【文献】
大島寛,結晶多形・擬多形の析出挙動と制御,PHARM STAGE,2007年 1月15日,Vol.6, No.10,p.48-53
【文献】
高田則幸,創薬段階における原薬Formスクリーニングと選択,PHARM STAGE,2007年 1月15日,Vol.6, No.10,p.20-25
【文献】
山野光久,医薬品のプロセス研究における結晶多形現象への取り組み,有機合成化学協会誌,2007年 9月 1日,Vol.65, No.9,p.907(69)-913(75)
【文献】
Acta Crystallographica, Section B: Structural Crystallography and Crystal Chemistry,1975年,B31,2040−2043
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
粉末X線回折スペクトルにおいて、回折角度2θが、2θ=13.9°±0.2°,14.5°±0.2°,21.3°±0.2°,24.9°±0.2°及び28.2°±0.2°の角度に回折ピークを有し、2θ=18.6°±0.2°の角度に回折ピークを実質的に示さず、2θ=13.9°±0.2°での回折ピークの強度をX1、2θ=14.5°±0.2°での回折ピークの強度をX2、2θ=21.3°±0.2°での回折ピークの強度をX3、2θ=24.9°±0.2°での回折ピークの強度をX4、2θ=28.2°±0.2°での回折ピークの強度をX5としたとき、X1及びX2が、X3、X4及びX5よりも強く現れるレボノルゲストレルの結晶多形β。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[結晶多形β]
本発明のレボノルゲストレルの結晶多形βは、回折角度2θが、2θ=13.9°±0.2°,14.5°±0.2°,21.3°±0.2°,24.9°±0.2°及び28.2°±0.2°の角度に回折ピークを有する。また、結晶多形βは、2θ=18.6°±0.2°の角度に回折ピークを実質的に示さない。
【0017】
各回折角度2θでの回折ピークの強度(高さ)を以下のようにX
1〜X
5としたとき、
X
1:2θ=13.9°±0.2°
X
2:2θ=14.5°±0.2°
X
3:2θ=21.3°±0.2°
X
4:2θ=24.9°±0.2°
X
5:2θ=28.2°±0.2°
結晶多形βの回折ピークの強度(回折ピークの高さ)の順序は、次のような関係を示してもよい。結晶多形βでは、通常、X
1及びX
2がX
3〜X
5と比較して強く(回折ピークが最も高く)現れる。X
1はX
2より強く(高く)てもよく、弱く(低く)てもよく、同等の強度(高さ)でもよい。X
3は、X
4及びX
5より強く(高く)てもよく、X
4とX
5とはほぼ同等の強度(高さ)であってもよい。すなわち、X
1〜X
5の順序は、X
1,X
2>X
3>X
4≒X
5の関係を示していてもよい。
【0018】
なお、X
1〜X
5の順序は必ずしもこの順序に限定されず、例えば、X
4がX
3より強く(高く)てもよい。
【0019】
X
1〜X
5のそれぞれの強度比(高さの比)は、X
4を基準として、以下のようであってもよい。例えば、X
1/X
4又はX
2/X
4=200/100〜40000/100、好ましくは250/100〜30000/100(例えば、300/100〜15000/100)程度であってもよい。また、X
3/X
4=100/100〜2000/100、好ましくは200/100〜1500/100(例えば、400/100〜1000/100)程度であってもよい。また、X
5/X
4=10/100〜1000/100、好ましくは20/100〜500/100(例えば、40/100〜250/100)程度であってもよい。また、X
1とX
2との強度比は、例えば、X
1/X
2=5/100〜2000/100、好ましくは20/100〜1500/100(例えば、80/100〜1000/100)程度であってもよい。
【0020】
また、前記結晶多形βは、上述の回折ピークの他に、2θ=19.9°±0.2°、22.6°±0.2°、31.4°±0.2°、35.3°±0.2°及び/又は43.3°±0.2°の角度での回折ピークを有していてもよい。
【0021】
