【文献】
戸井田さやか他,カチオン性サイクロアミロースによる遺伝子デリバリー,高分子学会予稿集,2008年,57巻2号,p. 4984-4985
【文献】
BR 2005003479 A (UNIVERSIDADE FEDERAL DE MINAS GERAIS),2007年 3月13日,Abstract
【文献】
Chem. Phys. Lett.,2006年,Vol. 429,p. 507-512
【文献】
Biochim. Biophys. Acta.,1995年,Vol. 1238,p. 147-155
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
核酸送達用キャリアーが、(A)ジアシルホスファチジルコリン、(B)コレステロール及びその誘導体よりなる群から選択される少なくとも1種、及び(C)脂肪族第1級アミンを含有する組成物である、請求項7に記載の核酸送達用組成物。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
(1)核酸複合体
本発明の核酸複合体は、RNA干渉若しくは翻訳阻害が可能な核酸分子及びシクロアミロース化合物を含有することを特徴とするものである。
【0017】
本発明の核酸複合体に用いられる核酸分子は、細胞内でRNA干渉若しくは翻訳阻害が可能なものであり、細胞内への送達が必要とされているものであれば、その種類や構造については特に制限されない。RNA干渉若しくは翻訳阻害が可能な核酸分子の塩基数は、RNA干渉能若しくは翻訳阻害能を有する範囲内であればよいが、例えば30〜80塩基、好ましくは38〜64塩基、更に好ましくは38〜54塩基が挙げられる。ここで例示する核酸分子の塩基数は、核酸分子が2量体又はそれ以上の多量体を形成している場合には、2量体又はそれ以上の多量体を構成する全塩基数を意味する。
【0018】
RNA干渉若しくは翻訳阻害が可能な核酸分子としては、当該技術分野で公知であり、例えば、siRNA、shRNA、miRNA、アンチセンスRNA等のRNA分子が挙げられる。これらの中でも、siRNA、shRNA、miRNA等の低分子RNA、特にsiRNAが好ましい。siRNAは、従来の非ウィルス性ベクターとの共存下では安定性が低くなるという欠点があるが、本発明の核酸複合体の形態にすることによって、優れた安定性と共に細胞内への送達性を兼ね備えることができる。siRNAのセンス鎖及びアンチセンス鎖の塩基長はsiRNA干渉能を有する限り、特に制限されないが、10〜50塩基、好ましくは15〜30塩基、更に好ましくは19〜23塩基、特に好ましくは21塩基が例示される。siRNAは、センス鎖とアンチセンス鎖がハイブリダイズした状態で、両末端の一方又は双方が突出部(ダングリングエンド)を形成していてもよく、また平滑末端(ブラントエンド)を形成していてもよい。また、siRNAが両末端の一方又は双方が突出部を形成している場合には、当該突出部はデオキシリボ核酸(DNA)で構成されていてもよい。
【0019】
また、RNA干渉若しくは翻訳阻害が可能な核酸分子が標的とする遺伝子、即ち、RNA干渉によって発現が抑制される、又は翻訳が阻害される遺伝子については、本発明の核酸複合体の使用目的等に応じて適宜設定される。医学的見地からは、例えば、トランスフォーミング成長因子−β1(TGF-β1)、Smad3、単球走化性タンパク質−1(MCP-1)、血小板由来成長因子(PDGF)、結合組織成長因子(CTGF)等の遺伝子が特定の疾患と関連性があり、当該特定の疾患の改善のために発現抑制が有効であることが分かっており、これらの遺伝子を標的とするRNA干渉若しくは翻訳阻害する核酸分子が好適な一例として挙げられる。
【0020】
なお、RNA干渉が可能な核酸分子の塩基配列については、標的遺伝子の種類に応じて適宜設計することができ、当該塩基配列の設計方法についても当該技術分野で公知である。
【0021】
本発明の核酸複合体に適用されるRNA干渉若しくは翻訳阻害が可能な核酸分子は、ヒト、動物、植物、細菌、ウィルス等に由来するものであってもよく、また化学合成により製造されたものであってもよい。更に、これらの核酸分子は、1本鎖、2本鎖、3本鎖のいずれでもよく、更にその分子量についても特に制限されない。また、本発明において、RNA干渉若しくは翻訳阻害が可能な核酸分子は化学、酵素又はペプチドで修飾されたものであってもよい。更に、本発明において、RNA干渉若しくは翻訳阻害が可能な核酸分子は、1種のものを単独で使用してもよく、また2種以上のものを適宜組み合わせて使用してもよい。
【0022】
本発明の核酸複合体に用いられるシクロアミロース化合物は、シクロアミロース及びその誘導体よりなる群から選択される少なくとも1種である。
【0023】
シクロアミロースは、グルコースがα1,4結合により結合した環状α−1,4−グルカンであり、へリックス構造の内側に立体的で奥行きのある空洞部分を有している。本発明に使用されるシクロアミロースにおけるグルコースの重合度としては、特に制限されるものではないが、例えば10〜500、好ましくは10〜100、更に好ましくは22〜50が例示される。シクロアミロースは、アミロマルターゼ等の酵素を利用して、グルコースから調製することができる。また、シクロアミロースは、市販されており、本発明では市販品を使用することもできる。
【0024】
また、本発明に使用されるシクロアミロースの誘導体としては、薬理学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基(炭素数1〜18)を結合させた誘導体;ヒドロキシメチル基、ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシプロピル基等のヒドロキシアルキル基(炭素数1〜4)を結合させた誘導体;単糖、オリゴ糖、アミノ糖等の糖類を結合させた誘導体等が例示される。
【0025】
本発明において、シクロアミロース及びその誘導体は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。シクロアミロース及びその誘導体の内、好ましくはシクロアミロースが挙げられる。
【0026】
本発明の核酸複合体において、上記核酸分子と上記シクロアミロース化合物との比率については、特に制限されないが、通常、核酸1重量部当たり、シクロアミロース化合物が1〜4000重量部、好ましくは10〜1000重量部、更に好ましくは100〜400重量部が例示される。また、モル比の観点からは、当該比率としては、例えば、核酸分子1モル当たり、シクロアミロース化合物が0.1〜1000モル、好ましくは1〜100モル、更に好ましくは10〜20モルが例示される。このような比率を充足することによって、核酸送達用キャリアーによる上記核酸分子の細胞内への核酸送達性、並びに安全性をより一層顕著ならしめることができる。
