【実施例】
【0060】
基本手順
ポリマー調製
200gの(1:1)キシレン:ブタノール中の0.47モルの単量体塩、0.94モルのメタクリル酸イソボルニル、0.94モルのn−ブチルメタクリレートおよび0.0235モルの2,2’−アゾジ(2−メチルブチロニトリル)開始剤(AMBN)からなるモノマーの溶液を機械的に撹拌しながら3時間半かけて85℃の約350gの1:1キシレン:ブタノール混合物を入れた重合反応槽に加えた。溶液に添加を完了したら、温度を95℃にまで上げ、促進量のAMBN(0.0117モル)を加えた。さらに2時間この温度で反応を維持した。冷却後、生成物であるポリマー溶液を保存容器に入れた。
【0061】
塗料調合
ポリマーを調合して、約33wt%のポリマー溶液、約43wt%の銅含有殺生物剤、約12wt%の酸化亜鉛、約5wt%の溶媒(キシレン)ならびに7wt%の他の顔料、分散剤およびチキソトロピー剤を含有する防汚塗料とした。この塗料は、高速分散法を使用して製造した。
【0062】
比較例A
この例では、上述の基本手順に従って、強塩基と弱酸との塩を含有するポリマーを調製した。ポリマーの調製に使用された単量体塩は、強塩基であるジメチルアミノプロピルメタクリルアミド(第一pKaが9.30)の塩であり、弱酸成分はパルミチン酸(pKaが4.95)とした。
【0063】
この単量体塩は、撹拌されている2Lの2口丸底フラスコ中で300gのメタノールに80g(0.47モル)のジメチルアミノプロピルメタクリルアミドを溶解することによって調製した。これに粉末状のパルミチン酸(120.49g、0.47モル)を加えた。得られた懸濁液を室温で一晩撹拌し、塩形成が進行するにつれてパルミチン酸が分解された。これにより生じた無色の液体を重力濾過して残りのあらゆる粒子を除去し、溶媒を減圧下で除去した。
1H NMRにより、所望のモノマーの定量的構造を確認した。得られた粘性の液体は、さらには精製を行わずに使用した。
【0064】
赤外線(IR)分光法を使用して上記単量体塩を分析した(ゴールデンゲート(Golden Gate)ダイヤモンドATR付属装置を備えたアバター(Avatar)360赤外線分光計を使用した固体試料分析)。遊離パルミチン酸(カルボニル伸縮、約1700cm
−1)の吸光度特性がこの物質のスペクトルにあり、これは、不完全な塩形成であることを示している。
【0065】
105℃で75分間乾燥した3つのサンプルの重量損失から測定すると、上記の単量体塩を使用して調製されたポリマー溶液は、不揮発性物質含有量が49wt%であった。
【0066】
ポリマー溶液の粘度は、ブルックフィールドコーン・プレート粘度計を使用して23℃で4.85ポアズとして測定された。
【0067】
ポリマーの分子量測定は、トリプル検出と組み合わせたサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を使用して行い、絶対分子量は光散乱(LS)検出によって算出した。このポリマーの数平均分子量(M
n)は31000、重量平均分子量(M
w)は89000および多分散性(D=M
w/M
n)は2.9であった。
【0068】
上述の基本手順による上記ポリマーにより塗料を調合した。23℃および45℃の両方で保存された2つのサンプルに対して間隔(最大6カ月)をおいて、塗料の粘度(ブルックフィールドコーン・プレート粘度計、23℃)および分散度(fineness of grind)(ヘグマンゲージ)を測定することによってこの塗料の化学安定性を評価した。その結果を下の表1に示している。
【0069】
この表からわかるように、23℃および45℃の両方で保存されたサンプルにおいて試験の継続期間、粘度は本質的に変わらず残っていたが、分散度が急速に増加したことが観察された。わずか1カ月後、2つのサンプルの分散度は、製造後の測定値<40μmから>100μmに増した。2カ月の時点における評価では、両サンプルの分散度は、最大記録可能レベルである150μmを超えて増加したことがわかった。
【0070】
