特許第5808479号(P5808479)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5808479脂肪酸の自己触媒エステル化のための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5808479
(24)【登録日】2015年9月18日
(45)【発行日】2015年11月10日
(54)【発明の名称】脂肪酸の自己触媒エステル化のための方法
(51)【国際特許分類】
   C11C 3/10 20060101AFI20151021BHJP
   C11C 3/06 20060101ALI20151021BHJP
   C10L 1/02 20060101ALI20151021BHJP
【FI】
   C11C3/10
   C11C3/06
   C10L1/02
【請求項の数】14
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-504311(P2014-504311)
(86)(22)【出願日】2012年4月12日
(65)【公表番号】特表2014-510823(P2014-510823A)
(43)【公表日】2014年5月1日
(86)【国際出願番号】EP2012056630
(87)【国際公開番号】WO2012140111
(87)【国際公開日】20121018
【審査請求日】2013年12月10日
(31)【優先権主張番号】1100281.3
(32)【優先日】2011年4月14日
(33)【優先権主張国】SE
(73)【特許権者】
【識別番号】509005513
【氏名又は名称】アルファ−ラヴァル・コーポレート・アーベー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100089037
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】スザンヌ・ジョンソン
(72)【発明者】
【氏名】ベント・サルプ
【審査官】 井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】 特表平08−500598(JP,A)
【文献】 特開昭57−016878(JP,A)
【文献】 特表2007−502271(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11B 1/00−15/00
C11C 1/00− 5/02
C10L 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遊離脂肪酸を含む脱臭留出物から、微量栄養素を単離するための方法であって、
(i)自己触媒されるグリセロールとのエステル化ステップにおいて脱臭留出物を処理し、アシルグリセリド供給原料を生成し、過剰なグリセロールおよび生成した水を排出するステップと、
(ii)1500ppm未満の含水量および3wt%未満の遊離脂肪酸含有量を有するアシルグリセリド供給原料を、エステル交換ステップに移し、メタノールによりアシルグリセリド供給原料を処理して、粗製バイオディーゼル生成物を生成するステップと、
(iii)蒸留ステップにおいて粗製バイオディーゼル生成物を精製し、粗製バイオディーゼル生成物を、3つの留分、1)脂肪酸メチルエステル、2)トコフェロールを含む、微量栄養素に富む生成物、および3)軽質炭化水素に分離するステップと
を含み、前記脱臭留出物が、エステル化ステップ(i)に入る前に、50〜90℃の範囲内の温度に予熱される、方法。
【請求項2】
前記脱臭留出物が、エステル化ステップ(i)に入る前に、2〜50mbarの範囲内の真空中で脱気される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
初期質量比脱臭留出物対グリセロールが、5:4未満であった、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
エステル化ステップ(i)における前記脱臭留出物が、10wt%超〜100wt%遊離脂肪酸の範囲内の遊離脂肪酸初期含有量を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
エステル化ステップ(i)が、2〜500mbarの範囲内の真空中で行われる、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
エステル化ステップ(i)が、最終エステル化時間の間の減圧も含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
