(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
スクリューヘッド、スクリュー本体、前記スクリューヘッドと前記スクリュー本体の間に設置されたシールリング、ならびに前端および後端を有し、前記前端が前記スクリューヘッドの側となり、前記後端が前記シールリングの側となるように配置された逆止リングであって、軸方向に移動可能な逆止リングを有するスクリューの製造方法であって、
(i)重量比で、5〜6%のB(ホウ素)、9〜11%のCr(クロム)、4〜5%のSi(ケイ素)、およびNi(ニッケル)を含む第1の粉末を準備する工程と、
(ii)金属元素Mを含む第2の粉末を準備する工程であって、第2の粉末は、W(タングステン)および/またはMo(モリブデン)である、工程と、
(iii)前記第1および第2の粉末を混合して、溶射粉末を得る工程であって、前記第2の粉末は、前記第1の粉末に対して、M:B(ホウ素)がモル比で、0.75:1〜1:1となるように混合される、工程と、
(iv)前記スクリューヘッド、前記逆止リング、および前記シールリングのうちの少なくとも一つの部材に、前記溶射粉末を用いて溶射を行い、前記いずれか一つの部材の少なくとも一部に溶射膜を形成する工程と、
(v)前記溶射膜を熱処理して、ホウ化物Ni(MxBy)を形成する工程と、
を有することを特徴とする製造方法。
前記溶射膜は、前記スクリューヘッドの前記逆止リングの前端との当接位置、前記逆止リングの前記前端の前記スクリューヘッドとの当接位置、前記逆止リングの前記後端の前記シールリングとの当接位置、および前記シールリングの前記逆止リングの後端との当接位置の少なくとも一つの箇所に設置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述のように構成される射出成形機において、該射出成形機の稼働中、スクリューヘッド、逆止リング、およびシールリング等の部材は、絶えず、相互に摺動および/または当接を繰り返している。このため、射出成形機を長時間稼働した後などにおいて、これらの部材の摩耗や当接による消耗が問題となる場合がある。
【0006】
本発明は、このような背景に鑑みなされたものであり、本発明では、構成部材の摩耗や当接による消耗を有意に抑制することが可能な、スクリューの製造方法を提供することを目的とする。また、本発明では、そのような特徴を有するスクリューを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、スクリューヘッド、スクリュー本体、前記スクリューヘッドと前記スクリュー本体の間に設置されたシールリング、ならびに前端および後端を有し、前記前端が前記スクリューヘッドの側となり、前記後端が前記シールリングの側となるように配置された逆止リングであって、軸方向に移動可能な逆止リングを有するスクリューの製造方法であって、
(i)重量比で、5〜9%のB(ホウ素)、9〜11%のCr(クロム)、4〜5%のSi(ケイ素)、およびNi(ニッケル)を含む第1の粉末を準備する工程と、
(ii)金属元素Mを含む第2の粉末を準備する工程であって、第2の粉末は、W(タングステン)および/またはMo(モリブデン)である、工程と、
(iii)前記第1および第2の粉末を混合して、溶射粉末を得る工程であって、前記第2の粉末は、前記第1の粉末に対して、M:B(ホウ素)がモル比で、0.75:1〜1:1となるように混合される、工程と、
(iv)前記スクリューヘッド、前記逆止リング、および前記シールリングのうちの少なくとも一つの部材に、前記溶射粉末を用いて溶射を行い、前記いずれか一つの部材の少なくとも一部に溶射膜を形成する工程と、
(v)前記溶射膜を熱処理して、ホウ化物Ni(M
xB
y)を形成する工程と、
を有することを特徴とする製造方法が提供される。
【0008】
本発明による製造方法において、前記第1の粉末の粒径は、45μm〜90μmの範囲であり、および/または
前記第2の粉末の粒径は、13.5μm〜17.5μmの範囲であっても良い。
【0009】
また、本発明による製造方法において、前記溶射膜は、前記スクリューヘッドの前記逆止リングの前端との当接位置、前記逆止リングの前記前端の前記スクリューヘッドとの当接位置、前記逆止リングの前記後端の前記シールリングとの当接位置、および前記シールリングの前記逆止リングの後端との当接位置の少なくとも一つの箇所に設置されていても良い。