結晶多形βは、示差走査熱量(DSC)スペクトルにおいて、238〜245℃、好ましくは240〜243℃、より好ましくは241〜242℃程度に吸熱ピークを有し、DSCの補外開始温度(DSCチャートにおける外接交点)で表される融点は、239.4℃±1℃(特に、239.4℃±0.5℃)程度である。
【0022】
結晶多形βは、単結晶、双晶、多結晶のいずれであってもよいが、通常単結晶である場合が多い。結晶の形態(外形)は、プレート状(板状)又は針状結晶であってもよい。
【0023】
また、結晶多形βの粒子サイズは、特に制限されず、例えば、レーザー回折法に基づいて、平均粒子径が0.01〜500μm、好ましくは0.1〜300μm(例えば、1〜250μm)程度であってもよく、さらに好ましくは2〜200μm(例えば、5〜100μm)、通常、0.1〜50μm(例えば、0.5〜10μm)程度であってもよい。
【0024】
結晶多形βは、粉体流動性が高い。そのため、有効成分の含有量が低い製剤の調製においても、少量のロットで自動計算により調製できる。なお、従来のレボノルゲストレルは粉体流動性が低いため、微量の有効成分を含む製剤の調製において、有効成分の含有量のバラツキが大きくなる。また、結晶多形βは、造粒工程を必要としない直接打錠法などの製造法を使用しても、有効成分の含有量のバラツキの少ない製剤を得ることができる。この結晶多形βの安息角(°)は、温度21℃、湿度37%の条件下において、例えば20〜45(例えば、25〜42)、好ましくは30〜40、さらに好ましくは35〜39程度であってもよい。なお、安息角の測定は、実施例の方法により測定できる。
【0025】
また、結晶多形βは、溶解速度が高いため吸収されやすく、バイオアベイラビリティに優れている。そのため、結晶多形βは、従来のレボノルゲストレルよりも使用量が少量であっても、レボノルゲストレルの活性を有効に発現できる。例えば、酸性液(pH1.2)での溶解速度は、温度37℃において、従来のレボノルゲストレルは72.5ng/mL/hrであり、結晶多形βは83.1ng/mL/hrである。なお、溶解速度の測定は、実施例の方法により測定できる。
【0026】
また、本発明のレボノルゲストレルの結晶多形βは、安定性に優れており、熱や光、湿度に対して安定である。例えば、室温の環境下で1箇月以上、好ましくは2箇月以上、より好ましくは6箇月以上の間、結晶として安定に存在できる。
【0027】
さらに、本発明のレボノルゲストレルの結晶多形βは、摩擦に対しても安定性が高いため、粉砕などにより摩擦力を作用させても、結晶形を維持して安定に存在できる。
[製造方法]
本発明のレボノルゲストレルの結晶多形βは、例えば、ヘテロ原子として2つの酸素原子を含む飽和5又は6員環化合物からなる良溶媒に、レボノルゲストレルを溶解して調製されるレボノルゲストレル溶液と、析出溶媒とを混合して、レボノルゲストレルの結晶多形βを析出させることにより製造できる。前記良溶媒(前記5又は6員環化合物)としては、例えば、ジオキサン、ジオキソランなどが使用され、単独で又は2種以上を使用してもよい。また、前記良溶媒のうち、ジオキサンが好ましい。
【0028】
前記レボノルゲストレルとしては、慣用の方法、例えば、Synthetic Communications, 26, 1461(2010)に記載の方法などにより製造できる。
【0029】
上記レボノルゲストレル溶液中のレボノルゲストレルの濃度は、例えば、0.1〜20重量%(例えば、0.5〜10重量%)、好ましくは0.5〜7重量%、より好ましくは1〜5重量%(例えば、2〜4重量%)程度であってもよい。上記レボノルゲストレル溶液は、結晶多形βを効率的に析出させるために高濃度が望ましく、析出系の温度(例えば、冷却下)でレボノルゲストレルが過飽和であってもよい。高濃度のレボノルゲストレル溶液は、例えば、30〜70℃、好ましくは35〜60℃、より好ましくは35〜50℃程度で加温して調製してもよい。
【0030】
上記析出溶媒は、貧溶媒単独であってもよく、貧溶媒と良溶媒との混合溶媒であってもよい。貧溶媒としては、例えば、C
4−10アルカン(ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタンなど)、C
