特許第5809276号(P5809276)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5809276
(24)【登録日】2015年9月18日
(45)【発行日】2015年11月10日
(54)【発明の名称】シクロオレフィン系共重合体樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 45/00 20060101AFI20151021BHJP
   C08L 53/02 20060101ALI20151021BHJP
【FI】
   C08L45/00
   C08L53/02
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-530925(P2013-530925)
(86)(22)【出願日】2011年8月30日
(86)【国際出願番号】JP2011069566
(87)【国際公開番号】WO2013030944
(87)【国際公開日】20130307
【審査請求日】2014年8月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中林 裕晴
(72)【発明者】
【氏名】井狩 芳弘
【審査官】 中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−097146(JP,A)
【文献】 特開2011−202085(JP,A)
【文献】 特開2008−239641(JP,A)
【文献】 特開2000−273265(JP,A)
【文献】 特開平11−021413(JP,A)
【文献】 特開平09−124854(JP,A)
【文献】 特開平09−001750(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)シクロオレフィン系共重合体100重量部と、
(B)(a)芳香族ビニル系化合物を主体とする重合体ブロックと(b)イソブチレンを主体とする重合体ブロックからなるイソブチレン系ブロック共重合体15〜50重量部を含有する透明なシクロオレフィン系共重合体であって、
(B)イソブチレン系ブロック共重合体が(B1)2万〜7万の数平均分子量を有するブロック共重合体と(B2)8万〜30万の数平均分子量を有するブロック共重合体からなり、かつ(B1)と(B2)の重量比率が5/95〜95/5であることを特徴とする透明なシクロオレフィン系共重合体樹脂組成物。
【請求項2】
(A)シクロオレフィン系共重合体と(B)イソブチレン系ブロック共重合体の23℃における屈折率(nD)の差が0.03以下であることを特徴とする請求項1に記載の透明なシクロオレフィン系共重合体樹脂組成物。
【請求項3】
(A)シクロオレフィン系共重合体が、1〜99重量%の少なくとも1種の環状オレフィンからなる構造単位と、99〜1重量%の非環状オレフィンからなる構造単位を有することを特徴とする請求項1または2に記載の透明なシクロオレフィン系共重合体樹脂組成物。
【請求項4】
(A)シクロオレフィン系共重合体が、50〜90重量%の少なくとも1種の環状オレフィンからなる構造単位と、50〜10重量%の非環状オレフィンからなる構造単位を有することを特徴とする請求項1または2に記載の透明なシクロオレフィン系共重合体樹脂組成物。
【請求項5】
(B)イソブチレン系ブロック共重合体が(a)芳香族ビニル系化合物を主体とする重合体ブロックを15重量%以上50重量%以下含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の透明なシクロオレフィン系共重合体樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は透明性と低応力白化と耐衝撃性のバランスに優れたシクロオレフィン系共重合体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シクロオレフィン系共重合体は、成形性、寸法安定性、透明性、防湿性に優れるが、耐衝撃強度については充分でないことから耐衝撃性を改良する検討がなされている。即ち、シクロオレフィン系共重合体の優れた透明性を保持しつつ、さらに耐衝撃性を向上させることが求められている。一般的に、透明で脆性的な熱可塑性樹脂の耐衝撃性を改良する方法として、非相溶のゴム成分をアロイ化することは公知である。この方法はシクロオレフィン系共重合体に対しても有効であり、例えば特許文献1、特許文献2では、シクロオレフィン系共重合体にゴム成分として、商業上入手可能なブロック共重合体(SBS、SEBS、およびSIS)をアロイ化することでシクロオレフィン系共重合体の耐衝撃性、靭性を改良する方法が開示されている。