特許第5808691号(P5808691)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5808691クライオポンプ、及びクライオポンプの再生方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5808691
(24)【登録日】2015年9月18日
(45)【発行日】2015年11月10日
(54)【発明の名称】クライオポンプ、及びクライオポンプの再生方法
(51)【国際特許分類】
   F04B 37/08 20060101AFI20151021BHJP
   F04B 37/16 20060101ALI20151021BHJP
【FI】
   F04B37/08
   F04B37/16 C
   F04B37/16 A
【請求項の数】7
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2012-37239(P2012-37239)
(22)【出願日】2012年2月23日
(65)【公開番号】特開2013-170568(P2013-170568A)
(43)【公開日】2013年9月2日
【審査請求日】2014年5月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100109047
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 雄祐
(74)【代理人】
【識別番号】100109081
【弁理士】
【氏名又は名称】三木 友由
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】福田 奨
【審査官】 田谷 宗隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−135570(JP,A)
【文献】 特開平08−061232(JP,A)
【文献】 特開平02−095779(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 37/08
F04B 37/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1段ステージと、1段ステージより低温に冷却される2段ステージと、を備える冷凍機と、
前記1段ステージにより冷却される1段パネルと、前記2段ステージにより冷却される2段パネルと、を備えるクライオパネルと、
前記1段パネル及び前記2段パネルの少なくとも一方に設けられているパネル温度センサと、
前記1段ステージ及び前記2段ステージの少なくとも一方に設けられているステージ温度センサと、
前記ステージ温度センサの測定温度に基づく真空排気と、前記クライオパネルの昇温工程を含む再生と、を制御し、前記パネル温度センサの測定温度を専ら前記再生において使用するよう構成されている制御部と、を備え、
前記制御部は、前記パネル温度センサの測定温度に基づいて前記昇温工程を完了することを特徴とするクライオポンプ。
【請求項2】
前記制御部は、前記クライオパネルの昇温のために前記冷凍機の昇温運転を制御し、該昇温運転中に前記ステージ温度センサの測定温度を監視し、
前記制御部は、前記ステージ温度センサの測定温度が警告温度に到達したとき前記冷凍機の昇温運転を中止することを特徴とする請求項1に記載のクライオポンプ。
【請求項3】
前記パネル温度センサは、前記昇温工程における昇温目標温度を含む測定可能温度域を有し、該測定可能温度域は前記真空排気における前記クライオパネルの冷却目標温度より高い温度範囲であることを特徴とする請求項1または2に記載のクライオポンプ。
【請求項4】
前記1段パネルにおいて伝熱経路の末端部に設けられている1段パネル温度センサと、前記2段パネルにおいて伝熱経路の末端部に設けられている2段パネル温度センサと、を備え、
前記制御部は、1段パネル温度センサの測定温度が1段パネル目標温度に達し、かつ2段パネル温度センサの測定温度が2段パネル目標温度に達したときに前記昇温工程を完了することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のクライオポンプ。
【請求項5】
前記クライオパネルは、前記昇温工程において前記1段パネルが前記2段パネルよりも遅れて昇温目標温度に到達するよう構成されており、
前記パネル温度センサは、少なくとも前記1段パネルに設けられており、
前記制御部は、前記1段パネルの測定温度に基づいて前記昇温工程を完了することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のクライオポンプ。
【請求項6】
前記クライオパネルは、前記昇温工程において前記2段パネルが前記1段パネルよりも遅れて昇温目標温度に到達するよう構成されており、
前記パネル温度センサは、少なくとも前記2段パネルに設けられており、
前記制御部は、前記2段パネルの測定温度に基づいて前記昇温工程を完了することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のクライオポンプ。
【請求項7】
クライオポンプの再生方法であって、
ステージ温度センサの測定温度に基づき真空排気を制御することと、
クライオパネルの昇温工程を含む再生を制御することと、を含み、
前記昇温工程は、パネル温度センサの測定温度に基づいて前記昇温工程を完了することを含み、前記パネル温度センサの測定温度は専ら前記再生において使用されることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クライオポンプ、クライオポンプの再生方法、クライオポンプの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
クライオポンプは、極低温に冷却されたクライオパネルに気体分子を凝縮または吸着により捕捉して排気する真空ポンプである。クライオポンプは半導体回路製造プロセス等に要求される清浄な真空環境を実現するために一般に利用される。そうしてクライオパネルに蓄積された気体を外部に排出するために、クライオポンプは定期的に再生される。
【0003】
クライオポンプには通例、温度センサが設けられている。温度センサは例えば、クライオパネルに直に取り付けられている。あるいは、温度センサは、クライオパネルを冷却するための冷凍機に取り付けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭63−4380号公報
【特許文献2】特開平8−68380号公報
【特許文献3】特開2004−27866号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