4−10シクロアルカン(シクロペンタン、シクロヘキサンなど)などが使用され、単独で又は2種以上を使用してもよい。好ましい貧溶媒はヘキサンである。混合溶媒中の良溶媒としては、前記と同様に、ヘテロ原子として2つの酸素原子を含む飽和5又は6員環化合物(例えば、ジオキサン、ジオキソラン)などが使用され、単独で又は2種以上を使用してもよい。また、混合溶媒中の良溶媒の種類は、レボノルゲストレルの良溶媒と異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
【0031】
なお、上記混合溶媒において、貧溶媒(例えば、ヘキサン)と良溶媒(例えば、ジオキサン)との重量比は、例えば、貧溶媒/良溶媒=50/50〜97/3、好ましくは60/40〜95/5、さらに好ましくは70/30〜93/7(例えば、75/25〜90/10)程度であってもよい。
【0032】
析出系での上記貧溶媒と上記良溶媒との重量比は、例えば、貧溶媒/良溶媒=50/50〜99/1、好ましくは55/45〜98/2、さらに好ましくは60/40〜97/3程度であってもよい。上記貧溶媒が少なすぎると、レボノルゲストレルの結晶多形βを効果的に析出できず、多すぎると、大量の貧溶媒が必要となり、経済性が悪くなる。
【0033】
上記レボノルゲストレル溶液と上記析出溶媒とは、時間をかけて徐々に混合するのが好ましい。混合方法としては、例えば、上記析出溶媒を上記レボノルゲストレル溶液中に添加してもよいが、操作が容易であることから、上記レボノルゲストレル溶液を上記析出溶媒中に添加するのがより好ましい。添加方法としては、例えば、上記レボノルゲストレル溶液に上記貧溶媒または混合溶媒を滴下する方法などにより行ってもよい。また、レボノルゲストレル溶液は加温した高濃度の溶液であってもよく、上記レボノルゲストレル溶液を、上記析出溶媒と混合してもよい。
【0034】
混合速度は上記レボノルゲストレル溶液の濃度などにより選択され、例えば、上記レボノルゲストレル溶液全体の重量を100重量部としたとき、上記レボノルゲストレル溶液が0.01〜50重量部/分、好ましくは0.1〜10重量部/分、特に0.5〜5重量部/分であってもよい。
【0035】
さらに、析出系を攪拌し、析出系から結晶多形βを析出させてもよい。攪拌時間は特に限定されず、例えば、1分〜1日程度であってもよく、10分〜3時間程度(例えば、10分〜1時間)が好ましい。
【0036】
上記析出は、通常、冷却下で行うことができ、例えば、−10〜25℃、好ましくは−10〜15℃、特に−5〜10℃程度の温度条件下(例えば、氷冷下)にて行ってもよい。温度が高すぎると、レボノルゲストレルの結晶多形βを効果的に析出できないことがある。
【0037】
上記混合物中に析出した結晶多形βは、濾過などの方法により上記混合物から分離して、単離することができる。さらに、結晶多形βを洗浄し、乾燥させてもよい。
【0038】
上記分離方法は、例えば、自然濾過、真空濾過などであってもよいが、結晶多形βに圧力が作用しない方法、例えば、自然濾過(濾布上から溶液を自然落下させ、濾布上に固体を分離する方法)により行うのが好ましい。分離された結晶多形βを炭化水素類(ヘキサンなどの脂肪族、脂環族又は芳香族炭化水素類)などの貧溶媒で洗浄した後、例えば、自然乾燥、真空乾燥、加熱乾燥などにより乾燥してもよいが、自然乾燥により乾燥させるのが好ましい。
【0039】
[用途および医薬組成物]
本発明のレボノルゲストレルの結晶多形βは、緊急避妊薬として好適に用いられ、単独で医薬として用いてもよく、担体(薬理学的又は生理学的に許容可能な担体など)と組み合わせて医薬組成物(又は製剤)として用いてもよい。
【0040】
本発明の医薬組成物において、担体は、医薬組成物(又は製剤)の形態(すなわち、剤形)、投与形態、用途などに応じて、適宜選択される。剤形は特に制限されず、固形製剤(粉剤、散剤、粒剤(顆粒剤、細粒剤など)、丸剤、ピル、錠剤、カプセル剤(軟カプセル剤、硬カプセル剤など)、ドライシロップ剤、坐剤など)、半固形製剤(クリーム剤、軟膏剤、ゲル剤、グミ剤、フィルム状製剤、シート状製剤など)などであってもよい。
【0041】
