【実施例】
【0019】
実験1:カテーテルロック/サルベージ溶液の調製
2M HClの原液を、アメリカ合衆国15275ペンシルバニア州ピッツバーグのFisher Scientific社から購入した。下記の表1に示すように、0.001M〜2Mの様々なHCl濃度を有する100ミリリットル(100mL)溶液を、脱イオン水で調製した:
【0020】
【表1】
【0021】
実験2:最小阻害濃度(MIC)
表1に示すHCl溶液を、水の代わりにミュラーヒントンブロスで調製した。それぞれの溶液のpHを測定し、MICの範囲検索のため、カンジダアルビカンス(C. albicans)、緑膿菌(P. aeruginosa)及び黄色ブドウ球菌(S. aureus)に対して試験した。微生物及びそのHClのMIC(括弧内に対応するpHを記す)は、以下の通りである:
C. albicans=0.08M〜0.1M HCl(pH2.07〜1.93)
P. aeruginosa=0.001M〜0.02M(pH7.33〜4.06)
S. aureus=0.02M〜0.04M(pH4.06〜3.12)
実験3:「死滅に要する時間」分析によって決定される、浮遊微生物に対するHClの抗菌作用
【0022】
0.1M HCl又は0.2M HClのいずれかに暴露した後、浮遊微生物の培養物の死滅に要する時間を決定した。培養物は、6種の細菌及び1種の酵母を含んでいた。試験した6種の細菌株は、1)S. aureus「SA」;2)Klebsiella pneumoniae「KP」;3)Escherichia coli「EC」;4)Acinetobacter baumannii「AB」;5)P. aeruginosa「PA」;及び6)バンコマイシン耐性Enterococcus faecalis「EF」であった。試験した酵母は、カンジダアルビカンス「CA」であった。浮遊微生物の培養物への暴露時間は、5、10、30及び60分であった。
【0023】
簡単に言えば、浮遊細菌の死滅に要する時間分析の手順は以下の通りである。48ウェルプレートのウェルに、それぞれ1mLのHCl溶液又は0.85%生理食塩水である対照溶液を加え、10
6CFU/mL(1ミリリットル当たりのコロニー形成単位)の試験細菌を加えた。次に、各ウェルから10マイクロリットル(μL)画分を、5、10、30、60分で回収し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で連続的に希釈した。10μlの各希釈液を、デイ/エングレイ(D/E)中和寒天上に播種した。プレートを反転して、摂氏37度(37℃)で24時間インキュベートした。次に、プレート当たりのコロニーの数を記録し、CFU/mLを決定した。各試験を3回実行した。
【0024】
0.2M HClの試験結果を
図1に示す。
図1に示すように、0.1M HClに暴露して10分以内に、試験した6種の細菌株全てを死滅した。
【0025】
図1に示されていないが、C. albicansを細菌試料と同じ方法で試験した。0.2M HClの暴露により、浮遊微生物は基本的に即座に死滅したが、0.2M HClで浮遊C. albicansを死滅させるためには、約2時間の暴露が必要であった。
図2に示すように、HCl濃度を0.4Mに増大することによって、浮遊C. albicansを死滅させるのに要する時間は30分に短縮した。
【0026】
実験4:予め形成したバイオフィルムの根絶に要する時間によって決定される、HClの抗菌作用
