(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記銅複合化合物からなる針状又は板状の微細凹凸は、走査型電子顕微鏡を用いて、試料の傾斜角45°、50000倍以上の倍率で粗化処理層の表面から観察したときの最大長さが150nm以下である請求項1〜請求項3のいずれかに記載の表面処理銅箔。
【背景技術】
【0002】
一般的に、市場を流通する銅箔は、プリント配線板の回路形成用途に用いられることが多く、絶縁樹脂基材との密着性を向上させるため、接着面となる銅箔の表面に、アンカー効果を発揮する粗化形状を設けてきた。このアンカー効果を発揮する粗化として、特許文献1等に開示されているような「微細銅粒の付着」、特許文献2等に開示されているような「エッチングによる凹凸形成」等が行われてきた。
【0003】
ところが、近年は、ファインピッチ回路の形成に対する要求が顕著で、プリント配線板の製造技術も大きく進歩した結果、特許文献3及び特許文献4等に開示されているような無粗化銅箔の使用も行われるようになってきた。
【0004】
この特許文献3には、強靭、かつ、反応性に富む接着剤により、銅箔と積層基材とが強固に接着されたプリント回路用銅張積層板を提供するため、「積層基材の片面または両面に銅箔が積層接着された銅張積層板において、a.前記銅箔上に一般式QRSiXYZ …〔1〕(但し、式中Qは下記の樹脂組成物と反応する官能基、RはQとSi原子とを連結する結合基、X,Y,ZはSi原子に結合する加水分解性の基または水酸基を表す)で示されるシランカップリング剤、または、一般式 T(SH)n ・・・〔2〕(但し、Tは芳香環,脂肪族環,複素環,脂肪族鎖であり、nは2以上の整数)で示されるチオール系カップリング剤よりなる接着性下地を介し、b.(1)アクリルモノマ、メタクリルモノマ、それらの重合体またはオレフィンとの共重合体、(2)ジアリルフタレート、エポキシアクリレートまたはエポキシメタクリレートおよびそれらのオリゴマの過酸化物硬化性樹脂組成物、(3)エチレンブチレン共重合体とスチレン共重合体とを分子内に含有する熱可塑性エラストマの過酸化物硬化性樹脂組成物、(4)グリシジル基を含有するオレフィン共重合体の樹脂組成物、(5)不飽和基を含む側鎖を有するポリビニルブチラール樹脂の樹脂組成物、または、(6)ポリビニルブチラール樹脂とスピロアセタール環を有するアミノ樹脂とエポキシ樹脂の樹脂組成物、からなる接着剤により積層基材と接着されているか、あるいは前記樹脂組成物の接着剤を兼ねた積層基材と直接接着されていることを特徴とするプリント回路用銅張積層板。」を採用すること等が開示されている。
【0005】
そして、特許文献4には、表面処理層にクロムを含まず、プリント配線板に加工して以降の回路の引き剥がし強さ、当該引き剥がし強さの耐薬品性劣化率等に優れる表面処理銅箔の提供を目的として、「絶縁樹脂基材と張り合わせて銅張積層板を製造する際に用いる銅箔の張り合わせ面に表面処理層を設けた表面処理銅箔であって、当該表面処理層は、銅箔の張り合わせ面に亜鉛成分を付着させ、融点1400℃以上の高融点金属成分を付着させ、更に炭素成分を付着させて得られることを特徴とする表面処理銅箔。」を採用すること等が開示され、この中で「前記銅箔の張り合わせ面は、粗化処理を施すことなく、表面粗さ(Rzjis)が2.0μm以下のものを用いることが好ましい。」ことが開示されている。
【0006】
このような無粗化銅箔は、絶縁樹脂基材との接着表面に、粗化に用いる凹凸が存在しない。このため、当該銅箔をエッチング加工して回路形成を行う際の、絶縁樹脂基材側に埋まり込んだ状態のアンカー形状(凹凸形状)を除去するためのオーバーエッチングタイムを設ける必要がない。よって、良好なエッチングファクターを備えるファインピッチ回路の形成において、非常に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本件出願に係る「表面処理銅箔の形態」及び「銅張積層板の形態」に関して説明する。