また、特許文献3ではシクロオレフィン系共重合体にゴム成分として芳香族ビニル化合物系重合体ブロックとイソブチレン系重合体ブロックからなるブロック共重合体をアロイ化することでシクロオレフィン系共重合体の耐衝撃性を改良する方法が開示されている。また、特許文献4ではシクロオレフィン系共重合体にゴム成分として芳香族ビニル化合物系重合体ブロックとイソブチレン系重合体ブロックからなるブロック共重合体、および芳香族ビニル−共役ジエン系共重合体にさらにコア−シェル構造の重合体を用いたシクロオレフィン系共重合体の耐衝撃性を改良する方法が開示されている。ただし、それらの方法は透明性と衝撃性と応力白化のバランスでは不十分なところがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平1−256548号公報
【特許文献2】特開2004−156048号公報
【特許文献3】特開平9−124854号公報
【特許文献4】特開平11−21413号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、透明性と耐衝撃性と低応力白化のバランスに優れたシクロオレフィン系共重合体樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち本発明は(A)シクロオレフィン系共重合体100重量部と、(B)(a)芳香族ビニル系化合物を主体とする重合体ブロックと(b)イソブチレンを主体とする重合体ブロックからなるイソブチレン系ブロック共重合体15〜50重量部を含有する透明なシクロオレフィン系共重合体であって、(B)イソブチレン系ブロック共重合体が2万〜7万の数平均分子量を有する(B1)と8万〜30万の数平均分子量を有する(B2)からなり、かつ(B1)と(B2)の重量比率が5/95〜95/5である透明なシクロオレフィン系共重合体樹脂組成物に関する。
【0007】
好ましい実施態様としては、(A)シクロオレフィン系共重合体と(B)イソブチレン系ブロック共重合体の23℃における屈折率(nD)の差が0.03以下である透明なシクロオレフィン系共重合体樹脂組成物に関する。
【0008】
好ましい実施態様としては、(A)シクロオレフィン系共重合体が、1〜99重量%の少なくとも1種の環状オレフィンからなる構造単位と、99〜1重量%の非環状オレフィンからなる構造単位を有する透明なシクロオレフィン系共重合体樹脂組成物に関する。
【0009】
好ましい実施態様としては、(A)シクロオレフィン系共重合体が、50〜90重量%の少なくとも1種の環状オレフィンからなる構造単位と、50〜10重量%の非環状オレフィンからなる構造単位を有する透明なシクロオレフィン系共重合体樹脂組成物に関する。
【0010】
好ましい実施態様としては、(B)イソブチレン系ブロック共重合体が(a)芳香族ビニル系化合物を主体とする重合体ブロックを15重量%以上50重量%以下含む透明なシクロオレフィン系共重合体樹脂組成物に関する。
【0011】
好ましい実施態様としては、厚みが2mmのシート状に成形した成形体のシャルピー衝撃強度が5N/m2以上、ヘイズ値が20以下、かつ引張破断伸びが10%以上である透明なシクロオレフィン系共重合体樹脂組成物に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明は透明性と低応力白化と耐衝撃性バランスに優れたシクロオレフィン系共重合体組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、(A)シクロオレフィン系共重合体100重量部と、(B)(a)芳香族ビニル系化合物を主体とする重合体ブロックと(b)イソブチレンを主体とする重合体ブロックからなるイソブチレン系ブロック共重合体15〜50重量部を含有する透明なシクロオレフィン系共重合体であって、(B)イソブチレン系ブロック共重合体が(B1)2万〜7万の数平均分子量を有するブロック共重合体と(B2)8万〜30万の数平均分子量を有するブロック共重合体からなり、かつ(B1)と(B2)の重量比率が5/95〜95/5であることを特徴とする透明なシクロオレフィン系共重合体樹脂組成物である。
【0014】