【0027】
本発明の核酸複合体の平均粒径としては、通常6〜60 nm、好ましくは8〜40 nmが挙げられる。核酸複合体の平均粒径は、レーザー動的光散乱法を用いて体積平均粒径として測定される。
【0028】
本発明の核酸複合体は、上記核酸分子と上記シクロアミロース化合物が凝集することにより形成される複合体である。本発明の核酸複合体は、上記核酸分子と上記シクロアミロース化合物を安定に分散可能な溶液中で、両者を混合することによって製造される。上記核酸分子と上記シクロアミロース化合物を安定に分散可能な溶液としては、具体的には、Tris等の緩衝液が挙げられる。これらの緩衝液には、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)等のキレート剤を含んでいてもよい。また、上記核酸分子と上記シクロアミロース化合物との混合条件としては、上記溶液中で、例えば、0.1 μM〜100 μM程度、好ましくは1 μM〜10 μM程度の核酸分子と、1 μM〜1000 μM程度、好ましくは10 μM〜100 μM程度のシクロアミロース化合物との共存下、室温で1〜100分程度、好ましくは5〜10分程度の混合が挙げられる。斯くして製造された本発明の核酸複合体は、溶液中に分散した状態で存在するが、これをそのまま核酸送達用キャリアーとの混合に使用することができるが、必要に応じて希釈又は濃縮した後に核酸送達用キャリアーとの混合に使用してもよい。
【0029】
(2)核酸送達用組成物
上記核酸複合体は、核酸送達用キャリアーと混合されることによって、核酸送達用キャリアーに取込まれ、RNA干渉若しくは翻訳阻害が可能な核酸分子の細胞内への送達が可能な状態になる。即ち、本発明は、更に、上記核酸複合体と、核酸送達用キャリアーとを含有する核酸送達用組成物を提供する。
【0030】
ここで、核酸送達用キャリアーとは、核酸分子を細胞内に送達(導入)するために、核酸分子のキャリアーとして使用される非ウィルスベクターである。また、核酸送達用組成物とは、該組成物内に含まれる核酸分子を送達対象となる細胞内に導入するために、送達対象となる細胞に接触させる組成物である。
【0031】
核酸送達用キャリアーの組成
本発明の核酸送達用組成物に使用される核酸送達用キャリアーとしては、核酸複合体を細胞内に取り込ませることが可能である限り、特に制限されない。当該核酸送達用キャリアーとしては、例えば、LipofectamineTM 2000等の従来公知のものを使用することができる。
【0032】
上記核酸複合体に含まれる核酸分子の細胞内への送達性を一層向上させ、更に、細胞内への送達効率及び安全性をより一層向上させるという観点から、好ましくは、(A)ジアシルホスファチジルコリン、(B)コレステロール及び/又はその誘導体、並びに(C)脂肪族第1級アミンを含有するキャリアー(以下、「キャリアー-1」と表記する)が例示される。
【0033】
上記キャリアー-1に使用されるジアシルホスファチジルコリン(以下、「(A)成分」と表記することもある)としては、薬理学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、アシル基部分の炭素数が4〜23のものが挙げられる。なお、当該ジアシルホスファチジルコリンを構成する2つのアシル基の炭素数は同一又は異なっていても良い。
【0034】
ジアシルホスファチジルコリンの具体例としては、ジラウロイルホスファチジルコリン、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリン、ジオレオイルホスファチジルコリン、ジリノレオイルホスファチジルコリン、ミリストイルパルミトイルホスファチジルコリン、ミリストイルステアロイルホスファチジルコリン、パルミトイルステアロイルホスファチジルコリン、ジブチロイルホスファチジルコリン、ジヘキサノイルホスファチジルコリン、ジヘプタノイルホスファチジルコリン、ジデカノイルホスファチジルコリン、ジフタノイルホスファチジルコリン、ジドデシルホスファチジルコリン、ジイコセノイルホスファチジルコリン、ジヘニコサノイルホスファチジルコリン、ジエルコイルホスファチジルコリン、ジアラキドノイルホスファチジルコリン、ビス(トリコサジノイル)ホスファチジルコリン等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは、アシル基部分の炭素数が12〜18のジアシルホスファチジルコリンが挙げられ;更に好ましくは、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリン、ミリストイルパルミトイルホスファチジルコリン、ミリストイルステアロイルホスファチジルコリン、及びパルミトイルステアロイルホスファチジルコリン等のアシル基部分の炭素数が13〜17のジアシルホスファチジルコリンが挙げられ;特に好ましくはジミリストイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、及びジステアロイルホスファチジルコリンが挙げられ;最も好ましくはジステアロイルフホスファチジルコリンが挙げられる。これらのジアシルホスファチジルコリンは、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0035】
上記キャリアー-1に使用されるコレステロール及び/又はその誘導体(以下、「(B)成分」と表記することもある)としては、薬理学的に許容されることを限度として特に制限されない。コレステロールの誘導体とは、コレステロール骨格を有するカチオン性脂質であり、具体的には、3β-[N-(N’,N’-ジメチルアミノエタン)-カルバモイル]コレステロール(DC-Chol)、3β-[N’,N’,N’-トリメチルアミノエタン]ヨウ化コレステロール(TC-Chol)、ビス(グアニジウム)-トレン-コレステロース(BGTC)、N-コレステリルオキシカルボニル-3,7-ジアザノナン-1,9-ジアミン、β-アラニン-ジエタノールアミン-コレステロール、N4-スペルミンコレステリルカルバメート(GL-67; N4-spermine cholesterylcarbamate)、N[N4-3-アミノプロピルスペルミジン]コレステリルカルバメート(GL-78; N[N4-3-aminopropylspermidine] cholesteryl carbamate)、N4-スペルミンコレステリルカルボキシアミド(GL-90; N4-spermine cholesteryl carboxamide)、N1,N8-ビス(アルギニックカルボキシアミド)-N4-スペルミジンコレステリルカルバメート(GL-95; N1,N8-Bis(argininc carboxamide)-N4-spermidine cholestery carbamate)、N-[N1,N4,N8-トリス(3-アミノプロピル)スペルミジン] コレステリルカルバメート(GL-96; N-[N1,N4,N8-Tris(3-aminopropyl)spermidine]cholesteryl carbamate)が例示される。好適な(B)成分として、コレステロールが挙げられる。上記キャリアー-1において、(B)成分として、コレスレロール及びその誘導体の中から、1種のものを単独で使用してもよく、また2種以上のものを組み合わせて使用してもよい。
