特許第5809347号(P5809347)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5809347
(24)【登録日】2015年9月18日
(45)【発行日】2015年11月10日
(54)【発明の名称】静電塗装用スプレー装置
(51)【国際特許分類】
   B05B 5/053 20060101AFI20151021BHJP
   B05B 5/025 20060101ALI20151021BHJP
【FI】
   B05B5/053
   B05B5/025 A
【請求項の数】8
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-503414(P2014-503414)
(86)(22)【出願日】2012年10月3日
(86)【国際出願番号】JP2012075653
(87)【国際公開番号】WO2013132687
(87)【国際公開日】20130912
【審査請求日】2014年7月9日
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2012/055668
(32)【優先日】2012年3月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000117009
【氏名又は名称】旭サナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】特許業務法人 サトー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 宣文
(72)【発明者】
【氏名】小田 真也
(72)【発明者】
【氏名】柳田 建三
【審査官】 加藤 昌人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−131121(JP,A)
【文献】 特開平03−042064(JP,A)
【文献】 特開平06−134352(JP,A)
【文献】 特開2004−154736(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05B 5/00−5/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗料供給源に接続された塗料供給路を有する装置本体部と、
前記装置本体部の先端部に設けられ、前記塗料供給路に連通する塗料流路および当該塗料流路の先端部に形成された塗料噴出孔を有する塗料ノズルと、
前記塗料噴出孔を通り、当該塗料噴出孔よりも前方に突出するアース電極と、
前記塗料噴出孔から噴出された塗料を帯電させるための高電圧を発生する高電圧発生部と、
前記高電圧発生部が発生した高電圧が印加される高電圧電極と、
を備え、
前記高電圧電極は、前記装置本体部の外周部であって前記塗料噴出孔よりも後方に所定距離の位置に、前記塗料流路とは分離して電気的に絶縁された状態で配置されている静電塗装用スプレー装置。
【請求項2】
前記高電圧電極は、前記塗料噴出孔と当該塗料噴出孔から噴出された塗料が塗着される被塗装物とを最短距離で結ぶ噴出軸を中心として、前記塗料流路から径方向外側に所定距離の位置に配置されている請求項1に記載の静電塗装用スプレー装置。
【請求項3】
前記高電圧発生部と前記高電圧電極との間に導電体が備えられている請求項1または2に記載の静電塗装用スプレー装置。
【請求項4】
前記導電体は、前記装置本体部の長手方向に直交する方向に延びる請求項3に記載の静電塗装用スプレー装置。
【請求項5】
前記導電体は、抵抗体で構成されている請求項3または4に記載の静電塗装用スプレー装置。
【請求項6】
前記高電圧電極は、前記装置本体部の軸方向に沿う針状、または、前記装置本体部の軸方向を中心とする環状に形成されている請求項1から5の何れか1項に記載の静電塗装用スプレー装置。
【請求項7】
前記装置本体部の外周部に、複数の前記高電圧電極を相互に等間隔に配置した請求項1から6の何れか1項に記載の静電塗装用スプレー装置。
【請求項8】
前記装置本体部のうち前記塗料ノズルとは反対側の端部に、使用者が把持する把持部を備える請求項1から7の何れか1項に記載の静電塗装用スプレー装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料を高電圧に帯電させて噴霧する構成の静電塗装用スプレー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の装置として、例えば特許文献1,2,3には、塗料を帯電させるための高電圧を印加する電極を装置本体部の外部に設けたいわゆる外部帯電方式の構成において、さらに、その電極を、塗料を噴出する噴出孔よりも前方に配置した構成が開示されている。このように電極を装置本体部の外部に設けた構成によれば、装置本体部内の塗料流路を常時接地状態に保持しておくことが可能となり、これにより、装置を使用する際において絶縁状態と放電状態との切り替え操作を不要とすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2770079号公報
【特許文献2】特開平7−213958号公報
【特許文献3】特許第4185351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、高電圧が印加される電極が塗料の噴出孔よりも前方に配置された構成では、その電極が装置本体の先端部から前方に突出した状態となる。従って、使用者は、電極が被塗装物、他の装置、他の使用者などに接触しないように気を付けながら塗装操作を行わなければならず、その操作性が悪化する。また、電極が噴出孔よりも前方に存在する被塗装物との間にも電界を形成してしまうことから、塗料を集中的に帯電させることができず、塗料の帯電効率が著しく低下してしまう。また、噴出孔から塗料が噴出する先に電極が存在することから、噴出された塗料が電極に付着して汚れやすいという欠点もある。
