(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記各音声処理装置は、自装置に接続された下位装置との間の伝送遅延時間との遅延時間を取得する遅延時間設定部と、最上位の装置に対するカスケード接続の段数を設定する段数設定部を備え、
前記下位装置は、前記遅延時間設定部に設定された遅延時間と自装置の段数データに基づいて得られた時間分、上位装置よりも早いタイミングで、自装置のフレームデータを上位装置に送信することを特徴とする請求項1に記載の音声伝送システム。
前記遅延時間設定部が、ワードクロックの同期処理によって得られた各段の上位装置と下位装置間の遅延時間を、自己の段数に至るまで加算して、各段の下位装置それぞれと最上位の装置との遅延時間を決定するものであり、
前記下位装置は、遅延時間設定部で決定された遅延時間と自装置の段数データに基づいて得られた時間分、上位装置よりも早いタイミングで、自装置のフレームデータを上位装置に送信することを特徴とする請求項2に記載の音声伝送システム。
【背景技術】
【0002】
従来から、複数の音声処理装置間で音声信号の送受信を行うための音声伝送システムが知られており、例えば、コンサート、演劇、音楽制作、構内放送等において用いられている。このような音声伝送システムでは、システムを構成する各装置は同期運転させる必要がある。
【0003】
近年ではデジタル化された音声信号の伝送フォーマットとして、Cobra Net(登録商標)やEther Sound(登録商標)などが知られている。これらは、イーサネット技術を元に構築されたシステムであり、一連の情報はパケットと呼ばれる小さな情報に分割して送受信される。
【0004】
Cobra Net(登録商標)は、Ethernet(登録商標)のネットワーク上で「バンドル」と呼ばれるオーディオパケットを使って、最大で64チャネルの双方向通信を実現する。このCobra Net(登録商標)では、コンダクタと呼ばれる装置がビートパケットという同期信号をネットワーク上の各装置へ送出し、各機器の同期運転を実現している。
【0005】
Ether Sound(登録商標)では、デイジーチェーン接続をサポートしており、最大64チャネルの音声データを双方向(ダウンストリームとアップストリーム)で送受信することが可能である。デイジーチェーンで接続は、ネットワークのルーティングが簡単で伝送が速いという利点がある。
【0006】
この種の従来技術は、Ethernet(登録商標)のネットワーク技術を利用していることから、ネットワークに新たな装置を追加するとき、またはネットワークから装置を削除するときに、MACアドレスの再設定などを行うため、ネットワークの再構築が行われる場合がある。このネットワークの再構築は通信の瞬断を起こし、音声信号が途切れるという問題があった。
【0007】
このような従来技術の問題点を解決するために、特許文献1の技術が提案されている。この特許文献1の技術は、ネットワークに新たな音声処理装置(特許文献1ではノードと呼んでいる)が接続された場合に、音声伝送フレームの生成を行うマスターノードを自動的に決定し、接続されたノード間で音声信号を伝送するモードに移行する。これにより、ネットワーク全体を再構築することなく、新たな音声処理装置をネットワークに接続することを可能としている。
【0008】
更に、特許文献2には、前記特許文献1のマスターノードがネットワークに音声伝送フレームを送出してから、ネットワークを経由して前記マスターノードに戻って来るまでの伝送時間を計測し、伝送用のワードクロックを所定の時間だけ遅延させる技術が記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献1及び特許文献2に記載の技術は、複数の音声処理装置をカスケード状に接続し、しかも、両端の音声処理装置同士をループ状に接続した特殊な構成のネットワークに関する技術である。そのため、これらの従来技術は、複数の音声処理装置をルーターと呼ばれる最上位の装置に対してスター状に接続したシステムや、ルーターに対して複数の音声処理装置を上位装置から下位装置に向かって一方向に多段に接続したシステムのように、最上位の装置と最下段の装置とを直接接続することがないシステムに適用することはできなかった。
【0011】
