(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
車両の室内を囲むように設けたウィンドシールドを払拭し、かつ、ピボット軸を中心として揺動運動する第1ワイパアームと、前記車両の高さ方向で前記ウィンドシールドよりも下方に設けられ、前記ピボット軸に伝達する動力を発生するワイパモータとを有するワイパ装置であって、
前記ワイパモータは、ケーシング内に収容され、
前記ピボット軸は、前記ケーシングの外部に露出され、
前記ピボット軸の動力を前記第1ワイパアームに伝達する動力伝達機構が設けられており、
この動力伝達機構は、前記ピボット軸に固定されて該ピボット軸を中心として揺動する1つの第1リンク部材と、この第1リンク部材における前記ピボット軸から偏心した位置に固定され、かつ、前記第1ワイパアームを支持する第1支持軸とを備え、
前記第1ワイパアームが停止および揺動運動する際のいずれにおいても、前記第1支持軸と前記第1ワイパアームとの連結部分が、前記ウィンドシールドの前端よりも前方に位置するように前記第1支持軸が設けられているとともに、
前記ワイパモータの少なくとも一部は、前記車両の水平方向に沿った平面内で、前記車両の前後方向で前記ウィンドシールドの投影領域内に配置され、
前記ウィンドシールドにおける払拭領域が前記第1ワイパアームとは異なる第2ワイパアームが設けられており、
前記動力伝達機構は、前記第2ワイパアームの端部に固定された第2支持軸と、前記第1リンク部材が一端に回転可能に連結され、前記第2支持軸が他端に固定された第2リンク部材とを含み、
前記第2ワイパアームが停止および揺動運動する際のいずれにおいても、前記第2支持軸と前記第2ワイパアームとの連結部分が、前記ウィンドシールドの前端よりも前方に位置するように前記第2支持軸が設けられており、
前記第1リンク部材および前記第2リンク部材の少なくとも一部は、前記車両の水平方向に沿った平面内で、前記ウィンドシールドの投影領域内に配置され、
前記第1リンク部材は、長さ方向の中央部が前記ピボット軸に連結され、
前記第1支持軸は、前記ピボット軸から偏心した位置で前記第1リンク部材の
長さ方向の一端部に固定され、
前記第2リンク部材は、前記第1リンク部材の長さ方向で、前記第1支持軸が固定されている端部とは反対側の端部に連結されていることを特徴とするワイパ装置。
【背景技術】
【0002】
従来、車両にはウィンドシールドに付着した付着物を払拭して、運転者の視界を確保するワイパ装置が搭載されている。ワイパ装置は、ワイパモータのアーマチュアの回転運動を、ワイパアームの揺動運動に変換するように構成されている。ワイパモータのアーマチュアの回転運動をワイパアームの揺動運動に変換する形式として、ダイレクトドライブ(DD)タイプおよびリンクタイプが知られている。まず、ダイレクトドライブタイプは、アーマチュアに形成されたウォームと、そのウォームに噛み合うウォームホイールとを有し、ウォームホイールの回転中心となる回転軸に直接ワイパアームの一端が固定されているタイプである。このダイレクトドライブタイプは、アーマチュアの回転運動がウォームホイールの回転運動に変換され、ワイパアームが回転軸を中心として揺動運動するようになっている。すなわち、回転軸がワイパアームのピボット軸を兼ねている。このダイレクトドライブタイプの一例であるワイパ装置が特許文献1に記載されている。
【0003】
これに対して、リンクタイプは、アーマチュアに形成されたウォームと、そのウォームに噛み合うウォームホイールと、ワイパアームの揺動中心となるピボット軸と、ウォームホイールの回転運動を、ワイパアームの揺動運動に変換するリンクとを有している。このリンクタイプの一例であるワイパ装置が、特許文献2および特許文献3に記載されている。
【0004】
