特許第5808366号(P5808366)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5808366床下部品の腐食度計測方法及び床下部品の耐食性予測方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5808366
(24)【登録日】2015年9月18日
(45)【発行日】2015年11月10日
(54)【発明の名称】床下部品の腐食度計測方法及び床下部品の耐食性予測方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 17/02 20060101AFI20151021BHJP
【FI】
   G01N17/02
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-114851(P2013-114851)
(22)【出願日】2013年5月31日
(65)【公開番号】特開2014-235012(P2014-235012A)
(43)【公開日】2014年12月15日
【審査請求日】2014年12月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】富士重工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(72)【発明者】
【氏名】中澤 嗣夫
(72)【発明者】
【氏名】上田 聡
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 幸子
(72)【発明者】
【氏名】安藤 聡
(72)【発明者】
【氏名】山本 俊佑
【審査官】 萩田 裕介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−220452(JP,A)
【文献】 特開昭57−020643(JP,A)
【文献】 特開2011−174859(JP,A)
【文献】 特開平04−019542(JP,A)
【文献】 特開平02−022532(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 17/00 − 17/04
G01M 17/00 − 17/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
床下部品の少なくとも一箇所に腐食センサを設置した自動車を、塩化物含有量が0.1質量%以上の塩水路で、30km/h以上の速度で50m以上走行させる工程と、
前記塩水路走行後、前記自動車を、20km/h以上の速度で30分以上走行させる工程と、
前記走行後の自動車を、20〜40℃の温度で且つ30%以上の相対湿度において、4時間以上保持する工程と、
前記塩水路走行工程、前記走行工程及び前記保持工程から選ばれた一つ以上の工程において、前記腐食センサの出力値を取得する工程と、
を備えることを特徴とする床下部品の腐食度計測方法。
【請求項2】
前記塩化物は、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、及び塩化マグネシウムからなる群より選択された少なくとも一種であり、塩化物含有量が0.1質量%以上であることを特徴とする請求項1に記載の床下部品の腐食度計測方法。
【請求項3】
前記走行後の自動車の保持は、恒温保持であることを特徴とする請求項1又は2に記載の床下部品の床下部品の腐食度計測方法。
【請求項4】
前記走行後の自動車の保持は、恒湿保持であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の床下部品の腐食度計測方法。
【請求項5】
前記腐食センサが、ACM型腐食センサであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の床下部品の腐食度計測方法。
【請求項6】