【0036】
上記キャリアー-1に使用される脂肪族第1級アミン(以下、「(C)成分」と表記することもある)としては、薬理学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、アルキル基部分の炭素数が10〜20のアルキルアミンが挙げられる。
【0037】
脂肪族第1級アミンの具体例としては、ラウリルアミン、ミリスチルアミン、パルミチルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、デカノイルアミン、フタノイルアミン等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは、アルキル基部分の炭素数が12〜18のアルキルアミンが挙げられ;更に好ましくは、ステアリルアミン、オレイルアミン、及びパルミトイルアミンが挙げられ、特に好ましくはステアリルアミンが挙げられる。これらの脂肪族第1級アミンは、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0038】
上記キャリアー-1は、上記(A)〜(C)成分を組み合わせて含有していればよいが、下記の組み合わせ態様を採用することによって、核酸分子の細胞内への送達効率、及び低毒性をより一層高めるという観点から、以下に例示する組み合わせが好適である;
(A)アシル基部分の炭素数が4〜23のジアシルホスファチジルコリン、(B)コレステロール及び/又はその誘導体であり、及び(C)炭素数が10〜20のアルキルアミンの組み合わせ;更に好ましくは(A)ジミリストイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、及び/又はジステアロイルホスファチジルコリン、(B)コレステロール、及び(C)ステアリルアミンの組み合わせ。
【0039】
また、上記キャリアー-1において、(A)〜(C)成分の配合比率については、特に制限されないが、例えば、(A)成分:(B)成分:(C)成分のモル比が、5〜9:1〜5:1、好ましくは6〜9:1〜4:1、更に好ましくは7〜8:2〜3:1が例示される。このような比率を充足することにより、核酸分子の細胞内への送達効率、及び低毒性をより一層向上せしめることができる。
【0040】
また、上記キャリアー-1の総量に対する(A)〜(C)成分の合計量としては、例えば1〜100重量%、好ましくは20〜90重量%、更に好ましくは30〜70重量%が挙げられる。
【0041】
上記キャリアー-1は、上記(A)〜(C)成分に加えて、更に、他のカチオン性脂質を含んでいても良い。このようなカチオン性脂質として、具体的には、スクアラミン(Squalamine)、3a, 7a, 12a-トリス(3-アミノプロポキシ)-5β-コラン-24-(N,N-ビス(3-アミノプロピル)アミン(3a, 7a, 12a-Tris(3-aminopropoxy)-5β-cholan-24-(N,N-bis(3-aminopropyl)amine)、3a, 7a, 12a-トリス(3-アミノプロポキシ)-5β-コラン-24-(N-(N-(3-アミノプロピル))-3-アミノプロピル)-アミン(3a, 7a, 12a-Tris(3-aminopropoxy)-5b-cholan-24-(N-(N-(3-aminopropyl))-3-aminopropyl)-amine)、3a,7a,12a-トリス(3-アジドプロポキシ)-5β-コラン-24-(N,N-ビス(2-シアノエチル)アミン)(3a, 7a, 12a-Tris(3-azidopropoxy)-5b-cholan-24-(N,N-bis(2-cyanoethyl)amine))、3a, 7a, 12a-トリス(3-アジドプロポキシ)-5β-コラン-24-(N-(ベンジルオキシカルボニル)-N-(ヒドロキシプロピル)-アミン)(3a, 7a, 12a-Tris(3-azidopropoxy)-5b-cholan-24-(N-(benzyloxycarbonyl)-N-(3-hydroxypropyl)-amine))等のステロイドが結合しているカチオン性脂質;アンブレラ−スペルミン複合体(Umbrella-spermine conjugates)等のコール酸が結合しているカチオン性脂質;ステロールグリコシドが結合しているカチオン性脂質;ステロイドサポニンが結合しているカチオン性脂質;ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロマイド塩(DDAB)、1,2-ジミリストイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン、1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP)、1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウムプロパンメチル硫酸塩、1,2-ジパルミトイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン、1,2-ジステアロイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン、N-(1-(2,3-ビス(オレオイルオキシ)プロピル)-N,N,N-トリメチルアンモニウム塩酸塩(DOTMA)、ジミリストイルオキシプロピルジメチルヒドロキシエチルアンモニウムブロマイド塩(DMRIE)、ジオレオイルオキシプロピルジメチルヒドロキシエチルアンモニウムブロマイド(DORIE)、ジメチルジドデシルアンモニウムブロマイド、N-(a-トリメチルアンモニオアセチル)-ジドデシル-D-グルタミン塩酸塩、N-(a-トリメチルアンモニオアセチル)-O, O’-ビス-(1H, 