【0005】
このような課題を解決すべく、高電圧が印加される電極を装置本体部の内部に設ける構成も考えられている。この構成によれば、上記したようないわゆる外部帯電方式の構成における不具合を解消できるものの、例えば電極が設けられた空間内を流れる塗料霧化用の圧縮空気の流量に応じて、帯電効率が変動して安定しないという不具合が生じる。
【0006】
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、高電圧が印加される電極が装置本体部の外部に設けられたいわゆる外部帯電方式の構成であっても、操作性を向上でき、塗料の帯電効率を向上でき、しかも、電極が汚れにくい静電塗装用スプレー装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の静電塗装用スプレー装置は、塗料供給源に接続された塗料供給路を有する装置本体部と、装置本体部の先端部に設けられ、塗料供給路に連通する塗料流路および当該塗料流路の先端部に形成された塗料噴出孔を有する塗料ノズルと、塗料噴出孔を通り、当該塗料噴出孔よりも前方に突出するアース電極と、塗料噴出孔から噴出された塗料を帯電させるための高電圧を発生する高電圧発生部と、高電圧発生部が発生した高電圧が印加される高電圧電極と、を備え、その高電圧電極を、装置本体部の外周部であって塗料噴出孔よりも後方に所定距離の位置に、塗料流路とは分離して電気的に絶縁された状態で配置している。
【0008】
即ち、本発明の静電塗装用スプレー装置は、高電圧が印加される高電圧電極を装置本体部の外周部に設けたいわゆる外部帯電方式の構成であるが、その高電圧電極を、塗料を噴出する塗料噴出孔よりも前方ではなく後方に配置した構成である。この構成によれば、使用者は、当該静電塗装用スプレー装置を用いて塗装操作を行う際に、高電圧電極が被塗装物、他の装置、他の使用者などに接触しないように気を付ける必要がなく、従って、操作性の向上を図ることができる。また、高電圧が印加された高電圧電極は、塗料噴出孔よりも後方に存在していることから当該塗料噴出孔よりも前方に存在する被塗装物との間には電界を形成しにくい。従って、高電圧電極は、塗料噴出孔から噴出した塗料を集中的に帯電させることができ、これにより、塗料の帯電効率の向上を図ることができる。また、高電圧電極は、塗料噴出孔から塗料が噴出する先の領域、つまり、静電塗装用スプレー装置の前方領域には存在していないことから、噴出孔から噴出された塗料が高電圧電極に付着しにくく、従って、高電圧電極を汚れにくくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1実施形態に係る静電塗装用スプレー装置の斜視図
図2】静電塗装用スプレー装置の右側の側面図
図3】静電塗装用スプレー装置の平面図
図4】静電塗装用スプレー装置の正面図
図5】静電塗装用スプレー装置の前側部分を縦断面にして示す縦断側面図
図6】静電塗装用スプレー装置の前側部分を横断面にして示す斜視図
図7】高電圧電極の先端部とアース電極の先端部との間の距離および高電圧電極の中心軸とアース電極の中心軸との間の距離を模式的に示す図
図8】静電塗装用スプレー装置による塗料粒子の帯電方式を説明するための図
図9】高電圧電極の先端部とアース電極の先端部との間の距離と塗料粒子の帯電量との関係を示す図
図10】高電圧電極の中心軸とアース電極の中心軸との間の距離と塗料粒子の帯電量との関係を示す図
図11】第2実施形態に係る静電塗装用スプレー装置の斜視図
図12】静電塗装用スプレー装置の左側の側面図
図13】静電塗装用スプレー装置の平面図
図14】静電塗装用スプレー装置の正面図
図15】静電塗装用スプレー装置に搭載される抵抗体の設置部分およびその周辺部分を断面にして示す図
図16図7相当図
図17】変形実施形態を示す図4相当図
図18】異なる変形実施形態を示す図4相当図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の複数の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、各実施形態で実質的に同一の要素には同一の符号を付し、説明を省略する。
(第1実施形態)
まず、本発明の第1実施形態について説明する。図1から図4に示すように、静電塗装用スプレー装置1は、装置本体部2とグリップ3とからなる。装置本体部2は、例えば絶縁性の合成樹脂材料などの非導電性材料からなり、静電塗装用スプレー装置1の銃身部分つまりバレル部分を構成する。グリップ3は、装置本体部2の後端部に設けられており、使用者が把持する把持部として機能する。なお、装置本体部2の後端部は、詳しくは後述する塗料ノズル22が設けられる装置本体部2の先端側とは反対側の端部である。このようにグリップ3が設けられた静電塗装用スプレー装置1は、使用者が手に持って使用するいわゆる手持ち式の静電塗装用スプレーガンとして構成されている。
【0011】
次に、この静電塗装用スプレー装置1の内部の構成について図5および図6を参照しながら説明する。図5および図6に示すように、装置本体部2内の上部には、高電圧発生装置4が収納されている。この高電圧発生装置4は、図示しない高電圧発生回路を構成する昇圧トランスや高圧整流回路を一体にモールドしたカスケード型の高電圧発生装置であり、静電塗装用スプレー装置1から噴出された塗料を帯電させるための高電圧を発生する高電圧発生部として機能する。この場合、高電圧発生装置4は負の高電圧を発生する。
