特許第5808186号(P5808186)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5808186冷凍食品の製造における食品の凍結設備及び凍結方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5808186
(24)【登録日】2015年9月18日
(45)【発行日】2015年11月10日
(54)【発明の名称】冷凍食品の製造における食品の凍結設備及び凍結方法
(51)【国際特許分類】
   F25D 13/00 20060101AFI20151021BHJP
   A23L 3/36 20060101ALI20151021BHJP
【FI】
   F25D13/00 A
   A23L3/36 A
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2011-163885(P2011-163885)
(22)【出願日】2011年7月27日
(65)【公開番号】特開2012-47441(P2012-47441A)
(43)【公開日】2012年3月8日
【審査請求日】2014年5月30日
(31)【優先権主張番号】特願2010-170829(P2010-170829)
(32)【優先日】2010年7月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】505447629
【氏名又は名称】株式会社昭和冷凍プラント
(74)【代理人】
【識別番号】100095267
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 高城郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124176
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 典子
(72)【発明者】
【氏名】若山 敏次
【審査官】 横溝 顕範
(56)【参考文献】
【文献】 再公表特許第2006/114813(JP,A1)
【文献】 特開平05−084038(JP,A)
【文献】 特開平04−273971(JP,A)
【文献】 特開2003−004354(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25D 13/00
A23L 3/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷凍食品を製造すべく、冷却されるべき閉鎖空間であるコンタクトフリーザー室と、
前記コンタクトフリーザー室内から空気を抜くための真空ポンプと、
前記コンタクトフリーザー室内に窒素ガスを注入するための窒素ガス注入装置とを備える、食品の凍結設備であって
前記コンタクトフリーザー室内のフラットタンクに凍結すべき食品を収納し、前記フラットタンクにより前記食品に機械的な圧力をかけた状態で、前記真空ポンプにより前記コンタクトフリーザー室内を減圧した後、前記窒素ガス注入装置により前記コンタクトフリーザー室内に窒素ガスを注入し室内に充満させて大気圧とし、前記食品が窒素ガスでコーティングされたところで、前記コンタクトフリーザー室内の温度を摂氏マイナス40度に設定して前記食品を冷却し凍結することを特徴とする食品の凍結設備。
【請求項2】
請求項1に記載した食品の凍結設備であって、
前記窒素ガス注入装置は、
大気中の窒素ガスを取り込んで、それを前記閉鎖空間に注入することを特徴とする食品の凍結設備。
【請求項3】
請求項1又は2に記載した食品の凍結設備であって、
前記真空ポンプによる減圧は、食品の余分な水分の除去に必要な程度であって、凍結に必要な水分を奪わない程度であることを特徴とする食品の凍結設備。
【請求項4】
冷却されるべき閉鎖空間であるコンタクトフリーザー室と、前記コンタクトフリーザー室内から空気を抜くための真空ポンプと、前記コンタクトフリーザー室内に窒素ガスを注入するための窒素ガス注入装置とを備える凍結設備を用いた、冷凍食品の製造における食品の凍結方法であって、
凍結すべき食品を前記コンタクトフリーザー室内のフラットタンクに収納して前記コンタクトフリーザー室を閉鎖する収納ステップと、
前記収納ステップにて閉鎖した前記コンタクトフリーザー室内にて、前記フラットタンクにより前記食品に機械的な圧力をかけた状態で、前記真空ポンプにより前記コンタクトフリーザー室内を減圧する減圧ステップと、