前記床下部品は、サスペンション、エンジンマウント、エンジンクレードル、ブレーキ及び燃料系部品からなる群より選択された少なくとも一種であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の床下部品の腐食度計測方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の床下部品の腐食度計測方法によって得られた計測値を用いて、床下部品の耐食性を予測することを特徴とする床下部品の耐食性予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、市場における床下部品の耐食性を、正確且つ短期間で予測するのに適した床下部品の腐食度計測方法、及び、該計測方法によって得られた計測値を用いた床下部品の耐食性予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、自動車の床下部品の耐食性については、実際に長期間(10年以上)走行した後の自動車より回収された部品の板厚減少量(部品を構成する鋼板の腐食による板厚減少量)を測定するか又は塩害耐久試験を行うことで、その検証が行われていた。
【0003】
上述の塩害耐久試験とは、長期間に渡る自動車の腐食環境を模擬的に再現して検証期間の短縮を図ることを目的とし、所定の腐食環境で製品の自動車を走行させた後、車種ごとに異なる被水環境の影響度を加味した上で、防錆仕様の妥当性を評価・検証する試験である。
【0004】
ただし、検証期間の短縮化を目的とした塩害耐久試験についても、走行試験から評価部品の解析まで含めると実際には数ヶ月に渡る調査を必要とすることから、製品開発期間を長期化させるおそれがあった。
さらに、防錆力の高い電着塗装が施された床下部品は、腐食促進度が低くなる傾向がある。このため、従来の塩害耐久試験では、10年を超える長期間の腐食環境を再現し、耐食性の評価を行うことが困難であるという問題もあった。
【0005】
そのため、自動車における床下部品の耐食性を正確且つ短期間で予測できる技術の開発が望まれていた。
【0006】
ここで、金属材料の耐食性を定量的且つ短期間で評価することを目的として、ACM型腐食センサを用いた耐食性評価方法が開発されている。
例えば、特許文献1及び2には、金属材料で構成される移動体の一部にACM型腐食センサを設置し、腐食環境においてセンサ出力値を計測し、環境の腐食性の評価を行う方法が開示されている。
【0007】
しかしながら、特許文献1及び2に開示された文献では、移動体のボディ部品等における環境の腐食度計測・評価を目的としており、自動車の床下部品について、10年を超える長期間の腐食環境を再現し、耐食性の評価を行うことについては考慮されていなかった。
さらに、ACM型腐食センサを用いて床下部品の耐食性を評価する場合、降雪量により変動する融雪剤の散布量等についても考慮する必要があることから、最低でも越冬期間(4月程度)における連続的な計測を必要とし、依然として耐食性評価には長期間を要することが考えられた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4258352号
【特許文献2】特許第4375492号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、市場における床下部品の耐食性を正確且つ短期間で予測するのに適した床下部品の腐食度計測方法、及び、該計測方法によって得られた計測値を用いた床下部品の耐食性予測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく、腐食の進行するメカニズムや環境について鋭意研究を行った。その結果、以下の事実を見出した。
【0011】
(1)塩水の溜まった道路(塩水路)を走行することによる床下部品の被水について
サスペンション等の床下部品は、フロント側の床下部品では、フロントタイヤの先端で跳ね上げた車体内側方向の水によって濡れる(図2(a)を参照。)。一方、リヤ側の床下部品では、フロントタイヤで跳ね上げた水が路面へ落ちて跳ね返ったものが再び床下部品へ付着することで濡れる(図2(b)を参照。)。
そのため、塩水路走行直後における床下部品の被水量は、フロント側のほうがリヤ側に比べて多い。
【0012】
(2)被水した床下部品の塩分付着量について
しかしながら、塩水路走行後に一般路(水の溜まっていない一般的な道路)を一定期間走行した場合、フロントロアアーム等のフロント側の床下部品に比べてリヤクロスメンバやリヤサブフレーム等のリヤ側の床下部品の方が、塩分付着量が多くなる。これは、上述したフロント側の床下部品が上下揺動自在に車体に連結される一方、上述したリヤ側の床下部品は、車体に直接若しくは弾性体マウントを介して固定されるためである。すなわち、塩水路の走行後に一般路を走行すると、走行時間の経過と共にフロント側の床下部品に付着した塩水は、フロント側の床下部品の揺動や走行中の風等の影響によって飛散及び蒸発することとなるが、リヤ側の床下部品に付着した塩水は、リヤ側の床下部品の揺動や風による影響が少ないため、塩水が除去されることなく多く残留するためである。
