(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。
【0018】
本実施の形態の車両用前照灯装置は、ハイビーム用配光パターンの一部領域を形成可能な光を照射する灯具ユニットと、この灯具ユニットの光の照射状態を制御する照射制御部とを備える。そして、照射制御部は、ハイビーム用配光パターンの一部領域が少なくとも車幅方向に複数に分割された部分領域により形成されるように光の照射状態を制御する。また、各部分領域に対応する照射光の光度を個別に調整してハイビーム照射モードと昼間点灯照射モードを切り替えてハイビーム照射モードに適した光度分布と昼間点灯照射モードに適した光度分布を形成する。
【0019】
図1は、本実施の形態に係る車両用前照灯装置を構成する灯具本体ユニットの概略構造図である。本実施の形態の車両用前照灯装置は、車両の前部の車幅方向左右両端に一対の灯具本体ユニットを含む。そして、左右の灯具本体ユニットから照射される配光パターンを車両の前方で重畳させることにより車両用前照灯装置としての照射を完成させる。
図1は、左右の灯具本体ユニットのうち右側に配置される灯具本体ユニット10の構成を示す。
図1では、理解を容易にするために灯具本体ユニット10を水平面で切断して上方から見た断面図を示している。なお、左側に配置される灯具本体ユニットは右側に配置される灯具本体ユニット10と左右対称の構造であり基本構造は同一である。したがって、右側に配置される灯具本体ユニット10を説明することで左側に配置される灯具本体ユニットの説明は省略する。また、以下では、便宜上、灯具の光が照射する方向を車両前方(前側)、その反対側を車両後方(後側)として説明する場合がある。
【0020】
灯具本体ユニット10は、透光カバー12、ランプボディ14、エクステンション16、第1灯具ユニット18、および第2灯具ユニット20を有する。ランプボディ14は、樹脂などによって細長い開口部を有するカップ型に成形されている。透光カバー12は、透光性を有する樹脂などによって成形され、ランプボディ14の開口部を塞ぐようにランプボディ14に取り付けられる。こうしてランプボディ14と透光カバー12とによって実質的に閉鎖空間となる灯室が形成され、この灯室内にエクステンション16、第1灯具ユニット18、および第2灯具ユニット20が配置される。
【0021】
エクステンション16は、第1灯具ユニット18および第2灯具ユニット20からの照射光を通すための開口部を有し、ランプボディ14に固定される。第1灯具ユニット18は、第2灯具ユニット20より車両の車幅方向の外側に配置される。第1灯具ユニット18は、いわゆるパラボラ型の灯具ユニットであり、後述するロービーム用配光パターンを形成する。
【0022】
第1灯具ユニット18は、リフレクタ22、光源バルブ24、およびシェード26を有する。リフレクタ22は、カップ型に形成され、中央に挿通孔が設けられている。本実施の形態では、光源バルブ24はハロゲンランプなどフィラメントを有する白熱灯によって構成されている。なお、光源バルブ24は、放電灯等他のタイプの光源が採用されてもよい。光源バルブ24は、内部に突出するようリフレクタ22の挿通孔に挿通されてリフレクタ22に固定される。リフレクタ22は、光源バルブ24が照射した光を車両前方に向けて反射させるよう、内面の曲面が形成されている。シェード26は、光源バルブ24から車両前方へ直接進行する光を遮断する。第1灯具ユニット18の構成は公知であるため、第1灯具ユニット18に関する詳細な説明は省略する。
【0023】
図2は、本実施の形態の灯具本体ユニット10に含まれる第2灯具ユニット20の構成を示す図である。
図2では、第2灯具ユニット20を水平面で切断して上方から見た断面図を示している。第2灯具ユニット20は、ホルダ28、投影レンズ30、発光モジュール32、およびヒートシンク38を備える。第2灯具ユニット20は、ハイビーム用配光パターンの全部または一部領域を形成可能な光を照射する灯具ユニットである。すなわち、第2灯具ユニット20は、ハイビーム照射モード時に、第1灯具ユニット18により形成されるロービーム用配光パターンの上部にハイビーム用配光パターンを形成する。ハイビーム用配光パターンがロービーム用配光パターンに追加されることで、全体として照射範囲が広くなり、遠方視認性能も向上する。また、第2灯具ユニット20は、昼間点灯照射モード時に単独で光を照射することにより、昼間など対向車や歩行者などに自車の存在を認識しやすくするための昼間点灯照射ランプ、いわゆるデイタイムランニングランプ(DRL)として機能する。