乾いていない塗料を45℃で2カ月の保存した後の乾いた塗料の被膜の光学顕微鏡画像から、保存中に結晶性固体物質が形成されたことがはっきりと示されていた。その結果として分散度の増加が観察された。IR透過分光法による結晶性固体のさらなる試験により、パルミチン酸亜鉛が存在していることが示された。
【0071】
単量体塩の合成に使用されるパルミチン酸の弱い酸性の性質を受けて、生成塩、構成成分である強塩基および弱い酸の出発物質からなる平衡が生じることが理論づけられる。この結果、遊離パルミチン酸は、塗料組成物中に存在するあらゆる利用できる金属イオンまたは塩と容易に反応することができる。例示のケースでは、酸化亜鉛顔料と遊離パルミチン酸との間の反応の結果としてパルミチン酸亜鉛が検出される;亜鉛錯体の溶解度が保存中の塗料媒体から晶出するほどになる。
【0072】
ニュートンフェラーズ(Newton Ferrers)(イギリス南西部)の水域に、塗装した試験パネルを浸漬すると、パネルの81%に微小生物が付着した。
【0073】
実施例1
この例では、上述の基本手順に従って強塩基と強酸との塩を含有するポリマーを調製した。ポリマーの調製に使用される単量体塩は、強塩基であるジメチルアミノプロピルメタクリルアミド(第一pKaが9.30)と強酸であるドデシルベンゼンスルホン酸(pKaが−1.84)との塩とした。
【0074】
この単量体塩は、撹拌されている2Lの2口丸底フラスコ中で300gのメタノールに80g(0.47モル)のジメチルアミノプロピルメタクリルアミドを溶解することによって調製した。これにドデシルベンゼンスルホン酸(153.42g、0.4699モル)の1:1(wt:wt)キシレン:ブタノール(100g)溶液を1時間かけて加えた。得られた溶液をさらに1時間撹拌した。
1H NMRにより、所望の単量体塩の定量的構造を確認した。得られた粘性の液体は、さらには精製を行わずに使用した。
【0075】
赤外線(IR)分光法を使用して上記単量体塩を分析した(ゴールデンゲートダイヤモンドATR付属装置を備えたアバター360赤外線分光計を使用した固体試料分析)。
【0076】
単量体塩のIRスペクトルにドデシルベンゼンスルホン酸(DBSA)の特徴的な吸光度−900、1100および1600cm
−1における−がなく、その代わりにスルホン酸塩に特有の1000〜1200cm
−1の間の異なる4つの吸光度が示された。このサンプルに過剰なDBSA添加すると、遊離DBSAの吸光度特性(900、1100および1600cm
−1)が現れた。強塩基と強酸との反応時に完全な塩形成が起こっているとの仮説をこの証拠が裏付けている。
【0077】
105℃で75分間乾燥した3つのサンプルの重量損失から測定すると、上記の単量体塩を使用して調製されたポリマー溶液は、不揮発性物質含有量が51wt%であった。
【0078】
ポリマー溶液の粘度は、ブルックフィールドコーン・プレート粘度計を使用して23℃で8.54ポアズとして測定された。
【0079】
ポリマーの分子量測定は、トリプル検出と組み合わせたサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を使用して行い、絶対分子量は光散乱(LS)検出によって算出した。このポリマーのM
nは26000、M
wは58000および多分散性(D=M
w/M
n)は2.2であった。
【0080】
上述の基本手順による上記ポリマーにより塗料を調合した。23℃および45℃の両方で保存された2つのサンプルに対して間隔(最大6カ月)をおいて、塗料の粘度(ブルックフィールドコーン・プレート粘度計、23℃)および分散度(ヘグマンゲージ)を測定することによってこの塗料の化学安定性を評価した。その結果を下の表1に示している。
【0081】
この表からわかるように、本実施例による塗料は、23℃および45℃の両方における保存の最初1カ月間に製造後の<40μmから<80μmの中程度の分散度の増加を示したに過ぎない。その後、6カ月の試験期間の残りの期間、分散度は安定していた。23℃および45℃におけるこの試験期間の保存中、この塗料の粘度も本質的に変わらなかった。
