【文献】
Journal of Bioscience and Bioengineering,2000年,Vol. 90, No. 3,p. 289-293
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、タマネギを粉砕前に加熱してアリイナーゼ等の酵素を失活させ、その後に粉砕し、粉砕物からタマネギエキスを製造する場合の、予想外の新たな課題を見出した。具体的には、こうして得られたタマネギエキスにおいて、保存中に時間経過とともに褐変反応(メイラード反応)が生じること、及び、苦味が増して風味が悪化することを見出した。タマネギを粉砕前に加熱せず、アリイナーゼ等の酵素の活性状態を維持したまま粉砕し、粉砕物から得られる、シクロアリインの含有量が低いタマネギエキスではこのような課題は存在しない。
【0008】
従来の知見は、タマネギ及びタマネギ中のシクロアリイン等のスルフィド化合物は、食品の褐変反応(メイラード反応)を抑制する作用を有する、というものであった(特許文献4〜6)。このため、タマネギを粉砕前に加熱してアリイナーゼ等の酵素を失活させ、その後に粉砕して得られた粉砕物から調製される、シクロアリイン含有タマネギエキスにおいて褐変反応が生じ易いということは、従来の知見とは正反対の予想外の新たな課題である。
【0009】
本発明は、シクロアリイン含有タマネギエキスにおいて褐変反応が生じ易いという課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、タマネギを粉砕前に加熱してアリイナーゼ等の酵素を失活させ、その後に粉砕して得られた粉砕物からシクロアリイン高含有タマネギエキスを製造する際に、前記粉砕物における果糖の含有量を、固形分基準で10重量%以下にまで低減させることにより、シクロアリイン含量が高いタマネギエキスにおいても褐変反応を抑制することができ、風味の悪化を抑制することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明は以下の発明を包含する。
(1)タマネギを加熱処理して酵素を失活させる工程1と、
工程1後のタマネギを粉砕して粉砕物を得る工程2と、
工程2で得られた粉砕物を処理して、固形分基準でシクロアリインの含有量が2重量%以上であり、果糖の含有量が0〜10重量%である画分を得る工程3と、
を含む、固形分基準でシクロアリインの含有量が2重量%以上であり、果糖の含有量が0〜10重量%であるタマネギエキスの製造方法。
(2)工程3が、
工程2で得られた粉砕物と陽イオン交換体とを、シクロアリインが該陽イオン交換体に吸着可能な条件下で接触させた後、該陽イオン交換体に吸着された成分を溶出させて、固形分基準でシクロアリインの含有量が2重量%以上であり、果糖の含有量が0〜10重量%である画分を得る工程、
及び/又は
工程2で得られた粉砕物と酵母とを混合して、該粉砕物中の糖類を基質とする発酵を行い、固形分基準でシクロアリインの含有量が2重量%以上であり、果糖の含有量が0〜10重量%である画分を得る工程
を含む、(1)の方法。
(3)タマネギを加熱処理して酵素を失活させる工程1と、
工程1後のタマネギを粉砕して粉砕物を得る工程2と、
を含む、タマネギエキスの製造方法において、
工程2で得られた粉砕物を処理して、固形分基準でシクロアリインの含有量が2重量%以上であり、果糖の含有量が0〜10重量%である画分を得る工程3、
を行うことにより、製造されるタマネギエキスの、褐変反応に対する安定性を改善する方法。
(4)固形分基準でシクロアリインの含有量が2重量%以上であり、果糖の含有量が0〜10重量%であることを特徴とする、タマネギエキス。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、褐変反応が抑制された、シクロアリイン含量が高いタマネギエキスの製造が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<1>タマネギ
エキス製造のためのタマネギは、品種は限定されず、また皮むきされているか否かは問わない。本明細書では特段の断りのない限り「タマネギ」とは「タマネギ鱗茎部」を指す。タマネギ鱗茎部とは通常食用される球の部分を指す。
【0014】
<2>タマネギエキスの製造方法
