特許第5809446号(P5809446)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5809446
(24)【登録日】2015年9月18日
(45)【発行日】2015年11月10日
(54)【発明の名称】低アレルゲングルテンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23J 3/18 20060101AFI20151021BHJP
【FI】
   A23J3/18 502
【請求項の数】10
【全頁数】43
(21)【出願番号】特願2011-116112(P2011-116112)
(22)【出願日】2011年5月24日
(65)【公開番号】特開2012-239461(P2012-239461A)
(43)【公開日】2012年12月10日
【審査請求日】2014年4月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000194893
【氏名又は名称】ホシザキ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064724
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷 照一
(74)【代理人】
【識別番号】100076842
【弁理士】
【氏名又は名称】高木 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】小林 健治
(72)【発明者】
【氏名】高橋 仁
【審査官】 菅原 洋平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−198582(JP,A)
【文献】 特開平11−103793(JP,A)
【文献】 特開2000−069915(JP,A)
【文献】 特開2001−333705(JP,A)
【文献】 米国特許第05597607(US,A)
【文献】 特開昭54−028843(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0198956(US,A1)
【文献】 特開平06−121650(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23J 1/00−7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルテンからアレルゲンであるω5−グリアジンを除去して低アレルゲングルテンを製造する方法であり、当該グルテンを酸性水またはアルカリ性水で処理して、当該グルテンが含有する低アレルゲングルテンを抽出するとともに、当該グルテンが含有するω5−グリアジンを沈殿させて除去することを特徴とする低アレルゲングルテンの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の低アレルゲングルテンの製造方法であり、当該製造方法においては、グルテンとして、スプレードライ方式で生成されたグルテンを採用するとともに、処理水として、電解質物質を含有する被電解水を有隔膜電解して生成される強酸性の電解生成酸性水または強アルカリ性の電解生成アルカリ性水からなる第1の処理水を採用して、当該第1の処理水にて当該グルテンを処理して、当該グルテンが含有する低アレルゲングルテンを抽出するとともに、当該グルテンが含有するω5−グリアジンを沈殿させて除去することを特徴とする低アレルゲングルテンの製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の低アレルゲングルテンの製造方法であり、当該製造方法においては、前記第1の処理水に40容量%以下のエタノールを添加した強酸性の電解生成酸性水または強アルカリ性の電解生成アルカリ性水からなる第2の処理水を採用することを特徴とする低アレルゲングルテンの製造方法。
【請求項4】
請求項2または3に記載の低アレルゲングルテンの製造方法であり、当該製造方法においては、前記第1の処理水または第2の処理水にて処理して沈殿した沈殿させた沈殿物を、前記第2の処理水にて再度処理して、当該沈殿物が含有する低アレルゲングルテンを抽出するとともに、当該沈殿物が含有するω5−グリアジンを沈殿させて除去することを特徴とする低アレルゲングルテンの製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載の低アレルゲングルテンの製造方法であり、当該製造方法においては、グルテンとして、フラッシュドライ方式で生成されたグルテンを採用するとともに、処理水として、電解質物質を含有する被電解水を有隔膜電解して生成される強酸性の電解生成酸性水または強アルカリ性の電解生成アルカリ性水を水で希釈してなる第3の処理水を採用して、当該第3の処理水にて当該グルテンを処理して、当該グルテンが含有する低アレルゲングルテンを抽出するとともに、当該グルテンが含有するω5−グリアジンを沈殿として除去することを特徴とする低アレルゲングルテンの製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の低アレルゲングルテンの製造方法であり、当該製造方法においては、前記第3の処理水にて処理して沈殿物をそのまま、または、当該沈殿物を乾燥・粉末状として、40容量%以下のエタノールを添加した強酸性の電解生成酸性水または強アルカリ性の電解生成アルカリ性水からなる第2の処理水にて処理して、当該沈殿物が含有する低アレルゲングルテンを抽出するとともに、当該沈殿物が含有するω5−グリアジンを沈殿させて除去することを特徴とする低アレルゲングルテンの製造方法。
【請求項7】
請求項1に記載の低アレルゲングルテンの製造方法であり、当該製造方法においては、グルテンとして、スプレードライ方式で生成されたグルテンを採用するとともに、処理水として、塩類を5mM以上含有するpH2.7以下の酸水溶液からなる第4の処理水を採用して、当該第4の処理水にて当該グルテンを処理して、当該グルテンが含有する低アレルゲングルテンを抽出するとともに、当該グルテンが含有するω5−グリアジンを沈殿させて除去することを特徴とする低アレルゲングルテンの製造方法。
【請求項8】
請求項1に記載の低アレルゲングルテンの製造方法であり、当該製造方法においては、グルテンとして、スプレードライ方式で生成されたグルテンを採用するとともに、処理水として、塩類2.5mM以上を含有するpH11.4〜12のアルカリ水溶液からなる第5の処理水を採用して、当該第5の処理水にて当該グルテンを処理して、当該グルテンが含有する低アレルゲングルテンを抽出するとともに、当該グルテンが含有するω5−グリアジンを沈殿させて除去することを特徴とする低アレルゲングルテンの製造方法。
【請求項9】