【0010】
さらに、本発明では、スクリューヘッド、スクリュー本体、前記スクリューヘッドと前記スクリュー本体の間に設置されたシールリング、ならびに前端および後端を有し、前記前端が前記スクリューヘッドの側となり、前記後端が前記シールリングの側となるように配置された逆止リングであって、軸方向に移動可能な逆止リングを有するスクリューであって、
前記スクリューヘッドの前記逆止リングの前端との当接位置、前記逆止リングの前記前端の前記スクリューヘッドとの当接位置、前記逆止リングの前記後端の前記シールリングとの当接位置、および前記シールリングの前記逆止リングの後端との当接位置の少なくとも一つの箇所には、溶射膜が設置され、
該溶射膜は、ホウ化物Ni(M
xB
y)を含み(ただし、Mは、モリブデンおよび/またはタングステンである)、ホウ素Bの量は、5wt%〜9wt%の範囲であることを特徴とするスクリューが提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、構成部材の摩耗や当接による消耗を有意に抑制することが可能な、スクリューの製造方法を提供することができる。また、本発明では、そのような特徴を有するスクリューを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明を説明する。
【0014】
図1には、本発明に係る製造方法により製造されたスクリューを備える射出装置の一例の断面図を概略的に示す。
【0015】
図1に示すように、本発明に係る製造方法により製造されたスクリューを備える射出装置100は、加熱シリンダ111内にスクリュー112を備える。加熱シリンダ111は、延伸軸L11を有するシリンダ部材で構成され、ホッパ(図示されていない)から成形材料(例えば樹脂)が供給される。また、スクリュー112は、前記延伸軸L11に沿って、加熱シリンダ111内を進退可能に、および回転可能に配設される。
【0016】
スクリュー112は、スクリュー本体113と、スクリューヘッド131と、逆止リング140と、シールリング145とを有する。スクリュー本体113は、径方向外側に突出し螺旋状に形成されたフライト148に沿った、螺旋状の溝149を有する。スクリューヘッド131は、シールリング145の前端に取り付けられ、先端部132と、縮径部139とを有する。スクリューヘッド131の先端部132には、延伸軸L11と平行な水平溝(図示されていない)が複数形成されている。逆止リング140は、スクリューヘッド131の縮径部139の径方向外側に、加熱シリンダ111の軸L11方向に移動可能に配設される。シールリング145は、スクリュー本体113とスクリューヘッド131の縮径部139との間(スクリュー本体113と逆止リング140との間でもある)に配置される。
【0017】
射出装置100の動作の際には、前記スクリュー112がモータ(図示されていない)の駆動により回転される。これにより、ホッパ(図示されていない)から加熱シリンダ111内に供給された成形材料は、螺旋溝149内を
図1の矢印160の方向に前進する。成形材料は、加熱シリンダ111内を前進中に溶融し、混練される。
【0018】
また、成形材料の圧力により、逆止リング140の前端は、スクリューヘッド131の先端部132の後端に当接する。このため、成形材料は、逆止リング140とスクリューヘッド131の縮径部139の間の隙間142を通り、さらに、先端部132の水平溝を通過する。成形材料は、スクリューヘッド131の先端部132の前方に蓄えられ、蓄えられた成形材料によってスクリュー112が後進する。
【0019】
そして、モータ(図示されていない)を駆動させると、スクリュー112が矢印160の方向に前進する。それに伴って、スクリューヘッド131の前方に蓄えられた成形材料が、射出ノズル(図示されていない)から射出され、金型装置(図示されていない)のキャビティ空間に充填される。成形材料は、その後、キャビティ空間において冷却固化され、成形品が形成される。
【0020】
ところで、スクリュー112を前進させ、射出ノズル(図示されていない)から成形材料を射出する際に、スクリューヘッド131より前方に蓄えられた成形材料の一部が後方に逆流しようとする。
【0021】
