(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
さらに、油性剤を含有し、前記油性剤は、硫黄が100質量ppm以下、リンが1質量%以下、アロマ分が1質量%以下の化合物からなる請求項1に記載のチェーン用潤滑剤組成物。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、チェーン用潤滑剤組成物及びチェーンの実施形態について説明する。
チェーン用潤滑剤組成物は、基油、増粘剤、及び防錆剤を含有する。チェーン用潤滑剤組成物は、硫黄が100質量ppm以下、リンが1質量%以下、アロマ分が1質量%以下となるように構成されている。
【0014】
<基油>
基油は、硫黄が100質量ppm以下、リンが1質量%以下、アロマ分が1質量%以下の基油からなることが好ましい。基油としては、鉱油及び合成油から選ばれる少なくとも一種が好適に用いられる。鉱油としては、硫黄の含有量が少なく、リン及びアロマ分を実質的に含有しないものが好適である。こうした鉱油は、プロセス油として市販されるものから選択して用いることができる。鉱油の成分としては、流動パラフィン等のパラフィン系炭化水素が挙げられる。パラフィン系炭化水素は、n−d−M法の環分析において、パラフィン炭素数(%CP)が50以上のものを示す。
【0015】
合成油としては、例えば、合成炭化水素(ポリ−α−オレフィン:PAO、エチレンとα−オレフィンとのコオリゴマー、ポリブテン等)、エステル、ポリフェニルエーテル、ポリアルキレングリコール、シリコーン、及びフルオロカーボンが挙げられる。エステルとしては、例えば、ヒンダードエステル(二塩基酸エステル、ポリオールエステル等)、ジエステル、及びケイ酸エステルが挙げられる。
【0016】
基油は、一種又は二種以上を用いることができる。
チェーン用潤滑剤組成物中における基油の含有量は、好ましくは70質量%以上である。
【0017】
<増粘剤>
増粘剤は、常温(25℃)で固体状であり、基油に分散又は溶解することで基油を増粘する働きを有する。増粘剤は、硫黄が100質量ppm以下であり、リンが1質量%以下であり、アロマ分が1質量%以下の化合物からなることが好ましい。増粘剤としては、重合型ポリエチレンワックス、及びポリマーから選ばれる少なくとも一種が好適に用いられる。ポリマーとしては、例えば、ポリメタクリレート、及びポリイソブチレンが挙げられる。
【0018】
増粘剤は、一種又は二種以上を用いることができる。
チェーン用潤滑剤組成物中における増粘剤の含有量は、好ましくは1質量%以上である。チェーン用潤滑剤組成物中の増粘剤の含有量は、好ましくは25質量%以下である。
【0019】
<防錆剤>
防錆剤は、硫黄が100質量ppm以下、リンが1質量%以下、アロマ分が1質量%以下の化合物からなることが好ましい。防錆剤としては、例えば、ソルビタン系防錆剤、ラノリン系防錆剤、コハク酸系防錆剤、アミン系防錆剤、及び金属石けんが好適に用いられる。
【0020】
ソルビタン系防錆剤としては、例えば、ソルビタン脂肪酸エステル(ソルビタンモノオレエート、ソルビタントリステアレート等)が挙げられる。
ラノリン系防錆剤としては、例えば、ラノリン脂肪酸アルコール、及びラノリン脂肪酸アルコールエステルが挙げられる。
【0021】
コハク酸系防錆剤としては、例えば、無水アルキルコハク酸等のアルキルコハク酸誘導体が挙げられる。
アミン系防錆剤としては、例えば、有機酸アミン塩、及び脂肪酸アミン塩が挙げられる。
【0022】
金属石けんとしては、例えば、ラノリン脂肪酸石けんが挙げられる。
防錆剤は、一種又は二種以上を用いることができる。防錆剤は、ソルビタン脂肪酸エステルを含むことが好ましい。
【0023】
チェーン用潤滑剤組成物中における防錆剤の含有量は、好ましくは1質量%以上である。チェーン用潤滑剤組成物中の防錆剤の含有量は、好ましくは10質量%以下である。
<その他の成分>
チェーン用潤滑剤組成物には、油性剤を含有させることができる。
【0024】
油性剤は、硫黄が100質量ppm以下、リンが1質量%以下、アロマ分が1質量%以下の化合物からなることが好ましい。
油性剤としては、例えば、脂肪酸エステル、ラノリン脂肪酸アルコールエステル、長鎖脂肪酸、長鎖脂肪酸塩、有機アルコール、及びアルキルアミンが挙げられる。脂肪酸エステルは、例えば、下記一般式(1)で表される。