請求項1に記載の低アレルゲングルテンの製造方法であり、当該製造方法においては、グルテンとして、フラッシュドライ方式で生成されたグルテンを採用するとともに、処理水として、塩類を3mM以上含有するpH2〜3の酸水溶液からなる第6の処理水を採用して、当該第6の処理水にて当該グルテンを処理して、当該グルテンが含有する低アレルゲングルテンを抽出するとともに、当該グルテンが含有するω5−グリアジンを沈殿させて除去することを特徴とする低アレルゲングルテンの製造方法。
【請求項10】
請求項1に記載の低アレルゲングルテンの製造方法であり、当該製造方法においては、グルテンとして、フラッシュドライ方式で生成されたグルテンを採用するとともに、処理水として、塩類30mM以上を含有するpH11.2以上のアルカリ水溶液からなる第7の処理水を採用して、当該第7の処理水にて当該グルテンを処理して、当該グルテンが含有する低アレルゲングルテンを抽出するとともに、当該グルテンが含有するω5−グリアジンを不溶物質として除去することを特徴とする低アレルゲングルテンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グルテンからアレルゲンであるω5−グリアジンを除去して低アレルゲングルテンを製造する、低アレルゲングルテンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食物依存性運動誘発アナフィラキシーは、特定の食品の摂取後に運動すると発症し、その症状は蕁麻疹や気分不良、時には、血圧低下や意識消失等重篤になる場合がある。食物依存性運動アナフィラキシーを発症する主な食物は小麦であって、小麦は発症原因の約60%を占めている。また、小麦依存性運動アナフィラキシーの主要抗原は、小麦タンパク質に含まれるω5−グリアジンであることが解明されている。このため、小麦依存性運動アナフィラキシーの発症を抑えるためるには、小麦タンパク質(グルテン)に含まれるω5−グリアジンを除去することが肝要である。
【0003】
食物アレルギーを引き起こす成分(アレルゲン)を小麦等の穀物から除去して、アレルゲン低減化穀物を製造する方法は、すでに提案されている(特許文献1を参照)。
当該特許文献1に記載の発明は、「アレルゲン低減化穀物の製造方法」に関するもので、当該製造方法では、「穀物それ自体をpH5未満の塩水溶液で処理して、塩水溶液に可溶な成分と不溶なアレルゲン低減化穀物画分とを固液分離して、塩水可溶な成分を除去する」ことを特徴とするものである。
【0004】
当該製造方法によれば、塩水溶液に不溶な成分をアレルゲン低減化穀物として、固液分離して得ることができ、固液分離する際に、pH5未満の塩水溶液で処理することにより、パン等の加工食品に使用した場合の食感を向上させることができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−259828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、小麦タンク質であるグルテンから、小麦依存性運動アナフィラキシーの主要抗原であるω5−グリアジンを除去して、低アレルゲングルテンを製造することにあり、当該低アレルゲングルテンを提供することにより、小麦依存性運動アナフィラキシーの発症を大幅に抑制しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、低アレルゲングルテンの製造方法に関する。本発明に係る低アレルゲングルテンの製造方法は、グルテンからアレルゲンであるω5−グリアジンを除去して、低アレルゲングルテンを製造する方法である。本発明は、基本的には、グルテンを酸性水またはアルカリ性水で処理して、当該グルテンが含有する低アレルゲングルテンを抽出するとともに、当該グルテンが含有するω5−グリアジンを沈殿させて除去することを特徴とするものである。
【0008】
しかして、本発明に係る第1の製造方法においては、グルテンとして、スプレードライ方式で生成されたグルテンを採用するとともに、処理水として、電解質物質を含有する被電解水を有隔膜電解して生成される強酸性の電解生成酸性水または強アルカリ性の電解生成アルカリ性水からなる第1の処理水を採用して、当該第1の処理水にて当該グルテンを処理して、当該グルテンが含有する低アレルゲングルテンを抽出するとともに、当該グルテンが含有するω5−グリアジンを沈殿させて除去することを特徴とするものである。
【0009】
当該第1の製造方法においては、前記第1の処理水に40容量%以下のエタノールを添加した強酸性の電解生成酸性水または強アルカリ性の電解生成アルカリ性水からなる第2の処理水を採用することができる。
【0010】
当該第1の製造方法においては、前記第1の処理水または第2の処理水にて処理して沈殿した沈殿物を、前記第2の処理水にて再度処理して、当該沈殿物が含有する低アレルゲングルテンを抽出するとともに、当該沈殿物を沈殿させて除去することができる。
【0011】
また、本発明に係る第2の製造方法においては、グルテンとして、フラッシュドライ方式で生成されたグルテンを採用するとともに、処理水として、電解質物質を含有する被電解水を有隔膜電解して生成される強酸性の電解生成酸性水または強アルカリ性の電解生成アルカリ性水を水で希釈してなる第3の処理水を採用して、当該第3の処理水にて当該グルテンを処理して、当該グルテンが含有する低アレルゲングルテンを抽出するとともに、当該グルテンが含有するω5−グリアジンを沈殿させて除去することを特徴とするものである。
【0012】
当該第2の製造方法においては、前記第3の処理水にて処理して沈殿した沈殿物をそのまま、または、当該沈殿物を乾燥・粉末状として、40容量%以下のエタノールを添加した強酸性の電解生成酸性水または強アルカリ性の電解生成アルカリ性水からなる第2の処理水にて再度処理して、当該沈殿物が含有する低アレルゲングルテンを抽出するとともに、当該沈殿物が含有するω5−グリアジンを沈殿させて除去することができる。
【0013】
また、本発明に係る第3の製造方法においては、グルテンとして、スプレードライ方式で生成されたグルテンを採用するとともに、処理水として、塩類を含有する酸水溶液、または、塩類を含有するアルカリ水溶液からなる処理水を採用して、当該処理水にて当該グルテンを処理して、当該グルテンが含有する低アレルゲングルテンを抽出するとともに、当該グルテンが含有するω5−グリアジンを沈殿させて除去することを特徴とするものである。
【0014】
当該第3の製造方法においては、処理水として、塩類を5mM以上含有するpH2.7以下の酸水溶液からなる第4の処理水を採用し、または、塩類を2.5mM以上含有するpH11.4〜12のアルカリ水溶液からなる第5の処理水を採用する。
【0015】