クライオポンプの運転中にクライオパネルの温度はかなり広い範囲を変動する。クライオパネルは真空排気においては極低温に冷却される一方で、再生においては室温またはそれよりいくらか高温まで加熱される。真空排気を中断して再生のためにクライオパネルを昇温するときには、そのクライオパネルの部分間に大きな温度差が過渡的に生じ得る。
【0006】
均一に昇温されたクライオパネルを簡単に得るには、昇温に時間をかけることが1つの有効な方法である。昇温の際にはたいてい、熱源によりクライオパネルが加熱されるとともに、クライオポンプの室内にパージガスが導入される。例えば、この場合、クライオパネルの熱源近傍部位が目標の温度に達した後も、ある時間継続してパージガスを室内に滞留させるという均一化の手法が考えられる。パージガスを介する熱伝達がクライオパネル温度分布の目標温度への均一化に役立つ。パージの継続期間を相当に長くすることで均一化を保証するという実務的な対策があり得る。しかし、そうした対策は、再生時間の短縮化という、クライオポンプへの最も重要な要請の1つに必ずしも整合しない。
【0007】
クライオパネルに多数の温度センサが設置されている場合には、そのクライオパネルを短時間で均一に昇温する制御が可能となるかもしれない。しかし、クライオポンプの製造コストをなるべく小さくするという観点からは、多数の温度センサをクライオパネルに設けるのは現実的でないかもしれない。
【0008】
本発明のある態様の例示的な目的のひとつは、昇温時間の短縮化に役立つよう配置された少数の温度センサを備えるクライオポンプ、そうしたクライオポンプに適する再生方法及び制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のある態様のクライオポンプは、1段ステージと、1段ステージより低温に冷却される2段ステージと、を備える冷凍機と、1段ステージにより冷却される1段パネルと、2段ステージにより冷却される2段パネルと、を備えるクライオパネルと、1段パネル及び2段パネルの少なくとも一方に設けられているパネル温度センサと、1段ステージ及び2段ステージの少なくとも一方に設けられているステージ温度センサと、ステージ温度センサの測定温度に基づく真空排気と、クライオパネルの昇温工程を含む再生と、を制御し、パネル温度センサの測定温度を専ら再生において使用するよう構成されている制御部と、を備える。制御部は、パネル温度センサの測定温度に基づいて昇温工程を完了する。
【0010】
昇温工程のように比較的大きな温度差が現れる過渡的状況においては、ステージ温度センサは必ずしもクライオパネル温度を正確に反映しない。昇温工程の完了をパネル温度センサの測定温度に基づき決定することにより、昇温工程を不必要に長く継続することなく適切に打ち切ることが可能となる。
【0011】
また、パネル温度センサの測定温度は専ら再生において使用される。つまり、パネル温度センサの測定温度は真空排気の制御には使用されない。真空排気はステージ温度センサの測定温度に基づき制御される。これは、クライオパネル測定温度が真空排気におけるクライオパネル温度制御に必ずしも適さないことがあるという本発明者の経験的な知見に基づく。パネル温度センサを再生に専用とし、ステージ温度センサを主として真空排気に用いるという役割分担によって、少数の温度センサでクライオポンプを効率的に管理することができる。
【0012】
制御部は、クライオパネルの昇温のために冷凍機の昇温運転を制御し、該昇温運転中にステージ温度センサの測定温度を監視してもよい。制御部は、ステージ温度センサの測定温度が警告温度に到達したとき冷凍機の昇温運転を中止してもよい。
【0013】
この場合、クライオパネルは冷凍機を熱源とする、いわゆる逆転昇温によって加熱される。冷凍機のほかにヒータをクライオポンプが備えなくてもよいという利点がある。また、警告温度で逆転昇温が中止されることにより、冷凍機を保護することができる。例えば、冷凍機内部の可動要素の焼き付きを防ぐことができる。
【0014】
パネル温度センサは、昇温工程における昇温目標温度を含む測定可能温度域を有してもよい。該測定可能温度域は真空排気におけるクライオパネルの冷却目標温度より高い温度範囲であってもよい。
【0015】
パネル温度センサの測定可能温度域は、真空排気におけるクライオパネルの冷却目標温度を含まない。そうした極低温を測定範囲から外すことにより、汎用の温度センサを採用しやすくなる。昇温目標温度は通常、室温付近にあるから、パネル温度センサとして、例えば熱電対などの一般的なものを用いることができる。汎用品の採用は製造コスト低下に役立つ。
【0016】
クライオポンプは、1段パネルにおいて伝熱経路の末端部に設けられている1段パネル温度センサと、2段パネルにおいて伝熱経路の末端部に設けられている2段パネル温度センサと、を備えてもよい。制御部は、1段パネル温度センサの測定温度が1段パネル目標温度に達し、かつ2段パネル温度センサの測定温度が2段パネル目標温度に達したときに昇温工程を完了してもよい。
【0017】
伝熱経路の末端部は熱源から離れているため、昇温工程においては他の部位より低温である。よって、その測定温度が目標温度に達したとき、他の部位は既に目標温度に達していると評価することができる。
【0018】
クライオパネルは、昇温工程において1段パネルが2段パネルよりも遅れて昇温目標温度に到達するよう構成されていてもよい。パネル温度センサは、少なくとも1段パネルに設けられていてもよい。制御部は、1段パネルの測定温度に基づいて昇温工程を完了してもよい。
【0019】
例えば、1段パネルのための昇温能力に対する1段パネル質量が、2段パネルのための昇温能力に対する2段パネル質量と比較して大きい場合には、2段パネルに比べて1段パネルの昇温に時間がかかる傾向がある。そうした場合には、2段パネルの昇温が先に終わると見込まれるから、1段パネルの測定温度に基づいて昇温工程の完了を決定することができる。
【0020】
クライオパネルは、昇温工程において2段パネルが1段パネルよりも遅れて昇温目標温度に到達するよう構成されていてもよい。パネル温度センサは、少なくとも2段パネルに設けられていてもよい。制御部は、2段パネルの測定温度に基づいて昇温工程を完了してもよい。
【0021】
例えば、2段パネルのための昇温能力に対する2段パネル質量が、1段パネルのための昇温能力に対する1段パネル質量と比較して大きい場合には、1段パネルに比べて2段パネルの昇温に時間がかかる傾向がある。そうした場合には、1段パネルの昇温が先に終わると見込まれるから、2段パネルの測定温度に基づいて昇温工程の完了を決定することができる。
【0022】
本発明の別の態様は、クライオポンプの再生方法である。この方法は、ステージ温度センサの測定温度に基づき真空排気を制御することと、クライオパネルの昇温工程を含む再生を制御することと、を含む。昇温工程は、パネル温度センサの測定温度に基づいて昇温工程を完了することを含む。パネル温度センサの測定温度は専ら再生において使用される。
