(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のエアバッグ装置の一実施形態について図面を参照して説明する。
本実施形態では、車両内でエアバッグをカーテン状に展開させるカーテンエアバッグ装置(以下、単にエアバッグ装置という)を例に採り説明する。エアバッグ装置は、車室内の側壁に搭載される。エアバッグ装置は、車室内の側壁で、膨張展開するエアバッグにより乗員を受け止めて保護する。
【0011】
図1は、本実施形態のエアバッグ装置を示す図である。
図1では、車両90(二点鎖線で示す)に搭載したエアバッグ装置1を車外から見て示している。また、車両90の側壁91とエアバッグ装置1を、車両90の後方側を省略して、かつ、車両90の幅方向から見て示している。エアバッグ装置1は、車両90を透視して示す。
図1の車両90には、車室内における側壁91の各部を模式的に示す。
なお、本発明では、車両90における前方と後方を単に前方と後方といい、車両90における前後方向を単に前後方向という。また、車両90における上方と下方を単に上方と下方といい、車両90における上下方向を単に上下方向という。
【0012】
車両90は、図示のように、側壁91に、上方のルーフレール92、前方のフロントピラー(Aピラー)93、センターピラー(Bピラー)94、及び、後方のリアピラー(Cピラー)(図示せず)を備えている。また、車両90は、側壁91に、前方の前部ドア95、後方の後部ドア96、及び、ドア95、96に設けられた窓97、98を備えている。前部ドア95は、車両90の最前方に設けられたドアであり、フロントピラー93の下方に位置する。後部ドア96は、車両90の最後方に設けられたドアである。
【0013】
車室内の側壁91には、トリム93A〜96Aと、ヘッドライニング92Aの一部が取り付けられている。トリム93A〜96Aは、車両90の内面部材である。フロントピラートリム93Aとセンターピラートリム94Aは、ピラー93、94の内面に設けられる。ドアトリム95A、96Aは、ドア95、96の内面に設けられる。ヘッドライニング92Aは、ルーフ(図示せず)とルーフレール92を覆う。側壁91の内面は、トリム93A〜96A、ヘッドライニング92A、窓97、98のガラスからなる。側壁91内で、窓97、98が開閉する。
【0014】
エアバッグ装置1は、エアバッグ(カーテンエアバッグ)10と、筒状のインフレータ2を備えている。エアバッグ10は、膨張展開できるように折り畳まれて、車両90内に取り付けられる。その際、エアバッグ10は、例えば、下方の縁部(下縁部という)から上方の縁部(上縁部という)に向かって蛇腹状に折り畳まれる。又は、エアバッグ10は、下縁部から上縁部に向けて、かつ、側壁91側に巻かれてロール折りされる。或いは、エアバッグ10は、蛇腹状の折りとロール折りを複合した複合折りにより折り畳まれる。これらの折り畳みにより、エアバッグ装置1の作動時に、エアバッグ10が、側壁91(窓97、98)に沿って展開する。エアバッグ10は、乗員と側壁91の間で膨張展開する。エアバッグ10は、細長く折り畳まれた状態で、車室内の側壁91の上部に配置される。エアバッグ10は、前後方向に沿ってルーフレール92に取り付けられる。エアバッグ10は、リアピラーからフロントピラー93まで配置される。
【0015】
折り畳まれたエアバッグ10は、フロントピラートリム93Aとヘッドライニング92A内に配置されて、固定手段(図示せず)により車体99に固定される。フロントピラートリム93Aとヘッドライニング92Aは、車体99に取り付けられて、エアバッグ10を覆う。エアバッグ10の前方部11は、フロントピラートリム93A内で、車体99に取り付けられる。
【0016】