放送局などで音声調整卓として使用されるデジタルオーディオシステムにおいては、ルーターやネットワーク端部の音声処理装置に対して、他の音声処理装置を接続あるいは切り離す作業が頻繁に行われる。しかし、特許文献1や特許文献2の技術は、最上位の装置と最下段の装置をループ状に接続する必要があることから、システムに新たな装置を接続あるいは切り離すごとにループ状の伝送路を新たに構築する必要があり、その間に音声が途切れたり、雑音が発生するなどの現象が発生する問題があった。
【0012】
しかも、複数の音声処理装置をカスケード状に多段に接続した場合、接続の段数が多い末端の装置ほど伝送遅延時間が大きくなる。そのため、カスケード状に接続された複数系統の装置が最上位の装置からスター状に接続され、しかも系統ごとに接続の段数が異なっていると、系統ごとに末端の装置までの遅延時間が異なってくる。遅延時間を考慮した引用文献2の発明は、カスケード状に1系統だけ接続されたシステムにのみ適用可能なものであり、異なる遅延時間が同時に発生する複数系統のカスケード接続を有するシステムには適用できなかった。
【0013】
本発明は、前記のような従来技術の問題点を解決するために提案されたものである。本発明の目的は、最上位の装置を中心にして複数の音声処理装置が多段に接続されている場合に、システム全体の再構築を行うことなく、ネットワークに接続されている上位装置と、その上位装置に追加あるいは削除される下位装置との間だけで、ワードクロックの同期並びに音声信号の送信タイミングの設定を行うことを可能とした音声伝送システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の音声伝送システムは、次のような特徴を有する。
(1)最上位の音声処理装置を中心として、下位の音声処理装置がスター状および/またはカスケード状に接続されたネットワークを構成する。
(2)各音声処理装置は、ワードクロックの生成部と、生成されたワードクロックを基準として音声信号に対して音声処理を施す音声処理部と、自装置に接続された下位装置との間の伝送遅延時間と予め設定された固定遅延時間を取得する遅延時間設定部と、最上位の装置に対するカスケード接続の段数を設定する段数設定部と、各音声処理装置間でフレームデータを送受信する送信部と受信部を備える。
(3)前記フレームデータは、フレーム同期信号と、音声処理の対象となる音声信号と、遅延時間設定部によって設定された伝送遅延時間とを含むものである。
(4)前記下位装置は、上位装置からのフレームデータの受信タイミングを基準として、フレームフォーマット周期から伝送遅延時間を減算したタイミングから自装置のワードクロックを生成することで、上位装置と下位装置のワードクロックを同期させる。
(5)各音声処理装置の音声処理部は、上位装置のワードクロックに同期された自装置のワードクロックに基づいて、受信したフレームデータに含まれる音声信号に対するデジタル処理を行う。
(6)前記下位装置は、遅延時間設定部に設定された固定遅延時間と自装置の段数データに基づいて得られた時間分、上位装置よりも早いタイミングで、自装置のフレームデータを上位装置に送信する。
【0015】
本発明において、前記フレームデータは、上位装置の段数設定部によって設定された段数データを含むものであり、前記下位装置は、上位装置から受信した段数データに基づいて自装置の段数データを設定することもできる。
【0016】
本発明において、前記フレームデータは、各音声処理装置が接続処理のどの状態にあるかを示す状態データを含むものであり、上位装置と下位装置は、この接続状態データを交換することにより、ワードクロックの同期処理および上位装置に対する下位装置のフレームデータの送信タイミングの設定処理の確認を行うこともできる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、音声伝送システムを構成する各装置は、独立して接続関係の構築をおこなうため、新たな下位装置がネットワークに追加若しくは削除されても、ネットワークに既に接続されている上位の装置は、その影響を受けることなく通信を継続することができる。これにより、下位装置の追加若しくは削除が生じた場合に、ネットワークの再構築に伴う通信の瞬断が起こることはなく、高品質な音声伝送システムを実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について、