また、本発明に係る第4の製造方法においては、グルテンとして、フラッシュドライ方式で生成されたグルテンを採用するとともに、処理水として、塩類を含有する酸水溶液、または、塩類を含有するアルカリ水溶液からなる処理水を採用して、当該処理水にて当該グルテンを処理して、当該グルテンが含有する低アレルゲングルテンを抽出するとともに、当該グルテンが含有するω5−グリアジンを沈殿させて除去することを特徴とするものである。
【0016】
当該第4の製造方法においては、処理水として、塩類を3mM以上含有するpH2〜3の酸水溶液からなる第6の処理水を採用し、または、塩類を30mM以上含有するpH11.2以上のアルカリ水溶液からなる第7の処理水を採用する。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る低アレルゲングルテンの製造方法は、グルテンからアレルゲンであるω5−グリアジンを除去して低アレルゲングルテンを製造する方法であり、基本的には、グルテンを酸性水またはアルカリ性水で処理して、当該グルテンが含有する低アレルゲングルテンを抽出するとともに、当該グルテンが含有するω5−グリアジンを沈殿させて除去するものであり、処理水として、上記した第1の処理水〜第7の処理水のうちから、グルテンの種類、または、沈殿物の種類に応じて、適宜選択して使用するものである。
【0018】
本発明に係る製造方法で処理するグルテンにおいては、上記した各処理水に対しては、グルテン中の多くのタンパク質(低アレルゲングルテン)は溶解性を示すが、アレルゲンであるω5−グリアジンは不溶解性を示す。このため、当該グルテンを処理水で処理すると、処理水に溶解して抽出される抽出物質(水溶液)と、不溶物質(沈殿物)に分離される。当該沈殿物には、アレルゲンであるω5−グリアジンと若干の他のタンパク質(低アレルゲングルテン)が混在し、一方、当該水溶液には、ω5−グリアジン以外の他のタンパク質(低アレルゲングルテン)が溶解している。このため、当該処理に使用した処理水から沈殿物を分離すれば、当該処理水からは、アレルゲンであるω5−グリアジンが除去された低アレルゲングルテンを得ることができる。
【0019】
また、本発明に係る製造方法においては、処理水中に沈殿する不溶物質(沈殿物)には、ω5−グリアジン以外の他のタンパク質(低アレルゲングルテン)が混在していること考慮して、当該タンパク質を回収すべく、当該沈殿物を特定された処理水で再度処理している。これにより、低アレルゲングルテンの製造量を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施例1における処理態様を示す図である。
図2】本発明の比較例1における上澄みのSDS−PAGEのバンドのパターンの一部を示す図である。
図3】本発明の比較例1における上澄みのSDS−PAGEのバンドのパターンの他の一部を示す図である。
図4】本発明の実施例1における上澄みのSDS−PAGEのバンドのパターンを示す図である。
図5】本発明の実施例2における処理態様を示す図である。
図6】本発明の実施例3における処理態様を示す図である。
図7】本発明の実施例3における上澄みのSDS−PAGEのバンドのパターンを示す図である。
図8】本発明の実施例3における上澄みのウェルタンブロッドを示す図である。
図9】本発明の実施例4における処理態様を示す図である。
図10】本発明の実施例4における上澄みのSDS−PAGEのバンドのパターンの一部を示す図である。
図11】本発明の実施例4における上澄みのSDS−PAGEのバンドのパターンの他の一部を示す図である。
図12】本発明の実施例4における上澄みのSDS−PAGEのバンドのパターンのさらに他の一部を示す図である。
図13】本発明の実施例5における処理態様を示す図である。
図14】本発明の実施例5における上澄みのSDS−PAGEのバンドのパターンを示す図である。
図15】本発明の実施例5における沈殿物のSDS−PAGEのバンドのパターンを示す図である。
図16】本発明の実施例6における処理態様を示す図である。
図17】本発明の実施例6における上澄みのSDS−PAGEのバンドのパターンの一部を示す図である。
図18】本発明の実施例6における上澄みのSDS−PAGEのバンドのパターンの他の一部を示す図である。
図19】本発明の実施例7における上澄みのSDS−PAGEのバンドのパターンの一部を示す図である。
図20】本発明の実施例7における上澄みのSDS−PAGEのバンドのパターンの他の一部を示す図である。
図21】本発明の実施例8における上澄みのSDS−PAGEのバンドのパターンの一部を示す図である。
図22】本発明の実施例8における上澄みのSDS−PAGEのバンドのパターンの他の一部を示す図である。
図23】本発明の実施例9における上澄みのSDS−PAGEのバンドのパターンの一部を示す図である。
図24】本発明の実施例9における上澄みのSDS−PAGEのバンドのパターンの他の一部を示す図である。
図25】本発明の実施例9における上澄みのSDS−PAGEのバンドのパターンのさらに他の一部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に係る低アレルゲングルテンの製造方法は、グルテンからアレルゲンであるω5−グリアジンを除去して低アレルゲングルテンを製造する方法であり、基本的には、グルテンを酸性水またはアルカリ性水で処理して、当該グルテンが含有する低アレルゲングルテンを抽出するとともに、当該グルテンが含有するアレルゲンであるω5−グリアジンを沈殿させて不溶物として除去するものである。
【0022】
本発明に係る製造方法で処理の対象とするグルテンは、小麦グルテンであって、スプレードライ方式で生成されたグルテン、および、フラッシュドライ方式で生成されたグルテンを採用することができる。グルテンは、グルテニンや、グリアジン等を含んでいる。また、グルテンに含まれているグリアジンには、α−グリアジン、β−グリアジン、γ−グリアジン、ω1,2−グリアジン、ω5−グリアジン等多くの種類のグリアジンがある。
【0023】
これらのグリアジンのうち、ω5−グリアジンが小麦依存性運動アナフィラキシーの主要抗原であることが解明されている。本発明に係る製造方法では、各種のグルテンから主要抗原であるω5−グリアジンを除去して、低アレルゲングルテンを製造することを意図している。本発明に係る製造方法では、グルテンを処理する処理水として、下記に示す処理水を採用している。
(1)第1の処理水:電解質物質を含有する被電解水を有隔膜電解して生成される強酸性の電解生成酸性水または強アルカリ性の電解生成アルカリ性水からなる処理水。
(2)第2の処理水:強酸性の電解生成酸性水または強アルカリ性の電解生成アルカリ性水(第1の処理水)に40容量%以下のエタノールを添加してなる処理水。
(3)第3の処理水:電解質物質を含有する被電解水を有隔膜電解して生成される強酸性の電解生成酸性水または強アルカリ性の電解生成アルカリ性水(第1の処理水)を水で希釈してなる処理水。
