(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記目標ピッチレイト算出手段は、前記車体のロールレイトの大きさに応じて前記車体がダイブする度合いが増大するように前記目標ピッチレイトを算出することを特徴とする請求項1に記載の車体姿勢制御装置。
前記ピッチモーメント発生手段は、前記目標ピッチレイトから車両モデルにより目標ピッチモーメントを算出する目標ピッチモーメント算出手段と、前記車体のピッチモーメントが前記目標ピッチモーメントに近づくように前記ピッチモーメントを発生するピッチモーメント発生機構と、からなることを特徴とする請求項1または2に記載の車体姿勢制御装置。
前記車体のピッチレイトを検出するピッチレイト検出手段と、検出された前記ピッチレイトと前記目標ピッチレイトとの差が小さくなるように前記車体に対してピッチモーメントを発生するピッチモーメント発生手段と、からなることを特徴とする請求項1または2に記載の車体姿勢制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態による車体姿勢制御装置を、例えば4輪自動車に適用した場合を例に挙げ、添付図面に従って詳細に説明する。
【0015】
ここで、
図1ないし
図10は本発明の第1の実施の形態を示している。図中、1は車両のボディを構成する車体で、該車体1の下側には、例えば左,右の前輪2(一方のみ図示)と左,右の後輪3(一方のみ図示)とが設けられている。
【0016】
4,4は左,右の前輪2側と車体1との間に介装して設けられた前輪側のサスペンション装置で、該各サスペンション装置4は、左,右の懸架ばね5(以下、ばね5という)と、該各ばね5と並列になって左,右の前輪2側と車体1との間に設けられた左,右の減衰力調整式ショックアブソーバ6(以下、減衰力可変ダンパ6という)とにより構成されている。減衰力可変ダンパ6は、本発明の構成要件であるピッチモーメント発生手段の一部を構成するものである。
【0017】
7,7は左,右の後輪3側と車体1との間に介装して設けられた後輪側のサスペンション装置で、該各サスペンション装置7は、左,右の懸架ばね8(以下、ばね8という)と、該各ばね8と並列になって左,右の後輪3側と車体1との間に設けられた左,右の減衰力調整式ショックアブソーバ9(以下、減衰力可変ダンパ9という)とにより構成されている。減衰力可変ダンパ9は、ピッチモーメント発生手段の一部を構成するものである。
【0018】
ここで、各サスペンション装置4,7の減衰力可変ダンパ6,9は、減衰力調整式の油圧緩衝器を用いて構成される。そして、この減衰力可変ダンパ6,9には、その減衰力特性をハードな特性(硬特性)からソフトな特性(軟特性)に連続的に調整するため、減衰力調整バルブ、ソレノイド等からなるアクチュエータ(図示せず)が付設されている。なお、減衰力調整用のアクチュエータは、減衰力特性を必ずしも連続的に変化させる構成である必要はなく、2段階または3段階以上で断続的に調整する構成であってもよい。また、減衰力可変ダンパ6,9は、減衰力を切換えられればよく、空圧ダンパや電磁ダンパであってもよい。
【0019】
10は車体1に設けられたロールレイト検出手段(ロール状態検出手段)としてのジャイロ等からなるロールレイトセンサで、該ロールレイトセンサ10は、例えば車両のステアリング操作に伴って旋回走行時等に発生する左,右方向の横揺れ振動を検出し、その検出信号を後述のコントローラ13に出力するものである。なお、ロールレイト検出手段は、ロールレイトを検出できればよく、左,右方向に離間して設けられて2つの上下加速度センサの差分を積分する等の構成であってもよい。
【0020】
11は車体1に設けられたピッチレイト検出手段(ピッチ状態検出手段)としてのジャイロ等からなるピッチレイトセンサで、該ピッチレイトセンサ11は、例えば車両の加,減速時等に発生する前,後方向の揺れ振動を検出し、その検出信号を後述のコントローラ13に出力する。なお、1つの3次元ジャイロで前述のロールレイトセンサ10とピッチレイトセンサ11を兼ねても良い。また、ピッチレイト検出手段は、ピッチレイトを検出できればよく、前,後方向に離間して設けられて2つの上下加速度センサの差分を積分する等の構成であってもよい。さらには、運転者の操作や自動ブレーキによるブレーキ力やアクセル操作による加速度を推定し、ピッチレイト(推定値)を求めても良い。
