【実施例】
【0080】
以下の実施例及び比較例等において行った測定法の詳細を以下にまとめて示す。
【0081】
〔化合物の同定〕
以下の実施例および比較例で得られた各化合物の構造を、核磁気共鳴スペクトル(
1H−NMR)により同定した。核磁気共鳴スペクトルは、
1H用には400MHzで、テトラメチルシランを内部標準として用い、Varian社製の製品名「Mercury 400」装置で測定した。
【0082】
〔香気評価〕
調香・香料評価業務を7年経験した熟練者1名により、におい紙法により香調を判定した。におい紙(幅6mm長さ150mmの香料試験紙)の先端約5mmを、試料に浸漬し、評価した。匂い強度は、無臭を0、きわめて強いものを5とする相対評価で表した。
【0083】
[実施例1]
4−(2,4−ジメチルシクロヘキサ−3−エニル)ブタ−3−エン−2−オン(I−1)(以下、化合物(I−1)と呼ぶことがある)の製造
【0084】
【化6】
【0085】
フラスコに水酸化カリウム(0.3g)とメタノール(4.5g)と2,4−ジメチルシクロヘキサ−3−エニルカルボアルデヒド(II)(5.0g、36ミリモル)を入れ、攪拌しながら35℃でアセトン(III−1)(2.5g、43ミリモル)を20分で滴下し、さらに3.5時間攪拌した。反応液に氷酢酸(0.1g)を加えて中和して、得られた混合物からメタノールとアセトンを減圧留去した。残留物をエーテルで抽出し、エーテル相を水洗し、次いでNaCl飽和水溶液により水洗した。エーテル相に無水硫酸マグネシウムを加えて乾燥した後、硫酸マグネシウムを濾過により除去した。得られたエーテル相を濃縮し、得られた残留物を単蒸留して生成物(2.4g)を得た。得られた生成物をシリカゲルカラム(n−ヘキサン/酢酸エチル=90/10(v/v))を用いて精製した。精製した生成物を蒸留して、標題の化合物(I−1)を得た(1.4g)。得られた化合物(I−1)の純度は93%であった。
【0086】
また、化合物(I−1)の
1H−NMRの測定結果、及び香気評価を以下に示す。
1H-NMR(CDCl
3, 400MHz, δppm) : 0.94(d, J=6.8, 3H), 1.54(m, 1H), 1.67(s, 3H), 1.76(m, 1H), 1.87-2.05(m, 4H), 2.26(s, 3H), 5.21(m, 1H), 6.09(d, J=16.0Hz, 1H), 6.71(dd, J=16.0Hz, 8.6Hz, 1H)
香気:ぺリラを想起させるハーバル-スパイシーな香気と共にアニスやイオノンの様なフローラルな甘さを有する。
匂い強度:4。
【0087】
[実施例2]
1−(2,4−ジメチルシクロヘキサ−3−エニル)−ペンタ−1−エン−3−オン(I−2)(以下、化合物(I−2)と呼ぶことがある)および4−(2,4−ジメチルシクロヘキサ−3−エニル)−3−メチルブタ−3−エン−2−オン(I−3)(以下、化合物(I−3)と呼ぶことがある)の製造
【0088】
【化7】
【0089】
フラスコに水酸化カリウム(0.5g)とメタノール(7.7g)と2,4−ジメチルシクロヘキサ−3−エニルカルボアルデヒド(II)(9.9g、70ミリモル)を入れ、攪拌しながら35℃で2−ブタノン(III−2)(7.1g、98ミリモル)を1時間で滴下し、さらに1.5時間攪拌した。反応液に氷酢酸(0.2g)を加えて中和して、得られた混合物からメタノールと2−ブタノンを減圧留去した。残留物をエーテルで抽出し、エーテル相を水洗し、次いでNaCl飽和水溶液により水洗した。エーテル相に無水硫酸マグネシウムを加えて乾燥した後、硫酸マグネシウムを濾過により除去した。得られたエーテル相を濃縮し、得られた残留物を単蒸留して生成物(8.6g)を得た。得られた生成物をシリカゲルカラム(n−ヘキサン/酢酸エチル=97/3(v/v))で精製した。精製した生成物を蒸留して、化合物(I−2)(1.4g)と化合物(I−3)(1.1g)を得た。得られた化合物(I−3)の純度は94%であり、化合物(I−2)の純度は83%であった。
【0090】
また、化合物(I−2)と化合物(I−3)の
1H−NMRの測定結果、及び香気評価を以下に示す。
【0091】
1−(2,4−ジメチルシクロヘキサ−3−エニル)−ペンタ−1−エン−3−オン(I−2)
1H-NMR(CDCl
3, 400MHz, δppm) : 0.93(d, J=6.8Hz, 3H), 1.10(t, J=7.2Hz, 3H), 1.53(m, 1H), 1.66(s, 3H), 1.70-2.07(m, 5H), 2.58(q, J=7.3Hz, 2H), 5.20(s, 1H), 6.11(d, J=15.6Hz, 1H), 6.74(dd, J=15.8Hz, 8.6Hz, 1H)