インフレータ2は、シリンダタイプのガス発生装置である。インフレータ2は、エアバッグ10内に挿入されて、エアバッグ10内でガスを発生する。インフレータ2は、長手方向の一端部に、複数のガスの噴出口2Aを有する。インフレータ2は、センターピラー94の上方に配置されて、ルーフレール92に取り付けられる。インフレータ2は、固定手段(図示せず)により、ヘッドライニング92A内で車体99に固定される。車両緊急時や衝撃検知時に、インフレータ2は、複数の噴出口2Aからガスを発生して、エアバッグ10にガスを供給する。このガスにより、エアバッグ10を、側壁91の上部から下方に向かって膨張展開させる。エアバッグ10は、側壁91に沿ってカーテン状に膨張展開する。
【0017】
図2は、平面上に拡げたエアバッグ10を示す図である。
図2では、エアバッグ10を車外側から見て示している。
エアバッグ10は、図示のように、前後方向に長い袋体であり、例えば、樹脂を被覆した布からなる基布により製造される。ここでは、エアバッグ10は、乗員側の表基布(表パネル)12と、側壁91側の裏基布(裏パネル)13とを有する。また、エアバッグ10は、ガス供給部14と、複数(
図2では6つ)の固定布21〜26と、連結部材50を有する。
【0018】
複数の固定布21〜26は、エアバッグ10の上縁部に一体に形成されている。固定布21〜26は、ボルト等からなる固定手段(図示せず)により、フロントピラー93とルーフレール92に固定される。エアバッグ10は、固定布21〜26により車体99に取り付けられる。
【0019】
表基布12と裏基布13は、同じ形状に形成され、重ね合わせて、外縁接合部15で接合される。表基布12と裏基布13は、対向して配置されて、互いの間に膨張部30を形成する。膨張部30は、インフレータ2(
図2では図示せず)が発生するガスにより膨張する。膨張部30は、外縁接合部15により区画されて、エアバッグ10の対向する布(基布12、13)の間に形成される。外縁接合部15は、膨張部30の外縁形状を規定する。基布12、13は、外縁接合部15で、縫製及び接着により接合される。即ち、基布12、13は、外縁接合部15に沿って、1周又は複数周縫製されるとともに、縫製した部分が接着剤によりシールされる。これにより、基布12、13は、外縁接合部15で気密状に接合される。
【0020】
エアバッグ10には、外縁接合部15により、前膨張部31、後膨張部32、及び、連結膨張部33が形成される。膨張部31〜33は、全体としてエアバッグ10の膨張部30を構成する。前膨張部31は、エアバッグ10内で前方に配置される。前膨張部31は、前部ドア95の窓97とセンターピラー94の側方で膨張して、主に前席の乗員を受け止める。後膨張部32は、エアバッグ10内で後方に配置される。後膨張部32は、後部ドア96の上方で膨張して、主に後席の乗員を受け止める。連結膨張部33は、前膨張部31と後膨張部32を連結する。エアバッグ10の膨張部30外の部分は、エアバッグ10が膨張したときに、膨張しない状態に維持される。
【0021】
ガスは、ガス供給部14から、エアバッグ10内に供給される。ガス供給部14は、エアバッグ10の前後方向の中間に形成される。基布12、13は、ガス供給部14において、エアバッグ10の上縁部から斜め上方に突出する。基布12、13の縁部は、挿入口14Aを除いて、外縁接合部15から連続して接合される。これにより、ガス供給部14は、両端が開口した筒状に形成され、エアバッグ10の上縁部に一体に設けられる。ガス供給部14の内部は、一端の挿入口14Aでエアバッグ10の外部に繋がり、他端で膨張部30の内部と繋がる。
【0022】
インフレータ2は、挿入口14Aからガス供給部14に挿入されて、エアバッグ10内に配置される。ガス供給部14は、バンド(図示せず)で締め付けられて、インフレータ2に気密状に固定される。インフレータ2は、ガス供給部14内でガスを発生して、エアバッグ10内へガスを供給する。ガスは、前膨張部31へ供給されるとともに、連結膨張部33から後膨張部32へ供給される。これにより、エアバッグ10が膨張展開する。
【0023】