【0013】
(3)走行後の腐食について
また、走行した自動車を、特定の湿度環境で一定期間放置した場合、一旦鈍化した床下部品の腐食が再び促進することがある。これは、床下部品に付着した塩分が吸湿し、塩の水溶液を形成して腐食を増大させるものと考えられる。
【0014】
そして、上記(1)〜(3)の事実を考慮し、さらに鋭意研究を重ねた結果、床下部品の少なくとも一箇所に腐食センサを設置した自動車を、特定の塩水路で走行させた後、自動車を一定の速度及び時間で走行させ、その後、自動車を特定の湿度において一定時間以上保持することで、長期間に渡って実現された腐食環境を模擬的に再現でき、この腐食環境から得られた腐食センサの出力値は、床下部品の腐食度を正確且つ短時間に計測できるものであるとともに、床下部品の耐食性を予測するのに適することを見出した。
【0015】
本発明は、上記知見に基づきなされたものであり、その要旨は以下の通りである。
[1]床下部品の少なくとも一箇所に腐食センサを設置した自動車を、塩化物含有量が0.1質量%以上の塩水路で、30km/h以上の速度で50m以上走行させる工程と、
前記塩水路走行後、前記自動車を、20km/h以上の速度で30分以上走行させる工程と、
前記走行後の自動車を、20〜40℃の温度で且つ30%以上の相対湿度において、4時間以上保持する工程と、
前記塩水路走行工程、前記走行工程及び前記保持工程から選ばれた一つ以上の工程において、前記腐食センサの出力値を取得する工程と、
を備えることを特徴とする床下部品の腐食度計測方法。
【0016】
[2]前記塩化物は、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、及び塩化マグネシウムからなる群より選択された少なくとも一種であり、塩化物含有量が0.1質量%以上であることを特徴とする上記[1]に記載の床下部品の腐食度計測方法。
【0017】
[3]前記走行後の自動車の保持は、恒温保持であることを特徴とする上記[1]又は[2]に記載の床下部品の腐食度計測方法。
【0018】
[4]前記走行後の自動車の保持は、恒湿保持であることを特徴とする上記[1]〜[3]のいずれかに記載の床下部品の腐食度計測方法。
【0019】
[5]前記腐食センサが、ACM型腐食センサであることを特徴とする上記[1]〜[4]のいずれかに記載の床下部品の腐食度計測方法。
【0020】
[6]前記床下部品は、サスペンション、エンジンマウント、エンジンクレードル、ブレーキ及び燃料系部品からなる群より選択された少なくとも一種であることを特徴とすることを特徴とする上記[1]〜[5]のいずれかに記載の床下部品の腐食度計測方法。
【0021】
[7]上記[1]〜[6]のいずれかに記載の床下部品の腐食度計測方法によって得られた計測値を用いて、床下部品の耐食性を予測することを特徴とする床下部品の耐食性予測方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、床下部品の耐食性を正確且つ短期間で予測するのに適した床下部品の腐食度計測方法が得られ、該計測方法によって得られた計測値を用いることで、市場における床下部品の耐食性を正確且つ短期間で予測できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明による床下部品の腐食度計測方法を説明するためのフロー図である。
図2】床下部品の濡れる状況を説明するための図であり、(a)は、フロント側の床下部品が濡れる状況、(b)は、リヤ側の床下部品が濡れる状況を示したものである。
図3】塩水路走行工程から一般路走行工程の最初の5分間までの、時間の経過と各ACM型腐食センサから得られた電流値との関係を示したグラフである。
図4】一般路走行工程の最初の1時間について、時間の経過と設置した各ACM型腐食センサから得られた電流値との関係を示したグラフである。
図5】実施例1での、保持工程の経過時間と各ACM電流値との関係を示したグラフである。
図6】実施例2での、保持工程の経過時間と各ACM電流値との関係を示したグラフである。