図1および
図2を用いて詳細に説明する。
【0020】
[1.フレームデータ]
本実施形態の各音声処理装置は、他の音声処理装置と同期した状態において、フレームデータと呼ばれる信号を送受信する。このフレームデータには、音声信号の他に、ワードクロックを他の装置に通知するために、フレームの始まりの部分に配置されたフレーム同期信号SYNCが含まれる。また、このフレームデータには、上位装置と下位装置の接続時において、両装置間で交換される接続用の情報が含まれる。この接続用の情報としては、上位装置あるいは下位装置が接続処理のどの状態にあるかを示す接続状態データ、自装置が最上位の装置から何段目に接続されているかを示す段数データなどが含まれる。
【0021】
本実施形態において、接続状態データとしては、初期状態を示す「init」、伝送遅延時間が設定された状態を示す「clkset」、伝送遅延時間および上位送信タイミングの設定が完了した状態を示す「idle」を用いる。
【0022】
段数データは、最上位の装置であるルーターが「0」に設定されており、これに接続された第1段目の下位装置は、接続時において上位装置からその段数データ「0」を受信すると、受信した段数データ「0」に対して「1」を加えた「1」を自己の段数データとして記憶する。以下、下位装置が上位装置に接続されるごとに、上位装置は自己の段数データを下位装置に送信し、下位装置はその段数に「1」を加えた値を自己の段数データとして記憶する。
【0023】
[2.実施形態の構成]
図1に示すように、本実施形態の音声伝送システムは、ルーター1を中心に複数の音声処理装置2がスター状あるいはカスケード状に接続され、ネットワークを構成している。音声処理装置2としては、例えば、マイクなどのアナログ音声装置2a、このアナログ音声装置2aからの信号を音声処理用のデジタル信号に変換するAD変換装置2b、CDプレーヤーなどのデジタル音声装置2c、このデジタル音声装置2cからのデジタル音声信号のフォーマットを変換するデジタル音声入出力装置2d、変換されたデジタル信号に対して種々の処理を施すデジタル信号処理装置2eがある。このデジタル信号処理装置2eとしては、例えば、音声信号に各種音響効果を与えるエフェクタやイコライザ、音声信号を増幅するアンプがあり、これらを実現するためにDSPやFPGAが使用される。
【0024】
音声処理装置2としては、処理されたデジタル信号を任意のアナログ音声信号に変換するDA変換装置2f、DA変換装置2fからアナログ音声信号を出力するスピーカなどの音声出力装置2g、処理されたデジタル音声信号を出力用のデジタル音声信号のフォーマットに変換するデジタル音声入出力装置2h、デジタル音声入出力装置2hと接続するデジタルテープレコーダーなどのデジタル音声装置2i、ルーター1に接続されるコンソールやモニタのような操作盤2jなども、使用される。
【0025】
本実施形態においては、DSPなどのデジタル信号処理装置2eについては、ルーター1に対して1段のみ接続されたスター接続とし、AD変換装置2b、DA変換装置2fについては、ルーター1に対して複数の装置が多段に接続されたカスケード接続になっているが、これは例示でありルーター以外のいずれの機器(AD変換装置2b、音声入出力装置装置2d,2h、DA変換装置2f)を多段に接続することもできる。
【0026】
ルーター1は、ネットワーク上の複数の音声処理装置2a〜2jを同期運転させるためにワードクロックと呼ばれる同期信号を生成すると共に、この同期信号に基づくタイミングで、各音声処理装置2間で伝送されるフレームデータを中継する。例えば、
図1において、音声処理装置2eから2hへフレームデータを送信する場合には、音声処理装置2eが送信したフレームデータは一旦ルーター1が受信する。ルーター1は、受信したフレームデータをワードクロックに同期させて音声処理装置2hへ送信する。
【0027】
ルーター1は、本発明における最上位の装置に相当し、他の音声処理装置2は、本発明における下位の装置に相当する。また、カスケード接続された各音声処理装置の間では、ルーター1に近い装置が上位の音声処理装置に、ルーター1から離れた装置が下位の音声処理装置に相当する。そこで、
図2以降においては、符号1は上位の音声処理装置(上位装置と呼ぶ)を示し、2は下位の音声処理装置(下位装置と呼ぶ)を示す。