このうち、特許文献2に記載されたワイパ装置は、所定の角度範囲で正逆回転されるワイパモータと、ワイパモータの回転運動が伝達される出力軸と、出力軸と共に一体的に揺動するモータリンクと、モータリンクにボールジョイントを介して連結されたリンクロッドと、ワイパアームの揺動中心となるピボッドシャフトと、ピボッドシャフトと一体的に揺動し、かつ、リンクロッドとボールジョイントを介して連結されたピボッドリンクとを有している。この特許文献2に記載されたワイパ装置は、エンジンルーム内におけるワイパ装置の設置スペースをより小さくすることを目的としている。この特許文献2には、ワイパモータを、車両の室内側におけるウィンドシールドの投影範囲内に配置することが記載されている。なお、特許文献3には、ワイパアームを揺動させる動力を発生するワイパモータの記述はない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、前後方向での小型化が要求される車両においては、ウィンドシールドとしてのフロントウィンドよりも前方で、かつ、下方の空間が狭められる傾向にある。このように、前後方向で小型化が要求される車両においては、ワイパ装置の構成する部品のうち、ワイパモータをなるべく車両の後方に配置することが考えられる。
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載されているようなダイレクトドライブタイプのワイパ装置においては、ワイパモータをなるべく車両の後方に配置するとしても、ウォームホイールの回転軸がワイパアームのピボット軸を兼ねているため、回転軸をフロントウィンドの前端よりも後方に配置することはできない。そのため、小型化が要求される車両において、ワイパモータをなるべく車両の後方に配置するレイアウトを採用できなかった。
【0008】
これに対して、リンクタイプのワイパ装置のうち、特許文献2に記載されたワイパ装置においては、ワイパモータを、車両の室内側におけるウィンドシールドの投影範囲内に配置する構成となっており、ワイパモータをなるべく車両の後方側に配置するというレイアウトが採用されている。しかしながら、特許文献2に記載されたワイパ装置においては、ワイパモータの出力軸の回転力をピボットシャフトに伝達するために、リンクロッド、ピボットリンク、ボールジョイントなどの部品を新たに設けなければならず、部品点数が増加する問題があった。
【0009】
また、リンクタイプのワイパ装置のうち、特許文献3に記載されたワイパ装置においては、ワイパモータをどこにどのように設けるかが明らかではなく、車両を小型化する要求に応えるようなレイアウトを採用できなかった。
【0010】
本発明の目的は、車両の前後方向でワイパモータをなるべく後方に配置することができるだけでなく、ワイパモータの動力をワイパアームに伝達する部品の増加を抑制することのできるワイパ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のワイパ装置は、車両の室内を囲むように設けたウィンドシールドを払拭し、かつ、ピボット軸を中心として揺動運動する第1ワイパアームと、前記車両の高さ方向で前記ウィンドシールドよりも下方に設けられ、前記ピボット軸に伝達する動力を発生するワイパモータとを有するワイパ装置であって、前記ワイパモータは、ケーシング内に収容され、前記ピボット軸は、前記ケーシングの外部に露出され、前記ピボット軸の動力を前記第1ワイパアームに伝達する動力伝達機構が設けられており、この動力伝達機構は、前記ピボット軸に固定されて該ピボット軸を中心として揺動する1つの第1リンク部材と、この第1リンク部材における前記ピボット軸から偏心した位置に固定され、かつ、前記第1ワイパアームを支持する第1支持軸とを備え、前記第1ワイパアームが停止および揺動運動する際のいずれにおいても、前記第1支持軸と前記第1ワイパアームとの連結部分が、前記ウィンドシールドの前端よりも前方に位置するように前記第1支持軸が設けられているとともに、前記ワイパモータの少なくとも一部は、前記車両の水平方向に沿った平面内で、前記車両の前後方向で前記ウィンドシールドの投影領域内に配置され