E. coli「EC」、K pneumoniae「KP」、S. aureus「SA」、バンコマイシン耐性E. faecalis「EF」、P. aeruginosa「PA」、A. baumanii「AB」及びC. albicans「CA」の予め形成したバイオフィルムを、ブロス、生理食塩水又は0.1M〜0.5M HCl含有溶液のいずれかに5〜60分暴露した。予め形成したバイオフィルムの根絶に要する時間を決定する手順は以下の通りである。滅菌14フレンチゲージ(Fr)二重内腔CARBOTHANE(登録商標)押出物(CARBOTHANE(登録商標)は、熱可塑性ポリカーボネートであり、アメリカ合衆国44092オハイオ州ウィックリフのLubrizol Advanced Materials社の登録商標である)から5mm断片を切り出した。48ウェルマイクロタイタープレート(微生物当たり1つ)において、1mLの細菌成長用トリプチケースソイブロス(TSB)又は酵母成長用麦芽酵母ブロス(YMB)のいずれかでウェルを満たす。次に、滅菌鉗子を用いて、1つのカテーテル断片をプレートの各ウェルに入れて、1ウェルずつ微生物を添加した。次いで、100rpm(1分当たりの回転数)で振盪しながら、37℃のインキュベーターで、24時間(hrs)プレートをインキュベートした。24時間後、カテーテル断片を培地から取り出し、TSB;YMB;生理食塩水;又は0.1M、0.2M、0.3M、0.4M又は0.5M HClのいずれかを1ml含む、別の48ウェルプレートに入れた。指定の時間で、断片を取り出し、各ウェルに1mlのD/Eブロス(デイエングレイ中和ブロス)を含む、別の48ウェルプレートに入れた。この48ウェルプレートを、適切な超音波浴に入れ、約50℃で20分間超音波処理した。適切な超音波浴の具体例としては、VWR 250HT(アメリカ合衆国19380ペンジルベニア州ウェストチェスターのVWR International社製)が挙げられる。一旦、超音波処理が完了したら、10μlの画分を取り出し、連続的にPBSで希釈した。10マイクロリットル(10μl)の各希釈液を、D/E中和寒天の表面に播種した。プレートを37℃で24時間インキュベートし、プレート当たりのコロニーの数を記録し、CFU/mLを決定した。
図3に示すように、0.1M HClに暴露して30分以内に、全ての細菌バイオフィルムを根絶した。
図4に示すように、0.4Mよりも高い濃度のHClにより、酵母バイオフィルムを1時間未満で根絶した。
【0027】
実験5:HClロックが「感染」カテーテルをサルベージする能力
15Fr、19センチメートル(cm)の血液透析カテーテルの動脈に連結する口(arterial port)を、YMB中の10
3CFUのC. albicansでロックした(プライマー量として生成物において特定された量で)。カテーテルを、滅菌袋の中で、37℃で24時間インキュベートした。その後、カテーテルを袋から取り出し、YMBを洗い流した。カテーテルをYMB又はHCl溶液のいずれかで再ロックした。30分のインキュベーション後、ロック溶液を取り出し、D/E寒天上に播種するために貯蔵した。カテーテルを断片に切り分け、5mLのD/Eブロスを含む15mLのコニカルチューブに移した。カテーテル断片を含むチューブを、20分間超音波処理した。ロック溶液及びカテーテル超音波処理液のそれぞれから、10μlを取り出し、連続的にPBSで希釈した。10μlの各希釈液を、D/E中和寒天の表面に播種した。プレートを反転し、37℃で24時間インキュベートした。次に、プレート当たりのコロニーの数を記録し、CFU/mLを決定した。
【0028】
0.4M HCl溶液及び0.5M HCl溶液の両方とも、カテーテル中で24時間成長したカンジダバイオフィルムを30分以内に根絶することができた。表2に示すように、30分の処理期間後に回収したHClロック溶液、及びHClロックで処理したカテーテル断片は、いずれの微生物の存在も陰性であった。
【0029】
【表2】
【0030】
実験6:HClロックにより微生物移動を防止する
15Fr、19cmの血液透析カテーテルの動脈及び静脈に連結する口の両方とも、YMB又は0.5M HClのいずれかでロックした(各口でプライマー量として生成物において特定された量で)。10