【0028】
[2−1.上位装置の構成]
本実施形態の上位装置1は、音声処理部10、クロック生成部11、遅延時間設定部12、状態設定部13、段数設定部14、記憶部15、送信部16、および受信部17を有している。
【0029】
音声処理部10は、入力された音声信号に対して各種の処理を施す部分である。この音声処理部10の構成は、各音声処理部10が行う処理に応じて異なるもので、例えば、エフェクタ2eのように入力されたデジタル音声信号に対して各種音響効果を与える装置、マイクなどの音源に接続されるAD変換装置、あるいはスピーカなどに接続されるDA変換装置などが使用される。この場合、最上位の装置であるルーターは、フレームデータの転送機能のみを有し、音声信号に対する各種のデジタル処理を行うことがないので、この音声処理部10は、単なる信号転送装置としての機能を有する。
【0030】
クロック生成部11は、上位装置1と複数の下位の音声処理装置2間の同期を取るためのワードクロックを生成する。ワードクロックの生成手段としては、公知の技術を使用することができるが、上位装置1と下位装置2間では、信号の伝送に遅延を生じることから、本実施形態のクロック生成部11は、設定された遅延時間に基づいて所定のタイミングでワードクロックを生成する。
【0031】
遅延時間設定部12は、上位装置1と下位装置2との間でフレームデータを送受信する際に発生する遅延時間を演算し、その演算結果を自己の装置で発生するワードクロックの遅延時間とする。そのため、遅延時間設定部12は、遅延時間測定用のデータ(具体的には、上位装置と下位装置の接続開始時に送受信されるフレームデータ)を、下位装置に対して発信した時刻を記憶部15に記憶させる発信時刻設定部12aを有する。また、遅延時間設定部12は、前記送信データに対する下位装置2から応答の時刻を取得する応答時刻取得部12bと、前記発信時刻と応答時刻に基づいて伝送遅延時間を演算する演算部12cを備えている。
【0032】
状態設定部13は、上位装置1と下位装置2との接続状態を表すデータを設定する。この状態設定部13は、上位装置1と下位装置2との接続状態を監視して、両者の接続状態に応じて上位装置と下位装置を初期化「init」、クロック同期「clkset」、待機「idle」のいずれかの状態に設定し、設定した状態データを記憶部15に記憶する。
【0033】
段数設定部14は、下位装置の接続時に記憶部15から読み出した自己の段数データを下位装置に送信する段数データ送信部14aと、上位装置から受信した段数データに「1」を加えて自己の段数データを生成する段数データ作成部14bと、作成した自己の段数データ(最上位のルーターでは予め設定されている段数データ)を記憶部15に記憶させる段数データ書込部14cと、を有する。最上位の装置であるルーターの場合には、段数データ作成部14bは不要であり、段数データ書込部14cを利用して、予め記憶部15内に自己の段数データ「0」を記憶しておく。同様に、エフェクタ2eなどの音声処理装置であって、ルーターに直接接続され、その下位には他の音声処理装置が接続されないものは、その段数データ「1」を予め記憶部15内に書き込んでおいても良い。
【0034】
記憶部15は、音声処理装置が実行する各処理において記憶すべき各種のデータを記憶するものであって、例えば、前記の遅延時間測定用のデータの発信時刻や、遅延時間設定部12が測定した伝送遅延時間を記憶する。また、記憶部15は、上位装置1と下位装置2との接続状態に関するデータと、各装置に設定された段数データ、及び固定遅延時間も記憶する。
【0035】
送信部16は、上位装置1と下位装置2の間で送受信される各種のデータを、フレームデータの形で送信する。受信部17は、下位装置2と上位装置1の間で送受信される各種のデータを、フレームデータの形で受信する。制御部18は、上位装置1を構成する各部の動作や、上位装置1と各下位装置2間における送受信タイミングなど、上位装置1の動作全般を制御する。
【0036】
[2−2.下位装置の構成]
図2に示すように、本実施形態の下位装置2のそれぞれは、音声処理部20、クロック生成部21、遅延時間設定部22、状態設定部23、段数設定部24、記憶部25、送信部26、および受信部27を有している。
【0037】