1H, 2H, 2H-パーフルオロデシル)-L-グルタミン塩酸塩、O, O’-ジドデカノイル-N-(a-トリメチルアンモニオアセチル)ジエタノールアミン塩酸塩、メチルアリルジドデシルアンモニウムブロマイド、N-{p-(ω-トリメチルアンモニオブチルオキシ)-ベンゾイル}-ジドデシル-L-グルタミン塩酸塩、9-(ω-トリメチルアンモニオブチル)-3, 6-ビス(ドデカノイル)カルバゾールブロマイド、ジメチルジオクタデシルアンモニウム塩酸塩、N-ω-トリメチルアンモニオデカノイル-ジヘキサデシル-D-グルタミンブロマイド、N-{p-(ω-トリメチルアンモニオヘキシルオキシ)-ベンゾイル}-ジテトラデシル-L-グルタミンブロマイド、p-(ω-トリメチルアンモニオデシルオキシ)-p’-オクチルオキシアゾベンゼンブロマイド塩(MC-1-0810)、p-{ω-(b-ヒドロキシエチル)ジメチル-アンモニオ-デシルオキシ}-p’-オクチルオキシアゾベンゼンブロマイド塩(MC-3-0810)、O,O’,O’’-トリドデカノイル-N-(ω-トリメチル-アンモニオデカノイル)-トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンブロマイド塩(TC-1-12)、1,2-ジラウリル-グリセロ-3-エチルホスフォコリン、1,2-ジミリストイル-グリセロ-3-エチルホスフォコリン、1,2-ジパルミトイル-グリセロ-3-エチルホスフォコリン、1,2-ジステアロイル-グリセロ-3-エチルホスフォコリン、1,2-ジオレオイル-グリセロ-3-エチルホスフォコリン、1-パルミトイル-2-オレオイル-グリセロ-3-エチルホスフォコリン等の第4級アンモニウム塩型のカチオン性脂質等が挙げられる。
【0042】
キャリアー-1において、(A)〜(C)成分以外の他のカチオン性脂質を含有する場合、該カチオン性脂質の割合としては、本発明の効果を妨げない限り特に制限されないが、上記(A)〜(C)成分の総量100重量部に対して、該カチオン性脂質が1〜10重量部、好ましくは2〜8重量部、更に好ましくは4〜6重量部となる割合が例示される。
【0043】
更に、上記キャリアー-1は、必要に応じて、油性基剤を含んでいても良い。油性基剤を配合して、その特性を利用することによって、キャリアー-1による核酸分子の導入効率の制御が可能になる。例えば、油性基剤を配合してキャリアー-1の比重を調整することにより、細胞とキャリアー-1の接触性を制御し、in vitroでの導入効率を改善することが可能になる。また、例えば、油性基剤として温度感受性機能を有するものを配合することによって、所定の温度条件下で核酸キャリアーのコアを崩壊させて細胞表面での揺らぎを誘引し、核酸分子の導入効率を向上させることが可能になる。更に、例えば、油性基剤として外部刺激崩壊性を有するものを配合することによって、外部刺激によりキャリアー-1のコアを崩壊させて細胞表面での揺らぎを誘引し、核酸分子の導入効率を向上させることが可能になる。
【0044】
上記キャリアー-1に配合される油性基剤としては、例えば、パーフルオロカーボン、パーフルオロペンタン、パーフルオロオクチルブロマイド、パーフルオロヘキサン、パーフルオロトリブチルアミン、大豆油、精製大豆油、ダイズ硬化油、大豆油不けん化物、スクアレン、ひまし油、チョウジ油、トリオレイン酸ソルビタン、テレビン油、サフラワー油、サフラワー油脂肪酸、オレイン酸、ヤシ油、ナタネ油、フーゼル油、オリブ油、アマニ油、ゴマ油、クロロフィル油、ハズ油、ベルガモット油、シーダー油、オレンジ油、ウイキョウ油、ユーカリ油、トウモロコシ油、ラベンダー油、マヨナラ油、レモン油、綿実油、やし油、卵黄油、ローズ油、パインオイル、アルモンド油、ラッカセイ油、ツバキ油、樟脳白油、カミツレ油、ケイヒ油、ハッカ油、エステル化トウモロコシ油、ショウキョウ油、ローマカミツレ油、蛇油、スペアミント油、ヒマワリ油、カカオ脂、小麦胚芽油、チンク油、硬化油、水素添加植物油、軽質流動パラフィン、流動パラフィン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、ミンク油、トウヒ油、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油10、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油100、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油20、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油40、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油5、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油50、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、ポリオキシル35ヒマシ油、プロセス油等が挙げられる。これらの油性基剤の内、パーフルオロペンタンには温度感受性があり、29.5℃で沸騰によりガス化する特性がある。また、パーフルオロヘキサン、パーフルオロオクチルブロマイド、及びパーフルオロトリブチルアミンには、外部刺激崩壊性があり、超音波照射による刺激等の外部からの刺激により、キャリアー-1のコアにキャビテーションを発生させて崩壊させるという特性がある。
【0045】
当該油性基剤を含有する場合、該油性基剤の割合としては、本発明の効果を妨げない限り特に制限されないが、上記(A)〜(C)成分の総量100重量部に対して、該油性基材が0.1〜50重量部、好ましくは1〜30重量部、更に好ましくは5〜20重量部となる割合が例示される。
【0046】