しかしながら、この場合、成形材料の逆流の圧力により、逆止リング140は、後端がシールリング145の前端に押し付けられる。従って、シールリング145と逆止リング140の当接部よりも前方側と後方側とが密閉され、加熱シリンダ111内で成形材料が後方に逆流することが回避される。なお、スクリュー112が後退した際に、逆止リング140がスクリュー112から抜けないようにするため、逆止リング140の内径は、スクリューヘッド131の先端部132の最大外径よりも小さくなるように構成される。
【0022】
ここで、通常の射出成形機では、該射出成形機の稼働中、スクリューヘッドの先端部、逆止リング、およびシールリング等の部材は、絶えず、相互に摺動および/または当接を繰り返すことになる。このため、射出成形機を長時間稼働した後などにおいて、これらの部材の摩耗や当接による消耗が問題となる場合がある。
【0023】
しかしながら、本発明によるスクリュー112では、スクリューヘッド131の先端部132、逆止リング140、およびシールリング145のうちの少なくとも一つの部材の少なくとも当接部に、溶射膜が設置されているという特徴を有する。
【0024】
例えば
図1の例では、スクリューヘッド131の先端部132において、逆止リング140と当接する領域A、逆止リング140において、スクリューヘッド131の先端部132と当接する領域B1およびシールリング145と当接する領域C、ならびにシールリング145の逆止リング140と当接する領域Dに溶射膜が設置されている。さらに、
図1の例では、逆止リング140の前端側において、スクリューヘッド131の先端部132と直接当接しない領域B2にも、溶射膜が設置されている。
【0025】
また、この溶射膜は、金属ホウ化物Ni(M
xB
y)を含んでおり、後に詳しく説明するように、良好な耐摩耗性およびじん性を有する。
【0026】
このため、本発明によるスクリュー112では、構成部材の摩耗や当接による消耗を有意に抑制することが可能となる。また、これにより、各構成部材の交換頻度が減少し、射出成形機100の寿命を改善することが可能となる。
【0027】
(本発明による射出成形機の製造方法)
次に、
図2を参照して、本発明によるスクリュー112の製造方法の一例について説明する。
【0028】
図2には、本発明による射出成形機の製造方法の一例を概略的に示す。
【0029】
図2に示すように、本発明による方法は、重量比で、5〜9%のB(ホウ素)、9〜11%のCr(クロム)、4〜5%のSi(ケイ素)、およびベース材としてNi(ニッケル)を含む第1の粉末を準備する工程(ステップS110)と、金属元素Mを含む第2の粉末を準備する工程であって、第2の粉末は、W(タングステン)および/またはMo(モリブデン)である、工程(ステップS120)と、前記第1および第2の粉末を混合して、溶射粉末を得る工程であって、前記第2の粉末は、前記第1の粉末に対して、M:B(ホウ素)がモル比で、0.75:1〜1:1となるように混合される、工程(ステップS130)と、スクリューヘッド、逆止リング、およびシールリングのうちの少なくとも一つの部材に、前記溶射粉末を用いて溶射を行い、前記いずれか一つの部材の少なくとも一部に溶射膜を形成する工程(ステップS140)と、前記溶射膜を熱処理して、ホウ化物Ni(M
xB
y)を形成する工程(ステップS150)と、を有する。以下、各ステップについて、詳しく説明する。
【0030】
(ステップS110)
まず、第1の粉末が準備される。第1の粉末は、重量比で、5〜9%のB(ホウ素)、9〜11%のCr(クロム)、および4〜5%のSi(ケイ素)を含むNi(ニッケル)合金である。
【0031】
第1の粉末の粒径は、特に限られないが、例えば粒径は、45μm〜90μmの範囲であっても良い。このような粒径範囲内の粉末は、篩いによる篩い分けにより、容易に得ることができる。
【0032】
(ステップS120)
次に、金属元素Mを含む第2の粉末が準備される。金属元素Mは、W(タングステン)および/またはMo(モリブデン)である。
【0033】
第2の粉末の粒径は、特に限られないが、例えば粒径は、13.5μm〜17.5μmの範囲であっても良い。このような粒径範囲内の粉末は、篩いによる篩い分けにより、容易に得ることができる。
【0034】
(ステップS130)
次に、第1の粉末と第2の粉末が混合され、溶射粉末が調製される。第2の粉末は、第1の粉末に対して、金属元素M:B(ホウ素)がモル比で、0.75:1〜1:1となるように混合されることが好ましい。
