【実施例】
【0034】
実験動物
【0035】
雄性スプラーク・ドウレイ(Sprague Dawley)ラットを株式会社中央実験動物から購入した。実験動物は温度22±2℃、湿度55±5%に維持され、人工照明が一日12時間ずつ提供される飼育室で最小限一週間適応させたあと実験に用いた。肝切除が実施された時点でラットの体重は230〜260gであった。濾過された水道水と固形飼料を自由に摂取するように供給しており、ベタインが供給される動物群には米シグマ社から購入したベタインを1%濃度で浄水された水道水に溶解させたあと飲料水として供給した。ベタインは肝切除が実施された以後から供給した。一部の実験では、ベタインの効能を増加させるためベタインが含まれた飲料水を肝切除実施の2週前から供給した。
【0036】
肝切除
【0037】
肝再生実験のための部分肝切除は、HigginsとAnderson(Arch Path,12;186,1931)の方法に従って行った。軽いエーテル麻酔状態でラットの腹部正中線を約3cm切開した。先ず皮膚を切断して内部の臓器が損傷されないよう慎重に腹筋を切開した。ピンセットで切開された上端部を持ち上げ、肝組織を支持している横隔膜との連結組織をはさみを利用して切り取った。切開線の周りを軽く圧力をかけ、全体肝葉の約70%体積である中間葉(median lobe)と左側葉(left lateral lobe)とを露出させた。各肝葉の連結組織等を慎重に除去し、手術用糸で縛って血管を封鎖し、露出した肝葉を除去した。切開部位の筋肉と皮膚を手術用糸で縫い合わせ、手術部位の感染を防止するため70%のエチルアルコールで消毒した。対照群には腹部切開のみ実施して縫い合わせた動物(Sham)を用いた。
【0038】
肝毒性関連指標測定
【0039】
アラニンアミノ基転移酵素(Alanine aminotransferase:ALT)及びアスパラギン酸アミノ基転移酵素(aspartate aminotransferase:AST)活性は、ReitmanとFrankelの方法(Amer J Clin Pathol 28;56,1957)を利用して分光光度計(spectrophotometer)で測定した。試験管にALT、AST基質液と血清の一定量を加えて37℃で反応させた。反応終了後、発色液と0.4N NaOHを加えて520nmで吸光度を測定した。ピルベート(pyruvate)を同一の方法で発色させた標準検量線から活性を計算した。
【0040】
ウエスタンブロット分析(Western Blotting An alysis)
【0041】
標準方法に従って摘出した肝からサイトゾル分画(cytosolic fraction)を製造した。サイトゾル(cytosol)のタンパク質をSDS−PAGEで分離し、電気ブロッティング(electroblotting)してニトロセルロース膜(nitrocellulose membrane)に転移させた。この膜を、5%の脱脂牛乳(nonfat milk)を含むPBS−T緩衝液に4℃で一晩中処理した。ニトロセルロース膜を5%のウシ血清アルブミン(bovine serum albumin)で希釈した1次抗体と反応させた。1次抗体にはマウスモノクローナル抗−サイクリンD1血清(mouse monoclonal anti−cyclin D1 serum,Santa Cruz Biotechnology,CA,U.S.A.)とウサギポリクローナル抗−ヒトPCNA(rabbit polyclonal anti−human PCNA,Santa Cruz Biotechnology,CA,U.S.A.)を用いた。PBS−Tで洗浄後、2次抗体である西洋ワサビペルオキシダーゼ−コンジュゲーテッドヤギ抗−ウサギIgG(horseradish peroxidase−conjugated goat anti−rabbit IgG,Pierce Biotechnology,Rockford,IL,U.S.A.)で処理した。実験結果はマイクロコンピューター映像機器(microcomputer imaging device)(Model M1,Imaging Reasearch,St.Catharines,Canada)でスキャニング測定(scanning densitometry)した。
