(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した特許文献1に開示されている技術は、各々の制御モードが、フィードフォワード制御とフィードバック制御とを組み合わせた制御を行うような場合に、適用することができないという不都合があった。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、少なくとも1つの制御モードがフィードフォワード制御とフィードバック制御とを併せ持っている場合でも、制御切替時におけるトルク変動を抑制することのできるモータ制御装置及びモータ駆動システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明は
、複数の制御手段
と、複数の前記制御手段を切り替えて採用する切替手段と、各前記制御手段に対応して設けられ
た複数のプリセット手段とを有し、
各前記制御手段は、積分器を含むとともに、電流値をフィードバックして電圧指令値を設定するフィードバック制御手段と、電流指令値を用いてフィードフォワード制御を行うフィードフォワード制御手段によって設定された電圧補償値を用いて、前記フィードバック制御手段の電圧指令値を補正して出力する補正手段とを有し、各前記プリセット手段は、
対応する制御手段ではない他の制御手段が前記切替手段によって採用されている場合に、前記切替手段に採用されている制御手段の電圧指令値から前記フィードフォワード制御手段による
電圧補償値を取り除いた電圧指令値を算出し、該電圧指令値
が自身に対応する前記制御手段
の前記フィードバック制御手段によって生成
されるために必要となる前記積分器の制御状態変数を初期値として前記積分器に設定するモータ制御装置を提供する。
【0007】
このような構成によれば、切替手段によっていずれかの制御手段が選択されている場合には、それ以外の制御手段に対応する各プリセット手段によって、各プリセット手段に対応する制御手段の積分器の初期値が設定される。この場合において、切替手段によって採用されている制御手段がフィードフォワード制御手段を有している場合には、各プリセット手段は、採用されている制御手段の電圧指令値からフィードフォワード制御手段による制御値を取り除いた電圧指令値を算出し、該電圧指令値を自身に対応する制御手段が生成するために必要となる積分器の制御状態変数を初期値として設定する。これにより、フィードフォワード制御手段を有している制御手段から他の制御手段に切り替えられた場合においても、切替前後の電圧指令値を同じ値とすることが可能となる。この結果、制御手段の切替時におけるトルク変動を抑制することが可能となる。
【0008】
上記モータ制御装置において、複数の前記制御手段の各々は、d−q座標軸を用いて前記電圧指令値を設定する制御手段および極座標系を用いて前記電圧指令値を設定する制御手段のいずれかであることとしてもよい。
上記モータ制御装置において、各前記プリセット手段は、対応する制御手段ではない他の制御手段が前記切替手段によって採用されている期間において、前記積分器の初期値の設定を周期的に行うこととしてもよい。
上記モータ制御装置は、少なくとも1つの前記制御手段が他のいずれかの制御手段とは異なる座標系で表わされる電圧指令値を出力する場合において、各前記プリセット手段は、前記切替手段に採用されている前記制御手段
が、自身に対応する前記制御手段が用いる座標系とは異なる座標系の電圧指令値を出力している場合に、前記切替手段に採用されている前記制御手段の電圧指令値および前記フィードフォワード制御手段による
電圧補償値を、対応する前記制御手段に応じた座標系に変換した座標変換電圧指令値および座標変換
電圧補償値を取得し、前記座標変換電圧指令値から前記座標変換
電圧補償値を取り除いた電圧指令値を算出し、該電圧指令値を生成するために必要となる前記積分器の制御状態変数を初期値として前記積分器に設定することとしてもよい。
【0009】