【0019】
表面処理銅箔の形態: 本件出願に係る表面処理銅箔は、銅箔の表面を粗化した表面処理銅箔において、当該銅箔の表面に、最大長さが350nm以下の銅複合化合物からなる微細凹凸で形成した粗化処理層を備えることを特徴とする。
【0020】
本件出願に係る表面処理銅箔の製造に用いる銅箔は、電解銅箔、圧延銅箔のいずれの使用も可能である。また、銅箔の厚さに関しても、特段の限定は無く、一般的に200μm以下の厚さと認識すれば足りる。また、本件出願に係る表面処理銅箔は、片面に粗化を施した場合、両面に粗化を施した場合の双方を対象としている。
【0021】
本件出願に係る表面処理銅箔の粗化処理表面は、銅箔の表面に酸化銅を含む「銅化合物からなる微細凹凸」を形成し、還元処理して酸化銅の一部を亜酸化銅に転換させることにより、酸化銅及び亜酸化銅を含む「最大長さが350nm以下の銅複合化合物からなる微細凹凸」で粗化したものであることが好ましい。ここで、「最大長さが350nm以下」とは、当該表面処理銅箔の粗化処理表面を電界放射タイプの走査型電子顕微鏡で観察した「銅複合化合物からなる微細凹凸」の最大長さを示したものである。この「銅複合化合物からなる微細凹凸」の形状の最大長さは、後述する
図3に示すように、銅箔の表面に設けた「銅複合化合物からなる微細凹凸で形成した粗化処理層」の断面において、銅箔の表面から延びる針状又は板状の長さとして確認されるものである。本件出願に係る表面処理銅箔と絶縁層構成材との密着性を高める観点から、この最大長さは、より好ましくは300nm以下である。なお、この最大長さを、以下では「最大長さ1」と称することがある。
【0022】
また、本件出願に係る表面処理銅箔の粗化処理層を構成する「銅複合化合物からなる微細凹凸」は、当該粗化処理層の表面を、
図1に示すように、電界放射タイプの走査型電子顕微鏡を用いて、50000倍以上の倍率で、平面的(走査型電子顕微鏡観察時の試料の傾斜角45°)に観察したときの「銅複合化合物からなる微細凹凸の最大長さ」が、150nm以下であることも好ましい。この
図1は、両面平滑電解銅箔の析出面(
図1(a))に対し、本件出願にいう「銅複合化合物からなる微細凹凸」で粗化すると、
図1(b)のように観察されることを示している。そして、
図1(c)には、
図1(b)の表面を、更に50000倍に拡大した観察像を示している。本件出願に係る表面処理銅箔と絶縁層構成材との密着性を高める観点から、この最大長さは、より好ましくは100nm以下である。なお、この最大長さを、以下では「最大長さ2」と称することがある。
【0023】
一例を挙げると、
図1(a)に示す粗化前の電解銅箔の析出面を、Zygo株式会社製 非接触三次元表面形状・粗さ測定機(型式:New−View 6000)で測定すると、Ra=1.6nm、Rz=26nmであった。この電解銅箔の析出面に対して、本件出願にいう「銅複合化合物からなる微細凹凸」で粗化したのが、
図1(b)に示す粗化処理後の電解銅箔である。この表面を、同様にして測定するとRa=2.3nm、Rz=39nmであり、nmオーダーでの粗化が出来ていることが理解できる。更に、
図2には、電解銅箔の電極面と析出面との粗化する部位によって異なる粗化形態を示している。この
図2に関しては、実施例中で詳述する。
【0024】
また、このときの粗化により形成された銅複合化合物からなる微細凹凸の断面を、
図3に示している。この断面図において、銅複合化合物からなる微細凹凸が密集して形成した粗化処理層の厚さに一定のバラツキはあるが、銅箔の表面からの平均厚さが400nm以下になる。
図3の中では、粗化処理層の当該平均厚さが250nmのものを示している。本件出願の発明者等が数多くの試験を行った結果、当該粗化処理層の平均厚さが、100nm〜350nmの範囲に収まれば、「絶縁樹脂基材に対する無粗化銅箔以上の良好な密着性」を備えることができると判断している。