本発明の(A)シクロオレフィン系共重合体(以下COCということがある)とは、環状オレフィン構造を有する非晶性の重合体であり、好ましくは50〜250℃、より好ましくは80〜200℃、特に好ましくは80〜160℃のガラス転移温度を有する。ガラス転移温度が50℃未満では剛性が低くて剛性と耐衝撃性のバランスが悪く250℃を越えると加工が容易でなくなるので好ましくない。本発明に用いるCOCは、好ましくはCOC全量に対し、1〜99重量%の少なくとも1種の環状オレフィン、好ましくは下記式、I、II、III、IV、V、VI、またはVII(式中、R1〜R8は同一または異なってもよい、水素原子またはC1〜C20の炭化水素基であり、R1〜R8の少なくとも2つがC1〜C20の炭化水素基により環を形成してもよい。式VII中のnは2〜10の整数である。)で表される環状オレフィン、および99〜1重量%の少なくとも1種の非環状オレフィン、好ましくは下記式VIII(式中R9〜R12は同一または異なる、C1〜C20の炭化水素基である)で表される非環状オレフィンよりなる。より好ましくは、COCの全量に対して少なくとも1種の環状オレフィン50〜90重量%、少なくとも1種の非環状オレフィン50〜10重量%よりなる。環状オレフィンの量が50重量%を下回ると耐熱性に乏しくなる傾向があり、90重量%を上回ると加工性、耐衝撃性に乏しくなる傾向がある。
【0015】
【化1】
【0016】
好ましいCOCは、ノルボルネン基礎構造を有する環状オレフィン、特に好ましくはノルボルネンまたはテトラシクロドデセン又はこれらから誘導される構造を有する環状オレフィンと、末端二重結合を有する非環状オレフィン、例えばα−オレフィン、特に好ましくはエチレンまたはプロピレンとからなる。これらの中でも、ノルボルネン/エチレン、ノルボルネン/プロピレン、テトラシクロドデセン/エチレン、及びテトラシクロドデセン/プロピレンのコポリマーが特に好ましい。本発明の目的に適したCOCは、好ましくは25〜200ml/g、より好ましくは40〜80ml/gの粘度数(デカリン中135℃で測定)を有する。粘度数が25ml/g未満では成形体の剛性が不充分で、200ml/gを越えると成形加工性が悪くなる傾向があるため好ましくない。本発明に用いるCOCには、ポリプラスチックス株式会社製の"Topas"や、三井化学株式会社製の"APEL"といった市販品を用いることもできる。
【0017】
本発明における(B)イソブチレン系ブロック共重合体とは(a)芳香族ビニル系化合物を主体とする重合体ブロックおよび(b)イソブチレンを主体とする重合体ブロックからなるブロック共重合体である。
【0018】
(a)芳香族ビニル系化合物を主体とする重合体ブロックとは、芳香族ビニル系化合物に由来するユニットが60重量%以上、好ましくは80重量%以上から構成される重合体ブロックである。
【0019】
芳香族ビニル系化合物としては、スチレン、o−、m−又はp−メチルスチレン、α−メチルスチレン、β−メチルスチレン、2,6−ジメチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、α−メチル−o−メチルスチレン、α−メチル−m−メチルスチレン、α−メチル−p−メチルスチレン、β−メチル−o−メチルスチレン、β−メチル−m−メチルスチレン、β−メチル−p−メチルスチレン、2,4,6−トリメチルスチレン、α−メチル−2,6−ジメチルスチレン、α−メチル−2,4−ジメチルスチレン、β−メチル−2,6−ジメチルスチレン、β−メチル−2,4−ジメチルスチレン、o−、m−又はp−クロロスチレン、2,6−ジクロロスチレン、2,4−ジクロロスチレン、α−クロロ−o−クロロスチレン、α−クロロ−m−クロロスチレン、α−クロロ−p−クロロスチレン、β−クロロ−o−クロロスチレン、β−クロロ−m−クロロスチレン、β−クロロ−p−クロロスチレン、2,4,6−トリクロロスチレン、α−クロロ−2,6−ジクロロスチレン、α−クロロ−2,4−ジクロロスチレン、β−クロロ−2,6−ジクロロスチレン、β−クロロ−2,4−ジクロロスチレン、o−、m−又はp−t−ブチルスチレン、o−、m−又はp−メトキシスチレン、o−、m−又はp−クロロメチルスチレン、o−、m−又はp−ブロモメチルスチレン、シリル基で置換されたスチレン誘導体、インデン、ビニルナフタレン等が挙げられる。これらの中でも、工業的な入手性やガラス転移温度の点から、スチレン、α−メチルスチレン、および、これらの混合物が好ましく、特にスチレンが好ましい。
【0020】
(b)イソブチレンを主成分とする重合体ブロックとは、イソブチレンに由来するユニットが60重量%以上、好ましくは80重量%以上から構成される重合体ブロックである。
【0021】
いずれの重合体ブロックも、共重合成分として、相互の単量体を使用することができるほか、その他のカチオン重合可能な単量体成分を使用することができる。このような単量体成分としては、脂肪族オレフィン類、ジエン類、ビニルエーテル類、シラン類、ビニルカルバゾール、β−ピネン、アセナフチレン等の単量体が例示できる。これらはそれぞれ単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0022】
