特許第5809089号(P5809089)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5809089-SiC材料の評価方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5809089
(24)【登録日】2015年9月18日
(45)【発行日】2015年11月10日
(54)【発明の名称】SiC材料の評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 25/72 20060101AFI20151021BHJP
【FI】
   G01N25/72 K
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-62151(P2012-62151)
(22)【出願日】2012年3月19日
(65)【公開番号】特開2013-195207(P2013-195207A)
(43)【公開日】2013年9月30日
【審査請求日】2014年11月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100089347
【弁理士】
【氏名又は名称】木川 幸治
(74)【代理人】
【識別番号】100154379
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(72)【発明者】
【氏名】半澤 茂
【審査官】 黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−287443(JP,A)
【文献】 特開2004−289023(JP,A)
【文献】 特開2009−231654(JP,A)
【文献】 特開2005−085816(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 25/00−72
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiC材料の熱放射率を測定し、7.69〜9.23μmの波長域における熱放射率の変動から、前記SiC材料の品質を判定するSiC材料の品質評価方法。
【請求項2】
前記SiC材料について、9μmの波長における熱放射率を測定する請求項1に記載のSiC材料の品質評価方法。
【請求項3】
前記SiC材料は粉末である請求項1又は2に記載のSiC材料の品質評価方法。
【請求項4】
前記SiC材料について、973Kの温度下にて熱放射率を測定する請求項1〜のいずれか一項に記載のSiC材料の品質評価方法。
【請求項5】
前記SiC材料について、9μmの波長における熱放射率が0.65を下回る場合に、結晶性の劣化が生じているものと判断する請求項1〜のいずれか一項に記載のSiC材料の品質評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SiC材料の評価方法に関する。より詳しくは、粉末のSiC材料について、放射光の波長9μm近辺における熱放射率に基づいて結晶性劣化の有無を判定するSiC材料の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種セラミック製品の材料として、SiC材料が知られている。またSiC材料は、高い熱放射率を有することが知見として得られており、セラミックス製品を構成する材料としてだけでなく、セラミックスの焼成工程において、炉内の製品加熱効率を向上させる目的で用いられることもある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このように、その熱放射率の高さから、様々な用途に有用なSiC材料であるが、これまでその品質を評価する方法は、純度や粒度等の物理的な条件を除いては確立されていなかった。即ち、これまでは、SiC材料の熱放射性の劣化を判断する術が無かったため、特にSiCを含む再生原料の使用に当たっては、その品質が不確かなまま使用せざるを得ないという現状があった。このように、SiCの熱放射機能を工業的に活用するためには、材料の熱放射性の劣化に関する情報整理が不可欠であり、非破壊且つ簡便にSiCの品質を評価する方法が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の発明者は、上記課題に鑑み、SiC材料について鋭意実験及び検討を行った結果、放射光の波長9μm近辺における熱放射率を測定することによって、SiC材料の結晶性の劣化の有無を判定可能であることを見出した。即ち、本発明によれば、以下のSiC材料の品質評価方法が提供される。
【0005】
[1] SiC材料の熱放射率を測定し、7.69〜9.23μmの波長域における熱放射率の変動から、前記SiC材料の品質を判定するSiC材料の品質評価方法。
【0007】
] 前記SiC材料について、9μmの波長における熱放射率を測定する前記[1]に記載のSiC材料の品質評価方法。