【0021】
12は車体1に設けられた横加速度センサで、該横加速度センサ12は、例えば旋回走行時等に車両の左,右方向に発生する横加速度を検出し、その検出信号を後述のコントローラ13に出力する。
【0022】
13はマイクロコンピュータ等によって構成される制御手段としてのコントローラで、該コントローラ13は、
図2に示すように入力側がロールレイトセンサ10、ピッチレイトセンサ11および横加速度センサ12等に接続され、出力側が減衰力可変ダンパ6,9のアクチュエータ(図示せず)等に接続されている。
図2中に示すロール角の信号14は、横加速度センサ12で検出した横加速度の信号により求められる。また、相対速度の信号15は、車体1の高さを検出する車高センサ(図示せず)からの信号を用いて検出したり、ばね上,ばね下の加速度センサ(図示せず)からの信号によって求めたりすることができる。
【0023】
コントローラ13は、
図2に示すように、ゲイン16、判別部17、乗算部18、FF制御部19、差演算部20、FB制御部21、平均値演算部22、目標減衰力算出部23およびダンパ指令値算出部24を含んで構成されている。
【0024】
図3に示す特性線25は、ロール角とピッチ角との理想的な関係(特性)を比例特性として表したもので、ロール角が正の値の場合は特性線部25Aとなり、負の値の場合は特性線部25Bとなる。
図4に示す特性線26は、ロールレイトとピッチレイトとのレーンチェンジ時の理想的な関係(特性)を比例特性として表したもので、0点位置で互いに交差する特性線部26A,26Bと、両者の端部間を結ぶように縦軸と平行に延びた特性線部26Cとを有している。
【0025】
図3に示す特性線25と
図4に示す特性線26との関係は、符号(a),(b),(c),(d),(e),(f),(g)として相互に関連した特性で表される。例えば、車両の直進中の状況の符号(a)の位置を起点とすると、運転者がハンドルを切ってレーンチェンジを開始すると、
図3中の符号(b)に沿った矢印ではロール角が増加する。その際、ピッチ角も共に増加しているため、
図4に示すロールレイト、ピッチレイトは共に正(プラス)となって、ロール角の増加スピードがピークに達すると、
図4中の符号(b)の位置でロールレイト、ピッチレイトが最大となる。
【0026】
その後、
図3中の符号(c)の位置でロール角、ピッチ角が最大になるときには、
図4中に符号(c)で示すようにロールレイト、ピッチレイトが共に零に近づき、その後、ハンドルを戻し始め、略ロール角が0となる符号(d)の位置ではロールレイトが負(マイナス)方向で最大となり、逆方向のロールとなるとピッチレイトは
図4中の特性線部26Cに沿って変化する。また、ロール角とピッチ角の関係が
図3中の符号(d),(e),(f),(g)のように変わるときには、ロールレイトとピッチレイトとの関係は
図4中の符号(d),(e),(f),(g)のように変えられるものである。なお、上記のように完全に比例させなくても、
図3、4のようなロール角とピッチ角、ロールレイトとピッチレイトの増加、減少の関係にあれば非線形の関係となってもよい。
【0027】
ここで、コントローラ13のゲイン16は、ロールレイトセンサ10で検出したロールレイトの信号に車両毎に予め決められたゲイン、即ち
図4中の特性線26によるゲインを掛け、このときのロールレイトに対応した特性線26によるピッチレイトを目標ピッチレイトとして算出する。
【0028】
判別部17は、横加速度センサ12で検出した横加速度の信号に基づいてロール角の信号14が正の値か負の値かの符号判別を行う。乗算部18は、その符号をゲイン16からの信号(目標ピッチレイト)に掛け算することにより、車両がダイブ状態(頭下がりのピッチ)となるように目標ピッチレイトを補正値として求める。ゲイン16、判別部17および乗算部18は、本発明の構成要件である目標ピッチレイト算出手段を構成している。
【0029】
FF制御部19は、目標ピッチレイトの補正値が入力されると、下記の数1〜数3式による演算を行い、フィードフォワード制御による目標ピッチモーメントを算出する。差演算部20は、ピッチレイトセンサ11で検出した実ピッチレイトの信号と前記目標ピッチレイトの補正値との差を、目標値に対する誤差として演算し、FB制御部21は、差演算部20からの信号(目標値に対する誤差)に従ってフィードバック制御による目標ピッチモーメントを算出する。FB制御部21はPID制御器として、前記の誤差に応じて目標ピッチモーメントを出力するように構成されている。