【0012】
装置本体部2内部の前部には、導電性を有する部材として導電体である導体棒5が高電圧発生装置4の前部から装置本体部2の長手方向に直交する方向、換言すれば静電塗装用スプレー装置1の左右方向に沿って延びるように配設されている。高電圧発生装置4の前側には、導体棒5の基端部が露出するように孔部6が設けられており、この孔部6には、導電性を有する材料で構成されたスプリング7が収容されている。スプリング7は、その後部が高電圧発生装置4の前端に位置する出力端子4aに当接し、前部が導体棒5の基端部に当接している。
【0013】
図6に示すように、装置本体部2の側部、この場合、装置本体部2の先端側を前方として右側の側部には、当該装置本体部2の右方に突出する高電圧電極取付部2aが設けられている。導体棒5は、この高電圧電極取付部2a内において、先端部が装置本体部2の右方に向かって延びるように配置されている。高電圧電極取付部2aには、内部に高電圧電極8を格納した高電圧電極ケース9が着脱可能に取り付けられている。この高電圧電極ケース9は、例えば絶縁性の合成樹脂材料などの非導電性材料からなる。高電圧電極8は、この場合、そのほぼ全体が装置本体部2の軸方向に沿う針状に形成されている。また、高電圧電極8は、その基端部がほぼ直角に曲げられており、当該部分に接続部8aが設けられている。
【0014】
そして、この高電圧電極8は、その先端部が静電塗装用スプレー装置1の長手方向に沿って前方に向かって指向し、基端部の接続部8aが装置本体部2側、この場合、左方に向かって指向した状態で静電塗装用スプレー装置1に取り付けられる。そして、高電圧電極8の接続部8aと導体棒5の先端部との間には、導電性を有する材料で構成されたスプリング10が収容されている。これにより、導体棒5と高電圧電極8とが物理的および電気的に接続されるようになっている。
【0015】
グリップ3の下部には、電源コネクタ11及びエアホース用ジョイント12が取り付けられている。また、グリップ3の下部には、連結部材13を介して円筒状の塗料ホース用ジョイント14が連結されている。連結部材13は、ねじ15によってグリップ3の下端部に固定されている。これら連結部材13及びねじ15は、何れも導電性材料から構成されている。また、電源コネクタ11内の図示しないアース線と塗料ホース用ジョイント14とは、連結部材13および当該連結部材13に接続された図示しないリード線などを介して電気的に接続されている。従って、塗料ホース用ジョイント14は、電源コネクタ11のアース線を介して接地されている。
【0016】
高電圧発生に必要な高周波電圧は、グリップ3の下部の電源コネクタ11から取り入れられ、グリップ3内の図示しない配線ケーブルを通って高電圧発生装置4内の昇圧トランスに供給される。供給された高周波電圧は、昇圧トランスで昇圧された後、コッククロフト−ウォルトン型倍電圧整流回路を使用した高電圧整流回路で更に昇圧されるとともに整流され、これにより、数万Vの負の直流高電圧が発生する。高電圧発生装置4が発生した直流高電圧は、出力端子4aからスプリング7を介して導体棒5に導かれ、当該導体棒5およびスプリング10を介して高電圧電極8に供給されるようになっている。これにより、高電圧電極8には負の高電圧が印加される。
【0017】
図5に示すように、装置本体部2内の下部には、前後方向に延びる孔部16が設けられている。また、装置本体部2の前端部には取付凹部17が設けられており、この取付凹部17の後端面において孔部16は開口している。この孔部16内の前部には塗料バルブ18が配設されている。また、孔部16内のうち塗料バルブ18の後部には、空間を存して中空状のガイド部材19が配設されている。塗料バルブ18は、導電性を有するバルブ本体の内部に、当該バルブ本体内を軸方向に貫通する弁口18aを有する。この弁口18aは、ニードル20によって開閉される。
【0018】
孔部16のうち塗料バルブ18とガイド部材19との間の空間は弁室21とされている。ニードル20は弁室21内を貫通しており、その前端部がテーパ状に形成されている。ニードル20は、後部がガイド部材19内に挿通されており、当該ガイド部材19に沿って前後方向に移動するようになっている。塗料バルブ18は、弁口18aにニードル20の前端部が当接することによって閉塞され、弁口18aからニードル20の前端部が離間することによって開放される。
【0019】
ニードル20は、装置本体部2の後端部に設けられた図示しない復帰バネによって、常には弁口18aを閉塞する方向、この場合、静電塗装用スプレー装置1の前方に向かって付勢されている。そして、装置本体部2に設けられたトリガ3aがグリップ3側に引かれている間のみ、ニードル20は復帰バネに抗して後退し、これにより、弁口18aからニードル20が離間して塗料バルブ18が開放される。
【0020】
取付凹部17は後半部が前半部よりも径小になっており、その径小部分には塗料ノズル22が着脱可能に取り付けられている。塗料ノズル22は絶縁性の合成樹脂材料からなり、その前半部が取付凹部17よりも前方に突出している。塗料ノズル22内の中心部には前後方向に貫通する塗料流路23が設けられている。この塗料流路23の後端部は塗料バルブ18の弁口18aに連通している。塗料ノズル22の前端部のうち塗料流路23の前端にあたる部分は径小に構成され、この部分が塗料噴出孔24とされている。なお、取付凹部17に塗料ノズル22が装着されたことにより、塗料ノズル22の周囲部には環状の空間が形成される。この環状空間はパターンエア流路25として利用される。
【0021】