、前記ウィンドシールドにおける払拭領域が前記第1ワイパアームとは異なる第2ワイパアームが設けられており、前記動力伝達機構は、前記第2ワイパアームの端部に固定された第2支持軸と、前記第1リンク部材が一端に回転可能に連結され、前記第2支持軸が他端に固定された第2リンク部材とを含み、前記第2ワイパアームが停止および揺動運動する際のいずれにおいても、前記第2支持軸と前記第2ワイパアームとの連結部分が、前記ウィンドシールドの前端よりも前方に位置するように前記第2支持軸が設けられており、前記第1リンク部材および前記第2リンク部材の少なくとも一部は、前記車両の水平方向に沿った平面内で、前記ウィンドシールドの投影領域内に配置され、前記第1リンク部材は、長さ方向の中央部が前記ピボット軸に連結され、前記第1支持軸は、前記ピボット軸から偏心した位置で前記第1リンク部材の長さ方向の一端部に固定され、前記第2リンク部材は、前記第1リンク部材の長さ方向で、前記第1支持軸が固定されている端部とは反対側の端部に連結されていることを特徴とする。
【0013】
本発明のワイパ装置は、前記揺動部材と前記ワイパモータとの間の動力伝達経路に、伝達されるトルクが予め定められた所定値未満であると動力伝達経路を接続する一方、伝達されるトルクが予め定められた所定値以上であると動力伝達経路を遮断するクラッチ機構が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明のワイパ装置によれば、ワイパモータの少なくとも一部は、ウィンドシールドの投影領域内に配置されているため、ピボット軸と第1支持軸との軸間距離に対応する分、車両の前後方向でワイパモータをなるべく後方に配置して、ワイパモータのレイアウト性を向上させることができる。したがって、車両の小型化の要求に応えることができる。また、ピボット軸と共に揺動する揺動部材に、第1ワイパアームを支持する支持軸が固定されているため、ワイパモータの少なくとも一部を、車両の前後方向でウィンドシールドの前端よりも後方に配置するにあたり、ワイパモータの動力を第1ワイパアームに伝達するための部品を新たに設けずに済み、部品点数が増加することを抑制できる。
【0015】
本発明のワイパ装置によれば、第1リンク部材および第2リンク部材の少なくとも一部は、ウィンドシールドの投影領域内に設けられている。したがって、単数のワイパモータの動力で第1ワイパアームおよび第2ワイパアームを揺動させるように構成されたワイパ装置においても、車両の前後方向でなるべく後方にワイパモータを配置するレイアウトを採用できる。
【0016】
本発明のワイパ装置によれば、揺動部材とワイパモータとの間の動力伝達経路に、伝達されるトルクが予め定められた所定値未満であると動力伝達経路を接続する一方、伝達されるトルクが予め定められた所定値以上であると動力伝達経路を遮断するクラッチ機構が設けられている。このため、ワイパアームを揺動させるために、ワイパモータから揺動部材に伝達されるトルクが所定値未満であるときは、動力伝達経路が接続されており、ワイパアームを揺動運動させることができる。
【0017】
これに対して、ワイパアームを揺動させてウィンドシールドを払拭した際に、払拭負荷が相対的に大きくなり、ワイパアームから動力伝達経路に伝達されるトルクが所定値以上になると、クラッチ機構により動力伝達経路が遮断される。したがって、ワイパモータで過大な負荷が生じることを回避でき、ワイパモータを保護することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0020】
(第1の実施形態)
図1は、ワイパ装置が設けられた車両10の前部を示す模式的な平面図、
図2は、
図1のワイパ装置の要部を示す模式的な平面図、
図3は、
図1のワイパ装置の要部を示す模式的な側面断面図である。
図1に示すように、車両10の室内を囲むように(室内を形成するように)、室内の前方側にフロントガラス11が設けられている。このフロントガラス11は、車両10の前後方向において後方であるほど、高さが相対的に高くなる向きで傾斜して設けられている。ここで、車両10の前後方向とは、車両10の走行方向に沿った方向を意味する。また、
図1に示すように、車両10の水平方向に沿った平面(図示せず)内において、フロントガラス11は、車両10の幅方向における中央部分が最も前方に突出するとともに、車両10の幅方向における両端は中央部分よりも後方に位置するように、フロントガラス11の外周形状が湾曲されている。このフロントガラス11の上方、前方、下方に亘り、ワイパ装置12が設けられている。
