【実施例】
【0015】
以下、本発明を実験例に基づいてさらに詳細に説明する。
【0016】
SiCの形態(焼結体/粉末)と酸化時間(1700Kで0/500/1000時間保持)をパラメータに、波長1〜11μm域における熱放射率の変動を調査した。波長域を1〜11μmとしたのは、上述の通り、セラミックス焼成温度域(1000〜2000K)での放射エネルギーの80%以上がこの範囲内で放射されるためである。
【0017】
測定試料として、SiC焼結体である実験例1及びSiC粉末コートAl
2O
3試料である実験例2〜4の、4種類のSiC材料を準備した。具体的には、実験例1として、コバレントマテリアル(株)製の緻密なSiC焼結体を、実験例2として、Al
2O
3焼結体にESK−SiC GmbH社製のSiC粉末(粒径120μm)をコートしたものを、実験例3として、Al
2O
3焼結体にESK−SiC GmbH社製のSiC粉末(粒径50μm)をコートしたものを、実験例4として、Al
2O
3焼結体に(株)信濃電気精錬製のSiC粉末(粒径0.6μm)をコートしたものを、それぞれ用いた。
【0018】
測定試料は何れも直径30mm高さ10mmの円盤型で、測定試料の側面中央には熱電対取付け用の直径1mm深さ2mmの凹部を設けた。ここで測定試料の側面とは、円盤型の測定試料の高さ方向に平行な湾曲面を指し、該側面から続く円形の上面を測定面とする。なお、実験例1では、直径30mmの測定面は800#研磨で平滑面としたが、実験例2〜4では、直径30mmの測定面にはSiC粉末の粒径に応じた凹凸が存在した。
【0019】
実験例1〜3の熱放射率測定は、1700Kで0時間、500時間、及び1000時間保持した試料で行った。また、実験例4の熱放射測定は、1700Kで0時間保持の試料のみとした。実験例4の試料は粒径が0.6μmと小さく、1700Kで0時間保持した際の熱放射率が、例えば波長3.5μmにおいてAl
2O
3の熱放射率と同程度に低く、SiC粉末の熱放射による伝熱量増加効果が望めないことから、1700Kで500時間及び1000時間保持の暴露評価は行わなかった。
【0020】
なお、実験例2〜4において1700Kで0時間保持するとは、SiC粉末をAl
2O
3焼結体にコートした後、大気中100℃で2時間乾燥させ、6.5時間で1600Kまで昇温させ、次に1時間で1700Kまで昇温させた後に、直ぐに冷却することを指す。また、実験例1〜3において1700Kで500時間及び1000時間保持するとは、6.5時間で1600Kまで昇温させ、次いで1時間で1700Kまで昇温させ、更に1700Kで100時間保持した後に自然冷却する操作を繰り返し、1700K保持を合計で所定時間(500時間及び1000時間)に到達させることを指す。所定時間に到達した時点で熱放射率を測定し、その操作を繰り返すことで、同一試料の熱放射率の変動を測定した。
【0021】
熱放射率測定は、(株)超高温材料研究所の装置を用いて行った。この装置は、上下に180度回転する放物面鏡を中心に、その上側には黒体炉を、下側にはサンプルのコート面を上面にして加熱する試料加熱炉が設置されている。双方の炉を973Kに加熱し、黒体炉及び試料加熱炉の試料表面の双方から放射される放射光を、(株)パーキンエルマージャパン製の赤外線分光器SPECTRUM GX FT−IRに導いて分光スペクトルを測定した。
【0022】
図1に、1700Kの暴露0時間の実験例1〜4の、波長1〜11μmにおける熱放射率を示した。また、
図2には、1700Kで500時間及び1000時間暴露させた後の実験例1〜3の、波長1〜11μmにおける熱放射率を示した。いずれの図においても、1〜11μmの波長を横軸、熱放射率を縦軸とし、その相関をプロットした。なお
図1には、参考例として、99.0〜99.5%Al
2O
3試料の782℃における熱放射率を折れ線にて示した。また、各図中の記号と実験例との関係は、表1に示す通りである。なお、本実験においては、1.5〜3.5μmの実用波長域のうち、波長3.5μm位置における熱放射率の値をもって、SiC材料の実用の適否を判断する基準とした。
【0023】
【表1】
【0024】
図2より、実験例1のSiC焼結体は、1700Kで500及び1000時間暴露後であっても、波長3.5μm位置において高い熱放射率を維持することが分かった。一方、
図2より、実験例2及び3のSiC粉末コート試料は、500時間暴露後までは、波長3.5μm位置において熱放射率0.6を維持するが、1000時間暴露に達すると、波長3.5μm位置における熱放射率は、Al
2O
3試料の熱放射率に近い0.4〜0.45まで低下し、SiCが当初保有していた高い熱放射性は消失することが分かった。即ち、SiC粉末コート試料の場合、500時間を越える高温熱暴露によって、SiCの特性である高熱放射性が失われ、原料として適さない状態になることが分かった。
【0025】
図1及び
図2に記した各実験例の熱放射率を比較すると、波長7.69〜9.23μm域に特徴的な二種類の波形が認められた。波長7.69〜9.23μm域における熱放射率が右上がりのものをR型波形(Rise shape)、右下がりのものをD型波形(Down shape)として、それぞれ図中に併記した。有機物におけるC−O単結体(アルコール、エーテル、カルボン酸、エステル)の赤外吸収振動域が7.69〜9.23μmに存在することは周知であり、熱放射率の上昇は赤外線吸収率の減少を示し、熱放射率の下降は赤外吸収率の増加を示す。即ち、1700K保持前のSiC焼結体/粉末の熱放射率がR型波形を示し、1700Kで保持したSiC焼結体/粉末の熱放射率がD型波形を示すということから、高温熱暴露を受けたSiCと該SiCの表面に形成された酸化膜の界面には、高温保持時間に依存して有機物のC−O単結合に類似する結合状態が存在し、高温熱暴露を受けていないSiCと該SiCの表面に形成された酸化膜(粉砕や機械加工で生成)との界面には、前記の結合状態の発生が無い、ということが推定される。このようなC−O単結合に類似する結合状態が発生するということは、SiCが酸化状態にあるものと考えられ、品質管理上、熱放射特性のみならず強度等の観点からも有益な判断基準と言える。上記の通り、あるSiC材料について、波長7.69〜9.23μm域における熱放射率の変動を測定することによって、その波形より高温熱暴露の履歴を判断可能であることが分かった。
【0026】
更に、
図2より、SiC焼結体/粉末に関わらず、1700Kでの保持長期化に伴い、波長7.69〜9.23μm域におけるD型波形の勾配が大きくなり、同時に波長9μm位置での熱放射率は500時間保持後には0.65に収束し、1000時間保持後には0.45に収束することが分かった。即ち、あるSiC材料について、波長9μm位置での熱放射率が低いほど、その結晶構造に大きな変化を受けているものと推定される。また、
図2より、波長9μm位置での熱放射率が0.65を下回る場合には、波長3.5μm位置での熱放射率が0.6を下回っていることが読み取れる。よって、波長9μm位置での熱放射率の値から、実用波長域における熱放射率を予測し、当該SiC粉末材料が使用目的に適した品質を有しているかどうかの判断に役立てることができる。
【0027】
上記の結果より、SiC材料の波長7.69〜9.23μm域における熱放射率の変動を測定すること、更に波長9μm位置での熱放射率を測定することによって、当該SiC材料の結晶状態を推定し、品質管理に繋げることが可能であることが分かった。