(4)第4の処理水:塩類を5mM以上含有するpH2.7以下の酸水溶液からなる処理水(塩類:塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム等,酸:塩酸、乳酸、酢酸、硝酸、シュウ酸、リンゴ酸、アスコルビン酸等)。
(5)第5の処理水:塩類2.5mM以上を含有するpH11.4〜12のアルカリ水溶液からなる処理水(塩類:塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム等,アルカリ:水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、アンモニア等)。
(6)第6の処理水:塩類を3mM以上含有するpH2〜3の酸水溶液からなる処理水(塩類:塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム等,酸:塩酸、乳酸、酢酸、硝酸、シュウ酸、リンゴ酸、アスコルビン酸等)。
(7)第7の処理水:塩類30mM以上を含有するpH11.2以上のアルカリ水溶液からなる処理水(塩類:塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム等,アルカリ:水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、アンモニア等)。
【0024】
本発明に係る製造方法においては、処理すべきグルテンの種類(スプレードライ方式、フラッシュドライ方式)に応じて、また、再処理すべき沈殿物の種類に応じて、適宜選定して使用する。本発明に係る製造方法で採用し得る処理態様は下記に示す通りのものがある。
【0025】
第1の処理態様(請求項2に係る発明):スプレードライ方式で生成されたグルテンを、電解質物質を含有する被電解水を有隔膜電解して生成される強酸性の電解生成酸性水または強アルカリ性の電解生成アルカリ性水からなる処理水(第1の処理水)にて処理する処理態様である。
【0026】
第2の処理態様(請求項3に係る発明):スプレードライ方式で生成されたグルテンを、強酸性の電解生成酸性水または強アルカリ性の電解生成アルカリ性水からなる処理水(第1の処理水)に40容量%以下のエタノールを添加してなる処理水(第2の処理水)で処理する処理態様である。
【0027】
第3の処理態様(請求項4に係る発明):第1の処理水または第2の処理水にて処理して沈殿した沈殿物を、第2の処理水にて再度処理する処理態様である。
【0028】
第4の処理態様(請求項5に係る発明):フラッシュドライ方式で生成されたグルテンを、電解質物質を含有する被電解水を有隔膜電解して生成される強酸性の電解生成酸性水または強アルカリ性の電解生成アルカリ性水を水で希釈してなる処理水(第3の処理水)にて処理する処理態様である。
【0029】
第5の処理態様(請求項6に係る発明):第3の処理水にて処理して沈殿させた沈殿物をそのまま、または、当該沈殿物を乾燥・粉末状として、40容量%以下のエタノールを添加した強酸性の電解生成酸性水または強アルカリ性の電解生成アルカリ性水からなる処理水(第2の処理水)にて処理する処理態様である。
【0030】
第6の処理態様(請求項7に係る発明):スプレードライ方式で生成されたグルテンを、塩類を5mM以上含有するpH2.7以下の酸水溶液からなる処理水(第4の処理水)にて処理する処理態様である。
【0031】
第7の処理態様(請求項8に係る発明):スプレードライ方式で生成されたグルテンを、塩類2.5mM以上を含有するpH11.4〜12のアルカリ水溶液からなる処理水(第5の処理水)にて処理する処理態様である。
【0032】
第8の処理態様(請求項9に係る発明):フラッシュドライ方式で生成されたグルテンを、塩類を3mM以上含有するpH2〜3の酸水溶液からなる処理水(第6の処理水)にて処理する処理態様である。
【0033】
第9の処理態様(請求項10に係る発明):フラッシュドライ方式で生成されたグルテンを、塩類30mM以上を含有するpH11.2以上のアルカリ水溶液からなる処理水(第7の処理水)にて処理する処理態様である。
【0034】
本発明に係る製造方法においては、上記した各処理態様を、使用するグルテンの種類に応じて適宜選択して使用するものである。本発明に係る製造方法で使用した処理水は、グルテン中のω5−グリアジン(分子量53kDa)より小さい分子量のタンパク質(低アレルゲングルテン)を溶解し、溶解し難いω5−グリアジンを、不溶物質として沈殿させる。このため、処理済みの処理水から、溶解しているタンパク質(低アレルゲングルテン)を生成することができる。
【0035】
なお、沈殿した沈殿物には、処理水に十分に溶解し得なかったω5−グリアジンとは異なる他のタンパク質(低アレルゲングルテン)を包含していることが多い。このため、当該沈殿物から低アレルゲングルテンを回収するには、上記した第3の処理態様、または、第5の処理態様等を採ればよい。これにより、低アレルゲングルテンの生成量を増大することができる。
【0036】
また、グルテンに対する一度の処理にて、低アレルゲングルテンの生成量を増大させたい場合には、小さい分子量のタンパク質(低アレルゲングルテン)に対する溶解性の高い処理水を用いればよく、この場合には、第2の処理態様を採ればよい。
【0037】
以下に示す本実施例では、ω5−グリアジン(アレルゲン:小麦依存性運動アナフィラキシーの主要抗原)を検出する手段として、SDS−PAGE(ポリアクリルアミドゲル電気泳動)と、ウェスタンブロット法を使用した。
【0038】
アレルゲンであるω5−グリアジンは、分子量が53kDaであり、SDS−PAGEでは、当該アレルゲンが存在する領域(53kda)にバンドが検出される。使用済みの処理水の上澄みにおいては、本実施例の上澄みではバンドはほとんどまたは全く確認されず、比較例の上澄みではバンドの存在は確認される。また、本発明の実施例では、ウェスタンブロット法にて、アレルゲンとしての能力の大小をバンドの強弱から確認している。本実施例の上澄みではバンドが弱く、アレルゲンとしての能力が低下していることが確認され、本実施例の沈殿物ではバンドが強く、アレルゲンとしての能力が強いことを確認される。
【実施例】
【0039】
(実施例1および比較例1):本実施例では、グルテンとして、スプレードライ方式で生成されたグルテンを採用し、処理水として、食塩の希釈水溶液を被電解水とする有隔膜電解にて生成された強酸性の電解生成酸性水、および、強アルカリ性の電解生成アルカリ性水(第1の処理水)を採用して、図1に示す処理態様によって、低アレルゲングルテンの製造方法を実施するとともに、比較例として、当該実施例とは異なる処理水を使用した処理態様を実施した。
【0040】
