特許第5809051号(P5809051)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5809051
(24)【登録日】2015年9月18日
(45)【発行日】2015年11月10日
(54)【発明の名称】第4級アンモニウム塩水溶液の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 209/12 20060101AFI20151021BHJP
   C07C 211/63 20060101ALI20151021BHJP
【FI】
   C07C209/12
   C07C211/63
【請求項の数】11
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-288554(P2011-288554)
(22)【出願日】2011年12月28日
(65)【公開番号】特開2013-136543(P2013-136543A)
(43)【公開日】2013年7月11日
【審査請求日】2014年9月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100076680
【弁理士】
【氏名又は名称】溝部 孝彦
(74)【代理人】
【識別番号】100098408
【弁理士】
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】井上 勝久
(72)【発明者】
【氏名】小坂 遥香
【審査官】 品川 陽子
(56)【参考文献】
【文献】 特表平05−505614(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第101050182(CN,A)
【文献】 特開平08−176084(JP,A)
【文献】 特開平11−279132(JP,A)
【文献】 特開平09−104661(JP,A)
【文献】 特開平11−302241(JP,A)
【文献】 特開2009−227664(JP,A)
【文献】 特開2000−229919(JP,A)
【文献】 特開平04−321656(JP,A)
【文献】 特開昭48−039451(JP,A)
【文献】 特開昭60−090002(JP,A)
【文献】 特開平08−134023(JP,A)
【文献】 特開平10−182565(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 211/63
C07C 209/12
C07C 209/20
C07C 209/82
C11D 1/62
CAplus(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程(I)、工程(II)及び工程(III)を有する第4級アンモニウム塩水溶液の製造方法であって、工程(I)を消泡剤の存在下で行い、消泡剤を含む反応混合物を得てこれを工程(II)で用いる、第4級アンモニウム塩水溶液の製造方法。
工程(I):エステル基、アミド基又はエーテル基が挿入されていてもよい、炭素数6〜30の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基を有する第3級アミンと4級化剤とを、水中で反応させて、一般式(1)で表わされる第4級アンモニウム塩(1)と水とを含有する反応混合物を調製する工程
工程(II):工程(I)で得られた反応混合物のpHを8.6〜13.0に調整し、消泡剤の存在下に反応混合物の内部に不活性ガスを導入する工程
工程(III):工程(II)の後、反応混合物のpHを5.0〜8.5に調整し、一般式(1)で表される第4級アンモニウム塩を含有する水溶液を得る工程
【化1】

(式中、R1は、エステル基、アミド基又はエーテル基が挿入されていてもよい、炭素数6〜30の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基を示し、R2は炭素数1〜3のアルキル基を示し、Xは陰イオン基を示す。)
【請求項2】
第4級アンモニウム塩(1)が、一般式(1)中のR2がメチル基、Xが塩化物イオンの化合物である、請求項1に記載の第4級アンモニウム塩水溶液の製造方法。
【請求項3】
工程(II)において、不活性ガスの導入を、反応混合物に対して10〜1,000mg/kgの消泡剤の存在下で行う、請求項1又は2に記載の第4級アンモニウム塩水溶液の製造方法。
【請求項4】
工程(II)において、反応混合物に対して0.1〜100L/kgの不活性ガスを導入する、請求項1〜3の何れか1項記載の第4級アンモニウム塩水溶液の製造方法。