【0021】
また、車両10の室内空間の前方の下方には、ダッシュボード(図示せず)が設けられており、そのダッシュボードの前方には、
図3のように、車体の一部を構成するバルクヘッド20が設けられている。バルクヘッド20は、フロントガラス11よりも下方に、かつ、車両10の幅方向(左右方向)に沿って設けられた板状部材である。車両10の前後方向において、バルクへッド20の最も前端は、フロントガラス11の最も前端よりも前に位置している。なお、車両10の幅方向(左右方向)において、バルクヘッド20の両側にはサイドメンバー(図示せず)が設けられている。
【0022】
上記ワイパ装置12は、フロントガラス11に付着した付着物、例えば、雪、雨水、埃、鳥の糞等(いずれも図示せず)を払拭して、運転者の視界を確保する(クリアにする)ための装置である。ワイパ装置12は、車両10の室内に設けられたワイパスイッチ(図示せず)を操作することで所定角度の範囲内で回転し、または停止されるワイパモータ13と、ワイパモータ13の動力が伝達されて所定の角度範囲内で揺動運動するワイパアーム14,15とを有している。
【0023】
この第1の実施形態は、単独のワイパモータ13により、2本のワイパアーム14,15を揺動させるように構成された、いわゆるタンデム式のワイパ装置である。ワイパアーム14は、車両10を前方から見て左側に配置されており、このワイパアーム14を便宜上、運転席側(DR側)のワイパアームとする。ワイパアーム14の先端部にはワイパブレード14aが取り付けられており、ワイパブレード14aがフロントガラス11に接触している。ワイパアーム15は、車両10を前方から見て右側に配置されており、このワイパアーム15を便宜上、助手席側(AS側)のワイパアームとする。このように配置されたワイパアーム14とワイパアーム15とでは、フロントガラス11を払拭する箇所が異なる。
【0024】
車両10の高さ方向において、バルクヘッド20の下方にはケーシング16が設けられており、ケーシング16内にワイパモータ13が収容されている。
図1に示す例では、ケーシング16は、車両10を前方から見て左側に寄った位置に配置されている。ワイパモータ13は、回転不可能に構成されたステータ(図示せず)と、ステータと同軸に、かつ、回転可能に設けられたアーマチュア13aと、アーマチュア13aと一体回転するように設けられた回転軸13bとを有している。回転軸13bの全周にはウォーム(図示せず)が形成されている。このワイパモータ13は、電動モータ、例えばブラシ付き直流モータにより構成されている。また、ワイパモータ13は、回転軸13bを正回転および逆回転させることの可能なリバースモータである。
【0025】
そして、ワイパモータ13の少なくとも一部は、車両10の水平方向に沿った平面内において、フロントガラス11の前端よりも後方で、かつ、フロントガラス11が配置された投影領域(投影範囲)内に配置されている。ここで、フロントガラス11の前端、バルクヘッド20の前端は、車両10の前後方向における端部を意味している。なお、「前端」は、車両10の幅方向(左右方向)である位置での「前端」であり、車両10の幅方向全域における「最前端」を意味するものではない。
図1、
図2において、フロントガラス11が配置された投影領域は二点鎖線で示されている。なお、
図1、
図2には、フロントガラス11が配置された投影領域内に、ワイパモータ13の殆ど全てが配置された例が示されている。
【0026】
また、ケーシング16の内部には、ウォームに噛み合うギヤが外周に形成されたウォームホイール17が設けられており、そのウォームホイール17は回転軸18を中心として回転するように構成されている。また、ウォームホイール17と回転軸18とが一体回転するように構成されている。このように、回転軸13bが正回転および逆回転すると、回転軸18は所定の角度範囲内で正回転および逆回転を繰り返すように構成されている。さらに、
図3に示すように、車両10の前後方向に沿った側面断面内において、回転軸18の回転中心となる軸線A1は、車両10の前方に向けて傾斜している。そして、回転軸18の一端部がケーシング16の外部に露出している。
