(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5809255
(24)【登録日】2015年9月18日
(45)【発行日】2015年11月10日
(54)【発明の名称】タービン翼熱障壁の損傷の測定
(51)【国際特許分類】
G01N 25/72 20060101AFI20151021BHJP
F02C 7/00 20060101ALI20151021BHJP
F01D 5/28 20060101ALI20151021BHJP
F01D 25/00 20060101ALI20151021BHJP
G01N 17/00 20060101ALI20151021BHJP
G01M 99/00 20110101ALI20151021BHJP
G01J 5/48 20060101ALN20151021BHJP
【FI】
G01N25/72 K
F02C7/00 A
F02C7/00 D
F01D5/28
F01D25/00 V
G01N17/00
G01M99/00 A
F01D25/00 X
!G01J5/48 A
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-512975(P2013-512975)
(86)(22)【出願日】2011年5月27日
(65)【公表番号】特表2013-536401(P2013-536401A)
(43)【公表日】2013年9月19日
(86)【国際出願番号】FR2011051227
(87)【国際公開番号】WO2011151582
(87)【国際公開日】20111208
【審査請求日】2014年4月15日
(31)【優先権主張番号】1054371
(32)【優先日】2010年6月3日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】505277691
【氏名又は名称】スネクマ
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ミストラル,カンタン
【審査官】
後藤 大思
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−228105(JP,A)
【文献】
特開2011−214955(JP,A)
【文献】
特開2007−57346(JP,A)
【文献】
特開2009−236630(JP,A)
【文献】
欧州特許出願公開第01494020(EP,A1)
【文献】
特開平9−279364(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0312956(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 25/00−25/72
G01N 17/00
G01N 3/60
G01N 33/20
G01M 13/00−13/04
G01M 99/00
F01D 1/00−11/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基材(1)に形成され、使用に際して酸化気体媒質中に配置される部品上に付着された熱障壁に対する損傷を評価する方法にして、前記熱障壁は、アルミニウム下部層(2)、および前記基材(1)に対して垂直に配向された円柱形構造を備えるセラミック材料の層(4)を含み、前記下部層(2)は、前記基材(1)と前記セラミック層(4)との間に位置し、前記損傷は、前記下部層(2)に存在する酸化金属の厚みによって定義される方法であって、
少なくとも以下のサブステップを含む第一較正ステップ:
前記基材(1)に形成され、前記熱障壁によって被覆された所定数の較正素子(10)であって、前記使用を表す酸化条件に対する異なる時間にわたる曝露によって損傷を受けている較正素子(10)を選択するサブステップ、
前記較正素子(10)を、所定時間にわたって電磁放射に曝露するサブステップ、
各較正素子(10)について、前記時間後に表面上で得られる温度を測定するサブステップ、および
測定された温度上昇を被った損傷に関連づけて、較正曲線を確立するサブステップ
と、
以下のサブステップを含む、評価すべき前記部品の熱障壁に対する損傷を測定するための第二ステップ:
前記部品を、前記所定時間にわたって前記放射に曝露するサブステップ、
前記時間後に表面上で得られる温度を測定するサブステップ、
前記時間後の測定温度の上昇を、較正曲線上にプロットするサブステップ、および
前記較正曲線から損傷を抽出するサブステップ
と、を含むことを特徴とする、方法。
【請求項2】
放射が、可視領域の光放射である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