図7】実施例1での、測定された各ACM電流値を平均したものと腐食速度の関係を示すグラフである。
図8】実施例2での、測定された各ACM電流値を平均したものと腐食速度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
まず、本発明による床下部品の腐食度計測方法について説明する。
本発明による床下部品の腐食度計測方法は、図1に示すように、床下部品の少なくとも一箇所に腐食センサを設置した自動車を、塩化物含有量が0.1質量%以上の塩水路で、30km/h以上の速度で50m以上走行させる工程(図1(a))と、前記塩水路走行後、前記自動車を、20km/h以上の速度で30分以上走行させる工程(図1(b))と、前記走行後の自動車を、20〜40℃の温度で且つ30%以上の相対湿度において、4時間以上保持する工程(図1(b))と、前記塩水路走行工程、前記走行工程及び前記保持工程から選ばれた一つ以上の工程において、前記腐食センサの出力値を取得する工程(図1(d))と、を備えることを特徴とする。
【0025】
上記工程を備えることで、腐食環境を模擬的に高い精度で再現でき、得られた腐食センサの出力値については床下部品の耐食性を正確且つ短期間で予測するのに適する。
【0026】
なお、本発明における自動車とは、軌条によらずに運転者の操作で進路と速度を変えることができる乗り物である法規上の「自動車」のことを意味し、乗用車に限らず、二輪車、貨物車、特殊作業車、他の自動車によって牽引される車両等についても含まれる。
また、自動車の床下部品とは、自動車の床下に設置される鋼材からなる部品のことを意味し、例えば、サスペンション、エンジンマウント、エンジンクレードル、ブレーキ及び燃料系部品等が挙げられる。
【0027】
さらに、本発明による腐食度計測方法に用いられる腐食センサは、床下部品の腐食度を定量的に把握できるものであれば特に限定はされない。例えば、ACM型腐食センサによる測定、付着した塩分量の測定、腐食面積の測定等が挙げられる。その中でも、簡便且つ正確に腐食の程度を把握できる点から、腐食センサとしてACM型腐食センサを用いることが好ましい。ACM型腐食センサは、取得された電流値(ACM電流値)によって腐食の進行度合いを判断でき、ACM電流値が大きいほど腐食が進んでいることを意味する。
【0028】
なお、前記腐食センサは、床下部品の少なくとも一箇所に設置すれば良い。ただし、自動車全体の耐食性の評価を行う場合には、床下部品毎に全て設置することが好ましく、ばらつきをなくす点からは、各床下部品に複数のセンサを設置することがより好ましい。
【0029】
(塩水路走行工程)
本発明による床下部品の腐食度計測方法は、床下部品の少なくとも一箇所に腐食センサを設置した自動車を、塩化物含有量が0.1質量%以上の塩水の溜まった塩水路で、30km/h以上の速度で50m以上走行させる工程を備える。
この工程は、自動車の床下部品に、適量の塩水(塩化物を含有した水)を付着させるための工程である。
【0030】
ここで、前記塩水路の塩化物含有量は0.1質量%以上とする。塩化物含有量が0.1質量%未満の場合、十分に耐食性の評価を行えないためであり、耐食性の評価を高精度に行える点からは、4質量%以上であることが好ましく、4〜6質量%であることがより好ましい。
【0031】
また、前記塩化物は、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、及び塩化マグネシウムからなる群より選択された少なくとも一種であることが好ましい。前記床下部品を腐食させる原因となるものであり、床下部品の耐食性評価を行うのに適しているためである。
【0032】
なお、前記塩水路の塩水の深さについては特に限定はされないが、確実に前記床下部品に塩水を付着させることができる点からは、1mm以上の深さであることが好ましい。
【0033】
前記塩水路を走行させる自動車の速度は30km/h以上である。速度が30km/h未満の場合、フロントタイヤによる水の跳ね上げが十分でなく、床下部品に塩水が付着しないためである。
なお、前記自動車の速度は、30km/h以上であれば、走行中に変化しても構わないが、塩水付着量を安定させる点からは一定の速度で走行させることが好ましい。
【0034】
さらに、前記塩水路を走行させる距離は50m以上とすることが好ましい。走行距離が50m未満の場合、前記床下部品に十分に塩水を付着させることができないためである。