【0036】
(ステップS140)
次に、ステップS130で調製された溶射粉末を用いて、対象部材の表面に溶射膜が設置される。
【0037】
対象部材は、スクリューヘッド131、逆止リング140、およびシールリング145のうちの少なくとも一つである。また、溶射施工箇所は、スクリューヘッド131の場合は、先端部132の逆止リング140との当接位置(
図1のA参照)であり、逆止リング140の場合は、スクリューヘッド131の先端部132との当接部および/またはシールリング145との当接部(それぞれ、
図1のB1およびC参照)であり、シールリング145の場合、逆止リング140との当接位置(
図1のD参照)である。ただし、以上の表記は、最小の溶射施工領域であり、さらに、他の位置に溶射することも可能である。例えば、逆止リング140の前端側であって、スクリューヘッド131の先端部132とは当接しない領域(
図1のB2参照)、逆止リング140のスクリューヘッド131の縮径部139と対向する面、および/または逆止リング140の加熱シリンダ111の内面と対向する面等に、溶射膜を設置しても良い。
【0038】
溶射の方法は、特に限られず、溶射は、プラズマ溶射、フレーム溶射、または爆発溶射等であっても良い。また、溶射条件は、特に限られず、溶射は、従来の一般的な条件で行われても良い。なお、溶射の前に、対象部材の表面に対して、ブラスト処理等の前処理を実施しても良い。
【0039】
なお、本願において、各箇所に溶射された溶射膜中に含まれる各元素、特にB(ホウ素)、W(タングステン)、およびMo(モリブデン)の濃度は、以下の方法で測定することができる。
【0040】
まず、測定対象の溶射膜を施工箇所から剥離し、粉砕する。次に、粉砕された溶射膜サンプルを秤量して、酸溶液中に溶解する。
【0041】
この溶射膜サンプルが溶解した溶液中に含まれる所望の元素の濃度を、誘導結合プラズマ発光分光分析法(Inductively Coupled Plasma−Atomic Emission Spectrometry:ICP−AES)により分析する。
【0042】
(ステップS150)
次に、溶射膜が熱処理される。
【0043】
溶射膜の熱処理は、溶射膜中のホウ素と金属元素Mとを反応させて、金属ホウ化物Ni(M
xB
y)を生成させるために実施される。
【0044】
溶射膜の熱処理条件は、特に限られず、熱処理は、従来の一般的な条件で行われても良い。例えば、熱処理は、溶射膜を真空中、1200℃以上の温度に保持することにより行われても良い。
【0045】
これにより、溶射膜中に金属ホウ化物Ni(M
xB
y)が形成される。この金属ホウ化物Ni(M
xB
y)は、溶射膜の耐摩耗性の向上に寄与する。特に、本発明では、溶射合金に、金属W(タングステン)および/または金属Mo(モリブデン)を添加している。これらの金属は、熱力学的にB(ホウ素)と結びつきやすい元素であり、このため、本発明では、金属ホウ化物Ni(M
xB
y)を比較的容易に生成させることができる。
【0046】
なお、これまで、溶射膜の耐摩耗性を高めるためには、溶射合金中のホウ素、および該ホウ素との間で金属ホウ化物を形成する金属元素Mは、できる限り多く含有させることが望ましいと考えられてきた。
【0047】
しかしながら、本願発明者らは、溶射膜に含まれる金属ホウ化物Ni(M
xB
y)が逆に多くなりすぎると、溶射膜の引張強度が低下し、じん性が低下する危険性があることを見出している。従って、本発明では、Ni−B系合金に含まれるBの量が6wt%〜8wt%に抑制されている。これにより、溶射膜のじん性をあまり低下させずに、高い耐摩耗性を発現させることができる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0049】
(実施例1)
以下の方法で、溶射合金を調製した。
【0050】
まず、粒径が45μm〜90μmの範囲にあるNi−B−Cr−Si合金粉末(第1の粉末:純度99.8%)と、粒径が13.5μm〜17.5μmの範囲にあるタングステン粉末(第2の粉末:純度99.8%)とを準備した。第1の粉末の組成は、Ni−6wt%B−10wt%Cr−4.5wt%とした。
【0051】
次に、ミキサーに、第1の粉末および第2の粉末を入れ、これらを混合した。第1および第2の粉末は、混合物中のタングステンとホウ素のモル比(W:B)が1:1となるように添加した。