【0008】
] 前記SiC材料は粉末である前記[1]又は[2]に記載のSiC材料の品質評価方法。
【0009】
] 前記SiC材料について、973Kの温度下にて熱放射率を測定する前記[1]〜[]のいずれかに記載のSiC材料の品質評価方法。
【0010】
] 前記SiC材料について、9μmの波長における熱放射率が0.65を下回る場合に、結晶性の劣化が生じているものと判断する前記[1]〜[]のいずれかに記載のSiC材料の品質評価方法。
【発明の効果】
【0011】
本願発明のSiC材料の品質評価方法によれば、非破壊で、且つ簡便にSiC材料の結晶性劣化の有無を判定することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】1700Kの暴露0時間のSiC材料の熱放射率を示すグラフである。
図2】1700Kで500時間及び1000時間暴露させたSiC材料の熱放射率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改良を加え得るものである。
【0014】
本発明のSiC材料の評価方法においては、例えば、上下に180度回転する放物面鏡を中心に置き、放物面鏡の上側に位置する黒体炉と、放物面鏡の下側に位置しSiC材料を加熱するための試料加熱炉とを有する熱放射測定装置を用い、黒体炉及びSiC材料を設置した試料加熱炉を所定温度に保持しながら、黒体炉から放射される放射光、及び試料加熱炉内に設置されたSiC材料の表面から放射される放射光の分光スペクトルを測定する。波長7.69〜9.23μm域におけるSiC材料の熱放射率の変動によって、高温熱暴露による影響を判断する。更に、波長9μmにおける熱放射率の値から実用波長域における熱放射率を予測し、当該SiC粉末材料が使用目的に適した品質を有しているかどうかを判断する。ここで実用波長域とは、1.5〜3.5μmの範囲を指す。セラミックス焼成温度域(1000〜2000K)での放射エネルギーの80%以上は、波長1〜11μm間で放射されるが、放射エネルギーのピークは1.5〜3.5μmの間にあることが、プランクの法則から計算できる。よって、SiC粉末材料の熱放射機能を活用する際には、そのSiC粉末材料の1.5〜3.5μmにおける熱放射率を目安とすると良い。
【実施例】
【0015】
以下、本発明を実験例に基づいてさらに詳細に説明する。
【0016】
SiCの形態(焼結体/粉末)と酸化時間(1700Kで0/500/1000時間保持)をパラメータに、波長1〜11μm域における熱放射率の変動を調査した。波長域を1〜11μmとしたのは、上述の通り、セラミックス焼成温度域(1000〜2000K)での放射エネルギーの80%以上がこの範囲内で放射されるためである。
【0017】
測定試料として、SiC焼結体である実験例1及びSiC粉末コートAl試料である実験例2〜4の、4種類のSiC材料を準備した。具体的には、実験例1として、コバレントマテリアル(株)製の緻密なSiC焼結体を、実験例2として、Al焼結体にESK−SiC GmbH社製のSiC粉末(粒径120μm)をコートしたものを、実験例3として、Al焼結体にESK−SiC GmbH社製のSiC粉末(粒径50μm)をコートしたものを、実験例4として、Al焼結体に(株)信濃電気精錬製のSiC粉末(粒径0.6μm)をコートしたものを、それぞれ用いた。
【0018】
測定試料は何れも直径30mm高さ10mmの円盤型で、測定試料の側面中央には熱電対取付け用の直径1mm深さ2mmの凹部を設けた。ここで測定試料の側面とは、円盤型の測定試料の高さ方向に平行な湾曲面を指し、該側面から続く円形の上面を測定面とする。なお、実験例1では、直径30mmの測定面は800#研磨で平滑面としたが、実験例2〜4では、直径30mmの測定面にはSiC粉末の粒径に応じた凹凸が存在した。
【0019】
実験例1〜3の熱放射率測定は、1700Kで0時間、500時間、及び1000時間保持した試料で行った。また、実験例4の熱放射測定は、1700Kで0時間保持の試料のみとした。実験例4の試料は粒径が0.6μmと小さく、1700Kで0時間保持した際の熱放射率が、例えば波長3.5μmにおいてAlの熱放射率と同程度に低く、SiC粉末の熱放射による伝熱量増加効果が望めないことから、1700Kで500時間及び1000時間保持の暴露評価は行わなかった。
【0020】
なお、実験例2〜4において1700Kで0時間保持するとは、SiC粉末をAl焼結体にコートした後、大気中100℃で2時間乾燥させ、6.5時間で1600Kまで昇温させ、次に1時間で1700Kまで昇温させた後に、直ぐに冷却することを指す。また、実験例1〜3において1700Kで500時間及び1000時間保持するとは、6.5時間で1600Kまで昇温させ、次いで1時間で1700Kまで昇温させ、更に1700Kで100時間保持した後に自然冷却する操作を繰り返し、1700K保持を合計で所定時間(500時間及び1000時間)に到達させることを指す。所定時間に到達した時点で熱放射率を測定し、その操作を繰り返すことで、同一試料の熱放射率の変動を測定した。