エステル化ステップ(i)における減圧が、100〜20mbarの範囲内である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
エステル化ステップ(i)における減圧が、エステル化の最終60分の間に実施される、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
エステル化ステップ(i)におけるエステル化が、140から200℃の範囲内の温度で行われる、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
エステル化ステップ(i)が、前処理された油を、アシルグリセリド供給原料に添加することを含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
エステル交換ステップ(ii)が、粗製バイオディーゼル生成物を生成するための、アルカリ触媒の添加を含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
エステル交換ステップ(ii)が、グリセロールの放出を含み、放出された前記グリセロールが、前処理され、エステル化ステップ(i)において使用される、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
蒸留ステップ(iii)が、130〜280℃の温度範囲内の温度で行われる、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
蒸留ステップ(iii)が、真空システムにおいて、0.001〜7mbarの範囲内の吸引圧力下で行われる、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遊離脂肪酸に富む油から、微量栄養素およびバイオディーゼルを単離するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ほとんどの食用油は、精製工程を経る。その精製工程の最後の処理ステップが脱臭であり、そこで、遊離脂肪酸、すなわちFFAを含む副産物または留出物が生成される。FFAの他に、留出物はまた、トコフェロールおよびトコトリエノール、すなわち、ビタミンEおよび抗酸化物質などの有益な成分も含有し、他の成分は、ステロールおよびスクアレンであり、これらの成分は、しばしば微量栄養素として知られているグループとして言及される。
【0003】
食用油業界における現在の傾向は、酵素を使用することである。適切な酵素は、粗製食用油のリン含有成分を非常に低い濃度、すなわち、ppmレベルにまで除去できる、ホスホリパーゼAである。しかし、この方法の副作用により、FFAの生成が増加し、その増加により、脱臭留出物中の微量栄養素がさらに希薄になる。
【0004】
近年、いくつかの精製装置は、それらの脱臭部に、ダブルスクラバー(double scrubber)として知られているものにおいて高温の凝縮域を含んでいる。ダブルスクラバーは、例えば、米国特許第6,750,359号に開示されている。ダブルスクラバーは、微量栄養素に富むプロセス流を取り出すために使用し得る。しかし、ダブルスクラバー装置の使用は、FFAに富む塔頂流における微量栄養素の著しい損失につながる可能性がある。そのような手法の大きな制限は、その主な機能が、真空下の蒸気によるストリッピングにより食用油を生成することである、脱臭装置の運転条件に、分離効率が関連することである。
【0005】
脂肪酸メチルエステルを生成するための、メタノールによる脂肪酸のエステル化は、既知であり、硫酸などの強酸を触媒として使用する複数のステップで、産業界において実践されていることが多い。任意のメタノールエステル化の1つの欠点は、平衡転化率制限であり、反応により生成される水を除去するが、それにより、回収しなければならないメタノールも同時に除去することによってのみ克服される。
【0006】
エステル化のためにメタノールの代わりにグリセロールを使用して、FFAを、メチルエステルの代わりにグリセリドに変換する。ZnOもしくはZnCl2または酵素触媒または固相触媒などの異なるタイプの触媒を使用した、FFAのグリセロールエステル化が記載されている。触媒を使用することは、大規模な商業生産にとって受け入れ難い、資本および運転コストならびに流出流の添加を課すこととなる。例えば、亜鉛は、水生生物にとって環境上有毒であると考えられる。グリセロールの酵素的エステル化は、WO2008/125574により開示されている。
【0007】