【0052】
次に、得られた混合合金粉末を用いて、基材上にプラズマ溶射を行った。基材には、SCM440材(Cr−Mo綱)を使用した。溶射前に、基材の被溶射面にブラスト処理を行った。
【0053】
プラズマ溶射は、以下のような一般的な条件で実施した:
電流;500A、
電圧;65V、
キャリアガス(アルゴンガス)流量;18.5SCFH、
燃料供給用水素流量;15SCFH。
【0054】
溶射膜の厚さは、1mmを目標とした。
【0055】
次に、得られた溶射膜を高温(1200℃以上)の真空中に保持し、熱処理を行った。熱処理後には、溶射膜中のタングステンとホウ素が反応し、ホウ化物(WB)が生じていることが確認された。
【0056】
以上の方法で得られた溶射試料を、実施例1に係る試料と称する。
【0057】
(実施例2)
実施例1と同様の方法により、実施例2に係る試料を作製した。ただし、実施例2では、第1の粉末の組成は、Ni−8wt%B−10wt%Cr−4.5wt%とした。その他の作製条件は、実施例1と同様である。
【0058】
(比較例1)
実施例1と同様の方法により、比較例1に係る試料を作製した。ただし、比較例1では、第1の粉末の組成は、Ni−3wt%B−10wt%Cr−4.5wt%とした。その他の作製条件は、実施例1と同様である。
【0059】
(比較例2)
実施例1と同様の方法により、比較例2に係る試料を作製した。ただし、比較例2では、第1の粉末の組成は、Ni−10wt%B−10wt%Cr−4.5wt%とした。その他の作製条件は、実施例1と同様である。
【0060】
(評価)
次に、得られた各試料を用いて、耐摩耗性の評価試験を行った。
【0061】
耐摩耗性の評価は、比摩耗量Sを指標とし、以下に示す方法により実施した。
【0062】
図3には、試験装置300の構成を概略的に示す。
図3に示すように、試験装置300は、試料310の上部に配置されたリング320で構成される。
【0063】
この試験装置300を用いて、試料310の上から、加重wでリング320を押し付けた状態で、リング320を2.4m/秒の回転速度で回転させる。所定の時間後に、リング320の回転を停止し、試料310の損耗体積Vを測定する。
【0064】
損耗体積Vを用いて、以下の(1)式から、比摩耗量Sを算出する:
S=V/w・L (1)式
ここで、Lは、リング320の摺動距離(すなわち試料310とリング320とが摺動した距離)であり、試験時間から算出することができる。
【0065】
(1)式から、比摩耗量Sは、耐摩耗性の指標となり、比摩耗量Sが小さいほど、試料310の耐摩耗性が優れることになる。
【0066】
なお、試験の際に、潤滑剤は、使用していない。
【0067】
結果を表1に示す。
【0068】
【表1】
この耐摩耗性の評価試験結果から、実施例1および実施例2に係る試料は、比較例2に係る試料とほぼ同等の耐摩耗性を有することがわかる。一方、比較例1に係る試料は、他の試料に比べて、耐摩耗性が劣ることがわかった。比較例1に係る試料は、溶射合金中に含まれるホウ素Bの量が3wt%と少なくなっている。このことから、比較例1に係る試料では、熱処理によって生成するタングステンホウ化物の量が少なく、十分な耐摩耗性向上効果が得られなかったものと考えられる。
【0069】
次に、得られた各試料を用いて、じん性の評価試験を行った。
【0070】
じん性の評価は、3点曲げ試験により実施した。すなわち、試料の上から、クロスヘッド移動速度1mm/分で、試料に荷重を加えて行き、試料が破壊した際の荷重と試料の断面積から、破壊応力(抗折力)を求めた。支点間距離は、20mmとした。なお、抗折力は、4本以上の同一試料における平均値として算出した。
【0071】
結果を前述の表1に示す。
【0072】
このじん性の評価試験結果から、実施例1および実施例2に係る試料では、比較例1および比較例2に係る試料に比べて、抗折力が有意に向上していることがわかる。これは、比較例2に係る試料では、熱処理によって金属ホウ化物が多量に生成されたためであると考えられる。これに対して、実施例1および実施例2に係る試料では、金属ホウ化物の過剰な生成が回避され、じん性の低下が有意に抑制されたものと考えられる。
【0073】
このように、本発明による溶射合金を使用することにより、耐摩耗性とじん性がともに良好な溶射膜を得ることができることが確認された。