5CFUのC. albicansで植菌された20mLのヒト血漿を含む、滅菌100mLメスシリンダー中に、カテーテルを37℃で24時間吊るした。24時間のインキュベーション中、血漿を撹拌し続け、カテーテルの先端が、シリンダーの底に接触するのを防止するように注意した。次に、ロック溶液を取り出し、連続的に希釈し、D/E寒天上に播種するために貯蔵した。カテーテルを断片に切り分け、5mLのD/Eブロスを含む、15mLのコニカルチューブに移した。カテーテル断片を含むチューブを20分間超音波処理した。ロック溶液及びカテーテル超音波処理液のそれぞれから、10μlを取り出し、連続的にPBSで希釈した。10μlの各希釈液を、D/E中和寒天の表面に播種した。プレートを反転し、37℃で24時間インキュベートした。次に、プレート当たりのコロニーの数を記録し、CFU/mLを決定した。
【0031】
下記の表3に見られるように、0.5M HClを含む溶液により、感染した血漿からカテーテル内腔へのカンジダの移動を防止できた。
【0032】
【表3】
【0033】
上記と同様の実験において、ロックしたカテーテルを24時間血漿中に吊るした後、各カテーテルからロック溶液を回収し、カテーテル内腔の先端、中央、末端でpHを測定した。例えば、ロック用量が1mlである場合、それぞれ333μlの3つの画分を、「先端」「中央」「末端」と予めラベルした3つの別々のチューブに回収した。次に、各溶液のpHを測定した。
【0034】
表4に示すように、各HCl溶液は、ロックされたカテーテルの全長に亘り阻害的なpHを持続できた。
【0035】
【表4】
【0036】
実験7:HClロックの安全性
ヒト血漿の通常のpHは7.38〜7.42であり、7.38未満のpHは酸性が強すぎるし、7.42を超える血漿pHはアルカリ性が強すぎる(Atherton J.C.(2009) Acid-base balance: maintenance of plasma pH. Anaesthesia and Intensive Care Med.. 10:557-561)。一部又は全部の量のHClロックが不注意にも血流に投与された場合、局所pHがどのように影響を受けるかを決定するため、20mLの未凝固血清を、様々なHCl濃度を有する0、20、40、100μL溶液に補給し、pH測定に供した。
【0037】
15Fr、24cmCANNON(登録商標)血液透析カテーテルに対するプライマー量は、5mLのHClであり、平均的なヒト血清量は2.5Lである(CANNON(登録商標)は、アメリカ合衆国19810デラウェア州ウィルミントンのArrow International Investment社の登録商標である)。従って、5mLの全ロック量が血流に流されたら、HClロック:血清の割合は、1:500となるだろう。下記の表5に示すように、HCl濃度が0.5Mよりも高い場合、pHの大幅な低下が、1:500の割合で観察された。
【0038】
【表5】
【0039】
実験8:抗菌カテーテル及びカテーテルに塗布された抗菌剤とのHClロックの相乗効果
【0040】
抗菌カテーテルで使用する抗菌剤とのHClの相乗効果は、抑制ゾーン(ZOI)試験によって決定した。マルチルーメン中心静脈カテーテル(CVC)から、並びにリファンピン及びミノサイクリンを染み込ませたCVC(Rif/Mino)から、1cm長のカテーテル断片を切り出した。S. aureus及びP. aeruginosaの培養を、ミュラーヒントンブロス中で開始した。それぞれの微生物に対して、0.5マックファーランド標準液を用いて、接種濃度を1×10
8CFU/mlに調整した。HClで処理していないか、又は様々なHCl濃度で処理した、ミュラーヒントン寒天プレートを準備した。微生物の密集菌叢を形成できる最も高いHCl濃度は、0.01Mであった。ブロス培養液に浸した滅菌綿棒を用いて、単一の微生物でプレートに筋をつけた。滅菌鉗子を用いて、比較対照及びRif/Minoカテーテルからの1cm長のカテーテル断片を、寒天に垂直方向に挿入した。プレートを37℃で24時間インキュベートした。それぞれの試験を3回実行した。次に、抑制ゾーン(ZOI)を、測径器を用いてミリメートル(mm)単位で測定し、それぞれの試験での3つのZOI測定を平均した。これらの試験結果を表6に示す。
【0041】
【表6】
【0042】
