(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の建物安全性検証システムは、複数の層からなる建物(建築物)の全層の各々、あるいはいくつかの層に加速度センサを設けて、加速度センサの計測した計測データから加速度センサを設けた層の層間変位を求める層間変位計測部を設置し、この相間変位計測部により建物の各層の層間変位を計測し、また建物の最上層あるいは当該最上層近傍の層に固有周期計測部を設け、この固有周期計測部により当該建物の常時微動から建物の固有周期を計測する。また、本発明の建物安全性検証システムは、建物安全性評価部が、層間変位計測部が計測した層間変位と、固有周期計測部が計測した固有周期とにより、建物の健全性を評価する。これにより、本発明の建物耐震性評価システムは、地震が発生した際、地震の際における建物の相間変位と地震前後における固有周期の差分により、複合的な建物の継続使用の可否などに対応する判定を行うことができる。
【0016】
<第1の実施形態>
以下、図を用いて本発明の第1の実施形態の建物安全性検証システムの説明を行う。
図1は、本発明の第1の実施形態による建物安全性検証システムの構成例と、評価対象の建物に設けた加速度センサ及び微振動センサとが接続された構成を表す概念図である。
図1において、建物安全性検証システム1は、インターネットなどからなる情報通信網を介して、建物100に設けられている加速度センサS
0からS
n(0は基礎、1からnまでは建物の階数)の各々から地震の振動データとして加速度データが供給される。加速度センサS
0は、建物の基礎部分における加速度を計測するために設けられており、耐震評価の対象の建物の最下層部分(例えば、地下が無い場合、1階100
1の下の地盤上に設けられた基礎)に印加される地動加速度を計測し、加速度データとして情報通信網を介して建物安全性検証システム1に対して出力する。
【0017】
また、加速度センサS
1からS
nの各々は、それぞれ1階からn階における自身に印加される加速度値を計測して加速度データとして、情報通信網を介して建物安全性検証システム1に対して送信している。ここで、加速度センサは、
図1に示すように、建物のそれぞれの階に配置されている。
図1の建物100が6階立ての建物である場合、1階100
1に加速度センサS
1が配置され、2階100
2に加速度センサS
2が配置され3階100
3に加速度センサS
3が配置され、4階100
4に加速度センサS
4が配置され、5階100
5に加速度センサS
5が配置され、6階100
6に加速度センサS
6が配置され、屋上100
Rに加速度センサS
7が配置されている。また、建物100の基礎部100
0には加速度センサS
0が配置されている。また、建物100の屋上100
Rには、微振動センサSBが配置されている。また、この微振動センサSBは、屋上100
Rでなくとも、屋上100
R近傍の最上階に配置しても良い。
【0018】
建物安全性検証システム1は、層間変位計測部11、固有周期計測部12、建物安全性評価部13及びデータベース14を備えている。
層間変位計測部11は、例えば、加速度センサS
0から加速度センサS
6の各々から供給される加速度データを2回積分して、基礎100
0、1階100
1からn階100
nまでの加速度方向の変位を求め、隣接する階同士の変位の差分を算出し、建物100のそれぞれの階の層間変位δを求める。このとき、層間変位計測部11は、各加速度センサから供給される地震における加速度データから、各階毎に最大加速度を抽出して、この最大加速度を2回積分して距離を求め、この距離を各階毎の変位とする。また、層間変位計測部11は、得られた各階の層間変位δの各々を、それぞれの階の高さで除算し、各階の層間変形角Δ(ラジアン)を算出する。なお、加速度データから変位を求める方法は、本実施形態に記載されているもの以外の他の方法を用いても良い。
【0019】
固有周期計測部12は、微振動センサSBから供給される微少振動データの周波数解析を行う。そして、固有周期計測部12は、パワースペクトルにおけるピーク(最も高いパワースペクトル値)となる周波数を固有周波数(固有振動数)として選択し、この固有周波数の周期を固有周期として出力する。
図2は、建物の固有周期の変化を示す図である。
図2において、縦軸は固有周期を示しており、横軸は時間を示している。固有周期は、建物の剛性に対応するものであり、剛性が低い場合に長くなり、剛性が高い場合に短くなる。すなわち、
図2に示すように、地震による強い地震により応力が与えら