【0025】
R
1COOR
2 ・・・(1)
一般式(1)中、R
1は炭素数7〜18の飽和又は不飽和アルキル基であり、R
2は炭素数1〜4のアルキル基を示す。
【0026】
ラノリン脂肪酸アルコールエステルとしては、例えば、ラノリン脂肪酸ラノリンアルコールエステル(商品名:Ecolano LY,LC、日本精化株式会社製)、及びラノリン脂肪酸ペンタエリスリトールエステル(商品名:ネオコートEPS−2,EPS−24、日本精化株式会社製)が挙げられる。なお、ラノリン脂肪酸アルコールエステルは、防錆効果も得られ易い。
【0027】
長鎖脂肪酸としては、炭素数7〜17の飽和又は不飽和脂肪酸が挙げられる。長鎖脂肪酸としては、例えば、ステアリン酸、及びオレイン酸が挙げられる。有機アルコールとしては、例えば、ラウリルアルコールが挙げられる。アルキルアミンとしては、例えばステアリルアミンが挙げられる。
【0028】
油性剤は、一種又は二種以上を用いることができる。
チェーン用潤滑剤組成物は、油性剤を含有することが好ましく、その油性剤は脂肪酸エステル及びラノリン脂肪酸アルコールエステルから選ばれる少なくとも一種を含むことがより好ましい。
【0029】
チェーン用潤滑剤組成物中の油性剤の含有量は、好ましくは1質量%以上、10質量%以下の範囲である。チェーン用潤滑剤組成物は、脂肪酸エステルを1質量%以上、10質量%以下の範囲で含有することがより好ましい。
【0030】
チェーン用潤滑剤組成物には、必要に応じて、極圧剤、酸化防止剤、及び消泡剤を含有させることもできる。
<チェーン用潤滑剤組成物中の硫黄、リン及びアロマ分>
チェーン用潤滑剤組成物中に含まれる硫黄は、例えば、JIS K2541に規定される方法で定量することができる。チェーン用潤滑剤組成物中に含まれるリンは、例えば、プラズマ発光分光分析で定量することができる。チェーン用潤滑剤組成物中に含まれるアロマ分は、例えば、n−d−M法の環分析で定量することができる。
【0031】
<チェーン用潤滑剤組成物の調製方法>
チェーン用潤滑剤組成物は、基油、増粘剤及び防錆剤を周知の撹拌機で撹拌することで調製される。このとき、必要に応じて油性剤等を含有させる。チェーン用潤滑剤組成物の調製の際には、増粘剤の溶融温度以上に加熱されることが好ましい。
【0032】
<チェーンの構成>
図1に示すように、本実施形態のチェーン11は、ローラチェーンであり、隣り合って配置される内リンク21と外リンク31が回動自在に連結された構成を有する。
【0033】
内リンク21は、対向して配置される2つの内プレート22,23と、内プレート22,23を支持する円筒状のブシュ24,25と、ブシュ24,25に回転自在に支持される円筒状のローラ26,27とを備えている。
【0034】
内プレート22,23は、ブシュ24,25により連結されることで、互いに離間した状態で保持されている。
内プレート22において、チェーン11の連なる方向に沿って位置する一端部及び他端部は、貫通孔22a,22bを有している。内プレート23においても、一端部及び他端部は、貫通孔23a,23bを有している。ブシュ24の有する孔は、貫通孔22a,23aを通じて内プレート22,23の対向する面とは反対側となる外面に開口している。ブシュ25の有する孔についても、貫通孔22b,23bを通じて内プレート22,23の対向する面とは反対側となる外面に開口している。
【0035】
外リンク31は、対向して配置される2つの外プレート32,33と、外プレート32,33を連結する2つの円柱状のピン34,35を有している。外プレート32,33は、ピン34,35により連結されることで、互いに離間した状態で保持されている。
【0036】
ピン34,35は、内リンク21の有するブシュ25と、その内リンク21に隣り合って配置される内リンク21の有するブシュ24とにそれぞれ挿入されている。これにより、隣り合う内リンク21,21は、外リンク31を介して連結される。
【0037】
図2に示すように、ピン34,35の外周面とブシュ24,25の内周面との間には隙間が形成されている。チェーン11は、例えば、鋼材から形成することができる。
<チェーン用潤滑剤組成物の使用方法及び作用>