放射が、少なくとも1つのハロゲンランプ(11)の照射によって提供される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
表面温度の測定が、赤外線で動作するカメラ(12)によって実行される、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
タービンエンジンのタービン翼に適用される、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野は、タービンエンジンの分野であり、より具体的には高温に曝されるこれらタービンエンジンの部品の寿命の分野である。
【背景技術】
【0002】
タービンエンジンの高温部分の部品、具体的にはタービン翼は、使用中に極端に高い温度条件に曝され、これらの過酷な条件に耐えられるようにする保護策が考えられてきた。その中には、これらが内部に形成される金属を保護する、熱障壁と称される被膜の、その外面への付着が含まれる。熱障壁は主におよそ100ミクロンのセラミック層からなり、これは金属層の表面に対して垂直に付着される。セラミックと金属基材との間に配置された、数十ミクロンのアルミニウムでできた下部層は、酸化に対する翼の金属の保護とともに、これら2つの部品の間の接合を提供することによって、熱障壁を完成させる。
【0003】
セラミックは低い熱膨張率しかないという欠点を有しており、その一方で、翼を形成する基材は、高い熱膨張率を有する超合金タイプの金属でできている。円柱は基材の新しい幅に適合するために互いに分離することができるので、熱膨張率の差は、円柱型形状のセラミックの形成によって補償される。
【0004】
この結果の1つは、タービンエンジンのジェット噴流の中を流れる気体に存在する酸素が、下層部のアルミニウムと接触して、これを徐々に酸化させることである。こうして、生成されたアルミナの層の厚みに依存する、熱障壁の経年劣化が観察される。これが特定レベルの損傷に到達すると、アルミニウム下部層はもはやその弾性の機能を果たさず、層間剥離が見られ、熱障壁の剥落が生じる。すると基材の金属はもはや保護されず、翼は非常に急速に劣化する危険に曝される。
【0005】
したがって、熱障壁に対する損傷のレベルを知り、この剥落の出現を未然に防ぐことが、重要である。熱障壁の状態を監視して、翼を使用し続けることが可能か否かを知るための、多くの技術が考えられてきた。この中でも、剥落がすでに発生したときに不良を検出する目視検査、赤外線サーモグラフィ、またはやはりピエゾ分光法が、知られている。赤外線サーモグラフィは、欧州特許出願第1494020号の場合のように、製品の局所的熱特性を修正するということによって、剥落の前兆であるアルミニウム下部層の層間剥離を検出するだけのために、現在まで使用されてきた。しかしながら、これは不良がすでに発生したときにのみ機能する。ピエゾ分光法は、セラミック熱障壁とアルミニウム下部層との間の界面に存在する応力を測定する。熱障壁がその部分に接着している限り、応力はその界面で測定され、障壁が健全であることがわかるが、その一方で応力の不存在は、この界面における亀裂の出現に対応する。ここでもまた、検出は不良の出現後にしか行われない。
【0006】
不良の検出によってのみ機能する、既存の方法では、部品の余寿命を予測することも、損傷がひどくなりすぎる前に介入することも、できない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、不良の先行出現に基づかない熱障壁の経年劣化を測定する方法を提供することによって、上述の欠点を克服することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的のため、本発明の対象は、金属基材に形成された部品上に付着された熱障壁に対する損傷を評価する方法にして、前記熱障壁は、アルミニウム下部層、および前記基材に対して垂直に配向された円柱型形状のセラミック材料の層を含み、前記下部層は前記基材と前記セラミック層との間に位置し、前記部品は使用中に、酸化気体媒質および前記下部層の酸化による前記損傷の発生源と接触して配置されるように設計されており、前記損傷は前記下部層に存在する酸化金属の厚みによって定義される方法であって、少なくとも以下のサブステップを含む第一較正ステップ:
−前記基材に形成され、前記熱障壁によって被覆された、所定数の較正素子の選択であって、前記素子は、前記使用を表す酸化条件に対する異なる時間にわたる曝露によって損傷を受けている、選択、
−電磁放射線に対する前記較正素子の、所定時間にわたる曝露、
−各較正素子について、所定時間後に表面上で得られた温度の測定、
−測定された温度上昇を被った損傷に関連づける較正曲線の確立
と、以下のサブステップを含む、前記素子の熱障壁に対する損傷を測定するための第二ステップ:
−前記時間にわたる、評価すべき素子の前記放射線への曝露、
−前記所定時間後に表面上で得られた温度の測定、
−前記所定時間後の測定された温度上昇の、較正曲線上のプロット、および
−前記較正曲線からの損傷の抽出
とを含むことを特徴とする、方法。
【0009】
所定時間にわたって印加された放射線の作用の下の温度上昇は、評価すべき部品が被った連続的な損傷の過程で形成されたアルミナの層の厚みを表す。損傷の予備知識のあるサンプルで実行される較正によって、部品の熱障壁が被った損傷は、観察された温度上昇を読み取ることのみによって、判断されてもよい。
【0010】
好ましくは、放射は、可視領域の光放射である。この周波数範囲において、セラミック層は透過性であり、加熱手段はアルミナの層に直接作用する。アルミナ層の厚みに応じて、ならびにその絶縁性の結果として、基材の方向への熱の放散は容易に発生するかも知れないし発生しないかも知れず、そのため多少の熱が、評価すべき部品の表面に向けられる。
【0011】
有利なことに、放射は、少なくとも1つのハロゲンランプの照射によって提供される。したがってこれは、可視領域全体にわたって高い放射出力を有するランプに相当する。
【0012】
好ましくは、表面温度の測定は、赤外線で動作するカメラによって実行される。
【0013】
本発明は具体的には、タービンエンジンのタービン翼に対する損傷の測定への、上述の方法の適用に関する。
【0014】
以下の詳細な説明記述、ならびに添付図面を参照して純粋に説明目的で非限定的な例によって提示される本発明の1つ以上の実施形態の過程で、本発明はより良く理解され、本発明のその他の目的、詳細、特徴、および利点がより明確になるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】タービン翼のための熱障壁の物理構造の模式図である。
【
図2】熱障壁に対する損傷の評価用の、本発明による方法の実現のための、実験構成の図である。
【
図3】本発明による方法の実現の最中の、いくつかのサンプルの表面温度の時間関数としての変化を示す図である。
【
図4】本発明による方法の実現の最中に到達した温度と、評価されたサンプルが事前に被った損傷との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1を参照すると、タービン翼の表面に付着された熱障壁の構造の断面図が見られる。翼の金属成分、通常はニッケルを含有する超合金は、基材1とセラミック層4との間に挟まれるアルミニウムの層2が付着される、基材1を形成する。アルミニウムの層の機能は、高い熱膨張率を有する基材1と低い熱膨張率を有するセラミック4との間に存在する熱膨張率の差を吸収できるようにするため、アセンブリに特定の弾性を付与することである。
【0017】
セラミック4は円柱構造を有しており、これは円柱の間の亀裂の出現のため、側方変位を可能にする。しかしながら、この結果の1つは、アルミニウムが、タービンエンジンのジェット噴流の中を流れる気体によって担持される酸素と接触することである。アルミニウムの層2はこのように、所定の厚みにわたって、アルミナの層3に変換される。アルミナの層の厚みは高温で費やされた時間の関数であり、これは熱障壁が被った損傷の指標を構成する。本発明は、前記アルミナの層3の厚みを測定するための技術を提供することにある。
【0018】
ここで
図2を参照すると、その寿命の間に熱障壁が被る損傷の、本発明による方法を用いる分析に使用されることが可能な、装置構成が見られる。
【0019】
図1に記載されるような、その損傷が測定される熱障壁によって被覆された素子10は、ここでは2つのハロゲンランプ投光器の形態で示される、加熱システム11に対向して配置される。素子10の表面温度を測定する手段12はその向かいに配置され、測定温度の経時的変化を記録する手段(図示せず)は、これに関連づけられている。実行される実験において、この構成は不可欠なわけではないが、測定手段12は、50Hzの動作周波数および320×240の解像度を有する、非冷却ボロメータのマトリクスを備える熱カメラである。
【0020】
図3は、
図2の装置によって測定された、較正時間(通常は10秒)だけ加熱する間、そしてその後の冷却の間の、素子10の表面温度θの経時的挙動を示す。この挙動は、図中「a」から「e」で付番される、5つのサンプルについて示されており、これらは同じ円筒形の駒の形状を有し、使用中の翼の上で評価することが望ましいものと類似の熱障壁で被覆されている。これら5つの駒は、それぞれ5つの曲線で示された0、5、10、50、または100回の標準経年劣化サイクルにそれぞれ相当する、異なる経年劣化処理を受けた。1つの経年劣化サイクルは、温度適用の期間、続いて飛行中のタービンエンジンの部品が被る損傷を表すと考えられる冷却の期間に、相当する。