【0030】
ここで、FF制御部19は、ピッチモーメントからピッチレイトまでの特性を2次の振動モデルとしてモデル化し、伝達関数を算出して、その逆特性を利用した制御器である。そして、ピッチ運動の運動方程式は下記の数1式より求められる。但し、Q:ピッチ角 Ix:ピッチ慣性 Kx:ピッチ剛性 Cx:ピッチ減衰係数 Mx:ピッチモーメントである。
【0032】
この数1式によりピッチモーメントからピッチレイトまでの伝達関数は、下記の数2式となり、これによって、ピッチモーメントからピッチレイトまでの伝達関数は、下記の数3式により求められる。
【0035】
図5、
図6は、この伝達関数のボード線図であり、
図5中の特性線27はゲイン特性曲線を示し、特性線28は積分特性を示している。
図6中の特性線29は伝達関数の位相特性曲線を示し、特性線30は積分特性を示している。
【0036】
コントローラ13内に形成した平均値演算部22は、FF制御部19で算出した目標ピッチモーメントとFB制御部21で算出した目標ピッチモーメントとを加算して、その値を目標ピッチモーメントMa として後段の目標減衰力算出部23に出力する。
【0037】
目標減衰力算出部23は、
図7に示すように目標ピッチモーメントMa が入力されると、これに従って各車輪(即ち、左,右の前輪2、後輪3)の目標減衰力を振り分けるように演算する。即ち、目標減衰力算出部23のブロック23Aでは、目標ピッチモーメントMa を4分割して各輪に等配分する。次のブロック23Bでは、等配分されたモーメント(Ma /4)を前輪2側の重心点までの距離lfで割り算することにより右側前輪2の目標減衰力F
FRを算出する。ブロック23Cでは、等配分されたモーメント(Ma /4)を前輪2側の重心点までの距離lfで割り算することにより左側前輪2の目標減衰力F
FLを算出する。
【0038】
一方、目標減衰力算出部23のブロック23Dでは、前輪2側と後輪3側とで目標減衰力を逆向きに設定するため「−1」を掛算し、次のブロック23Eでは、等配分されたモーメント(Ma /4)に「−1」を掛算したモーメント(−Ma /4)を後輪3側の重心点までの距離lrで割り算することにより右側後輪3の目標減衰力F
RRを算出する。ブロック23Fでは、等配分されたモーメント(Ma /4)に「−1」を掛算したモーメント(−Ma /4)を後輪3側の重心点までの距離lrで割り算することにより左側後輪3の目標減衰力F
RLを算出する。
【0039】
ダンパ指令値算出部24は、目標減衰力算出部23から出力される各輪の目標減衰力F
FR,F
FL,F
RR,F
RLを、相対速度の信号15で割り算するように演算処理(具体的には予め設定された特性マップによって演算)し、各減衰力可変ダンパ6,9のアクチュエータ(図示せず)に出力すべきダンパ指令値を電流値として算出する。そして、各車輪(左,右の前輪2、後輪3)側の減衰力可変ダンパ6,9は、前記アクチュエータに供給された電流値(ダンパ指令値)に従って減衰力特性がハードとソフトの間で連続的に、または複数段で可変に制御される。
【0040】
各車輪(左,右の前輪2、後輪3)側の減衰力可変ダンパ6,9は、例えば
図2に示すFF制御部19、FB制御部21、平均値演算部22、目標減衰力算出部23およびダンパ指令値算出部24と共に、本発明の構成要件であるピッチモーメント発生手段を構成するものである。
【0041】
本実施の形態による車体姿勢制御装置は、上述の如き構成を有するもので、次に、コントローラ13による車体1の姿勢制御処理について説明する。
【0042】
車両が道路31のコーナ部に差し掛かって旋回走行を行うときには、例えば
図8に示すように直進→過渡旋回→定常旋回→過渡旋回→直進の順序でステアリング操作が行われる。このとき、車両の運転者は、
図9中の特性線32に沿って操舵角を切換えるようにハンドルを操作する。
【0043】
車両の直進時には、操舵角がほぼ零となって中立に保たれ、過渡旋回に達すると、操舵角が必要な角度分だけ増大される。定常旋回になると、操舵角は必要角度を保つようにほぼ一定の角度に保持され、その後の過渡旋回に達すると、操舵角を中立に戻す操作が行われ、直進走行に戻ったときには、ほぼ零となって中立に保たれる。