このような構成によれば、切替手段によって選択されている制御手段が用いる座標系と自身に対応する制御手段が用いる座標系とが異なる場合には、切替手段に採用されている制御手段の電圧指令値およびフィードフォワード制御手段による制御値が、プリセット手段に対応する前記制御手段に応じた座標系の電圧指令値および制御値に変換され、座標変換電圧指令値から座標変換制御値を取り除いた電圧指令値が算出される。そして、この電圧指令値を生成するために必要となる積分器の制御状態変数が初期値として積分器に設定される。
【0010】
上記モータ制御装置は、少なくとも1つの前記制御手段が他のいずれかの制御手段とは異なる座標系で表わされる電圧指令値を出力する場合において、各前記プリセット手段は、前記切替手段に採用されている前記制御手段
が、自身に対応する前記制御手段が用いる座標系とは異なる座標系の電圧指令値を出力している場合に、前記切替手段に採用されている前記制御手段の電圧指令値から前記フィードフォワード制御手段による
電圧補償値を取り除いた電圧指令値を算出し、該電圧指令値を対応する前記制御手段に応じた座標系の電圧指令値に変換し、座標変換後の前記電圧指令値を生成するために必要となる前記積分器の制御状態変数を初期値として前記積分器に設定することとしてもよい。
【0011】
このような構成によれば、切替手段によって選択されている制御手段が用いる座標系と自身に対応する制御手段の座標系とが異なる場合には、切替手段に採用されている制御手段の電圧指令値からフィードフォワード制御手段による制御値が取り除かれた電圧指令値が算出され、この電圧指令値が対応する制御手段に応じた座標系の電圧指令値に変換される。そして、座標変換後の電圧指令値を生成するために必要となる積分器の制御状態変数が算出され、この値が初期値として積分器に設定される。
【0012】
本発明は、上記いずれかのモータ制御装置を具備するモータ駆動システムを提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、少なくとも1つの制御モードがフィードフォワード制御とフィードバック制御とを併せ持つ場合でも、制御切替時におけるトルク変動を抑制することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の一実施形態に係るモータ制御装置およびモータ駆動システムについて、図面を参照して説明する。本発明のモータ制御装置およびモータ駆動システムは、交流モータに対して広く適用可能であるが、特に、電気自動車等のように、使用回転数の領域が広く、また、制御切替時におけるトルク変動による影響が大きいシステムにおける交流モータの駆動システムとして採用されるのに適している。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態に係るモータ駆動システム1の概略構成を示した図である。
図1に示されるように、モータ駆動システム1は、モータ制御装置2及びインバータ3を備えている。インバータ3は、交流モータ4の力行制御中においては、バッテリ5からの直流電力を三相交流電力に変換して交流モータ4に出力し、交流モータ4の回生制御中においては、交流モータ4で発生した三相交流電力を直流電力に変換してバッテリ5に出力する。
【0017】
インバータ3の入力直流電圧Vdcは電圧センサ6により検出され、モータ制御装置2に出力されるとともに、三相交流電流Iu、Iv、Iwが電流センサ7により検出されてモータ制御装置2に出力される。
【0018】
モータ制御装置2は、例えば、MPU(Micro Processing Unit)であり、以下に記載する各処理を実行するためのプログラムが記録されたコンピュータ読み取り可能な記録媒体を有しており、CPUがこの記録媒体に記録されたプログラムをRAM等の主記憶装置に読み出して実行することにより、以下の各処理が実現される。コンピュータ読み取り可能な記録媒体としては、例えば、磁気ディスク、光磁気ディスク、半導体メモリ等が挙げられる。
【0019】
モータ制御装置2は、交流モータ4の駆動トルクを上位の制御装置(図示略)から与えられるモータトルク指令に一致させるようなインバータ駆動信号Sを相毎に生成し、これらをインバータ2の各相に対応するスイッチング素子に与えることでインバータ3を制御し、所望の3相交流電圧を交流モータ4に供給する。