更に、上記キャリアー-1には、必要に応じて膜融合性脂質(ヘルパー脂質)を含んでいてもよい。かかる膜融合性脂質を含有することにより、細胞内への核酸分子の送達効率を一層向上させることが可能になる。このような膜融合性脂質としては、例えば、ジオレオイルフォスファチジルエタノールアミン、ジオレオイルホスファチジルコリン、トランスホスファチジルホスファチジルエタノールアミン、1,2-ビス(10, 12-トリコサジノイル)-ホスホエタノールアミン、1,2-ジエライドイルホスホエタノールアミン、1,2-ジヘキサデシルホスホエタノールアミン、1,2-ジヘキサノイルホスホエタノールアミン、1,2-ジラウロイルホスホエタノールアミン、1,2-ジリノレオイルホスホエタノールアミン、1,2-ジミリストイルホスホエタノールアミン、1,2-ジオレオイルホスホエタノールアミン、1,2-ジパルミトオレオイルホスホエタノールアミン、1,2-ジパルミトイルホスホエタノールアミン、1,2-ジフィタノイルホスホエタノールアミン、1,2-ジステアロイルホスホエタノールアミン、1-パルミトイル-2-オレオイルホスホエタノールアミン、1-パルミトイル-2-(10,12-トリコサジノイル) ホスホエタノールアミン、1,2-ジオレオイルホスホエタノールアミン-N-カプロイルアミン、1,2-ジパルミトイルフホスホエタノールアミン-N-カプロイルアミン、1,2-ジオレオイルホスホエタノールアミン-N,N-ジメチル、1,2-ジパルミトイルホスホエタノールアミン-N,N-ジメチル、1,2-ジパルミトイルホスホエタノールアミン-N-ドデカノイル、1,2-ジオレオイルホスホエタノールアミン-N-ドデカノイル、1,2-ジオレオイルホスホエタノールアミン-N-ドデカニルアミン、1,2-ジパルミトイルホスホエタノールアミン-N-ドデカニルアミン、1,2-ジオレオイルホスホエタノールアミン-N-グルタリル、1,2-ジパルミトイルフォスフォエタノールアミン-N-グルタリル、1,2-ジオレオイルホスホエタノールアミン-N-ラクトース、1,2-ジオレオイルホスホエタノールアミン-N-[4(p-マレイミドメチル)サイクロヘキサン-カルボン酸塩、ジパルミトリルホスホエタノールアミン-N-[4(p-マレイミドメチル)サイクロヘキサン-カルボン酸塩、1,2-ジパルミトイルホスホエタノールアミン-N-[4(p-マレイミドフェニル)ブチラミド、1,2-ジオレオイルホスホエタノールアミン-N-[4(p-マレイミドフェニル)酪酸塩]、1,2-ジオレオイルホスホエタノールアミン-N-メチル、ジパルミトイルフォスフォエタノールアミン-N-メチル、1,2-ジオレオイルホスホエタノールアミン-N-[3-(2-ピリジルジチオ)プロピオン酸塩、1,2-ジパルミトイルホスホエタノールアミン-N-[3-(2-ピリジルジチオ)プロピオン酸塩、1,2-ジオレオイルホスホエタノールアミン-N-(サクシニル)、1,2-ジパルミトイルホスホエタノールアミン-N-(サクシニル)等が挙げられる。中でも、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミンは、上記キャリアー-1において好適に使用される。
【0047】
当該膜融合性脂質を含有する場合、該膜融合性脂質の割合としては、本発明の効果を妨げない限り特に制限されないが、上記(A)〜(C)成分の総量100重量部に対して、該膜融合性脂質が1〜500重量部、好ましくは10〜250重量部、更に好ましくは25〜100重量部となる割合が例示される。
【0048】
上記キャリアー-1は、使用形態に応じて、等張化剤、賦形剤、希釈剤、増粘剤、安定化剤、緩衝剤、保存剤等の種々の添加剤;精製水、糖水溶液、緩衝液、生理食塩水、高分子水溶液、RNase free水等の水性担体を含有することができる。これらの添加剤や水性担体の配合量は、核酸送達用キャリアーの使用形態に応じて適宜設定することができる。
【0049】
核酸送達用キャリアーの形態
上記核酸送達用キャリアーは、細胞内への送達対象となる核酸複合体を包含できる限り、その形態については特に制限されないが、リポソームの形態であることが望ましい。例えば、上記キャリアー-1をリポソームの形態にする場合、上記(A)〜(C)成分及び必要に応じて添加される他の脂質は、リポソーム膜を形成する。
【0050】
上記核酸送達用キャリアーをリポソームの形態にする場合、小さな1枚膜リポソーム(small unilamellar vesicles: SUV)、大きな1枚膜リポソーム(large unilamellar vesicles: LUV)、及び多重層リポソーム(multilamellar vesicles: MLV)のいずれであってよい。また、その粒子径については、送達対象の細胞の種類等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、SUVでは20〜100 nm、LUVでは200〜1000 nm、MLVでは400〜3500 nm程度が例示される。リポソームの粒子径は、レーザー動的光散乱法を用いて測定される。
【0051】
リポソームの製造及びその粒子径の調節は、当業界で公知の方法に従って実施される。例えば、上記キャリアー-1の場合であれば、上記(A)〜(C)成分を含む油相と、水相(水性担体)とを用い、薄膜法、逆相蒸発法、エーテル注入法、界面活性剤法、加温法等により、リポソームを形成させることができる。また、エクストルージョン法、フレンチプレス法、ホモジナイゼーション法等により、粒子径を調節することができる。
【0052】
核酸送達用組成物の形態、組成、使用方法
核酸送達用キャリアーがリポソーム形態である場合、本発明の核酸送達用組成物において、リポソームの内水相に上記核酸複合体が封入された状態で存在していても、またリポソーム膜の内側又は外側に上記核酸複合体がイオン結合若しくは疎水結合により結合して存在していてもよい。好ましくは、前者の形態である。また、核酸送達用キャリアーがリポソーム以外の形態である場合であれば、本発明の核酸送達用組成物において、上記核酸複合体が核酸送達用キャリアーの成分とイオン結合若しくは疎水結合によりリポプレックス化して複合体を形成していればよい。
【0053】
本発明の核酸送達用組成物は、上記核酸複合体と核酸送達用キャリアーとを混合し所望の形態に調製する、又は、上記核酸複合体及び上記の核酸送達用キャリアー組成物の配合成分を任意の順で混合し所望の形態に調製することによって製造される。
【0054】
本発明の核酸送達用組成物において、上記核酸複合体と核酸送達用キャリアーとの配合比率としては、上記核酸複合体の種類、核酸送達用キャリアーの種類、核酸の送達対象となる細胞の種類等によって異なるが、例えば、核酸送達用キャリアーの総量100重量部に対して、上記核酸複合体が1〜100重量部、好ましくは10〜100重量部、更に好ましくは20〜100重量部となる比率が挙げられる。より具体的には、核酸送達用キャリアーとして上記キャリアー-1を使用する場合であれば、上記キャリアー-1に含まれる(A)〜(C)成分の総整
量100重量部に対して、上記核酸複合体が1〜100重量部、好ましくは10〜100重量部、更に好ましくは20〜100重量部となる割合が挙げられる。
【0055】
また、本発明の核酸送達用組成物において、上記核酸複合体の配合量についても、特に制限されるものではないが、核酸送達用組成物の総量当たり、上記核酸複合体が1〜50重量%、好ましくは10〜50重量%、更に好ましくは15〜50重量%となる範囲が例示される。