【0082】
さらに、保存された塗料には結晶の突出が見られない滑らかな被膜が形成された。これにより、強塩基と強酸との組合せがモノマーの塩形成の反応を完全にするとの結論が導き出される。比較例Aの塗料とは対照的に、得られる塗料は保存中、化学的に安定である。
【0083】
比較例Aの塗料と同時に、ニュートンフェラーズ(イギリス南西部)の水域に、塗装した試験パネルを浸漬すると、パネルの55%に微小生物が付着した。これにより、比較例Aのポリマーと比較して本発明によるポリマーは、塗料の防汚作用を改善するとの結論が導き出される。
【0084】
【表1】
【0085】
実施例2および比較例B〜E
酸/塩基のpK
aと得られるポリマーの安定性との間の関係をさらに説明するために、一連の単量体塩を調製し分光法によって分析した。
【0086】
各単量体塩は、メタノール中において1.968Mの濃度で構成成分である酸/塩基の出発物質を混合することによって調製した。酸/塩基の出発物質の添加に次いで、この混合物を室温で24時間撹拌した。次に、溶媒を蒸発させて単量体塩を単離した。
【0087】
実施例2−強塩基および強酸からなるモノマー。
この例の強塩基を構成する単量体のアミンは、ジメチルアミノエチルメタクリルアミド(DMAEMA;第一pKaが8.42)とし、強酸成分は、ドデシルベンゼンスルホン酸(DBSA;pKaが−1.84)とする。
【0088】
混合中に熱を発した。これは発熱反応プロセスであることを示している。
【0089】
単量体塩のIRスペクトルにドデシルベンゼンスルホン酸(DBSA)の特徴的な吸光度−900、1100および1600cm
−1における−がなく、その代わりにスルホン酸塩に特有の1000〜1200cm
−1の間の異なる4つの吸光度が示された。
【0090】
単量体塩(0.0827M)のCDCl
3溶液に対して
1H NMR分光法を行った。このサンプルのスペクトルにおいてDMAEMA部分に存在するCH
2基両方についての共鳴に関するピークが、DMAEMA出発物質の参照スペクトルと比較した場合、低磁場にシフトしたのがわかった(CH
2−CH
2−NMe
2のδ4.25がδ4.6にシフトし、CH
2−CH
2−NMe
2のδ2.6がδ3.5にシフトした)。さらに、DMAEMA出発物質のスペクトルではこうした両方の共鳴は単純に三重線として現れたが、単量体塩のスペクトルでは各共鳴について、分裂したより複雑なパターンが観察された。これは、隣接するNMe
2部分のプロトン化が完了することによる、CH
2の共鳴の化学環境の変化によるものである。これは、完全な塩形成を示す。
【0091】
比較例B−強塩基および弱酸からなるモノマー。
この例の強塩基を構成する単量体のアミンは、ジメチルアミノエチルメタクリルアミド(DMAEMA)(第一pKaが8.42)とし、弱酸成分はパルミチン酸(pKaが4.95)とする。
【0092】
遊離パルミチン酸(カルボニル伸縮、約1700cm
−1)の吸光度特性がこの物質のIRスペクトルにあり、これは不完全な塩形成を示している。
【0093】
モノマー(0.0827M)のCDCl
3溶液に対して
1H NMR分光法を行った。このサンプルのスペクトルにおいてDMAEMA部分に存在するCH
2基両方についての共鳴に関連するピークが、DMAEMA出発物質の参照スペクトルと比較した場合、これもまた低磁場にシフトしたのがわかった(CH
2−CH
2−NMe
2のδ4.25がδ4.35にシフトし、CH
2−CH
2−NMe
2のδ2.6がδ2.8にシフトした)。しかしながら、この場合、両共鳴に関する化学シフトにおける振幅の変化は、実施例2のスペクトルで観察されたものより著しく小さかった。さらに、(DMAEMA出発物質のスペクトルの場合)これらの両共鳴は単純に三重線として現れ、実施例2のスペクトルに示された細かな構造は現れなかった。前述の観察から、この例では不完全な塩形成であることが示唆され、出発物質および酸−塩基の塩生成物の両方が動的平衡状態で存在することを示している。