【0024】
投影レンズ30は、前方側表面が凸面で後方側表面が平面の平凸非球面レンズからなり、その後側焦点面上に形成される光源像を、反転像として灯具前方の仮想鉛直スクリーン上に投影する。投影レンズ30は筒状に形成されたホルダ28の一方の開口部に取り付けられる。
【0025】
(第1の実施の形態)
図3は、第1の実施の形態に係る発光モジュールの要部を示す断面図である。発光モジュール32は、第1発光ユニット36a、第2発光ユニット36b、第3発光ユニット36c、第4発光ユニット36dと、第1発光ユニット36a〜第4発光ユニット36dを支持する基板34と、を有する。なお、各発光ユニット36a〜36dを特に区別しない場合は、総称して発光ユニット36と示す。本実施の形態に係る基板34は、実装基板である。
【0026】
発光モジュール32は、ハイビーム用配光パターンの光を照射するものであり、車幅方向に複数に分割された複数の領域の一部を選択的に照射することができるように構成されている。本実施の形態の場合、第1発光ユニット36a〜第4発光ユニット36dに対応して分割されている各照射領域を合わせてハイビーム用配光パターンが形成されている。なお、その分割数は、ハイビーム照射モードや昼間点灯照射モードで要求される性能に応じて決定することができる。例えば、分割される領域の数は、複数であれば4個より多くても少なくてもよく、また、奇数個でも偶数個でも構わない。
【0027】
第1発光ユニット36a〜第4発光ユニット36dの各々は矩形に形成されており、基板34に第1発光ユニット36a〜第4発光ユニット36dの順に帯状となるよう一直線状に配置される。第1発光ユニット36a〜第4発光ユニット36dは、例えば個別に光度制御が可能な光源で構成可能である。つまり、第2灯具ユニット20は、多灯式光源となっている。
【0028】
第1発光ユニット36a〜第4発光ユニット36dを構成する光源は、半導体発光素子、例えば1mm角程度の正方形の発光面を有するLED素子、などを備えている。なお、発光ユニット36の光源がこれに限られないことはもちろんであり、例えばレーザダイオードなど略点状に面発光する他の素子状の光源であってもよい。
【0029】
ヒートシンク38は、アルミなどの金属により多数のフィンを有する形状に形成され、基板34の裏面に取り付けられる。このように、第1発光ユニット36a〜第4発光ユニット36dをLED光源で構成することにより、各発光ユニット36の発光状態の調整が精度よくできる。その結果、後述するハイビーム照射モードや昼間点灯照射モードにおいて、所望の配光特性を高い精度で実現できる。
【0030】
発光モジュール32は、左から第1発光ユニット36a〜第4発光ユニット36dの順に並んでホルダ28の内部に配置されるよう、基板34がホルダ28の他方の開口部に取り付けられる。第1発光ユニット36a〜第4発光ユニット36dの各々は、発光することによりそれぞれの像が灯具前方の仮想鉛直スクリーン上に投影される。
【0031】
図4は、本実施の形態に係る車両用前照灯装置の左右の灯具本体ユニット10から前方へ照射される光により、例えば車両前方25メートルの位置に配置された仮想鉛直スクリーン上に形成される配光パターンを示す図である。
【0032】
ロービーム用配光パターンPLは第1灯具ユニット18によって形成される。ロービーム用配光パターンPLは左側通行の地域で利用される左配光のロービーム用配光パターンであり、その上端縁に第1カットオフラインCL1〜第3カットオフラインCL3を有する。第1カットオフラインCL1と第3カットオフラインCL3は、灯具正面方向に設定された鉛直線V−Vを境にして左右段違いで水平方向に延在する。第1カットオフラインCL1は、鉛直線V−Vより右側且つ灯具正面方向に設定された水平線H−Hより下方において水平方向に延在する。このため、第1カットオフラインCL1は対向車線カットオフラインとして利用される。
【0033】