【0042】
切除された肝の再生に対するベタインの効果
【0043】
実施例1.ベタインが切除された肝で肝毒性指標と肝重量の増加に及ぼす影響
【0044】
実験に用いられた雄性ラットを無作為に4匹ずつ4群に分けた。第一の群は内部臓器の損傷なく開腹(laparotomy)のみを実施し開腹部位を縫い合わせた対照群であり(Sham group)、第二の群は開腹後ベタインを供給する群(Sham+Betaine group)、第三は2/3部分的肝切除(partial hepatectomy)が実施された群(PH group)、そして第四の群は2/3部分的肝切除が実施された後ベタインを供給する群(PH+Betaine group)に設定した。開腹又は部分的肝切除の実施後、ベタイン投与群には1%のベタイン溶液を飲料水に供給し、他の群には浄水された水道水を飲料水に供給した。
【0045】
肝重量の変化を実験した結果を、下記表1に整理した。
【0046】
【表1】
【0047】
前記表1で、0日の値は手術が実施されない正常群における相対肝重量(肝/体重パーセント)。各群は4匹ずつであり、0日の値のみ8匹が用いられた。値は平均±標準誤差。*ベタインが供給されない動物に比べ統計的に差がある(Student’s t−test,P<0.05)。7日の値で別のアルファベットで表示された群は統計的に差がある(Oneway ANOVA実施後Neuman Keul Multiple range test,P<0.05)。SH:Sham,PH:Partial hepatectomy。括弧内の値はSH群に対するパーセント値。
【0048】
前記表1で見られるように、実験に用いられた動物と同一年齢帯の動物で、何等の手術が加えられない正常状態で実験が始まる時点に測定された肝/体重相対肝重量(%)は4.04±0.08であった。開腹のみ実施されたSham動物群では、一週間経過後の相対肝重量は3.37±0.05であって、これはこの期間中のラットの急速な体重増加を反映するものと見られる。ベタイン投与は、それ自体で相対肝重量に何等の変化も与えなかった。肝の2/3を切除した動物の肝は24時間後約1/3の大きさに減少したが、以後漸次増加して肝切除7日後には正常肝の78%に回復した。肝切除を実施しベタインを飲料水に供給した動物では、1日後からベタインが供給されない動物に比べ肝重量の増加が速やかであり、2日後からは統計的に有意な差を示した。そして、肝切除後7日目に正常肝の94%に回復し、統計的にSham群と差を見せなかった。
【0049】
一方、実験終了時にラットの血清で測定された肝毒性指標は、下記表2の通りである。肝切除自体やベタイン投与は、代表的な肝毒性指標の血清AST、ALT値に何等の変化も与えなかった。この結果は、用いられた条件でベタインは肝に毒性を誘発しないことを示す。
【0050】
【表2】
【0051】
前記表2で、各群は4匹ずつであり、値は平均±標準誤差。全ての群の間に統計的な差はない(Oneway ANOVA実施後Neuman Keul Multiple range test,P>0.05)。
【0052】
実施例2.ベタインが肝切除後に肝再生指標の変化に及ぼす影響
【0053】
肝再生過程で肝細胞は静止状態(quiescent state)から増殖状態(proliferative state)に切り換えられ、このとき細胞周期内のG1期の制限点でサイクリンD1と、DNA合成段階のS期でPCNAが発現される。したがって、この二つの指標は、肝の再生を測定する重要な指標として用いられる。
【0054】
肝切除が実施された後PCNAの発現を測定した結果を、
図1及び
図2に示した。
図1は、肝切除施術以後からベタイン1%溶液を飲料水に供給した実験結果である。肝切除を実施し、浄水された水道水を飲料水に供給した動物群で、24時間後に発現されたPCNA量を基準にしたとき、肝切除48時間後にはPCNA発現は約2倍に増加した。ベタイン1%溶液を飲料水に供給した群では、肝切除24時間と48時間後全て水道水を飲料水に供給した動物に比べPCNA発現は著しく増加した。