脂肪族オレフィン系単量体としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、ペンテン、ヘキセン、シクロヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、ビニルシクロヘキサン、オクテン、ノルボルネン等が挙げられる。
【0023】
ジエン系単量体としては、ブタジエン、イソプレン、ヘキサジエン、シクロペンタジエン、シクロヘキサジエン、ジシクロペンタジエン、ジビニルベンゼン、エチリデンノルボルネン等が挙げられる。
【0024】
ビニルエーテル系単量体としては、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、(n−、イソ)プロピルビニルエーテル、(n−、sec−、tert−、イソ)ブチルビニルエーテル、メチルプロペニルエーテル、エチルプロペニルエーテル等が挙げられる。
【0025】
シラン化合物としては、ビニルトリクロロシラン、ビニルメチルジクロロシラン、ビニルジメチルクロロシラン、ビニルジメチルメトキシシラン、ビニルトリメチルシラン、ジビニルジクロロシラン、ジビニルジメトキシシラン、ジビニルジメチルシラン、1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、トリビニルメチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。
【0026】
本発明の(B)イソブチレン系ブロック共重合体の構造は、(B1)GPC測定による2〜7万の数平均分子量を有するブロック共重合体と(B2)8〜30万の数平均分子量を有するブロック共重合体からなる。より好ましくは(B1)GPC測定による4〜7万の数平均分子量を有するブロック共重合体と(B2)8〜15万の数平均分子量を有するブロック共重合体からなる。
【0027】
さらに、(B1)と(B2)の重量比率は5/95〜95/5である。より好ましくは(B1)と(B2)の重量比率は15/85〜95/5である。(B1)/(B2)の重量比率が5/95を下回ると応力時の白化が激しくなるおそれがあり、一方95/5を越えると衝撃強度が低下するおそれがある。
【0028】
加工性安定の観点から(B1)と(B2)の重量平均分子量/数平均分子量が1.5以下であることが好ましい。
【0029】
本発明の(B)イソブチレン系ブロック共重合体は、芳香族ビニル系ブロックとイソブチレン系ブロックから構成されている限り、その構造には特に制限はなく、例えば、直鎖状、分岐状、星状等の構造を有するブロック共重合体、ジブロック共重合体、トリブロック共重合体、マルチブロック共重合体等のいずれも選択可能である。好ましい構造としては、物性バランス及び成形加工性の点から、芳香族ビニル系重合体ブロック−イソブチレン系重合体ブロック−芳香族ビニル系重合体ブロックで構成されるトリブロック共重合体が挙げられる。これらは所望の物性・成形加工性を得る為に、それぞれ単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0030】
(a)芳香族ビニル系重合体ブロックと(b)イソブチレン系重合体ブロックの割合に関しては、特に制限はないが、柔軟性、屈折率およびゴム弾性の点から、(B)成分における(a)芳香族ビニル系重合体ブロックの含有量が15重量%以上50重量%以下であることが好ましく、20重量%以上45重量%以下であることがさらに好ましい。
【0031】
(B)イソブチレン系ブロック共重合体の製造方法については特に制限はないが、例えば、下記一般式(IX)で表される化合物の存在下に、単量体成分を重合させることにより得られる。
(CR1314X)nR15 (IX)
[式中Xはハロゲン原子、炭素数1〜6のアルコキシ基またはアシロキシ基から選ばれる置換基、R13、R14はそれぞれ水素原子または炭素数1〜6の1価炭化水素基でR13、R14は同一であっても異なっていても良く、R15は一価若しくは多価芳香族炭化水素基または一価若しくは多価脂肪族炭化水素基であり、nは1〜6の自然数を示す。]
上記一般式(IX)で表わされる化合物は開始剤となるものでルイス酸等の存在下炭素陽イオンを生成し、カチオン重合の開始点になると考えられる。本発明で用いられる一般式(IX)の化合物の例としては、次のような化合物等が挙げられる。
【0032】