エアバッグ10は、外縁接合部15(膨張部30)内に位置する複数の内部接合部(第1〜第4の内部接合部16〜19)を有する。内部接合部16〜19は、膨張部30内で、エアバッグ10の対向する布(基布12、13)が接合された接合部である。基布12、13は、内部接合部16〜19で、外縁接合部15と同様に接合される。内部接合部16〜19は、それぞれ外縁接合部15から膨張部30内へ向かって延びるように膨張部30内に形成される。内部接合部16〜19の先端は、膨張部30内で環状に接合される。内部接合部16〜19の環状部16A〜19Aは、外縁接合部15から離して形成される。
【0024】
複数の内部接合部16〜19は、前後方向に離して配置され、膨張部30内にガスの流通部と気室を形成する。即ち、内部接合部16〜19は、膨張部30を区画する区画用接合部である。内部接合部16〜19は、膨張部30を区画して、第1〜第5の気室35〜39を膨張部30に形成する。第1〜第3の内部接合部16〜18により、第1〜第3の気室35〜37が、前膨張部31に形成される。第1の気室35は、前膨張部31の前方端に位置する。これら各気室35〜37では、上部と側部が閉鎖されて、下部のみが開放している。ガスは、各気室35〜37に下方のみから流入する。
【0025】
前膨張部31には、中間膨張部40と流通部41が形成される。中間膨張部40は、ガス供給部14と流通部41の間で膨張する気室である。中間膨張部40は、第3の内部接合部18により、前膨張部31の後方端で、ガス供給部14から下方に向かって形成される。流通部41は、第2と第3の気室36、37の下部を繋いで形成された気室である。流通部41は、エアバッグ10の下縁部に沿って設けられている。流通部41は、中間膨張部40の下部と、第1の気室35の下部とを連通させる。第2と第3の気室36、37は、中間膨張部40と第1の気室35の間で、流通部41に繋がる。ガスは、流通部41を通って、中間膨張部40から第1の気室35まで流通する。
【0026】
インフレータ2が発生するガスは、ガス供給部14から中間膨張部40へ供給される。中間膨張部40は、最初に膨張を開始する。前膨張部31内で、ガスは、中間膨張部40から流通部41へ流れる。流通部41は、中間膨張部40から第1の気室35へ向かって膨張する。ガスは、流通部41を通過する間に、第3の気室37と第2の気室36に下部から流入する。また、ガスは、流通部41を通って、第1の気室35に下部から流入する。気室35〜37は、流通部41に続いて膨張を開始して、流通部41の膨張に伴い順に膨張する。気室35〜37は、後方から前方の順に膨張を開始する。第1の気室35は、最後に膨張を開始して、他の気室36、37が膨張を完了した後の所定のタイミングで完全に膨張する。
【0027】
後膨張部32には、第4の内部接合部19により、第4と第5の気室38、39が形成される。インフレータ2が発生するガスは、連結膨張部33及び第4の気室38を通過して、第5の気室39に下部から流入する。第4と第5の気室38、39は、後膨張部32内で順に膨張する。
【0028】
次に、エアバッグ10の外部に設けられた連結部材50について説明する。
図3は、
図2の矢視X1−X1線で見たエアバッグ10と連結部材50の断面図である。
図3では、連結部材50の先端部を省略する。
連結部材50は、車体99とエアバッグ10に取り付けられて、エアバッグ10を車体99に連結する。連結部材50の一端(後方端)は、
図2、
図3に示すように、膨張部30内に位置するエアバッグ10の所定部分に取り付けられる。連結部材50の他端(前方端)は、車体99(フロントピラー93)に取り付けられる。連結部材50は、ボルト等からなる固定手段(図示せず)により車体99に固定される。エアバッグ10の前方部11は、連結部材50によりフロントピラー93に連結される。
【0029】
連結部材50は、エアバッグ10の膨張部30を支持する支持部51と、車体99に取り付けられる車体取付部(以下、単に取付部という)52を有する。支持部51は、膨張部30の側壁91側(
図3では下側)に配置され、裏基布13に重なる。支持部51の一端(後方端)が、エアバッグ10に取り付けられる。取付部52は、支持部51と車体99の間に設けられるベルト状部材である。取付部52の一端(後方端)は、支持部51の他端(前方端)に固定される。取付部52の他端(前方端)が、車体99に取り付けられる。