【0044】
車体1側に発生する横加速度は、
図9中の特性線33に示すように、操舵角の特性線32に対応して変化し、ほぼ比例するように増減する。車体1側のロール角についても、
図9中の特性線34に示すように操舵角の特性線32、横加速度の特性線33に対応して変化し、ほぼ比例するように増減する。
【0045】
図9中の特性線35,36,37は、車体1側のピッチ角,ロールレイト,ピッチレイトの特性線を示している。このうち、ロールレイトの特性線36は、ロール角の特性線34を微分した特性として示されるものである。また、
図9中に二点鎖線で示す特性線35′,37′は、比較例(例えば、特許文献2に記載の従来技術に相当)によるピッチ角,ピッチレイトの特性線を示している。
【0046】
本実施の形態においては、
図9中に示すロール角の特性線34に対し、ピッチ角の特性線35を、例えば定常旋回中は低く抑えるように制御し、その後の過渡旋回ではピッチ角が負の値となるように制御している。そして、ロール角とピッチ角との関係を
図10に示す特性線38のように、ヒステリシス特性をもった比例関係に設定している。
【0047】
比較例の場合には、
図11に示す特性線39のようにロール角に応じてピッチ角を発生させる構成としている。このため、比較例によるピッチ角の特性線35′は、
図9中に二点鎖線で示すように定常旋回中でもロール角に応じた大きさのピッチ角を生じさせる必要があり、車両の乗り心地を悪化させる原因になる場合がある。
【0048】
然るに、第1の実施の形態では、例えば
図4中の特性線26に示すようにロールレイトに比例した目標ピッチレイトを求め、各車輪(左,右の前輪2、後輪3)側に設けた減衰力可変ダンパ6,9の減衰力特性を、この目標ピッチレイトとなるように可変に制御して、車体に対してピッチモーメントを発生させる制御を行う構成としている。
【0049】
このように、車両の旋回走行時におけるピッチレイトとロールレイトを比例関係にすることにより、車体1の回転軸にブレが発生せず、操舵フィーリングを向上することができる。また、ロールレイトに応じて目標ピッチレイトを算出し、この目標ピッチレイトとなるように車体に対してピッチモーメントを発生させる制御を行うことで、ロールレイトとピッチレイトとが比例関係となり、さらに、ロール角の符号により目標ピッチレイトを反転させることで、常に頭下がりピッチとなるため、車体1の回転軸が安定し、ロール感を向上することができる。
【0050】
次に、
図1、
図12は本発明の第2の実施の形態を示している。第2の実施の形態の特徴は、操舵角と車速より車両モデルを用いた目標ピッチモーメントを算出し、ロールレイトセンサやピッチレイトセンサを使わずに車体の姿勢制御を行う構成としたことにある。そして、第2の実施の形態は、回転軸安定化のためのピッチングの発生だけでなく、ロール挙動の抑制についても考慮した場合を示している。なお、第2の実施の形態では、前述した第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0051】
図中、41は車体1側に設けられた操舵角センサで、該操舵角センサ41は、車両の運転者が旋回走行時等にハンドルをステアリング操作するときの操舵角(後述の前輪舵角δ
fに対応する)を検出し、その検出信号を後述のコントローラ43に出力するものである。
【0052】
42は車体1に設けられた車速センサで、該車速センサ42は、例えば車両の走行速度(後述の車速Vに対応する)を検出し、その検出信号を後述のコントローラ43に出力する。
【0053】
43はマイクロコンピュータ等によって構成される制御手段としてのコントローラで、該コントローラ43は、入力側が操舵角センサ41および車速センサ42等に接続され、出力側がFRダンパ(右側前輪の減衰力可変ダンパ6)、FLダンパ(左側前輪の減衰力可変ダンパ6)、RRダンパ(右側後輪の減衰力可変ダンパ9)、RLダンパ(右側後輪の減衰力可変ダンパ9)のアクチュエータ(図示せず)等に接続されている。
【0054】
コントローラ43は、