このような構成の静電塗装用スプレー装置1において、例えば塗料タンクなどからなる図示しない外部の塗料供給源内の塗料は、導電性を有しない図示しない塗料ホースを介して塗料ホース用ジョイント14に供給され、塗料チューブ26を通って弁室21内に導かれる。そして、トリガ3aの非操作時では、弁室21に導かれた塗料は、弁口18aを閉塞するニードル20によって塗料ノズル22内への吐出が阻止される。一方、トリガ3aが操作されて塗料バルブ18が開弁すると、弁室21内に供給された塗料は、塗料ノズル22内の塗料流路23内に吐出される。つまり、この場合、塗料ホース用ジョイント14と塗料チューブ26と弁室21とから塗料供給路が構成されている。また、上記したように塗料ホース用ジョイント14は電源コネクタ11のアース線を介して接地電位に維持されている。そのため、塗料ホース用ジョイント14を通過し塗料供給路内を流れる塗料は、接地電位に維持される。なお、静電塗装用スプレー装置1に使用する塗料は、この場合、電気抵抗が比較的高い溶剤系塗料ではなく、電気抵抗が比較的低い水系塗料あるいはメタリック系塗料が好適である。
【0022】
塗料流路23内には、ピン形状のアース電極27が挿通されている。このアース電極27の前端部は、塗料噴出孔24を通り当該塗料噴出孔24よりも前方に突出している。また、アース電極27の後半部は、非導電性材料からなる保持部材28の内部に保持されている。なお、この場合、アース電極27は、後述する角部36よりも前方には突出していないが、アース電極27を角部36よりも前方に突出させてもよい。塗料流路23内のうち保持部材28の後部には、導電性を有するスプリング29が収容されている。このスプリング29の後端部は、塗料バルブ18の前端面に当接している。このような構成により、アース電極27と塗料バルブ18とはスプリング29を介して物理的および電気的に接続される。
【0023】
塗料ノズル22内のうち塗料流路23の周囲部には複数の霧化エア流路30が形成されている。これら霧化エア流路30の前端部は、塗料ノズル22の前端部に設けられた環状の霧化エア流路30aに連通している。
【0024】
装置本体部2の後端部には。図示しないエアバルブが設けられている。また、グリップ3内には、エアホース用ジョイント12とエアバルブとをつなぐ図示しないエア流路が設けられている。霧化エア及びパターンエア用の圧縮空気は、図示しない外部の圧縮空気発生装置から高圧エアホースを介してエアホース用ジョイント12に供給され、エア流路を通ってエアバルブに導かれる。エアバルブは、ニードル20と一体的に前後移動する図示しない弁体によって開閉されるようになっている。つまり、塗料バルブ18が開弁するとエアバルブも開弁し、塗料バルブ18が閉弁するとエアバルブも閉弁する。そして、エアバルブが開弁すると、圧縮空気は装置本体部2内に設けられた図示しない霧化エア供給路およびパターンエア供給路を通って、パターンエア流路25および塗料ノズル22の霧化エア流路30にそれぞれ供給される。
【0025】
塗料ノズル22の前端部は、装置本体部2の前端部に取り付けられたエアキャップ31によって覆われている。このエアキャップ31は、例えばポリアセタールなどの絶縁性樹脂で構成される。エアキャップ31の後面中央には嵌合凸部31aが設けられており、この嵌合凸部31aは、塗料ノズル22の前端部に嵌合している。このエアキャップ31は、例えばポリアセタールなどの絶縁性樹脂で構成される円環状のリテイニングナット32および円環状の固定部材33を介して、装置本体部2の前端部に固定される。
【0026】
塗料ノズル22は、取付凹部17に挿入された後、前端部にエアキャップ31を嵌合させ、エアキャップ31の前端から固定部材33及びリテイニングナット32を挿入し螺合させることによって、エアキャップ31とともに装置本体部2に固定される。このとき、エアキャップ31と装置本体部2との間には塗料ノズル22の周囲に位置する環状の空間が形成される。この空間はパターンエア流路25とともにパターンエア流路34として利用される。
【0027】
エアキャップ31の中央部には霧化エア噴出孔35が穿設されている。この霧化エア噴出孔35には塗料ノズル22の塗料噴出孔24が挿通されている。霧化エア噴出孔35は霧化エア流路30aに連通しており、この霧化エア流路30aに供給された霧化エアは霧化エア噴出孔35の内周面と塗料噴出孔24の外周面との間の環状の隙間を通って前方に噴出される。
【0028】
更に、エアキャップ31の前端面のうち霧化エア噴出孔35を挟んだ上部及び下部には、前方に突出する一対の角部36が形成されている。これら角部36には、それぞれパターンエア流路34に連通する複数のパターンエア噴出孔37が形成されている。これらパターンエア噴出孔37はエアキャップ31の中心軸に向かって斜め前方に傾斜している。従って、パターンエア流路34に供給された圧縮空気としてのパターンエアはパターンエア噴出孔37から斜め前方に向けて噴出される。なお、この場合、角部36は、上記したアース電極27よりも前方に突出しているが、例えば角部を有しないエアキャップあるいは角部が短いエアキャップを用いる場合には、アース電極27がエアキャップの前面から前方に突出した状態となる。
【0029】
このように構成された静電塗装用スプレー装置1において、高電圧電極8は、図7に示すように、装置本体部2の外周部、換言すれば静電塗装用スプレー装置1の右側部(右側方領域)に設けられる。この場合、高電圧電極8の先端部は、塗料噴出孔24から突出するアース電極27の先端部よりも後方に所定距離Lの位置となる。この高電圧電極8は、装置本体部2の外周部において、高電圧電極取付部2aからアース電極27の先端部よりも後方に所定距離Lの位置まで前方に向かって延びる電極であり、それ以上前方には延びていない。つまり、高電圧電極8の先端部は、アース電極27の先端部、さらには静電塗装用スプレー装置1全体における先端部(この場合、角部36の先端部)よりも前方には突出していない。