本実施例および比較例では、当該グルテン0.5gを5mlの供試水(処理水)に添加して1分間撹拌した後、室温で1時間放置し、その後、遠心分離(10,000rpm、20分)して、上澄み液と沈殿物に分離した。当該上澄み液については、SDS−PAGEにて当該上澄み液中のω5−グリアジンの存在の有無を確認した。SDS−PAGEについては、そのバンドのパターンを図2図4に示す。
本実施例および比較例に供した処理水は、図1の「供試水」の欄に示す通りのものである。当該欄には各処理水を簡略して表示しており、各供試水は以下に示す処理水を意味している。
【0041】
供試水1(HOX酸性電解水pH4.0)は、水を被電解水とする有隔膜電解にて生成された電解生成酸性水であって、pHが4.0のもの、供試水2(HOX酸性電解水pH5.0)は、当該電解生成酸性水であって、pHが5.0のものである。これらの供試水1,2は、比較例である。また、供試水3(原水)は、食塩の希釈水溶液を調製するために使用した水道水(比較例)である。
【0042】
供試水4(HOXアルカリ性電解水pH9.0)は、水を被電解水とする有隔膜電解にて生成された電解生成アルカリ性水であって、pHが9,0のもの、供試水5(HOXアルカリ性電解水pH10.0)は、当該電解生成アルカリ性水であって、pHが10.0のものである。これらの供試水4,5は、いずれも比較例である。
【0043】
供試水6(ROX強酸性電解水pH2.5)は、食塩の希釈水溶液を被電解水とする有隔膜電解にて生成された強酸性の電解生成酸性水であって、pHが2.5のもの、供試水7(ROX強アルカリ性電解水pH12.2)は、食塩の希釈水溶液を被電解水とする有隔膜電解にて生成された強アルカリ性の電解生成アルカリ性水であって、pHが12.2のものである。これらの供試水6,7は、いずれも実施例である。
【0044】
アレルゲンであるω5−グリアジンの分子量は53kDaであり、SDS−PAGEのパターンでは、図2〜4の矢印で示した領域にバンドが検出される。しかして、供試水1〜5(比較例)では当該領域にバンドが存在し(図2,3を参照)、無処理の場合と比較しても、バンドのパターンにほとんど変化がみられない。これにより、処理水が水道水、中〜弱酸性の電解生成酸性水、中〜弱アルカリ性の電解生成アルカリ性水等は、タンパク質の溶解に対する選択性がほとんど無く、ω5−グリアジン以外の他のタンパク質(低アレルゲングルテン)の抽出には適さないことが確認される。
【0045】
一方、供試水6,7では、ω5−グリアジンの存在領域にはバンドは確認されない(図4を参照)。無処理の場合と比較すると、処理水が強酸性の電解生成酸性水、強アルカリ性の電解生成アルカリ性水の場合では、低分子領域のバンドが濃く、高分子領域のバンドはほとんど認められない。これにより、強酸性の電解生成酸性水や、強アルカリ性の電解生成アルカリ性水は、分子量の小さいタンパク質(低アレルゲングルテン)を優先的に溶解することが確認される。このため、分子量が比較的大きいω5−グリアジン(アレルゲン)は抽出されなかったものと理解される。
【0046】
このように、強酸性の電解生成酸性水や、強アルカリ性の電解生成アルカリ性水を処理水とする処理態様では、処理水はω5−グリアジン以外の低分子量のタンパク質(低アレルゲングルテン)を優先的に溶解することから、処理済みの処理水の上澄み液には、低アレルゲングルテンが抽出されている。このため、当該上澄み液からは、ω5−グリアジンを含有しない低アレルゲングルテンを回収することができる。
【0047】
(実施例2):本実施例は、実施例1で使用している処理水にエタノールを添加した処理水(第2の処理水)を使用することにより、グルテンからのタンパク質の抽出効率を向上させることを意図したものである。
【0048】
本実施例では、グルテンとして、スプレードライ方式で生成されたグルテンを採用し、処理水として、食塩の希釈水溶液を被電解水とする有隔膜電解にて生成された強酸性の電解生成酸性水、および、強アルカリ性の電解生成アルカリ性水で、エタノールを含有するもの、含有しないものを採用して、図5に示す処理態様によって、低アレルゲングルテンの製造方法を実施した。
【0049】
本実施例では、当該グルテン0.5gを20ml(60℃)の供試水(処理水)に添加して1分間撹拌した後、室温で1時間放置し、その後、遠心分離(10,000rpm、10分)して、上澄み液と沈殿物に分離した。当該上澄み液については、タンパク定量(タンパク質濃度:)を行なった。得られた結果を表1に示す。なお、SDS−PAGEのパターンにて、当該上澄み液中のω5−グリアジンの存在の有無の確認を行ったが、SDS−PAGEの結果については、実施例3におけるSDS−PAGEの結果の内に示している。
【0050】
【表1】
【0051】
本実施例に供した処理水は、図5の「供試水」の欄に示す通りである。当該欄には各処理水を簡略して表示しており、各供試水は以下に示す処理水を意味している。
【0052】
供試水1(stAEWEtOH40%)は、pH2.5の強酸性の電解生成酸性水(stAEW)にエタノール(EtOH)を加えた、エタノール濃度が40%のもの、供試水2(stAEWEtOH0%)は、pH2.5の強酸性の電解生成酸性水(stAEW)であって、エタノール(EtOH)を含有しないもの、供試水3(stBEWEtOH40%)は、pH12.2の強アルカリ性の電解生成アルカリ性水(stBEW)にエタノール(EtOH)を加えた、エタノール濃度40%のもの、供試水4(stBEWEtOH0%)は、pH12.2の強アルカリ性の電解生成アルカリ性水(stBEW)であって、エタノール(EtOH)を含有しないものである。
【0053】
本実施例は、エタノールを含有する処理水を使用することにより、グルテンからの低分子量のタンパク質(低アレルゲングルテン)の抽出効率を向上させることを意図したもので、SDS−PAGEのパターンから、実施例1と同様に、上澄み水には、ω5−グリアジンをほとんど含有しない低アレルゲングルテンが抽出していることが確認される。
【0054】
一方、表1に示す「タンパク質濃度:低アレルゲングルテン濃度」の結果から、強酸性の電解生成酸性水、および、強アルカリ性の電解生成アルカリ性水からなる処理水であっても、エタノールを含有している処理水の方がエタノールを含有しない処理水に比較してタンパク質の高濃度の上澄みを得ることができる。かかる結果から、本発明が規定する処理水であっても、エタノールを含有する処理水の方が、低分子量のタンパク質(低アレルゲングルテン)の抽出効率が高いことを確認することができる。
【0055】
なお、本実施例においては、エタノール濃度40%の処理水の場合には、ω5−グリアジンの存在領域に、わずかではあるがバンドを認められるため、エタノールの処理水に対する含有量は40%以下とすることが好ましい。
【0056】
(実施例3):本実施例は、実施例2で使用した処理水(エタノール40%含有)を使用することにより、グルテンからの低アレルゲングルテンの抽出効率を向上させ、かつ、沈殿物が包含している低アレルゲングルテンを回収して、グルテンからの低アレルゲングルテンの抽出効率を一層向上させることを意図したものである。図6には、本実施例の処理態様を示している。