微量栄養素を精製する方法は、例えば、米国特許第7,368,583号に開示されているような、真空蒸留、エステル化、エステル交換、鹸化、短行程蒸留などのいくつかの処理ステップを含み得る。そうした方法に共通なことは、精製プラントの大きさを縮小させ、微量栄養素の収率を上げるだけでなく、供給流を精製設備に導く輸送のコストも下げるためにも、微量栄養素の濃縮流を、それらの方法に対する供給流として有することが非常に好ましいことである。
【0008】
既知の方法によるトコフェロール濃縮物の濃縮のための真空蒸留法の1つの問題は、FFAに富む生成された留出物による、トコフェロールおよびステロールの著しい損失である。トコフェロールから遊離脂肪酸を除去するときの、トコフェロールの損失の理由の1つは、それらの類似の蒸気圧である。また、トコフェロールの保存およびさらなる精製は、トコフェロールが酸化されやすいので、特別の注意を必要とする。
【0009】
したがって、微量栄養素をより高度に精製できる、より特定的な方法の必要性が明らかに存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第6,750,359号
【特許文献2】WO2008/125574
【特許文献3】米国特許第7,368,583号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、本発明は、上述の問題の解決法を提供する。本発明の目的は、以下である:
・微量栄養素に富む油をメチルエステルに転換し、それにより、バルク流からの微量栄養素の分離を容易にすること。
・メチルエステルからのバイオディーゼルの同時生成によって、より有益な微量栄養素流の生成を組み合わせること。
・外部から添加される触媒を利用することなく、グリセロールを使用するエステル化によりアシルグリセリドを生成するために、遊離脂肪酸含有量が高い脂肪原材料を利用すること。
・様々な遊離脂肪酸含有量を有する広範囲の原材料に対応できるエステル化方法を提供すること。
・メチルエステルの生成に使用する供給物における水を除去すること(さもなければ、メタノールの乾燥設備が必要になる)。
【0012】
本発明のこれらのおよびさらなる目的は、以下の説明および実施例から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、微量栄養素およびバイオディーゼルを単離するための新規の方法により、FFAに富む留出物によるトコフェロールおよびステロールの損失の問題の解決法を提供する。新規の方法によれば、脱臭留出物の微量栄養素の富化をもたらすことが可能となる。本発明は、遊離脂肪酸を含む脱臭留出物から、微量栄養素を単離するための方法に関する。該方法は、
(i)自己触媒されるグリセロールとのエステル化ステップにおいて脱臭留出物を処理し、アシルグリセリド供給原料を生成し、過剰なグリセロールおよび生成した水を排出するステップと、
(ii)1500ppm未満の含水量および3wt%未満の遊離脂肪酸含有量を有するアシルグリセリド供給原料を、エステル化ステップ(i)からエステル交換ステップに移し、メタノールによりアシルグリセリド供給原料を処理して、粗製バイオディーゼル生成物を生成するステップと、
(iii)蒸留ステップにおいて粗製バイオディーゼル生成物を精製し、粗製バイオディーゼル生成物を、3つの留分、1)脂肪酸メチルエステル、2)トコフェロールを含む、微量栄養素に富む生成物、および3)軽質炭化水素に分離するステップと
を含む。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明による方法全体を示す図である。
図2】本発明によるグリセロールエステル化ステップを示す図である。
図3】実施例5の試験結果のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
FFAに富む流れから微量栄養素およびバイオディーゼルを単離するための本発明の方法は、上述したステップ、すなわち、
エステル化ステップ(i)と、
エステル交換ステップ(ii)と、
蒸留ステップ(iii)と
を含む。
【0016】
エステル化ステップ(i)は、脱臭留出物のエステル化を含む。エステル化は、グリセロールを用いて実施され、アシルグリセリド供給原料を生成する。該方法は、真空システムにより、生成した水を排出するステップも含む。幸運なことに、実現可能な滞留時間内でエステル化反応条件を最適化することにより、脂肪酸は、触媒を添加することまたは酵素を添加することなく、十分に低いレベルに転化させることができ、したがって、脂肪酸の固有の自己触媒能に依存し得ることが判明した。言及したすべてのwt%は、重量パーセントである。
【0017】