(1−クロル−1−メチルエチル)ベンゼン[C65C(CH32Cl]、1,4−ビス(1−クロル−1−メチルエチル)ベンゼン[1,4−Cl(CH32CC64C(CH32Cl]、1,3−ビス(1−クロル−1−メチルエチル)ベンゼン[1,3−Cl(CH32CC64C(CH32Cl]、1,3,5−トリス(1−クロル−1−メチルエチル)ベンゼン[1,3,5−(ClC(CH32363]、1,3−ビス(1−クロル−1−メチルエチル)−5−(tert−ブチル)ベンゼン[1,3−(C(CH32Cl)2-5−(C(CH33)C63
これらの中でも特に好ましいのはビス(1−クロル−1−メチルエチル)ベンゼン[C64(C(CH32Cl)2]、トリス(1−クロル−1−メチルエチル)ベンゼン[(ClC(CH32363]である。[なおビス(1−クロル−1−メチルエチル)ベンゼンは、ビス(α−クロロイソプロピル)ベンゼン、ビス(2−クロロ−2−プロピル)ベンゼンあるいはジクミルクロライドとも呼ばれ、トリス(1−クロル−1−メチルエチル)ベンゼンは、トリス(α−クロロイソプロピル)ベンゼン、トリス(2−クロロ−2−プロピル)ベンゼンあるいはトリクミルクロライドとも呼ばれる]。
【0033】
(B)イソブチレン系ブロック共重合体を製造する際には、さらにルイス酸触媒を共存させることもできる。このようなルイス酸としてはカチオン重合に使用できるものであれば良く、TiCl4、TiBr4、BCl3、BF3、BF3・OEt2、SnCl4、SbCl5、SbF5、WCl6、TaCl5、VCl5、FeCl3、ZnBr2、AlCl3、AlBr3等の金属ハロゲン化物;Et2AlCl、EtAlCl2等の有機金属ハロゲン化物を好適に使用することができる。中でも触媒としての能力、工業的な入手の容易さを考えた場合、TiCl4、BCl3、SnCl4が好ましい。ルイス酸の使用量は、特に限定されないが、使用する単量体の重合特性あるいは重合濃度等を鑑みて設定することができる。通常は一般式(IX)で表される化合物に対して0.1〜100モル当量使用することができ、好ましくは1〜50モル当量の範囲である。
【0034】
(B)イソブチレン系ブロック共重合体の製造に際しては、さらに必要に応じて電子供与体成分を共存させることもできる。この電子供与体成分は、カチオン重合に際して、成長炭素カチオンを安定化させる効果があるものと考えられており、電子供与体の添加によって、分子量分布の狭い、構造が制御された重合体を生成することができる。使用可能な電子供与体成分としては特に限定されないが、例えば、ピリジン類、アミン類、アミド類、スルホキシド類、エステル類、または金属原子に結合した酸素原子を有する金属化合物等を挙げることができる。
【0035】
(B)イソブチレン系ブロック共重合体の重合は必要に応じて有機溶媒中で行うことができ、有機溶媒としてはカチオン重合を本質的に阻害しなければ、特に制約なく使用することができる。具体的には、塩化メチル、ジクロロメタン、クロロホルム、塩化エチル、ジクロロエタン、n−プロピルクロライド、n−ブチルクロライド、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、ブチルベンゼン等のアルキルベンゼン類;エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン等の直鎖式脂肪族炭化水素類;2−メチルプロパン、2−メチルブタン、2,3,3−トリメチルペンタン、2,2,5−トリメチルヘキサン等の分岐式脂肪族炭化水素類;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の環式脂肪族炭化水素類;石油留分を水添精製したパラフィン油等を挙げることができる。
【0036】
これらの溶媒は、(B)イソブチレン系ブロック共重合体を構成する単量体の重合特性及び生成する重合体の溶解性等のバランスを考慮して、それぞれ単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0037】
上記溶媒の使用量は、得られる重合体溶液の粘度や除熱の容易さを考慮して、重合体の濃度が1〜50wt%、好ましくは5〜35wt%となるように決定される。
【0038】
実際の重合を行うに当たっては、各成分を冷却下例えば−100℃以上0℃未満の温度で混合する。エネルギーコストと重合の安定性を釣り合わせるために、特に好ましい温度範囲は−30℃〜−80℃である。
【0039】
(B)イソブチレン系ブロック共重合体の配合量は(A)シクロオレフィン系共重合体100重量部に対して15〜50重量部であるが、15〜40重量部が好ましく、15〜30重量部がより好ましい。15重量部未満では、耐衝撃性が不充分となり、50重量部を越えると、剛性と耐衝撃性のバランスが悪くなるおそれがある。
【0040】