【0030】
連結部材50の支持部51は、取付部52よりも幅が広い幅広部51Aを有する。この連結部材50では、支持部51が三角形状の布(基布)からなり、支持部51の全体が取付部52よりも広くなっている。支持部51の幅は、後方端から前方端に向かって次第に狭くなる。支持部51は、エアバッグ10の内部接合部(ここでは、第1の内部接合部16)に取り付けられる。支持部51の幅が広い端部が、エアバッグ10の外面に接合されて、第1の内部接合部16に取り付けられる。第1の内部接合部16で基布12、13を接合するときに、同時に、支持部51の端部が、第1の内部接合部16でエアバッグ10に接合される。
【0031】
支持部51は、エアバッグ10外で、膨張部30の側壁91側の外面(裏基布13)に沿って配置される。支持部51が配置される膨張部30は、連結部材50により連結される車体99と第1の内部接合部16の間に位置する部分(ここでは、第1の気室35の部分)である。支持部51の幅広部51Aは、第1の気室35の側壁91側に配置される。
【0032】
連結部材50の取付部52は、エアバッグ10に確実に張力を付加するため、支持部51よりも伸び難い部材からなる。連結部材50が長手方向に引っ張られたときに、取付部52の伸張率は、支持部51の伸張率よりも低くなる。伸張率は、伸び前の長さに対する伸び後の長さの割合である。従って、取付部52は、支持部51よりも伸張率(又は、伸度)が低い低伸張部(又は、低伸度部)である。これに対し、支持部51は、エアバッグ10と共に折り畳み易い部材からなる。
【0033】
エアバッグ10の前方の端部には、非膨張部27と挿入部(保持部)60が設けられている。非膨張部27は、エアバッグ10の膨張しない部分であり、膨張部30外に位置する。エアバッグ10は、連結部材50により連結される車体99側の端部に非膨張部27を有する。挿入部60は、エアバッグ10の非膨張部27に設けられている。連結部材50は、挿入部60に移動可能に挿入される。挿入部60は、連結部材50をエアバッグ10に結び付ける。連結部材50は、挿入部60により、エアバッグ10の外面に保持される。
【0034】
エアバッグ10が有する挿入部60は、帯状の拘束部材61により形成されたループ状部62からなる。拘束部材61の両端部は、エアバッグ10に固定される。その際、拘束部材61を非膨張部27に重ねた状態で、拘束部材61の両端部が非膨張部27の外面に接合される。連結部材50は、拘束部材61とエアバッグ10の間に挿入されて、拘束部材61により拘束される。このように、ループ状部62は、拘束部材61によりループ状に形成される。ループ状部62は、エアバッグ10の外面に設けられて、連結部材50が通される。連結部材50は、ループ状部62によりエアバッグ10に保持される。
【0035】
エアバッグ装置1は、車両90に搭載された後、作動信号を受信したときにインフレータ2を作動させる。インフレータ2は、ガスを発生する。インフレータ2は、ガスを膨張部30へ供給して、エアバッグ10を膨張展開させる。エアバッグ10は、折り畳み形状を解消しつつカーテン状に展開する。エアバッグ10は、乗員と側壁91との間で膨張展開する。エアバッグ10は、前席と後席の乗員を受け止めて、乗員の頭部を中心に保護する。
【0036】
図4は、車両90内で膨張展開したエアバッグ10を示す図である。
図4では、車両90の側壁91とエアバッグ装置1を、
図1に対応させて示している。
エアバッグ10は、図示のように、フロントピラートリム93Aとヘッドライニング92Aを押し開き、側壁91の上部から下方に向かって展開する。エアバッグ10は、側壁91を覆うように、側壁91に沿って膨張展開する。連結部材50は、車体99と膨張展開するエアバッグ10の間で引っ張られる。連結部材50により、エアバッグ10が、車体99側へ引っ張られて、車両90内の所定位置に展開する。エアバッグ10は、車体99における連結部材50が取り付けられた部分に引っ張られる。エアバッグ10は、連結部材50から受ける張力により安定して展開する。その際、連結部材50は、窓97の位置に配置される。連結部材50は、窓97内で、支持部51により、エアバッグ10の膨張部30を支持する。