【0021】
熱放射率測定は、(株)超高温材料研究所の装置を用いて行った。この装置は、上下に180度回転する放物面鏡を中心に、その上側には黒体炉を、下側にはサンプルのコート面を上面にして加熱する試料加熱炉が設置されている。双方の炉を973Kに加熱し、黒体炉及び試料加熱炉の試料表面の双方から放射される放射光を、(株)パーキンエルマージャパン製の赤外線分光器SPECTRUM GX FT−IRに導いて分光スペクトルを測定した。
【0022】
図1に、1700Kの暴露0時間の実験例1〜4の、波長1〜11μmにおける熱放射率を示した。また、図2には、1700Kで500時間及び1000時間暴露させた後の実験例1〜3の、波長1〜11μmにおける熱放射率を示した。いずれの図においても、1〜11μmの波長を横軸、熱放射率を縦軸とし、その相関をプロットした。なお図1には、参考例として、99.0〜99.5%Al試料の782℃における熱放射率を折れ線にて示した。また、各図中の記号と実験例との関係は、表1に示す通りである。なお、本実験においては、1.5〜3.5μmの実用波長域のうち、波長3.5μm位置における熱放射率の値をもって、SiC材料の実用の適否を判断する基準とした。
【0023】
【表1】
【0024】
図2より、実験例1のSiC焼結体は、1700Kで500及び1000時間暴露後であっても、波長3.5μm位置において高い熱放射率を維持することが分かった。一方、図2より、実験例2及び3のSiC粉末コート試料は、500時間暴露後までは、波長3.5μm位置において熱放射率0.6を維持するが、1000時間暴露に達すると、波長3.5μm位置における熱放射率は、Al試料の熱放射率に近い0.4〜0.45まで低下し、SiCが当初保有していた高い熱放射性は消失することが分かった。即ち、SiC粉末コート試料の場合、500時間を越える高温熱暴露によって、SiCの特性である高熱放射性が失われ、原料として適さない状態になることが分かった。
【0025】
図1及び図2に記した各実験例の熱放射率を比較すると、波長7.69〜9.23μm域に特徴的な二種類の波形が認められた。波長7.69〜9.23μm域における熱放射率が右上がりのものをR型波形(Rise shape)、右下がりのものをD型波形(Down shape)として、それぞれ図中に併記した。有機物におけるC−O単結体(アルコール、エーテル、カルボン酸、エステル)の赤外吸収振動域が7.69〜9.23μmに存在することは周知であり、熱放射率の上昇は赤外線吸収率の減少を示し、熱放射率の下降は赤外吸収率の増加を示す。即ち、1700K保持前のSiC焼結体/粉末の熱放射率がR型波形を示し、1700Kで保持したSiC焼結体/粉末の熱放射率がD型波形を示すということから、高温熱暴露を受けたSiCと該SiCの表面に形成された酸化膜の界面には、高温保持時間に依存して有機物のC−O単結合に類似する結合状態が存在し、高温熱暴露を受けていないSiCと該SiCの表面に形成された酸化膜(粉砕や機械加工で生成)との界面には、前記の結合状態の発生が無い、ということが推定される。このようなC−O単結合に類似する結合状態が発生するということは、SiCが酸化状態にあるものと考えられ、品質管理上、熱放射特性のみならず強度等の観点からも有益な判断基準と言える。上記の通り、あるSiC材料について、波長7.69〜9.23μm域における熱放射率の変動を測定することによって、その波形より高温熱暴露の履歴を判断可能であることが分かった。
【0026】
更に、図2より、SiC焼結体/粉末に関わらず、1700Kでの保持長期化に伴い、波長7.69〜9.23μm域におけるD型波形の勾配が大きくなり、同時に波長9μm位置での熱放射率は500時間保持後には0.65に収束し、1000時間保持後には0.45に収束することが分かった。即ち、あるSiC材料について、波長9μm位置での熱放射率が低いほど、その結晶構造に大きな変化を受けているものと推定される。また、図2より、波長9μm位置での熱放射率が0.65を下回る場合には、波長3.5μm位置での熱放射率が0.6を下回っていることが読み取れる。よって、波長9μm位置での熱放射率の値から、実用波長域における熱放射率を予測し、当該SiC粉末材料が使用目的に適した品質を有しているかどうかの判断に役立てることができる。
【0027】
上記の結果より、SiC材料の波長7.69〜9.23μm域における熱放射率の変動を測定すること、更に波長9μm位置での熱放射率を測定することによって、当該SiC材料の結晶状態を推定し、品質管理に繋げることが可能であることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明のSiC材料の品質評価方法は、SiC粉末原料、特に再生原料の品質判断に有用であり、産業上の利用可能性は大なるものである。
図1
図2