(A)シクロオレフィン系共重合体と(B)イソブチレン系ブロック共重合体の23℃における屈折率(nD)の差が0.03以下であることが透明性の点で好ましい。
【0041】
シクロオレフィン系共重合体樹脂組成物を厚みが2mmのシート状に成形した成形体のノッチ入りシャルピー衝撃強度が5N/m2以上、ヘイズ値が20以下、かつ引張破断伸びが10%以上であることが好ましい。ノッチ入りシャルピー衝撃強度が5N/m2より小さいと容器・包装材に使用する際の耐衝撃性の点で好ましくなく、ヘイズ値が20より大きいと透明性を要求される容器に使用する際に好ましくなく、引張破断伸びが10%より小さいと容器・包装材に使用する際の変形性の点で好ましくない。
【0042】
このシクロオレフィン系共重合体樹脂組成物は単独で使用しても、他のシクロオレフィン系共重合体にブレンドして用いるといった、マスターバッチとしての使用も可能である。本発明のシクロオレフィン系共重合体樹脂組成物は、周知の方法により成形加工することができる。例えば、単軸押出機、二軸押出機、二軸コニカル押出機、ブラベンダー、射出成形機などを用いることができ、例えば、プレス成形、押出成形、射出成形、ブロー成形、インフレーション成形などで成形体や板、フィルムなどに加工され得る。
【0043】
本発明のシクロオレフィン系共重合体樹脂組成物は、慣用の範囲内の量で添加剤、例えば可塑剤、紫外線安定剤、熱安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤などの1種または2種以上を含み得る。
【0044】
本発明のシクロオレフィン系共重合体樹脂組成物は、例えば、ボトル、カップ、医療用途(例えばブリスタパック、薬剤包装用フィルム)、押出フィルム(例えば梱包用のもの)、食品包装用フィルムなどに特に好適である。
【実施例】
【0045】
以下に本発明の実施例を示すが、これらは単なる例示であり、本発明はこれらに限定されるものではない。尚、以下の記載において、%および部は特に断らない限り、それぞれ重量%、重量部を表す。
【0046】
<組成物の調製法と試験法>
所定量の原料をドライブレンドした後、該混合物を二軸押し出し機(日本製鋼製 TEX-30HSS)により溶融混練し、ペレット化した。さらに該ペレットを射出成形して(東芝機械株式会社製IS80EPNと所定の金型を用いた)試験片を作成した。成型時のノズル温度は250℃、射出圧力は1次/2次=1000/800kg/cm2であった。
【0047】
組成物の物性の測定、評価は下記の方法で行った。
【0048】
(1)シャルピー衝撃強度
JIS−K7111−1に従って評価した。射出成形により作成した試験片の厚みは1/4インチでノッチ付き、室温で試験を行った。
【0049】
(2)透明性(全光線透過率およびヘイズ)
射出成形により作成した3mm厚の平板を使用(プレス成形は200℃で行った。)し、JIS−7105に従い、温度23℃で、日本電色(株)製NDH-Σ80を用いて、全光線透過率(Tt%)およびヘイズ(雲価)を測定した。
【0050】
(3)屈折率
株式会社アタゴ製のアッベ屈折率計3T(D線、589mm)により、シート状態での23℃の屈折率を測定した。
【0051】
(4)引張破壊伸び
射出成形により作成したJIS1A号ダンベルを使用。JISK7162に従って、歪み速度10mm/minで評価した。
【0052】
(5)応力白化
射出成形により作成したJIS1A号ダンベルを使用。歪み速度10mm/minで評価した。歪みが2%、3%、4%の時の標線間の白化を観察した。白化の見られないときは○、若干濁りが見られるときは△、ダンベルが見透せない程度に白化が強い時は×とした。
【0053】
<実施例および比較例で用いた原料>
(A)成分のCOCには、ポリプラスチックス社製のTopas6013(登録商標)を用いた。ポリプラスチックス社の測定によると、このCOCのガラス転移温度(Tg)は135℃である。2mm厚板での23℃における屈折率(nD)を実際に測定したところ、1.535であった(カタログ値1.535)。(環状オレフィン78.7重量%、非環状オレフィン21.3重量%)
B2)成分
B2:スチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体 スチレン含量30重量% 23℃における屈折率(nD)1.532 Mn 93000(製造例1)
B1)成分
B1:スチレン−イソブチレンジブロック共重合体 スチレン含量30重量% 23℃における屈折率(nD)1.532 Mn 52000(製造例2)
(製造例1)B2の製造方法