【0030】
この高電圧電極8は、その全体が静電塗装用スプレー装置1の側方領域に納まっており、その全体あるいは一部が静電塗装用スプレー装置1の前方領域には存在しない構成となっている。また、高電圧電極8は、装置本体部2の外周部において塗料の噴霧方向である前方に向かって延びる電極であるが、その先端部がアース電極27の先端部を越えて前方に突出しておらず、さらには静電塗装用スプレー装置1の先端部を越えて前方に突出していない。即ち、高電圧電極8の全長は装置本体部2の全長よりも短く、しかも、高電圧電極8の全体は装置本体部2の側方領域内に納まっている。
【0031】
また、この高電圧電極8は、その全体が絶縁性材料からなる高電圧電極ケース9に覆われており、しかも、当該高電圧電極8に電気的に接続する導体棒5、スプリング7およびスプリング10も絶縁性材料からなる装置本体部2に覆われている。従って、高電圧電極8は、装置本体部2内の塗料流路23とは分離して電気的に絶縁された状態で配置されている。また、高電圧電極8は、塗料噴出孔24と当該塗料噴出孔24から噴出された塗料が塗着される被塗装物とを最短距離で結ぶ噴出軸Sを中心として、塗料流路23から径方向外側に所定距離Hの位置に配置されている。即ち、高電圧電極8は、噴出軸Sから絶縁性の部材を介して離間しており、さらに、装置本体部2の側面、換言すれば静電塗装用スプレー装置1の側面からも絶縁性の部材を介して離間した状態で配置されている。
【0032】
次に、上記構成の静電塗装用スプレー装置1を用いて静電塗装を行うときの動作について説明する。即ち、使用者によってトリガ3aがグリップ3側に引かれると、塗料バルブ18が開弁して塗料ホース用ジョイント14から供給された塗料が塗料流路23に吐出され、塗料ノズル22前端の塗料噴出孔24からアース電極27の表面を伝って皮膜状に吐出される。また、霧化エア流路30に圧縮空気が供給され、この圧縮空気は霧化エア噴出孔35の内周と塗料噴出孔24の外周との間の狭い隙間を通り霧化エアとして前方に噴出される。この結果、アース電極27の表面を伝って塗料噴出孔24から吐出される塗料は、霧化エアによって霧化される。
【0033】
また、トリガ3aがグリップ3側に引かれると、高電圧発生装置4内の高電圧発生回路に高周波電圧が供給され、この高電圧整流回路により発生した数万Vの負の直流高電圧が、出力端子4aからスプリング7、導体棒5、およびスプリング10を介して高電圧電極8に導かれる。一方、アース電極27は、接地された塗料ホース用ジョイント14を通過し、塗料チューブ26および塗料バルブ18を介して塗料ノズル22内に供給された塗料、即ち、接地電位に維持された塗料に接触することによって接地電位に維持される。従って、負の高電圧が印加される高電圧電極8と接地電位に維持されるアース電極27との間には強力な電界(電気力線)が発生してコロナ放電場が形成され、これにより、塗料噴出孔24から吐出され霧化された塗料粒子は帯電した状態で静電塗装用スプレー装置1の前方に飛び出すようになる。
【0034】
ここで、この静電塗装用スプレー装置1による塗料粒子の帯電方式について図8を参照しながらさらに詳細に説明する。即ち、図8に示すように、この静電塗装用スプレー装置1においては、装置本体部2の外周部であって塗料噴出孔24よりも後方に十分な距離を有して配置された高電圧電極8には負の高電圧が印加され、一方、塗料噴出孔24から突出するアース電極27は接地電位に維持される。この構成によれば、アース電極27に接触しながら塗料噴出孔24から噴出される塗料粒子は、負に帯電する高電圧電極8に対して正に帯電する。即ち、この静電塗装用スプレー装置1による塗料粒子の帯電方式は、高電圧電極8の印加電圧の極性と帯電した塗料粒子の極性とが逆になる方式であり、本出願人等は、この帯電方式を「間接帯電方式」と称している。
【0035】
さらに、この静電塗装用スプレー装置1によれば、高電圧電極8は、装置本体部2の径方向においてもアース電極27から十分な距離を有して配置されている。従って、塗料噴出孔24から噴出される正に帯電した塗料粒子と負に帯電した高電圧電極8との間に十分な距離を確保することができ、帯電した塗料粒子が、装置本体部2側に引き寄せられることが防止される。
【0036】
なお、ここで、既存技術について補足として説明する。まず、外部帯電方式の構成ではあるが高電圧電極が塗料噴出孔よりも前方に延びる構成の既存技術であるが、この構成では、塗料噴出孔から噴出された塗料粒子は、高電圧電極と被塗装物との間に形成される電界により帯電される。従って、この既存技術においては、帯電した塗料粒子は、高電圧電極の印加電圧の極性と同じ極性となる。即ち、この既存技術は、高電圧電極8の印加電圧の極性と帯電した塗料粒子の極性とが逆になる本実施形態の静電塗装用スプレー装置1とは、塗料粒子を帯電させる原理が明らかに相違している。
【0037】
また、高電圧電極を装置本体部の内部に設けた構成、即ち、一般的に間接帯電方式と呼ばれている構成の既存技術では、高電圧電極または浮電極で発生したマイナスイオンが装置本体部の先端部(エアキャップ)の表面に大量に付着し、プラスに帯電した塗料粒子が、そのマイナスイオンに吸引される。従って、特に装置の先端部が塗料粒子によって汚れ易く、本実施形態の静電塗装用スプレー装置1と同様の効果を奏することはできない。
【0038】
以上は塗料粒子の帯電方式について説明した。以降は、引き続き、静電塗装用スプレー装置1による静電塗装動作の説明を続ける。即ち、上記のようにして静電塗装用スプレー装置1の前方に飛び出した塗料粒子は、パターンエア噴出孔37から噴出されるパターンエアによって、その噴霧パターンが塗装に適した形状、例えば楕円形あるいは小判形に形成される。