また、前記粉剤などのスプレー剤、エアゾール剤なども含まれる。なお、カプセル剤は、液体充填カプセルであってもよく、顆粒剤などの固形剤を充填したカプセルであってもよい。また、製剤は凍結乾燥製剤であってもよい。さらに、本発明の製剤は、薬剤の放出速度が制御された製剤(徐放性製剤、速放性製剤)であってもよい。また、製剤は経口投与製剤(顆粒剤、散剤、錠剤(舌下錠、口腔内崩壊錠など)、カプセル剤、フィルム製剤など)であってもよく、非経口投与製剤(吸入剤、経皮投与製剤、経鼻投与製剤など)であってもよい。さらに、製剤は局所投与製剤(軟膏剤、貼付剤、パップ剤など)であってもよい。
【0042】
前記担体は、例えば、日本薬局方(局方)の他、(1)医薬品添加物ハンドブック、丸善(株)、(1989)、(2)「医薬品添加物事典2007」(薬事日報社、2007年7月発行)、(3)薬剤学、改訂第5版、(株)南江堂(1997)、及び(4)医薬品添加物規格2003(薬事日報社、2003年8月)などに収載されている成分(例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、コーティング剤など)の中から、投与経路及び製剤用途に応じて選択できる。例えば、固形製剤の担体としては、賦形剤、結合剤および崩壊剤から選択された少なくとも一種の担体を使用する場合が多い。また、医薬組成物は脂質を含んでいてもよい。
【0043】
前記賦形剤としては、乳糖、ブドウ糖、ショ糖、マンニトール、ソルビトール、キシリトールなどの糖類又は糖アルコール類;トウモロコシデンプンなどのデンプン;結晶セルロース(微結晶セルロースも含む)などの多糖類;軽質無水ケイ酸などの酸化ケイ素又はケイ酸塩などが例示できる。結合剤としては、アルファ化デンプン、部分アルファ化デンプンなどの可溶性デンプン;アラビアゴム、デキストリン、アルギン酸ナトリウムなどの多糖類;ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアルコール(PVA)、カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸系ポリマー、ポリ乳酸、ポリエチレングリコールなどの合成高分子;メチルセルロース(MC)、エチルセルロース(EC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)などのセルロースエーテル類などが例示できる。崩壊剤としては、カルボキシメチルスターチナトリウム、カルメロース、カルメロースナトリウム、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースなどが例示できる。これらの担体は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0044】
なお、前記コーティング剤としては、例えば、糖類、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体、ポリオキシエチレングリコール、セルロースアセテートフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、メチルメタクリレート−(メタ)アクリル酸共重合体、オイドラギット(メタクリル酸・アクリル酸共重合物)などが用いられる。コーティング剤は、セルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、メチルメタクリレート−(メタ)アクリル酸共重合体などの腸溶性成分であってもよく、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートなどの塩基性成分を含むポリマー(オイドラギットなど)で構成された胃溶性成分であってもよい。また、製剤は、これらの腸溶性成分や胃溶性成分を剤皮に含むカプセル剤であってもよい。
【0045】
製剤においては、投与経路や剤形などに応じて、公知の添加剤を適宜使用することができる。このような添加剤としては、例えば、滑沢剤、崩壊補助剤、抗酸化剤又は酸化防止剤、安定剤、防腐剤又は保存剤、殺菌剤又は抗菌剤、帯電防止剤、矯味剤又はマスキング剤、着色剤、矯臭剤又は香料、清涼化剤、消泡剤などが挙げられる。これらの添加剤は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0046】