前記減圧ステップにて減圧された前記コンタクトフリーザー室内に前記窒素ガス注入装置により窒素ガスを注入し室内に充満させて大気圧とし、前記食品を窒素ガスでコーティングする窒素ガス注入ステップと、
前記窒素ガス注入ステップにて窒素ガスが注入された後、前記コンタクトフリーザー室内の温度を摂氏マイナス40度に設定して前記食品冷却し凍結する冷却ステップと
を有することを特徴とする食品の凍結方法。
【請求項5】
請求項に記載した食品の凍結方法であって、
前記窒素ガス注入ステップにおける窒素ガスは、大気中から取り込んだものを用いることを特徴とする食品の凍結方法。
【請求項6】
請求項4又は5に記載した食品の凍結方法であって、
前記減圧ステップにおける減圧は、食品の余分な水分の除去に必要な程度であって、凍結に必要な水分を奪わない程度であることを特徴とする食品の凍結方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食肉・魚肉、海産物、農産物などの冷凍食品を製造する凍結設備及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
冷凍食品を製造する凍結設備は、冷却されるべき閉鎖空間を有しており、その閉鎖空間に冷凍されるべき食品を収納し、密閉した状態で冷却して当該食品を冷凍するものである。
特許文献1においては、液体冷媒を食品に衝突させて冷却する。特許文献2には、窒素製造装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−322452号公報
【特許文献2】特開2005−200245号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
冷凍食肉や魚肉(海産物)、農産物は加工食品としてみた場合中間生成物であって、これを原料としてさまざまな製品を製造するものだから、その鮮度を維持することが重要であり、凍結工程もまた重要である。本願の発明者は、食品を劣化させる要因が酸素であると考え、酸素の存在を極力排除して凍結することを考えた。
解決しようとする課題は、冷凍食品の凍結工程を改良することにより、冷凍食品に鮮度低下抑制という付加価値を与え消費効果を増大させることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の態様は、冷凍食品を製造すべく、冷却されるべき閉鎖空間であるコンタクトフリーザー室と、
前記コンタクトフリーザー室内から空気を抜くための真空ポンプと、
前記コンタクトフリーザー室内に窒素ガスを注入するための窒素ガス注入装置とを備える、食品の凍結設備であって、
前記コンタクトフリーザー室内のフラットタンクに食品を収納し、前記フラットタンクにより前記食品に機械的な圧力をかけた状態で、前記真空ポンプにより前記コンタクトフリーザー室内を減圧した後、前記窒素ガス注入装置により前記コンタクトフリーザー室内に窒素ガスを注入し室内に充満させて大気圧とし、前記食品が窒素ガスでコーティングされたところで、前記コンタクトフリーザー室内の温度を摂氏マイナス40度に設定して前記食品を冷却し凍結することを特徴とする。
また、本発明の第2の態様は、冷却されるべき閉鎖空間であるコンタクトフリーザー室と、前記コンタクトフリーザー室内から空気を抜くための真空ポンプと、前記コンタクトフリーザー室内に窒素ガスを注入するための窒素ガス注入装置とを備える凍結設備を用いた、冷凍食品の製造における食品の凍結方法であって、
凍結すべき食品を前記コンタクトフリーザー室内のフラットタンクに収納して前記コンタクトフリーザー室を閉鎖する収納ステップと、
前記収納ステップにて閉鎖した前記コンタクトフリーザー室内にて、前記フラットタンクにより前記食品に機械的な圧力をかけた状態で、前記真空ポンプにより前記コンタクトフリーザー室内を減圧する減圧ステップと、
前記減圧ステップにて減圧された前記コンタクトフリーザー室内に前記窒素ガス注入装置により窒素ガスを注入し室内に充満させて大気圧とし、前記食品を窒素ガスでコーティングする窒素ガス注入ステップと、
前記窒素ガス注入ステップにて窒素ガスが注入された後、前記コンタクトフリーザー室内の温度を摂氏マイナス40度に設定して前記食品冷却し凍結する冷却ステップとを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明の凍結設備及び凍結方法では、食品を凍結する閉鎖空間の空気を真空引きした後に窒素ガスを注入して、閉鎖空間内の気体がほぼ窒素ガスとなった状態で凍結を行うことにより、窒素ガス置換を行わずに通常の空気中で凍結を行った場合に比べて冷凍食品の鮮度低下を抑制する効果が得られる。これは、以下の2つの理由による。