【請求項5】
第4級アンモニウム塩(1)が、一般式(1)中のR1が炭素数10〜18の直鎖アルキル基の化合物である、請求項1〜4の何れか1項記載の第4級アンモニウム塩水溶液の製造方法。
【請求項6】
前記4級化剤が塩化メチルである、請求項1〜5記載の何れか1項記載の第4級アンモニウム塩水溶液の製造方法。
【請求項7】
工程(II)において、不活性ガスの導入を常圧下で行う、請求項1〜の何れか1項記載の第4級アンモニウム塩水溶液の製造方法。
【請求項8】
工程(II)において、不活性ガスの導入を6.7〜90kPaの減圧下で行う、請求項1〜の何れか1項記載の第4級アンモニウム塩水溶液の製造方法。
【請求項9】
工程(II)において、不活性ガスの導入を50〜100℃の温度で行う、請求項1〜の何れか1項記載の第4級アンモニウム塩水溶液の製造方法。
【請求項10】
工程(III)で得られる第4級アンモニウム塩水溶液が、第4級アンモニウム塩(1)を25〜60質量%含有する、請求項1〜の何れか1項記載の第4級アンモニウム塩水溶液の製造方法。
【請求項11】
工程(II)において、不活性ガスの導入をバッチ式の槽で行う、請求項1〜10の何れか1項記載の第4級アンモニウム塩水溶液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第4級アンモニウム塩水溶液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
第4級アンモニウム塩は、衣料用洗浄剤や殺菌剤、抗菌剤及び繊維などの柔軟剤や毛髪処理剤、帯電防止剤等に基剤として用いられている。第4級アンモニウム塩は、第3級アミンと4級化剤を必要に応じて溶媒を使用して反応させる方法等により製造される。しかし、製造された第4級アンモニウム塩には、反応中に副生する低級アミンや未反応の4級化剤等の不純物を含有し、この不純物は極少量を含有しても匂いや保存安定性を悪くするという問題があった。
【0003】
そのために、従来では匂いや保存安定性の向上を目的に、反応後に常圧下あるいは減圧下でのキャリアーガスを用いた除去や減圧下での留去が行われている。例えば、特許文献1では、反応溶媒にエチルアルコールやイソプロピルアルコール等を使用して4級化し、その後の脱臭処理として用いた溶媒をシリコーン等の消泡剤を添加して留去することで匂いを改善している。しかし、反応溶媒として水を使用した場合には、引火点の問題は回避できるが、匂いの悪化の原因である低級アミン等の不純物は水溶液系からは除去され難く、効率的な匂い改善の効果が得られない。また、刺激臭を改善する方法として、先行文献2ではpH7〜12の水溶液を薄膜状にして揮発成分を除去する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−279132号公報
【特許文献2】特開平9−104661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、製造される第4級アンモニウム塩は低級アルコールとの混合物として得られることから、引火性であるために取り扱い設備の高コスト化、及び商品として低級アルコールによる匂い影響や引火点が検出されて使用できない事がある。また、特許文献2でも、第4級アンモニウム塩は過酷な条件で長期間保存された場合の匂い改善の効果が得られず、製造設備も高コストであり、さらに保存安定性において色相等が悪化する等の問題があった。
【0006】
本発明の課題は、製造直後の匂いと色相が良好で、更に、過酷な条件で保存された後も、良好な匂いと色相を維持できる高品質な第4級アンモニウム塩水溶液が得られる製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記工程(I)、工程(II)及び工程(III)を有する第4級アンモニウム塩水溶液の製造方法を提供する。
工程(I):エステル基、アミド基又はエーテル基が挿入されていてもよい、炭素数6〜30の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基を有する第3級アミンと4級化剤とを、水中で反応させて、一般式(1)で表わされる第4級アンモニウム塩(1)と水とを含有する反応混合物を調製する工程
工程(II):工程(I)で得られた反応混合物のpHを8.6〜13.0に調整し、消泡剤の存在下に反応混合物の内部に不活性ガスを導入する工程
工程(III):工程(II)の後、反応混合物のpHを5.0〜8.5に調整し、一般式(1)で表される第4級アンモニウム塩を含有する水溶液を得る工程