【0094】
比較例C−強塩基および弱酸からなるモノマー。
この例の強塩基を構成する単量体のアミンは、ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド(DMAPMA;第一pKaが9.30)とし、弱酸成分は、ヘキサン酸(pKaが5.09)とする。
【0095】
混合中に熱を発した。これは発熱反応プロセスであることを示している。
【0096】
IR分光法より、遊離ヘキサン酸に特有の1700cm
−1においてはっきりした吸光度が示された。これは、不完全な塩形成を示している。
【0097】
比較例D−弱塩基および強酸からなるモノマー。
この例の弱塩基を構成する単量体のアミンは、N−ビニル−2−ピロリドン(NVP;pKaが0.07)とし、強酸成分は、ドデシルベンゼンスルホン酸(pKaが−1.84)とする。
【0098】
混合中に熱を発した。これは発熱反応プロセスを示している。
【0099】
このサンプルのスペクトルに未反応の遊離ドデシルベンゼンスルホン酸(900、1100および1600cm
−1)のIR吸光度特性がはっきりとある。これもまた、不完全な塩形成を示している。
【0100】
比較例E−弱塩基および弱酸からなるモノマー。
この例の弱塩基を構成する単量体のアミンは、N−ビニル−2−ピロリドン(NVP;pKaが0.07)とし、弱酸成分はパルミチン酸(pKaが4.95)とする。
【0101】
パルミチン酸をメタノール性NVP溶液に添加すると、溶解が起こらず、目立った温度変化も現れないことがわかった。これらの観察から、塩形成が起こらなかったと結論づけた。
本発明は、以下の態様を含むものである。
<1> 被膜形成ポリマーであって、その主鎖にペンダントする、(i)共役酸の第一pKaが少なくとも4.0である塩基性基と、(ii)第一pKaが2.0以下である有機酸との塩を有し、前記塩基性基は前記ポリマー主鎖に共有結合している、ポリマー。
<2> 前記塩基性基の前記共役酸の前記第一pKaは、少なくとも8.0である、上記<1>に記載のポリマー。
<3> 前記有機酸の前記第一pKaは、0.0未満である、上記<1>または<2>に記載のポリマー。
<4> 前記塩基性基は、窒素またはリンを含有する、上記<1>から<3>のいずれか一項に記載のポリマー。
<5> 前記塩基性基は、トリアルキルアミン、ジアルキルアミンまたは複素環式窒素塩基である、上記<4>に記載のポリマー。
<6> 前記酸は、脂肪族、芳香族またはアラルキル炭化水素基を含有するスルホン酸である、上記<1>から<5>のいずれか一項に記載のポリマー。
<7> 上記<1>から<6>のいずれか一項に記載の被膜形成ポリマーの調製方法であって、モノマーを重合するステップを含み、前記モノマーの少なくとも一部は、第一pKaが2.0以下である有機酸および共役酸の第一pKaが少なくとも4.0である重合可能な塩基由来の単量体塩である、方法。
<8> 5から70mol%の前記モノマーは、第一pKaが2.0以下である有機酸および共役酸の第一pKaが少なくとも4.0である重合可能な塩基由来の単量体塩である、上記<7>に記載の方法。
<9> 上記<1>から<6>のいずれか一項に記載の被膜形成ポリマーの調製方法であって、第一pKaが2.0以下である有機酸をモノマー由来のポリマーに添加するステップを含み、前記モノマーの少なくとも一部は、共役酸の第一pKaが少なくとも4.0である単量体塩基である、方法。
<10> 5から70mol%の前記モノマーは、共役酸の第一pKaが少なくとも4.0である単量体塩基である、上記<9>に記載の方法。
<11> 上記<1>から<6>のいずれか一項に記載のポリマーおよび殺海洋生物特性を有する成分を含む、防汚コーティング組成物。
<12> ロジン物質をさらに含む、上記<11>に記載の防汚コーティング組成物。
<13> ボートの船体、ブイ、掘削基地、石油採掘装置およびパイプのような、水に浸かっている人工構造物を保護するための、上記<11>または<12>に記載の防汚コーティング組成物の使用。