図12に示すように、車両モデル部44、微分部45、ロール抑制用の目標減衰力演算部46,47、符号反転部48,49、絶対値演算部50、目標ピッチモーメント算出部51、等配分演算部52、各輪の目標減衰力演算部53,54,55,56、加算部57,58、減算部59,60および各輪のダンパ指令値算出部61,62,63,64、位相調整用フィルタ100および相対速度推定部101を含んで構成されている。
【0055】
この場合、コントローラ43は、操舵角センサ41で検出した操舵角の信号と車速センサ42で検出した車速の信号とに基づいて、車両モデル部44で下記のように横加速度を推定するように算定する。そして、推定された横加速度に基づきフィードフォワード制御(FF制御)にて目標ピッチモーメントを算出することにより、ロール感の向上を実現できるようにしている。
【0056】
まず、車両モデル部44では操舵角(前輪舵角δf )と車速Vとより、下記の数4式の車両モデルを用いて横加速度αy を推定する。ここで、横加速度αy は車両の線形モデルを仮定し、動特性を無視すると、数4の式で求めることができる。但し、Vは車速(m/s)、Aはスタビリティファクタ(S
2/m
2)、δf は前輪舵角(rad)、Lはホイールベース(m)である。
【0058】
ここで、位相調整用フィルタ100を用いて操舵角入力から横加速度、ロール角発生までのダイナミクスを補償する。次に、微分部45では横加速度を微分して横加加速度を算出する。横加加速度は、ロールレイトとほぼ一致することから、次段の目標減衰力演算部46,47では、ロールレイトと相関のある横加加速度に右側前輪用のFr ゲイン,右側後輪用のRr ゲインを乗算することでロール抑制の目標減衰力とする。符号反転部48,49は、ロール抑制用の目標減衰力を左側前輪,左側後輪で右側車輪とは反転させるため、「−1」を掛算する。相対速度推定部101は、微分部45で算出された横加加速度を用いて各輪の相対速度を推定する。
【0059】
絶対値演算部50は、横加速度の絶対値|u|を求める。目標ピッチモーメント算出部51は、横加速度の絶対値|u|にゲイン「Kroll2r」を乗算して目標ピッチモーメントMaを算出する。ここで、横加速度に比例して目標ピッチモーメントMaを算出したのは、第1の実施の形態で採用したピッチレイトからピッチモーメントまでの伝達関数は今回対象としている操舵入力周波数の1Hz 以下のときに、その位相特性が−90度であることから、ロールレイトを積分したロール角に比例すればよく、ロール角は横加速度と相関があることから、横加速度に比例すればよいためである。
【0060】
次に、等配分演算部52は、目標ピッチモーメントMaが入力されると、これに従って各車輪(即ち、左,右の前輪2、後輪3)の目標減衰力を振り分けるように、目標ピッチモーメントMa を4分割して各輪に等配分する。次の目標減衰力演算部53,54は、等配分されたモーメント(Ma /4)を前輪2側の重心点までの距離lfで割り算することにより、ピッチ発生分となる右側前輪2,左側前輪2の目標減衰力を算出する。また、目標減衰力演算部55,56は、等配分されたモーメント(Ma /4)を後輪3側の重心点までの距離lrで割り算することにより右側後輪3,左側後輪3の目標減衰力を算出する。
【0061】
次に、加算部57,58では、目標減衰力演算部46からのロール抑制分となる目標減衰力と、目標減衰力演算部53,54からピッチ発生分となる目標減衰力とを加算して合計の目標減衰力を、右側前輪2の目標減衰力,左側前輪2の目標減衰力として算出する。また、前輪2側と後輪3側とではピッチ成分が逆になるので、減算部59,60では、目標減衰力演算部47からのロール抑制分となる目標減衰力と、目標減衰力演算部55,56からピッチ発生分となる目標減衰力とを減算して合計の目標減衰力を、右側前輪2の目標減衰力,左側前輪2の目標減衰力として算出する。
【0062】
このようにロール抑制分とピッチ発生分で算出した目標減衰力を加算または減算して各輪の目標減衰力を演算した後には、ダンパ指令値算出部61,62,63,64において、この目標減衰力と相対速度推定部101にて推定した相対速度から前もって記憶しておいたダンパの特性マップより必要な電流値を出力する。即ち、ダンパ指令値算出部61,62,63,64は、FRダンパ(右側前輪2の減衰力可変ダンパ6),FLダンパ(左側前輪2の減衰力可変ダンパ6),RRダンパ(右側後輪3の減衰力可変ダンパ9),RLダンパ(右側後輪3の減衰力可変ダンパ9)のアクチュエータ(図示せず)に出力すべきダンパ指令値を電流値として算出する。