【0008】
【化1】
【0009】
(式中、R1は、エステル基、アミド基又はエーテル基が挿入されていてもよい、炭素数6〜30の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基を示し、R2は炭素数1〜3のアルキル基を示し、X-は陰イオン基を示す。)
【発明の効果】
【0010】
本発明により、製造直後の匂いと色相が良好で、更に、過酷な条件で保存された後も、良好な匂いと色相を維持できる高品質な第4級アンモニウム塩水溶液を製造することができる。本発明では、4級化反応後に特定のpH、消泡剤の存在下に反応混合物の内部に不活性ガスを導入した後、特定のpHに調整する事で、高品質な第4級アンモニウム塩水溶液を製造できる製造方法を提供することができる。さらに、この第4級アンモニウム塩水溶液は、水溶液の形態で得ることができ、溶媒による匂いや引火性を有さないことから取り扱い性に優れ、衣料用洗浄剤、殺菌剤、抗菌剤、繊維用柔軟剤、毛髪処理剤、帯電防止剤等の調製原料として用いる場合に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<工程(I)>
工程(I)は、所定の第3級アミンを水中で4級化剤と反応させて、一般式(1)で表わされる第4級アンモニウム塩(1)と水とを含有する反応混合物を調製する工程である。
【0012】
原料の3級アミンは、下記一般式(1’)で表すことができる。
【0013】
【化2】
【0014】
(式中、R1はエーテル基又はアミド基で分断されていてもよい炭素数8〜30の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基を示す。)
【0015】
一般式(1)中のR1及び一般式(1’)中のR1は、エステル基、アミド基又はエーテル基が挿入されていてもよい、炭素数6〜30の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基であって、好ましくはエステル基、アミド基又はエーテル基が挿入されていてもよい、炭素数8〜24の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、より好ましくは炭素数10〜22の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、より更に好ましくは炭素数10〜18の直鎖のアルキル基である。
【0016】
また、一般式(1)中のR2は、炭素数1〜3のアルキル基であって、好ましくはメチル基、エチル基、より好ましくはメチル基である。
【0017】
また、一般式(1)中のX-は、陰イオン基であって、具体的にはCl-、Br-等のハロゲンイオン、メチル硫酸イオン、エチル硫酸イオン等の短鎖アルキル硫酸イオン、酢酸、酒石酸、乳酸、リンゴ酸、コハク酸等の有機酸の陰イオンが挙げられ、好ましくはCl-、Br-等のハロゲンイオンであり、より好ましくはCl-(塩化物イオン)である。
【0018】
工程(I)での4級化反応は特に限定されないが、例えば原料の第3級アミンを水中でR2−X(R2は前記と同じであり、Xは陰イオンX-となる基である。)で表される4級化剤を温度25〜120℃で仕込み、その後、温度25〜120℃で0.1〜20時間の4級化を行う方法が挙げられる。
【0019】
工程(I)では、水中で第3級アミンを4級化して第4級アンモニウム塩(1)を製造する。また、水の他に、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール(炭素数1〜3)、エチレングリコール、プロピレングリコール等のジオール類(炭素数2〜5)、アセトン、アセトニトリルのような有機溶媒を、本反応に影響が無い範囲内で、適宜加えることも可能である。影響のない添加量の範囲としては、例えば、得られた第4級アンモニウム塩水溶液に引火点が発現しない範囲で加えることが出来る。具体的には、エチルアルコールの場合には5質量%以下で添加する事が出来る。本発明では、4級化を水中で行うため、反応溶媒は水を95質量%以上含有することが好ましく、95〜100質量%含有することがより好ましい。
【0020】
水に対する第3級アミン(1)の割合は、得られる第4級アンモニウム塩水溶液の常温における流動性の確保及び効率的な生産性の観点から、4級化剤を最初に導入する前の時点で、20〜80質量%であることが好ましく、より好ましくは25〜70質量%、更に好ましくは30〜60質量%である。この割合は、〔第3級アミン(1)の仕込量/水の仕込量〕×100により求められるものである。