【0023】
本発明の別の態様は、クライオポンプの制御装置である。この装置は、互いに口径の異なる第1機種と第2機種とを含む複数機種のクライオポンプに共用され、該第1機種は1段パネルが遅れて昇温するよう構成されている小口径のクライオポンプであり、該第2機種は2段パネルが遅れて昇温するよう構成されている大口径のクライオポンプである。昇温工程の完了判定のための温度測定場所の設定が、前記1段パネルと前記2段パネルとのいずれかに選択可能に構成されている。
【0024】
この態様によると、複数機種のクライオポンプに共用される制御装置が提供される。昇温工程完了判定のための温度測定場所を機種ごとに設定することができる。適切な設定により、短縮された昇温工程を機種ごとにもたらすことができる。
【0025】
本発明の別の態様は、クライオポンプの制御装置である。この装置は、昇温工程の完了判定に使用される温度センサがクライオポンプの機種ごとに選択可能に構成されている。
【0026】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システム、プログラムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、昇温時間の短縮化に役立つよう配置された少数の温度センサを備えるクライオポンプ、そうしたクライオポンプに適する再生方法及び制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の一実施形態に係るクライオポンプを模式的に示す図である。
図2】本発明の一実施形態に係る再生方法を説明するためのフローチャートである。
図3】本発明の一実施形態に係る昇温工程を説明するためのフローチャートである。
図4】本発明の他の一実施形態に係るクライオポンプを模式的に示す図である。
図5】本発明の他の一実施形態に係るクライオポンプを模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1は、本発明の一実施形態に係るクライオポンプ10を模式的に示す図である。クライオポンプ10は、例えばイオン注入装置やスパッタリング装置等の真空チャンバに取り付けられて、真空チャンバ内部の真空度を所望のプロセスに要求されるレベルまで高めるために使用される。
【0030】
クライオポンプ10は、気体を受け入れるための吸気口12を有する。吸気口12はクライオポンプ10の内部空間14への入口である。クライオポンプ10が取り付けられた真空チャンバから吸気口12を通じて、排気されるべき気体がクライオポンプ10の内部空間14に進入する。
【0031】
なお以下では、クライオポンプ10の構成要素の位置関係をわかりやすく表すために、「軸方向」、「径方向」との用語を使用することがある。軸方向は吸気口12を通る方向を表し、径方向は吸気口12に沿う方向を表す。便宜上、軸方向に関して吸気口12に相対的に近いことを「上」、相対的に遠いことを「下」と呼ぶことがある。つまり、クライオポンプ10の底部から相対的に遠いことを「上」、相対的に近いことを「下」と呼ぶことがある。径方向に関しては、吸気口12の中心に近いことを「内」、吸気口12の周縁に近いことを「外」と呼ぶことがある。なお、こうした表現はクライオポンプ10が真空チャンバに取り付けられたときの配置とは関係しない。例えば、クライオポンプ10は鉛直方向に吸気口12を下向きにして真空チャンバに取り付けられてもよい。
【0032】
図1は、クライオポンプ10の内部空間14の中心軸と、冷凍機16とを含む断面を示す。クライオポンプ10は、冷凍機16と、2段パネル18と、1段パネル20と、を備える。
【0033】
冷凍機16は、例えばギフォード・マクマホン式冷凍機(いわゆるGM冷凍機)などの極低温冷凍機である。冷凍機16は、1段ステージ22及び2段ステージ24を備える二段式の冷凍機である。
【0034】
冷凍機16は冷媒管34を介して圧縮機36に接続される。圧縮機36は、高圧の作動気体を冷凍機16に供給する。高圧の作動気体は冷凍機16内の膨張室で断熱膨張をし、寒冷を発生させる。圧縮機36は、冷凍機16から回収された低圧の作動気体を圧縮する。作動気体は例えばヘリウムである。圧縮機36から冷凍機16へ、また冷凍機16から圧縮機36への作動気体の流れは、冷凍機16内のロータリバルブ(図示せず)により切り替えられる。冷凍機16はバルブ駆動モータ40を備える。バルブ駆動モータ40は、外部電源から電力の供給を受けて、ロータリバルブを回転させる。
【0035】
冷凍機16は、1段ステージ22を第1温度レベルに冷却し、2段ステージ24を第2温度レベルに冷却するよう構成されている。第2温度レベルは第1温度レベルよりも低温である。例えば、1段ステージ22は65K〜120K程度、好ましくは80K〜100Kに冷却され、2段ステージ24は10K〜20K程度に冷却される。
【0036】
図1に示されるクライオポンプ10は、いわゆる横型のクライオポンプである。横型のクライオポンプとは一般に、冷凍機16がクライオポンプ10の内部空間14の中心軸に交差する(通常は直交する)よう配設されているクライオポンプである。本発明はいわゆる縦型のクライオポンプにも同様に適用することができる。縦型のクライオポンプとは、冷凍機がクライオポンプの軸方向に沿って配設されているクライオポンプである。
【0037】
2段パネル18は、クライオポンプ10の内部空間14の中心部に設けられている。2段パネル18は例えば、複数のパネル部材26を含む。パネル部材26は例えば、それぞれが円すい台の側面の形状、いわば傘状の形状を有する。各パネル部材26には通常活性炭等の吸着剤(図示せず)が設けられている。吸着剤は例えばパネル部材26の裏面に接着されている。パネル部材26はパネル取付部材28に取り付けられている。パネル取付部材28は2段ステージ24に取り付けられている。このようにして、2段パネル18は、2段ステージ24に熱的に接続されている。よって、2段パネル18は第2温度レベルに冷却される。
【0038】
1段パネル20は、2段パネル18の外側に設けられている。1段パネル20は、放射シールド30と入口クライオパネル32とを備え、2段パネル18を包囲する。1段パネル20は1段ステージ22に熱的に接続されており、1段パネル20は第1温度レベルに冷却される。
【0039】
放射シールド30は主として、クライオポンプ10のハウジング38からの輻射熱から2段パネル18を保護するために設けられている。放射シールド30は、ハウジング38と2段パネル18との間にあり、2段パネル18を囲む。放射シールド30は、吸気口12に向けて軸方向上端が開放されている。放射シールド30は、軸方向下端が閉塞された筒形(例えば円筒)の形状を有し、カップ状に形成されている。放射シールド30の側面には冷凍機16の取付のための孔があり、そこから2段ステージ24が放射シールド30の中に挿入されている。その取付孔の外周部にて放射シールド30の外面に1段ステージ22が固定されている。こうして放射シールド30は1段ステージ22に熱的に接続されている。