下位装置2における各部の構成は、段数設定部24において段数データ作成部24bが不可欠な点、及び以下に述べる遅延時間設定部22以外は、上位装置1の各部の構成と同様である。すなわち、自己の下段に他の下位装置が接続された場合には、下位装置2は上位装置1として機能することから、上位装置1と同様な構成を有する。
【0038】
下位装置2における遅延時間設定部22は、上位装置1の遅延時間設定部12の機能に加えて、予め各装置に共通に設定された固定遅延時間(固定タイミングとも呼ばれる)を、下位装置2の記憶部25に予め記憶させておく。この固定遅延時間は、フレームのデータ送信時にすべての下位装置2に共通して設定する遅延時間である。すなわち、各下位装置2は、この固定遅延時間と自己の段数とに基づいて、上り方向の送信タイミングを、自装置のワードクロックよりもどれだけ早めるかを決定する。例えば、96kHz時のワードクロックを使用し、カスケード接続の段数を8段に設定したので、この固定遅延時間を次のように決定する。すなわち、1段当たりの固定遅延時間を、96kHz時のワードクロック周期(約10μs)内に8段分が収まる時間として、1μs(最大)とする。この固定遅延時間は、接続前の各下位装置2に予め記憶させておいても良いし、接続後において、ルーターからすべての下位装置2にフレームデータに載せて送信しても良い。
【0039】
本実施形態において、遅延時間設定部22が、予め各装置に共通に設定された固定遅延時間を下位装置2の記憶部25に予め記憶させておくのは、各上位装置と下位装置間のケーブル長が等しく、各段の遅延時間が等しくなるように設定したからである。通常、上位装置と下位装置を接続するケーブルはその規格によって同じ長さのものを選択することができるため、遅延時間を等しく設定することが可能である。
【0040】
仮に、ケーブル長が各段ごとに異なる場合には遅延時間も異なるので、各装置に共通の固定遅延時間を採用することは好ましくない。その場合には、以下に述べるワードクロックの同期処理によって得られた各段の上位装置と下位装置間の遅延時間を、自己の段数に至るまで加算して、各段の下位装置それぞれと最上位の装置との遅延時間を決定する。
【0041】
[3.実施形態の作用]
[3−1.ワードクロックの同期処理]
下位装置2が自装置のワードクロックを上位装置1のワードクロックに同期させる処理について説明する。
【0042】
上位装置1及び下位装置2は、ネットワークに新たな装置が接続された際に、接続相手に自装置が接続処理のどの状態にあるかを通知するためのデータとして、接続状態データを作成し、これを記憶部15,25に保存している。上位装置1と下位装置2は、この接続状態データを、他の装置の交信の状況などに伴い変化する自装置の状態に応じて更新しながら、ワードクロックの同期処理を進める。
【0043】
図3に示すように、上位装置1に新たな下位装置2が接続されると、上位装置の状態設定部13は、この接続処理を検出して自己の接続状態「Status」を初期化「init」に設定し、そのデータ「init」を記憶部15に記憶させると共に、この接続状態データ「init」を、自己のワードクロックに同期したタイミングで下位装置2に送信する。この場合、接続状態データ「init」は、自装置から下位装置2に送信する他のデータと共に、フレームデータの一部として送信される。
【0044】
上位装置1からフレームデータを受信した下位装置2では、その状態設定部23が、フレームデータの先頭部分に書き込まれたフレーム同期信号SYNCを検出し、このフレーム同期信号の受信間隔t1からワードクロックの周期、すなわち音声伝送システムで使用されているフレームフォーマットを検出する。下位装置2のクロック生成部21は、この検出したフレームフォーマットを記憶部25へ記憶する。フレームフォーマットとしては、例えば48kHzや96kHzが使用可能である。
【0045】
図4に示すように、上位装置1からのフレームデータを受信した下位装置2は、そこに含まれている上位装置からの接続状態データ「init」を検出すると、その状態設定部23が、自己の接続状態「Status」を上位装置に合わせて初期化「init」に設定して、これを記憶部24に記憶すると共に、上位装置に向けて自己の接続状態が初期化になったことを示す接続状態データ「init」をフレームデータに載せて送信する。
【0046】