【0057】
本実施例では、実施例2と全く同様の処理態様(処理態様1)を実施するとともに、当該処理態様1で得た沈殿物1からこれに包含されている低アレルゲングルテンを回収すべく、当該処理態様1で使用した処理水を使用して、当該沈殿物1を処理した。当該沈殿物1の処理(処理態様2)では、当該沈殿物を5mLの供試水に添加して1分間撹拌した後、室温で1時間放置し、その後、遠心分離(10,000rpm、10分)して、上澄み液2と沈殿物2に分離した。
【0058】
処理態様1と処理態様2で生成される上澄み液1,2については、タンパク定量(タンパク質濃度:低アレルゲングルテン濃度)を行なった。得られた結果を表2に示す。また、SDS−PAGEのバンドのパターンにて、各上澄み液1,2中のω5−グリアジンの存在の有無の確認を行い、かつ、ウェスタンブロット法にて、タンパク質の抗体反応の発生の有無を確認した。SDS−PAGEのパターンの結果については図7に示すとともに、ウェスタンブロット法の結果については図8に示している。
【0059】
但し、図7および図8に示す供試水Exp2(2)の結果は、実施例2における供試水2(stAEWEtOH0%)を使用した結果であり、同様に、図7および図8に示す供試水Exp2(4)の結果は、実施例2における供試水4(stBEWEtOH0%)を使用した結果である。
【0060】
【表2】
【0061】
本実施例に供した処理水は、図6の「供試水」の欄に示す通りである。当該欄には各処理水を簡略して表示しており、各供試水は以下に示す処理水を意味している。
【0062】
供試水1(stAEWEtOH40%)は、pH2.5の強酸性の電解生成酸性水にエタノールを加えた、エタノール濃度40%のもの、実施例2の供試水1と同じものである、また、供試水2(stBEWEtOH40%)は、pH12.2の強アルカリ性の電解生成アルカリ性水にエタノールを加えた、エタノール濃度40%のものであり、実施例2の供試水3と同じものである。
【0063】
本実施例は、エタノールを含有する処理水を使用することにより、グルテンと沈殿物から、低アレルゲングルテンを抽出して、その抽出効率を向上させることを意図したものである。SDS−PAGEのパターンから、実施例1と同様に、各上澄み水には、ω5−グリアジンを含有しない低アレルゲングルテンが抽出されていることが確認される。
【0064】
ウェスタンブロットはタンパク質の抗体反応を取ったもので、当該抗体反応小さくなれば、アレルゲンとしての能力を低下したことになる。ウェスタンブロットの結果から、アレルゲンであるω5−グリアジンの反応は、上済みでは弱く、沈殿物では強いことが確認される(図8を参照)。この結果から、ω5−グリアジンの多くは処理水によっては抽出されず、沈殿物に留まっているが確認される。
【0065】
一方、表2に示す「タンパク質の回収」の結果から、エタノールを含有する強酸性の電解生成酸性水、および、強アルカリ性の電解生成アルカリ性水からなる処理水(供試水1,2)では、実施例2と同様、採用したグルテンから低アレルゲングルテンを効率よく抽出することができるとともに、沈殿物からも低アレルゲングルテンを抽出することができることが確認される。このため、本実施例では、低アレルゲングルテンの回収効率を一段と向上させることができる。
【0066】
(実施例4):本実施例は、グルテンとしてスプレードライ方式にて生成されたグルテン(スプレードライグルテンという)を採用している実施例1,2,3とは異なり、フラッシュドライ方式にて生成されたグルテン(フラッシュドライグルテンという)を採用して、フラッシュドライグルテンから低アレルゲングルテンを効率よく抽出することを意図している。
【0067】
フラッシュドライグルテンは、スプレードライグルテンに比較して、エタノールを含有する各電解生成水に対する溶解性が高いため、当該電解生成水を処理水として使用することは好ましくはない。このため、本実施例では、電解生成酸性水を水道水で希釈してなる処理水にて、フラッシュドライグルテンを処理している。図9には、当該処理態様を示している。
【0068】
本実施例では、フラッシュドライグルテンを、図9に示すように、2つの処理態様にて処理する態様を採っている。処理態様(1)は、当該グルテン1.0gを50mlの供試水(処理水)に添加して1分間撹拌した後、遠心分離(10,000rpm、10分)して、上澄み液と沈殿物に分離するものである。
【0069】
また、処理態様(2)は、当該グルテン10gを500mlの供試水(処理水)に添加して1分間撹拌した後、遠心分離(10,000rpm、10分)して、上澄み液と沈殿物に分離するものである。
【0070】
処理態様(1)で得られた上澄み液については、SDS−PAGEのパターンにて当該上澄み液中のω5−グリアジンの存在の有無を確認した。SDS−PAGEのパターンについては、図10および図11に示す。また、処理態様(2)で得られた上澄み液、および、沈殿物については、SDS−PAGEのパターンにてω5−グリアジンの存在の有無を確認した。当該SDS−PAGEのパターンについては、図12に示す。また、処理態様(2)で得られた上澄み液については、タンパク定量を行った。得られた結果を表3に示す。
【0071】
【表3】
【0072】
本実施例および比較例に供した処理水は、図9の「供試水」の欄に示す通りである。当該欄には各処理水を簡略して表示しており、各供試水は以下に示す処理水を意味している。各供試水の調製に使用した電解生成水は、pH2.5の強酸性の電解生成酸性水であって、各供試水は当該電解生成酸性水をベースとする、エタノールの含有の有無、水道水による希釈の有無に区別されている。
【0073】
供試水1(stAEWEtOH0%)は当該電解生成酸性水であって、エタノールを含有しないもの、供試水2(stAEWEtOH10%)は当該電解生成酸性水にエタノールを加えた、エタノール濃度10%のもの、供試水3(stAEWEtOH15%)は当該電解生成酸性水にエタノールを加えた、エタノール濃度15%のもの、供試水4(stAEWEtOH20%)は当該電解生成酸性水にエタノールを加えた、エタノール濃度20%のものである。
【0074】
一方、供試水5(stAEW100%)は当該電解生成酸性水であって、水で希釈されていないもの、供試水6(stAEW50%)は水道水に当該電解生成酸性水を加えた、当該電解生成酸性水濃度50%のもの、供試水7(stAEW10%)は水道水に当該電解生成酸性水を加えた、当該電解生成酸性水濃度10%のもの、供試水8(stAEW1%)は水道水に当該電解生成酸性水を加えた、当該電解生成酸性水濃度1%のものである。以上の各供試水1〜8は、処理態様(1)で使用されているものである。
【0075】