【0040】
放射シールド30は、図1に示されるように一体の筒状に構成されていてもよく、また、複数のパーツにより全体として筒状の形状をなすように構成されていてもよい。これら複数のパーツは互いに間隙を有して配設されていてもよい。例えば、放射シールド30は、1段ステージ22の軸方向上側に取り付けられる上部シールドと、1段ステージ22の軸方向下側に取り付けられる下部シールドとに分割されていてもよい。この場合、上部シールドは、上端及び下端が開放された筒型パネルであり、下部シールドは、上端が開放され下端が閉塞された筒型パネルである。
【0041】
入口クライオパネル32は、2段パネル18の軸方向上方に設けられ、吸気口12において径方向に沿って配置されている。入口クライオパネル32はその外周部が放射シールド30の開口端に固定されて、放射シールド30に熱的に接続されている。入口クライオパネル32は、例えば、ルーバ構造やシェブロン構造に形成される。入口クライオパネル32は、放射シールド30の中心軸を中心とする同心円状に形成されていてもよいし、あるいは格子状等他の形状に形成されていてもよい。
【0042】
入口クライオパネル32は、吸気口12に入る気体を排気するために設けられている。入口クライオパネル32の温度で凝縮する気体(例えば水分)がその表面に捕捉される。また、入口クライオパネル32は、クライオポンプ10の外部の熱源(例えば、クライオポンプ10が取り付けられる真空チャンバ内の熱源)からの輻射熱から2段パネル18を保護するために設けられている。輻射熱だけではなく気体分子の進入も制限される。入口クライオパネル32は、吸気口12を通じた内部空間14への気体流入を所望量に制限するように吸気口12の開口面積の一部を占有する。
【0043】
クライオポンプ10は、ハウジング38を備える。ハウジング38は、クライオポンプ10の内部と外部とを隔てるための真空容器である。ハウジング38は、クライオポンプ10の内部空間14の圧力を気密に保持するよう構成されている。ハウジング38の中に、1段パネル20と冷凍機16とが収容されている。ハウジング38は、1段パネル20の外側に設けられており、1段パネル20を囲む。また、ハウジング38は冷凍機16を収容する。
【0044】
ハウジング38は、1段パネル20及び冷凍機16の低温部に非接触であるように、外部環境温度の部位(例えば冷凍機16の高温部)に固定されている。ハウジング38の外面は外部環境にさらされており、冷却されている1段パネル20よりも温度が高い(例えば室温程度)。
【0045】
また、ハウジング38はその開口端から径方向外側に向けて延びる吸気口フランジ56を備える。吸気口フランジ56は、取付先の真空チャンバにクライオポンプ10を取り付けるためのフランジである。真空チャンバの開口にはゲートバルブが設けられており(図示せず)、吸気口フランジ56はそのゲートバルブに取り付けられる。そのようにして入口クライオパネル32の軸方向上方にゲートバルブが位置する。例えばクライオポンプ10を再生するときにゲートバルブは閉とされ、クライオポンプ10が真空チャンバを排気するときに開とされる。
【0046】
ハウジング38には、ベントバルブ70、ラフバルブ72、及びパージバルブ74が接続されている。
【0047】
ベントバルブ70は、クライオポンプ10の内部空間から外部環境へと流体を排出するための排出ライン80の例えば末端に設けられている。ベントバルブ70が開弁されることにより排出ライン80の流れが許容され、ベントバルブ70が閉弁されることにより排出ライン80の流れが遮断される。排出される流体は基本的にはガスであるが、液体または気液の混合物であってもよい。例えばクライオポンプ10に凝縮されたガスの液化物が排出流体に混在していてもよい。ベントバルブ70が開弁されることにより、ハウジング38の内部に生じた陽圧を外部に解放することができる。
【0048】
ラフバルブ72は、粗引きポンプ73に接続される。ラフバルブ72の開閉により、粗引きポンプ73とクライオポンプ10とが連通または遮断される。粗引きポンプ73は典型的にはクライオポンプ10とは別の真空装置として設けられ、例えばクライオポンプ10が接続される真空チャンバを含む真空システムの一部を構成する。
【0049】
パージバルブ74は図示しないパージガス供給装置に接続される。パージガスは例えば窒素ガスである。パージバルブ74の開閉により、パージガスのクライオポンプ10への供給が制御される。
【0050】
クライオポンプ10は、1段ステージ22の温度を測定するための1段ステージ温度センサ90と、2段ステージ24の温度を測定するための2段ステージ温度センサ92と、を備える。1段ステージ温度センサ90は、1段ステージ22に取り付けられている。2段ステージ温度センサ92は、2段ステージ24に取り付けられている。以下では説明の便宜上、1段ステージ温度センサ90及び2段ステージ温度センサ92を「ステージ温度センサ」と総称することがある。
【0051】
ステージ温度センサは、クライオポンプ10の真空排気運転及び再生運転の両方において各ステージ温度の監視のために使用される。そのため、ステージ温度センサは、真空排気中のステージ温度と再生中のステージ温度の両方を含む測定可能温度域を有する。つまり、ステージ温度センサは、室温だけでなく例えば20K以下の極低温を測定するよう構成されている温度センサである。ステージ温度センサは例えば、白金抵抗温度計または水素蒸気圧温度計である。
【0052】
また、クライオポンプ10は、1段パネル20の温度を測定するための1段パネル温度センサ94と、2段パネル18の温度を測定するための2段パネル温度センサ96と、を備える。1段パネル温度センサ94は、1段パネル20において伝熱経路の末端部に設けられている。2段パネル温度センサ96は、2段パネル18において伝熱経路の末端部に設けられている。
【0053】
ここで、伝熱経路の末端部とは、クライオパネルの昇温中に熱源から遠い場所をいう。例えば、熱源からパネル上のある点までの伝熱経路の長さによって、熱源に近い(伝熱経路が短い)領域と熱源から遠い(伝熱経路が長い)領域とに1段パネル20を区分することができる。あるいは、同様にして、熱源に近い領域、中間の領域、遠い領域の3つに1段パネル20を区分することができる。2段パネル18についても同様である。このとき、熱源から遠い領域を、伝熱経路の末端部とみなしてもよい。冷凍機16の昇温運転が行われる場合には1段ステージ22、2段ステージ24をそれぞれ1段パネル20、2段パネル18の熱源とみなすことができる。1段パネル20、2段パネル18に加熱用のヒータが設けられている場合には、そのヒータが熱源である。
【0054】
