ナトリウム溶液に銅エッチング廃液を58mLを3分かけて注加した。注加終了後、3分間撹拌を継続し、再び銅エッチング廃液58mLを注加した。
【0060】
最初の注加直後は、ビーカー無いのアルカリ性溶液は濃青色に変化した。その後、注加操作を継続すると、水色のスラッジ状の物質が生成した。このスラッジ状の物質は、注加回数の増加に従い、徐々にビーカーを満たし、撹拌が困難な状態になった。また、注加操作終了後にビーカーを放置しても上澄液は分離せず、含水率の高い汚泥が生成した。
【0061】
試 験 例
実施例及び比較例で得られた各スラリーについて、汚泥の沈降性、上澄水の濁度およびSS、上澄水中銅濃度を測定した。この結果を表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
この結果から明らかなように、実施例1及び2のスラリーは、比較例1のものと比較して、沈降性の指標であるSV30がやや高いものの、生成物の粒径が大きく、上澄水の濁度や上澄水の銅濃度が低く、良好な上澄水が得られるものであった。なお、比較例2は膨潤した汚泥状の物質が生成したため、固液分離操作が行えず、上澄水の濁度およびSS、上澄水中の銅濃度は測定できなかった。
【0064】
以上の結果より、本発明方法は、銅含有酸性廃液の処理方法として、有効であることが確認された。