【0025】
次に、銅複合化合物からなる微細凹凸を構成する成分に関して、X線光電子分光分析法 (X−ray Photoelectron Spectroscopy:以下、単に「XPS」と称する。)を用いて状態分析を試みた。その結果、「Cu(0)」、「Cu(II)」、「Cu(I)」及び「−COO基」の存在が確認された。ここで「−COO基」の存在が確認されたため、「炭酸銅」が含まれている可能性が高いことが考えられる。従って、以下に述べる銅複合化合物が含有する不純物の中には、炭酸銅が含まれると考える。
【0026】
そして、上述のXPSを用いて本件出願に係る表面処理銅箔の前記銅複合化合物を分析すると、Cu(I)及びCu(II)の各ピークを分離して検出できる。このXPSで銅複合化合物を分析した場合、大きなCu(I)ピークのショルダー部分に、Cu(0)ピークが重複して観測される場合があるので、このショルダー部分を含めてCu(I)ピークとみなしている。このため、本願発明においては、XPSを用いて銅複合化合物を分析し、Cu 2p 3/2の結合エネルギーに対応する932.4eVに現れるCu(I)、及び934.3eVに現れるCu(II)の光電子を検出して得られる各ピークを波形分離して、各成分のピーク面積からCu(I)ピークの占有面積率を特定する。このときのCu(I)ピークは、「亜酸化銅を構成する1価の銅」に由来すると考えられる。そして、Cu(II)ピークは、「酸化銅を構成する2価の銅」に由来すると考えられる。更に、Cu(0)ピークは、「金属銅を構成する0価の銅」に由来すると考えられる。本件出願において、XPSの分析装置としてアルバック・ファイ株式会社製のQuantum2000(ビーム条件:40W、200um径)を用い、解析ソフトウェアとして「MultiPack ver.6.1A」を用いて状態・半定量用ナロー測定を行った。
【0027】
従って、本件出願に係る表面処理銅箔の「銅複合化合物からなる微細凹凸」の場合、XPSで分析したときのCu(I)及びCu(II)の各ピーク面積の合計面積を100%としたとき、Cu(I)ピークの占有面積率が50%以上
99%以下であることが好ましい。Cu(I)ピークの占有面積率が50%未満の場合には、本件出願に係る表面処理銅箔の粗化処理表面を絶縁層構成材に積層し、回路形成して得られた回路の耐薬品性能が低下するため好ましくない。ここで、前記銅複合化合物のCu(I)ピークの占有面積率が70%以上がより好ましく、80%以上が更に好ましい。亜酸化銅は酸化銅に比べて酸溶解性が低いため、Cu(I)ピークの占有面積率が増加する程、回路形成時のエッチング工程における絶縁層構成材との密着部分へのエッチング液・めっき液等の差し込みを低減することが可能で、耐薬品性能が向上するからである。一方、Cu(I)ピークの占有面積率の
上限は、後述の酸化処理及び還元処理することにより99%以下とする。しかし、Cu(I)ピークの占有面積率が低くなるほど、絶縁層構成材との密着性自体は向上する傾向があり、良好な耐酸化性を得るため、98%以下が好ましく、95%以下がより好ましい。なお、Cu(I)ピークの占有面積率は、Cu(I)/{Cu(I)+Cu(II)} ×100(%)の計算式で算出している。
【0028】
そして、このときの粗化により形成された銅複合化合物からなる微細凹凸は、クリプトンを吸着させて測定した比表面積(以下、単に「比表面積」と称する。)が、0.035m
2/g以上という条件を満足することが好ましい。この比表面積が、0.035m
2/g以上になると、粗化処理層の前記平均厚さが200nmオーダーとなり、無粗化銅箔の絶縁樹脂基材に対する密着性を超えることができるからである。ここで、比表面積の上限を定めていないが、無粗化銅箔と同等の良好なエッチング性能を確保するためのは、上限は0.3m