【0056】
また、核酸送達用キャリアーとして上記キャリアー-1を使用する場合、該キャリアー-1に含まれる(A)〜(C)成分の合計量としては、核酸送達用組成物総量に対して、例えば10〜90重量%、好ましくは30〜80重量%、更に好ましくは40〜60重量%が挙げられる。
【0057】
本発明の核酸送達用組成物は、使用形態に応じて、等張化剤、賦形剤、希釈剤、増粘剤、安定化剤、緩衝剤、保存剤等の種々の添加剤;精製水、グルコース水溶液、緩衝液、生理食塩水等の水性担体等の添加剤や担体を含有することができる。これらの添加剤や担体の配合量は、核酸送達用組成物の使用形態に応じて適宜設定することができる。
【0058】
また、本発明の核酸送達用組成物は、それ自体、遺伝子治療に使用される医薬、すなわちRNA干渉若しくは翻訳阻害が可能な核酸分子を細胞内に送達させるための医薬として、医薬組成物の形態で使用できる。本発明の核酸送達用組成物を医薬組成物として使用する場合には、前述の核酸送達用キャリアー、添加剤、担体等は、薬学的に許容されるものから選択される。本発明の核酸送達用組成物を医薬組成物として使用する場合、各種の剤型に調製され得る。医薬組成物の剤型としては、例えば、液剤(シロップ等を含む)、点滴剤、注射剤等の液状製剤;錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤(ソフトカプセルを含む)等の固形製剤が挙げられる。医薬組成物が液状製剤である場合は、凍結保存することもでき、また凍結乾燥等により水分を除去して保存してもよい。凍結乾燥製剤やドライシロップ等は、使用時に注射用蒸留水、滅菌水等を加え、再度溶解して使用される。また、本発明の医薬組成物が固形製剤である場合は、使用時に注射用蒸留水、滅菌水等を加え、再度溶解して使用してもよい。
【0059】
本発明において、RNA干渉若しくは翻訳阻害が可能な核酸分子が送達される細胞、すなわち本発明の核酸送達用組成物が適用される細胞は、標的遺伝子に対するRNA干渉若しくは翻訳阻害が必要とされている細胞、又は標的遺伝子に対するRNA干渉若しくは翻訳阻害が必要とされている組織中の細胞であればよく、例えば、培養細胞、生体から抽出した細胞(株化した細胞を含む)、生体内に存在する細胞等が挙げられる。これらの細胞は、ヒト由来の細胞であってもよく、またヒト以外の動物由来の細胞であってもよい。また、本発明の核酸送達用組成物は、in vitroで適用されてもよく、in vivoやex vivoで適用されてもよい。
【0060】
また、例えば、特定遺伝子の発現が起因している疾患組織において、当該特定遺伝子の発現抑制が当該疾患の治療や改善に有効である場合には、当該疾患組織中の細胞に対して、当該特定遺伝子に対してRNA干渉が可能な核酸分子を導入すればよい。
【0061】
本発明において、RNA干渉若しくは翻訳阻害が可能な核酸分子の細胞内への送達は、本発明の核酸送達用組成物を細胞と接触させる工程を経ることにより行うことができる。本発明の核酸送達用組成物と細胞との接触方法は、当該核酸送達用組成物の適当量が核酸分子の導入対象となる細胞に接触するように適用される限り特に制限されない。例えば、本発明の核酸送達用組成物を医薬組成物として使用する場合には、その適用方法については、従来の遺伝子治療における方法と同様にして行うことができ、投与量についても同様であり、適宜設定される。このように本発明の核酸送達用組成物を細胞に適用することにより、細胞内にRNA干渉若しくは翻訳阻害が可能な核酸分子を容易に送達させることができ、且つ送達された核酸分子を細胞内に安定して保持させることができる。
【0062】
例えば、本発明の核酸送達用組成物と細胞とをin vitroで接触させる場合、該細胞の培養時にあらかじめ適当量の核酸送達用組成物を存在させた状態で細胞を培養する方法が例示される。また、本発明の核酸送達用組成物を、培養細胞や生体から抽出した細胞にin vitroで接触させようとする場合には、血清の存在下で接触させることもできる。また、本発明の核酸送達用組成物と細胞とをin vivoで接触させようとする場合には、本発明の核酸送達用組成物の組織への直接注入;静脈、皮下、筋肉、腹腔、眼内、消化器官内、歯内等への注射;鼻腔、口腔、肺等への吸入投与;経口投与;皮膚を介した経皮投与;及び口腔粘膜、膣粘膜、眼粘膜、直腸粘膜、子宮粘膜を介した経粘膜投与等が例示される。
【0063】
また、本発明の核酸送達用組成物を細胞に対して適用する場合、その有効量を適用すればよいが、例えば、1細胞あたり、該核酸送達用組成物に含有されるRNA干渉若しくは翻訳阻害が可能な核酸分子が0.001 pMol〜10 pMol、好ましくは0.01 pMol〜1 pMol、更に好ましくは0.01 pMol〜0.1 pMolとなる量が適用される。
【0064】
本発明の核酸送達用組成物によれば、RNA干渉若しくは翻訳阻害が可能な核酸分子を細胞内に送達させることができる。すなわち、本発明の核酸送達用組成物は、該核酸送達用組成物を細胞に接触させることにより、該核酸送達用組成物中に存在する、前記核酸複合体を形成しているRNA干渉若しくは翻訳阻害が可能な核酸分子を細胞内に送達させることにおいて有効である。
【0065】
(3)核酸分子の細胞内への送達方法
本発明は、また、RNA干渉若しくは翻訳阻害が可能な核酸分子の細胞内への送達方法を提供するものである。本発明の核酸分子の細胞内への送達方法は、前記核酸複合体又は核酸送達用組成物を細胞に接触させる工程を含む。前記核酸複合体又は核酸送達用組成物と細胞との接触は、核酸複合体又は核酸送達用組成物の適当量が、核酸分子の導入対象となる細胞に接触される限り特に制限されない。
【0066】
このようにして核酸複合体又は核酸送達用組成物と細胞とを接触させることにより、RNA干渉若しくは翻訳阻害が可能な核酸分子を細胞内に安定して保持させることができる。該核酸複合体はそれ自体であってもよく、更に前述するような添加剤や担体と組み合わせて、細胞と接触させてもよい。より効率よく核酸分子を細胞内に送達させる観点から、前記核酸送達用組成物を細胞と接触させることにより実施することが好ましい。
【0067】
本発明において、RNA干渉若しくは翻訳阻害が可能な核酸分子が送達される細胞としては前述のように限定されず、標的遺伝子に対するRNA干渉若しくは翻訳阻害が必要とされている細胞、又は標的遺伝子に対するRNA干渉若しくは翻訳阻害が必要とされている組織中の細胞であればよく、例えば、培養細胞、生体から抽出した細胞(株化した細胞を含む)、生体内に存在する細胞等が挙げられる。また、該細胞はヒト由来であってもよくヒト以外の動物由来であってもよい。また、前記核酸複合体又は核酸送達用組成物と細胞との接触は、in vitroで実施してもよく、in vivo又はex vivoで実施してもよい。