【0037】
図5は、
図4の矢視X2−X2線で見たエアバッグ10と連結部材50の断面図である。
図5には、エアバッグ10と連結部材50を簡略化して示す。
図6は、比較例の連結部材80を取り付けたエアバッグ10を示す断面図である。連結部材80は、支持部51を有さず、エアバッグ10の前方の端部に取り付けられている。
図5、
図6に示す線CLは、
図6におけるエアバッグ10の中心線である。
【0038】
比較例の連結部材80(
図6参照)は、エアバッグ10の端部を車体99側(矢印P1)へ引っ張る。エアバッグ10は、連結部材80から受ける張力により、中心線CLに沿って直線状に配置される。ただし、比較例の連結部材80では、中心線CLに交差する方向(矢印K1、K2)のエアバッグ10の動きを抑制するのは難しい。そのため、エアバッグ10が、側壁91側へ移動し、或いは、側壁91に強く押し付けられる虞がある。
【0039】
これに対し、本実施形態の連結部材50(
図5参照)は、支持部51により、エアバッグ10の第1の内部接合部16を車体99側(矢印P1)へ引っ張る。連結部材50には、車体99と第1の内部接合部16の間で、張力が付加される。これに伴い、支持部51が、エアバッグ10に押し付けられる。エアバッグ10の膨張展開時に、支持部51は、膨張部30の一部(ここでは、第1の気室35の部分)を側壁91側から支持する。また、支持部51は、エアバッグ10の膨張部30を車室Sの内側(矢印P2)へ向かって押す。膨張部30は、上記した中心線CLよりも車室Sの内側で膨張展開する。エアバッグ10の膨張部30には、側壁91から離す方向の力が付加されるため、エアバッグ10が、側壁91側へ動き難くなる。エアバッグ10が側壁91に必要以上に押し付けられることも防止される。
【0040】
エアバッグ10(
図4参照)は、側壁91に沿って膨張展開するとともに、側壁91側への移動が抑制される。エアバッグ10は、側壁91側への必要以上の移動が抑制されつつ膨張展開する。膨張部30は、支持部51の支持により、車室S内で安定して膨張展開する。窓97が開いているときでも、エアバッグ10は、窓97から車外へ押し出されることなく、車室S内で膨張展開する。エアバッグ10が前部ドア95の上端に当たるのも防止される。エアバッグ10が、前部ドア95の上端に当たって車外に展開することもない。また、エアバッグ10の展開が妨げられず、エアバッグ10が下縁部まで車室S内で展開する。エアバッグ10は、ドアトリム95A、96Aの位置まで展開して、窓97、98を塞ぐ。
【0041】
エアバッグ10の前膨張部31は、フロントピラー93からセンターピラー94までの領域(側壁91の前方領域)で膨張展開する。中間膨張部40は、センターピラー94に沿って展開して、センターピラー94にオーバーラップする。第1〜第3の気室35〜37は、前部ドア95の上方で膨張して、窓97を覆う。第1の気室35は、エアバッグ10内で最前方に位置し、フロントピラー93と前部ドア95との間に配置される。第1の気室35の上縁部は、フロントピラー93にオーバーラップする。流通部41は、前後方向に延び、前部ドア95の上縁部に沿って配置される。また、流通部41は、前部ドア95に重なるように膨張する。その結果、流通部41の全部又は一部(ここでは、下部)が、前部ドア95のドアトリム95Aにオーバーラップする。
【0042】
このように、エアバッグ10の膨張部30は、車体99にオーバーラップする上膨張部42と下膨張部43を有する。上膨張部42と下膨張部43は、前膨張部31の一部であり、エアバッグ10の上縁部と下縁部に設けられる。上膨張部42は、エアバッグ10の膨張展開時に、フロントピラー93にオーバーラップする。上膨張部42は、フロントピラー93とフロントピラートリム93Aとの間(フロントピラートリム93A内)で膨張する。上膨張部42は、フロントピラー93とフロントピラートリム93Aにより挟まれる。エアバッグ10が乗員を受け止めたときに、上膨張部42は、フロントピラー93により支えられる。