【0021】
4級化剤の使用量は、第3級アミンに対して0.95〜2.0モル倍が好ましい。4級化後の未反応第3級アミン含量の低減や4級化剤の副反応、反応後に残存する4級化剤の廃棄等の後処理への負担低減の観点から、4級化剤の使用量は、第3級アミンに対して0.98〜1.5モル倍がより好ましく、0.99〜1.30モル倍が更に好ましく、1.00〜1.15モル倍がより更に好ましい。
【0022】
本発明では、工程(II)において消泡剤の存在下に反応混合物の内部に不活性ガスの導入を行うが、消泡剤が工程(II)で用いられる反応混合物中に含まれる限り、消泡剤は工程(I)〔工程(I)での何れかの時期〕や、工程(I)と工程(II)との間などの時点で反応系に添加してもよい。本発明では、4級化時の処理量の増加による生産性向上から、消泡剤を工程(I)で添加することが好ましい。更には、工程(I)において水及び消泡剤の存在下に4級化反応を行い、第4級アンモニウム塩(1)と水と消泡剤を含有する反応混合物を得ることが好ましい。この場合、消泡剤の添加量は、反応系に対して、10〜1,000mg/kg、更に25〜500mg/kg、より更に50〜250mg/kgとすることが好ましい。この添加量は、消泡剤の質量(mg)/反応系の質量(kg)である。なお、この場合、反応系は、第3級アミン(1)及び水を含んで構成される混合物であってよく、更にこれに4級化剤を含んで構成される混合物であってよい。例えば、反応系を、第3級アミン(1)、4級化剤及び水の混合物とみなすことができ、その場合、反応系の質量は、これら三者の仕込量の合計とすることができる。
【0023】
工程(I)で得られた反応混合物は、第4級アンモニウム塩(1)を20〜80質量%、更に25〜60質量%、より更に27〜50質量%含有することが好ましい。
【0024】
<工程(II)>
工程(II)は、工程(I)で得られた反応混合物のpHを8.6〜13.0に調整し、消泡剤の存在下に反応混合物の内部に不活性ガスを導入する工程である。この条件で工程(II)の不活性ガスの導入を行うことで、製造直後の匂いと色相に優れ、過酷な条件での保存後も良好な匂いを維持できる、高品質な第4級アンモニウム塩水溶液を得ることができる。これは、製造直後や保存後に匂いや着色の原因物質となり得る成分(例えば、低沸点の有機化合物)が効率よく反応混合物から留去されるためであると考えられる。
【0025】
不活性ガス導入時の反応混合物のpHは、8.6〜13.0であって、匂いの改善の観点から、好ましくは8.6〜12.0、より好ましくは8.6〜11.0である。
【0026】
pHの調整のために添加されるアルカリ剤は、反応混合物を目的のpHに調整できるものであれば特に限定されないが、好ましくはアルカリ金属の水酸化物及び炭酸塩から選ばれるアルカリ剤であり、より好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及び炭酸塩から選ばれるアルカリ剤であり、更に好ましくは炭酸ナトリウム及び炭酸カリウムから選ばれるアルカリ剤である。アルカリ剤は、水溶液の形態で用いることができる。
【0027】
消泡剤としては、ジメチルポリシロキサン、アミノ変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、二酸化珪素等が挙げられ、これらの1種以上を用いることができる。好ましくは、ジメチルポリシロキサン、アミノ変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーンであり、より好ましくは、ポリエーテル変性シリコーンであり、更に好ましくはHLB0.5〜3のポリエーテル変性シリコーンであり、より更に好ましくは、ポリオキシエチレン基を有するHLB0.5〜3のポリエーテル変性シリコーンである。消泡剤を不活性ガスの導入の際に添加混合することで、製造がスムーズに行え、更に処理量のアップを図ることができ、大幅な生産性向上が可能となる。なお、消泡剤は、また予め乳化したものを用いることができる。なお、ポリオキシエチレン基を有するポリエーテル変性シリコーンについてのHLBは、次の式で計算される値である(新界面活性剤入門、129頁、藤本武彦著、三洋化成工業株式会社発行、1996年10月)。
HLB=E/5
(Eは、ポリオキシエチレン基を有するポリエーテル変性シリコーンの質量に対するオキシエチレン基の質量の割合(質量%)を示す。)
【0028】