第3カットオフラインCL3は、第1カットオフラインCL1の左端部から左上方に向かって例えば45°の傾斜角度で斜めに延在する。第2カットオフラインCL2は、第3カットオフラインCL3と水平線H−Hとの交点から左側において水平線H−H上に延在する。このため、第2カットオフラインCL2は自車線側カットオフラインとして利用される。なお、ロービーム用配光パターンPLにおいて、第1カットオフラインCL1と鉛直線V−Vとの交点であるエルボ点Eは交点H−Vの0.5〜0.6°程度下方に位置しており、このエルボ点Eをやや左よりに囲むようにして高光度領域であるホットゾーンHZがリフレクタ22の形状調整等により形成され、自車線側の視認性を向上させている。
【0034】
ハイビーム用配光パターンの一部領域である付加配光パターンPAは、第2灯具ユニット20からの照射光によって形成される。付加配光パターンPAは、水平線H−Hを含んで水平方向に延びる帯状に形成される。
【0035】
付加配光パターンPAは、発光ユニット36の数にしたがい水平方向に並ぶ4つの矩形領域に分割されて構成されている。以下、これらの領域を右から順に第1部分領域PA1〜第4部分領域PA4といい、隣り合う部分領域の境界線を分割ラインという。第2部分領域PA2と第3部分領域PA3との分割ラインは0°に設定され、鉛直線V−Vに対応する。
【0036】
第1部分領域PA1は、第1発光ユニット36aの照射光によって形成される。第2部分領域PA2は、第2発光ユニット36bの照射光によって形成される。第3部分領域PA3は、第3発光ユニット36cによって形成される。第4部分領域PA4は、第4発光ユニット36dによって形成される。
【0037】
詳しくは後述するが、第1発光ユニット36a〜第4発光ユニット36dは、運転者の操作または、車両に搭載され対向車や前走車など前方車両や歩行者を検出する装置からの情報に基づき、個別またはグループ化された複数のユニット毎に点消灯や調光が可能である。これにより、照射領域の異なる複数の配光パターンを得ることができる。したがって、第1部分領域PA1〜第4部分領域PA4のうち前方車両や歩行者の存在する領域を照射する発光ユニット36を消灯することにより、前方車両や歩行者に与えるグレアを抑制できる。
【0038】
例えば、自車両と反対車線を走行する対向車が存在する場合、第1発光ユニット36aや第2発光ユニット36bを消灯することにより対向車の運転者にグレアを与えないようにすることができる。また、自車両と同じ車線を走行する先行車が存在する場合、第2発光ユニット36bや第3発光ユニット36cを消灯することにより先行者の運転者にグレアを与えないようにすることができる。また、道路の路側帯を走行する歩行者が存在する場合、第1発光ユニット36aや第4発光ユニット36dを消灯することにより歩行者にグレアを与えないようにすることができる。このように、対向車や先行車、歩行者などにグレアを感じさせないように複数の発光ユニット36を部分的に消灯し、残りの発光ユニット36を点灯させることで、運転者の遠方視認性の確保が可能になる。
【0039】
ところで、複数の発光ユニット36のそれぞれが照射する領域を合成して一つの配光パターンを形成する場合、各領域の間に隙間(非照射領域)がないことが望ましい。このような観点からは、発光モジュール32は、各発光ユニット36の照射領域の境界部分が重なる方向で構成が設定されることになる。一方、各照射領域の境界部分の重なりが多いと、いくつかの発光ユニット36を消灯し、その他の発光ユニット36を点灯させた場合、点灯している発光ユニット36の光が、消灯している発光ユニットの照射領域に漏れ出てしまうこととなり、その領域に存在する前走車や歩行者に対してグレアを与えることにもなる。
【0040】
そこで、発明者らが鋭意検討した結果、点灯している発光ユニットが発する光を、蛍光体層などの光波長変換部材に遮光部を設けることで遮蔽することに想到した。これにより、仮に隣接している発光ユニットが消灯している場合であっても、消灯した発光ユニットに対応する部分領域に存在する前走車や歩行者に与えるグレアが抑制されることになる。
【0041】
本実施の形態に係る発光モジュール32は、
図3に示すように、第1発光ユニット36a〜第4発光ユニット36dを備える。第1発光ユニット36aは、半導体発光素子42aを備える。第2発光ユニット36bは、半導体発光素子42bを備える。第3発光ユニット36cは、半導体発光素子42cを備える。第4発光ユニット36dは、半導体発光素子42dを備える。また、各半導体発光素子42a〜42dの発光面43a〜43dに対向するように蛍光体層44が設けられている。蛍光体層44は、対向する半導体発光素子42a〜42dが発する光を波長変換して出射する光波長変換部材として機能する。