【0027】
さらに、ケーシング16の外部には、回転軸18の動力をワイパアーム14,15に伝達するための動力伝達機構19が設けられている。この動力伝達機構19は、回転軸18と一体的に揺動するリンク部材19aを有している。リンク部材19aは、その長さ方向の中央部が回転軸18に固定されており、リンク部材19aの一端部には支持軸19bが固定されている。この支持軸19bはワイパアーム14の一端部に固定されており、支持軸19bは動力伝達機構19を構成する要素である。支持軸19bは、回転軸18を中心とする所定半径上に配置されている。つまり、回転軸18が正回転および逆回転を繰り返すと、ワイパアーム14は事実上、回転軸18を中心として所定角度の範囲内で揺動する。つまり、回転軸18は、ワイパアーム14の回転中心となるピボット軸としての機能を兼備している。
【0028】
次に、動力伝達機構19のうち、ワイパアーム15に動力を伝達する部分の構成を説明する。リンク部材19aのうち、支持軸19bが固定されている端部とは反対側の端部には、連結軸19cを介してリンク部材19dの一端が連結されている。車両10の前後方向において、支持軸19bとワイパアーム15との連結部分は、フロントガラス11の前端よりも前方に設けられている。
【0029】
一方、支持軸19bの上端は、フロントガラス11の前端と同じ高さ、もしくはフロントガラス11の前端よりも高い位置に配置されている。車両10の前後方向に沿った側面断面内において、支持軸19bの回転中心となる軸線(図示せず)は、車両10の前方に向けて傾斜している。そして、回転軸18が停止している場合、または、回転軸18が正回転および逆回転して、リンク部材19aが揺動した場合のいずれにおいても、支持軸19bが、バルクヘッド20およびフロントガラス11に接触することがないように、回転軸18と支持軸19bとの軸間距離、支持軸19bの傾斜角度が決定されている。
【0030】
また、リンク部材19dの他端には連結軸19eを介してリンク部材19fが連結されている。このリンク部材19fにおける連結軸19eとは反対側の端部には、支持軸19gを介してワイパアーム15が固定されている。支持軸19gは軸受(図示せず)により回転可能に支持されているため、支持軸19gは半径方向には移動することがない。支持軸19gはワイパアーム15の回転中心となるピボット軸である。
【0031】
このように連結された回転軸18および支持軸19gは、回転軸18の回転時または停止時に関わりなく、回転軸18の軸線A1と支持軸19gの軸線B1とが相互に平行に保持されている。さらに、リンク部材19d,19fの少なくとも一部は、車両10の前後方向に沿った水平面内で、フロントガラス11の前端よりも後方であり、かつ、フロントガラス11の投影領域内に配置されている。また、支持軸19gとワイパアーム15との連結部分は、車両10の前後方向でフロントガラス11の投影領域よりも前方に位置している。さらに、支持軸19gの回転中心となる軸線B1も、車両10の前方に向けて傾斜して配置されている。
【0032】
次に、第1の実施形態におけるワイパ装置12の制御および作用を説明する。まず、ワイパスイッチが操作されてワイパモータ13が正回転および逆回転を交互に繰り返すと、ウォームホイール17が正回転および逆回転する。ワイパモータ13の回転角度範囲は、ワイパブレード14a,15aで払拭するべき目標動作範囲に基づいて、予め決定されている。すると、回転軸18が正回転および逆回転を繰り返すとともに、リンク部材19aが所定の角度範囲内で軸線A1を中心として揺動する。このため、ワイパアーム14が回転軸18を中心として所定角度範囲内で揺動し、フロントガラス11の表面のうち、一点鎖線で示す領域C1がワイパブレード14aにより払拭される。
【0033】
一方、リンク部材19aが所定の角度範囲内で揺動すると、その動作力がリンク部材19dを経由してリンク部材19fに伝達されて、支持軸19gが所定角度範囲内で正回転および逆回転する動作を繰り返す。このため、ワイパアーム15が支持軸19gを中心として所定角度範囲内で揺動し、フロントガラス11の表面のうち、一点鎖線で示す領域D1がワイパブレード15aにより払拭される。このように、フロントガラス11の表面が、ワイパブレード14a,15aにより払拭されて、運転者の視界が確保される。