【0043】
図7に、エアバッグ10の上膨張部42(
図7ではハッチングを付す)を拡大して示す。
図7は、
図4のY領域を示している。
図7に示す上膨張部42のHは、フロントピラー93の下縁に沿う長さである。上膨張部42のWは、上膨張部42がフロントピラー93とオーバーラップする距離(オーバーラップ量)である。
上膨張部42は、図示のように、第1の気室35の所定領域であり、外縁接合部15を含む第1の気室35の上縁部に設けられる。また、上膨張部42は、長さHがオーバーラップ量Wよりも長くなるように、エアバッグ10に形成される。ここでは、長さHは100mmに設定されている。オーバーラップ量Wは40mmに設定されている。
【0044】
下膨張部43(
図4参照)は、エアバッグ10の膨張展開時に、車両90のドア(ここでは前部ドア95)に設けられたドアトリム95Aにオーバーラップする。下膨張部43は、車室S内で膨張して、ドアトリム95Aの表面に接する。エアバッグ10が乗員を受け止めたときに、下膨張部43は、ドアトリム95Aにより支えられる。下膨張部43において、エアバッグ10は、前方部分が他の部分よりも下方に大きく膨張するように形成される。これにより、下膨張部43内で、ピラー下方部分43Aが、他の部分(後方部分43B)よりも下方に大きく膨張する。下膨張部43のピラー下方部分43Aは、フロントピラー93の下方で膨張する部分である。ピラー下方部分43Aは、フロントピラー93の下方に位置するドアトリム95Aにオーバーラップする。
【0045】
ピラー下方部分43Aは、前膨張部31の一部を部分的に下方に突出させることで、下膨張部43に形成される。ピラー下方部分43Aは、第1の内部接合部16の下方に設けられる。下膨張部43の後方部分43Bは、第2の内部接合部17の下方に設けられる。第1の内部接合部16は、第2の内部接合部17よりも、下方の外縁接合部15から離して形成される。その結果、ピラー下方部分43Aは、他の部分(後方部分43B)よりも車両幅方向に厚く膨張する。ここでは、ピラー下方部分43Aの膨張時の直径R1は105mmに設定されている。直径R1は、第1の内部接合部16の下方の気室が膨張したときの直径である。後方部分43Bの膨張時の直径R2は95mmに設定されている。直径R2は、第2の内部接合部17の下方の気室が膨張したときの直径である。
【0046】
図8に、エアバッグ10の下膨張部43(
図8ではハッチングを付す)を拡大して示す。
図8は、
図4のZ領域を示している。
図8に示す下膨張部43のL1は、ピラー下方部分43Aがドアトリム95Aとオーバーラップする距離(オーバーラップ量)である。下膨張部43のL2は、後方部分43Bがドアトリム95Aとオーバーラップする距離(オーバーラップ量)である。
【0047】
下膨張部43は、図示のように、流通部41の所定領域であり、外縁接合部15を含む流通部41の下部に設けられる。下膨張部43内で、ピラー下方部分43Aは、他の部分(後方部分43B)よりも大きくドアトリム95Aとオーバーラップする。ここでは、ピラー下方部分43Aのオーバーラップ量L1は130mmに設定されている。後方部分43Bのオーバーラップ量L2は50mmに設定されている。ピラー下方部分43Aは、下膨張部43内で、相対的に下方に大きく膨張するとともに、ドアトリム95Aに相対的に大きくオーバーラップする。
【0048】
エアバッグ10(
図4参照)が乗員を受け止めたときに、上膨張部42と下膨張部43は、車両90の車体99(フロントピラー93とドアトリム95A)に押し付けられる。フロントピラー93とドアトリム95Aは、上膨張部42と下膨張部43に干渉して、上膨張部42と下膨張部43を押さえる。その結果、上膨張部42と下膨張部43は、車体99に支えられて、車外方向への移動が妨げられる。エアバッグ10の前方において、上膨張部42と下膨張部43により、エアバッグ10の上縁部と下縁部が支えられて、エアバッグ10が車体99に保持される。これにより、エアバッグ10の車外方向への変形と移動が抑制される。