なお、本発明の医薬組成物(又は医薬製剤)は、必要に応じて、他の生理活性成分又は薬理活性成分(例えば、エストラジオール、エチニルエストラジオール、エストラジオール安息香酸エステル、エストリオール、エストリオール酢酸エステル安息香酸エステルなどの卵胞ホルモン剤など)を含んでいてもよい。
【0047】
本発明の医薬組成物は、有効成分の他、担体成分、必要により添加剤などを用いて、慣用の製剤化方法、例えば、第十六改正日本薬局方記載の製造法又はこの製造方法に準じた方法により調製できる。
【0048】
本発明のレボノルゲストレルの結晶多形βは、毒性も低く、その安全性も優れており、ヒト及び非ヒト動物、通常、哺乳動物(例えば、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、サルなど)の雌に対して、安全に投与される。投与量は、投与対象の種、年齢、体重、及び状態(一般的状態、病状、合併症の有無など)、投与時間、剤形、投与方法などに応じて、選択できる。例えば、ヒトに対する投与量(1日用量)は、例えば、0.01〜50mg/日、好ましくは0.05〜10mg/日(例えば、0.5〜5mg/日)程度である。
【0049】
投与方法は、経口投与であってもよく、局所投与又は非経口投与(例えば、皮下投与、筋肉内投与、直腸投与、膣投与など)であってもよい。
【0050】
投与回数は、特に制限されず、例えば、1日1回であってもよく、必要に応じて1日複数回(例えば、2〜3回)であってもよい。
【実施例】
【0051】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0052】
[粉末X線回折スペクトル]
粉末X線回折スペクトルは、線源:Cu K(α1)、管電圧:40kV、管電流:40mA、サンプリング間隔:0.01°、スキャン速度10°/分の条件で測定した。なお、粉末X線回折チャートにおいて、回折ピークは、ピーク幅の閾値を0.1°として、二次微分法によりサーチした。
【0053】
[示差走査熱量スペクトル]
示差走査熱量スペクトルは、示差走査熱量計(型式:DSC8230L)を用いて、昇温速度10℃/分の条件で測定した。
【0054】
実施例1
レボノルゲストレル(Industriale Chimica社製)700mgをジオキサンに溶かし、25mLのレボノルゲストレル溶液とした。この溶液を氷冷下、74分かけてヘキサン1Lに滴下し、20分間撹拌後、自然ろ過して得られた湿結晶をヘキサンで洗浄した。前記湿結晶を30℃で18時間通風乾燥して、レボノルゲストレルの結晶多形β629mgを得た。
【0055】
得られたレボノルゲストレルの結晶多形βの粉末X線回折スペクトルの測定結果を
図1に、示差走査熱量スペクトルの測定結果を
図2に示す。
図2より、DSCの補外開始温度(融点)は、239.4℃であった。
【0056】
比較例1
レボノルゲストレル(Industriale Chimica社製)200mgをアセトニトリル12mLに添加し、還流温度に加熱してレボノルゲストレルを溶解させた後、得られたレボノルゲストレル溶液を室温で一晩放置した。この溶液中に析出した結晶をろ取して、レボノルゲストレル結晶183mgを得た。
【0057】
得られたレボノルゲストレル結晶の粉末X線回折スペクトルを測定したところ、WO2009/035527号公報で公知の結晶であり、本発明の結晶多形βは得られなかった。
【0058】
比較例2
レボノルゲストレル(Industriale Chimica社製)200mgをN,N−ジメチルアセトアミド3mLに溶かし、得られたレボノルゲストレル溶液を室温で攪拌下、水3mLを添加した。この溶液中に析出した結晶をろ取して、レボノルゲストレルの湿結晶249mgを得た。
【0059】
得られたレボノルゲストレル結晶の粉末X線回折スペクトルを測定したところ、WO2009/035527号公報で公知の結晶であり、本発明の結晶多形βは得られなかった。
【0060】
比較例3
レボノルゲストレル(Industriale Chimica社製)200mgをクロロホルム5mLに溶かし、レボノルゲストレル溶液とした。この溶液を室温で3日間放置して溶媒を自然蒸発させ、レボノルゲストレル結晶188mgを得た。
【0061】