【0034】
ところで、第1の実施形態においては、車両10の前後方向で、支持軸19bとワイパアーム14との連結部分は、ワイパアーム14が揺動している場合または停止している場合のいずれにおいても、フロントガラス11の前端よりも前方に位置するように、支持軸19bが配置されている。したがって、支持軸19bがフロントガラスに接触することはない。また、リンク部材19aは回転軸18を中心として揺動するよに構成され、そのリンク部材19aにおいて回転軸18から偏心した位置に支持軸19bが設けられている。さらに、ワイパモータ13の少なくとも一部、具体的には殆ど全部が、フロントガラス11の投影領域内に配置されている。したがって、車両10の前後方向において、ワイパモータ13をなるべく後方側に配置することができ、ワイパモータ13のレイアウト性(または車載性)を向上させることができる。より具体的には、回転軸18と支持軸19bとの軸間距離に対応する分、ワイパモータ13をなるべく車両10の後方側に配置することができる。このため、フロントガラス11よりも前方で、かつ、下方の空間における部品の配置スペースを狭めることができ、車両10の小型化の要求に応えることができる。
【0035】
また、回転軸18と支持軸19bとの軸間距離が相対的に短いため、部品の取り付け作業性が悪化することを回避できる。さらに、ワイパモータ13をフロントガラス11の下方空間に配置することができるため、歩行者と車両10の前部とが接触したときに、車体の前部が変形し易くなり、歩行者保護要件をクリアし易くなる。
【0036】
また、単数のリンク部材19aにより、支持軸19bと回転軸18との軸間距離を確保しているため、その軸間距離をなるべく長くするために、新たに複数の部品を連結する構成と比べて、第1の実施形態では部品点数の増加を抑制できる。したがって、フロントガラス11よりも前方で、かつ、下方の空間における部品のスペースを確実に狭めることができるとともに、部品点数の増加による重量増加を回避できる。
【0037】
さらに、リンク部材19aに、支持軸19bを介在させてワイパアーム14が取り付けられ、リンク部材19d,19fを介在させてワイパアーム15が連結されている。このため、1個のワイパモータ13の動力により、2本のワイパアーム14,15を揺動させるように構成されたタンデム式のワイパ装置において、ワイパモータ13のレイアウト性を向上させることができる。
【0038】
さらに、回転軸18、支持軸19b,19gを車両10の前方に向けて傾斜するように取り付ける際に、回転軸18、支持軸19b,19gの高さを変えることなく、ワイパモータ13の高さをなるべく上方に設定する構成を採用することができる。このような構成を採用すると、ケーシング16が配置された空間に雨水が溜まったとしても、ワイパモータ13が水没することを回避できる。
【0039】
ところで、第1の実施の形態においては、ウォームホイール17と回転軸18とが一体回転するように連結するにあたり、ウォームホイール17と回転軸18との間の動力伝達経路に、
図2に示すクラッチ機構21を設けることも可能である。このクラッチ機構21は、ワイパモータ13と回転軸18との間で伝達されるトルクが、予め定められた所定値未満であると動力伝達経路を接続する一方、ワイパモータ13と回転軸18との間で伝達されるトルクが、予め定められた所定値以上であると動力伝達経路を遮断する機能を備えたトルクリミッタである。クラッチ機構21において、動力伝達経路の接続・遮断の境界となるトルクは、ワイパモータ13を構成する部品の強度、剛性、耐久性などの条件に基づいて、求められたものである。また、トルクの所定値が、ワイパモータ13からリンク部材19aに伝達されるトルクよりも高い値であることは言うまでもない。
【0040】