図1においては、1段パネル温度センサ94は入口クライオパネル32に設けられている。具体的には、1段パネル温度センサ94は入口クライオパネル32の中心部に設けられている。代案として、1段パネル温度センサ94は放射シールド30の開口端または閉塞端に設けられてもよい。2段パネル温度センサ96は、2段パネル18において2段ステージ24から最も遠いパネル部材26の端部に設けられている。以下では説明の便宜上、1段パネル温度センサ94及び2段パネル温度センサ96を「パネル温度センサ」と総称することがある。
【0055】
パネル温度センサは、再生中の各パネル温度の監視のために使用される。パネル温度センサは、昇温工程における昇温目標温度を含む測定可能温度域を有する。本実施例においてはパネル温度センサは真空排気中は使用されないので、パネル温度センサは測定可能温度域に極低温を含まなくてもよい。要するに、パネル温度センサは室温レベルを測定可能であればよい。よって、パネル温度センサとして例えば安価な熱電対を使用することができる。
【0056】
また、クライオポンプ10は、制御部100を備える。制御部100はクライオポンプ10に一体に設けられていてもよいし、クライオポンプ10とは別体の制御装置として構成されていてもよい。
【0057】
制御部100は、クライオポンプ10の真空排気運転及び再生運転のために冷凍機16を制御するよう構成されている。また、制御部100は、主として再生中に必要に応じてベントバルブ70、ラフバルブ72、及びパージバルブ74の開閉を制御する。制御部100には、1段ステージ温度センサ90、2段ステージ温度センサ92、1段パネル温度センサ94、2段パネル温度センサ96、及び圧力センサ(図示せず)等の各種センサの測定結果を受信するよう構成されている。制御部100は、そうした測定結果に基づいて、冷凍機16及び各種バルブに与える制御指令を演算する。
【0058】
真空排気運転においては、制御部100は、ステージ温度が目標の冷却温度に追従するように冷凍機16を制御する。1段ステージ22の目標温度は通常、一定値に設定される。1段ステージ22の目標温度は例えば、クライオポンプ10が取り付けられる真空チャンバで行われるプロセスに応じて仕様として定められる。
【0059】
例えば、制御部100は、1段ステージ22の目標温度と1段ステージ温度センサ90の測定温度との偏差を最小化するようにフィードバック制御により冷凍機16の運転周波数を制御する。すなわち、制御部100は、バルブ駆動モータ40の回転数を制御することにより、冷凍機16における熱サイクルの周波数を制御する。
【0060】
クライオポンプ10への熱負荷が増加したとき1段ステージ22の温度が高まりうる。1段ステージ温度センサ90の測定温度が目標温度よりも高温である場合には、制御部100は、冷凍機16の運転周波数を増加させる。その結果、冷凍機16における熱サイクルの周波数も増加され、1段ステージ22は目標温度に向けて冷却される。逆に1段ステージ温度センサ90の測定温度が目標温度よりも低温である場合には、冷凍機16の運転周波数は減少されて1段ステージ22は目標温度に向けて昇温される。
【0061】
典型的なクライオポンプにおいては、熱サイクルの周波数は常に一定とされている。常温からポンプ動作温度への急冷却を可能とするように比較的大きい周波数で運転するよう設定され、外部からの熱負荷が小さい場合にはヒータにより加熱することでクライオパネルの温度を調整する。よって、消費電力が大きくなる。これに対して本実施形態においては、クライオポンプ10への熱負荷に応じて熱サイクル周波数を制御するため、省エネルギー性に優れるクライオポンプを実現することができる。また、ヒータを必ずしも設ける必要がなくなることも消費電力の低減に寄与する。
【0062】
1段ステージ22の温度を目標温度にするよう冷凍機16を制御することを、以下では「1段温度制御」と呼ぶことがある。クライオポンプ10が真空排気運転をしているときは通常、1段温度制御が実行される。1段温度制御の結果、2段ステージ24及び2段パネル18は、冷凍機16の仕様及び外部からの熱負荷によって定まる温度に冷却される。
【0063】
同様にして、制御部100は、2段ステージ24の温度を目標温度にするよう冷凍機16を制御する、いわば「2段温度制御」を実行することもできる。制御部100は例えば、クライオポンプ10の真空排気を開始するための前処理であるクールダウン工程において2段温度制御をしてもよい。クールダウン工程においては急速にクライオパネルを冷却することが好ましい。このため、制御部100は、クールダウン工程においては2段温度制御を実行し、2段パネル18が目標温度近傍まで冷却されたときに1段温度制御に切り替えるようにしてもよい。
【0064】
上述のように本実施例においては、真空排気運転におけるクライオパネルの温度制御にステージ温度が用いられる。これは、クライオパネルを直接測定して得られた温度がクライオパネルの温度制御に必ずしも適さないことがあるという本発明者の経験的な知見に基づく。
【0065】
一見すると、パネル温度センサがクライオパネルに直に設けられているから、パネル温度センサの測定値に基づいてクライオパネル温度を制御することにより良好な結果が得られるようにみえる。しかし、実際には必ずしもそうではない。パネル温度センサの測定値はステージ温度センサに比べて変動することがある。パネル温度は外部からの輻射熱や気体の氷層堆積などの影響を受けて比較的敏感に変わるためである。真空排気中のクライオパネル温度は安定的であることが好ましいことから、クライオパネル温度制御はステージ温度センサの測定値に基づいて行うことが好適である。よって、本実施例においては、パネル温度センサの測定温度は真空排気運転の制御には使用されない。パネル温度センサの測定温度は、専ら再生において、特に昇温工程において、使用される。
【0066】
上記の構成のクライオポンプ10による動作を以下に説明する。クライオポンプ10の作動に際しては、まずその作動前にラフバルブ72を通じて粗引きポンプ73でクライオポンプ10の内部を例えば1Pa程度にまで粗引きする。その後クライオポンプ10を作動させる。制御部100による制御のもとで、冷凍機16の駆動により1段ステージ22及び2段ステージ24が冷却され、これらに熱的に接続されている1段パネル20、2段パネル18も冷却される。
【0067】
入口クライオパネル32は、真空チャンバからクライオポンプ10内部へ向かって飛来する気体分子を冷却し、その冷却温度で蒸気圧が充分に低くなる気体(例えば水分など)を表面に凝縮させて排気する。入口クライオパネル32の冷却温度では蒸気圧が充分に低くならない気体は入口クライオパネル32を通過して放射シールド30内部へと進入する。進入した気体分子のうち2段パネル18の冷却温度で蒸気圧が充分に低くなる気体は、その表面に凝縮されて排気される。その冷却温度でも蒸気圧が充分に低くならない気体(例えば水素など)は、2段パネル18の表面に接着され冷却されている吸着剤により吸着されて排気される。このようにしてクライオポンプ10は取付先の真空チャンバの真空度を所望のレベルに到達させることができる。
