(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5808412
(24)【登録日】2015年9月18日
(45)【発行日】2015年11月10日
(54)【発明の名称】高次ヒドリドシラン化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/04 20060101AFI20151021BHJP
【FI】
C01B33/04
【請求項の数】19
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-530697(P2013-530697)
(86)(22)【出願日】2011年9月27日
(65)【公表番号】特表2013-542162(P2013-542162A)
(43)【公表日】2013年11月21日
(86)【国際出願番号】EP2011066742
(87)【国際公開番号】WO2012041837
(87)【国際公開日】20120405
【審査請求日】2014年3月31日
(31)【優先権主張番号】102010041842.0
(32)【優先日】2010年10月1日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】501073862
【氏名又は名称】エボニック デグサ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Evonik Degussa GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン ヴィーバー
(72)【発明者】
【氏名】マティアス パッツ
(72)【発明者】
【氏名】ユタ ヘッスィング
(72)【発明者】
【氏名】ヤネッテ クラット
【審査官】
西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−022964(JP,A)
【文献】
特表2010−506001(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00−33/193
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
低次ヒドリドシラン化合物から高次ヒドリドシラン化合物を製造するための方法であって、
・ 少なくとも1つの低次ヒドリドシラン化合物(I)を、
・ 少なくとも500g/molの質量平均分子量を有する少なくとも1つのヒドリドシラン化合物(II)の存在中で、
・ 熱的に反応させること
を特徴とする、前記方法。
【請求項2】
少なくとも1つの低次ヒドリドシラン化合物(I)が、一般式SinH2n+2(前記n=3〜10)の直鎖または分枝鎖のヒドリドシランであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも1つのヒドリドシランが、ネオペンタシランであることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ヒドリドシラン化合物(II)が、500〜5000g/molの質量平均分子量を有することを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
ヒドリドシラン化合物(II)が、1000〜4000g/molの質量平均分子量を有することを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
少なくとも1つのヒドリドシラン化合物(II)が、低次ヒドリドシランの熱処理によって製造可能なヒドリドシラン化合物であることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
少なくとも1つのヒドリドシラン化合物(II)が、式SinH2n (前記n=3〜10)、SinH2n+2 (前記n=3〜10)、もしくはSinH2n-2 (前記n=6〜10)の低次ヒドリドシランの熱処理によって製造された、少なくとも500g/molの質量平均分子量を有するヒドリドシランであることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
少なくとも1つのヒドリドシラン化合物(II)を、低次ヒドリドシラン化合物(I)およびヒドリドシラン化合物(II)の総質量に対して、0.01〜10質量%の質量パーセント割合で用いることを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
少なくとも1つのヒドリドシラン化合物(II)を、低次ヒドリドシラン化合物(I)およびヒドリドシラン化合物(II)の総質量に対して、0.5〜5質量%の質量パーセント割合で用いることを特徴とする、請求項8記載の方法。