れることにより、建物の構造躯体の部材(建物の主要な構造体や骨組みなど)あるいは非構造躯体の部材(雑壁、天井など)に損傷が発生し、建物の剛性が低下し、固有振動数が低くなる。本実施形態においては、層間変形角Δ及び固定周期Tは絶対値にて示される。
また、上述した微振動センサSBの他に、建物の最下層に他の微振動センサを設け、固有
周期計測部12がこの他の微振動センサの微少振動データに基づいて、微振動センサSBの出力する微少振動データに重畳しているノイズ成分を除去し、より正確な固有周波数を求める構成としても良い。
【0020】
建物安全性評価部13は、層間変位計測部11の求めた層間変形角Δと、固有周期計測部12の求めた建物の固有周期とにより、構造躯体の損傷度合いを判定している。すなわち、建物安全性評価部13は、層間変形角Δと予め設定されている設計層間変形角(層間変位閾値)とを比較し、層間変形角Δが設計層間変形角を超えているか否かの判定を行う。このとき、建物安全性評価部13は、固有周期Tと固有周期の初期値(例えば、建物を建設した直後の固有周期あるいは地震発生直前の固定周期)とを比較し、固有周期Tが固有周期の初期値以下であるか否かの判定を行う。
また、固有周期の初期値に対して経時変化のマージンを加えて、固有周期の初期値の代わりに固有周期閾値を生成し、この固有周期閾値と固有周期Tとを比較するようにしても良い。ここで、固有周期の初期値<固有周期閾値である。この固有周期の初期値または固有周期閾値と、設計層間変位角とは、予め建物安全性評価部13内の記憶部に記憶されており、建物安全性評価部13が判定を行う際、自身内部の上記記憶部から読み出して用いる。
【0021】
図3は、
図1のデータベース14に記憶されている判定テーブルの構成を示す図である。この判定テーブルは、層間変形角Δ及び設計層間変形角の比較結果と、固有周期T及び固有周期の初期値の比較結果との組み合わせによる建物の健全性の判定結果が示されている。設計層間変形角は、この値を超える層間変位が発生した場合、構造躯体の部材が変形などの損傷を受ける大きさ(破断などを含め、構造躯体の部材が変形した状態から元に戻らない状態となる塑性変形の限界を示す大きさ)に設定されている。以下、固有周期Tと層間変形角Δとの判定のパターンを示すパラメータパターンに対応する建物の安全性(健全性)の判定を示す。
【0022】
・パラメータパターンA
層間変形角Δが設計層間変形角を超えており、かつ固有周期閾値に比較して固有周期が長くなり剛性が低下していると判断される場合には、建物の損傷の程度は以下に示すように推定される。建物の状況は、構造躯体の損傷は想定以上であり、建物の損傷の大きさが想定以上であると推定される。これにより、判定結果は、「建物の損傷の早急な調査が必要である」とされている。
【0023】
・パラメータパターンB
層間変形角Δが設計層間変形角を超えており、一方、固有周期閾値に比較して固有周期Tに変化がなく剛性が維持されていると判断される場合には、建物の損傷の程度は以下に示すように推定される。固有周期Tの変化がないため、建物の構造躯体が設計における設計層間変形角より高い層間変形角として実際に建造されたとして、設計層間変形角を超えても損傷は想定以下と推定することができる。これにより、判定結果は、「継続使用可能であるが、注意して利用する必要がある」とされている。
【0024】
・パラメータパターンC
層間変形角Δが設計層間変形角以下であり、一方、固有周期閾値に比較して固有周期Tが長くなり剛性が低下していると判断される場合には、建物の損傷の程度は以下に示すように推定される。固有周期Tが長くなっているが、層間変形角Δが設計層間変形以下であるため、構造躯体ではなく建物の非構造躯体が損傷を受けており、構造躯体の損傷は想定以下と推定することができる。これにより、判定結果は、「継続使用可能であるが、注意して利用する必要がある」とされている。
【0025】
・パラメータパターンD
層間変形角Δが設計層間変形角以下であり、かつ固有周期閾値に比較して固有周期Tに変化がなく剛性が維持されていると判断される場合には、建物の損傷の程度は以下に示すように推定される。層間変形角Δが設計層間変形以下であり、かつ固有周期Tに変化がなく剛性が維持されているため、建物の構造躯体及び建物の非構造躯体のいずれも損傷を受けおらず、構造躯体の損傷は想定以下と推定することができる。これにより、判定結果は、「継続使用可能」とされている。
【0026】
本実施形態において、建物安全性評価部13は、上述した判定を、建物100の階毎に、建物100の固有周期Tと各階の層間変形角Δとを用いて、階毎に