【0007】
第1には、凍結した食品中に含まれる気体が酸素ではなく窒素となることにより、凍結後の冷凍保存中の酸化が抑制されるためである。冷凍される食品には、通常、大小様々な隙間あり空気が含まれているが、凍結前に閉鎖空間の空気を窒素ガスに置換することにより食品中の隙間に存在する気体もほぼ窒素に置換され、その状態で凍結される。なお従来は、例えば空気中で凍結した冷凍食品を包装する際に包装袋内の空気を窒素ガスで置換する慣用技術は存在するが、本発明の手法は、このような慣用技術とは本質的に異なるものである。
【0008】
第2には、閉鎖空間の空気を窒素ガスに置換することにより、空気中で凍結する場合に比べて凍結時間が短縮されるためである。実施例では、比較例に比べて凍結時間が25%短縮された。よって、食品をより短時間で凍結することができることから、より鮮度の高い状態での凍結が実現される。
【0009】
このように、凍結前に対象となる食品の周囲を窒素ガス置換し、窒素ガスで覆われた状態のまま凍結を行う本発明は、極めて鮮度維持効果が高い手法である。この結果、冷凍食品に付加価値を与え消費効果を増大させる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明に係る凍結設備の構成を示すブロック図である。
図2図2は、本発明をコンタクトフリーザーに適用した例を示す図である。
図3図3は、本発明を適用して窒素ガス中で食品の凍結を行った実施例における温度変化を示すグラフである。
図4図4は、従来通り大気中で食品の凍結を行った比較例における温度変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る凍結設備は、冷凍食品の製造における凍結工程において、窒素雰囲気における凍結を行うことで製品の品質を高める。酸化の原因となる酸素を極力除去した雰囲気での凍結を実現する。図1は、本発明に係る凍結設備の構成を示すブロック図である。凍結設備10は、冷凍食品を製造可能な凍結設備であればよい。凍結設備10は、冷却されるべき閉鎖空間20を有しており、そこに製品となるべき食品を置き、密封した状態で冷却して凍結し、冷凍食品を製造する。
【0012】
凍結設備10の一例として、コンタクトフリーザー50を挙げる。図2は、本発明をコンタクトフリーザーに適用した例を示す図である。コンタクトフリーザー50は、食肉、魚肉、海産物、農産物を大量に同程度の厚さで冷凍するために用いる冷凍設備であって、通常横幅が2メートル、高さが1.5メートル程度の大きさの箱状のものである。側面に扉が取り付けられ、内部にはフラットタンク52と呼ばれる水平の棚状の金属板が複数設けられており、その間隔は調整可能となっている。
【0013】
食品の凍結の際には、フラットタンク52の間隔を拡げた状態で計量した食品を置く。食品を一面に敷き詰めた後、所定の間隔で上のフラットタンク52を油圧ポンプ53により下げて食品に接するようにする。この作業をすべてのフラットタンク52について終えてから、扉を閉め、所定の機械的な圧力をフラットタンク全体にかけつつ、温度を降下させ凍結する。これを実現すべく、油圧シリンダー51、サージドラム54、操作盤55が設けられている。
【0014】
本発明の凍結設備10は、凍結設備の冷却されるべき閉鎖空間20から空気を抜く真空ポンプ30と、真空ポンプ30の稼働により減圧された閉鎖空間20に窒素ガスを注入する窒素ガス注入装置40とを有する。窒素ガス注入装置40は、例えば、ポリイミド中空糸膜からなる窒素分離膜を設けた圧力容器の一端に圧縮空気を取り込み、横の口から酸素を排出し、圧力容器の多端から窒素ガスを取出す構成である。これは、気体の種類により膜の透過速度が異なることを利用したものである。窒素ガス注入装置40として、特許文献2に開示される大気中から窒素を得る窒素製造装置、又は市販のものでは、大阪市東淀川区の株式会社片山化学工業株式会社が提供する脱気装置を用いることができる。
【0015】