【0055】
肝切除が実施された直後の動物は、飲料水や飼料の摂取を直ちに再開することができない。したがって、ベタインの効能を正確に観察するため、動物にベタイン1%溶液を肝切除以前から2週間供給し、施術後PCNA発現を測定しており、その結果は
図2の通りである。肝切除施術以前からベタインを供給した群では、水道水供給群に比べ24時間帯に190%、48時間帯には150%の著しいPCNA発現の増加を見せた。
【0056】
図1及び
図2で、各群は4匹ずつであり、値は平均±標準誤差。
図1及び
図2で、*、**、***はベタインが供給されない動物に比べ統計的に差がある(Student’s t−test、それぞれP<0.05,0.01,0.001)。
【0057】
図3は、肝切除実施後回復期の動物でサイクリンD1発現を測定した結果である。この実験においても、ベタインを肝切除以前の2週間飲料水として投与した。
図3で『0』時間帯の値は、ラットにベタイン溶液を飲料水に供給し、肝切除を実施しないまま動物を屠殺してサイクリンD1の発現を測定した結果であり、このとき、浄水された水道水を飲料水に供給した正常動物とベタイン投与群との間には何等の差を見せなかった。この結果は、ベタイン投与が肝損傷が発生していない正常状態では、サイクリンD1の発現に何等の影響も与えないことを意味する。この時点を基準にしたとき、肝切除以後のサイクリンD1の発現は、水道水を供給した動物で速やかに上昇し、12時間帯には約2倍、24時間帯には約3.5倍、そして48時間後には約5倍に増加した。ベタインが供給された動物では、肝切除以後にサイクリンD1発現の増加が速やかに起こり、12時間帯には水道水供給群に比べ約50%さらに高まり、この結果は統計的にも有意であった。肝切除以後24時間が経過した時まで、ベタイン投与群では水道水供給群に比べ高いサイクリンD1発現を見せており、以後48時間帯には二つの群の間に差を見せなかった。この結果は、肝損傷後再生が活発に起こる初期時間帯で、ベタイン投与群では水道水のみを供給した動物に比べ遥かに速やかにサイクリンD1の発現が増加することを示す。
【0058】
図3で、各群は4匹ずつであり、値は平均±標準誤差。*、**ベタインが供給されない動物に比べ統計的に差がある(Student’s t−test、それぞれP<0.05,0.01)。
【0059】
製造例1. ベタインを含む薬学的組成物の製造
【0060】
<1−1>シロップ剤の製造
【0061】
ベタインを有効成分20%(重量/体積)で含むシロップを次のような方法で製造した。先ず、ベタイン、サッカリン、糖を温水80gに溶解させた。前記溶液を冷却させた後、ここにグリセリン、サッカリン、香味料、エタノール、ソルビン酸及び蒸留水でなる溶液を製造して混合した。この混合物に水を添加し100mlになるようにした。
【0062】
前記シロップ剤の構成成分は次の通りである。
ベタイン・・・・・・・・・・・20g
サッカリン・・・・・・・・・・0.8g
糖・・・・・・・・・・・・・・25.4g
グリセリン・・・・・・・・・・8.0g
香味料・・・・・・・・・・・・0.04g
エタノール・・・・・・・・・・4.0g
ソルビン酸・・・・・・・・・・0.4g
蒸留水・・・・・・・・・・・・定量
【0063】
<1−2>錠剤の製造
【0064】
ベタイン250gをラクトース175.9g、じゃがいも澱粉180g及びコロイド性ケイ酸32gと混合した。前記混合物に10%ゼラチン溶液を添加させた後、粉砕して14メッシュ篩を通過させた。これを乾燥させ、ここにじゃがいも澱粉160g、滑石50g及びステアリン酸マグネシウム5gを添加して得た混合物を錠剤に製造した。
【0065】
前記錠剤の構成成分は次の通りである。
ベタイン・・・・・・・・・・・250g
ラクトース・・・・・・・・・・175.9g
じゃがいも澱粉・・・・・・・・180g