【0049】
エアバッグ10は、乗員に押されて車外方向へ変形する。その際、エアバッグ10が上下の2箇所で車体99に支えられるため、エアバッグ10の変形が小さくなる。エアバッグ10の下膨張部43は、ドアトリム95Aにより支えられて、窓97の外側へ移動するのが妨げられる。その結果、エアバッグ10は、乗員を受け止めたときに、側壁91を覆うように膨張した状態に維持される。乗員は、車外へ放出されることなく、エアバッグ10により確実に受け止められる。下膨張部43がドアトリム95Aから外れた場合であっても、下膨張部43がドアトリム95Aに支えられている間に、乗員の移動を充分に止められるため、乗員の車外放出を防止できる。
【0050】
以上のように、本実施形態のエアバッグ装置1では、支持部51を有する連結部材50により、エアバッグ10を車室S内に確実に膨張展開させることができる。窓97が開いているときでも、エアバッグ10が、車室S内で安定して膨張展開する。そのため、エアバッグ10により、乗員を確実に受け止めることができる。エアバッグ10が有する乗員の車外放出を抑制する性能(放出抑制性能という)を向上させることもできる。
【0051】
連結部材50の支持部51を第1の内部接合部16に取り付けることで、エアバッグ10の車体99と連結される部分の強度を高くできる。また、連結部材50に付加される張力が大きくなる。支持部51により、膨張部30を強い力で確実に押すこともできる。膨張部30は、支持部51により側壁91側から安定して支持される。第1の内部接合部16は、気室35、36を形成する区画用接合部であるため、支持部51を取り付ける接合部をエアバッグ10に別途設ける必要がない。そのため、支持部51をエアバッグ10に容易に取り付けられる。
【0052】
支持部51の幅広部51Aにより、膨張部30を広い面積で安定して支持できる。膨張部30の広い範囲が押されるため、膨張部30の側壁91側への移動を確実に抑制できる。連結部材50の取付部52が低伸張部であるため、取付部52の伸びを抑制できる。これにより、エアバッグ10に確実に張力を付加できる。
【0053】
エアバッグ10の挿入部60により、連結部材50を移動可能に保持するため、支持部51を膨張部30の支持する部分に正確に配置できる。展開中の膨張部30の挙動と位置を安定させることもできる。挿入部60をエアバッグ10の非膨張部27に設けるときには、エアバッグ10の端部が連結部材50に結び付けられる。その結果、エアバッグ10の端部付近の動きが抑制される。挿入部60をループ状部62にすることで、挿入部60をエアバッグ10の外面に簡単に形成できる。支持部51の幅の変更にも容易に対応できる。
【0054】
連結部材50により、エアバッグ10の下膨張部43を車体99に確実にオーバーラップさせることができる。上膨張部42と下膨張部43が車体99にオーバーラップすることで、放出抑制性能を、より向上させることができる。また、下膨張部43のみをオーバーラップさせるときに比べて、全体として少ないオーバーラップ量で、エアバッグ10の放出抑制性能を向上させることができる。これに伴い、エアバッグ10を小さくできるため、基布の使用量とエアバッグ10のコストを削減できる。従って、エアバッグ装置1を安価で製造できる。
【0055】
本実施形態では、下膨張部43内で、ピラー下方部分43Aが、後方部分43Bよりも大きくドアトリム95Aとオーバーラップする。そのため、エアバッグ10の前方で、エアバッグ10の上下を強固に支えることができる。ピラー下方部分43Aのみを大きくオーバーラップさせることで、エアバッグ10の容量を小さくすることもできる。
【0056】