以下、本発明の各工程について具体的に説明する。
<工程1>
工程1は、タマネギを加熱処理して酵素を失活させる工程である。
工程1に用いるタマネギは、酵素活性によるPeCSOの分解が実質的に生じない、つまり、シクロアリインを生成するPeCSOが含まれる形態のものである限り、ホール(丸のまま)でも、どのような寸法、形状にカットされたものでもよい。例えばタマネギ全体、タマネギを1/2〜1/8程度の大きさにカットしたもの等が使用できる。
【0015】
酵素を失活させるための加熱方法としては、電子レンジ加熱、ボイリング、蒸気加熱などがある。アリイナーゼ等の酵素の活性が実質的に喪失する程度まで、好ましくは未加熱の場合の酵素活性に対して約0.5%以下の酵素活性になるまで、加熱処理を行う。
【0016】
電子レンジによる加熱は例えば皮をむいたタマネギ1個(約300g)に対し500Wの電子レンジで7.5〜10分加熱する。上述の通り適宜カットされたタマネギも使用できる。
【0017】
ボイリングによる加熱は例えば90℃以上の適量のお湯に対しタマネギを投入し30分〜240分加熱する。上述の通り適宜カットされたタマネギも使用できる。
【0018】
蒸気による加熱は例えば市販の蒸し器に適当量の水を入れ加熱し発生した蒸気中にタマネギを投入し30分〜240分加熱する。上述の通り適宜カットされたタマネギも使用できる。
【0019】
<工程2>
工程2は、工程1による酵素失活後のタマネギを粉砕して粉砕物を得る工程である。
当該工程は、酵素失活後のタマネギをミキサー、コミトロール、ミクロマイスター、圧搾機等を用いて、粉砕したり圧搾する等して破砕する工程である。シクロアリイン等の有用成分を細胞内から外部へ溶出させるために水、0〜80%エタノール水溶液等の溶媒とともに破砕を行うことが好ましい。工程1において、熱した水中にタマネギを浸して酵素失活を行う実施形態では、工程1後の水とタマネギとの混合物を粉砕することが好ましい。
【0020】
タマネギの破砕物は有用成分が溶出した液状部分と、細胞壁等の固体部分とからなる。そこで必要に応じて破砕物から液状成分を分離する(搾汁する)。固液分離は遠心分離、ろ過(例えば珪藻土ろ過)等の通常の方法により行うことができる。尚、固液分離工程は、圧搾するなど破砕工程と同時に行うこともできる。固液混合した粉砕物を工程3に使用することもでき、その場合は、工程3でこれに応じた所望の画分を得るための処理をすればよい。
【0021】
粉砕物中に、工程1又は工程2において添加された水などの溶媒を含む場合、これらの溶媒も含んだ粉砕物を工程3に使用することができる。必要に応じて、工程3の前に、溶媒を減圧留去等の手段で除去してもよいし、粉砕物を更に溶媒により希釈してもよい。
【0022】
<工程3>
工程3は、工程2で得られた粉砕物、好ましくは粉砕物の液状部分を処理して、固形分基準でシクロアリインの含有量が2重量%以上であり、果糖の含有量が0〜10重量%である画分を得る工程である。
【0023】
工程2で得られる破砕物には、シクロアリインとともに多量の果糖が含まれる。そこで工程3では、前記破砕物から、シクロアリインを含有するが、果糖を含まない又は果糖の含有量が低減された画分を分離することにより、固形分基準でシクロアリインの含有量が2重量%以上であり、果糖の含有量が0〜10重量%である画分を得る。このためには、以下の手段を単独あるいは組み合わせて、粉砕物を処理すればよい。
【0024】
<陽イオン交換体によるシクロアリインの吸着>
タマネギ破砕物から、シクロアリインを含有するが、果糖を含まない又は果糖の含有量が低減された画分を分離するためには、陽イオン交換体の使用が好適である。
【0025】
陽イオン交換体としては、イオン交換基としてスルホン酸基−SO
3H等を有する強酸型、ならびに、イオン交換基としてカルボキシル基−COOH、フェノール性ヒドロキシル基−OH等を有する弱酸型のどちらも使用することができるが、特に強酸型が好ましい。陽イオン交換体においてイオン交換基を保持する担体の種類は特に限定されず、無機担体でも有機担体でもよいが好ましくは有機担体である。有機担体を有する陽イオン交換体としては陽イオン交換樹脂が挙げられ、具体的な陽イオン交換樹脂としては三菱化学株式会社製SK1BH、RCP160Mなどがある。陽イオン交換体は、塩酸などの強酸でH型にしたのち、洗浄して使用することが好ましい。