【0042】
蛍光体層44は、遮光部58a〜58eを有する。遮光部58bは、隣接する半導体発光素子42a,42bの発光面43a,43bのそれぞれと対向する各領域60a,60bの境界に形成されている。遮光部58cは、隣接する半導体発光素子42b,42cの発光面43b,43cのそれぞれと対向する各領域60b,60cの境界に形成されている。遮光部58dは、隣接する半導体発光素子42c,42dの発光面43c,43dのそれぞれと対向する各領域60c,60dの境界に形成されている。
【0043】
したがって、半導体発光素子42aの光の一部が、隣接する半導体発光素子42bの発光面43bと対向する領域60bの蛍光体層44に向かって照射されても、遮光部58bによって遮られる。また、半導体発光素子42bの光の一部が、隣接する半導体発光素子42a,42cの発光面43a,43cと対向する領域の蛍光体層44に向かって照射されても、遮光部58b,58cによって遮られる。また、半導体発光素子42cの光の一部が、隣接する半導体発光素子42b,42dの発光面43b,43dと対向する領域の蛍光体層44に向かって照射されても、遮光部58c,58dによって遮られる。また、半導体発光素子42dの光の一部が、隣接する半導体発光素子42cの発光面43cと対向する領域60cの蛍光体層44に向かって照射されても、遮光部58cによって遮られる。
【0044】
このように、本実施の形態に係る発光モジュール32は、少なくとも一つの半導体発光素子から発する光によって、隣接する半導体発光素子の発光面と対向する領域の蛍光体層44が光ることが抑制される。その結果、例えば、発光ユニット36aが点灯し、発光ユニット36aに隣接している発光ユニット36bが消灯している場合に、発光ユニット36bの照射対象領域が意図せず照らされることが抑制される。また、少なくとも一つの半導体発光素子の光の一部が、隣接する半導体発光素子の照射領域に向かって照射されても、蛍光体層44に設けられている遮光部によって遮られる。したがって、点灯している半導体発光素子に隣接する半導体発光素子が消灯している場合に、消灯している半導体発光素子を備える発光ユニットの照射対象領域が意図せず照らされることが抑制される。
【0045】
なお、本実施の形態に係る蛍光体層44は、その最外部に遮光部58a,58eが設けられている。これにより、
図4に示す配光パターンPAの左右外側の領域が意図せず照らされることが抑制される。
【0046】
遮光部に充填される材料や遮光部の構成は、少なくとも入射する光をそのまま透過することを妨げるものであればよい。遮光部の充填材料としては、少なくとも蛍光体層44よりも光の透過率が低いものが好ましく、例えば、樹脂組成物、金属、誘電体などの不透明な各種材料から適宜選択される。なお、不透明な材料とは、電磁波の全波長域にわたって光の吸収を示す必要はなく、少なくとも半導体発光素子が発する光の波長域に対して吸収を示すものであればよい。例えば、半導体発光素子が発する紫外光や青色光を選択的に遮光するものであってもよい。
【0047】
また、遮光部は、反射部材として機能するものであってもよい。例えば、反射率の高い樹脂組成物や金属、誘電体などが挙げられる。また、遮光部は、蛍光体層との境界面に金属膜や誘電体薄膜が形成されたものであってもよい。例えば、高屈折率と低屈折率の誘電体薄膜を交互に多層重ねた反射膜を遮光部に設けるとよい。また、蛍光体層と遮光部との屈折率の違いを利用して光が遮光部の表面で反射するようにしてもよい。この場合、遮光部に充填される物質の屈折率は、蛍光体層を構成する物質の屈折率よりも低いとよい。また、遮光部の形状は、
図3に示すような断面が方形のような多角形に限られるものではなく、遮光膜のような薄い形状であってもよい。また、遮光部が蛍光体層を貫通するように設けられていてもよい。
【0048】
なお、
図3に示す、遮光部58a,58eと、遮光部58b,58c,58dとは同じ材料で構成されていてもよいし、異なる材料で構成されていてもよい。
【0049】
図5は、本実施の形態に係る発光モジュール32を光出射側から見た図である。
図5に示すように、蛍光体層44は、遮光部58b,58c,58dによって複数の領域60a,60b,60c,60dに分けられている。なお、蛍光体層44の製造方法としては、複数の遮光部と蛍光体層を構成する各領域とを一体成形で作成する方法もあるが、例えば、蛍光体層を構成する各領域と各遮光部とを組み合わせた部材を複数作成し、半導体発光素子を基板34上に並べてからその上部に搭載して作成してもよい。