【0063】
そして、各車輪(左,右の前輪2、後輪3)側の減衰力可変ダンパ6,9は、前記アクチュエータに供給された電流値(ダンパ指令値)に従って減衰力特性がハードとソフトの間で連続的に、または複数段で可変に制御される。各車輪(左,右の前輪2、後輪3)側の減衰力可変ダンパ6,9は、本発明の構成要件であるピッチモーメント発生手段のピッチモーメント発生機構を構成し、
図12に示すコントローラ43の絶対値演算部50と目標ピッチモーメント算出部51が目標ピッチレイト算出手段と目標ピッチモーメント算出手段を構成するものである。
【0064】
かくして、このように構成される第2の実施の形態でも、ピッチとロールの挙動に理想的な関連性を持たせることができるようになり、走行中のドライバフィーリングを向上することができる。特に、第2の実施の形態では、ロールレイトセンサやピッチレイトセンサを使わずに、操舵角と車速のみに基づき車体1の姿勢制御を実施することができる。
【0065】
これにより、省センサ化を図ることができ、コストを低減し、システムを簡素化することができる。また、回転軸安定化のためのピッチングの発生だけでなく、ロール挙動の抑制についても考慮した制御を行うことができ、ロール感の向上を実現可能である。
【0066】
次に、
図13は本発明の第3の実施の形態を示している。第3の実施の形態の特徴は、車体の姿勢制御を行うアクチュエータがセミアクではなく、自ら推力を発生可能なアクティブサスペンションを用いる構成としたことにある。なお、第3の実施の形態では、前述した第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0067】
図において、71は本実施の形態で採用した制御手段としてのコントローラで、該コントローラ71は、第1の実施の形態で述べたコントローラ13とほぼ同様に構成され、入力側がロールレイトセンサ10、ピッチレイトセンサ11および横加速度センサ12等に接続されている。
図13中に示すロール角の信号14は、横加速度センサ12で検出した横加速度の信号により求められる。
【0068】
しかし、この場合のコントローラ71は、出力側が自ら推力を発生可能なアクティブサスペンション(後述の電磁ダンパ74)等に接続されている点で、第1の実施の形態とは異なっている。また、コントローラ71は、ゲイン16、判別部17、乗算部18、FF制御部19、差演算部20、FB制御部21、平均値演算部22、目標ピッチモーメント算出部72および各輪電磁ダンパ制御量算出部73を含んで構成され、このうち目標ピッチモーメント算出部72および各輪電磁ダンパ制御量算出部73の構成が第1の実施の形態とは異なるものである。
【0069】
74は車両の各輪側に設けられる複数(4個)の電磁ダンパで、この電磁ダンパ74は、例えば左,右の前輪2と左,右の後輪3側とにそれぞれ設けられたアクティブサスペンションにより構成され、各車輪側で車体1を上,下方向に昇降させるような推力を、各輪電磁ダンパ制御量算出部73からの制御信号に従って発生するものである。
【0070】
コントローラ71の目標ピッチモーメント算出部72は、FF制御部19で算出した目標ピッチモーメントとFB制御部21で算出した目標ピッチモーメントとを、平均値演算部22で加算して平均値を求めた状態で、これに従って各車輪(即ち、左,右の前輪2、後輪3)に目標ピッチモーメントを振り分けるように演算を実行する。そして、各輪電磁ダンパ制御量算出部73は、各車輪側に振り分けられた目標ピッチモーメントに対応する推力を、各車輪側の電磁ダンパ74で発生できるように電磁ダンパ制御量を算出し、算出した制御量分の制御信号を各電磁ダンパ74に個別に出力するものである。
【0071】
かくして、このように構成される第3の実施の形態でも、ピッチとロールの挙動に理想的な関連性を持たせることができるようになり、走行中のドライバフィーリングを向上することができる。特に、第3の実施の形態では、各車輪側の目標推力を算出し、その目標値に応じてアクティブサスペンションに推力を発生させることで、ロールレイトに比例したピッチレイトを発生させることができ、車体1の回転軸を安定化させ、ロール感の向上を図ることができる。