コロイド性ケイ酸・・・・・・・32g
10%ゼラチン溶液
じゃがいも澱粉・・・・・・・・160g
滑石・・・・・・・・・・・・・50g
ステアリン酸マグネシウム・・・5g
【0066】
<1−3>注射液剤の製造
【0067】
ベタイン10g、塩化ナトリウム0.6g及びアスコルビン酸0.1gを蒸留水に溶解させて100mlを製造した。前記溶液を瓶に入れ20℃で30分間加熱して滅菌させた。
【0068】
前記注射液剤の構成成分は次の通りである。
ベタイン・・・・・・・・・・・10g
塩化ナトリウム・・・・・・・・0.6g
アスコルビン酸・・・・・・・・0.1g
蒸留水・・・・・・・・・・・・定量
【0069】
製造例2. ベタインを含む健康食品の製造
【0070】
<2−1>食品の製造
【0071】
ベタインを含む食品等を次のように製造した。
【0072】
1.料理用調味料の製造
ベタイン20〜95重量%で健康増進用料理用調味料を製造した。
【0073】
2.トマトケチャップ及びソースの製造
ベタイン0.2〜1.0重量%をトマトケチャップ又はソースに添加して健康増進用トマトケチャップ又はソースを製造した。
【0074】
3.小麦粉食品の製造
ベタイン0.5〜5.0重量%を小麦粉に添加し、この混合物を利用してパン、ケーキ、クッキー、クラッカー及び麺類を製造し、健康増進用食品を製造した。
【0075】
4.スープ及び肉汁(gravies)の製造
ベタイン0.1〜5.0重量%をスープ及び肉汁に添加し、健康増進用肉加工製品、麺類のスープ及び肉汁を製造した。
【0076】
5.グラウンドビーフ(ground beef)の製造
ベタイン1〜10重量%をグラウンドビーフに添加し、健康増進用グラウンドビーフを製造した。
【0077】
6.乳製品(dairy products)の製造
ベタイン1〜5重量%を牛乳に添加し、前記牛乳を利用してバター及びアイスクリームのような多様な乳製品を製造した。
【0078】
7.禅食の製造
玄米、麦、もち米、鳩麦を公知の方法でアルファ化させて乾燥させたものを焙煎したあと、粉砕機で粒度60メッシュの粉末に製造した。黒豆、黒ごま、荏胡麻も公知の方法で蒸して乾燥させたものを焙煎したあと、粉砕機で粒度60メッシュの粉末に製造した。前記で製造した穀物類、種実類の乾燥粉末及びベタインを次の割合で配合して製造した。
穀物類(玄米30重量%、鳩麦15重量%、麦20重量%)、
種実類(荏胡麻7重量%、黒豆8重量%、黒ごま7重量%)、
ベタイン(3重量%)、
霊芝(0.5重量%)、
地黄(0.5重量%)
【0079】
<2−2>飲料の製造
【0080】
1.炭酸飲料の製造
【0081】
砂糖5〜10%、クエン酸0.05〜0.3%、カラメル0.005〜0.02%、ビタミンC 0.1〜1%の添加物を混合し、ここに79〜94%の精製水を混合してシロップを製造し、前記シロップを85〜98℃で20〜180秒間殺菌し冷却水と1:4の割合で混合したあと、炭酸ガス0.5〜0.82%を注入して本発明のベタインを含む炭酸飲料を製造した。
【0082】
2.健康飲料の製造
【0083】
液状果糖(0.5%)、オリゴ糖(2%)、砂糖(2%)、食塩(0.5%)、水(75%)のような副材料とベタインを均質に配合して瞬間殺菌したあと、これをガラス瓶、ペット瓶など小包み容器に包装して健康飲料を製造した。
【0084】
3.野菜ジュースの製造
【0085】
ベタイン1〜10gをトマト又はにんじんジュース1,000mlに加え、健康増進用野菜ジュースを製造した。
【0086】
4.フルーツジュースの製造
【0087】
ベタイン1〜10gを林檎又は葡萄ジュース1,000mlに加え、健康増進用フルーツジュースを製造した。
【0088】
当業者は、上記説明において開示された概念及び特定の実施形態が、本発明の同一の目的を実行するために他の実施形態を改変又は設計するための基礎として容易に利用できることを理解するだろう。また、当業者は、そのような均等な実施形態が、添付の特許請求の範囲に記載の発明の趣旨及び範囲から逸脱しないものであることも理解するだろう。