【0020】
図2は、モータ制御装置2が備える機能を展開して示した機能ブロック図である。
図2に示すように、モータ制御装置2は、正弦波PWM制御に基づく第1電圧指令値を生成する第1制御部(第1制御手段)11と、1パルス駆動制御に基づく第2電圧指令値を生成する第2制御部(第2制御手段)12とを備えている。第1制御部11が採用する正弦波PWM制御は、d−q座標系(第1座標系)を用いて制御を行う制御方式であり、第2制御部12が採用する1パルス駆動制御は、極座標系(第2座標系)を用いて制御を行う制御方式である。このように、モータ制御装置2は、異なる座標系を用いてモータ制御を行う複数の制御部を有している。
【0021】
また、第1制御部11及び第2制御部12には、それぞれが備えるPI制御器(PI制御手段)の積分器に設定する状態変数初期値を設定するための第1プリセット部(第1プリセット手段)20、第2プリセット部(第2プリセット手段)30が設けられている。
【0022】
第1制御部11によって設定されたd−q軸の第1電圧指令値Vd
*+Vd0
*,Vq
*+Vq0
*は、座標系変換部(第2座標系変換手段)13により極座標系の第1電圧指令値Va
*+Va0
*,δ
*+δ0
*に変換されて切替部(切替手段)14に入力され、第2制御部12によって設定された極座標の第2電圧指令値Va
*+Va0
*,δ
*+δ0
*は、そのまま切替部14に入力される。
【0023】
切替部14は、交流モータ4の運転領域などに応じて、一つの電圧指令値を選択して極座標/3相変換部15に出力する。切替部14は、例えば、交流モータ4の負荷が小さい領域において正弦波PWM制御、すなわち、第1制御部11を採用し、交流モータ4の負荷が大きい領域において1パルス駆動制御、すなわち、第2制御部12を採用する。
【0024】
極座標/3相変換部15は、入力された極座標で表わされている電圧指令値を3相交流電圧指令値に変換し、駆動信号生成部16に出力する。このとき、位相角指令値δ
*+δ0
*+θeも駆動値生成部16に出力される。
駆動信号生成部16は、正弦波PWM制御時には、極座標/3相変換部15からの3相交流電圧指令値に基づいて各相に対応するインバータ3のスイッチング素子を駆動する駆動信号Sを生成し、インバータ3に出力する。また、1パルス制御時には、位相角指令値δ
*+δ0
*+θeに基づいて、各相に対応するインバータ3のスイッチング素子を駆動する矩形波の駆動信号Sを生成し、インバータ3に出力する。
【0025】
図3は、第1制御部11及び第2制御部12の概略構成を示した図である。なお、第1制御部11により実施される正弦波PWM制御および第2制御部12により実施される1パルス駆動制御については、例えば、特開2009−207323号公報や特開2009−124910号公報等に開示されているように、公知の技術であるため、以下、簡単に説明する。
【0026】
図3に示すように、第1制御部11は、3相/2相変換部21、速度・位置推定部22、電流指令設定部23、電圧指令設定部(第1フィードバック制御手段)24、非干渉制御部(フィードフォワード制御手段)25、電圧指令補正部(第1電圧補正手段)26を備えている。
【0027】
3相/2相変換部21は、電流センサ7(
図1参照)によって検出された3相交流測定電流Iu、Iv、Iwをd−q座標系の2相測定電流であるd軸電流Id及びq軸電流Iqに変換する。
速度・位置推定部22は、3相/2相変換部21で算出されたq軸電流Iq及びd軸電流Idを用いて、現在の交流モータ4のロータの位置θe及び電気角速度ωeを算出する。
【0028】
電流指令設定部23は、トルク指令値とロータの電気角速度ωeとを用いて、q軸電流指令値Iq
*及びd軸電流指令値Id
*を設定する。
【0029】
電圧指令設定部24は、PI制御器(詳細は
図4参照)を有するフィードバック制御部であり、d軸電流指令値Id
*とd軸電流Idとの偏差及びq軸電流指令値Iq
*とq軸電流Iqとの偏差を算出し、これらの偏差が0に近づくようなd軸電圧指令値Vd
