(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された織物では、収縮性繊維糸としてナイロンやビニロン繊維を採用している。この場合、製織後に熱処理して収縮させたとしても、せいぜい収縮率は10%程度にすぎないため、模様の浮かび上がり(膨出)はわずかであり、意匠効果も低い。
本発明は、模様の浮かび上がりの高さ(膨出高)が大きくて意匠効果の高い織布を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願の発明者は、収縮率の大きい繊維糸を求めて鋭意検討を重ねた結果、少なくともドラフト比が2以上のウレタン繊維を収縮性緯糸として用いることにより、上記目的が達成できることに想到し、本発明を成すに到った。
本発明の第1の形態に係る織布は、少なくともドラフト比が2以上のウレタン繊維からなる収縮性緯糸を経糸に織り込んで組織されたベース布地と、ベース布地の少なくとも一部の領域において、ベース布地の所定位置にある経糸に非収縮性緯糸を接結させ、非収縮性緯糸のみで組織された模様布地とを備え、ベース布地に模様布地を製織後に、収縮性緯糸を収縮させて模様布地をベース布地より膨出させ所定の処理を施して膨出した模様布地の表面を平坦化したことを特徴とする。
【0006】
本発明の第2の形態に係る織布は、第1の形態に係る織布において、所定の処理として、膨出した模様布地の表面を加熱プレスするか又は所定の長さだけ刈り取ることを特徴とする。
本発明の第3の形態に係る織布は、模様布地のベース布地からの膨出高が多段階となるように収縮性緯糸と経糸との接結位置を選択することを特徴とする。
本発明の第4の形態に係る織布は、模様布地をベース布地の片面に組織することを特徴とする。
本発明の第5の形態に係る織布は、模様布地をベース布地の両面に組織することを特徴とする。
【0007】
本発明の織布の製造方法は、少なくともドラフト比が2以上のウレタン繊維からなる収縮性緯糸を経糸に織り込んでベース布地を組織し、ベース布地の少なくとも一部の領域において、ベース布地の所定位置にある経糸に非収縮性緯糸を接結させ、非収縮性緯糸のみで模様布地を組織し、ベース布地に模様布地を製織後に、収縮性緯糸を収縮させて模様布地をベース布地より膨出させ、膨出した模様布地の表面を加熱プレスするか又は所定の長さだけ刈り取って平坦化することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、模様布地のベース布地からの膨出高が大きいため、模様布地とベース布地との間に十分な空間が確保されるため、意匠性の高い織布を提供することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明では、収縮性緯糸としてウレタン繊維を用いる。
即ち、ウレタン繊維をドラフト比が2以上になる様に伸ばし、その状態を保ちながら非収縮性の繊維(例えば、ポリエステル加工糸、ポリアミド加工糸(ナイロン)、キュプラ、ポリエチレン、綿、ウール、アクリル、レーヨン、麻、絹、アセテート)と撚り合わせる。さらに、糊で固めてドラフト比2以上に安定させる事により、本発明で用いる収縮性緯糸となる。
なお、ドラフト比が大きい程、後の収縮処理による模様布地のベース布地からの膨出高を大きくすることが出来るので、必要に応じて任意に定めることが出来る。なおドラフト比が2未満であると膨出高を十分に大きくすることが困難である。
【0011】
以下、添付図面を参照して本発明に係る織布の実施例を説明する。
図1Aは、本発明に係る織布の表図柄を、
図1Bは裏図柄を示す図である。
織布10は、ベース布地100の一部の領域の表側100aに表模様布地200aが、裏側100bに裏模様布地200bが接結されて組織されている。
図1A,1Bに示す実施例では表模様布地200aは緯糸の収縮によって膨出模様を構成しているが、裏模様布地200bは緯糸の収縮によって僅かに組織が緻密になっただけで、膨出模様とはなっていない。裏模様布地200bも膨出模様を構成するように組織できるが、この点については後述する。
【0012】
図2は、
図1に示す織布10をX−X′に沿って切断した時の織布の断面構造を示す図で、aは製織後の状態を、bは収縮性緯糸を収縮させ、模様布地をベース布地より浮き上がらせた(膨出)状態を示している。またcは、bの状態にある模様布地の表面を所定の長さだけ刈り取って平坦化した状態を、dは、bの状態にある模様布地の表面を加熱プレスすることにより平坦化した状態を示している。
【0013】