上位装置1の遅延時間設定部12は、接続状態データ「init」の送信タイミングから、下位装置の接続状態データ「init」を受信するまでの遅延時間t2を取得する。遅延時間設定部12の発信時刻設定部12a、応答時刻取得部12b及び演算部12cによって、遅延時間t2の1/2の時間を下位装置2との間における伝送遅延時間t2/2として求め、これを記憶部15に記憶させる。
【0047】
上位装置1は、下位装置2との伝送遅延時間t2/2の演算及び記憶が完了したため、接続状態「Status」をクロック同期「clkset」に変更し、その接続状態データ「clkset」と伝送遅延時間t2/2、及び上位装置1に設定されている段数データをフレームデータに載せて下位装置2に送信する。この段数データは、上位装置1がルーターの場合には「0」であり、他の上位装置の場合には、その上位装置がルーターから何段目に接続されているかを示す数値であって、上位装置1の段数データ送信部14aによって下位装置2へ送られる。
【0048】
接続状態データ「clkset」を受信した下位装置2では、その遅延時間設定部22が、伝送遅延時間t2/2を記憶部24へ記憶させる。下位装置2のクロック生成部21は、記憶部25に設定された伝送遅延時間t2/2を考慮して自装置のワードクロックを生成する。具体的には、
図5に示すように、上位装置1からのフレームデータの受信タイミングt3から、フレームフォーマット周期Tから伝送遅延時間t2/2を減算した時間経過した後(t3からT−t2/2時間後)を、自装置のワードクロックの立ち上がりのタイミングとする。このタイミングで下位装置のクロック生成部21がワードクロックを生成することで、上位装置1と下位装置2とは、ワードクロックを同期することができる。
【0049】
[3−2.上位送信タイミングの設定処理]
下位装置2が上位装置1へフレームデータを送信するタイミングを設定する処理について説明する。
【0050】
図6に示すように、下位装置2は、上位装置1から送信される接続状態データが「clkset」の場合において、受信したフレームデータに含まれる段数データから、上位装置1の段数を取得する。下位装置2の段数データ作成部24bは、この取得した上位装置の段数に「1」を加えた数値を作成し、段数データ書込部24cがこの数値を自装置の段数として記憶部25に記憶させる。例えば、ルーターに接続されている音声処理装置2は、ルーターからその段数データ「0」を受信して、それに「1」を加えた段数データ「1」を自己の段数データとして記憶部25に記憶する。
【0051】
下位装置2の送信部26は、最上位装置であるルーターのワードクロックに同期している自装置のワードクロックに対して、予め設定されている固定遅延時間(本実施形態では1μs)に、自装置に設定された段数データの値を乗じることで得られた時間分早いタイミングで、自己のフレームデータを上位装置へ送信する。従って、段数データが「1」の下位装置2の場合は、
図7に示すように、自装置のワードクロックの立ち上がりに対して、1μs早く送信する。
【0052】
このように上り方向の送信タイミングを、同期しているワードクロックに対して固定遅延時間×段数分早く送信することで、最上位装置(本実施形態ではルーター)は、どの段の下位装置からのフレームデータであっても、ワードクロックに同期した同時刻に受信することができる。
【0053】
図6に示すように、下位装置2は、ワードクロックの同期処理および上り方向の送信タイミングの設定が完了すると、接続状態「Status」のクロック同期データを「init」に更新する。次に、下位装置2は、上位装置1からの接続状態データが「clkset」のフレームデータを受信すると、接続状態「Status」のクロック同期データを「init」から「clkset」に更新した後、自装置1のワードクロックと同期している自装置のワードクロックの立ち上がりに対して「固定遅延時間×段数」分早いタイミングで上位装置1へ、接続状態データ「clkset」を含むフレームデータを送信する。
【0054】
接続状態データが「clkset」のフレームデータを受信した上位装置1は、接続された下位装置2と接続設定が完了したため、接続状態「Status」を待機「idle」に更新し、この接続状態データ「idle」を含むフレームデータを下位装置2へ送信する。接続状態データ「idle」を含むフレームデータを受信した下位装置2は、上位装置1との接続設定が完了したため、接続状態「Status」を待機「idle」に更新して、その接続状態データ「idle」を含むフレームデータを上位装置1へ送信する。