なお、自動車による前記塩水路の走行方法は、特に限定はされないが、50m以上を連続して走行させることが好ましい。塩水の付着量を安定させるためである。
【0035】
(一般路走行工程)
本発明の床下部品の腐食度計測方法は、前記塩水路走行工程の後、前記自動車を、一般路を20km/h以上の速度で30分以上走行させる工程を備える。
この工程は、主にフロント側の床下部品に付着した塩水を、走行時間の経過と共に、車両の揺動や走行中の風等の影響により飛散及び蒸発させ、除去するための工程である。
【0036】
前記自動車の速度は、20km/h以上とする必要がある。20km/h未満の場合、前記床下部品に付着した塩水を十分に除去することができないためである。
【0037】
また、前記自動車の走行時間は30分以上とする必要がある。走行時間が30分未満の場合、前記床下部品に付着した塩水を十分に除去することができず、実際の腐食環境を十分に実現できないからである。
【0038】
なお、本工程で自動車を走行させる走行路については、塩水路以外の、水の溜まっていない一般路であれば特に限定はされない。ただし、前記床下部品に付着した塩水の除去をより実際の環境に近い形で行え、腐食性予測の評価を高めることができる観点からは、前記走行路が、平坦な走行路と、凹凸の設けられたダート路とを含むことが好ましい。
【0039】
(保持工程)
本発明の床下部品の腐食度計測方法は、前記一般路走行工程の後、前記走行後の自動車を、20〜40℃の温度で且つ30%以上の相対湿度において、4時間以上保持する工程を備える。
この工程は、床下部品に付着した塩分に吸湿させ、新たな腐食を発生させるための工程である。この工程によって、従来の腐食度計測方法では考慮されていなかった、一度腐食の進行が鈍化した後に再び腐食が進行する事象についても実現することが可能となる。
【0040】
前記自動車の保持における温度は、20〜40℃とする必要があり、25〜35℃とすることが好ましい。保持温度が20℃未満の場合、空気中の水分量が不足するからであり、一方、40℃を超えると、空気中の水分量が多くなり塩分が流出するからである。
【0041】
なお、前記自動車の保持温度は、20〜40℃の範囲であれば変動させても良いが、上述した塩分の吸湿による腐食進行を制御しやすくする点からは、恒温保持であることが好ましい。前記恒温保持を行う方法としては、例えば、恒温保持槽中に自動車を入れて保持することが挙げられる。
【0042】
前記自動車の保持における相対湿度は、30%以上とする必要があり、70%以上とすることがより好ましい。さらに80%以上とすることが好ましい。相対湿度が30%未満の場合、塩分の吸湿に起因した塩の水溶液による腐食が十分に進行しないためである。
ここで、塩分の吸湿は、付着した塩の種類とその環境の相対湿度に依存する。環境の相対湿度が付着した塩の平衡相対湿度以上であれば塩は吸湿する。一般的に、融雪剤として使用される塩は、塩化ナトリウム、塩化カルシウムである。塩化ナトリウムは、相対湿度が約70%を超えると吸湿し始め、塩化カルシウムは、相対湿度が約30%を超えると吸湿し始める。つまり、相対湿度が30%未満ではこれらの塩が吸湿することがなく、塩の水溶液が形成されず、腐食は増大しない。
【0043】
なお、前記自動車の保持における相対湿度は、30%以上であれば特に限定はされず、変動させることも可能である。ただし、上述した塩分の吸湿による腐食進行を制御しやすくする恒湿保持であることが好ましい。前記恒湿保持を行う方法としては、例えば、恒湿保持槽中に自動車を入れて保持することが挙げられる。
【0044】
(腐食センサ出力値の取得工程)
【0045】
本発明の床下部品の腐食度計測方法は、前記塩水路走行工程、前記走行工程及び前記保持工程から選ばれる一つ以上の工程において、前記腐食センサの出力値を取得する工程を備える。この工程によって、前記床下部品の腐食度を把握することができる。前記腐食センサの出力値を取得する工程は、前記塩水路走行工程、前記走行工程及び前記保持工程の全ての工程としてもよく、前記保持工程のみでもよい。
【0046】
次に、本発明による床下部品の耐食性予測方法について説明する。
本発明による床下部品の耐食性予測方法は、上述した床下部品の腐食度計測方法によって得られた計測値を用いて、床下部品の耐食性を予測することを特徴とする。