【0068】
排気運転が継続されることによりクライオポンプ10には気体が蓄積されていく。蓄積した気体を外部に排出するために、排気運転が開始されてから所定時間が経過したときまたは所定の再生開始条件が満たされたときに、クライオポンプ10の再生が行われる。再生処理は、昇温工程、排出工程、及び冷却工程を含む。
【0069】
クライオポンプ10の再生処理は例えば制御部100により制御される。制御部100は、所定の再生開始条件が満たされたか否かを判定し、当該条件が満たされた場合には再生を開始する。その場合、制御部100は、冷凍機16のクライオパネル冷却運転を中止し、冷凍機16の昇温運転を開始する。当該条件が満たされていない場合には、制御部100は再生を開始せず、例えば真空排気運転を継続する。
【0070】
図2は、本発明の一実施形態に係る再生方法を説明するためのフローチャートである。再生処理は、排気運転中のクライオパネル温度よりも高温である再生温度にクライオポンプ10を昇温する昇温工程を含む(S10)。図2に示す再生処理の一例は、いわゆるフル再生である。フル再生は、クライオポンプ10の1段パネル20及び2段パネル18を含むすべてのクライオパネルを再生する。クライオパネルは真空排気運転のための冷却温度から再生温度まで加熱される。再生温度は例えば室温またはそれよりいくらか高い温度である(例えば約290Kないし約300K)。
【0071】
昇温工程は、逆転昇温を含む。一実施例においては逆転昇温運転は、冷却運転とは冷凍機16内のロータリバルブを逆方向に回転させることにより、作動気体に断熱圧縮を生じさせるよう作動気体の吸排気のタイミングを異ならせる。こうして得られる圧縮熱で冷凍機16は1段ステージ22及び2段ステージ24を加熱する。1段パネル20は1段ステージ22を熱源として加熱され、2段パネル18は2段ステージ24を熱源として加熱される。
【0072】
制御部100は、クライオパネル温度の測定値が目標温度に達したか否かを判定する。制御部100は、目標温度に達するまでは昇温を継続し、目標温度に達した場合には昇温工程を終了する。昇温工程についての詳細は、図3を参照して後述する。
【0073】
昇温工程が完了すると、制御部100は、排出工程を開始する(S12)。排出工程は、クライオパネル表面から再気化した気体をクライオポンプ10の外部へ排出する。再気化した気体は例えば排出ライン80を通じて、または粗引きポンプ73を使用して、外部に排出される。再気化した気体は、必要に応じて導入されるパージガスとともにクライオポンプ10から排出される。排出工程においては、冷凍機16の運転は停止されている。
【0074】
制御部100は例えば、クライオポンプ10の内部の圧力測定値に基づいて、気体排出が完了したか否かを判定する。例えば、制御部100は、クライオポンプ10内の圧力が所定のしきい値を超えている間は排出工程を継続し、圧力がそのしきい値を下回った場合に排気工程を終了し冷却工程を開始する。
【0075】
冷却工程は、真空排気運転を再開するためにクライオパネルを再冷却する(S14)。冷凍機16の冷却運転が開始される。制御部100は、ステージ温度の測定値が真空排気運転のための目標冷却温度に達したか否かを判定する。制御部100は、目標冷却温度に到達するまでは冷却工程を継続し、当該冷却温度に達した場合には冷却工程を終了する。この冷却工程は上述のクールダウン工程と同一であってもよい。こうして再生処理は完了する。クライオポンプ10の真空排気運転が再開される。
【0076】
図3は、本発明の一実施形態に係る昇温工程(S10)を説明するためのフローチャートである。図3に示されるように、昇温工程は、パネル温度判定(S26)とステージ温度判定(S22)の2つの判定処理を含む。このうちパネル温度判定(S26)は、昇温工程を終了してよいか否かを決める昇温工程の完了判定である。ステージ温度判定(S22)は、冷凍機16の保護のための判定処理である。ステージ温度判定(S22)は、本実施例の昇温工程に必須ではない。
【0077】
昇温工程において制御部100はまず、昇温開始処理を行う(S20)。昇温開始処理は例えば、冷凍機16の昇温運転(いわゆる逆転昇温)を開始することと、クライオポンプ10へのパージガスの供給を開始すること、とを含む。クライオパネルを高速に昇温するために、制御部100は、逆転昇温において例えば最大の運転周波数で冷凍機16を制御する。また、制御部100は、パージバルブ74を開いてパージガスをクライオポンプ10の内部空間14に導入する。
【0078】
制御部100は、ステージ温度判定を行う(S22)。ステージ温度判定は、冷凍機16の昇温運転中にステージ温度センサの測定温度を監視する処理である。制御部100は、ステージ温度センサの測定温度が警告温度に到達したか否かを判定する。具体的には、1段ステージ温度センサ90の測定温度が第1警告温度に到達したこと、及び、2段ステージ温度センサ92の測定温度が第2警告温度に到達したこと、のうち少なくとも一方が成立したとき、制御部100は、ステージ温度センサの測定温度が警告温度に到達したと判定する(S22のNG)。
【0079】
第1警告温度は1段パネル20の目標温度よりも高温に設定され、第2警告温度は2段パネル18の目標温度よりも高温に設定される。また、第1警告温度及び第2警告温度は例えば冷凍機16の耐熱温度に基づき設定される。つまり、第1警告温度及び第2警告温度はクライオパネルの目標温度と冷凍機16の耐熱温度の間に設定される。本実施例では第1警告温度及び第2警告温度は、冷凍機16の耐熱温度から所定の余裕を差し引いた値に設定される。第1警告温度及び第2警告温度は等しくてもよい。
【0080】
ステージ温度センサの測定温度が警告温度に到達したと判定されたとき(S22のNG)、制御部100は、冷凍機16の昇温運転を中止する(S24)。冷凍機16の運転は停止される。パージガスの供給は停止される。併せて、制御部100は、冷凍機16が耐熱温度に接近していることを表す警告を出力してもよい。このようにすれば、冷凍機16を保護することができる。例えば、冷凍機16内部の可動要素(例えばディスプレーサ)の焼き付きを防ぐことができる。
【0081】
一方、ステージ温度センサの測定温度が警告温度に到達していないと判定されたとき(S22のOK)、制御部100は、パネル温度判定を行う(S26)。制御部100はパネル温度センサの測定温度が目標温度に到達したか否かを判定する。目標温度は上述の再生温度から選択される(例えば約290Kないし約300K)。1段パネル20の目標温度と2段パネル18の目標温度とは等しくてもよいし、異なっていてもよい。
【0082】