2/g程度であり、より好ましくは0.2m
2/gである。なお、このときの比表面積は、マイクロメリティクス社製 比表面積・細孔分布測定装置 3Flexを用いて、試料に300℃×2時間の加熱を前処理として行い、吸着温度に液体窒素温度、吸着ガスにクリプトン(Kr)を用いて測定している。
【0029】
以上に述べた「銅複合化合物からなる微細凹凸」は、光を吸収するほど微細であるため、粗化処理層の表面は黒色化、茶褐色化等に暗色化する。即ち、本件出願に係る表面処理銅箔の粗化処理層の表面は、その色調にも特色があり、L
*a
*b
*表色系の明度L
* が25以下、より好ましくは20以下である。この明度L
* が25を超えて明るい色調となると、十分な粗化が行われていないことになり、「絶縁樹脂基材に対する無粗化銅箔以上の良好な密着性」を得ることが出来ないため好ましくない。なお、明度L
* の測定は、日本電色工業株式会社製 分光色差計 SE2000を用いて、明度の校正には測定装置に付属の白色板を用い、JIS Z8722:2000に準拠して行った。そして、同一部位に関して3回の測定を行い、3回の明度L
* の測定データの平均値を、本件出願の明度L
* の値として記載している。
【0030】
そして、本件出願に係る表面処理銅箔の粗化に用いる「銅複合化合物からなる微細凹凸」の形成方法に関して述べる。そして、この銅複合化合物は、酸化銅及び亜酸化銅を含有するものである。この銅複合化合物は、以下のようにして形成する。まず、溶液を用いた湿式法で銅箔の表面に酸化処理を施し、銅箔表面に酸化銅を含む「銅化合物からなる微細凹凸」を形成する。その後、当該銅化合物を還元処理して、酸化銅の一部を亜酸化銅に転換させ、酸化銅と亜酸化銅とを含む「銅複合化合物からなる微細凹凸」とする。本件出願において酸化処理に用いる溶液は、酸化銅を浸食しにくいアルカリ性の溶液を用いることが好ましく、このアルカリ性の溶液に溶解可能で、且つ、比較的に安定して共存可能なアミノ系シランカップリング剤を用いることが好ましい。そこで、この酸化処理に用いる溶液に、アミノ系シランカップリング剤を含有させることで、「銅化合物からなる微細凹凸」の形成が容易となる。銅箔の表面にアミノ系シランカップリング剤が吸着することで、銅箔表面の酸化を微細に抑制するため、「銅化合物からなる微細凹凸」の形状になる。このアミノ系シランカップリング剤を具体的に例示すると、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン等を用いることができる。
【0031】
そして、上述の酸化処理が終了すると、当該銅化合物からなる微細凹凸を還元処理する。本件出願に係る表面処理銅箔の表面にある当該酸化処理で形成した「銅化合物からなる微細凹凸」は、還元処理が施されても当初の銅化合物からなる微細凹凸の形状をほぼ維持したまま、nmオーダーの長さの酸化銅及び亜酸化銅を含有する「銅複合化合物からなる微細凹凸」となる。この酸化処理により得られた「銅化合物からなる微細凹凸」の銅化合物をそのまま残すと、当該銅化合物成分がエッチング液、その他の酸溶液による浸食されやすいため、表面処理銅箔と絶縁樹脂基材との界面の溶液浸食が顕著になり、回路形成して得られた回路の耐薬品性能が低下する。よって、当該銅化合物を還元処理して、「銅化合物からなる微細凹凸」の酸化銅の一部を亜酸化銅に転化させた銅複合化合物とすることが好ましい。この還元処理において、還元剤濃度、溶液pH、溶液温度等を調整することで、「銅複合酸化物からなる微細凹凸」のCu(I)ピークの占有面積率を適宜調整できる。なお、酸化銅及び亜酸化銅を含有する銅複合化合物には、少量の金属銅が含まれても良い。
【0032】
以上に述べてきたことから理解できるように、本件出願に係る表面処理銅箔は、酸化処理溶液中に浸漬して、湿式法で銅箔の表面に酸化銅を含む「銅化合物からなる微細凹凸」を設け、その後還元処理してCu(I)ピークの占有面積率が50%以上