表6に示すように、HCl濃度が0.001Mを超えたとき、S. aureus及びP. aeruginosaに対して、相乗効果を観察した。希釈HCl単独では、0.01Mの濃度でさえ、ZOIを何ら測定できないので、これらの相乗効果は、少なくとも完全に予想に反するものであった。本発明の実施態様の利点としては、Rif/Minoカテーテル中でHClロック溶液を使用することにより、ロック溶液が体液に接触し希釈されるカテーテルの末端の、まさにその位置、その近傍、又はごく近傍で、抗菌性を提供することが挙げられる。例えば、Rif/MinoカテーテルをHClロック溶液の有無で比較すると、HClロック溶液が当初0.3M HClであるなら、体液で300:1に希釈したとき、依然として改善された抗菌性を観察し得る。
【0043】
実験9:抗菌剤、スルファジアジン銀(SSD)及び5−フルオロウラシル(5FU)とのHClロックの相乗効果
抗菌剤、スルファジアジン銀(SSD)及び5−フルオロウラシル(5FU)とのHClの相乗効果を決定するための別の実験では、カービーバウアー抗菌試験法(ディスク拡散抗菌感受性試験としても知られている)によって、ミュラーヒントン寒天において様々なHCl濃度の存在下で、各化合物の部分阻害濃度(FIC)を決定した。
【0044】
実験8に記載したように、寒天プレート並びにS. aureus、P. aeruginosa及びEnterobacter aerogenes(E. aerogenes)の培養物を準備した。簡単に言えば、0.0001M〜0.01Mの範囲にある、様々な量のHClを、ミュラーヒントン寒天に加え、室温で固化した。培養物を1×10
8CFU/mlに希釈した。
【0045】
256μg/mlのSSD及び5FUの原液を調製し、水で倍数希釈し、256ppm〜0.125ppmの濃度範囲を得た。各試験溶液から、20μlをカービーバウアーディスク上に注ぎ、ディスクを5分間空気乾燥し、使用する鉗子を、寒天プレート上に適用した。プレートを37℃で24時間インキュベートした。次に、測径器を用いてミリメートル(mm)単位で抑制ゾーンを測定した。各試験は3回実行した。
【0046】
P. aeruginosa及びS. aureus(HClで処理されていない)に対して、SSDのMICは、128ppmであると決定された。この濃度で、HClの存在下、試験したSSDは、下記の表7に示すように、0.001MよりもHCl濃度が高くなると、更なる抑制ゾーンの増大を引き起こした。
【0047】
【表7】
【0048】
表8に示すように、HClは、0.001Mを超えるHCl濃度で、S. aureusに対して5−FUとともに相乗効果を示す。表9に示すように、0.01M濃度で、HClは、E.aerogenesに対して5FUの阻害を増大した。
【0049】
【表8】
【0050】
【表9】
【0051】
表7〜9に示すように、HCl濃度が0.001Mを超えるとき、S. aureus及びP. aeruginosaに対して、相乗効果を観察した。HCl単独では、0.01Mの濃度でさえ、ZOIを何ら測定できないので、これらの相乗効果は、少なくとも完全に予想に反するものであった。本発明の実施態様の利点としては、SSD及び/又は5−FUとともに、HClロック溶液を使用することにより、希釈された場合でさえ、例えば、体液によって希釈された場合でさえ、抗菌性を提供することが挙げられる。SSD及び/又は5−FUを適切なカテーテルに含ませてもよい。使用の際、例えば、患者に挿入した場合、抗菌剤は、カテーテルから溶出し、カテーテルの表面、その表面の近傍及び/又はごく近傍で細菌コロニー形成を阻害し得る。本発明の様々な実施態様の利点としては、これらの抗菌剤が、HClと相乗的に作用し、更に微生物成長を阻害することが挙げられる。
【0052】
本発明の多くの特徴及び利点は、詳細な明細書から明らかであり、従って、本発明の真の趣旨及び範囲内にあるような、本発明の特徴及び利点を全て含むことが、添付の特許請求の範囲によって意図されている。さらに、数多くの修正及び変更が、当業者に容易に思いつくため、図示及び開示される明確な構成及び作用に本発明を限定するのは望ましくないし、従って、本発明の範囲内にある、全ての適切な修正及び均等物を使用してもよい。