エステル交換ステップ(ii)は、乾燥した供給原料ブレンドを、エステル交換ステップに移し、その供給原料をメタノールにより処理することを含む。一代替案によれば、その供給原料を処理して、粗製バイオディーゼルを生成するために、アルカリ触媒を使用することができる。
【0018】
蒸留ステップ(iii)は、蒸留により粗製バイオディーゼル生成物を精製し、粗製バイオディーゼル生成物を、3つの留分に分離することを含む。
【0019】
該方法の1つの代替案によれば、脱臭留出物がエステル化ステップ(i)に入る前に、脱臭留出物は、約2〜約50mbarの範囲内の真空中で脱気させることができる。別の代替案によれば、脱臭留出物は、約5〜約30mbarの範囲内の真空中で脱気させることができる。
【0020】
別の代替案によれば、脱臭留出物を、エステル化ステップ(i)に入る前に予熱することができる。予熱は、約50〜約90℃の範囲内の温度にすることができる。別の代替案によれば、方法は、脱臭留出物を、エステル化ステップに入る前に、約60〜約70℃の範囲内の温度に予熱し得ることを含む。
【0021】
本発明の方法によれば、エステル化ステップ(i)におけるエステル化において、初期質量比脱臭留出物対グリセロールが、5:4未満であった。別の代替案によれば、エステル化ステップ(i)における、グリセロールに対する初期質量比は、約5:1〜約5:4の範囲内であり得る。別の代替案によれば、初期質量比脱臭留出物対グリセロールは、約4:1〜約4:3の範囲内であり得る。さらに別の代替案によれば、初期質量比脱臭留出物対グリセロールは、約10:3〜約10:7の範囲内であり得る。
【0022】
本発明の方法の一代替案によれば、エステル化ステップ(i)における脱臭留出物は、約10wt%超〜約100wt%遊離脂肪酸の範囲内の遊離脂肪酸初期含有量を有し得る。
【0023】
本発明の方法の一代替案によれば、エステル化ステップ(i)は、3wt%未満のFFAの含有量を有するエステル化生成物を与えることを含んでもよい。適切には、エステル交換ステップの1つの代替案によるFFAの目標値は、1.5wt%未満の目標値を有することであろう。別の代替案によれば、グリセロールエステル化ステップのFFAの値は、約0.2〜約1.2wt%FFAの範囲内であることが適切であろう。適切には、予熱された油は、最大で0.8wt%の遊離脂肪酸含有量を有することになる。さらに別の代替案によれば、目標値は、約0.5〜約0.8wt%FFAの範囲内であり得る。エステル化ラインにわたるトコフェロールの損失は、適切には、エステル化ラインの未精製の油/脂肪におけるトコフェロールの1wt%を超えないであろう。
【0024】
本発明の方法の一代替案によれば、エステル化ステップ(i)は、約2〜約500mbarの範囲内の真空中で行うことができる。本発明の別の代替案によれば、エステル化は、約10〜約300mbarの範囲内の真空中で行うことができる。本発明のさらに別の代替案によれば、エステル化は、約40〜約130mbarの範囲内の真空中で行うことができる。
【0025】
本発明の方法の一代替案によれば、エステル化ステップ(i)はまた、最終エステル化時間の間の減圧を含むこともできる。別の代替案によれば、エステル化ステップ(i)における減圧は、約100〜約20mbarの範囲内であり得る。さらに別の代替案によれば、エステル化ステップ(i)の減圧は、約100〜約30mbarの範囲内であり得る。さらに別の代替案によれば、エステル化ステップ(i)における減圧は、約80〜約50mbarの範囲内であり得る。
【0026】
本発明の方法の一代替案によれば、エステル化ステップ(i)はまた、エステル化の最終60分の間に実施されてもよい減圧を含んでもよい。別の代替案によれば、減圧は、最終40分の間に実施されてもよい。さらに別の代替案によれば、減圧は、エステル化ステップ(i)の最終20分の間に実施されてもよい。
【0027】
本発明の方法の一代替案によれば、エステル化ステップ(i)において、エステル化は、約140〜約200℃の範囲内の温度で行うことができる。本発明の別の代替案によれば、エステル化は、約180〜約200℃の範囲内の温度で行うことができる。
【0028】
本発明の方法の一代替案によれば、エステル化ステップ(i)は、予熱された油を、アシルグリセリド供給原料ブレンドに添加することを含む。
【0029】
本発明の方法の一代替案によれば、エステル化ステップ(i)において、アシルグリセリド供給原料は、エステル交換ステップに移されるとき、500ppm未満の含水量を有し得る。別の代替案によれば、アシルグリセリド供給原料は、エステル交換ステップに移されるとき、400ppm未満の含水量を有し得る。別の代替案によれば、アシルグリセリド供給原料は、エステル交換ステップに移されるとき、300ppm未満の含水量を有し得る。