【0055】
以上の処理により、上位装置1と下位装置2の新たな接続関係が発生した場合に、接続された上位装置1と下位装置2の間で伝送遅延時間及び段数データを送受信することにより、ワードクロックの同期処理と上り方向の送信タイミングの設定を行うことができる。これらの処理は、新たな接続関係が発生した上位装置1と下位装置2の間でのみで行われるため、既にネットワークに接続されている他の装置に影響を与えることはない。
【0056】
[3−3.第2段目以降の処理]
前記の説明は、上位装置1と下位装置2との間のワードクロックの同期処理及び送信タイミングの設定について説明したが、これらの処理は、ルーターとそれに接続された第1段目の下位装置2間の処理に限らない。第1段目の下位装置に第2段目の下位装置を接続する場合には、前記の様にしてルーターのワードクロックと同期したワードクロックを有する第1段目の下位装置2が上位装置1になって、第1段目の下位装置と第2段目の下位装置間でワードクロックの同期と送信タイミングの設定が行われる。
【0057】
この場合、第2段目の下位装置には、第1段目の下位装置に記憶されている段数データ「1」が送信されるので、第2段目の下位装置はこれに「1」を加えて、自己の段数データを「2」として自己の記憶部25に記憶する。
【0058】
[3−4.カスケード接続における送信タイミングの設定]
前記の様にして、新たな下位装置がネットワークに接続された結果、複数段の音声処理装置が多段に接続された状態となる。その場合、各段の音声処理装置における下り方向及び上り方向のフレームデータの送信タイミングの設定は、次の通りである。
【0059】
本実施形態では、96kHz時のワードクロック周期(約10μs)で、固定遅延時間を1μsとしたので、音声処理装置は最大8台目までカスケード接続することができる。その場合、ルーター1からのフレームデータは、8台目の音声処理装置までそのまま通知される。すなわち、
図8に示すように、ルーター1から下位装置に送信されたフレーム番号「0」のフレームデータは、第1段目の音声処理装置2-1には遅延時間t1で、第2段目の音声処理装置2-2には遅延時間t2で受信される。
【0060】
これらの音声処理装置2-1,2-2のワードクロックは、前述のワードクロック同期処理によって、ルーター1のワードクロックと同期している。そのため、異なる遅延時間で各音声処理装置2-1,2-2において受信されたフレームデータは、各音声処理装置2-1,2-2のワードクロックのタイミングで処理されることになり、ルーター1から最下段の音声処理装置のいずれにおいても同時刻で、音声信号に対するデジタル処理が行われる。
【0061】
図9に示すように、フレームデータの上り方向への送信は、次のように行われる。すなわち、末端(最下段)の音声処理装置2-2からフレームデータを送信し、中間の音声処理装置1-1は受信したフレームデータに自己のデータを載せてルーター1まで通知する。その場合、前述したワードクロックの同期処理と送信タイミングの設定処理の際に、各段の音声処理装置の記憶部には、その段数データと固定遅延時間1μsが記憶されている。そこで、各音声処理装置2-1,2-2における送信タイミングは、同期しているワードクロックの立ち上がりよりも自己の「段数×固定遅延時間」分早い時間とする。このようにすると、カスケード接続された音声処理装置の段数が異なっていても、ルーター1は同じタイミングでフレームデータを受信することができる。
【0062】
[4.実施形態の効果]
以上のような本実施形態では、各音声処理装置は、接続されている上位装置との伝送遅延時間t2/2分遅らせて、自装置のワードクロックを生成し、このワードクロックを基準として音声処理を行うことができる。これにより、複数の音声処理装置は、伝送遅延の影響を受けることなく同時に音声処理を行うことができる。従って、音声処理のタイミングがずれることによる音質低下を抑制できるため、高音質な音声伝送システムを実現できる。
【0063】