これに対して、供試水9〜12は、いずれも処理態様(2)で使用されているもので、供試水9(stAEW0%)は当該電解生成酸性水を含有しない水道水のみのもの、供試水10(stAEW10%)は水道水に当該電解生成酸性水を加えた、当該電解生成酸性水濃度10%のもの、供試水11(stAEW20%)は水道水に当該電解生成酸性水を加えた、当該電解生成酸性水濃度20%のもの、供試水12(stAEW30%)は水道水に当該電解生成酸性水を加えた、当該電解生成酸性水濃度30%のものである。
【0076】
エタノール含有の電解生成酸性水を処理水とする処理態様(1)においては、ω5−グリアジンが存在する領域でバンドが存在する(図10を参照)。これに対して、水道水で希釈の電解生成酸性水を処理水とする処理態様(1)においては、水を10%以下含有する電解生成酸性水では、ω5−グリアジンが存在する領域ではバンドが存在しないことが確認された(図11を参照)。
【0077】
一方、水道水で希釈の電解生成酸性水を処理水とする処理態様(2)における上澄みにおいては、ω5−グリアジンが存在する領域でのバンドの存在は、水で20%まで希釈された電解生成酸性水では確認されず、水で30%に希釈された電解生成酸性水でわずかに確認された。但し、無処理に比較すると薄かった(図12を参照)。上澄みにおけるタンパク質濃度については、電解生成酸性水の濃度が高いほど高いことが確認される(表3を参照)。
【0078】
(実施例5):本実施例は、実施例4に示す処理態様と同様の処理態様を採って得られる沈殿物を供試水にて再処理して、当該沈殿物から低アレルゲングルテンを回収しようとするもので、沈殿物から直接抽出する処理態様と、沈殿物を凍結乾燥して乾燥粉末グルテンに調製して、処理水を使用して当該乾燥粉末グルテンから抽出する処理態様を採っている。
【0079】
本実施例では、フラッシュドライグルテンに対して、図13に示す処理態様を採って、上澄み1および沈殿物1を得るとともに、沈殿物1を、各供試水を使用して再処理(直接抽出)して、上澄み2〜5および沈殿物を得、さらには、沈殿物1を凍結乾燥して乾燥粉末グルテンに調製し、当該グルテンを、各供試水を使用して再処理(乾燥・粉末抽出)して、上澄み6,7および沈殿物を得た。
【0080】
なお、使用した各供試水は、図13の供試水の欄に記載した供試水を使用している。各供試水のうち、供試水1(stAEW30%)は、水道水に強酸性の電解生成酸性水を加えた、当該電解生成酸性水濃度30%のもの、供試水2(stAEWEtOH30%30℃)は、当該電解生成酸性水にエタノールを加えた、エタノール濃度30%のもの、供試水3(stAEWEtOH40%30℃)は、当該電解生成酸性水にエタノールを加えた、エタノール濃度40%のもの、供試水4(stAEWEtOH30%60℃)は、当該電解生成酸性水にエタノールを加えた、エタノール濃度30%のもの、供試水5(stAEWEtOH40%60℃)は、当該電解生成酸性水にエタノールを加えた、エタノール濃度40%のものである。
【0081】
また、供試水6(stAEWEtOH40%60℃)は、当該電解生成酸性水にエタノールを加えた、エタノール濃度40%のもの、供試水7(stAEWEtOH35%30℃)は、当該電解生成酸性水にエタノールを加えた、エタノール濃度35%のものである。
【0082】
得られた各上澄み1〜5のSDS−PAGEのパターンを図14に示し、また、各上澄み1.6.7、および、沈殿物1のSDS−PAGEのパターンを図15に示す。沈殿物1から直接抽出して得られた上澄み2〜5のSDS−PAGEのパターンでは、アレルゲンであるω5−グリアジンの存在領域(53kDa)には、濃いバンドが検出された(図14を参照)。これに対して、沈殿物1から調製した乾燥粉末グルテンから抽出(乾燥・粉末抽出)して得られた上澄み6,7のSDS−PAGEのパターンでは、アレルゲンであるω5−グリアジンの存在領域(53kDa)には、バンドはほとんど検出されないことが確認される(図15を参照)。この結果は、フラッシュドライグルテンの処理態様にて得られる沈殿物から、低アレルゲングルテンを回収するには、沈殿物を一旦乾燥粉末グルテンに調製した乾燥・粉末抽出を採ることが好ましい。
【0083】
(実施例6):上記に示した各実施例は、処理水(供試水)として、電解生成酸性水または電解生成アルカリ性水を基本とする処理水を採用した例であるが、本実施例では、処理水(供試水)として、酸水溶液、特にその代表例である塩酸水溶液(pH2.0〜3.0)を採用している。具体的には、エタノール濃度35%の塩酸水溶液(1〜5)、および、当該塩酸水溶液に塩、特に塩化ナトリウムを添加した処理水(7〜9)を採用している。
【0084】
本実施例では、採用する処理水(供試水)を除き、基本的には、実施例1と同様の処理態様を採るもので、グルテンとして、スプレードライグルテンを採用している。本実施例の処理態様を図16に示し、得られた各上澄み(1〜5)および各上澄み(6〜9)のSDS−PAGEのパターンを図17および図18に示し、各上澄み(1〜5)および各上澄み(6〜9)のタンパク質濃度を表4および表5に示す。
【0085】
【表4】
【0086】
【表5】
【0087】
上澄みのタンパク質濃度は、供試水のpHが2.5以下で高くなり、これらの供試水(1〜3)によって、効率的にタンパク質を抽出することができること確認される(表4を参照)。しかしながら、これらの供試水(1〜3)による上澄みのSDS−PAGEのパターンでは、アレルゲンであるω5−グリアジンの存在領域(53kDa)にバンドが確認される(図17を参照)。
【0088】
一方、塩化ナトリウムを添加した供試水(7〜9)を処理水とする上澄みのタンパク質濃度は、塩化ナトリウムを含有しない供試水(1〜3,6)に比較して大幅に低い(表5を参照)が、塩化ナトリウムを添加してなる供試水(7〜9)による上澄みのSDS−PAGEのパターンでは、アレルゲンであるω5−グリアジンの存在領域(53kDa)にはバンドが確認されなかった(図18を参照)。
【0089】
また、塩化ナトリウムを添加してなる供試水(7:NaCLが10mM)による上澄みのタンパク質濃度は、塩化ナトリウムを含有しない供試水(4,5)による上澄みのタンパク質濃度より高いことが確認される。以上のことから、塩化ナトリウムを含有する塩酸水溶液を処理水とすることにより、アレルゲンであるω5−グリアジンを大幅に低減することができる。
【0090】
(実施例7):実施例6は、塩酸水溶液を処理水とする例であるが、本実施例では、処理水(供試水)として、アルカリ水溶液、特にその代表例である水酸化ナトリウム水溶液(pH11.0〜12.0)を採用している。具体的には、エタノール濃度35%の水酸化ナトリウム水溶液(供試水1〜5)、および、当該水酸化ナトリウム水溶液に塩、特に塩化ナトリウムを添加した処理水(供試水7〜9)を採用している。本実施例で採用した供試水を下記に示す。
【0091】