図6は、本実施の形態に係る発光モジュールの変形例を光出射側から見た図である。発光モジュール132における蛍光体層144は、一体となった遮光部158の内部に光波長変換部材を構成する各領域60a〜60dが設けられている。
【0050】
光波長変換部材に用いられる材料は、粉末の蛍光体を分散させた樹脂組成物やガラス組成物、後述する蛍光セラミックが挙げられる。特に、無機材料である蛍光セラミックは、多様な形状への成形や、精度の高い加工が容易に行える。そのため、蛍光セラミックは、特に、板状の光波長変換部材として利用する場合に好適である。半導体発光素子としては、前述のLED素子が好適であるが、その発光波長は、可視光の範囲だけではなく紫外光の範囲であってもよい。
【0051】
次に、半導体発光素子42を備える発光ユニット36について更に詳述する。
図7は、本実施の形態に好適な発光ユニットの一例を示す断面図である。発光ユニット36は、成長基板40と、その上に成長させた半導体発光素子42と、蛍光体層44と、を備える。発光ユニット36は、基板34に支持されている。基板34としては、例えば、ガラスエポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、SUSなどのステンレス鋼、Cu、AlN、SiC、Siなどの中から適宜選択される。成長基板40は、半導体発光素子42を作製するために適当な格子定数の結晶であり、透光性を有するものが好ましい。本実施の形態に係る発光ユニット36では、成長基板40としてサファイアが用いられている。
【0052】
図7に示す発光ユニット36では、板状の蛍光体層44が成長基板40を挟んで半導体発光素子42の発光面に対向するように設けられている。半導体発光素子42は、LED素子によって構成される。本実施の形態では、半導体発光素子42として、青色の波長の光を主として発する青色LEDが採用されている。具体的には、半導体発光素子42は、サファイアの成長基板40上に結晶成長したn型半導体層46およびp型半導体層48と、その間に形成されている発光層50と、を有する。そして、半導体発光素子42は、主として発光層50において発光するため、発光層50の上面を発光面としてとらえることもできる。半導体発光素子42は、バンプ52を介して基板34にフリップチップ実装される。なお、半導体発光素子42の構成や発する光の波長が上述したものに限られないことはもちろんである。
【0053】
蛍光体層44は、光波長変換部材であり、少なくとも光波長変換セラミックから構成されている。光波長変換セラミックは、1μm以上5000μm未満、好ましくは10μm以上1000μm未満の厚さの板状に形成されたものを、半導体発光素子42のサイズに合わせて加工されたものである。なお、光波長変換セラミックの大きさがこれに限られないことはもちろんである。本実施の形態に係る蛍光体層44は、隣接する半導体発光素子の発光面のそれぞれと対向する各領域の境界に遮光部58が形成されている。
【0054】
光波長変換セラミックは、いわゆる発光セラミック、または蛍光セラミックと呼ばれるものであり、青色光によって励起される蛍光体であるYAG(Yttrium Aluminium Garnet)粉末を用いて作成されたセラミック素地を焼結することにより得ることができる。このような光波長変換セラミックの製造方法は公知であることから詳細な説明は省略する。こうして得られた光波長変換セラミックは、例えば粉末状の蛍光体と異なり、粉末表面での光拡散を抑制でき、半導体発光素子42が発する光の損失が非常に少ない。
【0055】
なお、蛍光体としてYAG粉末が用いられる場合、遮光部58に充填される物質は屈折率が約1.8以下のものが好ましい。これであれば、半導体発光素子42が発する光の一部が遮光部58で遮光されるとともに、場合によっては全反射が生じ、光が無駄に吸収されることが抑制される。
【0056】
光波長変換セラミックは、半導体発光素子42が主として発する青色光の波長を変換して黄色光を出射する。このため、発光ユニット36からは、蛍光体層44をそのまま透過した青色光と、光波長変換セラミックによって波長が変換された黄色光との合成光が出射する。こうして、発光ユニット36は、白色の光を発することが可能となる。
【0057】