99%以下の「銅複合酸化物からなる微細凹凸」を形成する。従って、銅箔の両面に同時に粗化を施すことが可能である。よって、この湿式法を利用すると、多層プリント配線板の内層回路の形成に適した両面粗化処理銅箔を容易に得ることが可能となる。
【0033】
銅張積層板の形態: 本件出願に係る銅張積層板は、上述の粗化処理層を備える表面処理銅箔を用いて得られることを特徴とする。このときの銅張積層板は、本件出願に係る表面処理銅箔を使用して得られるものであれば、使用した絶縁樹脂基材の構成成分、厚さ、張り合わせ方法等に関して、特段の限定は無い。また、ここでいう銅張積層板の概念の中に、リジッドタイプ、フレキシブルタイプの双方の概念を含むものである。
【実施例1】
【0034】
電解銅箔として、析出面の表面粗さ(Rzjis)が0.2μm、光沢度[Gs(60°)]が600である三井金属鉱業株式会社製の電解銅箔(厚さ18μm)を用いて、以下の手順で表面処理を施した。
【0035】
予備処理: 当該電解銅箔を、水酸化ナトリウム水溶液に浸漬して、アルカリ脱脂処理を行い、水洗を行った。そして、このアルカリ脱脂処理の終了した電解銅箔を、過酸化水素濃度が1質量%、硫酸濃度が5質量%の硫酸系溶液に5分間浸漬した後、水洗を行った。
【0036】
酸化処理: 前記予備処理の終了した電解銅箔を、液温70℃、pH=12、亜塩素酸濃度が150g/L、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン濃度が10g/Lを含む水酸化ナトリウム溶液に、所定の酸化処理時間(1分間、2分間、4分間、10分間)浸漬して、電解銅箔の表面に「銅化合物からなる微細凹凸」を形成した4種類の試料を得た。
【0037】
還元処理: 酸化処理の終了した4種類の試料を、炭酸ナトリウムと水酸化ナトリウムを用いてpH=12に調整したジメチルアミンボラン濃度が20g/Lの水溶液(室温)中に1分間浸漬して還元処理を行い、水洗し、乾燥して、「銅複合化合物からなる微細凹凸」で形成した粗化処理層を備える4種類の表面処理銅箔を得た。
【0038】
この実施例1で得られた表面処理銅箔の粗化処理層表面の走査型電子顕微鏡観察像が、
図1に示したものである。そして、この粗化処理層の表面をXPSを用いて状態分析をすると、「Cu(I)」、「Cu(II)」及び「−COO基」の存在が確認された。更に、この実施例で得られた表面処理銅箔のCu(I)ピークの占有面積率、比表面積、明度L
* 及び引き剥がし強さを、以下の表1に纏めて示す。
【0039】
そして、本件出願における引き剥がし強さの測定は、以下のようにして行った。試料となる表面処理銅箔と、パナソニック株式会社製のプリプレグ(R1551)とを用い、真空プレス機を使用して、プレス圧を2.9MPa、温度を190℃、プレス時間が90分の条件で張り合わせて銅張積層板を製造した。次に、この銅張積層板を用いて、エッチング法で、3mm幅の引き剥がし強さ測定用直線回路を製造し、この3mm回路での引き剥がし強さの測定を行った。
【実施例2】
【0040】
実施例1で用いたと同じ電解銅箔を用いて、以下の手順で表面処理を施した。予備処理及び酸化処理(酸化処理時間:2分間)に関しては、実施例1と同じである。そして、この実施例2では、還元処理に用いる水溶液のpH及びジメチルアミンボラン濃度の影響をみるため、以下のような還元処理を採用している。
【0041】