供試水(含35%エタノール): (1):水酸化ナトリウム水溶液pH11.0、 (2):水酸化ナトリウム水溶液pH11.3、(3):水酸化ナトリウム水溶液pH11.5、(4):水酸化ナトリウム水溶液pH11.8、(5):水酸化ナトリウム水溶液pH12.0。
【0092】
供試水(水酸化ナトリウム水溶液pH11.8,含35%エタノール): (6):NaCL0mM、(7):NaCL5mM、(8):NaCL15mM、(9):NaCL25mM。
【0093】
本実施例では、採用する供試水を除き、基本的には、図16に示す実施例6と同様の処理態様を採っている。供試水(1〜5)にて得られた各上澄み(1〜5)、および、供試水6〜9にて得られた各上澄み(1〜5)のSDS−PAGEのパターンを図19および図20に示すとともに、各上澄み(1〜5)および各上澄み(6〜9)のタンパク質濃度を表6および表7に示す。
【0094】
【表6】
【0095】
【表7】
【0096】
上澄みのタンパク質濃度は、供試水のpHの上昇とともに濃くなり、特にpHの高い供試水(4,5)では、効率的にタンパク質を抽出することができること確認される(表6を参照)。しかしながら、これらの供試水(4,5)による上澄み(4,5)のSDS−PAGEのパターンでは、アレルゲンであるω5−グリアジンの存在領域(53kDa)にバンドが確認される(図19を参照)。
【0097】
一方、塩化ナトリウムを添加した供試水(7〜9)を処理水とする上澄みのタンパク質濃度は、塩化ナトリウムの添加量を増加するに伴い低下する(表7を参照)が、塩化ナトリウムを添加してなる供試水(7〜9)による上澄み(7〜9)のSDS−PAGEでは、アレルゲンであるω5−グリアジンの存在領域(53kDa)のバンドは大幅に減少し、供試水(8,9)による上澄み(8,9)では確認されなかった。(図20を参照)。
【0098】
また、塩化ナトリウムを添加してなる供試水(8,9:NaCLが15mM,25mM)による上澄みのタンパク質濃度は、塩化ナトリウムを含有しない供試水(1〜3)による上澄みのタンパク質濃度より高いことが確認される。以上のことから、塩化ナトリウムを含有する水酸化ナトリウム水溶液を処理水とすることにより、アレルゲンであるω5−グリアジンを大幅に低減することができる。
【0099】
(実施例8):実施例6は、グルテンとしてスプレードライを採用しているが、本実施例ではフラッシュドライグルテンを採用して、実施例6と同様の処理態様を採っている。本実施例で採用している供試水を下記に示す。
【0100】
供試水: (1):塩酸水溶液pH3.0、(2):塩酸水溶液pH3.3、(3):塩酸水溶液3.5、(4):塩酸水溶液pH3.8、(5):塩酸水溶液pH4.0。
供試水(塩酸水溶液pH3.5): (6):NaCL0mM、(7):NaCL2mM、 (8):NaCL4mM、(9):NaCL6mM。
【0101】
本実施例では、採用する供試水を除き、基本的には、図16に示す実施例6と同様の処理態様を採っている。供試水(1〜5)にて得られた各上澄み(1〜5)、および、供試水(6〜9)にて得られた各上澄み(6〜9)のSDS−PAGEのパンターンを図21および図22に示すとともに、各上澄み(1〜5)および各上澄み(6〜9)のタンパク質濃度を表8および表9に示す。
【0102】
【表8】
【0103】
【表9】
【0104】
上澄みのタンパク質濃度は、供試水(1〜5)のpHが低いほど高くなる(表8を酸参照)が、これらの供試水(1〜5)による上澄み(1〜5)のSDS−PAGEのパターンでは、アレルゲンであるω5−グリアジンの存在領域(53kDa)にバンドが確認される(図21を参照)。
【0105】
一方、塩化ナトリウムを添加した供試水(7〜9)を処理水とする上澄みのタンパク質濃度は、塩化ナトリウムの添加量を増加するに伴い低下する(表9を参照)が、塩化ナトリウムを添加してなる供試水(7〜9)による上澄み(7〜9)のSDS−PAGEのパターンでは、アレルゲンであるω5−グリアジンの存在領域(53kDa)のバンドは大幅に減少していることが確認された(図22を参照)。以上のことから、塩化ナトリウムを含有する塩酸水溶液を処理水とすることにより、アレルゲンであるω5−グリアジンを大幅に低減することができる。
【0106】
(実施例9):実施例7は、グルテンとしてスプレードライを採用しているが、本実施例ではフラッシュドライグルテンを採用して、実施例7と同様の処理態様を採っている。本実施例で採用している供試水を下記に示す。
【0107】
供試水: (1):水酸化ナトリウム水溶液pH11.0、(2):水酸化ナトリウム水溶液pH11.3、(3):水酸化ナトリウム水溶液pH11.5、(4):水酸化ナトリウム水溶液pH11.8、(5):水酸化ナトリウム水溶液pH12.0。
【0108】
供試水(水酸化ナトリウム水溶液pH11.5): (6):NaCL0mM、(7):NaCL5mM、(8):NaCL15mM、(9):NaCL25mM、(10):NaCL35mM、(11):NaCL45mM、(12):NaCL55mM、(13):NaCL65mM。
【0109】
本実施例では、採用する供試水を除き、基本的には、実施例8と同様の処理態様を採っている。供試水(1〜5)にて得られた各上澄み(1〜5)のSDS−PAGEのパターンを図23に、供試水(6〜13)にて得られた各上澄み(6〜13)のSDS−PAGEのパターンを図24および図25に示すとともに、各上澄み(1〜5)および各上澄み(6〜13)のタンパク質濃度を表10および表11に示す。
【0110】
【表10】
【0111】
【表11】
【0112】
上澄みのタンパク質濃度は、供試水(1〜5)のpHの上昇とともに濃くなり、効率的にタンパク質を抽出することができることが確認される(表10を参照)。しかしながら、これらの供試水(1〜5)による上澄みのSDS−PAGEのパターンでは、アレルゲンであるω5−グリアジンの存在領域(53kDa)にバンドが確認される(図23を参照)。
【0113】
一方、塩化ナトリウムを添加した供試水(7〜13)を処理水とする上澄みのタンパク質濃度は、塩化ナトリウムの添加量を増加するに伴い低下するが、供試水10(NaCL35mM)以上の濃度(供試水11〜13)になっても、タンパク質濃度はほとんど変化しなかった(表11を参照)。また、当該上澄み(10〜13)のSDS−PAGEのパターンでは、タンパク質濃度が高い供試水(6〜9)で、アレルゲンであるω5−グリアジンの存在領域(53kDa)のバンドが検出されたが、タンパク質濃度が低い供試水(10〜13)では、アレルゲンであるω5−グリアジンの存在領域(53kDa)のバンドは大幅に減少していることが確認された。(図24図25を参照)。
図1
図5
図6
図9
図13
図16
図2
図3
図4
図7
図8
図10
図11
図12
図14
図15
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25