チェーン用潤滑剤組成物のチェーン11への適用は、例えば、チェーン用潤滑剤組成物にチェーン11を浸漬することで、ピン34,35の外周面とブシュ24,25の内周面との間にチェーン用潤滑剤組成物を供給する。この浸漬において、チェーン用潤滑剤組成物は、増粘剤の融点以上の温度で維持されることが好ましい。チェーン用潤滑剤組成物は、例えば100℃以上の温度に加熱されることで、ピン34,35の外周面とブシュ24,25の内周面との間に流入し易くなる。
【0038】
上述した浸漬では、チェーン浸漬用の槽が用いられる。チェーン浸漬用の槽内では、チェーン用潤滑剤組成物が加熱された状態で維持される。この槽内では、チェーン11が所定時間浸漬された後に、そのチェーン11は槽内から搬出され、新たなチェーン11が浸漬される。このようにチェーン浸漬用の槽では、チェーン用潤滑剤組成物のチェーン11への適用、すなわち給油が繰り返される。なお、槽内には、チェーン11に給油された組成物の量に応じて、新たなチェーン用潤滑剤組成物が補給される。
【0039】
こうしたチェーン浸漬用の槽内では、チェーン用潤滑剤組成物が長時間加熱された状態で維持されることがある。このとき、本実施形態のチェーン用潤滑剤組成物は、黒色化の要因となる成分、すなわち硫黄、リン、及びアロマ分が実質的に含有されないか、又は、極めて低濃度で含有される構成であるため、槽内のチェーン用潤滑剤組成物の黒色化を抑制することが容易となる。このように構成されたチェーン用潤滑剤組成物は、加熱された状態においても、例えば、褐色又は淡褐色に維持され易くなる。
【0040】
チェーン11は、例えば、物品の搬送又は動力の伝達に用いられる。チェーン11は、例えば、複数のスプロケットに巻回されて用いられる。このとき、ピン34,35の外周面とブシュ24,25の内周面との間などがチェーン用潤滑剤組成物によって潤滑される。
【0041】
以上詳述した本実施形態によれば、次のような効果が発揮される。
(1)基油、増粘剤、及び防錆剤を含有するチェーン用潤滑剤組成物は、硫黄が100質量ppm以下であり、リンが1質量%以下であり、アロマ分が1質量%以下となるように構成されているため、硫黄、リン、及びアロマ分を要因としたチェーン用潤滑剤組成物の黒色化を抑制することができる。これにより、チェーン11の黒色化を抑制することが容易となる。従って、外観の良好なチェーン11が得られ易い。
【0042】
(2)チェーン用潤滑剤組成物は、さらに油性剤を含有し、この油性剤は硫黄が100質量ppm以下であり、リンが1質量%以下であり、アロマ分が1質量%以下の化合物からなることが好ましい。この構成によれば、油性剤の含有によって、例えばチェーン摩耗寿命を改善する場合であっても、チェーン11の黒色化を抑制することが容易となる。こうした油性剤としては、例えば、脂肪酸エステル及びラノリン脂肪酸アルコールエステルから選ばれる少なくとも一種を含むことが好適である。
【0043】
(3)チェーン用潤滑剤組成物に含有させる防錆剤は、ソルビタン脂肪酸エステルを含むことが好ましい。防錆剤の中でも、ソルビタン脂肪酸エステルは、チェーン用潤滑剤組成物中の含有量を比較的低減しても、防錆効果が得られ易い。ソルビタン脂肪酸エステルは、硫黄、リン及びアロマ分を実質的に含有しないため、硫黄、リン、及びアロマ分を要因としたチェーン用潤滑剤組成物の黒色化を抑制することができる。
【0044】
(4)ソルビタン脂肪酸エステル又はラノリン脂肪酸アルコールエステルは、チェーン用潤滑剤組成物中に含まれる増粘剤の結晶化を妨げる働きを有する。このため、チェーン用潤滑剤組成物中で増粘剤の一部が固化したとしても、その状態が視認され難くなることで、チェーン11の外観が改善される。
【0045】
(5)チェーン浸漬用の槽内では、チェーン用潤滑剤組成物が加熱された状態で維持されることがある。すなわち、チェーン浸漬用の槽内は、チェーン用潤滑剤組成物の黒色化が進行し易い環境下である。このようなチェーン浸漬用の槽内において黒色化を抑制することが容易となる点で、本実施形態のチェーン用潤滑剤組成物は特に有利である。例えば、チェーン浸漬用の槽内でチェーン用潤滑剤組成物が黒色化した場合、その組成物と新たに調製したチェーン用潤滑剤組成物とを交換する対策が考えられる。ところが、その交換の頻度が高い場合、交換作業の手間が増すとともに経済的にも不利となる。この点、上述したチェーン用潤滑剤組成物では、槽内のチェーン用潤滑剤組成物において、黒色化を要因とした交換の頻度を低減することができる。