【0030】
本発明の方法の一代替案によれば、エステル交換ステップ(ii)は、粗製バイオディーゼル生成物を生成するための、アルカリ触媒の添加を含むことができる。
【0031】
本発明による方法は、エステル交換ステップ(ii)が、グリセロールの放出を含むことを含んでもよい。放出されたグリセロールを、前処理し、エステル化ステップ(i)において使用することができる。前処理は、メタノール蒸発および中和(アルカリ触媒を使用した場合)、その後に、形成された塩の分離を含むことができる。
【0032】
本発明の方法の一代替案によれば、蒸留ステップ(iii)は、約130〜約280℃の温度範囲内の温度で行うことができる。別の代替案によれば、蒸留ステップ(iii)は、約200〜約270℃の温度範囲内の温度で行うことができる。さらに別の代替案によれば、蒸留ステップ(iii)は、約220〜約270℃の温度範囲内の温度で行うことができる。本発明の一代替案によれば、その方法は、蒸留ステップにおける蒸留が、真空システムにおいて、約0.001〜約7mbarの範囲内の吸引圧力下で行い得ることを含んでもよい。別の代替案によれば、方法は、蒸留ステップ(iii)が、真空システムにおいて、約0.5〜約4mbarの範囲内の吸引圧力下で行われることを含んでもよい。さらに別の代替案によれば、方法は、蒸留ステップ(iii)が、真空システムにおいて、約1.5〜約3mbarの範囲内の吸引圧力下で行われることを含んでもよい。
【0033】
本発明の一代替案によれば、方法は、蒸留ステップにおける蒸留が、約130〜約280℃の温度範囲内の温度で、約0.001〜約7mbarの範囲内の吸引圧力下で行い得ることを含んでもよい。別の代替案によれば、蒸留ステップは、約220〜約260℃の温度範囲内の温度で、真空システムにおいて、約1.5〜約3mbarの吸引圧力で行うことができる。
【0034】
本発明は、バイオディーゼルへのエステル交換前に、FFAをアシルグリセリドに転化する手段を含む。エステル化ステップ(i)におけるエステル化のために、メタノールの代わりにグリセロールを使用することにより、水とグリセロールとの間の蒸気圧が大きく相違しているので、アルコールを大幅に除去することなく、水を除去することができる。このようにして、熱力学により課された転化率制限を克服することができる。また、エステル化ステップ(i)の最終生成物を、乾燥したものとみなすことができ、したがって、それに続くメチルエステルへのメタノールエステル交換は、いかなる前処理もなしで可能になり得る。加えて、エステル交換から回収されるメタノールは、いかなる乾燥法もなしで回収し、再使用することができる。メタノールエステル交換および蒸留と併せてグリセロールエステル化を含む、本発明の方法の1つの利点は、グリセロールを使用して、脂肪酸をエステル化し、バイオディーゼル製造における従来のエステル化で実践されているようにメタノールが使用された場合のようにアルコールを除去することなく、水を除去できることである。水の除去は、脂肪酸の高い転化レベルを実現するために必要となる。なぜなら、より高い平衡転化率は、水のより低い活性レベルで得ることできるからである。同時に、アルコール、すなわち、グリセロールは、必要な反応物であり、高い濃度は、反応速度と高い平衡転化率の両方を促進する。
【0035】
驚くべきことに、実現可能な滞留時間内でエステル化反応条件を最適化することにより、脂肪酸は、触媒を添加することなく、十分に低いレベルに転化させることができ、したがって、脂肪酸の自己触媒能に依存し得ることが判明した。
【0036】
したがって、本発明は、グリセロールエステル化のための方法、および、微量栄養素の生成について驚くべき高い経済的利益を与えるために、このグリセロールエステル化法を使用することを提供する。
【0037】
これを回避するためには、脂肪酸を、それらの対応するメチルエステル、すなわち、脂肪酸メチルエステル(FAME)に転化させることが有利である。脂肪酸メチルエステルは、それらの対応する脂肪酸よりも著しく高い蒸気圧を有する。このことは、真空蒸留によるそれらの分離を容易にし、それは、設定するのに経済的である真空レベルで、比較的低い温度を使用しながら、トコフェロールおよび他の有益な微量栄養素の収率を最大にすることができることを意味する。
【0038】
バイオディーゼルプロセスは、8wt%より高いFFA含有量を有する油の処理の問題を有する。したがって、約8〜100wt%FFAの範囲内の含有量を有する油について、FFAを減らし、エステル交換方法においてバイオディーゼルにさらに転化できるグリセリドに転化するために、油を前処理することが必要となる。
【0039】