得られたレボノルゲストレル結晶の粉末X線回折スペクトルを測定したところ、WO2009/035527号公報で公知の結晶であり、本発明の結晶多形βは得られなかった。
【0062】
[結晶形状]
実施例1で得られた結晶多形βの顕微鏡((株)島津製作所製、「BA200」、対物レンズ倍率10倍)写真を
図3に示し、レボノルゲストレル(Industriale Chimica社製:以下、比較原体という)の顕微鏡写真を
図4に示す。
図4に示されるように、比較原体は明確な結晶形状を示さなかったが、
図3に示されるように、結晶多形βは長辺/短辺=3〜10程度のプレート状(板状)又は針状結晶であることがわかった。
【0063】
[流動性試験]
ロートの下端から堆積面までの高さを4.5cmに固定し、実施例1で得られた結晶多形β又は比較原体の粉末状試料をロートの下端から堆積面に落下させ、堆積面から円錐状の稜線への角度(安息角)を温度21℃、湿度37%の条件下で測定した。その結果を表1に示す。なお、日本薬局方参考情報(G2 物性関連 粉体の流動性;Carr,R.L.:Evaluating flow properties of solids.Chem.Eng.1965;72:163−168.)に基づき、流動性の程度を記載した。
【0064】
【表1】
【0065】
表1に示されるように、実施例1で得られた結晶多形βは、比較原体と比べ、粉体流動性に優れている。
【0066】
[溶解速度]
実施例1で得られた結晶多形β又は比較原体を、5mm径杵を用いて、圧力10kNで3秒間圧縮して、一定形状に固形化し、ペレットを得た。このペレット製剤50mgを、Tween80を1%の濃度で含む以下の溶出溶媒900mLに加えて試験サンプルを得た。この試験サンプルを37℃、50rpmの条件下で15分撹拌した後、その一部を取り、固形分を濾別し、高性能液体クロマトグラフィー(装置:(株)島津製作所製「LC−2010AHT」、カラム:ウォーターズ社製「XBridge C18 5μm」、カラム温度:35℃、溶離液:アセトニトリル/0.1%トリフルオロ酢酸水溶液混液(体積比3:2)、流量:1.0mL/分、検出:UV240nm)により定量し、溶解速度(ng/mL/hr)を算出した。結果を表2に示す。
【0067】
(溶出溶媒)
1.溶出試験第1液(pH1.2)
塩化ナトリウム2.0g及び塩酸7.0mLに水を加えて1000mLとした溶液
2.精製水
【0068】
【表2】
【0069】
表2に示されるように、実施例1で得られた結晶多形βは、比較原体と比べて溶解速度が高いため、吸収されやすい。
【0070】
[薬物動態試験1]
2匹の雌性ラット(11週齢)を用意し、一方に実施例1で得られた結晶多形βを適用し、他方に比較原体を適用した。すなわち、各ラットに、ゼリー剤として6.7mg/kgの用量で単回経口投与し、0.5、1、2、3、4、6、8時間後の血漿中未変化体濃度(血中レボノルゲストレル濃度)を測定した。なお、ゼリー剤はMediGel Sucralose(Clear H
2O社製)10mL中、実施例1で得られた結晶多形β又は比較原体が6.7mgとなるよう混合して調製した。血漿中の未変化体濃度の推移を
図5に示す。また、薬物動態学的パラメータを表3に示す。
【0071】
【表3】
【0072】
表中、C
maxは最大血漿濃度、T
maxは投与からC
maxに至るまでの時間、AUC
0−8は濃度−時間曲線下面積、MRT
0−8は平均滞留時間を示す。
[薬物動態試験2]
2匹の雌性イヌ(4歳齢)を用意し、一方に実施例1で得られた結晶多形βを適用し、他方に比較原体を適用した。すなわち、各イヌに、0.67mg/kgの用量でカプセルに充填して単回経口投与し、0.5、1、2、3、4、6、8時間後の血漿中未変化体濃度(血中レボノルゲストレル濃度)を測定した。血漿中の未変化体濃度の推移を
図6に示す。また、薬物動態学的パラメータを表4に示す。
【0073】
【表4】
【0074】
表中、C
maxは最大血漿濃度、T
maxは投与からC
maxに至るまでの時間、AUC
0−8は濃度−時間曲線下面積、MRT
0−8は平均滞留時間、t
1/2は半減期を示す。
【0075】
表3、表4及び
図5、
図6に示されるように、実施例1で得られた結晶多形βは、比較原体と比べて優れたバイオアベイラビリティを示す。