【0068】
また、例えば、特定遺伝子の発現が起因している疾患組織において、当該特定遺伝子の発現抑制が当該疾患の治療や改善に有効である場合には、当該疾患組織中の細胞に対して、当該特定遺伝子に対してRNA干渉若しくは翻訳阻害が可能な核酸分子を導入すればよい。
【0069】
例えば、前記核酸複合体又は核酸送達用組成物と細胞とをin vitroで接触させる場合、該細胞の培養時にあらかじめ適当量の前記核酸複合体又は核酸送達用組成物を存在させた状態で細胞を培養する方法が例示される。また、前記核酸複合体又は核酸送達用組成物を、培養細胞や生体から抽出した細胞にin vitroで接触させる場合には、血清の存在下で接触させることもできる。また、前記核酸複合体又は核酸送達用組成物と細胞とをin vivoで接触させる場合には、前記核酸複合体又は核酸送達用組成物の組織への直接注入;静脈、皮下、筋肉、腹腔、眼内、消化器官内、歯内等への注射;鼻腔、口腔、肺等への吸入投与;経口投与;皮膚を介した経皮投与;及び口腔粘膜、膣粘膜、眼粘膜、直腸粘膜、子宮粘膜を介した経粘膜投与等が例示される。
【0070】
また、本発明の核酸分子の細胞内への送達方法においては、RNA干渉若しくは翻訳阻害が可能な核酸分子を細胞内に導入するにあたり、有効量の核酸複合体又は核酸送達用組成物を細胞に接触させればよい。具体的には、その適用量として、1細胞あたり、該核酸送達用組成物に含有されるRNA干渉若しくは翻訳阻害が可能な核酸分子換算で0.001 pMol〜10 pMol、好ましくは0.01 pMol〜1 pMol、更に好ましくは0.01 pMol〜0.1 pMolが挙げられる。
【0071】
また、本発明の送達方法においては、前記核酸送達用組成物を細胞と接触させることにより実施してもよい。
【実施例】
【0072】
以下、実施例等に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。また、以下の実施例及び試験例では、siRNAとして、GL3-siRNA (ホタルルシフェラーゼに対するsiRNA;Dharmacon社, Boulder, CO, USA;sense:5’-CUUACGCUGAGUACUUCGAdTdT(配列番号1)、antisense:5’-UCGAAGUACUCAGCGUAAGdTdT(配列番号2))を用いた。また、シクロアミロースとしては、和光純薬株式会社販売のシクロアミロース(重合度22〜50(重量平均分子量6000〜8000)の混合物)を用いた。
【0073】
実施例1 siRNAとシクロアミロースからなる複合体の調製
Tris-EDTA (TE)緩衝液(Fluka社製)を用いて、2 μMの濃度でsiRNAを含む溶液(siRNA溶液)を調製した。また、別途、Tris-EDTA (TE) 緩衝液(Fluka社製)を用いて、25 μMの濃度でシクロアミロースを含む溶液(シクロアミロース溶液)を調製した。室温で、これらの等量を1分間混合することによりsiRNA複合体を調製した。
【0074】
比較例1−4 siRNAとシクロデキストリンからなる複合体の調製
Tris-EDTA (TE)緩衝液(Fluka社製)を用いて、2 μMの濃度でsiRNAを含む溶液(siRNA溶液)を調製した。また、別途、Tris-EDTA (TE) 緩衝液(Fluka社製)を用いて、2 μMの濃度でα-シクロデキストリンを含む溶液(α-シクロデキストリン溶液)を調製した。室温で、これらの等量を1分間混合することによりsiRNA複合体(比較例1)を調製した。
【0075】
また、20 μMの濃度でsiRNAを含む溶液(siRNA溶液)を使用する以外は、上記比較例1と同じ条件で、siRNA複合体(比較例2)を調製した。
【0076】
また、Tris-EDTA (TE)緩衝液(Fluka社製)を用いて、2 μMの濃度でsiRNAを含む溶液(siRNA溶液)を調製した。また、別途、Tris-EDTA (TE) 緩衝液(Fluka社製)を用いて、2 μMの濃度でγ-シクロデキストリンを含む溶液(γ-シクロデキストリン溶液)を調製した。室温で、これらの等量を1分間混合することによりsiRNA複合体(比較例3)を調製した。
【0077】
また、20 μMの濃度でsiRNAを含む溶液(siRNA溶液)を使用する以外は、上記比較例3と同じ条件で、siRNA複合体(比較例4)を調製した。
【0078】
試験例1 siRNA複合体の粒子径、及びゼータ電位の測定
実施例1及び比較例1−2で得られたsiRNA複合体の粒子径、及び該siRNA複合体を含む溶液のゼータ電位の測定を行った。粒子径は、ZETASIZER 3000HSA (MALVERN INSTRUMENT)(レーザー光回折法を用いて体積平均粒子径を測定)によって測定した平均粒子径(nm)を示す。ゼータ電位は、同様にZETASIZER 3000HSA(MALVERN INSTRUMENT)を用いて測定した。
【0079】
【表1】
【0080】
この結果から、シクロアミロースを用いてsiRNAを複合体化することによって、α-シクロデキストリン又はγ-シクロデキストリンを用いてsiRNAを複合体化した場合に比べて、粒子径の小さいsiRNA複合体を形成できることが明らかとなった。siRNA複合体は、粒子径の小さい程、細胞内に取り込まれ易くなるため、シクロアミロースを用いたsiRNA複合体は、細胞内への導入に好適であることが確認された。
【0081】
実施例2 siRNA複合体を含む核酸送達用組成物の調製
モル比で、ジステアロイルホファチジルコリン(DSPC):コレステロール:ステアリルアミン=7:3:1となるように秤量し、これらをナス型フラスコでクロロホルム中に溶解させた。ロータリーエバポレーターにより減圧乾燥させ、脂質薄膜を形成した。次いで、得られた脂質薄膜に対してDSPC濃度で30 mg/mLとなるように、実施例1で得られたsiRNA複合体を0.014 mg/ml含む溶液を添加し、混合した後、エクストルーダーを用いて孔径800 nm及び200 nmの膜に通し粒子径を揃え、カチオン性リポソーム形態であるsiRNA送達用組成物(実施例2:リポソーム化法)を調製した。
【0082】