還元処理: 酸化処理の終了した電解銅箔を、炭酸ナトリウムと水酸化ナトリウムを用いてpH=11,12,13の3水準とし、ジメチルアミンボラン濃度が5g/L、10g/L、20g/Lの3水準を組合わせた9種類の各水溶液(室温)中に1分間浸漬して還元処理を行い、水洗し、乾燥して、本件出願に係る表面処理銅箔を得た。還元処理に用いる水溶液がpH=11のときに得られた表面処理銅箔を、「実施試料11−a,実施試料11−b,実施試料11−c」としている。還元処理に用いる水溶液がpH=12のときに得られた表面処理銅箔を、「実施試料12−a,実施試料12−b,実施試料12−c」としている。そして、還元処理に用いる水溶液がpH=13のときに得られた表面処理銅箔を、「実施試料13−a,実施試料13−b,実施試料13−c」としている。そして、各実施試料を示す際の「−a」表示が、還元処理に用いる水溶液中のジメチルアミンボラン濃度が5g/Lの場合である。そして、「−b」表示が、還元処理に用いる水溶液中のジメチルアミンボラン濃度が10g/Lの場合である。「−c」表示が、還元処理に用いる水溶液中のジメチルアミンボラン濃度が20g/Lの場合である。
【0042】
この実施例2で得られた全ての実施試料の表面処理銅箔の走査型電子顕微鏡観察像は、
図1に示したと同様の形態であった。そして、この各実施試料の粗化処理層の表面にある「銅複合化合物からなる微細凹凸」を、XPSを用いて状態分析すると、「Cu(I)」、「Cu(II)」及び「−COO基」の存在が確認された。この実施例で得られた表面処理銅箔のCu(I)ピークの占有面積率、比表面積、明度L
* 及び引き剥がし強さを、以下の表2に纏めて示す。
【0043】
比較例では、実施例と同じ電解銅箔を用いて、実施例と同じ予備処理を施し、黒化処理を行い、更に還元処理を施し比較試料を得た。以下、黒化処理及び還元処理について説明する。
【0044】
黒化処理: 前記予備処理の終了した電解銅箔を、ローム・アンド・ハース電子材料株式会社製の酸化処理液である「PRO BOND 80A OXIDE SOLUTION」を10vol%、「PRO BOND 80B OXIDE SOLUTION」を20vol%含有する液温85℃の水溶液に5分間浸漬して、表面に一般的な黒化処理を形成した。
【0045】
還元処理: 酸化処理の終了した電解銅箔を、ローム・アンド・ハース電子材料株式会社製の還元処理液である「CIRCUPOSIT PB OXIDE CONVERTER 60C」を6.7vol%、「CUPOSIT Z」を1.5vol%含有する液温35℃の水溶液に5分間浸漬して、水洗し、乾燥して、
図4(b)に示す還元黒化処理表面を備える比較試料を得た。
【0046】
この比較例で得られた表面処理銅箔(比較試料)の粗化処理層の表面をXPSを用いて状態分析すると、「Cu(0)」の存在が明瞭に確認され、「Cu(II)」及び「Cu(I)」の存在も確認されたが、「−COO基」は確認できなかった。この比較例で得られた表面処理銅箔のCu(I)ピークの占有面積率、比表面積、明度L
* 及び引き剥がし強さは、表2に示すとおりである。
【0047】
[実施例と比較例との対比]
実施例1と比較例との対比: 以下の表1を参照して、実施例1と比較例との対比を行う。
【0049】
この表1から理解できるように、酸化処理時間が1分〜10分の間で変動しても、粗化処理層の表面から見た「銅複合化合物からなる微細凹凸」の最大長さは100nmであり、粗化処理表面の状態分析においても検出される内容に変化はない。これに対して、比較例の場合の凹凸の最大長さは500nmと5倍程度大きくなっている。即ち、本件出願に係る表面処理銅箔の「銅複合化合物からなる微細凹凸」は、従来の黒化処理に比べて、極めて微細であることが分かる。
【0050】
次に、比表面積をみると、実施例1に比べて、比較例の方が大きな値を示している。しかし、これらの表面処理銅箔を絶縁樹脂基材に張り合わせて、引き剥がし強さを測定すると、実施例の引き剥がし強さが0.63kgf/cm〜0.78kgf/cmである。最も短い酸化処理時間であっても、実用的に十分な引き剥がし強さが得られており、比表面積の値に比例した引き剥がし強さが得られている。これに対し、実施例1よりも高い比表面積をもつ比較例の引き剥がし強さが、0.33kgf/cmと低くなっている。通常、比表面積の値が高いほど、引き剥がし強さも高くなるが、その逆となっている。これは、比較例における黒化処理の凹凸が強度的に劣化しているためと考えられる。これに関しては、後述する「実施例2と比較例との対比」の中で詳細に述べる。また、実施例1のみをみると、酸化処理時間の増加に比例して、比表面積が大きくなっている。即ち、この実施例1で採用した酸化処理時間は、適正と判断できる。更に、実施例1の粗化処理表面の明度L