【0026】
タマネギ粉砕物、好ましくは粉砕物の液状部分と陽イオン交換体とを接触させる条件は、シクロアリインが該陽イオン交換体に吸着可能な条件であれば特に限定されないが、具体的には、温度は20℃〜40℃、pHは5.0〜7.0の条件であればよい。果糖などの糖類は、上記の接触条件において陽イオン交換体には吸着しない。
【0027】
接触処理後、陽イオン交換体をイオン交換水等で適宜洗浄した後、陽イオン交換体に吸着された成分を溶出させる。溶出条件は特に限定されないが、好ましくは、温度は20℃〜40℃、pHは8.0〜12.0である。
【0028】
こうして、溶出画分として、固形分基準でシクロアリインの含有量が2重量%以上であり、果糖の含有量が0〜10重量%である画分を得る。
【0029】
溶出画分中のシクロアリイン含有量はより好ましくは固形分基準で10〜25重量%である。
溶出画分中の果糖含有量はより好ましくは固形分基準で0〜3重量%である。
【0030】
<酵母発酵による糖の除去>
タマネギ破砕物から、シクロアリインを含有するが、果糖を含まない又は果糖の含有量が低減された画分を得るための別の方法としては、酵母を用いる方法が挙げられる。
【0031】
具体的には、タマネギ粉砕物やその液状部分と酵母とを混合して、該粉砕物中の糖類を基質とする発酵を行い、果糖等の糖類を低減させる。使用する酵母としてはSaccharomyces cerevisiaeやS. pombe等を使用することができる。発酵の条件は特に限定されないが、典型的には適当な攪拌条件下で、Bx糖度が発酵前に比較して半分以下、例えば発酵前溶液のBxが5.0の場合2.5以下になるまで発酵を行うことが好ましい。但しこれは発酵前液中の果糖、もしくは他の糖の濃度に左右されるため絶対的なものではない。
【0032】
発酵後に、タマネギ破砕物より、必要により酵母を分離除去し、固形分基準でシクロアリインの含有量が2重量%以上であり、果糖の含有量が0〜10重量%である画分を得る。
【0033】
発酵後に得た画分中のシクロアリイン含有量はより好ましくは固形分基準で5〜15重量%である。
発酵後に得た画分中の果糖含有量はより好ましくは固形分基準で0〜2重量%である。
【0034】
<工程4>
工程3で得られた画分はそれ自体が本発明のタマネギエキスとして利用可能であるが、任意の工程として、工程3で得られた画分を乾燥又は濃縮する工程4を更に行ったものを本発明のタマネギエキスとしてもよい。ここで乾燥又は濃縮とは、工程3で得られた液状の画分から水などの溶媒を除去又は減少させることを指す。
【0035】
乾燥方法としては例えば凍結乾燥、スプレードライ、熱風乾燥、減圧乾燥、ドラムドライ等が採用できる。
【0036】
濃縮方法としては例えば真空蒸発濃縮、膜濃縮が採用できる。真空蒸発濃縮は一般的に減圧濃縮と呼ばれる。真空度は特に限定されず目的に応じて決定すればよい。膜濃縮は、例えば逆浸透膜(RO)、限外濾過膜(UF)などの膜を使用して行うことができる。使用する膜の種類は特に限定されず目的に応じて決定すればよい。
【0037】
<3>シクロアリイン含有タマネギエキスの褐変反応に対する安定性を改善する方法
従来のシクロアリイン含有タマネギエキスは、上述の工程1(酵素を失活させる)と工程2とを行った後、再加熱又はアルカリ処理して(シクロアリインに変換させる)得られた粉砕物の液状部分から、乾燥又は濃縮等の方法で調製された(特許文献3参照)。
【0038】
上記の従来の方法で製造されたシクロアリインを含有するタマネギエキスは褐変反応に対する安定性が低いという問題が判明した。一方、タマネギを粉砕・搾汁し、乾燥又は濃縮する方法(つまり、前記の粉砕前に加熱処理する工程1と、再加熱又はアルカリ処理がない)により調製されたタマネギエキスでは、シクロアリインの含有量が低く、褐変反応に対する安定性が低いという問題がない。
【0039】
そこで本発明の別の形態では、従来のシクロアリイン含有タマネギエキスの製造方法において、前記の再加熱又はアルカリ処理に代えて、前記工程3を行うことにより、つまり、上述の工程1と工程2と工程3とを含むタマネギエキスの製造方法により、シクロアリイン含有タマネギエキスの褐変反応に対する安定性を改善する方法を提供する。
【0040】
<4>タマネギエキス
本発明はまた、固形分基準でシクロアリインの含有量が2重量%以上であり、果糖の含有量が0〜10重量%であることを特徴とする、タマネギエキスを提供する。