【0072】
次に、
図14は本発明の第4の実施の形態を示している。第4の実施の形態の特徴は、第1の実施の形態において、ピッチレイトをフィードバック制御していた部分をフィードフォワード制御にしたことにある。なお、前述した第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0073】
図14において、111は前後加速度を検出する前後加速度検出手段(前後加速状態検出手段)である。この前後加速度検出手段は、前後加速度センサや、車速センサによる検出値を微分することにより求めた値を用いたり、また、運転者のブレーキペダル操作量やブレーキのホイールシリンダ圧等から前後加速度を推定するものであってもよい。
【0074】
112は、ブレーキ操作等によって発生するピッチレイトを推定するピッチレイト推定部(ピッチ状態推定手段)で、前述の前後加速度検出手段111の検出結果により発生するピッチレイトを推定する。
【0075】
そして、乗算部18から出力される目標ピッチレイトから前後加速度によって生じるピッチレイトを差引き不足分のピッチレイトをFF制御部19に出力して、目標減衰力算出部23、ダンパ指令値算出部24を介して減衰力可変ダンパの減衰力を調整し、目標とするピッチレイトを得る。
【0076】
この結果、第1の実施の形態と同様の効果が得られ、さらには、ブレーキ等により発生するピッチをフィードフォワードで加味し、過不足分のピッチレイトを減衰力可変ダンパで制御するので、減衰力可変ダンパによるピッチの制御量を小さくすることができ、これにより、ロール分の制御量を増やすことも可能となる。
【0077】
なお、上記実施の形態では、前後加速状態検出手段として前後加速度検出手段を用いたが、加速度の変化率を用いてもよい。
【0078】
また、上記実施の形態では、ロールレイトとロール角を検出可能として記載したが、操舵角と車速から求めた横加速度や横加速度センサ信号の値から推定した値も用いてもよい。
【0079】
一方、第1,第3の実施の形態では、ロールレイトとピッチレイトとをそれぞれセンサを用いて検出する場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えば車体に取付けた3個以上の上,下方向加速度センサを用いてロールレイトとピッチレイトとを算出してもよい。
【0080】
また、第1,第2、第3の実施の形態で用いている、相対速度は車高センサの微分値でもよいし、例えばばね下側の加速度センサとばね上側の加速度センサの検出値から相対加速度を算出し、この値を積分することで算出してもよく、フラットな路面であれば、ばね下の動きがほぼゼロとみなせるため、ばね上側の加速度センサの検出値を積分したばね上速度を相対速度としてもよい。また、第2の実施形態では、操舵角と車速から推定した横加速度を用いたが、横加速度センサの値を用いてもよい。特に、その他の信号についても、その算出方法が限定されるものではない。
【0081】
また、第1の実施の形態では、ロールレイトセンサ10で検出したロールレイトの信号に車両毎に予め決められたゲイン(例えば、
図4中の特性線26によるゲイン)を掛け、このときのロールレイトに対応した特性線26によるピッチレイトを目標ピッチレイトとして算出する場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えば
図4中の特性線26を曲線による非線形な特性、即ちロールレイトの大きさに応じて非線形な特性で増大するように、目標ピッチレイトを算出する構成としてもよい。この点は、第2,第3の実施の形態についても同様である。
【0082】
次に、上記の実施の形態に含まれる発明について記載する。即ち、本発明によれば、目標ピッチレイト算出手段によりロールレイトに比例した目標ピッチレイトを求め、ピッチモーメント発生手段は、この目標ピッチレイトとなるように車体に対してピッチモーメントを発生させる制御を行う。このようにピッチレイトとロールレイトを比例関係にすることにより、車体の回転軸にブレが発生せず、操舵フィーリングを向上することができる。
【0083】
また、本発明は、前記目標ピッチレイト算出手段は、前記車体のロールレイトの大きさに応じて前記車体がダイブする度合いが増大するように前記目標ピッチレイトを算出する構成としている。これにより、例えば車両の旋回走行時に前輪側がダイブして頭下がりのピッチングを伴いながらのロール挙動を実現でき、旋回走行時のドライバフィーリングを良好にすることができる。