また、各音声処理装置は、自装置のカスケード接続された段数から最上位装置が確実にデータ受信できるタイミングでフレームデータを送信する。これにより、カスケード接続の段数が異なる場合でも、ルーターは常にワードクロックに同期したタイミングで下位装置からのフレームデータを受信することができる。
【0064】
特に、本実施形態では、接続側と被接続側の2つの装置間でのみ接続関係の構築をおこなうため、下位装置が追加若しくは削除されても、ネットワーク上の他の装置は、その影響を受けることなく通信を継続することができる。これにより、下位装置の追加若しくは削除時において、ネットワークの再構築が必要なくなり、通信の瞬断が起こることのない高音質な音声伝送システムを実現することができる。
【0065】
[5.他の実施形態]
以上のように、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、発明の範囲を限定することを意図しておらず、以下に列記するように、発明の要旨を逸脱しない範囲で、そのほかの様々な形態で実施されることが可能であり、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。そして、これら実施形態、それらの組合せ、更にはそれらの変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0066】
(1)段数データを上位装置から下位装置に送信する代わりに、予め各下位装置に段数データを手動で設定することもできる。
【0067】
(2)固定遅延時間を各下位装置に予め設定しておく代わりに、上位装置にのみ固定遅延時間を設定しておき、上位装置からフレームデータに載せて下位装置に固定遅延時間を送信しても良い。
【0068】
(3)図示の実施形態では、ワードクロックの同期や送信タイミングの設定を行う際に、上位装置と下位装置の間で状態データを交換することで同期処理や送信タイミングの設定処理が確実に行われたことを確認しているが、この確認処理を行うことなく、上位装置が伝送遅延時間t2/2を下位装置に送信した後一定の時間が経過した場合に、同期処理や送信タイミングの設定が完了したと判断することも可能である。
【0069】
(4)上位装置1と下位装置2間のケーブル長が各段で異なる場合には、ワードクロックの同期処理によって得られた各段の上位装置と下位装置間の遅延時間を各下位装置に記憶しておき、これらの遅延時間を自己の段数に至るまで加算して、各段の下位装置それぞれと最上位の装置との遅延時間を決定する。このようにすると、ケーブル長が異なっても、それに応じた遅延時間分だけ下位装置から早いタイミングでデータを送信できるので、各下位装置から最上位の装置へのデータ到達タイミングを一致させることができる。
【0070】
(5)図示の実施形態は、下位装置が自装置よりも複数段遡った上位装置に対してデータを送信する場合について説明したが、隣接する上位装置にデータを送信する場合には、固定遅延時間分だけ送信タイミングを早めれば良い。また、精度が問われない場合は送信タイミングを早める必要はなく、例えば、固定遅延時間や送信タイミングを全く考慮することなく自己のワードクロックに基づいてデータを送信しても良いし、すべての下位装置において自己のワードクロックよりも固定遅延時間分だけ送信タイミングを早めても良い。
【0071】
すなわち、上位装置と下位装置のワードクロックを同期する際に、上位装置から送信された遅延時間測定用のデータは、下位装置内のFPGA等を通過して再び上位装置に返信されるため、測定された遅延時間には、下位装置の処理時間や伝送路長に基づく遅延時間も含まれている。従って、隣接する下位装置と上位装置との間では、送信タイミングを早める必要ないが、
図9に示すように、下位装置のデータに中間段の装置のデータを載せて、ルーターなどの上位装置に送信する場合、下位装置のデータと中間段の装置のデータが同じタイミングで上位装置に到達する必要が有る場合には、段数×固定遅延時間分、送信タイミングを早めることが望ましい。
【0072】
(6)図示の実施形態は、上位装置のワードクロックを基準として下位装置のワードクロックを同期させるようにしたが、同様な手法により、下位装置のワードクロックに上位装置のワードクロックを同期させることができる。その場合、請求項におけるネットワークの上位装置とは、ワードクロックの基準となる側の装置を意味し、下位の装置とはワードクロックを同期させる側の装置を意味する。