*及びq軸電圧指令値Vq
*を設定する。
【0030】
非干渉制御部25は、d軸電流指令値Id
*及びq軸電流指令値Iq
*を用いたフィードフォワード制御を行い、電圧補償値を得る。具体的には、d軸電流指令値Id
*及びq軸電流指令値Iq
*とロータの電気角速度ωeとを以下の(1)式及び(2)式に用いて、d軸電圧補償値Vd0
*及びq軸電圧補償値Vq0
*を得る。
【0031】
Vd0
*=Ra×Id
*−ω×Lq×Iq
* (1)
Vq0
*=Ra×Iq
*+ω×Ld×Id
*+ωe×φa (2)
【0032】
上記(1)式及び(2)式において、Raは交流モータ4の電気子巻線1相あたりの抵抗、Ldはd軸インダクタンス、Lqはq軸インダクタンス、φaはモータの永久磁石による電気子鎖交磁束である。また、ωは、ωe=n×ωから導き出せる。ここで、nは極対数である。
なお、ここでは、2相電流指令値Id
*,Iq
*から電圧補償値を得ることとしたが、これに代えて、3相/2相変換部21から出力される2相測定電流Id,Iqに基づいて電圧補償値を算出することとしてもよい。
【0033】
電圧指令補正部26は、電圧指令設定部24により設定されたq軸電圧指令値Vq
*及びd軸電圧指令値Vd
*に非干渉制御部25で算出されたd軸電圧補償値Vd0
*及びq軸電圧補償値Vq0
*をそれぞれ加算することにより、d軸補正電圧指令値Vd
*+Vd0
*およびq軸補正電圧指令値Vq
*+Vq0
*を得る。電圧指令補正部26によって補正されたd軸補正電圧指令値Vd
*+Vd0
*及びq軸補正電圧指令値Vq
*+Vq0
*は、第1制御部11の電圧指令値として、座標系変換部13に出力される。
【0034】
第2制御部12は、電圧指令設定部(第2フィードバック制御手段)31と、座標系変換部32と、電圧指令補正部(第2電圧補正手段)33とを備えている。
電圧指令設定部31は、PI制御器(詳細は
図5参照)を有するフィードバック制御部であり、第1制御部11の電流指令設定部23によって設定されるq軸電流指令値Iq
*及びd軸電流指令値Id
*と、3相/2相変換部21から出力されるd軸電流Id及びq軸電流Iqとを入力情報として取得し、これらの情報から電圧振幅指令値Va
*と電圧位相角指令値δ
*を設定する。
【0035】
座標系変換部32は、第1制御部11の非干渉制御部25によって生成されたd軸電圧補償値Vd0
*及びq軸電圧補償値Vq0
*を極座標系の電圧補償値Va0
*及びδ0
*に変換する。
【0036】
電圧指令補正部33は、電圧指令設定部31により設定された振幅指令値Va
*及び電圧位相角指令値δ
*に、座標系変換部32により得られた電圧補償値Va0
*及びδ0
*をそれぞれ加算することにより、振幅補正指令値Va
*+Va0
*および電圧補正位相角指令値δ
*+δ0
*を得る。電圧指令補正部33によって補正された振幅補正指令値Va
*+Va0
*および電圧補正位相角指令値δ
*+δ0
*は、第2制御部12の第2電圧指令値として、切替部14に出力される。
【0037】
次に、本発明の主な特徴の一つである第1プリセット部20及び第2プリセット部30について詳しく説明する。
第1プリセット部20は、切替部14によって第2制御部12が採用されている場合に、第2制御部12により設定された第2電圧指令値Va
*+Va0
*,δ
*+δ0
*を用いて、第1制御部11の電圧指令設定部24のPI制御器が備える積分器(第1積分器)で用いられる制御状態変数を算出し、これを初期値として積分器に設定する。
【0038】
図4は、第1プリセット部20の概略構成を示した図である。
図4において、符号41は、電圧指令設定部24におけるd軸電圧指令値Vd
*を生成するPI制御器、符号42は電圧指令設定部24におけるq軸電圧指令値Vq
*を生成するPI制御器である。
PI制御器41は、比例器51と、積分器(第1積分器)52とを備えている。同様に、PI制御器42は、比例器53と、積分器(第1積分器)54とを備えている。
【0039】
第1プリセット部20は、座標系変換部(第1座標系変換手段)61と、減算器62と、第1演算部63とを備えている。