具体的には、制御部100は、1段パネル温度センサ94の測定温度が1段パネル20の目標温度に達したか否かを判定する。また、制御部100は、2段パネル温度センサ96の測定温度が2段パネル18の目標温度に達したか否かを判定する。そうして、1段パネル温度センサ94及び2段パネル温度センサ96の測定温度がそれぞれ目標温度に達した場合に、制御部100は、パネル温度センサの測定温度が目標温度に到達したと判定する(S26のOK)。
【0083】
パネル温度センサの測定温度が目標温度に到達したと判定されたとき(S26のOK)、制御部100は、昇温工程を終了する(S28)。冷凍機16の運転は停止され、パージガスの供給は停止される。その後、上述のように、制御部100は、排出工程を開始する(図2のS12)。
【0084】
パネル温度センサの測定温度が目標温度に到達していないと判定されたとき(S26のNG)、制御部100は、昇温工程を継続する。冷凍機16の昇温運転及びパージガスの供給は継続される。所定時間後に(例えば次回の制御周期で)、制御部100は、パネル温度判定(S26)及びステージ温度判定(S22)を再度行う。
【0085】
なお、冷凍機16の昇温運転が中止されたとき(S24)、制御部100は所定期間待機し、昇温運転を再開してもよい。待機することにより冷凍機16から熱が自然に放出され冷却される。待機中、パージガスの供給は継続されてもよい。制御部100は待機中に待機温度まで冷却されたことを条件として昇温運転を再開してもよい。すなわち、制御部100はステージ温度センサの測定温度が待機温度を下回った場合に昇温運転を再開してもよい。待機温度は例えば警告温度から所定の余裕を差し引いた値に設定される。
【0086】
ところで、真空排気中は1段パネル20及び2段パネル18それぞれの温度分布は比較的均一化されているため、ステージ温度はパネル温度を良好に代表する。しかし、昇温中はそうとは限らない。昇温中はステージ温度センサは熱源の温度を測定することになる。そのため、ステージ温度センサの測定温度はクライオパネルの実際の温度よりも高温を表しがちである。
【0087】
ステージ温度センサの測定温度に基づいて昇温工程を完了すると、実際にはクライオパネルに低温部位が残されたまま昇温が不十分に終わるかもしれない。それを避けるには、ステージ温度が目標温度に達した後も冷凍機16の昇温運転をしばらく継続するという手法が考えられる。あるいは冷凍機16の昇温運転は終了させパージのみを継続するという手法が考えられる。しかし、こうして継続された昇温工程の打ち切りを、ステージ温度センサの測定温度に基づいて決定することは容易でない。
【0088】
本実施例によれば、1段パネル温度センサ94及び2段パネル温度センサ96はそれぞれ1段パネル20及び2段パネル18において熱源(即ち1段ステージ22及び2段ステージ24)から離れた場所に設けられている。こうした場所は昇温工程において他の場所よりも温度が低い。そのため、1段パネル温度センサ94及び2段パネル温度センサ96はそれぞれ1段パネル20及び2段パネル18の低温部位の温度を測定することができる。
【0089】
制御部100は、1段パネル温度センサ94の測定温度が1段パネル目標温度に達し、かつ2段パネル温度センサ96の測定温度が2段パネル目標温度に達したときに昇温工程を完了する。すなわち、制御部100は、クライオパネルの低温部位の測定温度が目標温度に達したときに昇温工程を完了する。したがって、昇温工程を不必要に長く継続することなく適切に打ち切ることができる。よって、本実施例によれば、昇温時間ひいては再生時間を短くすることができる。
【0090】
図4は、本発明の他の一実施形態に係るクライオポンプ10を模式的に示す図である。図4に示すクライオポンプ10はパネル温度センサが1段パネル20にのみ設けられている点で、図1に示すクライオポンプ10とは異なる。図4に示すクライオポンプ10は、1段パネル温度センサ94を備えるが、2段パネル温度センサ96を備えていない。その余の点については図4及び図1に示すクライオポンプ10は共通する構成を備える。同様の箇所については冗長を避けるため説明を適宜省略する。
【0091】
制御部100は、1段パネル温度センサ94の測定温度に基づいて昇温工程を完了する。具体的には、制御部100は、1段パネル温度センサ94の測定温度が1段パネル20の目標温度に達したか否かを判定する。制御部100は、1段パネル温度センサ94の測定温度が目標温度に到達したと判定したとき、昇温工程を終了する。
【0092】
図5は、本発明の他の一実施形態に係るクライオポンプ10を模式的に示す図である。図5に示すクライオポンプ10はパネル温度センサが2段パネル18にのみ設けられている点で、図1に示すクライオポンプ10とは異なる。図5に示すクライオポンプ10は、2段パネル温度センサ96を備えるが、1段パネル温度センサ94を備えていない。その余の点については図5及び図1に示すクライオポンプ10は共通する構成を備える。同様の箇所については冗長を避けるため説明を適宜省略する。
【0093】
制御部100は、2段パネル温度センサ96の測定温度に基づいて昇温工程を完了する。具体的には、制御部100は、2段パネル温度センサ96の測定温度が2段パネル18の目標温度に達したか否かを判定する。制御部100は、2段パネル温度センサ96の測定温度が目標温度に到達したと判定したとき、昇温工程を終了する。
【0094】
昇温工程において1段パネル20が2段パネル18よりも遅れて昇温目標温度に到達するようクライオポンプ10が構成されている場合には、図4に示す構成を採用することができる。一方、昇温工程において2段パネル18が1段パネル20よりも遅れて昇温目標温度に到達するようクライオポンプ10が構成されている場合には、図5に示す構成を採用することができる。図4及び図5に示す構成は、パネル温度センサが1つでよいという点で図1に示す構成よりも簡素であるという利点をもつ。
【0095】
標準的なクライオポンプの設計に際して、図4及び図5の構成のうちいずれを採用すればよいかについては、一概には決められない。クライオポンプ業界の実情として、標準的な仕様をもつクライオポンプは、吸気口12の口径の異なる複数の機種が市場に提供されている。これら複数機種は、共通の設計思想のもとで口径を変えて設計されている。クライオポンプ10の例えば用途や取付場所に応じて、使用すべきクライオポンプ10の口径が選択される。
【0096】
そうした標準品においては1段パネル20と2段パネル18とで昇温の所要時間は異なるのが普通である。1段パネル20と2段パネル18とで同時に昇温が開始されても、完了する時点は異なる。昇温時間を決める主要なパラメタの1つはクライオパネルの質量である。クライオパネルの材質が同一である場合、重いパネルは軽いパネルよりも昇温に時間がかかる。よって、1段パネル20と2段パネル18の質量の関係が昇温完了の順序を左右する。重いパネルの昇温完了が遅くなる傾向にある。