【0046】
(変更例)
なお、前記実施形態を次のように変更して構成することもできる。
・チェーン用潤滑剤組成物に配合する基油中には、硫黄が100質量ppmを超えて含有されていてもよい。この場合であっても、例えば硫黄を実質的に含有しない増粘剤及び防錆剤を用いて、配合比を調整することで、チェーン用潤滑剤組成物中における硫黄の含有量を100質量ppm以下にすることもできる。すなわち、硫黄、リン、及びアロマ分の少なくとも一種の濃度が、上述したチェーン用潤滑剤組成物中の濃度を超える原料を用いることもできる。
【0047】
・前記チェーン用潤滑剤組成物を適用するチェーンは、特に限定されず、前記チェーン用潤滑剤組成物は、例えば、ローラ26,27を省略したブシュチェーンに適用されてもよい。
【0048】
・前記チェーン用潤滑剤組成物は、所謂プレ給油用としてチェーン11に適用しているが、チェーン11の使用途中に給油するメンテナンス用としてチェーン11に適用することもできる。すなわち、チェーン浸漬用の槽内以外で前記チェーン用潤滑剤組成物を使用する場合であっても、例えばチェーン11の使用時の発熱や使用環境による加熱に基づく黒色化を抑制することができる。
【実施例】
【0049】
次に、試験例を説明する。
(基油の試験例)
表1に示される基油について、150℃で維持する黒色化試験を行った。黒色化について以下の基準で評価した。
【0050】
2000時間経過しても黒色化しない:最適(◎)
1000時間を超え、2000時間以内に黒色化したもの:好適(○)
100時間を超え1000時間以内に黒色化したもの:やや不適(△)
100時間以内に黒色化したもの:不適(×)
黒色化試験の評価結果を表1に示す。
【0051】
【表1】
高精製鉱油は、リン及びアロマ分を実質的に含有しない。高精製鉱油中の硫黄の含有量は、数10質量ppm以下である。合成炭化水素は、硫黄、リン、及びアロマ分のいずれも実質的に含有しない。
【0052】
(増粘剤の試験例)
表2に示される増粘剤について上記の基油と同様に黒色化試験、及びその評価を行った。黒色化試験の評価結果を表2に示す。
【0053】
【表2】
(防錆剤の試験例)
表3に示される防錆剤について上記の基油と同様に黒色化試験、及びその評価を行った。黒色化試験の評価結果を表3に示す。
【0054】
【表3】
(その他の成分の試験例)
表4に示される油性剤及び極圧剤について上記の基油と同様に黒色化試験、及びその評価を行った。黒色化試験の評価結果を表4に示す。
【0055】
【表4】
次に、実施例を説明する。
【0056】
(実施例1及び2)
表5に示される各成分を混合することで、各実施例のチェーン用潤滑剤組成物を調製した。表5中の基油は、高精製鉱油(商品名:サンピュアP100、日本サン石油株式会社製)であり、増粘剤は、ポリエチレンワックス(三井ハイワックス200P、三井化学株式会社製)である。表5中の防錆剤は、ソルビタン脂肪酸エステルであり、油性剤は脂肪酸エステルである。各実施例のチェーン用潤滑剤組成物は、硫黄が100質量ppm以下、リンが1質量%以下、アロマ分が1質量%以下となるように構成されている。
【0057】
(比較例1及び2)
表5に示される各成分を混合することで、各比較例のチェーン用潤滑剤組成物を調製した。表5中の極圧剤として、比較例1では硫化オレフィンを用い、比較例2ではジアルキルジチオフォスフェートを用いた。各比較例のチェーン用潤滑剤組成物に含まれる硫黄の含有量は、
100質量ppmを超えている。
【0058】
【表5】
得られた各例のチェーン用潤滑剤組成物をそれぞれチェーン浸漬用の槽に供給し、その組成物を150℃で1000時間維持した。その結果、各実施例のチェーン用潤滑剤組成物では黒色化は確認されなかった。各比較例のチェーン用潤滑剤組成物では100時間以内に黒色化が確認された。
【0059】
次に、チェーン浸漬用の槽内で
図1及び
図2に示されるチェーン11を各例のチェーン用潤滑剤組成物に浸漬し、10分経過後、槽内からチェーン11を取り出した。各実施例のチェーン用潤滑剤組成物が適用されたチェーン11では、黒色化が抑制された良好な外観を有していた。各比較例のチェーン用潤滑剤組成物が適用されたチェーン11では、黒色化が抑制されず、外観が不良であった。