座標系変換部61は、第2制御部12によって設定された第2電圧指令値Va
*+Va0
*,δ
*+δ0
*をd−q座標系に変換して、第2電圧指令値Vd
*+Vd0
*,Vq
*+Vq0
*を得る。
【0040】
減算器62は、第2電圧指令値Vd
*+Vd0
*,Vq
*+Vq0
*から第1制御部11の非干渉制御部25により算出された電圧補償値Vd0
*,Vq0
*をそれぞれ減算し、補正前の第2電圧指令値Vd
*,Vq
*を得る。
【0041】
第1演算部63は、補正前の第2電圧指令値Vd
*,Vq
*を生成するために必要とされる積分器52,54の制御状態変数をそれぞれ算出する。具体的には、第1演算部63は、補正前の第2電圧指令値Vd
*から第1制御部11のPI制御器41における比例器51の出力を減算することで、積分器52の制御状態変数を算出して、この制御状態変数を積分器52に初期値として設定する。同様に、第1演算部63は、補正前の第2電圧指令値Vq
*から第1制御部11のPI制御器42における比例器53の出力を減算することで、積分器54の制御状態変数を算出し、この制御状態変数を積分器54に初期値として設定する。
【0042】
第2プリセット部30は、切替部14によって第1制御部11が採用されている場合に、第1制御部11により設定された極座標変換後の第1電圧指令値Va
*+Va0
*,δ
*+δ0
*を用いて、第2制御部12の電圧指令設定部31のPI制御器が備える積分器(第2積分器)で用いられる制御状態変数を算出し、これを初期として積分器に設定する。
【0043】
図5は、第2プリセット部30の概略構成を示した図である。
図5において、符号71は、電圧指令設定部31における振幅指令値Va
*を生成するPI制御器、符号72は電圧指令設定部31における電圧位相角指令値δ
*を生成するPI制御器である。
PI制御器71は、比例器81と、積分器(第2積分器)82とを備えている。同様に、PI制御器72は、比例器83と、積分器(第2積分器)84とを備えている。
【0044】
第2プリセット部30は、座標系変換部91と、減算器92と、第2演算部93とを備えている。
第2座標系変換部91は、第1制御部11の非干渉制御部25により算出されたd軸電圧補償値Vd0
*及びq軸電圧補償値Vq0
*を極座標系の電圧補償値Va0
*及びδ0
*に変換する。なお、この座標変換部91を設けることなく、第2制御部12が備える座標系変換部32の出力を流用することとしてもよい。
【0045】
減算器92は、極座標系で表わされた第1電圧指令値Va
*+Va0
*,δ
*+δ0
*から座標系変換部91により得られた電圧補償値Va0
*及びδ0
*をそれぞれ減算し、補正前の第1電圧指令値Va
*,δ
*を得る。
【0046】
第2演算部93は、補正前の第1電圧指令値Va
*を生成するために必要とされる積分器82の制御状態変数と、補正前の第1電圧指令値δ
*を生成するために必要とされる積分器84の制御状態変数をそれぞれ算出する。具体的には、第2演算部93は、補正前の第1電圧指令値Va
*から第2制御部12のPI制御器71における比例器81の出力を減算することで、積分器82の制御状態変数を算出して、この制御状態変数を積分器82に初期値として設定する。同様に、第2演算部93は、補正前の第2電圧指令値δ
*から第2制御部12のPI制御器72における比例器83の出力を減算することで、積分器84の制御状態変数を算出し、この制御状態変数を積分器84に初期値として設定する。
【0047】
次に、上述した構成を備えるモータ制御装置2の動作について説明する。
まず、交流モータ4の負荷が小さい場合には、切替部14により第1制御部11が選択され、第1制御部11によって設定された第1電圧指令値Va
*+Va0
*,δ
*+δ0
*に基づくインバータ3の制御が行われる。
また、このように、第1制御部11が採用されている場合には、第2プリセット部30による第2制御部12の積分器82,84のプリセットが周期的に行われる。
【0048】
すなわち、第2プリセット部30には、第1制御部11によって設定された第1電圧指令値Va
*+Va0