【0097】
より正確には、クライオパネルのための昇温能力に対するそのクライオパネルの質量(言い換えれば、単位昇温能力あたりのクライオパネル質量)が、昇温時間に影響する。ここで、昇温能力とはクライオパネルに与えられる単位時間あたりの熱量である。ヒータによる昇温の場合、昇温能力とはヒータからクライオパネルに与える単位時間あたりの熱量である。逆転昇温の場合、昇温能力とは冷凍機のステージからクライオパネルに与える単位時間あたりの熱量である。逆転昇温の昇温能力は例えば冷凍機のステージの冷凍能力に対応する大きさである。
【0098】
例えば、2段ステージ24の昇温能力(または冷凍能力)に対する2段パネル18の質量が、1段ステージ22の昇温能力(または冷凍能力)に対する1段パネル20の質量と比較して大きい場合には、1段パネル20に比べて2段パネル18の昇温に時間がかかる。逆に、1段の単位昇温能力あたりパネル質量が2段よりも大きい場合には、1段パネル20の昇温により長い時間がかかる。
【0099】
複数機種が共通の設計思想のもとにある場合には、それら複数機種間で1段パネル20と2段パネル18の昇温完了順序も共通するようにみえる。複数機種で例えば1段パネル20の昇温完了が共通して遅いのであれば、1段パネル20の測定温度で昇温完了を決定することができる。しかし、実際には、互いに口径の異なる複数機種のうちある機種で1段パネル20が遅れて昇温するとき、他の機種でも1段パネル20が遅れて昇温するとは限らない。
【0100】
クライオポンプ10の口径もまた、1段パネル20と2段パネル18の質量の関係に影響を与えうる。ある標準的なクライオポンプ10の設計においては、ポンプ口径が大きくなるとき、1段パネル20よりも2段パネル18のほうが質量が増えやすい傾向にある。これは一種の寸法効果による。1段パネル20はハウジング38に沿う筒形状をとり、2段パネル18はその中心部を占める。よって、口径が大きくなるとき、傾向として、1段パネル20はポンプ内部空間14の表面積に応じて質量が増し、2段パネル18は内部空間14の体積に応じて質量が増す。そのため、2段パネル18の質量のほうが増える度合いが大きくなりがちである。そうすると、小口径のクライオポンプでは2段/1段の質量比が小さく、大口径のクライオポンプでは2段/1段の質量比が大きくなる。
【0101】
この場合、小口径のクライオポンプでは、2段/1段の質量比が小さく、1段パネル20が遅れて昇温することになる。例えば、8インチのクライオポンプでは、1段パネル20の昇温に時間がかかる。大口径のクライオポンプでは、2段/1段の質量比が大きく、2段パネル18が遅れて昇温する。例えば、12インチのクライオポンプでは、2段パネル18の昇温に時間がかかる。質量比のある境界値で、昇温完了順序が入れ替わる。
【0102】
一般的なクライオポンプにおいて再生のための制御処理は、機種ごとに個別に最適な処理が設計されているか、他の機種での最適処理をそのまま(または微調整して)適用している。個別的な最適設計は手間がかかる。他の機種の最適処理を流用しても、それが適切である保証はない。特に、2つの機種で2段/1段の昇温完了順序が異なる場合には、流用すべきではない。
【0103】
そこで、図4及び図5に示すクライオポンプ10の制御部100においては、昇温工程の完了判定のための温度測定場所の設定が、クライオポンプの機種ごとに選択可能に構成されている。具体的には、温度測定場所を1段パネル20と2段パネルのいずれに設定するか(昇温工程の完了判定に1段パネル温度センサ94と2段パネル温度センサ96のいずれを用いるか)を選択するよう構成されている。適切な設定により、短縮された昇温工程を機種ごとにもたらすことができる。
【0104】
制御部100は、機種名と昇温完了判定のための温度センサ設定とを関連づけて記憶する。機種名は、(口径ごとに機種が1つの場合には、または複数あっても昇温序が共通の場合には)口径でもよい。こうした設定はクライオポンプ10の製造段階(または設計段階、または使用場所への据付段階)で行われる。クライオポンプ10の使用中には設定は変更されない。
【0105】
制御部100は、昇温完了判定のための温度センサ設定以外のその他の設定については機種によらず共通化されていてもよい。例えば、真空排気運転に使用される温度センサは共通化されている。例えば1段温度制御のための温度センサは1段ステージ温度センサ90に固定されている。このようにして、複数機種のクライオポンプに共用される制御装置が提供される。
【0106】
以上、本発明を実施例にもとづいて説明した。本発明は上記実施形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。
【0107】
例えば、1段パネル温度センサ94は1段パネル20の任意の部位に取り付けられ、2段パネル温度センサ96は2段パネル18の任意の部位に取り付けられてもよい。例えば、パネルの低温部位の温度を推定できる場合には、パネル温度センサは必ずしも伝熱経路の末端部に設置されなくてもよい。
【0108】
図4及び図5に示す実施例のように昇温完了決定のための温度センサを予め決めておくのではなく(決め打ちではなく)、図1に示す実施例のようにパネル温度センサを複数有する構成において昇温中に昇温完了決定のための温度センサを決めてもよい。制御部100は、昇温中に複数のパネル温度センサを監視し、選択されたパネル温度センサに基づいて昇温工程の完了判定をしてもよい。
【0109】
昇温開始当初は1段パネル温度センサ94の測定温度が2段パネル温度センサ96の測定温度より高い(即ち1段>2段)。よって、その大小関係が昇温中に逆転したら(即ち1段<2段)、明らかに1段パネル20の昇温速度が遅いことになる。よって、1段パネル温度センサ94を用いて昇温工程の完了判定をすることができる。一方、そうした逆転が検出されなければ、2段パネル温度センサ96を用いて昇温工程の完了判定をすることができる。
【0110】
ある実施例においては、昇温工程は、急速昇温と低速昇温とを含んでもよい。急速昇温は、冷却運転におけるクライオパネル冷却温度(即ち昇温開始当初)から昇温速度切替温度まで比較的高速にクライオパネルを加熱する。低速昇温は、その昇温速度切替温度から再生温度まで急速昇温より低速にクライオパネルを加熱する。昇温速度切替温度は例えば200K乃至250Kの温度範囲から選択される温度である。制御部100は、パネル温度センサの測定温度に基づいて急速昇温の完了判定(即ち急速昇温から低速昇温への切替)をしてもよい。
【符号の説明】
【0111】
10 クライオポンプ、 16 冷凍機、 18 2段パネル、 20 1段パネル、 22 1段ステージ、 24 2段ステージ、 90 1段ステージ温度センサ、 92 2段ステージ温度センサ、 94 1段パネル温度センサ、 96 2段パネル温度センサ、 100 制御部。
図1
図2
図3
図4
図5