【0041】
従来の方法により製造された、シクロアリイン含有タマネギエキスには果糖が10重量%を越える量含まれることが通常である(後記比較例1参照)。
【0042】
本発明者らは、タマネギエキス中の果糖含有量を10重量%以下とすることにより、有用成分であるシクロアリインの濃度を高く保持しながら、タマネギエキスの経時的な褐変を抑制することができること、苦味の悪化も抑制することもできることを見出した。
【0043】
本発明のタマネギエキス中のシクロアリインの含有量は、固形分基準で2〜25重量%であることが好ましく、5〜25重量%であることがより好ましい。
【0044】
本発明のタマネギエキス中の果糖の含有量は、固形分基準で0〜10重量%であることが好ましく、0〜5重量%であることがより好ましい。
【0045】
本発明において、シクロアリインの含有量の測定は、パウダーや液体の試料形態を問わず、以下のように分析した。すなわち、当該試料をシクロアリイン濃度が0.1〜0.8mg/mlになるようにpH3.3TFA溶液を用いて希釈し、0.45μmフィルターろ過した後、下記の条件で液体クロマトグラフィ分析を行なった。
【0046】
条件:カラム:ODS分析用カラム(PEGASIL ODS 4.6Φ×250mm Senshu Pak 製)
HPLC装置:日立 D−7000形 HPLCシステム
流 速:0.6ml/min
検出器:UV210nm
移動相:pH3.3TFA溶液
注入量:10μl
【0047】
本発明において、果糖の含有量の測定は、パウダーや液体の試料形態を問わず、液体クロマトグラフィーによる分析値に基づき算出して行うことができる。
【0048】
本発明のタマネギエキスは乾燥状態であることが好ましい。
本発明のタマネギエキスは、他の賦形剤、担体等と組み合わされて、粉末、顆粒、錠剤、ソフトカプセル等の形態に適宜加工して、健康増進を訴求する加工食品の成分として利用することができる。本発明のタマネギエキスが配合された加工食品の他の形態としては、当該エキスが配合されたカレー、シチュー、スープ等の調味食品、当該エキスが配合された飲料等が挙げられる。
【0049】
本発明のタマネギエキスは、上述の、本発明の製造方法により製造されたものであることが好ましい。
【実施例】
【0050】
<実施例1>陽イオン交換樹脂を用いた糖の除去
タマネギ10個を皮をむいて上から見て等分に包丁で1/4カットした。その時の重量は3525gだった。1/4カットしたタマネギを、あらかじめ95℃に調整していたお湯6000gに投入し、95℃に調整しながら60分間静置した。タマネギをお湯とともに家庭用ミキサーで破砕した。破砕した溶液を遠心分離機を用いて遠心分離した。
【0051】
遠心分離によって得られた上澄み液8733gを測定したところシクロアリイン濃度が0.71mg/gで、糖度はBx4.2であった。
【0052】
容量200mlのガラス製カラムに三菱化学(株)製DIAION;RCP160Mを100ml充填し、2N HCl 600mlを流速5ml/minで流し、Hフォームにしたところに、前記上澄み液を流速5ml/minで600ml流し、さらにイオン交換水を流速5ml/minで600ml流して洗浄し、0.2NaOHを流速5ml/minで400ml流して、シクロアリインを溶出させ、この溶液400ml回収し実施例1液とした。
【0053】
さらに実施例1液を用いて脱塩およびパウダー化した。実施例1液は溶出時pH11.5であり、2N HClを混合し、pH5.3とした液600mlを得た。この溶液をRO膜をセットした平膜試験機を用いて脱塩し、塩濃度が0.1%の溶液を432ml得た。
【0054】
上記の溶液を凍結乾燥機でパウダー化し、8.5gのパウダーを得た。上記パウダー中にシクロアリインは932mg含まれており、濃度としては約10.96%で、果糖含量は0重量%であった。果糖含量は液体クロマトグラフィーによる分析値に基づき算出された、パウダー全量に対する果糖の含量を指す。以下同じ方法で測定した。これで得られたパウダーを実施例1パウダーとした。
【0055】