【0039】
塗料粒子は、主として、このパターンエアによって被塗装物の近傍まで搬送される。そして、帯電した塗料粒子が被塗装物に近づくと、静電誘導によって、接地された被塗装物の表面に塗料粒子の電荷とは反対極性の電荷が誘起される。これにより、塗料粒子と被塗装物との間に静電気力が働き、塗料粒子は被塗装物に向かう吸引力を受ける。つまり、この吸引力とパターンエアによる吹きつけ力との双方の力によって、塗料粒子は被塗装物表面に塗着される。なお、静電気力による吸引力が働くため、塗料粒子は静電塗装用スプレー装置1に面していない被塗装物の裏側にも回り込み塗着される。以上のような作用により、被塗装物に静電塗装が行なわれる。
【0040】
次に、上記構成の静電塗装用スプレー装置1について発明者が行った実験結果について説明する。この実験は、図7に示す距離Lおよび距離Hと塗料粒子の帯電量(μC/g)との関係を検証するために行ったものである。なお、距離Lは、高電圧電極8の先端部と塗料噴出孔24から突出するアース電極27の先端部との間の距離であり、距離Hは、高電圧電極8の中心軸と噴出軸Sとの間の距離、換言すれば、高電圧電極8の中心軸と塗料流路23内に挿通されたアース電極27の中心軸との間の距離である。
【0041】
図9は、実験により得られた距離Lと塗料粒子の帯電量(μC/g)との関係を示している。この場合、距離Lを20mm〜60mm、より好ましくは30mm〜50mmの範囲で設定すると、噴出された塗料粒子の帯電量が著しく増加することが確認された。また、図10は、実験により得られた距離Hと塗料の帯電量(μC/g)との関係を示している。この場合、距離Hを20mm〜50mmの範囲で設定すると、噴出された塗料粒子の帯電量が著しく増加することが確認された。
【0042】
以上に説明した静電塗装用スプレー装置1によれば、高電圧が印加される高電圧電極8を装置本体部2の外周部に設けたいわゆる外部帯電方式の静電塗装用スプレー装置1において、その高電圧電極8を、装置本体部2の外周部であって塗料噴出孔24よりも後方に所定距離の位置に、塗料流路23とは分離して電気的に絶縁された状態で配置した。これにより、使用者は、当該静電塗装用スプレー装置1を用いて塗装操作を行う際に、高電圧電極8が被塗装物、他の装置、他の使用者などに接触しないように気を付ける必要がなく、従って、操作性の向上を図ることができる。また、高電圧が印加された高電圧電極8は、塗料噴出孔24よりも後方に存在していることから当該塗料噴出孔24よりも前方に存在する被塗装物との間には電界を形成しにくい。従って、高電圧電極8は、塗料噴出孔24から噴出した塗料を集中的に帯電させることができ、これにより、塗料の帯電効率の向上を図ることができる。また、高電圧電極8は、塗料噴出孔24から塗料が噴出する先の領域(静電塗装用スプレー装置1の前方領域)には存在していないことから、塗料噴出孔24から噴出された塗料が高電圧電極8に付着しにくく、従って、高電圧電極8を汚れにくくすることができ、ひいては、静電塗装用スプレー装置1全体を汚れにくくすることができる。
【0043】
さらに、静電塗装用スプレー装置1は、高電圧電極8を、塗料噴出孔24と当該塗料噴出孔24から噴出された塗料が塗着される被塗装物とを最短距離で結ぶ噴出軸を中心として、塗料流路23から径方向外側に所定距離の位置に配置した。これにより、高電圧電極8による塗料粒子の帯電効率を低下させることなく当該高電圧電極8を静電塗装用スプレー装置1の側部にコンパクトに設けることができる。従って、静電塗装用スプレー装置1の操作性を一層向上でき、塗料の帯電効率を一層向上でき、しかも、高電圧電極8を一層汚れにくくすることができる。
【0044】
さらに、静電塗装用スプレー装置1は、高電圧電極8を、装置本体部2の軸方向に沿う針状に形成した。これにより、高電圧電極8を静電塗装用スプレー装置1の側部に一層コンパクトに設けることができ、静電塗装用スプレー装置1の操作性および塗料の帯電効率の一層の向上を図ることができ、しかも、高電圧電極8を一層汚れにくくすることができる。
【0045】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。図11から図14に示すように、静電塗装用スプレー装置71は、装置本体部72の側部、この場合、装置本体部72の先端側を前方として左側の側部に、当該装置本体部72の左方に突出する高電圧電極取付部72aを備える。なお、図示はしないが、装置本体部72の内部には、静電塗装用スプレー装置1と同様の高電圧供給系統、塗料供給系統、エア供給系統、塗料噴霧系統、エア噴出系統などが備えられている。
【0046】
図15に示すように、この高電圧電極取付部72a内には、上述した導体棒5に対応する構成要素として、導電体である抵抗体75が挿入される。なお、この抵抗体75は、結果として抵抗体としても機能し得るような単なる金属製の部材で構成されているのではなく、意図的に抵抗体として機能し得るよう材料や構成等が設計された構成要素として備えられている。
【0047】
この場合、この抵抗体75は、内部に高電圧電極78を格納した高電圧電極ケース79の取付軸部79a内に設けられている。この高電圧電極ケース79が高電圧電極取付部72aに着脱可能に取り付けられることにより、抵抗体75は、高電圧電極取付部72a内に格納される。即ち、抵抗体75は、直接的に高電圧電極取付部72a内に格納されるのではなく、高電圧電極ケース79を介して間接的に高電圧電極取付部72a内に格納される。
【0048】