さらに、さらなる利点は、グリセロールエステル化の間の処理の過酷さは、比較的低い、すなわち、最大200℃であり、これにより、アクロレインおよびジグリセロールなどの望ましくない副産物の形成を減らすことができることであろう。
【0040】
FFAをそれらのメチルエステルに転換させることにより、微量栄養素に富む生成物流の分離を、比較的穏やかで、経済的に実現可能な真空蒸留によって容易にする。
【0041】
微量栄養素を、エステル交換から生じた生成物流から取り出すことにより、微量栄養素に富む価値の高い生成物を形成するという利点を与え、高純度の脂肪酸メチルエステル流ももたらす。さもなければ、EN14214などのバイオディーゼル規格に従う、非常に高い「不鹸化物」含有量を有するであろう。
【0042】
この方法のトコフェロールに富む生成物は、高品質および高価値、ならびにバイオディーゼル生成物よりもさらに高い価値を有する。したがって、この新しい方法は、異なる用途で使用し得る2つの生成物を生成することにより利益を得る。
【0043】
以下において、本発明を、図面および実施例を用いて説明する。図面および実施例は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定すべきものではない。
【0044】
図1において、バイオディーゼルおよび微量栄養素を単離するための方法を示す。図1によれば、脱臭留出物1中の遊離脂肪酸(FFA)を、グリセロールエステル化ステップ(i)において、再循環グリセロールと反応させる。遊離脂肪酸は、グリセロールにより、アシルグリセリド供給原料に転化させる。水4は、このステップにおいて、エステル化反応の副産物として形成され、水を、ステップ(i)における系から出す。グリセロールエステル化ステップからの生産物流は、いかなる追加の前処理した油もなしで、エステル交換ステップ(ii)のためのアシルグリセリド供給原料として適切であり得る。別の代替案によれば、グリセロールエステル化ステップ(i)からの生産物流は、前処理した油2の流れと組み合わせて、アシルグリセリド供給原料とともに供給原料ブレンドを形成でき、それは、エステル交換反応ステップ(ii)に適している。供給原料流は、エステル交換ステップにおいて、メタノール3、および場合によりアルカリ触媒によって処理され、粗製バイオディーゼル生成物を生成する。放出されたグリセロールは、前処理された場合、エステル化ステップ(i)において使用することができる。前処理は、メタノール蒸発および中和(アルカリ触媒を使用した場合)、その後に、形成された塩の分離を含む。次いで、エステル交換ステップの粗製バイオディーゼル生成物は、蒸留ステップ(iii)、すなわち、真空蒸留塔において精製される。蒸留ステップにおいて、粗製バイオディーゼル留分は、蒸留により、脂肪酸メチルエステル(FAME)、すなわち、バイオディーゼル10の流れ、微量栄養素に富む生成物9の流れ、および軽質炭化水素8の流れに分離される。蒸留ステップへ漏入(inleakage)または流入空気5は、さらなる処理のために真空システムに進む、非凝縮物7の流れを与えるであろう。この実施形態によるプロセスについての全体の物質収支の例を、表1にまとめる。
【0045】
【表1】
【0046】
図2は、グリセロールエステル化ステップを示す。グリセロールエステル化ステップにおいて、FFAに富む供給原料とグリセロールとを組み合わせて、供給原料ブレンドを形成する。次いで、供給原料ブレンドを効率的に利用し、グリセロールエステル化反応器から出た流出物の顕熱(sensitive heat)を利用する。最終の加熱器において、供給原料ブレンドを反応温度にする。一代替案によれば、反応温度は、反応の最初により低く、最後により高くすることができる。これにより、微量栄養素の劣化とグリセロールの同時蒸発の両方が最小限に抑えられる。
【0047】
可逆的であり得るグリセロールエステル化により、FFAは、グリセロールと反応し、水と、トリ-、ジ-、およびモノアシルグリセリドとの混合物を形成する。これらのグリセリドは、しばしば、TAG、DAG、MAGと略される。グリセロールエステル化ステップ(i)からの生成物、すなわち、アシルグリセリド供給原料ブレンドは、供給原料として、下流のエステル交換ステップ(ii)に適切に移される。エステル化反応は、真空中で適切に行われる。真空は、水、および他の揮発性物質、例えば、微量栄養素を劣化させ得る漏入または流入空気を反応環境から逃れさせ、生成物除去による、達成可能な平衡転化率を高めることを可能にする。反応器からの蒸気流中には、同時蒸発したグリセロールもいくらか存在するであろう。本発明の一実施形態によれば、凝縮段階は、グリセロールを真空システムに逃れさせて、結果的にプラントからの流出物にするのではなく、好ましくは、グリセロールを凝縮し、このグリセロールを回収するために含めることができる。