消泡剤の添加量は、工程(I)で得られた反応混合物に対して、好ましくは10〜1,000mg/kg、より好ましくは25〜500mg/kg、更に好ましくは50〜250mg/kgである。この添加量は、消泡剤の質量(mg)/反応混合物の質量(kg)である。
【0029】
消泡剤の添加時期は、工程(I)の4級化の前及び4級化の後のどちらでもよく、更に4級化の後ではpHを調整する前及び後のどちらでよいが、前述の通り、4級化時の処理量の増加による生産性向上から、4級化の前に添加することが好ましい。
【0030】
不活性ガス導入時の反応混合物の温度は、匂いの改善及び第4級アンモニウム塩水溶液の副反応の低減等の観点から、好ましくは40〜120℃、より好ましくは50〜100℃、更に好ましくは60〜90℃である。
【0031】
不活性ガスの導入としては、常圧下または減圧下で行うことが出来る。常圧とは100kPa近傍であるが、110〜95kPaとしてよい。減圧下で行う場合は、圧力3〜95kPaが好ましく、より好ましくは6.7〜90kpa、更に好ましくは13〜80kPaである。好ましくは、常圧下である。
【0032】
不活性ガスとしては、窒素ガスや水蒸気等が挙げられ、好ましくは窒素ガスである。不活性ガスは、反応混合物の内部で接触するような方法で導入され、例えば、反応混合物の内部に吹き込むことで導入できる。より具体的には、不活性ガスの導入手段が反応混合物の内部に配置した状態、例えば、不活性ガスの導入管の先端(開口部)が反応混合物の内部に浸漬した状態で、連続的及び/又は間欠的に、不活性ガスを、所定時間にわたり吹き込み続けること(バブリングを行う等)である。
【0033】
不活性ガスの導入量は、反応混合物に対して0.05〜500L/kgが好ましく、匂いの改善と経済性及び生産性の観点より、より好ましくは0.1〜100L/kg、より好ましくは0.5〜50L/kg、更に好ましくは1〜20L/kgである。この導入量は、不活性ガスの体積(L)/反応混合物の質量(kg)である。
【0034】
工程(II)において、不活性ガスの導入は、バッチ式の槽、および連続式の装置(例えば薄膜蒸発機等)の何れで行うこともできるが、生産コストの観点から、好ましくはバッチ式の槽である。
【0035】
工程(II)において、不活性ガスを導入する時間には特に限定は無いが、通常、本発明の条件の場合は20時間以内であり、色相を悪化させない事と経済性及び生産性の観点から、0.5〜10時間が好ましく、1〜8時間がより好ましい。
【0036】
<工程(III)>
工程(III)は、工程(II)の後、反応混合物のpHを5.0〜8.5に調整し、一般式(1)で表される第4級アンモニウム塩を含有する水溶液を得る工程である。
【0037】
工程(III)では、不活性ガスの導入が終了した反応混合物に酸を添加してpHを5.0〜8.5に調整する。第4級アンモニウム塩水溶液の保存安定性の観点から、pHは好ましくは5.5〜8.5、より好ましくは6.0〜8.5に調整する。このpHは工程(III)を行う際の温度におけるものであるが、25℃でこの範囲のpHであることが好ましい。
【0038】
pH調整のために添加される酸は、第4級アンモニウム塩水溶液を目的のpHに調整できるものであれば特に限定されないが、具体的には塩酸、硫酸、燐酸、炭酸、炭素数1〜3のアルキル硫酸、酢酸、酒石酸、乳酸、リンゴ酸、コハク酸、グルタミン酸等の有機酸及びなどが挙げられ、好ましくは塩酸、硫酸、燐酸、酢酸、乳酸、より好ましくは塩酸、硫酸、燐酸、特に好ましくは塩酸である。これらの酸は、水等の希釈系で用いられても良い。
【0039】
工程(III)で得られた水溶液は、第4級アンモニウム塩(1)を20〜80質量%、更に25〜60質量%、より更に27〜50質量%含有することが好ましい。
【実施例】
【0040】
実施例及び比較例で製造された第4級アンモニウム塩水溶液の匂い評価及び色相評価を以下の通り行った。
【0041】
<匂い評価>
製造直後の水溶液又は60℃で6ヶ月保存後の水溶液を、100mLのビーカーに入れ、室温にてパネラー5名による官能評価を行い、下記基準で異臭の抑制を評価した。なお、水溶液の保存は、協同硝子株式会社製の広口規格びんPS−No.11(胴径51.5mm、高さ95.5mm、口径39.5mm、ガラス製)に水溶液50mLを入れて密閉、遮光の状態で行った。
A:5名が異臭を感じなかった
B:4名が異臭を感じなかった
C:3名が異臭を感じなかった
D:2名が異臭を感じなかった
E:0名又は1名が異臭を感じなかった(4名又は5名が異臭を感じた)
【0042】
<色相>