【請求項10】
高次ヒドリドシラン化合物の製造方法を、液相法として実施することを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
少なくとも1つの溶剤の存在中で実施することを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記溶剤を、組成物の総質量に対して20〜80質量%の割合で用いることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
反応を、30〜250℃の温度で実施することを特徴とする、請求項1から12までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
反応を、90〜180℃の温度で実施することを特徴とする、請求項13記載の方法。
【請求項15】
反応を、110〜160℃の温度で実施することを特徴とする、請求項13記載の方法。
【請求項16】
反応時間が、0.1〜12時間の間であることを特徴とする、請求項1から15までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
反応時間が、1〜8時間の間であることを特徴とする、請求項16記載の方法。
【請求項18】
反応時間が、2〜6時間の間であることを特徴とする、請求項16記載の方法。
【請求項19】
反応混合物に、反応の前または反応の間に、B2H6、BHxR3-x (前記x=0〜2、且つ前記R=C1〜C10−アルキル基又は不飽和の環式C2〜C10−アルキル基)、エーテルまたはアミンが錯化されたBHxR3-x (前記x=0〜3、且つ前記R=C1〜C10−アルキル基又は不飽和の環式C2〜C10−アルキル基)、Si5H9BR2 (前記R=H、Ph又はC1〜C10−アルキル基)、Si4H9BR2 (前記R=H、Ph又はC1〜C10−アルキル基)、赤リン、白リン(P4)、PHxR3-x (前記x=0〜3、且つ前記R=Ph、SiMe3又はC1〜C10−アルキル基)、P7(SiR3)3 (前記R=H、Ph又はC1〜C10−アルキル基)、Si5H9PR2 (前記R=H、Ph又はC1〜C10−アルキル基)、およびSi4H9PR2 (前記R=H、Ph又はC1〜C10−アルキル基)からなる群から選択される少なくとも1つのドープ物質を添加することを特徴とする、請求項1から18までのいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低次ヒドリドシラン化合物から高次ヒドリドシラン化合物を製造するための、迅速且つ金属不含の方法、該方法によって製造可能な高次ヒドリドシラン化合物、およびその使用に関する。かかる材料の金属不含性は、半導体用途および光電子部品のために重要である。
【0002】
ヒドリドシランを包含する、ヒドリドシラン化合物は、文献内で、シリコン層の生成のための可能な出発材料として記載されている。
【0003】
この際、ヒドリドシラン化合物とは、単にケイ素と水素原子とを含有すると理解される。ヒドリドシランは原則的に気体状、液体状または固体状であってよく、且つ、(殊に固形物の場合、)本質的に溶剤、例えばトルエンまたはシクロヘキサン中、または液体のシラン、例えばシクロペンタシラン中で可溶性である。例として、ジシラン、トリシラン、テトラシラン、ペンタシラン、およびネオペンタシランが挙げられる。少なくとも3つもしくは4つのケイ素原子を有するヒドリドシランは、Si−H結合を有する直鎖、分枝鎖または(随意に二/多)環式の構造を有することができ、且つ、好ましくはそれぞれの一般式Si
nH
2n+2 (直鎖もしくは分枝鎖; 前記n≧2)、Si
nH
2n (環式; 前記n=3〜30)、またはSi
nH
2(n-i) (二環式もしくは多環式; 前記n=4〜20; 前記i={環の数}−1)によって記載される。
【0004】
それに対して、ヒドリドシランではないヒドリドシラン化合物とは、置換ヒドリドシランであると理解され、その場合、好ましい置換ヒドリドシラン化合物は、周期律表のIII族、IV族およびV族の元素の化合物に基づく置換基を有するヒドリドシランであり、殊に置換基−BY
2(前記Yは互いに独立して同様に−H、−アルキル、−フェニル)、−C
nR
2n+1(前記Rは互いに独立して同様に−H、−アルキル、−フェニル)、および−PR
2(前記Rは互いに独立して同様に−H、−アルキル、−フェニル、−SiR’
3 (前記R’=−アルキル))を有するものである。
【0005】