なお、半導体発光素子42は、青以外の波長の光を主として発するものが採用されてもよい。この場合も、光波長変換セラミックには、半導体発光素子42が発する主とする光の波長を変換するものが採用される。なお、光波長変換セラミックは、この場合においても半導体発光素子42が主として発する波長の光と組み合わせることにより白色または白色に近い色の波長の光となるよう、半導体発光素子42が発する光の波長を変換してもよい。
【0058】
(第2の実施の形態)
図8は、第2の実施の形態に係る発光モジュールの要部を示す断面図である。なお、第1の実施の形態と同様の構成については説明を適宜省略する。本実施の形態に係る発光モジュール132は、蛍光体層244の光出射側の面に複数の溝62が形成されている。これにより、複数の半導体発光素子42a〜42dを蛍光体層244に対して固定した後であっても、半導体発光素子が固定されていない光出射側からの加工が容易に行える。各溝62には、第1の実施の形態で説明した材料と同様に光の透過を妨げる遮光材料が充填され遮光部158b,158c,158dが構成されている。これにより、光波長変換部材を複数の部材に切断することなく、一体のまま遮光部158b,158c,158dを形成することができる。
【0059】
図9は、第2の実施の形態の変形例に係る発光モジュールの要部を示す断面図である。発光モジュール232は、蛍光体層244の半導体素子と対向する側の面に複数の溝162が形成されている。これにより、各溝162には、第1の実施の形態で説明した材料と同様に光の透過を妨げる遮光材料が充填され遮光部258b,258c,258dが構成されている。これにより、光波長変換部材を複数の部材に切断することなく、一体のまま遮光部258b,258c,258dを形成することができる。
【0060】
図10は、第2の実施の形態に係る変形例に係る発光モジュールの要部を示す断面図である。発光モジュール332は、蛍光体層244の一部に薄肉部260a〜260dが形成されている。薄肉部260aと薄肉部260bは、蛍光体層44のうち半導体発光素子42aと半導体発光素子42bとの間の隙間の上方に位置する箇所に形成されており、遮光部258bに隣接している。薄肉部260bと薄肉部260cは、蛍光体層44のうち半導体発光素子42bと半導体発光素子42cとの間の隙間の上方に位置する箇所に形成されており、遮光部258cに隣接している。薄肉部260cと薄肉部260dは、蛍光体層44のうち半導体発光素子42cと半導体発光素子42dとの間の隙間の上方に位置する箇所に形成されており、遮光部258dに隣接している。
【0061】
このように、発光モジュール332は、蛍光体層244のうち各発光ユニット36a〜36dの各境界領域に薄肉部260a〜260dが形成されている。つまり、蛍光体層244のうち、半導体発光素子42と対向していない部分が薄肉化されている。そのため、色ムラが防止される。
【0062】
(第3の実施の形態)
図11は、第3の実施の形態に係る発光モジュールの要部を示す断面図である。なお、上述の各実施の形態と同様の構成については説明を適宜省略する。発光モジュール432は、蛍光体層244の一部に遮光部358b〜358dが設けられている。遮光部358bは、隣接する半導体発光素子42a,42bの発光面43a,43bのそれぞれと対向する各領域60a,60bの境界に形成されている。遮光部358cは、隣接する半導体発光素子42b,42cの発光面43b,43cのそれぞれと対向する各領域60b,60cの境界に形成されている。遮光部358dは、隣接する半導体発光素子42c,42dの発光面43c,43dのそれぞれと対向する各領域60c,60dの境界に形成されている。
【0063】
また、遮光部358b〜358dは、各半導体発光素子42a〜42dの間の隙間に向かって蛍光体層44の下面より突出するように設けられている。これにより、各半導体発光素子42から出射した光が隣の発光ユニット36の蛍光体層に入射することが抑制される。なお、蛍光体層44と半導体発光素子42との間が離れている場合は、遮光部358b〜358dの下端は、少なくとも各半導体発光素子42の発光面43a〜43dより下方に位置するように設けるとよい。
【0064】
(車両用灯具)
図12は、上述のように構成される車両用前照灯装置の照射制御部と車両側の車両制御部の構成を説明する機能ブロック図である。車両用前照灯装置100の照射制御部102は、車両104に搭載された車両制御部106の指示にしたがって電源回路108の制御を行い第1灯具ユニット18や第2灯具ユニット20の照射制御を行う。