図3に示す判定テーブルによる判定を行う。そして、建物安全性評価部13は、建物100の階毎に判定結果を、データベース14の判定結果テーブルに書き込んで記憶させる。この判定結果テーブルは、建物毎に、各建物を識別する建物識別情報が付加されて、データベースに書き込まれる。
【0027】
図4は、データベース14に記憶されている判定結果テーブルの構成例を示す図である。この
図4において、建物100の階毎に、その階の階数と、判定結果と、対応とについて記載されている。対応については、本実施形態においては、例えば、地震後の避難の緊急度が設定されている。この対応の項目については、使用者が適時設定する。
図4のように、1階100
1が「継続使用可能」と判定され、2階100
2が「継続使用可能だが、注意して利用する必要がある」と判定され、2階100
3が「早急な調査が必要」と判定され、4階100
4が「継続使用可能だが、注意して利用する必要がある」と判定されている。
【0028】
この場合、3階100
3が危険な状態にあるため、例えば余震がくる前に、3階100
3より上の階の人間を非難させる必要があり、対応としては「緊急避難」となる。避難する人間が集中すると危険なため、「早急な調査が必要」と判定された階より、下層の階、この場合、2階100
2及び1階100
1の人間は避難指示を受けるまで待機する「指示まで待機」と対応する。建物安全性評価部13は、この判定結果に対する対応を予め設定されたルール(各階の損傷程度のパターンの組み合わせと、この組み合わせに対する対応とを関連づけたルール)により決定し、データベース14の
図4に示す判定結果テーブルの対応の欄に書き込んで記憶させる。
【0029】
次に、本実施形態による建物安全性検証システム1の建物の安全性を検証する処理を、
図5を参照して説明する。
図5は、本実施形態による建物安全性検証システム1の建物の安全性を検証する処理の流れを示すフローチャートである。建物安全性検証システム1は、地震が発生した後、各階毎に
図5のフローチャートの動作を行い、建物100の階毎の安全性の判定を行う。建物100がn階建てであれば、1階100
1からn階100
nまで順番にフローチャートによる判定処理を行う。層間変位計測部11は、加速度センサS
0から供給される加速度センサS
0が計測した加速度が所定の地震判定閾値以上の場合、地震発生として以下のフローチャートの処理を実行する。
【0030】
ステップS1:
層間変位計測部11は、供給されるセンサS
0が計測した加速度データから加速度を抽出する。そして、層間変位計測部11は、この抽出した加速度を2回積分し、基礎部分の変位を算出する。
【0031】
ステップS2:
層間変位計測部11は、建物100のk階100
k(1≦k≦n)に配置されたセンサS
kから供給される、それぞれの加速度センサSkに計測した加速度から、加速度センサS
0の加速度を抽出する。そして、層間変位計測部11は、この抽出した加速度を2回積分し、各階の変位を算出し、それぞれ隣接する階の変位の差分を算出し、各階の層間変位δを算出する。ここで、建物100の1階100
1の層間変位δは、1階100
1の変位から基礎100
0の変位を減算して求められる。
【0032】
ステップS3:
層間変位計測部11は、算出したk階100
kの層間変位δの各々を、k階100
kの高さでそれぞれ除算し、k階100
kの層間変形角Δを算出する。
【0033】
ステップS4:
固有周期計測部12は、屋上100
Rに配置された微振動センサSBから、地震発生後に供給される微振動データに対し、信号処理を行う。すなわち、固有周期計測部12は、微振動データのフーリエ解析を行い、最も高いパワースペクトルを有する周波数を抽出し、この周波数を固有周波数とする。そして、固有周期計測部12は、抽出した固有周波数の周期を求め、この周期を固有周期Tとする。
【0034】
ステップS5:
建物安全性評価部13は、建物100における1階100
1からn階100
nまでの全ての階における損傷程度の判定が行われたか否かの判定を行う。
このとき、建物安全性評価部13は、建物100における全ての階に対する判定が終了した場合、処理を終了し、建物100における全ての階に対する判定が終了していない場合、処理をステップS4へ進める。
【0035】
ステップS6:
建物安全性評価部13は、建物100の判定の終了していない階の層間変形角Δを層間変位計測部11から読み込み、この読み込んだ判定対象のk階100
kの層間変形角Δと設計層間変形角との比較を行い、層間変形角Δが設計層間変形角を超えているかを判定する(第1の判定結果を求める)。このとき、建物安全性評価部13は、層間変形角Δが設計層間変形角を超えている場合、処理をステップS7へ進め、一方層間変形角Δが設計層間変形角を超えていない場合、処理をステップS6へ進める。