下膨張部43のピラー下方部分43Aが、後方部分43Bよりも車両幅方向に厚く膨張するため、ピラー下方部分43Aの剛性が高くなる。これにより、エアバッグ10が乗員を受け止めたときに、ピラー下方部分43Aが変形し難くなる。ピラー下方部分43Aは、変形が抑制されるため、ドアトリム95Aに確実に、かつ、安定して支えられる。ピラー下方部分43Aのみを厚く膨張させることで、下膨張部43の全体を厚く膨張させるときよりも、エアバッグ10の容量を小さくすることもできる。
【0057】
なお、挿入部60は、エアバッグ10の非膨張部27以外の位置に設けるようにしてもよい。挿入部60は、エアバッグ10に複数設けてもよい。連結部材50の支持部51は、第1の内部接合部16以外の内部接合部(内部接合部17又は18)に取り付けてもよい。例えば、支持部51を第3の内部接合部18に取り付けるときには、挿入部60を、非膨張部27と2つの内部接合部16、17に設けるようにしてもよい。連結部材50は、3つの挿入部60でエアバッグ10に保持される。また、膨張部30の気室35〜37内に内部接合部を形成して、この内部接合部に支持部51を取り付けるようにしてもよい。連結部材50は、側壁91の上部に配置される種々のエアバッグ10に設けることができる。エアバッグ10は、上記した折り畳みの例に限定されず、側壁91に沿って、乗員と側壁91の間で膨張展開できる他の態様で折り畳むようにしてもよい。
【0058】
連結部材50(
図2参照)は、エアバッグ10の後方部と後膨張部32に設けるようにしてもよい。この場合には、連結部材50の一端(前方端)を、後膨張部32内の第4の内部接合部19に取り付ける。連結部材50の他端(後方端)は、車体99(リアピラー)に取り付ける。後膨張部32には、上膨張部42及び下膨張部43と同様の膨張部を設けてもよい。即ち、後膨張部32の一部(上膨張部)を、エアバッグ10の膨張展開時に、車両90のリアピラーにオーバーラップさせてもよい。また、後膨張部32の一部(下膨張部)を、エアバッグ10の膨張展開時に、車両90のドア(ここでは後部ドア96)に設けられたドアトリム96Aにオーバーラップさせてもよい。このようにするときには、上記と同様に、エアバッグ10を車室S内に確実に膨張展開させることができる。後席の乗員に関して、エアバッグ10の放出抑制性能を向上させることもできる。
【0059】
基布12、13を外縁接合部15で縫製のみにより接合して、エアバッグ10を形成してもよい。エアバッグ10は、ジャカード織により形成してもよい。ジャカード織でエアバッグ10を形成するときには、膨張部30は、エアバッグ10のジャカード織りした布の間に形成される。エアバッグ10の対向する布が、互いの間に膨張部30を形成する。連結部材50は、膨張部30内で対向する布が接合された内部接合部(例えば、第1の内部接合部16)に取り付けられる。
【0060】
次に、他の実施形態の連結部材について説明する。
図9は、他の実施形態の連結部材70を示す図である。
図9には、エアバッグ10の一部も示している。
図9は、
図2と同様に、平面上に拡げたエアバッグ10を示す図である。
図10は、
図9の矢視X3−X3線で見たエアバッグ10と連結部材70の断面図である。
図10では、連結部材70の先端部を省略する。
【0061】
連結部材70は、図示のように、上記した連結部材50と同様に、膨張部30を支持する支持部71と、車体99に取り付けられる取付部72を有する。支持部71は、取付部72よりも幅が広い幅広部71Aを有する。支持部71は、帯状の基布からなり、第1の内部接合部16(環状部16A)に取り付けられる。
【0062】
エアバッグ10は、非膨張部27に、補強布28と挿入部60を有する。補強布28は、矩形状の基布からなり、エアバッグ10の両面に接合されている。挿入部60は、エアバッグ10の非膨張部27に形成された開口部63からなる。補強布28は、挿入部60に接合されて、挿入部60を補強する。開口部63は、補強布28と基布12、13を貫通するスリット(又は、貫通孔)からなる。連結部材70は、開口部63に移動可能に挿入されて、エアバッグ10に保持される。開口部63を挿入部60にするときには、挿入部60をエアバッグ10に容易に形成できる。