原則的に多くのヒドリドシラン化合物、殊にヒドリドシランをケイ素層の製造のために用いることができる場合でも、高次ヒドリドシラン化合物(殊にヒドリドシラン)、即ち、10より多くのケイ素原子を有する相応の化合物のみが、通常の基板のコーティングに際して、その表面を良好に覆い、且つ欠陥の少ない均質な層をみちびくことができることが明らかになっている。これらの理由から、高次ヒドリドシラン化合物(殊に高次ヒドリドシラン)の製造方法は興味深い。多くの高次ヒドリドシラン化合物、殊にヒドリドシランは、低次ヒドリドシラン化合物、殊に低次ヒドリドシランをオリゴマー化することによって製造される。低次ヒドリドシラン化合物もしくはヒドリドシランのかかるオリゴマー化の際、形式的に見て、2つの同一または異なる低次(随意に置換)ヒドリドシラン(化合物)分子から、水素および/またはより小さいヒドリドシリル基を引き抜く(Abstraktion)ことにより、高次ヒドリドシラン(化合物)分子が合成される。
【0006】
例として、DE2139155号A1内には、トリシラン、n−テトラシランおよび/またはn−ペンタシランの熱分解によるヒドリドシランの製造方法が記載されている。しかしながら、該方法は、多くの技術的な手間を必要とし、なぜなら、反応の際にまず出発シランを高真空中で蒸発させ、熱分解を、ガラスウール接触に引き続き行い、且つ、分解生成物を引き続き縮合させ、且つガスクロマトグラフィーで分離しなければならないからである。
【0007】
EP630933号A2は、熱的に半導体材料に変えることができる、縮合物の形成方法を記載している。該縮合物は、少なくとも1つの金属および/または金属化合物を含む触媒の存在中での、モノシラン、ジシランおよびトリシランから選択されるモノマーに基づくヒドリドシランモノマーの脱水素重合反応によって製造される。しかしながら、この製造方法の場合の欠点は、用いられる触媒を反応終了後に手間をかけて除去しなければならないことである。
【0008】
JP6128381号A、US5700400号AおよびUS5252766号Aも、触媒担持ヒドリドシラン合成、つまり、ヒドロシラン化合物を、遷移金属または遷移金属錯体の存在中で変換させることを含む方法を記載している。ここでも、用いられる触媒を反応終了後に手間をかけて除去しなければならないことが欠点である。さらには、相応の触媒系の製造は手間がかかる。
【0009】
US6027705号Aは、モノシランまたはジシランから、トリシランまたは高次シランを製造するための多段階の方法を記載している。第1の反応段階におけるモノシランまたはジシランの変換に由来する縮合物を、第二の反応ゾーンにおいて熱的に(好ましくは250〜450度の温度で)より高い分子量を有するシランの混合物に変換できる。しかしながら、この際、この温度では、高い分子量を有するシランは少ない割合でしか得ることができず、出発材料のモノシランもしくはジシランの他には、生成物混合物中で、3〜7つのケイ素原子を有するシランが本質的に支配的であることが問題である。従って、該方法は、高次ヒドリドシラン化合物、即ち、少なくとも10個のケイ素原子を有するヒドリドシラン化合物の合成のためにて適していない。
【0010】
EP1357154号A1は、光重合性シランをUV光線で照射することによって製造可能であるポリシランを含有する組成物「高次シラン」を記載している。該ポリシランは、MALDI−TOF−MSによって測定された分子量1800g/molまでを有することができ、この際、該分子量分布の最大値は200〜700g/molの間である。ポリシランから製造可能である光重合性シランは、一般式Si
nX
m(前記n≧3、m≧4、X=H、ハロゲン)のシランであってよい。しかしながら、好ましく用いられる化合物は、式Si
nX
2nの環式シラン、式Si
nH
2n-2の二環式もしくは多環式構造、および分子中で環式構造を有する他のシランである。しかしながら、この方法における欠点は、効果的な照射のために、高い光線強度が必要なことである。さらに、均質な生成物(混合物)を形成するために必要な均質なエネルギー供給の制御が難しいことが欠点である。
【0011】
EP1640342号A1は、800〜5000g/molの平均分子量を有するシランポリマーを記載している。このポリマーの製造のために、光重合性シランを特定の波長範囲の光で照射する。光重合性シランとして、一般式Si
iX
2i+2(前記i=2〜10)、Si
jH
2j(前記j=3〜10)、Si
mX
2m-2(前記m=4〜10)およびSi
kH
k(前記k=6、8または10)のシランの群からの化合物を用いることができる。しかしながら、この方法により製造可能なシランポリマーについても、EP1357154号によって製造可能な高次シランに対するものと同じ欠点がある。
【0012】