【0036】
ステップS7:
建物安全性評価部13は、固有周期計測部12から供給される固有周期Tと固有周期閾値とを比較し、固有周期Tが固有周期閾値以下であるか否かの判定を行う(第2の判定結果を求める)。このとき、建物安全性評価部13は、固有周期Tが固有周期閾値を超える場合、処理をステップS9へ進め、一方、固有周期Tが固有周期閾値以下である場合、処理をステップS10へ進める。ここで、説明においては、建物100の固有周期の初期値ではなく、この固有周期の初期値に対してマージンを持たせた固有周期閾値を用いている。
【0037】
ステップS8:
建物安全性評価部13は、固有周期計測部12から供給される固有周期Tと固有周期閾値とを比較し、固有周期Tが固有周期閾値以下であるか否かの判定を行う(第2の判定結果を求める)。このとき、建物安全性評価部13は、固有周期Tが固有周期閾値を超える場合、処理をステップS11へ進め、一方、固有周期Tが固有周期閾値以下である場合、処理をステップS12へ進める。
【0038】
ステップS9:
建物安全性評価部13は、データベース14の判定テーブルを参照し、層間変形角Δが設計層間変形角を超え、かつ固有周期Tが固有周期閾値を超えている場合、パラメータパターンが状態Aであることを検出する。
次に、建物安全性評価部13は、パラメータパターンが状態Aの判定である「早急な調査が必要である(A)」を、データベース14の判定結果テーブルにおける対応する評価対象のk階100
kの判定結果の欄に書き込んで記憶させ、処理をステップS5へ進める。
【0039】
ステップS10:
建物安全性評価部13は、データベース14の判定テーブルを参照し、層間変形角Δが設計層間変形角を超え、一方、固有周期Tが固有周期閾値以下である場合、パラメータパターンが状態Bであることを検出する。
次に、建物安全性評価部13は、パラメータパターンが状態Bの判定である「継続使用可能だが、注意して利用する必要がある(B)」を、データベース14の判定結果テーブルにおける対応するk階100
kの判定結果の欄に書き込んで記憶させ、処理をステップS5へ進める。
【0040】
ステップS11:
建物安全性評価部13は、データベース14の判定テーブルを参照し、層間変形角Δが設計層間変形角以下であり、一方、固有周期Tが固有周期閾値以下でない場合、パラメータパターンが状態Cであることを検出する。
次に、建物安全性評価部13は、パラメータパターンが状態Cの判定である「継続使用可能だが、注意して利用する必要がある(C)」を、データベース14の判定結果テーブルにおける対応するk階100
kの判定結果の欄に書き込んで記憶させ、処理をステップS5へ進める。
【0041】
ステップS12:
建物安全性評価部13は、データベース14の判定テーブルを参照し、層間変形角Δが設計層間変形角以下であり、かつ固有周期Tが固有周期閾値以下である場合、パラメータパターンが状態Dであることを検出する。
次に、建物安全性評価部13は、パラメータパターンが状態Dの判定である「継続使用可能(D)」を、データベース14の判定結果テーブルにおける対応するk階100
kの判定結果の欄に書き込んで記憶させ、処理をステップS5へ進める。
【0042】
上述した処理を行うことにより、本実施形態の建物安全性検証システム1は、建物100の固有周期Tと建物100におけるk階100kの層間変形角Δとの組み合わせにより、建物100の各々の階の損傷程度を判定する。これにより、本実施形態の建物安全性検証システム1は、建物100が設計基準値である設計層間変形角と異なる数値で建設されていても、建物100の固有周期と組み合わせて判定することにより、建設された実際の建物の設計層間変形角に対応して、各階の個別の損傷程度を従来に比較して高い精度にて推定して判定することができる。また、本実施形態の建物安全
性検証システム1は、施工誤差、経年劣化、什器など建物内部設置物の重量変動、構造躯体や非構造部材の剛性などの条件が変化しても対応し、建物100における各階の個別の損傷程度を従来に比較して高い精度にて推定し、建物の安全性を判定することができる。
【0043】
また、本実施形態の建物安全性検証システム1によれば、データベース14における判定結果テーブルに対して、各階(加速度センサを設けた階)の判定結果を書き込むことにより、その判定結果によってすでに述べたように、建物100における各階の地震後の避難の優先度などを判定することができ、避難誘導を効率的に行うことができる。