このようなトルクリミッタ機能を有するクラッチ機構は周知の技術であるため、その図示は省略するが、例えば、特開2010−75005号公報に記載されているものを用いることが可能である。この公報に記載されたクラッチ機構は、摩擦部材をバネにより押し付けることにより、第1回転部材と第2回転部材との間で、摩擦力により動力伝達を行うように構成されている。第1回転部材はウォームホイールと一体回転するように構成され、第2回転部材は回転軸と一体回転するように構成されている。そして、摩擦力を超えるトルクが伝達されるとすべりが生じて動力伝達経路が遮断されるように構成されている。この公報に記載されたクラッチ機構においては、例えば、バネの弾性力(バネ定数)を変更することにより、動力伝達経路の接続・遮断の境界となるトルクを任意に変更することができる。
【0041】
このように、クラッチ機構21を設けると、ワイパモータ13を回転させて、そのトルクをからリンク部材19aに伝達する場合は、クラッチ機構21により動力伝達経路が接続されて、ワイパアーム14,15が揺動運動し、フロントガラス11が払拭される。これに対して、フロントガラス11の払拭中に、フロントガラス11の表面に大量の積雪があったり、付着物が強固に付着していたときなどのように、ワイパアーム14,15に過大な負荷が生じて、その反力でクラッチ機構21に入力されるトルクが所定値以上になると、クラッチ機構21により動力伝達経路が遮断される。したがって、ワイパモータ13に過大な負荷が生じて、耐久性が低下したり破損したりすることを回避できる。すなわち、クラッチ機構21は、外力からワイパモータ13を保護するための保護装置として働く。このため、外力に対するワイパモータ13の強度を確保するために、軸受の大型化、ケーシング16の肉厚化などの設計を行わずに済み、ワイパモータ13の大型化、ケーシング16の大型化を回避できる。
【0042】
(第2の実施形態)
図4は、ワイパ装置12が設けられた車両10の前部を示す模式的な平面図、
図5は、
図4のワイパ装置12の要部を示す模式的な側面断面図である。
図4、
図5において、
図1ないし
図3に示された構成と同じ構成部分には、
図1ないし
図3と同じ符号を付してその説明を省略する。第2の実施形態のワイパ装置12は、運転席側のワイパアーム14を揺動させるワイパモータ13と、助手席側のワイパアーム15を揺動させるワイパモータ13とが別個に設けられた、いわゆるオポジット式のものである。2個のワイパモータ13は、車両10の幅方向に所定間隔をおいて左右に配置されている。
【0043】
ここで、運転席側のワイパアーム14を揺動させるワイパモータ13の構成と、助手席側のワイパアーム15を揺動させるワイパモータ13の構成とは同じであり、左右対称に配置されている点が異なるだけである。また、運転席側のワイパモータ13の動力をワイパアーム14に伝達する動力伝達機構19と、助手席側のワイパモータ13の動力をワイパアーム15に伝達する動力伝達機構19とは構成が同じであり、左右対称に配置されている点が異なるだけである。したがって、ワイパアーム14用の動力伝達機構19の構成、ワイパアーム15用の動力伝達機構19の構成を一括して説明する。
【0044】
第2の実施形態においても、ワイパモータ13は回転軸18を正回転および逆回転させることの可能なリバースモータにより構成されている。また、車両10の水平方向に沿った平面内において、ワイパモータ13の少なくとも一部は、フロントガラス11の前端よりも後方であり、かつ、フロントガラス11が配置された投影領域(投影範囲)内に配置されている。さらに、回転軸18と一体的に揺動するリンク部材19aを有しており、リンク部材19aの一端に支持軸19bが固定されている。この支持軸19bはワイパアーム14の一端に固定されている。そして、支持軸19bとワイパアーム14との連結部分は、車両10の前後方向で、フロントガラス11の前端よりも前方に位置している。また、他方の支持軸19bはワイパアーム15の一端に固定されている。そして、支持軸19bとワイパアーム15との連結部分は、車両10の前後方向で、フロントガラス11の前端よりも前方に位置している。なお、第2の実施形態においては、第1の実施の形態で説明した連結軸19cは設けられておらず、リンク部材19aは長尺形状を有している。
【0045】