*の値に関しても、18〜20と非常にバラツキの少ない値を示している。
【0051】
更に、
図2には、実施例1における酸化処理の浸漬時間2分間の条件で得られた表面処理銅箔の電極面側と析出面側との粗化形態をみるための走査型電子顕微鏡観察像を示している。この
図2から、マクロ的には、粗化前の電解銅箔の電極面側及び析出面側の表面形状が粗化後も維持され、その粗化前の表面形状に沿って「銅複合化合物からなる微細凹凸」が形成されていることが分かる。従って、本件出願に係る表面処理銅箔の場合、「銅複合化合物からなる微細凹凸」で粗化する前の銅箔のマクロ的表面形状を維持したまま、その表面形状に沿った形での粗化が行われていることが明らかである。
【0052】
実施例2と比較例との対比: 以下の表2を参照して、実施例2と比較例との対比を行う。
【0054】
表2において、Cu(I)ピークの占有面積率に着目し、還元処理に用いる水溶液がpH=11のときに得られた表面処理銅箔(実施試料11−a,実施試料11−b,実施試料11−c)と、還元処理に用いる水溶液がpH=12のときに得られた表面処理銅箔(実施試料12−a,実施試料12−b,実施試料12−c)と、還元処理に用いる水溶液がpH=13のときに得られた表面処理銅箔(実施試料13−a,実施試料13−b,実施試料13−c)とをみると、Cu(I)ピークの占有面積率が、59%〜99%の範囲となっている。これに対し、比較試料でも、Cu(I)ピークの占有面積率が83%となっている。よって、Cu(I)ピークの占有面積率においては、実施例と比較例との差異は無いことが分かるが、上述のXPSによる状態分析でみると、検出成分が異なっている。
【0055】
そこで、実施試料と比較試料との粗化状態を、電子顕微鏡観察像で対比してみる。
図2をみると、実施試料に係る粗化状態が理解できる。そして、
図3をみると、実施試料に係る粗化処理層の断面の状態が理解できる。これに対して、比較例において黒化処理した直後の
図4(a)に示す粗化状態の電子顕微鏡観察像では、長く、太い針状形状がみられ、黒化処理の先端部が鋭くとがっている。そして、この針状形状によって形成されている粗化処理層の厚さは500nm〜700nmであった。しかし、還元処理を行って還元黒化処理すると、
図4(b)に示すように凹凸の先端部が丸くなり、還元処理により粗化形状が大きく変化していることが理解できる。
【0056】
更に、
図5(a)には、比較例において黒化処理した直後の粗化処理層の断面を示している。そして、
図5(b)に還元処理を行って還元黒化処理した後の断面を示している。この
図5から分かるのは、還元処理により還元前の凹凸形状が、かなり大きな損傷を受けていることが分かる。即ち、酸化処理で形成されていた針状形状が、還元処理により細く、微細に断裂していることが分かる。これに対し、実施例の「銅複合化合物からなる微細凹凸」の粗化形状は、
図3の断面から理解できるように、還元処理を行っていても、何ら損傷を受けていない。従って、実施試料に比べ、比較試料の還元処理後の凹凸は非常に脆く、いわゆる粉落ちの問題が生じることが予測できる。
【0057】
そこで、実施例2と比較例とで得られた表面処理銅箔の引き剥がし強さを対比してみる。この結果、実施試料の引き剥がし強さは、0.70kgf/cm〜0.81kgf/cmである。これに対して、比較試料の引き剥がし強さは0.33kgf/cmであり、実施試料よりも低くなっている。