また、本実施形態においては、建物100の全層に加速度センサを設けたが、例えば1階おきなど、複数階(複数層)のいくつかの層に加速度センサを設け、加速度センサを設けた階の損傷を判定するようにしても良い。
【0044】
<第2の実施形態>
以下、図を用いて本発明の第2の実施形態の建物安全性検証システムの説明を行う。
図6は、本発明の第2の実施形態による建物安全性検証システムの構成例と、評価対象の建物に設けた加速度センサ、微振動センサ及び傾斜センサとが接続された構成を表す概念図である。
図6において、建物安全性検証システム2は、インターネットなどからなる情報通信網Iを介して、第1の実施形態と同様に、建物100に設けられている加速度センサS
0からS
n(0は基礎、1からnまでは建物の階数)の各々から地震の振動データとして加速度データが供給される。加速度センサS
0、加速度センサS
1からS
nについては配置箇所が第1の実施形態と同様である。また、第2の実施形態においては、建物100の屋上100
Rには、微振動センサSBに加え、傾斜センサSJが配置されている。この傾斜センサSJは、微振動センサSBと同様に、屋上100
Rでなくとも、屋上100
R近傍の最上階の上部(例えば、n階建てであればn階の天井など)に配置しても良い。
【0045】
建物安全性検証システム2は、層間変位計測部11、固有周期計測部12、建物安全性評価部23、データベース24及び傾斜角計測部25を備えている。層間変位計測部11及び固有周期計測部12の各々は、第1の実施形態における層間変位計測部11及び固有周期計測部12のそれぞれと同様の構成である。
傾斜角計測部25は、建物100の屋上100Rに配置された傾斜センサSJから供給される傾斜データによって、地平に対して垂直方向の軸に対する建物100の傾斜角θを算出する。本実施形態においては、層間変形角Δ、固定周期T及び傾斜角θは絶対値にて示される。
【0046】
建物安全性評価部23は、層間変位計測部11の求めた層間変形角Δと、固有周期計測部12の求めた建物の固有周期Tと、傾斜角計測部25が求めた傾斜角θとにより、構造躯体の損傷度合いを判定している。すなわち、建物安全性評価部23は、層間変形角Δと予め設定されている設計層間変形角とを比較し、層間変形角Δが設計層間変形角を超えているか否かの場合分けを行う。また、建物安全性評価部23は、固有周期Tと固有周期の初期値とを比較し、固有周期Tが固有周期の初期値以下であるか否かの判定を行う。また、建物安全性評価部23は、傾斜角θと傾斜角の初期値(例えば、建物の建設直後に計測された傾斜角)とを比較し、傾斜角θが初期値以下であるか否かの判定を行う。
また、固有周期の初期値に対して経時変化のマージンを加えて、固有周期の初期値の代わりに、この固有周期の初期値に対してマージンを加えて固有周期閾値を生成し、この固有周期閾値と固有周期Tとを比較するようにしても良い。ここで、固有周期の初期値<固有周期閾値である。
【0047】
図7は、
図1のデータベース14に記憶されている判定テーブルにおけるパラメータパターンの組み合わせの構成例を示す図である。この判定テーブルは、層間変形角Δ及び設計層間変形角の比較結果と、固有周期T及び固有周期の初期値の比較結果と、傾斜角θ及び傾斜角の初期値(傾斜角閾値)の比較結果の組み合わせによる建物の健全性の判定結果が示されている。設計層間変形角は、この値を超える層間変位が発生した場合、構造躯体の部材が変形などの損傷を受ける大きさに設定されている。以下、固有周期Tと層間変形角Δと傾斜角θとの判定のパターンを示すパラメータパターンに対応する建物の健全性の判定を示す。この
図7において、3次元の判定空間がパターンP1からパターンP8の8個の領域に分割されている。
【0048】
・パターンP1 層間変形角Δが設計層間変形角以下であり、固有周期Tが固有周期閾値以下であり、傾斜角θが傾斜角の初期値以下であるパターン
・パターンP2 層間変形角Δが設計層間変形角を超えており、固有周期Tが固有周期閾値以下であり、傾斜角θが傾斜角の初期値以下であるパターン
・パターンP3 層間変形角Δが設計層間変形角以下であり、固有周期Tが固有周期閾値を超えており、傾斜角θが傾斜角の初期値以下であるパターン
・パターンP4 層間変形角Δが設計層間変形角を超えており、固有周期Tが固有周期閾値を超えており、傾斜角θが傾斜角の初期値以下であるパターン
・パターンP5 層間変形角Δが設計層間変形角以下であり、固有周期Tが固有周期閾値以下であり、傾斜角θが傾斜角の初期値を超えているパターン
・パターンP6 層間変形角Δが設計層間変形角を超えており、固有周期Tが固有周期閾値以下であり、傾斜角θが傾斜角の初期値を超えているパターン