次に、第2の実施形態におけるワイパ装置12の制御および作用を説明する。まず、運転席側のワイパモータ13が正回転および逆回転を交互に繰り返すと、リンク部材19aが所定の角度範囲内で軸線A1を中心として揺動し、ワイパアーム14が支持軸19bを中心として所定角度範囲内で揺動する。このような作用により、フロントガラス11の表面のうち、一点鎖線で示す領域C1が、ワイパブレード14aにより払拭される。
【0046】
一方、助手席側のワイパモータ13が正回転および逆回転を交互に繰り返すと、リンク部材19aが所定の角度範囲内で軸線A1を中心として揺動し、ワイパアーム15が支持軸19bを中心として所定角度範囲内で揺動する。このような作用により、フロントガラス11の表面のうち、一点鎖線で示す領域D1がワイパブレード15aにより払拭される。なお、2個のワイパモータ13が同時に駆動した際に、ワイパアーム14およびワイパブレード14aと、ワイパアーム15およびワイパブレード15aとが接触しないように、ワイパモータ13の回転範囲、ワイパアーム14,15の位置関係が決定されている。
【0047】
第2の実施形態においても、ワイパモータ13の少なくとも一部、具体的には殆ど全部が、車両10の水平方向に沿った平面内において、車両10の前後方向で、フロントガラス11の前端よりも後方であり、かつ、フロントガラス11の投影領域内に配置されている。そして、ワイパモータ13の動力が伝達される回転軸18にリンク部材19aが取り付けられており、車両10の前後方向で、支持軸19bとワイパアーム14,15との連結部分は、フロントガラス11の前端よりも前方に配置されている。このため、車両10の前後方向において、ワイパモータ13をなるべく後方側に配置することができる。具体的には回転軸18と支持軸19bとの軸間距離に対応する分、ワイパモータ13を後方側に配置するレイアウトを採用できる。したがって、第1の実施形態と同様の効果を得られる。
【0048】
また、単数のリンク部材19aにより、支持軸19bと回転軸18との軸間距離を確保しているため、第1の実施形態と同様の効果を得られる。さらに、回転軸18、支持軸19bを車両10の前方に向けて傾斜するように取り付けてあるため、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。なお、第2の実施形態において、リンク部材19aとワイパモータ13と間の動力伝達経路に、第1の実施形態で説明したクラッチ機構を設けてもよい。
【0049】
ここで、上記の実施形態において説明した構成と、本発明の構成との対応関係を説明すると、フロントガラス11が、本発明のウィンドシールドに相当し、ワイパアーム14が、本発明の第1ワイパアームに相当し、回転軸18が、本発明のピボット軸に相当し
、支持軸19bが、本発明の第1支持軸に相当する。また、ワイパアーム15が、本発明の第2ワイパアームに相当し、支持軸19gが、本発明の第2支持軸に相当し、リンク部材19
aが、本発明の第1リンク部材に相当し、リンク部材19
dが、本発明の第2リンク部材に相当する。
【0050】
また、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。例えば、第1の実施形態は、車両を前方から見て右側にワイパモータが配置されている車両にも適用することができる。また、第1、第2の実施形態において、クラッチ機構21は、ウォームホイール17と回転軸18との間に設けることに代えて、回転軸18とリンク部材19aとの間に設けることも可能である。また、本発明における各リンク部材は、ワイパモータの動力をワイパアームに伝達するための要素であり、各リンク部材の形状は、長尺形状、棒形状、半月形状、楕円形状などのいずれでもよい。さらに、第2の実施形態で説明したオポジット式のワイパ装置12を設けるにあたり、ワイパアームおよびワイパモータの数は、1組または3組以上でもよい。また、上記実施の形態では、回転軸18の軸線A1と、支持軸19gの軸線B1とが相互に平行に保持されている例を挙げているが、本発明はこれに限らず、フロントガラス11の曲率に追従してワイパアームを動作させて払拭性を向上させるため、支持軸19gの軸線B1は、回転軸18の軸線A1に対して傾斜するように保持されていてもよい。