ここで、コンタクトフリーザーにおける冷却されるべき閉鎖空間(コンタクトフリーザー室内)に、当該閉鎖空間を減圧する真空ポンプ、及び、当該閉鎖空間に窒素ガスを注入する窒素ガス注入装置が連結された凍結設備を例として説明する。コンタクトフリーザー室に食品(例えば、すり身製品)を敷き詰めて、フラットタンクに機械的な圧力をかけた状態で、このコンタクトフリーザー室内を真空ポンプを用いて真空にする(減圧する)。このとき、コンタクトフリーザー室内の余分な水分は除去され、また酸素濃度が低くなる。次に窒素ガスをコンタクトフリーザー室に注入し、充満させる。
【0016】
窒素ガス注入により、コンタクトフリーザー室内の圧力は大気圧に戻るが、当初の空気はほぼ窒素ガスに置換されている。この状態では、凍結前の食品(食肉、魚肉、海産物、農産物)が窒素ガスでコーティングされ、食品の内部の隙間(特に、外部との間で気体の交換が可能な隙間)においても、空気がほぼ窒素ガスに置換されている。ここで「ほぼ」としたのは、酸素濃度は当初の空気に比べて著しく低下しているが、完全にゼロとなってはいないためである。この状態で凍結を開始し、所定の温度まで冷却することにより、凍結を完了する。このようにして得られた冷凍製品では、従来方法による冷凍製品に比べて劣化が抑制される。
【0017】
真空ポンプによる減圧をどこまで行うかは、余分な水分の除去に必要な程度であって、凍結に必要な水分を奪わない程度である。真空ポンプを稼働し続けることは凍結に必要な水分まで奪うこととなるので望ましくない。また、閉鎖空間(コンタクトフリーザー室内)の気圧を低くしたまま凍結を行うことは各種装置に余計な負荷をかけて、その劣化、消耗を招く可能性があるので好ましくない。また、熱の伝達は周知のように伝導・対流・放射の三つによりなされるが、閉鎖空間のガス圧が低い状態で冷却したのでは、対流による熱の伝達効果が低くなると考えられる。そこで窒素ガスを注入して大気圧に戻してから冷却する。これにより食品(凍結品)を劣化させる可能性のある酸素の濃度を低くした状態での凍結が実現される。
【0018】
本発明にあっては、望ましくは凍結工程における温度を従来よりも10度程度低く設定し、摂氏マイナス40度の温度を用いる。
【0019】
さらに好ましくは、冷凍保管工程における温度を従来よりも10度低く設定し、摂氏マイナス35度とする。
【0020】
なお、本発明を適用した窒素雰囲気下の凍結工程では、従来の空気雰囲気下の凍結工程に比べて凍結時間が短縮されることが判明した。この効果について、図3及び図4を参照して説明する。
【0021】
図3は、本発明の実施例であり、凍結工程における閉鎖空間の温度の時間変化を計測した結果を示すグラフである。グラフ中の「液温」及び「吸入温度」はそれぞれ、冷却循環系における冷媒ガスの液体状態及び気体状態での温度である。これらの温度変化は、コンタクトフリーザー室内の温度変化にほぼ相当している。「すり身表面温度」は、すり身の表面の温度を計測したものである。
すり身入庫から5分後に真空ポンプを稼働させ、5分間真空引きを継続して真空ポンプを停止する。コンタクトフリーザー室内の減圧時の圧力は、−0.02MPa(ゲージ圧)であった。続いて、窒素ガス注入装置を5分間稼働させて閉鎖空間に窒素ガス(窒素を99%以上含有)を充満させた。窒素ガス充填後のコンタクトフリーザー室内の圧力は、大気圧となった。ここまでで、すり身入庫から15分が経過した。その後は、すり身表面温度が摂氏マイナス40度に達するまで、放置した。すり身表面温度が摂氏マイナス40度に達するまで約90分かかった。ここで、凍結工程を完了し、すり身を出庫した。
【0022】
図4は、図3の実施例と同じ冷却条件で凍結工程を行った比較例の結果を示すグラフである。比較例では窒素ガス置換は行わず、通常通りの空気の雰囲気で凍結を行った。比較例の結果は、すり身表面温度が摂氏マイナス40度に達するまで約120分かかった。
【0023】
図3の実施例と図4の比較例を対比すると、実施例では比較例よりも凍結時間が25%短縮されたことになる。
【産業上の利用可能性】
【0024】
鮮度保持をより強く望まれる食品例えば、養殖ハマチの血合肉、サケの冷凍すり身、刺身、ゆでガニ、なまエビ、イカリング、シュウマイ、コロッケ、ハンバーグ、ギョーザなどを冷凍する凍結設備に適用できる。コンタクトフリーザー以外にも、トンネルフリーザー、プッシャー式連続凍結装置、スパイラル式連続凍結装置、エアーブラスト方式急速冷凍ユニットなどの凍結設備に適用できる。
【符号の説明】
【0025】
10 凍結設備
20 冷却されるべき閉鎖空間
30 真空ポンプ
40 窒素ガス注入装置
50 コンタクトフリーザー
51 油圧シリンダー
52 フラットタンク
53 オイルポンプユニット
54 サージドラム
55 操作盤
図1
図2
図3
図4