この実施例1パウダーを容量200mlのレトルトパウチに50g入れ60℃7日間放置したところ、色の変色はL値(明度)の変化率が3.82%で褐変反応特有の異臭等の発生もなかった。L値は白色度の指標として一般的な値であり、値が高いほど白色度が高いことを示す。製造直後の試料のL値を100%としたときの保存後のL値をA%とし、100−Aの値を、保存によるL値の変化率(単位:%)とした。変化率が低いほど、褐変しにくいことを意味する。以下、同様にL値を求めた。
【0056】
<実施例2>酵母発酵による糖の除去
遠心分離までの操作を実施例1と同様にして得られた上澄み液8521gを測定したところシクロアリイン濃度が0.72mg/gで、糖度はBx4.2であった。
【0057】
この上澄み液にSaccharomyces cerevisiaeを1%になるように添加し30℃3日間培養した。この液を遠心分離機で遠心分離をし、上澄み液8172gを得た。この上澄み液を測定したところシクロアリイン濃度が0.70mg/gで、糖度はBx0.8であった。
【0058】
上記の上澄み液を凍結乾燥機でパウダー化し、63.4gのパウダーを得た。上記パウダー中にシクロアリインは5.61g含まれており、濃度としては約8.82重量%で、果糖含量は0重量%であった。これで得られたパウダーを実施例2パウダーとした。
【0059】
この実施例2パウダーを容量200mlのレトルトパウチに50g入れ60℃7日間放置したところ、色の変色はL値(明度)の変化率が3.73%で褐変反応特有の異臭等の発生もなかった。
【0060】
<比較例1>糖の除去が行われないシクロアリイン含有タマネギエキスパウダー
遠心分離までの操作を実施例1と同様にして得られた上澄み液8524gを測定したところシクロアリイン濃度が0.73mg/gで、糖度はBx4.4であった。
【0061】
この上澄み液を凍結乾燥機でパウダー化し、353gのパウダーを得た。上記パウダー中にシクロアリインは6524mg含まれており、濃度としては約1.85重量%で、果糖含量は23.4重量%であった。これで得られたパウダーを比較例1パウダーとした。
【0062】
この比較例1パウダーを容量200mlのレトルトパウチに50g入れ60℃7日間放置したところ、色の変色はL値(明度)の変化率が7.32%で、褐変反応特有の褐変と異臭の発生が見られた。またシクロアリイン濃度は0.96重量%まで減少していた。
【0063】
<比較例2>シクロアリインを含有しないタマネギエキスパウダー
実施例1と同様にして得た1/4カットしたタマネギを、家庭用ミキサーで破砕し、破砕した溶液を遠心分離機で遠心分離をした。得られた上澄み液8654gを測定したところシクロアリイン濃度が0mg/gで、糖度はBx4.1であった。
【0064】
この上澄み液を凍結乾燥機でパウダー化し、372gのパウダーを得た。上記パウダー中にシクロアリインは0mg含まれており、濃度としては0%で、果糖含量は22.8重量%であった。これで得られたパウダーを比較例2パウダーとした。
【0065】
この比較例2パウダーを容量200mlのレトルトパウチに50g入れ60℃7日間放置したところ、色の変色はL値(明度)の変化率が4.09%で褐変反応特有の異臭等の発生もなかった。
【0066】
【表1】
【0067】
<食味及び白色度の変化>
実施例1パウダー、実施例2パウダー、比較例1パウダー及び比較例2パウダーを試料とし、それぞれ60℃にて7日間保存した。各試料について食味と白色度を示すL値とを、製造直後と保存後に評価し比較し、変化率を求めた。
【0068】
褐変反応と苦味は相関することが通常である。そこで、苦味を5段階で評価した(1が最も苦味が弱く、5が最も苦味が強い、実施例1パウダーの苦味を1とし、他を相対評価した)。
結果を表2に示す。
【0069】
シクロアリインと多量の果糖を含む比較例1パウダーは、保存によるL値の低下と、苦味の増大及び風味の劣化が顕著であった。褐変反応により白色度が低下したことは、目視でも確認された。
【0070】
シクロアリインを含まず、多量の果糖を含む比較例2パウダーは、保存によるL値の低下は小さく、保存による苦味や風味の変化も小さい。但し、比較例2パウダーには有用成分のシクロアリインが含まれていない。
【0071】
シクロアリインを含むが果糖を含まない実施例1パウダー及び実施例2パウダーは、保存によるL値の低下は小さいことが確認された、また、目視でも褐変反応が少ないことが確認された。また、保存による苦味や風味の変化が小さいことも確認された。
【0072】
【表2】