【0084】
本発明によると、前記ピッチモーメント発生手段は、前記目標ピッチレイトから車両モデルにより目標ピッチモーメントを算出する目標ピッチモーメント算出手段(例えば、2次モデルや微分器)と、前記車体のピッチモーメントが前記目標ピッチモーメントとなるように前記ピッチモーメントを発生するピッチモーメント発生機構(例えば、セミアクティブサスペンションまたはアクティブサスペンション等を含む)とにより構成している。
【0085】
これにより、例えばロールレイトセンサやピッチレイトセンサを使わずに、操舵角センサと車速センサのみを用いて車両の旋回走行時における横加速度を求めることができ、省センサ化を図り、コストを低減し、システムの簡素化を実現することができる。また、回転軸安定化のためのピッチングの発生だけでなく、ロール挙動の抑制についても考慮した制御を行うことができ、ロール感の向上を実現可能である。
【0086】
一方、本発明によると、前記車体のピッチレイトを検出するピッチレイト検出手段と、検出された前記ピッチレイトと前記目標ピッチレイトとの差が小さくなるように前記車体に対してピッチモーメントを発生するピッチモーメント発生手段とを含む構成としている。これにより、ピッチレイト検出手段で検出した車体の実ピッチレイトと目標ピッチレイトとの差が小さくなるように、ピッチモーメント発生手段を用いて車体に対してピッチモーメントを発生することができる。
【0087】
また、本発明によると、車両は少なくとも4つの車輪を有し、前記ピッチモーメント発生手段は、各車輪側にそれぞれ設けられ減衰特性が調整可能な減衰力調整式ショックアブソーバであり、前記減衰特性を調整することにより前記車体に対するピッチモーメントを調整する構成としている。
【0088】
さらに、本発明によると、車両は少なくとも4つの車輪を有し、前記ピッチモーメント発生手段は、各車輪側にそれぞれ設けられ前記車体と車輪とに対して上,下方向の推力を加えるアクティブサスペンションであり、前記上,下方向の力を調整することにより車体にピッチモーメントを加える構成としている。これによって、各車輪側の目標推力を算出し、その目標値に応じてアクティブサスペンションに推力を発生させることで、ロールレイトに比例したピッチレイトを発生させることができ、車体の回転軸を安定化させ、ロール感の向上を図ることができる。
【0089】
また、本発明によると、車体の前方が下がりピッチ角が発生するため、ロールレイトを小さくするように作用する。これは、ピッチ角が無い場合は、ロールレイトが純粋なロール角(水平方向の進行方向の軸に対する角)の微分値となるのに対し、ピッチ角が発生した場合は、ロールレイトは、ロール角の微分値からヨー角速度(鉛直方向の角速度)が傾くことにより生じる角速度を引いた値となるため、相殺する関係となるため,ロールレイトが減少することになる。近似的には、以下の式でロールレイトは、求められる。
(ロールレイト)=(ロール角の微分値)−(ヨー角速度)×(ピッチ角)
【0090】
なお、上記各実施の形態では、ロール角、ロールレイト、ピッチレイト等各種値を用いて演算しているが、演算過程にあっては、各種値を求める必要はなく、近似値、推定値、または、例えばロール角の符号を判断する場合においては、符号のみロール角と同様に変化する他の値であってもよい。また、演算でなくマップを用いても良い。
【0091】
上記実施の形態では、ロールの制御を示したが、本発明が実際に適用される場合は、スカイフック制御等のバウンシング制御と組み合わされることが考えられる。この場合、例えば、バウンシング制御からの目標減衰力と、本発明の目標減衰力とを平均化したり、ステアリング角によって、ステアリング角の小さいときにはバウンシング制御からの目標減衰力を優先し、ステアリング角の大きいときは、本発明の制御を優先するようにしてもよい。
【0092】
また、上記各実施の形態では、ロール状態検出手段、ロールレイトを検出するものを示したが、これに限らず、ロール角やロール角速度変化率でもよく、また、ピッチ状態や目標ピッチ状態として、ピッチレイトを用いたものを示したが、これに限らず、ピッチ角やピッチレイト変化率等を用いても良い。