2Lのセパラブルフラスコの重合容器内を窒素置換したのち、注射器を用いてn−ヘキサン456.4mLおよび塩化ブチル656.3mL(いずれもモレキュラーシーブスで乾燥したもの)を加え、重合容器を−70℃のドライアイス/メタノールバス中につけて冷却した。イソブチレンモノマー232mL(2871mmol)が入っている三方コック付耐圧ガラス製液化採取管にテフロン(登録商標)製の送液チューブを接続し、重合容器内にイソブチレンモノマーを窒素圧により送液した。p−ジクミルクロライド0.687g(3.0mmol)およびα−ピコリン1.30g(14mmol)を加えた。次にさらに四塩化チタン8.67mL(79.1mmol)を加えて重合を開始した。重合開始から2.5時間同じ温度で撹拌を行なったのち、重合溶液からサンプリング用として重合溶液約1mLを抜き取った。続いて、あらかじめ−70℃に冷却しておいたスチレンモノマー77.9g(748mmol)、n−ヘキサン14.1mLおよび塩化ブチル20.4mLの混合溶液を重合容器内に添加した。さらに2時間後大量の水を加えて反応を終了させた。
【0054】
反応溶液を2回水洗し、溶媒を蒸発させ、得られた重合体を60℃で24時間真空乾燥することにより目的のブロック共重合体を得た。ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により得られた重合体の分子量を測定した。クロロホルムを移動相として、ポリスチレン換算の分子量を求めた。システムとして、ウオーターズ(Waters)社製GPCシステムを用い、カラムに昭和電工(株)製Shodex K−804(ポリスチレンゲル)を用いた。ブロック共重合体のMnが93000であるブロック共重合体が得られた。
【0055】
(製造例2)B1の製造方法
2Lのセパラブルフラスコの重合容器内を窒素置換したのち、注射器を用いてn−ヘキサン519mLおよび塩化ブチル4740mL(いずれもモレキュラーシーブスで乾燥したもの)を加え、重合容器を−70℃のドライアイス/メタノールバス中につけて冷却した。イソブチレンモノマー1630mL(20.1mol)が入っている三方コック付耐圧ガラス製液化採取管にテフロン(登録商標)製の送液チューブを接続し、重合容器内にイソブチレンモノマーを窒素圧により送液した。クミルクロライド6.76g(29.2mmol)およびα−ピコリン1.64g(17.6mmol)を加えた。次にさらに四塩化チタン17mL(156mmol)を加えて重合を開始した。重合開始から2.5時間同じ温度で撹拌を行なったのち、重合溶液からサンプリング用として重合溶液約1mLを抜き取った。続いて、あらかじめ−70℃に冷却しておいたスチレンモノマー482.6g(4.62mol)を重合容器内に添加した。さらに2時間後大量の水を加えて反応を終了させた。
【0056】
反応溶液を2回水洗し、溶媒を蒸発させ、得られた重合体を60℃で24時間真空乾燥することにより目的のブロック共重合体を得た。ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により得られた重合体の分子量を測定した。ブロック共重合体のMnが52000であるブロック共重合体が得られた。
【0057】
(実施例1〜5)
成分(A)、(B)を表1に示す配合割合でドライブレンドして、二軸押出機にて溶融混練したものをペレット化して樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物を射出成形機にてシート化しこれらの特性値を測定した。配合組成及び各特性値の測定結果を表1に示す。
【0058】
(比較例1〜5)
成分(A)、(B)を表1に示す配合割合でドライブレンドして、二軸押出機にて溶融混練したものをペレット化して樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物を射出成形機にてシート化しこれらの特性値を測定した。配合組成及び各特性値の測定結果を表2に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
実施例1〜5はB1/B2の重量分率が5/95〜95/5の範囲にない比較例1〜4に対して応力白化と衝撃強度のバランスに優れている。また(B)成分を含まない比較例5より衝撃強度および引張破壊伸びが高い。以上のことから、本発明の実施例は衝撃強度、引張破壊伸び、低応力白化のバランスに優れていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明のシクロオレフィン系共重合体組成物は透明性、耐衝撃性に優れており、例えば、透明性が要求されるボトル、カップ、医療用途(例えばブリスタパック、薬剤包装用フィルム)、押出フィルム(例えば梱包用のもの)、食品包装用フィルムなどに好適である。