【0048】
反応は、外部の触媒の非存在下で、すなわち、自己触媒反応として進行し、そこでは、ブレンステッド酸性の脂肪酸が触媒として働く。
【0049】
流入する供給原料とともに効率的に利用した後、反応器の流出物は、グリセロール相から生成油を分離する、液-液分離段階に入る。場合により、一部のグリセロールは、例えば、好ましくはグリセロール相に可溶な触媒の再使用を増やし得る場合、グリセロールエステル化段階に再循環できる。
【0050】
グリセロールエステル化方法は、約70〜約90℃の範囲内の温度を有する均質化した予熱された供給原料が、供給タンク経由でまたは貯蔵所からプラントに入るステップを含む。原料油(feed oil)は、スクリーンフィルターを通す供給ポンプにより、所望の流速で送り込む。グリセロールは、1つまたは2つのポンプにより、制御された速度で注入する。混合物は、ミキサーまたはブレンダー中の油と十分に接触させる。次いで、混合物を、1つまたは2つのエコノマイザー中で約160℃くらいの温度に加熱してから、噴射ノズルを通して、少なくとも1つの反応器に勢いよく送る。
【0051】
反応器内では、混合物は、ポンプにより、熱交換器中を循環し、そこでは、混合物は、140〜約200℃の範囲内の反応温度に熱媒油により加熱することができる。一代替案によれば、混合物は、約160〜約200℃の範囲内に加熱することができる。別の代替案によれば、混合物を、約160〜約200℃の範囲内に加熱することができる。
【0052】
反応の間、FFAは、グリセリドに転化する:
【0053】
【数1】
【0054】
遊離脂肪酸(FFA)のモノグリセリド(MAG)、ジグリセリド(DAG)およびトリグリセリド(TAG)への転化は、熱の存在下でグリセロールを使用することにより行われ、結果として、水が生成する(H2O)。生成した水は、真空システムにより吸引される。真空システムは、凝縮器、蒸気/液体分離器、真空ポンプ、および排水ポンプを備える。転化のための反応は、液滴の数を増加させ、それにより試薬の接触領域を増大させることによってエステル化プロセスを速めるために、撹拌機を備えたタンク型反応器中で行うことができるが、プレート型反応器およびチューブ型反応器などの他のタイプの反応器も可能である。反応は、バッチ式にすることができるが、連続的反応も可能である。連続的反応の場合には、反応は、プレート型反応器において、またはチューブ型反応器において行われる。
【0055】
所定の反応時間の後、バッチまたは供給原料は、ポンプで反応器からドロップタンク(drop tank)に送ることができる。ドロップタンクから、ポンプは、供給原料をエコノマイザーに移すことができ、エコノマイザーにおいては、供給油を加熱する一方で、反応した油は冷却される。冷却された供給原料は、沈降タンクに移すことができる。
【0056】
エステル化した油を含有する、供給原料の上相は、ポンプによって貯蔵タンクに移すことができる。
【0057】
過剰なグリセロールは、貯蔵タンクの底部から排出し、ポンプによってグリセロール貯蔵タンクに移すことができる。この貯蔵タンクは、そのタンクから異なる相の十分な体積の抽出を可能にする、相分離センサーを備えることができる。排出されたグリセロールは、エステル化プロセス(i)において再使用することができる。
【0058】
(実施例)
以下に示した実施例について、1200gの既存の油留出物を、各実験において使用した。留出物は、1〜6wt%トコフェロールで構成されていた。菜種油のエステル交換のためにメタノールおよびナトリウムメチラートを使用するバイオディーゼルプラント由来のグリセロールを中和し、形成されたFFAおよび沈殿した塩から分離した。グリセロールの明細は、92wt%グリセロール、3wt%水、4wt%メチルエステル(バイオディーゼル)、および1wt%FFAであった。
【0059】
(実施例1)
この実施例では、21wt%、60wt%、および87wt%FFAを含有する油留出物を用いた3つの試験は、質量比2:1で、グリセロールと混合した。混合物を、100mbarの圧力および200℃の温度で保持された撹拌反応器に入れた。サンプルを、酸価の測定のために、頻繁に取り出した。6時間の反応後、20wt%、60wt%および90wt%油の中のFFA含有量は、モノ-、ジ-、およびトリアシルグリセリドの形成により、それぞれ、1.5wt%、1.0wt%および0.7wt%に減少していた。
【0060】
この実施例は、FFAとグリセロールとのエステル化が、自己触媒され、広範囲のFFA初期濃度をカバーする油の中のFFAを、妥当な時間内に減らすことができることを示す。