なお、高電圧電極ケース79は係合部79bを一体的に有し、高電圧電極取付部72aは被係合部72bを一体的に有する。高電圧電極ケース79は、取付軸部79aが高電圧電極取付部72a内に挿入され、さらに当該高電圧電極ケース79が取付軸部79aを中心に回動されることにより、係合部79bが被係合部72bに係合するようになっている。これにより、高電圧電極ケース79は、高電圧電極取付部72aに着脱可能に取り付けられる。
【0049】
抵抗体75は、高電圧電極ケース79が高電圧電極取付部72aに取り付けられることにより、導電性を有する材料で構成されたスプリング76およびスプリング77と、これらスプリング76およびスプリング77を保持する保持部材80を介して、高電圧発生装置4の出力端子4aに物理的および電気的に接続される。なお、保持部材80は、導電性を有する材料で構成してもよいし、その内部にてスプリング76およびスプリング77が相互に接触するのであれば、例えば絶縁性の合成樹脂材料などで構成してもよい。
【0050】
高電圧電極取付部72a内に格納された抵抗体75は、装置本体部72の長手方向、換言すれば静電塗装用スプレー装置71の長手方向に対して直交する方向(垂直な方向)に延びる。これにより、高電圧発生装置4から高電圧電極78までの間に抵抗体75を介在させたとしても、抵抗体75が装置本体部72の長手方向に延びることがなく、従って、高電圧電極78の設置位置、特に高電圧電極78の基端部の位置を、装置本体部72の外周部(静電塗装用スプレー装置71の側方領域)において極力後方に設定することができる。この場合、高電圧電極78の基端部の位置は、装置本体部72の側部に設けられている高電圧電極取付部72aの位置となる。そのため、高電圧電極78の設置位置を、少なくとも、装置本体部72の先端部に取り付けられたリテイニングナット32よりも後方の位置に設定することができる。
【0051】
また、高電圧電極ケース79内において、抵抗体75と高電圧電極78は、相互にほぼ直交する方向に延びている。即ち、高電圧電極78は、静電塗装用スプレー装置71の長手方向に直交する抵抗体75の先端部から静電塗装用スプレー装置71の長手方向に沿って前方に向かって延びる。そして、これら抵抗体75と高電圧電極78は、高電圧電極ケース79内において、抵抗体75の先端部と高電圧電極78の基端部とが導電性を有する連結部材81を介して連結された状態となっている。なお、高電圧電極78は、その先端部がピン形状に形成され、その基端部が球状に形成されている。高電圧電極78は、この球状の基端部が連結部材81の先端部に接触しており、これにより、連結部材81を介して抵抗体75の先端部に連結された状態となっている。
【0052】
このように構成された静電塗装用スプレー装置71において、高電圧電極78は、図16に示すように、装置本体部72の外周部、換言すれば静電塗装用スプレー装置71の左側部(左側方領域)に設けられる。この場合、高電圧電極78の先端部は、塗料噴出孔24から突出するアース電極27の先端部よりも後方に所定距離Laの位置となる。この高電圧電極78は、装置本体部72の外周部において、高電圧電極取付部72aからアース電極27の先端部よりも後方に所定距離Laの位置まで前方に向かって延びる電極であり、それ以上前方には延びていない。つまり、高電圧電極78の先端部は、アース電極27の先端部、さらには静電塗装用スプレー装置71全体における先端部(この場合、角部36の先端部)よりも前方には突出していない。
【0053】
この高電圧電極78は、その全体が静電塗装用スプレー装置71の側方領域に納まっており、その全体あるいは一部が静電塗装用スプレー装置71の前方領域には存在しない構成となっている。また、高電圧電極78は、装置本体部72の外周部において塗料の噴霧方向である前方に向かって延びる電極であるが、その先端部がアース電極27の先端部を越えて前方に突出しておらず、さらには静電塗装用スプレー装置71の先端部を越えて前方に突出していない。即ち、高電圧電極78の全長は装置本体部72の全長よりも短く、しかも、高電圧電極78の全体は装置本体部72の側方領域内に納まっている。
【0054】
また、この高電圧電極78は、その全体が絶縁性材料からなる高電圧電極ケース79に覆われており、さらに、当該高電圧電極78に電気的に接続する連結部材81および抵抗体75も高電圧電極ケース79に覆われている。また、抵抗体75に電気的に接続するスプリング76、保持部材80、スプリング77も絶縁性材料からなる装置本体部72に覆われている。従って、高電圧電極78は、装置本体部72内の塗料流路23とは分離して電気的に絶縁された状態で配置されている。また、高電圧電極78は、噴出軸Sを中心として塗料流路23から径方向外側に所定距離Haの位置に配置されている。即ち、高電圧電極78は、噴出軸Sから絶縁性の部材を介して離間しており、さらに、装置本体部72の側面、換言すれば静電塗装用スプレー装置71の側面からも絶縁性の部材を介して離間した状態で配置されている。
【0055】
以上に説明した静電塗装用スプレー装置71によれば、高電圧発生装置4と高電圧電極78との間の高電圧供給系統中に抵抗体75を配置したとしても、その抵抗体75は、装置本体部72の長手方向に直交する方向に延びた状態で設置される。これにより、装置本体部72の長手方向に沿って抵抗体75の設置スペースを確保する必要がなく、従って、高電圧電極78の設置位置を装置本体部72の外周部において極力後方に設定することができる。即ち、抵抗体75の設置に伴い高電圧電極78の設置位置を前方側にずらす必要がなく、抵抗体75を設置しつつも、高電圧電極78の全体を静電塗装用スプレー装置71の側方領域に納めることができる。
【0056】