本発明では、経糸(●印で示す)に織り込まれた緯糸に収縮性緯糸20,22と非収縮性緯糸30,32の二種類の緯糸を用いる。収縮性緯糸20,22は前述したように加工したウレタン繊維糸を用いる。後述するように、製織後に精練、乾熱処理及び/又は整理加工によって糊が除去され熱処理が加わることによって収縮する。
非収縮性緯糸30,32は、ポリエステル加工糸、ポリアミド加工糸(ナイロン)、キュプラ、ポリエチレン、綿、ウール、アクリル、レーヨン、麻、絹、アセテート等の収縮性の低い繊維で出来た糸であって、製織後の精練、乾熱処理及び/又は整理加工によっては収縮しないか、収縮度が極めて低い糸である。
なお、経糸(●)は非収縮性の糸を使用する。
【0014】
本発明ではベース布地100a,100bは経糸(●)に収縮性緯糸を織り込んで組織される。
図2aに示すように2種類の収縮性緯糸20,22を使用して経糸(●印)との間で糸組を行っている。
ベース布地は、畦織又は綾織によって組織することができる。
図2に示す例では、経糸(●)と緯糸20,22とは交互に浮き沈みさせて織られる畦織(又は平織)となっているが、規則的に経糸2本と互いに浮き沈みさせて織られる綾織としても良く、また畦織と綾織とを混在させた混在織でも良い。
【0015】
模様布地200aは非収縮性緯糸30,32をベース布地の所定位置にある経糸(経糸位置−10,−9,−6,−5,−2,−1,2,3,6,7,10,11)と接結させ、朱子織にて組織される。なお、本明細書においては、朱子織組織には、経糸の飛び越し数に応じて5枚朱子、8枚朱子、12枚朱子等の正則朱子織の他に、3枚朱子、6枚朱子、7枚朱子やこれらの混在した変則朱子織、重朱子織なども包含されるものとして定義している。
【0016】
図2に示す実施例では、緯糸30,32はいずれも3枚朱子の朱子織組織となっている。
ベース布地と模様布地200aとはジャカード織機により一体的に製織される。そして模様布地200aとベース布地とは互いに分離されることなく接結されている。このように模様布地200aは緯糸のみで構成され、ベース布地の所定の経糸と接結されて組織される。
製織後に、後述する収縮性緯糸20,22の収縮処理を行うと、
図2bに示すように表模様布地200aの朱子織された模様部分がベース布地に接結点(−10,−9,−6,−5,−2,−1,2,3,6,7,10,11)で接結された状態でベース布地より浮き上がる。これによって模様布地200aとベース布地との間に空間が形成される。
【0017】
この状態で模様付織布として使用しても良いが、本発明の場合には、浮き上がり高(膨出高)が大きいので膨出部分に物が引っ掛かったりして、織布がほつれたり破れてしまう事がある。そこで膨出部分の一部を切除したり、膨出部分をプレスするなどして表面を平坦化して、これらを防止する必要がある。
織布のほつれや破れを防止するための従来の方法に、“突っ切り”と称される方法がある。この方法は、模様布地の袋状になった空間内に切断用の刃物を差し込み、その一部を切断するものである。この“突っ切り”作業はすべて手作業であるため非常に手間のかかる作業となり、織布の製造コストが上昇するだけでなくデザイン性にも劣るという欠点があった。
【0018】
本発明では、このような手作業による従来の方法を改善すべく、製織後に収縮性緯糸を収縮させ、膨出部分の先端部分をシャーリング機で自動的に刈り取るようにした。
これにより製造コストを上昇させることなく、またデザイン性にも優れた織布を提供することが出来る。
図2cは模様布地200aの表面の膨出した収縮性緯糸30,32の点線で示す先端部30a,30bを刈り取って平坦化した状態を示している。この刈り取りはシャーリング(カット)と呼ばれる方法で行なわれる。
【0019】
図6はシャーリング(カット)機600の概略構造図である。
シャーリング機600は、基台60と、基台60上に受け刃62を固定する支持台61と、受け刃62に近接して回転する回転ロール刃63と、織布70を載置する載置台64と、織布70を載置台64上を移動させる回転ロール66a,66bと、シャーリング後の織布70を通して移動させる回転ロール65a,65bとから構成されている。
載置台64は可動式となっており、受け刃62との間隔を調整することでカット長を調節できる。より具体的には、回転ロール刃63と受け刃62の近傍で織布70の表面を真空(バキューム)吸引して、膨出部分の繊維を立たせておき、この立たせた繊維が回転ロール刃60の歯の間にカット長だけ入り込むようにして刈り込むようにするのが良い。
膨出後の模様布地の表面を平坦化する方法としては上述のシャーリングに代えて加熱プレスを行っても良い。またシャーリングと加熱プレスとを併用しても良い。
図2dは、加熱プレスにより非収縮性緯糸30,32の表面30b、32bを平坦化した状態を示している。
【0020】
図3は、