【0061】
(実施例2)
この実施例では、圧力の影響を、3つの別個の試験において調査した。86wt%FFAおよびグリセロールを含有するバーム油脂肪酸留出物を、質量比4:3で使用した。反応温度は、200℃であり、反応時間の間の圧力は、400mbar、200mbar、および100mbarであった。6時間後、FFA含有量は、それぞれ、4.1wt%、1.5wt%、および0.2wt%であった。
【0062】
この実施例は、反応容器における圧力を下げることにより、最終のFFAを減少させることが可能であることを示す。
【0063】
(実施例3)
この実施例では、温度を、3つの別個の試験において調査した。実施例2と同じパーム油脂肪酸留出物およびグリセロールを使用し、質量比は、2:1であった。反応圧力を、100mbarに設定し、反応温度は、160℃、180℃および200℃で無勾配であった。6時間後、各試験におけるFFA含有量は、それぞれ、19.3wt%、4.3wt%、および0.6wt%であった。
【0064】
この実施例は、高い温度の方が、FFA最終含有量をより低くすることを示す。
【0065】
(実施例4)
この実施例では、油:グリセロールの質量比を調査した。実施例2と同じパーム油脂肪酸留出物を使用し、反応温度は、200℃、圧力は、100mbarであった。油:グリセロールの質量比は、4:1、2:1、および4:3であった。6時間後、FFA含有量は、それぞれ、1.7wt%、0.6wt%、および0.15wt%であった。
【0066】
この実施例は、より高い油/グリセロールの比が、自己触媒エステル化に都合が良く、FFA最終濃度をより低くすることを示す。
【0067】
(実施例5)
この実施例では、170〜200℃の温度勾配を、最初の3時間適用し、その後、温度を、3時間、一定に200℃に維持した。圧力は、100mbarであった。6時間後、FFAの含有量は、1.1wt%であった。6時間40分後、0.4wt%のFFA含有量を観察した。
【0068】
この実施例は、初期温度プログラミングは、同じ時間枠について、200℃の等温のエステル化とほぼ同じ最終酸価に達することができるが、初期のエステル化速度は、無勾配の場合よりも遅いことを示す(図3参照)。図3のグラフは、0〜180分の間は、170〜200℃の勾配があり、その後の180〜400分の間は、200℃の一定の温度である、温度をプログラミングしたエステル化と、200℃で実施した等温のエステル化との比較を示す。
【0069】
(実施例6)
この実施例では、反応時間の最後の30分、圧力を100から50mbarに低下させた。87wt%FFAのパーム油脂肪酸留出物とグリセロールとを、200℃で質量比2:1で混合した。減圧は、FFA最終含有量を約50wt%、すなわち、0.7wt%から0.35wt%に減少させた。
【0070】
この実施例は、反応の最後の短時間の間に、FFAの最後の痕跡をストリッピングすることにより、最終FFAを最終精製する(polish)ことが可能であることを示す。
【0071】
(実施例7)
この実施例では、自己触媒エステル化を、酸化亜鉛により触媒されたものとともに研究した。反応温度は、180℃であり、真空度は、100mbarであった。油:グリセロールの質量比は、10:3であり、亜鉛を触媒にした実験は、0.11wt%ZnOを添加した。亜鉛および自己触媒エステル化は、それぞれ、4.5時間後および9時間後に、FFA初期濃度を0.5wt%に低下させた。
【0072】
この実施例は、180℃での自己触媒エステル化が、酸化亜鉛を触媒にしたものよりも2倍だけ遅く、妥当な時間内に、FFAの許容できる低い濃度に達する可能性を有することを示す。
【0073】
(実施例8)
この実施例では、2.5wt%トコフェロールを、精製および脱臭したグリセリド油に添加した。トコフェロール油を、80℃で、10mbarで20分間脱気してから、グリセロールを添加し、グリセロールの添加後さらに20分脱気して、100mbarで160℃、180℃または200℃に加熱した。β-トコフェロールは、初期濃度が非常に低かったので評価できなかった。200℃で8時間後、α-、γ-およびδ-トコフェロールの著しい損失を、実験のいずれにおいても観察しなかった。
【0074】
この実施例は、トコフェロールが、研究した温度および適用した真空で元のままであることを示す。
【0075】
各実施例の結果は、エステル化ステップ(i)において触媒を排除すること、および自己触媒によりアシルグリセリドを生成することが可能であることを示す。それらの結果はまた、エステル化反応条件を最適化することにより、最終のFFAを減少させることが可能であることも示す。
図1
図2
図3