香気:ぺリラを想起させるハーバル-スパイシーな香気と共にウッディな香気とイオノンの様の甘さを有する。
匂い強度:2。
【0092】
4−(2,4−ジメチルシクロヘキサ−3−エニル)−3−メチルブタ−3−エン−2−オン(I−3)
1H-NMR(CDCl
3, 400MHz, δppm) : 0.90(d, J=6.8Hz, 3H), 1.51(m, 1H), 1.68(s, 3H), 1.69(m, 1H), 1.80(m, 3H), 1.90-2.07(m, 3H), 1.75(m, 1H), 2.32(s, 3H), 5.23(s, 1H), 6.45(d, J=9.8Hz, 1H)
香気:ぺリラを想起させるハーバル-スパイシーな香気と共にグリーンな香気とイオノン様の甘さを有する。
匂い強度:3。
【0093】
[比較例1]
1−(2,4−ジメチルシクロヘキサ−3−エニル)ヘキサ−1−エン−3−オン(X)(以下、化合物(X)と呼ぶことがある)の製造
【0094】
【化8】
【0095】
フラスコに水酸化カリウム(0.6g)とメタノール(9.1g)と2,4−ジメチルシクロヘキサ−3−エニルカルボアルデヒド(II)(10.4g)を入れ、攪拌しながら35℃で2−ペンタノン(III−3)(9.7g)を2時間で滴下し、さらに8時間攪拌した。反応液に氷酢酸(0.2g)を加えて中和して、得られた混合物からメタノールと2−ペンタノンを減圧留去した。残留物をエーテルで抽出し、エーテル相を水洗し、ついでNaCl飽和水溶液により水洗した。エーテル相に無水硫酸マグネシウムを加えて乾燥した後、硫酸マグネシウムを濾過により除去した。得られたエーテル相を濃縮し、得られた残留物を単蒸留して生成物(10.1g)を得た。得られた生成物をシリカゲルカラム(n−ヘキサン/酢酸エチル=95/5(v/v))を用いて精製した。精製した生成物を蒸留して、標題の化合物(X)(1.9g)を得た。得られた化合物(X)の純度は77%であった。
【0096】
また、化合物(X)の
1H−NMRの測定結果、及び香気評価を以下に示す。
1H-NMR(CDCl
3, 400MHz, δppm) : 0.93(d, J=6.8Hz, 3H), 0.94(t, J=7.6Hz, 3H), 1.26(m, 2H), 1.50-1.78(m, 5H), 1.84-2.04(m, 4H), 2.53(t, J=7.4Hz, 2H), 5.20(s, 1H), 6.11(d, J=16.0Hz, 1H), 6.73(dd, J=16.0Hz, 8.4Hz, 1H)
香気:グリーンな香気と共にパンジェント(pungent)な低級脂肪酸様の香気を有する。
匂い強度:3。
【0097】
[香料組成物]
実施例1で得られた化合物(I−1)を用いて、実施例3〜5に示す香料組成物を調製した。得られた香料組成物について、下記香気評価を行った。なお、表1〜3中の数値は質量部である(以下同じ)。
【0098】
〔香気評価(香料組成物)〕
調香・香料評価業務を7年経験した熟練者1名により、におい紙法により香調を判定した。におい紙(幅6mm、長さ150mmの香料試験紙)の先端約5mmを、試料に浸漬し、評価して、判定を行った。
【0099】
[実施例3および比較例2、3]
下記に示す組成を有する香料組成物を調製した。
【0100】
【表1】
【0101】
1)リファローム:IFF社(商品名)、化合物名:シスー3−ヘキセニルメチルカーボネート、
2)カロン:Firmenich社(商品名)、化合物名:7−メチル−3,5−ジヒドロ−2H−ベンゾジオキセピン−3−オン)、
3)フロラロゾン:IFF社(商品名)、化合物名:p−エチル−α,α−ジメチルヒドロシンナミックアルデヒド)、
4)ヘリオナール:IFF社(商品名)、化合物名:α−メチル−3,4−メチレンジオキシヒドロシンナミックアルデヒド)、
5)ブルゲオナール:Givaudan社(商品名)、化合物名:3−(p−tert−ブチルフェニル)-プロパナール)、
6)リリアール:Givaudan社(商品名)、化合物名:p−tert−ブチル−α−メチルヒドロシンナミックアルデヒド、
7)アンバーコア:花王株式会社(商品名)、化合物名:1−(2−tert−ブチルシクロヘキシルオキシ)−2−ブタノール、
8)サンダルマイソールコア:花王株式会社(商品名)、化合物名:2−メチル−4−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテン−1−イル)−2−ブテン−1−オール
【0102】