従って、これに対して、本発明の課題は、従来技術の欠点を回避することである。殊に、本発明の課題は、高次ヒドリドシラン化合物の製造方法であって、技術的にあまり手間がかからず、且つ、殊に熱分解法に基づかず、且つ、手間のかかる金属触媒合成およびその除去を必要とせず、且つ、光重合反応の際の高い光線強度および不均質なエネルギー供給の欠点を回避する前記方法を提供することである。加えて、本発明の課題は、高次ヒドリドシラン化合物を製造するための、金属不含であり、良好に制御可能であり、且つ、穏やかな条件下で進む工程を提供することである。
【0013】
この課題は、ここでは、少なくとも1つの低次ヒドリドシラン化合物(I)を、質量平均分子量少なくとも500g/molを有する少なくとも1つのヒドリドシラン化合物(II)の存在中で熱的に反応させる、低次ヒドリドシラン化合物からの高次ヒドリドシランの製造のための本発明による方法によって解決される。
【0014】
意外なことに、ヒドリドシラン化合物(II)の添加によって、高次ヒドリドシラン化合物への反応を著しく促進できることが判明した。それ故、最初の分のヒドリドシラン化合物(II)をテンプレート且つ自己触媒とみなすことができる。加えて、この方法の長所は、長い反応時間によって、高次ヒドリドシラン化合物の分解、混濁、または変色が起きないことである。さらには、それによって、良好な空時収率を有する工程を提供することができる。
【0015】
この際、ヒドリドシラン化合物の用語は、ヒドリドシラン、即ち、単にケイ素原子と水素原子を含有する化合物も、置換ヒドリドシラン化合物も包含し、この場合、好ましい置換ヒドリドシラン化合物は、周期律表のIII族、IV族およびV族の元素の化合物に基づく置換基を有するヒドリドシランであり、殊に置換基−BY
2(前記Yは互いに独立して同様に−H、−アルキル、−フェニル)、−C
nR
2n+1(前記Rは互いに独立して同様に−H、−アルキル、−フェニル)、および−PR
2(前記Rは互いに独立して同様に−H、−アルキル、−フェニル、−SiR’
3 (前記R’=−アルキル))を有するものである。
【0016】
低次ヒドリドシラン化合物からの高次ヒドリドシラン化合物の製造方法とは、さらに、高次ヒドリドシラン化合物、殊にヒドリドシランを、低次ヒドリドシラン化合物、殊に低次ヒドリドシランのオリゴマー化によって製造する方法であると理解される。低次ヒドリドシラン化合物もしくはヒドリドシランのかかるオリゴマー化の際、形式的に見て、2つの同一または異なる低次(随意に置換)ヒドリドシラン(化合物)分子から、水素および/またはより小さいヒドリドシリル基を引き抜くことにより、高次ヒドリドシラン(化合物)分子が合成される。
【0017】
高次ヒドリドシラン化合物の製造のための本発明による方法は、金属触媒を必ず用いなければならないわけではないという大きな利点を有している。しかしながら、例えば手間のかかる触媒分離が回避されるので、本発明による方法を金属触媒不含で実施することが好ましい。従って、高次ヒドリドシラン化合物を製造するための、相応の金属触媒不含の方法は、同様に本発明の対象である。
【0018】
本発明による方法によって製造できる高次ヒドリドシラン化合物は、平均して少なくとも26個のケイ素原子(従って、質量平均分子量は少なくとも800g/mol)を有する、相応のヒドリドシラン化合物である。原則的に、本発明による方法を用いて、任意の高い質量平均分子量を有する高次ヒドリドシラン化合物を製造できる。しかしながら、質量平均分子量1000〜10000g/molを有する高次ヒドリドシラン化合物の製造のために特に良好に適しており、質量平均分子量1000〜3000g/molを有する高次ヒドリドシラン化合物の製造のためにさらにより良好に適している。この際、相応の質量平均分子量は、ポリスチレンに基づく標準的なGPC技術を用いて測定される。
【0019】
この際さらに、本発明によって用いられるべき低次ヒドリドシラン化合物(I)とは、高次ヒドリドシラン化合物ではないヒドリドシラン化合物、即ち、平均して10個以下のケイ素原子を有するヒドリドシラン化合物であると理解される。平均して3〜10個のケイ素原子を有するヒドリドシラン化合物(I)を用いた反応が、特に良好な結果をもたらすので、好ましい。本発明による方法はさらに、低次ヒドリドシランである低次ヒドリドシラン化合物を用いて特に良好に実施される。
【0020】
とりわけ特に好ましくは、本発明による方法を、一般式Si
nH
2n+2(前記n=3〜10)の直鎖もしくは分枝鎖のヒドリドシランの群から選択される低次ヒドリドシラン(I)を用いて実施する。これらは容易に製造され、且つさらには、半導体用途におけるコーティングのために特に良好な適合性を有する高次ヒドリドシランを製造することができる。低次ヒドリドシラン化合物(I)として、SiH(SiH
3)
3、Si(SiH
3)
4、Si(SiH
3)
3(SiH
2SiH
3)、Si(SiH
3)
2(SiH
2SiH
3)
2、Si(SiH
3)(SiH
2SiH
3)
3およびSi(SiH
2SiH
3)