・パターンP7 層間変形角Δが設計層間変形角以下であり、固有周期Tが固有周期閾値を超えており、傾斜角θが傾斜角の初期値を超えているパターン
・パターンP8 層間変形角Δが設計層間変形角を超えており、固有周期Tが固有周期閾値を超えており、傾斜角θが傾斜角の初期値を超えているパターン
【0049】
本実施形態においては、上述したパターンP1からパターンP8を以下に示すように、5個の判定グループ(状態)に分類されている。データベース24には、この判定グループに対応した判定結果が判定テーブルとして予め書き込まれて記憶されている。
【0050】
・判定グループD:パターンP1、パターンP2
判定結果:継続使用可能。
判定理由:パターンP1については、層間変形角Δが設計層間変形角以下であり、固有周期Tが固有周期閾値以下であり、傾斜角θが傾斜角の初期値以下であるため、建物100に対する損傷がないと判定される。また、パターンP2については、層間変形角Δが設計層間変形角を超えているが、固有周期Tが固有周期閾値以下であり、傾斜角θが傾斜角の初期値以下であるため、建物100に対する損傷がないと判定される。ここで、層間変形角Δが設計層間変形角を超えているのに、固有周期Tが固有周期閾値以下であり、傾斜角θが傾斜角の初期値以下であることから、建物100の実際の耐震性能が設計時より高く建設されているためと推定される。
【0051】
・判定グループE:パターンP5、パターンP6
判定結果:応急復旧時には使用可能と判断できるが、通常時に使用できるかどうかは調査が必要。
判定理由:固有周期Tが固有周期閾値以下であり、建物100の傾斜角θが傾斜角の閾値を超えている場合、建物100の立っている地盤が損傷していると推定される。
【0052】
・判定グループF:パターンP7
判定結果:非構造部材が損傷している可能性があり、応急復旧時に使用するとしても調査が必要。
判定理由:固有周期Tが固有周期閾値を超えており、建物100の傾斜角θが傾斜角の閾値を超えており、層間変形角Δが設計層間変形角以下である場合、建物100の非構造部材及び建物100の立っている地盤が損傷していると推定される。
【0053】
・判定グループG:パターンP3、パターンP4
判定結果:非構造部材が損傷している可能性があり、応急復旧時に使用するとしても調査が必要であるが、通常時の使用に関しては非構造部材を補修すれば継続使用可能。
判定理由:建物100の傾斜角θが傾斜角の閾値以下であるが、固有周期Tが固有周期閾値を超えているため、建物100の構造躯体に損傷が無く、非構造躯体に損傷の可能性があると推定される。
【0054】
・判定グループH:パターンP8
判定結果:継続使用不可。
判定理由:建物100の傾斜角θが傾斜角の閾値を超え、かつ固有周期Tが固有周期閾値を超え、かつ層間変形角Δが設計層間変形角を超えているため、建物100の構造躯体、非構造躯体及び地盤に損傷の可能性があると推定される。
【0055】
次に、本実施形態による建物安全性検証システム2の建物の安全性を検証する処理を、
図8を参照して説明する。
図8は、本実施形態による建物安全性検証システム2の建物の安全性を検証する処理の流れを示すフローチャートである。建物安全性検証システム2は、地震が発生した後、各階毎に
図8のフローチャートの動作を行い、建物100の階毎の安全性の判定を行う。建物100がn階建てであれば、1階100
1からn階100
nまで順番にフローチャートによる判定処理を行う。層間変位計測部11は、供給されるセンサS
0から地動加速度が所定の地震判定閾値以上の場合、地震発生として以下のフローチャートの処理を実行する。
【0056】
ステップS21:
層間変位計測部11は、供給されるセンサS
0が計測した加速度データから加速度を抽出する。そして、層間変位計測部11は、この抽出した加速度を2回積分し、基礎部分の変位を算出する。
【0057】
ステップS22:
層間変位計測部11は、建物100のk階100
k(1≦k≦n)に配置されたセンサS
kから供給される、それぞれの加速度センサSkに計測した加速度から、加速度センサS
0の加速度を抽出する。そして、層間変位計測部11は、この抽出した加速度を2回積分し、各階の変位を算出し、それぞれ隣接する階の変位の差分を算出し、各階の層間変位δを算出する。ここで、建物100の1階100
1の層間変位δは、1階100
1の変位から基礎100
0の変位を減算して求められる。
なお、全体曲げ変形やロッキングが支配的な建物などに対しては、層間変位を算出する際に、傾斜角θの計測データを用いることでせん断変形成分をより精緻に算出する。
【0058】
ステップS23:
層間変位計測部11は、算出したk階100
kの層間変位δの各々を、k階100
kの高さでそれぞれ除算し、k階100
kの層間変形角Δを算出する。なお、加速度データから変位を求める方法は、本実施形態に記載されているもの以外の他の方法を用いても良い。
【0059】
ステップS24:
固有周期計測部12は、屋上100
Rに配置された微振動センサSBから、地震発生後に供給される微振動データに対し、信号処理を行う。すなわち、固有周期計測部12は、微振動データのフーリエ解析を行い、最も高いパワースペクトルを有する周波数を抽出し、この周波数を固有周波数とする。そして、固有周期計測部12は、抽出した固有周波数の周期を求め、この周期を固有周期Tとする。
【0060】
ステップS25:
傾斜角計測部25は、建物100の屋上100
Rに配置されている傾斜角センサSJから供給される傾斜角データにより、建物100の傾斜角θを求める。
【0061】
ステップS26:
建物安全性評価部23は、建物100における1階100
1からn階100
nまでの全ての階における損傷程度の判定が行われたか否かの判定を行う。
このとき、建物安全性評価部23は、建物100における全ての階に対する判定が終了した場合、処理を終了し、建物100における全ての階に対する判定が終了していない場合、処理をステップS27へ進める。
【0062】
ステップS27:
建物安全性評価部23は、傾斜角計測部25から供給される傾斜角θと建物100の傾斜角の初期値との比較を行い、傾斜角θが傾斜角の初期値を超えているか否かを判定する(第3の判定結果を求める)。このとき、建物安全性評価部23は、傾斜角θが傾斜角の初期値を超えていない場合、処理をステップS28へ進め、一方、傾斜角θが傾斜角の初期値を超えている場合、処理をステップS29へ進める。
【0063】
ステップS28:
建物安全性評価部23は、固有周期計測部12から供給される固有周期Tと固有周期閾値とを比較し、固有周期Tが固有周期閾値以下であるか否かの判定を行う(第2の判定結果を求める)。このとき、建物安全性評価部23は、固有周期Tが固有周期閾値を超える場合、処理をステップS32へ進め、一方、固有周期Tが固有周期閾値以下である場合、処理をステップS31へ進める。ここで、説明においては、建物100の固有周期の初期値ではなく、この固有周期の初期値に対してマージンを持たせた固有周期閾値を用いている。
【0064】
ステップS29:
建物安全性評価部23は、固有周期計測部12から供給される固有周期Tと固有周期閾値とを比較し、固有周期Tが固有周期閾値以下であるか否かの判定を行う。このとき、建物安全性評価部23は、固有周期Tが固有周期閾値を超える場合、処理をステップS30へ進め、一方、固有周期Tが固有周期閾値以下である場合、処理をステップS33へ進める。
【0065】
ステップS30:
建物安全性評価部23は、建物100の判定の終了していない階の層間変形角Δを層間変位計測部11から読み込み、この読み込んだ判定対象のk階100
kの層間変形角Δと設計層間変形角との比較を行い、層間変形角Δが設計層間変形角を超えているかを判定する(第1の判定結果を求める)。このとき、建物安全性評価部23は、層間変形角Δが設計層間変形角を超えている場合、処理をステップS35へ進め、一方層間変形角Δが設計層間変形角を超えていない場合、処理をステップS34へ進める。
【0066】
ステップS31:
建物安全性評価部23は、データベース24の判定テーブルを参照し、傾斜角θが傾斜角の初期値以下であり、固有周期Tが固有周期閾値以下である場合、パラメータパターンが状態Dであることを検出する。
次に、建物安全性評価部23は、パラメータパターンが状態Dの判定である「継続使用可能(D)」を、データベース24の判定結果テーブルにおける対応するk階100
kの判定結果の欄に書き込んで記憶させ、処理をステップS26へ進める。
【0067】
ステップS32:
建物安全性評価部23は、データベース24の判定テーブルを参照し、傾斜角θが傾斜角の初期値以下であり、固有周期Tが固有周期閾値を超えている場合、パラメータパターンが状態Gであることを検出する。
次に、建物安全性評価部23は、パラメータパターンが状態Gの判定である「非構造部材が損傷している可能性があり、応急復旧時に使用するとしても調査が必要であるが、通常時の使用に関しては非構造部材を補修すれば継続使用可能(G)」を、データベース24の判定結果テーブルにおける対応するk階100
kの判定結果の欄に書き込んで記憶させ、処理をステップS26へ進める。
【0068】
ステップS33:
建物安全性評価部23は、データベース24の判定テーブルを参照し、傾斜角θが傾斜角の初期値を超えており、固有周期Tが固有周期閾値以下である場合、パラメータパターンが状態Eであることを検出する。
次に、建物安全性評価部23は、パラメータパターンが状態Eの判定である「応急復旧時には使用可能と判断できるが、通常時に使用できるかどうかは調査が必要(E)」を、データベース24の判定結果テーブルにおける対応するk階100
kの判定結果の欄に書き込んで記憶させ、処理をステップS26へ進める。
【0069】
ステップS34:
建物安全性評価部23は、データベース24の判定テーブルを参照し、傾斜角θが傾斜角の初期値を超えており、固有周期Tが固有周期閾値を超えており、層間変形角Δが設計層間変形角以下である場合、パラメータパターンが状態Fであることを検出する。
次に、建物安全性評価部23は、パラメータパターンが状態Fの判定である「非構造部材が損傷している可能性があり、応急復旧時に使用するとしても調査が必要(F)」を、データベース24の判定結果テーブルにおける対応するk階100
kの判定結果の欄に書き込んで記憶させ、処理をステップS26へ進める。
【0070】
ステップS35:
建物安全性評価部23は、データベース24の判定テーブルを参照し、傾斜角θが傾斜角の初期値を超えており、固有周期Tが固有周期閾値を超えており、層間変形角Δが設計層間変形角を超えている場合、パラメータパターンが状態Hであることを検出する。
次に、建物安全性評価部23は、パラメータパターンが状態Hの判定である「継続使用不可(H)」を、データベース24の判定結果テーブルにおける対応するk階100
kの判定結果の欄に書き込んで記憶させ、処理をステップS26へ進める。
【0071】
上述した処理を行うことにより、本実施形態の建物安全性検証システム2は、建物100の固有周期Tと建物100におけるk階100kの層間変形角Δと建物100の傾斜角θの組み合わせにより、建物100の各々の階の損傷程度を判定する。これにより、本実施形態の建物安全性検証システム2は、建物100が設計層間変形角と異なる数値で建設されていても、建物100の固有周期T及び傾斜角θと組み合わせることにより
、建設された実際の建物の設計層間変形角に対応して、各階の個別の損傷程度及び地盤の損傷程度を従来に比較して高い精度にて推定して判定することができる。また、本実施形態の建物安全継承システム2は、施工誤差、経年劣化、什器など建物内部設置物の重量変動、構造躯体や非構造部材の剛性などの条件が変化しても対応し、建物100における各階の個別の損傷程度及び地盤の損傷程度を従来に比較して高い精度にて推定し、建物の安全性を判定することができる。すなわち、本実施形態によれば、各階の層間変形角及び固定周期による判定に対して傾斜角の判定を加えることにより、建物100における構造躯体の損傷、非構造躯体の損傷及び地盤の損傷(建物の傾斜角θにより推定)の切り分けが可能である。このため、本実施形態の建物安全継承システム2は、第1の実施形態に比較してより詳細な建物100の状態の判定を行うことができる。また、本実施形態の建物安全性検証システム2によれば、データベース24における判定結果テーブルに対して、各階の判定結果を書き込むことにより、その判定結果によってすでに述べたように、建物100における各階の地震後の避難の優先度などを判定することができる。
【0072】
なお、
図1、
図6における建物安全性検証システム1または建物安全性検証システム2を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより建物の耐震性の評価(地震による損壊の推定など)の処理動作を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータシステム」は、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)を備えたWWWシステムも含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(RAM)のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。
【0073】
また、上記プログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)や電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良い。さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であっても良い。