*,δ
*+δ0
*が入力されるとともに、第1制御部11の非干渉制御部25において算出された電圧補償値Vd0
*,Vq0
*が入力される。
【0049】
電圧補償値Vd0
*,Vq0
*は、座標系変換部91により極座標系の電圧補償値Va0
*,δ0
*に変換され、減算器92に出力される。減算器92では、極座標系で表わされた第1電圧指令値Va
*+Va0
*,δ
*+δ0
*から座標系変換部91により得られた電圧補償値Va0
*及びδ0
*がそれぞれ減算され、算出結果である補正前の第1電圧指令値Va
*,δ
*が第2演算部93に出力される。
【0050】
第2演算部93では、補正前の第1電圧指令値Va
*を生成するために必要とされる積分器82の制御状態変数が算出され、この制御状態変数が積分器82に初期値として設定されるとともに、補正前の第1電圧指令値δ
*を生成するために必要とされる積分器84の制御状態変数が算出され、この制御状態変数が積分器84に初期値として設定される。
【0051】
このように、第1制御部11が切替部14によって選択されている場合には、第1制御部11によって設定された第1電圧指令値が第2制御部12においても設定されるような制御状態変数が積分器82、84に設定されるので、第1制御部11から第2制御部12に切り替えられた場合におけるトルク変動を抑制することが可能となる。
【0052】
次に、交流モータ4の負荷が高くなると、切替部14により第2制御部12が選択され、第2制御部12によって設定された第2電圧指令値Va
*+Va0
*,δ
*+δ0
*に基づくインバータ3の制御が行われる。そして、このように、第2制御部12が採用されている場合には、第1プリセット部20による第1制御部11の積分器52,54のプリセットが周期的に行われる。
【0053】
すなわち、第1プリセット部20には、第2制御部12によって設定された第2電圧指令値Va
*+Va0
*,δ
*+δ0
*が入力されるとともに、第1制御部11の非干渉制御部25において算出された電圧補償値Vd0
*,Vq0
*が入力される。
【0054】
第1プリセット部20において、第2電圧指令値Va
*+Va0
*,δ
*+δ0
*は第1座標系変換部61によりd−q座標系に変換され、第2電圧指令値Vd
*+Vd0
*,Vq
*+Vq0
*が得られる。この第2電圧指令値Vd
*+Vd0
*,Vq
*+Vq0
*は、減算器62に出力され、減算器62において第1制御部11の非干渉制御部25により算出された電圧補償値Vd0
*,Vq0
*がそれぞれ減算され、算出結果である補正前の第2電圧指令値Vd
*,Vq
*が第1演算部63に出力される。
【0055】
第1演算部63では、補正前の第2電圧指令値Vd
*を生成するために必要とされる積分器52の制御状態変数が算出され、この制御状態変数が積分器52に初期値として設定されるとともに、補正前の第2電圧指令値Vq
*を生成するために必要とされる積分器54の制御状態変数が算出され、この制御状態変数が積分器54に初期値として設定される。
【0056】
このように、第2制御部12が切替部14によって選択されている場合には、第2制御部12によって設定された第2電圧指令値が第1制御部11においても設定されるような制御状態変数が積分器52、54に設定されるので、第2制御部12から第1制御部11に切り替えられた場合におけるトルク変動を抑制することが可能となる。
【0057】
以上説明してきたように、本実施形態に係るモータ駆動システム1及びモータ制御装置2によれば、切替部14によって第1制御部11が採用されている場合には、第2プリセット部30により、第2制御部12においても第1電圧指令値を設定するような積分器82、84の制御状態変数が算出されて初期値として設定され、また、切替部14によって第2制御部12が採用されている場合には、第1プリセット部20により、第1制御部11においても第2電圧指令値を設定するような積分器52、54の制御状態変数が算出されて、初期値として設定される。これにより、第1制御部11から第2制御部12への切替時、及び、第2制御部12から第1制御部11への切替時において、第1制御部11と第2制御部12とで設定される電圧指令値を略同じ値とすることが可能となる。これにより、制御部の切替時におけるトルク変動を抑制することが可能となる。