【0065】
車両制御部106には、ライトスイッチ110、時計112、照度センサ114、カメラ116、車速センサ118が接続されている。ライトスイッチ110は第1灯具ユニット18のオン/オフによるロービーム照射切替え、第1灯具ユニット18の点灯時における第2灯具ユニット20のオン/オフによるハイビーム照射切替え、第1灯具ユニット18の消灯時における第2灯具ユニット20のオン/オフによるDRL照射切替えを手動で行うスイッチである。
【0066】
本実施の形態の車両用前照灯装置100は、ライトスイッチ110の操作がない場合でも車両104の周囲の状況を検出して第1灯具ユニット18や第2灯具ユニット20の点消灯制御を行うことができる。例えば、時計112は、現在の日時または現在の季節と時刻を車両制御部106に提供する。車両制御部106は、日時や季節に基づき車両104の周囲が車両用前照灯装置100を点灯すべき暗さであると判定できる場合は、照射制御部102に第1灯具ユニット18の点灯指令を送りロービームを自動点灯するようにしてもよい。一方、車両制御部106が車両用前照灯装置100の点灯は必要ない明るさであると判定した場合、照射制御部102に第2灯具ユニット20の減光点灯指令を送りDRLを自動点灯するようにしてもよい。また、車両制御部106は、カメラ116からの情報に基づき、車両前方に前方車両や歩行者が存在しない場合、ロービーム照射からハイビーム照射に自動的に切り替えてもよい。
【0067】
前述したように、本実施形態の場合、第1灯具ユニット18とともに第2灯具ユニット20を点灯させているときに、ハイビーム照射領域中に照射を抑制すべき物体が存在する場合、前記物体が存在する位置に対応する第2灯具ユニット20の照射による部分領域を消灯制御する。ここで、照射を抑制すべき物体とは、対向車や前走車、歩行者などである。このような消灯制御を実行するために、車両制御部106は、物体の認識手段として例えばステレオカメラなどのカメラ116から提供される画像データを用いる。カメラ116の撮影領域は仮想鉛直スクリーンの領域と一致している。撮影画像中に予め保持している車両や歩行者を示す特徴点を含む画像が存在する場合、ハイビーム照射領域中に照射を抑制すべき物体が存在すると判定する。そして、照射を抑制すべき物体の存在する位置に対応する部分領域を形成している発光ユニット36を消灯するように照射制御部102に情報を供給する。なお、ハイビーム照射領域中に照射を抑制すべき対象物を検出する手段は適宜変更可能であり、カメラ116に代えてミリ波レーダや赤外線レーダなど他の検出手段を用いてもよい。また、それらを組み合わせてもよい。また、カメラ116からの情報に基づき、車両104の周囲の明るさを検出してハイビーム照射モードと昼間点灯照射モードの切替え制御を行うようにしてもよい。
【0068】
なお、本実施の形態においては、車両用灯具としての車両用前照灯装置は、発光モジュールが備える複数の発光ユニットを個別に調光制御する制御回路を備えている。なお、制御回路は、発光モジュールが備える複数の発光ユニットを複数のグループに分けた場合にグループ毎に調光制御するものであってもよい。このような車両用前照灯装置は、前述の発光モジュールを備えることで、所望の配光特性を高い精度で実現することができる。
【0069】
以上、本発明を各実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0070】
上述の実施の形態では、青色の光を発する半導体発光素子と黄色の蛍光体の組み合わせた発光ユニットについて説明したが、発光ユニットとしては、紫外光を発する半導体発光素子と、紫外光で励起され、赤、緑、青の光をそれぞれ発する複数の蛍光体と、を有するものであってもよい。あるいは、紫外光を発する半導体発光素子と、紫外光で励起され、青、黄の光を発する蛍光体と、を有する発光ユニットであってもよい。
【0071】
また、上述の実施の形態では、光波長変換部材としてセラミック材料が用いられているが、これに代えてシリコーン樹脂やガラス、ゾル・ゲル剤と、粉末蛍光体とを混合して板状に加工したものを光波長変換部材として用いてもよい。なお、蛍光体層としては、波長600nmにおける光透過率が40%以上であることが好ましい。また、本実施の形態に係る発光モジュールは、車両用灯具だけではなく照明用灯具にも用いることができる。