また、静電塗装用スプレー装置71は、高電圧供給系統の一部を構成する抵抗体75を静電塗装用スプレー装置71の長手方向に直交する方向に延びるように配置した。これにより、当該静電塗装用スプレー装置71の長手方向おいて抵抗体75の長さ(設置スペース)を考慮する必要がなく、静電塗装用スプレー装置71の長手方向における高電圧供給系統の長さを極力短くすることができる。即ち、静電塗装用スプレー装置71は、高電圧供給系統の長さの一部(少なくとも抵抗体75の長さ)を、装置の長手方向に直交する方向に分散した構成である。この構成によれば、高電圧供給系統の最先端部、即ち高電圧電極58の先端部の位置を、静電塗装用スプレー装置71の前方に突出させることなく、側方領域において極力後方に位置させることができる。
【0057】
なお、上述の第1実施形態で示した静電塗装用スプレー装置1においても、導電体である導体棒5は装置本体部2の長手方向に直交する方向に延びた状態で設置されている。そのため、導体棒5を設置しつつも、高電圧電極8の全体を静電塗装用スプレー装置1の側方領域に納めることができる。また、静電塗装用スプレー装置1の長手方向における高電圧供給系統の長さを極力短くすることができ、高電圧供給系統の最先端部、即ち高電圧電極8の先端部の位置を、静電塗装用スプレー装置1の前方に突出させることなく、側方領域において極力後方に位置させることができる。
【0058】
また、静電塗装用スプレー装置71は、導電体として抵抗体75を備えるので、この抵抗体75がいわゆる制限抵抗として機能し、これにより、高電圧電極78に過大な電圧が印加されたり過大な電流が流れたりしてしまうことを防止することができる。なお、第1実施形態の導体棒5も、抵抗体75ほどではないが制限抵抗としての機能を発揮し得る。従って、この導体棒5も、高電圧電極8に過電圧が印加されたり過電流が流れたりしてしまうことを防止する保護機構として機能し得る。
【0059】
また、抵抗体75は、装置本体部72側ではなく、当該装置本体部72に着脱可能な高電圧電極ケース79に設けられている。そのため、仮に抵抗体75が破壊したとしても、その抵抗体75を含む高電圧電極ケース79を、新たな抵抗体75を含む高電圧電極ケース79に交換すればよい。これにより、抵抗体75が破壊したとしても、装置本体部72あるいは静電塗装用スプレー装置71全体を新たなものに交換する必要がない。また、抵抗体75を、交換不能な実装品としてではなく、交換可能な消耗品として取り扱うことができる。
【0060】
また、高電圧電極78が装置本体部72の側部に位置しているので、先端部のエアキャップ31や塗料ノズル22の着脱の際に、高電圧電極78や高電圧電極ケース79を着脱したり動かしたりする必要がない。従って、静電塗装用スプレー装置71の組み立て性やメンテナンス性を向上することができる。また、高電圧電極78や高電圧電極ケース79の破損や摩耗を抑えることができ、さらには高電圧電極ケース79と高電圧電極取付部72aとの接触部分の破損や摩耗を抑えることができる。
【0061】
また、高電圧電極78や高電圧電極ケース79が静電塗装用スプレー装置71の先端部よりも前方に突出していないので、仮に静電塗装用スプレー装置71を落下させてしまった場合に高電圧電極78や高電圧電極ケース79が落下面に接触したとしても、これら高電圧電極78や高電圧電極ケース79に作用するモーメントを極力小さくすることができる。よって、高電圧電極78や高電圧電極ケース79が破損し難い静電塗装用スプレー装置71を提供することができる。なお、第1実施形態で示した静電塗装用スプレー装置1も、高電圧電極8や高電圧電極ケース9が静電塗装用スプレー装置1の先端部よりも前方に突出していないので、同様の効果を奏することができる。
【0062】
(その他の実施形態)
なお、本発明は、上述の各実施形態にのみ限定されるものではなく、次のように変形または拡張することができる。
【0063】
図17に示すように、静電塗装用スプレー装置1は、針状の高電圧電極8に代わり、装置本体部2の軸方向、換言すれば、塗料の噴出軸Sを中心とする環状に形成された高電圧電極50を備える構成としてもよい。この場合、高電圧電極50は、環状であればよく、円環状のほか、例えば楕円環状、多角形環状に形成することができる。また、高電圧電極50は、その断面が円形状となる構成でもよいし矩形状となる構成でもよい。なお、この図17に示す構成は、静電塗装用スプレー装置71にも適用可能である。
【0064】
図18に示すように、静電塗装用スプレー装置1は、装置本体部2の外周部に、複数、この場合、3つの高電圧電極60を、装置本体部2の周方向に沿って相互に等間隔に配置した構成としてもよい。なお、この高電圧電極60の数は適宜変更して実施することができる。また、複数の高電圧電極60は、装置本体部2の周方向に沿って相互に等間隔ではなく不等間隔に配置してもよい。また、この図18に示す構成は、静電塗装用スプレー装置71にも適用可能である。
【0065】
本発明は、使用者が把持するグリップ3を有するいわゆる手持ち式の静電塗装用スプレー装置1あるいは静電塗装用スプレー装置71に限らず、使用者が把持する把持部を有しない静電塗装用スプレー装置にも適用することが可能である。即ち、例えば、図示しない塗料圧送用装置のノズル取付部に直接的に取り付けられる静電塗装用スプレーノズルなどにも適用することが可能である。
【0066】
高電圧発生装置4は正の高電圧を発生するように構成してもよい。塗料チューブ26としては、スパイラル状に延びるものや直線状に延びるもの等を、使用する塗料の種類等に応じて適宜使用することができる。上述した各実施形態を組み合わせて実施してもよい。
【0067】
本発明は、例えば、パターンエアを噴出しない構成の静電塗装用スプレー装置にも適用することが可能である。要は、帯電させた塗料を被塗装物に塗着させる構成の静電塗装用スプレー装置全般に適用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18