本発明の腐食度計測方法によって得られた計測値を用いて耐食性の予測を行うことで、市場における床下部品の耐食性を正確且つ短期間で予測できる。
【0047】
得られた腐食度の計測値を用いた耐食性の予測については、上述した保持工程において取得した腐食センサ出力値を用いることが好ましい。後述するとおり、保持工程における腐食センサ出力値は、実際の自動車の床下部品の腐食速度と相関性が高いことがわかっている。実際に床下部品に使用される材料毎に保持工程における腐食センサ出力値と実車の腐食速度の相関関係を予め求めておけば、腐食センサ出力値から腐食速度が得られる。このようにして各床下部品の耐食性の予測が可能となる。
【実施例】
【0048】
次に、本発明を実施例に基づき具体的に説明する。
(実施例1)
床下部品であるフロントアーム及びリヤクロスメンバにACM型腐食センサを装着した自動車をサンプルとして用意した。前記ACM型腐食センサの装着箇所は、(i)フロントアーム上面、(ii)フロントアーム下面、(iii)リヤクロスメンバの任意の位置A〜E、である。
上述した自動車を、塩化物含有量が1質量%の塩水路(塩水深さ:30mm)で、50km/hの速度で50m以上走行させた(塩水路走行工程)。
その後、平坦な路面及びダート路の混在したコースを、20km/h以上の速度で30分以上走行させた(一般路走行工程)。
走行後、サンプルの自動車を、恒温恒湿槽(温度:30℃、相対湿度:80%)で24時間保持した(保持工程)。
【0049】
(実施例2)
サンプルの自動車を、恒温恒湿槽ではなく、野外に2日間放置したこと以外は、実施例1と同様の条件によって実施を行った。
【0050】
<評価>
実施例について、以下の評価を行った。
(1)床下部品に付着した塩水量について
実施例1において、塩水路走行工程から一般路走行工程の最初の5分間まで、設置した各ACM型腐食センサから得られた電流値(μA)を測定した。そして、経過時間とACMセンサ電流値との関係を示したグラフを作成した(図3)。
また、各実施例において、一般路走行工程の1時間についても同様に、設置した各ACM型腐食センサから得られた電流値(μA)を測定した。そして、経過時間とACMセンサ電流値との関係を示したグラフを作成した(図4)。
図3の結果から、塩水路走行直後のACMセンサ電流値は、フロントアームのほうがリヤクロスメンバに比べて高く、フロントタイヤからの跳ね上げによる塩水付着の影響が大きく反映されていることがわかった。
一方、図4の結果から、一般路を長時間走行すると、リヤクロスメンバのほうがフロントアームに比べてACMセンサ電流値が高くなっていることから、飛散や蒸発が行われずに残留した塩水が影響していることがわかった。
【0051】
(2)保持工程におけるACM電流値の変化について
実施例1の保持工程において、各ACM型腐食センサから得られた電流値を測定した。そして、経過時間と各ACMセンサ電流値との関係を示したグラフを作成した(図5)。
実施例2の保持工程において、各ACM型腐食センサから得られた電流値を測定した。そして、経過時間と各ACMセンサ電流値との関係を示したグラフを作成した(図6)。
図5及び図6の結果から、恒温恒湿槽での保持及び野外での保持のいずれにおいても、一旦ACMセンサ電流値が低下した後、急激に上昇を始めることがわかった。これは、各床下部品において一般路走行工程の後に塩水の水分が除去されて残留した塩分が吸湿して塩の水溶液を生じる結果、再び腐食が進行を開始したことを示す。
【0052】
(3)ACM電流値と腐食速度との関係について
上記評価(2)にて測定された各ACMセンサ電流値を平均したもの(平均ACMセンサ電流値)と腐食速度の関係を示すグラフを作成した(図7及び図8)。実施例1のグラフが図7、実施例2のグラフが図8である。
図7及び図8の結果から、平均ACMセンサ電流値と腐食速度は良好な比例関係にあり、各床下部品のACMセンサ電流値を計測することで、市場における床下部品の腐食速度についても推定が可能となることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明では、市場における床下部品の耐食性を、正確且つ短期間で予測するのに適した床下部品の腐食度計測方法、及び、該計測方法によって得られた計測値を用いた床下部品の耐食性予測方法の提供が可能となる。
図1
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図2