4からなる群から選択されるヒドリドシランを用いることがさらに好ましく、なぜなら、それがさらに良好な特性をもたらすからである。少なくとも1つのヒドリドシラン化合物(I)がネオペンタシラン(Si(SiH
3)
4)である場合、分子の対称性が高いこと、およびそこから生じる一様なオリゴマーに基づき、特に良好な結果が達成される。
【0021】
原則的に、少なくとも1つの低次ヒドリドシラン化合物(I)として、1つのヒドリドシラン化合物、または複数のヒドリドシラン化合物の混合物を用いることができる。しかしながら、1つの低次ヒドリドシラン化合物(I)のみ、さらに好ましくは1つの低次ヒドリドシランのみが用いられる場合、該反応は特に良好にコントロールまたは制御可能である。
【0022】
さらに、少なくとも1つの低次ヒドリドシラン化合物(I)を、少なくとも500g/molの質量平均分子量を有する、少なくとも1つのヒドリドシラン化合物(II)の存在中で反応させる。相応のヒドリドシラン化合物(II)は、高次ヒドリドシラン化合物である。しかしながら、少なくとも500g/molの質量平均分子量を有するヒドリドシラン化合物(II)を用いた、少なくとも1つの低次ヒドリドシラン化合物(I)の変換の際、ヒドリドシラン化合物(II)によって促進された、ヒドリドシラン化合物(I)のオリゴマー化、または、両方の成分(I)および(II)の変換が生じるので、本発明による方法の工程産物は、成分(I)および(II)を有する反応混合物の、GPC測定により算出可能な質量平均分子量よりも高い質量平均分子量を有する。
【0023】
原則的に、少なくとも500g/molの質量平均分子量を有するすべての任意のヒドリドシラン化合物(II)を用いることができる。しかしながら、好ましくはそれらの化合物は質量平均分子量500〜5000g/mol、好ましくは1000〜4000g/molを有する。
【0024】
この際、どのようにして少なくとも1つのヒドリドシラン化合物(II)を製造したかは、原則的に重要ではない。しかしながら、少なくとも500g/molの質量平均分子量を有する少なくとも1つのヒドリドシラン化合物(II)が、低次ヒドリドシランの熱処理により製造可能なヒドリドシラン化合物である場合に、特に良好な結果が達成される。これは、殊に照射工程によって製造可能な、少なくとも500g/molの質量平均分子量を有するヒドリドシラン化合物に対して、その質量平均分子量を反応パラメータの値によって比較的良好に制御でき、それにもかかわらず、比較的迅速且つわずかな装置的な手間で製造でき、且つ、有利な層特性をもたらすという利点を有する。
【0025】
とりわけ特に好ましくは、少なくとも1つのヒドリドシラン化合物(II)として、式Si
nH
2n (前記n=3〜10)、Si
nH
2n+2 (前記n=3〜10)もしくはSi
nH
2n-2 (前記n=6〜10)の低次ヒドリドシランの熱処理によって製造された、少なくとも500g/molの質量平均分子量を有するヒドリドシランを用いる。
【0026】
さらに好ましくは、少なくとも1つのヒドリドシラン化合物(II)として、ネオペンタシラン(Si
5H
12)の熱処理によって製造可能な、質量平均分子量500〜5000g/mol、特に好ましくは1000〜4000g/mol、およびとりわけ特に好ましくは1500〜3000g/molを有するヒドリドシランを用いる。
【0027】
この際、高次ヒドリドシラン化合物(II)の製造のための低次ヒドリドシランの熱処理のために好ましい温度は、30〜250℃の間、好ましくは90〜180℃の間、特に好ましくは110〜160℃の間である。好ましい反応時間は、400〜1500分の間、好ましくは450〜1000分の間である。
【0028】
ヒドリドシラン化合物(II)の製造のための相応の方法が、唯一の構造式に相応する工程産物をもたらすわけではないので、ここでは、「1つの」高次ヒドリドシラン化合物とは、1つの分子量分布を有し且つ唯一の合成手段に由来するヒドリドシラン化合物の混合物と理解される。従って、異なる合成手段に由来するヒドリドシラン化合物の混合物が用いられる場合は、「1つ」より多くの高次ヒドリドシラン化合物(II)である。好ましくは、この定義の意味における「1つの」ヒドリドシラン化合物(II)のみが用いられ、なぜなら、これが相応して、製造されるべき高次ヒドリドシラン化合物の分子量分布の特に良好な制御を可能にするからである。
【0029】
少なくとも1つのヒドリドシラン化合物(II)が、低次ヒドリドシラン化合物(I)およびヒドリドシラン化合物(II)の総質量に対して、0.01〜10質量%、好ましくは0.5〜5質量%の質量パーセント割合で用いられる場合、特に迅速な反応時間が達成される。
【0030】