比較例2で得られた香料組成物は、フレッシュで甘さを持つアクアティック−フローラル様の調合香料であった。一方、本発明の式(I)の化合物を2質量%含む実施例3で得られた香料組成物は、匂いの透明感が増すと共にフローラルな甘さが強調された調合香料であった。また、ペリラアルデヒドを2質量%含む比較例3で得られた香料組成物は、強いペリラ様のスパイシーな匂いが強調され、フレッシュな甘さが損なわれた調合香料であった。
【0103】
[実施例4および比較例4、5]
下記に示す組成を有する香料組成物を調製した。
【0104】
【表2】
【0105】
1)ポレナールII:花王株式会社(商品名)、化合物名:2−シクロヘキシルプロパナール、
2)ポワレネート:花王株式会社(商品名)、化合物名:エチル2−シクロヘキシルプロピオネート、
3)メルサット:花王株式会社(商品名)、化合物名:エチル3,5,5−トリメチルヘキサノエート、
4)フルーテート:花王株式会社(商品名)、化合物名:エチルトリシクロ[5.2.1.0
2、6]デカン−2−カルボキシレート、
5)ペラナット:花王株式会社(商品名)、化合物名:2−メチル吉草酸2−メチルペンチルエステル
6)イロチル:花王株式会社(商品名)、化合物名:
7)サンダルマイソールコア:花王株式会社(商品名)、化合物名:2−メチル−4−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテン−1−イル)−2−ブテン−1−オール
【0106】
比較例4で得られた香料組成物は、もぎたての果実を想起させるオレンジ様の調合香料になったのに対し、実施例4で得られた香料組成物は、本発明の式(I)の化合物を1質量%含むことにより、オレンジの果肉のようなジューシーな甘さが強調された調合香料であった。また、ペリラアルデヒドを1質量%含む比較例5で得られた香料組成物は、強いペリラ様のスパイシーな匂いが加わり、オレンジ様のジューシーな甘さが損なわれた調合香料であった。
【0107】
[実施例5および比較例6、7]
下記に示す組成を有する香料組成物を調製した。シトラスフローラルタイプの洗剤用の香料組成物を調製した。
【0108】
【表3】
【0109】
1)シクロベルタール:花王株式会社(商品名)、化合物名:3,6(4,6)−ジメチル−3−シクロヘキセニル−1−カルボキシアルデヒド、
2)マグノール:花王株式会社(商品名)、エチルノルボニルシクロヘキサノールを主成分とする混合物、
3)ポワレネート:花王株式会社(商品名)、化合物名:エチル2−シクロヘキシルプロピオネート、
4)フルーテート:花王株式会社(商品名)、化合物名:エチルトリシクロ[5.2.1.02、
6]デカン−2−カルボキシレート
5)トロエナン:花王株式会社(商品名)、化合物名:5−メチル−5−プロピル−2−(1−メチルブチル)−1,3−ジオキサン、
6)リラール:IFF社(商品名)、化合物名:4−(4−ヒドロキシ−4−メチルペンチル)−3−シクロヘキセン−1−カルボアルデヒド、
7)アンバーコア:花王株式会社(商品名)、化合物名:1−(2−tert−ブチルシクロヘキシルオキシ)−2−ブタノール、
8)ボアザンブレンフォルテ:花王株式会社(商品名)、化合物名:エトキシメチル シクロドデシル エーテル、
9)サンダルマイソールコア:花王株式会社(商品名)、化合物名:2−メチル−4−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテン−1−イル)−2−ブテン−1−オール、
10)50%IPM:50%ミリスチン酸イソプロピル(IPM)溶液を示す。
11)アンブロキサン:花王株式会社(商品名)、化合物名:[3aR−(3aα,5aβ,9aα,9bβ)]−ドデカヒドロ−3a,6,6,9a−テトラメチルナフト[2,1−b]フラン、
【0110】
比較例6で得られた香料組成物は、パウダリーな甘さを持つシトラスフローラル様の調合香料になったのに対し、実施例5で得られた組成物は、本発明の式(I)の化合物を2質量%含むことにより、天然の花が持つクリーミーで濃厚な甘さが強調された調合香料であった。また、ペリラアルデヒドを2質量%含む比較例7で得られた香料組成物は、ペリラ様のスパイシーな匂いが加わり、パウダリーな甘さが損なわれた調合香料であった。
【0111】
前記実施例および比較例に示すように、本発明の式(I)の化合物は、香料として有用なハーブ様香気、特にハーバル−スパイシー様香気、なかでもペリラ様の香気を有することが確認できた。また、本発明の式(I)の化合物は、他の香料と調合することで、香料組成物の甘さを強調することができることが確認できた。