製造直後の水溶液又は匂い評価での方法と同様に60℃で6ヶ月保存した後の水溶液について、Hazen法(A.Hazen, Am. Chem. J. 14, 300(1892))により色相(ハーゼン色数)を評価した。
【0043】
製造例1
工程(I)を次のように行った。
攪拌機、温度計、圧力計を具備した0.5Lオートクレーブに、ラウリルジメチルアミン(花王(株)製ファーミン DM2098)85.4g(0.40モル)、イオン交換水177g、ポリエーテル変性シリコーン〔消泡剤、東レ・ダウコーニング(株)製 DOW CORNING TORAY FZ−2203、HLB1(カタログ値)〕0.029g(反応系に対して100mg/kg)を入れ、窒素置換した。その後に、塩化メチル20.6g(ラウリルジメチルアミンに対して1.02モル倍)を10分で圧入し、次いで60〜70℃で2時間反応させて、第4級アンモニウム塩濃度37.1質量%、反応率99.4%、pH6.1の第4級アンモニウム塩水溶液283gを得た。この第4級アンモニウム塩水溶液は、製造直後の匂い評価Eであった。
【0044】
製造例2
工程(I)を次のように行った。
攪拌機、温度計、圧力計を具備した0.5Lオートクレーブに、ラウリルジメチルアミン(花王(株)製ファーミン DM2098)85.4g(0.40モル)、イオン交換水177gを入れ、窒素置換した。その後に、塩化メチル21.2g(第3級アミンに対して1.05モル倍)を10分で圧入し、次いで60〜70℃で2時間反応させて、第4級アンモニウム塩濃度37.0%、反応率99.4%、pH5.6の第4級アンモニウム塩水溶液283gを得た。こ第4級アンモニウム塩水溶液は、匂い評価Eであった。
【0045】
製造例3
工程(I)を次のように行った。
攪拌機、温度計、圧力計を具備した0.5Lオートクレーブに、ヘキサデシルジメチルアミン(花王(株)製ファーミン DM6098)67.4g(0.25モル)、イオン交換水184g、ポリエーテル変性シリコーン〔消泡剤、東レ・ダウコーニング(株)製 DOW CORNING TORAY FZ−2203、HLB1(カタログ値)〕0.029g(反応系に対して100mg/kg)を入れ、窒素置換した。その後に、塩化メチル13.3g(ヘキサデシルジメチルアミンに対して1.05モル倍)を10分で圧入し、次いで60〜70℃で2時間反応させて、第4級アンモニウム塩濃度30.0%、反応率99.3%、pH5.7の第4級アンモニウム塩水溶液264gを得た。この第4級アンモニウム塩水溶液は、匂い評価Eであった。
【0046】
実施例1
攪拌機、温度計、窒素導入管を具備した0.5Lの4つ口丸底フラスコに、製造例1で得られた第4級アンモニウム塩水溶液250gを入れ、80℃で17%炭酸ソーダ水溶液2.1gを添加してpH9.7にした。80℃、常圧下で窒素ガス2L(第4級アンモニウム塩水溶液に対して8L/kg)を3時間で吹き込み(バブリング)を行った。この際、窒素導入管の先端(直径4mm)が第4級アンモニウム塩水溶液に浸漬された状態で、窒素ガスの吹込み(バブリング)を行った。その後、35%塩酸水溶液0.22gを加えて60〜80℃で1時間混合、攪拌して、pH7.1、第4級アンモニウム塩濃度37.3質量%の第4級アンモニウム塩水溶液240gを得た。得られた第4級アンモニウム塩水溶液について、前記の方法で匂い評価及び色相評価を行った。結果を表1に示した。なお、各工程は、幅6cmのテフロン(登録商標)製三日月翼を用い回転数350rpmで第4級アンモニウム塩水溶液を撹拌しながら行った。また、実施例1は、バッチ式の槽のモデル試験である。
【0047】
実施例2〜8及び比較例1〜6
工程(I)を製造例1〜3の何れかで行い、工程(II)は実施例1と同じ、ただし、不活性ガスの導入条件等を表1、2に示す条件として、表1、2に示す第4級アンモニウム塩水溶液を得た。それぞれの第4級アンモニウム塩水溶液について、実施例1と同様に匂い、色相を評価した。結果を表1、2に示した。なお、実施例2〜8及び比較例1〜6は、バッチ式の槽のモデル試験である。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
(注)
*1 反応系(第3級アミン、4級化剤、及び水の仕込量の合計)1kgあたり〔工程(I)で添加した場合〕、又は第4級アンモニウム塩水溶液1kgあたり〔工程(II)で添加した場合〕の消泡剤の添加量(mg)
*2 [ ]内は、第4級アンモニウム塩水溶液1kgあたりの不活性ガスの吹き込み量(L)を示す。
*3 比較例6は、不活性ガスを吹き込まずに、攪拌下〔幅6cmのテフロン(登録商標)製三日月翼、回転数350rpm〕、常圧、80℃で、3時間放置した。