【0021】
様々な駒10が曝されるサイクル数はこのように、評価中の熱障壁を備えるタービン翼の特定の運転時間数を表す。5つのうちで最も高い曲線「a」は、最低の経年劣化を有する駒10に対応し、その一方で最低の曲線「e」は、最大損傷を受けた駒に対応する。5つの曲線は、その経年劣化の減少にしたがって、互いに上下に並んでいる。
【0022】
図4は、受けた経年劣化サイクルの数に応じて、駒10での評価を行うために選択された時間の後、測定手段12によって測定された最大加熱Δθの値を、ノモグラフに示す。観察された最高温度の値と部品が受けたサイクル数との間には、規則的な減少、および結果的に一対一の関連性が、観察された。唯一の温度上昇は、受けたサイクル数と関連づけられ、逆にいうと、サイクル数は温度上昇に関連づけられることが可能である。
【0023】
本発明による、熱障壁に対する損傷を評価する方法の実現は、
図2の装置構成を用いて、および上述の駒10を実験モデルとして、以下に記載される。
【0024】
工程は、赤外線カメラ12の電源を入れて、加熱手段11を通電することによって、開始される。駒10の加熱は、たとえばおよそ10秒などの所定持続時間だけ維持され、その後スイッチが切られ、駒はその後、
図3に示されるように、自然冷却される。この時間の間ずっと、駒の表面温度が赤外線カメラ12によって測定される。得られた記録を分析することによって、駒10において到達した最高温度の値が正確に測定され、問題の駒10が先に受けた経年劣化サイクルの数の関数として得られた温度の最大増加を示す図(
図4参照)にプロットされる。
【0025】
異なる経年劣化量を有する、評価された5つの駒によって、特許請求される方法は、
図4の曲線、言い換えると所定の加熱時間にわたって観察された最大加熱と先に受けた経年劣化との間に存在する関係に、存する。この情報収集は当然ながら、より正確であってその不確実さの限界がより良く知られている、損傷の関数としての最大加熱の曲線を得るために、より多くの駒、およびより多様な駒の経年劣化サイクル数で、実行されてもよい。
【0026】
この曲線を用いると、同じ手段11を用いてその損傷状態が求められる翼に、曲線の確立に使用されたのと同じ加熱時間だけ加熱を適用することによって、到達する最大温度を測定することが可能になる。すると被った損傷は、
図4の曲線上に測定値をプロットすることによって、およびここから、横座標上で、受けたサイクル数を推定することによって、非常に単純に得られる。このサイクル数がわかっていると、所定時間だけこれを戻して使用するために、またはその熱障壁を再生するためにこれを修理に出すために、ここから部品の余寿命を推定することは容易である。
【0027】
本発明によって提供される利点は、実際に損傷している翼のみが修理に出された状態での翼のより良好な使用、および使用中の翼の最適な使用にある。結果は、平均故障間隔すなわちMTBFおよび/または平均オーバーホール間隔すなわちTBOの増加となり、この結果、タービンエンジンの所有のオーバーホール費用の非常に実質的な削減を招く。
【0028】
本発明によって実行される方法の原理は、翼の熱障壁に使用されるセラミックが有する、可視光を透過させる特性による、アルミナの厚みの測定に基づいている。ハロゲンランプによって放射された可視光の光子は、アルミナの層3に到達してこれを加熱するように、セラミックの層4を通過する。アルミナは絶縁体なので、受けた熱は、アルミニウムの層2および基材1の内部ではなく、好ましくはセラミック層4の側に放散する傾向がある。したがってこの放散は、熱障壁に存在するアルミナの層の厚みに応じて、すなわち翼が先に受けた経年劣化に応じて、異なって発生する。被った経年劣化が大きいほど、アルミナの層の厚みは大きくなり、熱流はますますセラミック層に向けられる;この結果、部品の表面温度が高くなる。このため熱カメラ12による翼の表面の温度測定は、先に受けた経年劣化の正確な測定値を提供する。
【0029】
この損傷分析方法は、可視光の使用を伴って、ならびにこの波長に対するセラミックの透過特性を用いて、記載されてきた。
図4のグラフの形態の適応の後に、別の波長で放射される放射を用いて実行されることも、可能であろう。選択された波長をセラミックが透過させない場合には、温度の放散は、アルミナの影響およびその絶縁性により、異なるやり方で行われるだろう;すると、
図4の曲線の形状もまた異なってくる。いずれにせよ、セラミックと基材との間のアルミナの様々な厚みの層は、部品の表面温度の経時的な挙動に変化を生み出すことになる;すると、適切な実験の後に当業者の能力の範囲内の潜在的な適応によって、表面温度の経時的挙動を分析すること、ならびにこれらの挙動によって、熱障壁が被った損傷を判断することが、可能になる。