図2と同様にベース布地の片面(たとえば表面)だけに模様布地200aが組織される場合の他の実施例を示したものである。ベース布地の組織は
図2に示す実施例と同一である。模様布地200aの組織が変則朱子織組織となっている点で
図2の実施例と構成を異にしている。
このような変則朱子織組織にすると模様布地200aのベース布地からの膨出高が多段階となる。本実施例の場合には、
図3bに示すように緯糸32によって形成される膨出高が大きい部分と緯糸30によって形成される膨出高が小さい部分の2段階となる。
図3cでは、膨出高が大きい部分の一部32aを刈り取り、膨出高が小さい部分30はそのまま残して平坦化を行う。
図3dでは、膨出高が大きい部分を加熱プレスにより表面32bを平坦化した状態を示している。
【0021】
図4は、
図2や
図3と異なりベース布地の両面(表面と裏面)に模様布地200a,200bが組織される場合の実施例を示したものである。
ベース布地の組織は
図2、
図3に示す実施例と同一である。
図4aに示すように、模様布地200a,200bは非収縮性緯糸30,32をベース布地の所定位置にある経糸(経糸位置−10,−6,−2,2,6,10)と接結させ、正則朱子織にて組織される。
製織後に収縮性緯糸20,22の収縮処理を行うと、
図4bに示すように表模様布地200a及び裏模様布地200bの模様部分がベース布地に接結点(−10,−6,−2,2,6,10)に接結された状態で浮き上がる。
模様布地の膨出後の平坦化処理は、
図2、
図3に示した実施例の場合と同様であるから詳細説明は省略する。なお、平坦化処理は両面に対して行っても良く、片面(表面又は裏面)に対して行っても良い。
【0022】
図5は
図4と同様にベース布地の両面に模様布地200a,200bを組織するものであるが、表裏で模様布地の図柄が異なる点で
図4とは異なる。
図5aに示すように、表模様布地200aは非収縮性緯糸32をベース布地の所定位置にある経糸(経糸位置−10,−6,−2,2,6,10)と接結させ、裏模様布地200bは非収縮性緯糸30をベース布地の所定位置にある経糸(経糸位置−10,−5,0,5,10)と接結させて組織される。製織後に収縮処理を行うと、
図5bに示すように表模様布地200aの模様部分はベース布地に接結点(−10,−6,−2,2,6,10)に接結された状態で浮き上がり、裏模様布地200bの模様部分はベース布地に接結点(−10、−5,0,5,10)に接結された状態で浮き上がる。以降の平坦化処理については前述した実施例の場合と同様である。
【0023】
次に、製織後の収縮性緯糸20,22の収縮処理について説明する。
製織後の織布に対しては、通常、(1)精練、(2)乾熱(温風)処理、(3)撥水加工、(4)整理加工が行なわれる。
以下、精練、乾熱処理、撥水加工、整理加工の内容および手順を説明する。
【0024】
(1)精練:織り上がりの生地は、製織する際に用いる糊や油等の不純物を含んでいる。それら不純物を取り除き、室熱の環境下で、生地を75℃前後の湯の中に入れ、もみこむ工程である。この工程により一般的に油分が付着しやすいウレタン繊維を含む生地であっても、その油分等の不純物が洗われる。また糊で固められ伸長されていたウレタン繊維が、糊が除去されることでその分収縮する。この時点ではウレタン繊維は伸縮度について変化しやすく、不安定である。
(2)乾熱(温風)処理:精練により不純物が浄化された生地の水分を除去するため、ボイラ等の機械で吊るし干しをするか、又は天日干し(自然乾燥)をする工程である。水分を含んでいたウレタン繊維は、乾燥されることよりさらに収縮する。
(3)撥水加工:40℃前後の樹脂等からなる撥水剤の液に2回程浸水させる工程である。これにより、生地の表面に撥水剤が固着され水分をはじくようになる。
(4)整理加工:約165℃以上の温度の熱風により乾燥させ撥水液を定着させる。この高温乾燥工程(熱セット)によりさらに撥水度を向上させ、ウレタン繊維はさらに収縮し、固着され伸縮度が安定する。
本発明における収縮処理とは上記(1),(2),(3),(4)をその内容としている。
【0025】
以上、実施例に基づいて本発明を説明したが、本発明は上述の実施例に限定されることなく種々の変形や応用が可能である。
【解決手段】本発明の織布は、少なくともドラフト比が2以上のウレタン繊維からなる収縮性緯糸を経糸に織り込んで組織されたベース布地と、ベース布地の少なくとも一部の領域において、ベース布地の所定位置にある経糸に非収縮性緯糸を接結させ、非収縮性緯糸のみで組織された模様布地とを備え、ベース布地に模様布地を製織後に、収縮性緯糸を収縮させて模様布地をベース布地より膨出させ所定の処理を施して膨出した模様布地の表面を平坦化したことを特徴とする。