少なくとも1つのヒドリドシラン化合物(II)の存在中での少なくとも1つの低次ヒドリドシラン化合物(I)の変換方法は、原則的には任意に実施できる。本発明による方法を、液相法として、即ち、少なくとも1つの低次ヒドリドシラン化合物(I)および少なくとも1つのヒドリドシラン化合物(II)を含有するか、もしくはそれらからなる反応混合物が、反応の際に液相で存在する方法として実施することが、該方法の構成について特に容易であり且つさらに特に良好な収率をもたらすので、特に好ましい。
【0031】
この際、好ましくは、液相中での反応の際、溶剤を用い、なぜなら、それによって分子量分布が影響され、反応を特に良好にコントロールでき、且つ、非常に均質な分子量分布を得ることができるからである。この際、好ましく用いられる溶剤は、直鎖、分枝鎖もしくは環式の、飽和、不飽和または芳香族の、1〜12個の炭素原子を有する炭化水素、アルコール、エーテル、カルボン酸、エステル、ニトリル、アミド、スルホキシド、および水からなる群から選択できる。
【0032】
この際、特に良好な結果を達成するために、組成物の総質量に対して好ましくは20〜80質量%の溶剤を用いる。
【0033】
さらには、該反応を熱的に実施する。この際、そのために必要なエネルギーの供給は、マイクロ波照射、IR照射を用いて、並びに、ヒートプレート、サーモスタット、ヒートジャケット、またはオーブンを用いてもたらすことができる。この際、特に良好な結果を達成するために、反応を30〜250℃、好ましくは90〜180℃、特に好ましくは110〜160℃の温度(反応混合物の温度)で実施する。
【0034】
好ましい反応時間は、0.1〜12時間の間、さらに好ましくは1〜8時間の間、とりわけ特に好ましくは2〜6時間の間である。
【0035】
特に良好にドープされたケイ素層を製造できる、好ましい高次ヒドリドシラン化合物を達成するために、該反応混合物に、反応の前または反応の間に、B
2H
6、BH
xR
3-x (前記x=0〜2、且つ前記R=C
1〜C
10−アルキル基、不飽和の環式C
2〜C
10−アルキル基)、エーテルまたはアミンが錯化されたBH
xR
3-x (前記x=0〜3、且つ前記R=C
1〜C
10−アルキル基、不飽和の環式C
2〜C
10−アルキル基)、Si
5H
9BR
2 (前記R=H、Ph、C
1〜C
10−アルキル基)、Si
4H
9BR
2 (前記R=H、Ph、C
1〜C
10−アルキル基)、赤リン、白リン(P
4)、PH
xR
3-x (前記x=0〜3、且つ前記R=Ph、SiMe
3、C
1〜C
10−アルキル基)、P
7(SiR
3)
3 (前記R=H、Ph、C
1〜C
10−アルキル基)、Si
5H
9PR
2 (前記R=H、Ph、C
1〜C
10−アルキル基)、およびSi
4H
9PR
2 (前記R=H、Ph、C
1〜C
10−アルキル基)からなる群から選択される、好ましくは少なくとも1つのドープ物質を添加することができる。
【0036】
この際、好ましくは少なくとも1つのドープ物質を、組成物の総質量に対して0.01〜20質量%の量で添加する。
【0037】
さらに、本発明の対象は、本発明による方法によって得られる高次ヒドリドシラン化合物である。本発明による方法によって得られるヒドリドシランは、これを用いて特に良好な純度のケイ素層を製造できるので、特に好ましい。
【0038】
さらに、本発明の対象は、本発明によって製造可能な高次ヒドリドシラン化合物を、好ましくは、本発明によって製造可能な高次ヒドリドシランを、光電子部品の層、電子部品の層またはケイ素含有層を生成するために、殊に元素のケイ素層を製造するために用いる使用である。
【0039】
以下の実施例は、本発明の対象を明確にするものである。しかしながら、それは、限定するためのものではない。
【0040】
実施例:
全ての実施例は、保護ガス雰囲気下で実施される。H
2O、O
2<1ppm。
【0041】
本発明による実施例:
シード添加(Animpfen)によるネオペンタシランSi(SiH
3)
4の熱処理:
0.5gのヒドリドシラン化合物(II)(比較例1によって製造)を、ガラス器具に入れ、且つ155℃に加熱する。次に、10gのネオペンタシランをそれに添加し、且つ、該反応混合物を200分、熱処理する。冷却後のGPC測定による質量平均分子量2130g/molを有する、高次ヒドリドシラン約7gが生じる。
【0042】
比較例1)
ネオペンタシランSi(SiH
3)
4の熱処理:
約10gのネオペンタシランをガラス器具に入れ、且つ、480分、154℃に加熱する。冷却後のGPC測定による質量平均分子量2200g/molを有する、ヒドリドシランが生じる。
【0043】
比較例2)
ネオペンタシランSi(SiH
3)
4のUV照射:
2gのネオペンタシランを、ガラス容器に入れ、且つ、840分、UV光で照射する。GPC測定による質量平均分子量930g/molを有する、わずかな量のヒドリドシランが生じる。