更に、本実施形態に係るモータ駆動システム1及びモータ制御装置2は、極座標を変換する機能や、フィードフォワード制御による電圧指令値の補償をリセットする機能を有しているので、第1制御部11と第2制御部12とが異なる座標系を用いて制御を行う場合や、フィードフォワード制御部を有している場合でも、各制御部の積分器への初期値を適切な値とすることができ、制御部の切替時におけるトルク変動を抑制することができる。
【0058】
本実施形態においては、トルクと比例関係のある実際のq軸電流をフィードバックして矩形波の位相を制御する構成とされているので、トルク推定誤差の問題が生じない。これにより、トルク推定誤差の要因による切替時のトルクショックを防止することができる。
【0059】
なお、本実施形態では、各制御部11、12がフィードフォワード制御とフィードバック制御とを併用している場合を例示して述べたが、この例に限られず、いずれか一つの制御部がフィードフォワード制御とフィードバック制御とを併用していればよい。
【0060】
なお、本実施形態では、
図4に示すように、第1プリセット部20において、座標系変換部61により、第2電圧指令値Va
*+Va0
*,δ
*+δ0
*をd−q座標系へ座標変換した後に、減算部62において電圧補償値Vd0
*,Vq0
*を減算していたが、
図6に示すように、第2電圧指令値Va
*+Va0
*,δ
*+δ0
*から極座標で表わされた電圧補償値Va0
*,δ0
*を減算した後に、極座標系からd−q座標系へ座標変換することとしてもよい。
【0061】
また、
図2においては、第1制御部11によって設定された第1電圧指令値Vd
*+Vd0
*,Vq
*+Vq0
*を座標系変換部13によって極座標系Va
*+Va0
*,δ
*+δ0
*に座標変換した後に、切替部14に出力することとしていたが、座標系変換部13を削除し、d−q座標系で表わされた第1電圧指令値Vd
*+Vd0
*,Vq
*+Vq0
*を切替部14に出力することとしてもよい。
この場合、切替部14の後段において、3相/2相変換部を更に設け、第1電圧指令値Vd
*+Vd0
*,Vq
*+Vq0
*を3相/2相変換部によって3相交流電圧指令値に変換し、この3相交流電圧指令値を駆動信号生成部16に出力することとしてもよい。更に、この場合には、第2プリセット部30内、または、第2プリセット部30に第1電圧指令が入力される前に、第1電圧指令値Vd
*+Vd0
*,Vq
*+Vq0
*を極座標変換する座標系変換部(第2座標系変換手段)を設ける必要がある。
【0062】
また、本実施形態においては、第2制御部12が1パルス駆動制御を行う場合について説明したが、第2制御部12は、1パルス駆動制御の外、過変調制御を行うこととしてもよい。この場合、第2制御部12は、第1制御部11から第2制御部12に切り替えられた場合に、過変調制御を行い、その後、1パルス駆動制御を行うこととする。すなわち、PWM制御から1パルス駆動制御に切り替えるのではなく、PWM制御から過変調制御を経て1パルス駆動制御に切り替わるようにする。また、第2制御部から第1制御部へ切り替えられる際も、1パルス駆動制御から過変調制御を行った後に、PWM制御に切り替わるようにする。このように、過変調制御を入れることにより、トルク変動を更に抑制させることができる。また、過変調制御が行われている期間においても、第1プリセット部20では、1パルス駆動制御のときと同様に、積分器52,54の初期値の設定が行われる。
【0063】
また、本実施形態では、第1制御部11がPWM制御を採用する場合、第2制御部12が1パルス駆動制御を行う場合について例示したが、第1制御部11及び第2制御部が採用する制御方法は上記例に限られず、使用する座標系が互いに異なる制御手法であればよい。また、本実施形態では、2つの制御部を備える場合について説明したが、3つ以上の制御部を備える場合においても同様に適用することが可能である。