また、上記で形成させた脂質薄膜に対してDSPC濃度で63.2 mg/mLとなるように、Tris-EDTA (TE) 緩衝液(Fluka社製)を添加し、混合した後、エクストルーダーを用いて孔径800nm及び200 nmの膜に通し粒子径を揃え、カチオン性リポソームを調製した。斯くして得られたカチオン性リポソーム(DSPC量で63.2mg)と実施例1で得られたsiRNA複合体を含む溶液(siRNA複合体量で0.028mg)とを混合して、siRNA送達用組成物(実施例2:リポプレックス法)を調製した。
【0083】
得られたsiRNA送達用組成物(実施例2)の物性を表2に示す。カチオン性リポソーム形成時に、siRNA複合体溶液を添加したもの (リポソーム化法) は、粒子径は約300 nmを示し、ゼータ電位は約20 mVを示し、粒度の均一な粒子のリポソーム形態であった。一方、カチオン性リポソームを形成させた後に、siRNA複合体溶液を添加して調製したもの(リポプレックス化法)は、粒子径は、約800 nm、ゼータ電位は約20 mVを示した 。粒子径は、ZETASIZER 3000HSA (MALVERN INSTRUMENT)(レーザー光回折法を用いて体積平均粒子径を測定)によって測定した平均粒子径(nm)を示す。ゼータ電位は、同様にZETASIZER 3000HSA(MALVERN INSTRUMENT)を用いて測定した。
【0084】
【表2】
【0085】
なお、比較例1及び3のsiRNA複合体を用いて、上記実施例2と同条件で核酸送達用組成物を調製したところ、siRNA複合体がリポソームの表面にも付着しており、siRNA複合体をリポソーム内に十分に封入できていなかった。
【0086】
試験例2 siRNAの封入率の評価
本試験では、siRNAに予めFITC標識をしたものを用いて、上記実施例1と同様の方法で、FITC標識siRNA複合体を調製した。このFITC標識siRNA複合体を用いて、上記実施例2と同条件で、核酸送達用組成物を調製した。そして、調製直後のsiRNA送達用組成物を遠心処理(75,000 rpm、1時間)により沈殿させ、その上清に存在するFITC標識siRNAの蛍光強度を測定することによりsiRNAの封入率(全siRNAに対するリポソーム内に封入されたsiRNAの割合:%)を算出した。
【0087】
その結果、siRNAの封入率は、表3に示すように、リポソーム化法で調製した核酸送達用組成物では95.9%であり、リポプレックス化法で調製した核酸送達用組成物では91.5%と非常に高い値であった。このことから、本発明の核酸複合体は、リポソーム状の核酸送達用キャリアーに効率的に取り込まれる特性を有していることが明らかとなった。限定的な解釈を望むものではないが、これはシクロアミロースがsiRNAとコンパクトな複合体を形成することによるものと推察される。
【0088】
【表3】
【0089】
試験例3 細胞安全性の評価試験
MTS試験法を用いて行った。MTS試験は、Promega社製の「CellTiter96 Aqueous One Solution Cell Proliferation Assay」を用いて行った。具体的には、96穴プレートにA594細胞(ATCC, USA)を3.16×10
4cells/wellで10容量%ウシ胎児血清(FBS)を含むダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)200 μL中に播種し、37℃下24時間培養した。ハンクスバランスドサルトソリューション(HBSS)で3回洗浄後、FBSを含まないDMEMに替え、上記実施例2の核酸送達用組成物(リポソーム化法及びリポプレックス化法)をそれぞれ1ウェル当たり20 μL添加し、37℃、5%CO2条件下で4時間インキュベートした。次いで、ウェル中の培養上清を10容量%FBS含有DMEMに替え、更に37℃、5%CO2条件下で20時間インキュベートした。次いで、各ウェルにMTS(メタチオネイン)試薬20 μL及びFBS10容量%含有DMEM培地100 μLを加え、2時間インキュベートした後、492 nmにおける吸光度を測定し、細胞生存率を算出した。なお、細胞生存率は、核酸送達用組成物を添加せずに上記条件でインキュベートした際に測定された492 nmにおける吸光度を100%として算出した。
【0090】
得られた結果を
図1に示す。
図1に示すように、リポソーム化法及びリポプレックス法のいずれでも、実施例2の核酸送達用組成物は、細胞毒性が低く、安全性が高いことが明らかとなった。特に、実施例2のリポソーム化法で調製された核酸送達用組成物では、安全性が顕著に高いことが確認された。
【0091】
試験例4 siRNAの細胞内への送達効率の評価試験
フローサイトメトリーを用いてsiRNAに標識したFITCの蛍光強度を測定することにより細胞内取り込みを評価した。なお、本試験では、siRNAに予めFITC標識をしたものを用いて調製した核酸送達用組成物を利用した。具体的には、24穴プレートにA594細胞(ATCC,USA)を5×10
5cells/wellで10容量%FBSを含むDMEM 500 μL中に播種し、37℃、5%CO2条件下で24時間培養した。HBSSで3回洗浄後、各ウェルにFBSを含まないDMEM 0.45 mLを加え、更に上記実施例2の核酸送達用組成物(リポソーム化法)(含有されるDSPCの濃度:30mg/mL)を1ウェル当たり0.05 mL添加し、37℃、5%CO2条件下で4時間インキュベートした。次いで、ウェル中の培養上清を10容量%FBS含有DMEMに替え、更に37℃、5%CO2条件下で20時間インキュベートした。各ウェルをHBSSで1回洗浄後、Cell Scrub Buffer(Gene Therapy Systems, Inc.製)を0.2 mL添加し37℃、5%CO2条件下で15分間インキュベートした。更に、HBSSで2回洗浄後、トリプシンを用いて、ウェル底部に付着している細胞を剥がし取り、遠心分離により細胞を回収し、得られた細胞をHBSSに懸濁させた。その懸濁液を孔径41μmの膜に通過させた。核酸送達用組成物の添加4時間後の細胞の蛍光強度についてフローサイトメトリーを用いて測定した。また、比較対照として、市販で遺伝子ベクターとして頻用されているLipofectamine2000TM(Invitrogen社製)をOptiMEM培地で0.1 mg/mLに希釈した溶液と、TE緩衝液にsiRNAを2 μMの濃度に希釈したsiRNA溶液とを容量比1:1で混合して得られた比較用核酸送達用組成物を用いて、上記と同様に細胞の蛍光強度を測定した。
【0092】
得られた結果を
図2に示す。この結果から、実施例2で調製された核酸送達用組成物(リポソーム化法)では、siRNAが顕著に細胞内に取り込まれていることが確認された。これに対して、比較用核酸送達用組成物の場合では、リポソーム化法で調製された核酸送達用組成物と同程度であった。